説明

スペクトル拡散型レーダ装置

【課題】スプリアス信号の発生を抑制し、安価で探知距離範囲の広い高性能なスペクトル拡散型レーダ装置を提供する。
【解決手段】スペクトル拡散型レーダ装置100は、第1の発振信号を第1の擬似雑音符号で変調して、スペクトル拡散された拡散信号を探知用電波として放射し、物体に反射されて戻ってきた探知用電波を受信信号として受信し、第2の擬似雑音符号と前記第1の発振信号とに基づいて、前記受信信号を逆拡散して復調信号を生成するスペクトル拡散型レーダ装置であって、所定の周波数で符号を発生させることで繰り返し符号を生成する繰り返し符号発生回路408aと、前記第1の擬似雑音符号を時間遅延させた擬似雑音符号と前記繰り返し符号との間で排他的論理和演算を行って得られた結果を前記第2の擬似雑音符号として出力する排他的論理和演算回路409aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトル拡散方式を利用したレーダ装置に関し、特に、安価で探知距離範囲の広い高性能なスペクトル拡散型レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に搭載されるレーダ装置(以下、車載レーダ装置と呼称する。)に関する技術開発が活発化している。その一例として、スペクトル拡散方式を利用したレーダ装置(以下、スペクトル拡散型レーダ装置と呼称する。)等が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
車載レーダ装置は、衝突回避などの安全性向上、後退発車支援に代表される運転利便性向上などを目的とし、先行車両、後方障害物などの検出に利用される。このような目的において、自車以外の車両に搭載された同種のレーダ装置が発する電磁波による干渉など、不要電波の影響を抑える必要がある。
【0004】
これに対して、スペクトル拡散型レーダ装置では、拡散に用いるPN符号により送信電波が変調されるため、異なる符号で変調された電波、符号変調のない他方式のレーダ装置では受信機内で信号が抑圧される。また、送信電波は、PN符号により周波数拡散されるため、単位周波数あたりの電力を小さくすることができ、他の無線システムに与える影響を低くすることができる。そして、PN符号のチップ・レートと符号周期とを調整することで、距離分解能と最大探知距離との関係を自由に設定することができる。また、電磁波を連続的に送信することが出来るため、ピーク電力が大きくなるということがない。ただし、電波伝搬中に混入した不要電波は、逆拡散処理を施しても、周波数領域上、広帯域に拡散され、狭帯域の濾波器を用いて、不要な雑音や干渉信号を抑圧する。
【0005】
さらに、スペクトル拡散型レーダ装置は、受信機の構成によって、ヘテロダイン方式とホモダイン方式とに分類される。
【0006】
「ヘテロダイン方式」とは、送信波の周波数に対して一定の周波数だけ異なる周波数の信号と受信信号とを混合(乗算)することにより、中間周波数に周波数変換し、増幅、検波等の信号処理をする受信方式をいう。
【0007】
「ホモダイン方式」とは、送信波の周波数と同じ周波数の信号と受信信号とを混合(乗算)することにより、直接ベースバンド信号を得る受信方式をいう。
【0008】
しかしながら、上記従来の技術においては、ヘテロダイン方式を利用したスペクトル拡散型レーダ装置においては、送信側と受信側との夫々に、フェーズロックループによる周波数安定化装置が必要となり、装置を低価格化することが困難という問題がある。これは、送信側および受信側の局部発振器の発振周波数を高精度に制御し、送信側および受信側の局部発振器の周波数差にあたる中間周波数を濾波器の通過帯域に対して十分安定化する必要があるためである。しかし、以下に述べるホモダイン方式特有の問題が発生しないという特徴がある。
【0009】
一方、ホモダイン方式を利用したレーダ装置においては、半導体素子の特性ばらつきや周囲温度の変動による直流オフセット等が存在し、直流増幅器が必要となり、レーダ装置の探知可能距離範囲を広く取るために、受信機のダイナミックレンジを大きくするにあたり大きな障害になるという問題がある。これは、送信側と受信側とで共通の局部発振器を用いることで、発振器に要求される周波数安定度を緩和することができるが、受信機の検波出力には直流成分が含まれるためである。
【0010】
このような課題を解決する方法として、PN符号にデータ符号を埋め込む手法が考案されており(例えば、特許文献2参照。)、送信側と受信側とで共通の局部発振器を用いつつ、受信機で直流オフセットの問題が発生しないという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−12930号公報
【特許文献2】特開平10−54874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、PN符号にデータ符号を埋め込み、データ符号が埋め込まれたPN符号を使用して搬送波信号を拡散変調すると、拡散変調して得られる変調信号に、受信性能に悪影響を及ぼすスプリアス信号が多数発生するという課題がある。これは、データ符号には、基本周波数と、その高調波とが多数含まれる。これにより、PN符号単独で搬送波信号を拡散変調した場合と比べて、PN符号に含まれる高調波の数とデータ符号に含まれる高調波の数の積に相当する非常に多数の周波数成分が変調信号に含まれることになる。このとき、PN符号自体の周波数成分のそれぞれに対して、多数の高調波成分を有するデータ符号により変調が施される。
【0013】
そして、これらの周波数成分のいずれかが、受信機内部で使用される中間周波数帯内に含まれると、送信部から周波数成分が漏洩し、受信信号と干渉する。ここで、送信部からの信号漏洩が非常に僅かな量であったとしても、反射物体から反射される探知用電波の強度は、物体までの距離に応じて、非常に大きなダイナミックレンジを有しており、特に遠方にある物体からの非常に微弱な反射波を受信する上で障害となる場合がある。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、送信側と受信側とで共通の局部発振器を利用しつつ、直流増幅器を必要としない回路構成であって、さらに、受信動作の障害となるスプリアス信号の発生を抑制し、安価で探知距離範囲の広い高性能なスペクトル拡散型レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係わるスペクトル拡散型レーダ装置は、(a)第1の発振信号と第2の発振信号と第1の擬似雑音符号とを組み合わせて、スペクトル拡散された拡散信号を生成し、前記拡散信号を探知用電波として放射する送信回路と、(b)物体に反射されて戻ってきた探知用電波を受信信号として受信し、前記第1の擬似雑音符号を時間遅延させた第2の擬似雑音符号と前記第1の発振信号とに基づいて、前記受信信号を逆拡散して中間周波数信号を生成する受信回路とを備え、(c)前記第1の擬似雑音符号の周波数が前記第2の発振信号の周波数よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
これによって、送信側と受信側で共通の発振信号を利用することで、発振器に要求される周波数安定度を緩和することができ、特に、フェーズロックループなどの高精度な周波数安定化機能を省略することができる。また、信号処理が施される信号に、直流成分を含まないため、特に、直流増幅器を省略することができる。さらに、直流成分が含まれないから、直流増幅器を用いることなく、直流オフセットの影響を受けずに、比較的容易に広いダイナミックレンジを保ちつつ信号を増幅することができる。
【0017】
なお、本発明は、スペクトル拡散型レーダ装置として実現されるだけではなく、スペクトル拡散された電波を使用した探知方法(以下、スペクトル拡散型探知方法と呼称する。)等として実現されるとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係わるスペクトル拡散型レーダ装置によれば、送信側と受信側とで共通の局部発振器を利用しつつ、直流増幅器を必要としない回路構成で、安価で探知距離範囲の広い高性能なレーダ装置を提供することができる。
【0019】
また、従来の技術においては、送信側において、データ源から供給されるデータ(ビット列)と、送信用PN符号との間で排他的論理和がとられる。そして、排他的論理和がとられて得られた符号を、局部発振器から供給される発振信号を使用して変調するので、変調して得られた符号に対して、スペクトルの各周波数の上下に、ビット列による多数のスペクトルが生じる。これにより、スペクトル数が非常に多くなるので、平衡変調器、増幅器などによる非線形性の影響によって、多数のスペクトル同士の相互変調が生じる。これによって、受信側における逆拡散処理において、遅延PN符号との相関特性が劣化し、受信出力のピーク対ノイズの比が劣化する。すなわち、反射が強い物体に弱い物体がマスクされ、物体検出能力が落ちる。
【0020】
これに対して、本発明に係わるスペクトル拡散型レーダ装置によれば、データ源の代わりに局部発振器が使用されるので、送信部から探知用電波として放射される信号については、スペクトル数が少ないので、相互変調の影響を受けにくく、受信動作の障害となるスプリアス信号の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置を車載レーダ装置とした場合を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置の構成を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置の回路構成を示す図である。
【図4A】図4Aは、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置における二周波の送信信号を示す図である。
【図4B】図4Bは、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置における二周波の送信信号を変調した変調信号を示す図である。
【図4C】図4Cは、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置における受信信号を示す図である。
【図4D】図4Dは、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置における受信信号を変調した変調信号を示す図である。
【図4E】図4Eは、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置における二周波の信号とPN符号との関係を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態2におけるスペクトル拡散型レーダ装置の構成を示す図である。
【図6】図6は、実施の形態2におけるスペクトル拡散型レーダ装置の回路構成を示す図である。
【図7】図7は、実施の形態3におけるスペクトル拡散型レーダ装置の回路構成を示す図である。
【図8A】図8Aは、実施の形態4におけるスペクトル拡散型レーダ装置の回路構成を示す図である。
【図8B】図8Bは、実施の形態4におけるスペクトル拡散型レーダ装置の回路構成の変形例を示す図である。
【図9A】図9Aは、その他の実施の形態における送信部の回路構成を示す図である。
【図9B】図9Bは、その他の実施の形態における送信部の回路構成を示す図である。
【図10】図10は、その他の実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施の形態1)
以下、本発明に係わる実施の形態1について図面を参照しながら説明する。
【0023】
本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置は、下記(a)〜(j)に示される特徴を備える。
【0024】
(a)(a1)第1の発振信号と第2の発振信号と第1の擬似雑音符号とを組み合わせて、スペクトル拡散された拡散信号を生成し、拡散信号を探知用電波として放射する送信回路と、(a2)物体に反射されて戻ってきた探知用電波を受信信号として受信し、第1の擬似雑音符号を時間遅延させた第2の擬似雑音符号と第1の発振信号とに基づいて、受信信号を逆拡散して中間周波数信号を生成する受信回路とを備え、(a3)第1の擬似雑音符号の周波数が第2の発振信号の周波数よりも大きい。
【0025】
(b)受信回路は、さらに、(b1)受信信号の位相を第2の擬似雑音符号に基づいて変調して変調信号を生成する平衡変調器と、(b2)変調信号の同相信号と直交信号とを中間周波数信号として出力する直交復調器とを備える。
【0026】
(c)直交復調器は、さらに、(c1)第1の発振信号に対して移相量が90度異なる第3の発振信号を生成する移相器と、(c2)変調信号と第1の発振信号とを混合して同相信号を生成する第1の平衡変調器と、(c3)変調信号と第3の発振信号とを混合して直交信号を生成する第2の平衡変調器とを備える。
【0027】
(d)受信回路は、さらに、(d1)直交復調器から同相信号が入力され、同相信号の周波数成分のうち、第2の発振信号の周波数を中心周波数とする帯域を通過する第1の帯域通過型濾波器と、(d2)直交復調器から直交信号が入力され、直交信号の周波数成分のうち、第2の発振信号の周波数を中心周波数とする帯域を通過する第2の帯域通過型濾波器と、(d3)第1の帯域通過型濾波器を通過した信号強度の対数に比例した信号強度と、第1の帯域通過型濾波器を通過した信号の振幅を制限して増幅した信号とを出力する第1の増幅器と、(d4)第2の帯域通過型濾波器を通過した信号強度の対数に比例した信号強度と、第2の帯域通過型濾波器を通過した信号の振幅を制限して増幅した信号とを出力する第2の増幅器とを備える。
【0028】
(e)送信回路は、第1の発振信号と第2の発振信号とを混合して中間信号を生成し、中間信号の位相を第1の擬似雑音符号に基づいて変調して拡散信号を生成する。
【0029】
(f)送信回路は、さらに、(f1)第1の発振信号を生成する第1の局部発振器と、(f2)第2の発振信号を生成する第2の局部発振器と、(f3)第1の発振信号と第2の発振信号とを混合して中間信号を生成する第1の平衡変調器と、(f4)中間信号の位相を第1の擬似雑音符号に基づいて変調して拡散信号を生成する第2の平衡変調器とを備える。
【0030】
(g)スペクトル拡散型レーダ装置は、さらに、同相信号、および直交信号に基づいて、受信信号の強度を算出し、強度と基準値とを照合し、物体の存在を判定する信号処理回路を備える。
【0031】
(h)信号処理回路は、さらに、同相信号、および直交信号に基づいて、第2の擬似雑音符号を生成するにあたり第1の擬似雑音符号に対して遅延させた時間を特定し、時間から物体との距離を算出する。
【0032】
(i)信号処理回路は、さらに、第2の発振信号、同相信号、および直交信号に基づいて、受信信号の位相を算出し、位相の時間変化から物体との相対速度を算出する。
【0033】
(j)スペクトル拡散型レーダ装置は、さらに、(j1)第1の擬似雑音符号としてM系列符号を生成する第1の擬似雑音符号発生回路と、(j2)第2の擬似雑音符号としてM系列符号を生成する第2の擬似雑音符号発生回路とを備える。
【0034】
具体的には、第1の発振信号と第2の発振信号とを混合して中間信号を生成し、中間信号の位相を送信用PN符号に基づいて変調して拡散信号を生成し、拡散信号を探知用電波として放射する。そして、物体に反射されて戻ってきた探知用電波を受信信号として受信し、受信信号の位相を受信用PN符号に基づいて変調して変調信号を生成し、変調信号と第1の発振信号とに基づいて、変調信号の同相信号と直交信号とを生成し、同相信号、および直交信号に基づいて、物体を探知する。
【0035】
例えば、図1に示されるように、スペクトル拡散型レーダ装置は、車両11のフロントとテールとに備え、先行車両12、障害物13等の物体に対して、探知用電波を放射し、物体により反射された探知用電波を受信し、受信した探知用電波に基づいて、障害物の有無、距離、相対速度を算出する。
【0036】
以上の点を踏まえて本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置について説明する。
【0037】
先ず、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置の構成について説明する。
【0038】
図2に示されるように、一例として、スペクトル拡散型レーダ装置100は、送信部101、受信部102、送信用PN符号発生部103、受信用PN符号発生部104、信号処理部105、制御部106等を備える。
【0039】
送信部101は、先行車両、障害物等の物体に対して、探知用電波を放射する。
【0040】
受信部102は、物体により反射された探知用電波を受信する。
【0041】
送信用PN符号発生部103は、制御部106から供給されるタイミング信号に基づいて、PN符号を生成し、生成したPN符号を送信部101に供給する。
【0042】
受信用PN符号発生部104は、制御部106から供給されるタイミング信号に基づいて、送信用PN符号発生部103が生成するPN符号を時間遅延させたPN符号を生成し、生成したPN符号を受信部102に供給する。
【0043】
信号処理部105は、送信用PN符号発生部103に対する受信用PN符号発生部104の符号遅延時間τ、送信部101から供給される基準信号、および受信部102から出力される信号に基づいて、障害物の有無、距離、相対速度を算出する。
【0044】
制御部106は、送信用PN符号発生部103と受信用PN符号発生部104とにタイミング信号を供給する。ここでは、一例として、2.5[Gbps]のタイミング信号を供給する。
【0045】
「PN符号」とは、2値の擬似雑音信号をいう。ここでは、一例として、PN符号としてよく知られているM系列符号を用いることとする。そして、送信用PN符号発生部103および受信用PN符号発生部104は、夫々、11段の線形帰還シフトレジスタを備え、繰り返し周期2047のPN符号を生成し供給する。
【0046】
続いて、実施の形態1における送信部について説明する。
【0047】
図3に示されるように、送信部101は、さらに、局部発振器111、局部発振器112、平衡変調器113、平衡変調器114、帯域通過型濾波器115、減衰器116、送信用空中線117等を備える。
【0048】
局部発振器111は、搬送波としてマイクロ波帯、又はミリ波帯の発振信号を生成し、生成した信号を平衡変調器113、受信部102に供給する。ここでは、一例として、24[GHz]の発振信号を生成する。
【0049】
局部発振器112は、基準信号を生成し、生成した基準信号を平衡変調器113、信号処理部105に供給する。ここでは、一例として、455[kHz]の基準信号を生成する。
【0050】
なお、基準信号の周波数は、受信信号の相関特性を向上させるために、送信用PN符号発生部103から供給されるPN符号の周期の周波数の整数分の1の周波数であることが好ましい。
【0051】
平衡変調器113は、局部発振器111から供給される発振信号と、局部発振器112から供給される基準信号とを混合(乗算)し、図4Aで示される変調信号を出力する。このとき、局部発振器111から供給される発振信号の周波数をfcとし、局部発振器112から供給される基準信号の周波数をf1とすると、出力される信号の主な成分は、周波数fc−f1の信号と周波数fc+f1の信号の二周波となる。
【0052】
平衡変調器114は、平衡変調器113から出力される変調信号の位相を、送信用PN符号発生部103から供給されるPN符号に基づいて変調し、図4Bで示される変調信号を出力する。このとき、平衡変調器114は、送信用PN符号発生部103から供給されるPN符号を利用し、平衡変調器113から出力される信号に対して拡散処理を施す。具体的には、平衡変調器113においてアップコンバートされた信号を、送信用PN符号発生部103から供給されるPN符号に基づいて、位相反転を行い、平衡変調器113から出力される信号に対して、BPSK変調器のように位相変調を行い、広帯域にスペクトル拡散された信号を出力する。
【0053】
帯域通過型濾波器115は、平衡変調器114から出力される変調信号、すなわち、拡散処理が施された信号のうち、不要な成分を取り除くために、必要に応じて挿入される。
【0054】
減衰器116は、電波法令上の規制により空中線電力を制限しなければならない場合において、必要に応じて挿入される。
【0055】
送信用空中線117は、帯域通過型濾波器115、減衰器116等を介して平衡変調器114から出力された変調信号を探知用電波として放射するアンテナである。
【0056】
続いて、実施の形態1における受信部について説明する。
【0057】
図3に示されるように、受信部102は、さらに、受信用空中線121、帯域通過型濾波器122、低雑音増幅器123、平衡変調器124、直交復調器125、帯域通過型濾波器126,128、増幅器127,129等を備える。
【0058】
受信用空中線121は、物体に反射された探知用電波を受信信号(例えば、図4C参照。)として受信するアンテナである。
【0059】
帯域通過型濾波器122は、受信用空中線121を介して受信した受信信号のうち、レーダ動作に寄与しない周波数成分をもった干渉電波や雑音を除去するために、必要に応じて挿入される。ここでは、受信用空中線121と低雑音増幅器123との間に挿入されている。
【0060】
低雑音増幅器123は、信号対雑音比を良好に保つために、必要に応じて挿入されている。ここでは、帯域通過型濾波器122と平衡変調器124との間に挿入されている。
【0061】
平衡変調器124は、受信用空中線121を介して受信して帯域通過型濾波器122、低雑音増幅器123等を介して出力される信号の位相を、受信用PN符号発生部104から供給されるPN符号に基づいて変調し、図4Dで示される変調信号を出力する。このとき、送信用PN符号発生部103に対する受信用PN符号発生部104の符号遅延時間τが、探知目標物までの距離に相当する遅延時間と等しい場合には、受信した探知用電波に含まれるPN符号と受信用PN符号発生部104から供給されるPN符号との位相が一致し、広帯域にスペクトル拡散されている信号が逆拡散されて復元され、周波数がfc−f1である信号とfc+f1である信号とを出力する。一方、探知目標物までの距離に相当する遅延時間と異なっている場合には、出力信号は、広帯域にスペクトル拡散されたままとなる。そして、周波数がfc−f1である信号成分とfc+f1である信号成分との強度は、遅延時間が一致する場合と比べて、PN符号の自己相関特性により決定される量だけ減衰される。
【0062】
ここで、PN符号としてよく知られたM系列符号を用いれば、自己相関は、PN符号の位相が一致する場合にのみピークをもつため、制御部106によって、PN符号の遅延時間を逐次変化させながら平衡変調器124の出力をモニタし、周波数がfc−f1である信号と、fc+f1である信号とが現れたときの遅延時間から、信号処理部105は、障害物の有無とその距離を算出することができる。
【0063】
ここでは、図4Eに示されるように、PN符号の周波数fpが基準信号の周波数f1よりも大きいとすることが望ましい。これは、PN符号の周波数fpが基準信号の周波数f1よりも小さければ、発振信号の周波数fcを中心にして二つの変調信号に分かれる。このため、電磁波放射に関する法規制などの規格に適合させるにあたって、通常、それら二つの変調信号の一方を選択するための帯域通過型濾波器が必要になる。結果、変調信号の電力の少なくとも半分が失われることになる。これに対して、PN符号の周波数fpが基準信号の周波数f1よりも大きくすることで、変調信号が分かれることを防ぐ。そして、変調信号の電力を全て有効に活用することができる。また、変調信号の一方を選択するための帯域通過型濾波器を不要とすることができる。
【0064】
直交復調器125は、送信部101から供給される周波数fcの信号を使用し、平衡変調器124から出力される変調信号、すなわち、逆拡散処理が施された信号を、中間周波数の同相信号と直交信号とに変換する。
【0065】
帯域通過型濾波器126、128は、不要な干渉信号を除去して、f1±fdの周波数成分のみを通過させる。このとき、直交復調器125の出力信号として必要な周波数成分は、スペクトル拡散型レーダ装置と探知目標物との相対速度に対応するドップラーシフトfdだけ、局部発振器112の発振周波数f1から周波数偏移を受けた周波数f1±fdである。
【0066】
増幅器127は、帯域通過型濾波器126から出力された信号を増幅して信号処理部105へ出力する。
【0067】
増幅器129は、帯域通過型濾波器128から出力された信号を増幅して信号処理部105へ出力する。
【0068】
なお、平衡変調器124の出力には、障害物の反射係数と距離に応じて非常に広いダイナミックレンジの信号が生成されることに留意しなければならない。例えば、探知用電波の周波数として、準ミリ波帯の24[GHz]帯を採用し、送受信の空中線にそれぞれ15[dBi]の利得を有するものを用いる場合において、20[m]遠方の自転車など、レーダ断面積として−5[dBsm]程度の反射能率を有する目標物を検出する場合の受信電力と、ごく至近距離にある物体や、金属板など電波反射能率が大きい物体からの反射により、送信電力が損失を受けることなく受信機に入力される場合の受信電力を考慮すると、100[dB]程度のダイナミックレンジが必要となる。
【0069】
これに対して、増幅器127、129に対数増幅器を用いれば、信号処理部105の入力ダイナミックレンジを飛躍的に緩和することができる。そして、100[dB]程度のダイナミックレンジに渡る受信信号であっても、比較的容易に信号処理部105で取り扱うことができる。この場合において、対数増幅器として、(a)入力信号の強度の対数に比例する信号と、(b)入力信号を振幅制限して増幅した信号とを出力することができるものを用いることで、受信信号の強度Aと位相φの両方の情報を損なうことなく信号処理部105に伝達することができる。結果、障害物との距離および相対速度を計測することができる。
【0070】
続いて、実施の形態1における直交復調器について説明する。
【0071】
直交復調器125は、さらに、移相器125a、平衡変調器125b、125cを備える。
【0072】
移相器125aは、局部発振器111から周波数fcの信号が供給され、供給された信
号と90度位相が異なる信号を出力する。
【0073】
平衡変調器125bは、平衡変調器124から出力された信号と、局部発振器111から供給される周波数fcの信号を混合(乗算)して出力する。
【0074】
平衡変調器125cは、平衡変調器124から出力された信号と、移相器125aから出力される信号とを混合(乗算)して出力する。
【0075】
ここで、平衡変調器124の出力信号をR(t)とし、平衡変調器125bの出力信号をI(t)とし、平衡変調器125cの出力信号をQ(t)とし、R(t)は送信部の平衡変調器113から出力され、局部発振器111から供給される発振信号と、局部発振器112から供給される基準信号とを混合(乗算)した信号が周波数拡散され、障害物まで往復伝播してから逆拡散により復元される過程で、平衡変調器113の出力信号がτだけ遅延した信号であることに留意すると、それぞれ、(数1)〜(数3)で表される。
【0076】
【数1】

【0077】
【数2】

【0078】
【数3】

【0079】
ここで、φcは、搬送波の位相を表しており、Δφc=−2πfcτは伝播遅延による搬送波の位相回転を表している。また、φ1は基準信号の位相を表しており、Δφ1=−2πf1τは伝播遅延による基準信号の位相回転を表している。
【0080】
さらに、I(t)の周波数成分のうち、帯域通過型濾波器126を通過して出力される信号をI'(t)とし、Q(t)の周波数成分のうち、帯域通過型濾波器128を通過して出力される信号をQ'(t)とすると、それぞれ、(数4)、(数5)で表される。
【0081】
【数4】

【0082】
【数5】

【0083】
ここで、(数4)および(数5)で表されるI'(t)とQ'(t)の信号強度をAI,AQとすると、AIは、(数6)で表され、AQは、(数7)で表される。そして、AIとAQとを用いることによって、受信信号の信号強度Aは、(数8)のように算出することができる。また、位相φc+ΔφcはI'(t)を振幅制限した信号と基準信号との積の直流成分として得ることができる(数11)で表されるI”と、Q'(t)を振幅制限した信号と基準信号との積の直流成分として得ることができる(数12)で表されるQ”を用いて、(数9)、(数10)から求めることができる。
【0084】
これにより、障害物の存在は、信号強度Aを基準値と照合することで判定することができ、相対速度は、ドップラー効果により生じる位相φc+Δφcの時間変化から計測することができる。
【0085】
【数6】

【0086】
【数7】

【0087】
【数8】

【0088】
【数9】

【0089】
【数10】

【0090】
【数11】

【0091】
【数12】

【0092】
なお、相対速度の計測が必要ない場合には、受信信号の位相φc+Δφcを知るために、振幅制限して増幅した信号を省略し、スペクトル拡散型レーダ装置100の構成を簡単化することもできる。
【0093】
なお、受信信号強度の情報の一部が損なわれることを許容できる場合には、同相信号、および直交信号のいずれかを省略し、スペクトル拡散型レーダ装置100の構成をさらに簡単化することができる。この場合には、信号伝播による受信信号の位相回転量Δφcの値により、本来の受信信号強度Aが(数6)、又は(数7)のように減衰されることになる。
【0094】
なお、減衰器116の代わりに電力増幅器を用い、大きな空中線電力を得るようしてもよい。
【0095】
ここで、本発明のスペクトル拡散型レーダ装置は、PN符号にデータ符号を埋め込んだ符号を用いて、単一周波数の搬送波信号に拡散変調を施した信号を送信信号として用いる従来技術によるレーダ装置に比べ、送受信器間での信号干渉特性に優れているという特徴がある。すなわち、一般にスペクトル拡散された変調信号には多数の周波数成分が含まれており、これらの周波数成分が送信器から受信機へ漏洩し、受信機内部で受信信号と干渉することが考えられるが、本方式では送信機内で、平衡変調器113から出力される変調信号の主な周波数成分は周波数fc−f1の信号と周波数fc+f1の2周波であるので、平衡変調器114から出力されるスペクトル拡散された信号に含まれる周波数成分は、単一周波数の搬送波信号に対してPN符号で周波数拡散した信号に含まれる周波数成分の数の2倍にとどまっており、かつ、周波数成分は全て2周波信号を中心として、PN符号自体に含まれる周波数成分で変調することにより発生する側波帯に分布しており、PN符号の符号レートをRcとすると、主な周波数成分はfc±(Rc+f1)の範囲内に留まり、受信機内部の中間周波数f1はfc−(Rc+f1)で与えられる周波数よりも十分低い周波数とすることが出来るので、信号干渉を抑制することができる。
【0096】
これに対して、PN符号にデータ符号を埋め込んだ符号を用いる従来技術では、受信機内部の中間周波数はデータ符号の基本周波数と一致させる必要があるが、PN符号にデータ符号を埋め込んだ符号の周波数成分自体がデータ符号の基本周波数を含んだ周波数領域に分布するため、信号干渉による受信性能の劣化が顕著となる。
【0097】
以上、説明したように実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置100によれば、直交復調器125に供給される搬送波と、探知用電波として送信される搬送波とを、共通の局部発振器を使用して生成していることで、発振器に要求される周波数安定度を緩和することができ、特に、フェーズロックループなどの高精度な周波数安定化機能を省略することができる。また、帯域通過型濾波器126,128から出力される信号は、(数4)、(数5)として表され、直流成分を含まないため、特に、直流増幅器を省略することができる。さらに、信号には直流成分が含まれないから、直流増幅器を用いることなく、直流オフセットの影響を受けずに、比較的容易に広いダイナミックレンジを保ちつつ信号を増幅することができる。これから、送信側と受信側で共通の局部発振器を利用しつつ、フェーズロックループ、直流増幅器等を必要としない回路構成であり、安価で探知距離範囲の広い高性能なレーダ装置を提供することができる。
【0098】
(実施の形態2)
次に、本発明に係わる実施の形態2について図面を参照しながら説明する。
【0099】
本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置は、下記(a)、(b)に示される特徴を備える。
【0100】
(a)直交復調器は、さらに、(a1)第1の発振信号と第1の発振信号に対して移相量が90度異なる第3の発振信号とを逐次的に出力する移相器と、(a2)変調信号と移相器から出力される信号とを混合して同相信号と直交信号とを逐次的に生成する平衡変調器とを備える。
【0101】
(b)受信回路は、さらに、(b1)直交復調器から同相信号と直交信号とが逐次的に入力され、同相信号と直交信号との周波数成分のうち、第2の発振信号の周波数を中心周波数とする帯域を通過する帯域通過型濾波器と、(b2)帯域通過型濾波器を通過した信号強度の対数に比例した信号強度と、帯域通過型濾波器を通過した信号の振幅を制限して増幅した信号とを出力する増幅器とを備える。
【0102】
具体的には、制御器から直交復調器へ逐次的に供給される位相量切替信号に基づいて、同相と直交位相とのいずれかの位相の信号が逐次的に切り替わって直交復調器から出力される。
【0103】
以上の点を踏まえて本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置について説明する。なお、実施の形態1の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0104】
先ず、本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置の構成について説明する。
【0105】
図5に示されるように、スペクトル拡散型レーダ装置200は、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置100(例えば、図2参照。)と比べて、下記(1)〜(3)の点が異なる。
【0106】
(1)受信部102の代わりに受信部202を備える。
【0107】
(2)信号処理部105の代わりに信号処理部205を備える。
【0108】
信号処理部205は、送信用PN符号発生部103に対する受信用PN符号発生部104の符号遅延時間τ、および入力される信号に基づいて、障害物の有無、距離、相対速度を算出する。
【0109】
(3)制御部106の代わりに制御部206を備える。
【0110】
制御部206は、直交復調器225から出力される信号を、I'(t)とQ'(t)との信号を逐次的に交互に切り替える制御信号を直交復調器225と信号処理部205に供給する。
【0111】
なお、信号処理部205は、制御部206から直交復調器225へ供給される制御信号に応じて、(数4)で表される信号、および(数5)で表される信号のいずれかが入力される。また、信号処理部205にも移相量を切り替える制御信号(以下、移相量切替信号と呼称する。)が入力される。
【0112】
続いて、実施の形態2における受信部の構成について説明する。
【0113】
図6に示されるように、受信部202は、受信部102と比べて、下記(1)〜(3)の点が異なる。
【0114】
(1)直交復調器125の代わりに直交復調器225を備える。
【0115】
直交復調器225は、移相器225a、平衡変調器225b等を備える。
【0116】
移相器225aは、移相量を切り替える機能を有する。具体的には、制御部206から供給される移相量切替信号に基づいて、送信部101から供給される発振周波数fcの信号を、同相と直交位相とのいずれかの位相に切り替えて出力する。
【0117】
平衡変調器225bは、平衡変調器124から出力された信号、すなわち、逆拡散処理が施された信号と、移相器225aから出力される信号とを混合(乗算)して出力する。このとき、制御部206から移相器225aへ供給される移相量切替信号に基づいて、同相と直交位相とのいずれかの位相で同期検波した信号を出力する。具体的には、同相の信号が移相器225aから出力された場合には、(数2)で表される信号を出力する。一方、局部発振器111から供給される信号と90度位相が異なる信号が移相器225aから出力された場合には、(数3)で表される信号を出力する。
【0118】
(2)帯域通過型濾波器126、128の代わりに帯域通過型濾波器226を備える。
【0119】
帯域通過型濾波器226は、不要な干渉信号を除去してf1±fdの周波数成分のみを通過させる。
【0120】
(3)増幅器127、129の代わりに増幅器227を備える。
【0121】
増幅器227は、帯域通過型濾波器226から出力された信号を増幅して信号処理部205へ出力する。
【0122】
これにより、二つ要した帯域通過型濾波器を一つに省略することができる。
【0123】
以上、説明したように実施の形態2におけるスペクトル拡散型レーダ装置によれば、同相と直交位相とのいずれかの位相の信号を逐次的に切り替えるため、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置と同程度の信号品質を得ようとすると、2倍程度の時間が必要となる。また、高速で移動する障害物に対しては、同相信号と直交信号とを逐次切り替えている間に、位置が移動することにより、正確な信号が得られない場合がある。しかし、許容できる場合、例えば、簡易的な用途に利用する場合には、直交復調器と信号処理器との間の信号伝達路を1系統にすることができ、構成を簡単化することができる。
【0124】
(実施の形態3)
次に、本発明に係わる実施の形態3について図面を参照しながら説明する。
【0125】
本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置は、下記(a)に示される特徴を備える。
【0126】
(a)スペクトル拡散型レーダ装置は、さらに、第1の発振信号の周波数をランダムに変化させるランダム信号を発生させるランダム信号発生回路を備える。
【0127】
以上の点を踏まえて本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置について説明する。なお、実施の形態1の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0128】
先ず、本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置の構成について説明する。
【0129】
図7に示されるように、スペクトル拡散型レーダ装置300は、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置100(例えば、図3参照。)と比べて、下記(1)、(2)の点が異なる。
【0130】
(1)送信部101の代わりに送信部301を備える。
【0131】
送信部301は、局部発振器111の代わりに局部発振器311を備える。
【0132】
局部発振器311は、ランダム信号発生部307から供給されるランダム信号に応じて、周波数を離散的または連続的に変化させながら発振信号を生成する。ここでは、一例として、帯域通過型濾波器126、128の通過帯域を基準にして発振信号の周波数を変化させる。
【0133】
例えば、ランダム信号が供給されていない場合において、局部発振器311から供給される発振信号の周波数をf1とする。一方、ランダム信号が供給されている場合において、局部発振器311から供給される発振信号の周波数をf1±Δfrとする。ここで、変位Δfrは、ランダム信号に追随して変化する周波数である。また、局部発振器112から供給される基準信号の周波数をf2とする。帯域通過型濾波器126、128の通過帯域の上限周波数をfbhとし、下限周波数をfblとする。この場合において、“Δfr>fbh−f2”かつ“Δfr>f2−fbl”の条件を満たす範囲で変位Δfrを変化させる。なお、ドップラーシフトfdを考慮する場合は、“Δfr>fbh−f2+fd”かつ“Δfr>f2−fbl+fd”の条件を満たす範囲で変位Δfrを変化させる。
【0134】
(2)新たにランダム信号発生部307を備える。
【0135】
ランダム信号発生部307は、ランダム信号を生成し、生成したランダム信号を局部発振器311に供給する。
【0136】
ここで、受信用空中線121を介して、所望の反射波が受信されると、周波数f+fと周波数f−fとの変調信号が平衡変調器124から出力され、妨害波が受信されると、周波数f+fの妨害信号が平衡変調器124からリークされる場合を例に説明する。
【0137】
この場合において、発振信号が平衡変調器125b、125cにも供給されるので、ランダム信号に追随して周波数が変化する変調信号は、平衡変調器125b、125cにおいて、支障なく復調される。一方、周波数が一定の妨害信号は、平衡変調器125b、125cにおいて、帯域通過型濾波器126、128で取り除かれる信号に復調される。
【0138】
これにより、ランダム信号発生部307がなければ、変調信号の周波数が固定されるので、妨害信号と変調信号とを区別することができない。一方、ランダム信号発生部307があれば、妨害信号の周波数がランダム信号に追随して変化しない限り、妨害信号と変調信号とを区別することができる。
【0139】
以上、本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置300によれば、似たような周波数であっても、妨害波の影響によって平衡変調器124からリークされる妨害信号と、所望の反射波によって平衡変調器124から出力される変調信号とを区別することができる。
【0140】
(実施の形態4)
次に、本発明に係わる実施の形態4について図面を参照しながら説明する。
【0141】
本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置は、下記(a)、(b)に示される特徴を備える。
【0142】
(a)第1の発振信号を第1の擬似雑音符号で変調して、スペクトル拡散された拡散信号を探知用電波として放射し、物体に反射されて戻ってきた探知用電波を受信信号として受信し、第2の擬似雑音符号と第1の発振信号とに基づいて、受信信号を逆拡散して復調信号を生成するスペクトル拡散型レーダ装置であって、(a1)所定の周波数で符号を発生させることで繰り返し符号を生成する繰り返し符号発生回路と、(a2)第1の擬似雑音符号を時間遅延させた擬似雑音符号と繰り返し符号との間で排他的論理和演算を行って得られた結果を第2の擬似雑音符号として出力する排他的論理和演算回路とを備える。
【0143】
(b)繰り返し符号発生回路と排他的論理和演算回路とが同一の半導体集積回路に集積されている。
【0144】
以上の点を踏まえて本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置について説明する。なお、実施の形態1の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0145】
先ず、本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置の構成について説明する。
【0146】
図8Aに示されるように、スペクトル拡散型レーダ装置400aは、実施の形態1におけるスペクトル拡散型レーダ装置100(例えば、図3参照。)と比べて、下記(1)〜(3)の点が異なる。
【0147】
(1)送信部101の代わりに送信部401aを備える。
【0148】
送信部401aは、局部発振器112、平衡変調器113、平衡変調器114の代わりに、平衡変調器412a、増幅器413aを備える。
【0149】
このとき、平衡変調器412aは、局部発振器111から供給される発振信号(例えば、24[GHz]。)の位相を、送信用PN符号発生部103から供給されるPN符号に基づいて変調し、変調して得られた変調信号を出力する。増幅器413aは、平衡変調器412aから出力される変調信号を増幅し、増幅して得られた信号を出力する。そして、増幅器413aから出力された信号が、帯域通過型濾波器115、減衰器116、送信用空中線117を介して、探知用電波として放射される。
【0150】
(2)新たに繰り返し符号発生器408aを備える。
【0151】
繰り返し符号発生器408aは、1,0,1,0,・・・のように、繰り返し符号を生成し、生成した繰り返し符号を排他的論理和演算器409aに供給する。ここでは、一例として、455[kHz]で繰り返し符号を生成する。
【0152】
なお、繰り返し符号のクロック周波数の1/2の周波数は、受信信号の相関特性を向上させるために、第1の擬似雑音符号の周期の周波数の整数分の1の周波数であることが好ましい。ここで、繰り返し符号のクロック周波数の1/2の周波数は、繰り返し符号が「1,0,1,0・・・」であった場合は、その矩形波の周波数そのものを意味する。
【0153】
(3)新たに排他的論理和演算器409aを備える。
【0154】
排他的論理和演算器409aは、受信用PN符号発生部104から供給されるPN符号と、繰り返し符号発生器408aから供給される繰り返し符号との間で排他的論理和をとり、排他的論理和をとって得られた符号を受信部102の平衡変調器124へ出力する。
【0155】
なお、ここでは、一例として、繰り返し符号発生器408aと排他的論理和演算器409aとが同一の半導体集積回路に集積されているとする。そして、その半導体集積回路の外部へ、排他的論理和演算器409aから出力される符号が出力されても、繰り返し符号発生器408aから供給される繰り返し符号は出力されない。これによって、繰り返し符号がプリント基板上に流出しない限り、繰り返し符号の周波数またはその高調波を帯域通過型濾波器126、128で選択して増幅器127、129で増幅するときに、繰り返し符号発生器408aからリークされる信号によって、直交復調器125を通過した非常に微弱な信号に影響を与えることを防止することができる。
【0156】
また、図8Bに示されるように、繰り返し符号発生器408bと排他的論理和演算器409bとが同一の半導体集積回路に集積されて送信側に備わるとしてもよい。このとき、送信部401bは、局部発振器112、平衡変調器113、平衡変調器114の代わりに、平衡変調器412bを備える。さらに、平衡変調器412bは、局部発振器111から供給される発振信号(例えば、24[GHz]。)の位相を、排他的論理和演算器409bから出力される符号に基づいて変調し、変調して得られた変調信号を出力する。そして、平衡変調器412aから出力された信号が、帯域通過型濾波器115、減衰器116、送信用空中線117を介して、探知用電波として放射される。これによって、繰り返し符号がプリント基板上に流出しない限り、繰り返し符号発生器408bからリークされる信号によって、受信部102に与える影響を抑止することができる。
【0157】
しかし、繰り返し符号発生器408b、排他的論理和演算器409bを送信側よりも受信側に備える方が、スプリアスの影響が少ないという利点がある。これは、送信側で純粋に正弦波の単一スペクトラムを拡散しただけで変調信号が生成される。結果、その変調信号に含まれているスペクトル数が少なく、受信側のアンプなどで相互変調するときにスプリアスの発生が少ない。従って、自己相関特性の劣化や、スプリアスによる受信信号の妨害などが少ないという利点がある。
【0158】
以上、本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置400aによれば、送信部401aにおいて、搬送波と送信用PN符号とが直接変調される。変調されて得られた信号が送信用空中線117などを介して、探知用電波として放射される。そして、受信部102において、送信用PN符号を遅延させた受信用PN符号と繰り返し符号との間で排他的論理和をとって得られた信号を使用して平衡変調器124で逆拡散される。
【0159】
例えば、従来の技術においては、送信側において、データ源から供給されるデータ(ビット列)と、送信用PN符号との間で排他的論理和がとられる。そして、排他的論理和がとられて得られた符号を、局部発振器から供給される発振信号を使用して変調するので、変調して得られた符号に対して、スペクトルの各周波数の上下に、ビット列による多数のスペクトルが生じる。これにより、スペクトル数が非常に多くなるので、平衡変調器412a、増幅器413a、低雑音増幅器123などによる非線形性の影響によって、多数のスペクトル同士の相互変調が生じる。これによって、受信側における逆拡散処理において、遅延PN符号との相関特性が劣化し、受信出力のピーク対ノイズの比が劣化する。すなわち、反射が強い物体に弱い物体がマスクされ、物体検出能力が落ちる。
【0160】
これに対して、本実施の形態におけるスペクトル拡散型レーダ装置400aによれば、送信部401aから探知用電波として放射される信号については、スペクトル数が少ないので、相互変調の影響を受けにくい。
【0161】
(その他)
なお、送信回路は、第2の発振信号の位相を第1の擬似雑音符号に基づいて変調して中間信号を生成し、中間信号と第1の発振信号とを混合して拡散信号を生成するとしてもよい。
【0162】
このとき、(a)送信回路は、さらに、(b)第1の発振信号を生成する第1の局部発振器と、(c)第2の発振信号を生成する第2の局部発振器と、(d)第2の発振信号の位相を第1の擬似雑音符号に基づいて変調して中間信号を生成する第1の平衡変調器と、(e)中間信号と第1の発振信号とを混合して拡散信号を生成する第2の平衡変調器とを備える。
【0163】
例えば、図9Aに示されるように、送信部101の代わりに、送信部101aを備えるとしてもよい。ここで、送信部101aは、局部発振器111、平衡変調器113、平衡変調器114の代わりに、局部発振器111a、局部発振器112a、平衡変調器113a、平衡変調器114aを備える。このとき、平衡変調器113aは、局部発振器112aから供給される基準信号(例えば、455[kHz]。)の位相を、送信用PN符号発生部103から供給されるPN符号に基づいて変調し、変調して得られた変調信号を出力する。平衡変調器114aは、局部発振器111aから供給される発振信号(例えば、24[GHz]。)と、平衡変調器113aから出力される変調信号とを混合(乗算)し、混合して得られた信号を出力する。そして、平衡変調器114aから出力された信号が、帯域通過型濾波器115、減衰器116、送信用空中線117などを介して、探知用電波として放射される。
【0164】
なお、送信回路は、第1の発振信号の位相を第1の擬似雑音符号に基づいて変調して中間信号を生成し、中間信号と第2の発振信号とを混合して拡散信号を生成するとしてもよい。
【0165】
このとき、送信回路は、さらに、(a)第1の発振信号を生成する第1の局部発振器と、(b)第2の発振信号を生成する第2の局部発振器と、(c)第1の発振信号の位相を第1の擬似雑音符号に基づいて変調して中間信号を生成する第1の平衡変調器と、(d)中間信号と第2の発振信号とを混合して拡散信号を生成する第2の平衡変調器とを備える。
【0166】
例えば、図9Bに示されるように、送信部101の代わりに、送信部101bを備えるとしてもよい。ここで、送信部101bは、局部発振器111、局部発振器112、平衡変調器113、平衡変調器114の代わりに、局部発振器111b、局部発振器112b、平衡変調器113b、平衡変調器114bを備える。
【0167】
このとき、平衡変調器113bは、局部発振器111bから供給される発振信号(例えば、24[GHz]。)の位相を、送信用PN符号発生部103から供給されるPN符号に基づいて変調し、変調して得られた変調信号を出力する。平衡変調器114bは、局部発振器112bから供給される基準信号(例えば、455[kHz]。)と、平衡変調器113bから出力される変調信号とを混合(乗算)し、混合して得られた信号を出力する。そして、平衡変調器114bから出力された信号が、帯域通過型濾波器115、減衰器116、送信用空中線117などを介して、探知用電波として放射される。
【0168】
なお、図10に示されるように、ランダム信号発生部307の代わりに、制御部306aから局部発振器311に供給される制御信号に応じて、局部発振器311から供給される発振信号の周波数を変化させるとしてもよい。
【0169】
なお、局部発振器111は、シングルエンド信号で発振信号を供給するとしてもよいし、差動信号で発振信号を供給するとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明は、安価で高性能なレーダ装置等として、利用することができる。
【符号の説明】
【0171】
100 スペクトル拡散型レーダ装置
101、101a、101b 送信部
102 受信部
103 送信用PN符号発生部
104 受信用PN符号発生部
105 信号処理部
106 制御部
111、111a、111b 局部発振器
112、112a、112b 局部発振器
113、113a、113b 平衡変調器
114、114a、114b 平衡変調器
115 帯域通過型濾波器
116 減衰器
117 送信用空中線
121 受信用空中線
122 帯域通過型濾波器
123 低雑音増幅器
124 平衡変調器
125 直交復調器
125a 移相器
125b 平衡変調器
125c 平衡変調器
126 帯域通過型濾波器
127 増幅器
128 帯域通過型濾波器
129 増幅器
200 スペクトル拡散型レーダ装置
202 受信部
205 信号処理部
206 制御部
225 直交復調器
225a 移相器
225b 平衡変調器
226 帯域通過型濾波器
227 増幅器
300、300a スペクトル拡散型レーダ装置
301 送信部
306a 制御部
307 ランダム信号発生部
311 局部発振器
400a、400b スペクトル拡散型レーダ装置
401a、401b 送信部
408a、408b 繰り返し符号発生器
409a、409b 排他的論理和演算器
412a、412b 平衡変調器
413a 増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発振信号を第1の擬似雑音符号で変調して、スペクトル拡散された拡散信号を探知用電波として放射し、物体に反射されて戻ってきた探知用電波を受信信号として受信し、第2の擬似雑音符号と前記第1の発振信号とに基づいて、前記受信信号を逆拡散して復調信号を生成するスペクトル拡散型レーダ装置であって、
所定の周波数で符号を発生させることで繰り返し符号を生成する繰り返し符号発生回路と、
前記第1の擬似雑音符号を時間遅延させた擬似雑音符号と前記繰り返し符号との間で排他的論理和演算を行って得られた結果を前記第2の擬似雑音符号として出力する排他的論理和演算回路と
を備えることを特徴とするスペクトル拡散型レーダ装置。
【請求項2】
前記繰り返し符号発生回路と前記排他的論理和演算回路とが同一の半導体集積回路に集積されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスペクトル拡散型レーダ装置。
【請求項3】
前記繰り返し符号のクロック周波数の1/2の周波数は、前記第1の擬似雑音符号の周期の周波数の整数分の1の周波数である
ことを特徴とする請求項1に記載のスペクトル拡散型レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−107165(P2011−107165A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48371(P2011−48371)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【分割の表示】特願2007−512815(P2007−512815)の分割
【原出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】