説明

スチレン系共重合体の製造方法

【課題】 不溶分が無く、透明性に優れ、黄色度の低いスチレン系共重合体が得られる製造方法を提供すること。
【解決手段】 特定の構造単位を有するスチレン系共重合体の製造方法であって、
スチレンおよびα−メチルスチレンから選ばれる少なくとも一種と、下記式(4)で表される単量体(4)とを、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、またはアニオン重合開始剤の存在下で共重合反応させた後、酸の存在下で単量体(4)に由来する構造単位中の−OR14で表される基を−OH基に変換し、その後、塩基性物質を添加して系内の酸と反応させる工程を含むことを特徴とする、スチレン系共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール系水酸基を有するスチレン系共重合体の製造方法に関する。詳しくは、透明性に優れ、黄色度の低いスチレン系共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、従来様々な分野において使用されているが、フィルム化すると、波長が長波長になるにつれて透過光の位相差の絶対値が大きくなる特性、すなわち、逆波長分散性を示す性質を有している点が注目され、近年、他の光学透明樹脂と積層したりブレンドしたりすることにより、任意の特性を有する光学フィルムを得る検討がなされている。しかしながら、スチレン系樹脂と他の樹脂とをブレンドしても、ほとんどの場合相分離が生じるために使用できず、相分離させないためには特定の溶剤を選定しなければならない。そのために溶剤の乾燥時間がかかり、生産性が極端に低下し、透明度の高いフィルムを容易に得ることが困難であるという問題があった。
【0003】
このような状況において、本願出願人は、水酸基を有する構造単位を特定量含むスチレン系共重合体と、ノルボルネン系重合体とを含む樹脂組成物が、相溶性に優れ、相分離を生じることなく容易に光学フィルムを形成でき、しかも位相差フィルムとした場合には逆波長分散性を示すことを見出し、既に提案している(特願2007−79670号)。しかしながらこのような樹脂組成物では、スチレン系共重合体由来の着色を生じやすく、透明性に優れたフィルムが得にくいという問題があった。また、不溶分が生じやすいという問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、スチレン系共重合体の製造方法であって、不溶分が無く、透明性に優れ、黄色度の低いスチレン系共重合体が得られる製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の〔1〕〜〔7〕の発明に関する。
〔1〕 下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有するスチレン系共重合体の製造方法であって、
スチレンおよびα−メチルスチレンから選ばれる少なくとも一種と、下記式(4)で表される単量体(4)とを、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、またはアニオン重合開始剤の存在下で共重合反応させた後、酸の存在下で単量体(4)に由来する構造単位中の−OR14で表される基を−OH基に変換し、その後、塩基性物質を添加して系内の酸と反応させる工程を含むことを特徴とする、スチレン系共重合体の製造方法。
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)および式(2)中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R1は水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜10の炭化水素基;または極性基を示す。)
【0008】
【化2】

【0009】
(式(4)中、RおよびR1は式(1)および式(2)において定義の通りであり、R14
はアセチル基、t−ブチル基、t−ブトキシカルボニル基、−CH(OR15)(R16)、
または−SiR153で表される基のいずれかを示す。R15およびR16はそれぞれ独立に炭
素数1〜6のアルキル基、またはR15とR16とが相互に連結して一体化した炭素数1〜6
の炭化水素基を示す。)
【0010】
〔2〕 塩基性物質が、金属水酸化物、金属アルコキシド類、カルボン酸塩類、フェノール塩類、炭酸塩類およびアミン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする〔1〕に記載のスチレン系共重合体の製造方法。
〔3〕 塩基性物質が、金属水酸化物、金属アルコキシド類、カルボン酸塩類、フェノール塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種であって、その対カチオンが、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムの何れかであることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載のスチレン系共重合体の製造方法。
〔4〕 −OR14で表される基を−OH基に変換する工程で用いた酸のモル数と、その酸の価数との積Aと、
添加する塩基性物質のモル数とその塩基の価数との積Bとが、
下記式を満たすことを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のスチレン系共重合体の製造方法。
A≦B≦[A×3]
〔5〕 塩基性物質を添加して系内の酸と反応させる工程の後に、弱酸性物質を加えて系内を弱酸にする工程を含むことを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のスチレン系共重合体の製造方法。
〔6〕 弱酸性物質が、フェノール、ニトロフェノール、シアノフェノール、ハロゲン化フェノール、酢酸、プロピオン酸、乳酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸および炭酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする〔5〕に記載のスチレン系共重合体の製造方法。
〔7〕 さらに、得られた重合体を水または水溶性有機溶媒で抽出する工程を含むことを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のスチレン系共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不溶分が無く、透明性に優れ、黄色度の低いスチレン系共重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のスチレン系共重合体の製造方法は、構造単位(1)および構造単位(2)を有するスチレン系共重合体の製造方法である。以下、これらについて説明する。
【0013】
<スチレン系共重合体>
本発明により得られるスチレン系共重合体は、上記式(1)で表される構造単位(1)および上記式(2)で表される構造単位(2)を有する。
構造単位(2)の含有率は、全構造単位100mol%中、光学フィルムに用いる場合、好ましくは0.1〜50mol%、さらに好ましくは0.2〜40mol%、より好ましくは0.3〜35mol%である。さらにスチレン系共重合体は、下記式(3)で表される構造単位(3)を有していてもよい。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(3)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。また、R1とR2は相互に結合して炭素環または複素環(これらの炭素環または複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成しても良い。)を形成してもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。)
【0016】
炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基などが挙げられる。
また、上記の置換または非置換の炭化水素基は直接環構造に結合していてもよいし、あるいは連結基(linkage)を介して結合していてもよい。連結基としては、たとえば、炭素原子数1〜10の2価の炭化水素基(たとえば、−(CH2m−(式中、mは1〜10の整数)で表されるアルキレン基);酸素、窒素、イオウまたはケイ素を含む連結基(たとえば、カルボニル基(−CO−)、オキシカルボニル基(−O(CO)−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホン基(−SO2−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−、−CONH−)、シロキサン結合(−OSi(R)−(式中、Rはメチル、エチル等のアルキル基))等が挙げられ、これらを複数含む連結基であってもよい。
【0017】
極性基としては、例えば、水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、カルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、アミド基、イミド基、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルホニル基、およびカルボキシル基など挙げられる。さらに具体的には、上記アルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基等;カルボニルオキシ基としては、たとえば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基、およびベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基;アルコキシカルボニル基としては、たとえば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等;アリーロキシカルボニル基としては、たとえば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等;トリオルガノシロキシ基としては、たとえば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等;トリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等;アミノ基としては、第1級アミノ基;アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
上記式(3)で表される構造単位を誘導する単量体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸およびその誘導体、無水マレイン酸、マレイミド類、マレイン酸およびその誘導体、フマル酸およびその誘導体、p−メトキシスチレンなどが挙げられる。また、後述する脱保護反応で変換されずに部分的に式(4)で表されるスチレン誘導体由来の構造単位(構造単位(4))が残存する場合など、式(4)で表されるスチレン系単量体なども、当該単量体に含まれる。構造単位(4)の含有率は、光学フィルムに用いる場合、全構造単位100mol%中、通常20mol%以下、好ましくは15mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。
【0018】
本発明により得られるスチレン系共重合体は、30℃のクロロベンゼン溶液(濃度0.5g/dL)中で測定した対数粘度(η)が、0.1〜3.0dL/gであることが好ましい。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが通常30,000〜1,000,000、好ましくは40,000〜800,000、より好ましくは50,000〜500,000である。分子量が小さすぎると、得られるフィルム等の成形品の強度が低くなることがある。分子量が大きすぎると、溶液粘度が高くなりすぎて生産性や加工性が悪化することがある。
【0019】
さらに、スチレン系共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.0〜10、好ましくは1.2〜5.0、より好ましくは1.2〜4.0である。
本発明により得られるスチレン系共重合体は、黄変などの着色が少なく、透明性に優れたものであって、色測計を用いて測定した10重量%トルエン溶液の黄色度(YI)が、通常5.0以下である。黄色度(YI)は、好ましくは4.0以下、より好ましくは0.05〜3.0の範囲である。なお、黄色度は通常、0.2で無色である。
【0020】
<スチレン系共重合体の製造方法>
本発明のスチレン系共重合体の製造方法は、スチレンおよびα−メチルスチレンから選ばれる少なくとも一種と、上記式(4)で表される単量体(4)とを、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、またはアニオン重合開始剤の存在下で共重合反応させた後、酸の存在下で単量体(4)由来の構造単位におけるO−R14基をOH基に変換し、その後、塩基性物質を添加して系内の酸と反応させる工程を含む方法である。
【0021】
このような単量体(4)は、全単量体100mol%中、通常0.1〜50mol%、好ましくは0.2〜40mol%、より好ましくは0.3〜35mol%の範囲で用いることが望ましい。
【0022】
また、前記スチレンおよび/またはα−メチルスチレンは、スチレンのみであるのが好ましい。重合反応においては、前記スチレンおよび/またはα−メチルスチレンと、単量体(4)に加え、さらに下記式(5)で表される単量体を用いてもよい。
【0023】
【化4】

【0024】
式(5)中、R1〜R3は式(3)におけるR1〜R3と同義である。
・重合反応
重合反応に用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤(カチオン重合触媒)、またはアニオン重合開始剤(アニオン重合触媒)が挙げられる。ラジカル開始剤としては、フリーラジカルを発生する公知の有機過酸化物、またはアゾビス系のラジカル重合開始剤を用いることができる。なお、多官能開始剤または水素引き抜き反応を起こし易い開始剤は、得られるスチレン系共重合体の線状性が低下するおそれがあるので、好ましくない。
【0025】
有機過酸化物としては、ジアセチルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジイソブチロイルパーオキサイド、ジ(2,4−ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサオド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ビス{4−(m−トルオイル)ベンゾイル}パーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;
メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;
過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、α−クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;
ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;
t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオドデカノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシm−トルオイルベンゾエート、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどのパーオキシエステル類;
1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ピバレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどのパーオキシケタール類;
t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネートなどのパーオキシモノカーボネート類;
ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;
その他、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイドなどが挙げられるが、本発明に用いられる有機過酸化物はこれらの例示化合物に限定されるものではない。
【0026】
アゾビス系ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェート・ジハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル}プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドキシム)、ジメチル2,2’−アゾビスブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などが挙げられるが、本発明に用いられるアゾビス系ラジカル重合開始剤はこれらの例示化合物に限定されるものではない。
【0027】
カチオン重合開始剤としては、塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、等のブレンステッド酸、三フッ化ホウ素錯体、三塩化アルミニウム、エチルアルムニウムジクロリド、四塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド、塩化タングステン、等のルイス酸が挙げられる。
【0028】
アニオン重合開始剤としては、ブチルリチウム、フェニルリチウム、等の有機リチウム類、リチウムアミド、ナトリウムアミド、等の金属アミド類、エチルマグネシウムブロマイド、フェニルマグネシウムクロライド、等のグリニャール試薬、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、等の金属アルコキシド、等が挙げられる。
【0029】
これらの重合開始剤の使用量は、前記スチレン系単量体全量100mol%中、通常0.01〜5mol%、好ましくは0.03〜3mol%、より好ましくは0.05〜2mol%である。
【0030】
前記スチレン系単量体の重合反応は、上記重合開始剤や触媒の存在下で、上記スチレン系単量体を、塊状重合法、溶液重合法、沈殿重合法、乳化重合法、懸濁重合法または塊状−懸濁重合法などの従来公知の方法で共重合させることにより行なわれる。
【0031】
溶液重合を実施する際に使用する溶剤としては、前記単量体および重合体を溶解するものであれば特に限定されないが、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。溶剤の使用量は、前記スチレン系単量体全量に対し、0〜3倍(重量比)の量であるのが望ましい。
重合反応時間は、通常1〜30時間、好ましくは3〜20時間であり、重合反応温度は、使用するラジカル開始剤の種類に依存するため、特に限定されないが、通常40〜180℃、好ましくは50〜120℃である。
【0032】
・OH基への変換反応
前記スチレン系単量体を重合させた後、さらに単量体(4)由来の構造単位におけるO−R14基をOH基に変換する。これにより、たとえば、式(4)に表されるスチレン系単量体のR14が脱離して、スチレン系共重合体に含有される式(2)に表される構造単位を形成することとなる。
上記変換反応としては、酸または塩基の存在下で加アルコール分解または加水分解で変換する方法、酸性条件下で加熱して変換する方法、加熱のみによって変換する方法、およびフッ化物イオンを用いて変換する方法などが挙げられ、前記O−R14基におけるR14の構造によって採用し得る好ましい方法が異なるが、酸の存在下で単量体(4)に由来する構造単位中の−OR14で表される基を−OH基に変換するのが好ましく、酸の存在下で加アルコール分解または加水分解で変換する方法、あるいは酸性条件下で加熱して変換する方法が好ましく採用される。
前記O−R14基におけるR14が、例えば、アセチル基(−COCH3)、t−ブトキシカルボニル基(−COOtBu)、シリル基(SiR153)、酸素原子と結合してアセタール基を形成し得るアルコキシアルキル基(−CH(OR15)(R16))などの場合、酸性条件下で加水分解または加アルコール分解する方法が好ましく採用される。
【0033】
また、前記O−R14基におけるR14が、例えば、t−ブチル基(−tBu)、t−ブトキシカルボニル基(−COOtBu)などの場合には、酸性条件下で加熱して変換する方法を採用することができる。
【0034】
加水分解および加アルコール分解に用いられる酸としては、塩酸、臭酸等のハロゲン化水素、蟻酸、シュウ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸類、硫酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、硝酸、またはフェノール類等のブレンステッド酸、りんタングステン酸、りんモリブデン酸等のヘテロポリ酸、硫酸化ジルコニア、ゼオライト等の固体酸、イオン交換樹脂、高分子電解質等の高分子酸、およびハロゲン化、アルキル化、および/またはアルコキシ化されたアルミニウム、チタン、タングステン、またはホウ素化合物等のルイス酸、公知の固定化ルイス酸が挙げられる。これらの酸のうちでは、特に硫酸が好ましく用いられる。酸の使用量は、式(4)に表されるスチレン系単量体の使用量とのモル比が、通常、酸/式(4)に表されるスチレン系単量体=1/1000〜1/1、好ましくは1/300〜1/5である。
【0035】
反応温度としては通常0〜180℃、好ましくは30〜150℃、更に好ましくは40〜120℃である。反応時間としては通常1〜30時間、好ましくは1〜25時間、より好ましくは1〜20時間である。反応溶媒としては、変換反応前の重合体および変換反応後の重合体が溶解するものであれば特に限定されないが、重合反応と同じ溶媒であるのが好ましい。また、溶媒の使用量としては、重合反応に使用する溶媒の1〜5倍の重量であることが好ましく、1〜3倍の重量であるのがより好ましい。水またはアルコールの添加量としては、O−R14基の1〜30倍モルであることが好ましく、1〜20倍モルであることがより好ましい。使用するアルコールは特に限定されないが、炭素数1〜4のアルコールが好ましい。
【0036】
酸性条件下での加熱によりO−R14基をOH基に変換する変換反応においては、用いる酸の種類およびその添加量、反応温度、反応時間、溶媒種、溶媒使用量に関しては、酸の存在下で加アルコール分解または加水分解で変換する方法について上記したのと同様の条件を適用することができる。但し、この方法においては、水またはアルコールは添加しても良いし添加しなくても良い。
【0037】
・塩基性物質の添加
次いで塩基性物質を添加して、系内の酸と反応させる工程を行う。ここで、系内の酸とは、O−R14基をOH基に変換する変換反応で用いた酸のうち、変換反応で消費されずに系内に残存する酸を意味する。
【0038】
塩基性物質としては、金属水酸化物、金属アルコキシド類、カルボン酸塩類、フェノール塩類、炭酸塩類およびアミン類等が好ましく用いられ、より好ましくは、塩基性物質が、金属水酸化物、金属アルコキシド類、カルボン酸塩類、フェノール塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種であって、その対カチオンが、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムの何れかである。これらの塩基性物質は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
このような塩基性物質としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、等の金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、等の金属アルコキシド類;酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、等のカルボン酸塩類;ナトリウムフェノキシド等のフェノール塩類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、等の炭酸塩類、トリエチルアミン、ピリジン、等のアミン類を用いる事が出来る。これらの塩基は何れを用いても良く、また、単独でも複数を同時に用いても良いが、入手性および価格面から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましい。これらのうち、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を用いると、後述する弱酸性物質を加える工程を行わなくても、OH基が安定に保たれるため、特に好ましい。
【0040】
塩基性物質と残存する酸との反応温度は15〜100℃、好ましくは20〜90℃、更に好ましくは30〜80℃である。上記反応温度範囲を超えると重合体の色相が悪化する場合がある。また、上記反応温度範囲未満であると反応が十分に進行しない場合がある。
【0041】
反応時間は5〜120分間、好ましくは10〜100分間、更に好ましくは15〜80分間である。上記反応時間範囲を超えると生産性が低下し、上記反応時間範囲未満であると反応が十分に進行しない場合がある。
【0042】
添加する塩基性物質の量は、残存する酸が充分に中和される量であればよいが、−OR14で表される基を−OH基に変換する工程で用いた酸のモル数と、その酸の価数との積Aと、添加する塩基性物質のモル数とその塩基の価数との積Bとが、下記式を満たすことが望ましい。
A≦B≦[A×3]
【0043】
また、上記の塩基性物質のうち、その共役酸の酸性度が重合体中に含まれるフェノール部位の酸性度よりも低い場合には、単量体(4)由来の構造単位におけるO−R14基から変換されたOH基が不安定になるおそれがあるため、当該塩基を用いると同時または用いた後に重合体中に含まれるフェノール部位よりは酸性度の高い弱酸性物質を加えて反応系内を弱酸性とすることが好ましい。このような弱酸性物質としてはフェノール、ニトロフェノール、シアノフェノール、ハロゲン化フェノール、等のフェノール類;酢酸、プロピオン酸、乳酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、等のカルボン酸類;炭酸を挙げることができるが、価格および反応溶液への相溶性から酢酸、乳酸、安息香酸が好ましい。
【0044】
反応条件としては前記塩基を添加した際の反応条件と同じ条件を適用する事ができる。
反応系内を弱酸性とすることで、より色相が良好で耐熱安定性に優れたスチレン系共重合体を得る事ができる。
【0045】
・精製
上記反応により得られたスチレン系共重合体は、必要に応じて精製を行って用いることが好適である。精製には、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、得られた反応物溶液をトルエンまたはテトラヒドロフラン等の良溶媒で希釈後、メタノール、水、またはこれらの混合溶液を添加して重合体を適度に凝集させ、抽出処理する方法が挙げられる。抽出処理の際、反応溶媒として使用した溶媒および希釈のために添加した溶媒を合計した良溶媒量と重合体との重量比(良溶媒/重合体)は、0.5/1〜6/1、好ましくは0.7/1〜4/1である。また、抽出に使用するメタノール、水、またはこれらの混合溶液等の貧溶媒の使用量は重量比(貧溶媒/前記良溶媒)で、0.3〜5、好ましくは0.5〜3である。抽出温度としては、通常40〜120℃、好ましくは50〜100℃である。
【0046】
前記のように抽出した後、溶液を冷却して軽重層に分離させ、遠心分離機等で軽層を除去する。これらの抽出操作を1〜10回繰り返した後、重合液を濃縮してデボラチライター、ルーダー等の脱溶装置で脱溶する。脱溶時の温度は150〜350℃、好ましくは200〜350℃、真空度は0.1〜50mmHg、好ましくは1〜40mmHgである。また、脱溶前に希釈して循環濾過を実施してもよい。濾過の際、濾剤の孔径は0.1〜100μmのものを1種単独で使用してもよく、孔径の異なるフィルターを段階的に複数設置してもよい。また、脱溶後の溶融ポリマーを濾過することにより精製してもよい。この際のポリマーフィルターの孔径は0.1〜100μmであるのが望ましい。
【0047】
本発明で得られるスチレン系共重合体は、透明樹脂とブレンドして光学フィルムに好適に用いられるだけでなく、高精細の半導体素子用レジスト、レジスト下層膜形成材等の半導体素子用材料;めっき造形物形成材、層間絶縁膜材料、プリント基板用封止材、エポキシ硬化剤等の実装材料;液晶表示素子のカラーフィルター、保護膜、スペーサー等の液晶表示素子部材形成材料;プラズマディスプレイパネルの誘電体層、電極、隔壁、蛍光体、ブラックマトリクス等のプラズマディスプレイパネル部材形成材料等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、特に断りのない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。また、室温とは25℃である。
【0049】
以下の実施例、比較例において、各種測定および評価は以下のようにして行った。
[重合反応率]
アルミニウム製容器中に秤量した重合反応溶液を、300℃に熱したホットプレートで恒温となるまで加熱し、残留モノマーおよび溶媒を除去した後、残留した重合体重量を計測し、理論上の重合体生成量との比から反応率を求めた。
【0050】
[重合体分子構造]
超伝導核磁気共鳴吸収装置(NMR、Bruker社製、商品名:AVANCE500)を用い、重水素化クロロホルム中で13C−NMRを測定し、共重合組成比およびブトキシ基のOH基への変換率(変換率)を算出した。
【0051】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名:DSC6200)を用いて、日本工業規格K7121に従って補外ガラス転移開始温度(以下、単にガラス転移温度(Tg)という)を求めた。
【0052】
[重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製HLC−8220GPC、カラム:東ソー(株)製ガードカラムHXL−H、TSK gel G7000HXL、TSKgel GMHXL2本、TSK gel G2000HXLを順次連結、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:1mL/min、サンプル濃度:0.7〜0.8重量%、注入量:70μL、測定温度:40℃とし、検出器:RI(40℃)、標準物質:東ソー(株)製TSKスタンダードポリスチレン)を用い、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を測定した。なお、前記Mnは数平均分子量である。
【0053】
[イエローインデックス(YI、黄色度)]
スガ試験機(株)製SMカラーコンピューターSM−7−CHを用い、C光2゜視野透過測定を3回行いその平均値を求めた。ここで、測定試料は、10重量%の樹脂を含むトルエン溶液20gとし、測定用セルとしては、内径60mm、高さ30mmの円筒型ガラスセルを用いた。
【0054】
[樹脂中の不溶物の有無]
樹脂サンプル30mgをトルエン5mLに溶解して、不溶物の有無を目視で観察した。不溶物無しの場合をA、一部不溶の場合をBと評価した。
【0055】
[溶液濾過性]
樹脂サンプル30mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解し、孔径0.45μm、直径1cmのPTFE製フィルターを用いたろ過性を評価した。目詰まりを生じず全量濾過可能であった場合をA、目詰まりを生じ一部濾過出来なかった場合をBと評価した。
【0056】
[実施例1]
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えたガラス製フラスコにスチレン392.3g(3.766mol)、p−tブトキシスチレン57.72g(0.3275mol)、溶媒としてトルエン211g、およびラジカル開始剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)1.50g(6.141mmol)を加え、90℃に加熱し、10時間反応させた後、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)0.50g(2.047mmol)を追添加して90℃で更に10時間反応を行った。この重合液の一部を取り出し、反応率を測定したところ92%であった。また、分子量を測定したところ、Mw=126,700、Mw/Mn=2.00であった。
【0057】
得られた重合反応溶液中にトルエン225gを添加して希釈した後、メタノール(硫酸の拡散剤)90g、濃硫酸1.15g(0.0117mol)を添加して60℃に加熱して8時間反応させた。その後、50.5重量%の乳酸ナトリウム水溶液3.03g(0.027mol)を添加して60℃で30分間攪拌を継続した。反応溶液をpH試験紙(Whatman社製CSタイプ、0.2間隔)に少量塗布してpH測定したところpH=3.8であった。
【0058】
この反応液にトルエン449gを添加して均一に混合した後、メタノール899gを添加して60℃で1時間抽出を行った。これを30℃以下に冷却して1時間静置して重合体を含む下層溶液と重合体を殆ど含まない上層溶液に分離した。この上層溶液のみを分離して取り除いた。残った下層溶液にトルエン440gを添加して均一に混合した後、メタノール617gを添加して再度60℃で1時間抽出を行った。これを30℃以下に冷却して1時間静置して重合体を含む下層溶液と重合体を殆ど含まない上層溶液に分離した。トルエン440gおよびメタノール617gを添加して冷却静置後に上層を分離除去する操作をさらに2回繰り返して重合体、トルエン、およびメタノールを含む重合体溶液を得た。この重合体溶液中の重合体濃度を測定したところ30重量%であり、得られた溶液重量から算出した収率は90%であった。この溶液の一部を乾燥して分析した結果、Mw=129,208、Mw/Mn=1.90、Tg=111℃、NMRにより求めた共重合組成比は仕込み比通りでありブトキシ基のOH基への変換率は98%であった。
【0059】
同様にして抽出精製した重合体溶液(重合体濃度30重量%)を10Kg作成して酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン9gを加えて均一に混合した(以下この樹脂溶液をドープ1と呼ぶ)。この溶液を50mmφ(L/D=13.2)の二軸押出し機を用い、220℃、20mmHgで脱溶してペレット化し、ペレット状の樹脂A−1を得た。得られた樹脂ペレットA−1を分析した結果、YI=0.8、Mw=119369、Mw/Mn=1.98、Tg=111℃、残留トルエン=900ppmであった。樹脂A−1中の不溶物の有無および溶液濾過性の評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例2]
実施例1と同様にして得たスチレン/p−tブトキシスチレン共重合体のトルエン溶液にトルエン225gを添加して希釈した後、メタノール90g、濃硫酸1.15g(0.0117mol)を添加して60℃に加熱して8時間反応させた。その後5重量%の水酸化リチウム水溶液39.3g(0.0469mol)を添加して60℃で30分間攪拌を継続した。反応溶液をpH試験紙(Whatman社製CSタイプ、0.2間隔)に少量塗布してpH測定したところpH=8.6であった。この反応溶液に50重量%の乳酸水溶液5.267g(0.0235mol)を添加して60℃で30分間攪拌を継続した。反応溶液をpH試験紙(Whatman社製CSタイプ、0.2間隔)に少量塗布してpH測定したところpH=3.8であった。実施例1と同様にして求めた収率は91%であった。
【0061】
実施例1と同様にして得られた重合体溶液の抽出精製を行い重合体濃度が30重量%の重合体溶液を得た。この溶液の一部を乾燥して分析した結果、Mw=130、050、Mw/Mn=1.91、Tg=111℃、NMRにより求めた共重合組成比は仕込み比通りでありブトキシ基のOH基への変換率は98%であった。
【0062】
上記と同様にして抽出精製した重合体溶液(重合体濃度30重量%)を10Kg作成して酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン9gを加えて均一に混合した(以下この樹脂溶液をドープ2と呼ぶ)。この溶液を50mmφ(L/D=13.2)の二軸押出し機を用い、220℃、20mmHgで脱溶してペレット化し、ペレット状の樹脂A−2を得た。得られた樹脂ペレットA−2を分析した結果、YI=0.9、Mw=120,000、Mw/Mn=1.96、Tg=111℃、残留トルエン=900ppmであった。樹脂A−2中の不溶物の有無および溶液濾過性の評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例]
塩基を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして合成した重合体溶液を50mmφ(L/D=13.2)の二軸押出し機を用い、220℃、20mmHgで脱溶してペレット化し、ペレットA−3を得た。得られたペレットA−3を分析した結果、有機溶媒に不溶の成分を生じており、可溶部の分析を行ったところ、YI=5.8、Mw=244,410、Mw/Mn=3.62、Tg=115℃、残留トルエン=1000ppmであった。得られた樹脂A−3中の不溶物の有無および溶液濾過性の評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
以上の結果から、本発明により得られるスチレン系共重合体は、着色性が低く且つ不溶成分を含まないため各種光学用途に有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有するスチレン系共重合体の製造方法であって、
スチレンおよびα−メチルスチレンから選ばれる少なくとも一種と、下記式(4)で表される単量体(4)とを、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、またはアニオン重合開始剤の存在下で共重合反応させた後、酸の存在下で単量体(4)に由来する構造単位中の−OR14で表される基を−OH基に変換し、その後、塩基性物質を添加して系内の酸と反応させる工程を含むことを特徴とする、スチレン系共重合体の製造方法。
【化1】

(式(1)および式(2)中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R1は水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜10の炭化水素基;または極性基を示す。)
【化2】

(式(4)中、RおよびR1は式(1)および式(2)において定義の通りであり、R14
はアセチル基、t−ブチル基、t−ブトキシカルボニル基、−CH(OR15)(R16)、
または−SiR153で表される基のいずれかを示す。R15およびR16はそれぞれ独立に炭
素数1〜6のアルキル基、またはR15とR16とが相互に連結して一体化した炭素数1〜6
の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
塩基性物質が、金属水酸化物、金属アルコキシド類、カルボン酸塩類、フェノール塩類、炭酸塩類およびアミン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のスチレン系共重合体の製造方法。
【請求項3】
塩基性物質が、金属水酸化物、金属アルコキシド類、カルボン酸塩類、フェノール塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種であって、その対カチオンが、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムの何れかであることを特徴とする請求項1または2に記載のスチレン系共重合体の製造方法。
【請求項4】
−OR14で表される基を−OH基に変換する工程で用いた酸のモル数と、その酸の価数との積Aと、
添加する塩基性物質のモル数とその塩基の価数との積Bとが、
下記式を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系共重合体の製造方法。
A≦B≦[A×3]
【請求項5】
塩基性物質を添加して系内の酸と反応させる工程の後に、弱酸性物質を加えて系内を弱酸にする工程を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスチレン系共重合体の製造方法。
【請求項6】
弱酸性物質が、フェノール、ニトロフェノール、シアノフェノール、ハロゲン化フェノール、酢酸、プロピオン酸、乳酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸および炭酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のスチレン系共重合体の製造方法。
【請求項7】
さらに、得られた重合体を水または水溶性有機溶媒で抽出する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスチレン系共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−132833(P2009−132833A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311284(P2007−311284)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】