説明

ステアリングジョイントカバー

【課題】 エンジンの衝撃吸収ストロークを確保しつつ、車室内への侵入を防止し、かつ、他部品との間に良好なシール性を確保するステアリングジョイントカバーを提供することを目的とする。
【解決手段】 ステアリングシャフト3側とステアリングギヤボックス5側を接続するユニバーサルジョイント34を囲い、エンジンルーム12と車室11を仕切るダッシュボード1に形成されたステアリングシャフト挿通用の開口部2を覆うステアリングジョイントカバー6であって、ダッシュボード1との間にユニバーサルジョイント45を囲う空間を形成する弾性材料からなるカバー本体9と、カバー本体9の形状に沿って開口部2を跨ぐように設けられる補強部材8およびシャフト挿通部72とを有し、補強部材8は外力が作用すると変形する変形部をその一部に有するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシャフトを挿通させるために設けられたダッシュボードの開口部を覆うステアリングジョイントカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンルームと車室を仕切るダッシュボードには、エンジンルーム側のステアリングギヤボックスと車室側のステアリングハンドルを接続するステアリングシャフトを挿通するための開口部が形成されている。そして、その開口部には、エンジンルームのダスト、泥水、騒音等が車室内に入り込むのを防止するため、ステアリングジョイントカバーを配設している。従来、ステアリングジョイントカバーは、主に、ゴム材料等のシール性を有する弾性材料や樹脂材料から構成されるものが広く用いられている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1および特許文献2では、ステアリングシャフト側とステアリングギヤボックス側を接続するジョイント部材をエンジンルーム側から囲うゴム製のステアリングジョイントカバーが開示されている。また、樹脂材料で構成されるステアリングジョイントカバーでは、ダッシュボード一体構造や別体構造のものが知られている。
【特許文献1】特開2002−29427号公報(段落0012、図2)
【特許文献2】特開平11−78912号公報(段落0022、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、樹脂材料からなるステアリングジョイントカバーでは、以下のような改良すべき点があった。まず、ダッシュボードと一体化して構成されるステアリングジョイントカバーでは、全体的に剛性が高くなってしまうため、外力が作用(車両が衝突)したとき、エンジンの衝撃吸収ストロークを阻害するという問題があった。つまり、ステアリングジョイントカバーが容易に変形しないと、エンジンおよびステアリングギヤボックスの後退を妨げてしまうため、この点に改良すべき点があった。また、ステアリングジョイントカバーをダッシュボードと別体で構成した場合は、外力が作用したとき、ステアリングジョイントカバー自体がダッシュボードから外れ、開口部からそのまま車室内に入り込むことになってしまう。運転席周りの車室内空間は容易に変形しないことが望ましいため、この点に改良すべき点があった。一方、特許文献1および2に記載されたゴム材料からなるステアリングジョイントカバーでは、剛性が低いため、ステアリングギヤボックスの上端部、カバーを貫通するシャフト部材(ピニオンシャフト、ステアリングシャフト等)等、他部品との間のシール性が悪いという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、エンジンの衝撃吸収ストロークを確保しつつ、車室内への侵入を防止し、かつ、他部品との間に良好なシール性を確保するステアリングジョイントカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、ステアリングシャフト側とステアリングギヤボックス側を接続するジョイント部材を囲い、前記エンジンルームと車室を仕切るダッシュボードに形成されたステアリングシャフト挿通用の開口部を覆うステアリングジョイントカバーであって、前記ダッシュボードとの間に前記ジョイント部材を囲う空間を形成する弾性材料からなるカバー本体と、前記カバー本体の形状に沿って前記開口部を跨ぐように設けられる剛性部材とを備え、前記剛性部材は、外力が作用すると変形する変形部をその一部に有することを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、弾性材料からなるカバー本体が、ダッシュボードに形成された開口部を覆うため、エンジンルームのダスト、泥水、騒音等が車室内に入り込むのを阻止する。また、カバー本体の形状に沿って設けられた剛性部材により剛性が確保されており、他部品との間に良好なシール性を確保することができる。そして、車両に前方から外力が作用したとき、その衝撃エネルギを吸収しながらエンジンおよびステアリングギヤボックスが後退すると、変形部を起点として剛性部材が変形するとともに、カバー本体が押し潰される。このとき、剛性部材の変形部が作用する外力に応じて変形することで、エンジンの衝撃吸収ストロークが確保される。また、剛性部材が開口部を跨ぐように設けられていることで、開口部の一部を塞ぐように変形するため、車室内に侵入できなくなる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のステアリングジョイントカバーにおいて、前記変形部は、前記剛性部材の他の部分より幅方向にくびれた形状に形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のステアリングジョイントカバーにおいて、前記変形部は、前記剛性部材の他の部分より薄肉に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2または請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明による作用に加え、変形部を単純な形状に形成して構成しているので、作製が容易である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、車両に外力が作用し、エンジンおよびステアリングギヤボックスなどが後退するとき、剛性部材およびカバー本体がダッシュボード側に押し潰されるように変形することで、エンジンの衝撃吸収ストロークを確保することができる。また、剛性部材が開口部の一部を塞ぐように変形するので、ダッシュボードの開口部から車室内側に剛性部材およびカバー本体が入り込むことはなく、車室内空間の変形を防止することができる。さらに、剛性部材により剛性が確保されていることで、他部品との間に良好なシール性を確保することができる。
【0011】
請求項2または請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明による効果に加え、変形部を単純な形状に形成して構成しているので、作製が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明に係るステアリングジョイントカバーの一実施の形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るステアリングジョイントカバーと、このステアリングジョイントカバーを取り付けるダッシュボードおよびステアリング装置の斜視図であり、図2は、(a)ステアリングジョイントカバー部分の拡大斜視図と、(b)ステアリングジョイントカバー部分の拡大断面図である。
【0013】
まず、本実施形態に係るステアリングジョイントカバー6について説明する前に、ステアリングジョイントカバー6が取り付けられるダッシュボード1近傍について説明する。
図1に示すように、車室11とエンジンルーム12を仕切るダッシュボード1には、開口部2が形成されており、この開口部2には、ステアリングシャフト3が挿通されている。ここで、ステアリングシャフト3は、車室11側に設けられるステアリングハンドル4の回転をエンジンルーム12側に設けられるステアリングギヤボックス5まで伝達する機構であり、ステアリングハンドル4の下端に連結される第1シャフト31と、この第1シャフト31の下端にユニバーサルジョイント32を介して屈曲可能に連結される第2シャフト33とを備える。第2シャフト33は、上部シャフト33aと下部シャフト33bとがスプラインを介して摺動可能に固嵌されて構成されている。
【0014】
第2シャフト33の下端には、ユニバーサルジョイント34を介してピニオンシャフト35が屈曲可能に連結され、さらに、ピニオンシャフト35の下端は、図示しないクロスメンバに取り付けられたステアリングギヤボックス5の内部に延びている。ステアリングギヤボックス5では、内部に収納されたラックおよびピニオン(不図示)により、ピニオンシャフト35から伝達された回転がラックバーの往復運動に変換される。また、ステアリングギヤボックス5の上端にはゴム製のグロメット51が装着されており、その環状のリップ部51aが後に説明するステアリングジョイントカバー6に当接することで、エンジンルーム12のダスト、泥水、騒音等が車室11側に入り込むのを防止している。なお、ダッシュボード1の開口部2には、第2シャフト33が挿通される形となっており、ユニバーサルジョイント34とピニオンシャフト35はエンジンルーム12側に配置される。
【0015】
図1および図2に示すように、ステアリングジョイントカバー6は、ユニバーサルジョイント34の周囲を囲う支持部材7および補強部材8と、この支持部材7および補強部材8をエンジンルーム12側から覆い、車室11とエンジンルーム12のシール性を確保するカバー本体9とから構成されている。支持部材7および補強部材8は、金属などの硬質材料によって形成され、カバー本体9は、ゴム材料、樹脂等の弾性材料から形成される。
なお、図1乃至図3においては、内部構造がわかりやすいように、カバー本体9を仮想線(一部実線)で示す。
【0016】
図2(a)に示すように、支持部材7は、取付部71と、この取付部71に一体に形成されるシャフト挿通部72とを備える。取付部71は、ダッシュボード1の開口部2に対応して開口するように環状に形成されており、その周縁部には、ダッシュボード1を貫通するスタッドボルトSB(図2(b)参照)が貫通する3つの固定部71a,71a,71aが形成されている。また、図2(b)に示すように、取付部71の内周縁部71bからは、シャフト挿通部72がエンジンルーム12に向けて立設され、ステアリングギヤボックス5に対向するようになっている(図1参照)。シャフト挿通部72には貫通孔72aが形成されており、前記したピニオンシャフト35を挿通できるようになっている。なお、シャフト挿通部72と次に詳述する補強部材8は、[特許請求の範囲]の「剛性部材」に相当する。
【0017】
補強部材8は、後記するカバー本体9の形状に沿うように長尺状のプレートを円弧状に形成した湾曲部81と、この湾曲部81の両端部から互いに異なる方向に屈曲される屈曲部82,83とから構成され、前記支持部材7とともにカバー本体9の剛性を確保するために設けられる。補強部材8は、湾曲部81が開口部2を跨ぐように支持部材7に取り付けられるもので、湾曲部81の内側を向く屈曲部82が支持部材7のシャフト挿通部72の先端部72bに溶接され、湾曲部81の外側を向く屈曲部83が支持部材7の取付部71の上端側に溶接される。湾曲部81の中央部近傍に、幅方向に狭くなっているくびれ部81a(変形部)が形成されており、剛性が低くなっている。
【0018】
カバー本体9は、前記した支持部材7と補強部材8をエンジンルーム12側から覆う略御椀状のシール部材である。開口端部にはフランジ部91が形成されており、このフランジ部91を支持部材7の取付部71に重ね合わせた状態で、ダッシュボード1を貫通するスタッドボルトSBにナットNを締結し、ダッシュボード1に車室11側から固定している。このように、フランジ部91が取付部71に押圧されつつダッシュボード1に固定されていることで、フランジ部91に反力が生じるため、シール部材だけを固定していた従来に比べて、ダッシュボード1との間に良好なシール性を確保することができる。また、カバー本体9には、図2(b)に示すように、シャフト挿通部72の貫通孔72aに対応する貫通孔92が形成されており、ピニオンシャフト35の挿通孔が確保されている。貫通孔92の周縁部92aには、ステアリングギヤボックス5に装着されたグロメット51のリップ部51aが当接しており、貫通孔92が封止されている。周縁部92a近傍は、その内面側に配置されるシャフト挿通部72によって剛性が確保されているため、シール部材だけで構成する場合より、リップ部51aとの間に良好なシール性を確保することができる。
【0019】
次に、車両に外力が作用した場合におけるステアリングジョイントカバー6の作用について、図3を参照して説明する。図3は、ステアリングジョイントカバーの作用を示す断面図であり、(a)は外力作用前の断面図、(b)は外力作用後の断面図である。
【0020】
図3(a)に示すように、通常は、ステアリングジョイントカバー6は、ユニバーサルジョイント34をエンジンルーム12側から囲み、車室11とエンジンルーム12を液密および気密にシールしている。
そして、この状態から車両に外力が作用し、その外力を受けてエンジンルーム12が押し潰されると、その内部前方に配置される図示しないエンジンがステアリングギヤボックス5(図1参照)まで後退する。このように、エンジンがステアリングギヤボックス5に衝撃を与えると、ステアリングギヤボックス5は、図示しないクロスメンバから外れてエンジンとともに後退する。
【0021】
そして、ステアリングギヤボックス5がステアリングジョイントカバー6の支持部材7のシャフト挿通部72に荷重を加えると、補強部材8のくびれ部81aが屈曲するとともに、カバー本体9が押し潰される。すなわち、補強部材8のくびれ部81aが屈曲するように変形することで、その衝撃エネルギを吸収することができる。また、支持部材7のシャフト挿通部72および補強部材8の湾曲部81が開口部2を塞ぐように変形するため、ステアリングジョイントカバー6が開口部2から車室11内に入り込むことがない。
【0022】
なお、ステアリングギヤボックス5の後退によりステアリングシャフト3に圧縮荷重が加わると、第2シャフト33の上部シャフト33aと下部シャフト33bの固定が外れて、上部シャフト33aに対して下部シャフト33bが上方に摺動することで、ステアリングハンドル4の車室11内への突き上げが抑制されるようになっている。
【0023】
以上によれば、本実施形態において、次のような効果を得ることができる。
本実施形態に係るステアリングジョイントカバー6によれば、カバー本体9が、ダッシュボード1に形成された開口部2を覆うように取り付けられているため、エンジンルーム12のダスト、泥水、騒音等が車室11内に入り込まないようになっている。また、カバー本体9においては、シャフト挿通部72により剛性も確保されていることで、グロメット51との間に、良好なシール性を確保することができる。
さらに、車両に外力が作用したときに、補強部材8のくびれ部81aが屈曲してカバー本体9が変形するので、エンジンの後退を妨げず、エンジンの衝撃吸収ストロークを確保することができる。そして、このとき、補強部材8が開口部2を塞ぐように変形するため、補強部材8およびカバー本体9が車室11内に入り込むこともない。
【0024】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
【0025】
本実施形態では、補強部材8にくびれ部81aを形成して屈曲容易に構成したが、薄肉部分を形成して屈曲容易に構成することもできる。これによっても、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、補強部材8および支持部材7の形状は限定されるものではなく、適宜変形して設定することができる。
【0026】
本実施形態では、支持部材7および補強部材8の上からカバー本体9を覆うように構成したが、本発明はこれに限定されず、カバー本体9に支持部材7および補強部材8を埋め込むようにしてもよい。このように埋め込み式のものであっても、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0027】
また、カバー本体9の内面側に無数の突起を形成すると、表面積を広く確保できるため、吸音効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係るステアリングジョイントカバーと、このステアリングジョイントカバーを取り付けるダッシュボードおよびステアリングシャフトの斜視図である。
【図2】本実施形態に係るステアリングジョイントカバーの要部拡大図であり、(a)はステアリングジョイントジョイントカバー部分の拡大斜視図、(b)はステアリングジョイントカバー部分の拡大側面断面図である。
【図3】ステアリングジョイントカバーの作用を示す断面図であり、(a)は外力作用前の側面図、(b)は外力作用後の側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ダッシュボード
2 開口部
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングハンドル
5 ステアリングギヤボックス
6 ステアリングジョイントカバー
7 支持部材
8 補強部材
9 カバー本体
11 車室
12 エンジンルーム
32,34 ユニバーサルジョイント
35 ピニオンシャフト
51 グロメット
71 取付部
72 シャフト挿通部
81 湾曲部
81a くびれ部
82,83 屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフト側とステアリングギヤボックス側を接続するジョイント部材を囲い、前記エンジンルームと車室を仕切るダッシュボードに形成されたステアリングシャフト挿通用の開口部を覆うステアリングジョイントカバーであって、
前記ダッシュボードとの間に前記ジョイント部材を囲う空間を形成する弾性材料からなるカバー本体と、
前記カバー本体の形状に沿って前記開口部を跨ぐように設けられる剛性部材とを備え、
前記剛性部材は、外力が作用すると変形する変形部をその一部に有することを特徴とするステアリングジョイントカバー。
【請求項2】
前記変形部は、前記剛性部材における他の部分より幅方向にくびれた形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステアリングジョイントカバー。
【請求項3】
前記変形部は、前記剛性部材における他の部分より薄肉に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステアリングジョイントカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−111189(P2006−111189A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302439(P2004−302439)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】