説明

スズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤およびこれを用いるウィスカー防止方法

【課題】 スズまたはスズ合金めっきを行った後、室温で5000hr放置した場合であっても、確実にウィスカーの発生を防ぐことのできる簡便な手段を提供すること。
【解決手段】 (A)硫酸、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸ならびにそれらの誘導体、(B)過酸化物および(C)銅よりも電位が貴である金属イオンを含有するスズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤並びに被めっき素材を、上記のスズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤に浸漬した後、スズまたはスズ合金めっきを行うことを特徴とするスズまたはスズ合金めっきのウィスカー防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズまたはスズ合金めっき後のめっき皮膜に発生するウィスカーを有効に防止することのできるスズまたはスズ合金めっきのウィスカー防止剤およびこれを利用するウィスカー防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スズめっきやスズ合金めっき(以下、「スズ系めっき」という)は、その柔軟性等の物性から、電子部品材料に広く使用されているが、このスズ系めっき皮膜には、ウィスカーと呼ばれる針状結晶が発生し、短絡等の問題を生じるという問題があった。このウィスカーを防止するための方法としては、めっき後にリフローを行うことが有効であり、かなり行われているが、作業効率が低下するという問題があり、また、皮膜の特性が変化するため使用できない場合がある等の問題もあった。
【0003】
それらを考慮すると、スズ系めっき後にウィスカー防止処理を行う後処理より、スズ系めっき前の被めっき素材に対する前処理による対策が有効であると考えられており、ウィスカーを防止するための前処理方法はすでにいくつか開示されている。それら前処理方法は、(1)酸化剤や電解の作用により表面の凹凸を除去して平滑にする方法(特許文献1ないし3)および(2)スズ系めっき皮膜の下地として薄い異種金属層を形成する方法(特許文献4ないし6)の2つに大別される。
【0004】
しかしながら、方法(1)では、被めっき表面の状態は、素材により異なるため、どんな素材に対しても十分な効果を出すためには2μm以上のエッチング量が必要となるという問題点があった。つまり、電子部品は微細化・高密度化が進んでおり、エッチング量が多いと寸法精度に問題が生じるため、エッチング量は1.5μm以下、さらに好ましくは1μm以下とすることが望まれているが、方法(1)では、これを満足させることは困難である。
【0005】
一方、方法(2)の下地の金属層を形成する方法として、スパッタなどの乾式法、置換めっき、ならびに電気めっきが上げられているが、このうち、乾式法ではコストや作業効率が問題となり、また、置換めっきでは浴の安定性や安全性が、更に電気めっきでは電子部品の特性への影響など、解決すべき問題があった。
【0006】
更に、方法(1)および(2)の共通の問題点としては、ウィスカー防止効果が十分であるかが不確実である点をあげることができる。すなわち、ウィスカー発生状況を調査する方法は種々あるが、電子部品、特にリードフレームに関しては、めっき後室温放置する方法が最も適切な方法である。デバイスメーカーの多くは、ウィスカーに関する判定基準を「5000hr室温放置後に50μm以上のものがないこと」としているが、上記文献内容では、長いもので1000〜2000hr、短いものでは200hrの観察結果しか記載されていないが、2000hrまでウィスカーが未発生であれば5000hrまでウィスカーが発生しないといいうるものでなく、5000hrまで試験しなければウィスカー防止効果の評価方法としては不十分である。
【0007】
【特許文献1】特開2004−285417号
【特許文献2】特開2004−263291号
【特許文献3】特開平5−148658号
【特許文献4】特開2004−91824号
【特許文献5】特開2003−332391号
【特許文献6】特開2003−129278号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、スズ系めっきを行った後、室温で5000hr放置した場合であっても、確実に問題となるウィスカーの発生を防ぐことのできる簡便な手段の提供が求められており、このような手段の提供が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ウィスカーの防止に関し鋭意検討を行っていたところ、一般的なエッチング剤組成に、電位の貴な金属イオンを添加することにより、エッチング量が少なくても有効にウィスカーの発生を有効に防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、次の成分(A)ないし(C)
(A)硫酸、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸ならびにそれらの誘導体
(B)過酸化物
(C)銅よりも電位が貴である金属イオン
を含有するスズ系めっき用ウィスカー防止剤である。
【0011】
また本発明は、被めっき素材を、前記スズ系めっき用ウィスカー防止剤に浸漬した後、スズ系めっきを行うことを特徴とするスズ系めっきのウィスカー防止方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被めっき素材をスズ系めっき用ウィスカー防止剤に浸漬するという簡単な前処理操作により、有効にスズ系めっき皮膜に発生するウィスカーを防止することができる。そして、この前処理方法は、低コストで、作業性もよく、また素材をあまり溶解しないものであり、また、この製造方法によって製造された電子部品は、5000hr室温で放置した場合であっても実質的にウィスカーを発生させないものであるため、電子部品等にスズ系めっきを行う前の前処理方法として広く利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のスズ系めっき用ウィスカー防止剤(以下、「ウィスカー防止剤」という)において、成分(A)として用いられる、硫酸、アルカンスルホン酸およびアルカノールスルホン酸ならびにそれらの誘導体の例としては、硫酸、メタンスルホン酸、メタノールスルホン酸、プロパンスルホン酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ヒドロキシプロパンスルホン酸等を挙げることができる。この成分(A)の量は、使用時の濃度として、10〜300g/Lが好ましく、特に20〜200g/Lがより好ましい。なお、含有量が10g/Lより少ないと十分なウィスカー防止効果を得ることができず、また、300g/Lより多くても効果は変わらない。
【0014】
また、本発明の成分(B)として用いられる、過酸化物の例としては、過酸化水素およびペルオキソ硫酸、ペルオキソ硫酸ナトリウム、ペルオキソ硫酸カリウム、ペルオキソ硫酸アンモニウム等のペルオキソ硫酸化合物を挙げることができる。本発明のウィスカー防止剤における成分(B)の量は、使用時の濃度として、2〜100g/Lが好ましく、特に5〜50g/Lがより好ましい。なお、含有量が2g/Lより少ないと十分なウィスカー防止効果を得ることができず、100g/Lより多いと、例えば被めっき素材が銅である場合エッチングが進みすぎ、好ましくない。
【0015】
更に、本発明の成分(C)として用いられる、銅よりも電位が貴である金属イオンの例としては、銀イオン、パラジウムイオン、金イオンなどが挙げられ、特に好ましいのは銀イオンである。これらの金属イオンを本発明のウィスカー防止剤に含有させるには、例えば硝酸銀、メタンスルホン酸銀、硫酸銀、酸化銀、塩化パラジウム、水酸化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酸化金等の金属塩を使用すればよい。なお、本発明のウィスカー防止剤における成分(C)の量は、使用時の金属イオン濃度として0.1mg/L〜20mg/Lが好ましく、特に0.2〜5mg/Lがより好ましい。更に含有量が0.1mg/Lより少ないと十分なウィスカー防止効果を得ることができず、20mg/Lより多くても効果は変わらない。
【0016】
本発明のウィスカー防止剤は、上記3成分を水等に溶解したものであっても十分なウィスカー防止作用が得られるが、更に、成分(D)としてテトラゾールまたはそれらの誘導体を使用することもできる。このテトラゾールおよびその誘導体は、水溶性のものであれば特に限定されることなく使用できるが、具体的な例としては、テトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−メチルテトラゾール、1−メチル−5−エチルテトラゾール、1−メチル−5−アミノテトラゾール、1−エチル−5−アミノテトラゾール等を挙げることができる。本発明のウィスカー防止剤における成分(D)の量は、その使用時のウィスカー防止剤中の量として、0.05〜10g/Lが好ましく、特に0.1〜8g/Lが好ましい。
【0017】
本発明のウィスカー防止剤は、上記成分(A)から成分(C)あるいはさらにこれと成分(D)を適当な担体と組み合わせることにより調製されるが、更に本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、湿潤剤としてノニオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤あるいは過酸化物の安定化剤としての水溶性のアルコール・ジオール類等の添加剤を含有させても良い。
【0018】
以上説明した本発明のウィスカー防止剤を用いて、スズ系めっき皮膜におけるウィスカー発生を防止するには、常法に従って被めっき素材を脱脂した後、これを必要により適当な溶媒、例えば水に溶解または希釈したウィスカー防止剤に浸漬し、その後スズめっきをおこなえば良い。具体的な浸漬条件としては、好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃の液温にして、好ましくは10秒〜2分間、より好ましくは20秒〜1分間浸漬すればよい。
【0019】
本発明方法により、スズめっき皮膜でのウィスカーの発生を防止することのできる被めっき素材は、プリント配線板やリードフレームに使用することのできる銅材料であれば特に限定されず、例えば、銅金属自体の他、電気めっきや無電解めっきにより形成される銅めっき皮膜、銅を主材として鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、リン、クロム、ケイ素等を1種以上含む合金が含まれる。また、スズめっきは、公知のいずれの組成のものを使用しても良い。なお、本明細書中のスズ系めっきにおけるスズ合金めっきとは、スズ以外の合金成分として、銅、銀、ビスマス、亜鉛、ニッケル、鉛等の1種以上を、めっき皮膜中、0.01%以上含有するものを意味する。
【作用】
【0020】
本発明のウィスカー防止剤によるウィスカー防止のメカニズムについては、いまだ明らかでない点も多いが、現時点では以下のように推測される。
【0021】
すなわち、従来技術として、「異種金属による下地層の形成」と「素材表面の加工変質層の除去」がウィスカー防止の前処理として効果的であることが知られているが、本発明のウィスカー防止剤では、この異なる処理が同時に行われ、その相乗効果として、従来よりも優れた効果が得られたものと推測される。
【実施例】
【0022】
以下実施例および試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等によりなんら制約されるものではない。
【0023】
実 施 例 1
下記組成により、スズめっき用ウィスカー防止剤を調製した。
【0024】
( ウィスカー防止剤組成 )
硫 酸 100g/L
過酸化水素 10g/L
銀イオン(硫酸銀として) 3mg/L
【0025】
実 施 例 2
下記組成により、スズめっき用ウィスカー防止剤を調製した。
【0026】
( ウィスカー防止剤組成 )
硫 酸 100g/L
過酸化水素 10g/L
パラジウムイオン 1mg/L
(硝酸パラジウムとして)
【0027】
実 施 例 3
下記組成により、スズめっき用ウィスカー防止剤を調製した。
【0028】
( ウィスカー防止剤組成 )
硫 酸 50g/L
過酸化水素 15g/L
銀イオン(硝酸銀として) 2mg/L
5−アミノテトラゾール 0.5g/L
【0029】
実 施 例 4
下記組成により、スズめっき用ウィスカー防止剤を調製した。
【0030】
( ウィスカー防止剤組成 )
メタンスルホン酸 200g/L
過酸化水素 15g/L
パラジウムイオン 2mg/L
(硝酸パラジウムとして)
テトラゾール 0.1g/L
【0031】
試 験 例 1
実施例1ないし4で得たウィスカー防止剤について、リードフレーム用銅合金である、EFTEC64T材(古河電気工業(株)製)を用い、浸漬時のエッチング量およびスズめっき後のウィスカー防止効果を書き評価方法により調べた。スズめっきまでの工程および使用するスズめっき液は下のとおりである。なお、比較としては、ウィスカー防止剤に代えて、下記比較エッチング剤を使用したもの(比較例1)、比較エッチング剤への浸漬時間を30秒から60秒へ増やしたもの(比較例2)およびウィスカー防止処理を行わなかったもの(比較例3)を用いた。
【0032】
( スズめっき液組成 )
スズ 60g/L
メタンスルホン酸 140g/L
添加剤UT−55* 40mL/L
* 荏原ユージライト(株)製
【0033】
( スズめっき工程 )
(1)陰極電解脱脂(50℃、5A/dm、30秒処理)
(2)ウィスカー防止処理(35℃、30秒処理)
(3)スズめっき(40℃、10A/dm
めっき膜厚: 3μm(ウィスカー評価用)
10μm(はんだ濡れ性評価用)
【0034】
( 比較エッチング剤組成 )
硫酸 100g/L
過酸化水素 20g/L
【0035】
( 評価方法 )
1.エッチング量
エッチング量は、下記式によって算出した。
【0036】
[数1]
エッチング量(μm)=(ΔW×10000)/(S×d)
ΔW:エッチング処理前後の重量差(g)
S:試験片の表面積(cm
d:銅の密度(8.9g/cm
【0037】
2.ウィスカー発生状態
スズめっき後、室温で放置し、放置時間5000hrまで、1000hrごとに実体顕微鏡で観察し、下記評価基準に従ってウィスカー発生状態を評価した。
評価基準 評 価 内 容
◎ : まったくウィスカーなし
○ : ウィスカー発生しているが、すべて10μm以下
△ : ウィスカー発生しているが、すべて30μm以下
× : 50μm以上のウィスカーがわずかに発生
×× : 50μm以上のウィスカーが多数発生
【0038】
3.はんだ濡れ性
以下のはんだ浴、はんだ方法により、下記基準ではんだ濡れ性を評価した。
はんだ浴:
Sn−Ag3%−Cu0.5%、245℃
浸漬時間:
5秒
フラックス:
ロジン系フラックス
評価基準 評 価 内 容
◎ : 半田濡れ時間2秒以内
○ : 〃 2〜3秒
△ : 〃 3〜5秒
× : 〃 5秒以上
【0039】
( 結 果 )
【表1】

【0040】
実施例1ないし4のウィスカー防止剤を使用した場合、エッチング量が何れも1μm以下であるにもかかわらず、放置5000hr後でもウィスカーが全く発生せず、またはんだ濡れ性も良好であった。
【0041】
一方、比較例1、2の場合は、1〜2μmのエッチングにより表面の加工変質層を除去するため、未処理の比較例3よりはウィスカー防止効果が認められるが、本発明に比べると効果はかなり低かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のスズめっき用ウィスカー防止剤は、例えば、リードフレーム用銅合金などの被めっき素材をあまりエッチングせずに、スズめっき層に生じるウィスカーの発生を防止することができるものである。
【0043】
従って、電子部品等に対するスズめっきの前処理としてこのウィスカー防止剤を使用することにより、ウィスカーの発生を有効に防ぐことが可能であり、特に、微細化・高密度化が求められる電子部品のウィスカー防止方法として広く利用することが可能である。
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)ないし(C)
(A)硫酸、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸ならびにそれらの誘導体
(B)過酸化物
(C)銅よりも電位が貴である金属イオン
を含有するスズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤。
【請求項2】
成分(C)が、銀またはパラジウムである、請求項1記載のスズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤。
【請求項3】
更に次の成分
(D)テトラゾールまたはその誘導体
を含有する請求項1または2記載のスズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤。
【請求項4】
リードフレーム用銅合金に使用する請求項1ないし3のいずれかの項記載のスズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤。
【請求項5】
被めっき素材を、請求項1ないし4のいずれかの項記載のスズまたはスズ合金めっき用ウィスカー防止剤に浸漬した後、スズまたはスズ合金めっきを行うことを特徴とするスズまたはスズ合金めっきのウィスカー防止方法。
【請求項6】
被めっき素材がリードフレーム用銅合金である請求項5記載のスズまたはスズ合金めっきのウィスカー防止方法。


【公開番号】特開2006−213938(P2006−213938A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25288(P2005−25288)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【Fターム(参考)】