説明

スパッタ成膜装置およびスパッタ成膜方法

【課題】光学膜の成膜に好適なスパッタ成膜装置およびスパッタ成膜方法を提供する。
【解決手段】基板搬送装置2を真空槽3内に備え、基板搬送装置2の外側の真空槽3との間の空間に、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングにより超薄膜を基板1上に形成するスパッタ領域4、5、6と、反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する反応領域7と、アシスト領域8を設け、前記反応領域7は、該領域内の反応ガスを誘導結合によりプラズマ化するプラズマ発生手段を備え、前記プラズマ発生手段は、真空槽3の外側に設けられた高周波電源11、コイル電極12と、前記真空槽3の壁体に設けられた、基板搬送装置2の回転の周方向に所望の長さを有する誘導電磁界導入窓13とを有し、基板1を前記スパッタ領域4、5、6からアシスト領域8および反応領域7に搬送して、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板1上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ成膜装置およびそれを用いたスパッタ成膜方法に関し、特に光学膜の成膜に好適なスパッタ成膜装置およびスパッタ成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学多層膜は、一般には各種誘電体や金属材料(例えば、SiO2、TiO2、Ta2O5Al2O3、Nb2O5 、Ag、ITO (酸化インジウム錫)など)の中から屈折率の異なる2種類以上の材料を使用し、それらを基板上に交互に所定の厚みに積層したもので、所望の光学特性を有している。光学多層膜を構成する各層の膜厚は使用波長領域における波長程度の厚みであって、光学薄膜設計の理論に従って設計される。
【0003】
スパッタリングによって作られる光学膜は、一般にマグネトロンスパッタリングにより形成される。
マグネトロンスパッタリングは、磁気閉回路が背後に配置されたターゲットと呼ばれるターゲット材に負の電圧を印加し、ターゲット表面付近でイオン化されたスパッタリングガス(一般にはArが使用される)のターゲットへの衝撃により、ターゲット材の原子を放出させて基板上に積層させるものである。
【0004】
光学膜の成膜に適したマグネトロンスパッタリングを用いたスパッタ成膜方法の一つに、いわゆるメタモードスパッタリングというスパッタ成膜方法がある。このスパッタ成膜方法は、スパッタ成膜装置のスパッタ領域で、電気導電性の金属ないし半導体からなるターゲットに負電圧やパルス電圧を、あるいは2つのターゲット間に交流電圧を印加して、基板上にまず金属モード(スパッタリングガスの割合が反応性ガスの割合より十分に多い状態)でターゲット材からなる超薄膜(通常、数原子層以下の厚さ)を積層する。次いで、スパッタ領域から離れた別の場所に設けられた反応領域に基板を搬送して、その反応領域で反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物に変換させる。この工程を繰り返して、所望の厚みの化合物薄膜や多層膜を形成する(特許文献1参照)。
このスパッタ成膜方法は、成膜レートが比較的大きく、生産性がよいといわれている。
【0005】
上記スパッタ成膜装置のスパッタ領域において、マグネトロンスパッタリングに用いるターゲットの形状としては、円形や長方形などの平面状のものが一般的である。また、ターゲットを含むカソードの構造は、ターゲットの背後に、プラズマを増強するための電子トラップ用磁場を形成するマグネトロン磁気回路を備えており、この磁気回路の位置は、通常ターゲットに対して固定されている。
マグネトロンターゲットとしては、他に、ターゲットを円筒型にし、その中に磁気回路を円筒型ターゲットに対して固定しないように設け、円筒型ターゲットを連続的に磁気回路に対して相対的に回転させる構造のものある。この場合、エロージョン領域(ターゲット上でイオン衝撃が起きる領域)を円筒型ターゲットの表面上で連続的に移動させ、結果として、ターゲット全面にエロージョン領域を広げることができる。
【0006】
また、上記スパッタ成膜装置の反応領域では、例えば、基板を搭載して回転搬送する円筒回転ドラムの外側に、円筒回転ドラムの高さ方向(回転軸方向)に細長く伸び、円周方向に狭い幅の形状をしたイオン源を設け、そこで発生した反応ガスプラズマの主にイオン成分を電極で加速して基板に触れさせている(特許文献1参照)。この場合、反応領域はイオン源の大きさに相当し、基板の搬送方向(円筒回転ドラムの円周方向)に狭くなっている。そのため、円筒回転ドラムに搭載された複数の基板が円筒回転ドラムの回転により連続的に搬送されて反応領域を通過する時間、つまり反応時間を十分に確保するためには、搬送速度、言い換えると円筒回転ドラムの回転速度を低下させることが必要になり、生産性が低下する。
また、他の例として、発生させたプラズマをグリッドあるいはスリットを通して、プラズマ中の中性活性主のみを取り出して基板に触れさせている(特許文献2参照)。この場合は、グリッドやスリットを通しているのでプラズマの中のイオンあるいは電子などの荷電成分を取り去ってしまうので、反応効率が低下する。
【0007】
スパッタ成膜装置は、一般に円筒状の単一のベルジャで囲むことにより真空槽を形成している。また、内側筒状壁とその外周を取り囲む外側筒状壁と外側筒状壁の上側開口部を覆う蓋とで囲むことにより狭い環状空間の真空槽を形成し、内側筒状壁に排気管を取り付けて排気する構造のものもある(特許文献3参照)。この場合、排気系をスペース効率よく配管することができるとともに、排気時間を短縮することができる。
【0008】
【特許文献1】特許番号第2695514号公報
【特許文献2】特開平11−256327号公報
【特許文献3】特許番号第3415212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のスパッタ成膜装置には、以下のような問題があった。すなわち、
1)反応領域における反応ガスによる超薄膜の反応に時間を要し、生産性を十分に上げることが困難であった。
2)光学多層薄膜は緻密で透明性のよい膜であることが要求される。しかしながら、スパッタにより形成された薄膜は、グレインサイズが大きかったり、あるいは微小散乱体の存在により、十分な透明性が得られず、特にスパッタ粒子の基板への入射角が大きくなると、膜質が悪化する。
3)内側筒状壁、外側筒状壁および外側筒状壁の上側開口部を覆う蓋で真空槽を形成したスパッタ成膜装置では、内側筒状壁内側の内部(真空槽からいえば、外部になる)空間は、排気系に利用されており、内側筒状壁の内側からはメンテナンス作業を行うことはできなかった。特に、回転円筒状の基板搬送装置に保持した基板に内側からスパッタリング成膜する場合、スパッタリングターゲットの交換などのメンテナンス作業は内側筒状壁の内側から行うと作業性がよいが、上述のスパッタ成膜装置では、このようなメンテナンス作業を行うことはできない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたもので、請求項1記載の発明は、基板を保持する回転可能な基板搬送装置を真空槽内に備え、前記基板搬送装置の外周部とその外側の前記真空槽との間の環状空間に、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板搬送装置に保持された基板上に形成するスパッタ領域と、反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する反応領域とを設け、前記反応領域は、該領域内の反応ガスを誘導結合によりプラズマ化するためのプラズマ発生手段を備え、前記プラズマ発生手段は、前記真空槽の外側に設けられた誘導電磁界発生装置と、前記真空槽の壁体に設けられた、前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有して前記誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を反応領域内に導入する誘導電磁界導入窓とを有し、前記基板搬送装置を回転させて、前記基板搬送装置に保持された基板を前記スパッタ領域から前記反応領域に搬送して処理し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜装置である。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、基板を保持する回転可能な筒状基板搬送装置を、環状真空槽内に略同心状に備え、前記真空槽は内側筒状体とその外周を囲む外側筒状体とを有して、前記内側筒状体と前記外側筒状体との間に形成される空間が真空槽の内部となり、また、前記内側筒状体の内側に形成される空間の一端側は開口しており、前記基板搬送装置の内周部と前記真空槽の前記内側筒状体との間の環状空間に、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板搬送装置に保持された基板上に形成するスパッタ領域と、反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する反応領域とを設け、前記反応領域は、該領域内の反応ガスを誘導結合によりプラズマ化するためのプラズマ発生手段を備え、前記プラズマ発生手段は、前記真空槽の内側筒状体の内側に設けられた誘導電磁界発生装置と、前記真空槽の内側筒状体の壁体に設けられた、前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有して前記誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を反応領域内に導入する誘導電磁界導入窓とを有し、前記基板搬送装置を回転させて、前記基板搬送装置に保持された基板を前記スパッタ領域から前記反応領域に搬送して処理し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜装置である。
【0012】
なお、請求項1および2において、誘導電磁界導入窓が基板搬送装置の回転の周方向に有する「所望の長さ」とは、基板搬送装置に搭載された基板が基板搬送装置の回転により反応領域内を移動する際に、反応に要する時間(反応領域にとどまる時間)が十分に確保される長さを意味する。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のスパッタ成膜装置において、前記環状空間に前記スパッタ領域と前記反応領域から離間してアシスト領域を設け、該アシスト領域は、反応ガスイオンを500eV以上に加速して前記超薄膜に斜めに照射するためのイオンガングリッドとニュートラライザを備えていることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、請求項1または請求項2記載のスパッタ成膜装置を用いて、基板を搭載した基板搬送装置を回転しながら、スパッタ領域において、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板上に形成し、次いで、反応領域において、誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有する誘導電磁界導入窓から導入して、誘導結合により発生した反応ガスプラズマを拡散により前記超薄膜に接触させ、前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜方法である。
【0015】
さらに、請求項5記載の発明は、請求項3記載のスパッタ成膜装置を用いて、基板を搭載した基板搬送装置を回転しながら、スパッタ領域において、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板上に形成し、次いで、アシスト領域において、反応ガスイオンを500eV以上に加速して前記超薄膜に斜めに照射し、次いで、反応領域において、誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有する誘導電磁界導入窓から導入して、誘導結合により発生した反応ガスプラズマを拡散により前記超薄膜に接触させ、前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1、2、4記載の発明によれば、反応領域において、誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を導入する誘導電磁界導入窓が、基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有するように設けられているため、また、誘導結合により発生した反応ガスプラズマを拡散により前記超薄膜に接触させるため、反応に要する時間(基板が反応領域にとどまる時間)を十分に確保することができ、生産性が向上する。
【0017】
また、請求項3、5記載の発明によれば、イオンガングリッドとニュートラライザを備えたアシスト領域を設け、反応ガスイオンを500eV以上に加速して超薄膜に斜めに照射するため、緻密で透明性のよい膜が得られる。
【0018】
さらに、請求項2記載の発明によれば、環状真空槽の内側筒状体の内側に形成される空間(真空槽からいえば、外部空間)の一端側は開口しているため、内側筒状体の内側から作業性よくメンテナンス作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明にかかるスパッタ成膜装置の一実施形態を示す平面断面図である。
図1に示すように、本実施形態のスパッタ成膜装置は、薄膜が形成される基板1を保持する回転可能な円筒状基板搬送装置2を真空槽3内に備え、前記基板搬送装置2の外周部とその外側の前記真空槽3との間の環状空間に、3箇所のスパッタ領域4、5、6、反応領域7およびアシスト領域8が相互に離間する位置に設けられている。
基板1は、ロードロック室9から基板ホルダに載せられてロボット(図示していない)により開閉する仕切り弁10を通して真空槽3内に搬送され、成膜される面が外側を向くように基板搬送装置2に搭載される。真空槽3内は、装置上部中央に設置した真空ポンプ(図示していない)で真空排気される。
【0020】
スパッタ領域4、5、6には、回転可能な薄肉円筒状ターゲット4a、5a、6aが装備されている。
前記円筒状ターゲット4a、5a、6aは、図2に示すように、円筒形状の(例えばステンレスからなる)バッキングプレート21に円筒形状(あるいは分割された円筒形状、半割り形状、あるいは3分の1割り形状)にした形のバルクターゲット材22をインジウムなどを介して接合して形成されている。また、円筒状ターゲット4a、5a、6aには直流パルスあるいは交流電力を供給する電気系統が接続しており、また、冷却のための水路が装備されている。
【0021】
また、反応領域7には、該領域内の反応ガスを誘導結合によりプラズマ化するためのプラズマ発生手段として、真空槽3の外側に高周波電源11に接続された高周波コイル電極12からなる誘導電磁界発生装置が装備されており、また、真空槽3の壁体に前記誘導電磁界発生装置により発生した高周波の誘導電磁界を反応領域7内に導入する誘導電磁界導入窓13が設けられている。
前記誘導電磁界導入窓13は、石英やアルミナなどの低誘電損失材料からなり、基板搬送装置2の回転する周方向の長さLが十分に長く、かつ、反応領域7がスパッタ領域4、5、6からは離間するような長さに設定されている。
【0022】
さらに、アシスト領域8には、2ないし3枚のグリッド電極を有する高周波励起によるイオンガングリッド8aと、基板への正イオンの電荷蓄積を防ぐために、正イオンを中和する低エネルギー電子を放出するニュートラライザ8bが、基板1に対して斜め方向から照射できるように具備されている。
【0023】
前記実施形態のスパッタ成膜装置を用いて、以下のようにして薄膜を形成する。すなわち、
1)基板1をロードロック室9から基板ホルダに載せてロボット(図示していない)により開閉する仕切り弁10を通して真空槽3内に搬送し、基板搬送装置3に成膜される面が外側を向くように搭載する。その後、真空槽3内を、装置上部中央に設置した真空ポンプ(図示していない)で真空排気する。
2)次いで、基板搬送装置2を回転させて、基板搬送装置2に保持された基板1をスパッタ領域4、5、6、反応領域7およびアシスト領域8を通過させる。
先ず、スパッタ領域4、5、6においては、マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を基板1上に形成する。
3)次いで、アシスト領域8において、前記500eV以上に加速した反応ガスのイオンあるいは反応ガスと希ガスの混合ガスのイオンを前記超薄膜膜表面に斜めから、好ましくは、主入射角が30度以上、70度以下になるように、照射する。
4)次いで、反応領域7において、誘導結合によりプラズマ化した反応ガスプラズマを誘導電磁界導入窓13側から拡散により基板1に接触させ、前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する。
5)基板搬送装置2の回転により、上記工程を繰り返して、所望の厚さの化合物薄膜を形成する。
【0024】
なお、図1において、基板搬送装置3の回転により、基板1は必ずしもスパッタ領域4、5、6、アシスト領域8および反応領域7の順に通過するわけではないが、高速で回転する場合には、各領域の通過順序はそれほど重要ではない。ただし、基板搬送装置3の回転速度が遅い場合には、各領域の通過順序は適切に設定する必要がある。
また、例えば、スパッタ領域4、6とスパッタ領域5のターゲット材質を変え、成膜の過程でスパッタリングを行う領域をスパッタ領域4、6とスパッタ領域5との間で交互に切替えると、2種類の化合物薄膜が交互に多層に積層された薄膜を形成することができる。
【0025】
本実施形態が従来例と異なる特徴的なことは、反応領域7の真空槽3の壁体に設けられた誘導電磁界導入窓13が、基板搬送装置3の回転の周方向に十分に長くなるように設定されていることであり、また、誘導結合によりプラズマ化した反応ガスプラズマはそのままの状態で、前記誘導電磁界導入窓13側から拡散により基板1に接触していることである。
従って、反応領域7が基板搬送装置2の回転の周方向に広くなり、基板搬送装置2の回転速度が同じであっても、基板1が反応領域7にとどまる時間が長くなり、成膜レートが向上する。因みに、従来は、反応ガスプラズマが加速電極やグリッドを通り、その広がりが絞られており、反応領域が上記実施形態に比して狭くなっている。
また、反応ガスプラズマがそのままの状態で、言い換えると、イオンや電子などの荷電成分と中性の励起原子などの中性活性種を含んだ状態で、拡散により基板に接触するため、成膜レートが向上する。因みに、従来は、反応ガスプラズマが加速電極やグリッドを通り、プラズマ中のイオンあるいは電子などの荷電成分が取り除かれて、中性活性種のみが基板に触れている。
【0026】
上記反応領域7の特徴は、鋭意実験した結果に基づくものである。
例えば、誘導電磁界導入窓13の長さLを400mmから800mmに長くすると、Nb2O5の成膜レートが約1.5倍になり、誘導電磁界導入窓13の周方向の長さLを長くすることにより、成膜レートが大きくなった。
また、誘導電磁界導入窓にグリッド(大きさ100mm×100mmの板に直径1mmの孔を900個あけたもの)を取り付けてイオン成分を除去した場合と、前記グリッドを取り付けずに酸素プラズマをそのまま用いた場合とについて、Nb2O5の成膜レートを比較すると、成膜レートはグリッドのない方が約3倍に大きくなった。
【0027】
また、本実施形態の他の特徴的なことは、基板搬送装置2の外周部とその外側の真空槽3との間の環状空間に、スパッタ領域4、5、6と反応領域7から離間するようにアシスト領域8を設けて、反応ガスのイオンあるいは反応ガスと希ガスの混合ガスのイオンを500eV以上に加速してスパッタリングにより形成された超薄膜に斜めに照射して、一部の凹凸部の材料をエッチングすることである。こうすることにより、前記超薄膜は表面の凹凸が平滑化し、緻密化するので、反応領域7における超薄膜の反応が主に膜表面で起きるので、そのアシスト効果により反応が促進する。
この場合、照射するイオンの好適なエネルギーは膜の材料によって異なるため、イオンガングリッドとしてはグリッドを有して、イオンのエネルギーを調整できるものが好ましい。また、反応ガスのイオンあるいは反応ガスと希ガスの混合ガスのイオンは、500eV以上に加速し、膜表面に30度以上、70度以下の主角度で照射することが好ましい。その理由は、イオンの基板に対する入射角が30度より小さいと、十分な効果が得られず、入射角が大きくなると効果が大きくなるが、70度を超えると、積層した超薄膜を再解離させる恐れが大きくなるからである。
一般に、メタモードスパッタリングにより形成されたままの超薄膜は表面に凹凸が残るため、2種類の膜を交互に多層に積層した光学膜(例えば、SiO2とNb2O5の交互多層膜)は界面で光の吸収が生じるが、上述のアシスト領域を通過することにより、界面での光吸収が減少し、透明性が向上する。
【0028】
上記実施形態では、スパッタ領域4、5、6に回転する、5mm以下程度の薄肉円筒状ターゲット4a、5a、6aが装備されている。したがって、固定されている平面状ターゲットを用いる場合に比して、エロージョン領域が表面全体に広がり、スパッタリングガスによるターゲットの侵食深さが小さくなるので、スパッタリングの進行によるスパッタ粒子の飛散分布の変化が小さくなり、安定した生産が可能となる。
また、円筒状ターゲット4a、5a、6aは、バッキングプレートにバルクターゲット材をインジウムなどを介して接合して形成するため、溶射では作製することが困難であったボロンをドープしたSiからなるターゲット材(SiO2膜の形成に必要なターゲット材)やTiターゲット材などを作製することが可能である。
【0029】
なお、上記実施形態では、反応ガスを誘導結合によりプラズマ化するためのプラズマ発生手段として高周波電力を用いたが、マイクロ波電力を用いてもよい。その場合には、高周波コイルの代わりにアンテナ構造部材を用いて、マイクロ波エネルギーを反応領域7内に導入する。
【0030】
(実施例)
図1において、基板搬送装置2の外径は150cmである。
第一スパッタ領域4のカソードにはボロンを100ppmaドープしたSi(抵抗率約0.02Ωcm)からなる一対の薄肉回転円筒ターゲット4a、4aが装備され、第二スパッタ領域6にはNb金属からなる一対の肉回転円筒ターゲット6a、6aが装備されている。ターゲット4a、6aは、それぞれステンレスからなる外径が133mmの円筒状のバッキング材にインジウムを介して厚さ3.5mmのターゲット材を接合したものである。各ターゲット4a、6aには約50KHzの交流電力を供給する。
反応領域7には、13.6MHzの高周波電源11に接続した高周波コイル12が装備されている。高周波エネルギーは石英からなる誘導電磁界導入窓13を通じて、反応領域7内に伝達される。誘導電磁界導入窓13の基板搬送装置2の回転の周方向の長さLは、80cmである。
アシスト領域8には、2ないし3枚のグリッド電極を有する高周波励起によるイオンガングリッド8aとニュートラライザ8bが、基板1に対して30度以上、70度以下の主角度で照射できるように具備されている。
【0031】
上記成膜装置を使用して、光学多層膜を作製した。この光学多層膜は、中心波長が700nmである短波長透過フィルターであって、石英基板上にSiO2膜とNb2O5膜を交互に34層、多層に積層したものである。
この光学多層膜の設定条件を表1に示す。基板材料として光学ガラス(BK7)を用い、各層の物理膜厚は表の通りである。
【0032】
【表1】

【0033】
上記光学多層膜の成膜条件は以下のとおりである。
すなわち、真空槽3のベース圧力は0.0005Pa、成膜中の圧力は0.2Paである。また、基板搬送装置3の回転速度は120rpmである。
スパッタ領域4、6において、スパッタガスはArであり、その供給量は150sccmである。また、Siターゲット4aへの交流電力の供給量は10Kw、Nbターゲット6aへの交流電力の供給量は5Kwである。Siターゲット4aおよびNbターゲット6aの回転速度はともに、10rpmである。
また、反応領域7において、反応ガスは酸素であり、その供給量は150sccmである。また、高周波電力の供給量は5Kwである。
各層の膜厚制御は、ターゲット4a、6aへの投入電力を一定にしておき、予め割り出しておいた成膜レートに基づき、成膜時間を制御することによりおこなった。
【0034】
上記光学多層膜を上記成膜条件で成膜した結果、成膜レートはSiO2が0.45nm/秒、およびNb2O5が0.4nm/秒であった。また、得られたれた光学多層膜の分光透過率特性は、図3に示すように、590nm以下の波長で90%以上であった。
一方、比較例として、反応領域7にグリッドを設け、アシスト領域8なしの場合、成膜レートはある程度フィルタとしての透過率を確保できる条件でSiO2は0.2nm/秒およびNb2O5は0.12nm/秒であり、光学膜の分光透過率特性は、590nm以下の波長で80から90%程度であった。
【0035】
次に他の実施の形態について説明する。
図4は本実施形態の平面断面であり、図5はそのA−A断面図である。
本実施形態のスパッタ成膜装置は、薄膜が形成される基板1を保持する回転可能な基板搬送装置32を真空槽31内に備え、前記基板搬送装置32の内側の前記真空槽3との間の空間に、2箇所のスパッタ領域4、5、反応領域7およびアシスト領域8が相互に離間するように設けられている。
真空槽31は内側筒状体31a、外側筒状体31b、環状上壁31c、内側底壁31d、外側底壁31eからなり、内側筒状体31aと外側筒状体31bの間に形成された環状空間を有し、内側筒状体31aの内側の空間は上方に開口している。また、外側筒状体31bは、メンテナンス性を考慮して、2つ割り構造になっている。
基板搬送装置32は、基板1を保持する柱状のホルダー32bと円板32aとからなり、複数のホルダー32bが円板32aの外周端に沿って垂直に取り付けられている。基板1は、成膜される面が内側を向くようにホルダー32bに保持される。
前記基板搬送装置32は真空槽31に対して略同心状に配置され、ホルダー32bは内側筒状体31aと外側筒状体31bの間に形成された環状空間に位置している。さらに、円板32aが外側底壁31e上に設けられた回転テーブル33に固定されて、基板搬送装置32は回転テーブル33とともに回転し、ホルダー32bは内側筒状体31aと外側筒状体31bの間に形成された環状空間内を移動する。
真空槽31を構成する内側筒状体31aの外側には、回転可能な一対の薄肉円筒状ターゲット4a、4aおよび5a,5aが設けられて、基板搬送装置32との間にスパッタ領域4、5が形成されている。また、内側筒状体31aには石英からなる誘導電磁界導入窓13が設けられて、基板搬送装置32との間に反応領域7が形成されている。前記誘導電磁界導入窓13は、基板搬送装置32の回転の周方向に十分な長さを有し、高周波電源11に接続された高周波コイル電極12から誘導電磁界を反応領域7に導入する。さらに、内側筒状体31aの外側には、イオンガングリッド8aとニュートラライザ8bが設けられて、基板搬送装置32との間にアシスト領域8が形成されている。
なお、図4、5において、34は回転テーブル33を回転させるモーターであり、35は外側筒状体31bに取り付けられた真空ポンプである。
【0036】
本実施形態では、ターゲット4a、5aの交換や内側筒状体31aの壁面のスパッタリングによる汚れの除去などのメンテナンス作業を外側筒状体31bの外側からおこなうことは、基板搬送装置32が障害になり困難であるが、内側筒状体31aの内側の空間が上方に開口しているので、内側筒状体31aの内側からメンテナンス作業を容易におこなうことができる。
また、本実施形態では、ターゲット4a、5aは基板搬送装置32に保持されて回転移動する基板1に対して回転の中心側に位置している。したがって、ターゲット4a、5aから放出されたスパッタ粒子の基板1への入射角度は、基板1の回転移動とともに変化するが、前記実施形態に比して、入射角度の変化の幅が小さく、且つ入射角は小さいのでスパッタ粒子の付着効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかるスパッタ成膜装置の一実施形態の平面断面図である。
【図2】円筒状ターゲットの構成説明図である。
【図3】図1に示したスパッタ成膜装置で成膜した光学多層膜の一実施例の分光透過率特性を示す図である。
【図4】本発明にかかるスパッタ成膜装置の他の実施形態の平面断面図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 基板
2、32 基板搬送装置
3、31 真空槽
4、5、6 スパッタ領域
4a、5a、6a ターゲット
7 反応領域
8 アシスト領域
8a イオンガングリッド
8b ニュートラライザ
9 ロードロック室
10 仕切り弁
11 高周波電源
12 コイル電極
13 誘導電磁界導入窓
31a 内側筒状体
31b 外側筒状体
31c 環状上壁
31d 内側底壁
31e 外側底壁
32a 円板
32b ホルダー
33 回転テーブル
34 モーター
35 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する回転可能な基板搬送装置を真空槽内に備え、
前記基板搬送装置の外周部とその外側の前記真空槽との間の環状空間に、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板搬送装置に保持された基板上に形成するスパッタ領域と、反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する反応領域とを設け、
前記反応領域は、該領域内の反応ガスを誘導結合によりプラズマ化するためのプラズマ発生手段を備え、前記プラズマ発生手段は、前記真空槽の外側に設けられた誘導電磁界発生装置と、前記真空槽の壁体に設けられた、前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有して前記誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を反応領域内に導入する誘導電磁界導入窓とを有し、
前記基板搬送装置を回転させて、前記基板搬送装置に保持された基板を前記スパッタ領域から前記反応領域に搬送して処理し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜装置。
【請求項2】
基板を保持する回転可能な筒状基板搬送装置を、環状真空槽内に略同心状に備え、
前記真空槽は内側筒状体とその外周を囲む外側筒状体とを有して、前記内側筒状体と前記外側筒状体との間に形成される空間が真空槽の内部となり、また、前記内側筒状体の内側に形成される空間の一端側は開口しており、
前記基板搬送装置の内周部と前記真空槽の前記内側筒状体との間の環状空間に、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板搬送装置に保持された基板上に形成するスパッタ領域と、反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する反応領域とを設け、
前記反応領域は、該領域内の反応ガスを誘導結合によりプラズマ化するためのプラズマ発生手段を備え、前記プラズマ発生手段は、前記真空槽の内側筒状体の内側に設けられた誘導電磁界発生装置と、前記真空槽の内側筒状体の壁体に設けられた、前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有して前記誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を反応領域内に導入する誘導電磁界導入窓とを有し、
前記基板搬送装置を回転させて、前記基板搬送装置に保持された基板を前記スパッタ領域から前記反応領域に搬送して処理し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜装置。
【請求項3】
前記環状空間に前記スパッタ領域と前記反応領域から離間してアシスト領域を設け、該アシスト領域は、反応ガスイオンを500eV以上に加速して前記超薄膜に斜めに照射するためのイオンガングリッドとニュートラライザを備えていることを特徴とする請求項1または2記載のスパッタ成膜装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載のスパッタ成膜装置を用いて、基板を搭載した基板搬送装置を回転しながら
スパッタ領域において、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板上に形成し、
次いで、反応領域において、誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有する誘導電磁界導入窓から導入して、誘導結合により発生した反応ガスプラズマを拡散により前記超薄膜に接触させ、前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換し、
この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜方法。
【請求項5】
請求項3記載のスパッタ成膜装置を用いて、基板を搭載した基板搬送装置を回転しながら、
スパッタ領域において、バルク材料からなる回転円筒型マグネトロンスパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板上に形成し、
次いで、アシスト領域において、反応ガスイオンを500eV以上に加速して前記超薄膜に斜めに照射し、次いで、反応領域において、誘導電磁界発生装置により発生した誘導電磁界を前記基板搬送装置の回転の周方向に所望の長さを有する誘導電磁界導入窓から導入して、誘導結合により発生した反応ガスプラズマを拡散により前記超薄膜に接触させ、前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換し、
この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に形成することを特徴とするスパッタ成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−277659(P2007−277659A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107057(P2006−107057)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(300075751)株式会社オプトラン (15)
【Fターム(参考)】