説明

スパッタリング装置

【課題】複数のカソードを配置したスパッタリング装置において、部分的な回りこみ、絶縁体膜の形成等による異常放電を防止したスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】互いに隣り合うRFカソード3とDCカソード4の搬送路部に、鉛直方向に遮蔽板7a7bが配置され、2枚の遮蔽板7a7b間の距離を基板保持体5(保持体)の走行方向の巾よりも長く設置する。遮蔽板7a7bは、保持体の移動方向前後に回動可能であり、保持体の移動時には、保持体移動方向の直前にある遮蔽板7a7bが回動し、保持体の移動後、カソード上部に到達すると、遮蔽板7a7bは元位置に回動して、カソードでスパッタリングを行い基板上に薄膜を形成する。その後、保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、保持体が移動して、カソード上部あるいは保持体の待機領域に到達すると、遮蔽板は元位置に回動する機構とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置に関し、特に同一真空容器内で複数の材料からなる積層構造の薄膜を、真空を破ることなく連続して形成することができるスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性膜、電極膜、透明導電膜、保護膜等の形成のために、従来よりスパッタリング法が広く用いられている。これは、成膜速度が遅いという欠点があるものの、変動要因が少なく制御し易く、時間制御により比較的安定して所望の膜が得られるという利点を有しているからと考えられる。また、スパッタリング法は、緻密な膜を形成できるという利点を有しているので、近年では、真空蒸着法の代わりに、ダイクロイック膜や反射防止膜等の光学用多層膜の形成のためにも用いられている。
【0003】
光学用多層膜を成膜形成した例として、例えば、特公平7−111482号公報には、インライン式の反応性直流スパッタ装置により形成された5層反射防止膜の例が記載されている。この反射防止膜は、1層目が7.5nmのTiO膜、2層目が39.5nmのSiO膜、3層目が101.5nmのTa膜、4層目が18nmのTiO膜、5層目が96nmのSiO膜から構成されている。
【0004】
大面積の光学部材を大量生産するためには、一定条件での連続成膜に適したインライン式(自動的かつ連続的な生産ラインを構成する)のスパッタリング装置が用いられることが好ましい。通常は、生産量と工程時間に応じて、スパッタリング装置の装置構成、具体的にはスパッタ室の数またはスパッタリング装置の台数が決定されている。
【0005】
スパッタリング装置において、多層膜を形成する場合や、成膜速度の遅い材料をターゲットとして用いる場合には、複数のターゲットが用いられるが、この場合、複数のスパッタリング装置を用いたり、スパッタリング装置に複数のスパッタリング室を設けたりすることがある。個々のターゲットに対応して複数のスパッタリング装置または複数のスパッタ室を設ける場合、各スパッタリング装置または各スパッタリング室にそれぞれ1つずつ電源を設ける必要があり、装置コストが高くなるという問題がある。
【0006】
また、一つのスパッタリング室に複数のターゲットを設ける場合であっても、ターゲットの数に応じて複数の電源が必要となるので、やはり装置コストが高くなるという問題がある。特に、小規模生産(小面積の基板を用いたり、少量生産を行ったり、複数膜種を成膜する場合など)においては、複数の電源を設けて装置コストが上昇することに伴う製品(光学部材等)の製造コストの上昇が顕著であるため、インライン式スパッタ装置が採用されることは少ない。
【0007】
このように、従来は、緻密で特性のよい多層膜を自動的かつ連続的に形成するためにインライン式のスパッタリング装置を用いる場合、複数の電源を有することに伴い装置コストが高く、ひいては生産コストが高くなるという欠点があった。
【0008】
特開2002−363745号公報には、低コストで、多層膜を自動的かつ連続的に形成することを目的として、スパッタリング室内に、異なる材料からなる複数の部材が貼り合わされたターゲットを配置し、貼り合わせターゲットをカソード電極としてスパッタリングを行い、基板の表面に多層薄膜を形成するインライン式スパッタリング装置が提案されている。
【0009】
基板に屈折率の異なる複数の層からなる多層薄膜を形成するために、貼り合わせターゲットは、多層薄膜の各層に要求される屈折率および膜厚に応じて選択された材料および大きさの異なる複数の部材が順に貼り合わせて配置された構成となっているが、貼り合せターゲットの個々の部材に対して最適な条件を選べる場合は限られており、この方法により高精度の多層薄膜を得ることは難しかった。
【0010】
また、スパッタリング装置を用いて薄膜積層構造を構成したデバイスとして実用化されているものに、書換え型光ディスクがある。書換え型光ディスクの光磁気方式、相変化方式ともに、保護層、記録層、反射層等のスパッタリングによる多層構造を有しており、一般に、各層はそれぞれに適した、異なったスパッタリングガス条件(スパッタリングガス種類、スパッタリングガス圧力、スパッタリングガス流量等)により形成される。例えば、光磁気ディスクの場合であれば、保護層(エンハンス層)には、通常スパッタリングガスとしてアルゴンと窒素の混合ガスを用いたSiの反応性スパッタリングにより形成される窒化Si層が用いられる場合が多い。このため、スパッタリングガスとしてアルゴンのみが用いられる記録層、反射層などの形成には、保護層(エンハンス層)の形成に用いられるアルゴンと窒素の混合ガスの影響を受けないように、それぞれが独立したスパッタリングチャンバーが必須となっている。
【0011】
このため、量産用スパッタリング装置は、それぞれの層を形成するために、それぞれ真空排気系およびガス導入系を備えた真空的に独立した複数のスパッタリングチャンバーが隔離バルブ機構等により連結された構造となっているのが通常である。そして、この各スパッタリングチャンバー間をディスクが搬送されて、順次成膜されることにより多層構造が形成される。
【0012】
小規模の実験、開発の用途では、1つのスパッタリングチャンバーで保護層、記録層、反射層等を順次形成することが行なわれるが、この場合は、通常1つの層を形成するごとに真空排気、スパッタリングガス導入を行い、1つのスパッタリングチャンバーでありながら、それぞれの層を形成するごとにスパッタリングガス条件を完全に切替えている。
【0013】
ところが、上記のような従来の成膜方法および装置には、次のような問題点がある。まず、多層構造を形成するための独立した複数のスパッタリングチャンバーが必要であり、それぞれのチャンバーごとに真空排気系およびスパッタリングガス導入系、真空度測定系、各チャンバー間をディスク基板を搬送するための搬送機構およびチャンバーを真空的に隔離するためのバルブ機構、さらにこれらをコントロールするための制御機構(ハード/ソフト)等が必要となる。
【0014】
したがって、装置全体の構成/機構が複雑になり、装置としての信頼性の低下、メンテナンス性の低下等をもたらす。また、生産性を高めるためには、時間当りのディスク処理枚数を多くする必要があるが、各チャンバー間に隔離機構が必要であり、さらに搬送機構が隔離機構と干渉しない構造とするため、チャンバー間の搬送速度が制限され、ディスクの処理枚数が制約される場合がある。さらに、上記のような多くの各種装置、機構等が必要となるために、スパッタリング装置としても高価なものとなっている。
【0015】
特開平10−124941号公報には、真空的に単一のスパッタリングチャンバー内に複数の成膜部を設置する際に、各成膜部相互のスパッタリング時のプラズマの干渉を防止し、またスパッタリング粒子の不必要な部分への回り込みを防止するために、スパッタリングターゲットの周囲に適当な遮蔽板を設けることが提案されている。成膜部の数は所望の層数によって決められ、一般には少なくとも層数と同数が必要であるが、1つの層を複数の成膜部で分割して形成する場合には、その分割数に応じて必要な成膜部数が決められる。
【0016】
しかし、複数のカソードを配置したスパッタリング装置において、特に、DCカソードとRFカソードに配置されるターゲットを用いてスパッタリングを行い複数の膜を積層する場合、上記のようなスパッタリングターゲットの周囲に遮蔽板を設けるだけでは、一方のカソードでスパッタリング中に放出されるスパッタリング粒子が不必要な部分(例えば、隣り合うカソード上のターゲット等)に回り込み、隣り合うターゲット表面にスパッタリング粒子が付着しターゲットが汚染されることが起こり、この現象は短期間は防止できても、長時間使用続ける中では、部分的な回りこみ、真空容器内部部材に絶縁体膜の形成等が起こり、徐々に、成膜時のプラズマの状態が不安定となり、異常放電が起こりやすくなるという問題がある。
【特許文献1】特公平7−111482号公報
【特許文献2】特開2002−363745号公報
【特許文献3】特開平10−124941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、スパッタリング粒子の不必要な回り込みを防ぐために、1)各カソードを独立した複数の成膜室とし、それぞれの成膜室に真空排気系、真空度測定系、および隔離機構を設置するため、装置全体の構成が複雑となり、装置としての信頼性の低下、整備性の低下等をもたらす、また、2)多くの付属装置、機構が必要となるため、スパッタリング装置としても高価なものとなる、こと等を回避し、さらに、上記課題の回避策の一方法である、複数のカソードを配置したスパッタリング装置において、特に、DCカソードとRFカソードに配置したターゲットを用いてスパッタリングを行う場合、上記のようなスパッタリングターゲットの周囲に遮蔽板を設けるだけでは、一方のカソードでスパッタリング中に放出されるスパッタリング粒子が不必要な部分(例えば、隣り合うカソード上のターゲット等)に回り込み、隣り合うターゲット表面にスパッタリング粒子が付着しターゲットが汚染されることは、短期間は防止できても、部分的な回りこみ、真空容器内部部材に絶縁体膜の形成等が起こり、徐々に、成膜時のプラズマの状態が不安定となり、異常放電が起こる問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、前記課題を解決するため、多くの遮蔽板配置や遮蔽機構の検討を行ったところ、真空容器内に、ターゲットを配置した、複数のカソードのうちの少なくとも1つが、高周波電源に接続されるカソード(RFカソード)で、他は直流電源に接続されるカソード(DCカソード)が直線的に配置され、前記ターゲットに被処理面を対向させた基板を保持して、ターゲット上方を搬送路に沿って直線的に移動可能な基板保持体を具備し、カソードが配置された領域の少なくとも一方の側に基板保持体の待機領域を有しており、上記ターゲットのうちの1種の上に上記基板保持体を移動させ、該基板を対向させて、該ターゲットをスパッタリング法でスパッタリングして上記基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
該RFカソードの、隣り合うDCカソード側の搬送路部と、該RFカソードと隣り合う該DCカソードの該RFカソード側の搬送路部に、鉛直方向に遮蔽板が配置され、2枚の該遮蔽板間の距離は基板保持体の走行方向の巾よりも大きく、該遮蔽板は、基板保持体の移動方向と直交し真空容器壁部で支持された軸部に固定され基板保持体の移動方向前後に回動可能であり、該基板保持体が移動するときには、該基板保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体が移動して、カソード上部に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動して、該カソードでスパッタリングを行い基板上に薄膜を形成し、その後、該基板保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体が移動して、カソード上部あるいは基板保持体の待機領域に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動する機構とすることで、上記課題は解決することを見出し、本発明に至った。
【0019】
すなわち、本発明の第1の発明は、真空容器内に、ターゲットを配置した、複数のカソードのうちの少なくとも1つが、高周波電源に接続されるカソード(RFカソード)で、他は直流電源に接続されるカソード(DCカソード)が直線的に配置され、前記ターゲットに被処理面を対向させた基板を保持して、ターゲット上方を搬送路に沿って直線的に移動可能な基板保持体を具備し、カソードが配置された領域の少なくとも一方の側に基板保持体の待機領域を有しており、上記ターゲットのうちの1種の上に上記基板保持体を移動させ、該基板を対向させて、該ターゲットをスパッタリング法でスパッタリングして上記基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
該RFカソードの、隣り合うDCカソード側の搬送路部と、該RFカソードと隣り合う該DCカソードの該RFカソード側の搬送路部に、鉛直方向に遮蔽板が配置され、2枚の該遮蔽板間の距離は基板保持体の走行方向の巾よりも大きく、該遮蔽板は、基板保持体の移動方向と直交し真空容器壁部で支持された軸部に固定され基板保持体の移動方向前後に回動可能であり、該基板保持体が移動するときには、該基板保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体が移動して、カソード上部に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動して、該カソードでスパッタリングを行い基板上に薄膜を形成できることを特徴とするスパッタリング装置である。
【0020】
本発明の第2の発明は、真空容器の内部を、前記基板保持体が配置される上室と前記カソードが配置される下室にそれぞれ分割し、かつ前記カソードに配置されたターゲット表面と平面的に略一致する位置に前記ターゲット形状に対応した開口部が形成されたシールド部材を備えていることを特徴とする第1の発明に記載のスパッタリング装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスパッタリング装置は、真空容器内に、ターゲットを配置した、複数のカソードのうちの少なくとも1つが、高周波電源に接続されるカソード(RFカソード)で、他は直流電源に接続されるカソード(DCカソード)が直線的に配置され、前記ターゲットに被処理面を対向させた基板を保持して、ターゲット上方を搬送路に沿って直線的に移動可能な基板保持体を具備し、カソードが配置された領域の少なくとも一方の側に基板保持体の待機領域を有しており、上記ターゲットのうちの1種の上に上記基板保持体を移動させ、該基板を対向させて、該ターゲットをスパッタリング法でスパッタリングして上記基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
該RFカソードの、隣り合うDCカソード側の搬送路部と、該RFカソードと隣り合う該DCカソードの該RFカソード側の搬送路部に、鉛直方向に遮蔽板が配置され、2枚の該遮蔽板間の距離は基板保持体の走行方向の巾よりも大きく、該遮蔽板は、基板保持体の移動方向と直交し真空容器壁部で支持された軸部に固定され基板保持体の移動方向前後に回動可能であり、該基板保持体が移動するときには、該基板保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体が移動して、カソード上部に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動して、該カソードでスパッタリングを行い基板上に薄膜を形成し、その後、該基板保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体が移動して、カソード上部あるいは基板保持体の待機領域に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動する機構とすることを特徴とする。
【0022】
上記構造とすることにより、スパッタリングターゲットの周囲に遮蔽板を設けるだけでは、一方のカソードでスパッタリング中に放出されるスパッタリング粒子が不必要な部分(例えば、隣り合うカソード上のターゲット等)に回り込み、隣り合うターゲット表面にスパッタリング粒子が付着し、ターゲットが汚染されることが起こり、この現象は短期間は防止できても、長時間使用続ける中では、部分的な回りこみ、真空容器内部部材に絶縁体膜の形成等が起こり、徐々に、成膜時のプラズマの状態が不安定となり、異常放電が起こりやすくなるという問題を解消できる。したがって、基板上に、RFカソードを用いて形成される膜と、他はDCカソードを用いて形成される膜とで、複数の材料からなる積層構造の薄膜を真空を破ることなく連続して形成する場合において、高い品質の膜を得ることができる。また、複数の成膜室を備える必要がなく、装置全体の構成の簡素化、および低コスト化を実現できるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明に係わるスパッタリング装置の実施態様を、図面を参照しながら説明する。なお、図に示す装置全体の構成や各部の構成は、説明を容易にするために簡略化又は模式化している。
【0024】
本発明のスパッタリング装置は、真空容器内に、ターゲットを配置した、複数のカソードのうちの少なくとも1つが、高周波電源に接続されるカソード(RFカソード)で、他は直流電源に接続されるカソード(DCカソード)が直線的に配置され、前記ターゲットに被処理面を対向させた基板を保持して、ターゲット上方を搬送路に沿って直線的に移動可能な基板保持体を具備し、カソードが配置された領域の少なくとも一方の側に基板保持体の待機領域を有しており、上記ターゲットのうちの1種の上に上記基板保持体を移動させ、該基板を対向させて、該ターゲットをスパッタリング法でスパッタリングして上記基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
該RFカソードの、隣り合うDCカソード側の搬送路部と、該RFカソードと隣り合う該DCカソードの該RFカソード側の搬送路部に、鉛直方向に遮蔽板が配置され、2枚の該遮蔽板間の距離は基板保持体の走行方向の巾よりも大きく、該遮蔽板は、基板保持体の移動方向と直交し真空容器壁部で支持された軸部に固定され基板保持体の移動方向前後に回動可能であり、該基板保持体が移動するときには、該基板保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体が移動して、カソード上部に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動して、該カソードでスパッタリングを行い基板上に薄膜を形成できることを特徴としている。
【0025】
また、本発明のスパッタリング装置においては、真空容器の内部を、前記基板保持体が配置される上室と前記複数のカソードが配置される下室にそれぞれ分割され、かつ前記カソードに配置されたターゲット表面と平面的に略一致する位置に前記ターゲット形状に対応した開口部が形成されたシールド部材を備えている。
【0026】
高周波電源に接続されるカソード(RFカソード)では、真空容器10に動作ガスとして、例えば、Arガスがガス導入口から供給され、真空ポンプが接続されているガス排気系から真空排気することにより、動作ガスの供給量と、真空排気の排気速度とを制御することによって、真空容器10内を所定の圧力に維持する。真空容器10内ではRFカソード3と基板保持体5とが対向して配置され、RFカソード3上にはターゲット1が取り付けられ、基板保持体5上には基板8が取り付けられ、ターゲット1と基板8とが対向している。RFカソード3には高周波電源が整合回路を介して真空容器10外より接続されている。RFスパッタリングにおいては、RFカソード3に高周波電源からの高周波電力を印加すると、真空容器10内でArガスが電離又は励起して、Ar+ イオンが発生する。ターゲット1をAr+ イオンでスパッタして、基板8に成膜することができる。スパッタリング時は、基板保持体を搬送路に沿って直線的に移動しながら成膜すれば、基板保持体の移動方向に長い形状の基板8に成膜することが可能である。また、基板保持体を移動しないで、ターゲット形状にほぼ等しい範囲に成膜することも可能である。
【0027】
直流電源に接続されるカソード(DCカソード)では、動作ガスの供給量と、真空排気の排気速度とを制御することによって、真空容器10内を所定の圧力に維持して、DCスパッタリングにおいては、DCカソード4に直流電源からの直流電力を印加すると、真空容器10内でArガスが電離又は励起して、Ar+ イオンが発生し、ターゲット2をAr+ イオンでスパッタして、基板8に成膜することができる。
【0028】
基板8は、特に限定されず、ガラス基板や結晶基板、フィルムシート基板も用いることができる。フィルムシート基板として、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリイミドなどが挙げられる。これらの高分子基板は板状であってもフィルム状であってもよい。板状の高分子基板は寸法安定性と機械的強度に優れているため、特にそれが要求される場合には好適に使用できる。またフィルム状の高分子基板は可撓性を有しており、好適に使用できる。フィルム状の基板の厚さは通常10〜250μmのものが用いられる。フィルムの厚さが10μmよりあまり薄いと、基材としての機械的強度に不足し、250μmよりあまり厚いと可撓性が不足してくる。
【0029】
上記透明高分子基板のなかでもポリエチレンテレフタレートは、透明性及び加工性に優れているため、より好適に利用できる。また、ポリエーテルサルフォンは、耐熱性に優れているため、積層膜作製後に熱処理を必要とする場合、また該積層膜を使用してデバイスに加工する際に加熱処理を必要とする場合に、より好適に利用できる。
【0030】
上記基板はその表面に予めスパッタリング処理、コロナ処理、火炎処理、紫外線照射、電子線照射などのエッチング処理や、下塗り処理を施してこの上に形成される薄膜の上記基板に対する密着性を向上させる処理を施してもよい。また、成膜する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などの防塵処理を施してもよい。
【0031】
同一真空容器内で複数の材料からなる積層構造の薄膜を、真空を破ることなく連続して形成する場合、例えば、図1に示すスパッタリング装置のDCカソード4に、金属ターゲットを設置し、RFカソード3に誘電体膜を形成するための絶縁体ターゲットを設置して、基板上に金属膜、誘電体膜を交互に積層した積層膜を形成させる場合は、1層目の金属膜を以下のように成膜する。スパッタリングガスとしてArガスを導入し、ガス圧を調整した後、所望の直流電力でスパッタリングを行う。この時、スパッタリング中の電圧、および電流値が安定するまで数分間プリスパッタを行った後、基板を設置した基板保持体を、待機領域12からターゲット方向へ、所望の搬送速度で搬送し、スパッタリング中のターゲット上を移動しながら、表面に金属膜を形成する。基板保持体がターゲット上を完全に通過したところで、スパッタリングを停止して、基板保持体を待機領域12に戻す。
【0032】
次に、2層目として、誘電体膜を形成するには、スパッタリングガスとして、例えばOガスを混合したArガスを導入し、Oガス混合量、ガス圧を調整して、RF電力を印加し、スパッタリングを行う。この時、スパッタリング中の電圧、および電流値が安定するまで数分間プリスパッタを行った後、1層目の金属膜が形成された基板を設置した基板保持体を、待機領域12からターゲット方向へ、所望の搬送速度で搬送し、スパッタリング中のターゲット上を移動しながら、金属膜上に誘電体膜を形成する。基板は、スパッタリング中のターゲット上を移動しながら、誘電体膜を形成し、基板保持体がターゲット上を完全に通過したら、スパッタリングを停止して、基板保持体を待機領域12に戻す。
【0033】
ここで、上記基板保持体5を、待機領域12から、RFカソード3の上に移動させ、該基板8をRFカソード3に対向させて、該ターゲット1をRFスパッタリング法でスパッタリングして上記基板8上に、誘電体膜を形成する時には、待機領域12から該基板保持体5が移動すると、該基板保持体5の移動方向の直前にある遮蔽板7bが回動し、該基板保持体5が移動可能となり移動して、該基板保持体5が移動してターゲット間部に移ると、遮蔽板7bは元位置に回動して鉛直となり、さらに、遮蔽板7aが回動して、該基板保持体5がRFカソード3上部を移動しながらRFスパッタリングが行われ、基板上に誘電体膜が形成される。該基板保持体5が移動を続けると、前記遮蔽板7aは元位置に回動して鉛直となる。該RFカソード3ではスパッタリングが継続され基板8上にRFスパッタリング法でスパッタリングして誘電体膜が形成され、基板保持体5がターゲット1上を完全に通過したところで、スパッタリングが停止され、基板保持体を待機領域12に戻すことができる。
【0034】
上記構造とすることにより、RFスパッタリングターゲットの周囲に遮蔽板を設けるだけでは、一方のカソードでスパッタリング中に放出されるスパッタリング粒子が不必要な部分に回り込み、隣り合うターゲット表面上にスパッタリング粒子が付着しターゲットが汚染されることが起こり、遮蔽板等でこの現象は短期間は防止できても、長時間使用続ける中では、部分的な回りこみ、真空容器内部部材に絶縁体膜の形成等が起こり、徐々に、成膜時のプラズマの状態が不安定となり、異常放電が起こりやすくなるという問題を解消できる。これにより、基板上に、RFカソードを用いて形成される誘電体膜と、他はDCカソードを用いて形成される金属膜とからなる積層構造の積層膜を真空を破ることなく連続して形成する時、高い品質の膜を得ることができ、また、複数の成膜室を備える必要がなく、装置全体の構成の簡素化、および低コスト化を実現できる。
[実施例1]
図1は、実施例1に係わるスパッタリング装置の基本的な構成を示す概略断面図である。
スパッタリング装置を構成する真空容器10の内部には、ターゲット1、2を配置した2基のカソード3、4を直線的に配置し、前記真空容器10内の上方に、被処理面を前記ターゲットに対向させた基板8を保持してカソード上方を直線的に移動可能な基板保持体5とが配置されている。また、真空容器10の長手方向に沿って基板保持体5を水平に移動させるための搬送路6が設けられている。2基のカソードの内、1つが、高周波電源に接続されるカソード(RFカソード)3で、他は直流電源に接続されるカソード(DCカソード)4となっている。また、カソードが配置された領域の少なくとも一方の側に基板保持体5の待機領域12を有している。
【0035】
本発明のスパッタリング装置は、上記ターゲットのうちの1種の上に上記基板保持体5を移動させ、該基板を対向させて、該ターゲットをスパッタリング法でスパッタリングして上記基板8上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、該RFカソード3の、隣り合うDCカソード4側の搬送路部6の基板保持体5通過位置に遮蔽板7aが、また、該RFカソード3と隣り合う該DCカソード4の該RFカソード側の搬送路部6の基板保持体5通過位置に遮蔽板7bが、鉛直方向に配置され、2枚の該遮蔽板間の距離は基板保持体5の走行方向の巾よりも大きく、該遮蔽板7a、7bは、基板保持体5の移動方向と直交し真空容器壁部で支持された軸部に固定され基板保持体の移動方向前後に回動可能であり、該基板保持体5が移動するときには、該基板保持体5の移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体5が移動して、カソード上部に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動して、該カソードでスパッタリングを行い基板上に薄膜を形成することができる。
【0036】
例えば、上記基板保持体5をDCカソード4上の位置から、RFカソード3の上に移動させ、該基板8をRFカソード3に対向させて、該ターゲット1をRFスパッタリング法でスパッタリングして上記基板8上に、例えば酸化物薄膜を形成する時には、該基板保持体5が移動すると、該基板保持体5の移動方向の直前にある遮蔽板7bが回動し、該基板保持体5が移動してターゲット間部に移ると、遮蔽板7bは元位置に回動して鉛直となり、さらに、遮蔽板7aが回動して、該基板保持体5がRFカソード3上部に到達すると、前記遮蔽板7aは元位置に回動して鉛直となり、該RFカソード3でスパッタリングを行い基板8上にRFスパッタリング法でスパッタリングして酸化物薄膜薄膜を形成することができる。
【0037】
上記カソード側面には、スパッタリング法でターゲットをスパッタリングするためのプラズマを発生させるため、アルゴンガスなどの不活性ガスや酸化物膜等を成膜する時には酸素などの反応性ガスを導入するためのガス導入口9a、9bが設けられている。
【0038】
ガス導入口にはそれぞれ所望のガスを供給できるガス供給装置(図示せず)が配置されており、真空容器10には排気ポンプ(図示せず)が配置されておりガスを排気している。本装置では、ガスの導入と排出とのバランスをとることにより真空容器中に適度なガスの雰囲気圧力が保たれる。
[実施例2]
図1に示すスパッタリング装置のDCカソードに、Niターゲットを設置し、RFカソードにSiターゲットを設置して、PETフィルム基板上に以下の構造の積層膜を形成させた。
【0039】
基板:PETフィルム
(1層目)Ni膜(膜厚7.5nm)
スパッタリングガス:Ar(50sccm)
ガス圧:0.3Pa
スパッタリング電力:DC50W
搬送速度:70mm/min
(2層目)SiO膜(膜厚70nm)
スパッタリングガス:1.5%O/Ar(100sccm)
ガス圧: 0.6Pa
スパッタリング電力:RF500W
搬送速度: 18mm/min
(3層目)Ni膜(膜厚7.5nm)
スパッタリングガス:Ar(50sccm)
ガス圧: 0.3Pa
スパッタリング電力:DC50W
搬送速度: 70mm/min
(4層目)SiO膜(膜厚70nm)
スパッタリングガス:1.5%O/Ar(100sccm)
ガス圧: 0.6Pa
スパッタリング電力:RF500W
搬送速度: 18mm/min
(1層目)スパッタリングガスとしてArガスを導入し、ガス圧を0.3Paに調整した後、DC50Wの電力でスパッタリングを開始した。スパッタリング中の電圧、および電流値が安定するまで数分間プリスパッタを行った後、PETフィルム基板を設置した基板保持体を、待機領域からターゲット方向へ、搬送速度70mm/minで搬送を開始した。基板は、スパッタリング中のターゲット上を移動しながら、表面にNi膜が形成され、基板保持体がターゲット上を完全に通過したら、スパッタリングを停止して、基板保持体を待機領域に戻した。
(2層目)スパッタリングガスとして1.5%O/Arを導入し、ガス圧を0.6Paに調整した後、RF500Wの電力でスパッタリングを開始した。スパッタリング中の電圧、および電流値が安定するまで数分間プリスパッタを行った後、1層目のNi膜が形成されたPETフィルム基板を設置した基板保持体を、待機領域からターゲット方向へ、搬送速度18mm/minで搬送を開始した。基板は、スパッタリング中のターゲット上を移動しながら、表面にSiO膜が形成され、基板保持体がターゲット上を完全に通過したら、スパッタリングを停止して、基板保持体を待機領域に戻した。
(3層目)スパッタリングガスとしてArを導入し、ガス圧を0.3Paに調整した後、DC50Wの電力でスパッタリングを開始した。スパッタリング中の電圧、および電流値が安定するまで数分間プリスパッタを行った後、2層目までの膜が形成されたPETフィルム基板を設置した基板保持体を、待機領域からターゲット方向へ、搬送速度70mm/minで搬送を開始した。基板は、スパッタリング中のターゲット上を移動しながら、表面にNi膜が形成され、基板保持体がターゲット上を完全に通過したら、スパッタリングを停止して、基板保持体を待機領域に戻した。
(4層目)スパッタリングガスとして1.5%O/Arを導入し、ガス圧を0.6Paに調整した後、RF500Wの電力でスパッタリングを開始した。スパッタリング中の電圧、および電流値が安定するまで数分間プリスパッタを行った後、3層目までの膜が形成されたPETフィルム基板を設置した基板保持体を、待機領域からターゲット方向へ、搬送速度18mm/minで搬送を開始した。基板は、スパッタリング中のターゲット上を移動しながら、表面にSiO膜が形成され、基板保持体がターゲット上を完全に通過したら、スパッタリングを停止して、成膜基板を回収した。
【0040】
スパッタリング中のターゲット上に基板を搬送させながら成膜する際に、DCカソードとRFカソードの間の、DCカソード側とRFカソード側に配置された遮蔽板は、基板保持体の移動によって回動するが、DCカソード側とRFカソード側の遮蔽板の間隔を基板保持体のサイズ以上としており、必ずどちらか一方の遮蔽板は閉じた状態とすることができるため、スパッタリング粒子の不必要な回り込みを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係わるスパッタリング装置の実施態様を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ターゲット
2 ターゲット
3 RFカソード
4 DCカソード
5 基板保持体
6 搬送路部
7a、7b 遮蔽板
8 基板
9a、9b ガス導入口
10 真空容器
11 ガス排出口
12 待機領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に、ターゲットを配置した、複数のカソードのうちの少なくとも1つが、高周波電源に接続されるカソード(RFカソード)で、他は直流電源に接続されるカソード(DCカソード)が直線的に配置され、前記ターゲットに被処理面を対向させた基板を保持して、ターゲット上方を搬送路に沿って直線的に移動可能な基板保持体を具備し、カソードが配置された領域の少なくとも一方の側に基板保持体の待機領域を有しており、上記ターゲットのうちの1種の上に上記基板保持体を移動させ、該基板を対向させて、該ターゲットをスパッタリング法でスパッタリングして上記基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
該RFカソードの、隣り合うDCカソード側の搬送路部と、該RFカソードと隣り合う該DCカソードの該RFカソード側の搬送路部に、鉛直方向に遮蔽板が配置され、2枚の該遮蔽板間の距離は基板保持体の走行方向の巾よりも大きく、該遮蔽板は、基板保持体の移動方向と直交し真空容器壁部で支持された軸部に固定され基板保持体の移動方向前後に回動可能であり、該基板保持体が移動するときには、該基板保持体移動方向の直前にある遮蔽板が回動し、該基板保持体が移動して、カソード上部に到達すると、前記遮蔽板は元位置に回動して、該カソードでスパッタリングを行い基板上に薄膜を形成できることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
真空容器の内部を、前記基板保持体が配置される上室と前記カソードが配置される下室にそれぞれ分割し、かつ前記カソードに配置されたターゲット表面と平面的に略一致する位置に前記ターゲット形状に対応した開口部が形成されたシールド部材を備えていることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。


【図1】
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【公開番号】特開2009−299156(P2009−299156A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156203(P2008−156203)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】