説明

スパーク発光分光分析装置用標準試料及びその作製方法

【課題】非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析装置で分析する際に信頼性の高い分析データを得ることのできるスパーク発光分光分析装置用標準試料を提供する。
【解決手段】金属からなる試料本体1の表面に非金属粒子を分散せしめた非金属粒子分散層2を有するスパーク発光分光分析装置用標準試料において、非金属粒子分散層2に分散する非金属粒子の密度分布を100〜25000個/cm3としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーク発光分光分析法を利用した分析装置を較正するときに用いられるスパーク発光分光分析装置用標準試料とその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼あるいは非鉄金属などの金属中に分散して存在する非金属介在物の粒度分布等を測定する方法の一つとして、スパーク発光分光分析法が知られている。このスパーク発光分光分析法は、特開平9−43150号公報等に記載されているように、非金属介在物を含有する金属試料をスパーク放電により発光させ、その発光スペクトルから金属試料中の非金属介在物を定量分析する方法であり、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を利用したEPMA分析法などの他の分析方法と比較して、非金属介在物を迅速かつ正確に定量分析することが可能である。しかし、スパーク発光分光分析法は一種の比較分析法であり、スパーク発光分光分析法を利用した分析装置(以下「スパーク発光分光分析装置」と称す)を較正するときに用いられる標準試料が分析精度に大きな影響を与えるため、非金属介在物をスパーク発光分光分析法により定量分析する場合には、分析精度に大きな影響を与えないような標準試料を用いる必要がある。
【0003】
スパーク発光分光分析装置を較正するときには、アルミナ(Al23)などの非金属粒子を金属材料中に分散させたものが標準試料として用いられ、このような標準試料を得るために、非金属粒子を金属材料中に分散させた合金としては、機械的性質や耐摩耗性の向上を目的とした複合材料が知られている。たとえば、特許文献1及び特許文献2には、低融点の母相中に高融点の粒子分散相を焼結法あるいは溶融法にて包含せしめた合金が開示され、特許文献3には、素地中にFeとAlの複合酸化物が硬質相として分散している組織を有し、Alのモル比が10〜45%の焼結合金が開示されている。さらに、特許文献4には、Crを65質量%以上含有するCr基金属のマトリックス中に平均粒径0.1μm以下のY23を0.2〜2.0質量%微細分散させた焼結合金が開示されている。また、機能材料の例では気相合成法などによる微細粒子の表面への形成もよく知られている。
【特許文献1】特開平9−20940号公報
【特許文献2】特開2000−17350号公報
【特許文献3】特開2001−348654号公報
【特許文献4】特開平7−188802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されているような合金をスパーク発光分光分析装置の較正用標準試料として用いると、試料が焼結合金の場合には試料の気孔率が十分に低くないと発光不良などによる分析条件の異常が生じ、分析によって得られるデータの信頼性を大きく低下させる可能性があった。
さらに、特許文献1及び特許文献2に開示されているような合金をスパーク発光分光分析装置の較正用標準試料として用いた場合には、試料中に埋没した非金属粒子を分析するために新たな切断面を得る必要がある。このため、その切断操作が他方では母粒子集団のもつ真の粒度分布を見掛け上、小さい側にシフトさせるという問題があった。
【0005】
また、一方では分析される分散相の性質、特に粒度分布が既知で、しかも試料内で偏りなく安定していることが比較分析法の原理原則からも必要な要件であるが、分散相の粒度分布を厳密に推定して制御することは、特に高温プロセスである溶融法などでは、その処理過程における凝集、焼結等の外乱を考慮する必要があり、容易ではない。
【0006】
この問題を解決する方法としては、ある粒度分布を持つ既知の非金属粒子(例えばアルミナ(Al23)等)を金属試料の表面に塗布または接着あるいは圧着したものを標準試料として用いることが考えられるが、金属試料の表面に非金属粒子を無作為に配置した場合には非金属粒子の凝集や粒子同士の近接が生じ易くなり、見掛け上の粒度分布が変化するため、分析精度を低下させる要因となる。そこで非金属粒子の分散密度を規定して非金属粒子の凝集状態を制御することは、上記の問題を解決する有効な手段である。しかし、他方では非金属粒子の粒度分布に着目してその粒度の均一性を高めることにより、従来のブロードな粒径分布下では適正な較正の実施に有害であった粒子の凝集現象を、粒子径の整数倍で生じる見掛け上の粒度分布として積極的に活用することも有効な解決手段である。
【0007】
特許文献3及び特許文献4に開示された焼結合金は、スパーク発光分光分析装置で分析される非金属介在物の量に比べて非金属粒子の配合量が多いため、スパーク発光分光分析装置の較正用標準試料としては不向きであった。
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析装置で分析する際に信頼性の高い分析データを得ることのできるスパーク発光分光分析装置用標準試料を提供することを目的とするものである。また、本発明の他の目的は、スパーク発光分光分析装置の較正用として好適な標準試料を得ることのできるスパーク発光分光分析装置用標準試料の作製方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、画像解析法やスパーク発光分光分析法に基づく金属介在物の定量分析に用いるために、粒度分布が十分狭く、粒子の凝集がある場合にその見掛け上の粒度分布が真の粒度分布の整数倍で発現されるようなスパーク発光分光分析装置用標準試料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、金属中の非金属介在物をスパーク発光分光分析法により定量分析する分析装置を較正するときに用いられ、金属からなる試料本体の表面に非金属粒子を分散せしめた非金属粒子分散層を有するスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子分散層に分散する前記非金属粒子の密度分布を100〜25000個/cm3としたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子の密度分布を300〜6500個/cm3としたことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は2記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子が超音波アトマイズ法により得られた球状アルミナ粒子であることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1又は2記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子が気相または液相合成法により得られた球状シリカ粒子であることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、母相中に分散相を有する焼結合金からなるスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記焼結合金の分散相を構成する分散相成分と合金化して前記焼結合金の母相を構成する母相成分と前記分散相成分との比重比を0.9〜1.1の範囲内に調整するための第三の成分を含有することを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項5記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記第三の成分が前記分散相成分と焼結温度にて二層分離する成分であることを特徴とする。
【0011】
請求項7の発明は、請求項5又は6記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記焼結合金の気孔率を1.0%以下としたことを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項5〜7のいずれか一項記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記分散相成分の密度分布を100〜25000個/cm3としたことを特徴とする。
【0012】
請求項9の発明は、焼結合金の母相を構成する母相成分と前記焼結合金の分散相を構成する分散相成分とを焼成してスパーク発光分光分析装置用標準試料を作製するに際して、前記分散相成分と合金化し且つ前記分散相成分と焼結温度にて二層分離する第三の成分を、前記母相成分と前記分散相成分との比重比が0.9〜1.1の範囲内になると共に前記焼結合金の気孔率が1.0%以下となるように添加することを特徴とする。
【0013】
粒度分布の既知な非金属粒子としては、合成・粉砕後に分級したセラミック粉末が一般的である。ここで粒度分布の安定性に着目すると、単一粒子の形状に鋭角を含まない、換言すれば球形に近い粒子を選択するほうが有利である。この点からは気相・液相合成法やアトマイズ法などにより調製される球状セラミック粒子は本発明の目的により適したものと言える。また、粒子の凝集近接による見掛けの粗大化を利用するために、粒子径分布の標準偏差が平均粒子径の二倍の自然対数よりも小さいことが整数倍の見掛けの粒度分布を分離識別する上で有効である。分離識別の容易さを考慮すれば、粒子径分布の標準偏差は平均粒子径の√2倍の自然対数以下であることが望ましい。
【0014】
そこで請求項10の発明は、非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析法により定量分析する分析装置を較正するときに用いられ、金属からなる試料本体の表面に非金属粒子を分散せしめた非金属粒子分散層を有するスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子の平均粒径をdとしたとき、前記非金属粒子の粒度の標準偏差sがs≦ln(2d)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜4の発明によれば、粒子同士の近接などによる非金属粒子の見掛け上の粗大化を抑制できると共に非金属粒子の疎らな配置による分析回数の増加を抑制できるので、非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析装置で分析する際に信頼性の高い分析データを得ることができる。
請求項5〜9の発明によれば、分散相成分の凝集や偏析が発生することを抑制できるので、スパーク発光分光分析装置の較正用として好適な標準試料を得ることができる。
【0016】
請求項10の発明によれば、非金属粒子の粒度の標準偏差sを平均粒子径dに対してs≦ln(2d)としたことで、分析回数を増加させることなく較正が可能となるので、整数倍の見掛け上の粒度分布を分離識別する上で有効なスパーク発光分光分析装置用標準試料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
図1において、符号1は鋼等の金属からなる試料本体(母相)、2は試料本体1の表面に形成された非金属粒子分散層であり、この非金属粒子分散層2には、Al23あるいはSiO2等の非金属粒子が100〜25000個/cm3、好ましくは300〜6500個/cm3の密度で分散している。
【0018】
このように構成される標準試料をスパーク発光分光分析装置の較正用として用いるためには、非金属粒子分散層2に分散する非金属粒子として、粒度分布が既知の粒子を用いる必要がある。この場合、合成・粉砕後に分級したセラミック粒子を非金属粒子として用いるのが一般的である。しかし、粒度分布の安定に着目すると単一の粒子形状が鋭角形状を含まない形状すなわち球形に近い形状の非金属粒子を選択するほうが有利であるため、図1に示した本発明の第1の実施形態では、非金属粒子分散層2に分散する非金属粒子として、超音波アトマイズ法により得られた球状アルミナ粒子あるいは気相合成法または液相合成法により得られた球状シリカ粒子を用いた。
【0019】
また、スパーク発光分光分析装置の較正用として用いるためには、非金属粒子の凝集や粒子同士の近接による非金属粒子の見掛け上の粗大化を回避して本来の粒度分布を維持する必要があり、そのためには、非金属粒子をある密度以下で疎らに配置することが有効である。そこで、本発明者は、非金属粒子の分散密度とスパーク発光分光分析装置の分析精度との関係を調査するために、表1に示される試料3〜21を試作した。
【0020】
【表1】

【0021】
表1において、番号3〜12及び15〜21に示される試料は母相成分として軟鋼板を用いると共に分散層成分として球状アルミナ粒子(Al23)を用いたものを示し、番号13及び14に示される試料は母相成分として軟鋼板を用いると共に分散層成分として球状シリカ粉末(SiO2)を用いたものを示している。
【0022】
非金属粒子の分散層を形成する方法としては、次のような方法を用いて分散層を形成した。すなわち、分散層成分が球状アルミナ粒子の場合は、超音波アトマイズ法により得られた平均粒度25.6μm(レーザー散乱法による測定値)の球状アルミナ粒子(Al23)を溶媒に投入した後、粒子密度が均一となるように溶媒を攪拌すると共に軟鋼板の表面を研磨して酸化物を除去した。そして、酸化物が除去された軟鋼板の表面に適量の溶媒を塗布した後、軟鋼板の表面をセラミックローラで均一に圧延することで分散層を形成した。
【0023】
また、分散層成分が球状シリカ粉末の場合は、液相合成法により得られた平均粒度30.1μm(レーザー散乱法による測定値)の球状シリカ粉末(SiO2)を溶媒に投入した後、粒子密度が均一となるように溶媒を攪拌すると共に軟鋼板の表面を研磨して酸化物を除去した。そして、酸化物が除去された軟鋼板の表面に適量の溶媒を塗布した後、軟鋼板の表面をセラミックローラで均一に圧延することで分散層を形成した。
【0024】
表1の番号3〜21に示される試料の中で番号15〜21の試料は、マイクロ篩によって球状アルミナ粒子を分級した上で粒度分布を測定し、しかる後に粘度調整された溶媒中に分散させてから母材表面(この場合は軟鋼板表面)に適量塗布した。
本発明者は、表1の番号3〜21で示す各試料をスパーク発光分光分析装置により初期発光のパルス発生毎に分光強度を対応させる方法で分析した。そして、得られた分析データから各試料における非金属粒子(この場合は球状アルミナ粒子と球状シリカ粉末)の分散密度、平均粒度及び粒度標準偏差を求めた。なお、非金属粒子の分散密度は測定面積中の粒子数から求め、平均粒度は測定面積中の個々の平均粒子径を平均して求めた。
【0025】
このようにして求めた非金属粒子の分散密度、平均粒度及び粒度標準偏差を表1に示す。また、表1のデータから非金属粒子(この場合は球状アルミナ粒子)の分散密度と平均粒度及び粒度標準偏差との関係をグラフ化したものを図2に示す。
図2に示されるように、非金属粒子である球状アルミナ粒子の分散密度が25000個/cm2を超えると、スパーク発光分光分析装置の分析データから得られる平均粒度がレーザー散乱法により測定した平均粒度との間に大きなずれが生じることがわかる。これは、非金属粒子の分散密度が25000個/cm2を超えると非金属粒子の凝集や粒子同士の近接が標準試料の非金属粒子分散層に生じ、非金属粒子の見掛け上の粒度が粗大化するためである。
【0026】
また、表1の試料12で例示されるように、非金属粒子の分散密度が100個/cm2未満になると、スパーク発光分光分析装置の分析回数が増加し、非金属介在物の分析に時間がかかることがわかる。これは、非金属粒子の分散密度が100個/cm2未満になると非金属粒子同士の間隔が疎らになりすぎ、必要な情報量を得るために多数回の分析操作が要求されるためである。
【0027】
したがって、上述した実施形態のように、非金属粒子分散層2に分散する非金属粒子の分散密度を100〜25000個/cm3、好ましくは300〜6500個/cm3にすることにより、粒子同士の近接などによる非金属粒子の見掛け上の粗大化を抑制できると共に非金属粒子の疎らな配置による分析回数の増加を抑制できるので、非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析装置で分析する際に信頼性の高い分析データを容易に得ることができる。
【0028】
また、非金属粒子分散層2に分散する非金属粒子として、超音波アトマイズ法により得られた球状アルミナ粒子あるいは気相合成法または液相合成法により得られた球状シリカ粒子を用いることにより、非金属粒子の平均粒度が安定するので、非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析装置で分析する際により信頼性の高い分析データを得ることができる。
【0029】
表1に示されるように、非金属粒子として分級されていない粒子(試料番号3〜14の場合)を用いると、分散密度が25×103(個/cm2)を超える場合には粒子の平均粒径dおよび粒度標準偏差sが増大し、分散密度が0.5×103(個/cm2)を下回る場合には分析回数が5〜25回と増加することがわかる。これに対し、非金属粒子として分級された粒子(試料番号15〜21の場合)を用いると、粒子の粒度標準偏差sが平均粒子径dに対してs>ln(2d)の場合は分析回数が増加するが、s≦ln(2d)の場合は分析回数の増加なしに較正が可能であることがわかる。これは、図3〜図5に示すように、s≦ln(2d)の場合は見掛け上の粒子検出数(図中太線)のピークが二つ以上存在するのに対し、s>ln(2d)の場合は見掛け上の粒子検出数(図中太線)のピークが一つしか存在しないためと考えられる。
【0030】
したがって、非金属粒子の粒度の標準偏差sを平均粒子径dに対してs≦ln(2d)とすることで、分析回数を増加させることなく較正が可能となるので、整数倍の見掛け上の粒度分布を分離識別する上で有効なスパーク発光分光分析装置用標準試料を得ることができる。
なお、本発明に係るスパーク発光分光分析装置用標準試料は粒径が1〜100μmの非金属粒子を分析する場合に好適であるが、非金属粒子の粒径が10〜50μmであれば更に好ましい。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、スパーク発光分光分析装置の較正用標準試料として焼結合金からなる標準試料を作製する場合、焼結合金中に分散する非金属粒子の偏析や粗大化を抑制するためには、焼結合金の分散相成分(例えばAl等)と合金化して母相成分(例えばFe等)との比重差を同等にし、かつ焼結温度では分散相成分と二層分離するような第三の成分を添加して標準試料を作製することを案出した。この場合、母相成分と分散相成分との比重比が10%以内、好ましくは3%以内となるように第三の成分を添加することにより、非金属粒子の偏析や粗大化をより効果的に抑制できることが後述する実験結果から判明した。また、焼結合金の気孔率が2%以下となるように標準試料を作製することが望ましいという知見を後述する実験結果から得ることができた。
そこで、本発明者は、焼結合金からなる標準試料を作製する際に第三の成分を添加することによる効果を確認するために、表2に示される試料1〜8を試作した。
【0032】
【表2】

【0033】
ここで、試料1〜8の母相を構成する母相成分としては電解鉄粉末を用いた。また、試料1〜8の分散相を構成する分散相成分としては、超音波アトマイズ法により平均粒径が50μm相当に分級された球状アルミナ粉末(Al23)を用い、母相成分に対する配合量を0.001質量%とした。さらに、第三の合金成分としてはPb,Bi,Mo,Zr,Ge,Siのいずれかを用いた。そして、これら三つの成分をグリセリン水溶液中で混合し、超音波により均一に分散させた。その後、遠心分離機を使用して直径20mm程度のボタン形状に成形した後、800℃で焼成することによって表2の試料1〜8を試作した。
【0034】
本発明者は、試作した試料1〜8をエメリー紙で研磨した後、スパーク発光分光分析装置を用いて試料1〜8を初期発光のパルス発生毎に分光強度を対応させる方法で分析した。そして、分散相成分の凝集度を指標化するために、得られた分析データの中からパルス高中央値の二倍以上のパルス数割合(以下、単に「パルス数割合」と記す)を求めた。また、分散相成分の偏析状況を指標化するために、試料1〜8の分析を30視野について実施し、それぞれの最初の介在物相当パルス部分の縦パルスエネルギー値のバラツキ(以下、「縦パルスエネルギー標準偏差」と記す)を求めた。
【0035】
このようにして求めた試料1〜8のパルス数割合、縦パルスエネルギー標準偏差および気孔率を表2に示す。なお、試料1〜8の気孔率は分散相成分の粒度、配合量および焼成時間を調整して表2に示すような値の気孔率とした。
表2において、試料7及び8で例示されるように、第三の成分としてGeやSiを用いると、第三の成分としてPbやBiを用いた場合と比較して、縦パルスエネルギー標準偏差が高い数値となることがわかる。これは、第三の成分としてPbやBiを用いた場合は母相成分と分散相成分との比重比が0.9〜1.1となるが、第三の成分としてGeやSiを用いた場合は母相成分と分散相成分との比重比が2.0以上となるためである。
【0036】
また、試料5及び6で例示されるように、第三の成分としてMoやZrを用いると、第三の成分としてPbやBiを用いた場合と比較して、パルス数割合や縦パルスエネルギー標準偏差が高い数値となることがわかる。これは、第三の成分としてPbやBiを用いた場合は分散相成分と第三の成分が焼結温度にて二層分離するが、第三の成分としてPbやBiを用いた場合は分散相成分と第三の成分が二層分離しないためである。
【0037】
以上の説明から明らかなように、焼結合金の母相を構成する母相成分と分散相を構成する分散相成分とを焼成してスパーク発光分光分析装置用の標準試料を作製するに際して、分散相成分と合金化し且つ分散相成分と焼結温度にて二層分離する第三の成分を、母相成分と分散相成分との比重比が0.9〜1.1の範囲内になると共に焼結合金の気孔率が1.0%以下となるように添加することにより、分散相成分の凝集や偏析が発生することを抑制できるので、スパーク発光分光分析装置の較正用として好適な標準試料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスパーク発光分光分析装置用標準試料の断面図である。
【図2】図1の非金属粒子分散層に分散する非金属粒子の分散密度と平均粒度及び粒度標準偏差との関係を示す図である。
【図3】非金属粒子の粒度標準偏差sが平均粒子径dに対してs=ln(d)である場合の見掛け上の粒子検出数のピークを示す図である。
【図4】非金属粒子の粒度標準偏差sが平均粒子径dに対してs=ln(2d)である場合の見掛け上の粒子検出数のピークを示す図である。
【図5】非金属粒子の粒度標準偏差sが平均粒子径dに対してs=ln(3d)である場合の見掛け上の粒子検出数のピークを示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 試料本体
2 非金属粒子分散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析法により定量分析する分析装置を較正するときに用いられ、金属からなる試料本体の表面に非金属粒子を分散せしめた非金属粒子分散層を有するスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子分散層に分散する前記非金属粒子の密度分布を100〜25000個/cm3としたことを特徴とするスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項2】
請求項1記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子の密度分布を300〜6500個/cm3としたことを特徴とするスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項3】
前記非金属粒子は超音波アトマイズ法により得られた球状アルミナ粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項4】
前記非金属粒子は気相または液相合成法により得られた球状シリカ粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項5】
母相中に分散相を有する焼結合金からなるスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記焼結合金の分散相を構成する分散相成分と合金化して前記焼結合金の母相を構成する母相成分と前記分散相成分との比重比を0.9〜1.1の範囲内に調整するための第三の成分を含有することを特徴とするスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項6】
前記第三の成分は前記分散相成分と焼結温度にて二層分離する成分であることを特徴とする請求項5記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項7】
請求項5又は6記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記焼結合金の気孔率を1.0%以下としたことを特徴とするスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項8】
前記分散相成分の密度分布を100〜25000個/cm3としたことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項記載のスパーク発光分光分析装置用標準試料。
【請求項9】
焼結合金の母相を構成する母相成分と前記焼結合金の分散相を構成する分散相成分とを焼成してスパーク発光分光分析装置用標準試料を作製するに際して、前記分散相成分と合金化し且つ前記分散相成分と焼結温度にて二層分離する第三の成分を、前記母相成分と前記分散相成分との比重比が0.9〜1.1での範囲内になると共に前記焼結合金の気孔率が1.0%以下となるように添加することを特徴とするスパーク発光分光分析装置用標準試料の作製方法。
【請求項10】
非金属介在物を含有する金属をスパーク発光分光分析法により定量分析する分析装置を較正するときに用いられ、金属からなる試料本体の表面に非金属粒子を分散せしめた非金属粒子分散層を有するスパーク発光分光分析装置用標準試料において、前記非金属粒子の平均粒径をdとしたとき、前記非金属粒子の粒度分布の標準偏差sがs≦ln(2d)であることを特徴とするスパーク発光分光分析装置用標準試料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−126167(P2006−126167A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166739(P2005−166739)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】