説明

スチレンフォームに使用するための難燃剤

【課題】スチレンフォーム用難燃剤を提供する。
【解決手段】難燃剤は芳香族臭化物及びオレフィンの両方を含む。オレフィンは内部オレフィンである。望ましい難燃剤は、式(I)[式中、Rは、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;Rは、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;R〜R12は、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンであり;さらに、式(I)の化合物がトランス異性体少なくとも50%の濃度で存在する];式(II)[式中、Rは、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;Rは、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;R〜Rは、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである];並びに式(III)[式中、Rは、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;Rは、ハロゲン、H、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;R〜Rは、H、又はハロゲンである]から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族臭化物及びオレフィンの両方を含むスチレン樹脂用難燃剤である。より具体的には、当該オレフィンは、末端オレフィンではなく内部オレフィンを含む。
【背景技術】
【0002】
スチレン樹脂又はポリスチレンは周知の合成有機重合体である。スチレン樹脂は熱可塑性プラスチックであり、優れた機械特性並びに良好な耐薬品性を有する。スチレンは、多くの用途において固体ポリマーとして有用とされるその特性により、発泡ポリマーとしても非常に望ましいものとなる。
【0003】
種々の用途のスチレンフォームを調製する多くのプロセスが過去40年にわたって開発されてきた。2つの特に有用なプロセスが、押出法ポリスチレンフォーム(XPS)及び発泡ポリスチレンフォーム(EPS)を作るために開発された。押出法ポリスチレンフォーム及び発泡ポリスチレンフォームは、産業界で種々の商業用途に使用されている。これらの用途の多くには、特定の標準規格を満たすため、フォームが難燃性であることが求められている。
【0004】
難燃性ポリマー樹脂に最も一般的に使用される材料はハロゲン化有機化合物であり、非常に有効な難燃剤であることが文献において周知である。臭素化有機化合物はスチレン樹脂及びフォームに広く使用され、耐着火性を与える。
【0005】
ハロ芳香族アリルエーテルは発泡ポリスチレンフォームと共に使用するのに許容可能な難燃剤であることが知られている。公知の例において、アリルエーテルは、典型的には、内部オレフィンではなく末端オレフィンである。Golborn及びTaylorは、これらの系を研究し、難燃剤作用のメカニズムを提案した。しかしながら、彼らは、内部オレフィンを用いた例は報告しておらず、また、そのメカニズムが内部オレフィンを含む化合物に適用可能であるかどうか仮定もしていない。
【0006】
末端オレフィンを含むアリルエーテルは、発泡ポリスチレンフォームなどのスチレンフォームにおいて難燃活性を有することが知られている。しかしながら、これらの化合物は、発泡ポリスチレンフォームでの用途では広く使用されている訳ではない。末端オレフィンアリルエーテル化合物が許容可能でない主な理由は、その反応性及び発泡ポリスチレンフォームを調製する方法である。発泡ポリスチレンフォームは、最も一般的には、スチレンモノマーの一段重合によって調製される。この方法では、難燃剤及び他の添加剤を反応前にスチレンモノマーに添加し、次いで、スチレンを水中で重合してビーズを形成する。難燃剤を含む添加剤は重合中に存在し、したがってビーズ内に包含される。
【0007】
スチレンモノマーを除くオレフィンは、しばしば、重合中に連鎖移動剤として作用し、その結果、より低い分子量のポリスチレンを生成する。分子量のより低いポリスチレンは、典型的にはポリスチレンの物性の低下を示す。理論に束縛されることを望まないが、末端オレフィンは接近がより容易に可能なので、連鎖移動剤として重合反応に関与するものと推定される。内部オレフィンは、立体障害がより大きく、成長中のポリマー鎖に近づきにくいため、連鎖移動剤として作用しにくいと思われる。したがって、末端オレフィンを含む公知のアリルエーテルは、一般に、この用途に適した難燃剤と考えられていない。
【0008】
化合物1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテン及びその難燃活性は、米国特許第2,488,499号及び第3,787,506号において確認されている。しかし、米国特許第3,787,506号には、この化合物は熱安定性が低いため、スチレン用途での使用に適さないと記載されている。この化合物は、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテン又はトランス−1,4−ジクロロ−2−ブテンのいずれかを用いて調製することができる。この立体化学は反応を通じて維持され、結果として生成物中にシス/トランス異性体を生じる。これらの特許には合成に使用されている具体的な異性体についての言及はなく、また、その発明者らが、異なる異性体は熱安定性などの特性も異なることを認識していることの示唆も全くない。
【0009】
特にヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)は、スチレンポリマー一般、より具体的にはスチレンフォームに適した難燃剤であることが見出された。HBCDは非常に高い熱安定性を有する高臭素化脂肪族化合物である。HBCDの高い熱安定性及び臭素含量により、ポリマー特性への影響を最小限にしつつ、低い負荷レベルで優れた性能がもたらされる。このため、HBCDは難燃加工スチレンフォームとの最適な材料となった。HBCDは、低濃度での高い難燃効果、及び高い熱安定性という特に重要な特性を有する。
【0010】
他の難燃剤が提案され、スチレンフォームにおいて試験された。代表例は、以下の特許文献:DE1469819、DE2813872、米国特許第4272583号、DE19630925、GB1182964、FR2138745、JP53008663及びJP57038831に見出すことができる。大部分において、最も効果的な公知の難燃剤は芳香族及び/又は脂肪族臭化物を含む。
【0011】
当業界においては、芳香族臭化物及びアリルエーテルの両方を含む化合物に特に関心が持たれている。この組合せの2つの例は、テトラブロモビスフェノールAアリルエーテル及びトリブロモフェノールアリルエーテルである。しかし、公知例であるこれら2つの化合物は、HBCDの代替物として満足できるものではない。これらの2つの化合物の示す熱安定性、効果及び費用は満足できるものではない。これらの2つの化合物はまた、機械特性の低下及び分子量の低下も示すと同時に、健康及び環境に対する影響に関する懸念もある。
【0012】
近年、HBCDを含むいくつかの難燃剤の健康及び環境への影響に関心が持たれている。科学的研究はヒトの健康又は環境への重大な危険性を必ずしも示してはいないが、種々の規制当局によって検討が進められており、HBCDの使用が低減する可能性がある。これらの当局がHBCDの使用を制限する場合、押出法ポリスチレンフォーム及び発泡ポリスチレンフォームの製造業者は、代替難燃剤を選択することを求められるかもしれず、多数の業者が何らかの規制指令以前に代替品を採用することがあり得る。このため、より環境に優しく且つHBCDの全ての性能特性を維持する、HBCDに代わる難燃剤に対する需要が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、芳香族臭化物及びオレフィンの両方を含む難燃剤である。そのオレフィンは内部オレフィンである。
【0014】
かかる難燃剤化合物は、以下の化合物の少なくとも1つからなる群より選択される一種であることが望ましい。
【0015】
第1の化合物は式Iによって表され、式中、式Iの化合物はトランス異性体少なくとも50%の濃度で存在する:
【化1】


は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
〜R12は、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである。
【0016】
第2の化合物は、式IIによって表される。
【化2】


は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
〜Rは、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである。
【0017】
第3の化合物は、式IIIによって表される。
【化3】


は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
は、ハロゲン、H、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
〜Rは、H、又はハロゲンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、芳香族臭化物及びオレフィンの両方を含む難燃剤である。そのオレフィンは、末端オレフィンではなく内部オレフィンである。内部オレフィンは、本発明に望ましい熱安定性、効果及びコストを与える。本発明はまた望ましい機械特性を示すが、分子量の低下は最小限とし、且つ健康及び環境への影響も最小限とする。
【0019】
かかる難燃剤化合物は、以下の化合物の少なくとも1つからなる群より選択される一種であることが望ましい。第1の化合物は、式Iによって表され、式Iの化合物はトランス異性体少なくとも50%の濃度で存在する:
【化4】


は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
〜R12は、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである。
【0020】
第2の化合物は、式IIによって表される。
【化5】


は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
〜Rは、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである。
【0021】
第3の化合物は、式IIIによって表される。
【化6】


は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
は、ハロゲン、H、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
〜Rは、H、又はハロゲンである。
【0022】
本発明の化合物は、オレフィンが臭素化芳香環(単数又は複数)とともにアリルエーテルを形成している化合物である。難燃剤として使用されるハロ芳香族アリルエーテルの公知の例では、そのアリルエーテルは内部オレフィンではなく末端オレフィンを有する。内部オレフィンを有する化合物に予想されるのは、内部オレフィンによって引き起こされる立体障害によって効果が損なわれることである。この予想は、本発明の好ましい化合物に特に関連がある。したがって、本発明の化合物が末端アリルエーテルを含む分子と少なくとも同程度に効果的であることは驚くべきことである。
【0023】
内部オレフィンを有する特に望ましい難燃剤化合物を表1に提示する。表1のオレフィン含有化合物は、本発明の望ましい化合物からの選抜である。オレフィン不含化合物を比較のために示す。
表1
【表1】

【0024】
限界酸素指数(LOI)試験は、スクリーニング目的において難燃効果の有用な指標である。この試験は、難燃性スチレンフォームなどの材料の燃焼を継続するのに必要とされる、雰囲気中の酸素の割合(パーセンテージ)を測定するものである。LOIが高いほど、燃焼を引き起こすためには雰囲気が酸素を多く含む必要がある。したがって、難燃性材料同士を比較するにあたり、より高いLOIを有する物品は、所与の濃度すなわち「負荷レベル」でより効果的な難燃活性を有すると言うことができる。表1は、化合物中にアリルエーテルオレフィンが存在すると、相当する構造でオレフィンを有さない場合よりも高いLOIが得られることを示す。特に、表1は、内部オレフィンが高いLOI値を与えることを示す。
【0025】
熱安定性は、難燃剤化合物の比較のためのもう1つの重要な特徴である。典型的には、熱安定性は、熱重量分析(TGA)を用いて動的モードで測定する。この試験の値は、試験片が初期重量の5%減少する温度として報告される。
【0026】
スチレンフォーム用難燃剤の候補をスクリーニングする目的では、発泡ポリスチレンフォームとの最終使用においてHBCDに匹敵すると認められるためには、5phrでLOIが26を超え、かつ、TGAで測定した5%重量減少温度が215℃を超えることが望ましい。押出法ポリスチレンフォームでは、HBCDに匹敵すると認められるためには、TGAで測定した5%重量減少温度が240℃を超えることが望ましい。
【0027】
26を超えるLOIを有する表1の化合物は、発泡ポリスチレンフォームでの用途に許容可能であることが見出された。中でも、特に好ましい化合物は、1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテンである。この化合物及びその難燃活性は、米国特許第2,488,499号及び第3,787,506号において確認されている。しかし、米国特許第3,787,506号には、この化合物が低い熱安定性によりスチレン用途での使用に適さないことが記載されている。
【0028】
化合物1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテンは、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテン又はトランス−1,4−ジクロロ−2−ブテンのいずれかを用いて調製することができる。この立体化学は反応中、維持され、生成物中にシス/トランス異性体を生じる。本発明者らは、両異性体が異なる熱安定性を有すること、及びトランス異性体がそのより良好な熱安定性のために好ましいことを見出した。本発明者らは、ポリスチレン発泡体に難燃性を付与するために望ましいこの化合物の活性レベルが、この化合物の少なくとも50%がトランス異性体で存在する場合に得られることを見出した。当該活性は、この化合物がトランス異性体少なくとも80%という好ましい濃度で存在する場合に好適に向上する。
【0029】
本発明の化合物は、発泡ポリスチレンフォームでの用途に特に望ましい。しかし、これらの化合物は、押出法ポリスチレンフォームでの用途にも有用である。押出法ポリスチレンフォームでの用途は、発泡ポリスチレンフォームでの用途よりも若干高い熱安定性を必要とする。
【0030】
押出法ポリスチレンフォームでの用途に用いる化合物の熱安定性は、TGAによって求められる5%重量減少温度が240℃を超えることが望ましい。引火性スクリーニングの条件は、26を超えるLOIを有することが望ましい点において、発泡ポリスチレンフォームと同様である。本発明者らは、好ましい1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテンから誘導される新規化合物が押出法ポリスチレンフォームでの用途に対する熱安定性及びLOI条件の両方を満たすことを見出した。その化合物は以下の通りである。
【化7】

【0031】
この化合物及び上記化合物の内部オレフィンへの臭素の付加は、出発材料と比較して熱安定性を高める。したがって、式IVで表されるそのような誘導体化合物は、押出法ポリスチレンフォーム及び発泡ポリスチレンフォームに良好な性能を示す。
【化8】


は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含む。
〜R12は、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである。
13〜R14は、H又はBrである。
【実施例】
【0032】
(例1)
1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテン
例1は、本発明の好ましい化合物の合成を説明するものである。この化合物は、1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテンである。本例は、化合物の熱安定性も説明する。
【0033】
5Lの四つ口フラスコにトリブロモフェノール(590.0g、1.783mol)、イソプロパノール(1500g)、水(1300g)及び50%NaOH(150.0g、1.875mol)を投入した。フラスコに機械的撹拌、凝縮器、加熱マントル、及び温度プローブを取り付けた。混合物を、およそ1時間かけて70℃に加熱した。化合物1,4−ジクロロ−2−ブテン(トランス及びシスの混合物、111.5g、0.892mol)を添加すると、2分以内に沈殿が生成した。当該材料は最終的には濃厚スラリーを形成し、これを2時間撹拌した。スラリーをフリット漏斗で熱時濾過(filtered hot)し、水(2×1L)で洗浄し、90℃のオーブンで14〜16時間乾燥させて白色粉末(587.3g、0.8229mol、92%)を得た。
【0034】
2つの異性体の熱安定性特性を試験するために、TGA実験を用いた。この場合は、サンプルを特定の時間、一定温度に保持する等温TGAを使用した。保持時間の終わる時に残存する重量で、異性体の相対的な熱安定性の指標が与えられる。残存重量が大きいほど、材料はより熱的に安定である。表2は、シス異性体若しくはトランス異性体、又はシス異性体とトランス異性体との混合物のどれかを含む1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテンのサンプルでの実験の結果を示す。これらの材料は、シス又はトランス1,4−ジクロロ−2−ブテンから作った。
表2
【表2】

【0035】
表2のデータは、トランス異性体が本質的にシス異性体よりも熱的に安定であることを明らかに示す。さらに、約90%を超えるトランス異性体を含むサンプルは、相当に熱的に安定であり、且つ発泡ポリスチレンフォームでの用途に許容可能である材料を生成する。
【0036】
(例2)
1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2,3−ジブロモブタン
例2は、本発明の望ましい化合物の合成を説明するものである。この化合物は、1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2,3−ジブロモブタンである。
【0037】
500mLの四つ口フラスコに1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテン(37.8g、0.0529mol)及び1,2−ジクロロエタン(160g)を投入した。フラスコに機械的撹拌、凝縮器、加熱マントル、温度プローブ、及び臭素(10.7g、0.0669mol)の滴下漏斗を取り付けた。混合物を、およそ30分かけて50℃に加熱した。臭素をおよそ30分かけて滴加し、2.5時間撹拌した。臭素の追加分量を加え(0.7g、0.004mol)、さらに1時間撹拌した。次いで反応系を周囲温度まで冷却し、MeOH(50mL)を加えた。スラリーをフリットで濾過し、MeOH(100mL)で洗浄した。次いで材料を90℃で14〜16時間乾燥させて灰白色の粉末(33.9g、0.0388mol、73%)を得た。得られた化合物は、OBr=70.5%、TGAの5%重量減少温度276℃、及び等温TGA(220℃で30分)での95.6%の重量保持率を有した。
【0038】
(例3)
1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2,3−ジブロモブタン
例3は、本発明の望ましい化合物の合成を説明するものである。この化合物は、1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2,3−ジブロモブタンである。
【0039】
500mLの四つ口フラスコに1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテン(40.0g、0.0560mol)、臭素(12.5g、0.078mol)、及びジクロロエタン(160g)を投入した。反応系を40℃で4時間加熱した。混合物を周囲温度に冷却し、過剰の臭素をヒドラジン(水中35%、およそ1〜2mL)を用いて中和した。溶液を布フィルタによって加圧濾過し(20psi)、水(50g)で洗浄した。固体を95〜100℃で一晩乾燥させて白色粉末(38.5g、78%)を得た。得られた化合物は、OBr71.7%、5%TGA減少温度279℃、等温TGA(220℃で30分)での95.6%の重量保持率、及びLOI(PS中Br2.0%)25.5を有した。
【0040】
(例4)
ハンドキャストフォームの調製
典型的な実験室ハンドキャストフォームを以下に列挙する製剤を用いてLOI測定のために調製した。実験室調製により、同程度の密度を有するフォームを得た。次いでこれらのフォームをASTM D2863−00及びUL−94によって評価した。ASTM D2863−00は限界酸素指数(LOI)を求めるのに用いられる試験方法である。
【0041】
ポリスチレンを1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2,3−ジブロモブタンとともに押し出し、ビーズを生成し、そのビーズからLOIバーを圧縮成形した。以下の条件を18mm単軸押出機に用いた:
押出機温度
ゾーン1=160℃
ゾーン2=220℃
ゾーン3=220℃
ダイ=220℃
押出機速度=60rpm
押出機amp=40〜60
溶融圧力=940〜1160psi
【0042】
ペレットをバーへ圧縮成形した。次いでバーをATSM D2863−00及びUL−94によって評価した。結果を表3に提示する。
表3
【表3】

【0043】
表4
製剤
【表4】

【0044】
(例5)
HBCDとの比較
例5は、HBCD、1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2−ブテンとテトラブロモビスフェノールAビスアリルエーテルを比較する溶液重合実験を行ったものである。テトラブロモビスフェノールAビスアリルエーテルは末端オレフィンを含む。
【0045】
上述のように、末端オレフィンを有するアリルエーテルは、発泡ポリスチレンフォームなどのスチレンフォームにおいて難燃活性を有することが当該技術分野において知られている。しかし、これらの化合物は、発泡ポリスチレンフォームでの用途において広く用いられている訳ではない。末端オレフィンは、より容易に接近可能であり重合反応における連鎖移動剤として関与するものと理解されている。内部オレフィンは、より立体障害が大きく、成長中のポリマー鎖には近づきにくいため、連鎖移動剤として作用しにくいと理解されている。
【0046】
結果を表5に示す。
表5
【表5】


表5のデータは、テトラブロモビスフェノールAビスアリルエーテルを難燃剤として用いるときポリスチレンの分子量が低くなることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】


を含む難燃剤化合物であって、
式中:
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
〜R12は、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンであり;さらに、前記式Iの化合物がトランス異性体少なくとも50%の濃度で存在する、難燃剤化合物。
【請求項2】
前記濃度が前記トランス異性体少なくとも80%である、請求項1に記載の難燃剤化合物。
【請求項3】
前記式Iの化合物が:
【化2】


である、請求項1に記載の難燃剤化合物。
【請求項4】
前記式Iの化合物が:
【化3】


である、請求項2に記載の難燃剤化合物。
【請求項5】
発泡ポリスチレンフォームを更に含む、請求項4に記載の難燃剤化合物。
【請求項6】
式II:
【化4】


[式中:
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
〜Rは、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである];及び
式III:
【化5】


[式中:
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
は、ハロゲン、H、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
〜Rは、H、又はハロゲンである]
からなる群より選択される一種である式を含む難燃剤化合物。
【請求項7】
前記式IIの化合物が:
【化6】


である、請求項6に記載の難燃剤化合物。
【請求項8】
前記式IIの化合物が:
【化7】


である、請求項6に記載の難燃剤化合物。
【請求項9】
発泡ポリスチレンフォームを更に含む、請求項6に記載の難燃剤化合物。
【請求項10】
スチレンポリマー;並びに
式I:
【化8】


[式中:
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
〜R12は、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンであり;さらに、式Iの化合物がトランス異性体少なくとも50%の濃度で存在する];
式II:
【化9】


[式中:
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
〜Rは、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンである];及び
式III:
【化10】


[式中:
は、ハロゲン、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
は、ハロゲン、H、又はC〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
〜Rは、H、又はハロゲンである]
からなる群より選択される一種である難燃剤化合物
を含む難燃性フォーム。
【請求項11】
前記難燃剤化合物の少なくとも80%が、1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−トランス−2−ブテンである、請求項10に記載の難燃性フォーム。
【請求項12】
前記ポリスチレンフォームが発泡ポリスチレンフォームである、請求項10に記載の難燃性フォーム。
【請求項13】
ポリスチレンフォーム;及び
式IV:
【化11】


[式中:
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
は、C〜Cであり、ヘテロ原子又はオレフィンを任意選択的に含み;
〜R12は、H、(ヘテロ原子を任意選択的に含む)C〜C、又はハロゲンであり;
13〜R14は、H又はBrである]
を有する難燃剤化合物
を含む難燃性フォーム。
【請求項14】
前記難燃剤化合物が、1,4−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−2,3−ジブロモブタンである、請求項13に記載の難燃性フォーム。
【請求項15】
前記ポリスチレンフォームが押出法ポリスチレンフォームである、請求項13に記載の難燃性フォーム。
【請求項16】
前記ポリスチレンフォームが押出法ポリスチレンフォームである、請求項14に記載の難燃性フォーム。

【公開番号】特開2012−193375(P2012−193375A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−146392(P2012−146392)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【分割の表示】特願2009−552664(P2009−552664)の分割
【原出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(508201282)ケムチュア コーポレイション (69)
【Fターム(参考)】