説明

スラスト軸受

【課題】クランクシャフト等の主軸径よりも大きい径を有する箇所がある軸部材に適用することができる、転動体を備えたスラスト軸受を提供することである。そして、主軸に取付けたときに脱落しない構造のスラスト軸受を提供して、組立性を向上させることにある。
【解決手段】円環状の保持器12と、保持器12に放射状に設けられた複数のポケット16と、該ポケット16に収容されるころとを備えるスラストころ軸受10であって、保持器12には、保持器12を放射方向に分割する分割部位18が形成されており、スラストころ軸受10が取付けられる軸を保持器12で周囲から挟んで、スラストころ軸受10を該軸に取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はスラスト軸受に関する。さらに詳しくは、クランクシャフト、カムシャフトやバランサーシャフトの軸でスラスト荷重を受けるために用いるスラストころ軸受およびスラスト玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフト、カムシャフトやバランサーシャフトの軸には主軸よりも大きい径の箇所が存在する。そこで、これらの主軸でのスラスト荷重の受けは、分割タイプの滑り軸受が使用されてきた。
先行技術に関する文献としては、特願平6−33932号公報(特許文献1)に、クランクシャフトのジャーナル部を支承するシリンダーブロック側軸受部に、分割タイプのスラスト軸受メタルを用いることが記載されている(特許文献1の図1および図4参照)。
【0003】
ここで、滑り軸受は運転が静かで構造が簡単であるという利点を有している。しかし、滑り軸受には高速回転時の摩擦抵抗が大きいという問題がある。一方、近年の低燃費化の要求に対応して、自動車のエンジン内部での滑り軸受によるトルクの損失を低減させることが求められている。
そこで、スラスト受けの滑り接触箇所について、滑り軸受よりも高速回転時のトルク損失の少ないスラストころ軸受の適用が検討されてきた。
【特許文献1】特開平6−33932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クランクシャフト等には軸方向で主軸径よりも大きい径の箇所が存在する。一方、従来構造のスラストころ軸受は、内径が主軸径よりも少し大きい程度の扁平なドーナツ形状となっている。そのため、従来構造のスラストころ軸受では、主軸径よりも大きな径の箇所を通過させることができず、主軸に組込むことが困難であるという課題があった。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、クランクシャフト等の主軸径よりも大きい径を有する箇所がある軸部材に適用することができるスラストころ軸受を提供することである。そして、主軸に取付けたときに脱落しない構造のスラストころ軸受を提供して、組立性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、環状板からなる保持器と、保持器に放射状に設けられた複数のポケットと、該ポケットに収容される転動体とを備えるスラスト軸受であって、
前記保持器には、該保持器を放射方向に沿って分割する分割部位が形成されており、該スラスト軸受が取付けられる軸を保持器で周囲から挟んで、該スラスト軸受を該軸に取付けることを特徴とする。
この第1の発明によれば、スラスト軸受の保持器で軸を周囲から挟むことによりスラスト軸受を軸に取付けることができる。この方法によれば、スラスト軸受を軸上の目的の箇所に直接取付けることができ、スラスト軸受を軸に取付けた上で軸上を移動させる必要がない。よって、主軸径よりも大きい径を有する箇所がある軸部材に対してもスラスト軸受を取付けることができる。
【0007】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係るスラスト軸受であって、
前記保持器は樹脂製であり、該保持器には一箇所の分割部位が形成されており、該保持器の弾性変形により該保持器の分割部位の両側の分割端部を離間させて、該分割端部の間に該スラスト軸受を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせることができることを特徴とする。
この第2の発明によれば、スラスト軸受の保持器に形成される分割部位は一箇所であるため保持器は分断されておらず一体化しており、取扱いが容易である。また、保持器は樹脂製であって、保持器の弾性変形により保持器の分割部位の両側の分割端部を離間させてスラスト軸受が取付けられる軸の軸径以上の隙間を生じさせることができる。そこで、両側の分割端部の隙間で軸を周囲から挟んで軸を保持器に挿通させることにより、スラスト軸受を軸に取付けることができる。
また、スラスト軸受は保持器を弾性変形させることにより軸に取付けられるので、取付後はもとの形状に戻る。よって、取付後にスラスト軸受が軸から脱落することがなく、取付性がよい。
【0008】
次に、本発明の第3の発明は、上記第2の発明に係るスラスト軸受であって、
前記保持器には該保持器の厚みが周囲よりも薄くされた肉抜き部が放射方向に設けられていることを特徴とする。
この第3の発明によれば、保持器の放射方向に設けられた肉抜き部が保持器の軸方向に弾性変形しやすい。そこで、主に肉抜き部を弾性変形させながら分割部位の両端の分割端部を軸方向に前後に離間させることにより分割端部にスラスト軸受を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせることができる。そこで、両側の分割端部の隙間で軸を周囲から挟んで軸を保持器に挿通させることにより、スラスト軸受を容易に軸に取付けることができる。
また、肉抜き部を設けることで、保持器を軽量化することができる。
【0009】
次に、本発明の第4の発明は、上記第2の発明に係るスラスト軸受であって、
前記保持器には該保持器の内周側に開口した複数の切り欠き部が形成されていることを特徴とする。
この第4の発明によれば、保持器の内周側に開口した切り欠き部では保持器は半径方向に肉が薄くなっており、保持器は周方向に弾性変形しやすい。そこで、分割部位の両端の分割端部を左右に離間させ切り欠き部を弾性変形させることにより分割端部にスラスト軸受を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせることができる。そこで、両側の分割端部の隙間で軸を周囲から挟んで軸を保持器に挿通させることにより、スラスト軸受を容易に軸に取付けることができる。
【0010】
次に、本発明の第5の発明は、上記第2の発明〜第4の発明のいずれかに係るスラスト軸受であって、
前記保持器に形成された分割部位の両側の分割端部には該分割端部のずれを抑止するロック機構が形成されていることを特徴とする。
この第5の発明によれば、スラスト軸受を軸に取付けた後は、ロック機構により保持器を分割部位でロックすることにより、分割部位の両端の分割端部の相対的なずれを抑止することができる。よって、スラスト軸受の周方向あるいは軸方向での変形を防ぐことができる。
【0011】
次に、本発明の第6の発明は、上記第1の発明に係るスラスト軸受であって、
前記保持器には複数箇所の分割部位が形成されており、該保持器は分割部位で複数部分に分離することができ、前記スラスト軸受が取付けられる軸を該複数部分に分離された保持器で周囲から挟んで該保持器を該軸に取付けることができ、
該保持器の分割部位の分割端部には、該保持器の組立時に該分割端部を円周方向に連結する連結機構を備えることを特徴とする。
この第6の発明によれば、保持器が複数部位に分割されているので、軸の周囲から分割された保持器により軸を挟むことで、スラスト軸受を軸に取付けることができる。そして、取付後は連結機構により分割された保持器を円周方向で連結して一体化することができるので、取付後に保持器がバラバラになって軸から脱落することがない。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明の各発明によれば、次の効果が得られる。
まず、上述の第1の発明によれば、スラスト軸受の保持器で軸を周囲から挟むことによりスラスト軸受を軸に取付けることができる。この方法によれば、スラスト軸受を軸上の目的の箇所に直接取付けることができ、スラスト軸受を軸に取付けた上で軸上を移動させる必要がない。よって、主軸径よりも大きい径を有する箇所がある軸部材に対してもスラスト軸受を取付けることができる。
【0013】
次に上述の第2の発明によれば、スラスト軸受の保持器に形成される分割部位は一箇所であるため保持器は分断されておらず一体化しており、取扱いが容易である。また、保持器は樹脂製であって、保持器の弾性変形により保持器の分割部位の両側の分割端部を離間させてスラスト軸受が取付けられる軸の軸径以上の隙間を生じさせることができる。そこで、両側の分割部位の隙間で軸を周囲から挟んで軸を保持器に挿通させることにより、スラスト軸受を軸に取付けることができる。また、スラスト軸受は保持器を弾性変形させることにより軸に取付けられるので、取付後はもとの形状に戻る。よって、取付後にスラスト軸受が軸から脱落することがなく、取付性がよい。
次に上述の第3の発明によれば、保持器の放射方向に設けられた肉抜き部が保持器の軸方向に弾性変形しやすい。そこで、主に肉抜き部を弾性変形させながら分割部位の両端の分割端部を軸方向に前後に離間させることにより分割端部にスラスト軸受を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせることができる。そこで、両側の分割端部の隙間で軸を周囲から挟んで軸を保持器に挿通させることにより、スラスト軸受を容易に軸に取付けることができる。また、肉抜き部を設けることで、保持器を軽量化することができる。
次に上述の第4の発明によれば、保持器の内周側に開口した切り欠き部では保持器は半径方向に肉が薄くなっており保持器の周方向に弾性変形しやすい。そこで、分割部位の両端の分割端部を左右に離間させ切り欠き部を弾性変形させることにより分割端部にスラスト軸受を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせることができる。そこで、両側の分割端部の隙間で軸を周囲から挟んで軸を保持器に挿通させることにより、スラスト軸受を容易に軸に取付けることができる。
次に上述の第5の発明によれば、スラスト軸受を軸に取付けた後は、ロック機構により保持器の分割部位でロックすることにより、分割部位の両端の分割端部の相対的なずれを抑止することができる。よって、スラスト軸受の周方向あるいは軸方向での変形を防ぐことができる。
【0014】
次に上述の第6の発明によれば、保持器が複数部位に分割されているので、軸の周囲から分割された保持器により軸を挟むことで、スラスト軸受を軸に取付けることができる。そして、取付後は連結機構により分割された保持器を円周方向で連結して一体化することができるので、取付後に保持器がバラバラになって軸から脱落することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1に本発明の第一実施例におけるスラストころ軸受10の平面図を示す。スラストころ軸受10は樹脂製の環状板からなる保持器12と、保持器12に放射状に設けられた複数のポケット16と、ポケット16に収容されるころ14とを備えたスラストころ軸受である。
【0017】
保持器12には、放射方向に沿って保持器12を分割する分割部位18が一箇所形成されており、分割部位18において両側の分割端部20A、20Bは分離されているが、保持器12全体は繋がっており一体とされている。
そして、図1に示すとおり、保持器12の周方向に並んで形成されているポケット16の中間に、保持器12の厚みが周囲よりも薄く形成された肉抜き部24が放射方向に向いて設けられている。肉抜き部24は径方向で外周28から内周26に達し、外周28側が少し幅広の扇形とされている。第一実施例では肉抜き部24を保持器12の分割部位18を除いてポケット16の周方向で2箇所おきに設けているが、全てのポケット16の中間に肉抜き部24設けてもよいし、不等間隔で肉抜き部24を設けても良い。
図2(A)に図1のA−A断面を示す。図2(B)に比較のために肉抜きをしていない箇所の断面を示す。肉抜き部24は保持器12の肉厚が薄いため曲げやすいと云う特徴を持っている。実施例では保持器12の裏面のみで肉抜きをしているが、表面と裏面の両側で肉抜きをしても良い。
【0018】
図3(A)に図1のB−B断面を示す。図3(A)に示すように、保持器12の分割部位18の両端の分割端部20A、20Bには、スラストころ軸受10を軸に取付け後に分割端部20A、20Bの相対的なずれを抑止するためのロック機構22が形成されている。ロック機構22は図3(A)に示すとおり、分割端部20A、20Bの端に形成された突起と突起の手前に形成された溝が互いに係合する構造となっている。ロック機構22により分割端部20Aと分割端部20Bの周方向のずれが抑止される。
なお、ロック機構は、スラスト方向のずれを抑止する図3(B)に示すようなロック機構22Aの構成としても良い。ロック機構22Aによれば、分割端部20Aと分割端部20Bのスラスト方向(軸方向)のずれが抑止される。
【0019】
スラストころ軸受10の軸への取付けは次のようにして行う。まず、主に肉抜き部24を弾性変形させながら分割部位18の分割端部20A、20Bを軸方向に前後に離間させることにより分割端部20A,20Bの間にスラストころ軸受10を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせる。次に、押し広げられた分割端部20A、20Bで軸を周囲から挟み軸を保持器12の内周26に軸を挿通させる。そして、分割部位18の両側の分割端部20A、20Bに設けられているロック機構22により分割端部20Aと分割端部20Bを係合させて分割部位18をロックする。
【0020】
この取付け方法によれば、スラストころ軸受10を軸上の目的の箇所に直接取付けることができ、スラストころ軸受10を軸に取付けた上で軸上を移動させる必要がない。よって、主軸径よりも大きい径を有する箇所がある軸部材に対してもスラストころ軸受10を取付けることができる。
そして、スラストころ軸受10の保持器12に形成される分割部位18は一箇所であるため保持器12は分断されておらず一体化しているので、取扱いが容易である。また、スラストころ軸受10は保持器12を弾性変形させることにより軸に取付けられるので、取付後はもとの形状に戻る。よって、取付後にスラストころ軸受10が軸から脱落することがなく、取付性がよい。さらに、取付後はロック機構22により分割端部20Aと分割端部20Bの相対的なずれが抑止されるので、スラストころ軸受10の周方向あるいは軸方向での変形を防ぐことができる。
【0021】
図4にスラストころ軸受10をクランクシャフト70に取付けた状態の軸平行断面の部分図を示す。スラストころ軸受10は、軸受キャップ72およびシリンダーブロック74とクランクシャフト70の軸方向の中間に取付けられる。
クランクシャフト70にはスラストころ軸受10を取付ける位置の左右に主軸径よりも軸径の大きい箇所が存在する。そこで、スラストころ軸受10は保持器12の弾性変形により分割端部20A、20Bを軸方向に離間させてクランクシャフト70を周囲から挟み、クランクシャフト70を保持器12の内周26に挿通させることにより、目的箇所にスラストころ軸受10を直接取付けることができる。
ここで、スラストころ軸受10は滑り軸受に比べて、高速回転時の摩擦抵抗が小さいので、スラスト受けの滑り接触箇所にスラストころ軸受10を適用することで、トルクの損失を低減させることができる。
なお、回転方向の軸受には、トルク損失を低減させるため、ころ軸受76を使用している。
【実施例2】
【0022】
次に、本発明の第二実施例について説明する。
図5に本発明の第二実施例におけるスラストころ軸受30の平面図を示す。スラストころ軸受30は樹脂製の環状板からなる保持器32と、保持器32に放射状に設けられた複数のポケット36と、ポケット36に収容されるころ34とを備えたスラストころ軸受である。
【0023】
保持器32には、放射方向に沿って保持器32を分割する分割部位38が一箇所形成されており、分割部位38において両側の分割端部40A、40Bは分離されているが、保持器32全体は繋がっており一体とされている。
そして、図5に示すとおり、保持器32には該保持器32の内周46に開口し外周48側に肉を残した扇形の複数の切り欠き部44が形成されている。この第二実施例では切り欠き部44は等間隔で三箇所形成されている。切り欠き部44では、保持器32の肉が半径方向で薄くなっているため、保持器32は周方向に曲げやすいという特徴がある。
【0024】
スラストころ軸受30の軸への取付は次のようにして行う。分割部位38の両端の分割端部40A、40Bを周方向に離間させて切り欠き部44を弾性変形させることにより分割端部40Aと40Bの間にスラストころ軸受30を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせる。次に、離間した分割端部40A、40Bで軸を周囲から挟み軸を保持器32の内周46に軸を挿通させる。
【0025】
この取付け方法によれば、スラストころ軸受30を軸上の目的の箇所に直接取付けることができ、スラストころ軸受30を軸に取付けた上で軸上を移動させる必要がない。よって、主軸径よりも大きい径を有する箇所がある軸部材に対してもスラストころ軸受30を取付けることができる。
そして、スラストころ軸受30の保持器32に形成される分割部位38は一箇所であるため保持器32は分断されておらず一体化しているので、取扱いが容易である。また、スラストころ軸受30は保持器32を弾性変形させることにより軸に取付けられるので、取付後はもとの形状に戻る。よって、取付後にスラストころ軸受30が軸から脱落することがなく、取付性がよい。
【0026】
この第二実施例では分割端部40A、40Bにロック機構を設けていないが、第一実施例と同様のロック機構を設けることもできる。また、切り欠き部44の数や形状を変更することもできる。
図6に第二実施例の変形実施例を示す。図6(A)は、第一実施例と同様の構成のロック機構42(図示省略)を設け、切り欠き部44を増やした例である。図6(B)は、切り欠き部44の外周48の側に肉を残し、肉を残した部分の外周48の側にくさび形の切れ込みを入れた屈折部45を設けた例である。図6(B)の変形実施例では屈折部45があるため保持器32を周方向に開きやすい。
【実施例3】
【0027】
次に、本発明の第三実施例について説明する。
図7に本発明の第三実施例におけるスラストころ軸受50の平面図を示す。スラストころ軸受50は鉄製の円環状の保持器52と、保持器52に放射状に設けられた複数のポケット56と、ポケット56に収容されるころ54とを備えたスラストころ軸受である。
【0028】
保持器52には、放射方向に保持器52を分割する分割部位58X、58Yが形成されており、分割部位58X、58Yによって保持器52は保持器52A、52B二つの部分に分割されている。図8に分割部位の断面を示す。図8(A)が図7のC−C位置における断面図、図8(B)が図7のD−D位置における断面図である。
図8(A),(B)に示すとおり、分割部位58Xの両側で分割端部60Aには係合孔64が形成され、分割端部60Bには係合突起62が形成されている。また、分割部位58Yの両側で分割端部60Cには係合突起62が形成され、分割端部60Dには係合孔64が形成されている。
そして、係合突起62と係合孔64は連結機構を構成し、係合突起62を係合孔64に係合させることにより、分割端部60Aと分割端部60Bおよび分割端部60Cと分割端部60Dを連結して、保持器52を一体化することができる。
【0029】
スラストころ軸受50の軸への取付けは、軸の周囲から2分割された保持器52A,52Bで軸を挟んでスラストころ軸受50を軸に取付ける。そして、取付け後は係合突起62と係合孔64を分割部位58Xおよび58Yで係合させ、分割された保持器52Aと52Bを円周方向で連結して一体化する。
【0030】
この取付け方法によれば、スラストころ軸受50を軸上の目的の箇所に直接取付けることができ、スラストころ軸受50を軸に取付けた上で軸上を移動させる必要がない。よって、主軸径よりも大きい径を有する箇所がある軸部材に対してもスラストころ軸受50を取付けることができる。
そして、スラストころ軸受50では軸に取付後に、分割された保持器52A.52Bを円周方向で連結して一体化することことができるので、取付後にスラストころ軸受50が軸から脱落することがない。
【0031】
第三実施例では保持器の分割部位を二箇所とし、保持器を2分割する構成としたが、保持器を3分割または4分割する構成としても良い。
また、第三実施例では、スラストころ軸受の軸への取付け時に保持器の弾性変形をほとんど必要としないため、保持器は強度の高い鉄製としているが、保持器を樹脂製とすることもできる。保持器を樹脂製とすればスラストころ軸受の軽量化を図ることができる。そこで、スラストころ軸受の用途に応じて、保持器を鉄製とするか樹脂製とするかを選択することができる。
【実施例4】
【0032】
上述の実施例では、本発明にかかるスラストころ軸受について実施形態を説明してきたが、本発明はスラスト玉軸受にも適用することができる。
図9に本発明の第四実施例におけるスラスト玉軸受80の平面図を示す。スラスト玉軸受80は樹脂製の環状板からなる保持器82と、保持器82に放射状かつ同心円状に設けられた二列のポケット86と、ポケット86に収容された玉84とを備えた複列同心スラスト玉軸受である。
【0033】
保持器82には、放射方向に沿って保持器82を分割する分割部位88が一箇所形成されており、分割部位88において両側の分割端部90A、90Bは分離されているが、保持器82全体は繋がっており一体とされている。
そして、図9に示すとおり、保持器82の周方向に並んで配置されている玉84の中間に、保持器82の厚みが周囲よりも薄く形成された肉抜き部94が放射方向に向いて設けられている。肉抜き部94は径方向で外周98から内周96に達し、外周98側が少し幅広の扇形とされている。第四実施例では肉抜き部94を保持器82の分割部位88を除いて玉84の周方向の間に周方向で2箇所おきに設けているが、全ての玉84の周方向の中間に肉抜き部94設けてもよいし、不等間隔で肉抜き部94を設けても良い。
肉抜き部94は保持器82の肉厚が薄いため曲げやすいと云う特徴を持っている。この実施例では保持器82の裏面のみで肉抜きをしているが、表面と裏面の両側で肉抜きをしても良い。
【0034】
保持器82の分割部位88の両端の分割端部90A、90Bには、スラスト玉軸受80を軸に取付け後に分割端部90A、90Bの相対的なずれを抑止するためのロック機構(図示省略)が形成されている。保持器82のロック機構は第一実施例で示したロック機構22と同様の構造のため、詳細な説明は省略する。
スラスト玉軸受80はころ14が玉84に置き換わった点を除いて第一実施例で示したスラストころ軸受10と同様の構造および性質を有しており、主に肉抜き部94を弾性変形させながら分割部位88の分割端部90A、90Bを軸方向に前後に離間させて、軸上の目的の箇所に直接取付けることができる。
【0035】
なお、第四実施例では、第一実施例の保持器の構造のスラスト玉軸受80への適用について説明したが、第二実施例および第三実施例で示した保持器の構造ついても、スラスト玉軸受への適用が可能である。
【0036】
上述の第一実施例で本発明に係るスラストころ軸受のクランクシャフトへの適用例を示したが、上述の各実施例に示したスラスト軸受は、クランクシャフトの他に、カムシャフトやバランサーシャフトへも適用することができる。
また、取付軸の軸端から挿通する従来のスラスト軸受よりも取付けおよび取外しが容易である点を生かして、取付軸の軸端からスラスト軸受を挿通することができる種類の軸に対して適用することもできる。
その他、本発明はその発明の思想の範囲で、各種の形態で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第一実施例におけるスラストころ軸受の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【図4】第一実施例におけるスラストころ軸受をクランクシャフトに取付けた状態の軸平行断面の部分図である。
【図5】第二実施例におけるスラストころ軸受の平面図である。
【図6】第二実施例の変形実施例であるスラストころ軸受の平面図である。
【図7】第三実施例におけるスラストころ軸受の平面図である。
【図8】(A)は図7のC−C断面図であり、(B)は図7のD−D断面図である。
【図9】第四実施例におけるスラスト玉軸受の平面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 スラストころ軸受
12 保持器
14 ころ
16 ポケット
18 分割部位
20A、20B 分割端部
22、22A ロック機構
24 肉抜き部
26 内周
28 外周
30、30A、30B スラストころ軸受
32 保持器
34 ころ
36 ポケット
38 分割部位
40A、40B 分割端部
42 ロック機構
44 切り欠き部
45 屈折部
46 内周
48 外周
50 スラストころ軸受
52、52A、52B 保持器
54 ころ
56 ポケット
58X、58Y 分割部位
60A、60B、60C、60D 分割端部
62 係合突起
64 係合孔
70 クランクシャフト
72 軸受キャップ
74 シリンダーブロック
76 ころ軸受
80 スラスト玉軸受
82 保持器
84 玉
86 ポケット
88 分割部位
90A、90B 分割端部
92 ロック機構
94 肉抜き部
96 内周
98 外周



【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状板からなる保持器と、保持器に放射状に設けられた複数のポケットと、該ポケットに収容される転動体とを備えるスラスト軸受であって、
前記保持器には、該保持器を放射方向に沿って分割する分割部位が形成されており、該スラスト軸受が取付けられる軸を保持器で周囲から挟んで、該スラスト軸受を該軸に取付けることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のスラスト軸受であって、
前記保持器は樹脂製であり、該保持器には一箇所の分割部位が形成されており、該保持器の弾性変形により該保持器の分割部位の両側の分割端部を離間させて、該分割端部の間に該スラスト軸受を取付ける軸の軸径以上の隙間を生じさせることができることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項3】
請求項2に記載のスラスト軸受であって、
前記保持器には該保持器の厚みが周囲よりも薄くされた肉抜き部が放射方向に設けられていることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項4】
請求項2に記載のスラスト軸受であって、
前記保持器には該保持器の内周側に開口した複数の切り欠き部が形成されていることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のいずれかに記載のスラスト軸受であって、
前記保持器に形成された分割部位の両側の分割端部には該分割端部のずれを抑止するロック機構が形成されていることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項6】
請求項1に記載のスラスト軸受であって、
前記保持器は複数箇所の分割部位が形成されており、該保持器は分割部位で複数部分に分離することができ、前記スラスト軸受が取付けられる軸を該複数部分に分離された保持器で周囲から挟んで該保持器を該軸に取付けることができ、
該保持器の分割部位の分割端部には、該保持器の組立時に該分割端部を円周方向に連結する連結機構を備えることを特徴とするスラスト軸受。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−162300(P2009−162300A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−450(P2008−450)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】