説明

スプール弁

【課題】生産性に優れ、軸方向寸法の短縮が可能なスプール弁を提供する。
【解決手段】スプール1の軸心部に右端が閉塞された摺動穴2を設け、その内部にシャフト3を挿入配置して、シャフト3により区画された摺動穴2の内部空間にF/B室αを設ける。出力油圧が上昇すると、摺動穴2の径(シャフト3の径)に応じた油圧が摺動穴2の底に作用し、スプール1に右向きのF/B力が発生する。その結果、スプール1の変位が安定し、出力油圧の変動が抑えられる。スプール1の内部にF/B室αを設けるため、従来技術で用いていた小径ランドを廃止することができ、ランド差の無いスプール1を設けることができる。このため、スプール1およびスリーブ4の生産性を高めることができる。また、従来技術で用いていた小径ランドを廃止できるため、スプール弁8の軸方向寸法を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力油圧の上昇に応じたフィードバック力がスプールに与えられるスプール弁に関する。
【0002】
以下の明細書中では、説明の便宜上、スプールの移動方向(軸方向)を左右方向と称し、左右方向のうち、スプールがリターンスプリングに近づく側を左、スプールがリターンスプリングから離れる方向を右と称する(例えば、図1参照)。この左右方向は、説明のためのものであって、実際の搭載方向を限定するものではない。
また、以下の明細書中では、フィードバックをF/Bと称して説明する。
【背景技術】
【0003】
図2を参照して、スプール弁8の一例を説明する。なお、この背景技術に用いる符号(図2の符号)は、後述する[発明を実施するための形態]および[実施例]と同一機能物に同一符号を付したものである。
図2は、具体的な一例としてノーマル・クローズ(ノーマリー・クローズ:以下、N/Cと称す)タイプのスプール弁8の断面を示すものであり、駆動源としてリニアソレノイド9(駆動手段の一例)を用いたものである(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
このスプール弁8は、出力油圧(出力ポートP2に生じる油圧)の上昇によりスプール1を右側へ押すF/B室αを備えるものであり、F/B室αに出力油圧が印加されると、「F/B室αの右側の第1大径ランドR1」と「F/B室αの左側の小径ランド(F/Bランド)X」のランド差(段差による面積差)に応じた「F/B力(スプール1を右側へ付勢する力)」が生じる。
【0005】
このように、従来の技術では、第1大径ランドR1と小径ランドXとのランド差によってF/B力を発生させていた。
このため、外径寸法の異なる第1大径ランドR1と小径ランドXをスプール1に設ける必要があるとともに、スプール1を摺動自在に支持するスリーブ4(特許文献2ではバルブボディ)の内部にも、第1大径ランドR1と小径ランドXに対応した段差加工を施す必要があり、スプール1およびスリーブ4の生産性を悪くしていた。
また、従来の技術では、F/B室αを得るために小径ランドXを必要としていたために、スプール弁8の軸方向寸法が長くなってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−046640号公報
【特許文献2】特開2008−075765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性に優れ、軸方向寸法の短縮が可能なスプール弁の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[請求項1の手段]
請求項1の手段は、シャフトにより区画された摺動穴(スプールに形成された軸方向に伸びる軸穴)の内部空間にF/B室を設ける。即ち、スプールの内部にF/B室を設ける。
これにより、従来技術で用いていた小径ランドを廃止できるため、径差の異なるランドをスプールに設ける必要がない。また、バルブボディ(スリーブを含む)の内部も径差の異なるランドに対応した段差加工を施す必要がない。このため、スプールおよびバルブボディ(スリーブを含む)の生産性を高めることができる。
さらに、従来技術で用いていた小径ランドを廃止できるため、スプール弁の軸方向寸法を短縮することができる。
【0009】
[請求項2の手段]
請求項2のシャフトは、アジャスタスクリュと別体に設けられて、F/B室に生じる油圧によってアジャスタスクリュに押し付けられて当接するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電磁スプール弁の断面図である(実施例)。
【図2】電磁スプール弁の断面図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
スプール1の内部には、軸方向へ延びる一端が閉塞された摺動穴2が設けられる。
この摺動穴2の内部には、摺動穴2によって軸方向へ摺動自在に支持されるシャフト3が挿入配置される。
このシャフト3は、スリーブ(バルブボディの一例)4に螺合するアジャスタスクリュ5に支持される。
さらに、シャフト3により区画された摺動穴2の内部空間に出力油圧を供給するF/Bポート6をスプール1に形成し、シャフト3により区画された摺動穴2の内部空間にF/B室αを設ける。
【実施例】
【0012】
本発明が適用された具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。以下における実施例は具体的な一例を示すものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
なお、以下の実施例において上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0013】
この実施例は、電磁スプール弁7におけるスプール弁8に本発明を適用したものである。電磁スプール弁7は、スプール弁8と、このスプール弁8を駆動するリニアソレノイド9とを、軸方向に結合したものである。
電磁スプール弁7の用途は限定されるものではないが、この実施例では具体例として車両用自動変速機の油圧制御装置に用いられる電磁油圧制御弁を示す。
【0014】
スプール弁8は、N/Cタイプであり、
・略円筒形状を呈するスリーブ4と、
・このスリーブ4の内部で軸方向に摺動自在に支持されるスプール1と、
・このスプール1を右側(リニアソレノイド9が配置される側)へ付勢するリターンスプリング10と、
を備えて構成される。
【0015】
スリーブ4には、
・ポンプ油圧(入力油圧)の供給を受ける入力ポートP1、
・制御油圧の供給先(自動変速機の摩擦係合装置等)に油路を介して連通する出力ポートP2、
・低圧空間(オイルパン内等)に連通する排出ポートP3が設けられる。
これらの各ポートは、スリーブ4の径方向に形成された内外を貫通する貫通孔であり、スリーブ4の左側から右側に向かって、入力ポートP1、出力ポートP2、排出ポートP3の順に配置されている。
【0016】
スプール1には、
・入力ポートP1の開度調整を行なう第1大径ランドR1、
・排出ポートP3の開度調整を行なう第2大径ランドR2が設けられる。
そして、第1大径ランドR1と第2大径ランドR2の間の小径軸部の周囲に、出力ポートP2に通じる分配室が形成される。
そして、入力ポートP1と第1大径ランドR1の位置関係、および排出ポートP3と第2大径ランドR2の位置関係(ノッチ等を含む位置関係)は、N/Cが達成されるように設定されている。
【0017】
リターンスプリング10は、筒状に螺旋形成された圧縮コイルスプリングであり、リニアソレノイド9の駆動力に抗してスプール1を右側へ付勢するバネ力を発生する。
スリーブ4の左端には、アジャスタスクリュ5が螺合されており、このアジャスタスクリュ5とスプール1との間のバネ室に、リターンスプリング10が圧縮された状態で配置される。なお、アジャスタスクリュ5は、バネ荷重の調整後にスリーブ4にカシメや接着剤等により回り止めされるものである。
【0018】
リニアソレノイド9は、スリーブ4の右端に結合され、通電量に応じた起磁力により、リターンスプリング10の付勢力に抗してスプール1を図示左側へ変位させる周知な電磁アクチュエータであり、具体的な構造は限定されるものではない。
【0019】
リニアソレノイド9は、図示しない電子制御装置(AT−ECU等)によって制御される。この電子制御装置は、デューティ比制御等によってリニアソレノイド9へ与える駆動電流を制御することによって、スプール1の軸方向位置をコントロールして、各ポートの開閉や連通度合の調整を行ない、出力ポートP2に所望の出力油圧を発生させる。
【0020】
さらに、この実施例のスプール弁8には、出力ポートP2に生じる出力油圧の上昇に応じたF/B力をスプール1に与えるF/B室αが設けられている。
この実施例のF/B室αは、スプール弁8の内部に設けられている。
【0021】
スプール1の内部には、軸方向へ延びる一端(図1では右端)が閉塞された摺動穴2が設けられている。この摺動穴2は、スプール1の左端からスプール1の右側に向けて穿設されたドリル穴であり、スプール1の軸心に形成されている。なお、限定されるものではないが、具体的な一例として、摺動穴2の底(ドリル穴の奥端)は小径軸部の途中もしくは第2大径ランドR2の内側に至るように設けられている。
【0022】
この摺動穴2の内部には、摺動穴2の内周壁によって軸方向へ摺動自在に支持されるシャフト3が挿入配置されている。このシャフト3は、円柱体であり、スプール1が右端で停止する状態(リニアソレノイド9の通電停止状態)であっても、摺動穴2から抜け出ない長さに設けられている。
このシャフト3の左側はバネ室に露出するものであり、シャフト3の左端がアジャスタスクリュ5に当接する。この実施例のシャフト3は、アジャスタスクリュ5とは別体に設けられたものであり、F/B室αに生じる油圧によってアジャスタスクリュ5に押し付けられて、軸方向の移動が規制されるものである。
【0023】
シャフト3により区画された摺動穴2の内部空間がF/B室αであり、スプール1の小径軸部には、シャフト3により区画された摺動穴2の内部空間(F/B室α)に出力油圧(分配室の油圧)を供給するF/Bポート6が形成されている。
F/B室αは、出力油圧の上昇に伴って印加油圧が大きくなる。すると、摺動穴2の径(シャフト3の径)に応じた油圧が摺動穴2の底(ドリル穴の奥端)に作用し、スプール1に右向きの軸力(F/B力)が発生する。これにより、スプール1の変位が安定し、出力ポートP2の出力油圧の変動を抑えることができる。
なお、「バネ力+F/B力」と「ソレノイド駆動力」が釣り合うことでスプール1の移動が停止するものである。
【0024】
(実施例1の効果)
この実施例のスプール弁8は、上述したように、スプール1の内部にF/B室αを設ける。このため、従来技術で用いていた小径ランドX(符合、図2参照)を廃止することができ、径差の異なるランドをスプール1に設ける必要がない。また、スリーブ4の内部に、径差の異なるランドに対応した段差加工を施す必要がない。このため、スプール1およびスリーブ4の生産性を高めることができる。
さらに、この実施例では、従来技術で用いていた小径ランドXを廃止できるため、スプール弁8の軸方向寸法を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
上記の実施例では、スリーブ4(筒状の部材)を用いるスプール弁8を示したが、スリーブ4を用いるものに限定されるものではなく、内部に油路が形成される部材にスプール1を挿入する摺動穴2を直接形成したバルブボディ(バブルハウジング)を用いたスプール弁8に本発明を適用しても良い。
【0026】
上記の実施例では、スプール弁8を駆動する手段の一例としてリニアソレノイド9(電磁アクチュエータ)を用いたが、スプール弁8の駆動手段は限定されるものではなく、パイロット油圧を調整してスプール1を駆動する手段や、ピエゾアクチュエータを用いてスプール1を駆動する手段など、他の駆動手段を用いるものであっても良い。
【0027】
上記の実施例では、車両用自動変速機の油圧制御装置に用いられるスプール弁8に本発明を適用する例を示したが、自動変速機以外の他のスプール弁8に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0028】
1 スプール
2 摺動穴
3 シャフト
4 スリーブ
5 アジャスタスクリュ
8 スプール弁
α F/B室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力油圧の上昇に応じたフィードバック力をスプール(1)に与えるフィードバック室(α)を有するスプール弁(8)において、
前記スプール(1)の内部には、軸方向へ延びる一端が閉塞された摺動穴(2)が設けられ、
前記摺動穴(2)の内部には、当該摺動穴(2)によって軸方向へ摺動自在に支持されるシャフト(3)が挿入配置され、
前記シャフト(3)により区画された前記摺動穴(2)の内部空間によって前記フィードバック室(α)が設けられることを特徴とするスプール弁。
【請求項2】
請求項1に記載のスプール弁(8)において、
前記シャフト(3)は、前記スプール(1)を軸方向へ摺動自在に支持するスリーブ(4)に螺合するアジャスタスクリュ(5)に当接することを特徴とするスプール弁。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87876(P2013−87876A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229430(P2011−229430)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】