説明

スパッタ装置、スパッタ法及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】膜厚が均一な膜を手軽に成膜する。
【解決手段】ロータリーマグネトロンスパッタ装置300において、ターゲット330と、そのターゲット330のディスク基板201側に対する裏側に配置され磁界を発生させる、その磁界は頂点がターゲット330のディスク基板201側に達するアーチ状の磁界であり、その磁界をターゲット330に沿って周回移動させるロータリーマグネトロンカソード340との間に挿入され、上記磁界の周回移動経路上の一部でその磁界のターゲット330への到達を減らす軟磁性板360を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、基板の表面に所定材料の膜を成膜するスパッタ装置と、そのようなスパッタ装置で実行されるスパッタ法と、そのスパッタ法を用いた磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの分野では、日常的に多量の情報が取り扱われるようになっており、このような多量の情報を記録再生する情報記憶装置の1つとして、ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が使用されている。HDDは記録容量が大きく情報へのアクセス速度が速いという特徴を持ち、ディスク状の磁気記録媒体、およびこの磁気記録媒体に情報を記録する磁気ヘッドを備えている。
【0003】
磁気記録媒体は、情報が磁気的に記録される磁性材料の膜である記録層を備えているが、このような膜を成膜する代表的な成膜方法の1つにスパッタ法がある。スパッタ法は、膜の材料からなるターゲットにガスのイオン等を衝突させ、その衝突によってターゲットから飛散した材料粒子を基板の表面上に堆積させるという成膜方法である。
【0004】
このようなスパッタ法によって成膜を行うスパッタ装置が広く普及しているが、特に、成膜済みの膜が、スパッタ時に発生する二次電子等によって傷つけられるのを回避するために、ターゲットの近傍に磁界を印加し、電子をターゲットの近傍に捉えておくマグネトロンスパッタ装置が注目を集めている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。このマグネトロンスパッタ装置では、気体分子が上記のように捉えられた電子と衝突することでイオン化が促進されるので、イオンの発生がターゲットの近傍に集中することとなる。
【0005】
ここで、近年では、上記のような磁気記録媒体において、磁性材料の膜であって情報が磁気的に記録される記録層や、軟磁性材料の膜であって上記のヘッドからの磁界の磁路の役割を果たす裏打ち層や、両者間にあって両者を磁気的に分離するとともに記録層における結晶の配向を制御する非磁性材料の膜である中間層等といった、基板上に形成される様々な膜について薄膜化が進んでおり、それに伴って、これらの膜の膜厚の均一さに対する要求も厳しさを増している。
【0006】
そこで、上記のターゲットの近傍においてイオンを均一に発生させることで成膜時における膜厚の均一性を向上させるべく、このターゲットの近傍に均一な磁界を発生させるロータリーマグネトロンスパッタ装置が提案されている。
【0007】
図29は、ロータリーマグネトロンスパッタ装置の一例を示す図である。
【0008】
図29に示すロータリーマグネトロンスパッタ装置500は、内部にディスク基板600が配置されそのディスク基板600に対して成膜が行われる第1チャンバ510と、磁力線が透過できる側壁501で第1チャンバ510と仕切られた第2チャンバ520とを備えている。そして、第1チャンバ510内には、上記のディスク基板600を保持する基板保持部511が設けられており、膜の材料の板であるターゲット530が、その基板保持部511に保持されたディスク基板600における成膜面と向き合う位置に配置される。また、第2チャンバ520内には、複数個の磁石541を備え、ターゲット530に直交する回転軸の周りにそれらの磁石541を回転させることで、頂点がターゲット530のディスク基板600側に達するアーチ状の磁界でありターゲット530に沿って周回移動する磁界を印加するロータリーマグネトロンカソード(RMC)540が配置される。このRMC540による磁界の周回移動により、ターゲット530のディスク基板600側の近傍でのその周回移動における周回方向の磁界強度が均一化されることとなる。さらに、このロータリーマグネトロンスパッタ装置500は、接地状態にある第1および第2チャンバ510,520に対して負極性の電圧をターゲット530に印加する電圧源550を備えている。
【0009】
図30は、図29のロータリーマグネトロンスパッタ装置においてターゲットの近傍の磁界強度が均一となっている様子を模式的に示す図である。
【0010】
この図30には、図29のロータリーマグネトロンスパッタ装置500において、ターゲット530のディスク基板600側の近傍であって、その表面に平行な計測平面内における磁界強度の分布が模式的にグラフ化されて示されている。この図30のグラフG51では、横軸に、上記の計測平面において上記のRMC540の回転軸からの距離が所定距離となる、互いに周方向の角度位置が「90°」ずつずれている4つの点A,B,C,Dを結ぶ円周上の磁界強度の分布が示されている。この図30のグラフG51から分かるように、上記の計測平面における上記の円周上の磁界強度は、RMC540の回転によって均されて、RMC540の磁石541の周回方向にほぼ均一となる。
【0011】
図29に示すロータリーマグネトロンスパッタ装置500では、上記のような均一な磁界によってターゲット530のディスク基板600側の近傍に電子が捉えられる。
【0012】
ここで、この第1チャンバ510には、ディスク基板600とターゲット530とを図中の上下方向に挟んで、上側にガスの流入口512が設けられ、下側に排出口513が設けられており、成膜時には、第1チャンバ510内がそのガスの雰囲気で満たされる。そして、その雰囲気中のガス分子が上記のように捉えられた電子と衝突することでガスのイオンが発生する。
【0013】
成膜時には、上記のイオンをターゲット530へと向かわせる極性の電圧が、電圧源550によってターゲット530に印加される。その結果、上記のイオンがターゲット530に向かって走り、このターゲット530に衝突する。そして、その衝突の衝撃によってターゲット530から材料粒子が飛散して、その飛散した粒子がディスク基板600に至って堆積することで、そのディスク基板600上に、ターゲット530を形成する材料の膜が成膜される。
【0014】
ここで、このロータリーマグネトロンスパッタ装置500では、イオン発生の一因となる電子が、ターゲット530の近傍における強度分布が均一な磁界によって捉えられることから、イオンの密度、延いては、ターゲット530からの材料粒子の飛散分布が均一化されて、ディスク基板600上に膜厚についての均一性が高い膜が成膜されることとなる。
【特許文献1】特開昭61−235562号公報
【特許文献2】特開平09−20979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述したロータリーマグネトロンスパッタ装置500でも、近年、薄膜化の要求が厳しさを増すにつれて、上記のRMC540の磁石541の周回方向に膜厚が完全には均一でないことが問題視されてきており、膜厚のより一層の均一化が求められている。
【0016】
ロータリーマグネトロンスパッタ装置500では磁界強度は充分に均一化されているので、膜厚の不均一が生じる原因としては、確定はされていないが、1つの可能性として、上記の第1チャンバ510内に、ガス圧の不均一等に起因したイオン密度の不均一が生じ、その結果、ターゲット530からの材料粒子の飛散量が不均一になってしまうということが考えられる。仮に、このようなガス圧の不均一が原因であるとすると、ガスの流入口512と排出口513との相対的な配置やガスの流入量や排出量を改変して、そのようなガス圧の不均一を是正することが考えられる。しかし、このような改変は、コストや時間の面で困難であることが多い。
【0017】
本件は、上記事情に鑑み、膜厚が均一な膜を手軽に成膜することができるスパッタ装置と、そのようなスパッタ装置で実行されるスパッタ法と、そのスパッタ法を用いた磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するスパッタ装置の基本形態は、
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、
所定気体の雰囲気中に、上記基板の上記表面に対して向き合う位置に設けられた、上記膜の材料からなる板状のターゲットと、
上記ターゲットの、上記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、その磁界は頂点がそのターゲットのその基板側に達するアーチ状の磁界であり、その磁界をそのターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、
上記ターゲットに、上記所定気体のイオンをそのターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源と、
上記ターゲットと上記磁界発生器との間に挿入され、上記磁界の周回移動経路上の一部でその磁界の上記ターゲットへの到達を減らす磁性板とを備えたことを特徴とする。
【0019】
このスパッタ装置の基本形態は、磁界をそのターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器を備えていることから、上述したロータリーマグネトロンスパッタ装置に対応した形態となっている。このスパッタ装置の基本形態によれば、上記磁界の周回移動によって均一化される、上記ターゲット近傍での磁界の、その周回移動の周回方向の強度分布におけるその均一さを、上記磁性板によってわざと崩すことができる。これにより、例えば、上述したようなスパッタ装置内でのガス圧の不均一等といった何らかの原因で膜厚が不均一な膜が成膜されてしまった場合に、次回の成膜を、膜厚が厚くなっている部分の磁界の強度を上記磁性板で弱めてその部分への材料の堆積量が抑えられた状態で行うといった、成膜時の膜厚分布についての調整が可能となる。このように、このスパッタ装置の基本形態によれば、成膜時に膜厚が厚くなりそうな部分の磁界の強度を上記磁性板で弱めるといった手軽な方法で、膜厚が均一な膜を成膜することができる。また、このスパッタ装置の基本形態によれば、実際の成膜結果において膜厚が厚くなった部分の磁界を次回の成膜時に弱めるという運用が可能であるので、膜厚の不均一を招く原因が何であろうと、その不均一を解消することができる。
【0020】
また、上記目的を達成するスパッタ法の基本形態は、
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、所定気体の雰囲気中に、上記基板の上記表面に対して向き合う位置に設けられた、上記膜の材料からなる板状のターゲットと、上記ターゲットの、上記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、その磁界は頂点がそのターゲットのその基板側に達するアーチ状の磁界であり、その磁界をそのターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、上記ターゲットに、上記所定気体のイオンをそのターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源とを備えたスパッタ装置において、上記ターゲットと上記磁界発生器との間の、上記基板上で相対的に膜厚が厚くなる場所に向き合う位置に、上記磁界の周回移動経路上の一部でその磁界の上記ターゲットへの到達を減らす磁性板を配置する配置過程と、
上記電源で上記ターゲットに上記電圧を印加してそのターゲットに、上記所定気体のイオンをそのターゲットへと向かわせる電圧印加過程とを備えたことを特徴とする。
【0021】
このスパッタ法の基本形態によれば、上記配置過程において、例えば上記スパッタ装置において実際に上記基板上で膜厚が厚くなりそうな箇所に対応した位置に上記磁性板を配置し、そのような箇所の磁界を弱めて材料の堆積量を抑えることで、膜厚が均一な膜を手軽に成膜することができる。
【0022】
また、上記目的を達成する磁気記録媒体の製造方法の基本形態は、
基板保持部に保持された基板に磁性膜を積層する磁気記録媒体の製造方法であって、
所定気体の雰囲気中で、上記基板の表面に対して向き合う位置に設けられた上記磁性膜の材料からなる板状のターゲットと、上記ターゲットの、上記基板側に対する裏側に配置した磁界発生器との間で、かつ、上記基板上で相対的に膜厚が厚くなる場所に向き合う位置に磁性板を配置する工程と、
上記磁界発生器により上記ターゲットの上記基板側に達するアーチ状の磁界を発生させ、上記磁界を上記ターゲットに沿って周回移動させながら、上記ターゲットに、上記所定気体のイオンを上記ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加し、上記所定気体のイオンを上記ターゲットへと向かわせることで、上記磁性膜をスパッタリングして上記基板に磁性層を積層する工程と、を有し
上記磁性板は、上記磁界の周回移動経路上の一部で、上記磁界の上記ターゲットへの到達を減らしていることを特徴とする。
【0023】
この磁気記録媒体の製造方法によれば、膜厚が均一な膜を手軽に成膜することができる上述のスパッタ法を用いたスパッタリングにより、磁性膜の膜厚が均一な磁気記録媒体を手軽に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上、説明したように、本件によれば、膜厚が均一な膜を手軽に成膜することができるスパッタ装置と、そのようなスパッタ装置で実行されるスパッタ法と、そのスパッタ法を用いた磁気記録媒体の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、上記で基本形態について説明したスパッタ装置、スパッタ法、および磁気記録媒体の製造方法の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
ここで、スパッタ装置やスパッタ法や磁気記録媒体の製造方法の実施形態の説明に先立って、まず、その実施形態で作成された磁気ディスクを搭載したハードディスク装置(HDD)について説明する。
【0027】
図1は、ハードディスク装置(HDD)を示す図である。
【0028】
この図1に示すHDD10のハウジング101には、回転軸102に装着されて回転する、上述の基本形態におけるスパッタ装置やスパッタ法や磁気記録媒体の製造方法の後述する実施形態で作成された磁気ディスク200と、磁気ディスク200に対して情報記録と情報再生とを行なう磁気ヘッド103を先端に保持したヘッドジンバルアセンブリ104と、このヘッドジンバルアセンブリ104が固着されてアーム軸105を中心に磁気ディスク200の表面に沿って移動するキャリッジアーム106とキャリッジアーム106を駆動するアームアクチュエータ107とが収納されている。
【0029】
また、上記の磁気ディスク200は、非磁性材料からなるディスク基板201の上に、磁性材料からなり情報が磁気的に記録される記録層や、軟磁性材料からなり磁気ヘッド103からの磁界の磁路として働く裏打ち層や、記録層と裏打ち層との間にあって非磁性材料からなり、両者を磁気的に分離するとともに記録層における結晶の配向を制御する中間層等が積層された多層膜202が成膜されたものである。このディスク基板201が、上述の基本形態における基板の一例に相当し、多層膜202を構成する複数の層それぞれが、その基本形態における膜の一例に相当する。
【0030】
磁気ディスク200への情報の記録および磁気ディスク200に記録された情報の再生に当たっては、アームアクチュエータ107によってキャリッジアーム106が駆動されて、磁気ヘッド103が、回転する磁気ディスク200上の所望のトラックに位置決めされる。そして、この磁気ヘッド103は、磁気ディスク200の回転に伴って、磁気ディスク200の各トラックをなぞって複数の情報を順次に記録する。
【0031】
以下、このHDD10に搭載されている磁気ディスク200の製造に利用される、スパッタ装置について説明する。
【0032】
図2は、基本形態について説明したスパッタ装置の一例であるロータリーマグネトロンスパッタ装置を示す図である。
【0033】
図2に示すロータリーマグネトロンスパッタ装置300は、内部にディスク基板201が配置されそのディスク基板201に対して成膜が行われる第1チャンバ310と、磁力線が透過できる側壁301で第1チャンバ310と仕切られた第2チャンバ320とを備えている。そして、第1チャンバ310内には、上記のディスク基板201を保持する基板保持部311が設けられており、膜の材料の板であるターゲット330が、その基板保持部311に保持されたディスク基板201における成膜面と向き合う位置に配置される。また、第2チャンバ320内には、複数個の磁石341を備え、ターゲット330に直交する回転軸の周りにそれらの磁石341を回転させることで、頂点がターゲット330のディスク基板201側に達するアーチ状の磁界でありターゲット330に沿って周回移動する磁界を印加するロータリーマグネトロンカソード(RMC)340が配置される。このRMC340による磁界の周回移動により、ターゲット330のディスク基板201側の近傍でのその周回移動における周回方向の磁界強度が均一化されることとなる。さらに、このロータリーマグネトロンスパッタ装置300は、接地状態にある第1および第2チャンバ310,320に対して負極性の電圧をターゲット330に印加する電圧源350を備えている。
【0034】
上記の基板保持部311は、上述の基本形態における基板保持部の一例に相当し、上記のターゲット330は、上述の基本形態におけるターゲットの一例に相当し、RMC340は、その基本形態における磁界発生源の一例に相当し、電圧源350は、その基本形態における電源の一例に相当する。
【0035】
ここで、この本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300は、ターゲット330と上記の側壁301との間に挿入され、RMC340からの磁界の周回移動経路上の一部である、ディスク状のターゲット330における図中の上側について、その磁界のターゲット330への到達を減らす、軟磁性材料で形成された軟磁性板360を備えている。このロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、この軟磁性板360によって、ターゲット330のディスク基板201側の近傍での磁界の強度分布が、ターゲット330における図中の上側について弱められて、上記の周回移動における周回方向に不均一となっている。この軟磁性板360は、上述の基本形態における磁性板の一例に相当する。
【0036】
本実施形態では、磁界を有る程度は透過させる軟磁性板360を用いることで、上記の磁界の強度分布を弱め過ぎずに、適正な強度まで弱めることができる。
【0037】
このことは、上述の基本形態に対し、
「上記磁性板が、軟磁性材料で形成されたものである」という応用形態が好適であることを示している。
【0038】
本実施形態における軟磁性板360は、この応用形態における磁性板の一例にも相当している。
【0039】
このロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、RMC340によって印加された磁界によって、電子がターゲット330のディスク基板201側の近傍に捉えられる。
【0040】
ここで、この第1チャンバ310には、ディスク基板201とターゲット330とを図中の上下方向に挟んで、上側にガスの流入口312が設けられ、下側に排出口313が設けられている。ディスク基板201に対する成膜時には、流入口312からArガスが流し込まれて排出口313から排出されることで、この第1チャンバ310内に、図中の上側から下側へと向かうArガスの流れができる。このArガスの雰囲気中で、Ar分子が、上記の磁界によってターゲット330のディスク基板201側の近傍に捉えられている電子に衝突すると電離が起こって正極性のArイオンが発生する。
【0041】
このとき、ターゲット330には、電圧源350によって負極性の電圧が印加されるので、Arイオンがターゲット330に向かって走って衝突する。その衝突時の衝撃によってターゲット330を構成する材料の粒子が飛散し、その飛散した材料粒子がディスク基板201上に堆積して、その材料の膜が成膜される。
【0042】
ここで、この本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、詳細については後述するように、上記の軟磁性板360が無い状態で成膜が行われると、図中の上側で膜厚が厚くなるという膜厚の不均一が生じてしまう。このような膜厚の不均一が生じる原因としては、確定はされていないが、1つの可能性として、ディスク基板201に対して、Arガスが上側から下側に流れていることから上側の方が下側よりもガス圧が高くなり、その結果、ターゲット330の近傍の上側においてArイオンが相対的に多くなり材料粒子の飛散量が多くなって、ディスク基板201における堆積量がこの上側で増大してしまうということが考えられる。
【0043】
ここで、上述の基本形態に対し、
「上記基板保持部と上記ターゲットとが内部に収納されてその内部が上記所定気体の雰囲気となる本体と、その本体の内部にその所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
上記磁性板が、上記磁界の周回移動経路上における上記流入口側の一部で、その磁界の上記ターゲットへの到達を減らすものである」という応用形態は好適である。
【0044】
この応用形態によれば、膜厚の不均一が、上記のようなガス圧の不均一さに起因するものであるときに良好に対処することができる。
【0045】
ここで、本実施形態では、ターゲット330の近傍の上側における磁界の強度が、上記の磁界の周回移動経路上における流入口312側の一部を遮るように配置される軟磁性板360によって弱められる。
【0046】
本実施形態における第1チャンバ310は、上記の応用形態におけるチャンバの一例に相当し、流入口312は、この応用形態における流入口の一例に相当する。そして、本実施形態における軟磁性板360は、この応用形態における磁性板の一例にも相当している。
【0047】
図3は、軟磁性板によってターゲットの近傍の上側における磁界が弱められている様子を模式的に示す図である。
【0048】
この図3には、図2のロータリーマグネトロンスパッタ装置300において、ターゲット330のディスク基板201側の近傍であって、その表面に平行な計測平面内における磁界強度の分布が模式的にグラフ化されて示されている。この図3のグラフG11では、横軸に、上記の計測平面において上記のRMC340の回転軸からの距離が所定距離となる、互いに周方向の角度位置が「90°」ずつずれている4つの点A,B,C,Dを結ぶ円周上の磁界強度の分布が示されている。この図3のグラフG11から分かるように、上記の計測平面における上記の円周上の磁界強度は、RMC340からの磁界が、周方向の角度位置で「0°」から「180°」までの上側において弱められている。
【0049】
その結果、ターゲット330の近傍の上側におけるArイオンの発生が抑えられ、その上側におけるターゲット330からの材料粒子の飛散量が抑制されることとなり、ディスク基板201の上側における堆積量が減少して、この上側における上述のような膜厚の増大が回避されて均一な膜厚分布が得られることとなる。
【0050】
図4は、軟磁性板によってターゲットの近傍の上側における磁界が弱められた結果、ディスク基板の上側における材料粒子の堆積量が減少して均一な膜厚分布が得られる様子を模式的に示す図である。
【0051】
この図4のグラフG12では、横軸に、成膜済みのディスク基板201において上記のRMC340の回転軸からの距離が所定距離となる、互いに周方向の角度位置が「90°」ずつずれている4つの点A,B,C,Dを結ぶ円周上の膜厚の分布が示されている。この図4のグラフG12に示すように、本実施形態では、軟磁性板360によってターゲット330の近傍の上側における磁界が弱められることで、ディスク基板の上側における膜厚の増大が抑えられて均一な膜厚分布が得られることとなる。
【0052】
次に、この本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300を使ったスパッタ法を用いた磁気ディスクの製造方法について説明する。
【0053】
図5は、図2のロータリーマグネトロンスパッタ装置を使ったスパッタ法を用いた磁気ディスクの製造方法における処理の流れを示すフローチャートである。
【0054】
この図5のフローチャートが示す処理が、上述の基本形態におけるスパッタ法と磁気記録媒体の製造方法とを兼ねた一例に相当する。
【0055】
この図5のフローチャートでは、まず、図2のロータリーマグネトロンスパッタ装置300における第1チャンバ310内の所定位置に、磁性膜が形成されるディスク基板201が、上記の側壁301に成膜面が対向するように基板保持部311によって保持され、さらに、この第1チャンバ310内に、上記のターゲット330と軟磁性板360とが次のように配置される(ステップS110)。このステップS110が、上述のスパッタ法の基本形態における配置過程と、上述の磁気記録媒体の製造方法の基本形態における「磁性板を配置する工程」とを兼ねた一例に相当する。
【0056】
ここで、上記の図2では模式的に示されているが、本実施形態では、ターゲット330および軟磁性板360は、側壁301における第1チャンバ310側の壁面に取り付けられる。これにより、ディスク基板201の成膜面は、ターゲット330の表面と対向することとなる。
【0057】
図6は、図2のターゲットおよび軟磁性板の側壁への取付構造を示す図である。
【0058】
この図6に示すように、本実施形態では、側壁301の第1チャンバ310側の壁面に、ターゲット330と軟磁性板360とが嵌りこむ窪み301aが設けられている。第2チャンバ320内のRMC340は、この窪み301aの方向に磁界を印加できる位置に配置されている。
【0059】
本実施形態では、この窪み301aに軟磁性板360が収められた状態で、ターゲット330が窪み301aに嵌め込まれ、そのターゲット330の縁が、押え部材302とその押え部材302を側壁301に固定するネジ303とで固定されることで、軟磁性板360およびターゲット330が側壁301に固定されるという取付構造が採用されている。
【0060】
ここで、上述の基本形態に対し、
「上記磁性板を着脱自在に保持する磁性板保持部を備えた」という応用形態は好適である。
【0061】
この好適な応用形態によれば、成膜時における基板上での膜厚の不均一の状況に応じて上記磁性板を適宜に別の適切な磁性板等と交換するといった運用が可能となる。
【0062】
本実施形態では、軟磁性板360は、図6に示す取付構造によって固定されるが、押え部材302を外すことで、適宜に取り外すことができる。本実施形態におけるこの取付構造が、上記の応用形態における磁性板保持部の一例に相当する。
【0063】
図7は、図5のフローチャートにおけるステップS110の処理のうち、ターゲットと軟磁性板とを第1チャンバの側壁に取り付ける手順を示す図である。
【0064】
この図7に示すように、まず、側壁301の窪み301aの図中の上側に軟磁性板360が収められる(ステップS111)。続いて、ターゲット330が窪み301aに嵌め込まれ、さらに、そのターゲット330の上から、図6にも示す押え部材302が被せられ、その押え部材302が複数のネジ303によって側壁301に固定される(ステップS112)。これにより、軟磁性板360およびターゲット330は、軟磁性板360が、ターゲット330によって窪み301aの底に押し付けられる形で側壁301に固定されることとなる。
【0065】
以上、説明したように、図5のフローチャートにおけるステップS110の処理によって、図2の第1チャンバ310内におけるディスク基板201とターゲット330と軟磁性板360との配置が終了すると、続いて、第1チャンバ310の流入口312からのArガスの流入と排出口313からの排出が開始され、RMC340の回転と電圧源350によるターゲット330への電圧の印加とが実行される(ステップS120)。このステップS120において、ターゲット330の近傍においてArイオンが発生し、そのArイオンがターゲット330に衝突することで飛散した材料粒子がディスク基板201の成膜面に堆積して磁性膜が形成される。このステップS120が、上述のスパッタ法の基本形態における電圧印加過程と、上述の磁気記録媒体の製造方法の基本形態における「磁性層を積層する工程」の一例に相当する。
【0066】
このとき、上述したように、本実施形態では、軟磁性板360によって、ターゲット330の近傍における図中の上側の磁界が弱められる。これにより、例えばArガスのガス圧の不均一等によるディスク基板201の上側における材料粒子の過剰な堆積が抑制されて、膜厚が均一な磁性膜が成膜されることとなる。また、この本実施形態では、このような膜厚が均一な成膜が、軟磁性板360によって膜厚が厚くなりそうな部分の磁界を弱めるといった手軽な方法で実現される。このように、本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300や、このロータリーマグネトロンスパッタ装置300を使ったスパッタ法によれば、膜厚が均一な成膜を手軽に行うことができる。
【0067】
ここで、本実施形態では、ロータリーマグネトロンスパッタ装置300において、ターゲット330の近傍における磁界が均一な状態で成膜が行われた場合に、どのような膜厚の不均一さ生じるかが予め確認され、さらに、そのような不均一さを均すのに最適な軟磁性板の大きさや位置が決められる。
【0068】
以下、このロータリーマグネトロンスパッタ装置300で最適な軟磁性板360を決定するに際し、本件の開発者によって行われた実験について説明する。
【0069】
この実験では、次のような3種類の軟磁性板が使われる。
【0070】
図8は、実験に使われる3種類の軟磁性板を示す図である。
【0071】
この図8には、板厚が「0.3mm」で扇形を有し、その扇形の面積が互いに異なる小中大3種類の軟磁性板361,362,363が示されている。小型の軟磁性板361の面積は「12566mm」であり、中型の軟磁性板362の面積は「25132mm」であり、大型で半円形状の軟磁性板363の面積は「50265mm」である。また、各軟磁性板は、透磁率が「5000」で飽和磁化が「2.15T」のFeで形成されている。
【0072】
そして、これら3種類の軟磁性板361,362,363を使って、次のような5種類の実験構成が作られる。
【0073】
図9は、5種類の実験構成を示す図である。
【0074】
この実験では、図9のパート(a)に示すように側壁301の窪み301a内に軟磁性板が配置されていない第1構成と、パート(b)に示すように窪み301a内に小型の軟磁性板361が配置された第2構成と、パート(c)に示すように窪み301a内に中型の軟磁性板362が配置された第3構成と、パート(d)に示すように窪み301a内に大型の軟磁性板363が配置された第4構成と、パート(e)に示すように窪み301a内に中型の軟磁性板362が3枚重ねられて配置された第5構成とが作られる。尚、この実験は、軟磁性板が無いときの成膜で、ディスク基板201の上側の膜厚が後述のように増大することが分かっている状態で行われたので、第2から第5までのいずれの実験構成でも、軟磁性板は、窪み301a内の上側に配置されている。そして、この実験では、後述するように、各実験構成で成膜を行い、その成膜された膜について膜厚分布の計測が行われる。
【0075】
ここで、この実験では、その膜厚分布の計測に先立って、まず、上記の各実験構成における、図2のターゲット330の近傍での磁界の強度分布の計測が行われ、RMC340によって印加されたターゲット330の近傍での磁界の強度の均一性が、軟磁性板の配置によってどのように崩されているかが確認されている。
【0076】
ここで、上記の強度分布の計測は、ターゲット330の、ディスク基板201側の表面から所定距離だけ離れた計測平面上の次のような20個の計測点それぞれについて磁界強度が計測されることで行われる。
【0077】
図10は、ターゲットの近傍における20個の計測点を示す図である。
【0078】
この図10に示すように、計測点331は、次のような10種類の周方向の角度位置それぞれにおいて、ディスク中心からの距離が「30mm」となる点とディスク中心からの距離が「60mm」となる点である。10種類の周方向の角度位置は、「0°」、「45°」、「67.5°」、「90°」、「112.5°」、「135°」、「180°」、「225°」、「270°」、「315°」である。
【0079】
これら20個の計測点331における磁界強度の計測結果を、下記の表に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
この表1では、ディスク中心からの距離が「30mm」の円周上に並ぶ10個の計測点331についての磁界強度と、ディスク中心からの距離が「60mm」の円周上に並ぶ10個の計測点331についての磁界強度とが、軟磁性板無しの第1構成、中型の軟磁性板362が配置された第3構成、大型の軟磁性板363が配置された第4構成、および中型の軟磁性板362が3枚重ねられて配置された第5構成とについて記載されている。尚、この表1では、小型の軟磁性板361が配置された第2構成については、第1構成についての計測結果とあまり差が無いために記載が省略されている。
【0082】
これらの計測結果について、互いに異なる実験構成どうしで比較しやすいようにグラフ化したものを参照しながら説明する。
【0083】
図11は、ディスク中心からの距離が「30mm」の円周上に並ぶ10個の計測点についての磁界強度が、各実験構成についてプロットされたグラフであり、図12は、ディスク中心からの距離が「60mm」の円周上に並ぶ10個の計測点についての磁界強度が、各実験構成についてプロットされたグラフである。
【0084】
図11のグラフG13および図12のグラフG14では、いずれも、軟磁性板無しの第1構成についての計測結果が菱形印でプロットされ、中型の軟磁性板362が配置された第3構成についての計測結果が四角印でプロットされ、大型の軟磁性板363が配置された第4構成についての計測結果が三角印でプロットされ、中型の軟磁性板362が3枚重ねられて配置された第5構成についての計測結果が丸印でプロットされている。
【0085】
これらのグラフG13,G14から分かるように、軟磁性板無しの第1構成の場合には、磁界の強度分布は周方向にほぼ均一となっている。そして、軟磁性板が配置された実験構成について部分的な磁界強度の減少が見られ、その減少が表れる範囲は軟磁性板における扇形の面積が大きいほど広くなっている。また、上記の第3構成についての計測結果と第5構成についての計測結果との比較から、磁界強度は、配置された軟磁性板の枚数が多いほど大きく減少することが分かる。
【0086】
この実験では、ターゲット330の近傍での磁界の強度の均一性を上記のように崩す5種類の実験構成それぞれについて成膜が行われ、その成膜された膜について膜厚分布の計測が行われる。
【0087】
ここでは、上記の第1チャンバ310として容積が「45リットル」のものが使われ、ターゲット330として厚さが「6mm」で半径が「82mm」の、Crからなるディスク状の板が使われている。Crは非磁性材料であり、磁気記録媒体の記録層に使われるものではないが、RMC340からの磁界に係る磁力線が容易に透過でき上述したターゲット330の近傍における強度分布が均一な磁界が得られやすいことから、検証上、Crからなるターゲットが使われている。一方で、ロータリーマグネトロンスパッタ装置300において例えばCo合金等の磁性材料のターゲットを使って記録層等の磁性膜を形成する場合には、RMC340において強磁界を発生させて、磁性材料のターゲットの近傍に強度分布が均一な磁界を印加させることとなる。
【0088】
また、ここでは、ターゲット330とRMC340との距離は「18.7mm」で、ターゲット330とディスク基板201との距離は「32mm」となっている。さらに、ターゲット201への電圧印加における供給電力が「400W(63.6W/mm)」、成膜時間が「30sec」、Arガスの流量が「100sccm(cc/min)」、ガス圧が「0.67Pa」という装置条件で成膜が行われている。
【0089】
そして、成膜後のディスク基板201における、次のような複数の計測点について膜厚の計測が行われる。
【0090】
図13は、膜厚の計測点について説明するための説明図である。
【0091】
この図13には、図2のロータリーマグネトロンスパッタ装置300におけるディスク基板201の成膜面が模式的に示されている。
【0092】
ここでは、図中の上側であるArガスの流入側を「90°」とし、図中の下側である排出側を「270°」としたときの、互いに「45°」ずつずれた8つの周方向の角度位置それぞれについて、ディスク中心からの距離が「19mm」となる計測点とディスク中心からの距離が「29mm」となる計測点との2つの計測点の膜厚が計測される。そして、各角度位置について得られる2つの膜厚の平均値と、合計16箇所の計測点についての16個の膜厚全ての平均値とが算出され、後者に対する前者の比率が算出される。そして、各角度位置についての算出結果をグラフ上にプロットすることで、各実験構成における膜厚分布が求められる。
【0093】
図14は、軟磁性板無しの第1構成についての膜厚分布を示すグラフであり、図15は、小型の軟磁性板が配置された第2構成についての膜厚分布を示すグラフであり、図16は、中型の軟磁性板が配置された第3構成についての膜厚分布を示すグラフであり、図17は、大型の軟磁性板が配置された第4構成についての膜厚分布を示すグラフであり、図18は、中型の軟磁性板が3枚重ねられて配置された第5構成についての膜厚分布を示すグラフである。
【0094】
図14のグラフG15から分かるように、軟磁性板無しの第1構成では、周方向の角度位置が「0°」から「180°」の範囲、即ち、図2のディスク基板201における、図中での上半分の膜厚が厚くなっている。そして、図15のグラフG16、図16のグラフG17、図17のグラフG18、および図18のグラフG19から分かるように、軟磁性板を配置することで上側の膜厚が減少して膜厚分布が変化している。尚、中型の軟磁性板が3枚重ねられて配置された第5構成のグラフである図18のグラフG19では、3枚の軟磁性板によって磁界が大きく遮られて上記の上側の膜厚が減少し過ぎて、上側の膜厚が下側の膜厚よりも薄くなり、却って不均一な膜厚分布となってしまっている。
【0095】
次に、各計測点での膜厚が、軟磁性板の配置によりどのように変化するかについて説明する。
【0096】
図19は、軟磁性板無しの第1構成からの膜厚の変化量を、第2から第3の各実験構成についてプロットしたグラフである。
【0097】
この図19のグラフG20では、横軸に周方向の角度位置がとられ、縦軸に軟磁性板無しの第1構成での膜厚を基準としたときの膜厚の変化量がとられている。また、このグラフG20では、基準となる第1構成での膜厚の変化量が全て「0%」で菱形印でプロットされ、小型の軟磁性板が配置された第2構成での膜厚の変化量が四角印でプロットされ、中型の軟磁性板が配置された第3構成での膜厚の変化量が三角印でプロットされ、大型の軟磁性板が配置された第4構成での膜厚の変化量が丸印でプロットされ、中型の軟磁性板が3枚重ねられて配置された第5構成での膜厚の変化量が黒三角印でプロットされている。
【0098】
図19のグラフG20から、グラフ中の点線で囲まれた範囲Aに特に表れているように、膜厚が変化する領域は、軟磁性板における扇形の面積が大きくなるほど広がっていることが分かる。また、三角印でプロットされている第3構成での膜厚の変化量と、黒三角印でプロットされている第5構成での膜厚の変化量とを比較すると、軟磁性板の面積が同じであれば、軟磁性板を重ねる枚数が多いほど、膜厚の変化量が多くなることが分かる。
【0099】
以上の実験結果から、次のような手順で、最適な軟磁性板を決めることができることが分かる。即ち、まず、軟磁性板無しの状態で試験的に成膜を行って上記のような膜厚の計測を行うことで、膜厚の増大が生じている位置、広さを把握する。さらに、最適な軟磁性板として、各々がその広さに応じた面積を有した軟磁性板を用意する。続いて、その用意された軟磁性板を配置し試験的な成膜と膜厚の計測を再度行って膜厚の均一性を検証する。その検証結果において充分な均一性が得られなかった場合には、その軟磁性板を重ねて配置し成膜と均一性の検証とを繰り返す。そして、実際の成膜時には、試験的な成膜において膜厚の増大が生じた位置に、その用意した最適な軟磁性板を必要な枚数だけ重ねて配置することで、膜厚が均一な成膜を行うことができる。
【0100】
図2に示す本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300における最適な軟磁性板360は、次のように決定されたものである。
【0101】
上記の図14に示すように、このロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、軟磁性板無しの状態では、周方向の角度位置で「0°」から「180°」までの上半分の範囲で膜厚が増大するという膜厚の不均一が生じる。そこで、軟磁性板としては半円形状を有する上記の大型の軟磁性板363が適当であることが分かる。さらに、図17に示すように、この大型の軟磁性板363を一枚配置しただけで、十分な均一性が得られていることが分かる。また、このロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、大型の軟磁性板363を一枚配置した状態で膜厚が均一な成膜を行うことができることは、上記の5種類の実験構成での成膜と膜厚の計測結果についての次のような検証からも分かる。
【0102】
図20は、5種類の実験構成それぞれでの膜厚分布の均一性をプロットしたグラフである。
【0103】
この図20のグラフG21では、横軸に各実験構成で使われた軟磁性板の扇形の面積がとられ、縦軸に周方向の膜厚分布の均一性がとられている。ここで、このグラフG21では、膜厚分布の均一性は次式で与えられた値である。
【0104】
膜厚分布の均一性=(Max−Min)/(Max+Min)
ここで、「Max」は周方向の膜厚分布における最大値であり、「Min」はその膜厚分布における最小値である。この式で得られる値が大きいほど均一性は低く、小さいほど均一性が高い。
【0105】
図20のグラフG21では、軟磁性板無しの第1構成での均一性と、小型の軟磁性板が配置された第2構成での均一性と、中型の軟磁性板が配置された第3構成での均一性と、大型の軟磁性板が配置された第4構成での均一性とが、いずれも丸印でプロットされている。また、中型の軟磁性板が3枚重ねられて配置され、1枚の厚みが「0.3mm」の軟磁性板の板厚合計が「0.9mm」となった第5構成での均一性が四角印でプロットされている。
【0106】
この図20のグラフG21では、上記の式で得られる均一性の値が、大型で最も面積が大きい軟磁性板が配置された第4構成で最小となっている。このことから、図2に示す本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300を使い、ターゲット330への供給電力やArガスの流量やガス圧等についての上述したような成膜条件の下で実行される成膜に最適な軟磁性板360が、第4構成に係る大型の軟磁性板であることが分かる。
【0107】
このように、本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、最適な軟磁性板が、上述した小中大3種類の軟磁性板の中から、上記のような実験と検証に応じて選択されたものである。これにより、本実施形態では、実際に膜厚が厚くなりそうな範囲に応じた適切な面積の軟磁性板を用いることができる。
【0108】
また、本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、上述したように、実験と検証に応じて、必要な枚数だけ軟磁性板360を重ねて配置することで、膜厚が均一な成膜が行われる。本実施形態のロータリーマグネトロンスパッタ装置300では、この必要な枚数が1枚となっている。
【0109】
以上、説明したように、本実施形態によれば、上記の軟磁性板360を用いることで、膜厚が均一な成膜を手軽に行うことができる。
【0110】
ここで、本実施形態では、図6を参照して説明したように、軟磁性板360が、ターゲット330の縁を固定する押え部材302等によって側壁301に固定されるという取付構造が採用されている。
【0111】
このとき、このような取付構造に対して、以下に説明する工夫を施すことで、軟磁性板360の取付安定性を向上させても良い。
【0112】
図21は、軟磁性板の取付安定性を向上させるための構造を示す模式図である。
【0113】
この図21では、上述した側壁301の窪み301aの底とターゲット330との間で、軟磁性板360で占められる領域以外の領域に、ターゲット330に向かう磁界を、強度をほとんど変えずに透過させる非磁性板370が配置されている。この非磁性板370を用いた構造によれば、ターゲット330に向かう磁界に影響を与えることなく、軟磁性板360のがたつきを抑えて、取付安定性を向上させることができる。
【0114】
このことは、上述の基本形態に対し、
「上記ターゲットと上記磁界発生器との間に挿入され、その間における、上記磁性板が占めている領域以外の領域を占める非磁性板を備えた」という応用形態が好適であることを示している。
【0115】
この図21に示す非磁性板370は、この応用形態における非磁性板の一例に相当する。
【0116】
尚、ここまで、板厚が均一な軟磁性板360を用いて磁界の強度を弱めるという形態について説明してきたが、磁界が均一なときの膜厚の不均一が、Arガスの流入口312側でガス圧が高くなっていることに起因しているとすると、膜厚が厚くなる上記の上側の領域内でも、流入口312に近いほど厚くなっていることが考えられることから、軟磁性板として、板厚が流入口312に近いほど厚い軟磁性板を用いることで、均一性が一層向上した成膜が可能になると考えられる。
【0117】
図22は、板厚が流入口に近いほど厚い軟磁性板の一例を示す模式図である。
【0118】
この図22のパート(a)には、板厚が流入口312に近いほど厚い軟磁性板380の側面図がターゲット330と共に示されており、パート(b)には、この軟磁性板380の正面図が示されている。
【0119】
ここで、この図22に示す軟磁性板380は、大きさが互いに異なる3種類の軟磁性板381,382,383が、流入口312に近いほど積層数が多くなるように重ね合わされたものである。
【0120】
この図22の軟磁性板380を構成する3種類の軟磁性板のうち、最大の軟磁性板383は、図8に示す大型で半円形状の軟磁性板363と同等なものであり、この最大の軟磁性板383に重ねられる中型の軟磁性板382や、中型の軟磁性板382に重ねられる最小の軟磁性板381は、半円形状の軟磁性板を次のように2分割して得られたものである。
【0121】
図23は、半円形状の軟磁性板を2分割して図22の中型の軟磁性板や最小の軟磁性板が得られる様子を示す模式図である。
【0122】
図23に示すように、図22の中型の軟磁性板382や最小の軟磁性板381は、各々、最大の軟磁性板383と同等な半円形状の軟磁性板383’を、半径を底辺に沿って横切る切断線Xで2分割したときの円弧側の部分である円弧形状の軟磁性板である。
【0123】
このような円弧形状の軟磁性板によれば、上記のRMC340からの磁界を、円弧形状の底辺よりも中心側の内周部と、この底辺よりも円弧側の外周部とで変化をつけて弱めることができる。
【0124】
図24は、円弧形状の軟磁性板で磁界を弱めたときの内周部での強度分布を示すグラフであり、図25は、円弧形状の軟磁性板で磁界を弱めたときの外周部での強度分布を示すグラフである。
【0125】
尚、これらのグラフには、比較のために、軟磁性板無しのときの磁界の強度分布と、最大の軟磁性板383と同等な半円形状の軟磁性板で磁界を弱めたときの強度分布も示されている。
【0126】
図24のグラフG22では、内周部の強度分布として、上述の図10に示すディスク中心からの距離が「30mm」の円周上に並ぶ10個の計測点についての磁界強度がプロットされ、図24のグラフG23では、ディスク中心からの距離が「60mm」の円周上に並ぶ10個の計測点についての磁界強度がプロットされている。
【0127】
また、双方のグラフとも、軟磁性板無しのときの磁界の強度分布は、菱形印でプロットされ、半円形状の軟磁性板で磁界を弱めたときの強度分布は、三角印でプロットされ、円弧形状の軟磁性板で磁界を弱めたときの磁界の強度分布は、丸印でプロットされている。
【0128】
内周部では、RMC340からの磁界が円弧形状の軟磁性板を外れて通過するために、軟磁性板無しのときの磁界の強度分布とほとんど同じ強度分布が得られる。これに対し、外周部では、磁界が、軟磁性板を通る部分があるために、周方向の角度で「90°」近辺において強度が低下している。
【0129】
図22の軟磁性板380は、半円形状の最大の軟磁性板383に、各々が磁界の強度を上記のように低下させる円弧形状の中型の軟磁性板382と、同じく円弧形状の最小の軟磁性板381とが、パート(b)に示すように、縁が重なって底辺どうしが互いに平行となるように重ねられたものである。このような積層構造により、軟磁性板380の板厚は、最も流入口312に近い部分で3枚分の厚みとなり、中間の部分では2枚分の厚みとなり、流入口312から最も遠い部分では1枚分の厚みとなる。
【0130】
このような構造により、中型の軟磁性板382の底辺よりも内周側では、磁界強度の低減について1枚分の効果が得られ、中型の軟磁性板382の底辺よりも外周側で最小の軟磁性板381の底辺よりも内周側では、2枚分の効果が得られ、最小の軟磁性板381の底辺よりも外周側では、3枚分の効果が得られることとなる。これにより、軟磁性板380で磁界が弱められる領域内でも、流入口312に近いほど磁界が弱くなるという強度分布が得られ、均一性が一層向上した成膜が可能になる。
【0131】
このことは、上述の基本形態に対し、
「上記基板保持部と上記ターゲットとが内部に収納されてその内部が上記所定気体の雰囲気となる本体と、その本体の内部にその所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
上記磁性板は、上記流入口側の板厚が逆側の板厚よりも厚いものである」という応用形態や、
「上記基板保持部と上記ターゲットとが内部に収納されてその内部が上記所定気体の雰囲気となる本体と、その本体の内部にその所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
上記磁性板は、大きさが互いに異なる複数枚の磁性板が重ねられた積層構造を有しており、その積層構造における層数は、上記流入口側の方が逆側よりも多いものである」という応用形態が好適であることを示している。
【0132】
図22の例における軟磁性板380は、これら2つの応用形態それぞれにおける磁性板を兼ねた一例に相当する。
【0133】
また、ここまで、同一面内には、1つの軟磁性板を配置するという形態について説明してきたが、磁界強度の周方向の変化を緩やかなものとして、均一性が一層向上した成膜を可能にするために、以下に示すように、同一面内に磁界を弱める効果が互いに異なる複数種類の軟磁性板を並べて配置することが考えられる。
【0134】
図26は、同一面内に磁界を弱める効果が互いに異なる複数種類の軟磁性板が並べられて配置された状態を示す図である。
【0135】
この図26には、飽和磁化Msが互いに異なる3種類の軟磁性板391,392,393が並べられて配置された状態が示されている。一般に、飽和磁化Msが大きいほど磁界を弱める効果は高い。図26では、飽和磁化Msが最大で磁界を弱める効果が最も高い第1軟磁性板391が1枚用意され、飽和磁化Msが中程度で磁界を弱める効果が中程度の第2軟磁性板392が2枚用意され、飽和磁化Msが最小で磁界を弱める効果が最も低い第3軟磁性板393が1枚用意されている。ここで、この図26の例では、第1軟磁性板391は、図8に示す中型の軟磁性板362と同じ大きさの扇形形状を有し、第2軟磁性板392は、図8に示す小型の軟磁性板363と同じ大きさの扇形形状を有し、第3軟磁性板393は、図8に示す大型の軟磁性板361と同じ大きさの半円形状を有している。
【0136】
そして、まず、第1軟磁性板391は、均一磁界での成膜時に膜厚が厚くなりがちな上側(Arガスの流入口312側)に配置される。また、第3軟磁性板391は、均一磁界での成膜時に膜厚が薄くなりがちな下側に配置され、2枚の第2軟磁性板392が、これら2種類の軟磁性板の間を埋めるように配置される。このような配置により、磁界を弱める効果は、上側で最も強く、下側に下がっていくにつれて弱くなる。
【0137】
図27は、図26の3種類の軟磁性板の配列によって得られる磁界の強度分布を示すグラフである。
【0138】
尚、この図27のグラフG24には、比較のために、軟磁性板無しのときの磁界の強度分布と、第1軟磁性板391と同等な上述の中型の軟磁性板362で磁界を弱めたときの強度分布も示されている。
【0139】
この図27のグラフG24では、軟磁性板無しのときの磁界の強度分布は、菱形印でプロットされ、中型の軟磁性板362で磁界を弱めたときの強度分布は、四角印でプロットされ、3種類の軟磁性板の配列で磁界を弱めたときの磁界の強度分布は、丸印でプロットされている。
【0140】
この図27のグラフG24で、中型の軟磁性板362で磁界を弱めたときの強度分布と3種類の軟磁性板の配列で磁界を弱めたときの磁界の強度分布とを比較すると、このグラフG24中の点線で囲まれた範囲Bに特に表れているように、後者の強度分布において、周方向の角度に対する磁界強度の変化が緩やかになっていることが分かる。これにより、上記の図26に示す3種類の軟磁性板の配列によれば、均一性が一層向上した成膜が可能となる。
【0141】
また、ターゲットが磁性材料で形成されたものである場合には、上述の基本形態で得られる効果と同等な効果を、この基本形態における磁性板を用いることなく、次のようなターゲットの形状によって得ることができる。
【0142】
図28は、膜厚が均一な膜を成膜することができるターゲットの形状を示す図である。
【0143】
この図28の例では、図2のスパッタ装置300で使われている板厚が均一なターゲット330とは異なり、均一な磁界による成膜で膜厚が厚くなりがちな図中の上側で、図中の点線で囲まれた範囲Cのように板厚が厚くなったターゲット330’が使われる。ただし、このターゲット330’は磁性材料で形成された、磁性膜形成用のターゲットである。上述したように、ロータリーマグネトロンスパッタ装置では、RMCを発した磁界はターゲットを透過して、このターゲットの成膜対象の基板側に達する。磁性材料で形成されたターゲット330’では、磁界はターゲット330’を透過する際に弱められる。そして、板厚の厚い部分ほど、この磁界を弱める効果が大きい。図28に示すターゲット330’では、成膜で膜厚が厚くなりがちな図中の上側で板厚が厚くなっているので、この部分を透過する磁界が大きく弱められ、成膜対象の基板におけるその部分に対応する部分で膜厚が厚くなり過ぎることが抑制されることとなり、膜厚が均一な膜の成膜が実現されることとなる。
【0144】
このことから、以下のスパッタ装置やスパッタ法の別形態でも、膜厚が均一な膜を手軽に成膜するという目的を達成できることが分かる。
【0145】
まず、この目的を達成するスパッタ装置の別形態は、
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、
所定気体の雰囲気中に、上記基板の上記表面に対して向き合う位置に設けられた、磁性材料からなる板状のターゲットと、
上記ターゲットの、上記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、その磁界は頂点がそのターゲットのその基板側に達するアーチ状の磁界であり、その磁界をそのターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、
上記ターゲットに、上記所定気体のイオンをそのターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源とを備え、
上記ターゲットが、上記磁界の周回移動経路上の一部の板厚が他の部分の板厚よりも厚いものであることを特徴とする。
【0146】
また、上記目的を達成するスパッタ法の別形態は、
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、所定気体の雰囲気中に、上記基板の上記表面に対して向き合う位置に設けられる、上記膜の材料からなる板状のターゲットと、上記ターゲットの、上記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、その磁界は頂点がそのターゲットのその基板側に達するアーチ状の磁界であり、その磁界をそのターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、上記ターゲットに、上記所定気体のイオンをそのターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源とを備えたスパッタ装置において、上記ターゲットとして、磁性材料からなり、上記磁界の周回移動経路上の一部の板厚が他の部分の板厚よりも厚いターゲットを上記位置に配置する配置過程と、
上記電源で上記ターゲットに上記電圧を印加してそのターゲットに、上記所定気体のイオンをそのターゲットへと向かわせる電圧印加過程とを備えたことを特徴とする。
【0147】
尚、上記では、上述の基本形態や応用形態における磁性板の一例として、ターゲット330の近傍の磁界のうち図2中の上側の磁界を弱める軟磁性板360を例示したが、この基本形態や応用形態における軟磁性板はこれに限るものではなく、実際の周方向の膜厚分布の不均一性に応じて、例えば、上記の磁界のうち図2中の上側や、奥行き方向手前側や、奥行き方向奥側の磁界を弱めるもの等であっても良い。
【0148】
また、上記では、上述の基本形態や応用形態における磁性板の一例として、小中大3種類の軟磁性板の中から選択された軟磁性板360を例示したが、この基本形態や応用形態における軟磁性板はこれに限るものではなく、スパッタ装置の装置特性に基づいて精密に設計された1枚の軟磁性板であっても良く、あるいは、2種類の軟磁性板、あるいは3種類以上の軟磁性板の中から選択されたもの等であっても良い。
【0149】
また、上記では、上述の基本形態や応用形態における磁性板の一例として、成膜が行われる気密性が高いチャンバ内に配置される軟磁性板360を例示したが、この基本形態や応用形態における軟磁性板はこれに限るものではなく、例えば、上記のようなチャンバの外に配置され、別の軟磁性板と容易に交換可能なもの等であっても良い。
【0150】
以下、上述した基本形態を含む種々の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0151】
(付記1)
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、
所定気体の雰囲気中に、前記基板の前記表面に対して向き合う位置に設けられた、前記膜の材料からなる板状のターゲットと、
前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、該磁界は頂点が該ターゲットの該基板側に達するアーチ状の磁界であり、該磁界を該ターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、
前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源と、
前記ターゲットと前記磁界発生器との間に挿入され、前記磁界の周回移動経路上の一部で該磁界の前記ターゲットへの到達を減らす磁性板とを備えたことを特徴とするスパッタ装置。
【0152】
(付記2)
前記基板保持部と前記ターゲットとが内部に収納されて該内部が前記所定気体の雰囲気となる本体と、該本体の内部に該所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
前記磁性板が、前記磁界の周回移動経路上における前記流入口側の一部で、該磁界の前記ターゲットへの到達を減らすものであることを特徴とする付記1記載のスパッタ装置。
【0153】
(付記3)
前記ターゲットと前記磁界発生器との間に挿入され、該間における、前記磁性板が占めている領域以外の領域を占める非磁性板を備えたことを特徴とする付記1又は2記載のスパッタ装置。
【0154】
(付記4)
前記基板保持部と前記ターゲットとが内部に収納されて該内部が前記所定気体の雰囲気となる本体と、該本体の内部に該所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
前記磁性板は、前記流入口側の板厚が逆側の板厚よりも厚いものであることを特徴とする付記1から3のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【0155】
(付記5)
前記基板保持部と前記ターゲットとが内部に収納されて該内部が前記所定気体の雰囲気となる本体と、該本体の内部に該所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
前記磁性板は、大きさが互いに異なる複数枚の磁性板が重ねられた積層構造を有しており、該積層構造における層数は、前記流入口側の方が逆側よりも多いものであることを特徴とする付記1から3のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【0156】
(付記6)
前記磁性板が、軟磁性材料で形成されたものであることを特徴とする付記1から5のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【0157】
(付記7)
前記磁性板を着脱自在に保持する磁性板保持部を備えたことを特徴とする付記1から6のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【0158】
(付記8)
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、所定気体の雰囲気中に、前記基板の前記表面に対して向き合う位置に設けられた、前記膜の材料からなる板状のターゲットと、前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、該磁界は頂点が該ターゲットの該基板側に達するアーチ状の磁界であり、該磁界を該ターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源とを備えたスパッタ装置において、前記ターゲットと前記磁界発生器との間の、前記基板上で相対的に膜厚が厚くなる場所に向き合う位置に、前記磁界の周回移動経路上の一部で該磁界の前記ターゲットへの到達を減らす磁性板を配置する配置過程と、
前記電源で前記ターゲットに前記電圧を印加して該ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる電圧印加過程とを備えたことを特徴とするスパッタ法。
【0159】
(付記9)
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、
所定気体の雰囲気中に、前記基板の前記表面に対して向き合う位置に設けられた、磁性材料からなる板状のターゲットと、
前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、該磁界は頂点が該ターゲットの該基板側に達するアーチ状の磁界であり、該磁界を該ターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、
前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源とを備え、
前記ターゲットが、前記磁界の周回移動経路上の一部の板厚が他の部分の板厚よりも厚いものであることを特徴とするスパッタ装置。
【0160】
(付記10)
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、所定気体の雰囲気中に、前記基板の前記表面に対して向き合う位置に設けられる、前記膜の材料からなる板状のターゲットと、前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、該磁界は頂点が該ターゲットの該基板側に達するアーチ状の磁界であり、該磁界を該ターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源とを備えたスパッタ装置において、前記ターゲットとして、磁性材料からなり、前記磁界の周回移動経路上の一部の板厚が他の部分の板厚よりも厚いターゲットを前記位置に配置する配置過程と、
前記電源で前記ターゲットに前記電圧を印加して該ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる電圧印加過程とを備えたことを特徴とするスパッタ法。
【0161】
(付記11)
基板保持部に保持された基板に磁性膜を積層する磁気記録媒体の製造方法であって、
所定気体の雰囲気中で、前記基板の表面に対して向き合う位置に設けられた前記磁性膜の材料からなる板状のターゲットと、前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置した磁界発生器との間で、かつ、前記基板上で相対的に膜厚が厚くなる場所に向き合う位置に磁性板を配置する工程と、
前記磁界発生器により前記ターゲットの前記基板側に達するアーチ状の磁界を発生させ、前記磁界を前記ターゲットに沿って周回移動させながら、前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを前記ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加し、前記所定気体のイオンを前記ターゲットへと向かわせることで、前記磁性膜をスパッタリングして前記基板に磁性層を積層する工程と、を有し
前記磁性板は、前記磁界の周回移動経路上の一部で、前記磁界の前記ターゲットへの到達を減らしていることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】基本形態について説明した情報記憶装置の一例であるハードディスク装置(HDD)を示す図である。
【図2】基本形態について説明したスパッタ装置の一例であるロータリーマグネトロンスパッタ装置を示す図である。
【図3】軟磁性板によってターゲットの近傍の上側における磁界が弱められている様子を模式的に示す図である。
【図4】軟磁性板によってターゲットの近傍の上側における磁界が弱められた結果、ディスク基板の上側における材料粒子の堆積量が減少して均一な膜厚分布が得られる様子を模式的に示す図である。
【図5】図2のロータリーマグネトロンスパッタ装置を使ったスパッタ法における処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図2のターゲットおよび軟磁性板の側壁への取付構造を示す図である。
【図7】図5のフローチャートにおけるステップS110の処理のうち、ターゲットと軟磁性板とを第1チャンバの側壁に取り付ける手順を示す図である。
【図8】実験に使われる3種類の軟磁性板を示す図である。
【図9】5種類の実験構成を示す図である。
【図10】ターゲットの近傍における20個の計測点を示す図である。
【図11】ディスク中心からの距離が「30mm」の円周上に並ぶ10個の計測点についての磁界強度が、各実験構成についてプロットされたグラフである。
【図12】ディスク中心からの距離が「60mm」の円周上に並ぶ10個の計測点についての磁界強度が、各実験構成についてプロットされたグラフである。
【図13】膜厚の計測点について説明するための説明図である。
【図14】軟磁性板無しの第1構成についての膜厚分布を示すグラフである。
【図15】小型の軟磁性板が配置された第2構成についての膜厚分布を示すグラフである。
【図16】中型の軟磁性板が配置された第3構成についての膜厚分布を示すグラフである。
【図17】大型の軟磁性板が配置された第4構成についての膜厚分布を示すグラフである。
【図18】中型の軟磁性板が3枚重ねられて配置された第5構成についての膜厚分布を示すグラフである。
【図19】軟磁性板無しの第1構成からの膜厚の変化量を、第2から第3の各実験構成についてプロットしたグラフである。
【図20】5種類の実験構成それぞれでの膜厚分布の均一性をプロットしたグラフである。
【図21】軟磁性板の取付安定性を向上させるための構造を示す模式図である。
【図22】板厚が流入口に近いほど厚い軟磁性板の一例を示す模式図である。
【図23】半円形状の軟磁性板を2分割して図22の中型の軟磁性板や最小の軟磁性板が得られる様子を示す模式図である。
【図24】円弧形状の軟磁性板で磁界を弱めたときの内周部での強度分布を示すグラフである。
【図25】円弧形状の軟磁性板で磁界を弱めたときの外周部での強度分布を示すグラフである。
【図26】同一面内に磁界を弱める効果が互いに異なる複数種類の軟磁性板が並べられて配置された状態を示す図である。
【図27】図26の3種類の軟磁性板の配列によって得られる磁界の強度分布を示すグラフである。
【図28】膜厚が均一な膜を成膜することができるターゲットの形状を示す図である。
【図29】ロータリーマグネトロンスパッタ装置の一例を示す図である。
【図30】図29のロータリーマグネトロンスパッタ装置においてターゲットの近傍の磁界強度が均一となっている様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0163】
10 HDD
101 ハウジング
102 回転軸
103 磁気ヘッド
104 ヘッドジンバルアセンブリ
105 アーム軸
106 キャリッジアーム
107 アームアクチュエータ
200 磁気ディスク
201,600 ディスク基板
202 多層膜
300,500 ロータリーマグネトロンスパッタ装置
301,501 側壁
301a 窪み
302 押え部材
303 ネジ
310,510 第1チャンバ
311,511 基板保持部
312,512 流入口
313,513 排出口
320,520 第2チャンバ
330,330’,530 ターゲット
331 計測点
340,540 RMC
341,541 磁石
350,550 電圧源
360,380 軟磁性板
361 小型の軟磁性板
362 中型の軟磁性板
363 大型の軟磁性板
370 非磁性板
381 最小の軟磁性板
382 中型の軟磁性板
383 最大の軟磁性板
383’ 半円形状の軟磁性板
391 第1軟磁性板
392 第2軟磁性板
393 第3軟磁性板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、
所定気体の雰囲気中に、前記基板の前記表面に対して向き合う位置に設けられた、前記膜の材料からなる板状のターゲットと、
前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、該磁界は頂点が該ターゲットの該基板側に達するアーチ状の磁界であり、該磁界を該ターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、
前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源と、
前記ターゲットと前記磁界発生器との間に挿入され、前記磁界の周回移動経路上の一部で該磁界の前記ターゲットへの到達を減らす磁性板とを備えたことを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記基板保持部と前記ターゲットとが内部に収納されて該内部が前記所定気体の雰囲気となる本体と、該本体の内部に該所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
前記磁性板が、前記磁界の周回移動経路上における前記流入口側の一部で、該磁界の前記ターゲットへの到達を減らすものであることを特徴とする請求項1記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記ターゲットと前記磁界発生器との間に挿入され、該間における、前記磁性板が占めている領域以外の領域を占める非磁性板を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記基板保持部と前記ターゲットとが内部に収納されて該内部が前記所定気体の雰囲気となる本体と、該本体の内部に該所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
前記磁性板は、前記流入口側の板厚が逆側の板厚よりも厚いものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記基板保持部と前記ターゲットとが内部に収納されて該内部が前記所定気体の雰囲気となる本体と、該本体の内部に該所定気体を流入させる流入口とを有するチャンバを備え、
前記磁性板は、大きさが互いに異なる複数枚の磁性板が重ねられた積層構造を有しており、該積層構造における層数は、前記流入口側の方が逆側よりも多いものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記磁性板が、軟磁性材料で形成されたものであることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【請求項7】
前記磁性板を着脱自在に保持する磁性板保持部を備えたことを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項記載のスパッタ装置。
【請求項8】
表面に膜が形成される基板を保持する基板保持部と、所定気体の雰囲気中に、前記基板の前記表面に対して向き合う位置に設けられた、前記膜の材料からなる板状のターゲットと、前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置されて磁界を発生させる、該磁界は頂点が該ターゲットの該基板側に達するアーチ状の磁界であり、該磁界を該ターゲットに沿って周回移動させる磁界発生器と、前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加する電源とを備えたスパッタ装置において、前記ターゲットと前記磁界発生器との間の、前記基板上で相対的に膜厚が厚くなる場所に向き合う位置に、前記磁界の周回移動経路上の一部で該磁界の前記ターゲットへの到達を減らす磁性板を配置する配置過程と、
前記電源で前記ターゲットに前記電圧を印加して該ターゲットに、前記所定気体のイオンを該ターゲットへと向かわせる電圧印加過程とを備えたことを特徴とするスパッタ法。
【請求項9】
基板保持部に保持された基板に磁性膜を積層する磁気記録媒体の製造方法であって、
所定気体の雰囲気中で、前記基板の表面に対して向き合う位置に設けられた前記磁性膜の材料からなる板状のターゲットと、前記ターゲットの、前記基板側に対する裏側に配置した磁界発生器との間で、かつ、前記基板上で相対的に膜厚が厚くなる場所に向き合う位置に磁性板を配置する工程と、
前記磁界発生器により前記ターゲットの前記基板側に達するアーチ状の磁界を発生させ、前記磁界を前記ターゲットに沿って周回移動させながら、前記ターゲットに、前記所定気体のイオンを前記ターゲットへと向かわせる極性の電圧を印加し、前記所定気体のイオンを前記ターゲットへと向かわせることで、前記磁性膜をスパッタリングして前記基板に磁性層を積層する工程と、を有し
前記磁性板は、前記磁界の周回移動経路上の一部で、前記磁界の前記ターゲットへの到達を減らしていることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−37583(P2010−37583A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199838(P2008−199838)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】