説明

ステレオカメラの取り付け調整方法及びステレオカメラ

【課題】ステレオカメラを自動車等に取り付ける際に、該ステレオカメラの校正距離方向と目的距離方向の調整を容易に行えるようにする。
【解決手段】ステレオカメラ10を自動車40に取り付けて、自動車の直進方向の距離を測定するものとする。ステレオカメラ10は複数の単眼カメラを筐体内に備え、筐体前面を筐体基準面とし、該筐体基準面は反射面を有している。車外に設置されたレーザ光源50の出射光軸と自動車40の直進方向が平行になるように調整した後、レーザ光源50からの出射光をステレオカメラ10の筐体基準面で反射させて、反射光が出射光位置に戻るように、ステレオカメラ10の取り付け姿勢を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の距離や位置を測定するのに用いられるステレオカメラの取り付け調整方法及びそれに好適なステレオカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
ステレオカメラの用途の一つに、複数の位置に設置された単眼カメラからの画像を取得し、各単眼カメラにおける像位置の差(視差)を用いて物体の距離や位置を測定する利用法がある。
【0003】
近年、環境認識へのニースが高まっており、例えば自動車にステレオカメラを搭載し、運転者に車間距離や周囲の歩行者の有無などの情報を提供して、運転を支援するシステムが実用化しつつある。それに伴い、測定範囲の遠距離化や測定の高精度化への要求が高まっている。
【0004】
上述のように、ステレオカメラでは、各単眼カメラにおける像位置の差(視差)から距離を求めるが、視差と距離の関係はステレオカメラのパラメータに依存する。ステレオカメラのパラメータには、単眼カメラの画像中心位置や焦点距離などの内部パラメータと、単眼カメラ同士の相対位置・姿勢である外部パラメータがある。高精度な測定を行う為には、ステレオカメラのパラメータを求めるために事前に校正(キャリブレーション)を行う必要がある。通常、校正は、所定の座標系における座標位置が既知の格子状パターンが描かれた校正用ターゲットをステレオカメラのそれぞれの単眼カメラで撮影し、得られた格子状パターンの像位置と理想位置とを対応付けることで行われる。
【0005】
しかしながら、校正が高精度に行われたとしてもステレオカメラを車などに取り付ける際に、ステレオカメラの校正距離方向(校正後のステレオカメラが距離を算出する方向)と目的距離方向(距離を測ろうとしている方向)がずれると、測距精度が低くなってしまう。校正距離方向と目的距離方向を合わせることは難しいため、取り付け後の校正や、校正距離方向と目的距離方向が一致するように調整を行う必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1では、車などの移動体に取り付けたカメラの位置や向きの校正を簡易に高精度に行うために、校正用ターゲットを移動体に固定する方法を提案している。しかし、これは校正用ターゲットを移動体に取り付けたり取り外したりする作業が余分にかかる。また、移動体と校正用ターゲットとの位置関係を一定に保つ必要があり、校正用ターゲットの取り付け作業が煩雑化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、物体の距離や位置を測定するのに用いられるステレオカメラを移動体などの使用環境に取り付ける際に、ステレオカメラの校正距離方向と目的距離方向の調整を容易にでき、簡易な作業で測距精度が高いステレオカメラの取り付けを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の単眼カメラを一つの筐体内に備え、筐体は筐体基準面を有し、筐体基準面に略直交する方向の距離を測定するステレオカメラを使用環境に取り付ける際に、該ステレオカメラの前方に光源を設置し、該光源の出射光軸とステレオカメラの距離測定方向が平行になるように調整した後、光源からの出射光をステレオカメラの筐体基準面位置で反射させ、反射光が出射光位置に戻るようにステレオカメラの取り付け姿勢を調整することを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、校正距離方向に略直交する筐体基準面を持つステレオカメラを取り付ける際に、目的距離方向と平行な光軸を持つ光束を筐体基準面に入射させ、その反射光を観測することで、校正距離方向と目的距離方向のずれを容易に調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態のステレオカメラの斜視図である。
【図2】ステレオカメラの画像処理系の一実施形態のブロック図である。
【図3】ステレオカメラの校正距離方向を示す図である。
【図4】ステレオカメラの校正距離方向と目的距離方向のずれを示す図である。
【図5】本発明のステレオカメラの取り付け調整方法の第1の実施形態の説明図である。
【図6】本発明のステレオカメラの取り付け調整方法の第2の実施形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態のステレオカメラの斜視図を示したものである。図1において、1と2は単眼カメラ、3は筐体である。単眼カメラ1,2は、それぞれ光軸に直交する筐体前面4を基準面(筐体基準面)として筐体3に取り付けられている。筐体基準面としての筐体前面4の中央部には反射面5が設けられ、さらに+字マーク6が設けられている。反射面5と+字マーク6の作用については後述する。なお、筐体前面4に反射面5を設ける代わりに、別途筐体基準面と平行に反射鏡(反射体)を設置することでもよい。例えば、筐体前面4に支柱を設け、該支柱に着脱可能に反射鏡を取り付けるようにする。
【0012】
図1では示されていないが、単眼カメラ1,2は、それぞれレンズと、該レンズの像を撮像する撮像素子を有している。また、筐体内あるいは筐体外には、単眼カメラ1,2の各撮像素子から出力された撮影画像を処理して被写体までの距離を算出する画像処理ユニットが備えられている。
【0013】
図2は、画像処理ユニットの一実施形態のブロック図を示したものである。画像処理ユニット20は、ステレオカメラ10を構成する単眼カメラ1,2の各撮像素子から出力される撮影画像を補正処理する画像処理部21と、該画像処理部21から出力された補正画像から距離を算出する距離算出部22とからなる。
【0014】
本実施形態では、筐体基準面と直交する方向を自動車の直進方向となるようにステレオカメラ10を自動車に取り付け、該自動車の直進方向の被写体までの距離を測定するとする。また、ステレオカメラ10の校正は公知の方法で、既に行われているとする。
【0015】
ステレオカメラ10の単眼カメラ1,2でそれぞれ被写体を撮影する。画像処理ユニット20の画像処理部21は、内部パラメータや外部パラメータを基に、各単眼カメラ1,2の撮像素子から出力される撮影画像を補正する(歪み補正等)。距離演算部22は、画像処理部21で補正された各単眼カメラ1,2の撮影画像(補正画像)を入力して、公知のパターンマッチング手法等を適用して視差dを求め、筐体基準面に直交する方向の被写体までの距離Zを算出する。
【0016】
ここで、距離Zは次式で計算される。
Z=B*f/d (1)
Bは基線長(単眼カメラの中心間距離)、fは焦点距離であり、通常、校正により求められる。
【0017】
いま、図3に示すように、ステレオカメラ10は、筐体基準面と略直交する方向の距離Zの位置におかれたターゲット30を利用して校正が行われているとする。つまり、筐体基準面と校正距離方向が略直交するように校正が行われているとする。なお、図3中、101と201は各単眼カメラ1,2のレンズ、102と202は撮像素子である。
【0018】
補正後、ステレオカメラ10を自動車等の使用環境に取り付ける際に、図4に示すように、ステレオカメラ10が距離を算出する校正距離方向と距離を測ろうとする目的距離方向とで角度αずれてしまうと、校正距離方向における測定対象までの距離Zと目的距離方向における測定対象までの距離Zとは、次式の関係が成り立つ。
Z=Z*cosα (2)
【0019】
このため、高精度に校正に行われたとしても、ステレオカメラの取り付け精度によって、測距精度は低くなってしまう。そこで、ステレオカメラを使用環境に取り付ける際に、校正距離方向と目的距離方向が一致するように調整を行う必要がある。本発明によれば、この調整を容易に行うことができる。
【0020】
図5は、本発明のステレオカメラ取り付け調整方法の第1の実施形態を説明する図である。先に述べたように、本実施形態では、ステレオカメラの筐体基準面と直交する方向を自動車の直進方向となるようにステレオカメラを自動車に取り付け、該自動車の直進方向の被写体までの距離を測定するとしている。図5において、10は図1の構成のステレオカメラであり、自動車40の車内に、筐体基準面と直交する方向が自動車40の直進方向となるように取り付ける。50は自動車40の車外に設置された光源で、ここではレーザ光源とする。
【0021】
まず、車外に設置されたレーザ光源50の出射光軸と自動車40の直進方向が平行になるように調整する。すなわち、レーザ光源50の出射光軸とステレオカメラ10の距離測定方向が平行になるように調整する。これは、自動車40を直進方向に動かした際に、レーザ光源50の出射光が自動車40に当たる位置が変化しないように調整すればよい。本実施例ではレーザ光源50の出射光をステレオカメラ10の筐体前面(筐体基準面)4上に設けた+字マーク6の中心に当て、自動車40を直進方向に動かした際にレーザ光源50の出射光が+字マーク6の中心からずれないように調整を行う。自動車40の直進方向を微小に調整するのは困難であるため、ここではレーザ光源50の設置角度を調整するようにする。
【0022】
次に、レーザ光源50の出射光をステレオカメラ10の筐体前面(筐体基準面)4上に設けた反射面5(図1)で反射させ、その反射光がレーザ光源50の出射位置に戻るかどうか確認する。ここで、反射光がレーザ光源50の出射位置に戻らなければ、ステレオカメラ10の校正距離方向と目的距離方向がずれていることになる。その場合、反射光が出射位置に戻るように、ステレオカメラ10の取り付け姿勢を調整する。これにより、目的距離方向と校正距離方向が平行になり、校正時の距離精度を保ったまま、ステレオカメラ10を自動車50に設置することができる。なお、図1で述べたように、ステレオカメラ10の筐体前面(筐体基準面)4上に反射面5を設けるかわりに、別途、筐体基準面と平行に反射鏡(反射体)を設けるようにしてもよい。
【0023】
本実施形態によれば、ステレオカメラを自動車等に設置する際に、簡単な装置構成、簡単な作業でもって、ステレオカメラの目的距離方向と校正距離方向が一致するように調整することが可能になる。
【0024】
図6は、本発明のステレオカメラ取り付け調整方法の第2の実施形態を説明する図である。本実施形態は、図5のレーザ光源50の代りにオートコリメータ(レーザオートコリメータ)60を使用するものである。オートコリメータ60は既存のものでよく、詳しい説明は省略する。ここでも、ステレオカメラ10は図1に示した構成する。
【0025】
まず、車外に設置されたオートコリメータ60の出射時光軸と自動車40の直進方向(ステレオカメラ10の距離測定方向)が平行になるように調整する。これは、第1の実施形態と同様に、オートコリメータ60の出射光がステレオカメラ10の筐体前面(筐体基準面)4上に設けた+字マーク6(図1)の中心に当て、自動車40を直進方向に動かした際に、レーザ光源50の出射光が+字マーク6からずれないようにオートコリメータ60の設置角度を調整することで行えばよい。
【0026】
次に、オートコリメータ60でステレオカメラ10の筐体基準面の傾き角度を測定する。すなわち、オートコリメータ60の出射光をステレオカメラ10の筐体前面(筐体基準面)4上に設けた反射面5(図1)で反射させ、その反射光をオートコリメータ60内の位置検出センサで受光することで、ステレオカメラ10の筐体基準面の傾き角度を測定する。この傾き角度が0°になるように、ステレオカメラ10の取り付け姿勢を調整する。これにより、目的距離方向と校正距離方向が平行になり、校正時の距離精度を保ったまま、ステレオカメラ10を自動車に設置することができる。本実施形態でも、ステレオカメラ10の筐体前面(筐体基準面)4上に反射面5を設けるかわりに、別途、筐体基準面と平行に反射鏡(反射体)を設けるようにしてもよい。
【0027】
なお、図2の画像処理ユニット20において、距離演算部22が、オートコリメータ60で測定された角度データを保持し、該角度データを用いて(2)式により算出した距離を補正して、対象物までの距離を出力してもよい。この場合、ステレオカメラ10の取り付け姿勢を調整する作業が不要となる。
【0028】
本実施形態によれば、オートコリメータでステレオカメラの筐体基準面の傾き角度を高精度に測定できるため、ステレオカメラのわずかの傾きも調整することができる。また、先の第1の実施形態では、レーザ光源とステレオカメラの間隔を長くする必要があるが(短いと、出射光と反射光のずれ量が小さくなり、微小な傾きを調整できない)、本実施形態によれば、オートコリメータとステレオカメラの間隔は短くてよく、狭い環境で調整作業を行うことが可能になる。
【0029】
なお、上記した二つの実施形態を適用することも可能である。すなわち、まず、図5の方法によりステレオカメラの取り付け姿勢を粗調整し、次に、図6の方法でもって微調整するようにする。
【符号の説明】
【0030】
1,2 単眼カメラ
3 筐体
4 筐体前面(筐体基準面)
5 反射面
6 +字マーク
10 ステレオカメラ
20 画像処理ユニット
21 画像処理部
22 距離測定部
50 レーザ光源
60 オートコリメータ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2001−285681号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単眼カメラを一つの筐体内に備え、前記筐体は筐体基準面を有し、前記筐体基準面に略直交する方向の距離を測定するステレオカメラの取り付け調整方法であって、
前記ステレオカメラの前方に光源を設置し、
前記光源の出射光軸と前記ステレオカメラの距離測定方向が平行になるように調整し、
前記光源からの出射光を前記ステレオカメラの筐体基準面位置で反射させ、反射光が前記出射光の位置に戻るように前記ステレオカメラの取り付け姿勢を調整する、
ことを特徴とするステレオカメラの取り付け調整方法。
【請求項2】
複数の単眼カメラを一つの筐体内に備え、前記筐体は筐体基準面を有し、前記筐体基準面に略直交する方向の距離を測定するステレオカメラの取り付け調整方法であって、
前記ステレオカメラの前方にオートコリメータを設置し、
前記オートコリメータの出射光軸と前記ステレオカメラの距離測定方向が平行になるように調整し、
前記オートコリメータからの出射光を前記ステレオカメラの筐体基準面位置で反射させ、反射光を前記オートコリメータで受光して、前記筐体基準面の傾き角度を測定し、前記傾き角度がゼロになるように前記ステレオカメラの取り付け姿勢を調整する、
ことを特徴とするステレオカメラの取り付け調整方法。
【請求項3】
前記ステレオカメラの筐体基準面と平行に設置される反射体を有し、
前記光源あるいは前記オートコリメータからの出射光を前記反射体で反射させることを特徴とする請求項1又は2に記載のステレオカメラの取り付け調整方法。
【請求項4】
前記ステレオカメラの筐体基準面は反射面を有し、
前記光源あるいは前記オートコリメータからの出射光を前記筐体基準面の反射面で反射させることを特徴とする請求項1又は2に記載のステレオカメラの取り付け調整方法。
【請求項5】
前記ステレオカメラの筐体基準面は+字マークを有し、
前記光源あるいは前記オートコリメータからの出射光が前記筐体基準面の+字マークに当たるようにすることで、前記光源あるいは前記オートコリメータの出射光軸と前記ステレオカメラの距離測定方向が平行になるように調整することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のステレオカメラの取り付け調整方法。
【請求項6】
複数の単眼カメラを一つの筐体内に備え、前記筐体は筐体基準面を有し、前記筐体基準面に略直交する方向の距離を測定するステレオカメラの取り付け調整方法であって、
前記ステレオカメラの前方にオートコリメータを設置し、
前記オートコリメータの出射光軸と前記ステレオカメラの距離測定方向が平行になるように調整し、
前記オートコリメータからの出射光を前記ステレオカメラの筐体基準面位置で反射させ、反射光を前記オートコリメータで受光して、前記筐体基準面の傾き角度を測定し、
前記測定された傾き角度に基づいて、測距された距離を補正する、
ことを特徴とするステレオカメラの取り付け調整方法。
【請求項7】
複数の単眼カメラを一つの筐体内に備え、前記筐体は筐体基準面を有し、前記筐体基準面に略直交する方向の距離を測定するステレオカメラであって、
前記筐体基準面は反射面を有し、且つ、前記筐体基準面の中央に+字マークを有することを特徴とするステレオカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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