説明

スパッタリングカソード及びそれを用いたスパッタ装置

【課題】装置を大型かつ複雑にすることなく、経済的課題を解消し、被成膜体表面に効率よく同時に均一な膜を成膜することができるスパッタリングカソード及びそれを用いたスパッタ装置を提供する。
【解決手段】スパッタリングカソード11は、互いに極性が異なる一対のリング状磁石12A、12B、リング状スパッタリングターゲット15、磁気ヨーク16、冷却ジャケット14、グラファイトシート17から構成される。スパッタリングカソード11はスパッタ装置に設置され、内側にリング状のスパッタリングターゲット15を収容した状態で、被成膜体をスパッタリングターゲット15の内側に固定配置して、又は一定速度でリング軸方向に移動させながら、被成膜体に成膜を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングカソード及びそれを用いたスパッタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スパッタ装置として、カルーセル型のスパッタ装置が知られている(例えば特許文献1)。このカルーセル型のスパッタ装置は、真空のチャンバー内に、円筒状の基板保持体を回転可能に配置し、その周囲の1又は複数の箇所にスパッタリングターゲット及びカソードを設け、基板保持体を回転させながら基板保持体上に固定された基板に成膜を行うものである。
【0003】
このようなカルーセル型のスパッタ装置において、被成膜体である円筒形基体の外周に対して同時に均一に成膜を行うためには、円筒形基体の外周に、多数のスパッタリングターゲット及びカソードを設ける手法を用いることが考えられる。
【0004】
しかしながら、このように多数のスパッタリングターゲット及びカソードを使用した場合、特にマグネトロン方式の装置では、ターゲット物質が最も強くスパッタリングされる領域(エロージョン部)がターゲット上に発生し、その部位の前面部に膜が多く堆積する現象が現れてしまう。その結果、被成膜体である円筒形基体の表面には、このエロージョン部に倣って膜厚分布が生じ、被成膜体表面への均一な成膜ができないという問題があった。また、装置が大型かつ複雑になり、経済的な課題があった。装置を大型かつ複雑にしないようにすると、成膜工程を複数回行う必要があり、処理能力が足りずやはり経済的な課題があった。
【0005】
また、酸化インジウムスズ(ITO)のような膜厚と比抵抗が成膜される領域で独立に変化する物質に関しては、膜厚以外にシート抵抗分布も被成膜体表面で大きく変化してしまうという決定的な問題があった。
【特許文献1】特開平7−41940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような従来技術の実状に鑑みてなされたもので、装置を大型かつ複雑にすることなく、経済的課題を解消し、被成膜体表面に効率よく同時に均一な膜を成膜することができるスパッタリングカソード及びそれを用いたスパッタ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、第1には、互いに極性が異なる一対のリング状磁石と、前記一対のリング状磁石の内側に設けられるリング状スパッタリングターゲットと、前記一対のリング状磁石と前記リング状スパッタリングターゲットとの間に設けられる冷却ジャケットと、前記リング状スパッタリングターゲットと前記冷却ジャケットとの間に設けられ、前記リング状スパッタリングターゲットで発生する熱を前記冷却ジャケットに伝達させる熱伝達部材と、前記一対のリング状磁石の外側に設けられるマグネトロン放電用の磁気回路から構成されることを特徴とするスパッタリングカソードを提供する。
【0008】
第2には、上記第1の発明において、少なくとも一方の側面にリング状のアノードを有することを特徴とするスパッタリングカソードを提供する。
【0009】
第3には、上記第2の発明において、前記リング状のアノードが冷却機構を備えていることを特徴とするスパッタリングカソードを提供する。
【0010】
第4には、上記第1ないし第3のいずれかの発明において、前記磁気回路が給電部を兼ねていることを特徴とするスパッタリングカソードを提供する。
【0011】
第5には、上記第1ないし第4のいずれかの発明において、前記スパッタリングターゲットへの給電が直流電源により行われることを特徴とするスパッタリングカソードを提供する。
【0012】
第6には、上記第1ないし第5のいずれかの発明において、前記熱伝達部材がグラファイトシートであることを特徴とするスパッタリングカソードを提供する。
【0013】
第7には、互いに極性が異なる一対のリング状磁石と、前記一対のリング状磁石の内側に設けられるリング状スパッタリングターゲットと、前記一対のリング状磁石と前記リング状スパッタリングターゲットとの間に設けられる冷却ジャケットと、前記リング状スパッタリングターゲットと前記冷却ジャケットとの間に設けられ、前記リング状スパッタリングターゲットで発生する熱を前記冷却ジャケットに伝達させる熱伝達部材と、前記一対のリング状磁石の外側に設けられるマグネトロン放電用の磁気回路から構成されるスパッタリングカソードを2台で1組とし、隣り合う一方のスパッタリングカソードが負電位のとき、他方のスパッタリングカソードが正電位となるように交互に交流電圧を印加して動作することを特徴とするスパッタリングカソードを提供する。
【0014】
第8には、上記第1ないし第7のいずれかのスパッタリングカソードを備え、被成膜体を前記スパッタリングターゲットの内側に固定配置して、又は一定速度でリング軸方向に移動させながら、被成膜体に成膜を行うことを特徴とするスパッタ装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、装置を大型かつ複雑にすることなく、経済的課題を解消し、被成膜体表面に効率よく同時に均一な膜を成膜することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタ装置の要部構造を模式的に示す図で、(a)が正面図、(b)が(a)のA−A’線断面図である。
【0018】
本実施形態のスパッタ装置に用いるスパッタリングカソード11は図示しないステンレス鋼製の容器からなる真空チャンバー内に設置されて使用される。スパッタリングカソード11は、互いに極性が異なる磁石からなり、リング軸方向に離間配置される一対のリング状磁石12A、12Bを有する。リング状磁石12A、12Bは、例えばフェライト系、サマリウム−コバルト系、鉄−ネオジウム−ボロン系等の磁石より構成される。一対のリング状磁石12A、12Bは非磁性体13を介して軸方向に離間配置される。一対のリング状磁石12A、12Bの内側には、リング状の冷却ジャケット14とリング状のスパッタリングターゲット15が設けられ、外側にはマグネトロン放電用のリング状の磁気ヨーク16が設けられている。リング状の冷却ジャケット14は、スパッタリングの際に発熱するスパッタリングターゲット15を冷却するために設けられるものであり、例えば熱伝導率が高い銅で作られる。冷却ジャケット14には図示しない冷却水等の冷却媒体の入口と出口が設けられ、内部を冷却媒体が循環するようになっている。また、スパッタリングターゲット15と冷却ジャケット14の間には、スパッタリング現象でスパッタリングターゲット15に発生する熱を効率よく冷却ジャケット14に伝達するためグラファイトシート17が介在させてある。
【0019】
ここで、グラファイトを選択した理由は、良好な熱伝導率に加え、良好な電気伝導率を併せもつからである。
磁気ヨーク16は磁気回路を構成するために設置され、例えばSS11、SUS430等の材料が使用される。さらにターゲット15、グラファイトシート17、冷却ジャケット14、一対のリング状磁石12A、12B、磁気ヨーク16よりなる構造体の少なくとも一方にはグランドに接続されたリング状のアノード18が設けられている。そして図示しないDC電源よりカソード12A、12Bに負電位が印加されるようになっている。この場合、最も外側に配置される磁気ヨーク16を利用して給電を行うことができる。また、リング状のアノード16に冷却水等の冷却媒体を循環させる冷却機構を設けるようにしてもよい。磁気ヨーク16また、前記構造体の内側には被成膜体が配置されるスパッタリング用空間19が形成されている。
【0020】
本スパッタ装置では、被成膜体はスパッタリング用空間19内に軸方向に固定されるか、あるいは軸方向を移動し得るようになっている。いずれの形態とするかは被成膜体の種類や用途に応じて決定される。
【0021】
また、本スパッタ装置が固定設置される真空チャンバーにはターボ分子ポンプ(TMP)あるいはクライオポンプ(CP)等の高真空ポンプとその他の真空部品が設けられている。
【0022】
上記構成のスパッタ装置では、次のようにしてスパッタリングが行われる。
【0023】
先ず、外側に磁気ヨーク16が設けられ一対のリング状磁石12A、12Bの内側に、リング状の冷却ジャケット14、グラファイトシート17を介してリング状のスパッタリングターゲット15が装着される。ここでは、一例として被成膜体がポリエチレンテレフタレート(PET)の糸であり、その周囲に酸化インジウムスズ(ITO)の膜を成膜する場合について述べる。PETの糸は巻きだしボビンに巻かれて、巻き取りボビンで巻き取り可能となっている。そして、スパッタリング用空間19内を軸方向に移動可能にセットされる。各部材がセットされると、ターボ分子ポンプにより真空チャンバー内が高真空状態にされる。その後、スパッタリングガスが供給され、冷却ジャケット14に通水が行われ、DC電源により一対のリング状磁石12A、12Bに負電圧が印加され、マグネトロンスパッタリングが行われる。
【0024】
なお、上記では被成膜体としてITOの糸状体を用いたが、本発明によれば、筒状の被成膜体を用い、スパッタリング用空間19内の軸方向に固定してスパッタリングを行うこともできる。
【0025】
ところで、導電性のターゲットとスパッタガスに少くとも酸素を使用して絶縁体の膜を被成膜体にリアクティブスパッタリングする場合において、アノード及びターゲットの一部に絶縁体膜が堆積して異常放電をきたすことがある。
【0026】
図2、図3は、このような現象を回避するための、本発明による別の実施形態のスパッタリングカソード21を示す模式図である。
【0027】
図2は、図1に示す構成と同様な二つのスパッタリングカソード、例えば21aと21bのみで構成した場合を例示しており、このような構成としてもかまわない。また、図3においては、スパッタリングカソード21は、図1に示す構成と同様な構成の4つのスパッタリングカソード21a〜21dより構成される。スパッタリングカソード21aと21bが1組となり、スパッタリングカソード21cと21dがもう1組となっている。スパッタリングカソード21aと21bは、一方のスパッタリングカソードが負電位のとき、他方のスパッタリングカソードが正電位となるように交互に交流電圧を印加して動作するようになっている。スパッタリングカソード21cと21dも同様である。
【0028】
このような構成とすると、前述の課題が解決される上、ACによるマグネトロンスパッタを効率よく行うことができ、さらに独立したアノードを設けなくてもよい。という利点もある。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0030】
直径1mm、長さ1kmの糸状のPET製基体の外周にITOを以下のようにしてスパッタリング成膜した。
【0031】
外周にSS11で作られたリング状の磁気ヨーク16が設けられたリング状磁石12A、12Bに、冷却ジャケット14を介してITOターゲット15を装着した。リング状磁石12A、12Bはフェライトよりなる磁石を用い、それぞれ極性を異ならせて配置した。リング状磁石12A、12Bの内径は100mm、外径は130mm、軸方向の幅は各10mmであった。冷却ジャケット14とITOターゲット15が接する面には、スパッタリング現象でITOターゲット15に発生する熱を効率良く冷却ジャケット14に熱伝達させるためにグラファイトシート17を挿入した。冷却ジャケット14は熱伝導率が高い銅で製作した。ITOターゲット15は、ITOの粉体を筒状に焼結して製作した。ITOターゲット15の内径は50mm、外径は70mm、軸方向の幅は50mmであった。
【0032】
上記で作製した構造体を、ステンレス製容器とターボ分子ポンプおよびその他真空部品から構成される真空チャンバーの中に設置して、スパッタリング用空間19の中に直径1mm、長さ1kmの糸状のPET製基体を通した状態にして到達真空圧力5×10−5Paまで排気した。なお、糸状PET製基体はボビンに巻いてあり、巻きだし側をカソードの穴を通して反対側に設置した巻き取りボビンに取り付けた。
【0033】
まず、糸状のITO基体を動かさず、アルゴンガスを圧力が0.3Paになるように50sccmの流量で導入して、リング状磁石12A、12Bに負電位をDC電源から印加してグロー放電を発生させてマグネトロンスパッタリングを開始させ、ターゲット表面を清掃するためのプリスパッタリングを行った。DC電源の陽極側はグランドに接続した。
【0034】
なお、リング状磁石12A、12Bの両側にステンレスからなるリングを配置してグランド電位にすることでアノードの作用をさせた。投入DC電力は200W、DC電圧400V、DC電流0.5Aであった。
【0035】
その後、酸素ガスを適量添加してITOの抵抗値が最も低くなる条件にした。このときの酸素ガスの流量は1sccmであった。
【0036】
次に、糸状のITO基体を一定速度(600mm/分)で移動するように巻き取りボビンを回転させて、本スパッタリングを開始し、ITO膜を成膜させた。
【0037】
上記で得られたITO被覆PETを輪切りにして測定した膜厚は20nmであった。ITO膜の膜厚の測定はあらかじめ走査型電子顕微鏡(SEM)で行い、ITO膜厚調整はリング状磁石12A、12Bへ投入するDC電力と糸状ITO基体の速度を調整することで行った。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパッタ装置の要部構造を模式的に示す図で、(a)が正面図、(b)が(a)のA−A’線断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態に係る一対のスパッタリングカソードを模式的に示す図である。
【図3】さらに別の実施形態に係る一対で2組のスパッタリングカソードを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0039】
11 スパッタリングカソード
12A、12B リング状磁石
14 冷却ジャケット
15 スパッタリングターゲット
16 磁気ヨーク
17 グラファイトシート
18 アノード
19 スパッタリング用空間
21(21a〜21d) スパッタリングカソード
22A、22B 電源
23 被成膜体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに極性が異なる一対のリング状磁石と、前記一対のリング状磁石の内側に設けられるリング状スパッタリングターゲットと、前記一対のリング状磁石と前記リング状スパッタリングターゲットとの間に設けられる冷却ジャケットと、前記リング状スパッタリングターゲットと前記冷却ジャケットとの間に設けられ、前記リング状スパッタリングターゲットで発生する熱を前記冷却ジャケットに伝達させる熱伝達部材と、前記一対のリング状磁石の外側に設けられるマグネトロン放電用の磁気回路から構成されることを特徴とするスパッタリングカソード。
【請求項2】
少なくとも一方の側面にリング状のアノードを有することを特徴とする請求項1項に記載のスパッタリングカソード。
【請求項3】
前記リング状のアノードが冷却機構を備えていることを特徴とする請求項2に記載のスパッタリングカソード。
【請求項4】
前記磁気回路が給電部を兼ねていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスパッタリングカソード。
【請求項5】
前記スパッタリングターゲットへの給電が直流電源により行われることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のスパッタリングカソード。
【請求項6】
前記熱伝達部材がグラファイトシートであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のスパッタリングカソード。
【請求項7】
互いに極性が異なる一対のリング状磁石と、前記一対のリング状磁石の内側に設けられるリング状スパッタリングターゲットと、前記一対のリング状磁石と前記リング状スパッタリングターゲットとの間に設けられる冷却ジャケットと、前記リング状スパッタリングターゲットと前記冷却ジャケットとの間に設けられ、前記リング状スパッタリングターゲットで発生する熱を前記冷却ジャケットに伝達させる熱伝達部材と、前記一対のリング状磁石の外側に設けられるマグネトロン放電用の磁気回路から構成されるスパッタリングカソードを2台で1組とし、隣り合う一方のスパッタリングカソードが負電位のとき、他方のスパッタリングカソードが正電位となるように交互に交流電圧を印加して動作することを特徴とするスパッタリングカソード。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかのスパッタリングカソードを備え、被成膜体を前記スパッタリングターゲットの内側に固定配置して、又はリング軸方向に移動させながら、被成膜体に成膜を行うことを特徴とするスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256698(P2009−256698A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104041(P2008−104041)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(592180166)株式会社倉元製作所 (11)
【Fターム(参考)】