説明

スパッタリングターゲットの製造方法およびスパッタリングターゲット

【課題】金属の溶出がなく製造工程を簡素化でき、高密度なIGZOのスパッタリングターゲットが得られる製造方法およびスパッタリングターゲットを提供すること。
【解決手段】In粉とGa粉とZnO粉とを混合して混合粉末を作製する工程と、該混合粉末を加圧焼結する工程と、を有し、前記In粉の比表面積をA(m/g)とし、前記Ga粉の比表面積をB(m/g)とし、前記ZnO粉の比表面積をC(m/g)としたとき、各比表面積を、A≧10,B≧13,C≧5かつA/C≧2,B/C≧2の範囲に設定し、前記混合粉末の金属成分組成比を原子比で、In:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGZO膜を成膜するためのスパッタリングターゲットの製造方法およびスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、写真や動画の高画質化に伴い、光記録媒体等へ記録する際のデジタルデータが増大し、記録媒体の高容量化が求められ、既に、高記録容量の光記録媒体として二層記録方式により50GBの容量を有したBlu−ray Disc(登録商標)が販売されている。このBlu−ray Disc(登録商標)は、今後もさらなる高容量化が望まれており、記録層の多層化による高容量化の研究が盛んに行われている。
【0003】
Blu−ray Disc(登録商標)を構成する誘電体保護膜用の材料としては、成膜速度が速く、405nmの波長の光に対して消衰係数の小さい材料が必要とされている。そのような材料としては、ZSSO(ZnS−SiO)やZSSOに導電性物質を添加したもの、ITO(SnO添加In)、IZO(In−ZnO)、AZO(Al添加ZnO)、GZO(Ga添加ZnO)等が知られている。
【0004】
ZSSO系の材料は、金属膜の隣に成膜すると硫黄による金属の腐食が問題であった。そのため、金属膜とZSSO膜との間に、硫黄の移動を防ぐ界面層を設ける必要があった。また、ITO、IZO、AZO、GZOは、腐食の問題は無いが、いずれもスパッタリングターゲット作製に際して、混合、造粒、成形、焼成といった多数の工程が必要である。
【0005】
近年、ワイドバンドギャップを示す酸化物半導体としてIGZO(In、Ga、ZnOからなる複合酸化物)が着目されており、TFT(Thin film transistor)への応用が期待されている。このIGZOからなるスパッタリングターゲットは、直流マグネトロンスパッタが可能であり、高い成膜速度が期待される。また、そのバンドギャップの広さから、405nmの波長の光に対しても消衰係数が小さく、高記録容量の光記録媒体を構成する膜としても期待される。このIGZOのスパッタリングターゲットの製造方法は、従来、例えば特許文献1〜6に記載されているように、上述した他の材料同様に、混合、造粒、成形、焼成、又は混合、造粒、仮焼、粉砕、成形、焼成といった工程を必要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−280216号公報
【特許文献2】特開2008−214697号公報
【特許文献3】特開2007−223849号公報
【特許文献4】特開2008−163442号公報
【特許文献5】特開2008−163441号公報
【特許文献6】特開2008−144246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記従来のIGZOのスパッタリングターゲット作製法では、混合、造粒、成形、焼成、又は混合、造粒、仮焼、粉砕、成形、焼成といった多数の工程が必要であり、生産性が悪いことが問題であった。また、上記従来の製法で作製したIGZOのスパッタリングターゲットは、焼結による粒成長が大きく、高密度な焼結体の平均結晶粒径は10μm近くもあるため、ノジュールや異常放電の原因となり易い不都合もあった。
一方、ホットプレス等の加圧焼結では成形の工程を省くことができるものの、IGZOは原料を1000℃以上の高温でホットプレスを行うと、ホットプレス中の還元作用により、スパッタリングターゲットの構成成分である金属Inや金属Gaが溶出してしまう問題がある。また、1000℃未満では高い密度の焼結体が得られないという問題があった。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、金属の溶出がなく製造工程を簡素化でき、高密度なIGZOのスパッタリングターゲットが得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、IGZOのスパッタリングターゲットについて研究を進めたところ、予め原料であるIn、Ga、ZnOの比表面積を調整することにより、高密度なIGZOのスパッタリングターゲットをホットプレス等の加圧焼結で作製可能なことを見出した。
【0010】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、In粉とGa粉とZnO粉とを混合して混合粉末を作製する工程と、該混合粉末を加圧焼結する工程と、を有し、前記In粉の比表面積をA(m/g)とし、前記Ga粉の比表面積をB(m/g)とし、前記ZnO粉の比表面積をC(m/g)としたとき、各比表面積を、10≦A≦30,13≦B≦30,C≧5かつA/C≧2,B/C≧2の範囲に設定し、前記混合粉末の金属成分組成比を原子比で、In:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)に設定することを特徴とする。
【0011】
このスパッタリングターゲットの製造方法では、In粉の比表面積をAとし、Ga粉の比表面積をBとし、ZnO粉の比表面積をCとしたとき、各比表面積を、10≦A≦30,13≦B≦30,C≧5かつA/C≧2,B/C≧2の範囲に設定し、混合粉末の金属成分組成比を原子比で、In:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)に設定することにより、CIP(冷間静水圧加圧)等の成形の必要が無く、工程を短縮可能であると共に、原料粉末の比表面積の制御によって金属の溶出がない高密度なスパッタリングターゲットを得ることができる。そして、本発明の製法によって得られたスパッタリングターゲットは、その比抵抗値が1×10−2Ω・cm以下であり、かつ結晶粒径が従来製法に比べて非常に細かく、高い電力密度においても異常放電が少なく安定して直流マグネトロンスパッタを行うことができる。
なお、A<10、B<13、C<5の範囲では、粒子間に生じる空孔が大きく、焼結時に空孔を除くことが困難なためターゲットの密度が上がらず、30<A、30<Bの範囲では、一次粒子が小さすぎるため凝集を生じ易く粗大空孔やムラの原因となる。また、A/C<2、B/C<2、X<0.8の範囲では、焼結の際、ターゲットから金属が溶出してしまう。5<Xの範囲では、得られる膜が誘電体保護膜として必要な特性を満たさなくなる。
【0012】
本発明のスパッタリングターゲットは、上記本発明の製造方法により作製されたことを特徴とする。
また、本発明のスパッタリングターゲットは、In,Ga及びZnの複合酸化物を含有し、X線回折により前記複合酸化物に帰属する回折ピークが観察されると共に金属Inに帰属する回折ピークが観察されない焼結体からなり、比抵抗値が1×10−2Ω・cm以下であり、焼結体の組織の平均粒径が、1μm以下であることを特徴とする。
【0013】
すなわち、これらのスパッタリングターゲットは、上記本発明の製造方法により作製されたものであって、In,Ga及びZnの複合酸化物を含有し、X線回折により前記複合酸化物に帰属する回折ピークが観察されると共に金属Inに帰属する回折ピークが観察されない焼結体からなり、比抵抗値が1×10−2Ω・cm以下であり、焼結体の組織の平均粒径が、1μm以下であるので、緻密な組織を有して高い成膜速度で安定したスパッタリングが可能であると共に、高記録容量の光記録媒体を構成する膜として良好なIGZO膜を成膜することができる。特に、従来の技術では作製が困難であった平均粒径が1μm以下の組織を有しているので、異常放電をさらに低減することができる。なお、上記平均粒径としては、0.5μm以下が好ましい。
【0014】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、ビッカース硬度が、480以上であることを特徴とする。
このスパッタリングターゲットでは、ビッカース硬度が480以上であるので、スパッタリング時に発生するノジュールを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法によれば、各原料粉末の比表面積を上記条件に設定すると共に、成分組成比を、上記範囲に設定することにより、製造工程を短縮して生産性を向上させることができると共に、金属の溶出がない高密度なスパッタリングターゲットを得ることができる。
したがって、本発明の製造方法によって得られたスパッタリングターゲットを用いることで、直流マグネトロンスパッタにて高い成膜速度でIGZO膜を安定して成膜することができ、高記録容量の光記録媒体を構成する誘電体保護膜を作製するスパッタリングターゲットとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の比較例において、作製したスパッタリングターゲットのX線回折(XRD)結果を示すグラフである。
【図2】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の実施例において、作製したスパッタリングターゲットのX線回折(XRD)結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の従来例において、作製したスパッタリングターゲットのX線回折(XRD)結果を示すグラフである。
【図4】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の従来例において、作製したスパッタリングターゲットのX線回折(XRD)結果を示すグラフである。
【図5】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の実施例において、作製したスパッタリングターゲットのX線回折(XRD)結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法の一実施形態を説明する。
【0018】
本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法は、IGZO膜をスパッタリングで成膜するために用いるスパッタリングターゲットを作製する方法であって、In粉とGa粉とZnO粉とを混合して混合粉末を作製する工程と、該混合粉末を加圧焼結する工程と、を有している。
この本実施形態の製造方法では、上記In粉の比表面積をA(m/g)とし、上記Ga粉の比表面積をB(m/g)とし、上記ZnO粉の比表面積をC(m/g)としたとき、各比表面積を、10≦A≦30,13≦B≦30,C≧5かつA/C≧2,B/C≧2の範囲に設定し、さらに混合粉末の金属成分組成比を原子比で、In:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)に設定する。
【0019】
上記製法の一例について詳述すれば、例えば、まず酸化インジウム(化学式:In、純度:3N、比表面積:10m/g)、酸化ガリウム(化学式:Ga、純度:4N、比表面積:17m/g)、酸化亜鉛(化学式:ZnO、純度:3N、比表面積:5m/g)の各原料粉末を、含有金属の比率がIn:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)(原子比)になるように秤量する。なお、比表面積は、BET法により算出する。
【0020】
この秤量した原料粉末とその3倍量(重量比)のジルコニアボール(直径5mm)とをポリ容器に入れ、ボールミル装置にて18時間湿式混合する。なお、この際の溶媒には、例えばアルコールを用いる。次に、得られた混合粉末を乾燥後、例えば目開き:500μmの篩にかけ、900〜1200℃にて1〜10時間、100〜600kgf/cmの圧力にて真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスし、スパッタリングターゲットとする。例えば、1000℃〜1100℃にて3時間、350kgf/cmの圧力で真空ホットプレスし、スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0021】
このように作製したスパッタリングターゲットは、In,Ga及びZnの複合酸化物を含有し、X線回折により前記複合酸化物に帰属する回折ピークが観察されると共に金属Inに帰属する回折ピークが観察されない焼結体からなり、比抵抗値が1×10−2Ω・cm以下であり、焼結体の組織の平均粒径が、1μm以下である。
なお、組織の平均粒径は、EBSP(電子後方散乱回折像法)測定によって得られたImage Quality Mapの画像より、JIS H0501の切断法を用いて算出したものである。
また、このスパッタリングターゲットは、ビッカース硬度(Hv)が480以上である。
【0022】
このように本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法では、In粉の比表面積をAとし、Ga粉の比表面積をBとし、ZnO粉の比表面積をCとしたとき、各比表面積を、A≧10,B≧13,C≧5かつA/C≧2,B/C≧2の範囲に設定し、混合粉末の金属成分組成比を原子比で、In:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)に設定することにより、CIP(冷間静水圧加圧)等の成形の必要が無く、工程を短縮可能であると共に、原料粉末の比表面積の制御によって金属の溶出がない高密度なスパッタリングターゲットを得ることができる。そして、本実施形態の製法によって得られたスパッタリングターゲットは、その比抵抗値が1×10−2Ω・cm以下であり、かつ結晶粒径が従来製法に比べて非常に細かく、高い電力密度においても異常放電が少なく安定して直流マグネトロンスパッタを行うことができる。
【0023】
すなわち、このスパッタリングターゲットでは、In,Ga及びZnの複合酸化物を含有し、X線回折により前記複合酸化物に帰属する回折ピークが観察されると共に金属Inに帰属する回折ピークが観察されない焼結体からなり、比抵抗値が1×10−2Ω・cm以下であり、焼結体の組織の平均粒径が、1μm以下であるので、緻密な組織を有して高い成膜速度で安定したスパッタリングが可能であると共に、高記録容量の光記録媒体を構成する膜として良好なIGZO膜を成膜することができる。特に、従来は作製が困難であった平均粒径が1μm以下の組織を有しているので、異常放電をさらに低減することができる。
また、このスパッタリングターゲットでは、ビッカース硬度が480以上であるので、スパッタリング時に発生するノジュールを効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0024】
上記本実施形態に基づいて実際に作製したスパッタリングターゲットの実施例について、評価を行った結果を説明する。
なお、比較例として、上記本実施形態の原料粉末の比表面積の設定範囲から外れた条件でスパッタリングターゲットを作製すると共に、従来例として、CIPにて成型後、酸素雰囲気にて焼成を行って焼結してスパッタリングターゲットを作製し、これらも同様に評価した。
【0025】
[実施例1]
酸化インジウム(化学式:In、純度:3N、比表面積:10m/g)、酸化ガリウム(化学式:Ga、純度:4N、比表面積:17m/g)、酸化亜鉛(化学式:ZnO、純度:3N、比表面積:5m/g)の各原料粉末を、含有金属の比率がIn:Ga:Zn=1:1:1(原子比)になるように秤量した。
この秤量した原料粉末とその3倍量(重量比)のジルコニアボール(直径5mm)とをポリ容器に入れ、ボールミル装置にて18時間湿式混合する。なお、この際の溶媒には、アルコールを用いた。次に、得られた混合粉末を乾燥後、例えば目開き:500μmの篩にかけ、1050℃にて3時間、350kgf/cmの圧力にて真空ホットプレスし、実施例1のスパッタリングターゲットを得た。
【0026】
[実施例2〜4、比較例1〜8]
各原料粉末の比表面積とホットプレスの温度を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜4、比較例1〜8のスパッタリングターゲットを得た。
【0027】
<評価>
各実施例・比較例のスパッタリングターゲットについて、ホットプレス後の金属溶出の有無を確認し、相対密度を求めた。
相対密度は、焼結体の嵩密度を理論密度で割り、算出した。
金属溶出の有無は、X線回折測定の結果、金属の回折ピークが見られるか否かにより確認した。X線回折の測定条件は次のとおりである。
【0028】
試料の準備:試料はSiC−Paper(grit 180)にて湿式研磨、乾燥の後、測定試料とした。
装置:理学電気社製(RINT−Ultima/PC)
管球:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
走査範囲(2θ):5°〜90°
スリットサイズ:発散(DS)2/3度、散乱(SS)2/3度、受光(RS)0.8mm
測定ステップ幅:2θで0.02度
スキャンスピード:毎分2度
試料台回転スピード:30rpm
評価の結果を表1に示す。また、実施例1のスパッタリングターゲットのX線回折測定結果を図2に、比較例1のスパッタリングターゲットのX線回折測定結果を図1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、原料粉末の比表面積を、本発明所定の範囲内とすることで、金属の溶出がない高密度なスパッタリングターゲットが得られることがわかる。また、図2に示すように、実施例1のスパッタリングターゲットでは、金属溶出は見られず、InGaZnOに帰属する回折ピークのみが確認された。
【0031】
一方、InおよびGaの比表面積が小さい比較例1のスパッタリングターゲットは、相対密度が低く(71%)、金属が溶出していた。
比較例1のスパッタリングターゲットにおいては、図1に示すように、InGaZnO(PDF(powder diffraction file)No.38−1104)、金属In(PDF No.05−0642)、ZnGa(PDF No.38−1240)にそれぞれ帰属する回折ピークが確認された。
このX線回折測定結果により、ZnGaが生成されるとInが高温で還元し、金属溶出の原因となると考えられる。
【0032】
Gaの比表面積が小さい比較例2のスパッタリングターゲットも、相対密度が低く(75%)、金属が溶出していた。
ZnOの比表面積が大きく、A/CおよびB/Cが小さい比較例3のスパッタリングターゲットは、相対密度は高いが(92%)、金属が溶出していた。このように、InとGaとの比表面積が大きくともZnOの比表面積が大きいと、ZnGaが生成されて金属Inが溶出してしまうことがわかる。
【0033】
ZnOの比表面積が小さい比較例4のスパッタリングターゲットでは、X線回折測定結果よりInGaZnOに帰属する回折ピークのみが確認され、金属の溶出は見られなかったが、相対密度が低かった(88%)。このように、ZnOの比表面積が本発明の設定よりも小さすぎると、高密度のスパッタリングターゲットが得られないことがわかる。
【0034】
[実施例5〜9、比較例9,10]
次に、スパッタリングターゲットの成分組成比の範囲について評価した結果を説明する。
各原料粉末の配合比を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5〜9、比較例9,10のスパッタリングターゲットを得た。
これらのスパッタリングターゲットの評価結果を、表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
Znが少なく、相対的にIn、Gaの割合が多い比較例9,10のスパッタリングターゲットは、高密度ではあるものの、金属が溶出していた。
これに対して、組成比が本発明所定の範囲内である実施例1,5〜9のスパッタリングターゲットでは、金属溶出は見られず、高密度であった。
これらの結果から原料の比を、In:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)とすることで、金属の溶出がない高密度なスパッタリングターゲットが得られることがわかる。
【0037】
[従来例1,2]
次に、CIP(冷間静水圧)にて成形を行う従来の技術と比較した結果を説明する。
まず、従来例1として、酸化インジウム(純度:3N、比表面積:10m/g)、酸化ガリウム(純度:4N、比表面積:9m/g)、酸化亜鉛(純度:3N、比表面積:5m/g)の各原料粉末を、含有金属の比率が、In:Ga:Zn=1:1:1(原子比)になるように秤量した。この秤量した粉末とその3倍量(重量比)のジルコニアボール(直径5mm)とをポリ容器に入れ、ボールミル装置にて混合粉末の比表面積が10m/gとなるまで粉砕した。なお、溶媒にはアルコールを用いた。
【0038】
このようにして得られた混合粉末を、急速乾燥、造粒後、CIP(冷間静水圧)にて成形し、1400℃にて4時間、2L/minの酸素雰囲気中にて焼成してスパッタリングターゲットとした。このようにして得られた従来例1のスパッタリングターゲットのX線回折測定結果を、図3に示す。
【0039】
図2および図3からわかるように、実施例1および従来例1のいずれの製造方法においても、InGaZnOに帰属する回折ピークが確認された。しかし、従来例1のスパッタリングターゲットでは、図3に示すとおり回折ピークの強度比が配向により、PDF No.38−1104のInGaZnOと大きく異なっている。また、回折ピークの半値幅も小さくなっていた。これは結晶が大きく成長しているためと考えられる。一方、実施例1のスパッタリングターゲットの強度比は、PDF No.38−1104のInGaZnOに非常に近似していた。
【0040】
また、成分組成を、In:Ga:Zn=1:1:3(原子比)とした以外は従来例1と同様にして、従来例2のスパッタリングターゲットを得た。従来例2のスパッタリングターゲットのX線回折測定結果を図4に示すと共に、実施例7のスパッタリングターゲットのX線回折測定結果を図5に示す。従来例2と実施例7の比較においても、従来例1と実施例1の場合と同様に、強度比の違いが見られた。
【0041】
<EBSP測定>
従来例1のスパッタリングターゲットのEBSP(電子後方散乱回折像法)測定によって得られたImage Quality Mapの画像より、JIS H0501の切断法を用いて組織の平均粒径を算出した。その結果、従来例1のスパッタリングターゲットにおける組織の平均粒径は、9.4μmであった。
【0042】
これに対して、実施例1のスパッタリングターゲットのEBSP測定によって得られたImage Quality Mapの画像より、JIS H0501の切断法を用いて組織の平均粒径を算出した。その結果、実施例1のスパッタリングターゲットにおける組織の平均粒径は、0.42μmであった。このように、従来例1に比べて実施例1のスパッタリングターゲットは、組織が大幅に緻密化されていることがわかる。
【0043】
<抵抗値、硬度、異常放電回数及び割れ発生電力>
従来例1〜3および実施例1,7,9のスパッタリングターゲットの抵抗値、ビッカース硬さ、スパッタリング時の異常放電回数及び割れ発生電力を調べた結果を、以下の表3に示す。なお、従来例3は、組成だけを変えただけで他の条件は従来例1と同様に設定したものである。また、異常放電回数を調べる際に、ノジュールの発生の有無についても同時に調べた。
【0044】
なお、抵抗値は、三菱化学製抵抗測定器ロレスタGPを用いて測定した。
ビッカース硬さは、明石製作所製微小硬度計MVG−G3を用いて測定した。
異常放電回数は、6.52W/cmの電力にて1時間スパッタリングした際の異常放電回数である。
割れ発生電力の測定は、10分間スパッタリングした後のターゲットの割れの有無を1.63〜13.04W/cmの範囲で確認した。
【0045】
上記スパッタリングの条件を以下に示す。
なお、ターゲットは銅製のバッキングプレートにインジウムを用いて接合した。
ターゲットサイズ:直径125mm×厚さ5mm
電源:直流電源
スパッタリングガス:Ar
ガス流量:50sccm
ガスの全圧:0.4Pa
【0046】
【表3】

【0047】
これより本発明所定の製造方法で作製した実施例1,7,9のスパッタリングターゲットは、従来例1〜3のスパッタリングターゲットに比べ低抵抗であると共に高いビッカース硬さを示すことがわかる。特に、実施例1,7のスパッタリングターゲットでは、従来例の約2倍のビッカース硬さを示した。また、実施例1,7,9のスパッタリングターゲットは、従来例1〜3のスパッタリングターゲットに比べ異常放電回数が非常に少なく、従来例1〜3が割れ発生電力の測定で全て割れが生じたのに対し、実施例1,7,9では全て割れが発生しなかった。
なお、従来例は、いずれもスパッタリング時にノジュールの発生が認められたのに対し、いずれの実施例ともスパッタリング時にノジュールの発生がほとんど認められなかった。
【0048】
<成膜試験>
次に、実施例1のスパッタリングターゲットを用いて実際にIGZO膜を成膜して評価した結果を説明する。
実施例1のスパッタリングターゲットを、直径125mm×厚さ5mmに加工し、銅製のバッキングプレートにインジウムを用いて接合し、成膜試験を行った。
【0049】
まず、アルゴンガスを48.5sccmと酸素ガス1.5sccmとを一定の流量で供給し、ガスの全圧を0.4Paとし、直流電源を用いて1.63W/cmの電力を投入して行った。10分間スパッタを行っても、異常放電は見られなかった。このときの成膜速度は1.0nm/secであった。
また、電力を13.04W/cmに変更しより厳しい条件で10分間スパッタを行っても、異常放電は見られなかった。このときの成膜速度は7.4nm/secであった。
【0050】
また、成膜速度1.0nm/secの条件で無アルカリガラス基板に50nm成膜した。分光エリプソメトリーにて405nmの波長に対する屈折率と消衰係数とを測定したところ、屈折率n=2.12、消衰係数k=0.003であった。このように実施例1のスパッタリングターゲットを用いて得られた膜は、保護膜として十分な消衰係数を示した。
【0051】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態および上記実施例では、加圧焼結をホットプレスによって行っているが、他の方法としてHIP法(熱間等方加圧式焼結法)等を採用しても構わない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In粉とGa粉とZnO粉とを混合して混合粉末を作製する工程と、
該混合粉末を加圧焼結する工程と、を有し、
前記In粉の比表面積をA(m/g)とし、前記Ga粉の比表面積をB(m/g)とし、前記ZnO粉の比表面積をC(m/g)としたとき、各比表面積を、10≦A≦30,13≦B≦30,C≧5かつA/C≧2,B/C≧2の範囲に設定し、
前記混合粉末の金属成分組成比を原子比で、In:Ga:Zn=1:1:X(0.8≦X≦5)に設定することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により作製されたことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
In,Ga及びZnの複合酸化物を含有し、X線回折により前記複合酸化物に帰属する回折ピークが観察されると共に金属Inに帰属する回折ピークが観察されない焼結体からなり、
比抵抗値が1×10−2Ω・cm以下であり、
焼結体の組織の平均粒径が、1μm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項3に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
ビッカース硬度が、480以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−52227(P2012−52227A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169789(P2011−169789)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】