説明

スクロール型圧縮機

【課題】吸入ガスの過熱度を抑制しつつ、軸受、リップシールおよびスラストプレート等の摺動部分を潤滑することができるスクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機筐体の一の部分を形成しつつ主軸の軸受を保持するハウジングに、被圧縮ガスが吸入される開口部と、該開口部から圧縮機内部側に柱状に延びる吸入空間と、該吸入空間から主軸の回転軸方向に向けて延びる第1のガス通路と、第1のガス通路と主軸の軸受が配置される空間とを連通する第2のガス通路とが形成され、圧縮機筐体の他の部分を形成しつつ上記ハウジングと締結されるシェルに、第1のガス通路と圧縮機構の内部空間とを連通する第3のガス通路が形成され、第1のガス通路と第3のガス通路とが、可動渦巻体の底板の可動領域よりも主軸の回転半径方向外側の領域において連通することを特徴とするスクロール型圧縮機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数経路にて被圧縮ガスを吸入するガス通路がフロントハウジングに形成されたスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型圧縮機内に冷媒等の被圧縮ガスを吸入するためのガス通路に関し、被圧縮ガス中に含まれる潤滑油が圧縮機内部で潤滑作用を発揮できるように、各種の構造が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、主吸入孔と補助吸入孔とをフロントハウジングに形成したスクロール型圧縮機が開示されている。また特許文献2には、吸入口から流入する作動媒体と潤滑剤のミストの流路が二つの回路(第1回路と第2回路)から形成されるスクロール圧縮機が開示されている。
【0004】
さらに特許文献3には、複数個の吸入通路が設けられ、冷媒中の潤滑油が吸入通路を介して主軸受け等の摺動部分を通過するようにしたスクロール圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3227075号公報
【特許文献2】特開平9−32745号公報
【特許文献3】特許第4106088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクロール型圧縮機においては、ハウジングに設けられた吸入ポートから、渦巻壁で区画形成され吸入容量を確定する圧縮室までのガス経路上での圧力損失や、摺動部などからの受熱により吸入ガスの過熱度が高くなる傾向があり、吸入ガスの過熱度が過大とならないように設計する必要がある。しかしながら従来のスクロール型圧縮機の中には、吸入ガスの過熱度抑制を、軸受、リップシールおよびスラストプレートの潤滑と両立させた構造のものはなかった。
【0007】
そこで本発明の課題は、吸入ガスの過熱度を抑制しつつ、軸受、リップシールおよびスラストプレート等の摺動部分を潤滑することができるスクロール型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るスクロール型圧縮機は、圧縮機筐体の一の部分を形成しつつ主軸の軸受を保持するハウジングに、被圧縮ガスが吸入される開口部と、該開口部から圧縮機内部側に柱状に延びる吸入空間と、該吸入空間から主軸の回転軸方向に向けて延びる第1のガス通路と、第1のガス通路と前記軸受が配置される空間とを連通する第2のガス通路とが形成され、
圧縮機筐体の他の部分を形成しつつ前記ハウジングと締結されるシェルに、第1のガス通路と圧縮機構の内部空間とを連通する第3のガス通路が形成され、
第1のガス通路と第3のガス通路とが、前記可動渦巻体の底板の可動領域よりも前記主軸の回転半径方向外側の領域において連通することを特徴とするものからなる。
【0009】
このような本発明のスクロール型圧縮機によれば、上記吸入空間および第1〜第3のガス通路が形成されることによって、吸入ガスの過熱度が適切に抑制されるとともに、主軸の軸受および圧縮機構周辺の摺動部分を効果的に潤滑することができる。とくに、第1のガス通路と第3のガス通路とが、前記可動渦巻体の底板の可動領域よりも前記主軸の回転半径方向外側の領域において連通することにより、主軸の回転に伴って可動渦巻体が旋回する際にも底板によって両ガス通路の連通部分が塞がれることがないので、吸入ガスのガス通路内における流動状態を良好に保つことが可能となる。
【0010】
本発明のスクロール型圧縮機において、前記ハウジングに、前記吸入空間と前記軸受が配置される空間とを第1のガス通路を経由せずに連通する潤滑油通路が形成されていることが好ましい。潤滑油通路が形成されることによって、ハウジングの開口部から吸入された冷媒等の被圧縮ガス中に含まれる潤滑油を、第1のガス通路を経由せずに吸入空間から直接に主軸の軸受へと差し向けることができる。
【0011】
このようなスクロール型圧縮機において、前記吸入空間と潤滑油通路の連通部近傍に多孔性充填材が充填されていることが好ましい。多孔性充填材としては、スポンジや焼結金属などの多孔質部材からなるもののほか、スチールウールや多孔質フィルターなどの繊維状部材からなるものを用いることができる。このような多孔性充填材が吸入空間と潤滑油通路の連通部に充填されることにより、吸入ガスに含まれる潤滑油を充填材で捕捉して効率的に潤滑油通路へと送ることができるので、軸受の潤滑性を一層向上させることが可能となる。
【0012】
本発明のスクロール型圧縮機は、前記ハウジングと前記シェルとが複数の締結手段によって締結されており、隣接する該締結手段の間に挟まれる領域内において第1のガス通路と第3のガス通路とが連通するように構成されていることが好ましい。ハウジングとシェルとがボルト等の締結手段で締結される場合には、隣接するボルト間の領域で連通するように両ガス通路を構成することによって、圧縮機の筐体をコンパクトに形成することができる。
【0013】
本発明のスクロール型圧縮機において、前記吸入空間が、前記主軸の回転半径方向内側に向けて延びるように構成されていることが好ましい。吸入空間が主軸の回転半径方向内側に向けて、好ましくは主軸に直交する方向に向けて延びるように形成されることにより、軸受のような高い潤滑性が要求される摺動部分により近い部位まで、潤滑油を含んだ吸入ガスを容易に導入することが可能となる。
【0014】
本発明に係るスクロール型圧縮機の構造は、固定渦巻体が前記シェルと一体に形成されたスクロール型圧縮機において好適に採用可能である。本発明をシェル一体型固定渦巻体を備えたスクロール型圧縮機に適用することにより、ペリフェラルポートを追加的に設けることなく吸入ガスの過熱度を適切に抑制することが可能となる。
【0015】
本発明のスクロール型圧縮機において、第1のガス通路の内部にフィン構造が形成されていることが好ましい。フィン構造が形成されることにより、第1のガス通路を流れる吸入ガスに含まれる潤滑油を効果的に捕捉することができる。フィン構造にて捕捉された潤滑油は、第2のガス通路を介して軸受配置空間に送られて軸受まわりの潤滑性を向上させることができ、また第3のガス通路を介して圧縮機構側に送られて圧縮機構まわりの潤滑性を向上させることができる。
【0016】
本発明のスクロール型圧縮機において、第1のガス通路が前記吸入空間の側面に形成されていることが好ましい。第1のガス通路が吸入空間の側面に形成されることにより、吸入空間内を流れていた被圧縮ガスは、第1のガス通路内へと流入する際に略直角に屈曲する流れを形成することとなる。このようなガス流れの屈曲部分において被圧縮ガス中の潤滑油は慣性力を受けるため、潤滑油の一部は第1のガス通路内に流入せずに吸入空間内に滞留する。すなわち、このような簡便な分離機構にて、被圧縮ガス中の潤滑油を選択的に捕捉することが可能である。
【0017】
このようなスクロール型圧縮機においては、前記吸入空間が、第1のガス通路が形成される部位よりも鉛直下側にまで延びるように形成されていることが好ましい。吸入空間がこのように形成されることにより、上記の簡便な分離機構により捕捉された潤滑油が吸入空間の底部に貯留されるので、例えば吸入空間の下底部に潤滑油通路を設けた場合に、捕捉された潤滑油を各種の摺動部分へと効率的に供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るスクロール型圧縮機によれば、吸入ガスのガス通路内における流動状態を良好に保ちつつ吸入ガスの過熱度を適切に抑制し、主軸の軸受および圧縮機構周辺の摺動部分を効果的に潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施態様に係るスクロール型圧縮機を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面を示す縦断面図である。
【図2】図1のスクロール型圧縮機を示し、(a)は図1(b)のB−B断面を示す縦断面図、(b)は図1(b)のC−C断面を示す横断面図である。
【図3】本発明の第2実施態様に係るスクロール型圧縮機を示し、(a)は図2(a)に対応する縦断面図、(b)は図2(b)に対応する横断面図である。
【図4】本発明の第3実施態様に係るスクロール型圧縮機を示し、(a)は図2(a)に対応する縦断面図、(b)は図2(b)に対応する横断面図である。
【図5】本発明の第4実施態様に係るスクロール型圧縮機を示し、(a)は図2(a)に対応する縦断面図、(b)は図2(b)に対応する横断面図である。
【図6】本発明の第5実施態様に係るスクロール型圧縮機を示す、図1(b)に対応する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施態様に係るスクロール型圧縮機を示しており、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面を示す縦断面図である。圧縮機1の稼働時においては、主軸2が回転することにより可動渦巻体3が旋回し、可動渦巻体3と固定渦巻体4とからなる圧縮機構5によるガスの圧縮操作が行われる。被圧縮ガスとしての冷媒ガスは、フロントハウジング6の側面に設けられた開口部7から吸入空間8に吸入される。吸入空間8は開口部7から主軸2の回転半径方向内側(図の下側)に向けて延びる円柱状に形成されている。吸入空間8の側面には、主軸2の回転軸方向に向けて延びる第1のガス通路9が連通しており、さらに、第1のガス通路9からは、カウンターウェイト10が収容される収容空間12に面した部位に配置される主軸2の軸受11へと延びる第2のガス通路13が分岐して形成されている。
【0021】
フロントハウジング6は、締結手段としてのボルト14によって、固定渦巻体4と一体に形成されたシェル15と締結されている。フロントハウジング6とシェル15が接する面においては、可動渦巻体3の底板3aの可動領域よりも主軸2の回転半径方向外側(図の上側)の領域で第1のガス通路9と第3のガス通路16が連通している。第3のガス通路16は、主軸2の回転軸方向(図の右側)に向けて延びるようにシェル15の内部に形成され、第1のガス通路9を圧縮機構5の内部空間5aに連通させている。第1のガス通路9と第3のガス通路16は、底板3aの可動領域よりも主軸2の回転半径方向外側において連通しているため、圧縮機1の稼働時においても連通状態が保持される。
【0022】
吸入空間8の底部には、第1のガス通路9を経由せずに収容空間12へと延びる潤滑油通路17および第1のガス通路9を経由せずにリップシール潤滑空間20へと延びる潤滑油通路18が設けられている。このように形成された吸入空間8は、吸入された被圧縮ガスから潤滑油を分離する簡易オイルセパレータとして機能する。すなわち、被圧縮ガス中の冷媒成分は、吸入空間8の側面に連通する第1のガス通路9へと流れる傾向にあり、被圧縮ガス中の潤滑油成分は、慣性によって吸入空間8の底部に連通する潤滑油通路17へと流れる傾向にある。従って、高い潤滑性が要求される主軸2の軸受11に向けて優先的に潤滑油を送ることが可能となる。
【0023】
図2は、図1の圧縮機1を示しており、(a)は図1(b)のB−B断面を示す縦断面図、(b)は図1(b)のC−C断面を示す横断面図である。図2において、第1のガス通路9は、主軸2の回転軸方向に向けてほぼ等しい断面でシェル15側に向けて延び、シェル15の近傍では第3のガス通路16の断面の形とほぼ一致する断面となるように形成されている。
【0024】
図3は、本発明の第2実施態様に係るスクロール型圧縮機31を示しており、(a)は図2(a)に対応する縦断面図、(b)は図2(b)に対応する横断面図である。圧縮機31のフロントハウジング32に設けられた第1のガス通路33は、主軸2の回転軸方向に向けて大きな曲率にて断面が拡大された後に、第3のガス通路34の断面の形とほぼ一致する断面でシェル35側に向けて延びるように形成されている。
【0025】
図4は、本発明の第3実施態様に係るスクロール型圧縮機41を示しており、(a)は図2(a)に対応する縦断面図、(b)は図2(b)に対応する横断面図である。圧縮機41のフロントハウジング42に設けられた第1のガス通路43は、主軸2の回転軸方向に向けて一定の割合で断面が拡大された後に、第3のガス通路44の断面の形とほぼ一致する断面でシェル45側に向けて延びるように形成されている。さらに、第1のガス通路43内には、表面積の大きいフィン46が主軸2の回転軸方向に向けて延設されている。このような構造により、第1のガス通路43内を流動するガス中の潤滑油は、フィン46に捕捉され、重力により可動渦巻を摺動支持する部位に導かれる。
【0026】
図5は、本発明の第4実施態様に係るスクロール型圧縮機51を示しており、(a)は図2(a)に対応する縦断面図、(b)は図2(b)に対応する横断面図である。圧縮機51のフロントハウジング52に設けられた第1のガス通路53は、主軸2の回転軸方向に向けて一定の割合で断面が拡大された後に、第3のガス通路54の断面の形とほぼ一致する断面でシェル55側に向けて延びるように形成されている。さらに、第1のガス通路53の内壁面の一部が、主軸2の回転軸方向に向けて延びるフィン56として形成されている。このような構造により、第1のガス通路53内を流動するガス中の潤滑油は、フィン56に捕捉され、第2のガス通路(図中13)を介し、可動渦巻を摺動支持する部位や軸受に導かれる。
【0027】
図6は、本発明の第5実施態様に係るスクロール型圧縮機61を示した、図1(b)に対応する縦断面図である。フロントハウジング62の吸入空間63の底部には、多孔質粒子や繊維からなる多孔性充填材64が充填されている。多孔性充填材64が充填されることによって、被圧縮ガス中の潤滑油成分が効率的に捕捉され、潤滑油通路65,66へと潤滑油を導きやすくなっている。その他の構造は図1(b)と同様であるので詳しい説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係るスクロール型圧縮機の構造は、摺動部分に高い潤滑性が求められるあらゆるスクロール型圧縮機に適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1,31,41,51,61 圧縮機
2 主軸
3 可動渦巻体
3a 底板
4 固定渦巻体
5 圧縮機構
5a 内部空間
6,32,42,52,62 フロントハウジング
7 開口部
8,63 吸入空間
9,33,43,53 第1のガス通路
10 カウンターウェイト
11 軸受
12 収容空間
13,36,47,57 第2のガス通路
14 ボルト
15,35,45,55 シェル
16,34,44,54 第3のガス通路
17,18,65,66 潤滑油通路
20 リップシール潤滑空間
21 リップシール
46,56 フィン
64 多孔性充填材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機筐体の一の部分を形成しつつ主軸の軸受を保持するハウジングに、被圧縮ガスが吸入される開口部と、該開口部から圧縮機内部側に柱状に延びる吸入空間と、該吸入空間から主軸の回転軸方向に向けて延びる第1のガス通路と、第1のガス通路と前記軸受が配置される空間とを連通する第2のガス通路とが形成され、
圧縮機筐体の他の部分を形成しつつ前記ハウジングと締結されるシェルに、第1のガス通路と圧縮機構の内部空間とを連通する第3のガス通路が形成され、
第1のガス通路と第3のガス通路とが、前記可動渦巻体の底板の可動領域よりも前記主軸の回転半径方向外側の領域において連通することを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記ハウジングに、前記吸入空間と前記軸受が配置される空間とを第1のガス通路を経由せずに連通する潤滑油通路が形成されている、請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記吸入空間と潤滑油通路の連通部近傍に多孔性充填材が充填されている、請求項2に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記ハウジングと前記シェルとが複数の締結手段によって締結されており、隣接する該締結手段の間に挟まれる領域内において第1のガス通路と第3のガス通路とが連通する、請求項1〜3のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記吸入空間が、前記主軸の回転半径方向内側に向けて延びる、請求項1〜4のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記軸受が、カウンターウェイトを収容する収容空間に面した部位に配置されている、請求項1〜5のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項7】
固定渦巻体が前記シェルと一体に形成されている、請求項1〜6のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項8】
第1のガス通路の内部にフィン構造が形成されている、請求項1〜7のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項9】
第1のガス通路が、前記吸入空間の側面に形成されている、請求項1〜8のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項10】
前記吸入空間が、第1のガス通路が形成される部位よりも鉛直下側にまで延びるように形成されている、請求項9に記載のスクロール型圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−237288(P2012−237288A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108350(P2011−108350)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】