説明

ステアリングシステムおよびステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法

【課題】 ステアリングホイールの操作によって回転する操作側シャフト60の回転を、転舵側シャフト18に伝達し、その回転伝達における回転伝達比が自身の動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動する回転伝達機構140を有するステアリング装置において、回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている際に、そのズレに対処する。
【解決手段】 左右の旋回操作の各々において、転舵側シャフトの回転量が設定量となったときの操作側シャフトの回転量を検出し、それらを比較して、回転伝達機構の基準動作位置のズレの量を認定する。その認定されたズレの量に基づいて回転伝達比を認定し、その認定された回転伝達比に基づくことによって、ステアリングホイールの操作力を適切に推定し、その適切な操作力に基づいて、助勢装置82による助勢力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作部材の操作に対する車輪の転舵の割合がその操作に応じて変動するように構成された伝達機構を有するステアリングシステムに関し、および、そのシステムが備える伝達機構の動作位置のズレを認定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に設けられるステアリングシステムには、下記特許文献に記載されているように、いわゆるギヤ比可変システム(VGRS)と呼ばれるシステムが存在する。そのようなシステムは、操作部材に連結される操作側シャフトの回転を、車輪を転舵させる転舵装置に連結される転舵側シャフトに伝達するための回転伝達機構を有しており、その回転伝達機構では、操作側シャフトの回転角速度に対する転舵側シャフトの回転角速度の比である回転伝達比が変更可能とされている。ギヤ比可変システムによれば、例えば、操作量が比較的小さい場合には、回転伝達比を小さくして車両の走行安定性を高めたり、車両がUターンする際等、操作量が比較的大きい場合には、回転伝達比を大きくし、車両を容易に方向転換させたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96187号公報
【特許文献2】特開2007−131214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ギヤ比可変システムでは、操作部材の操作量に応じて自身の動作位置が変わり、その動作位置の変化に応じて回転伝達比が変動するような回転伝達機構を有するシステムも存在する。そのような回転伝達機構においては、基準となる動作位置が正規の位置からズレて組み付けられたような場合には、操作部材の操作量と回転伝達比との関係が正規の関係からズレるため、例えば、操作フィーリングが、左旋回操作と右旋回操作とで異なることになる。したがって、ズレを把握することは、良好な操作フィーリングを維持するために有効である。
【0005】
一方で、ステアリングシステムは、車輪の転舵をアシストするための助勢装置を備えており、その助勢装置が発生させる助勢力は、一般に、操作部材の操作力に応じた助勢力とされる。ステアリングシステムが上記回転伝達機構を備えている場合、回転伝達機構の車輪側に位置する転舵側シャフトの回転トルクを検出し、その回転トルクに基づいて操作力を認定し、その認定された操作力に応じて助勢力の制御を行うシステムも存在する。このようなシステムにおいては、上記回転伝達比が変わると操作側シャフトと転舵側シャフトとの間の回転トルク伝達比も変わるため、操作部材の操作量に応じて操作力が変わるような感じを操作者に与える結果となる。そのため、操作フィーリングを向上させるために、転舵側シャフトの回転トルクに加えて、回転伝達比にも基づいて操作部材の操作力を推定し、その推定された操作力に基づいて助勢力を制御することが検討されている。
【0006】
しかしながら、上述した回転伝達機構のズレが生じている場合、上述したように、操作部材の操作量と回転伝達比との関係が正規の関係からズレているため、転舵側シャフトの回転トルクと回転伝達比とに基づいて操作部材の操作力を推定したとしても、操作力を適切に推定することができない。適切に推定されていない操作力に基づいて助勢力を制御した場合、操作フィーリングを向上させることができないばかりか、かえって操作フィーリングを悪化させてしまう結果にもなりかねない。
【0007】
上述したように、上記回転伝達機構のズレは、ステリング操作のフィーリングを悪化させる一因であり、そのズレを把握することが、また、そのズレに対処することが、回転伝達比が変動する回転伝達機構を備えたステアリングシステムの実用性を向上させることに繋がる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、そのようなステアリングシステムの実用性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、(a)運転者によって操作される操作部材と、(b)その操作部材の操作によって回転する操作側シャフトと、(c)その操作側シャフトよりも車輪側に配設された転舵側シャフトと、(d)その転舵側シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、(e)操作側シャフトの回転を転舵側シャフトに伝達するとともに、操作側シャフトの回転に伴って自身の動作位置が変化し、操作側シャフトから転舵側シャフトへの回転伝達における回転伝達比が、動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動するように構成された回転伝達機構と、(f)転舵側シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、(g)駆動源を有して、車輪の転舵を自身が発生させる助勢力によって助勢する助勢装置と、(h)(i)トルク検出器によって検出された転舵側シャフトの回転トルクから、回転伝達比に基づいて、運転者によって操作部材に加えられている操作力を推定する操作力推定部と、(ii)その操作力推定部によって推定された操作力に基づいて、目標助勢力を決定する目標助勢力決定部と、(iii)その目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力に基づいて、助勢装置の作動を制御する助勢装置作動制御部とを有する助勢力制御装置とを備えたステアリングシステムであって、上記操作力推定部が、回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている場合において、そのズレの量に基づいて操作部材の操作力を推定することを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明のステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法は、(a)運転者によって操作される操作部材と、(b)その操作部材の操作によって回転する操作側シャフトと、(c)その操作側シャフトよりも車輪側に配設された転舵側シャフトと、(d)その転舵側シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、(e)操作側シャフトの回転を転舵側シャフトに伝達するとともに、(f)操作側シャフトの回転に伴って自身の動作位置が変化し、操作側シャフトから転舵側シャフトへの回転伝達における回転伝達比が、動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動するように構成された回転伝達機構とを備えたステアリング装置に適用され、回転伝達機構の基準動作位置の正規の位置からのズレを認定するための方法であって、(A) 操作部材の操作力と直進状態からの車輪の転舵量とのいずれかと、(B)直進状態からの操作部材の操作量との一方を、検出依拠量と定義し、他方を、検出対象量と定義した場合において、左旋回と右旋回との一方の操作部材の操作の際に、検出依拠量が設定量となった場合の検出対象量である第1検出対象量を検出し、左旋回と右旋回との他方の操作部材の操作の際に、検出依拠量が設定量となった場合の検出対象量である第2検出対象量を検出し、第1検出対象量と第2検出対象量との差が設定差を超えた場合に、回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレていると認定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明のステアリングシステムによれば、回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている場合であっても、そのズレの量に基づいて操作部材の操作力が推定されるため、助勢装置によって適切な助勢力が発生させられ、その結果、ステアリング操作のフィーリングは良好に維持されることになる。また、上記本発明のステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法によれば、簡単な手法によって、回転伝達機構の基準動作位置のズレを認定することが可能であり、その認定結果は、良好な操作フィーリングの維持に資するものとなる。
【発明の態様】
【0011】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0012】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項と(3)項とを合わせたものが請求項2に、(7)項が請求項3に、(10)項と(11)項とを合わせたものが請求項4に、(14)項が請求項5に、それぞれ相当する。また、(21)項が請求項6に、(22)項が請求項7に、それぞれ相当する。
【0013】
(1)運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材の操作によって回転する第1シャフトと、
その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、
その第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、
前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達するとともに、前記第1シャフトの回転に伴って自身の動作位置が変化し、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比が、前記動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動するように構成された回転伝達機構と、
前記第2シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、
駆動源を有して、車輪の転舵を自身が発生させる助勢力によって助勢する助勢装置と、 (a)前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクから、前記回転伝達比に基づいて、運転者によって前記操作部材に加えられている操作力を推定する操作力推定部と、(b)その操作力推定部によって推定された操作力に基づいて、目標助勢力を決定する目標助勢力決定部と、(c)その目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力に基づいて、前記助勢装置の作動を制御する助勢装置作動制御部とを有する助勢力制御装置と を備えたステアリングシステムであって、
前記操作力推定部が、前記回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている場合において、そのズレの量に基づいて前記操作部材の操作力を推定するように構成されたステアリングシステム。
【0014】
本ステアリングシステムでは、大まかに言えば、運転者によってステアリングホイール等の操作部材に加えられる力、つまり、操作力によって、第1シャフトに、それを回転させる回転トルクである操作トルクが発生する。そして、その操作トルクは、回転伝達機構によって、第2シャフトの回転トルクとして伝達される。この第2シャフトの回転トルクは、転舵装置において、車輪を転舵させる力へと変換される。一方、本ステアリングシステムでは、上記助勢装置によって、助勢力が発生させられており、転舵装置による車輪の転舵は、伝達トルクとして伝達された操作力と、助勢力とによって行われる。
【0015】
ステアリングシステムの多くは、上記第2シャフトの回転トルク、つまり、上記伝達トルクを検出して、その検出された伝達トルクに基づいて、助勢装置が発生させるべき助勢力を決定する。ところが、本ステアリングシステムでは、回転伝達比が変動するように回転伝達機構が構成されているため、伝達トルクの大きさは、回転伝達比の影響を受け、必ずしも、上記操作トルクに依存した大きさとはならない。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、第2シャフトの回転トルクに加えて、回転伝達比に基づいて操作力を推定して、その操作力を基に助勢力を決定している。
【0016】
上記のような回転伝達機構を備えるステアリングシステムにおいて、回転伝達比は、第1シャフトの回転に伴う回転伝達機構の動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となる。したがって、基準動作位置が正規の位置からズレている場合には、単に第1シャフトあるいは第2シャフトの回転角度(回転位相)に基づいたとしても、それらの回転角度に対応した回転伝達比を正確には認定することができなくなってしまう。そのため、操作力を適切に推定することができず、助勢力は、その適切に推定されていない操作力に基づく大きさとされてしまう。本ステアリングシステムは、そのようなズレのある場合でも、そのズレの量に基づくことによって操作力を適切に推定し、その操作力に基づいた適切な助勢力を発生させることができる。
【0017】
本項における「回転伝達比」は、第1シャフトの回転角度の変化量に対する第2シャフトの回転角度の変化量の比と考えることのできるものである。言い換えれば、第1シャフトの回転角速度に対する第2シャフトの回転角速度の比と考えることができる。なお、この回転伝達比の逆数は、操作トルクに対する伝達トルクの比、つまり、トルク伝達比と考えることができる。したがって、回転伝達比が大きくなるにつれてトルク伝達比は小さくなり、回転伝達比が小さくなるにつれてトルク伝達比は大きくなる。
【0018】
本項における「動作位置」は、回転伝達機構において、第1シャフトの回転に伴って動作するものの位置であれば特に限定されるものではない。典型的には、第1シャフト、あるいは、それとともに回転するものの回転角度によって、動作位置を示すことができ、その場合の「変化量」は、それらの基準動作位置からの回転角度である回転位相によって示すことができる。
【0019】
本項における「基準動作位置」は、操舵の状態が特定の状態となっている場合における回転伝達機構の動作位置として規定することが可能である。例えば、車輪の転舵量,操作部材の操作量等が車両直進時の量となっている状態における回転伝達機構の動作位置として規定することができる。
【0020】
本項のステアリングシステムが有する「回転伝達機構」は、回転伝達比が基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動するもの、つまり、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転位相等に依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動するものとされている。当該回転伝達機構は、例えば、後に詳しく説明するように、第1シャフト,第2シャフトを互いに偏心した状態で配設し、カム機構によってそれら第1シャフト,第2シャフトの各々回転が連動するように構成することで実現することができる。
【0021】
本項のステアリングシステムにおいて、「助勢装置」の具体的構造は、特に限定されない。例えば、電磁モータの発生させる力によって転舵を助勢するような構造のものであってもよく、また、作動油等の圧力を利用して転舵を助勢するような構造のものであってもよい。また、当該ステアリングシステムのどの部分において助勢するかについても、特に限定されない。上記トルク検出器の車輪側(力の伝達において操作部材とは反対側を意味する)において助勢するものであればよく、例えば、第2シャフトの回転を助勢するように構成されるものであっても、また、いわゆる転舵ロッド(リンクロッドともいう)の動作を助勢するように構成されるものであってもよい。なお、上記「トルク検出器」は、例えば、第2シャフトの一部としてトーションバーを配設し、そのトーションバーの捩り弾性変形量を検出することで第2トルクを検出するように構成することが可能である。
【0022】
(2)前記操作力推定部が、前記トルク検出器によって検出される前記第2シャフトの回転トルクを前記回転伝達比で除することよって、前記第1シャフトの回転トルクを推定し、その推定された前記第1シャフトの回転トルクに基づいて前記操作力を推定するように構成された(1)項に記載のステアリングシステム。
【0023】
本項の態様は、回転伝達比の逆数がトルク伝達比であるとの考えに基づいて、検出された第2シャフトの回転トルクから、第1シャフトの回転トルクを推定する態様である。また、操作部材が、第1シャフトの端部に結合されて、第1シャフトとともに回転するステアリングホイールのような場合には、ステアリングホイールを回転させる力である操作力は、第1シャフトの回転トルクと等価であると考えることができる。そのため、本項の態様のステアリングシステムによれば、トルク検出器によって検出される第2シャフトの回転トルクから、簡単な方法で操作力を推定することができる。
【0024】
(3)前記操作力推定部が、前記回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている場合において、前記第2シャフトの回転トルクを除する前記回転伝達比の値を前記ズレの量に基づいて補正し、その補正された値で前記第2シャフトの回転トルクを除することによって推定された前記第1シャフトの回転トルクに基づいて、前記操作力を推定するように構成された(2)項に記載のステアリングシステム。
【0025】
本ステアリングシステムにおける回転伝達機構は、それの基準動作位置が正規の位置にある場合において、第1シャフトの回転量と、回転伝達機構の動作位置の基準動作位置からの変化量とが、あらかじめ規定された関係に従って、互いに変化するように構成されている。しかしながら、基準動作位置が正規の位置からズレている場合には、それら回転量と変化量との関係は、基準動作位置が正規の位置にある場合における関係とは異なるものとなってしまうため、第1シャフトのある回転量に対する回転伝達比の値も、基準動作位置が正規の位置にある場合の値とは異なる値となってしまう。そのため、基準動作位置が正規の位置からズレている場合には、基準動作位置が正規の位置にある場合の上記回転量と回転伝達比との関係に基づいたとしても、操作力を適切に推定することができなくなってしまうのである。本項の態様のように、ズレの量に基づいて回転量を補正すれば、その補正された回転量と回転伝達比との関係を、基準動作位置が正規の位置にある場合の関係と同じものとすることが可能である。したがって、本項の態様では、上記ズレの量に基づいて回転伝達比を補正することによって、操作力を適切に推定することが可能となる。
【0026】
(4)前記回転伝達機構が、前記基準動作位置が前記正規の位置となっている場合において、車両直進状態での前記回転伝達比が最も小さく、前記第1シャフトが車両直進状態での回転位相から180°回転した位相となるように前記操作部材が操作された状態での前記回転伝達比が最も大きくなるように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0027】
本項の態様によれば、直進に近い状態における走行安定性、すなわち、直進安定性が良好に担保され、かつ、操作部材の操作量を大きくした場合における車両の旋回特性、すなわち、少しの操作で車両の向きを大きく変え易いという特性が良好に担保されたステアリングシステムを実現することができる。
【0028】
(5)前記第1シャフトと前記第2シャフトとが、それぞれの回転軸線が互いに平行となる状態かつそれら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されており、
前記回転伝達機構が、
(a)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの一方に、その一方の回転軸線から径方向に前記所定距離より離れた位置において設けられた係合部と、(b)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの他方に設けられ、前記係合部が係合するとともにその係合部のその他方の径方向の移動を許容する案内通路とを有し、前記第1シャフトの回転によって、その第1シャフトの回転位相と前記第2シャフトの回転位相との差である回転位相差を変化させつつその第2シャフトが回転するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0029】
本項の態様は、回転伝達機構の構造に関する限定を加えた態様であり、本ステアリングシステムに採用可能な特定の構造を例示した態様である。本項の態様における回転伝達機構の詳細については、後に詳しく説明するため、ここでの説明は省略するものとする。
【0030】
(6)前記回転伝達機構が、前記基準動作位置が前記正規の位置となっている場合において、車両直進状態で、前記第1シャフトの回転軸線と前記第2シャフトの回転軸線とを含む平面内に前記係合部が位置するように構成されており、前記基準動作位置が前記正規の位置からズレている場合において、車両直進状態で、前記係合部が前記平面から離れて位置することになる(5)項に記載のステアリングシステム。
【0031】
本項の態様は、上記特定の構造の回転伝達機構において、基準動作位置の正規の位置が特定の位置として限定された態様である。本項の態様によれば、車両直進状態から左右のいずれに操舵した場合であっても、第1シャフトを同じ回転角度だけ回転させれば、同じ回転伝達比となる。また、本項の態様によれば、基準動作位置が正規の位置にある場合、車両直進状態において回転伝達比を最も小さく、若しくは、最も大きくすることが可能である。
【0032】
(7)(A) 前記操作部材の操作力と直進状態からの車輪の転舵量とのいずれかと、(B)直進状態からの前記操作部材の操作量との一方を、検出依拠量と定義し、他方を、検出対象量と定義した場合において、
当該ステアリングシステムが、前記検出依拠量を検出する検出依拠量検出器と、前記検出対象量を検出する検出対象量検出器とを備え、
前記助勢力制御装置が、
i)左旋回と右旋回との一方の前記操作部材の操作において、検出依拠量検出器によって検出された前記検出依拠量が設定量となった場合に前記検出対象量検出器によって検出された検出対象量である第1検出対象量と、ii)左旋回と右旋回との他方の前記操作部材の操作において、検出依拠量検出器によって検出された前記検出依拠量が前記設定量となった場合に前記検出対象量検出器によって検出された検出対象量である第2検出対象量との差と、前記回転伝達機構についての前記動作位置の基準動作位置からの変化量と前記回転伝達比の値との関係とに基づいて、前記基準動作位置のズレの量を認定するズレ量認定部を有し、
前記操作力推定部が、そのズレ量認定部によって認定された前記基準動作位置のズレの量に基づいて前記操作部材の操作力を推定するように構成された(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0033】
本項の態様は、ステアリングシステムがズレの量を認定する機能を備えた態様である。本項の態様のステアリングシステムによれば、回転伝達比が、動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となることを利用して、基準動作位置の正規の位置からのズレの量を認定することが可能とされている。
【0034】
詳しく説明すると、操作力の大きさは、例えば、車輪の転舵に必要な力が一定であると擬制した場合には、トルク伝達比、つまり、回転伝達比に応じて変化し、また、操作部材のある操作量に対する転舵量も回転伝達比に応じて変化する。一方で、第1シャフトの回転量、つまり、動作位置の変化量は、操作部材の操作量によって変化する。したがって、回転伝達比は操作量に応じて変化し、操作力または転舵量は、その回転伝達比の変化に応じて変化することとなる。つまり、操作力または転舵量と操作量とは、あらかじめ規定された関係に従って、互いに変化するものとされている。そのため、基準動作位置が正規の位置にある場合、第1検出対象量および第2検出対象量の各々は、設定量に応じてそれぞれ規定されている値となる。車両の左旋回の場合と右旋回の場合との旋回特性が等しいことが望ましく、多くのシステムは、基準動作位置が正規の位置にある場合の第1検出対象量および第2検出対象量は等しくされる。したがって、そのようなシステムでは、第1検出対象量と第2検出対象量との差が、設定した値を超えた場合において、回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレていると認定することができ、第1検出対象量と第2検出対象量との差の値から、そのズレの量を認定することができるのである。
【0035】
なお、本項における「転舵量」は、車輪自体の動作量に限定されるものではなく、転舵装置の動作量や、転舵装置を作動させる第2シャフトの回転量等であってもよい。同様に、本項における「操作量」は、操作部材自体の動作量に限定されるものではなく、操作部材の操作に応じて作動させられる部材の動作量、例えば、第1シャフトの回転量等であってもよい。
【0036】
(8)前記検出依拠量が前記転舵量と前記操作量との一方とされ、前記検出対象量がそれらの他方とされており、
前記ズレ量認定部が、前記第1検出対象量となる前記転舵量と操作量との他方の値と、前記第2検出対象量となるその他方の値との差に基づいて、前記ズレの量を認定するように構成された(7)項に記載のステアリングシステム。
【0037】
(9)前記検出依拠量が前記操作量と前記操作力との一方とされ、前記検出対象量がそれらの他方とされ、
前記ズレ量認定部が、左旋回時および右旋回時においてそれぞれ検出された(a)前記第1検出対象量となる前記操作量と操作力との他方の値と(b)前記第2検出対象量となるその他方の値との差に基づいて、前記ズレの量を認定するように構成された(7)項に記載のステアリングシステム。
【0038】
上記2つの態様は、上記ズレの量の認定において用いる検出依拠量および検出対象量を、具体的に限定した態様である。上記2つの態様によれば、上記ズレの量を容易に認定することが可能である。
【0039】
(10)前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、それが前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0040】
本項の態様は、目標助勢力決定部における目標助勢力の決定方法を限定した態様である。本項における「目標助勢力を、操作力に応じた大きさとなるように決定する」とは、例えば、目標助勢力が操作力に関係付けられており、その関係に従って目標助勢力が決定されることを意味する。具体的には、操作力をパラメータとする関数,マップ等を参照して、目標助勢力を決定するような態様が含まれる。典型的には、例えば、目標助勢力は、操作力が大きくなる程大きくなるように決定されることが望ましい。回転伝達比が変更可能若しくは変動するように構成された回転伝達機構を備えてないステアリングシステム、つまり、回転伝達比固定のステアリングシステムでは、一般的に、目標助勢力は、操作力に関係付けられている。本項のステアリングシステムでは、回転伝達比固定のステアリングシステムにおける関係付けを利用することができることから、敢えて新たな関係付けを作成する必要のないことから、当該システムの簡便化を図ることが可能である。
【0041】
(11)前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、前記第1シャフトから前記第2シャフトに伝達された操作力に基づく成分と前記助勢装置による助勢力に基づく成分とを合わせてなる合成力が前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0042】
本項の態様は、目標助勢力決定部における目標助勢力の決定方法を、先の項の態様とは別の決定方法に限定した態様である。本項における「目標助勢力を、合成力が操作力に応じた大きさとなるように決定する」とは、例えば、上記合成力が操作力に関係付けられており、その関係に従った合成力となるように目標助勢力を決定することを意味する。先の項の態様と同様に、例えば、操作力が大きくなる程合成力が大きくなるように目標助勢力を決定することが望ましい。
【0043】
(12)前記助勢力制御装置が、前記操作部材の操作速度に基づいて、前記目標助勢力を補正する操作速度依拠補正部を有する(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0044】
操作部材の操作速度は、操作力,操作量等の操舵操作の様子を表す指標、言い換えれば、操舵操作の様子に関するパラメータである。本項のステアリングシステムによれば、操作速度に基づいて目標助勢力を補正することで、操作部材の操作の様子を反映した適切な助勢力を発生させることが可能である。
【0045】
本項における「操作部材の操作速度に基づく補正」とは、広く解釈すべきであり、操作部材の実際の操作速度に基づく補正だけでなく、その操作速度を実質的に指標するもの、例えば、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転速度等に基づく補正も含まれる。また、その補正の態様についても、特に限定されず、例えば、設定された1以上の閾速度の各々を挟んで操作速度が高いか低いかによって目標助勢力がステップ的に変更されるような補正であってもよく、また、例えば、操作速度に応じて目標助勢力の大きさが連続的に変更されるような補正であってもよい。さらに、「目標助勢力を補正する」についても、広く解釈すべきであり、目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力を直接的に補正することだけに限定されず、例えば、目標助勢力の決定の際に依拠する操作力、つまり、操作力推定部によって推定された操作力を補正することによって、間接的に、目標助勢力を補正することであってもよい。
【0046】
(13)前記操作速度依拠補正部が、前記目標助勢力を、前記操作部材の操作速度が高い場合に、低い場合に比較して大きくなるように補正するように構成された(12)項に記載のステアリングシステム。
【0047】
一般的に、速い操舵操作が行われる場合、助勢装置の動作がその操舵操作に追従し得ないという現象が起こることがある。この現象は、操作に引っ掛かり感を与えてしまう。特に、助勢装置が電磁モータの力によって助勢力を発生させるように構成されている場合には、その現象が起こり易い。本項の態様では、操作部材の操作速度が高い場合に助勢力を大きくすることで、助勢装置の動作を促進し、上記現象を抑制することが可能となる。
【0048】
(14)当該ステアリングシステムが、少なくとも1つのユニバーサルジョイントを有して前記第2シャフトと前記転舵装置の入力軸とを連結する連結機構を備え、
前記助勢力制御装置が、
前記連結機構の構造に起因して生じるところの前記第2シャフトから前記転舵装置の入力軸へ伝達される回転トルクの変動が打ち消されるように、前記目標助勢力を補正する連結機構起因トルク変動依拠補正部を有する(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0049】
ユニバーサルジョイントを介在させて第2シャフトと転舵装置とを連結させる場合、第2シャフトの回転位相、つまり、当該ユニバーサルジョイントの回転位相の変化に伴って、第2シャフトから転舵装置の入力軸に伝達される回転トルクは変化する。つまり、第2シャフトの回転トルクに対する入力軸の回転トルクの比であるトルク伝達比は、周期的に変動する。本項のステアリングシステムによれば、当該システムがユニバーサルジョイントを有する構成であっても、そのトルク伝達比の変動による影響を排除するための補正が行われることから、操舵操作の操作フィーリングが良好に保たれることになる。具体的には、助勢装置がユニバーサルジョイントの操作部材側に配設されているシステムでは、例えば、上記トルク伝達比の逆数を、上記目標助勢力に乗ずることによって、その目標助勢力を補正すればよい。
【0050】
(15)前記連結機構起因トルク変動依拠補正部が、前記転舵装置の入力軸,前記第2シャフト,前記第1シャフトおよび前記操作部材のいずれかの回転位相に基づいて、前記目標助勢力を補正するように構成された(14)項に記載のステアリングシステム。
【0051】
ユニバーサルジョイントによって連結される上記の入力軸および第2シャフトの各々の回転位相は、互いに対応関係にあるため、それらのいずれの回転位相を利用しても、上記補正を適切に行うことができる。また、上記回転伝達比が第1シャフトの回転位相に依存する構成の上記回転伝達機構を採用するシステムにおいては、操作部材および第1シャフトの各々の回転位相と第2シャフトの回転位相とは互いに対応関係にあるため、それら操作部材および第1シャフトの各々の回転位相を利用しても、上記補正を適切に行うことができる。なお、ステアリングシステムは、一般的に、ステアリング操作角(操作量)を検出するためのセンサとして、操作部材若しくは第1シャフトの回転位相を検出するセンサを備えている場合が多い。そのため、本項の態様のステアリングシステムを、操作部材若しくは第1シャフトの回転位相を利用して上記補正を行うように構成すれば、その補正のために別途センサを設ける必要がなく、当該システムの簡素化が図れる。
【0052】
(21)(a)運転者によって操作される操作部材と、(b)その操作部材の操作によって回転する第1シャフトと、(c)その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、(d)その第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、(e)前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達するとともに、(f)前記第1シャフトの回転に伴って自身の動作位置が変化し、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比が、前記動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動するように構成された回転伝達機構とを備えたステアリング装置に適用され、
前記回転伝達機構の基準動作位置の正規の位置からのズレを認定するための方法であって、
(A) 前記操作部材の操作力と直進状態からの車輪の転舵量とのいずれかと、(B)直進状態からの前記操作部材の操作量との一方を、検出依拠量と定義し、他方を、検出対象量と定義した場合において、
左旋回と右旋回との一方の前記操作部材の操作において、前記検出依拠量が設定量となった場合の前記検出対象量である第1検出対象量を検出し、
左旋回と右旋回との他方の前記操作部材の操作において、前記検出依拠量が前記設定量となった場合の前記検出対象量である第2検出対象量を検出し、
前記第1検出対象量と前記第2検出対象量との差が設定差を超えた場合に、前記回転伝達機構の基準動作位置が前記正規の位置からズレていると認定するステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法。
【0053】
本ステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法が適用されるステアリング装置は、大まかには、前述のステアリングシステムと同様に、第1シャフトと第2シャフトとを備え、第2シャフトが、第1シャフトの回転に伴って回転伝達比が変動する回転伝達機構を介して回転させられる構造となっている。したがって、前述のステアリングシステムと同様に、本ステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法が適用されるステアリング装置においては、回転伝達比は操作量に応じて変化し、操作力または転舵量は、その回転伝達比の変化に応じて変化することとなる。したがって、左右の操舵操作において、上記検出依拠量が同じ値となるときの上記検出対象量を比較することで、容易に、回転伝達機構の基準動作位置の正規の位置からのズレを認定できるのである。
【0054】
一般的に、ステアリングシステムは、左旋回と右旋回とで同じ操舵特性となるように構成されるため、例えば、上記設定差を0、若しくは、0に近い値に設定し、第1検出対象量と第2検出対象量との差が、その設定差の値を超えた場合において、回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレていると認定することができる。
【0055】
なお、本項における「設定差」は、必ずしも、基準動作位置が正規の位置にある場合の第1検出対象量と第2検出対象量との差に相当する値である必要はなく、検出誤差等を考慮して、その値にいくらかの余裕(マージン)を付加した値とされていてもよい。また、ズレがある場合であっても、操作フィーリングに悪影響をおよぼす程の大きさのズレではないと考えられるときにおいては、そのズレを許容してもよいとの観点から、不感帯として、設定差に余裕を設けてもよい。
【0056】
本ステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法は、先に説明したズレ量認定部のように、車両自体がこの方法を実行する装置等を備えており、その装置によってこの方法が実行されてもよいし、車両製造時や、ディーラーにおける車両点検時等に、車両外の装置を用いたり,車両に所定の装置を取り付けてその装置を用いることによって実行されてもよい。
【0057】
(22)さらに、前記第1検出対象量と前記第2検出対象量との差と、前記回転伝達機構についての前記動作位置の基準動作位置からの変化量と前記回転伝達比の値との関係に基づいて、前記基準動作位置のズレの量を認定する(21)項に記載のステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法。
【0058】
本項の態様は、ステアリングシステムにおいて説明した前述のズレ量認定部が備える機能に関係し、そのズレ量認定部は、本項の態様のステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法を実行する機能部となる。本項についての説明は、前述のズレ量認定部において行った説明と同様であるため、ここでは省略する。
【0059】
(23)前記検出依拠量が前記転舵量と前記操作量との一方とされ、前記検出対象量がそれらの他方とされており、
前記第1検出対象量となる前記転舵量と操作量との他方の値と、前記第2検出対象量となるその他方の値との差に基づいて、前記ズレの量を認定する(22)項に記載のステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法。
【0060】
(24)前記検出依拠量が前記操作量と前記操作力との一方とされ、前記検出対象量がそれらの他方とされ、
左旋回時および右旋回時においてそれぞれ検出された(a)前記第1検出対象量となる前記操作量と操作力との他方の値と(b)前記第2検出対象量となるその他方の値との差に基づいて、前記ズレの量を認定する(22)項に記載のステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法。
【0061】
上記2つの態様は、本ステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法において用いる検出依拠量および検出対象量を、具体的に限定した態様である。上記2つの態様によれば、上記ズレの量を容易に認定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】請求可能発明の第1実施例としてのステアリングシステムを示す模式図である。
【図2】第1実施例のステアリングシステムが備えるステアリングコラムの断面図である。
【図3】第1実施例のステアリングシステムが備える回転伝達機構および助勢装置の断面図である。
【図4】図3に示すA−A’線における断面図である。
【図5】操作部材が回転操作される際の図3に示すA−A’線における断面図である。
【図6】第1シャフトの回転角と第2シャフトの回転角との関係を示すグラフである。
【図7】第1シャフトから第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比を示すグラフである。
【図8】第1シャフトの回転トルクを補正するための係数のグラフである。
【図9】第1シャフトの回転トルクに対する目標助勢トルクの関係を示すグラフである。
【図10】第1シャフトの回転トルクに対する、第1シャフトから第2シャフトに伝達された操作力に基づく回転トルクと、助勢力に基づく回転トルクとを合わせてなる合成トルクの関係を示すグラフである。
【図11】第2シャフトの回転位相と、第1シャフトの回転トルクに対する転舵装置の入力軸の回転トルクの比である伝達トルク比との関係を示すグラフである。
【図12】回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている状態を示す図である。
【図13】第1実施例のステアリングシステムにおいて認定されるズレの量を示すグラフである。
【図14】第1実施例のステアリングシステムにおいて実行されるズレの量の認定のためのプログラムのフロー図である。
【図15】第1実施例のステアリングシステムが備える制御装置のブロック図である。
【図16】第2実施例のステアリングシステムが備える制御装置のブロック図である。
【図17】第2シャフトの回転トルクを一定とした場合において、第1シャフトの回転トルクの回転角に応じた変動を示すグラフである。
【図18】第2実施例のステアリングシステムにおいて認定されるズレの量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、実施例のステアリングシステムのいくつかを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明のステアリングシステムは、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良が施された種々の形態とすることができる。
【実施例1】
【0064】
≪車両用ステアリングシステムの全体構成≫
図1に、第1実施例のステアリングシステムの全体構成を示す。本ステアリングシステムは、ステアリング装置を有しており、そのステアリング装置は、運転者によって操作される操作部材としてのステアリングホイール10と、一端部にそのステアリングホイール10が取り付けられたステアリングコラム12と、車輪を転舵する転舵装置14と、ステアリングコラム12と転舵装置14との間に位置する伸縮可能なインタミディエイトシャフト(以下、「I/Mシャフト」と略す場合がある)16とを含んで構成されている。さらに、I/Mシャフト16の一端部とステアリングコラム12の備える転舵側シャフト18とは、ユニバーサルジョイント20によって連結され、I/Mシャフト16の他端部と転舵装置14の備える入力軸22の一端部とは、もう1つのユニバーサルジョイント24によって連結されている。なお、本ステアリングシステムは、図1において右側、つまり、ステアリングホイール10側が車両後方側となり、左側、つまり、転舵装置14側が車両前方側となるように配置されている。
【0065】
転舵装置14は、入力軸22と、車輪を転舵するための転舵ロッド30と、その転舵ロッド30を内部に収容するハウジング32とを備えている。転舵ロッド30は、車幅方向に延びる棒状に形成されており、それの車幅方向に移動可能な状態でハウジング32に保持されている。転舵ロッド30の両端部は、左右の前輪の各々を保持するステアリングナックル(図示省略)に連結されている。また、入力軸22は、ハウジング32に回転可能に保持されており、ハウジング32内における入力軸22の端部には、ピニオン(図示省略)が形成されている。一方、転舵ロッド30には、そのピニオンと噛合うラック(図示省略)が形成されている。
【0066】
ステアリングコラム12は、インパネリインフォースメント34に設けられたステアリングサポート36において、車体に支持される。ステアリングコラム12には、それの前方部に前方ブラケット38が設けられ、車両後方側にブレークアウェイブラケット40が設けられている。それら前方ブラケット38およびブレークアウェイブラケット40によって、ステアリングコラム12は、ステアリングサポート36に取り付けられている。
【0067】
図2に、ステアリングコラム12の側面断面図を示す。ステアリングコラム12は、大まかには、ステアリングホイール10を保持するコラムセクション50と、電動式パワーステアリング機能を実現する主体となるEPSセクション52とに区分することができる。以下、それら各セクションについて、順に説明する。
【0068】
コラムセクション50は、ステアリングホイール10が後端部に取り付けられている第1シャフトとしての操作側シャフト60と、その操作側シャフト60を挿通させた状態で保持するコラムチューブ62とを含んで構成されている。操作側シャフト60は、伸縮可能なシャフト部64と、そのシャフト部64の前端部に設けられたフランジ部66とから構成されている。コラムチューブ62は、パイプ状とされた円筒部68と、円筒部68の前端部に設けられて円筒部68よりも外径の大きい大径部70とから構成されている。大径部70には、後述するEPSセクション52のハウジング72の後端部が嵌め合わされており、操作側シャフト60のフランジ部66は、ベアリング74を介して、そのハウジング72に回転可能に保持されている。また、操作側シャフト60の後端部は、ベアリング76を介してのコラムチューブの後端部に回転可能に保持されている。
【0069】
なお、図示は省略するが、コラムセクション50には、操作側シャフト60の回転角度を検出するための操作角センサ78と、転舵側シャフト18の回転角度を検出するための転舵角センサ79とが設けられている(図1参照)。操作角センサ78は、絶対角センサとして、ステアリングホイール10が中立位置(車両が直進しているときの回転位置)とされている場合の操作側シャフト60の回転角度が0°となるように構成されており、操作側シャフト60の回転角度である操作側位相αを検出するものとなっている。また、転舵角センサ79は、転舵側シャフト18の回転角度である転舵側位相βを検出するものとなっている。
【0070】
図3に、EPSセクション52の側面断面図を示す。EPSセクション52は、ハウジング72に回転可能に保持されてステアリングホイール10に加えられた操作力を転舵装置14に出力するための第2シャフトとしての転舵側シャフト18と、駆動源としての電磁モータ80を有してそのモータ80によって転舵側シャフト18の回転を助勢する助勢装置82とを備えている。転舵側シャフト18は、出力側シャフト86,入力側シャフト88,トーションバー90の3つが組み合わされたシャフト部92と、そのシャフト部92の車両後方側に付設された円環部94とを含んで構成されている。出力側シャフト86は、ハウジング72の車両前方側に延出しており、その延出する部分において、ユニバーサルジョイント20に連結されている。
【0071】
転舵側シャフト18のシャフト部92を構成する入力側シャフト88の前方部分は出力側シャフト86の後方部分に挿入されており、それらのシャフト86,88はベアリング96を介して相対回転可能とされている。それらのシャフト86,88は、ともに中空状をなし、それらのシャフト86,88を貫いて貫通穴98が形成されている。この貫通穴98内に、トーションバー90が、両端部がそれぞれそれらのシャフト86,88に固定された状態で配設されている。このように構成されたシャフト部92は、ベアリング100,102,104を介してハウジング72に回転可能に保持される。なお、トーションバー90は、シャフト部92の回転トルクに応じた量だけ捩られ、出力側シャフト86,入力側シャフト88は、その量に応じた量だけ相対回転する。EPSセクション52には、その相対回転量を検出することで、シャフト部92の回転トルク、すなわち、転舵側シャフト18の回転トルクを検出するトルク検出器として、トルクセンサ106が設けられている。なお、上述のように、転舵側シャフト18は、出力側シャフト86と入力側シャフト88とが相対回転するように構成されているが、その相対回転量は転舵側位相βに対して無視できる程度の大きさであると考え、本明細書中においては、説明を簡単にするために、入力側シャフト88の回転角を、転舵側シャフト18の回転角として扱うこととする。
【0072】
助勢装置82は、上記電磁モータ80と、その電磁モータ80のモータ軸に連結されたウォーム112と、そのウォーム112と噛み合うウォームホイール114とを含んで構成されている。そのウォームホイール114は、転舵側シャフト18を構成する出力側シャフト86に固定されている。電磁モータ80の力は、ウォーム112,ウォームホイール114を介して出力側シャフト86に作用する。この力が、転舵側シャフト18の回転を助勢するための助勢力、さらに言えば、車輪の転舵を助勢するための助勢力となる。
【0073】
転舵側シャフト18および操作側シャフト60は、互いにシフトした状態で、つまり、各々の回転軸線が互いに平行、かつ、それら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されている。所定距離は、図3において、シフト量dとして示されている。操作側シャフト60のフランジ部66の前方側の端面には、図3のA−A’断面図である図4に示すように、径方向に延びる溝130が形成されている。一方、入力側シャフト88の円環部94には、当該シャフト88の軸線からオフセット量L偏心した位置において、当該シャフト88の軸線方向と平行な状態で、ピン132が後方に向かって立設固定されている。そのピン132に、ローラ136がベアリング138を介して回転可能に支持されおり、そのローラ136は、フランジ部66に形成された溝130内に配置されている。ちなみに、溝130の幅は、ローラ136の外径より僅かだけ大きくされている。後に詳しく説明するが、操作側シャフト60が回転すると、ローラ136が溝130に案内される状態で操作側シャフト60の径方向に移動しつつ、その回転が、転舵側シャフト18に伝達される。つまり、ステアリングコラム12は、上記ローラ136が転舵側シャフト18に設けられた係合部として、上記溝130が操作側シャフト60に設けられてその係合部の移動を許容する案内通路としてそれぞれ機能する回転伝達機構140を備えているのである。
【0074】
≪回転伝達機構の機能≫
図5に、円形フランジ部66と、溝130に係合するローラ136との断面図(図3のA−A’断面図に相当する)を示す。図5(a)は、ステアリングホイール10が中立位置(操作側位相=0°)にあるときの状態を、図5(b)は、ステアリングホイール10が中立位置から左旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図5(c)は、ステアリングホイール10が中立位置から右旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図5(d)は、ステアリングホイール10が中立位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された位置にあるときの状態を、それぞれ示している。なお、説明の簡素化に配慮し、以下の説明において、本ステアリングシステムでは、ステアリングホイール10は、左右に180°しか操作されないものとして扱う。
【0075】
ここで、回転伝達機構140の動作に関して、当該回転伝達機構140の動作位置という概念を導入することにする。その動作位置は、ステアリングホイール10の操作に応じて変化する位置であり、回転伝達機構140の姿勢と考えることのできるものである。その動作位置は、具体的には、例えば、ローラ136の転舵側シャフト18の軸線まわりの回転位相と考えることもでき、また、溝130の操作側シャフト60の回転位相と考えることもできる。また、回転伝達機構140が図5(a)に示す状態、つまり、操作側シャフト60の回転軸線と転舵側シャフト18の回転軸線とを含む平面内にローラ136の回転軸線が位置する状態における回転伝達機構140の動作位置を、基準動作位置として扱うこととする。本ステアリングシステムでは、この基準動作位置が正規の位置にある場合、図5(a)に示す状態は、ステアリングホイール10が中立位置にあって、車両が直進状態となっている。
【0076】
図から解るように、回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置にある場合、ステアリングホイール10が中立位置から右、若しくは左旋回方向に90゜回転操作されたときには、操作側シャフト60は自身の回転軸線を中心に90°回転するが、転舵側シャフト18は自身の回転軸線を中心に90°までは回転しない。そして、ステアリングホイール10が、さらに回転操作されて、中立位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された場合に、操作側シャフト60および転舵側シャフト18は共に180゜回転する。回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置にある場合において、操作側シャフト60の操作側位相αと、転舵側シャフト18の転舵側位相βとの関係は、図6の実線で示すような関係となっている。ステアリングホイール10が中立位置から左旋回方向に180゜未満で回転操作される場合には、転舵側位相βは操作側位相αより小さく、180゜回転操作されると、転舵側位相βと操作側位相αとは同じとなる。つまり、操作側位相αが0°若しくは180゜となる場合には、転舵側位相βもそれぞれ0°若しくは180゜となり、回転位相差は0となる。一方、操作側位相αが0°から180゜に変化する間に、回転位相差は徐々に増加し、ある回転角からは逆に、徐々に減少し、0となるのである。ステアリングホイール10が中立位置から右旋回方向に回転操作される場合も同様である。
【0077】
回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置にある場合において、操作側シャフト60と転舵側シャフト18との回転伝達比(dβ/dα)、つまり、操作側シャフト60の回転角速度(dα/dt)に対する転舵側シャフト18の回転角速度(dβ/dt)の比は、図7の実線で示すように、操作側位相αに応じて変動する。図から解るように、操作側位相αが0°となっている場合に、回転伝達比(dβ/dα)は最も小さい。また、操作側位相αが大きくなるにつれて回転伝達比(dβ/dα)は大きくなり、操作側位相αが180°の場合に、回転伝達比(dβ/dα)は最も大きくなる。つまり、ステアリングホイール10の操作角(操作量)が小さい場合には、その操作角の変化量に対する車輪の転舵量の変化量の比が比較的小さくなり、車両の直進安定性が良好となる。一方、ステアリングホイール10の操作角が大きくなると、その操作角の変化量に対する車輪の転舵量の変化の比が比較的大きくなり、少しの操作で車両の向きを大きく変え易くなる。このように、回転伝達機構140は、回転伝達比が第1シャフトの回転位相αに依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動する。なお、操作側シャフト60から転舵側シャフト18への回転トルクの伝達に関していえば、伝達される回転トルクは、上記回転伝達比の変動に伴って変動する。ここで、操作側シャフト60の回転トルクに対する転舵側シャフト18の回転トルク比をトルク伝達比とすれば、そのトルク伝達比は、上記回転伝達比の逆数となる。
【0078】
≪助勢力の制御≫
i)制御システムのハード構成
先に述べた助勢装置82が発生させる助勢力の制御は、図1に示す助勢力制御装置150によって行われる。助勢力は、助勢装置82が有するモータ80への供給電流の大きさに応じた大きさとなる。モータ80は、駆動回路としてのインバータ152を介して、図示を省略する電源に接続されており、助勢力制御装置150は、そのインバータ152に、モータに供給すべき電流に関する指令を送ることによって、助勢力を制御する。
【0079】
助勢力制御装置150は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータを主体とする装置であり、所定のプログラムを実行することによって、助勢力の制御を行う。ROMには、そのプログラムを始め、制御に関する各種のデータ等が記憶されている。また、助勢力制御装置150には、先に述べた転舵側シャフト18の回転トルクを検出するためのトルクセンサ106や、操作側シャフト60の回転位相を検出する操作角センサ78、転舵側シャフト18の回転位相を検出する転舵角センサ79等の各種センサが接続されており、助勢力制御装置150は、それらのセンサからの信号に基づいて、助勢力の制御を行う。
【0080】
ii)操作力の推定
本ステアリングステムでは、ステアリングホイール10の操作力に基づいて、助勢装置82が発生させるべき助勢力である目標助勢力が決定されるようになっており、その決定の前提として、トルクセンサ106によって転舵側シャフト18の回転トルクに基づいて、その操作力が推定される。具体的には、操作力と等価なものとして、操作側シャフト60の回転トルク(以下、「操作トルクTS」という)が推定される。ちなみに、転舵側シャフト60の回転トルクは、回転伝達機構140によって、操作トルクTSが伝達されたものと考えることができるため、以下、伝達トルクTDと呼ぶこととする。
【0081】
先に説明したように、操作トルクTSに対する伝達トルクTDの比は、回転伝達比(dβ/dα)の逆数となる。そのため、下記式(1)に従って、検出された伝達トルクTDを回転伝達比(dβ/dα)で除することによって、操作トルクTSが推定される。ちなみに、回転伝達比(dβ/dα)は、操作側位相αに基づき、ROMに格納されたマップデータ(図7参照)を利用して認定される。
S=TD/(dβ/dα) ・・・(1)
【0082】
本ステアリングシステムでは、回転伝達機構140は、回転伝達比(dβ/dα)が操作側位相αの変化に伴って変動するように構成されているため、伝達トルクTD自体は操作力の大きさを適切に表すものとはなっていない。しかしながら、本ステアリングシステムでは、上記のように、伝達トルクTDから回転伝達比(dβ/dα)に基づいて、操作力が適切に推定されるのである。
【0083】
iii)操作速度に基づく補正
速い操舵操作を行った場合、その操作に、助勢装置82が有するモータ80の動作が追従し得ないことが考えられる。モータ80の動作を速い操舵操作に追従させるためには、モータ80への供給電流を大きくすることが望ましい。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、操舵操作が速い程モータ80への供給電流をより大きくすべく、目標助勢力をより大きくするように構成されている。目標助勢力を大きくするためには、後に説明するように、決定された目標助勢力を直接的に補正してもよいが、本ステアリングシステムでは、上記推定された操作トルクTSを補正することによって、間接的に目標助勢力を補正する手法を採用している。
【0084】
上記補正は、ステアリングホイール10の操作速度vに基づいて行われる。その操作速度vは、操作角センサ78によって検出された操作側位相αの変化に基づいて算出される。操作トルクTSを補正するための操作速度補正依拠係数KVは、図8に示すようなマップデータとして、ROMに格納されている。そのマップデータを用い、算出された操作速度vに基づき、操作速度依拠補正係数KVが決定される。そして、その決定された操作速度依拠補正係数KVを用い、下記式(2)に従って、操作トルクTSが補正される。
S=KV×TS ・・・(2)
【0085】
iv)目標助勢力の決定
本ステアリングシステムは、転舵側シャフト18の回転を助勢する構造とされているため、助勢力は、転舵側シャフト18の回転に対する助勢トルクとみなすことができる。そこで、助勢力の制御では、目標助勢力と等価なものとして、目標助勢トルクが決定される。ROMには、図9に示すような操作トルクTSに対する助勢トルクTAのマップデータが格納されており、そのマップデータを利用して目標助勢トルクTA*が決定される。
【0086】
車輪の転舵は、転舵側シャフト18に伝達された操作力に基づく成分と、助勢力に基づく成分とを合わせた合成力によって行われる。つまり、上記伝達トルクTDと助勢トルクTAとが合わさった合成トルクTCによって行われる。図10は、操作トルクTSに対する合成トルクTCの関係を示すグラフである。ちなみに、そのグラフは、回転伝達比(dβ/dα)が固定された場合の関係である。その関係に従う合成トルクTCが得られるように、つまり、操作トルクTSに応じた合成トルクCが得られるように目標助勢トルクTA*を決定することが、操作フィーリングを良好に維持することに寄与する。
【0087】
ところが、本ステアリングシステムでは、回転伝達機構140は、回転伝達比(dβ/dα)が変動するため、伝達トルクTDがその変動に応じて変動し、合成トルクTCは、必ずしも、上記関係に従ったものとはならない。そのことに配慮して、本ステアリングシステムでは、まず、推定された操作トルクTSに基づき、図10に示す関係に基づいて設定・格納されたマップデータを利用して、基準となる助勢トルクである基準助勢トルクTA0が決定され、その基準助勢トルクTA0と、認定されている回転伝達比(dβ/dα)とに基づいて、次式(3)に従って、目標助勢トルクTA*が決定される。
A*=TA0−{(dα/dβ)−1}×TS ・・・(3)
【0088】
なお、上記のような決定手法に代えて、検出された伝達トルクTDに基づいて、次式(4)に従って、目標助勢トルクTA*を決定することもできる。
A*=TA0+{(dβ/dα)−1}×TD ・・・(4)
【0089】
v)ユニバーサルジョイントによる目標助勢トルクの補正
転舵側シャフト18と、転舵装置14の入力軸22との間には、2つのユニバーサルジョイント20、24が介在させられており、転舵側シャフト18の回転トルクが一定であったとしても、それらユニバーサルジョイント20、24の構造に起因して、入力軸22の回転トルクが変動することになる。本ステアリングシステムでは、具体的には、転舵側シャフト18の回転トルクに対する入力軸22の回転トルクの比である伝達トルク比は、転舵側シャフト18の回転位相である転舵側位相βに対して、図11に示すように変動する。
【0090】
上記のことを考慮して、本ステアリングシステムでは、上記入力軸22のトルク変動を解消すべく、目標助勢トルクTA*が補正される。具体的には、転舵角センサ79によって検出される転舵側位相βに基づいて、上記図11に示す伝達トルク比の逆数として設定されてROMに格納されているジョイント依拠補正係数KJのマップデータを用い、次式(5)に従って、目標助勢トルクTA*が補正される。
A*=KJ×TA* ・・・(5)
vi)目標供給電流の決定
本ステアリングシステムでは、目標助勢トルクTA*に基づいて、助勢装置82のモータ80への目標供給電流IA*が決定され、その目標供給電流IA*に基づく指令が、インバータ152に送られる。インバータ152は、その指令に基づく供給電流がモータ80に流れるように動作し、車輪の転舵に対して適切な助勢力が付与される。
【0091】
vii)回転伝達機構の基準動作位置のズレ
本ステアリングシステムでは、転舵装置14が配置固定された状態で、ステアリングホール10が取り付けられたステアリングコラム12を、I/Mシャフト16によって転舵装置14と連結させつつ、ステアリングサポート36に組み付ける。ここで、ステアリングホイール10の操作側シャフト60に対する取付角が正規の角度からズレているようなを場合を考える。この場合において、転舵装置14の中立位置とステアリングホイール10の中立位置とを整合させつつ、ステアリングコラム12を組み付ければ、上述した回転伝達機構140の基準動作位置が、正規の位置からずれることになる。つまり、ステアリングホイール10が中立位置にあるときに、図12に示すように、ローラ136の回転軸線が、操作側シャフト60の回転軸線と転舵側シャフト18の回転軸線とを含む平面にない状態となる。図12に示す状態は、操作側位相αにおいて、基準動作位置が約30 °ズレた状態、言い換えれば、操作側シャフト60のフランジ部66に形成された溝130が、約30 °傾いた状態である。
【0092】
回転伝達機構140において、上述のように、基準動作位置が正規の位置からズレている場合、場合、操作側位相αと転舵側位相βとの関係は、図6の二点鎖線 のようになる。図6の二点鎖線 で表わす関係は、実線で示す基準動作位置が正規の位置にある場合の関係に対して、操作側位相αにおいて、上記ズレである30 °分だけズレた状態となる。また、同様に、回転伝達比(dβ/dα)も、図7の二点鎖線 に示すように、30°分だけズレた状態となる。したがって、基準動作位置が正規の位置からズレている場合、単に、操作側位相αの値に基づいて、回転伝達比(dβ/dα)の値を認定しても、その値は、実際の回転伝達比(dβ/dα)の値とは異なる。その結果、認定された回転伝達比(dβ/dα)の値を用いても、操作力を適切に推定することができず、車輪の転舵に対して適切な助勢力を付与することもできなくなってしまうのである。
【0093】
viii)ズレの認定およびズレ量の認定
本ステアリングシステムは、このように、基準動作位置が正規の位置からズレた位置にある場合でも、そのズレを認定し、そのズレの量を考慮して、操作力を適切に推定するようにされている。以下に、ズレの認定、および、ズレ量の認定方法について具体的に説明する。
【0094】
まず、車両直進状態から一方向に車輪が転舵させられ、転舵角センサ79によって検出された転舵側位相βが、予め設定された設定量としての設定転舵側位相β1となったときに、操作角センサ78によって検出された操作側位相αの値が第1操作側位相α1として検出される。次に、車輪を反対方向に転舵させ、転舵側位相βが設定転舵側位相β1となったときに、操作側位相αの値が第2操作側位相α2として検出される。基準動作位置が正規の位置にある場合の第1操作側位相をα1’、第2操作側位相をα2’とすれば、図6に示すように、これら第1操作側位相α1’と第2操作側位相α2’とは等しくなる。しかし、基準動作位置が正規の位置からズレている場合には、それら第1操作側位相α1と第2操作側位相α2とは等しくならない。
【0095】
本ステアリングシステムでは、第1操作側位相α1と第2操作側位相α2との差の1/2が、次式(6)に従って、検出位相差dαとして認定され、
dα=(α1−α2)/2 ・・・(6)
この位相差dαの絶対値が、予め設定された値である設定差dα0を超えた場合に、回転伝達機構140の基準動作位置が正規の位置からズレていると認定するようにされている。この設定差dα0(プラスの値として設定されている)は、操作角センサ78,転舵角センサ79による検出の精度等を考慮して設定されたマージンであり、比較的小さい値とされている。そして、図13に示すように、基準動作位置が正規の位置からずれていると認定された場合に、そのズレの量としてズレ角度Δαが、次式(7)に従って認定される。
Δα=dα−dα0 (dα>0の場合)
Δα=dα+dα0 (dα<0の場合) ・・・(7)
図から解るように、dαが−dα0〜+dα0となる範囲は、不感帯として扱われているのである。ちなみに、検出位相差dαの絶対値が設定差dα0以下の場合は、ズレ角度Δαが0°とされる。操作側位相αは、上記ズレ角度Δαに基づいて、次式(8)に従って補正され、
α=α−Δα ・・・(8)
上述した助勢力の制御は、補正された操作側位相αを用いて行われる。
【0096】
このように、本ステアリングシステムは、回転伝達機構140の基準動作位置の正規の位置からのズレを認識する機能を有しており、この機能に関して補足すれば、本ステアリングシステムは、検出依拠量として転舵側位相βを、検出対象量として操作側位相αをそれぞれ採用し、車両の左右の旋回において転舵側位相βが同じとなったときの操作側位相αを比較することによって、ズレを認定し、ズレの量を認定しているのである。そして、転舵側位相βを検出する転舵角センサ79が検出依拠量検出器として、操作側位相αを検出する操作角センサ78が検出対象量検出器として、それぞれ機能するものとなっている。
ix)ズレ量認定プログラム
【0097】
このようなズレ量の認定は、図14にフロー図を示すズレ量認定プログラムが、助勢力制御装置150において、車両が始動した際に1度だけ行われる。そのプログラムに従う処理では、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様とする)において、操作側位相αおよび転舵側位相βが検出される。S2およびS3においては、転舵角センサ79のキャリブレーション処理が行われる。この処理は、転舵角センサ79が絶対角センサではないために行われる処理である。具体的に言えば、S2において、操作側位相αが0°となっているか否かが判定され、操作側位相αが0°となった場合に、S3において、転舵側位相βを0°とすることで、転舵角センサ79の検出値の基準の設定が行われる。なお、S2およびS4においては、その基準の設定が行われたか否かを示す転舵フラグFβについての判定も行われ、S3においてフラグFβが1とされた以後は、上記キャリブレーション処理をスキップするようにされている。
【0098】
キャリブレーション処理が行われた後、S5において、転舵側位相βが設定転舵側位相β1を超えたか否かが判定される。その際、車両が右旋回されている場合にのみカウントされる右旋回フラグFRが0であるか否かも判定される。右旋回フラグFRが0であり、かつ、転舵側位相βが設定転舵側位相β1を超えた場合には、S6において、操作側位相αが第1操作側位相α1として検出され、右旋回フラグFRが1とされる。S5において、右旋回フラグFRが0であり、かつ、転舵側位相βが設定転舵側位相β1を超えた場合でなければ、S7において、車両が左旋回されている場合にのみカウントされる左旋回フラグFLが0であるか否かと、転舵側位相βが設定転舵側位相β1を超えているか否かとが判定される。左旋回フラグFLが0であり、かつ、転舵側位相βが設定転舵側位相β1を超えた場合には、S8において、操作側位相αが第2操作側位相α2として検出され、左旋回フラグFLが1とされる。
【0099】
次に、S9において、右旋回フラグFRが1で、かつ、左旋回フラグFLが1であるか否かが判定される。右旋回フラグFRおよび左旋回フラグFLがともに1とされていれる場合には、第1操作側位相α1および第2操作側位相α2が検出されていることになるため、S10において、dαの絶対値が設定差dα0を超えているかどうかが判定される。超えている場合には、S11において、式(7)に基づいて、ズレ角度Δαが算出される。S12においては、右旋回フラグFRが1および左旋回フラグFLと、フラグFとが0にリセットされて、ズレ量の認定が終了する。なお、S10において、dαの絶対値が設定差dα0を超えていない場合には、基準動作位置が正規の位置からズレていないと認定され、S13において、ズレ角度Δαが0とされて、プログラムが終了する
【0100】
x)ズレを考慮した操作力の推定および目標助勢力の決定
操作側位相αは、上記式(8)に従って、ズレ角度Δαに基づく補正が行わる。この補正された操作側位相αである補正操作側位相αと、転舵側位相βとの関係は、図6における実線で示される関係となり、また、補正操作側位相αと回転伝達比(dβ/dα)との関係は、図7における実線で示される関係となる。つまり、補正操作側位相αを用いれば、基準動作位置が正規の位置にある場合の操作側位相αと回転伝達比(dβ/dα)との関係を利用することができる。したがって、上述の操作トルクTSの推定および目標助勢力の決定は、補正操作側位相αに基づいて、図7に示すマップデータを参照して認定される回転伝達比(dβ/dα)の値を用いて行われる。なお、上述の操作速度に基づく操作トルクTSの補正において用いられる操作速度vは、補正される前の操作側位相αの変化に基づいて算出される。
【0101】
このように、本ステアリングシステムによれば、基準動作位置が正規の位置からズレている場合でも、補正操作側位相αの値に基づいて、回転伝達機構において実現されている回転伝達比(dβ/dα)の値を認定することができる。したがって、操作トルクTSは、その回転伝達比(dβ/dα)に基づいて適切に推定され、助勢力制御装置150によって適切な助勢力が発生させられる。したがって、本ステアリングシステムによれば、基準動作位置が正規の位置からズレている場合であっても、運転者がステアリングホイール10に同じように操作力を加えれば、車両を同じように左旋回または右旋回させることができ、操作フィーリングを良好に維持させることができるのである。
【0102】
≪助勢力制御装置の機能構成≫
先に説明したように、本ステアリングシステムにおける上記転舵助勢制御は、助勢力制御装置150によって実行される。図15のブロック図に示すように、助勢力制御装置150は、転舵助勢制御の実行によって、それぞれが、自身に割り当てられた処理を実行する複数の機能部を有していると考えることができる。以下に、助勢力制御装置150の複数の機能部の各々と、その各々による処理を、転舵助勢制御についての先の説明を参照しつつ説明する。
【0103】
ズレ角度Δαは、ズレ量認定部160において、操作角センサ78によって検出される操作側位相αと、転舵角センサ79によって検出される転舵側位相βとから、式(7)に従って算出される。言い換えれば、ズレ量認定部160は、前述のズレ量認定プログラムを実行する機能部となっている。ズレ角度Δαは、操作側位相補正部161に入力され、補正操作側位相αは、操作側位相補正部161において、式(8)に従って算出される。この補正操作側位相αは、回転伝達比認定部162に入力され、回転伝達比認定部162は、データ格納部163に格納されているマップデータを参照して、回転伝達比(dβ/dα)を認定する。一方、トルクセンサ106によって、転舵側シャフト18の回転トルクである伝達トルクTDが検出されており、その伝達トルクTDと、認定された回転伝達比(dβ/dα)は、操作トルク推定部164に入力され、その操作トルク推定部164において、式(1)に従って、操作トルクTSが推定される。推定された操作トルクTSは、操作速度依拠補正部166に入力される。一方、操作速度依拠補正部166には、補正される前の操作側位相αも入力されており、操作速度依拠補正部166は、その操作側位相αに基づいてステアリングホイール10の操作速度vを推定し、その推定された操作速度vに基づき、データ格納部163に格納されたマップデータを参照して、操作速度補正依拠係数KVを認定する。そして、操作速度依拠補正部166は、入力されている操作トルクTSを、認定された操作速度補正依拠係数KVを用いて、式(2)に従って補正する。
【0104】
補正された操作トルクTSは、目標助勢トルク決定部170に入力され、目標助勢トルク決定部170は、入力された操作トルクTSに基づき、データ格納部163に格納されているマップデータを参照して、基準助勢トルクTA0を決定する。さらに、目標助勢トルク決定部170には、回転伝達比(dβ/dα)も入力されており、目標助勢トルク決定部170は、決定された基準助勢トルクTA0と、回転伝達比(dβ/dα)とに基づき、式(3)に従って、目標助勢トルクTA*を決定する。決定された目標助勢トルクTA*は、連結機構起因トルク変動依拠補正部172に入力される。連結機構起因トルク変動依拠補正部172には、転舵角センサ79によって検出される転舵側位相βも入力されており、連結機構起因トルク変動依拠補正部172は、データ格納部163に格納されているマップデータを参照して、ジョイント依拠補正係数KJを決定し、そのジョイント依拠補正係数KJに基づき、式(5)に従って、目標助勢トルクTA*を補正する。助勢装置作動制御部174は、その目標助勢トルクTA*に基づいて、目標供給電流IA*を決定し、その目標供給電流IA*に基づく指令を、インバータ152に送る。
【0105】
なお、上記目標助勢トルク決定部170に伝達トルクTDが入力されるように構成し、その目標助勢トルク決定部170を、入力された伝達トルクTDに基づき、式(4)に従って、目標助勢トルクTA*を決定するように構成することも可能である。
【0106】
≪変形例≫
上記実施例のステアリングシステムは、上記ズレ量認定部が外された状態のシステムとして実施することも可能である。その変形例となるステアリングシステムでは、ズレ角度Δαを認定する機能を有しておらず、ズレ角度Δαは、予め、データ格納部163に格納されていればよい。その場合、ズレ角度Δαの認定は、例えば、車両製造時、車両整備時等に、車両外部に設けられた設備を用いて行い、その認定されたズレ角度Δαを、データ格納部163に格納すればよい。ズレ角度Δαの認定は、先に説明したズレ量認定方法に従って行えばよい。
【0107】
また、上記実施例のステアリングシステムでは、検出依拠量として転舵側位相βを、検出対象量として操作側位相αをそれぞれ採用し、車両の左右の旋回において転舵側位相βが同じとなったときの操作側位相αを比較することによって、ズレを認定し、ズレの量を認定している。そのような認定に代え、逆に、検出依拠量として操作側位相αを、検出対象量として転舵側位相βをそれぞれ採用し、車両の左右の旋回において操作側位相αが同じとなったときの転舵側位相βを比較することによって、ズレを認定し、ズレの量を認定してもよい。その場合、操作角センサ78が検出依拠量検出器として、転舵角センサ79が検出対象量検出器として、それぞれ機能するものとなる。
【実施例2】
【0108】
本実施例のステアリングシステムは、第1実施例のステアリングシステムが有する助勢力制御装置150の代わりに、図16に示すような助勢力制御装置200を有している。本実施例のステアリングシステムは、助勢力制御装置の構成が異なることと、転舵角センサを有していないこととを除き、第1実施例のステアリングシステムと同様の構成とされている。なお、助勢力制御装置200は、回転伝達機構140の基準動作位置の正規の位置からのズレおよびそのズレの量を認定する機能を有しておらず、それら認定は、車両製造時、車両点検時等において行われる。以下の説明においては、説明の簡略化に配慮し、助勢力制御装置150と助勢力制御装置200との異なる部分、および、回転伝達機構140のズレおよびズレ量の認定方法を中心に説明することとする。
【0109】
転舵に必要な力が転舵量の変化に対しても一定となるような路面(標準路面)上に車両があると考え、また、助勢力が発生させられないと考えた場合、上記伝達トルクTDが一定であるとみなすことができるため、上記回転伝達機構140を備えていないステアリングシステムの場合、ステアリングホイール10の操作力、つまり、操作トルクTSは、ステアリングホイール10の操作量、つまり、操作側位相αによらず、一定となる。それに対し、上記回転伝達機構140を備えたステアリングシステムでは、上述したように、回転伝達比(dβ/dα)が操作側位相αによって変動するため、操作トルクTSは、操作側位相αに応じて、図17に実線で示すように変動する。ここで、回転伝達機構140の基準動作位置が正規の位置からズレている場合を考えると、操作トルクTSは、二点鎖線で示すように変動し、同じ操作側位相α3となるように左右にステアリングホイール10を操作した場合であっても、操作トルクTSの値は、左旋回操作の場合と右旋回操作の場合とで異なることになる。本実施例のステアリングシステムでは、このような現象を利用して、回転伝達機構140の基準動作位置のズレおよびズレの量が認定される。なお、本実施例では、説明の簡素化の観点から、ユニバーサルジョイント20,24によるトルク変動については、考慮しないこととする。
【0110】
上記ズレおよびズレの量の認定に際し、操作力としての操作トルクTSを検出するための操作トルクセンサを、操作側シャフト60に取り付け、上記標準路面を模したステージに車両を載せ置く。この状態において、助勢力を発生させずに、操作角センサ78によって検出される操作側位相αが予め設定された設定量としての設定操作側位相α3となるまでの左旋回操作を行い、その時に上記操作トルクセンサによって検出された操作トルクTSを、第1操作トルクTS1として認定する。次いで、設定操作側位相α3となるまでの右旋回操作を行い、その時の操作トルクTSを、第2操作トルクTS2として認定し、第1操作トルクTS1および第2操作トルクTS2との差であるトルク差dTSを、次式(9)に従って認定する。
dTS=TS1−TS2 ・・・(9)
そして、上記認定されたトルク差dTSに基づき、その絶対値が、予め設定された値である設定差dTS0を超えていた場合に、回転伝達機構140の基準動作位置が正規の位置からズレていると認定する。
【0111】
上記設定差dTS0(プラスの値として設定されている)は、操作角センサ78,上記操作トルクセンサによる検出の精度等を考慮して設定されたマージン(不感帯)であり、比較的小さい値とされている。トルク差dTSと、回転伝達機構140の基準動作位置のズレ量である前述のズレ角度Δαとは、図18に示すようなマップデータによって関係付けられており、基準動作位置が正規の位置からズレていると認定した場合に、ズレ角度Δαを、そのマップデータを参照することによって、認定する。つまり、本ステアリングシステムが有する回転伝達機構140の基準動作位置のズレおよびズレの量の認定では、検出依拠量として操作側位相αを、検出対象量として操作トルクTSをそれぞれ採用し、車両の左右の旋回において操作側位相αが設定操作側位相α3となったときの操作トルクTSを比較することによって、ズレを認定し、ズレの量を認定しているのである。
【0112】
上記認定されたズレ角度Δαは、助勢力制御装置200のデータ格納部163に格納され、助勢力制御装置200による助勢力の制御に用いられる。本実施例のステアリングシステムによる制御では、先の第1実施例のステアリングシステムによる制御と同様に、操作角センサ78によって検出された操作側位相αに対して、上記式(8)に従って、ズレ角度Δαに基づく補正が行われる。そして、この補正された操作側位相αに基づいて、操作トルクTSの推定および目標助勢力の決定が行われる。
【0113】
なお、本ステアリングシステムの助勢力制御装置200による助勢力の制御では、上述したステアリングホイール10の操作速度vに基づく補正は、決定された目標助勢トルクTA*に対して行われる。具体的には、マップデータとして格納されている上述の操作速度依拠補正係数KVに基づき、次式(10)に従って、目標助勢トルクTA*が補正される。
A*=KV×TA* ・・・(10)
【0114】
また、助勢力制御装置200による助勢力の制御では、目標助勢トルクTA*は、助勢力が操作力に応じた大きさとなるように決定される。具体的には、推定された操作トルクTSに基づき、図10に示す関係に基づいて設定・格納された上記マップデータを利用して、決定される。つまり、第1実施例のステアリングシステムが備える助勢力制御装置150による制御における決定と同様にして決定された基準助勢トルクTA0が、そのまま、目標助勢トルクTA*として決定される。このようにして助勢力を決定しても、良好な操舵フィーリングの操舵操作が実現される。ちなみに、助勢力制御装置200では、ユニバーサルジョイントによる目標助勢トルクの補正は行われない。
【0115】
助勢力制御装置200の機能構成について説明すれば、当該制御装置200は、図16に示すように、第1実施例の助勢力制御装置150から、ズレ量認定部160を削除した構成とされている。そのため、助勢力制御装置200では、操作角センサ78によって検出された操作側位相αは、直接、操作側位相補正部161に入力される。
【0116】
また、助勢力制御装置200では、操作トルク推定部164から送られる操作トルクTSが目標助勢トルク決定部202に入力される。目標助勢トルク決定部202は、操作トルクTSから、データ格納部163に格納されているマップデータを参照して、基準助勢トルクTA0を決定し、それを目標助勢トルクTA*として操作速度依拠補正部204に送る。その操作速度依拠補正部204は、データ格納部163に格納されているマップデータを参照して、操作速度補正依拠係数KVを決定し、目標助勢トルクTA*を補正する。補正された目標助勢トルクTA*は助勢装置作動制御部174へと送られ、助勢力制御装置200は、助勢力制御装置150によって行われる処理と同様の処理を行って、目標供給電流IA*に基づく指令をインバータ152に送る。
【0117】
本ステアリングシステムでは、回転伝達機構140の基準動作位置のズレおよびズレの量を認定する機能を有していないが、それらズレ,ズレ量を自身で認定するための機能部を、助勢力制御装置200に備えるようにステアリングシステムを構成してもよい。つまり、上述の操作トルクセンサを装備し、助勢制御装置200に、第1実施例のステアリングシステムの助勢力制御装置が有するズレ量認定部と同様のズレ量認定部を備えるように構成することも可能である。
【0118】
さらに、本ステアリングシステムにおける回転伝達機構140の基準動作位置のズレおよびズレの量の認定は、上述したように、検出依拠量として操作側位相αを、検出対象量として操作トルクTSをそれぞれ採用し、車両の左右の旋回において操作側位相αが同じとなったときの操作トルクTSを比較することによって行われる。この方法に代え、検出依拠量として操作トルクTSを、検出対象量として操作側位相αをそれぞれ採用し、車両の左右の旋回において、操作トルクTSが設定量としての設定トルクとなったときの操作側位相αを比較することによって、ズレおよびズレの量を認定してもよい。
【符号の説明】
【0119】
10:ステアリングホイール(操作部材) 14:転舵装置 18:転舵側シャフト(第2シャフト) 20:ユニバーサルジョイント 22:入力軸 24:ユニバーサルジョイント 60:操作側シャフト(第1シャフト) 80:電磁モータ(駆動源) 82:転舵助勢装置 106:トルクセンサ 130:溝 138:係合部 140:回転伝達機構 150:助勢力制御装置 164:操作トルク推定部(操作力推定部) 166:操作速度依拠補正部 170:目標助勢トルク決定部(目標助勢力決定部) 172:連結機構起因トルク変動依拠補正部 174:助勢装置作動制御部 200:助勢力制御装置 α:操作側位相(第1シャフトの回転位相) β:転舵側位相(第2シャフトの回転位相) (dβ/dα):回転伝達比 TA*:目標助勢トルク TD:伝達トルク(第2シャフトの回転トルク) v:操作速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材の操作によって回転する第1シャフトと、
その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、
その第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、
前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達するとともに、前記第1シャフトの回転に伴って自身の動作位置が変化し、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比が、前記動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動するように構成された回転伝達機構と、
前記第2シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、
駆動源を有して、車輪の転舵を自身が発生させる助勢力によって助勢する助勢装置と、 (a)前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクから、前記回転伝達比に基づいて、運転者によって前記操作部材に加えられている操作力を推定する操作力推定部と、(b)その操作力推定部によって推定された操作力に基づいて、目標助勢力を決定する目標助勢力決定部と、(c)その目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力に基づいて、前記助勢装置の作動を制御する助勢装置作動制御部とを有する助勢力制御装置と を備えたステアリングシステムであって、
前記操作力推定部が、前記回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている場合において、そのズレの量に基づいて前記操作部材の操作力を推定するように構成されたステアリングシステム。
【請求項2】
前記操作力推定部が、前記トルク検出器によって検出される前記第2シャフトの回転トルクを前記回転伝達比で除することよって、前記第1シャフトの回転トルクを推定し、その推定された前記第1シャフトの回転トルクに基づいて前記操作力を推定するように構成されており、前記回転伝達機構の基準動作位置が正規の位置からズレている場合において、前記第2シャフトの回転トルクを除する前記回転伝達比の値を前記ズレの量に基づいて補正し、その補正された値で前記第2シャフトの回転トルクを除することによって推定された前記第1シャフトの回転トルクに基づいて、前記操作力を推定するように構成された(2)項に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
(A) 前記操作部材の操作力と直進状態からの車輪の転舵量とのいずれかと、(B)直進状態からの前記操作部材の操作量との一方を、検出依拠量と定義し、他方を、検出対象量と定義した場合において、
当該ステアリングシステムが、前記検出依拠量を検出する検出依拠量検出器と、前記検出対象量を検出する検出対象量検出器とを備え、
前記助勢力制御装置が、
i)左旋回と右旋回との一方の前記操作部材の操作において、検出依拠量検出器によって検出された前記検出依拠量が設定量となった場合に前記検出対象量検出器によって検出された検出対象量である第1検出対象量と、ii)左旋回と右旋回との他方の前記操作部材の操作において、検出依拠量検出器によって検出された前記検出依拠量が前記設定量となった場合に前記検出対象量検出器によって検出された検出対象量である第2検出対象量との差と、前記回転伝達機構についての前記動作位置の基準動作位置からの変化量と前記回転伝達比の値との関係とに基づいて、前記基準動作位置のズレの量を認定するズレ量認定部を有し、
前記操作力推定部が、そのズレ量認定部によって認定された前記基準動作位置のズレの量に基づいて前記操作部材の操作力を推定するように構成された請求項1または請求項2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、それが前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように、もしくは、前記目標助勢力を、前記第1シャフトから前記第2シャフトに伝達された操作力に基づく成分と前記助勢装置による助勢力に基づく成分とを合わせてなる合成力が前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項5】
当該ステアリングシステムが、少なくとも1つのユニバーサルジョイントを有して前記第2シャフトと前記転舵装置の入力軸とを連結する連結機構を備え、
前記助勢力制御装置が、
前記連結機構の構造に起因して生じるところの前記第2シャフトから前記転舵装置の入力軸へ伝達される回転トルクの変動が打ち消されるように、前記目標助勢力を補正する連結機構起因トルク変動依拠補正部を有する請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項6】
(a)運転者によって操作される操作部材と、(b)その操作部材の操作によって回転する第1シャフトと、(c)その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、(d)その第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、(e)前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達するとともに、(f)前記第1シャフトの回転に伴って自身の動作位置が変化し、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比が、前記動作位置の基準動作位置からの変化量に応じて規定された値となるように変動するように構成された回転伝達機構とを備えたステアリング装置に適用され、
前記回転伝達機構の基準動作位置の正規の位置からのズレを認定するための方法であって、
(A) 前記操作部材の操作力と直進状態からの車輪の転舵量とのいずれかと、(B)直進状態からの前記操作部材の操作量との一方を、検出依拠量と定義し、他方を、検出対象量と定義した場合において、
左旋回と右旋回との一方の前記操作部材の操作において、前記検出依拠量が設定量となった場合の前記検出対象量である第1検出対象量を検出し、
左旋回と右旋回との他方の前記操作部材の操作において、前記検出依拠量が前記設定量となった場合の前記検出対象量である第2検出対象量を検出し、
前記第1検出対象量と前記第2検出対象量との差が設定差を超えた場合に、前記回転伝達機構の基準動作位置が前記正規の位置からズレていると認定するステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法。
【請求項7】
さらに、前記第1検出対象量と前記第2検出対象量との差と、前記回転伝達機構についての前記動作位置の基準動作位置からの変化量と前記回転伝達比の値との関係に基づいて、前記基準動作位置のズレの量を認定する請求項6に記載のステアリング装置用回転伝達機構動作位置ズレ認定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−152875(P2011−152875A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16428(P2010−16428)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】