説明

スラストころ軸受

【課題】 振動や衝撃等が作用しても、保持器と軌道輪とが分離しないスラストころ軸受の提供である。
【解決手段】 有底円筒状の軌道輪3の内側部分に各針状ころ1が配置された保持器2を収容させた状態で、軌道輪3の周壁部7の上端面8に、周方向に等角度で3個の抜け防止部9を溶接する。このとき、抜け防止部9の外周面9aを、軌道輪3の周壁部7の外周面7aよりも距離Lだけラジアル方向の内側に配置させるとともに、抜け防止部9の内周面9bを、保持器2の外周面2aよりも距離eだけ重なり合うように配置する。これにより、溶接作業が容易になり、かつ保持器2が軌道輪3の開口から抜け出ることが確実に防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スラストころ軸受は、回転軸線が放射状に配置された複数個の転動体(ころ)を回転自在に保持する保持器と、有底円筒形状で、底面部に保持器に保持された各転動体を受け止める軌道面が形成された軌道輪とを備えている。
【0003】
車両(自動車)のトランスミッション部等に使用されるスラストころ軸受には、ハウジングやシャフトへの組付けの利便性を考慮して、各ころが配置されている保持器と軌道輪とが外れないように一体としたもの(「非分離型」と称されている)が存している。図7に示されるように、従来の非分離型のスラストころ軸受50では、軌道輪51の周壁部の複数箇所がラジアル方向の内側に向かってかしめられていて、かしめ部52が形成されている。そして、保持器52の外周縁部をかしめ部52に当接させた状態でかしめ部52を弾性変形させることにより、軌道輪51と保持器53との分離防止を図っている。上記した技術として、特許文献1又は2に開示されるものが存している。なお、軌道輪51の周壁部にかしめ部52を形成する加工方法は、「ステーキング」と称されている。
【0004】
しかし、搬送中の振動や衝撃等により、軌道輪51と保持器53とが分離してしまう場合がある。これにより、車両の組付け工程に不具合が発生してしまう。
【特許文献1】特開平5−180218号公報
【特許文献2】特開2002−98156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した不具合に鑑み、スラストころ軸受に振動や衝撃等が作用しても、保持器と軌道輪とが分離しないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を達成するための本発明は、
回転軸線が放射状に配置された複数個の転動体を保持する保持器と、
有底円筒形状を有し、周壁部の内側に前記保持器を収容するとともに、底壁部の内面に形成された軌道面で前記複数個の転動体を受け止める軌道輪とを備えるスラストころ軸受であって、
前記軌道輪の周壁部における開口側の端面部から、ラジアル方向の内側に向かって張り出す抜け防止部が形成され、該抜け防止部の内周縁は、前記軌道輪の回転軸線の方向から見て前記保持器の外周縁よりもラジアル方向の内側に位置され、
前記抜け防止部の外周縁は、前記軌道輪の周壁部の外周縁よりもラジアル方向の内側に配置され、そのずれによって前記周壁部の端面部上に形成される露出領域に溶接が施されることにより、前記周壁部に固着されていることを特徴としている。
【0007】
本発明に係るスラストころ軸受は、軌道輪の周壁部に抜け防止部が形成されている。この抜け防止部の外周縁は、軌道輪の周壁部の外周縁よりもラジアル方向の内側に配置され、そのずれによって軌道輪の周壁部の端面部上に形成される露出領域に、抜け防止部を前記周壁部に固着するための溶接が施されている。このため、保持器が軌道輪の開口から抜け出ることが確実に防止される。これにより、スラストころ軸受の組付けを的確に行うことができるとともに、軌道輪にかしめ部を形成しておくことが不要となる。
【0008】
前記抜け防止部は、その内径が前記保持器の外径よりも小さい円環状の板材で構成され、一方の端面部が前記軌道輪の開口側の周壁部の端面部に固着されているようにできる。
【0009】
この発明では、円環状の抜け防止部が軌道輪の周壁部の全周に亘って固着されている形態であるため、保持器が軌道輪から抜け出ることをより確実に防止できる。
【0010】
そして、前記抜け防止部の外径を前記周壁部の外径よりも小さく形成し、前記周壁部に前記抜け防止部を載置させたとき、前記抜け防止部の外周縁を前記軌道輪の周壁部の外周縁よりもラジアル方向の内側に配置し、そのずれによって前記周壁部の端面部上に形成される露出領域に、前記抜け防止部を前記周壁部に固着するための溶接を施してもよい。
【0011】
これにより、抜け防止部を軌道輪の周壁部に載置させた状態で溶接を行うことができるため、溶接作業が容易になるとともに、抜け防止部が外れにくくなる。
【0012】
更に、前記軌道輪を焼入れ処理し、焼入れ処理された軌道輪の周壁部の内側に、前記保持器を前記転動体とともに収容した状態で、前記露出領域に溶接が施されることにより、前記抜け防止部が前記軌道輪の周壁部に固着されるようにすることができる。
【0013】
軌道輪の焼入れ処理が終了した後で抜け防止部を溶接によって固着する形態であるため、保持器が樹脂材より成るものであっても、軌道輪に抜け防止部を固着させることができる。また、焼入れ処理後に溶接を行うため、溶接部分に焼戻しがなされず、軌道輪の硬さを低下させたり、焼割れを生じたりするおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を説明する。図1の(a)は本発明の第1実施例のスラストころ軸受101の平面図、(b)は同じく正面断面図、図2は図1の要部の拡大断面図である。
【実施例1】
【0015】
図1に示されるように、本発明の第1実施例のスラストころ軸受101は、複数個(本実施例の場合、16個)の転動体(針状ころ1)を保持する保持器2と、保持器2を収容する軌道輪3とを備えている。保持器2には、各針状ころ1の軸線1aを放射状に配置して収容するためのポケット4が、周方向に等角度間隔をおいて設けられている。各ポケット4に収容された針状ころ1は、ポケット4内で転動自在である。
【0016】
軌道輪3について説明する。図1及び図2に示されるように、軌道輪3は、薄い金属板を屈曲させて、有底円筒状に成形したものであり、その内側部分に保持器2が収容される。軌道輪3の底壁部5の内面部(軌道輪3の底面部)には、各針状ころ1を受け止める軌道面6が形成されている。また、底壁部5の外周部分には、底壁部5から直交状態で立ち上がる周壁部7が形成されている。
【0017】
ここで、保持器2と軌道輪3とは別々の工程を経て製造される。そして、図3に示されるように、保持器2が軌道輪3の内側部分に落し込まれて配置される。第1実施例のスラストころ軸受101の軌道輪3には、かしめ部52(図6参照)が設けられていないため、保持器2を軌道輪3の内側部分に落し込むだけで、そのまま軌道輪3に収容させることができる。
【0018】
このままでは、保持器2が軌道輪3から容易に分離されてしまうため、第1実施例のスラストころ軸受101では、軌道輪3の周壁部7に抜け防止部9が設けられている。抜け防止部9について説明する。図1及び図2に示されるように、軌道輪3の周壁部7の上端面8(開口側の端面部)には、周方向に等角度で複数個(第1実施例の場合、120°で3個)の抜け防止部9が固着されている。各抜け防止部9は、平面視において扇面形状であり、その外周面9aは、軌道輪3の周壁部7の外周面7aから所定の距離Lだけ離れた位置に配置されている。また、抜け防止部9の内周面9bは、周壁部7の内周面7bよりもラジアル方向の内側に突出されていて、軌道輪3に収容される保持器2の外周面2aよりも内側に配置されている(後述)。このため、平面視において、抜け防止部9の先端部は、保持器2の外周縁部と重なり合っている。
【0019】
抜け防止部9は、その外周面9aが軌道輪3の周壁部7の上端面8に載置され、周壁部7の上端面8と抜け防止部9の外周面9aとが溶接されることによって固着される。この状態で、抜け防止部9の内周面9bは、保持器2の外周面2aよりも距離eだけ内側に配置される。換言すれば、保持器2と抜け防止部9とは、距離eだけ重なりあった状態に配置される。そして、抜け防止部9は、軌道輪3の周壁部7の周方向に等角度(120°)で3個設けられている。これにより、搬送中の振動等によって、保持器2が軌道輪3の内側部分から抜け出ることがなくなり、スラストころ軸受101の組付けを的確に行うことができる。
【0020】
図3に示されるように、上記した抜け防止部9は、保持器2が軌道輪3に収容された状態で溶接される。このため、溶接部分に焼戻しがなされず、軌道輪3の硬さを低下させたり、焼割れを生じたりするおそれがない。
【0021】
上記した第1実施例のスラストころ軸受101では、各抜け防止部9が3個の場合である。しかし、抜け防止部9は2個以上であればよい。なお、抜け防止部9が2個の場合、保持器2の抜止めをより確実にするため、2個の抜け防止部9をラジアル方向に対向配置させることが望ましい。
【実施例2】
【0022】
上記した第1実施例のスラストころ軸受101では、軌道輪3の複数箇所(第1実施例の場合、3箇所)に、所定角度をおいて抜け防止部9が設けられている場合である。しかし、図4に示される第2実施例のスラストころ軸受102のように、円環状の抜け防止部11が、軌道輪3の周壁部7の全周に亘って設けられている場合であってもよい。この場合、前述した第1実施例の抜け防止部9と同様に、抜け防止部11の外周面11aが、軌道輪3の周壁部7の外周面7aよりもラジアル方向の内側にずれていて、かつその内周面11bを保持器2の外周面2aよりもラジアル方向の内側に配置させることにより、第1実施例のスラストころ軸受101と同様な効果が奏される。
【0023】
更に、第2実施例のスラストころ軸受102の場合、軌道輪3の周壁部7の全周に亘って抜け防止部11が設けられているため、保持器2が軌道輪3の開口から確実に抜け出なくなるという利点がある。また、抜け防止部11を軌道輪3の周壁部7の上端面8に載置させた状態で溶接を行うことができるため、溶接作業も容易である。
【実施例3】
【0024】
第1及び第2の実施例のスラストころ軸受101,102は、軌道輪3が1つの場合である。しかし、図5に示される第3実施例のスラストころ軸受103のように、一対の軌道輪3,12が保持器2を挟み込む形態で設けられているものであってもよい。
【実施例4】
【0025】
そして、図6に示される第4実施例のスラストころ軸受104のように、第3実施例のスラストころ軸受103において、一方の軌道輪3だけでなく、他方の軌道輪12の周壁部13にもその内周面13aからラジアル方向の外側に突出するように抜け防止部14を固着してもよい。
【0026】
上記した各実施例のスラストころ軸受101〜104において、抜け防止部9,14における軌道輪3,12の周壁部7,13の内周面7b又は外周面13aからの突出長さは、保持器2又は軌道輪3,12に干渉しないことを要件に、長くすることができる。更に、各抜け防止部9,14の突出長さが異なっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は本発明の第1実施例のスラストころ軸受101の平面図、(b)は同じく正面断面図である。
【図2】図1の要部の拡大断面図である。
【図3】スラストころ軸受101に抜け防止部9を固着する状態を示す図である。
【図4】(a)は本発明の第2実施例のスラストころ軸受102の平面図、(b)は同じく正面断面図である。
【図5】(a)は本発明の第3実施例のスラストころ軸受103の平面図、(b)は同じく正面断面図である。
【図6】本発明の第4実施例のスラストころ軸受104の要部の拡大断面図である。
【図7】(a)は従来のスラストころ軸受50の平面図、(b)は同じく正面断面図である。
【符号の説明】
【0028】
101〜104 スラストころ軸受
1 針状ころ(転動体)
1a 回転軸線
2 保持器
2a 外周面(保持器の外周縁)
3,12 軌道輪
5 底壁部
6 軌道面
7 周壁部
7a 外周面(周壁部の外周縁)
8 上端面(開口側の端面部、露出領域)
9,11,14 抜け防止部
9a,11a 外周面(抜け防止部の外周縁)
9b,11b 内周面(抜け防止部の内周縁)
L 距離(ずれ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線が放射状に配置された複数個の転動体を保持する保持器と、
有底円筒形状を有し、周壁部の内側に前記保持器を収容するとともに、底壁部の内面に形成された軌道面で前記複数個の転動体を受け止める軌道輪とを備えるスラストころ軸受であって、
前記軌道輪の周壁部における開口側の端面部から、ラジアル方向の内側に向かって張り出す抜け防止部が形成され、該抜け防止部の内周縁は、前記軌道輪の回転軸線の方向から見て前記保持器の外周縁よりもラジアル方向の内側に位置され、
前記抜け防止部の外周縁は、前記軌道輪の周壁部の外周縁よりもラジアル方向の内側に配置され、そのずれによって前記周壁部の端面部上に形成される露出領域に溶接が施されることにより、前記周壁部に固着されていることを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項2】
前記抜け防止部は、その内径が前記保持器の外径よりも小さい円環状の板材で構成され、一方の端面部が前記軌道輪の開口側の周壁部の端面部に固着されていることを特徴とする請求項1に記載のスラストころ軸受。
【請求項3】
前記軌道輪を焼入れ処理し、焼入れ処理された軌道輪の周壁部の内側に、前記保持器を前記転動体とともに収容した状態で、前記露出領域に溶接が施されることにより、前記抜け防止部が前記軌道輪の周壁部に固着されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラストころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−168104(P2009−168104A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5704(P2008−5704)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】