説明

スパイラルケーブル装置及び伝達比可変装置

【課題】異音の発生を抑制することのできるスパイラルケーブル装置及び伝達比可変装置を提供する。
【解決手段】スパイラルケーブル装置の内筒体62の一端部に、径方向外側に延出される内筒フランジ65を形成するとともに、外筒体61の一端部に、径方向内側に延出されて内筒フランジ65と軸方向に対向する外筒フランジ68を形成した。また、外筒フランジ68の対向面68aに、各筒体61,62の軸方向に突出して内筒フランジ65の対向面65aに接触する円環状の摺動突部81を形成した。そして、内筒フランジ65の対向面65aにおける摺動突部81と接触する位置に、各筒体61,62の径方向への摺動突部81の移動を規制する円環状の規制溝82を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに相対回転する部材間を電気的に接続するスパイラルケーブル装置、及びこれを備えた伝達比可変装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、こうしたスパイラルケーブル装置は、例えばモータ駆動により伝達比(ステアリングギア比)を可変とする伝達比可変装置等に用いられ、車両本体に固定された制御装置からステアリングシャフトと一体回転するモータ等に駆動電力を供給するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6に示す例では、スパイラルケーブル装置101は、円筒状の外筒体102と、外筒体102の内側に同外筒体102と相対回転可能に設けられる円筒状の内筒体103と、一端が外筒体102に固定されるとともに他端が内筒体103に固定されるフレキシブルフラットケーブル(FFC)104とを備えている。FFC104は、内筒体103に巻回された状態で外筒体102と内筒体103との間に収容されており、これら外筒体102と内筒体103との相対回転に伴って巻き締め又は巻き広げられるようになっている。
【0004】
内筒体103には、その一端部(図6における下端部)から径方向外側に延出される円環状の内筒フランジ105が形成されている。一方、外筒体102には、その一端部から径方向内側に延出されて内筒フランジ105と軸方向(図6における上下方向)に対向する外筒フランジ106が形成されている。そして、図7に示すように、外筒フランジ106の内筒フランジ105との対向面106aには、先端が断面円弧状に形成された円環状の摺動突部107が形成されており、摺動突部107が内筒フランジ105の外筒フランジ106との対向面105aに線接触するように構成されている。これにより、外筒体102と内筒体103との間の摺動抵抗を低減でき、円滑に外筒体102と内筒体103とを相対回転させることができるようになる。そして、その結果、こうしたスパイラルケーブル装置を採用した伝達比可変装置では、円滑にステアリングを操舵することができ、良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−69433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1の構成では、内筒体103は、モータ等が収容されるハウジング(図示略)に固定されており、同モータの駆動等によって振動する。また、外筒体102は、ブーツ(図示略)を介して車両本体に固定されており、上記のように外筒フランジ106の摺動突部107が内筒フランジ105の対向面105aに接触しているため、内筒体103の振動が同摺動突部107を介して外筒フランジ106に伝達されることにより、外筒体102も振動する。
【0007】
ここで、図7に示すように、摺動突部107は、平坦な平面状に形成された内筒フランジ105の対向面105aに接触しているため、外筒体102は内筒体103に対して容易に相対移動することが可能となる。そのため、内筒体103の振動数と外筒体102の固有振動数とが一致する場合には、共振により外筒体102が大きく振動し易く、異音が発生する虞がある。そして、こうした振動により生じた異音は、同外筒体102の内部で反響することで増大するため、騒音として顕在化し易いという問題があった。
【0008】
なお、このような問題は、スパイラルケーブル装置を伝達比可変装置に用いる場合に限らず、他の用途に用いる場合においても、同様に生じ得る。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、異音の発生を抑制することのできるスパイラルケーブル装置及び伝達比可変装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、筒状の外筒体と、前記外筒体の内側に該外筒体に対して相対回転可能に設けられる筒状の内筒体と、一端が前記外筒体に固定されるとともに他端が前記内筒体に固定されるフレキシブルフラットケーブルとを備え、前記フレキシブルフラットケーブルは、前記内筒体に巻回された状態で前記外筒体と前記内筒体との間に収容されるスパイラルケーブル装置において、前記内筒体の一端部には、径方向外側に延出される円環状の内筒フランジが設けられるとともに、前記外筒体の一端部には、径方向内側に延出されて前記内筒フランジと軸方向に対向する円環状の外筒フランジが設けられ、前記内筒フランジ及び外筒フランジの各対向面の少なくとも一方には、各筒体の軸方向に突出して他方の対向面に接触する摺動突部が形成されるものであって、前記対向面における前記摺動突部と接触する位置には、各筒体の径方向への該摺動突部の移動を規制する規制溝が形成されたことを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、摺動突部が規制溝内に挿入されることで、外筒体と内筒体とが径方向に相対移動することが規制され、外筒体と内筒体とは径方向に一体で振動するようになる。これにより、例えば内筒体の振動が外筒体に伝達される場合において内筒体の振動数と外筒体の固有振動数とが一致しても、外筒体が径方向に大きく振動することを抑制でき、異音の発生を抑制することができる。また、摺動突部を規制溝内に挿入することで、精度良く外筒体及び内筒体の軸心を合わせることが可能になり、これら外筒体と内筒体とが相対回転する際にがたつくことを低減できる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスパイラルケーブル装置において、前記摺動突部と前記規制溝との間には、潤滑剤が介在され、前記対向面における前記規制溝の外周側には、各筒体の軸方向に突出する環状の堰き止め部が形成されたことを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、潤滑剤により摺動突部と規制溝との間の摺動抵抗を低減することができるため、円滑に外筒体と内筒体とを相対回転させることができるようになる。また、潤滑剤は、振動の伝達経路である摺動突部と規制溝との間に介在されるため、同潤滑剤により外筒体と内筒体との間で伝達される振動を減衰させることができ、異音の発生をより一層抑制することができる。そして、上記構成では、規制溝の外周側に堰き止め部が形成されるため、外筒体及び内筒体が回転する際の遠心力等により、潤滑剤が径方向外側に拡散することを防止できる。これにより、摺動突部と規制溝との間に潤滑剤を介在させた状態を確実に維持することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のスパイラルケーブル装置において、前記摺動突部は、前記規制溝の側面に線接触するように形成されたことを要旨とする。
上記構成によれば、摺動突部が規制溝の側面に線接触するため、これら摺動突部と規制溝とが面接触する場合に比べ、摺動抵抗が増大することを抑制し、円滑に外筒体と内筒体とを相対回転させることができるようになる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパイラルケーブル装置を備えた伝達比可変装置であることを要旨とする。
上記構成によれば、スパイラルケーブル装置での異音の発生が抑制されるため、静粛性の優れた伝達比可変装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異音の発生を抑制することのできるスパイラルケーブル装置及び伝達比可変装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】本実施形態の伝達比可変装置の断面図。
【図3】本実施形態の蓋部材を取り外した状態のスパイラルケーブル装置の平面図。
【図4】本実施形態の摺動突部近傍を示す拡大断面図。
【図5】別の摺動突部近傍を示す拡大断面図。
【図6】従来のスパイラルケーブル装置の断面図。
【図7】従来の摺動突部近傍を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両用操舵装置1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラックハウジング5内に往復動可能に挿通されたラック軸6に噛合されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸6の往復直線運動に変換される。そして、このラック軸6の往復直線運動により転舵輪11の舵角、すなわち車両の進行方向が変更されるようになっている。なお、ステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。また、ステアリングシャフト3は、車両前方側端部が鉛直(重力)方向下側に位置するように傾斜した状態で車両に搭載されている。
【0018】
車両用操舵装置1は、ステアリング2の舵角(操舵角)に対する転舵輪11の舵角(タイヤ角)の比率、すなわち伝達比(ステアリングギヤ比)を可変させる伝達比可変装置12を備えている。
【0019】
次に、伝達比可変装置12の構成について説明する。
伝達比可変装置12は、ステアリングシャフト3を構成するインターミディエイトシャフト9の途中に設けられている。具体的には、インターミディエイトシャフト9は、ステアリング2側に位置する第1シャフト14とラック軸6側に位置する第2シャフト15とからなる。そして、伝達比可変装置12は、これら第1シャフト14及び第2シャフト15を連結する波動歯車機構16と、該波動歯車機構16を駆動するモータ17とを備えている。これにより、伝達比可変装置12は、ステアリング操作に伴う第1シャフト14の回転に、モータ17の駆動に基づく回転を上乗せして第2シャフト15に伝達することで、ステアリング2と転舵輪11との間の伝達比を可変させるようになっている。
【0020】
詳述すると、図2に示すように、伝達比可変装置12は、略円筒状のハウジング21と、同ハウジング21の上端側(図2における上側)の開口部21aに固定される連結カバー22とを備えている。連結カバー22は、円板状の天板部23と、天板部23から下側に延出されて同ハウジング21に開口部21aに嵌合固定される大径筒部24と、天板部23から上側に延出された小径筒部25とからなる。そして、連結カバー22は、その小径筒部25と第1シャフト14の一端とが嵌合されることにより、第1シャフト14と一体回転するように固定されている。従って、ハウジング21は、第1シャフト14と一体回転可能に連結されている。
【0021】
ハウジング21内には、波動歯車機構16が収容されている。波動歯車機構16は、同軸に並置された一対のサーキュラスプライン31,32と、これら各サーキュラスプライン31,32と部分的に噛み合うように同軸配置された筒状のフレクスプライン33と、モータ駆動によりフレクスプライン33の噛合部を回転させる波動発生器34とを備えてなる。
【0022】
各サーキュラスプライン31,32には、互いに異なる歯数が設定されており、フレクスプライン33は、略楕円状に撓められた状態で各サーキュラスプライン31,32の内側に配置されている。これにより、フレクスプライン33は、その外歯が該各サーキュラスプライン31,32の内歯とそれぞれ部分的に噛合される。また、波動発生器34は、フレクスプライン33の内側に配置されており、モータ17に駆動されて上記撓められたフレクスプライン33の略楕円形状、すなわち両サーキュラスプライン31,32との噛合部を回転させるように構成されている。
【0023】
モータ17側に配置されたサーキュラスプライン31は、ハウジング21の内周に圧入されることにより、同ハウジング21と一体回転可能に固定されている。一方、第2シャフト15側に配置されたサーキュラスプライン32は、中間部材35を介して第2シャフト15と一体回転可能に連結されている。なお、中間部材35は、円板状に形成されるとともに、サーキュラスプライン32の内周に固定されている。そして、中間部材35の略中央に形成された凹部35aに第2シャフト15が嵌合固定されることで、サーキュラスプライン32と第2シャフト15とが一体回転するように構成されている。
【0024】
そして、伝達比可変装置12は、このように第1シャフト14及び第2シャフト15が連結された波動歯車機構16の波動発生器34をモータ駆動することにより、ステアリング2と転舵輪11との間の伝達比(ギヤ比)を変更することが可能とされている。
【0025】
詳しくは、ステアリング操作に伴う第1シャフト14の回転は、同第1シャフト14に連結されたサーキュラスプライン31からフレクスプライン33を介してサーキュラスプライン32に伝達され、これにより第2シャフト15へと伝達される。また、波動発生器34がモータ17によって駆動され、フレクスプライン33の楕円形状、すなわち各サーキュラスプライン31,32との噛合部が回転することにより、これらの歯数差に基づく回転差が、モータ駆動に基づく回転として上記ステアリング操作に基づく回転に上乗せされて第2シャフト15へと伝達される。これにより、第1シャフト14と第2シャフト15との間の回転伝達比、すなわちステアリング2と転舵輪11との間の伝達比を変更することが可能となっている。
【0026】
また、伝達比可変装置12の駆動源であるモータ17は、波動歯車機構16の第1シャフト14側(図2における上側)に並置されている。そして、本実施形態のモータ17には、ブラシレスモータが採用されている。
【0027】
具体的には、ハウジング21内には、上端側(図2における上側)が開口した略有底円筒状のモータケース41が同ハウジング21内に固定されるとともに、下端側(図2における下側)が開口した略有底円筒状のセンサケース42が同連結カバー22内に固定されている。モータケース41内には、各相のコイル43が巻回されたステータ44が固定されている。また、同ステータ44の内周側には、磁石45が固定されたロータ46が各ケース41,42の内周面に設けられたボール軸受47,48によりハウジング21に対して相対回転可能に支持されている。そして、ロータ46には、波動歯車機構16に連結されるモータシャフト49が、モータケース41から下側に突出した状態で同ロータ46と一体回転可能に設けられている。
【0028】
センサケース42には、ロータ46が突出した状態で設けられるとともに、同ロータ46の回転位置を検出するための回転角センサ51が設けられている。また、センサケース42の外側には、ソレノイド(図示略)への通電により、センサケース42から突出したロータ46の回転を拘束することで、ステアリング2と転舵輪11との間の伝達比を機械的に固定するロック機構52が設けられている。なお、このロック機構に関する詳細については、上記特許文献1を参照されたい。
【0029】
そして、センサケース42の上面には、モータ17、回転角センサ51及びロック機構52用の接続端子がそれぞれ接続されたバスバー53が、大径筒部24の内側に露出した状態で設けられている。なお、大径筒部24には、バスバー53に臨む孔状の作業窓24aが形成されている。
【0030】
図1に示すように、伝達比可変装置12には、その作動を制御するECU55が接続されている。具体的には、図2に示すように、連結カバー22の天板部23上には、スパイラルケーブル装置56が設けられている。そして、このスパイラルケーブル装置56により、所定の回転範囲(許容回転範囲)において、上記モータ17、回転角センサ51及びロック機構52とこれらの作動を制御するECU55とが電気的に接続されている。
【0031】
次に、スパイラルケーブル装置及びその周辺構成について説明する。
図2及び図3に示すように、スパイラルケーブル装置56は、略円筒状の外筒体61と、外筒体61の内側に該外筒体61に対して相対回転可能に設けられる略円筒状の内筒体62と、一端が外筒体61に固定されるとともに他端が内筒体62に固定されるフレキシブルフラットケーブル(FFC)63とを備えている。
【0032】
詳述すると、図2に示すように、内筒体62は、連結カバー22を構成する小径筒部25の外周に嵌合されるような内径を有する円筒状に形成されるとともに、その一端部(図2における下端部)には径方向外側に延出される円環状の内筒フランジ65が形成されている。また、内筒フランジ65の径方向中央付近には、ハウジング21側(図2における下側)に突出した円環状の取着部66が形成されており、大径筒部24の作業窓24aを閉塞可能な被覆部材67が固定されている。そして、内筒体62は、連結カバー22の小径筒部25の外周に嵌合されることにより、同連結カバー22(第1シャフト14)と一体回転可能に構成されている。
【0033】
外筒体61は、内筒フランジ65の外径よりも大きな内径を有する円筒状に形成されるとともに、その一端部には径方向内側に延出されて内筒フランジ65と軸方向(図2における上下方向)に対向する円環状の外筒フランジ68が形成されている。なお、本実施形態では、内筒フランジ65上にFFC63が配置されており、外筒フランジ68は、内筒フランジ65におけるFFC63と反対側の面と対向するようになっている。一方、外筒体61の他端部(図2における上端部)には、略円環状の蓋部材69が嵌合固定されている。蓋部材69の内周縁には、内筒体62内に延出される円筒状のリング部69aが形成されており、同リング部69aは、内筒体62の内周に遊嵌されている。
【0034】
外筒フランジ68の内周縁には、ハウジング21側に延出される筒状のブーツ保持筒71が形成されている。ブーツ保持筒71には、上記連結カバー22の大径筒部24に形成された作業窓24aを介してバスバー53に臨む切欠き状の作業窓71aが形成されている。また、ブーツ保持筒71には、作業窓71aを閉塞可能な円環状の板金リング72を介してハウジング21及び連結カバー22を包囲する蛇腹状のブーツ73が装着されている。そして、外筒体61は、ブーツ73の先端が図示しない車両本体の固定部位に固定されることで、内筒体62に対して相対回転可能に構成されている。
【0035】
図3に示すように、FFC63は、内筒体62の外周に巻回された状態で外筒体61と内筒体62との間に形成される円環状の収容空間64に収容されている。FFC63の一端は外筒体61側の接続端子75に接続されるとともに、その他端は内筒体62側の接続端子76に接続されている。そして、外筒体61側の接続端子75は、ECU55に接続されている。一方、図2に示すように、内筒体62側の接続端子76は、連結カバー22の天板部23を貫通して大径筒部24側に露出したバスバー77に接続されている。そして、同バスバー77が上記センサケース42の上面に露出したバスバー53と連結されることにより、伝達比可変装置12のモータ17、回転角センサ51及びロック機構52とECU55とが電気的に接続されている。なお、本実施形態では、連結カバー22の大径筒部24及び外筒体61のブーツ保持筒71に形成された各作業窓24a,71aを介して上記各バスバー53,77同士を連結することが可能になっている。
【0036】
そして、このように構成されたスパイラルケーブル装置56は、外筒体61と内筒体62との相対回転によって、収容空間64内でFFC63が巻き締め又は巻き広げられることにより、許容回転範囲において、車両本体に固定されたECU55と、ステアリングシャフト3と一体回転するモータ17等とを電気的に接続可能に構成されている。
【0037】
(異音抑制構造)
次に、本実施形態のスパイラルケーブル装置における異音抑制構造について説明する。
図4に示すように、外筒フランジ68の内筒フランジ65との対向面68aには、これら内筒フランジ65と外筒フランジ68との間の摺動抵抗を低減すべく、各筒体61,62の軸方向(図4における上下方向)に突出して、内筒フランジ65の外筒フランジ68との対向面65aに接触する円環状の摺動突部81が軸方向に突出して形成されている。なお、本実施形態では、外筒体61が蛇腹状のブーツ73の弾性力により鉛直方向上側(図2及び図4における上側)へ押されるとともに、内筒体62が伝達比可変装置12等の自重により鉛直方向下側(図2及び図4における下側)へ押されることにより、摺動突部81が内筒フランジ65の対向面65aに接触するようになっている。
【0038】
従って、外筒体61は、モータ17の駆動等に起因する内筒体62の振動が同摺動突部81を介して外筒フランジ68に伝達されることにより振動する。そして、内筒体62の振動数と外筒体61の固有振動数とが一致する場合等において、外筒体61が大きく振動すると、異音が発生する虞がある。なお、外筒体61の他端部に固定された蓋部材69のリング部69aは、内筒体62の内周に遊嵌されており、これらリング部69aと内筒体62との間には隙間が形成されているため、内筒体62の振動は蓋部材69を介してはほとんど外筒体61に伝達されない。
【0039】
この点を踏まえ、図4に示すように、内筒フランジ65の対向面65aにおける摺動突部81が接触する位置には、各筒体61,62の径方向(図4における左右方向)への摺動突部81の移動を規制する円環状の規制溝82が凹設されている。具体的には、摺動突部81は、その径方向に沿った断面形状が円弧状に突出して形成されるとともに、規制溝82は、その径方向に沿った断面形状が三角形状に凹んで形成されており、摺動突部81の断面円弧状の部位における径方向外側部分と内側部分の2カ所が規制溝82の側面82aに線接触している。これにより、外筒体61と内筒体62とが径方向に相対移動することが規制されるようになっている。
【0040】
また、摺動突部81と規制溝82との間には、潤滑剤(グリス)83が介在されている。そして、内筒フランジ65の対向面65aにおける規制溝82の外周側には、軸方向に突出する環状の堰き止め部84が形成されており、潤滑剤83が径方向外側に拡散することが抑制されるようになっている。さらに、本実施形態では、被覆部材67を固定するための取着部66により、潤滑剤83が径方向内側に拡散することが抑制されるようになっている。つまり、本実施形態では、取着部66が第2堰き止め部に相当する。なお、図4では、説明の便宜上、潤滑剤83を点ハッチングにより示している。
【0041】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)スパイラルケーブル装置56を構成する外筒体61の外筒フランジ68の対向面68aに、軸方向に突出して内筒体62の内筒フランジ65の対向面65aに接触する円環状の摺動突部81を形成した。そして、内筒フランジ65の対向面65aにおける摺動突部81と接触する位置に、各筒体61,62の径方向への摺動突部81の移動を規制する円環状の規制溝82を形成した。
【0042】
上記構成によれば、摺動突部81が規制溝82内に挿入されることで、外筒体61と内筒体62とが径方向に相対移動することが規制され、外筒体61と内筒体62とは径方向に一体で振動するようになる。これにより、例えば内筒体62の振動が外筒体61に伝達される場合において内筒体62の振動数と外筒体61の固有振動数とが一致しても、外筒体61が径方向に大きく振動することを抑制でき、異音の発生を抑制することができる。また、摺動突部81を規制溝82内に挿入することで、精度良く外筒体61及び内筒体62の軸心を合わせることが可能になり、これら外筒体61と内筒体62とが相対回転する際にがたつくことを低減できる。これにより、静粛性の優れた伝達比可変装置12及び車両用操舵装置1を提供することができる。
【0043】
(2)摺動突部81と規制溝82との間に潤滑剤83を介在し、内筒フランジ65の対向面65aにおける規制溝82の外周側に、各筒体61,62の軸方向に突出する円環状の堰き止め部84を形成した。上記構成によれば、摺動突部81と規制溝82との間の摺動抵抗を低減することができ、円滑に外筒体61と内筒体62とを相対回転させることができるようになる。また、潤滑剤83は、振動の伝達経路である摺動突部81と規制溝82との間に介在されるため、同潤滑剤83により外筒体61と内筒体62との間で伝達される振動を減衰させることができ、異音の発生をより一層抑制することができる。そして、上記構成では、規制溝82の外周側に堰き止め部84を形成したため、外筒体61及び内筒体62が回転する際の遠心力等により、潤滑剤83が径方向外側に拡散することを防止できる。これにより、摺動突部81と規制溝82との間に潤滑剤83を介在させた状態を確実に維持することができる。
【0044】
(3)摺動突部81を、その径方向に沿った断面形状が円弧状となるように形成するとともに、規制溝82を、その径方向に沿った断面形状が三角形状となるように形成することで、摺動突部81の断面円弧状の部位における径方向外側部分と内側部分の2カ所で規制溝82の側面82aに線接触するようにした。上記構成によれば、これら摺動突部81と規制溝82とが面接触する場合に比べ、摺動抵抗が増大することを抑制し、円滑に外筒体61と内筒体62とを相対回転させることができるようになる。
【0045】
(4)内筒フランジ65の対向面65aにおける規制溝82の内周側に、各筒体61,62の軸方向に突出する円環状の取着部66を形成したため、外筒体61及び内筒体62の回転に伴って潤滑剤が拡散することをより確実に防止できる。
【0046】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、摺動突部81の径方向に沿った断面形状を円弧状に形成するとともに、規制溝82の径方向に沿った断面形状を三角形状に形成した。しかし、これに限らず、例えば摺動突部81の径方向に沿った断面形状を四角形状に形成するとともに、規制溝82の径方向に沿った断面形状を円弧状に形成することで、摺動突部81が規制溝82の側面82aに線接触するようにしてもよい。また、例えば摺動突部81及び規制溝82の径方向に沿った断面形状をそれぞれ三角形状に形成することで、これらが面接触するようにしてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、外筒フランジ68の対向面68aに摺動突部81を形成するとともに、内筒フランジ65の対向面65aに規制溝82を形成したが、これに限らず、外筒フランジ68の対向面68aに規制溝を形成するとともに、内筒フランジ65の対向面65aに摺動突部81を形成してもよい。また、図5に示すように、外筒フランジ68の対向面68aに摺動突部81及び規制溝91を形成するとともに、内筒フランジ65の対向面65aに摺動突部81が挿入される規制溝82、及び規制溝91に挿入される摺動突部92を形成してもよい。
【0048】
・上記実施形態では、外筒体61に固定された蓋部材69の内周縁に、内筒体62の内周に遊嵌されるリング部69aを形成したが、これに限らず、蓋部材69に内面に摺動突部又は規制溝を形成するとともに、内筒体62の他端部に、蓋部材69の摺動突部が挿入される規制溝又は規制溝に挿入される摺動突部を有するフランジを形成してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、内筒フランジ65上にFFC63を配置し、外筒フランジ68が内筒フランジ65におけるFFC63と反対側の面と対向するようにしたが、これに限らず、外筒フランジ68上にFFC63を配置し、外筒フランジ68が内筒フランジ65におけるFFC63側の面と対向するようにしてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、内筒フランジ65の対向面65aにおける規制溝82の外周側に軸方向に突出する堰き止め部84を形成したが、これに限らず、堰き止め部84を形成しなくともよい。また、対向面65aにおける規制溝82の内周側に軸方向に突出する第2堰き止め部としての取着部66を形成したが、同様に取着部66を形成しなくともよい。
【0051】
・上記実施形態では、摺動突部81と規制溝82との間に、潤滑剤83を介在させたが、これに限らず、潤滑剤83を介在させなくともよい。
・上記実施形態では、本発明の伝達比可変装置を、車両用操舵装置1に適用したが、これ以外の用途に用いる伝達比可変装置に適用してもよい。また、本発明のスパイラルケーブル装置56を伝達比可変装置12以外の用途に用いてもよい。
【0052】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)請求項2に記載のスパイラルケーブル装置において、前記対向面における前記規制溝の内周側には、各筒体の軸方向に突出する環状の第2堰き止め部が形成されたことを特徴とするスパイラルケーブル装置。上記構成によれば、外筒体及び内筒体の回転に伴って潤滑剤が拡散することをより確実に防止できる。
【符号の説明】
【0053】
1…車両用操舵装置、12…伝達比可変装置、14…第1シャフト、15…第2シャフト、16…波動歯車機構、17…モータ、21…ハウジング、22…連結カバー、23…天板部、24…大径筒部、25…小径筒部、55…ECU、56…スパイラルケーブル装置、61…外筒体、62…内筒体、63…フレキシブルフラットケーブル(FFC)、65…内筒フランジ、65a,68a…対向面、68…外筒フランジ、69…蓋部材、71…ブーツ保持筒、73…ブーツ、81,92…摺動突部、82,91…規制溝、82a…側面、83…潤滑剤、84…堰き止め部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の外筒体と、前記外筒体の内側に該外筒体に対して相対回転可能に設けられる筒状の内筒体と、一端が前記外筒体に固定されるとともに他端が前記内筒体に固定されるフレキシブルフラットケーブルとを備え、前記フレキシブルフラットケーブルは、前記内筒体に巻回された状態で前記外筒体と前記内筒体との間に収容されるスパイラルケーブル装置において、
前記内筒体の一端部には、径方向外側に延出される円環状の内筒フランジが設けられるとともに、前記外筒体の一端部には、径方向内側に延出されて前記内筒フランジと軸方向に対向する円環状の外筒フランジが設けられ、
前記内筒フランジ及び外筒フランジの各対向面の少なくとも一方には、各筒体の軸方向に突出して他方の対向面に接触する摺動突部が形成されるものであって、
前記対向面における前記摺動突部と接触する位置には、各筒体の径方向への該摺動突部の移動を規制する規制溝が形成されたことを特徴とするスパイラルケーブル装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスパイラルケーブル装置において、
前記摺動突部と前記規制溝との間には、潤滑剤が介在され、
前記対向面における前記規制溝の外周側には、各筒体の軸方向に突出する環状の堰き止め部が形成されたことを特徴とするスパイラルケーブル装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスパイラルケーブル装置において、
前記摺動突部は、前記規制溝の側面に線接触するように形成されたことを特徴とするスパイラルケーブル装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパイラルケーブル装置を備えたことを特徴とする伝達比可変装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−96769(P2012−96769A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248723(P2010−248723)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】