説明

ステアリング装置

【課題】車両衝突時に、雌シャフトと雄シャフトが相対的に収縮した時に、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することが容易なステアリング装置を提供する。
【解決手段】雌シャフト12Aに対して雄シャフト12Bが長さL1だけ収縮すると、雌シャフト12Aの右端面121Aの歯先が衝撃エネルギー吸収部40の左端面に当接する。すると、雌セレーション30の歯先と衝撃エネルギー吸収部40の左端面41が強く当接して塑性変形し、コラプス抵抗が増加して、衝撃エネルギーを吸収する。雌セレーション30の歯先と衝撃エネルギー吸収部40の左端面が、雄シャフト12Bの外周の円周方向の全体にわたって当接するため、雌シャフト12Aと雄シャフト12Bとの間にこじれが生じることはなく、衝撃エネルギーの吸収量が安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置、特に、回転トルクを伝達可能で、衝突時に軸方向に相対的に収縮して、運転者に加わる衝撃を緩和するようにしたステアリング装置、例えば、中間シャフトやステアリングシャフト等を有するステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置では、ステアリングホイールの回転をステアリングギヤに伝達するために、図7に示すようなステアリング装置を使用している。図7に示すように、車体後方側(図7の右側)にステアリングホイール11を装着可能なステアリングシャフト12と、このステアリングシャフト12を挿通したステアリングコラム13と、このステアリングシャフト12の車体前方側(図7の左側)に、図示しないラック/ピニオン機構を介して連結されたステアリングギヤとを備えている。
【0003】
ステアリングシャフト12は、雌ステアリングシャフト(雌シャフト)12Aと雄ステアリングシャフト(雄シャフト)12Bとを、回転トルクを伝達可能に、かつ軸方向に関して相対移動可能にセレーション(またはスプライン)嵌合している。従って、上記雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとは、衝突時に、このスプライン嵌合部が相対移動して、全長を縮めることができる。
【0004】
また、上記ステアリングシャフト12を挿通した筒状のステアリングコラム13は、所謂コラプシブル構造としている。すなわち、アウターコラム13Aとインナーコラム13Bとをテレスコピック移動可能に組み合わせており、衝突時に軸方向の衝撃が加わった場合に、この衝撃エネルギーを吸収しつつ全長が縮まる。
【0005】
アウターコラム13Aは、上部支持ブラケット14により、ダッシュボードの下面等、車体18の一部に支承している。また、この上部支持ブラケット14と車体18との間に、図示しない係止部を設けて、この上部支持ブラケット14に車体前方側に向かう方向の衝撃が加わった場合に、この上部支持ブラケット14が上記係止部から外れ、車体前方側に移動するようにしている。また、上記インナーコラム13Bの車体前方端も、下部支持ブラケット19により、上記車体18の一部に支承している。
【0006】
上記雌ステアリングシャフト12Aの車体前方端は、自在継手15を介して、中間シャフト16の後端部に連結している。また、この中間シャフト16の前端部に、別の自在継手17を介して、図示しないステアリングギヤの入力軸を連結している。中間シャフト16は、雌中間シャフト(雌シャフト)16Aの車体前方側に、雄中間シャフト(雄シャフト)16Bの車体後方側がセレーション(またはスプライン)嵌合し、回転トルクを伝達可能に、かつ、軸方向に関して相対移動可能に嵌合している。
【0007】
ステアリングホイール11の回転が、雄ステアリングシャフト12B、雌ステアリングシャフト12A、自在継手15、雌中間シャフト16A、雄中間シャフト16B、自在継手17を介してステアリングギヤに伝達され、図示しない車輪を操舵する。
【0008】
このようなステアリング装置で、車両衝突時に、セレーション(またはスプライン)嵌合した雌シャフトと雄シャフトが相対的に収縮した時に、収縮の途中でコラプス抵抗を大きくして、衝撃エネルギーの吸収量を大きくし、短いコラプスストロークでも、衝撃エネルギーの吸収が十分に行われるようにした構造が必要とされている。特許文献1には、図8に示すような衝撃吸収式ステアリングシャフトが開示されている。
【0009】
図8(a)は、図7の雄シャフト12Bと雌シャフト12Aの要部を示す断面図、図8(b)は図8(a)のR部拡大斜視図である。図8に示すように、雄シャフト12Bの左端外周に形成された雄セレーション20が、雌シャフト12Aの右端内周に形成された雌セレーション30に内嵌して、セレーション係合している。
【0010】
雄セレーション20の歯21の歯底22には、雄セレーション20の軸方向の一部で、雄セレーション20の円周方向の一箇所に、凸部23が形成されている。凸部23の軸方向の位置は、通常の運転操作時には、雌セレーション30には係合せず、車両の衝突時に
雌シャフト12Aと雄シャフト12Bが相対的に収縮した時に、雌セレーション30に係合する位置に形成している。
【0011】
車両の衝突時に雌シャフト12Aと雄シャフト12Bが相対的に収縮すると、雄セレーション20の凸部23が、雌セレーション30の歯先に係合し、雌セレーション30の歯先を塑性変形させる。その結果、コラプス抵抗が大きくなり、衝撃エネルギーの吸収量が増大するようにしている。
【0012】
上記した特許文献1の衝撃吸収式ステアリングシャフトは、収縮の途中でコラプス抵抗を大きくして、衝撃エネルギーの吸収量を大きくすることができる。しかし、凸部23が、雄セレーション20の円周方向の特定箇所だけなので、衝突時に凸部23が円周方向のどの位相に有るかによって、衝撃エネルギーの吸収量が変化するため、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することが困難であった。
【0013】
また、特許文献2に示すように、雌ステアリングシャフト12Aの外周面を半径方向内側に押圧して、雌ステアリングシャフト12A及び雄ステアリングシャフト12Bの断面形状を楕円形に塑性変形させて衝撃エネルギーを吸収するようにした衝撃吸収式ステアリングシャフトがある。しかし、特許文献2の構造を特許文献1の構造に適用すると、凸部23の円周方向の位置と塑性変形させた楕円形の位相を合わせるのが難しいため、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】実用新案登録第2607069号公報
【特許文献2】特開平8−91230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、車両衝突時に、雌シャフトと雄シャフトが相対的に収縮した時に、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することが容易なステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、ステアリングホイールの回転を伝達可能な雄シャフト、上記雄シャフトの外周に形成された雄セレーション、上記雄シャフトに外嵌する雌シャフト、上記雌シャフトの内周に形成され、上記雄セレーションに軸方向に相対的に移動可能にかつ回転トルクを伝達可能に係合する雌セレーション、車両の衝突時に、上記雌シャフトに対して上記雄シャフトが相対的に収縮する際に、収縮の途中で上記雌セレーションに係合する部位に、上記雄シャフトの外周の全周に渡って所定の軸方向長さに形成され、上記雌セレーションの歯先円直径よりも外径寸法が大径で、雌セレーションの歯先が当接して衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収部を備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0017】
第2番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記衝撃エネルギー吸収部は、上記雄シャフトの軸方向に離間した複数箇所に形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0018】
第3番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記衝撃エネルギー吸収部の軸方向長さを設定することを特徴とするステアリング装置である。
【0019】
第4番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記衝撃エネルギー吸収部の外径寸法を設定することを特徴とするステアリング装置である。
【0020】
第5番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記雄シャフトの硬度を設定することを特徴とするステアリング装置である。
【0021】
第6番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記衝撃エネルギー吸収部が上記雌セレーションの歯先に当接する当接面の傾斜角度を設定することを特徴とするステアリング装置である。
【0022】
第7番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記雌セレーションの歯先が上記衝撃エネルギー吸収部に当接する当接面の傾斜角度を設定することを特徴とするステアリング装置である。
【0023】
第8番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記雌シャフトの外周面を半径方向内側に押圧して、雌シャフト及び雄シャフトの断面形状を楕円形に塑性変形させることを特徴とするステアリング装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のステアリング装置では、車両の衝突時に、雌シャフトに対して雄シャフトが相対的に収縮する際に、収縮の途中で雌セレーションに係合する部位に、雄シャフトの外周の全周に渡って所定の軸方向長さに形成され、雌セレーションの歯先円直径よりも外径寸法が大径で、雌セレーションの歯先が当接して衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収部を備えている。
【0025】
従って、車両衝突時に雌シャフトと雄シャフトが相対的に収縮した時に、雌セレーションの歯先と衝撃エネルギー吸収部が、雄シャフトの外周の円周方向の全体にわたって当接するため、衝撃エネルギーの吸収量が安定し、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1の雄シャフトと雌シャフトの要部を示す断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】(a)は図1のP部拡大断面図、(b)は(a)の変形例である。
【図4】本発明の実施例2の雄シャフトと雌シャフトの要部を示す断面図である。
【図5】図4のQ部拡大断面図である。
【図6】本発明の実施例3の雄シャフトと雌シャフトの要部を示す断面図である。
【図7】従来のステアリング装置を示す一部を断面した側面図である。
【図8】(a)は図7の雄シャフトと雌シャフトの要部を示す断面図である。(b)は(a)のR部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施例1から実施例2を説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は本発明の実施例1の雄シャフトと雌シャフトの要部を示す断面図である。図2は図1のA−A断面図、図3(a)は図1のP部拡大断面図である。図1に示すように、雄シャフト12Bの左端外周に形成された雄セレーション20が、雌シャフト12Aの右端内周に形成された雌セレーション30に内嵌して、セレーション係合している。図示はしないが、雄シャフト12Bは中空円筒状に形成されている。
【0029】
図1から図3に示すように、雄セレーション20には、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aから長さL1だけ離れた位置に、衝撃エネルギー吸収部40が形成されている。衝撃エネルギー吸収部40の軸方向長さはL2で、雄シャフト12Bの外周の全周に渡って円筒状に形成されている。衝撃エネルギー吸収部40の外径寸法D1は、雌セレーション30の歯先31の歯先円直径D2よりも大径に形成されている。
【0030】
図1に示す雌シャフト12Aの右端外周面122Aは、雌セレーション30に雄セレーション20をセレーション係合させた後、外周側から半径方向内側に少し押し潰すことにより、雌シャフト12A及び雄シャフト12Bを楕円形に塑性変形させる。その結果、雄シャフト12Bと雌シャフト12Aは、軸方向にある程度の強い力が加わらない限り、軸方向に相対移動しないように結合されている。
【0031】
車両が衝突して、雌シャフト12Aと雌シャフト12Bとの間に作用するコラプス荷重が大きくなると、雌シャフト12Aに対して雄シャフト12Bが収縮を開始する。
【0032】
雌シャフト12Aに対して雄シャフト12Bが長さL1だけ収縮すると、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aの歯先31が衝撃エネルギー吸収部40の左端面(当接面)41に当接する。すると、雌セレーション30の歯先31と衝撃エネルギー吸収部40の左端面41が強く当接して塑性変形し、コラプス抵抗が増加して、衝撃エネルギーを吸収する。
【0033】
本発明の実施例1では、雌セレーション30の歯先31と衝撃エネルギー吸収部40の左端面41が、雄シャフト12Bの外周の円周方向の全体にわたって当接するため、雌シャフト12Aと雄シャフト12Bとの間にこじれが生じることはなく、衝撃エネルギーの吸収量が安定する。
【0034】
また、雌シャフト12Aの右端外周面122Aを押し潰して楕円形に塑性変形させても、衝撃エネルギー吸収部40が雄シャフト12Bの外周の全周に渡って円筒状に形成されているため、塑性変形させた楕円形の位相に係わらず、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することができる。
【0035】
衝撃エネルギー吸収部40の軸方向長さL2、衝撃エネルギー吸収部40の外径寸法D1、雄シャフト12Bの硬度のうちの少なくとも一つを所定の大きさに設定すれば、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することができる。また、図3(b)に示す、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aの歯先31の傾斜角度α1、衝撃エネルギー吸収部40の左端面(当接面)41の傾斜角度α2のうちの少なくとも一つを所定の大きさに設定すれば、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することができる。
【実施例2】
【0036】
次に本発明の実施例2について説明する。図4は本発明の実施例2の雄シャフトと雌シャフトの要部を示す断面図、図5は図4のQ部拡大断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、上記実施例と同一部品には同一番号を付して説明する。
【0037】
実施例2は、実施例1の変形例であって、衝撃エネルギー吸収部を雄シャフト12Bの軸方向に離間した複数箇所に形成した例である。図4から図5に示すように、雄セレーション20には、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aから長さL1だけ離れた位置に、衝撃エネルギー吸収部40が形成されている。また、衝撃エネルギー吸収部40から長さL3だけ離れた位置に、衝撃エネルギー吸収部50が形成されている。
【0038】
衝撃エネルギー吸収部40の軸方向長さはL2、衝撃エネルギー吸収部50の軸方向長さはL4で、雄シャフト12Bの外周の全周に渡って円筒状に形成されている。衝撃エネルギー吸収部40の外径寸法はD1、衝撃エネルギー吸収部50の外径寸法はD3で、雌セレーション30の歯先31の歯先円直径D2よりも大径に形成されている。
【0039】
図4に示す雌シャフト12Aの右端外周面122Aは、雌セレーション30に雄セレーション20をセレーション係合させた後、外周側から半径方向内側に少し押し潰すことにより、雌シャフト12A及び雄シャフト12Bを楕円形に塑性変形させる。その結果、雄シャフト12Bと雌シャフト12Aは、軸方向にある程度の強い力が加わらない限り、軸方向に相対移動しないように結合されている。
【0040】
車両が衝突して、雌シャフト12Aと雌シャフト12Bとの間に作用するコラプス荷重が大きくなると、雌シャフト12Aに対して雄シャフト12Bが収縮を開始する。
【0041】
雌シャフト12Aに対して雄シャフト12Bが長さL1だけ収縮すると、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aの歯先31が衝撃エネルギー吸収部40の左端面(当接面)41に当接する。すると、雌セレーション30の歯先31と衝撃エネルギー吸収部40の左端面41が強く当接して塑性変形し、コラプス抵抗が増加して、衝撃エネルギーを吸収する。
【0042】
雌シャフト12Aが衝撃エネルギー吸収部40を通過し、雌シャフト12Aに対して雄シャフト12Bが更に長さL3だけ収縮すると、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aの歯先31が衝撃エネルギー吸収部50の左端面(当接面)51に当接する。すると、雌セレーション30の歯先31と衝撃エネルギー吸収部50の左端面51が強く当接して塑性変形し、コラプス抵抗が増加して、衝撃エネルギーを吸収する。
【0043】
本発明の実施例2では、衝撃エネルギー吸収部40及び50が、雄シャフト12Bの軸方向に離間した2箇所に形成されている。従って、ステアリング装置のコラプス移動ストロークの位置に応じて、衝撃エネルギーの吸収特性を所定の大きさに設定することができる。
【0044】
衝撃エネルギー吸収部40及び50の軸方向長さL2、L4、衝撃エネルギー吸収部40及び50の外径寸法D1、D3、雄シャフト12Bの硬度のうちの少なくとも一つを所定の大きさに設定すれば、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することができる。また、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aの歯先31の傾斜角度α1、衝撃エネルギー吸収部40及び50の左端面(当接面)41及び51の傾斜角度α2、α3のうちの少なくとも一つを所定の大きさに設定すれば、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することができる。
【実施例3】
【0045】
次に本発明の実施例3について説明する。図6は本発明の実施例3の雄シャフトと雌シャフトの要部を示す断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、上記実施例と同一部品には同一番号を付して説明する。
【0046】
実施例3は、実施例1の変形例であって、ステアリングホイールのテレスコピック位置を調整可能なステアリング装置の雄シャフトと雌シャフトに、衝撃エネルギー吸収部を形成した例である。図6に示すように、インナーコラム13Bにはアウターコラム13Aが、テレスコピック位置調整長さL1だけテレスコピック位置調整可能に外嵌している。アウターコラム13Aには、雄シャフト12Bが回転可能に軸支され、インナーコラム13Bには右端にステアリングホイールを装着可能な雌シャフト12Aが回転可能に軸支されている。
【0047】
雄シャフト12Bの左端外周に形成された雄セレーション20が、雌シャフト12Aの右端内周に形成された雌セレーション30に内嵌して、セレーション係合している。運転者の体格に合わせてインナーコラム13Bに対してアウターコラム13Aのテレスコピック位置を調整すると、テレスコピック位置調整長さL1の範囲では、雌シャフト12Aの雌セレーション30に対して雄シャフト12Bの雄セレーション20が円滑に伸縮する。
【0048】
雄セレーション20には、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aから長さL1(テレスコピック位置調整長さL1と同一長さ)だけ離れた位置に、衝撃エネルギー吸収部40が形成されている。衝撃エネルギー吸収部40の軸方向長さはL2で、雄シャフト12Bの外周の全周に渡って円筒状に形成されている。実施例1の図2、図3(a)と同様に、衝撃エネルギー吸収部40の外径寸法D1は、雌セレーション30の歯先31の歯先円直径D2よりも大径に形成されている。
【0049】
車両が衝突して、インナーコラム13Bに対してアウターコラム13Aが収縮し、雌シャフト12Aに対して雄シャフト12Bがテレスコピック位置調整長さL1だけ収縮すると、雌シャフト12Aの右端面(当接面)121Aの歯先31が衝撃エネルギー吸収部40の左端面(当接面)41に当接する。すると、雌セレーション30の歯先31と衝撃エネルギー吸収部40の左端面41が強く当接して塑性変形し、コラプス抵抗が増加して、衝撃エネルギーを吸収する。
【0050】
本発明の実施例3では、雌セレーション30の歯先31と衝撃エネルギー吸収部40の左端面41が、雄シャフト12Bの外周の円周方向の全体にわたって当接するため、雌シャフト12Aと雄シャフト12Bとの間にこじれが生じることはなく、衝撃エネルギーの吸収量が安定する。
【0051】
衝撃エネルギー吸収部40の軸方向長さL2、衝撃エネルギー吸収部40の外径寸法D1、雄シャフト12Bの硬度のうちの少なくとも一つを所定の大きさに設定すれば、衝撃エネルギーの吸収量を所定の大きさに設定することができる。
【0052】
上記実施例1から実施例3では、雌シャフト12Aと雄シャフト12Bにセレーションが形成された例について説明したが、雌シャフト12Aと雄シャフト12Bにスプラインを形成してもよい。上記実施例1から実施例2では、ステアリングシャフトに適用した例について説明したが、中間シャフトに適用してもよい。また、上記実施例2では、衝撃エネルギー吸収部を雄シャフト12Bの軸方向に離間した2箇所に形成しているが、2箇所以上の衝撃エネルギー吸収部を形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト
12A 雌ステアリングシャフト(雌シャフト)
121A 右端面(当接面)
122A 右端外周面
12B 雄ステアリングシャフト(雄シャフト)
13 ステアリングコラム
13A アウターコラム
13B インナーコラム
14 上部支持ブラケット
15 自在継手
16 中間シャフト
16A 雌中間シャフト(雌シャフト)
16B 雄中間シャフト(雄シャフト)
17 自在継手
18 車体
19 下部支持ブラケット
20 雄セレーション
21 歯
22 歯底
23 凸部
30 雌セレーション
31 歯先
40 衝撃エネルギー吸収部
41 左端面(当接面)
50 衝撃エネルギー吸収部
51 左端面(当接面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの回転を伝達可能な雄シャフト、
上記雄シャフトの外周に形成された雄セレーション、
上記雄シャフトに外嵌する雌シャフト、
上記雌シャフトの内周に形成され、上記雄セレーションに軸方向に相対的に移動可能にかつ回転トルクを伝達可能に係合する雌セレーション、
車両の衝突時に、上記雌シャフトに対して上記雄シャフトが相対的に収縮する際に、収縮の途中で上記雌セレーションに係合する部位に、上記雄シャフトの外周の全周に渡って所定の軸方向長さに形成され、上記雌セレーションの歯先円直径よりも外径寸法が大径で、雌セレーションの歯先が当接して衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収部を備えたこと
を特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記衝撃エネルギー吸収部は、
上記雄シャフトの軸方向に離間した複数箇所に形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記衝撃エネルギー吸収部の軸方向長さを設定すること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記衝撃エネルギー吸収部の外径寸法を設定すること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記雄シャフトの硬度を設定すること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記衝撃エネルギー吸収部が上記雌セレーションの歯先に当接する当接面の傾斜角度を設定すること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項7】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記雌セレーションの歯先が上記衝撃エネルギー吸収部に当接する当接面の傾斜角度を設定すること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項8】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記衝撃エネルギーの吸収量が所定の大きさになるように上記雌シャフトの外周面を半径方向内側に押圧して、雌シャフト及び雄シャフトの断面形状を楕円形に塑性変形させること
を特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−162249(P2012−162249A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190127(P2011−190127)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】