説明

スクロール型圧縮機

【課題】クランク軸方向の寸法を低減することができると共に、圧縮機における圧縮効率を向上させることができるスクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】固定側旋回歯60,61が形成された第1ケーシング(固定側スクロール)51に対して、可動側旋回歯70,71が形成された可動側スクロール64を旋回運動させるスクロール型圧縮機50において、第2ケーシング52の壁面に、可動側スクロール64の裏面部79を支持する摺動部として機能するプレーンメタル74を配設する。プレーンメタル74が、可動側スクロール64に発生する図示右方向のスラスト荷重や回転駆動に伴う熱を広い面積で受け止めるので、可動側スクロール用軸受92にかかる負担が低減される。これに伴い、可動側スクロール用軸受92をニードルベアリングからボールベアリングに換装することが可能となり、クランク軸方向の大幅な小型化が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に係り、特に、クランク軸方向の寸法を低減することができると共に、圧縮機における圧縮効率を向上させることができるスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧縮機の一種として、固定側の旋回歯が形成された固定側スクロールと、可動側の旋回歯が形成された可動側スクロールとを有し、前記両者の旋回歯を互いに向き合わせて重ね合わせると共に、一方が他方に対して偏心している2軸以上からなるクランク軸の一方側に軸支された可動側スクロールを固定側スクロールに対して旋回運動させることで運転されるスクロール型圧縮機が知られている。このようなスクロール型圧縮機は、小型かつ高効率である等の理由から、燃料電池による発電時に要する圧縮空気の生成用に好適とされている。また、スクロール型圧縮機には、漏れ損失を減らす為に、可動側スクロールと固定側スクロールの旋回歯クリアランスを減らす手段として、可動側スクロールの軸受を複列式としたり、複数の従動クランクを設ける等の工夫が凝らされてきた。
【0003】
特許文献1には、可動側スクロールを旋回可能に軸支する軸受に「ころ軸受」を適用した構成が開示されている。
【特許文献1】特開2003−42078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような軸に対する振れや倒れの防止に効果的なラジアルころ軸受として、ニードルベアリングが広く使用されている。しかしながら、特許文献1に開示されたスクロール型圧縮機では、主に前記ニードルベアリングによる軸受部によって、可動側スクロールに発生するスラスト荷重も受け止める構成とされているので、この負荷に対応する寸法のニードルベアリングを使用すると、圧縮機全体がクランク軸方向に長くなりやすいという課題があった。
【0005】
また、上記特許文献1の構成では、可動側スクロールは、ニードルベアリングのみによりクランク軸に支持されるようになっているので、空気圧縮による発熱によりニードルベアリングに歪みが生じることがあり、そのため、その歪みを考慮して、固定側旋回歯と可動側旋回歯との間の隙間を大きくとる必要があり、空気の漏れ損失が大きかったという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、クランク軸方向の寸法を低減することができると共に、圧縮機における圧縮効率を向上させることができるスクロール型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明は、固定側基盤上に立設された固定側旋回歯を有する固定側スクロールと、可動側基盤上に立設された可動側旋回歯を有する可動側スクロールと、前記固定側スクロールに対して前記可動側スクロールを旋回運動させるクランク軸と、前記クランク軸を回転自在に軸支するケーシングとを備えたスクロール型圧縮機において、前記クランク軸の一端部で前記可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受とは別に、前記可動側スクロールを面で受ける摺動部が備えられている点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記摺動部は、前記クランク軸の一端部で前記可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受の旋回範囲よりも外側の前記ケーシングの壁面に設けられ、前記可動側スクロールに発生するスラスト荷重を受け止めるように構成されている点に第2の特徴がある。
【0009】
また、固定側基盤上に立設された固定側旋回歯を有する固定側スクロールと、可動側基盤上に立設された可動側旋回歯を有する可動側スクロールと、前記固定側スクロールに対して前記可動側スクロールを旋回運動させるクランク軸と、前記クランク軸を回転自在に軸支するケーシングとを備えたスクロール型圧縮機において、前記クランク軸の一端部で前記可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受の径方向外側には、前記可動側スクロールを回動自在に軸支する第2クランク軸が設けられており、前記クランク軸と前期第2クランク軸とが、前記ケーシングに軸支されるそれぞれの回転軸の間で動力を伝達する伝動手段で連結されており、前記第2クランク軸が、前記伝動手段によって前記クランク軸と同期回転される点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記摺動部が固体潤滑部材から構成されており、前記固体潤滑部材が、前記可動側基盤の可動側旋回歯が形成されていない側の面と当接するように構成されている点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記可動側スクロール用軸受が、ボールベアリングである点に第5の特徴がある。
【0012】
また、前記伝動手段が、タイミングベルトによる伝動装置である点に第6の特徴がある。
【0013】
さらに、前記可動側旋回歯の中心点が、前記可動側基盤の中心点に対してオフセットして設けられている点に第7の特徴がある。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、クランク軸の一端部で可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受とは別に、前記可動側スクロールを面で受ける摺動部が備えられているので、可動側スクロールを回動可能に軸支する可動側スクロール用軸受の負担が低減されて、可動側スクロールの振れや倒れを低減することが可能となる。また、可動側スクロール用軸受の負担が低減されることで、運転時に発生する熱の影響も低減されるので、径方向の設計公差を小さくすることが可能となり、これによって旋回歯同士の隙間を狭めて圧縮空気の漏れ損失を小さくすることができるようになる。また、クランク軸の軸方向の長さを短くすることができるようになる。
【0015】
第2の発明によれば、前記摺動部は、クランク軸の一端部で可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受の旋回範囲よりも外側のケーシングの壁面に設けられており、可動側スクロールに発生するスラスト荷重を受け止めるように構成されているので、可動側スクロールを径方向外側寄りの位置で受け止める広い面積の摺動部を設けることが可能となり、可動側スクロールの振れや倒れをより一層低減することができるようになる。
【0016】
第3の発明によれば、クランク軸からの回転駆動力が直接第2クランク軸に伝達されるので、クランク軸および第2クランク軸の両方で可動側スクロールを旋回運動させることになり、旋回運動をより安定的に行うことが可能となる。また、第2クランク軸が上死点または下死点にある状態でクランク軸の回動が開始される場合であっても、第2クランク軸がクランク軸と逆方向に回転しようとすることがなくなるので、スクロール型圧縮機の始動性を向上することができる。
【0017】
第4の発明によれば、固体潤滑部材を使用することによって、可動側スクロールとケーシングの壁面との摺動抵抗が低減されるので、軸受の負担をより低減することが可能となる。また、軸受の負担低減に伴い、軸方向の寸法が大きくなりやすいニードルベアリングや複数のベアリングで軸支させる構造等が不要となるので、スクロール型圧縮機の軸方向の寸法が低減されると共に、圧縮機全体の軽量化を図ることができるようになる。
【0018】
第5の発明によれば、ニードルベアリングに比して軸方向の寸法を低減しやすいボールベアリングを使用するので、スクロール型圧縮機の軸方向の寸法をより低減することが可能となる。
【0019】
第6の発明によれば、繊維や樹脂等から形成される軽量なタイミングベルトを使用するので、駆動力のロスが少なく音の静かな伝動手段が得ることができる。
【0020】
第7の発明によれば、可動側旋回歯の中心点を可動側基盤の中心に対してオフセットさせて設けることで、可動側スクロールの重心と可動側スクロールの旋回点とが一致するように構成することが可能となるので、スクロール型圧縮機の運転時にクランク軸に生じる荷重変動を最小限に抑えることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池自動二輪車1の側面図である。燃料電池自動二輪車1は、電気化学反応で電気エネルギを発生させるための水素供給系、空気供給系、およびセルスタック(電極、セパレータ、電解質等を含む)からなる燃料発電機システムを備える。本明細書では、セルスタックおよびこれを収容するケース(ケースに付属する部材を含む)を燃料電池と呼ぶ。
【0022】
図1において、燃料電池自動二輪車1は、ヘッドパイプ2に前部を接合されたメインフレーム3と、該メインフレーム3の後部に接合されてさらに後方に延長されたリアフレーム4と、前記メインフレーム3の後部下方に設けられたピボット部30に揺動自在に軸支されたスイングアーム5とを有する。前記ヘッドパイプ2にはステアリングステム(不図示)が回動自在に支持され、その上端にはステアリングバー8が結合されている。前記メインフレーム3には、斜め後下方に延びるリヤクッション9の上端が連結されており、該リアクッション9の下端は前記スイングアーム5に連結されている。また、スイングアーム5には、燃料電池自動二輪車1の原動機である電動モータ10が設けられ、この電動モータ10で駆動される後輪軸11に後輪WRが軸支されている。前記メインフレーム3およびリヤフレーム4の上部には、ケース13に収納されたECU14が設けられており、さらにその上方に、前記ケース13を覆うようにして乗員が着座するシート(不図示)が取り付けられる。
【0023】
前記メインフレーム3は、全体がクレードル型すなわち籠型に形成されており、この籠型のメインフレーム3およびこれに接続されたアンダーパイプ6で囲まれた空間には、冷却水を圧送するウォータポンプ15、空気を圧送するスクロール型圧縮機50、空気の加湿器と乾燥機とを一体的に構成した加湿乾燥機17、燃料電池18、電圧制御ユニットとしてのVCU19が収容されている。側面視長方形のケースを有する燃料電池18は、ピボット部30の直前部かつECU14の下方において、前記アンダーパイプ6と連結される取付ステー12によって、その長方形が縦長になるように配置されている。燃料電池18の下方には、キャッチタンク(気液分離器)20と希釈ボックス21が設けられている。
【0024】
前記メインフレーム3の前方には、燃料電池18を冷却する冷却水用のラジエータ22が設けられると共に、ヘッドパイプ2の側方を覆うようにエアクリーナ23が設けられている。該エアクリーナ23から導入された空気は、吸入空気量等を計測するエアフローセンサ24が取り付けられた吸気管27を経由してスクロール型圧縮機50に給送された後、加湿乾燥機17および連結パイプ16を経由して燃料電池18に供給される。また、リヤフレーム4の左右両側には、燃料電池18に水素を供給する一対の水素ボンベ25が搭載されている。この水素ボンベ25内に充填された水素は、レギュレータ(不図示)で降圧されて燃料電池18に供給される。また、フロントフォーク7の左右両側には、縦長に配置された一対のバッテリ26が設けられており、燃料電池18で発電された電力は、このバッテリ26に一端蓄えられてから、前記電動モータ10に供給される。
【0025】
図2は、燃料電池18への空気供給系を構成する補器類の概要説明図である。前記と同一の符号は、前記と同一または同等部分を示す。前記エアクリーナ23は、ベース部23aにエアフィルタ(不図示)を収納し、カバー部23bで蓋をした構成とされる。エアクリーナ23から取り込まれた空気は、前記エアフローセンサ24が取り付けられた吸気管27からスクロール型圧縮機50に給送される。本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機50は、前記吸気管27が連結される第1ケーシング51と、有底の円筒状に形成された第3ケーシング53と、その間に挟まれた厚板状の第2ケーシング52とから構成されている。そして、前記スクロール型圧縮機50によって圧力を高められた空気は、排気管54から加湿乾燥機17へ送り出される。前記加湿乾燥機17は、多数のフィンが形成された乾燥機部49と円柱状の加湿器部48とを上下に一体的に配置した構成とされており、排気管54から吸入された圧縮空気は、乾燥機部49から連結管29を通って加湿器部48を通過し、常に燃料電池18の発電に適した湿度に調整された空気が、前記連結パイプ16から燃料電池18へ圧送されるように構成されている。
【0026】
また、前記燃料電池18は、前記アンダーパイプ6と結合される取付ステー12と連結されることで車体側に安定的に支持されている。前記加湿乾燥機17から連結パイプ16を通って送られた空気は、燃料電池18の底部に形成された導入ノズル34から燃料電池18の内部に導かれる。そして、燃料電池18の発電に利用された圧縮空気は、燃料電池18の天面に設けられた突出ノズル32から導出されて再度循環される。なお、燃料電池18の天面には、冷却水の排出口31および前記バッテリ26への電力を出力する電極33が設けられている。
【0027】
図3は、図2のA方向から見たスクロール型圧縮機50の斜視図である。前記と同一の符号は、前記と同一または同等部分を示す。本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機50は、第1ケーシング51の端部に連結された吸気管27から導入された空気が、第1ケーシング51の略中央に連結された排気管54から排出されるように構成されている。前記吸気管27は、ボルト83によって第1ケーシング51に結合された入口部材57と連結されており、前記排気管54は、前記第1ケーシング51の略中央にボルト(不図示)で結合された出口部材56と連結されている。また、前記第1ケーシング51の周縁部には、複数のネジ孔82aが設けられており、該ネジ孔82aにボルト82をそれぞれ挿入して締結することで、前記第1ケーシング51と第2ケーシング52とが結合されるように構成されている。
【0028】
前記第3ケーシング53には、スクロール型圧縮機50を駆動する駆動モータ(図6参照)が収納されており、前記第2ケーシング52には、前記駆動モータの回転軸としてのクランク軸(図6参照)が回転自在に軸支されている。また、前記第1ケーシング51の上方に形成された延出部80には、前記クランク軸に同期して回転する第2クランク軸(図6参照)が収納されている。なお、本実施形態において、前記第1〜第3ケーシング51,52,53は金属等から構成されており、また、第1ケーシング51の表面には、軽量化と高剛性を両立するための複数のリブ58,59が放射状に形成されている。
【0029】
図4は、スクロール型圧縮機50の一部断面正面図である。前記と同一の符号は、前記と同一または同等部分を示す。前記したように、スクロール型圧縮機は、固定側の旋回歯が形成された固定側スクロールと、可動側の旋回歯が形成された可動側スクロールとを有し、前記両者の旋回歯を互いに向き合わせて重ね合わせると共に、クランク軸の一端側に軸支された可動側スクロールを固定側スクロールに対して旋回運動させることで運転される圧縮機である。
【0030】
本実施形態に係るスクロール型圧縮機50においては、前記第1ケーシング51の裏面側に、圧縮空気の吐出口54aの中心点62を始点とする一対のインボリュート曲線から構成される薄板状の固定側旋回歯60,61が形成されており、前記第1ケーシング51そのものが固定側スクロールとして機能する。なお、前記固定側旋回歯60,61は、前記インボリュート曲線と吐出口54aの外径線とが交差する点を開始点60b,61bとして形成されている。
【0031】
上記した固定側スクロール51(第1ケーシング)に対し、前記クランク軸63の一端部に連結されると共に、前記固定側スクロール51に対して旋回運動される可動側スクロール64には、前記固定側旋回歯60,61を時計方向または半時計方向に90度回動させたものと同様の可動側旋回歯70,71(図5参照)が形成されている。また、前記クランク軸63の一端部および前記第2クランク軸の一端部には、それぞれの回転軸から同一の所定のオフセット量を有する偏心軸がそれぞれ形成されている。そして、前記可動側スクロール64は、前記偏心軸に対してそれぞれ回転自在に軸支されているので、前記クランク軸63を回転させると、可動側旋回歯70,71は、固定側旋回歯60,61に対して前記所定のオフセット量を半径とした円周上を旋回運動することになる。そして、この旋回運動が開始されると、固定側旋回歯60,61と可動側旋回歯70,71との間に形成される三日月状の部屋がそれぞれ狭められながら中心方向へ順次移動するので、前記吐出口54aから連続的に圧縮空気が吐出されることになる。なお、前記固定側旋回歯60,61の軸方向の端面には、樹脂等から形成され、圧縮空気を密閉するシール部材を嵌合するための溝60a,61aが設けられている。また、前記所定のオフセット量は、スクロール型圧縮機50の設計に合わせて所定の範囲内で任意に設定することができる。
【0032】
図5は、前記可動側スクロール64の正面図である。可動側スクロール64は、可動側基盤65の一面側に、中心点66を始点とする一対のインボリュート曲線から形成される可動側旋回歯70,71を一体的に形成した構成とされている。前記可動側基盤65には、前記第1ケーシング51の延出部80に対応する第2クランク軸支持部65aが形成されており、この裏面側に形成された嵌合孔68に嵌合される軸受を介して、前記第2クランク軸の偏心軸が軸支されるように構成されている。また、前記したように、可動側旋回歯70,71の開始点70b,71bは、前記固定側旋回歯60,61の開始点60b,61bを時計方向または半時計方向に90度回転させた位置に設定している。なお、前記可動側旋回歯70,71の軸方向の端面には、樹脂等から形成され、圧縮空気を密閉するシール部材を嵌合するための溝70a,71aが設けられている。
【0033】
本実施形態に係る可動側スクロール64においては、前記インボリュート曲線の中心点66に対して、前記所定のオフセット量を有する点が、クランク軸63の回転軸67に一致するように構成されている。すなわち、クランク軸63の回転時には、前記回転軸67を中心に、前記中心点66が旋回運動するようになっている。さらに、前記可動側スクロール64の重心が、前記中心点66、すなわち前記旋回運動を行う点と一致するように構成されているので、旋回運動時にクランク軸63に生じる荷重変動が最小に抑えられることになる。上記した構成を実現するために、前記可動側旋回歯70,71を構成するインボリュート曲線の始点である中心点66は、前記可動側基盤65の略中央より上方寄りに配置されている。可動側旋回歯70,71全体が、可動側基盤65の中心に対して上方寄りに配置されているのはこのためである。
【0034】
図6は、図4のB−B線断面図である。前記と同一の符号は、前記と同一または同等部分を示す。前記可動側スクロール64を旋回運動させるクランク軸63は、前記第2ケーシング52に嵌合された主軸受91および副軸受90によって回転自在に軸支されている。前記クランク軸63を駆動する駆動モータは、前記クランク軸63の図示右端部に固定的に結合されているアウタロータ84と、前記第2ケーシング52側にボルト86で固定的に支持されているステータ85とから構成されている。また、前記クランク軸63には、主軸受91の近傍に回転時の重量バランスを保つウェイト63aが形成されており、さらに左方の端部に、回転軸から前記所定のオフセット量を有する偏心軸63bが形成されている。そして、この偏心軸63bに嵌合する可動側スクロール用軸受92を介して、前記可動側スクロール64が回動可能に軸支されている。
【0035】
一方、クランク軸63の図示上方には、第2ケーシング52に嵌合された軸受93,93によって、クランク軸63と同期して回転する第2クランク軸75が軸支されている。この第2クランク軸75の左端部には、前記クランク軸63の偏心軸63bと同一の所定のオフセット量を有する第2偏心軸75aが形成されている。そして、この第2偏心軸75aに嵌合する軸受94を介して、前記可動側スクロール64に形成された第2クランク支持部65aが回動可能に軸支されている。上記したような構成によれば、可動側スクロール64は、前記クランク軸63の偏心軸63bと、前記第2クランク軸75の第2偏心軸75aとの2点によって支持されるので、クランク軸63の回転に伴う旋回運動を安定的に行うことが可能となる。なお、前記固定側旋回歯60,61の端面には、可動側基盤65と当接するシール部材95,96が取り付けられると共に、前記可動側旋回歯70,71の端面には、固定側基盤81と当接するシール部材72,73がそれぞれ取り付けられており、お互いの旋回歯によって形成される密閉空間の気密が保たれるように構成されている。
【0036】
そして、本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機50においては、第2ケーシング52の壁面に、前記可動側スクロール64の裏面部79と接触する摺動部が設けられている点に特徴がある。この摺動部は、前記偏心軸63bを軸支する可動側スクロール用軸受92の旋回範囲より外側に配置されている。また、本実施形態において、該摺動部は、固体潤滑部材としてのプレーンメタル74によって構成されている。上記したような構成によれば、前記スクロール型圧縮機50の運転時に、前記出口部材56から圧縮空気を吐出する際の反力として可動側スクロール64が受ける図示右方向のスラスト荷重が、前記プレーンメタル74によって受け止められることになり、可動側スクロール用軸受92には、スラスト荷重による負担がほとんどかからないようにすることが可能となる。なお、プレーンメタル74には、すべり軸受等に使用される摺動抵抗の少ない金属等が使用されるので、可動側スクロール64の旋回運動に与える抵抗はごくわずかである。
【0037】
上記したような摺動部を持たない従来方式のスクロール型圧縮機では、スクロール型圧縮機の運転時にクランク軸と可動側スクロールとの間の軸受部に負担が集中し、可動側スクロールに振れや倒れが発生してシール性能が低下する可能性があった。しかしながら、本実施形態に係るスクロール型圧縮機50においては、可動側スクロール用軸受92の旋回範囲より外側に配置され、かつ広い面積を有するプレーンメタル74が可動側スクロール64を支持するので、スラスト荷重の負担が分散されて、可動側スクロール用軸受92の負担が大幅に低減される。さらに、本実施形態では、可動側スクロール用軸受92の負担低減に伴って、可動側スクロール64を回動可能に軸支する可動側スクロール用軸受92を、従来のニードルベアリングから軸方向の寸法が大幅に低減されるボールベアリングに換装することが可能となるので、スクロール型圧縮機50のクランク軸方向の寸法の大幅な短縮が実現される。なお、前記プレーンメタル74は、可動側スクロール用軸受92の外周側に複数箇所設けたり、連続的に外周側の全周を覆うように設けたりしてもよい。また、摺動部およびプレーンメタル74の設置箇所は、上記したような第2ケーシング52に限られず、スクロール型圧縮機を構成するケーシングに形成される壁面であれば任意に選択することができる。
【0038】
さらに、本実施形態に係るスクロール型圧縮機50は、クランク軸63に一体的に取り付けられたプーリ77と、第2クランク軸75の右端部に一体的に取り付けられた第2プーリ76との間に伝動手段としてのタイミングベルト78が掛け渡されており、第2クランク軸75がクランク軸63の駆動によって直接強制的に同期回転される点に特徴がある。従来方式によるスクロール型圧縮機においても、駆動モータによって駆動されるクランク軸の径方向外側で可動側スクロールを軸支する副次的なクランク軸は備えられていたが、これらは、可動側スクロールの旋回運動に伴って従動的に回転されるものであった。これに対して、本実施形態においては、クランク軸63からの回転駆動力を直接第2クランク軸75に伝達するので、クランク軸63と第2クランク軸75の両方で可動側スクロール64を旋回運動させることになり、旋回運動をより安定的に行うことを可能にしている。これは、特に、第2クランク軸75が上死点または下死点にある状態でクランク軸63の回動が開始される場合において、第2クランク軸75がクランク軸63と逆方向に回転し始めようとする可能性をなくして、スクロール型圧縮機50の始動性向上を可能とするものである。なお、前記伝動手段は、上記したようなタイミングベルトに限らず、チェーンやギヤ等で構成されてもよい。
【0039】
上記したように、本発明に係るスクロール型圧縮機によれば、前記第2ケーシング52の壁面に、可動側スクロール64に発生するスラスト荷重を受け止める摺動部としてのプレーンメタル74を設けたので、可動側スクロール64を回動可能に軸支する可動側スクロール用軸受92の負担を低減することが可能となる。また、可動側スクロール用軸受92の負担が低減され、運転時に発生する熱やスラスト荷重の影響を受けにくくなるので、可動側スクロール用軸受92の径方向の設計公差を詰めることが可能となり、旋回歯同士の隙間を狭めて、圧縮空気の漏れ損失を小さくすることが可能となる。さらに、可動側スクロール用軸受92にボールベアリングが使用できるようになるので、スクロール型圧縮機50の軸方向の寸法をより低減することが可能となる。
【0040】
なお、固定側スクロールおよび可動側スクロールの形状、固体潤滑部材の形状や材質等は、上記した実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。また、本発明に係るスクロール型圧縮機が、燃料電池自動二輪車以外の車両や機器等に適用されてもよいことは勿論である。また、前記摺動部は、プレーンメタルに限らず、ケーシングに対して可動側スクロールを摺動させる機能を有するものであればよい。さらに、伝動手段は、タイミングベルトに限らずチェーン等で構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機が適用された燃料電池自動二輪車の側面図である。
【図2】燃料電池への空気供給系を構成する補器類の概要説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機の一部断面正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る可動側スクロールの正面図である。
【図6】図4のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0042】
50…スクロール型圧縮機、51…第1ケーシング(固定側スクロール)、52…第2ケーシング、53…第3ケーシング、60,61…固定側旋回歯、63…クランク軸、63b…偏心軸、64…可動側スクロール、70,71…可動側旋回歯、74…プレーンメタル(摺動部)、75…第2クランク軸、75b…第2偏心軸、76…第2プーリ、77…プーリ、78…タイミングベルト、92…可動側スクロール用軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側基盤上に立設された固定側旋回歯を有する固定側スクロールと、
可動側基盤上に立設された可動側旋回歯を有する可動側スクロールと、
前記固定側スクロールに対して前記可動側スクロールを旋回運動させるクランク軸と、
前記クランク軸を回転自在に軸支するケーシングとを備えたスクロール型圧縮機において、
前記クランク軸の一端部で前記可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受とは別に、前記可動側スクロールを面で受ける摺動部が備えられていることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記摺動部は、前記クランク軸の一端部で前記可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受の旋回範囲よりも外側の前記ケーシングの壁面に設けられ、前記可動側スクロールに発生するスラスト荷重を受け止めるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
固定側基盤上に立設された固定側旋回歯を有する固定側スクロールと、
可動側基盤上に立設された可動側旋回歯を有する可動側スクロールと、
前記固定側スクロールに対して前記可動側スクロールを旋回運動させるクランク軸と、
前記クランク軸を回転自在に軸支するケーシングとを備えたスクロール型圧縮機において、
前記クランク軸の一端部で前記可動側スクロールを軸支する可動側スクロール用軸受の径方向外側には、前記可動側スクロールを回動自在に軸支する第2クランク軸が設けられており、
前記クランク軸と前期第2クランク軸とが、前記ケーシングに軸支されるそれぞれの回転軸の間で動力を伝達する伝動手段で連結されており、
前記第2クランク軸が、前記伝動手段によって前記クランク軸と同期回転されることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記摺動部が固体潤滑部材から構成されており、
前記固体潤滑部材が、前記可動側基盤の可動側旋回歯が形成されていない側の面と当接するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載ののスクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記可動側スクロール用軸受が、ボールベアリングであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記伝動手段が、タイミングベルトによる伝動装置であることを特徴とする請求項3に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項7】
前記可動側旋回歯の中心点が、前記可動側基盤の中心点に対してオフセットして設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−211712(P2007−211712A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33729(P2006−33729)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】