説明

ステアリングダンパシステム及びそれを備えた鞍乗り型車両

【課題】舵角センサの異常が発生しても快適なステアリング操作を実現できるステアリングダンパシステム及びそれを備えた鞍乗り型車両を提供する。
【解決手段】舵角センサ14及び車速センサ15でそれぞれ検出された舵角と車速とによって鞍乗り型車両の走行状態を判定し、その走行状態に応じて、減衰力指令出力部32がMRダンパ20の減衰力を調整する。中心検出スイッチ19がステアリングの中心位置を検出したとき、異常判定分40は、舵角センサ14で検出された舵角を読み込み、その検出舵角が予め定められた舵角範囲に入っているか否かを判定する。検出舵角が予め定められた舵角範囲に入っていない場合は、舵角センサ14に異常が発生したものと判断して、ステアリングの減衰力を強制的に略最小にする。これにより、舵角センサ14に異常が発生しても鞍乗り型車両のライダーは快適にステアリング操作を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるステアリングダンパシステム及びそれを備えた鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗り型車両に搭載されるステアリングダンパとして、従来、油圧式のダンパが広く知られている。油圧式のダンパは、油室の作動油がオリフィスを通過するときに発生する減衰力を利用するもので、舵角速度に応じた減衰力を得ることができる。最近では鞍乗り型車両の舵角や車速を検出するセンサを用いて減衰力を制御する電子制御式のステアリングダンパシステムが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
(1)特許文献1に記載の技術
ハンドルバーの舵角速度が第1しきい値以下のときは、比較的に小さな減衰力を発生させ、その減衰力を車速に応じて調整している。また、舵角速度が第1しきい値を超えて第2しきい値以下のときは中程度の減衰力を発生させ、その減衰力を舵角速度に応じて調整している。さらに、舵角速度が第2しきい値を超えるときは、大きな減衰力を発生させ、その減衰力を舵角速度に応じて調整している。
【0004】
(2)特許文献2に記載の技術
車速と舵角とが予め決められた限界値を超えると、制御装置が緩衝装置を制御して、減衰力を大きくしている。
【特許文献1】特開2003−170883号公報(第3〜6頁、図1及び図2)
【特許文献2】特開昭63−64888号公報(第3〜4頁、図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のいずれの技術も、次のような問題点がある。
鞍乗り型車両の舵角速度や舵角を検出するにあたっては、いずれも舵角センサでもってハンドルバーの操舵角度(舵角)を検出する。舵角センサとしては、例えばロータリー式のポテンショメータが用いられる。ポテンショメータのセンサ本体は車体側に、回転子はステアリング軸に、それぞれ固定される。ハンドルバーが操舵されると、ステアリング軸が回転し、センサ本体と回転子との間に相対的な変位角度が生じる。この変位角度を検出することにより、舵角を検出している。
【0006】
このような舵角センサを用いて舵角を検出した場合に、車体側に固定されたセンサ本体、あるいはステアリング軸に固定された回転子のいずれか一方の取り付け位置が不所望に変位すると、鞍乗り型車両の舵角や舵角速度が正しく検出されなくなる。そうすると、ステアリングの減衰力を大きくしたい走行状態のときに減衰力が作用しなかったり、あるいはその逆に、減衰力を小さくしたい走行状態のときに減衰力が作用したりする等して、鞍乗り型車両のライダーが不快に感じる。上記したような舵角センサの異常は、センサ本体や回転子の取り付け位置が変位する場合だけでなく、センサ自体の故障のときにも起こり得る。また、ロータリー式のポテンショメータだけに限らず、光学式や磁気式の他の舵角センサにも起こり得る。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、舵角センサの異常が発生しても快適なステアリング操作を実現できるステアリングダンパシステム及びそれを備えた鞍乗り型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、ステアリングの減衰力を発生するダンパと、車速と舵角とに基づき、ダンパで発生させる減衰力を調整する減衰力調整手段とを備えたステアリングダンパシステムであって、予め定められた特定の舵角を検出する特定舵角検出手段と、前記特定舵角検出手段で特定の舵角が検出されたときに、前記減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っているか否かを判定する異常判定手段とを備え、前記減衰力調整手段は、前記異常判定手段から与えられた判定結果に基づき、前記減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っていないときは、前記ダンパで発生させる減衰力を略最小にすることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、減衰力調整手段は、車速と舵角とに基づき、ダンパで発生させる減衰力を調整する。一方、特定舵角検出手段は、ステアリングの舵角を監視しており、舵角が予め定められた特定の舵角になったことを検出する。異常判定手段は、舵角が特定舵角になったときに、減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っているか否かを判定する。その判定結果は、減衰力調整手段に与えられる。減衰力調整手段は、減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っていない場合は、減衰力を調整するための舵角検出に異常が発生したものと判断して、ダンパで発生させる減衰力を略最小にする。これにより、減衰力を調整するための舵角検出の異常により、ステアリングの減衰力を大きくしたい走行状態のときに減衰力が作用しなかったり、あるいはその逆に、減衰力を小さくしたい走行状態のときに減衰力が作用したりする等の不都合を回避することができ、快適なステアリング操作を実現することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、前記特定舵角検出手段は、車両が直線走行状態にあるときのハンドルの舵角である中心位置を検出する(請求項2に記載の発明)。
【0011】
この構成によれば、ハンドルが中心位置にあるときの、減衰力を調整するために検出された舵角に基づいて、減衰力を調整するため舵角検出に異常が発生したか否かを判定する。通常走行において、ハンドルは、その中心位置にあることが多いので、その中心位置を特定舵角に設定することにより、減衰力を調整するため舵角検出の異常を実質的に常に監視することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、前記特定舵角検出手段は、非接触式スイッチである(請求項3に記載の発明)。
【0013】
この構成によれば、特定舵角検出手段が非接触式スイッチで構成されているので、接触式スイッチで構成する場合に比べて、特定舵角を長期間、安定して検出することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、前記減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っていないという判定結果を前記異常判定手段から与えられることに基づき、前記減衰力を調整するための舵角検出の異常を報知する報知手段を備えている(請求項4に記載の発明)。
【0015】
この構成によれば、報知手段が、減衰力を調整するため舵角検出に異常が発生したこと報知するので、減衰力を調整するため舵角検出の異常をライダーがいち早く察知して、その対策を採ることができる。
【0016】
また、本発明に係る鞍乗り型車両は、上述したいずれかのステアリングダンパシステムと、車速を検出する車速検出手段と、舵角を検出する舵角検出手段とを備えたものである(請求項5に記載の発明)。
【0017】
この構成によれば、減衰力を調整するための舵角検出に異常が発生した場合に、ダンパの減衰力を略最小にするので、舵角検出手段に異常が発生してもステアリング操作を快適に行うことができる鞍乗り型車両を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、減衰力を調整するための舵角検出に異常が発生した場合に、ダンパの減衰力を略最小にするので、減衰力を調整するための舵角検出の異常により、ステアリングの減衰力を大きくしたい走行状態のときに減衰力が作用しなかったり、あるいはその逆に、減衰力を小さくしたい走行状態のときに減衰力が作用したりする等の不都合がなく、鞍乗り型車両のライダーは快適にステアリング操作を行なうことができる。
【実施例】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
ここでは、実施例に係るステアリングダンパシステムを備える鞍乗り型車両として、自動二輪車を例に挙げて説明する。
【0020】
(1)全体概略構成
図1は、実施例に係る自動二輪車の概略構成を示した側面図、図2は、ハンドルクラウン周辺の構成を示した一部破断正面図、図3は図2のハンドルクラウン周辺の構成を矢印F方向からみた側面図である。
【0021】
自動二輪車1は、前輪2と後輪3とを備え、エンジン4が発生する駆動力によって後輪3を駆動する。前輪2は、左右一対のフロントフォーク5L、5Rで回転可能に支持されている。フロントフォーク5L、5Rは、それらの上端部がハンドルクラウン6に、それらの中間部がアンダーブラケット7に、それぞれ連結支持されている。ハンドルクラウン6の上面には左右一対のハンドルホルダー8R、8Lが設けられている。これらのハンドルホルダー8R、8Lによって、ライダーが操作するハンドルバー9が保持されている。ハンドルクラウン6とアンダーブラケット7とは、ステアリングシャフト10で連結されている。ステアリングシャフト10の下端は、アンダーブラケット7のステリングシャフト受け部(図示せず)によって上方向に抜けないように係止されている。また、ステアリングシャフト10の上端はナット11でハンドルクラウン6に取り付けられている。ステアリングシャフト10は、軸受12を介してヘッドパイプ13に回動自在に支持されている。ヘッドパイプ13は車体フレーム16に連結されている。なお、前輪2のディスクブレーキ17の近傍に車速センサ15が設けられている。また、燃料タンク18の前側にコントローラ30が設けられている。
【0022】
ライダーがハンドルバー9を操作すると、その操舵力がステアリングシャフト10を介してフロントフォーク5L、5Rに伝達されて前輪2が操舵される。ステアリングシャフト10の上端にはロータリー式のポテンショメータからなる舵角センサ14が取り付けられている。この舵角センサ14が舵角(操舵角度)を検出する。舵角センサ14のセンサ本体14aは支持ブラケット17を介して車体フレーム16に支持されている。舵角センサ14の回転子14bはステアリングシャフト10の上端に連結されている。舵角センサ14は、本発明における舵角検出手段に相当する。なお、舵角検出手段は、ポテンショメータに限らず、光学式のロータリーエンコーダなど、種々の角度検出器を使用することができる。
【0023】
ステアリングシャフト10が連結されたハンドルクラウン6のボス部6aに、突片18が取り付けられている。この突片18に近接して中心検出スイッチ19が設けられている。この中心検出スイッチ19は、非接触式スイッチであって、例えばホールICで形成されている。中心検出スイッチ19は支持ブラケット17を介して車体フレーム16に支持されている。中心検出スイッチ19は、舵角が特定の舵角になったことを検出するためのスイッチである。本実施例では、車両が直線走行状態にあるときのハンドルバー9の舵角である中心位置(以下、「ステアリングの中心位置」ともいう)を検出するように、中心検出スイッチ19の取り付け位置が決められている。中心検出スイッチ19は、本発明における特定舵角検出手段に相当する。
【0024】
(2)MRダンパの構成
ハンドルクラウン6の下側に、ステアリングの減衰力を発生する、磁性流体を用いたダンパ(以下、「MRダンパ」という)20が設けられている。図4を参照してMRダンパ20の構成を説明する。図4(a)はMRダンパの概略構成を示す縦断面図、同図(b)は分解斜視図、同図(c)は部分拡大断面図である。
【0025】
MRダンパ20は、対向配置されたアッパーヨーク21及びロアヨーク22と、アッパーヨーク21とロアヨーク22との間に介在する磁性流体23と、この磁性流体23に磁場を与える磁場発生用コイル24とを備える。アッパーヨーク21は、中心部にステアリングシャフト10が通る貫通孔21aが形成されていて、全体として環状になっている。アッパーヨーク21は圧延鋼などの磁性材料から形成されている。
【0026】
アッパーヨーク21の底面には環状の凹溝21bが穿たれており、この凹溝21bに磁場発生用コイル24が埋め込まれている。磁場発生用コイル24は、後述するコントローラから、ステアリングの減衰力に応じた電流が供給される。
【0027】
ロアヨーク22は、アッパーヨーク21と同様に、中心部にステアリングシャフト10が通る貫通孔22aを備え、全体として環状になっている。ロアヨーク22も圧延鋼などの磁性材料から形成されている。ロアヨーク22の上面には環状の凹溝22bが穿たれており、この凹溝22bにアッパーヨーク21が嵌まり込むようになっている。
【0028】
ロアヨーク22の凹溝22bの内側壁には、アルミニウム等の金属材料からなる円筒状のカラー25が嵌め付けられている。このカラー25を介して、アッパーヨーク21がロアヨーク22に対して回転可能に保持されている。カラー25に代えて、周知のころがり軸受を使用してもよいが、カラー25を用いればMRダンパ20をより小型化することができる
【0029】
ロアヨーク22の凹溝22b内に磁性流体23が収容されている。ロアヨーク22の凹溝22bの底面と、アッパーヨーク21の下面とが、磁性流体23を介在した状態で対向している。磁性流体23としては、例えばカルボキシル鉄を40%含むものが好適に用いられる。磁性流体23は、磁界が印加されると粘度が向上し、MRダンパ20の減衰力は大きくなる。なお、磁性流体23は、磁界を印加されない状態においても一定の粘度を有しており、MRダンパ20は、磁界を印加しないとき、最小の減衰力を発生する。
【0030】
さらに、アッパーヨーク21とロアヨーク22との間に形成される内外の環状の各隙間には、Oリング26a、26bが嵌め付けられている。これにより、磁性流体23の漏れを防ぐと共に、MRダンパ20内に塵埃などが侵入しないようにしている。
【0031】
ロアヨーク22は、ヘッドパイプ13に連結されている。一方、アッパーヨーク21は、
ハンドルクラウン6に連結されている。すなわち、ロアヨーク22が車体側に連結され、アッパーヨーク21がハンドルバー側に連結される結果、ハンドルバー9が操作されたときに、アッパーヨーク21とロアヨーク22との間に介在する磁性流体が、その粘度に応じた抵抗力を発生し、この抵抗力がステアリングの減衰力となってハンドルバー9に作用する。
【0032】
(3)コントローラの構成
図5を参照する。図5は、実施例に係るステアリングダンパシステムの概略構成を示したブロック図である。
【0033】
実施例に係るステアリングダンパシステムは、ステアリングの減衰力を発生するMRダンパ20と、車速を検出する車速センサ15と、舵角を検出する舵角センサ14と、ステアリングの中心位置を検出する中心検出スイッチ19と、車速センサ15、舵角センサ14、及び中心検出スイッチ19からそれぞれ与えられた検出信号に基づきMRダンパ20(具体的には、ステアリングの減衰力)を制御するコントローラ30を備える。車速センサ15は、本発明における車速検出手段に相当する。
【0034】
コントローラ30は、調整指令出力部31と減衰力指令出力部32とダンパ駆動部33と異常判定部40とを備える。調整指令出力部31は、減衰力の調整量を決めるための領域が車速に応じた舵角範囲で区画設定されていると共に、車速が速くなるに従って舵角範囲が狭くなるように設定された参照テーブル31Aを備える。この参照テーブル31Aを使って、車速センサ15で検出された車速と舵角センサ14で検出された舵角とが属する前記領域に応じた減衰力の調整指令を出力する。減衰力指令出力部32は、調整指令出力部31から出力された減衰力の調整指令に応じたダンパの減衰力指令を出力する。ダンパ駆動部33は、減衰力指令出力部32から出力された減衰力指令に基づいてMRダンパ20を駆動して減衰力を調整する。
【0035】
異常判定部40は、中心検出スイッチ19がステアリングの中心位置を検出したときに、舵角センサ14で検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っているか否かを判定する。異常判定部40の判定結果は減衰力指令出力部32と報知器41とに与えられる。減衰力指令出力部32は、異常判定部40から与えられた判定結果に基づき、舵角センサ14で検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っていないときは、減衰力を略最小にするための指令をダンパ駆動部33に出力する。また、報知器41は、舵角センサ14で検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っていないときは、ブザーや光の点滅などの適宜な手段により、舵角センサ14に異常が生じたことをライダーに知らせる。減衰力指令出力部32は本発明における減衰力調整手段に、異常判定部40は本発明における異常判定手段に、それぞれ相当する。
【0036】
(3−1)減衰力指令出力部32の構成
減衰力指令出力部32は、舵角速度演算回路34Aと舵角方向判定部34Bと減衰力演算部35と減衰力調整部36とを備える。舵角速度演算回路34Aは、舵角センサ14から与えられた舵角検出信号に基づいて舵角速度を算出する。舵角方向判定部34Bは、舵角センサ14から与えられた舵角検出信号に基づいて舵角方向を判定する。減衰力演算部35は、舵角が大きくなる方向に操舵された場合には、舵角速度が速くなるに従って減衰力が大きくなるように、舵角速度に応じた減衰力の初期指令を出力し、舵角が小さくなる方向に操舵された場合には、減衰力を略最小にする指令を出力する。減衰力調整部36は、調整指令出力部32から与えられた減衰力の調整指令に応じて、減衰力の初期指令を調整して、MRダンパ20の減衰力指令をダンパ駆動部33に出力する。
【0037】
<舵角速度演算回路34Aについて>
舵角速度演算回路34Aは、舵角センサ14の舵角検出信号を微分処理することにより舵角速度を算出する。
【0038】
<舵角方向判定部34Bについて>
舵角方向判定部34Bは、舵角センサ14の舵角検出信号を微分処理したときの値の正負により、舵角方向を判定する。例えば、検出された舵角が中心位置(舵角ゼロ)よりも大きい場合(例えば、右方向にハンドルが切られている場合)、舵角検出信号を微分処理したときの値が「正」であれば、舵角が大きくなる方向に操舵された(即ちハンドルを切り込んだ)ものと判定し、舵角検出信号を微分処理したときの値が「負」であれば、舵角が小さくなる方向に操舵された(即ちハンドルが戻された)ものと判定する。逆に、検出された舵角が中心位置(舵角ゼロ)よりも小さい場合(例えば、左方向にハンドルが切られた場合)、舵角検出信号を微分処理したときの値が「負」であれば、舵角が大きくなる方向に操舵された(即ちハンドルを切り込んだ)ものと判定し、舵角検出信号を微分処理したときの値が「正」であれば、舵角が小さくなる方向に操舵された(即ちハンドルが戻された)ものと判定する。
【0039】
<減衰力演算部35について>
減衰力演算部35は、舵角速度に応じた減衰力の値を算出するためのテーブル35Aを備えている。図6を参照する。図6は、減衰力算出用テーブル35Aの構成を模式的に示した図である。減衰力算出用テーブル35Aは、横軸に舵角速度、縦軸に減衰力が割り振られた2次元テーブルである。舵角速度が速くなるに従って減衰力が大きくなるように舵角速度と減衰力とが関係付けられている。原点を挟んで右側の特性は、ハンドルが右方向に操舵されたときの減衰力を示し、左側の特性は、ハンドルが左方向に操舵されたときの減衰力を示す。左右の特性は同じに設定されている。テーブル35AはROM(Read Only Memory)で構成され、舵角速度を入力することにより、減衰力の値が出力される。なお、テーブル35Aは、RAM(Random Access Memory)やフラッシュメモリで構成されてもよい。
【0040】
減衰力演算部35は、舵角方向判定部34Bから舵角が大きくなる方向に操舵されたことを示す判定結果を与えられた場合には、そのときに舵角速度演算回路34Aから与えられた舵角速度に対応した減衰力を減衰力算出用テーブル35Aから求めて、その減衰力を減衰力の初期指令として出力する。一方、舵角方向判定部34Bから舵角が小さくなる方向に操舵されたことを示す判定結果を与えられた場合には、そのときの舵角速度に拘わりなく減衰力を略最小にする指令を出力する。
【0041】
<減衰力調整部36について>
減衰力調整部36については、調整指令出力部31の構成を説明した後に説明する。
【0042】
(3−2)調整指令出力部31の構成
調整指令出力部31が備える参照テーブル31Aについて説明する。図7を参照する。図7は、参照テーブル31Aの構成を模式的に示した図である。この参照テーブル31Aは、横軸に舵角、縦軸に車速が割り振られた2次元テーブルである。参照テーブル31Aは、上述したテーブル35Aと同様に、ROM(Read Only Memory)で構成され、車速と舵角とを入力することにより、調整値(制御情報)が出力される。なお、参照テーブル31Aは、RAM(Random Access Memory)やフラッシュメモリで構成されてもよい。参照テーブル31Aにおいて、原点を挟んで右側の領域はハンドルが走行方向に対して右方向に操舵された場合を示し、左側の領域はハンドルが走行方向に対して左に操舵された場合を示す。左右の領域は対称に設定されている。参照テーブル31Aには、ステアリングの減衰力の調整量を決めるための3つ領域E1、E2、E3が区画設定されている。各領域E1、E2、E3は、車速に応じた第1舵角範囲SA1及び第2舵角範囲SA2で区画設定されていると共に、車速が速くなるに従って各舵角範囲SA1、SA2が狭くなるように設定されている。
【0043】
第1舵角範囲SA1によって、領域E1と領域E2とが区画されている。第1舵角範囲SA1は、車両がコーナー走行状態のときに取り得る舵角範囲に対応している。通常走行において、急カーブを切るとき、車速を遅くするのが普通である。緩いカーブでは車速は比較的に高速である。つまり、車両がコーナー走行状態のときに取り得る舵角範囲は、低速では広く、高速になるに従って舵角範囲が狭くなる。第1舵角範囲は、このようなコーナー走行状態における操舵の経験則に基づいて決められるもので、車速が速くなるに従って狭くなるように設定されている。
【0044】
第2舵角範囲SA2によって、領域E2と領域E3とが区画されている。第2舵角範囲SA2は、車両が直線走行状態のときに取り得る舵角範囲に対応している。直線走行状態のとき、ライダーは微小な舵角を切りながら車両のバランスをとって走行している。車両のバランスを取るための舵角範囲もまた、低速では比較的に広いが、高速になるに従って舵角範囲が狭くなる。第2舵角範囲SA2は、このような直線走行状態における操舵の経験則に基づいて決められるもので、車速が速くなるに従って狭くなるように設定されている。また、当然ながら、直線走行時に取り得る舵角範囲は、コーナー走行時に取り得る舵角範囲よりも狭いので、直線走行時の第2舵角範囲SA2はコーナー走行時の第1舵角範囲SA1の内側領域に設定されている。
【0045】
以上のことから理解できるように、第2舵角範囲SA2の内側の領域E3は、直線走行状態に対応している。つまり、検出された車速と舵角とで決まる参照テーブル31A上の座標が領域E3に属するときは、車両は直線走行状態にあるといえる。上述したように、直線走行状態では、ライダーは微小な舵角を切りながら車両のバランスをとって走行しているので、自然なハンドリングを妨げないようにするために、ステアリングの減衰力を小さくするのが望ましい。そこで、参照テーブル31Aの領域E3には、減衰力を小さくするための情報が割り当てられている。減衰力を小さくするための制御情報としては、例えば、減衰力演算部35が算出した減衰力に乗算して減衰力を増減させる調整係数を例に挙げることができる。小さな調整係数は、減衰力を小さくするための制御情報に相当する。
【0046】
また、第2舵角範囲SA2の外側で、かつ第1舵角範囲SA1の内側の領域E2は、コーナー走行状態に対応している。つまり、検出された車速と舵角とで決まる参照テーブル31A上の座標が領域E2に属するときは、車両はコーナー走行状態にあるといえる。コーナー走行状態では減衰力を大きくして、ステアリングを安定させるためのライダーの負担を軽減するのが望ましい。そこで、参照テーブル31Aの領域E2には、減衰力を大きくするための制御情報が割り当てられる。先の例で言えば、大きな調整係数は、減衰力を大きくするための制御情報に相当する。
【0047】
さらに、第1舵角範囲SA1の外側の領域E1は、ジャンプや後輪を滑らせるカウンター、ウイリー走行などのように、ライダーが意図的にハンドルを大きく切って走行する特殊な走行状態に対応している。つまり、検出された車速と舵角とで決まる参照テーブル31A上の座標が領域E1に属するときは、車両は特殊な走行状態にあるといえる。特殊な走行状態では、ステアリングの減衰力を小さくして、ライダーが自由にハンドル操作できるようにするのが望ましい。そこで、参照テーブル31Aの領域E1には、減衰力を小さくするための制御情報が割り当てられている。例えば、領域E1には、小さな調整係数が割り当てられている。
【0048】
図7に示した参照テーブル31Aでは、特殊な走行状態に対応した領域E1、コーナー走行状態に対応した領域E2、及び直線走行状態に対応した領域E3には、各領域に応じて予め定められた調整係数が一律に割り当てられるとして説明した。しかし、そうすると例えば、直線走行状態からコーナー走行状態に移行したときに、車速と舵角とので定まる参照テーブル31A上の座標が領域E3から領域E2に移行する結果、その境目で調整係数が急激に変化する。つまり、直線走行状態からコーナー走行状態に移行したとき、ある舵角でステアリングの減衰力が急激に大きくなるという現象が生じる。これはライダーに違和感を与えるので望ましくない。そこで、領域E1、E2、E3の境目で調整係数が滑らかに変わるように、各領域E1、E2、E3に調整係数を設定するのが好ましい。
【0049】
図8は、改良された参照テーブル31A´の模式図である。図8に示した参照テーブル31A´において、X方向は舵角を、Y方向は車速を、Z方向は調整係数の大きさを、それぞれ示している。領域E1、E2、E3を区画する境界線L1、L2から離れるに従って減衰力の調整量(上記の例では調整係数)が漸次に変化するように設定されている。即ち、境界線L2の内側の領域E3では、境界線L2から離れるに従って調整係数が次第に小さくなっている。また、境界線L2と境界L1との間の領域E2では、ほぼ一定の比較的に大きな調整係数が設定されている。さらに、境界線L1の外側の領域E1では、境界線L2から離れるに従って調整係数が次第に小さくなっていき、ある程度離れた領域では、ほぼ一定の比較的に小さな調整係数が設定されている。このような参照テーブル31A´を用いれば、領域E1、E2、E3を区画する境界線L1、L2の近傍で調整係数が急変するのを避けることができるので、ステアリングの減衰力を滑らかに変化させることができる。
【0050】
<減衰力調整部36について>
減衰力調整部36は、調整指令出力部31から出力された減衰力の調整指令に応じて、減衰力演算部35から与えられた減衰力の初期指令を調整して、MRダンパ20の減衰力指令を出力する。具体的には、減衰力調整部36は、調整指令出力部31から与えられた減衰力の調整係数を、減衰力演算部35で算出された減衰力に乗算することにより、減衰力を調整する。
【0051】
(3−3)ダンパ駆動部33の構成
ダンパ駆動部33は、ダンパ電流調整部37と電流駆動回路38とを備える。ダンパ電流調整部37は、一方入力として、減衰力調整部36から減衰力指令が与えられる。また、ダンパ電流調整部37は、他方入力として、電流検出センサ39で検出された電流駆動回路38の電流値が与えられる。電流駆動回路38の電流値は、MRダンパ20で発生する減衰力の大きさに対応する。ダンパ電流調整部37は、一方入力である減衰力指令と、他方入力である電流駆動回路38の電流値とを比較し、両者の差分を打ち消すように調整されたPWM(パルス幅変調)信号を出力する。ダンパ電流調整部37から出力されたPWM信号は電流駆動回路38に与えられる。電流駆動回路38はPWM信号のデューティー比に応じた大きさの電流をMRダンパ20の磁場発生用コイル24に与える。そして、磁場発生用コイル24が、供給された電流値に応じた磁場を発生する結果、MRダンパ20の磁性流体23の粘度が変化し、MRダンパ20に減衰力指令に応じた減衰力が発生する。
【0052】
(3−4)異常判定部40の構成
図9を参照する。図9は舵角センサ14の特性図であり。横軸が舵角(度)を、縦軸が舵角センサ14の検出信号SV(電圧(V))を表している。この舵角センサ14は、ハンドルバー9がステアリングの中心位置にあるときに「2.5V」を出力する。右方向へ操舵されたときは、舵角センサ14の検出信号は「2.5V]からリニアに増加し、左方向へ操舵されたときは「2.5V」からリニアに減少する。舵角センサ14の検出信号は、走行中の鞍乗り型車両の振動等により、その電圧値は多少上下に振動する。図9中の縦軸のVは、舵角センサ14が正常動作している場合に、舵角センサ14がステアリングの中心位置を検出したときの検出信号の上限値、Vはその下限値である。ハンドルバー9がステアリングの中心位置にあるときに、舵角センサ14の検出信号SVが「2.5−V」ボルトから「2.5+V」ボルトの間にあれば、舵角センサ14は正常に動作しているといえる。
【0053】
異常判定部40は、舵角センサ14が正常動作しているか否かを判定する基準として、上記の2つの参照値「2.5−V」及び「2.5+V」を予め記憶している。異常判定部40は、ハンドルバー9がステアリングの中心位置にあることを、中心検出スイッチ19から与えられる信号によって知る。中心位置スイッチ19がステアリングの中心位置を検出したときに、異常判定部40は、舵角センサ14の検出信号SVを読み込み、その検出信号が前記参照値で定まる範囲内に入っているか否かによって、舵角センサ14が正常動作しているか否かを判定する。
【0054】
(4)ステアリングダンパシステムの動作(減衰力の制御動作)
次に、上述した構成を備えたステアリングダンパシステムの動作を説明する。図10を参照する。図10は、ステアリングダンパシステムの動作順序を示したフロチャートである。
【0055】
<ステップS1>
コントローラ30は、一定時間ごとに車速センサ15の車速検出信号と、舵角センサ14の舵角検出信号とを、それぞれ読み込む。車速検出信号は調整指令出力部31に与えられる。舵角検出信号は、調整指令出力部31、舵角速度演算回路34A、舵角方向判定部34B、及び異常判定部40にそれぞれ与えられる。
【0056】
<ステップS2>
コントローラ30の舵角方向判定部34Bは、読み込んだ舵角検出信号を微分処理して、その正負の符号から、舵角が大きくなる方向に操舵されたか、あるいは舵角が小さくなる方向に操舵されたかを判定する。舵角が大きくなる方向に操舵されている(即ち、ハンドルが切られている)と判定した場合は、ステップS3に進む。一方、舵角が小さくなる方向に操舵されている(即ち、ハンドルが中心位置に向かって戻されている)と判定した場合は、ステップS6に進む。
【0057】
<ステップS3>
ステップS3において、調整指令出力部31は、検出された車速と舵角とで決まる参照テーブル31A上の座標が、減衰領域(比較的に大きな調整係数が割り当てられた領域E2)の範囲内に属しているか否かを判定する。具体的には、領域E1、E2、E3のうちの何れの領域に属しているかを判断する。コーナー走行状態に対応した領域E2に属しているときは、ステップS4に進む。直線走行状態に対応した領域E1、又は特殊な走行状態に対応した領域E3に属しているときは、ステップS5に進む。
【0058】
<ステップS4>
ステップS4では、領域E2に応じた減衰力演算を行う。具体的には、コントローラ30の減衰力演算部35が、減衰力算出用テーブル35Aを参照することにより、舵角速度演算回路34Aで算出された舵角速度に応じた、MRダンパ20の減衰力の初期値を算出する。ハンドルバー9が速く操作されているときは、比較的に大きな減衰力の初期値が算出され、ハンドルバー9が遅く操作されているときは、比較的に小さな減衰力の初期値が算出される。算出された減衰力の初期値(初期指令)は減衰力調整部36に与えられる。さらに、減衰力調整部36は、調整指令出力部31から与えられた領域E2に対応した調整係数を、減衰力演算部35で算出された減衰力の初期値に乗算することにより、減衰力を調整する。領域E2に対応した調整係数は比較的に大きな値であるので、比較的に大きな減衰力の初期値が減衰力指令として出力される。
【0059】
<ステップS5>
ステップS5では、領域E1又は領域E3に応じた減衰力を小さくするための演算(弱め減衰力演算)を行う。具体的には、ステップS4と同様に減衰力演算部35が舵角速度に応じた減衰力の初期値を算出する。減衰力調整部36が、調整指令出力部31から与えられた領域E1又は領域E3に対応した比較的に小さな調整係数を、減衰力演算部35で算出された減衰力の初期値に乗算することにより減衰力を小さくする方向に調整する。
【0060】
<ステップS6>
ステップS2で、舵角が小さくなる方向に操舵されていると判定された場合は、ステップS6でハンドル戻し用の減衰力の値が演算される。具体的には、減衰力演算部35は、舵角速度に拘わりなく減衰力を略最小にする指令を出力する。その指令を受けた減衰力調整部36は、減衰力を略最小にする減衰力指令を出力する。
【0061】
以上のように、舵角が大きくなる方向に操舵されつつ(即ち、ハンドルを切り込みながら)、車両がコーナーを走行しているときは、比較的に大きな減衰力を発生させるための減衰力指令がダンパ駆動部33に与えられる。また、車両が直線走行しているときや、特殊な走行状態にあるときは、小さな減衰力を発生させるための減衰力指令がダンパ駆動部33に与えられる。そして、舵角が小さくなる方向に操舵されている(即ち、ハンドルが中心位置に向けて戻されている)ときは、減衰力を略最小にする減衰力指令がダンパ駆動部33に与えられる。
【0062】
<ステップS7>
ダンパ駆動部33のダンパ電流調整部37は、与えられた減衰力指令に一致するようにPWM信号を調整する。その結果、MRダンパ20の磁場発生用コイル24に供給される電流値が調整されて、MRダンパ20に減衰力指令に応じた減衰力が発生する。
【0063】
以上のような実施例に係るステアリングダンパシステムによれば、次のような効果を奏する。即ち、車両が直線走行状態であるときは、MRダンパ20の減衰力が小さくなるので、ライダーが微小な舵角を切って車両のバランスを取るハンドル操作を軽快に行うことができる。また、車両がコーナー走行状態であるときは、比較的に大きな減衰力を作用させるので、コーナー走行時のステアリング操作に伴うライダーの負担が軽減する。さらに、ジャンプや後輪を滑らせるカウンター、ウイリー走行などの特殊な走行状態のときは、減衰力が小さくなるので、ライダーは自由にハンドル操作を行なうことができる。
【0064】
また、参照テーブル31Aの領域E1と領域E2を区画する第1舵角範囲SA1、及び領域E2と領域E3を区画する第2舵角範囲は共に、車速が速くなるに従って狭くなるように設定されている。つまり、参照テーブル31Aは、同じ直線走行状態や、あるいはコーナー走行状態であっても、車速が速くなるに従って、取り得る舵角範囲が狭くなるという操舵の経験則を良く反映しているので、車両の走行状態を的確に判断することができ、もって走行状態に応じた減衰力を適切に調整して、ステアリング操作に伴うライダーの負担を軽減すると共に、操縦性を共に向上させることができる。
【0065】
(5)ステアリングダンパシステムのフェイル・セイフ動作
次に、上述した構成を備えたステアリングダンパシステムにおいて、舵角センサ14に異常が発生したときの動作(フェイル・セイフ動作)を説明する。図11を参照する。図11は、ステアリングダンパシステムのフェイル・セイフ動作順序を示したフロチャートである。
【0066】
<ステップS11>
コントローラ30の異常判定部40は、中心検出スイッチ19がオン状態になったか否かを常に監視している。中心検出スイッチ19がオン状態になると、ステップS12に進む。
【0067】
<ステップS12>
ステップS12では、異常判定部40は、中心検出スイッチ19がオン状態になったときに、舵角センサ14で検出された舵角(検出信号SV)を読み込む。
【0068】
<ステップS13>
ステップS13では、舵角センサ14の検出信号SVが、予め記憶しておいた参照値「2.5−V」以上であるか否かを判定する。検出信号SVが参照値「2.5−V」以上である場合はステップS14に進む。一方、検出信号SVが参照値「2.5−V」未満である場合は、舵角センサ14に異常が発生したものと判断してステップS15に進む。
【0069】
<ステップS14>
ステップS14では、舵角センサ14の検出信号SVが、予め記憶しておいたもう一つの参照値「2.5+V」以下であるか否かを判定する。検出信号SVが参照値「2.5+V」以下である場合は、舵角センサ14が正常に作動していると判断し、前記ステップS11に戻って、次に中心検出スイッチ19がオン状態になるのを待つ。一方。検出信号SVが参照値「2.5+V」を超える場合は、舵角センサ14に異常が発生したものと判断してステップS15に進む。
【0070】
<ステップS15>
舵角センサ14の検出信号SVが2つの参照値「2.5−V」及び「2.5+V」で定まる範囲内に入っていない場合は、舵角センサ14に異常が発生したものと判断して、ステップS15において次の(15−1)〜(15−3)の動作を実行する。
【0071】
(15−1)まず、異常判定部40は、減衰力調整部36に異常発生を知らせる信号を出力する。これに基づき減衰力調整部36は、MRダンパ20で発生させる減衰力を略最小にする指令を出力する。すなわち、減衰力調整部36は、異常判定部40から舵角センサ14の異常発生を知らせる信号を受け取ると、減衰力演算部35から与えられた減衰力の初期指令や、調整指令出力部31から与えられた減衰力の調整指令を無視して、MRダンパ20の減衰力を強制的に略最小にする。
【0072】
(15−2)また、減衰力調整部36は、一度、異常判定部40から舵角センサ14の異常発生を知らせる信号を受け取ると、それ以降は、図10で説明した減衰力の制御動作を停止する。その結果、MRダンパ20の減衰力は略最小に維持される。
【0073】
(15−3)さらに、異常判定部40は、舵角センサ14の異常発生を知らせる信号を鞍乗り型車両に搭載された報知器41に出力する。報知器41は、ブザーを鳴らしたり、或いは、警告灯を点滅させるなどして、舵角センサ14に異常が発生したことをライダーに知らせる。
【0074】
以上のような本実施例に係るステアリングダンパシステムによれば、次のような効果を奏する。上記(15−1)に記載したように、舵角センサ14に異常が発生すると、MRダンパ20の減衰力を強制的に略最小にするので、舵角センサ14の異常により、ステアリングの減衰力を大きくしたい走行状態のときに減衰力が作用しなかったり、あるいはその逆に、減衰力を小さくしたい走行状態のときに減衰力が作用したりする等の不都合がなく、鞍乗り型車両のライダーはステアリング操作を快適に行うことができる。
【0075】
また、上記(15−2)に記載したように、一度、舵角センサ14の異常が認められると、それ以降は、通常の減衰力の制御動作を停止して、減衰力が略最小の状態を維持するので、舵角センサ14が不安定な動作をしている場合(ときどき、異常動作する場合)であっても、鞍乗り型車両のライダーはステアリング操作を快適に行うことができる。
【0076】
さらに、上記(15−3)に記載したように、舵角センサ14の異常が認められると、これをライダーに即時に報知するので、ライダーは舵角センサ14の異常をいち早く察知して、その対策を講じることができる。
【0077】
本発明は、上記実施例に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0078】
(1)上述した実施例では、鞍乗り型車両として自動二輪車を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば三輪自動車、バギー等の他の鞍乗り型車両に適用してもよい。
【0079】
(2)実施例では、中心検出スイッチ19によってステアリングの中心位置を検出するように構成したが、本発明は、必ずしもステアリングの中心位置に限らず、ステアリングの特定の舵角を検出すればよい。また、特定の舵角は一点に限らず、複数点を検出してもよい。例えば、ステアリングの中心位置の他に、右方向に操舵されたときの特定の舵角と、左方向に操舵されたときの特定の舵角をそれぞれ検出し、各々の特定舵角を検出したときに舵角センサ14の検出信号を取り込んで、各々の特定舵角に対応した参照値と比較することにより、舵角センサ14の異常発生を判定するようにしてもよい。
【0080】
(3)上述した実施例では、MRダンパを用いたステアリングダンパシステムを説明したが、本発明は、油圧式のステアリングダンパシステムにも適用することができる。即ち、実施例で説明した制御情報を用いてオリフィス径を制御することにより、実施例と同様の構成を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例に係る自動二輪車の概略構成を示した側面図である。
【図2】ハンドルクラウン周辺の構成を示した一部破断正面図である。
【図3】図2のハンドルクラウン周辺の構成を矢印F方向からみた側面図である。
【図4】MRダンパ20の構成を示す図であり、(a)はMRダンパの概略構成を示す縦断面図、(b)は分解斜視図、(c)は部分拡大断面図である。
【図5】実施例1に係るステアリングダンパシステムの概略構成を示したブロック図である。
【図6】減衰力算出用テーブルの構成を模式的に示した図である。
【図7】参照テーブルの構成を模式的に示した図である。
【図8】改良された参照テーブルの構成を模式的に示した図である。
【図9】舵角センサの特性図である。
【図10】ステアリングダンパシステムの動作順序を示したフロチャートである。
【図11】ステアリングダンパシステムのフェイル・セイフ動作順序を示したフロチャートである。
【符号の説明】
【0082】
14 … 舵角センサ
15 … 車速センサ
19 … 中心検出スイッチ
20 … MRダンパ
23 … 磁性流体
30 … コントローラ
31 … 調整指令出力部
31A… 参照テーブル
32 … 減衰力指令出力部
33 … ダンパ駆動部
34A… 減衰力算出用テーブル
34B… 舵角方向判定部
35 … 減衰力演算部
35A… 減衰力算出用テーブル
36 … 減衰力調整部
37 … ダンパ電流調整部
38 … 電流駆動回路
40 … 異常判定部
41 … 報知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングの減衰力を発生するダンパと、
車速と舵角とに基づき、ダンパで発生させる減衰力を調整する減衰力調整手段とを備えたステアリングダンパシステムであって、
予め定められた特定の舵角を検出する特定舵角検出手段と、
前記特定舵角検出手段で特定の舵角が検出されたときに、前記減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っているか否かを判定する異常判定手段とを備え、
前記減衰力調整手段は、前記異常判定手段から与えられた判定結果に基づき、前記減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っていないときは、前記ダンパで発生させる減衰力を略最小にすることを特徴とするステアリングダンパシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリングダンパシステムにおいて、
前記特定舵角検出手段は、車両が直線走行状態にあるときのハンドルの舵角である中心位置を検出することを特徴とするステアリングダンパシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のステアリングダンパシステムにおいて、
前記特定舵角検出手段は、非接触式スイッチであることを特徴とするステアリングダンパシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のステアリングダンパシステムにおいて、
前記減衰力を調整するために検出された舵角が予め定められた舵角範囲に入っていないという判定結果を前記異常判定手段から与えられることに基づき、前記減衰力を調整するための舵角検出の異常を報知する報知手段を備えていることを特徴とするステアリングダンパシステム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のステアリングダンパシステムと、
車速を検出する車速検出手段と、
舵角を検出する舵角検出手段と
を備えたことを特徴とする鞍乗り型車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−292377(P2009−292377A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149429(P2008−149429)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】