スクロール圧縮機
【課題】可動スクロールのスラスト荷重(軸方向支持力)を軽減し、高効率で摩耗の少ないスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記可動スクロール2背面の環状シール部材6で囲まれた中央部に供給する流入通路15と、環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路17とを備え、環状シール部材の中央部と外周部における冷媒ガスの合成圧力で可動スクロールを固定スクロール1に押しつける圧縮機であって、流入通路には流入側減圧部16を、流出通路には流出側減圧部18を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくした構成としてある。これにより、可動スクロールの摺動損失が小さくなるので高エネルギ効率のスクロール圧縮機となる。
【解決手段】固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記可動スクロール2背面の環状シール部材6で囲まれた中央部に供給する流入通路15と、環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路17とを備え、環状シール部材の中央部と外周部における冷媒ガスの合成圧力で可動スクロールを固定スクロール1に押しつける圧縮機であって、流入通路には流入側減圧部16を、流出通路には流出側減圧部18を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくした構成としてある。これにより、可動スクロールの摺動損失が小さくなるので高エネルギ効率のスクロール圧縮機となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空調装置等に使用されるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスクロール圧縮機は可動スクロールを固定スクロール側に付勢して旋回運動をさせるようになっており、その際、可動スクロールの背面と対向した軸受けホルダーに環状のシール溝を設け、その中に環状シール部材を軸方向に移動可能に挿入して、環状シール部材の内部にオイルポンプによりオイルを供給するとともに吐出圧力を加圧した高圧を導入するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図11は、特許文献1のスクロール圧縮機の断面を示すものである。図に示すように、このスクロール圧縮機は、渦巻き状のハネを有する固定スクロール101と、前記固定スクロール101と対のハネを有し偏芯して旋回運動する可動スクロール102と、可動スクロール102を駆動するシャフト103と、前記シャフト103を軸受け支持し、可動スクロール102を背部から旋回可能に閉塞する軸受けホルダー104と、前記軸受けホルダー104内で可動スクロール102の背面と対向する面に設置された環状シール溝105と、その中に軸方向に移動可能で可動スクロール102の背面との接触部でシールするように配置された環状シール部材106を備えている。
【0004】
前述シャフト103の固定・可動両スクロールとは反対側の先端にはオイルポンプ107が配置され、シャフト103の回転によってコンプケース108の下部に貯油されたオイルを吸い上げ、前記シャフト103の中のオイル通路を通して前記環状軸シール部材106の中央部分内にオイルが供給される。上記オイルは固定・可動両スクロールによって圧縮された冷媒ガスが溶融しているため、この冷媒ガスによって吐出圧まで加圧されている。そしてこの加圧されたオイルは前記シャフト103を支持するメインベアリング109と可動スクロール102を駆動支持するドライブベアリング110等を潤滑するとともに、前記可動スクロール102を固定スクロール101側に前記高圧により付勢し、確実な圧縮作用を行わせる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−150248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、図12に示すように可動スクロール102に作用する圧縮ガスの接線方向力Ftが、可動スクロール102を固定スクロール101から軸方向支持点が離脱するいわゆる転覆させる方向のモーメントとして作用する。これに抗する、すなわち、前記転覆モーメントによる可動スクロール102の固定スクロール101からの離脱を防止するために、可動スクロール102の背面には前記圧縮ガスの軸方向の内力Fiに加え、環状シール部材106で囲まれた中央部に高圧を作用させた軸方向力Fb1と、前記環状シール部材106の外周部を低中間圧にして軸方向力Fb2を作用させている。そしてこれらの力Fb1とFb2の合力を、環状シール部材106の径を大きくする等により大きくして加えている。その結果、固定スクロール101と可動スクロール102の軸方向支持反力Fth1,Fth2は高負荷運転条件時には過剰に大きな値となり、固定・可動両スクロールの摩擦損失の増加のよるエネルギ効率の低下や、摩耗の原因となるという課題を有していた。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決したもので、可動スクロールの摺動損失が少なく高効率で摩耗の少ないスクロール圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は、圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくした構成としてある。
【0009】
上記構成によって、可動スクロールの背面と対向する軸受けホルダーに設置した環状シール部材の中央部に加わる圧力は低く抑えられたものとなり、この環状シール部材の中央部に加わる圧力とその外周部に加わる圧力との合成力は、前述した可動スクロールの離脱(または転覆)現象を解消しつつ、吐出圧力が高い条件においては過剰な軸方向支持反力(スラスト荷重)にならないように制御可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスクロール圧縮機では、固定スクロールと可動スクロールのスラスト荷重(軸方向支持反力)を従来に比べ過剰に大きくならないようにすることができる為、摺動損失が少なくなり、高効率で摩耗の少ない構造にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の断面図
【図2】同スクロール圧縮機における可動スクロール背圧室の圧力状態を示す説明図
【図3】同スクロール圧縮機の可動スクロールに対するスラスト荷重の説明図
【図4】本発明の実施の形態2におけるスクロール圧縮機の断面図
【図5】同スクロール圧縮機に設けた可変減圧機構の運転前の状態を示す模式図
【図6】同スクロール圧縮機に設けた可変減圧機構の運転圧力が所定圧力値以下の場合における可変減圧機構の模式図
【図7】同スクロール圧縮機に設けた運転圧力が所定圧力値以上の場合における可変減圧機構の模式図
【図8】同スクロール圧縮機における流入通路断面積の変化を示す説明図
【図9】同スクロール圧縮機の可動スクロール背圧室の中間圧力を示す説明図
【図10】同スクロール圧縮機の可動スクロールに対するスラスト荷重の変化を示す説明図
【図11】従来のスクロール圧縮機の断面図
【図12】同従来のスクロール圧縮機の可動スクロールに作用する力を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の発明は、圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内
に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくした構成としてある。
【0013】
これによって、可動スクロールの背面と対向する軸受けホルダーに設置した環状シール部材の中央部に加わる圧力は低く抑えられたものとなり、この環状シール部材の中央部に加わる圧力とその外周部に加わる圧力との合成力は、前述した可動スクロールの離脱(または転覆)現象を解消しつつ、吐出圧力が高い条件においては過剰な軸方向支持反力(スラスト荷重)にならないように制御可能となる。
【0014】
第2の発明は、圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、かつ、前記流入側減圧部は吐出圧力と吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧との差圧がある設定値以上で通路断面積がステップ状に縮小する機能を持った可変減圧機構を配置した構成としてある。
【0015】
これによって、第1の発明と同様可動スクロールの離脱(または転覆)現象を解消しつつ、吐出圧力が高い条件において過剰な軸方向支持反力(スラスト荷重)にならないように制御可能となる。
【0016】
第3の発明は、第2の発明における可変減圧機構は円筒状空間に軸方向に移動可能なスプールを配置し、同円筒状空間の一方に吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧を導入し、他方には吐出圧力ないし吐出圧力に順ずる高圧を導入し、前記吸入圧力を導入する側にコイル状の付勢バネを配置した構造であり、前記スプールからいずれかの方向に延伸した芯棒の先端には流入通路入口部に比べ通路断面積が小さな通路を形成した弁体を設置した構成としてある。
【0017】
第4の発明では、第2、第3発明の可変減圧機構において前記弁体に形成された通路の断面積は、前記流出通路の断面積と同程度の構成としてある。
【0018】
第5の発明では、第1〜第4発明の流出側通路は前記可動スクロールの旋回運動により前記環状軸シール部材を横切る構成とし、その最少通路直径をφ0.5〜1とした構成としてある。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるスクロール圧縮機の断面図を示すものである。図1において、このスクロール圧縮機は、渦巻き状のハネを有する固定スクロール1
と、前記固定スクロール1と対のハネを有し偏芯して旋回運動する可動スクロール2と、前記可動スクロール2を駆動するシャフト3と、前記シャフト3を径方向に軸受け支持し、可動スクロール2を旋回自在に背部から閉塞する軸受けホルダー4と、前記軸受けホルダー4の可動スクロール2の背面と対向する面に設置された環状シール溝5と、前記環状シール溝5の軸方向に移動可能に配置され同環状シール溝5内の外径部及び前記可動スクロール2の背面と接触し漏れを防止するための環状シール部材6から構成されている。
【0021】
前記軸受ホルダー4には前記シャフト3を軸受支持するメインベアリング7と前記シャフト3の外周部と摺動接触しシールするシャフトシール8が配備され、ベアリング室9が形成されている。前記可動スクロール2の渦巻き状ハネの反対側にはドライブベアリング10が配置され、前記シャフト3に対し偏芯した偏芯ブッシュを介し前記可動スクロール2を駆動している。また、前記軸受ホルダー4と可動スクロール2の間にはオルダムリングが配備され、前記可動スクロール2の自転を防止し、可動スクロール2を旋回運動させている。
【0022】
つぎに給油構成について説明する。本実施の形態では固定・可動両スクロールを内蔵した圧縮機容器A内の吐出圧力が作用する高圧室Bの下部にオイル溜め部13を形成した例を示している。この実施の形態では前記シャフト3を駆動するモータ11は固定・可動両スクロールで圧縮された高圧の冷媒ガスが流れ込む高圧室Bに設置されている。すなわち、前記一対の渦巻き状ハネによって吸入・圧縮・吐出された冷媒ガスは図中に示した矢印の方向に流れ、前記モータ11を冷却しながら図中右端のコンプケース12の内壁に衝突し、ガスはコンプケース12の上部に配置された吐出口から流出する。一方、冷媒中のオイルミストは前述したコンプケース11の内壁への衝突により凝縮され、重力によりコンプケース12の下方に移動し、前記オイル溜め部13に溜まる。
【0023】
前記軸受けホルダー4の下部には圧縮機容器Aとの間に前述したオイルの流入口14が設けられ、かつ流入口14から前記ベアリング室9に連通した流入通路15が形成されている。そして、前記流入通路15の端、すなわち環状シール部材6の中央部分が高圧室になるとともに高圧室までの中途には流入通路の最小断面積を規定する減圧機構部16が形成されている。
【0024】
一方、前記可動スクロール2に装備されたドライブベアリング10の奥部空間から可動スクロール2の鏡板内で半径方向に流出通路17が形成され、前記環状軸シール部材6を旋回運動により横切る位置の鏡板に流出用減圧部18となる小孔18aが前記流出通路17に直交して形成され、運転中は間欠的に前記環状軸シール部材6の外側の空間に連通しオイルを流出させ低圧空間を形成している。また、運転停止時には前記環状シール部材6の内部(中央部)空間に前記小孔18aが存在するタイミングで完全停止する為運転停止後のオイルの低圧側への流出を防止することが出来る構成としている。
【0025】
以上説明した構成が本実施例の差圧給油方式のスクロール圧縮機の基本構造であり、以下に本発明の内容について説明する。
【0026】
従来例で少し説明したように可動スクロールの背面にガス圧力を作用させて可動スクロールを固定スクロール側に付勢する構造については種々提案されているが、環状軸シールを設けて、中央に吐出圧力または吐出圧力に準じる高圧を導入した場合、吐出圧力がR134a冷媒で3MPa程度なると過剰な付勢力となる。
【0027】
そのため、本実施の形態では流入側減圧部16と流出側減圧部18の通路断面積を適切に設計して前記付勢力が過大になることを防止し、かつスクロール圧縮機の低圧縮比における転覆現象を極力回避でき、更には差圧潤滑方式の注意点である過剰なオイル供給によ
るコンプレッサ効率の低下防止、運転停止時の差圧によるオイル・高圧ガスの低圧側への流出防止を盛り込んだ構成、すなわち、流入と流出通路面積の適切比率範囲を提案している。
【0028】
一般にオイルのような非圧縮性流体に関してベルヌーイの式と連続の式を用いれば、高圧P1、低圧P3、流入側通路断面積A1、流出側通路断面積A2とした時、高圧と低圧の間の空間の圧力P2は
P2=(A1^2*P1+A2^2*P3)/(A1^2+A2^2)
と表される。
【0029】
また、流出側通路断面積は圧縮機の構造、型式、排気量等によって異なるが、過大流入によるオイル加熱損失と隙間シール用適正オイル量などを考慮しながら決定される。
【0030】
本実施例の差圧方式の場合、流出通路17は直径でφ0.5〜1mm程度が適切値であり、この流出側通路断面積に対する流入通路16の断面積比を検討する。
【0031】
図2は、吐出圧P1(図2中Pdで示す)=0.5〜3MPa、吸入圧P3=0.3MPa一定として流入、流出通路断面積A1,A2により生じる中間圧力P2(図2中PbAで示す)の変化を、図3は前述した圧力変化によるスラスト荷重Fthの変化を表わしたものである。
【0032】
P1=0.5、P3=0.3MPaにおいて確実な差圧設定と転覆範囲悪化防止範囲から考慮しP2/P1=0.95を基準として設定した時、P1=1.5,3MPaではP2/P1はそれぞれ、0.88,0.86となり、高負荷域で従来の吐出圧力による付勢に対し中間圧力化による付勢力、すなわちスラスト荷重に換算すると、それぞれ7,10%軽減されることがわかる。
【0033】
このことから、流出通路17が最小のφ0.5では流入通路15は約4倍のφ1、流出通路17が最大のφ1の時には流入通路15は約2倍のφ1.5程度が上記中間圧力を発生させる通路面積として適切であることがわかる。
【0034】
以上から、実施の形態1の流入および流出用通路断面積が固定された場合には、流入通路15の断面積を流出通路17の断面積の2〜4倍大きくすることにより、転覆現象を抑えつつ、過剰なスラスト荷重を軽減できる適切な中間圧にすることができる。すなわち、環状シール部材で囲まれた中央部分の圧力上昇を抑えて環状シール部材外周に加わる圧力との合成力を適正に維持し、吐出圧力が高い高負荷運転条件時における可動スクロールへの付勢力が過剰に大きくなるのを防止している。
【0035】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第2の実施の形態の差圧給油方式のスクロール圧縮機における構造を表すも断面図である。この実施の形態では第1の実施の形態に対し、より積極的に吐出圧力が高い高負荷運転条件において可動スクロールの固定スクロールへの付勢力すなわちスラスト荷重を軽減する構成としたものである。
【0036】
図中19は前述した流入側減圧機構部としての可変減圧機構部であり、その他は基本的に同じ構造である。
【0037】
図5,図6,図7は流入通路15に配備した可変減圧機構19の構造と作動状況を表す模式図である。図中20は円筒状空間20で、軸方向に移動可能なスプール21を有し、一方に吸入圧力Psないし吸入圧力に順ずる低圧を導入し、他方には吐出圧力Pdない
し吐出圧力に順ずる高圧を導入するように構成してあり、さらに前記吸入圧力Psを導入する側にコイル状の付勢バネ22を配置してある。そして、前記スプール21から延伸した芯棒23の先端には内部に絞り通路24を形成した弁体25が設置してあり、この弁体25が、前記流入口14につながって吐出圧力Pdないし吐出圧力に順ずる高圧が加わる流入口26とベアリング室9の環状シール部材で囲まれた中央部分の高圧室につながる出口通路29との間の出口弁座便座27を開閉する構成としてある。
【0038】
つぎにこの可変減圧機構19の動作について説明する。
【0039】
図5は運転前の均圧状態を表わしており、内部の付勢バネ22の保持力によりスプール21と一体となった弁体25は圧縮機の流入口14に連なる流入口26を閉塞している。
【0040】
次に図6では吐出圧力Pdないし吐出圧力に順ずる高圧Pdと、吸入圧Psないし吸入圧Psに順ずる低圧との差圧がある設定値以下(差圧小)の状態を示しており、当該差圧がある設定値以下(差圧小)のため、前記弁体25は流入口26の出口弁座27との間に隙間28が発生し、弁体25の下部流入口26から流入してくるオイルは前記隙間28を通り出口通路29から流入通路15を介してベアリング室9の環状シール部材で囲まれた中央部分側に供給される。
【0041】
図7では前記差圧がある設定値以上(差圧大)になった場合を示し、この場合前記弁体25は差圧力により付勢バネ22が収縮し弁体25は出口弁座27に接触し、前記隙間28が消滅するためこの通路からはオイルは流入できなくなる。結果オイルは弁体25に形成した絞り通路24を通り出口通路29から流出する。
【0042】
図8は今述べた流入通路断面積比の前記圧力差に対する変化の様子を表わしている。前記弁体25に形成した絞り通路24の最小断面積は前述した出口弁座27を通る通路の断面積に比べ小さく設計してあるため、図9の実線に示すように減圧効果が大きくなり、ベアリング室9の環状シール部材で囲まれた中央部分圧力はより低い中間圧力となる。
【0043】
ここで、可動スクロールを固定スクロール側に付勢する力すなわちスラスト荷重の従来に対する変化を図10に示す。具体的には流出側がφ0.5〜φ1程度の固定された通路面積で、流入側を2段階の可変通路の構成にした場合は吐出と吸入の圧力差がある設定値以上になった時流入側通路面積を流出側通路面積程度に縮小し、ベアリング室の環状シール部材で囲まれた中央部分圧力を吐出と吸入圧力の総和平均値程度の中間圧力にしても可動スクロールの転覆に関して差し支えない設計ができる。例えば、第2の実施の形態の場合には前記圧力差の設定値を0.5〜0.8MPa程度とすると、吐出圧力が3、吸入圧力が0.3MPaにおいては従来例にくらべ30〜40%程度スラスト支持荷重を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかるスクロール圧縮機は、可動スクロールに作用する軸方向支持反力が過剰に大きくなるようなことがないようにすることができ、可動スクロールの摺動損失が少なくなり、高エネルギ効率の圧縮機にすることが出来る。よって高圧になりがちな冷媒を用いたルームエアコンや給湯器等の分野の用途にも好適である。
【符号の説明】
【0045】
1 固定スクロール
2 可動スクロール
3 シャフト
4 軸受けホルダー
5 環状シール溝
6 環状シール部材
9 ベアリング室
10 ドライブベアリング
15 流入通路
16 流入側減圧部
17 流出通路
18 流出側減圧部
18a 小孔
19 可変減圧機構部
21 スプール
22 付勢バネ
24 絞り通路
25 弁体
【技術分野】
【0001】
本発明は空調装置等に使用されるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスクロール圧縮機は可動スクロールを固定スクロール側に付勢して旋回運動をさせるようになっており、その際、可動スクロールの背面と対向した軸受けホルダーに環状のシール溝を設け、その中に環状シール部材を軸方向に移動可能に挿入して、環状シール部材の内部にオイルポンプによりオイルを供給するとともに吐出圧力を加圧した高圧を導入するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図11は、特許文献1のスクロール圧縮機の断面を示すものである。図に示すように、このスクロール圧縮機は、渦巻き状のハネを有する固定スクロール101と、前記固定スクロール101と対のハネを有し偏芯して旋回運動する可動スクロール102と、可動スクロール102を駆動するシャフト103と、前記シャフト103を軸受け支持し、可動スクロール102を背部から旋回可能に閉塞する軸受けホルダー104と、前記軸受けホルダー104内で可動スクロール102の背面と対向する面に設置された環状シール溝105と、その中に軸方向に移動可能で可動スクロール102の背面との接触部でシールするように配置された環状シール部材106を備えている。
【0004】
前述シャフト103の固定・可動両スクロールとは反対側の先端にはオイルポンプ107が配置され、シャフト103の回転によってコンプケース108の下部に貯油されたオイルを吸い上げ、前記シャフト103の中のオイル通路を通して前記環状軸シール部材106の中央部分内にオイルが供給される。上記オイルは固定・可動両スクロールによって圧縮された冷媒ガスが溶融しているため、この冷媒ガスによって吐出圧まで加圧されている。そしてこの加圧されたオイルは前記シャフト103を支持するメインベアリング109と可動スクロール102を駆動支持するドライブベアリング110等を潤滑するとともに、前記可動スクロール102を固定スクロール101側に前記高圧により付勢し、確実な圧縮作用を行わせる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−150248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、図12に示すように可動スクロール102に作用する圧縮ガスの接線方向力Ftが、可動スクロール102を固定スクロール101から軸方向支持点が離脱するいわゆる転覆させる方向のモーメントとして作用する。これに抗する、すなわち、前記転覆モーメントによる可動スクロール102の固定スクロール101からの離脱を防止するために、可動スクロール102の背面には前記圧縮ガスの軸方向の内力Fiに加え、環状シール部材106で囲まれた中央部に高圧を作用させた軸方向力Fb1と、前記環状シール部材106の外周部を低中間圧にして軸方向力Fb2を作用させている。そしてこれらの力Fb1とFb2の合力を、環状シール部材106の径を大きくする等により大きくして加えている。その結果、固定スクロール101と可動スクロール102の軸方向支持反力Fth1,Fth2は高負荷運転条件時には過剰に大きな値となり、固定・可動両スクロールの摩擦損失の増加のよるエネルギ効率の低下や、摩耗の原因となるという課題を有していた。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決したもので、可動スクロールの摺動損失が少なく高効率で摩耗の少ないスクロール圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は、圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくした構成としてある。
【0009】
上記構成によって、可動スクロールの背面と対向する軸受けホルダーに設置した環状シール部材の中央部に加わる圧力は低く抑えられたものとなり、この環状シール部材の中央部に加わる圧力とその外周部に加わる圧力との合成力は、前述した可動スクロールの離脱(または転覆)現象を解消しつつ、吐出圧力が高い条件においては過剰な軸方向支持反力(スラスト荷重)にならないように制御可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスクロール圧縮機では、固定スクロールと可動スクロールのスラスト荷重(軸方向支持反力)を従来に比べ過剰に大きくならないようにすることができる為、摺動損失が少なくなり、高効率で摩耗の少ない構造にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の断面図
【図2】同スクロール圧縮機における可動スクロール背圧室の圧力状態を示す説明図
【図3】同スクロール圧縮機の可動スクロールに対するスラスト荷重の説明図
【図4】本発明の実施の形態2におけるスクロール圧縮機の断面図
【図5】同スクロール圧縮機に設けた可変減圧機構の運転前の状態を示す模式図
【図6】同スクロール圧縮機に設けた可変減圧機構の運転圧力が所定圧力値以下の場合における可変減圧機構の模式図
【図7】同スクロール圧縮機に設けた運転圧力が所定圧力値以上の場合における可変減圧機構の模式図
【図8】同スクロール圧縮機における流入通路断面積の変化を示す説明図
【図9】同スクロール圧縮機の可動スクロール背圧室の中間圧力を示す説明図
【図10】同スクロール圧縮機の可動スクロールに対するスラスト荷重の変化を示す説明図
【図11】従来のスクロール圧縮機の断面図
【図12】同従来のスクロール圧縮機の可動スクロールに作用する力を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の発明は、圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内
に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくした構成としてある。
【0013】
これによって、可動スクロールの背面と対向する軸受けホルダーに設置した環状シール部材の中央部に加わる圧力は低く抑えられたものとなり、この環状シール部材の中央部に加わる圧力とその外周部に加わる圧力との合成力は、前述した可動スクロールの離脱(または転覆)現象を解消しつつ、吐出圧力が高い条件においては過剰な軸方向支持反力(スラスト荷重)にならないように制御可能となる。
【0014】
第2の発明は、圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、かつ、前記流入側減圧部は吐出圧力と吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧との差圧がある設定値以上で通路断面積がステップ状に縮小する機能を持った可変減圧機構を配置した構成としてある。
【0015】
これによって、第1の発明と同様可動スクロールの離脱(または転覆)現象を解消しつつ、吐出圧力が高い条件において過剰な軸方向支持反力(スラスト荷重)にならないように制御可能となる。
【0016】
第3の発明は、第2の発明における可変減圧機構は円筒状空間に軸方向に移動可能なスプールを配置し、同円筒状空間の一方に吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧を導入し、他方には吐出圧力ないし吐出圧力に順ずる高圧を導入し、前記吸入圧力を導入する側にコイル状の付勢バネを配置した構造であり、前記スプールからいずれかの方向に延伸した芯棒の先端には流入通路入口部に比べ通路断面積が小さな通路を形成した弁体を設置した構成としてある。
【0017】
第4の発明では、第2、第3発明の可変減圧機構において前記弁体に形成された通路の断面積は、前記流出通路の断面積と同程度の構成としてある。
【0018】
第5の発明では、第1〜第4発明の流出側通路は前記可動スクロールの旋回運動により前記環状軸シール部材を横切る構成とし、その最少通路直径をφ0.5〜1とした構成としてある。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるスクロール圧縮機の断面図を示すものである。図1において、このスクロール圧縮機は、渦巻き状のハネを有する固定スクロール1
と、前記固定スクロール1と対のハネを有し偏芯して旋回運動する可動スクロール2と、前記可動スクロール2を駆動するシャフト3と、前記シャフト3を径方向に軸受け支持し、可動スクロール2を旋回自在に背部から閉塞する軸受けホルダー4と、前記軸受けホルダー4の可動スクロール2の背面と対向する面に設置された環状シール溝5と、前記環状シール溝5の軸方向に移動可能に配置され同環状シール溝5内の外径部及び前記可動スクロール2の背面と接触し漏れを防止するための環状シール部材6から構成されている。
【0021】
前記軸受ホルダー4には前記シャフト3を軸受支持するメインベアリング7と前記シャフト3の外周部と摺動接触しシールするシャフトシール8が配備され、ベアリング室9が形成されている。前記可動スクロール2の渦巻き状ハネの反対側にはドライブベアリング10が配置され、前記シャフト3に対し偏芯した偏芯ブッシュを介し前記可動スクロール2を駆動している。また、前記軸受ホルダー4と可動スクロール2の間にはオルダムリングが配備され、前記可動スクロール2の自転を防止し、可動スクロール2を旋回運動させている。
【0022】
つぎに給油構成について説明する。本実施の形態では固定・可動両スクロールを内蔵した圧縮機容器A内の吐出圧力が作用する高圧室Bの下部にオイル溜め部13を形成した例を示している。この実施の形態では前記シャフト3を駆動するモータ11は固定・可動両スクロールで圧縮された高圧の冷媒ガスが流れ込む高圧室Bに設置されている。すなわち、前記一対の渦巻き状ハネによって吸入・圧縮・吐出された冷媒ガスは図中に示した矢印の方向に流れ、前記モータ11を冷却しながら図中右端のコンプケース12の内壁に衝突し、ガスはコンプケース12の上部に配置された吐出口から流出する。一方、冷媒中のオイルミストは前述したコンプケース11の内壁への衝突により凝縮され、重力によりコンプケース12の下方に移動し、前記オイル溜め部13に溜まる。
【0023】
前記軸受けホルダー4の下部には圧縮機容器Aとの間に前述したオイルの流入口14が設けられ、かつ流入口14から前記ベアリング室9に連通した流入通路15が形成されている。そして、前記流入通路15の端、すなわち環状シール部材6の中央部分が高圧室になるとともに高圧室までの中途には流入通路の最小断面積を規定する減圧機構部16が形成されている。
【0024】
一方、前記可動スクロール2に装備されたドライブベアリング10の奥部空間から可動スクロール2の鏡板内で半径方向に流出通路17が形成され、前記環状軸シール部材6を旋回運動により横切る位置の鏡板に流出用減圧部18となる小孔18aが前記流出通路17に直交して形成され、運転中は間欠的に前記環状軸シール部材6の外側の空間に連通しオイルを流出させ低圧空間を形成している。また、運転停止時には前記環状シール部材6の内部(中央部)空間に前記小孔18aが存在するタイミングで完全停止する為運転停止後のオイルの低圧側への流出を防止することが出来る構成としている。
【0025】
以上説明した構成が本実施例の差圧給油方式のスクロール圧縮機の基本構造であり、以下に本発明の内容について説明する。
【0026】
従来例で少し説明したように可動スクロールの背面にガス圧力を作用させて可動スクロールを固定スクロール側に付勢する構造については種々提案されているが、環状軸シールを設けて、中央に吐出圧力または吐出圧力に準じる高圧を導入した場合、吐出圧力がR134a冷媒で3MPa程度なると過剰な付勢力となる。
【0027】
そのため、本実施の形態では流入側減圧部16と流出側減圧部18の通路断面積を適切に設計して前記付勢力が過大になることを防止し、かつスクロール圧縮機の低圧縮比における転覆現象を極力回避でき、更には差圧潤滑方式の注意点である過剰なオイル供給によ
るコンプレッサ効率の低下防止、運転停止時の差圧によるオイル・高圧ガスの低圧側への流出防止を盛り込んだ構成、すなわち、流入と流出通路面積の適切比率範囲を提案している。
【0028】
一般にオイルのような非圧縮性流体に関してベルヌーイの式と連続の式を用いれば、高圧P1、低圧P3、流入側通路断面積A1、流出側通路断面積A2とした時、高圧と低圧の間の空間の圧力P2は
P2=(A1^2*P1+A2^2*P3)/(A1^2+A2^2)
と表される。
【0029】
また、流出側通路断面積は圧縮機の構造、型式、排気量等によって異なるが、過大流入によるオイル加熱損失と隙間シール用適正オイル量などを考慮しながら決定される。
【0030】
本実施例の差圧方式の場合、流出通路17は直径でφ0.5〜1mm程度が適切値であり、この流出側通路断面積に対する流入通路16の断面積比を検討する。
【0031】
図2は、吐出圧P1(図2中Pdで示す)=0.5〜3MPa、吸入圧P3=0.3MPa一定として流入、流出通路断面積A1,A2により生じる中間圧力P2(図2中PbAで示す)の変化を、図3は前述した圧力変化によるスラスト荷重Fthの変化を表わしたものである。
【0032】
P1=0.5、P3=0.3MPaにおいて確実な差圧設定と転覆範囲悪化防止範囲から考慮しP2/P1=0.95を基準として設定した時、P1=1.5,3MPaではP2/P1はそれぞれ、0.88,0.86となり、高負荷域で従来の吐出圧力による付勢に対し中間圧力化による付勢力、すなわちスラスト荷重に換算すると、それぞれ7,10%軽減されることがわかる。
【0033】
このことから、流出通路17が最小のφ0.5では流入通路15は約4倍のφ1、流出通路17が最大のφ1の時には流入通路15は約2倍のφ1.5程度が上記中間圧力を発生させる通路面積として適切であることがわかる。
【0034】
以上から、実施の形態1の流入および流出用通路断面積が固定された場合には、流入通路15の断面積を流出通路17の断面積の2〜4倍大きくすることにより、転覆現象を抑えつつ、過剰なスラスト荷重を軽減できる適切な中間圧にすることができる。すなわち、環状シール部材で囲まれた中央部分の圧力上昇を抑えて環状シール部材外周に加わる圧力との合成力を適正に維持し、吐出圧力が高い高負荷運転条件時における可動スクロールへの付勢力が過剰に大きくなるのを防止している。
【0035】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第2の実施の形態の差圧給油方式のスクロール圧縮機における構造を表すも断面図である。この実施の形態では第1の実施の形態に対し、より積極的に吐出圧力が高い高負荷運転条件において可動スクロールの固定スクロールへの付勢力すなわちスラスト荷重を軽減する構成としたものである。
【0036】
図中19は前述した流入側減圧機構部としての可変減圧機構部であり、その他は基本的に同じ構造である。
【0037】
図5,図6,図7は流入通路15に配備した可変減圧機構19の構造と作動状況を表す模式図である。図中20は円筒状空間20で、軸方向に移動可能なスプール21を有し、一方に吸入圧力Psないし吸入圧力に順ずる低圧を導入し、他方には吐出圧力Pdない
し吐出圧力に順ずる高圧を導入するように構成してあり、さらに前記吸入圧力Psを導入する側にコイル状の付勢バネ22を配置してある。そして、前記スプール21から延伸した芯棒23の先端には内部に絞り通路24を形成した弁体25が設置してあり、この弁体25が、前記流入口14につながって吐出圧力Pdないし吐出圧力に順ずる高圧が加わる流入口26とベアリング室9の環状シール部材で囲まれた中央部分の高圧室につながる出口通路29との間の出口弁座便座27を開閉する構成としてある。
【0038】
つぎにこの可変減圧機構19の動作について説明する。
【0039】
図5は運転前の均圧状態を表わしており、内部の付勢バネ22の保持力によりスプール21と一体となった弁体25は圧縮機の流入口14に連なる流入口26を閉塞している。
【0040】
次に図6では吐出圧力Pdないし吐出圧力に順ずる高圧Pdと、吸入圧Psないし吸入圧Psに順ずる低圧との差圧がある設定値以下(差圧小)の状態を示しており、当該差圧がある設定値以下(差圧小)のため、前記弁体25は流入口26の出口弁座27との間に隙間28が発生し、弁体25の下部流入口26から流入してくるオイルは前記隙間28を通り出口通路29から流入通路15を介してベアリング室9の環状シール部材で囲まれた中央部分側に供給される。
【0041】
図7では前記差圧がある設定値以上(差圧大)になった場合を示し、この場合前記弁体25は差圧力により付勢バネ22が収縮し弁体25は出口弁座27に接触し、前記隙間28が消滅するためこの通路からはオイルは流入できなくなる。結果オイルは弁体25に形成した絞り通路24を通り出口通路29から流出する。
【0042】
図8は今述べた流入通路断面積比の前記圧力差に対する変化の様子を表わしている。前記弁体25に形成した絞り通路24の最小断面積は前述した出口弁座27を通る通路の断面積に比べ小さく設計してあるため、図9の実線に示すように減圧効果が大きくなり、ベアリング室9の環状シール部材で囲まれた中央部分圧力はより低い中間圧力となる。
【0043】
ここで、可動スクロールを固定スクロール側に付勢する力すなわちスラスト荷重の従来に対する変化を図10に示す。具体的には流出側がφ0.5〜φ1程度の固定された通路面積で、流入側を2段階の可変通路の構成にした場合は吐出と吸入の圧力差がある設定値以上になった時流入側通路面積を流出側通路面積程度に縮小し、ベアリング室の環状シール部材で囲まれた中央部分圧力を吐出と吸入圧力の総和平均値程度の中間圧力にしても可動スクロールの転覆に関して差し支えない設計ができる。例えば、第2の実施の形態の場合には前記圧力差の設定値を0.5〜0.8MPa程度とすると、吐出圧力が3、吸入圧力が0.3MPaにおいては従来例にくらべ30〜40%程度スラスト支持荷重を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかるスクロール圧縮機は、可動スクロールに作用する軸方向支持反力が過剰に大きくなるようなことがないようにすることができ、可動スクロールの摺動損失が少なくなり、高エネルギ効率の圧縮機にすることが出来る。よって高圧になりがちな冷媒を用いたルームエアコンや給湯器等の分野の用途にも好適である。
【符号の説明】
【0045】
1 固定スクロール
2 可動スクロール
3 シャフト
4 軸受けホルダー
5 環状シール溝
6 環状シール部材
9 ベアリング室
10 ドライブベアリング
15 流入通路
16 流入側減圧部
17 流出通路
18 流出側減圧部
18a 小孔
19 可変減圧機構部
21 スプール
22 付勢バネ
24 絞り通路
25 弁体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくしたスクロール圧縮機。
【請求項2】
圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、かつ、前記流入側減圧部は吐出圧力と吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧との差圧がある設定値以上で通路断面積がステップ状に縮小する機能を持った可変減圧機構を配置したスクロール圧縮機。
【請求項3】
可変減圧機構は、円筒状空間に移動可能なスプールを配置し、同円筒状空間の一方に吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧を導入し、他方には吐出圧力ないし吐出圧力に順ずる高圧を導入し、前記吸入圧力を導入する側にコイル状の付勢バネを配置した構造としてあり、前記スプールからいずれかの方向に延伸した芯棒の先端には流入通路入口部に比べ内部に通路断面積が小さな通路を形成した弁体を設置して構成した請求項第2記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
可変減圧機構において弁体に形成された通路の断面積は、流出側通路断面積と同程度の構成とした請求項第2または3項記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
流出側通路は可動スクロールの旋回運動により環状軸シール部材を横切る構成と、その通路直径をφ0.5〜1とした請求項第1〜4のいずれか1項記載のスクロール圧縮機。
【請求項1】
圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、前記流入側減圧部の最小通路断面積は前記流出側通路断面積よりも2〜4倍大きくしたスクロール圧縮機。
【請求項2】
圧縮機容器内に配置した固定スクロールおよび可動スクロールと、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記シャフトを支持するとともに前記可動スクロールの背面と対向した面に環状シール溝を有する軸受けホルダーと、前記環状シール溝内に軸方向に移動可能に配置した環状シール部材と、前記固定・可動両スクロールにて圧縮した高圧の冷媒ガスを前記環状シール部材に囲まれた中央部に供給する流入通路と、前記環状シール部材に囲まれた中央部から環状シール部材の外周部に流出させる流出通路とを備え、前記環状シール部材で囲まれた中央部と環状シール部材外周部における冷媒ガスの合成圧力で前記可動スクロールを固定スクロールに押しつける圧縮機であって、前記流入通路には流入側減圧部を、流出通路には流出側減圧部を設け、かつ、前記流入側減圧部は吐出圧力と吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧との差圧がある設定値以上で通路断面積がステップ状に縮小する機能を持った可変減圧機構を配置したスクロール圧縮機。
【請求項3】
可変減圧機構は、円筒状空間に移動可能なスプールを配置し、同円筒状空間の一方に吸入圧力ないし吸入圧力に順ずる低圧を導入し、他方には吐出圧力ないし吐出圧力に順ずる高圧を導入し、前記吸入圧力を導入する側にコイル状の付勢バネを配置した構造としてあり、前記スプールからいずれかの方向に延伸した芯棒の先端には流入通路入口部に比べ内部に通路断面積が小さな通路を形成した弁体を設置して構成した請求項第2記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
可変減圧機構において弁体に形成された通路の断面積は、流出側通路断面積と同程度の構成とした請求項第2または3項記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
流出側通路は可動スクロールの旋回運動により環状軸シール部材を横切る構成と、その通路直径をφ0.5〜1とした請求項第1〜4のいずれか1項記載のスクロール圧縮機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−87741(P2013−87741A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231389(P2011−231389)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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