説明

スパッタリング装置

【課題】膜厚が均一で付着強度の高いアナターゼ型酸化チタン薄膜を提供する。
【解決手段】成膜対象物11表面にスパッタリングによりルチル型酸化チタン薄膜12’を形成し、この表面にレーザー光線88を照射すると、ルチル型酸化チタン薄膜12’はルチル型からアナターゼ型に変換されるので、光触媒活性の高い、アナターゼ型酸化チタン薄膜13を得ることができる。また、反射手段85と配置手段52を移動させ、ルチル型酸化チタン薄膜12’表面のレーザー光線88の照射位置を移動させると、ルチル型酸化チタン薄膜12’全体をアナターゼ型に変換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性薄膜の技術分野にかかり、特に光触媒機能を有する酸化チタン薄膜を製造する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、超親水性と防汚効果が得られる薄膜材料として、酸化チタン(TiO2)が注目されている。酸化チタンは光触媒の一種であり、紫外線が照射されると活性化し、空気中の酸素からヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドアニオンが生成され、それによって表面に付着した有機汚染物質が分解されるのでセルフクリーニング効果があり、また、汚染物質の分解により、清浄な表面が露出する結果、超親水性が得られることが知られている。従って、この酸化チタン薄膜が表面に形成されたガラス板を用いた窓ガラスは、汚れにくく、また、曇りにくい。
【0003】
ところで、酸化チタンの結晶系は、アナターゼ型、ルチル型、及びブルッカイト型があるが、アナターゼ型が最も高い光学活性を示すことが知られている。しかし、アナターゼ型は、高温に曝されるとルチル型に転移し、防汚効果や超親水性が発現されなくなってしまう。
【0004】
酸化チタン膜を有するガラス板を作成する従来技術での製造方法は、成膜対象物であるガラス板上にアナターゼ型酸化チタン粉末の分散液を吹き付けた後、800℃程度の低温で焼成することで、表面に酸化チタン薄膜を形成している(ゾル・ゲル法)。しかしながら、ゾル・ゲル法で形成された酸化チタン薄膜は付着強度が弱いため、剥離しやすいという欠点がある。
【0005】
他方、スパッタリング法によって薄膜を形成すれば、付着強度は強くなることが知られているが、アナターゼ型の酸化チタン膜を形成するためには、成膜対象物とターゲットの間隔を10mm程度まで近づけ、高エネルギーのスパッタ粒子で酸化チタン薄膜を成長させる必要がある。成膜対象物とターゲットとの距離が近いと形成される薄膜の膜厚が不均一になってしまうので、特に、窓ガラスのような大きいガラス板にスパッタリング法で酸化チタン膜を形成すると、その膜厚が不均一なため、太陽光線の干渉現象が起こり、ガラスに色がついてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−198480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、強靭で膜厚が均一なアナターゼ型酸化チタン薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、真空槽内に成膜対象物を配置し、スパッタリングガスのプラズマを生成して酸化チタンターゲットをスパッタリングし、前記成膜対象物表面に酸化チタン薄膜を成長させる酸化チタン薄膜の製造方法であって、前記スパッタリングにより、前記成膜対象物表面にルチル型の酸化チタン薄膜を形成した後、その表面にレーザー光線を照射する酸化チタン薄膜製造方法。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の酸化チタン薄膜製造方法であって、前記酸化チタン薄膜表面に照射する前記レーザー光線の照射位置を移動させることを特徴とする。
請求項3記載の発明は前記真空槽内に反射手段を配置し、前記レーザ光線を、反射手段によって反射させて前記酸化チタン薄膜に照射する請求項2記載の酸化チタン薄膜製造方法であって、前記反射手段を移動させることで、前記照射位置を移動させることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、前記成膜対象物を移動可能な配置手段上に載置した状態で前記レーザ光線を照射する請求項2又は請求項3いずれか1項記載の酸化チタン薄膜製造方法であって、前記配置手段を移動させることで、前記照射位置を移動させることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1及至請求項4いずれか一項記載の酸化チタン薄膜製造方法であって、前記真空槽外にレーザ光線発生装置を配置し、該レーザ光線発生装置で発生させたレーザ光線を前記真空槽内に入射させ、前記酸化チタン薄膜表面に照射することを特徴とする。
請求項6記載の発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された配置手段とを有し、前記真空槽に設けられたスパッタリングターゲットをスパッタリングし、前記配置手段上に載置された成膜対象物表面に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、前記真空槽内には反射手段が配置され、前記真空槽外に配置されたレーザ光線発生装置から前記真空槽内にレーザ光線を進入させると、該レーザ光線は前記反射手段で反射され、前記成膜対象物に照射されるように構成されたスパッタリング装置。
請求項7記載の発明は、請求項6記載のスパッタリング装置であって、前記反射手段は、前記成膜対象物表面に対し、平行に移動可能に構成されたことを特徴とする。
請求項8記載の発明は、請求項7記載のスパッタリング装置であって、前記配置手段は、前記反射手段の移動方向とは略垂直方向に移動可能に構成されたことを特徴とする。
【0009】
本発明は上記のように構成されており、先ず、スパッタリングによって成膜対象物表面にルチル型の酸化チタン薄膜を形成してから、レーザー光線を用いてルチル型酸化チタンをアナターゼ型に変換しているので、スパッタリングの際ターゲットと成膜対象物との間隔が離れていても、膜厚が均一なアナターゼ型酸化チタン薄膜を製造できる。
【0010】
一般にレーザー光線の径は小径であるが、成膜対象物表面でレーザー光線の照射される位置を移動させれば、大型の成膜対象物に形成された酸化チタン薄膜であっても、全体をアナターゼ型に変換することが可能である。
【0011】
このレーザー光線を真空槽内の反射手段に反射させ、酸化チタン薄膜表面にレーザー光線を照射し、この状態で反射手段を移動させれば、レーザー光線の照射位置も反射手段の移動方向に移動される。配置手段を反射手段の移動方向と略垂直方向に移動させれば、レーザー光線の照射位置は反射手段の移動方向と略垂直方向にも移動されるので、小径のレーザー光線を用いても、酸化チタン薄膜全体にレーザー光線を照射することができる。この結果、大面積の成膜対象物表面にアナターゼ型の酸化チタン薄膜が形成される。
【発明の効果】
【0012】
スパッタリング法によってルチル型の酸化チタン薄膜を形成した後、レーザー照射によってルチル型をアナターゼ型に変換するので、膜厚が均一で強靭な酸化チタン薄膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)、(b):本発明の酸化チタン薄膜製造方法を説明するための図
【図2】本発明によるアナターゼ型酸化チタン薄膜の水滴との接触角θを示す図
【図3】ルチル型酸化チタン薄膜の水滴との接触角θを示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の酸化チタン薄膜製造方法とスパッタリング装置を図面を用いて説明する。図1(a)の符号50は、酸化チタン薄膜を形成する本発明のスパッタリング装置の一例を示している。このスパッタリング装置50は真空槽51とレーザー発生装置80とを有しており、レーザー発生装置80は真空槽51の外部に配置されている。真空槽51側壁には窓83が設けられている。レーザー発生装置80はこの窓83近傍に配置されており、レーザー発生装置80から照射されたレーザー光線88(ここでは炭酸ガスレーザー)は窓83を透過し、真空槽51内に進入するように構成されている。
【0015】
真空槽51内には反射手段85が配置されており、真空槽51内に進入したレーザー光線88は、反射手段85(ここではプリズムを用いた)に照射されるように構成されている。真空槽51の底壁上には配置手段52が配置されており、反射手段88に照射されたレーザー光線88は反射手段85によって反射され、配置手段52表面に照射されるように構成されている。
【0016】
この反射手段85は図示しない移動機構に取り付けられており、レーザー光線88が照射された状態で、配置手段52表面と平行方向に移動できるように構成されている。前記移動機構によって反射手段85が移動されると、配置手段52上に照射されるレーザー光線88の照射位置は配置手段52表面上を移動する。
【0017】
また、配置手段52も図示しない移動装置に取り付けられており、反射手段85の移動方向と略垂直方向に移動できるように構成されている。この移動装置によって配置手段52が移動されると、配置手段52表面上のレーザー光線88の照射位置が配置手段52の移動方向と反対方向に移動するようになっている。ここで配置手段52の移動方向は反射手段85の移動方向とは略垂直方向であるから、反射手段85と配置手段52とを移動させることで配置手段52表面の所定領域内をレーザー光線88でくまなく照射することができるようになっている。
【0018】
この真空槽51内壁の天井側には配置手段52と対面してカソード72が設けられており、カソード72表面にはチタン酸化物から成るターゲット73が配置されている。このスパッタリング装置50ではターゲット73と配置手段52との距離は100mmにされている。
真空槽51外部には、真空排気系55とガス導入系60と電源65とが配置されている。これらのうち、真空排気系55とガス導入系60はそれぞれ真空槽51に接続されており、電源65はカソード72に接続されている。
【0019】
上記のようなスパッタリング装置50を用いて酸化チタン薄膜を形成するには、先ず、真空排気系55を用いて真空槽51内部を真空雰囲気にする。配置手段52にはヒーター53が内蔵されており、このヒーター53に通電し、配置手段52を所定温度に昇温させる。次に、真空雰囲気を維持した状態で真空槽51内にガラスから成る板状の成膜対象物11を搬入する。このとき上述した反射手段85は成膜対象物11の搬入を妨げない位置に退避しておく。次いで、搬入した成膜対象物11を配置手段52上に配置し、所定温度に昇温させる。
【0020】
次に、ガス導入系60からスパッタリングガスを導入し、真空槽51内の圧力が約0.67Paで安定したところで電源65を起動し、カソード72に負電圧を印加すると、ターゲット73表面近傍に、スパッタリングガスプラズマが生成され、ターゲット73がスパッタリングされる。ターゲット73表面から飛び出したスパッタリング粒子(酸化チタン)が、成膜対象物11表面に到達すると、ルチル型の酸化チタン薄膜12が形成される。このルチル型酸化チタン薄膜12が所定の膜厚(ここでは膜厚が2×10-7m)に形成されたところで、電圧の印加とガス導入とを終了させる。
【0021】
次いで、反射手段85を退避位置から移動させ、成膜対象物11の端部表面近傍に静止させる。この状態で、レーザー発生装置80を起動し、レーザー光線88発生させ、窓83と反射手段85とを介してルチル型酸化チタン膜12表面にこのレーザー光線88を照射すると、ルチル型の酸化チタン結晶がアナターゼ型に変換され、アナターゼ型酸化チタン薄膜13が形成される。
図1(b)に示すように、レーザー光線88をルチル型酸化チタン薄膜12に照射しながら反射手段85を一方向に移動させると、帯状のアナターゼ型酸化チタン薄膜13が得られる。
【0022】
次に、レーザー光線88未照射のルチル型酸化チタン膜12にレーザー光線88を照射するために、配置手段52を帯の幅分だけ移動させ、ルチル型酸化チタン薄膜12表面にレーザー光線88を照射しながら反射手段85を反対方向に移動させると、既に形成された帯状のアナターゼ型酸化チタン薄膜13の隣にアナターゼ酸化チタン薄膜13が新たに帯状に形成される。これを繰り返すと、ルチル型酸化チタン薄膜12表面全体にレーザー光線88が照射され、全体がアナターゼ型酸化チタン薄膜13に変換される。
レーザー光線88の照射を停止し、反射手段85を退避させ、真空雰囲気を維持しながらアナターゼ型酸化チタン薄膜13が形成された成膜対象物11を真空槽51から搬出する。
【0023】
図2は上記工程で成膜対象物11表面に形成したアナターゼ型酸化チタン薄膜13の表面に水滴20を載せ、紫外線を照射した状態を示している。この水滴20との接触角θは約5度であり、超親水性の発現が認められた。
比較のため、スパッタリングによってルチル型酸化チタン薄膜12を成膜対象物11表面に形成した後、レーザー光線88を照射せず,真空槽51から搬出した状態でルチル型酸化チタン薄膜12上に水滴を載せた。図3はこの状態を示している。この場合、水滴20との接触角は60度であった。
従って、図1(b)で示したレーザー光線88の照射によって、ルチル型酸化チタン薄膜12が、活性の高いアナターゼ型酸化チタン薄膜13に変換されることが確認された。
【符号の説明】
【0024】
11……成膜対象物
12……ルチル型酸化チタン薄膜
13……アナターゼ型酸化チタン薄膜
50……スパッタリング装置
51……真空槽
52……配置手段
73……ターゲット
80……レーザー発生装置
83……窓
85……反射手段
88……レーザー光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内に成膜対象物を配置し、スパッタリングガスのプラズマを生成して酸化チタンターゲットをスパッタリングし、前記成膜対象物表面に酸化チタン薄膜を成長させる酸化チタン薄膜の製造方法であって、
前記スパッタリングにより、前記成膜対象物表面にルチル型の酸化チタン薄膜を形成した後、その表面にレーザー光線を照射する酸化チタン薄膜製造方法。
【請求項2】
前記酸化チタン薄膜表面に照射する前記レーザー光線の照射位置を移動させることを特徴とする請求項1記載の酸化チタン薄膜製造方法。
【請求項3】
前記真空槽内に反射手段を配置し、前記レーザ光線を、反射手段によって反射させて前記酸化チタン薄膜に照射する請求項2記載の酸化チタン薄膜製造方法であって、
前記反射手段を移動させることで、前記照射位置を移動させることを特徴とする酸化チタン薄膜製造方法。
【請求項4】
前記成膜対象物を移動可能な配置手段上に載置した状態で前記レーザ光線を照射する請求項2又は請求項3いずれか1項記載の酸化チタン薄膜製造方法であって、
前記配置手段を移動させることで、前記照射位置を移動させる酸化チタン薄膜製造方法。
【請求項5】
前記真空槽外にレーザ光線発生装置を配置し、該レーザ光線発生装置で発生させたレーザ光線を前記真空槽内に入射させ、前記酸化チタン薄膜表面に照射することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の酸化チタン薄膜製造方法。
【請求項6】
真空槽と、前記真空槽内に配置された配置手段とを有し、前記真空槽に設けられたスパッタリングターゲットをスパッタリングし、前記配置手段上に載置された成膜対象物表面に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
前記真空槽内には反射手段が配置され、前記真空槽外に配置されたレーザ光線発生装置から前記真空槽内にレーザ光線を進入させると、該レーザ光線は前記反射手段で反射され、前記成膜対象物に照射されるように構成されたスパッタリング装置。
【請求項7】
前記反射手段は、前記成膜対象物表面に対し、平行に移動可能に構成された請求項6記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記配置手段は、前記反射手段の移動方向とは略垂直方向に移動可能に構成された請求項7記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−106367(P2010−106367A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290055(P2009−290055)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【分割の表示】特願平11−348244の分割
【原出願日】平成11年12月8日(1999.12.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】