説明

スタテリンペプチドおよび薬剤における使用

本明細書に定義されたような一般式(I)
X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12X13X14X15X16X17X18X19X20X21の合成スタテリンペプチドが提供される。本ペプチドは、歯疾患および口内乾燥症候群の処置に、ならびに本ペプチドを含む薬学的調製物の製剤に、適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然のスタテリンタンパク質に基づいた新規なペプチドの供給および薬剤におけるそれらの使用に関し、人工唾液の調製に特に適用される。
【背景技術】
【0002】
唾液は、歯および口腔粘膜を絶えず洗浄する腺分泌物である(Whelton, 1996)。エナメル質恒常性における唾液の保護的役割は、その無機および有機内容物の同期作用として発現される。唾液における高濃度のカルシウムおよびリン酸塩は、エナメル質溶解からの保護に必須である。しかしながら、この過飽和のレベルは、唾液管中、エナメル質表面上、および口腔内に、望ましくないリン酸カルシウムの沈殿を示すものと思われる。唾液タンパク質は、ヒドロキシアパタイトの一次および二次沈殿の阻害により、ならびに溶液においてカルシウムイオンを結合することにより、この望ましくない効果を防ぐ。
【0003】
唾液タンパク質スタテリンは、唾液腺における腺房細胞により産生される(Hay and Bowen, 1996)。その分子量(Mr)は5380であり、43アミノ酸を含む。これは、ヒドロキシアパタイト(HAp)への吸着、HApおよびエナメル質の一次ならびに二次沈殿の阻害(Schlesinger et al., 1987)に関与する多機能分子であり(Raj, 1992)、細菌が結合するのを助けることができ(Gibbons and Hay, 1988)、同定された他のタンパク質と比較してエナメル質表面に非常に近いペリクルに存在する(Schupbach et al., 2001)。
【0004】
スタテリンおよびその3つの変異体の一次構造(Jensen et al., 1991)は以下のとおりである。

【0005】
このペプチドは電荷極性を示すが、それは、1つを除くすべての荷電アミノ酸残基がN末端領域に位置していることを意味する(Schlesinger and Hay, 1977; Lamkin and Oppenheim, 1993)。上で示されているように、変異体SV2およびSV3は、リシン(K6)からチロシン(Y16)までの10アミノ酸断片欠落を除けば、スタテリンとほとんど同一である。
【0006】
自発的沈殿の阻害は、スタテリンの高荷電N末端の結晶核との相互作用を含み(Hay et al., 1979)、かつカルボキシ末端は、バルク溶液の方へ配向され、イオンの形成結晶核への拡散を制限する(Schlesinger and Hay, 1977; Schwartz et al., 1992)。二次沈殿の阻害の場合、結晶成長部位のブロッキング(Brown 1966)が、最も考えられる機構であり、スタテリンのN末端のみが必要とされる(Hay and Moreno 1989, Raj et al., 1992)。
【0007】
カルシウム結合に関して、〜10%のカルシウム(Ca2+)が刺激された唾液におけるタンパク質により直接的に結合され、刺激されていない唾液においては〜5%であると推測される(Hay, 1982)。唾液タンパク質が、乳タンパク質-カゼインと類似して、唾液ミセルを形成する傾向にあることを知ると、カルシウム結合の追加の機構が示唆されうる。Ca2+は、リン酸カルシウム貯蔵所として働くと思われるタンパク質-カルシウム-リン酸複合体において緩く結合しているものと思われる(Reynolds, 1997)。それらの2つの群、乳および唾液タンパク質、の間の類似性は、遺伝的に関連していると思われる。Kawasaki and Weiss (2003)は、エナメル質マトリックスタンパク質(アメロブラスチンおよびエナメリン)、乳カゼイン、および唾液タンパク質(スタテリン、ヒスタチン、酸性プロリン豊富タンパク質、およびムチン)についての遺伝子が共通の祖先をもつ同じ遺伝子ファミリーに属することを見出している。カゼインおよびスタテリンは、カルシウム結合に関与することが見出されている、同じSXEモチーフ(推定リン酸化部位-Fukae et al., 1996, Salih et al., 1998)、言い換えれば、Ser-Xaa-Glu(Xaaは任意のアミノ酸を表す)を有する(Farrell and Thomson, 1988)。
【0008】
さらに、スタテリンは、他の唾液タンパク質と共に、後天性エナメル質ペリクルを形成する(Yao et al., 1992, Dawes 1963)。ペリクルは、溶解および咬耗からエナメル質を保護する(Jensen, 1994)。
【0009】
唾液の化学組成については十分に理解されているが、身体により生成される正常な唾液のような効果的に機能することができる人工唾液組成物の必要性が存在する。唾液腺が外科的に摘出されている、または唾液腺が適切に機能しない患者において、唯一の現行処置は、人工唾液溶液を用いることである。そのような溶液は有用であるが、それらの使用に関連した問題がある。
【0010】
唾液腺は、癌を処置するための手術の過程において、または形成外科もしくは他の外科的介入の結果として、摘出される場合がある。唾液腺は、特定の病状において、または、例えば、放射線治療後、効果的に機能しない場合があり、「口内乾燥症候群」が認識されている副作用である。
【0011】
現行処置は、唾液代用物を含む。英国市場で入手可能な製品は、Glandosane(登録商標)、および特に、フランス(Artisial(登録商標))およびオーストラリア(Oralube(登録商標))で入手できるSaliva medac(登録商標)を含む。Kielbassa (2001)および共同研究者は、脱ミネラル化した、および健全なエナメル質のミネラル含有量への唾液代用物の効果を試験した。一部の製品は脱ミネラル化を増加さえした。Meyer-Lueckelら(2002)は、同じ製品およびそれらの象牙質への影響を試験した。結論は、カルシウム、リン酸塩、およびフッ化物を含む唾液代用物は唾液減少の場合、強く推奨されるだろうが、ヨーロッパ市場においてそれらのイオンを含む製品は、いろいろな場所で入手することはできないということだった。さらに、エナメル質溶解を防ぎ、再ミネラル化を、同時にそれらの望ましくない沈殿を避けながら、可能にするために必要な高濃度のカルシウムおよびリン酸塩に起因する問題がある。
【0012】
さらになお、人工唾液調製物は、歯の進行性脱ミネラル化を防ぐことができない。歯の脱ミネラル化は、歯が齲蝕のような歯の疾患を発症することに、より多く曝されるため、関係している被験体にとって深刻な結果をもたらす。
【0013】
驚くべきことに、スタテリンタンパク質の断片が人工唾液組成物においてそのタンパク質の天然型の代替物として働くことができることが見出されている。単離された合成ペプチド断片は、その生物活性を保持し、かつ天然タンパク質より安定している。
【発明の開示】
【0014】
本発明の第一局面によると、一般式(I)のペプチドが提供される:

式中、
X1、X2、X3、X4、またはX5が、それぞれ独立して、セリン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸からなる群より選択される酸性アミノ酸を表し、
X6が、リシン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群より選択される塩基性アミノ酸を表し、
X7またはX8が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X9またはX10が、それぞれ独立して、好ましくはリシン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群より選択される、塩基性アミノ酸を表し、
X11またはX12が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X13が、好ましくはリシン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群より選択される、塩基性アミノ酸を表し、
X14またはX15が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X16が、チロシンを表し、
X17が、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X18が、チロシンを表し、
X19またはX20が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、プロリン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X21が、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表す。
【0015】
一つの態様において、式(I)のペプチドは以下のように書かれうる:

式中、「R/K」は、アルギニンまたはリシンのいずれかが存在しうることを示し、「Y」は、チロシンが存在することを示す。与えられた番号付けは、位置番号を指す。
【0016】
本発明の一つの態様において、一般式(I)のペプチドは、以下の好ましい残基で構成されうる:
X7、X8、およびX11は、それぞれ独立して、フェニルアラニン、ロイシン、またはイソロイシンを表しうり、
X12が、グリシンを表しうり、
X14が、フェニルアラニンを表しうり、
X15およびX17が、それぞれ独立して、グリシンを表しうり、
X19が、グリシンを表しうり、
X20が、プロリンを表しうり、かつ
X21が、チロシンを表しうる。
【0017】
三文字および一文字コードを用いて、アミノ酸はまた以下のとおり参照されうる:グリシン(GまたはGly)、アラニン(AまたはAla)、バリン(VまたはVal)、ロイシン(LまたはLeu)、イソロイシン(IまたはIle)、プロリン(PまたはPro)、フェニルアラニン(FまたはPhe)、チロシン(YまたはTyr)、トリプトファン(WまたはTrp)、リシン(KまたはLys)、アルギニン(RまたはArg)、ヒスチジン(HまたはHis)、アスパラギン酸(DまたはAsp)、グルタミン酸(EまたはGlu)、アスパラギン(NまたはAsn)、グルタミン(QまたはGln)、システイン(CまたはCys)、メチオニン(MまたはMet)、セリン(SまたはSer)、およびトレオニン(TまたはThr)。残基がアスパラギン酸またはアスパラギンでありうる場合、記号AsxまたはBが用いられうる。残基がグルタミン酸またはグルタミンでありうる場合、記号GlxまたはZが用いられうる。文脈が他に特定しない限り、アスパラギン酸への言及はアスパラギン酸塩を含み、グルタミン酸はグルタミン酸塩を含む。
【0018】
適切には、疎水性アミノ酸は、グリシン(G)、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、ロイシン(L)およびイソロイシン(I)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、またはプロリン(P)からなる群より選択されうる。
【0019】
本発明はまた、一般式(I)のペプチドの変異体まで拡大される。本発明の変異体の例は、1つまたは複数のアミノ酸の1つまたは複数の他のアミノ酸での置換は別として、上で定義されているようなペプチドを含む融合タンパク質である。当業者は、様々なアミノ酸が類似した性質を有することを知っている。物質のうちの1つまたは複数のそのようなアミノ酸は、しばしば、その物質の所望の活性を除去することなしに、1つまたは複数の他のそのようなアミノ酸により置換されうる。
【0020】
従って、アミノ酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンは、しばしば、お互い(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)と置換されうる。これらの可能な置換のうちで、グリシンおよびアラニンがお互いの代わりとなるように用いられること(それらは比較的短い側鎖を有するため)、ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンがお互いの代わりとなるように用いられること(それらは、疎水性であるより大きな脂肪族側鎖を有するため)が好ましい。しばしば、お互いに置換されうる他のアミノ酸は以下を含む:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸);リシン、アルギニン、およびヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン酸およびグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギンおよびグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);ならびにシステインおよびメチオニン(イオウ含有側鎖を有するアミノ酸)。
【0021】
この性質の置換は、しばしば、「保存的」または「半保存的」アミノ酸置換と呼ばれる。
【0022】
アミノ酸欠失または挿入もまた、上記の融合タンパク質についてのアミノ酸配列に対してなされうる。従って、例えば、ポリペプチドの活性に実質的な効果を生じないアミノ酸、または少なくとも、そのような活性を除去しないアミノ酸が欠失されうる。そのような欠失は、なお活性を保持しながら、ポリペプチドの全長および分子量が減少されうるため、有利でありうる。これは、低減されるべき特定の目的のために−例えば、用量が低減されうる−必要とされるポリペプチドの量を可能にすることができる。
【0023】
上記の融合タンパク質の配列に対してのアミノ酸挿入もまたなされうる。これは、本発明の物質の性質を変えるために(例えば、融合タンパク質に関して上で説明されているように、同定、精製、または発現を補助するために)行われうる。
【0024】
上で与えられた配列に対してのアミノ酸変化は、任意の適切な技術を用いて、例えば、部位特異的突然変異誘発または固体合成を用いることにより、なされうる。
【0025】
本発明の範囲内でのアミノ酸置換または挿入は、天然または非天然のアミノ酸を用いてなされうることは認識されるべきである。天然または合成アミノ酸が用いられようと用いられまいと、L-アミノ酸だけが存在することが好ましい。
【0026】
本発明に従って用いる好ましいペプチドは以下のとおりである:

【0027】
ペプチドのアミノ酸残基は、例えば、リン酸化、グリコシル化などにより、修飾されていてもよい。アミノ酸のリン酸化状態は以下のとおり示されており、「pS」はリン酸化されているセリン残基を示す。
【0028】
それゆえに、本発明のより好ましいペプチドは以下である:

【0029】
以下のペプチド配列は、21アミノ酸からなるスタテリンのN末端断片であるペプチドStN21と呼ばれうる。

【0030】
本発明の第二局面によると、一般式(I)のペプチドをコードする核酸配列が提供される。
【0031】
核酸は、クローニングにより得られた、もしくは化学合成により生成されたDNA、cDNA、またはmRNAのようなRNAでありうる。DNAは一本鎖または二本鎖でありうる。一本鎖DNAはコードセンス鎖でありうる、またはそれは非コード鎖もしくはアンチセンス鎖でありうる。
【0032】
本発明の第三局面によると、一般式(I)のペプチドの調製のための方法であって、連続したアミノ酸残基を共に連結する段階を含む、方法が提供される。本方法は、標準手順を用いる、固体合成方法、例えば、「Fmoc」もしくは「Bmoc」合成(Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach (Practical Approach S.), ed.s W. Chan &, Peter White, Oxford University Press (2000))、または液相化学合成反応(Combinatorial Chemistry: A Practical Approach, ed. Hicham Fenniri, Oxford University Press (2000))でありうる。いくつかの例において、断片が固体方法を用いて合成され、その後、溶液中で共に結合されうる。ペプチドは、この方法においてアミノ酸鎖のカルボニル基側からアミノ基側へ合成されうるが、ペプチドは細胞において反対の方向で合成される。そのような方法において、アミノ保護アミノ酸を基質ビーズ(すなわち、樹脂ビーズ)に結合させ、カルボニル基と樹脂の間に共有結合を形成する。アミノ基を、その後、脱保護し、次のアミノ保護アミノ酸のカルボニル基と反応させる。サイクルは、所望のペプチド鎖を形成するために必要とされるくらいの回数で繰り返される。合成ペプチドを、その後、手順の最後にビーズから切断する。このペプチドに最も多く用いられるアミノ基のための保護基は、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(「Fmoc」)およびt-ブチルオキシカルボニル(「Boc」)である。Fmoc基は塩基でアミノ末端から除去されるが、Boc基は酸で除去される。
【0033】
または、本方法は、適切な宿主細胞における本発明の第二局面による核酸構築物の発現を含みうる。核酸構築の発現は、適切には、本発明の第二局面の核酸を含むベクターを宿主細胞にトランスフェクションすることにより達成されうる。
【0034】
ベクターはまた、配列の発現を援助するために適切な制御配列および/またはプロモーター配列を含みうる。
【0035】
上記のようなベクターは、例えば、発現ベクターであることができ、とりわけ、染色体由来ベクター、エピソーム由来ベクター、およびウイルス由来ベクター、例えば、細菌プラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、酵母エピソーム由来、挿入要素由来、酵母染色体要素由来、バキュロウイルス、SV40のようなパポーバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、ニワトリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、およびレトロウイルスのようなウイルス由来のベクター、ならびにコスミドおよびファージミドのような、プラスミドおよびバクテリオファージ遺伝要素由来のもののようなそれらの組み合わせ由来のベクターを含みうる。一般的に、宿主においてポリペプチドを発現するように核酸を維持、増殖、または発現するのに適した任意のベクターがこの点に関する発現に用いられうる。
【0036】
そのようなベクターまたは核酸構築物は、適切には、核酸の発現を制御するプロモーターまたは他の制御配列を含みうる。核酸の発現を制御するプロモーターおよび他の制御配列は同定されており、当技術分野において公知である。当業者は、プロモーターまたは他の制御配列の全体を利用することが必要ではない場合があることに気づくものと思われる。最小必須制御要素のみが必要とされる場合があり、実際、そのような要素がキメラ配列または他のプロモーターを構築するために用いられうる。必須条件は、もちろん、組織および/または時間的特異性を維持することである。プロモーターは、任意の適切な公知のプロモーター、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40プロモーター、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)のもののようなレトロウイルスLTRのプロモーター、ならびにマウスメタロチオネイン-Iプロモーターのようなメタロチオネインプロモーターでありうる。プロモーターは、プロモーター活性のために含まれる最小(エンハンサー要素を含まないTATA要素のような)、例えば、CMVプロモーターの最小配列、を含みうる。好ましくは、プロモーターは核酸配列と隣接している。
【0037】
本明細書に述べられているように、本発明の核酸構築物はベクターの形をとりうる。ベクターはしばしば、それらでトランスフェクションされた(または形質転換された)細胞の選択を可能にする、および好ましくは、異種性DNAを組み入れたベクターを含む細胞の選択を可能にするように、1つまたは複数の発現マーカーを含む。適切な開始および終止シグナルは一般的に存在している。
【0038】
本発明の一つの態様は、本発明の第二局面の核酸構築物を含む細胞に関する。細胞は「宿主」細胞と呼ばれる場合があり、クローニングを含む、核酸の操作に有用である。または、細胞は、核酸の発現を得るための細胞でありうる。本発明の核酸構築物の発現に適切な宿主細胞の代表的な例は、核酸のウイルスベクターへの封入を可能にするウイルスパッケージング細胞;連鎖球菌(Streptococci)、ブドウ球菌(Staphylococci)、大腸菌(E. coli)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、および枯草菌(Bacillus Subtilis)のような細菌細胞;酵母細胞、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces Cerevisiae)およびアスペルギルス(Aspergillus)細胞、のような単細胞;ショウジョウバエ(Drosophila)S2およびヨトウガ(Spodoptera)Sf9細胞のような昆虫細胞、CHO、COS、C127、3T3、PHK.293のような動物細胞、ならびにボウズ(Bowes)メラノーマ細胞および他の適切なヒト細胞;ならびに植物細胞、例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を含む。
【0039】
発現ベクターの宿主細胞への導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAEデキストラン媒介型トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン-脂質媒介型トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング(scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染、または他の方法により影響されうる。そのよな方法は、Sambrook et al, Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 第2版, Coldspring Harbor Laboratory Press, Coldspring Harbor, N.Y. (1989)のような多くの標準実験マニュアルに記載されている。
【0040】
成熟タンパク質は、適切なプロモーターの制御下でCHO細胞のような哺乳動物細胞、酵母、細菌、または他の細胞を含む宿主細胞において発現することができる。無細胞翻訳系は、本発明の第三局面の核酸構築物由来のRNAを用いてそのようなタンパク質を産生するために用いられうる。原核動物および真核動物宿主と共に用いる適切なクローニングならびに発現ベクターは、Sambrook et al, Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 第2版, Coldspring Harbor Laboratory Press, Coldspring Harbor, N.Y. (1989)により記載されている。
【0041】
タンパク質は、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法により組換え細胞培養物から回収および精製されうる。治療のために、例えば、組換えベクターの形をとる、核酸構築物は、Sambrook et al, Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 第2版, Coldspring Harbor Laboratory Press, Coldspring Harbor, N.Y. (1989)に記載されているように、カラムクロマトグラフィーを用いるような当技術分野において公知の技術により精製されうる。
【0042】
任意で、化学的手段により合成された、または上記のように発現された結果として生じたペプチドは、分子内において、好ましくは2位および3位のセリン残基上の、1つまたは複数のヒドロキシル基でリン酸化されていてもよい。リン酸化は、ペプチドの発現の一部として、またはその後にインビトロで、行われうる。
【0043】
本発明の第四局面によると、歯の脱ミネラル化の予防および/または処置に用いる第一局面のペプチドが提供される。歯の脱ミネラル化は、歯からのヒドロキシアパタイトの消失として定義されうる。
【0044】
それゆえに、本発明のこの局面はまた、一般式(I)のペプチドの被験体への投与を含む、被験体における歯の脱ミネラル化を処置または予防する方法にまで及ぶ。代替の態様において、本発明は、歯の脱ミネラル化の処置および/または予防のための薬剤の調製における一般式(I)のペプチドの使用を提供するとして見られうる。
【0045】
本発明の第五局面によると、歯疾患の処置および/または予防に用いる一般式(I)のペプチドが提供される。歯疾患は齲蝕または歯牙浸食でありうる。
【0046】
それゆえに、この本発明の局面はまた、一般式(I)のペプチドの被験体への投与を含む、被験体における歯疾患を処置または予防する方法にまで及ぶ。代替の態様において、本発明は、歯疾患の処置および/または予防のための薬剤の調製における一般式(I)のペプチドの使用を提供するとして見られうる。
【0047】
本発明の第六局面によると、口内乾燥症候群の処置および/または予防に用いる一般式(I)のペプチドが提供される。
【0048】
薬剤(すなわち、利尿薬の使用または抗うつ薬治療)の副作用、唾液腺の唾液腺機能の喪失または機能不全(糖尿病、シェーグレン症候群−自己免疫疾患の結果として)、または頭頸部の悪性腫瘍の処置としての放射線治療のような、口内乾燥症候群の様々な理由がある(Sreebny, 1996)。それはまた、老化過程に関連した腺組織の喪失の結果として起こりうる。唾液の減少(または完全喪失)の結果として、口腔組織は、齲蝕、歯牙浸食、カンジダ症を含む粘膜炎および粘膜感染のような、感染および疾患にかなり、より罹りやすい;ならびに発語、摂食、および嚥下が困難かつ苦痛になり(Bennick and Hand, 2003)、結果として、生活の質の有意な低下を生じる。
【0049】
それゆえに、この本発明の局面はまた、一般式(I)のペプチドの被験体への投与を含む、被験体における口内乾燥症候群を処置または予防する方法にまで及ぶ。口内乾燥症候群は一般に放射線治療と関連しているため、本発明のこの局面の代替の態様は、被験体の放射線治療、例えば、被験体の頭頸部の放射線治療、の方法においてそのようなペプチドの使用までも及びうる。
【0050】
代替の態様において、本発明は、口内乾燥症候群の処置および/または予防のための薬剤の調製における一般式(I)のペプチドの使用を提供するとして見られうる。
【0051】
本発明のペプチドは、単独で、または治療用化合物、抗炎症薬、細胞毒性剤、細胞増殖抑制剤、もしくは抗生物質、のような他の化合物と組み合わせて、用いられうる。本発明において有用な核酸構築物およびタンパク質は、好ましくは、単離された形で提供され、かつ好ましくは、均一性まで精製される。
【0052】
本明細書に用いられる場合、「処置」という用語は、ヒトまたは非ヒト動物の利益になりうる任意の療法を含む。「非ヒト動物」の処置は、ウマおよびコンパニオン・アニマル(例えば、ネコおよびイヌ)を含む家畜、ならびにヒツジ科、ヤギ科、ブタ科、ウシ科、およびウマ科のメンバーを含む農場/農業動物の処置にまで及ぶ。処置は、任意の現存する状態もしくは障害にする処置でありうる、または予防でありうる(予防的処置)。処置は、遺伝性または後天性疾患の処置でありうる。処置は、急性または慢性状態の処置でありうる。好ましくは、処置は、炎症を伴った状態/障害の処置である。
【0053】
本発明はまた、ウマおよびコンパニオン・アニマル(例えば、ネコおよびイヌ)を含む家畜、ならびにヒツジ科、ブタ科、ヤギ科、ウシ科、およびウマ科のメンバーを含みうる農場動物の処置/予防のための獣医薬において適用を見出しうる。
【0054】
本発明の第七局面によると、一般式(I)のペプチドを含む薬学的組成物が提供される。
【0055】
適切には、薬学的組成物は、経口投与のために、またはコーティングを手段として、口腔内における、または歯もしくは歯肉上の局所的投与のために、製剤化されうる。薬学的組成物は、人工唾液、口腔洗浄液(口内洗浄液)、練り歯磨きまたは歯磨きクリーム、保湿剤、チューインガム、飲料、または他の口腔ヘルスケア調製物でありうる。
【0056】
この本発明の局面による人工唾液は、一般式(I)のペプチド、無機酸群Iまたは群II金属イオン塩、および水を含むことができ、任意でまた香味剤および/または保存剤を含んでもよい。
【0057】
適切には、無機酸群Iまたは群II金属イオン塩は、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、リン酸水素カリウム(K2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、チオシアン酸カリウム(KSCN)の1つまたは複数を含みうる。
【0058】
適切には、組成物は、塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)および塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O)のような塩化カルシウムを用いて製剤化されうる。
【0059】
水を用いて製剤化される場合の組成物のpHは、適切には、pH7.5〜pH7.0の範囲にあり、任意で、有効な生理学的緩衝液を用いて適切に緩衝されうる。正常な口腔pHは7.2であり、組成物はそのようなpHで製剤化されうる。
【0060】
本発明のペプチドは酸性pH値で安定である。食物または飲料が被験体により摂取される場合、口内におけるpHは低下しうる。しかしながら、本発明のペプチドは、pH5.5またはそれ未満まで下がったより低いpH値で、例えば、pH5.5〜pH4.5、または低くもpH4.3でさえも、安定である。
【0061】
さらに、齲蝕攻撃中、酸が主に乳酸(pK3.9)および酢酸(pK4.8)である場合、pHは約pH4.5まで下落すると考えられる。天然唾液の緩衝能力は、pHにおいてさらなる下落を防ぐ傾向にあるが、人工唾液においては、上記のように、適切な緩衝塩の使用が好ましい。
【0062】
現在、バイオミネラル化に関与するタンパク質は、生物活性および安定性に対する懸念により人工唾液に存在していない。本発明は、タンパク質の天然型より安定である生物活性のあるスタテリン誘導体を提供することにより、そのような問題を克服する。
【0063】
この本発明の局面に従った薬学的組成物は、抗細菌、抗ウイルス、抗真菌、鎮痛性物質のような他の薬学的活性物質を含みうる。組成物はまた、フッ化塩またはリン酸塩、例えば、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含むフッ化塩またはリン酸塩、例えば、フッ化ナトリウム(NaF)、のような薬理学的に許容される塩を含みうる。薬学的組成物は、任意の都合の良い補助剤および/または生理学的に許容される希釈剤を用いて製剤化されうる。ソルビトール、キサンタンガム、グアーガム、および/またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体などのような、他の成分もまた、組成物の「口当たり」を向上させるために存在しうる。
【0064】
口腔洗浄液は、水、食塩溶液、アルコール(エタノール)のような緩衝化した生理学的に許容される媒体、ならびにサッカリン、キシリトールを含む甘味剤、塩化ベンザルコニウム、安息香酸ナトリウムを含む保存剤、メントールを含む香味剤、リゾチーム、ラクトペルオキシダーゼ、および/またはグルコースオキシダーゼのような細菌増殖を防ぐのを助けるための酵素、界面活性剤、ラクトフェリンのような抗細菌ペプチドのような成分、加えて上記のような「口当たり」を向上させるための他の成分を用いて、要望どおり製剤化されうる。
【0065】
本発明の好ましい態様において、以下の組成物を有する人工唾液が提供される。
【0066】
人工唾液-1
適切な人工唾液は以下で構成されうる:
一般式(I)のペプチド、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、リン酸水素カリウム(K2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、香味剤、70%ソルビトール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、フッ化ナトリウム(NaF)、水。
【0067】
適切な濃度範囲は以下でありうる:
一般式(I)のペプチド 50.0〜200.0mg/l
塩化カリウム(KCl) 0.5〜2.0g/l
塩化ナトリウム(NaCl) 0.5〜1.5g/l
塩化マグネシウム(MgCl2) 0.05〜0.20g/l
塩化カルシウム(CaCl2) 0.05〜0.50g/l
リン酸水素カリウム(K2HPO4) 0.5〜1.0g/l
リン酸二水素カリウム(KH2PO4) 0.25〜1.0g/l
p-ヒドロキシ安息香酸メチル 1.25〜2.50g/l
香味剤 2.5〜5.0g/l
70%ソルビトール 35.0〜50.0g/l
カルボキシメチルセルロースナトリウム 7.0〜15.0g/l
フッ化ナトリウム(NaF) 2.5〜5.0mg/l
【0068】
人工唾液-2
適切な人工唾液は以下で構成されうる:
一般式(I)のペプチド、カルボキシメチルセルロース、ソルビトール、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)、塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O)、リン酸水素カリウム(K2HPO4)、チオシアン酸カリウム(KSCN)、水。
【0069】
適切な濃度範囲は以下でありうる:
一般式(I)のペプチド 50.0〜200.0mg/l
カルボキシメチルセルロース 5〜15g/l
ソルビトール 1〜10g/l
塩化カリウム(KCl) 1〜5g/l
塩化ナトリウム(NaCl) 0.5〜1.5g/l
塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O) 0.01〜0.10g/l
塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O) 0.1〜0.5g/l
リン酸水素カリウム(K2HPO4) 0.1〜0.5g/l
チオシアン酸カリウム(KSCN) 0.05〜0.20g/l
【0070】
本発明の代替態様において、ペプチドは、以下のとおり、練り歯磨きとして調製されうる:
一般式(I)のペプチド、抗細菌酵素またはペプチド(例えば、ラクトペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラクトフェリン、リゾチーム)、モノフルオロリン酸ナトリウム、ソルビトール、グリセリン、ピロリン酸カルシウム、ケイ酸、イソセテス-20(Isoceteth-20)、セルロースガム、香味剤、安息香酸ナトリウム、β-D-グルコース、チオシアン酸カリウム、乳酸カルシウム。
【0071】
本発明の口腔洗浄液は以下のとおり調製されうる:
一般式(I)のペプチド、抗細菌酵素またはペプチド(例えば、リゾチーム、ラクトフェリン、グルコースオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ)、水、水素化デンプン、プロピレンクリコール、ヒドロキシエチルセルロース、アロエヴェラ、香味剤、ポロキサマー(Poloxamer)407、乳酸カルシウム、グルコン酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、安息香酸、チオシアン酸カリウム。
【0072】
口腔内に用いる局所用クリームまたは保湿剤は以下のとおり調製されうる:
一般式(I)のペプチド、抗細菌酵素またはペプチド(例えば、ラクトペルオキシダーゼ、リゾチーム、グルコースオキシダーゼ、ラクトフェリン)、水素化デンプン、キシリトール、ヒドロキシエチルセルロース、グリセリルポリメタクリレート、アロエヴェラ、チオシアン酸カリウム、β-D-グルコース。
【0073】
本発明の第二およびその後の局面についての好ましい特徴は、必要な変更を加えた第一局面についてと同様である。
【0074】
目下、以下の実施例への参照を通して本発明を説明するが、それらの実施例は参照のみを目的として存在し、本発明への限定であると解釈されるべきではない。実施例において、いくつかの添付の図面が参照される。
【0075】
実施例1:脱ミネラル化に関する研究
多くの研究において、エナメル質有機不純物およびその天然の表面が脱ミネラル化率に与える影響を防ぐためにエナメル質の代わりにHApペレットを用いる(Anderson et al., 2004)。スタテリンを、唾液から十分純粋な形で単離することができた。それゆえに、スタテリンのN末端21残基断片(StN21)を、標準FastMoc合成を用いて化学合成した(Fields et al., 1990)。カゼインにおいてカルシウム結合に関与するSXEモチーフもまた、このスタテリンの21アミノ酸断片に存在する。StN21が単に半透膜としてのみ働くという可能性を排除するために、リゾチームを陰性対照として用いた。それはHAp表面へ結合することが見出されたが、HApの脱ミネラル化率に影響を及ぼさない(Poumier et al., 1996)。
【0076】
この研究の目的は、HApの脱ミネラル化率へのStN21ペプチドコーティングの影響を観察することであった。
【0077】
スタテリンのN末端と同一の21アミノ酸ペプチドは、Peptide Protein Research Ltd (UK)から購入した。それを、自動ペプチド合成機においてFastMoc化学作用を用いる標準固相合成技術を用いて純度>95%で化学合成した。化合物同一性は質量分析法により確認した。
【0078】
20重量%有孔性のヒドロキシアパタイト(HAp)(Plasma Biotal Ltd, UK)を、Microslice 2カッター(Malvern Instruments Ltd.)を用いてスライスして2mm厚の3×3mmブロックとした。1側面を除くブロックの全表面を耐酸性マニキュア液でコーティングした。10個のHApブロックを、HApに関して飽和した溶液へ入れ、24時間、平衡させた。平衡後、4個のHApブロックを、改変緩衝液(100mmol-1 NaCl、40mmol-1 KCl、4.3 mmol-1 Na2HPO4、および1.4mmol-1 KH2PO4、pH7.4)に溶解した4つの異なる濃度のStN21ペプチド0.5mlへ24時間、曝した。StN21ペプチドの濃度は、0.75、1.13、1.88、および3.76×10-4moll-1であった。陰性対照として、1個のHApペレットを、0.11×10-4moll-1の濃度でリゾチームを含む溶液0.5mlへ入れた。
【0079】
走査型マイクロX線写真術(scanning microradiography)(SMR)は、エナメル質およびHApの再ミネラル化および脱ミネラル化中のミネラル質量における非常に微妙な変化を観察するための技術である。それは、検体への破壊無しに、最高1000時間までの観察時間を可能にする。また、条件を改変することができ、試料への適用された改変の効果をモニターできる。SMR(Anderson et al., 2004)は、15μm X線ビームの強度が検体を通過することにより減衰し、透過光子がX線検出器によりカウントされる、X線光子カウンティング技術である。図1は、SMRセルおよび循環溶液を有する概略的スキャナーステージを示し、図3はSMRの写真を示す。
【0080】
HApブロックをSMRセルのウェルに入れた(図2)。各SMRセルは、タンパク質でコーティングされた1個のHApブロックおよび対照としての1個を含んだ。追加の対照として、1個のSMRセルにおいて、2個の非コーティングHApブロックを1つのSMRセルに置いた。SMRセルの貯蔵所は約1.2mlであり、溶液は、HApブロックを通過して0.4ml min-1で循環している。
【0081】
脱ミネラル化溶液は、1moll-1 NaOHでpH4.5へ緩衝させた0.1moll-1酢酸;1mmoll-1カルシウムイオンおよび0.6mmoll-1リン酸イオンである。
【0082】
SMRは、各ウェルにおける2ラインに沿って10μm離れた12個の位置におけるミネラル質量の変化をモニターするために用いられた。スキャニング時間は位置あたり30秒であった。観察の全期間は3週間であった。各位置におけるミネラル変化率は、線形最小二乗フィッティングにより計算された。
【0083】
結果
図4は、2つの試料についての各位置におけるHAp(RDHAp)の脱ミネラル化率を示し、一方は対照であり、他方はStN21ペプチドでコーティングされている。各棒は、スキャニングの単一位置におけるRDHApを表す。
【0084】
コーティング化HApのRDHApは、スキャニングの各位置において対照より有意に低い。ミネラル変化の平均率は、各試料について計算され、図5および図6に示されている。
【0085】
対照および陰性対照のRDHApにおいて差はない。StN21ペプチドでコーティングされたHApのRDHApは、対照と比較して有意に低い。しかしながら、異なる濃度のStN21でコーティングされた試料の間でのRDHApにおいて有意差を観察することができないが、増加するStN21濃度でのRDHApの減少の傾向は存在する(StN21濃度0.75、1.13、1.88、および3.76×10-4moll-1において、それぞれ、2.2、1.9、1.7、および1.8×10-5 g cm-2 h-1)。
【0086】
図5および図6は、対照と比較した、StN21でコーティングされたHApブロックのRDHApにおける有意な減少を示す。RDHApへのStN21ペプチドのこの効果は、HApの表面上の結合したタンパク質の存在または溶解の原動力へのその影響のいずれかにより説明される可能性がある。RDHApの減少は、単に、HAp表面上に結合したタンパク質のせいだけではない;図5は、リゾチームでコーティングされたHApブロック(陰性対照)が非コーティング化(対照)ブロックと非常に類似した結果を生じたことを示す。リゾチームは、HAp表面に結合することが知られているが(Poumier et al., 1996)、RDHApに影響を及ぼさない。エナメル質表面に結合した場合、スタテリンは、pHにおける変化により立体構造変化を起こし、細胞外エナメル質液におけるカルシウム濃度を制御する時のエナメル質マトリックスタンパク質と類似して、結合したCa2+を放出する可能性がある(Yamakoshi et al., 2001)。それゆえに、エナメル質表面の近くでCa2+濃度を増加させることにより、およびバルク溶液への脱ミネラル化により放出されたCa2+イオンの拡散を防ぐ半透膜として、スタテリンの効果は、2倍でありうる:。これは、溶解への原動力がその潜在能力を喪失するようにさせ、その結果として、RDHApを減少させる。この機構は、エナメル質周囲の唾液を過飽和した状態にし、エナメル質の溶解を防ぐものと思われる(Reynolds, 1997)。
【0087】
しかしながら、StN21の濃度は同じ効果を示した。図5に示されたStN21の濃度は、唾液に見出されるスタテリンの平均濃度(0.367×10-4moll-1)より高いが、図6においては、濃度は唾液に見出されるのと、等しいまたはそれ未満である。次の段階は、StN21のより低い濃度を調製し、RDHApへの同じ効果をまだなお示す最も低い濃度を見出すことである。
【0088】
25mg/リットルと同等の9.4×10-6molにおいて、StN21ペプチドは効果があった。
【0089】
実施例2:人工唾液調製物
本発明のペプチドを含む人工唾液調製物を以下のとおり作製しうる。ペプチドStN21は21アミノ酸からなるスタテリンのN末端断片である。
【0090】
人工唾液調製物-1
ペプチドStN21 400.0mg
KCl 2.498g
NaCl 3.462g
MgCl2 0.235g
CaCl2 0.665g
K2HPO4 3.213g
KH2PO4 1.304g
p-ヒドロキシ安息香酸メチル 8g
香味剤 16g
70%ソルビトール 171g
Na-カルボキシメチルセルロース 40g
NaF 17.68mg
水 4L
【0091】
人工唾液調製物-2
ペプチドStN21 100.0mg
カルボキシメチルセルロース 10g
ソルビトール 3g
KCl 1.2g
NaCl 0.843g
MgCl2・6H2O 0.051g
CaCl2・2H2O 0.146g
K2HPO4 0.342g
KSCN 0.1g
水 1L
【0092】
実施例3:StN21ペプチドの活性
StN21の活性は実験系において以下のとおり試験された。
【0093】
STN21をFmoc固体合成を用いて合成した。ヒドロキシアパタイト(HAp)ペレットを、5×5×2mmブロックへ切断し、1つの表面を露出したままにして、耐酸性ワニスでコーティングし、STN21溶液(1.88×10-4moll-1)に3分間、浸漬した。ペレットを、その後、走査型マイクロX線写真術(SMR)セルに配置した。脱ミネラル化溶液(0.1moll-1酢酸、pH4.5)を3週間、循環させた(0.4ml min-1)。
【0094】
5個の試料を、さらに1日2回、3分間のSTN21溶液における浸漬に曝した。ミネラル質量における変化をSMRを用いて28日間、測定した。
【0095】
1回の3分間の時間のみSTN21でコーティングされたHApペレットは、非コーティング化対照と比較して脱ミネラル化率において17%減少を示した。StN21ペプチドの繰り返し塗布に曝された試料は、脱ミネラル化率において45%減少を示した。
【0096】
StN21の繰り返し塗布は、結果として、脱ミネラル化条件下で維持されたHAp試料における脱ミネラル化率の有意な低下を生じた。このインビトロデータは、エナメル質齲蝕および浸食の管理への低侵襲性アプローチのさらなる開発の一部として、齲蝕およびエナメル質浸食の予防ならびに初期処置のためのインビボでのStN21の使用を調べる価値があることを強く示唆している。
【0097】
結果は図7および図8に示されている。図7は、異なる時間間隔後の効果を示し、図8は、5個の繰り返された1日2回の3分間曝露の効果を(比較用の24時間と共に)示す。
【0098】
ペプチドの繰り返し塗布は、それゆえに、24時間に渡る連続的塗布と同じくらい効果的である。
【0099】
参考文献


【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】SMRセルおよび循環溶液を有する概略的スキャナーステージを示す。
【図2】SMRセルの概略図を示す。
【図3】SMR:X線源、検出器、SMRセルを有するSMRステージの写真を示す。
【図4】2つの試料についての各位置におけるHAp(RDHAp)の脱ミネラル化率を示し、一方は対照であり、他方はStN21ペプチドでコーティングされている。各棒は、スキャニングの単一位置におけるRDHApを表す。
【図5】非コーティング対照およびリゾチーム(陰性対照)と比較した、範囲3.76〜0.75×10-4moll-1のStN21でコーティングされたHApの脱ミネラル化の平均率を示す。
【図6】より低い濃度のStN21を用いた、対照と比較した、範囲0.376〜0.094×10-4moll-1のStN21でコーティングされたHApの脱ミネラル化の平均率を示す。
【図7】STN21(1.88×10-4moll-1の濃度における)の曝露時間によるヒドロキシアパタイト(HAp)の脱ミネラル化率におけるパーセンテージ(%)減少を示す。
【図8】「リフレッシュメント処置」として1日2回繰り返された、STN21(1.88×10-4moll-1の濃度における)の3分間曝露後のヒドロキシアパタイト(HAp)の脱ミネラル化率におけるパーセンテージ(%)減少の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のペプチド:

式中、
X1、X2、X3、X4、またはX5がそれぞれ独立して、セリン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸からなる群より選択される酸性アミノ酸を表し、
X6が、リシン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群より選択される塩基性アミノ酸を表し、
X7またはX8が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X9またはX10が、それぞれ独立して、リシン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群より選択される塩基性アミノ酸を表し、
X11またはX12が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X13が、好ましくはリシン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群より選択される、塩基性アミノ酸を表し、
X14またはX15が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X16が、チロシンを表し、
X17が、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、
X18が、チロシンを表し、
X19またはX20が、それぞれ独立して、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、プロリン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表し、かつ
X21が、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸を表す。
【請求項2】
配列

を有するペプチドであって、式中、6位、9位、10位、または13位におけるアミノ酸が独立して、アルギニンまたはリシンのいずれかであり、16位、18位、または21位におけるアミノ酸がそれぞれチロシンである、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
X7、X8、およびX11が、それぞれ独立して、フェニルアラニン、ロイシン、またはイソロイシンを表し、
X12が、グリシンを表し、
X14が、フェニルアラニンを表し、
X15およびX17が、それぞれ独立して、グリシンを表し、
X19が、グリシンを表し、
X20が、プロリンを表し、かつ
X21が、チロシンを表す、請求項1または2記載のペプチド。
【請求項4】
以下からなる群

より選択される、請求項1記載のペプチド。
【請求項5】
リン酸化されている、請求項1〜4のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項6】
以下からなる群

より選択される、請求項5記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドをコードする、核酸配列。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドの調製のための方法であって、連続したアミノ酸残基を共に連結する段階を含む方法。
【請求項9】
一般式(I)のペプチドを含む、薬学的組成物。
【請求項10】
人工唾液、口腔洗浄液(口内洗浄液)、練り歯磨きもしくは歯磨きクリーム、保湿剤、チューインガム、または飲料である、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
歯の脱ミネラル化の予防および/または処置に用いるための、請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドの被験体への投与を含む、被験体における歯の脱ミネラル化を処置または予防する方法。
【請求項13】
歯の脱ミネラル化の処置および/または予防のための薬剤の調製における、請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドの使用。
【請求項14】
歯疾患の処置および/または予防に用いるための、請求項1〜4のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチド。
【請求項15】
歯疾患が齲蝕である、請求項14記載の使用のためのペプチド。
【請求項16】
歯疾患が歯牙浸食である、請求項14記載の使用のためのペプチド。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドの被験体への投与を含む、被験体における歯疾患を処置または予防する方法。
【請求項18】
歯疾患の処置および/または予防のための薬剤の調製における請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドの使用。
【請求項19】
口内乾燥症候群の処置および/または予防に用いるための、請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチド。
【請求項20】
請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドの被験体への投与を含む、被験体における口内乾燥症候群を処置または予防する方法。
【請求項21】
口内乾燥症候群の処置および/または予防のための薬剤の調製における、請求項1〜6のいずれか一項記載の一般式(I)のペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−534485(P2008−534485A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502483(P2008−502483)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001085
【国際公開番号】WO2006/100501
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(501008923)クイーン メアリー アンド ウェストフィールド カレッジ (14)
【氏名又は名称原語表記】Queen Mary and Westfield College
【住所又は居所原語表記】Mile End Road,London,U.K.
【Fターム(参考)】