説明

スフェロイド含有ハイドロゲルおよびその製造方法、ならびにスフェロイド含有ハイドロゲル積層体

【課題】内包される複数のスフェロイドの機能維持性が良好なスフェロイド含有ハイドロゲルを提供する。
【解決手段】ハイドロゲルと、前記ハイドロゲル内に、互いに接触しないように配置され、直径70μm〜400μmの均一な大きさを有する2以上のスフェロイドと、を含むスフェロイド含有ハイドロゲルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフェロイド含有ハイドロゲルおよびその製造方法、ならびにスフェロイド含有ハイドロゲル積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞工学の発展および再生医療への注目と相まって、生体外にて細胞を適切な形で培養し、治療への応用および生体反応のシュミレーターとして使用する試みが現在活発に行われている。このような目的において、培養される細胞は各種臓器機能の担い手である実質細胞が中心であるが、一般に生体外にて実質細胞の機能を維持した状態で長期の培養を行うことは困難であり、この点を解決するための様々な試みがなされている。
【0003】
例えば、多数の細胞の三次元的凝集状態を作って培養を行うスフェロイド(細胞凝集塊)培養系は、細胞極性および細胞間相互作用の維持という観点から、生体外における優れた実質細胞培養系として、様々な報告がなされており、膵細胞、骨芽細胞、肝細胞、など多種の細胞に適用された例が存在する。いずれも単層培養系とは異なった生物学的応答を示し、分化マーカーが高レベルで維持されている例も報告されている。
【0004】
スフェロイド形成の手法としては、細胞接着性U字底を有する96穴プレートに細胞数を定めて細胞を播種することによってサイズをコントロールしたスフェロイドを形成する手法(例えば、非特許文献1参照)などが報告されている。
また、ゾル−ゲル転移を示すゲル化物質中にスフェロイドを形成する方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開平8−140673号公報
【非特許文献1】Yamauchi et al.J.Reprod.Dev.47(2001)165−171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法ではスフェロイド形成の培養面積当たりの効率が極めて低いという問題点があった。また特許文献1に記載の方法では、ゲル中に形成される各々のスフェロイドの大きさを制御することが困難であり、均一な大きさのスフェロイドの集合体を形成することが困難であった。
本発明は、内包される2以上のスフェロイドが互いに接触しないように配置された機能維持性が良好なスフェロイド含有ハイドロゲルおよびその積層体、ならびに、均一な大きさを有する複数のスフェロイドを含有するハイドロゲルの効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、ハイドロゲルと、前記ハイドロゲル内に互いに接触しないように配置された、直径70μm〜400μmの均一な大きさを有する2以上のスフェロイドと、を含むスフェロイド含有ハイドロゲルである。
【0007】
前記ハイドロゲルは、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の4以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する4価以上の連結基とを有し、重量平均分子量が10000以上のハイドロゲル形成用マクロモノマーに由来する高分子化合物を含むことが好ましく、前記ハイドロゲル形成用マクロモノマーは、重合度が50〜5000のポリアルキレングリコール基を4以上有することがより好ましく、前記重合性置換基はエチレン性不飽和結合を有することがさらに好ましい。
【0008】
また本発明の第2の態様は、前記スフェロイド含有ハイドロゲルの2以上が積層されたスフェロイド含有ハイドロゲル積層体である。
【0009】
本発明の第3の態様は、基材ならびに前記基材上に形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板上に、細胞を播種する工程と、播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイドを前記基板上の疎水性領域に形成するスフェロイド形成工程と、前記基板上の前記スフェロイドが形成された側にハイドロゲルを配置してハイドロゲル複合体を形成するハイドロゲル複合体形成工程と、前記ハイドロゲル複合体から前記基板を剥離して、スフェロイド含有ハイドロゲルを得る工程と、を含むスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法である。
前記ハイドロゲル複合体形成工程は、親水性高分子を含む感光性組成物を、前記基板上の前記スフェロイドが形成された側に配置して前記スフェロイドと接触させる工程と、前記感光性組成物を硬化させる工程と、を含むことが好ましい。
【0010】
また前記感光性組成物は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の4以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する4価以上の連結基とを有し、重量平均分子量が10000以上のハイドロゲル形成用マクロモノマーを含有することが好ましく、前記ハイドロゲル形成用マクロモノマーは、重合度が50〜5000のポリアルキレングリコール基を4以上有することがより好ましく、前記重合性置換基はエチレン性不飽和結合を有することがより好ましい。
【0011】
また前記播種された細胞を培養する工程における細胞の培養を、少なくとも5日間行うことが好ましい。
また前記基材上の親水性領域は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体に由来するポリマーを含むことが好ましい。
また前記親水性領域は、温度応答性層上に形成されていることが好ましい。
さらに前記疎水性領域は前記基材上にアレイ状に形成されていることもまた好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内包される2以上のスフェロイドが互いに接触しないように配置された機能維持性が良好なスフェロイド含有ハイドロゲルおよびその積層体、ならびに均一な大きさを有する複数のスフェロイドを含有するハイドロゲルの効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルは、ハイドロゲルと、前記ハイドロゲル内に互いに接触しないように配置された、直径70〜400μmの均一な大きさを有する2以上のスフェロイドとを含むスフェロイド含有ハイドロゲルである。
スフェロイドがハイドロゲル中に内包され、特定の均一な大きさであることによりスフェロイドの機能維持性が良好かつ均質にそろったスフェロイド含有ハイドロゲルを構成することができる。
【0014】
本発明においてハイドロゲルに内包されるスフェロイドの直径は、70μm〜400μmであるが、スフェロイドの機能維持性の観点から、70μm〜300μmであることが好ましく、100μm〜200μmであることがより好ましい。スフェロイドの大きさが400μmを超えるとスフェロイドの生存が困難になる。また大きさが70μm未満ではスフェロイドとしての機能を発揮できない。
また本発明においては、ハイドロゲルに含まれる2以上のスフェロイドの大きさが均一である。ここで、均一であるとは大きさが等しいことに加えて、各々のスフェロイドの大きさに有意差がなく、スフェロイドの生体機能性も均質であることも含むものである。
【0015】
また本発明においてハイドロゲルに内包される2以上のスフェロイドは、互いに接触しないように配置されている。2つのスフェロイド間の距離には特に制限はないが、スフェロイドの機能維持の観点から、30μm以上であることが好ましく、30μm〜200μmであることがより好ましく、50μm〜150μmであることがさらに好ましい。ここでスフェロイド間の距離とは、2つのスフェロイドの最外郭間の最小距離を意味する。
尚、本発明におけるスフェロイド含有ハイドロゲルの詳細については、スフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法と併せて後述する。
【0016】
また本発明のスフェロイド含有ハイドロゲル積層体は、前記スフェロイド含有ハイドロゲルの2以上を積層して構成される。これにより均一な大きさを有する複数のスフェロイドが3次元的に配置されたスフェロイド含有ハイドロゲル積層体を得ることができる。
【0017】
積層の方法としては、特に制限はなく通常の方法を適宜用いることができる。例えば、基板を剥離した側同士が接触するように積層しても、基板を剥離した側とその反対側とが接触するように積層してもよい。また、積層するスフェロイド含有ハイドロゲルの数についても特に制限はなく、目的に応じて積層数を適宜選択することができる。
【0018】
このようにして得られたスフェロイド含有ハイドロゲル積層体は、均一な大きさのスフェロイドが3次元的に配置されているので、例えば、移植片として用いた場合に、組織様の挙動をとりやすい。
【0019】
本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法は、基材ならびに前記基材上に形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板上に、細胞を播種する工程と、播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイドを前記基板上の疎水性領域に形成する工程と、前記基板上の前記スフェロイドが形成された側にハイドロゲルを配置してハイドロゲル複合体を形成するハイドロゲル複合体形成工程と、前記ハイドロゲル複合体から前記基板を剥離して、スフェロイド含有ハイドロゲルを得る工程と、を含む。
かかる構成であることにより、均一な大きさを有する複数のスフェロイドを含有するハイドロゲルを効率的に製造することができる。
【0020】
また、スフェロイドを含有するハイドロゲルは、酸素だけでなくさまざまな物質が透過、拡散しやすい材料であり、また柔らかい材料である。したがってハイドロゲル中に複数の細胞凝集塊(スフェロイド)が形成された場合でも、細胞に物理的損傷を与えることなく、各々のスフェロイドを効率的に維持することが可能となる。更に複数のスフェロイドを含むハイドロゲルを積層することで、スフェロイドを3次元的に配置した状態で維持、培養することが可能となる。
以下、本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法は、基材ならびに前記基材上に形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板上に、細胞を播種する工程を含む。
前記基板における基材としては、通常用いられる基材を特に制限なく用いることができる。基材の材質としては、例えば、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコーン、ダイヤモンド、金属、及びセラミックス等を挙げることができる。本発明においては、基材と架橋体との接着性の観点から、ガラス又は熱可塑性樹脂であることが好ましく、ガラスであることがより好ましい。
【0022】
また本発明における基材は、アミノ基を有するシランカップリング剤、エチレン性不飽和基を有するシランカップリング剤、及びポリリジンから選ばれる少なくとも1種で表面処理された基材であることが好ましい。これにより、基材とその上に形成された架橋体との結合安定性を向上させることができる。
【0023】
また、前記基材は、細胞接着性タンパク質の少なくとも1種で表面処理された基材であることもまた好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤、エチレン性不飽和基を有するシランカップリング剤、及びポリリジンから選ばれる少なくとも1種で表面処理された基材を、細胞接着性タンパク質の少なくとも1種で更に表面処理した基材であることがより好ましい。
細胞接着性タンパク質で表面処理された基材を用いて、基板を構成することにより、例えば、基板上で細胞を培養する場合に、より効率的に細胞集合体を形成することができる。
ここで、細胞接着性タンパク質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テイネシン及びエラスチン等を挙げることができ、中でも、細胞集合体の形成性の観点から、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチンが好ましく、コラーゲン、ゼラチンがより好ましい。
【0024】
本発明において前記基材は、温度応答性層が配置されたものであることが好ましい。これにより、基板からハイドロゲルへのスフェロイド転写をより効率的に行うことができる。
前記温度応答性層は、下限臨界溶解温度以上で疎水性を示し、下限臨界溶解温度以下で親水性を示す温度応答性ポリマーを含んで構成することができる。本発明においては、細胞培養温度下(通常、37℃)では疎水性を示し、ハイドロゲル複合体から基板を剥離する温度条件下では親水性を示す温度応答性ポリマーであることが好ましい。
前記下限臨界溶解温度は、特に限定されないが、スフェロイドの転写性の観点から、細胞培養温度よりも低い温度であることが好ましい。
【0025】
本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーは、培養細胞への障害性の観点から、下限臨界溶解温度が0〜80℃であることが好ましく、0〜50℃であることがより好ましい。
前記温度応答性ポリマーの具体例としては、例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。
【0026】
また前記温度応答性層は、その他のポリマーを含んでいてもよい。具体的には例えば、ポリ−N−エチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピロリジン、ポリ−N−アクリロイルピペリジン、ポリメチルビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体や、ポリポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体や、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体が挙げられる。
【0027】
これらの温度応答性ポリマーは、例えばモノマーの単独重合体の下限臨界溶解温度が0〜80℃を有するようなモノマーの単独または共重合により調製される。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(またはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
また、培養する細胞の種類によって下限臨界溶解温度を調節する必要がある場合や、温度応答性層と基材との相互作用を高める必要が生じた場合や、温度応答性層の親水・疎水性のバランスを調整する必要がある場合などには、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してもよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフトまたはブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質が損なわれない範囲で架橋することも可能である
【0028】
本発明において基材上に温度応答性層を配置する方法としては特に制限はない。例えば、基材としてガラスを用いる場合、ガラス基材をシランカップリング剤で表面処理した後、ガラス基材上に温度応答性ポリマーを構成するモノマーを含む感光性組成物層を形成し、光照射等によってモノマーを重合することで、ガラス基材上に温度応答性ポリマーを含む温度応答性層を形成することができる。
前記シランカップリング剤で表面処理する方法としては、例えば、DATES((N,N’-diethylamino)dithiocarbamoylpropyl(triethoxy)silane)を用いて、表面処理する方法等を挙げることができる。
また、モノマーの重合方法としては、通常のラジカル重合であっても、RAFT重合(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization)等であってもよい。
【0029】
また本発明においては、前記温度応答性層を設けた基材を、さらに前述した細胞接着性タンパク質で表面処理してもよい。これによって、より効率的にスフェロイドを形成することができる。
【0030】
前記基材上に、複数の親水性領域および疎水性領域を形成する方法としては、特に制限なく通常用いられる方法を適用することができる。具体的には例えば、プラズマエッチングを用いる方法や、フォトリソグラフィーを用いる方法等を挙げることができる。
【0031】
前記プラズマエッチングを用いる方法としては、例えば、前記基材上に親水性高分子を含む親水性組成物層を形成し、該親水性組成物層の少なくとも一部を、メタルマスクを用いたプラズマエッチング等で除去することで前記基材が露出した疎水性領域を形成することで、基材上に親水性組成物層が残存した親水性領域と疎水性領域とを形成する方法が挙げられる。
【0032】
また、フォトリソグラフィーを用いる方法としては、例えば、前記基材上に親水性高分子を含む感光性組成物層を形成し、通常のフォトリソグラフィーの手法を用いて、前記感光性組成物層が硬化して形成された親水性領域と、未硬化の感光性組成物層を除去して形成された疎水性領域とを基材上に形成する方法等を挙げることができる。
【0033】
前記親水性組成物層または前記感光性組成物層に含まれる親水性高分子としては、親水性基を含む高分子化合物であれば特に制限なく用いることができる。また、前記親水性基はカチオン性基であっても、アニオン性基であっても、ノニオン性基であってもよい。
本発明における親水性高分子としては、スフェロイドの形成性の観点から、親水性基としてノニオン性基を含む高分子であることが好ましく、ポリアルキレングリコール基を含む高分子であることがより好ましい。
【0034】
前記ポリアルキレングリコール基を含む高分子としては、ポリアルキレングリコールそのものであっても、2以上のポリアルキレングリコール基を有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体であってもよい。
前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体としては、例えば、日油(株)製のSUNBRIGHT(登録商標)PTEシリーズ、HGEOシリーズ等を挙げることができる。
【0035】
本発明においては、基材上に複数の親水性領域および疎水性領域を形成する方法としては、基板の作製効率の観点から、フォトリソグラフィーを用いる方法であることが好ましい。また前記親水性領域は、基板上でのスフェロイド形成性の観点から、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と、前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体に由来するポリマーを含むことが好ましい。
【0036】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と、前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有することが好ましい。
かかる構成の分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、親水性の架橋体を形成することができる。かかる親水性の架橋体は、細胞非接着性の経時安定性が良好であり、例えば、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体を用いて基材上に親水性領域と疎水性領域とが高精度に形成された基板は、該基板上で細胞を培養した場合に、疎水性領域にのみ特異的に細胞が接着するため、高精度に区画化された細胞集合体を形成することができる。また、前記親水性領域は細胞非接着性の経時安定性が良好であり、長期に渡って細胞が3次元的凝集状態を形成した細胞凝集塊(スフェロイド)を維持することができる。また形成されるスフェロイドは、疎水性領域に応じた大きさとなるため、均一な大きさを有するスフェロイド集合体を容易に形成することができる。
【0037】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体において、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の含有数は3以上であることが好ましい。前記ポリアルキレングリコール基の含有数を3以上とすることで、形成された親水性領域の細胞非接着性の経時安定性がより良好になり、区画化された細胞集合体を長期間維持することが容易になる。
また前記ポリアルキレングリコール基の含有数は、経時安定性と良好なスフェロイド形成性の点から、4以上であることが好ましく、4以上64以下であることがより好ましく、4以上16以下であることが更に好ましい。
【0038】
本発明における前記ポリアルキレングリコール基は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。
また前記重合性置換基としては重合性の官能基を有する置換基であってポリアルキレングリコールの末端に結合可能なものであれば特に制限はない。重合性置換基のポリアルキレングリコールの末端への結合態様としては、ポリアルキレングリコールに由来する酸素原子を介した結合態様であっても、ポリアルキレングリコールの末端水酸基が他の元素に置換された結合態様であってもよい。
【0039】
前記重合性置換基は、重合性の官能基そのものであっても、重合性の官能基と連結基とを含んで構成された置換基であってもよい。
本発明における重合性の官能基としては、通常用いられる重合性官能基を特に制限なく用いることができ、例えば、エチレン性不飽和結合を有する基、アジド基等を挙げることができる。本発明においては、親水性領域のパターン形成性の観点から、エチレン性不飽和結合を有する基及びアジド基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アジド基であることがより好ましい。
【0040】
また前記重合性置換基における連結基としては重合性の官能基とポリアルキレングリコール基とを連結可能な基であれば特に制限はなく、例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ジスルフィド及び水素原子から選ばれる少なくとも1種を含んで構成することができる。
具体的には例えば、カルボニル基、アリーレン基、アルキレンカルボニル基、カルボニルアリーレン基、カルバモイルアリーレン基等を挙げることができる。
更に連結基の価数としては少なくとも2価であればよく、3価以上の連結基であってポリアルキレングリコールと2以上の重合性官能基とを連結する連結基であってもよい。
【0041】
末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を構成するポリアルキレングリコール基は、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体に親水性を付与可能なポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。例えば、炭素数2〜4のアルキレングリコール構造単位(例えば、エチレンオキシ、n−プロピレンオキシ、イソプロピレンオキシ、ブチレンオキシ、イソブチレンオキシ等)を含むポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができる。
【0042】
前記ポリアルキレングリコール基におけるアルキレングリコール構造単位は、1種のアルキレングリコール構造単位からなるものであっても、2種以上アルキレングリコール構造単位の組合せからなるものであってもよい。ポリアルキレングリコール基が2種以上のアルキレングリコール構造単位の組合せからなる場合、ブロックポリマーであってもランダムポリマーであってもよい。
また、ポリアルキレングリコール基の重合度としては、親水性の観点から5以上であればよく、5〜1000の重合度を有するポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができ、より好ましくは10〜500である。
【0043】
本発明における、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基は、少なくとも3つの前記ポリアルキレングリコール基における重合性置換基が結合していない方の末端と結合し、前記ポリアルキレングリコール基を互いに連結可能なものであれば特に制限はない。結合様式としては共有結合、配位結合、イオン結合のいずれであってもよい。
具体的には例えば、糖類に由来する連結基、多価アルコールに由来する連結基、多価カルボン酸に由来する連結基、配位結合を介して前記ポリアルキレングリコール基を含む基を結合可能な金属原子等を挙げることができる。
【0044】
前記糖類としては、例えば、グリセルアルデヒド、エリトロース、リボース、グルコース等を挙げることができる。また、多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール等を挙げることができる。更に、多価カルボン酸としては、プロパントリカルボン酸、クエン酸、ベンゼントリカルボン酸等を挙げることができる。また、前記金属原子としては、金、銀、白金、ニッケル、銅等を挙げることができる。
【0045】
本発明においては、親水性と経時安定性の観点から、多価アルコールに由来する連結基であることが好ましく、グリセリンに由来する連結基又はペンタエリスリトールに由来する連結基がより好ましく、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、及びポリペンタエリスリトールから選ばれる化合物に由来する連結基であることが特に好ましい。
【0046】
本発明における末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基は、経時安定性と良好なスフェロイド形成性の観点から、下記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることが好ましい。
【0047】
【化1】



【0048】
一般式(1)中、mは2〜4の整数を表すが、2又は3であることが好ましく、2であることがより好ましい。またnは5〜1000の整数を表すが、10〜500であることが好ましく、10〜300であることがより好ましい。
【0049】
一般式(1)中、Xは重合性置換基を表す。本発明において前記重合性置換基は、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体の架橋硬化性の観点から、下記一般式(3)及び一般式(4)の少なくとも1種で表される重合性置換基であることが好ましい。
【0050】
【化2】



【0051】
一般式(3)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。前記2価の連結基としてはエチレン性不飽和基とポリアルキレングリコール基とを連結可能であれば特に制限はない。例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、イミノ基、及び水素原子の少なくとも1種を含んで構成される2価の連結基を挙げることができ、カルボニル基、エステル基、アミド基、フェニレン基、炭素数2〜4のアルキレン基、から選ばれる2価の連結基又はこれらの組合せからなる2価の連結基であることが好ましい。
本発明においてLは、単結合、又は、カルボニル基、カルボニルフェニレン基、カルバモイルフェニレン基から選ばれる2価の連結基であることがより好ましい。
【0052】
また、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。炭素数1〜3のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。本発明においては、分岐ポリアルキレングリコール誘導体の架橋反応性の観点から、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0053】
一般式(4)におけるLは2価の連結基を表すが、その定義及びその好ましい範囲は前記Lにおける2価の連結基と同様である。
【0054】
また本発明においては、前記重合性置換基の少なくとも1つは下記一般式(5)で表される置換基であることが好ましい。これにより、重合性置換基の反応開始がより長波長の光照射によって可能となる。
【0055】
【化3】

【0056】
一般式(5)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。Lで表される2価の連結基は、前記Lにおける2価の連結基と同様である。
また、iは1又は2を表す。
【0057】
一般式(5)中、Rは置換基を表すが、一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を変化させることができる置換基であれば特に制限はない。中でも一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を長波長側にシフト可能な置換基であることが好ましい。具体的には例えば、ニトロ基、水酸基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロソ基等を好適に挙げることができる。
iが2の場合、2つのRは同一でも異なっていてもよい。
【0058】
また、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、親水性と架橋反応性の観点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0059】
【化4】



【0060】
一般式(2)中、Lは単結合又はメチレン基を表し、pは1又は2を表す。pが1のときLは単結合であることが好ましく、pが2のときLはメチレン基であることが好ましい。
qは1〜70の整数を表す。本発明においては、親水性と架橋反応性の観点から、pが1のとき、qは1〜64であることが好ましく、2〜10であることがより好ましい。またpが2のとき、qは1〜32であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
【0061】
一般式(2)中、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基又は末端に水酸基を有するポリアルキレングリコール基を表す。中でも架橋反応性の観点から、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であることが好ましく、前記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることがより好ましい。
【0062】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、経時安定性とスフェロイド形成性の観点から、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を4以上16以下有し、前記ポリアルキレングリコール基が前記一般式(1)で表されるものであって、前記重合性置換基が前記一般式(3)、一般式(4)及び一般式(5)の少なくとも1種で表されるものであることが好ましい。
【0063】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体の具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
【化5】



【0065】
【化6】



【0066】
【化7】



【0067】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、例えば、3以上のポリエチレングリコール基を有する化合物(以下、「マルチアームPEG」ということがある。例えば、日油(株)製、SUNBRIGHT(登録商標)PTEシリーズ、HGEOシリーズ等)の末端水酸基に対して、重合性置換基を、通常用いられる方法を用いてエステル結合、エーテル結合等で結合することによって合成することができる。例えば、エステル結合の形成は酸塩化物法、活性エステル法等で行うことができる。
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体を用いて、前記基材上に親水性領域を形成する方法としては、例えば、分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含む感光性組成物を用いて基材上に感光性組成物層を形成し、架橋反応により親水性領域を形成することができる。
【0068】
本発明における感光性組成物は、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体の少なくとも1種を含有することが好ましい。かかる感光性組成物を用いることで、例えば、基材上に高精度かつ均一な大きさに区画化された親水性領域と疎水性領域とを形成することができる。
前記感光性組成物においては、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を1種単独で含有することもできるし、2種以上を含有することもできる。
また前記感光性組成物は、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体に加えて、光重合開始剤、溶剤、細胞培養液、界面活性剤、緩衝液、消泡剤、防腐剤等の各種の添加剤等を含んで構成することができる。
【0069】
前記光重合開始剤としては、光照射によって重合反応を開始可能なものであれば特に制限はないが、生細胞に対する障害性が低いものであることが好ましい。具体的には、例えば、IRGACURE 2959、IRGACURE 184(いずれもチバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)等を挙げることができ、細胞毒性と水溶性の点からIRGACURE 2959が好ましい。
【0070】
前記溶剤としては、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を溶解可能であれば特に制限はない。ここでいう溶解可能とは前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を質量基準で0.1%以上溶解できることをいう。
前記溶剤として具体的には、ベンゼン、トルエン、THF、DMF、クロロホルム等の有機溶媒、及び水を好ましく用いることができる。また、溶剤は1種単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
前記感光性組成物における前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体の含有率としては、例えば0.1〜50質量%とすることができ、0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0072】
本発明における基板を作製する方法は、例えば、基材上に前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含む感光性組成物を付与して感光性組成物層を形成する工程と、前記感光性組成物層を、露光処理する硬化工程とを含むことができる。これにより、基材上に、前記架橋体が形成された基板を作製することができる。
前記基板を作製する方法は、必要に応じて、前記硬化工程後に加熱工程、洗浄工程、乾燥工程、滅菌工程等を更に含むことができる。
【0073】
本発明において、基材上に感光性組成物層を形成する工程には、特に制限なく通常の薄膜形成方法を適用することができ、例えば、塗布法、ディップコート法、スピンコート法等を好適に適用することができる。
基材上に形成された感光性組成物層の層厚としては、特に制限はなく基板の使用目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5nm〜1000μmとすることができる。本発明においては、スフェロイドの形成性と維持性の観点から、10nm〜1000nmとすることが好ましく、10nm〜500nmであることがより好ましい。
【0074】
前記基材上に感光性組成物層を形成する工程は、必要に応じて、感光性組成物中の溶剤を除去する工程を含むことができる。前記溶剤を除去する工程としては、前記溶剤に応じて適宜その条件を選択することができ、常温乾燥であっても、加熱乾燥であってもよい。例えば、30〜150℃で1分〜10時間とすることができ、好ましくは35〜120℃で3分〜1時間である。
【0075】
前記硬化工程における露光処理は、前記感光性組成物層を全面露光する工程であっても、所望のパターン様に部分露光する工程であってもよい。本発明においては、所望のパターン様に部分露光する工程であることが好ましく、前記部分露光する工程後に更に現像工程を含むことがより好ましい。これにより、前記架橋体からなる親水性領域と架橋体が形成されていない疎水性領域とが、パターン様に基材上に形成された基板を作製することができる。
【0076】
前記所望のパターン様に部分露光する工程は、所望のパターン様に光透過性を有するマスク(フォトマスク)を介して、部分露光する工程であることが好ましい。また、前記マスクを感光性組成物層に密着させて部分露光を行うことにより、より高精度でパターン様に露光することができる。
【0077】
露光に用いる光源としては、前記感光性組成物層を硬化可能な光源であれば特に制限はない。光源として例えば、X線、電子線、エキシマレーザー、キセノンランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプ等を挙げることができる。中でも低圧又は高圧水銀ランプを好適に用いることができ、10〜2000Wの高圧水銀ランプであることが好ましい。
また露光波長及び露光量についても特に制限はなく、前記感光性組成物に応じて適宜選択することができる。露光波長としては、例えば200〜400nmとすることができ、280〜400nmであることが好ましい。露光量としては、例えば、0.1〜1000mJ/cmとすることができ、1〜200mJ/cmであることが好ましく、10〜20mJ/cmであることがより好ましい。
【0078】
前記現像工程は、前記感光性組成物層における未露光領域を基材上から除去できる方法であれば特に制限はなく、例えば、溶剤を用いた洗浄、及び溶剤への浸漬等を挙げることができ、本発明においては、溶剤として水を用いる洗浄及び水への浸漬であることが好ましい。
【0079】
本発明における親水性領域及び疎水性領域の形状には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、疎水性領域を円状、三角形をはじめとする多角形状、楕円状、ストライプ状等に形成することができる。また親水性領域及び疎水性領域の大きさについても特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0080】
本発明における基板に形成される疎水性領域を、円状に形成した場合の大きさとしては、直径として5μm〜1000μmとすることが好ましく、50μm〜500μmとすることがより好ましい。また、隣接する疎水性領域を隔てる親水性領域の幅としては、50μm〜500μmであることが好ましく、100μm〜200μmであることがより好ましい。更に前記親水性領域における層の厚みとしては、10nm〜1000nmであることが好ましく10nm〜500nmであることがより好ましい。
親水性領域と疎水性領域とを前記大きさで構成することにより、機能性の高いスフェロイドをより効率的に作成することができ、更により長期に渡って維持することが可能となる。
本発明における親水性領域及び疎水性領域の形状及び大きさは、上述の硬化工程における露光処理を、マスクを介した露光処理とすることで、容易にかつ高い精度で制御することができる。
【0081】
本発明において前記基板上に播種する細胞としては、接着性細胞であれば、種および由来組織は特に限定されない。例えば、生体より採取した直後の細胞および癌化した樹立細胞系等を挙げることができ、好ましくは特定の臓器の機能発現および病態に関連する細胞である。より具体的には、薬物代謝に関連する肝実質細胞、血糖値制御に関連する膵臓β細胞、骨再生に関連する骨芽細胞、軟骨細胞、神経伝達にかかわる神経幹細胞、発毛に関連する毛母細胞、がん細胞、繊維芽細胞、および様々な細胞へ分化誘導できる胚性幹細胞、及び間葉系幹細胞等を挙げることができる。またこれら細胞と相互作用する非実質細胞も用いることができる。
【0082】
本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法は、前記基板上に播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイドを前記基板上の疎水性領域に形成する工程を含む。
基材上に複数の親水性領域と疎水性領域とが形成された基板を用いることで、疎水性領域にのみ細胞が配置され、親水性領域に細胞が接着しないことにより、基板上の疎水性領域にのみスフェロイドが形成される。
【0083】
本発明において基板上で細胞を培養する方法としては、通常の細胞培養方法を制限なく適用することができる。例えば、前記基板上に細胞培養培地を配置し、前記細胞培養培地へ所望の細胞を播種した後、所望の細胞に応じて選択される培養条件を適用することで、基板上の疎水性領域に所望の細胞を選択的に配置することができる。
【0084】
各種細胞の通常の細胞培養培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、MEMα、RPMI1640等を挙げることができ、培養対象となる細胞種に応じて適宜選択される。またこれらの培地に対しては、必要に応じて、血清、各種ビタミン、各種抗生物質等、通常の細胞培養に適用可能な各種添加剤を添加してもよい。これらの添加剤の濃度は通常用いられる濃度であればよく、例えば、血清は培地量の5〜10容量%とすることができる。
また各種細胞の培養条件は、細胞に応じて適宜選択できるが、例えば、5%CO、37℃とすることができる。
また、倍地中の細胞の播種濃度としては例えば、1×10〜1×10cells/mLとすることでき、1×10〜1×10cells/mLであることが好ましい。
【0085】
本発明においては、必要に応じて前記疎水性領域に予めフィーダー細胞を配置することができる。すなわち本発明においては、前記基板上の疎水性領域にフィーダー細胞層を形成し、形成されたフィーダー細胞層上で、細胞を培養することができる。
予めフィーダー細胞層を形成することで、培養細胞のスフェロイド形成がより効率的に進行し、スフェロイドの安定性が向上する。前記フィーダー細胞としては、例えば、COS−1細胞、血管内皮細胞(例えば、大日本製薬製「ヒト臍帯静脈血管内皮細胞」)、繊維芽細胞等を挙げることができる。
【0086】
本発明において基板上で細胞を培養する期間としては、細胞が基板上の疎水性領域にスフェロイドを形成可能な期間以上であれば特に制限はない。スフェロイドの形成に要する期間としては、通常の培養条件であれば例えば、数十分〜48時間である。
本発明においては、スフェロイドのハイドロゲル中における保持性の観点から、スフェロイドを形成した後も、細胞培養を継続することが好ましい。したがって細胞培養は、細胞を播種してから少なくとも5日間行うことが好ましく、7〜30日間であることがより好ましい。
細胞培養を5日間以上行うことで、スフェロイドが生体内機能に近い状態になり、スフェロイドの基板からハイドロゲルへの転写性が向上し、スフェロイドのハイドロゲル中における保持性がより良好になる。
【0087】
本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法は、前記基板上の前記スフェロイドが形成された側にハイドロゲルを配置してハイドロゲル複合体を形成するハイドロゲル複合体形成工程を含む。
基板上のスフェロイドが形成された側に、ハイドロゲルとスフェロイドとが接触するようにハイドロゲルを配置することで、基板とスフェロイドとハイドロゲルとを含み、基板上のスフェロイドがハイドロゲル中に転写されたハイドロゲル複合体が形成される。
【0088】
前記ハイドロゲルとしては、親水性高分子を、例えば架橋することで水に不溶化したものを水で膨潤させたものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、ポリオキシアルキレングリコール、各種のポリオキシアルキレングリコール誘導体等の合成高分子であっても、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、多糖類(セルロース)等の天然高分子、天然高分子を化学修飾した高分子、あるいは前記高分子からなるいずれかの混合体等を挙げることができる。
またハイドロゲルを基板上に配置する方法としては、ハイドロゲルと基板上のスフェロイドが接触できれば特に制限なく、通常用いられる方法を適用することができる。
【0089】
本発明において前記ハイドロゲル複合体形成工程は、親水性高分子を含む感光性組成物を前記基板上の前記スフェロイドが形成された側に配置して前記スフェロイドと接触させる工程と、前記感光性組成物を硬化させる工程とを含むことが好ましい。これにより、ハイドロゲル複合体をより効率的に形成することができる。
【0090】
前記親水性高分子としては、架橋によって水に対して不溶化できるものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、ポリオキシアルキレングリコール、各種のポリオキシアルキレングリコール誘導体等の合成高分子であっても、ゼラチン、多糖類(セルロース)等の天然高分子であっても、天然高分子を化学修飾した高分子であってもよい。
また、親水性高分子の架橋方法は、親水性高分子の種類に応じて適宜選択することができる。
【0091】
本発明における前記親水性高分子としては、ハイドロゲルの形成性およびそのハンドリング性、スフェロイドの維持性の観点から、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の4以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する4価以上の連結基とを有し、重量平均分子量が10000以上のハイドロゲル形成用マクロモノマーであることが好ましい。
【0092】
本発明におけるハイドロゲル形成用マクロモノマー(以下、「分岐ポリアルキレングリコール誘導体」ということがある)において、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の含有数は、スフェロイドの保持性と維持性の観点から、4以上であることが好ましく、4以上64以下であることがより好ましく、8以上16以下であることが更に好ましい。
【0093】
本発明における前記ポリアルキレングリコール基は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。
また前記重合性置換基としては重合性の官能基を有する置換基であってポリアルキレングリコールの末端に結合可能なものであれば特に制限はない。重合性置換基のポリアルキレングリコールの末端への結合態様としては、ポリアルキレングリコールに由来する酸素原子を介した結合態様であっても、ポリアルキレングリコールの末端水酸基が他の元素に置換された結合態様であってもよい。
【0094】
前記重合性置換基は、重合性の官能基そのものであっても、重合性の官能基と連結基とを含んで構成された置換基であってもよい。
本発明における重合性の官能基としては、通常用いられる重合性官能基を特に制限なく用いることができ、例えば、エチレン性不飽和結合を有する基、アジド基等を挙げることができる。本発明においては、親水性領域のパターン形成性の観点から、エチレン性不飽和結合を有する基及びアジド基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を有する基であることがより好ましい。
【0095】
また前記重合性置換基における連結基としては重合性の官能基とポリアルキレングリコール基とを連結可能な基であれば特に制限はなく、例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ジスルフィド及び水素原子から選ばれる少なくとも1種を含んで構成することができる。
具体的には例えば、カルボニル基、アリーレン基、アルキレンカルボニル基、カルボニルアリーレン基、カルバモイルアリーレン基等を挙げることができる。
更に連結基の価数としては少なくとも2価であればよく、3価以上の連結基であってポリアルキレングリコールと2以上の重合性官能基とを連結する連結基であってもよい。
【0096】
末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を構成するポリアルキレングリコール基は、本発明におけるハイドロゲル形成用マクロモノマーに親水性を付与可能なポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。例えば、炭素数2〜4のアルキレングリコール構造単位(例えば、エチレンオキシ、n−プロピレンオキシ、イソプロピレンオキシ、ブチレンオキシ、イソブチレンオキシ等)を含むポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができる。
【0097】
前記ポリアルキレングリコール基におけるアルキレングリコール構造単位は、1種のアルキレングリコール構造単位からなるものであっても、2種以上アルキレングリコール構造単位の組合せからなるものであってもよい。ポリアルキレングリコール基が2種以上のアルキレングリコール構造単位の組合せからなる場合、ブロックポリマーであってもランダムポリマーであってもよい。
また、ポリアルキレングリコール基の重合度としては、親水性の観点から5以上であればよく、5〜1000の重合度を有するポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができ、より好ましくは10〜500である。
【0098】
本発明における、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基と結合する4価以上の連結基は、少なくとも4つの前記ポリアルキレングリコール基における重合性置換基が結合していない方の末端とそれぞれ結合し、前記ポリアルキレングリコール基を互いに連結可能なものであれば特に制限はない。結合様式としては共有結合、配位結合、イオン結合のいずれであってもよいが、ハイドロゲルの安定性の観点から共有結合であることが好ましい。
具体的には例えば、糖類に由来する連結基、多価アルコールに由来する連結基、多価カルボン酸に由来する連結基、配位結合を介して前記ポリアルキレングリコール基を含む基を結合可能な金属原子等を挙げることができる。
【0099】
前記糖類としては、例えば、グリセルアルデヒド、エリトロース、リボース、グルコース等を挙げることができる。また、多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール等を挙げることができる。更に、多価カルボン酸としては、プロパントリカルボン酸、クエン酸、ベンゼントリカルボン酸等を挙げることができる。また、前記金属原子としては、金、銀、白金、ニッケル、銅等を挙げることができる。
【0100】
本発明においては、親水性と経時安定性の観点から、多価アルコールに由来する連結基であることが好ましく、グリセリンに由来する連結基又はペンタエリスリトールに由来する連結基がより好ましく、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、及びポリペンタエリスリトールから選ばれる化合物に由来する連結基であることが特に好ましい。
【0101】
本発明における末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基は、経時安定性と良好なスフェロイド形成性の観点から、下記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることが好ましい。
【0102】
【化8】



【0103】
一般式(1)中、mは2〜4の整数を表すが、2又は3であることが好ましく、2であることがより好ましい。またnは5〜1000の整数を表すが、10〜500であることが好ましく、10〜300であることがより好ましい。
【0104】
一般式(1)中、Xは重合性置換基を表す。本発明において前記重合性置換基は、ハイドロゲル形成用マクロモノマーの架橋硬化性の観点から、下記一般式(3)及び一般式(4)の少なくとも1種で表される重合性置換基であることが好ましい。
【0105】
【化9】



【0106】
一般式(3)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。前記2価の連結基としてはエチレン性不飽和基とポリアルキレングリコール基とを連結可能であれば特に制限はない。例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、イミノ基、及び水素原子の少なくとも1種を含んで構成される2価の連結基を挙げることができ、カルボニル基、エステル基、アミド基、フェニレン基、炭素数2〜4のアルキレン基、から選ばれる2価の連結基又はこれらの組合せからなる2価の連結基であることが好ましい。
本発明においてLは、単結合、又は、カルボニル基、カルボニルフェニレン基、カルバモイルフェニレン基から選ばれる2価の連結基であることがより好ましい。
【0107】
また、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。炭素数1〜3のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。本発明においては、分岐ポリアルキレングリコール誘導体の架橋反応性の観点から、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0108】
一般式(4)におけるLは2価の連結基を表すが、その定義及びその好ましい範囲は前記Lにおける2価の連結基と同様である。
【0109】
また本発明においては、前記重合性置換基の少なくとも1つは下記一般式(5)で表される置換基であることが好ましい。これにより、重合性置換基の反応開始がより長波長の光照射によって可能となる。
【0110】
【化10】



【0111】
一般式(5)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。Lで表される2価の連結基は、前記Lにおける2価の連結基と同様である。
また、iは1又は2を表す。
【0112】
一般式(5)中、Rは置換基を表すが、一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を変化させることができる置換基であれば特に制限はない。中でも一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を長波長側にシフト可能な置換基であることが好ましい。具体的には例えば、ニトロ基、水酸基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロソ基等を好適に挙げることができる。
iが2の場合、2つのRは同一でも異なっていてもよい。
【0113】
また、本発明におけるハイドロゲル形成用マクロモノマーは、親水性と架橋反応性の観点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0114】
【化11】



【0115】
一般式(2)中、Lは単結合又はメチレン基を表し、pは1又は2を表す。pが1のときLは単結合であることが好ましく、pが2のときLはメチレン基であることが好ましい。
qは1〜70の整数を表す。本発明においては、親水性と架橋反応性の観点から、pが1のとき、qは2〜64であることが好ましく、2〜10であることがより好ましい。またpが2のとき、qは1〜32であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
【0116】
一般式(2)中、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基又は末端に水酸基を有するポリアルキレングリコール基を表す。中でも架橋反応性の観点から、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であることが好ましく、前記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることがより好ましい。
【0117】
本発明において前記ハイドロゲル形成用マクロモノマーは、スフェロイドの保持性と維持性の観点から、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を4以上16以下有し、前記ポリアルキレングリコール基が前記一般式(1)で表されるものであって、前記重合性置換基が前記一般式(3)、一般式(4)及び一般式(5)の少なくとも1種で表されるものであることが好ましく、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を4以上16以下有し、前記ポリアルキレングリコール基が前記一般式(1)で表され、mが2であってnが50〜500であって、前記重合性置換基が前記一般式(3)で表されるものであることがより好ましい。
【0118】
本発明におけるハイドロゲル形成用マクロモノマーの具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、下記具体例中のポリアルキレングリコールの重合度(n)はハイドロゲル形成用マクロモノマーの重量平均分子量から算出される平均重合度を意味する。また、ハイドロゲル形成用マクロモノマーの重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0119】
【化12】



【0120】
【化13】



【0121】
前記ハイドロゲル形成用マクロモノマーは、例えば、4以上のポリエチレングリコール基を有する化合物(以下、「マルチアームPEG」ということがある。例えば、日油(株)製、SUNBRIGHT(登録商標)PTEシリーズ、HGEOシリーズ等)の末端水酸基に対して、重合性置換基を、通常用いられる方法を用いてエステル結合、エーテル結合等で結合することによって合成することができる。例えば、エステル結合の形成は酸塩化物法、活性エステル法等で行うことができる。
【0122】
前記感光性組成物における前記ハイドロゲル形成用マクロモノマーの含有率としては、例えば、0.1〜50質量%とすることができ、1〜20質量%であることが好ましい。
【0123】
本発明において前記感光性組成物は、親水性高分子(好ましくは、前記ハイドロゲル形成用マクロモノマー)の少なくとも1種を含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成することができる。
その他の成分としては、例えば、光重合開始剤、細胞培養液、界面活性剤、緩衝液、消泡剤、防腐剤等の各種の添加剤等を挙げることができる。
【0124】
本発明において前記感光性組成物は、ハイドロゲルの形成性とスフェロイドの保持性の観点から、細胞培養液、緩衝液、生理食塩水および水の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0125】
また前記光重合開始剤としては、光照射によって重合反応を開始可能なものであれば特に制限はないが、生細胞に対する障害性が低いものであることが好ましい。具体的には、例えば、IRGACURE 2959、IRGACURE 184(いずれもチバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)等を挙げることができ、細胞毒性と水溶性の点からIRGACURE 2959が好ましい。
【0126】
本発明において基板上に感光性組成物を配置する方法には、特に制限なく通常の液体付与方法を適用することができる。例えば、塗布法、滴下法等を好適に適用することができる。
基板上に付与された感光性組成物が形成する感光性組成物層の層厚としては、基板上のスフェロイドが感光性組成物によって被覆される層厚以上であれば特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。例えば、50〜3000μmとすることができる。中でも、50μm〜1000μmとすることが好ましく、50μm〜300μmであることがより好ましい。
【0127】
前記感光性組成物を硬化させる方法としては、感光性組成物を硬化可能であれば特に制限はないが、露光処理であることが好ましい。
露光に用いる光源としては、前記感光性組成物層を硬化可能な光源であって、生細胞に対する障害が少ない光源であることが好ましい。光源としては例えば、低圧又は高圧水銀ランプを好適に用いることができ、10〜2000Wの高圧水銀ランプであることが好ましい。
また露光波長及び露光量については、生細胞に対する障害が少ない条件であれば特に制限はなく、前記感光性組成物に応じて適宜選択することができる。露光波長としては、例えば200〜400nmとすることができ、320〜400nmであることが好ましい。露光量としては、例えば、1〜200mW/cmとすることができ、5〜100mW/cmであることが好ましく、10〜50mW/cmであることがより好ましい。
【0128】
本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法は、前記ハイドロゲル複合体から前記基板を剥離して、スフェロイド含有ハイドロゲルを得る工程を含む。ハイドロゲル複合体を形成した後に基板のみを剥離することで、スフェロイド含有ハイドロゲルをより効率よく作製することができる。
【0129】
ハイドロゲル複合体から基板を剥離する方法としては、特に制限なく通常の方法を適用することができる。例えば、ハイドロゲルをピンセットでつまんで基板から剥離することができる。基板上に形成されたスフェロイドは基板からハイドロゲルへ転写されているのでハイドロゲルゲルをはがすだけでスフェロイドもハイドロゲル内に回収される。
また基板上の疎水性領域に温度応答性ポリマーを配置した場合、スフェロイド基板上でハイドロゲルを形成した後に、温度を下げることによって、スフェロイドは基板から効率的に剥離されてハイドロゲルへ転写することができる。これによりハイドロゲルをはがすことによってスフェロイドはより効率的にハイドロゲル内に回収される。
また、ハイドロゲル複合体を形成してから基板を剥離するまでの時間については特に制限はないが、スフェロイドの保持性の観点から、複合体形成直後から72時間以内であることが好ましく、24時間以内であることがより好ましい。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0131】
まず、本発明に用いられる分岐ポリアルキレングリコール誘導体、および該ポリアルキレングリコールを含む感光性組成物を用いて作製された基板について具体的に説明する。
(参考例1)
〜分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)の合成〜
4−アジド−安息香酸12g(93.6mmol)を40mLの塩化チオニルに溶解し、1.5時間、加熱還流した。反応混合物を減圧で濃縮、少量のヘキサンを加えて再度減圧で濃縮した後、真空下で乾燥し、白色固体として目的物の4−アジド−安息香酸クロリド9.3g(51.2mmol、収率70%)を得た。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.11-8.15 (2H, m), 7.11-7.16 (2H, m).
【0132】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、4−ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた4−アジド−安息香酸クロリド363mg(2.0mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有するペンタエリスリトール誘導体)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0133】
マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりに下記表1に示したマルチアームPEGを用いた以外は、参考例1と同様にして分岐ポリアルキレングリコール誘導体を合成した。収率、性状等を表1に示した。
【0134】
【表1】



【0135】
(参考例2)
5−アミノ−サリチル酸15.3g(0.1mol)を蒸留水80mLと濃塩酸20mLの混合溶液に懸濁させ、室温で30分攪拌した。混合溶液を氷浴中で冷却した後、亜硝酸ナトリウム6.9g(0.1mol)の水溶液10mLを溶液の反応液の液温が5℃を超えないような速度で滴下し、そのまま1時間攪拌した。続いて、アジ化ナトリウム7.15 g(0.11mol)の水溶液30mLを反応液の液温が10℃を超えない速度で滴下した。氷浴を外して室温に戻しつつ、気泡が発生しなくなるまで激しく攪拌した。生成した沈殿を濾取し、さらに沈殿を蒸留水で洗浄した。得られた固体は、暗所で風乾した後、減圧下で完全に乾燥し、5−アジド−サリチル酸を白色固体として12.0g(67.0mmol、収率=67%)得た。
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 11.14(1H, bs), 7.41 (1H, d, J = 3.0 Hz), 6.88 (1H, dd, J = 8.5, 3.0 Hz), 6.68 (1H, d, J = 8.4 Hz).
【0136】
得られた5−アジド−サリチル酸5g(27.9mmol)を塩化チオニル50mLに懸濁し、70℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷し、過剰の塩化チオニルを減圧で除き、5−アジド−サリチル酸クロリドの赤色固体を定量的に得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 7.39 (1H, d, J = 2.9 Hz), 7.26 (1H, dd, J = 8.8, 2.9 Hz), 7.00 (1H, d, J = 8.8 Hz).
【0137】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた5−アジド−サリチル酸クロリド358mg(2mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有する化合物)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PB20K)1.77g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0138】
(参考例3)
参考例2において、マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりにHGEO−20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は実施例4と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PB20K)1.72g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0139】
(参考例4)
5−アミノ−2−ニトロ安息香酸18.1g(0.1mol)を蒸留水80mLと濃塩酸20mLの混合溶液に懸濁させ、室温で30分攪拌した。混合溶液を氷浴中で冷却した後、亜硝酸ナトリウム6.9g(0.1mol)の水溶液10mLを溶液の反応液の液温が5℃を超えないような速度で滴下し、そのまま1時間攪拌した。続いて、アジ化ナトリウム7.15 g(0.11mol)の水溶液30mLを反応液の液温が10℃を超えない速度で滴下した。氷浴を外して室温に戻しつつ、気泡が発生しなくなるまで激しく攪拌した。生成した沈殿を濾取し、さらに沈殿を蒸留水で洗浄した。得られた固体は、暗所で風乾した後、減圧下で完全に乾燥し、5−アジド−2−ニトロ安息香酸を白色固体として19.2g(92.4mmol、収率=92%)を得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 13.99(1H, bs), 8.09-8.06 (1H, m), 7.45-7.42 (2H, m).
【0140】
得られた5−アジド−2−ニトロ安息香酸1.0g(4.8mmol)を塩化チオニル10mLに懸濁し、70℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷し、過剰の塩化チオニルを減圧で除き、5−アジド−サリチル酸クロリドの赤色固体を定量的に得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 8.10-8.07 (1H, m), 7.46-7.42 (2H, m).
【0141】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた5−アジド−2−ニトロ安息香酸クロリド417mg(2mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有する化合物)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)1.81(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0142】
(参考例5)
参考例4において、マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりにHGEO−20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は参考例4と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PC20K)1.71g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0143】
(参考例6)
アクリロイルクロリド181mg(2.0mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のベンゼン(脱水)溶液(5mL)を用意し、そのまま5分攪拌を続けた後、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有するペンタエリスリトール誘導体)2g(0.1mmol)のベンゼン(脱水)溶液(20mL)へゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PD20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0144】
(参考例7)
参考例6において、マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりに、HGEO−20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は、参考例6と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PD20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0145】
(参考例8)
参考例6において、マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりに、HGEO−40000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は、参考例6と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PD40K)を得た。
【0146】
(参考例9)
〜基板の作製〜
以下の作業は、すべてイエロールーム内で行った。
参考例1で作製した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(マルチアームPEG−アジド:4PA20K)をトルエンに溶解し、感光性組成物Aとして4PA20Kのトルエン溶液(1%)を調製した。基材としてポリ−L−リジンコートスライドガラス(松浪硝子工業(株)製。白切放NO.1スライドガラス丸型21mmΦ。以下「PLLコートガラス」と略す)を使用し、PLLコートガラス上に、感光性組成物Aを110μL滴下後、スピンコート法(500rpm×5秒+3000rpm×20秒+6000rpm×1秒)により成膜し、常温で放置して乾燥させた。これに、石英ガラス製フォトマスク(直径100μmの円形パターンが多数配置されたもの)を密着させ、高圧水銀灯(200W)を用いて40秒間露光を行った後、脱イオン水で洗浄(現像工程:流水15秒間+浸漬20分間)した。常温で乾燥し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0147】
(参考例10)
参考例9において、基材としてPLLコートガラスに代えて、アミノプロピルシランコートガラス(松浪硝子工業(株)製。APSコートNO.1カバーガラス丸型21mmΦ。以下「APSコートガラス」と略す)を用いた以外は、参考例9と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0148】
(参考例11)
参考例9において、基材としてPLLコートガラスに代えて、MASコートガラス(松浪硝子工業(株)製)を用いた以外は、参考例9と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0149】
(参考例12)
参考例9において、基材としてPLLコートガラスに代えて、PLLコート上にコラーゲンをさらにコーティングした「コラーゲンコートガラス」を用いた以外は、参考例9と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
尚、コラーゲンコートガラスは、PLLコートガラス上にブタI型コラーゲン(日本ハム(株)製)の0.1%水溶液を400μL滴下し、スピンコート法(350rpm×5秒+500rpm×5秒+1000rpm×10秒+1500rpm×10秒+6000rpm×1秒)にて成膜した後、室温で乾燥する工程を2回繰り返して作製した。
【0150】
(参考例13)
参考例9において、基材としてPLLコートガラスに代えて、PLLコート上にゼラチンをさらにコーティングした「ゼラチンコートガラス」を用いた以外は、参考例9と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
尚、ゼラチンコートガラスは、PLLコートガラスを用い、ゼラチン(新田ゼラチン社製)の0.1%溶液を400μL滴下し、スピンコート法(350rpm×5秒+500rpm×5秒+1000rpm×10秒+1500rpm×10秒+6000rpm×1秒)にて成膜した後、室温で乾燥して作製した。
【0151】
(参考例14)
参考例13において、コラーゲンコートガラスの作製方法を、PLLコートガラスをブタI型コラーゲン(日本ハム(株)製)の0.02%水溶液に3時間浸漬後、脱イオン水の流水で洗浄、乾燥させる方法に変更した以外は、参考例13と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0152】
(参考例15)
参考例9において、感光性組成物Aに代えて、マルチアームPEG−アジド(4PA20K)の濃度を0.5%とした感光性組成物Bを用いた以外は、参考例9と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0153】
(参考例16)
参考例9において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体として4PA20Kに代えて、参考例2〜5で合成した各種の分岐ポリアルキレングリコール誘導体をそれぞれ用いた以外は参考例9と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0154】
(参考例17)
参考例9において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)に代えて、参考例4で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)を用い、露光条件として高圧水銀灯(200W)で3秒間とした以外は、参考例9と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0155】
(参考例18)
参考例9において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)に代えて、参考例4で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)を用い、露光条件をフォトマスク上にフィルター(シグマ光機(株)製、UTVAF36U)を配置して、高圧水銀灯(200W)で10秒間の露光とした以外は、参考例9と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0156】
(参考例19)
参考例10〜14において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)に代えて、参考例2で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PB20K)又は参考例4で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)を用い、露光条件をフォトマスク上にフィルター(シグマ光機(株)製、UTVAF36U)を配置して、高圧水銀灯(200W)で10秒間の露光とした以外は、参考例10〜14とそれぞれ同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0157】
(参考例20)
参考例6及び参考例7で作製した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PD20K、8PD20K)の濃度が1%であって、光重合開始剤としてIRGACURE2959の濃度が0.05%となるようにトルエンに溶解して、感光性組成物Dを調製した。基材としてポリ−L−リジンコートスライドガラス(松浪硝子工業(株)製。白切放NO.1スライドガラス丸型21mmΦ。以下「PLLコートガラス」と略す)を使用し、PLLコートガラス上に、感光性組成物Dを110μL滴下後、スピンコート法(500rpm×5秒+3000rpm×20秒+6000rpm×1秒)により成膜し、常温で放置して乾燥させた。これに、石英ガラス製フォトマスク(直径100μmの円形パターンが多数配置されたもの)を密着させ、高圧水銀灯(200W)を用いて40秒間露光を行った後、脱イオン水で洗浄(現像工程:流水15秒間+浸漬20分間)した。常温で乾燥し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、いずれの分岐ポリアルキレングリコール誘導体を用いた場合にも、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0158】
(実施例1)
参考例9で作製した後、滅菌作業を行った基板を、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットした。培地としてMEMα(血清としてFBS(ウシ胎児血清)を10容量%含む。以下、使用した培地は全て同様に血清を含んでいる)を添加し、そこに骨芽細胞株MC3T3−E1を細胞濃度1×10cells/mLにて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並び、均一な大きさを有する骨芽細胞スフェロイドのアレイが形成された。形成された骨芽細胞スフェロイドのアレイを位相差光学顕微鏡(倍率×40)により観察した様子を図1に示す。
また、同様にして他の参考例で作製した基板を用いた場合においても、同様に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並び、均一な大きさ(約100μm)を有する骨芽細胞スフェロイドのアレイが形成された。
【0159】
上記で得られたスフェロイドアレイ培養基板について、21日間培養を継続した(培地は2日毎に交換した)。その後、スフェロイドアレイ培養基板を取り出して、テフロン(登録商標)プレートの上に乗せた。この培養基板上に0.05%の重合開始剤(IRGACURE2959)共存下、10%の分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PD20K)を含むMEMα培地溶液(0.22μmのフィルターを通したもの)を140μl滴下した。次いでフィルター(シグマ光機(株)製、紫外透過可視吸収フィルター、UTVAF−50S−36U)を被せ、高圧水銀ランプを照射し(25mW/cm、35秒)ゲル化させて、ハイドロゲル複合体を形成した。
ハイドロゲル複合体を形成して1時間後に、形成したハイドロゲル複合体から、ハイドロゲルをピンセットで剥離したところ、スフェロイドが基板からハイドロゲルに転写されたスフェロイド含有ハイドロゲルが得られた。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルは、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてMEMαを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を14日間継続した。スフェロイド含有ハイドロゲルの培養8日後の状態を図2に示す。
【0160】
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、下記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。スフェロイド含有ハイドロゲルをMTT染色した様子を図3に示す。
【0161】
−MTT染色−
MTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide、和光純薬製)の0.5mg/ml溶液(Memα:GIBCO社製)を調製した。
12ウェルプレートの底面にセットしたスフェロイド含有ハイドロゲルに上記MTT溶液2mlを加えて、3時間インキュベートした。
【0162】
(実施例2)
実施例1において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体として、8PD20Kの代わりに4PD20Kを含む培地溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてスフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
同様にMTT染色にて、スフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0163】
(実施例3)
実施例1において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体として、8PD20Kの代わりに8PD40Kを含む培地溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてスフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
同様にMTT染色にて、スフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0164】
(実施例4)
〜スフェロイド含有ハイドロゲル積層体の作製〜
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルは、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてMEMαを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を1日間継続した。その後、基板を剥離した側同士が接触するように2層を積層してスフェロイド含有ハイドロゲル積層体を作製した。得られたハイドロゲル積層体について、さらに10日培養を継続した。
また、基板を剥離した側とその反対側とが接触するように5層を積層してハイドロゲル積層体を作製した。得られたスフェロイド含有ハイドロゲル積層体について、さらに10日培養を継続した。
いずれのスフェロイド含有ハイドロゲル積層体においても、スフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0165】
(実施例5)
参考例9で作製した後、滅菌作業を行った基板を、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットした。培地としてDMEMを添加し、そこにウシ膝関節軟骨細胞を細胞濃度1×10cells/mLにて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並び、均一な大きさ(約100μm)を有するウシ膝関節軟骨細胞スフェロイドのアレイが形成された。
また、同様にして他の参考例で作製した基板を用いた場合においても、同様に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並び、均一な大きさ(約100μm)を有するウシ膝関節軟骨細胞スフェロイドのアレイが形成された。
【0166】
上記で得られたスフェロイドアレイ培養基板について、14日間培養を継続した。その後、スフェロイドアレイ培養基板を取り出して、テフロン(登録商標)プレートの上に乗せた。この培養基板上に0.05%の重合開始剤(IRGACURE2959)共存下、10%の分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PD40K)を含むDMEM培地溶液(0.22μmのフィルターを通したもの)を140μl滴下した。次いでフィルターを被せ、高圧水銀ランプを照射し(25mW/cm、35秒)ゲル化させて、ハイドロゲルを形成した。
ハイドロゲル複合体を形成して24時間後に、ハイドロゲル複合体からハイドロゲルをピンセットで剥離したところ、スフェロイドが基板からハイドロゲルに転写されたスフェロイド含有ハイドロゲルが得られた。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルは、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてDMEMを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を14日間継続した。
【0167】
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0168】
(実施例6)
参考例9で作製した後、滅菌作業を行った基板を、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットした。培地としてWilliams‘E培地を添加し、そこに肝細胞を細胞濃度1×10cells/mLにて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並び、均一な大きさ(約100μm)を有する肝細胞スフェロイドのアレイが形成された。
また、同様にして他の参考例で作製した基板を用いた場合においても、同様に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並び、均一な大きさ(約100μm)を有する肝細胞スフェロイドのアレイが形成された。
【0169】
上記で得られたスフェロイドアレイ培養基板について、21日間培養を継続した。その後、スフェロイドアレイ培養基板を取り出して、テフロン(登録商標)プレートの上に乗せた。この培養基板上に0.05%の重合開始剤(IRGACURE2959)共存下、10%の分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PD40K)を含むWilliams‘E培地溶液(0.22μmのフィルターを通したもの)を140μl滴下した。次いでフィルターを被せ、高圧水銀ランプを照射し(25mW/cm、35秒)ゲル化させて、ハイドロゲルを形成した。
ハイドロゲル複合体を形成して24時間後に、ハイドロゲル複合体からハイドロゲルをピンセットで剥離したところ、スフェロイドが基板からハイドロゲルに転写されたスフェロイド含有ハイドロゲルが得られた。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルは、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてWilliams‘Eを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を14日間継続した。
【0170】
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0171】
(実施例7)
白切スライドガラス(松浪硝子工業(株)製、丸型21mmφ)をオゾン洗浄(15分×2回)した。これをカップリング剤DATES((N,N’-diethylamino)dithiocarbamoylpropyl(triethoxy)silane)1ml、クロロホルム8ml、メタノール1ml、濃塩酸85μlの混合溶液に30分浸した。その後、70℃で30分乾燥させ、クロロホルム、メタノール、ミリQ水で順次で洗浄後、デシケーターで減圧乾燥した。
これを無垢テフロン(登録商標)容器にいれ、1時間アルゴンガスでバブリングした4mol/lのIPAAm(イソプロピルアクリルアミド)のTHF溶液で満たした。空気が入らないように石英ガラスを被せて25mW/cmで10分間、UV照射した。その後、メタノール、ミリQ水で順次洗浄し、乾燥させた。
次いで0.15%のゼラチン水溶液に2時間浸漬後、乾燥してゼラチンコートを行った。
以上のようにして温度応答性層を有するガラス基材を得た。
【0172】
参考例9において、PLLコートスライドガラスの代わりに、上記で得られた温度応答性層を有するガラス基材を用いた以外は、参考例9と同様にして、基材上に複数の親水性領域および疎水性領域が形成された基板を作製した。
このようにして作製した基板を用いた以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲル複合体を形成した。
ハイドロゲル複合体を形成して24時間後に、25℃の温度条件下で、ハイドロゲル複合体からハイドロゲルをピンセットで剥離したところ、スフェロイドが基板からハイドロゲルに転写されたスフェロイド含有ハイドロゲルが得られた。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルは、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてMEMαを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を14日間継続した。
【0173】
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
また、上記においてゼラチンコートの代わりに、フィブロネクチンまたはコラーゲンをコートした基材を用いた場合においても同様の結果が得られた。
【0174】
(実施例8)
参考例9で作製した後、滅菌作業を行った基板を、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットし、培地としてDMEM(血清としてFBSを10容量%含む)を用い、ウシ大動脈血管内皮細胞(BAEC)を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並んだ。
このBAECがパターン状に培養された基板に、培地としてWilliams‘E(血清としてFBSを10容量%含む)を用い、ラット初代肝細胞を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内にパターン化されたBAEC上に均一な大きさを有する肝細胞の細胞塊(スフェロイド)が得られた。
このスフェロイドが形成された基板を用いて、実施例1と同様にしてスフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルは、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてWilliams‘Eを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を14日間継続した。
【0175】
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0176】
(実施例9)
パターン化基板を滅菌処理し、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットし、培地としてDMEM(血清としてFBSを10容量%含む)を用い、マウス繊維芽細胞(NIH−3T3)を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並んだ。このNIH−3T3がパターン状に培養された基板に、培地としてWilliams‘E(血清としてFBSを10容量%含む)を用い、ラット初代肝細胞を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内にパターン化されたNIH−3T3上に均一な大きさを有する肝細胞の細胞塊(スフェロイド)が得られた。
このスフェロイドが形成された基板を用いて、実施例1と同様にしてスフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルは、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてWilliams‘Eを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を14日間継続した。
【0177】
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約100μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0178】
(実施例10)
参考例9における基板の作製において、直径100μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクの代わりに、直径200μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクを用いて基板を作製した。これを用いて実施例1と同様にして、スフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約200μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0179】
(実施例11)
参考例9における基板の作製において、直径100μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクの代わりに、直径70μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクを用いて基板を作製した。これを用いて実施例1と同様にして、スフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイドが均一な大きさ(約70μm)を維持したまま生存していることが確認された。
【0180】
(比較例1)
参考例9における基板の作製において、直径100μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクの代わりに、直径500μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクを用いて基板を作製した。これを用いて実施例1と同様にして、スフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイド(大きさ約500μm)は生存性が極めて低いことが確認された。
【0181】
(比較例2)
参考例9における基板の作製において、直径100μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクの代わりに、直径50μmの円形パターンの石英ガラスフォトマスクを用いて基板を作製した。これを用いて実施例1と同様にして、スフェロイド含有ハイドロゲルを作製した。
得られたスフェロイド含有ハイドロゲルについて、上記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド含有ハイドロゲル中のスフェロイド(大きさ約50μm)は細胞凝集性が悪く、生存性も極めて低いことが確認された。
【0182】
以上から、本発明のスフェロイド含有ハイドロゲルの作製方法によって、均一な大きさを有する複数のスフェロイドを含有するスフェロイド含有ハイドロゲルが効率よく作製できたことが分かる。
また、ハイドロゲル中のスフェロイドの大きさを特定の範囲とすることでスフェロイドの機能維持性が良好になること分かる。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明の実施例にかかる基板上に形成された骨芽細胞スフェロイドの状態を示す図である。
【図2】本発明の実施例にかかる骨芽細胞スフェロイド含有ハイドロゲルの培養8日後の状態を示す図である。
【図3】本発明の実施例にかかる骨芽細胞スフェロイド含有ハイドロゲルの培養8日後のMTT染色の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲルと、
前記ハイドロゲル内に互いに接触しないように配置された、直径70μm〜400μmの均一な大きさを有する2以上のスフェロイドと、を含むスフェロイド含有ハイドロゲル。
【請求項2】
前記ハイドロゲルは、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の4以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する4価以上の連結基とを有し、重量平均分子量が10000以上のハイドロゲル形成用マクロモノマーに由来する高分子化合物を含む、請求項1に記載のスフェロイド含有ハイドロゲル。
【請求項3】
前記ハイドロゲル形成用マクロモノマーは、重合度が50〜5000のポリアルキレングリコール基を4以上有する請求項2に記載のスフェロイド含有ハイドロゲル。
【請求項4】
前記重合性置換基はエチレン性不飽和結合を有する請求項2または請求項3に記載のスフェロイド含有ハイドロゲル。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの2以上が積層されたスフェロイド含有ハイドロゲル積層体。
【請求項6】
基材ならびに前記基材上に形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板上に、細胞を播種する工程と、
播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイドを前記基板上の疎水性領域に形成するスフェロイド形成工程と、
前記基板上の前記スフェロイドが形成された側にハイドロゲルを配置してハイドロゲル複合体を形成するハイドロゲル複合体形成工程と、
前記ハイドロゲル複合体から前記基板を剥離して、スフェロイド含有ハイドロゲルを得る工程と、
を含むスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項7】
前記ハイドロゲル複合体形成工程は、
親水性高分子を含む感光性組成物を、前記基板上の前記スフェロイドが形成された側に配置して前記スフェロイドと接触させる工程と、
前記感光性組成物を硬化させる工程と、
を含む請求項6に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項8】
前記感光性組成物は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の4以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する4価以上の連結基とを有し、重量平均分子量が10000以上のハイドロゲル形成用マクロモノマーを含有する請求項7に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項9】
前記ハイドロゲル形成用マクロモノマーは、重合度が50〜5000のポリアルキレングリコール基を4以上有する請求項8に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項10】
前記重合性置換基はエチレン性不飽和結合を有する請求項8または請求項9に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項11】
前記スフェロイド形成工程における細胞の培養を、少なくとも5日間行う請求項6〜請求項10のいずか1項に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項12】
前記基材上の親水性領域は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体に由来するポリマーを含む請求項6〜請求項11のいずれか1項に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項13】
前記親水性領域は、温度応答性層上に形成されている請求項6〜請求項12のいずれか1項に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。
【請求項14】
前記疎水性領域は前記基材上にアレイ状に形成されている請求項6〜請求項13のいずれか1項に記載のスフェロイド含有ハイドロゲルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65082(P2010−65082A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230223(P2008−230223)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】