スペーサ、スペーサを組み込んだ運動案内装置及びボールねじ
【課題】軌道部材のボール転走溝又は移動部材の負荷ボール転走溝の上に倒れたスペーサを確実に起き上がらせることができるスペーサを提供する。
【解決手段】スペーサ16に、隣り合う一対のボール3のうちの一方のボール3aに接触し、スペーサ16の進行方向から見てスペーサ16の周方向に配列される複数の第一のボール接触部17aと、隣り合う一対のボール3のうちの他方のボール3bに接触し、スペーサ16の進行方向から見てスペーサ16の周方向に配列される複数の第二のボール接触部17bと、を設ける。一対のボール3が離れるとき、スペーサ16の、複数の第一のボール接触部17a側又は複数の第二のボール接触部17b側が、ボール転走溝1aの上に倒れる。一対のボール3が近づくとき、スペーサ16は、一方のボール3aの上側の半分に接触点BP1にて接触し、かつ他方のボールの3bの下側の半分に接触点BP2にて接触する。
【解決手段】スペーサ16に、隣り合う一対のボール3のうちの一方のボール3aに接触し、スペーサ16の進行方向から見てスペーサ16の周方向に配列される複数の第一のボール接触部17aと、隣り合う一対のボール3のうちの他方のボール3bに接触し、スペーサ16の進行方向から見てスペーサ16の周方向に配列される複数の第二のボール接触部17bと、を設ける。一対のボール3が離れるとき、スペーサ16の、複数の第一のボール接触部17a側又は複数の第二のボール接触部17b側が、ボール転走溝1aの上に倒れる。一対のボール3が近づくとき、スペーサ16は、一方のボール3aの上側の半分に接触点BP1にて接触し、かつ他方のボールの3bの下側の半分に接触点BP2にて接触する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブル等の可動体がベッド等の固定体に対して運動するのを案内する運動案内装置、及びねじ軸を回転させてナットの直線運動を得るボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
運動案内装置は、ベッド等の固定体に取り付けられる軌道部材と、テーブル等の可動体に取り付けられる移動部材と、を備える。移動部材は軌道部材に沿って直線運動又は曲線運動する。軌道部材のボール転走溝と移動部材の負荷ボール転走溝との間には、複数のボールが転がり運動可能に介在される。軌道部材に対して移動部材が相対的に移動するとき、複数のボールがこれらの間を転がり運動する。ボールの転がり運動により、最小の摩擦抵抗で移動部材が軌道部材に沿って移動部材を直線運動又は曲線運動する。
【0003】
ねじ装置は、ねじ軸の外周面の螺旋状のボール転走溝とナットの内周面の負荷ボール転走溝とを対向させ、これらの間に複数のボールを介在させたものである。ナットに対してねじ軸を相対的に回転させると、ナットがねじ軸の軸線方向に直線運動する。複数のボールは、ねじ軸の螺旋状のボール転走溝とナットの負荷ボール転走溝との間を転がり運動する。ボールの転がり運動により、最小の摩擦抵抗でねじ軸を回転させることができる。
【0004】
ところで、上記運動案内装置及び上記ねじ装置において、進行方向の前後のボール同士が接触していると、ボールが転がり運動するとき、ボール同士の接触する部分にすべりが発生し、ボールの早期磨耗を招く。隣り合うボールの接触を防止するため、ボール間にスペーサが介在される。複数のスペーサは、バンドにて一連に連結されることもあるし(バンドタイプのリテーナ)や、互いに分離されることもある(セパレートタイプのスペーサ)。
【0005】
セパレートタイプのスペーサを運動案内装置やねじ装置の無限循環路内に組み込んだ場合、無限循環路内のどこかで円周方向すきま(ボールの進行方向のすきま)が生ずるおそれがある。すきまが生ずるのを防止するために、伸縮可能な弾性スペーサをボール間に介在させることが行われている(特許文献1参照)。特許文献1に記載のスペーサにおいて、スペーサの、ボールに接触する部分が弾性体から構成されている。弾性体が弾性変形することによって、一対のボール間の距離を調整している。
【0006】
しかし、弾性スペーサを無限循環路に組み込んだとしても、なんらかの外乱等により、スペーサを挟んで隣り合う一対のボール間の距離が離れてしまうおそれがある。そして、スペーサが一対のボール間に挟まれた正規の状態から倒れる(言い換えれば、無限循環路の側方から見て、スペーサが正規の状態から約90度回転する)おそれがある。
【0007】
この問題を解決するために、特許文献2には、倒れても起き上がることができる円柱状の保持ピースが開示されている。この保持ピースの外周面は、倒れた状態の保持ピースを一対のボールで挟んだとき、ボールから保持ピースに起き上がるような偶力が働くように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−283838号公報
【特許文献2】特開2006−336686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献2に記載の発明には、ボール間で倒れた保持ピースがボールの下側に潜ってしまうという問題がある。保持ピースがボールの下側に潜った状態では、一対のボールを近づけても保持ピースを起き上がらせることができない。
【0010】
この問題を解決するために、特許文献2に記載の発明においては、ボール及び保持ピースを入れたチューブを鉛直方向に立てている(特許文献2、段落0019〜0022参照)。しかし、もちろん、ボール及び保持ピースを入れたチューブを鉛直方向に立てる作業は、運動案内装置をベッド等に固定した後は困難である。たとえ、チューブを鉛直方向に立てることができたとしても、いくつかの保持ピースは起き上がることができないままでいる。
【0011】
そこで本発明は、軌道部材のボール転走溝又は移動部材の負荷ボール転走溝の上に倒れたスペーサを起き上がらせ、ボール間に挟まれた状態に戻し、安定した案内を行うことができるスペーサ、このスペーサを組み込んだ運動案内装置及びボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、ボール転走溝を有する軌道部材と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有する移動部材と、前記軌道部材の前記ボール転走溝と前記移動部材の前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備える運動案内装置に組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、前記スペーサは、前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサである。
【0013】
本発明の他の態様は、螺旋状のボール転走溝を有するねじ軸と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記ボール転走溝と前記ナットの前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備えるボールねじに組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、前記スペーサは、前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボール転走溝又は負荷ボール転走溝に倒れたスペーサを起き上がらせ、ボール間に挟まれた状態に戻すことができるので、安定した案内を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一の実施形態における運動案内装置の斜視図(一部断面を含む)
【図2】上記運動案内装置の断面図
【図3】無限循環路に沿った運動案内装置の断面図
【図4】ボール間に挟まれた第一の実施形態のスペーサを示す図(図中(a)は平面図を示し、図中(b)は正面図を示し、図中(c)は側面図を示し、図中(d)は背面図を示す)
【図5】第一の実施形態のスペーサの斜視図
【図6】スペーサの詳細図(図中(a)は正面図を示し、図中(b)及び(c)は断面図を示す)
【図7】スペーサの他の例を示す図(図中(a)は正面図を示し、図中(b)は側面図を示し、図中(c)は断面図を示す)
【図8】一対のボールが近づいたときのスペーサの挙動を示す平面図(スペーサの挙動がNo.1→No.10に変化)
【図9】一対のボールが近づいたときのスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.1→No.5に変化)
【図10】一対のボールが近づいたときのスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.6→No.10に変化)
【図11】ボール間に挟まれた第二の実施形態のスペーサの側面図
【図12】第二の実施形態のスペーサの斜視図
【図13】第二の実施形態のスペーサの断面図
【図14】一対のボール間に挟まれた正規の状態にあるスペーサの側面図
【図15】一対のボールが離れたり、近づいたりしたときのスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.1→No.10に変化)
【図16】一対のボールが離れたり、近づいたりしたときのスペーサの挙動を示す平面図(スペーサの挙動がNo.1→No.10に変化)
【図17】ボール転走溝上に倒れたスペーサを示す図(図中(a)は側面図を示し、図中(b)は斜視図を示す)
【図18】一対のボールが近づいたとき、ボール転走溝上で姿勢を矯正するスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.5−1→No.5−4に変化)
【図19】一対のボールが近づいたとき、ボール転走溝上で姿勢を矯正するスペーサの挙動を示す平面図(スペーサの挙動がNo.5−1→No.5−4に変化)
【図20】本発明の第三の実施形態のねじ装置の斜視図(一部断面を含む)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2は、本発明の第一の実施形態における運動案内装置としてのリニアガイドを示す。図1はリニアガイドの斜視図を示し、図2はリニアガイドの断面図を示す。
【0017】
リニアガイドは、直線状に伸びる軌道部材としての軌道レール1と、この軌道レール1に複数のボール3を介して移動自在に設けられた移動部材としての移動ブロック2とを備えている。
【0018】
軌道レール1は、断面略四角形状で細長く伸びる。軌道レール1には、軌道レール1の下面をベッド等の固定部に取り付けるためのボルト用の通し孔1bが上面から下面に貫通して形成される。軌道レール1の左右側面及び上面には、長手方向に沿って直線状に伸びるボール転走溝1aが形成される。この実施形態では、軌道レール1の上面の幅方向の端部には突部11が形成され、突部11の上側及び下側に合計四条のボール転走溝1aが形成される。ボール転走溝1aの断面形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状又は二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成される。ボール3はボール転走溝1aに一点又は二点で接触する。
【0019】
移動ブロック2は、軌道レール1のボール転走溝1aに対向する負荷ボール転走溝2aが形成される移動ブロック本体4と、移動ブロック本体4の移動方向の両端部に取り付けられる一対の蓋部材としてのエンドプレート5、から構成される。図2に示すように、移動ブロック本体4は、軌道レール1の上面に対向する中央部4aと、中央部4aの左右両側から下方に伸び、軌道レール1の左右側面に対向する側壁部4bと、を備える。移動ブロック本体4の中央部4aの下面及び側壁部4bの内側面には、軌道レール1のボール転走溝1aに対向する四条の負荷ボール転走溝2aが形成される。負荷ボール転走溝2aの断面形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状又は二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成される。ボール3は負荷ボール転走溝2aに一点又は二点で接触する。
【0020】
図1に示すように、移動ブロック2の上面には、移動ブロックをテーブル等の相手部品に取り付けるための取付けねじ2bが加工される。移動ブロック2の移動方向の端面には、移動ブロック2内に塵芥等の異物が侵入するのを防止する端面シール6が取り付けられる。移動ブロック2の側壁部4bの下面には、下側からの異物の侵入を防ぐ、サイドシール12が取り付けられる。移動ブロック2の中央部4aの下面及び側壁部4bの下面には、移動ブロック2を軌道レール1から取り外したときにボール3が脱落するのを防止するボール保持プレート13,12が取り付けられる。さらに、移動ブロック2には、無限循環路にグリース、潤滑油等の潤滑剤を供給するためのニップル9が取り付けられる。
【0021】
図2に示すように、軌道レール1のボール転走溝1a及び移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aとの間に、軌道レール1の長手方向に伸びる負荷ボール転走路P1が形成される。移動ブロック2には、無負荷戻し路P2も形成されていて、この無負荷戻し路P2は負荷ボール転走路P1と平行に伸びる。
【0022】
図3に示すように、移動ブロック本体4には、移動ブロック本体4のインサート成形、又は樹脂成形された部品の組み込み等により、無負荷戻し路構成部7及び内周案内部8が形成される。無負荷戻し路構成部7に、負荷ボール転走溝2aと平行に伸びる無負荷戻し路P2が形成される。内周案内部8には方向転換路P3の内周側が形成される。方向転換路P3の外周側である外周案内部はエンドプレート5に形成される。エンドプレート5を移動ブロック本体4に取り付けることで、U字状の方向転換路P3が形成される。方向転換路P3は、負荷ボール転走路P1と無負荷戻し路P2とを接続する。これら負荷ボール転走路P1、無負荷戻し路P2及び方向転換路P3によってサーキット状の無限循環路が形成される。
【0023】
サーキット状の無限循環路には、複数のボール3が配列・収容される。複数のボール3は、負荷ボール転走路P1を荷重を受けながら転がり運動する。負荷ボール転走路P1の一端まで転がったボール3は、U字状の方向転換路P3を経由した後、無負荷戻し路P2に入る。無負荷戻し路P2を通過したボールは、反対側の方向転換路P3を経由した後、再び負荷ボール転走路P1に入る。
【0024】
複数のボール3間には、後述する複数のスペーサ16,21,26が挟まれる。スペーサ16,21,26の個数はボール3の個数と等しい。複数のスペーサ16,21,26は互いに分離している。
【0025】
図4ないし図6は、本発明の第一の実施形態のスペーサ16を示す。図4は、隣り合う一対のボール3間に挟まれるスペーサ16を示し、図5は、単独のスペーサ16の斜視図を示し、図6は、単独のスペーサの正面図及び断面図を示す。図5及び図6に示すように、スペーサ16は円盤を基礎形状とし、その周縁部17が交互に第一のボール接触部としての山部17a及び第二のボール接触部としての谷部17bを有するように連続した波形状に折り曲げられている。この実施形態では、三つの山部17aが周方向に均等間隔をあけて(120度の間隔をあけて)設けられ、三つの谷部17bが周方向に均等間隔をあけて(120度の間隔をあけて)設けられる。山部17a及び谷部17bの個数は三つ以上あればよく、その個数は限定されない。例えば、周縁部17をスペーサ16の本体部18の周囲を縁取るように形成し、本体部18よりも厚くして周縁部17の先端を断面円弧状にすることもできる。これによれば、周縁部17がボール3に接触する位置が変化しても、周縁部17とボール3とを点接触させることができる。ただし、周縁部17の厚みは本体部18と同じ厚さでもよい。周縁部17は周方向に連続する波形状に形成されていて、スリット等で分断されていない。スペーサ16は、樹脂の射出成型により製造される。
【0026】
周縁部17の内側には、周縁部17よりも厚みが薄く、かつ厚みが略一定の本体部18が形成される。本体部18は、周縁部17と同様に、周方向に周縁部と同一の位相の山部18a及び谷部18bが形成されるように波形状に折り曲げられる。本体部18及び周縁部17の山部18a,17aは、スペーサ16の外周側に行くにしたがって一方のボール3a(図4(c)参照)に近づくように湾曲する。本体部18及び周縁部17の谷部18b,17bは、スペーサ16の外周側に行くにしたがって他方のボール3b(図4(c)参照)に近づくように湾曲する。本体部18及び周縁部17の山部18a,17a及び谷部18b,17bを含む断面において(図6(c)参照)、本体部18及び周縁部17はS字状に湾曲する。本体部18及び周縁部17の、山部18a,17aの稜線19a(図4(b)参照)は、スペーサ16の中央の貫通孔20から放射状に伸びる。同様に、谷部18b,17bの稜線19bは、スペーサ16の中央の貫通孔20から放射状に伸びる。
【0027】
図4(b)に示すように、スペーサ16が円滑に無限循環路を循環するように、ボール3及びスペーサ16の進行方向からみて、スペーサ16の外形は円形状に形成される。スペーサ16の外形は、ボール3の直径と同等以下であればよい。すなわち、スペーサ16がボール3間に挟まれたときに、スペーサ16が周方向に拡がった状態で、スペーサ16の外形がボール3の直径よりも小さければよい。本体部18の中央には、スペーサ16の表側と背面側との間で潤滑剤の行き来が可能になるように、本体部を厚み方向に貫通する貫通孔20があけられる。貫通孔20の中心線は、隣り合う一対のボール3a,3b(図4(c)参照)の中心を結んだ線3L上に位置する。貫通孔20の周囲の、本体部18の内周側には、平らなリング形状の円環部20aが形成される(図6参照)。円環部20aは、中心に向かって厚さが薄くなるテーパ形状に形成されている。円環部20aは平らには限定されず、ボール3の曲率に沿って湾曲していてもよい。本体部18は円環部20aの外側において波形状に折り曲げられている。スペーサ16を貫通孔20の中心線を含む断面で切断すると、本体部18は円環部20aから周縁部17に向かって曲線的に伸びる(図6(c)参照)。
【0028】
図4(c)に示すように、隣り合う一対のボール3でスペーサ16を挟んだとき、スペーサ16の周縁部17の三つの山部17aが一方のボール3aに接触し、スペーサ16の周縁部17の三つの谷部17bが他方のボール3bに接触する。スペーサ16の周縁部17の断面形状は円弧形状に形成されているので、周縁部17とボール3との接触は点接触になる。スペーサ16の周縁部17の山部17aと一方のボール3aとは合計三点で点接触する。三つの接触点CP1(図4(b)参照)は、スペーサ16及びボール3の進行方向からみて、スペーサ16の周方向に120度の均等間隔をあけて配列される。同様に、スペーサ16の周縁部17の谷部17bと他方のボール3bとは合計三点で点接触し、三つの接触点CP2(図4(d)参照)は、スペーサ16及びボール3の進行方向からみて、スペーサ16の周方向に120度の均等間隔をあけて配列される。スペーサ16の山部17aと一方のボール3aとの接触点CP1、及びスペーサ16の谷部17bと他方のボール3bとの接触点CP2は、スペーサ16の正面側及び背面側に周方向に60度毎に交互に表れる。スペーサ16の中心を対称の中心にして、各山部17aと各谷部17bとは点対称の位置にある。スペーサ16の本体部18とボール3とは接触することなく、これらの間にはすきまがあく。
【0029】
一対のボール3でスペーサ16を挟んだとき、スペーサ16はその進行方向に僅かに縮んだ状態にある。スペーサ16が縮んだ状態では、周方向に交互に形成される山部17a及び谷部17bは、平板形状に近付くように弾性変形している。スペーサ16は樹脂等の弾性体からなるので、撓んだ山部17a及び谷部17bが元の波形状に復元しようとすることによって、スペーサ16には、隣り合うボール3同士を引き離そうとする弾性力が発生する。
【0030】
スペーサ16の、実際のボール3と接触している部分は、転がり抵抗、磨耗、発熱等々の転がり運動の基礎的な機能面から考えると少ないほどよい。ボール3は三点で支持すれば位置は安定する。よって、山部17a及び谷部17bはそれぞれボールと三点で点接触するのが望ましい。ただし、悪環境条件下で磨耗がより心配される場合には、山部17a及び谷部17bを余分に四,五,六…個としておくのもよい。
【0031】
図7は、スペーサの他の例を示す。図中(a)は正面図を、図中(b)は側面図を、図中(c)は断面図を示す。この例のスペーサ21も、その周縁部が周方向に交互に山部22a及び谷部22bを有する波形状に形成される。スペーサ21は、隣接する一対のボール3のうちの一方のボール3aに接触する三つの山部22aを有すると共に、一対のボール3のうちの他方のボール3bに接触する少なくとも三つの谷部22bを有する。スペーサ21と一方のボール3aとは合計三つの点CP1で点接触し、スペーサ21と他方のボール3bとも合計三つの点CP2で点接触する。スペーサ21の中心21aを対称の中心にして、各山部22aと各谷部22bとは点対称の位置にある。すなわち、図7(c)の断面図で示すように、山部22aと谷部22bとは同一の断面図上に表れる。スペーサ21の中央には、スペーサ21及びボール3の進行方向に貫通する貫通孔24が開けられる。
【0032】
この例のスペーサ21は上記実施形態のスペーサ16と以下の点が相違する。図7(a)に示すように、スペーサ21は円板を波形状に折り曲げた形状をなし、スペーサ21の正面形状は円形状よりも六角形に近くなる。図7(c)に示すように、スペーサ21はその全体に亘って厚みが一定に形成される(スペーサ16のように、周縁部17が本体部18よりも厚みが厚く形成されたり、円環部20aが本体部よりも厚みが薄く形成されることはない)。貫通孔24の中心を含んだ断面において、スペーサ21はS字状に湾曲している(スペーサ16のように、平らな円環部20aは形成されない)。
【0033】
本実施形態のスペーサ16,21は、軌道レール1のボール転走溝1a又は移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aの上に倒れても起き上がる機能を持つ。以下に図8ないし図10に基づいて、スペーサ16,21の起き上がり機能を説明する。
【0034】
図8には、一対のボール3が近づいたときのスペーサ16の挙動の平面図を示し、図9及び図10には、一対のボール3が近づいたときのスペーサ16の挙動の側面図を示す。図8ないし図10において、No.1〜No.10はスペーサ16が倒れた後のスペーサの経時的な挙動の変化を表し、同一のNo.は同一の時間を表す。
【0035】
図8及び図9のNo.1に示すように、隣り合う一対のボール3が離れると、一対のボール3間に挟まれていたスペーサ16が、重力により軌道レール1のボール転走溝1aの上に倒れる。スペーサ16が倒れると、スペーサ16の山部17a側(図4(a)に示すスペーサ16の正面側)がボール転走溝1a上に倒れる。もちろん、スペーサ16の谷部17b側がボール転走溝1a上に倒れる確率は、スペーサ16の山部17a側がボール転走溝1a上に倒れる確率に等しい。ここでは説明の便宜上、スペーサ16の山部17a側がボール転走溝1a上に倒れるとする。また、スペーサ16は、移動ブロック2の負荷ボール転走溝2a側に倒れることもあるが、ここでは説明の便宜上、ボール転走溝1a上に倒れるとする。
【0036】
図8及び図9のNo.1に示すように、スペーサ16がボール転走溝1a上に倒れるとき、スペーサ16の水平面内での回転角度は任意であり、スペーサ16の三つの山部17a及び三つの谷部17bの位置も任意となる。ただし、スペーサ16は無限循環路から外れることはできないので、スペーサ16中心はボール転走溝1aの中心線1a−1の近くに位置する。
【0037】
図8及び図9のNo.1→No.4に示すように、一方のボール3a及び他方のボール3bがスペーサ16に近づいたとき、一方のボール3aがスペーサ16の谷部17bの近傍の点BP1にてスペーサ16に接触し、他方のボール3bがスペーサ16の谷部17bと山部17aの間の点BP2にてスペーサ16に接触する。一方のボール3a及び他方のボール3bがスペーサ16に接触すると、スペーサ16の水平面内での向きが矯正され、矯正後にNo.4に示すように、一方のボール3aがスペーサ16の谷部17bの近傍でスペーサ16に一点BP1で接触し、他方のボール3bがスペーサ16に二点BP2で接触する。
【0038】
スペーサ16の水平面内での向きの矯正に伴って、スペーサ16の三つの山部17aのうち、一つの山部17a−1がボール転走溝1aの底に接触し、残りの二つの山部17a−2がボール転走溝1aの底よりも高い位置又はボール転走溝1aの外側に接触する(図9No.4参照)。これにより、スペーサ16の中心線16Lがボール転走溝1aに対して傾き、スペーサ16が一方のボール3aの上側の半分に接触し、スペーサ16が他方のボール3bの下側の半分に接触するようになる。言い換えれば、スペーサ16が一方のボール3aの北半球部分に接触し、かつ他方のボール3bの南半球部分に接触するようになる。スペーサ16に起き上がる回転力が作用するので、安定した案内を行うことができる。
【0039】
一方のボール3a及び他方のボール3b間の距離がさらに縮まることによって、図8のNo.5→No.9、及び図9のNo.5→図10のNo.9に示すように、スペーサ16は一方のボール3aに二点BP1で接触し、他方のボール3bに二点で接触しつつ、ボール転走溝上に倒れた状態から起き上がる。最終的には、図8のNo.10及び図10のNo.10に示すように、ボール3a,3bに挟まれた状態に戻る。この状態で、スペーサ16は一方のボール3aに三点BP1で接触し、他方のボール3bに三点BP2で接触する。
【0040】
なお、図8ないし図10には、軌道レール1のボール転走溝1aが水平面内に配置された状態が示されている。しかし、図2に示すように、接触角線L1(ボール3とボール転走溝1aとの接触点と、ボール3と負荷ボール転走溝2aとの接触点と、を結んだ線)が水平面に対して例えば45°傾いていてもよい。
【0041】
図11ないし図13は、本発明の第二の実施形態のスペーサ26を示す。この実施形態のスペーサ26は、隣り合う一対のボール3間に配置される中央部27と、中央部27の外周から放射状に一方のボール3aに向かって伸びる三本の第一のアーム28と、中央部27の外周から放射状に他方のボール3bに向かって伸びる三本の第二のアーム29と、を備える。三本の第一のアーム28と一方のボール3aとは三点で接触し、三本の第二のアーム29と他方のボール3bとは三点で接触する。三本の第一のアーム28がスペーサ26と一方のボール3aとの相対的な位置関係を定め、三本の第二のアーム29がスペーサ26と他方のボール3bとの相対的な位置関係を定める。ボール3a,3bを三点で支持することによって、ボール3a,3bの位置が安定する。
【0042】
第一のアーム28は一方のボール3aに向かって湾曲していて、第一のボール接触部としてのその先端部28aが一方のボール3aに接触する。第二のアーム29は他方のボール3bに向かって湾曲していて、第二のボール接触部としてのその先端部29aが他方のボール3bに接触する。一方のボール3aと他方のボール3bの間でスペーサ26が挟まれたとき、第一及び第二のアーム28,29が弾性変形して湾曲する。スペーサ26には、第一及び第二のアーム28,29が復元しようとする弾性力が発生する。
【0043】
図12に示すように、スペーサ26の中央部27は、円盤形状をなし、その軸線方向の両端面に潤滑剤を保持する凹部27aが形成される。図13に示すように、スペーサ26の中心26aを対称の中心にして、第一のアーム28と第二のアーム29とは点対称の位置にある。
【0044】
本発明の第二の実施形態のスペーサ26も、軌道レール1のボール転走溝1a又は移動ブロック2の負荷ボール転走溝2a上に倒れても起き上がる機能を持つ。以下に図14ないし図19に基づいて、スペーサ26の起き上がり機能を説明する。
【0045】
図14に示すように、まず、スペーサ26は一対のボール間に挟まれた正規の状態にある。このとき、スペーサ26の第一のアーム28及び第二のアーム29は弾性変形していて、ボール3間に挟まれたスペーサ26はその弾性力により宙に浮いた状態にある。スペーサ26の中心26aは、ボール3a,3bの中心を結んだ線上に位置する。
【0046】
図15及び図16は、スペーサ26を挟んだ一対のボール3が一旦離れ、再び近づいたときの、スペーサ26の挙動を示す図である。図15はボール転走溝1aを側方から見た側面図を示し、図16はボール転走溝1aを上方から見た平面図を示す。No.1のときは、スペーサ26は一対のボール3間に挟まれた正規の状態にある。No.2以降では、一方のボール3aの位置を固定して、他方のボール3bを右方向に移動させている。
【0047】
No.2→No.5に示すように、一対のボール3間の距離が離れると、スペーサ26がボール転走溝1a上に倒れる。No.5のとき、スペーサ26の三つの第二のアーム29がボール転走溝1aに接触する。
【0048】
No.6に示すように、一旦離れた一対のボール3が近づき、一対のボール3がスペーサ26に接触すると、一対のボール3によってスペーサ26の水平面内での向きが矯正され、三本の第二のアーム29のうちの一本がボール転走溝1aの底に接触し、残りの二本がボール転走溝1aの外側に接触するようになる。そして、スペーサ26の第一のアーム28が一方のボール3aの上側の半分に接触し、第一のアーム28と点対称の位置にある第二のアーム29が他方のボール3bの下側の半分に接触する。
【0049】
図17にNo.6の状態の詳細図を示す。スペーサ26がボール転走溝1aの上に倒れたとき、三本の第二のアーム29のうち、二本(図17(b)中の29−2,29−3)がボール転走溝1aの外側に接触し、残りの一本(図17(b)中の29−1)がボール転走溝1aの底に接触する。これにより、第一のアーム28が一方のボール3aの上側の半分に接触し、第二のアーム29が他方のボール3bの下側の半分に接触するようになる。なお、第一のアーム28が一方のボール3aに接触するとき、第一のアーム28は一方のボール3aの中心を通る水平面より僅かに下側に接触してもよい。弾性変形後に第一のアーム28が一方のボール3aの上側の半分に接すればよいからである。
【0050】
図15及び図16のNo.7→No.10に示すように、一対のボール3がさらに近付くと、スペーサ26は起き上がるように回転させられる。最終的にはNo.10からNo.1に移行し、再び一対のボール3に挟まれた状態になる。このとき、No.1の接触状態とは逆に、第一のアーム28が他方のボール3bに接触し、第二のアーム29が一方のボール3aに接触する。
【0051】
図18及び図19は、離れた一対のボール3がスペーサ26に近づいたときのスペーサ26の水平面内での回転の挙動を示す図である。図15及び図16のNo.5からNo.6に至る過程に図18及び図19のNo.5−1からNo.5−4の挙動が存在する。
【0052】
図19のNo.5−1に示すように、スペーサ26がボール転走溝1a上に倒れたとき、スペーサ26の水平面内での回転角度は任意であり、スペーサ26の中心26aからの三本の第二のアーム29の向きも任意となる。
【0053】
図19のNo.5−2→No.5−3に示すように、他方のボール3bがスペーサ26に近づいたとき、スペーサ26の第一のアーム28が第二のアーム29よりも先に他方のボール3bに接触する。図18及び図19のNo.5−2→No.5−3に示すように、第一のアーム28が他方のボール3bに接触することによって、スペーサ26の水平面内での向きが矯正される。そして、矯正後にNo.5−4に示すように、二本の第一のアーム28が他方のボール3bに接触した状態になる。スペーサ26の向きの矯正に伴って、第二のアーム29はボール転走溝1aの底に接触するようになる。以降、ボール3a,3bがさらに近付くことによって、図16及び図17のNo.6→No.10に示すように、スペーサ26が起き上がり、ボール3a,3bに挟まれた状態になる。
【0054】
図20は、本発明のスペーサ16,21,26が組み込まれるねじ装置を示す。ねじ装置は、外周面に螺旋状のボール転走溝31aが形成されるねじ軸31と、内周面にボール転走溝31aに対向する螺旋状の負荷ボール転走溝32aが形成されるナット32を備える。
【0055】
ねじ軸31は、炭素鋼、クロム鋼、又はステンレス鋼などの棒鋼の外周面に、所定のリードを有する螺旋状のボール転走溝31aを切削及び研削加工又は転造加工によって形成したものである。ボール転走溝31aの条数は一条、二条、三条等様々に設定される。ボール転走溝31aの断面は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状、又は二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝形状である。
【0056】
ナット32は、炭素鋼、クロム鋼、又はステンレス鋼などの円筒の内周面に、所定のリードを有する螺旋状の負荷ボール転走溝32aを切削及び研削加工又は転造加工によって形成したものである。ナット32は、内周面に負荷ボール転走溝32aが加工されるナット本体35と、ナット本体35の両端に設けられる蓋部材としての一対のエンドキャップ38と、から構成される。ナット本体35の外周の軸線方向の端部には、ナット32を相手部品に取り付けるためのフランジ34が形成される。ナット本体35の負荷ボール転走溝32aは、ねじ軸31のボール転走溝31aに対向する。ナット本体35には、ボール33を循環させるためにナット本体35の軸線方向に貫通するボール戻し路32bが開けられる。エンドキャップ38には、ねじ軸31のボール転走溝31aを転がるボール33を掬い上げ、ボール戻し路32bに導く方向転換路が開けられる。ねじ軸31のボール転走溝31aと、ナット本体35の負荷ボール転走溝32aとの間の負荷ボール転走路、方向転換路、及びボール戻し路32bから構成される無限循環路には、複数のボール33が配列・収容される。
【0057】
ねじ軸31を回転させると、ボール33を介してねじ軸31に嵌まるナット32が軸線方向に移動する。それと同時に、ボール33が無限循環路を循環する。負荷ボール転走路を転がるボール33は、負荷ボール転走路の一端まで転がった後、エンドキャップ38の方向転換路内に掬い上げられ、ボール戻し路32bを経由した後、反対側のエンドキャップ38から元の負荷ボール転走路の他端に戻される。
【0058】
ボール33間には、ボール33同士の接触を防止するスペーサ16,21,26が介在される。ねじ軸31のボール転走溝31a又はナット32の負荷ボール転走溝32a上に倒れたスペーサ16,21,26が起き上がる仕組みは、上述したとおりである。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記の実施形態では、移動ブロックが直線的に運動するリニアガイドについて説明したが、本発明は移動ブロックが曲線的に運動する曲線運動案内装置にも適用することもできる。さらに、軌道部材としての軌道軸と、移動部材としての軌道軸を囲む外筒と、から構成されるボールスプラインにも適用することができる。さらに、本発明は、軌道部材としての外輪と、移動部材としての内輪とから構成される回転ベアリングにも適用することができる。
【0060】
スペーサは上記第一及び第二の実施形態のスペーサの形状に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさまざまに変更可能である。例えば、第一の実施形態のスペーサの山部及び谷部の個数、第二の実施形態のスペーサの第一のアーム及び第二のアームの個数は、三個に限られることはなく、三個以上であればよい。ただし、偶数よりも奇数が望ましい。なぜならば、例えばスペーサに偶数個の第一のアーム及び偶数個の第二のアームを周方向に均等間隔で配列すると、第一のアームの点対称な位置に第一のアームが表れる。こうなると、スペーサが一方のボールの上半分に接触し、かつスペーサが他方のボールの下半分に接触する状態を作り難くなるからである。
【符号の説明】
【0061】
1…軌道レール(軌道部材),1a…ボール転走溝,2…移動ブロック(移動部材),2a…負荷ボール転走溝,3…ボール,3a…一方のボール,3b…他方のボール,16,21,26…スペーサ,17a,22a…山部(第一のボール接触部),17b,22b…谷部(第二のボール接触部),27…中央部,28…第一のアーム(第一のボール接触部),29…第二のアーム(第二のボール接触部),31…ねじ軸,31a…ボール転走溝,32…ナット,32a…負荷ボール転走溝,33…ボール,P1…負荷ボール転走路
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブル等の可動体がベッド等の固定体に対して運動するのを案内する運動案内装置、及びねじ軸を回転させてナットの直線運動を得るボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
運動案内装置は、ベッド等の固定体に取り付けられる軌道部材と、テーブル等の可動体に取り付けられる移動部材と、を備える。移動部材は軌道部材に沿って直線運動又は曲線運動する。軌道部材のボール転走溝と移動部材の負荷ボール転走溝との間には、複数のボールが転がり運動可能に介在される。軌道部材に対して移動部材が相対的に移動するとき、複数のボールがこれらの間を転がり運動する。ボールの転がり運動により、最小の摩擦抵抗で移動部材が軌道部材に沿って移動部材を直線運動又は曲線運動する。
【0003】
ねじ装置は、ねじ軸の外周面の螺旋状のボール転走溝とナットの内周面の負荷ボール転走溝とを対向させ、これらの間に複数のボールを介在させたものである。ナットに対してねじ軸を相対的に回転させると、ナットがねじ軸の軸線方向に直線運動する。複数のボールは、ねじ軸の螺旋状のボール転走溝とナットの負荷ボール転走溝との間を転がり運動する。ボールの転がり運動により、最小の摩擦抵抗でねじ軸を回転させることができる。
【0004】
ところで、上記運動案内装置及び上記ねじ装置において、進行方向の前後のボール同士が接触していると、ボールが転がり運動するとき、ボール同士の接触する部分にすべりが発生し、ボールの早期磨耗を招く。隣り合うボールの接触を防止するため、ボール間にスペーサが介在される。複数のスペーサは、バンドにて一連に連結されることもあるし(バンドタイプのリテーナ)や、互いに分離されることもある(セパレートタイプのスペーサ)。
【0005】
セパレートタイプのスペーサを運動案内装置やねじ装置の無限循環路内に組み込んだ場合、無限循環路内のどこかで円周方向すきま(ボールの進行方向のすきま)が生ずるおそれがある。すきまが生ずるのを防止するために、伸縮可能な弾性スペーサをボール間に介在させることが行われている(特許文献1参照)。特許文献1に記載のスペーサにおいて、スペーサの、ボールに接触する部分が弾性体から構成されている。弾性体が弾性変形することによって、一対のボール間の距離を調整している。
【0006】
しかし、弾性スペーサを無限循環路に組み込んだとしても、なんらかの外乱等により、スペーサを挟んで隣り合う一対のボール間の距離が離れてしまうおそれがある。そして、スペーサが一対のボール間に挟まれた正規の状態から倒れる(言い換えれば、無限循環路の側方から見て、スペーサが正規の状態から約90度回転する)おそれがある。
【0007】
この問題を解決するために、特許文献2には、倒れても起き上がることができる円柱状の保持ピースが開示されている。この保持ピースの外周面は、倒れた状態の保持ピースを一対のボールで挟んだとき、ボールから保持ピースに起き上がるような偶力が働くように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−283838号公報
【特許文献2】特開2006−336686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献2に記載の発明には、ボール間で倒れた保持ピースがボールの下側に潜ってしまうという問題がある。保持ピースがボールの下側に潜った状態では、一対のボールを近づけても保持ピースを起き上がらせることができない。
【0010】
この問題を解決するために、特許文献2に記載の発明においては、ボール及び保持ピースを入れたチューブを鉛直方向に立てている(特許文献2、段落0019〜0022参照)。しかし、もちろん、ボール及び保持ピースを入れたチューブを鉛直方向に立てる作業は、運動案内装置をベッド等に固定した後は困難である。たとえ、チューブを鉛直方向に立てることができたとしても、いくつかの保持ピースは起き上がることができないままでいる。
【0011】
そこで本発明は、軌道部材のボール転走溝又は移動部材の負荷ボール転走溝の上に倒れたスペーサを起き上がらせ、ボール間に挟まれた状態に戻し、安定した案内を行うことができるスペーサ、このスペーサを組み込んだ運動案内装置及びボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、ボール転走溝を有する軌道部材と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有する移動部材と、前記軌道部材の前記ボール転走溝と前記移動部材の前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備える運動案内装置に組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、前記スペーサは、前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサである。
【0013】
本発明の他の態様は、螺旋状のボール転走溝を有するねじ軸と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記ボール転走溝と前記ナットの前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備えるボールねじに組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、前記スペーサは、前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボール転走溝又は負荷ボール転走溝に倒れたスペーサを起き上がらせ、ボール間に挟まれた状態に戻すことができるので、安定した案内を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一の実施形態における運動案内装置の斜視図(一部断面を含む)
【図2】上記運動案内装置の断面図
【図3】無限循環路に沿った運動案内装置の断面図
【図4】ボール間に挟まれた第一の実施形態のスペーサを示す図(図中(a)は平面図を示し、図中(b)は正面図を示し、図中(c)は側面図を示し、図中(d)は背面図を示す)
【図5】第一の実施形態のスペーサの斜視図
【図6】スペーサの詳細図(図中(a)は正面図を示し、図中(b)及び(c)は断面図を示す)
【図7】スペーサの他の例を示す図(図中(a)は正面図を示し、図中(b)は側面図を示し、図中(c)は断面図を示す)
【図8】一対のボールが近づいたときのスペーサの挙動を示す平面図(スペーサの挙動がNo.1→No.10に変化)
【図9】一対のボールが近づいたときのスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.1→No.5に変化)
【図10】一対のボールが近づいたときのスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.6→No.10に変化)
【図11】ボール間に挟まれた第二の実施形態のスペーサの側面図
【図12】第二の実施形態のスペーサの斜視図
【図13】第二の実施形態のスペーサの断面図
【図14】一対のボール間に挟まれた正規の状態にあるスペーサの側面図
【図15】一対のボールが離れたり、近づいたりしたときのスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.1→No.10に変化)
【図16】一対のボールが離れたり、近づいたりしたときのスペーサの挙動を示す平面図(スペーサの挙動がNo.1→No.10に変化)
【図17】ボール転走溝上に倒れたスペーサを示す図(図中(a)は側面図を示し、図中(b)は斜視図を示す)
【図18】一対のボールが近づいたとき、ボール転走溝上で姿勢を矯正するスペーサの挙動を示す側面図(スペーサの挙動がNo.5−1→No.5−4に変化)
【図19】一対のボールが近づいたとき、ボール転走溝上で姿勢を矯正するスペーサの挙動を示す平面図(スペーサの挙動がNo.5−1→No.5−4に変化)
【図20】本発明の第三の実施形態のねじ装置の斜視図(一部断面を含む)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2は、本発明の第一の実施形態における運動案内装置としてのリニアガイドを示す。図1はリニアガイドの斜視図を示し、図2はリニアガイドの断面図を示す。
【0017】
リニアガイドは、直線状に伸びる軌道部材としての軌道レール1と、この軌道レール1に複数のボール3を介して移動自在に設けられた移動部材としての移動ブロック2とを備えている。
【0018】
軌道レール1は、断面略四角形状で細長く伸びる。軌道レール1には、軌道レール1の下面をベッド等の固定部に取り付けるためのボルト用の通し孔1bが上面から下面に貫通して形成される。軌道レール1の左右側面及び上面には、長手方向に沿って直線状に伸びるボール転走溝1aが形成される。この実施形態では、軌道レール1の上面の幅方向の端部には突部11が形成され、突部11の上側及び下側に合計四条のボール転走溝1aが形成される。ボール転走溝1aの断面形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状又は二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成される。ボール3はボール転走溝1aに一点又は二点で接触する。
【0019】
移動ブロック2は、軌道レール1のボール転走溝1aに対向する負荷ボール転走溝2aが形成される移動ブロック本体4と、移動ブロック本体4の移動方向の両端部に取り付けられる一対の蓋部材としてのエンドプレート5、から構成される。図2に示すように、移動ブロック本体4は、軌道レール1の上面に対向する中央部4aと、中央部4aの左右両側から下方に伸び、軌道レール1の左右側面に対向する側壁部4bと、を備える。移動ブロック本体4の中央部4aの下面及び側壁部4bの内側面には、軌道レール1のボール転走溝1aに対向する四条の負荷ボール転走溝2aが形成される。負荷ボール転走溝2aの断面形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状又は二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成される。ボール3は負荷ボール転走溝2aに一点又は二点で接触する。
【0020】
図1に示すように、移動ブロック2の上面には、移動ブロックをテーブル等の相手部品に取り付けるための取付けねじ2bが加工される。移動ブロック2の移動方向の端面には、移動ブロック2内に塵芥等の異物が侵入するのを防止する端面シール6が取り付けられる。移動ブロック2の側壁部4bの下面には、下側からの異物の侵入を防ぐ、サイドシール12が取り付けられる。移動ブロック2の中央部4aの下面及び側壁部4bの下面には、移動ブロック2を軌道レール1から取り外したときにボール3が脱落するのを防止するボール保持プレート13,12が取り付けられる。さらに、移動ブロック2には、無限循環路にグリース、潤滑油等の潤滑剤を供給するためのニップル9が取り付けられる。
【0021】
図2に示すように、軌道レール1のボール転走溝1a及び移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aとの間に、軌道レール1の長手方向に伸びる負荷ボール転走路P1が形成される。移動ブロック2には、無負荷戻し路P2も形成されていて、この無負荷戻し路P2は負荷ボール転走路P1と平行に伸びる。
【0022】
図3に示すように、移動ブロック本体4には、移動ブロック本体4のインサート成形、又は樹脂成形された部品の組み込み等により、無負荷戻し路構成部7及び内周案内部8が形成される。無負荷戻し路構成部7に、負荷ボール転走溝2aと平行に伸びる無負荷戻し路P2が形成される。内周案内部8には方向転換路P3の内周側が形成される。方向転換路P3の外周側である外周案内部はエンドプレート5に形成される。エンドプレート5を移動ブロック本体4に取り付けることで、U字状の方向転換路P3が形成される。方向転換路P3は、負荷ボール転走路P1と無負荷戻し路P2とを接続する。これら負荷ボール転走路P1、無負荷戻し路P2及び方向転換路P3によってサーキット状の無限循環路が形成される。
【0023】
サーキット状の無限循環路には、複数のボール3が配列・収容される。複数のボール3は、負荷ボール転走路P1を荷重を受けながら転がり運動する。負荷ボール転走路P1の一端まで転がったボール3は、U字状の方向転換路P3を経由した後、無負荷戻し路P2に入る。無負荷戻し路P2を通過したボールは、反対側の方向転換路P3を経由した後、再び負荷ボール転走路P1に入る。
【0024】
複数のボール3間には、後述する複数のスペーサ16,21,26が挟まれる。スペーサ16,21,26の個数はボール3の個数と等しい。複数のスペーサ16,21,26は互いに分離している。
【0025】
図4ないし図6は、本発明の第一の実施形態のスペーサ16を示す。図4は、隣り合う一対のボール3間に挟まれるスペーサ16を示し、図5は、単独のスペーサ16の斜視図を示し、図6は、単独のスペーサの正面図及び断面図を示す。図5及び図6に示すように、スペーサ16は円盤を基礎形状とし、その周縁部17が交互に第一のボール接触部としての山部17a及び第二のボール接触部としての谷部17bを有するように連続した波形状に折り曲げられている。この実施形態では、三つの山部17aが周方向に均等間隔をあけて(120度の間隔をあけて)設けられ、三つの谷部17bが周方向に均等間隔をあけて(120度の間隔をあけて)設けられる。山部17a及び谷部17bの個数は三つ以上あればよく、その個数は限定されない。例えば、周縁部17をスペーサ16の本体部18の周囲を縁取るように形成し、本体部18よりも厚くして周縁部17の先端を断面円弧状にすることもできる。これによれば、周縁部17がボール3に接触する位置が変化しても、周縁部17とボール3とを点接触させることができる。ただし、周縁部17の厚みは本体部18と同じ厚さでもよい。周縁部17は周方向に連続する波形状に形成されていて、スリット等で分断されていない。スペーサ16は、樹脂の射出成型により製造される。
【0026】
周縁部17の内側には、周縁部17よりも厚みが薄く、かつ厚みが略一定の本体部18が形成される。本体部18は、周縁部17と同様に、周方向に周縁部と同一の位相の山部18a及び谷部18bが形成されるように波形状に折り曲げられる。本体部18及び周縁部17の山部18a,17aは、スペーサ16の外周側に行くにしたがって一方のボール3a(図4(c)参照)に近づくように湾曲する。本体部18及び周縁部17の谷部18b,17bは、スペーサ16の外周側に行くにしたがって他方のボール3b(図4(c)参照)に近づくように湾曲する。本体部18及び周縁部17の山部18a,17a及び谷部18b,17bを含む断面において(図6(c)参照)、本体部18及び周縁部17はS字状に湾曲する。本体部18及び周縁部17の、山部18a,17aの稜線19a(図4(b)参照)は、スペーサ16の中央の貫通孔20から放射状に伸びる。同様に、谷部18b,17bの稜線19bは、スペーサ16の中央の貫通孔20から放射状に伸びる。
【0027】
図4(b)に示すように、スペーサ16が円滑に無限循環路を循環するように、ボール3及びスペーサ16の進行方向からみて、スペーサ16の外形は円形状に形成される。スペーサ16の外形は、ボール3の直径と同等以下であればよい。すなわち、スペーサ16がボール3間に挟まれたときに、スペーサ16が周方向に拡がった状態で、スペーサ16の外形がボール3の直径よりも小さければよい。本体部18の中央には、スペーサ16の表側と背面側との間で潤滑剤の行き来が可能になるように、本体部を厚み方向に貫通する貫通孔20があけられる。貫通孔20の中心線は、隣り合う一対のボール3a,3b(図4(c)参照)の中心を結んだ線3L上に位置する。貫通孔20の周囲の、本体部18の内周側には、平らなリング形状の円環部20aが形成される(図6参照)。円環部20aは、中心に向かって厚さが薄くなるテーパ形状に形成されている。円環部20aは平らには限定されず、ボール3の曲率に沿って湾曲していてもよい。本体部18は円環部20aの外側において波形状に折り曲げられている。スペーサ16を貫通孔20の中心線を含む断面で切断すると、本体部18は円環部20aから周縁部17に向かって曲線的に伸びる(図6(c)参照)。
【0028】
図4(c)に示すように、隣り合う一対のボール3でスペーサ16を挟んだとき、スペーサ16の周縁部17の三つの山部17aが一方のボール3aに接触し、スペーサ16の周縁部17の三つの谷部17bが他方のボール3bに接触する。スペーサ16の周縁部17の断面形状は円弧形状に形成されているので、周縁部17とボール3との接触は点接触になる。スペーサ16の周縁部17の山部17aと一方のボール3aとは合計三点で点接触する。三つの接触点CP1(図4(b)参照)は、スペーサ16及びボール3の進行方向からみて、スペーサ16の周方向に120度の均等間隔をあけて配列される。同様に、スペーサ16の周縁部17の谷部17bと他方のボール3bとは合計三点で点接触し、三つの接触点CP2(図4(d)参照)は、スペーサ16及びボール3の進行方向からみて、スペーサ16の周方向に120度の均等間隔をあけて配列される。スペーサ16の山部17aと一方のボール3aとの接触点CP1、及びスペーサ16の谷部17bと他方のボール3bとの接触点CP2は、スペーサ16の正面側及び背面側に周方向に60度毎に交互に表れる。スペーサ16の中心を対称の中心にして、各山部17aと各谷部17bとは点対称の位置にある。スペーサ16の本体部18とボール3とは接触することなく、これらの間にはすきまがあく。
【0029】
一対のボール3でスペーサ16を挟んだとき、スペーサ16はその進行方向に僅かに縮んだ状態にある。スペーサ16が縮んだ状態では、周方向に交互に形成される山部17a及び谷部17bは、平板形状に近付くように弾性変形している。スペーサ16は樹脂等の弾性体からなるので、撓んだ山部17a及び谷部17bが元の波形状に復元しようとすることによって、スペーサ16には、隣り合うボール3同士を引き離そうとする弾性力が発生する。
【0030】
スペーサ16の、実際のボール3と接触している部分は、転がり抵抗、磨耗、発熱等々の転がり運動の基礎的な機能面から考えると少ないほどよい。ボール3は三点で支持すれば位置は安定する。よって、山部17a及び谷部17bはそれぞれボールと三点で点接触するのが望ましい。ただし、悪環境条件下で磨耗がより心配される場合には、山部17a及び谷部17bを余分に四,五,六…個としておくのもよい。
【0031】
図7は、スペーサの他の例を示す。図中(a)は正面図を、図中(b)は側面図を、図中(c)は断面図を示す。この例のスペーサ21も、その周縁部が周方向に交互に山部22a及び谷部22bを有する波形状に形成される。スペーサ21は、隣接する一対のボール3のうちの一方のボール3aに接触する三つの山部22aを有すると共に、一対のボール3のうちの他方のボール3bに接触する少なくとも三つの谷部22bを有する。スペーサ21と一方のボール3aとは合計三つの点CP1で点接触し、スペーサ21と他方のボール3bとも合計三つの点CP2で点接触する。スペーサ21の中心21aを対称の中心にして、各山部22aと各谷部22bとは点対称の位置にある。すなわち、図7(c)の断面図で示すように、山部22aと谷部22bとは同一の断面図上に表れる。スペーサ21の中央には、スペーサ21及びボール3の進行方向に貫通する貫通孔24が開けられる。
【0032】
この例のスペーサ21は上記実施形態のスペーサ16と以下の点が相違する。図7(a)に示すように、スペーサ21は円板を波形状に折り曲げた形状をなし、スペーサ21の正面形状は円形状よりも六角形に近くなる。図7(c)に示すように、スペーサ21はその全体に亘って厚みが一定に形成される(スペーサ16のように、周縁部17が本体部18よりも厚みが厚く形成されたり、円環部20aが本体部よりも厚みが薄く形成されることはない)。貫通孔24の中心を含んだ断面において、スペーサ21はS字状に湾曲している(スペーサ16のように、平らな円環部20aは形成されない)。
【0033】
本実施形態のスペーサ16,21は、軌道レール1のボール転走溝1a又は移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aの上に倒れても起き上がる機能を持つ。以下に図8ないし図10に基づいて、スペーサ16,21の起き上がり機能を説明する。
【0034】
図8には、一対のボール3が近づいたときのスペーサ16の挙動の平面図を示し、図9及び図10には、一対のボール3が近づいたときのスペーサ16の挙動の側面図を示す。図8ないし図10において、No.1〜No.10はスペーサ16が倒れた後のスペーサの経時的な挙動の変化を表し、同一のNo.は同一の時間を表す。
【0035】
図8及び図9のNo.1に示すように、隣り合う一対のボール3が離れると、一対のボール3間に挟まれていたスペーサ16が、重力により軌道レール1のボール転走溝1aの上に倒れる。スペーサ16が倒れると、スペーサ16の山部17a側(図4(a)に示すスペーサ16の正面側)がボール転走溝1a上に倒れる。もちろん、スペーサ16の谷部17b側がボール転走溝1a上に倒れる確率は、スペーサ16の山部17a側がボール転走溝1a上に倒れる確率に等しい。ここでは説明の便宜上、スペーサ16の山部17a側がボール転走溝1a上に倒れるとする。また、スペーサ16は、移動ブロック2の負荷ボール転走溝2a側に倒れることもあるが、ここでは説明の便宜上、ボール転走溝1a上に倒れるとする。
【0036】
図8及び図9のNo.1に示すように、スペーサ16がボール転走溝1a上に倒れるとき、スペーサ16の水平面内での回転角度は任意であり、スペーサ16の三つの山部17a及び三つの谷部17bの位置も任意となる。ただし、スペーサ16は無限循環路から外れることはできないので、スペーサ16中心はボール転走溝1aの中心線1a−1の近くに位置する。
【0037】
図8及び図9のNo.1→No.4に示すように、一方のボール3a及び他方のボール3bがスペーサ16に近づいたとき、一方のボール3aがスペーサ16の谷部17bの近傍の点BP1にてスペーサ16に接触し、他方のボール3bがスペーサ16の谷部17bと山部17aの間の点BP2にてスペーサ16に接触する。一方のボール3a及び他方のボール3bがスペーサ16に接触すると、スペーサ16の水平面内での向きが矯正され、矯正後にNo.4に示すように、一方のボール3aがスペーサ16の谷部17bの近傍でスペーサ16に一点BP1で接触し、他方のボール3bがスペーサ16に二点BP2で接触する。
【0038】
スペーサ16の水平面内での向きの矯正に伴って、スペーサ16の三つの山部17aのうち、一つの山部17a−1がボール転走溝1aの底に接触し、残りの二つの山部17a−2がボール転走溝1aの底よりも高い位置又はボール転走溝1aの外側に接触する(図9No.4参照)。これにより、スペーサ16の中心線16Lがボール転走溝1aに対して傾き、スペーサ16が一方のボール3aの上側の半分に接触し、スペーサ16が他方のボール3bの下側の半分に接触するようになる。言い換えれば、スペーサ16が一方のボール3aの北半球部分に接触し、かつ他方のボール3bの南半球部分に接触するようになる。スペーサ16に起き上がる回転力が作用するので、安定した案内を行うことができる。
【0039】
一方のボール3a及び他方のボール3b間の距離がさらに縮まることによって、図8のNo.5→No.9、及び図9のNo.5→図10のNo.9に示すように、スペーサ16は一方のボール3aに二点BP1で接触し、他方のボール3bに二点で接触しつつ、ボール転走溝上に倒れた状態から起き上がる。最終的には、図8のNo.10及び図10のNo.10に示すように、ボール3a,3bに挟まれた状態に戻る。この状態で、スペーサ16は一方のボール3aに三点BP1で接触し、他方のボール3bに三点BP2で接触する。
【0040】
なお、図8ないし図10には、軌道レール1のボール転走溝1aが水平面内に配置された状態が示されている。しかし、図2に示すように、接触角線L1(ボール3とボール転走溝1aとの接触点と、ボール3と負荷ボール転走溝2aとの接触点と、を結んだ線)が水平面に対して例えば45°傾いていてもよい。
【0041】
図11ないし図13は、本発明の第二の実施形態のスペーサ26を示す。この実施形態のスペーサ26は、隣り合う一対のボール3間に配置される中央部27と、中央部27の外周から放射状に一方のボール3aに向かって伸びる三本の第一のアーム28と、中央部27の外周から放射状に他方のボール3bに向かって伸びる三本の第二のアーム29と、を備える。三本の第一のアーム28と一方のボール3aとは三点で接触し、三本の第二のアーム29と他方のボール3bとは三点で接触する。三本の第一のアーム28がスペーサ26と一方のボール3aとの相対的な位置関係を定め、三本の第二のアーム29がスペーサ26と他方のボール3bとの相対的な位置関係を定める。ボール3a,3bを三点で支持することによって、ボール3a,3bの位置が安定する。
【0042】
第一のアーム28は一方のボール3aに向かって湾曲していて、第一のボール接触部としてのその先端部28aが一方のボール3aに接触する。第二のアーム29は他方のボール3bに向かって湾曲していて、第二のボール接触部としてのその先端部29aが他方のボール3bに接触する。一方のボール3aと他方のボール3bの間でスペーサ26が挟まれたとき、第一及び第二のアーム28,29が弾性変形して湾曲する。スペーサ26には、第一及び第二のアーム28,29が復元しようとする弾性力が発生する。
【0043】
図12に示すように、スペーサ26の中央部27は、円盤形状をなし、その軸線方向の両端面に潤滑剤を保持する凹部27aが形成される。図13に示すように、スペーサ26の中心26aを対称の中心にして、第一のアーム28と第二のアーム29とは点対称の位置にある。
【0044】
本発明の第二の実施形態のスペーサ26も、軌道レール1のボール転走溝1a又は移動ブロック2の負荷ボール転走溝2a上に倒れても起き上がる機能を持つ。以下に図14ないし図19に基づいて、スペーサ26の起き上がり機能を説明する。
【0045】
図14に示すように、まず、スペーサ26は一対のボール間に挟まれた正規の状態にある。このとき、スペーサ26の第一のアーム28及び第二のアーム29は弾性変形していて、ボール3間に挟まれたスペーサ26はその弾性力により宙に浮いた状態にある。スペーサ26の中心26aは、ボール3a,3bの中心を結んだ線上に位置する。
【0046】
図15及び図16は、スペーサ26を挟んだ一対のボール3が一旦離れ、再び近づいたときの、スペーサ26の挙動を示す図である。図15はボール転走溝1aを側方から見た側面図を示し、図16はボール転走溝1aを上方から見た平面図を示す。No.1のときは、スペーサ26は一対のボール3間に挟まれた正規の状態にある。No.2以降では、一方のボール3aの位置を固定して、他方のボール3bを右方向に移動させている。
【0047】
No.2→No.5に示すように、一対のボール3間の距離が離れると、スペーサ26がボール転走溝1a上に倒れる。No.5のとき、スペーサ26の三つの第二のアーム29がボール転走溝1aに接触する。
【0048】
No.6に示すように、一旦離れた一対のボール3が近づき、一対のボール3がスペーサ26に接触すると、一対のボール3によってスペーサ26の水平面内での向きが矯正され、三本の第二のアーム29のうちの一本がボール転走溝1aの底に接触し、残りの二本がボール転走溝1aの外側に接触するようになる。そして、スペーサ26の第一のアーム28が一方のボール3aの上側の半分に接触し、第一のアーム28と点対称の位置にある第二のアーム29が他方のボール3bの下側の半分に接触する。
【0049】
図17にNo.6の状態の詳細図を示す。スペーサ26がボール転走溝1aの上に倒れたとき、三本の第二のアーム29のうち、二本(図17(b)中の29−2,29−3)がボール転走溝1aの外側に接触し、残りの一本(図17(b)中の29−1)がボール転走溝1aの底に接触する。これにより、第一のアーム28が一方のボール3aの上側の半分に接触し、第二のアーム29が他方のボール3bの下側の半分に接触するようになる。なお、第一のアーム28が一方のボール3aに接触するとき、第一のアーム28は一方のボール3aの中心を通る水平面より僅かに下側に接触してもよい。弾性変形後に第一のアーム28が一方のボール3aの上側の半分に接すればよいからである。
【0050】
図15及び図16のNo.7→No.10に示すように、一対のボール3がさらに近付くと、スペーサ26は起き上がるように回転させられる。最終的にはNo.10からNo.1に移行し、再び一対のボール3に挟まれた状態になる。このとき、No.1の接触状態とは逆に、第一のアーム28が他方のボール3bに接触し、第二のアーム29が一方のボール3aに接触する。
【0051】
図18及び図19は、離れた一対のボール3がスペーサ26に近づいたときのスペーサ26の水平面内での回転の挙動を示す図である。図15及び図16のNo.5からNo.6に至る過程に図18及び図19のNo.5−1からNo.5−4の挙動が存在する。
【0052】
図19のNo.5−1に示すように、スペーサ26がボール転走溝1a上に倒れたとき、スペーサ26の水平面内での回転角度は任意であり、スペーサ26の中心26aからの三本の第二のアーム29の向きも任意となる。
【0053】
図19のNo.5−2→No.5−3に示すように、他方のボール3bがスペーサ26に近づいたとき、スペーサ26の第一のアーム28が第二のアーム29よりも先に他方のボール3bに接触する。図18及び図19のNo.5−2→No.5−3に示すように、第一のアーム28が他方のボール3bに接触することによって、スペーサ26の水平面内での向きが矯正される。そして、矯正後にNo.5−4に示すように、二本の第一のアーム28が他方のボール3bに接触した状態になる。スペーサ26の向きの矯正に伴って、第二のアーム29はボール転走溝1aの底に接触するようになる。以降、ボール3a,3bがさらに近付くことによって、図16及び図17のNo.6→No.10に示すように、スペーサ26が起き上がり、ボール3a,3bに挟まれた状態になる。
【0054】
図20は、本発明のスペーサ16,21,26が組み込まれるねじ装置を示す。ねじ装置は、外周面に螺旋状のボール転走溝31aが形成されるねじ軸31と、内周面にボール転走溝31aに対向する螺旋状の負荷ボール転走溝32aが形成されるナット32を備える。
【0055】
ねじ軸31は、炭素鋼、クロム鋼、又はステンレス鋼などの棒鋼の外周面に、所定のリードを有する螺旋状のボール転走溝31aを切削及び研削加工又は転造加工によって形成したものである。ボール転走溝31aの条数は一条、二条、三条等様々に設定される。ボール転走溝31aの断面は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状、又は二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝形状である。
【0056】
ナット32は、炭素鋼、クロム鋼、又はステンレス鋼などの円筒の内周面に、所定のリードを有する螺旋状の負荷ボール転走溝32aを切削及び研削加工又は転造加工によって形成したものである。ナット32は、内周面に負荷ボール転走溝32aが加工されるナット本体35と、ナット本体35の両端に設けられる蓋部材としての一対のエンドキャップ38と、から構成される。ナット本体35の外周の軸線方向の端部には、ナット32を相手部品に取り付けるためのフランジ34が形成される。ナット本体35の負荷ボール転走溝32aは、ねじ軸31のボール転走溝31aに対向する。ナット本体35には、ボール33を循環させるためにナット本体35の軸線方向に貫通するボール戻し路32bが開けられる。エンドキャップ38には、ねじ軸31のボール転走溝31aを転がるボール33を掬い上げ、ボール戻し路32bに導く方向転換路が開けられる。ねじ軸31のボール転走溝31aと、ナット本体35の負荷ボール転走溝32aとの間の負荷ボール転走路、方向転換路、及びボール戻し路32bから構成される無限循環路には、複数のボール33が配列・収容される。
【0057】
ねじ軸31を回転させると、ボール33を介してねじ軸31に嵌まるナット32が軸線方向に移動する。それと同時に、ボール33が無限循環路を循環する。負荷ボール転走路を転がるボール33は、負荷ボール転走路の一端まで転がった後、エンドキャップ38の方向転換路内に掬い上げられ、ボール戻し路32bを経由した後、反対側のエンドキャップ38から元の負荷ボール転走路の他端に戻される。
【0058】
ボール33間には、ボール33同士の接触を防止するスペーサ16,21,26が介在される。ねじ軸31のボール転走溝31a又はナット32の負荷ボール転走溝32a上に倒れたスペーサ16,21,26が起き上がる仕組みは、上述したとおりである。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記の実施形態では、移動ブロックが直線的に運動するリニアガイドについて説明したが、本発明は移動ブロックが曲線的に運動する曲線運動案内装置にも適用することもできる。さらに、軌道部材としての軌道軸と、移動部材としての軌道軸を囲む外筒と、から構成されるボールスプラインにも適用することができる。さらに、本発明は、軌道部材としての外輪と、移動部材としての内輪とから構成される回転ベアリングにも適用することができる。
【0060】
スペーサは上記第一及び第二の実施形態のスペーサの形状に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさまざまに変更可能である。例えば、第一の実施形態のスペーサの山部及び谷部の個数、第二の実施形態のスペーサの第一のアーム及び第二のアームの個数は、三個に限られることはなく、三個以上であればよい。ただし、偶数よりも奇数が望ましい。なぜならば、例えばスペーサに偶数個の第一のアーム及び偶数個の第二のアームを周方向に均等間隔で配列すると、第一のアームの点対称な位置に第一のアームが表れる。こうなると、スペーサが一方のボールの上半分に接触し、かつスペーサが他方のボールの下半分に接触する状態を作り難くなるからである。
【符号の説明】
【0061】
1…軌道レール(軌道部材),1a…ボール転走溝,2…移動ブロック(移動部材),2a…負荷ボール転走溝,3…ボール,3a…一方のボール,3b…他方のボール,16,21,26…スペーサ,17a,22a…山部(第一のボール接触部),17b,22b…谷部(第二のボール接触部),27…中央部,28…第一のアーム(第一のボール接触部),29…第二のアーム(第二のボール接触部),31…ねじ軸,31a…ボール転走溝,32…ナット,32a…負荷ボール転走溝,33…ボール,P1…負荷ボール転走路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール転走溝を有する軌道部材と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有する移動部材と、前記軌道部材の前記ボール転走溝と前記移動部材の前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備える運動案内装置に組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサ。
【請求項2】
螺旋状のボール転走溝を有するねじ軸と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記ボール転走溝と前記ナットの前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備えるボールねじに組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサ。
【請求項3】
前記複数の第一のボール接触部は、前記スペーサの進行方向から見て、前記スペーサの周方向に均等間隔を空けて三つ以上設けられ、
前記複数の第二のボール接触部は、前記スペーサの進行方向から見て、前記スペーサの周方向に均等間隔を空けて三つ以上設けられ、
前記複数の第一のボール接触部及び前記複数の第二のボール接触部は、前記スペーサの進行方向から見て、前記スペーサの正面側又は背面側に周方向に交互に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のスペーサ。
【請求項4】
前記スペーサは、その周縁部が周方向に交互に複数の山部及び複数の谷部を有する波形状に形成され、
前記スペーサの前記周縁部の前記複数の山部が、前記一方のボールに接触する前記複数の第一のボール接触部であり、
前記スペーサの前記周縁部の前記複数の谷部が、前記他方のボールに接触する前記複数の第二のボール接触部であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスペーサ。
【請求項5】
ボール転走溝を有する軌道部材と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有する移動部材と、前記軌道部材の前記ボール転走溝と前記移動部材の前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置される複数のスペーサと、を備える運動案内装置において、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれる運動案内装置。
【請求項6】
螺旋状のボール転走溝を有するねじ軸と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記ボール転走溝と前記ナットの前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置される複数のスペーサと、を備えるボールねじにおいて、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるボールねじ。
【請求項1】
ボール転走溝を有する軌道部材と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有する移動部材と、前記軌道部材の前記ボール転走溝と前記移動部材の前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備える運動案内装置に組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサ。
【請求項2】
螺旋状のボール転走溝を有するねじ軸と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記ボール転走溝と前記ナットの前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、を備えるボールねじに組み込まれ、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置されるスペーサであって、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるスペーサ。
【請求項3】
前記複数の第一のボール接触部は、前記スペーサの進行方向から見て、前記スペーサの周方向に均等間隔を空けて三つ以上設けられ、
前記複数の第二のボール接触部は、前記スペーサの進行方向から見て、前記スペーサの周方向に均等間隔を空けて三つ以上設けられ、
前記複数の第一のボール接触部及び前記複数の第二のボール接触部は、前記スペーサの進行方向から見て、前記スペーサの正面側又は背面側に周方向に交互に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のスペーサ。
【請求項4】
前記スペーサは、その周縁部が周方向に交互に複数の山部及び複数の谷部を有する波形状に形成され、
前記スペーサの前記周縁部の前記複数の山部が、前記一方のボールに接触する前記複数の第一のボール接触部であり、
前記スペーサの前記周縁部の前記複数の谷部が、前記他方のボールに接触する前記複数の第二のボール接触部であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスペーサ。
【請求項5】
ボール転走溝を有する軌道部材と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有する移動部材と、前記軌道部材の前記ボール転走溝と前記移動部材の前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置される複数のスペーサと、を備える運動案内装置において、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれる運動案内装置。
【請求項6】
螺旋状のボール転走溝を有するねじ軸と、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記ボール転走溝と前記ナットの前記負荷ボール転走溝との間の負荷ボール転走路に配列される複数のボールと、ボール同士の接触を防止するようにボール間に配置される複数のスペーサと、を備えるボールねじにおいて、
前記スペーサは、
前記スペーサを挟んで隣り合う一対のボールのうちの一方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第一のボール接触部と、
前記一対のボールのうちの他方のボールに接触し、前記スペーサの進行方向から見て前記スペーサの周方向に配列される複数の第二のボール接触部と、を有し、
前記一対のボールが離れるとき、前記スペーサの前記複数の第一のボール接触部側又は前記複数の第二のボール接触部側が、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れ、
離れた前記一対のボールが近づくとき、前記スペーサが、前記一方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝から離れた側の半分に接触し、かつ前記他方のボールの、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝に近い側の半分に接触し、これにより、前記ボール転走溝又は前記負荷ボール転走溝の上に倒れた前記スペーサが起き上がり、前記一対のボール間に挟まれるボールねじ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−77874(P2012−77874A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225126(P2010−225126)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】
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