説明

スルホンハイブリッド前駆体、その合成方法及びその使用

本発明は、新規スルホン化ハイブリッド前駆体、その合成方法及びその使用に関し、特に、インサイチュ(in situ)ゾル-ゲル重合後のホスト構造中の機能性ハイブリッドフィラーのようなプロトン-交換電解質膜、低粘稠剤(thinning agent)(例えば、セラミックス及びスリップ(slips)等の濃縮ペーストの粘度低下用)のような機能性ハイブリッドナノ粒子のゾル-ゲル重合による製造、ゾル-ゲル重合を介した化学グラフトによる、吸湿剤、バインダー又は構造剤としての、表面被膜の製造(表面親水性を増加させるグラフト化モノレイヤーの形成)の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規スルホン化ハイブリッド前駆体、その合成方法及びその使用に関し、特に、インサイチュ(in situ)ゾル-ゲル重合後のホスト構造中の機能性ハイブリッドフィラーのようなプロトン-交換電解質膜、低粘稠剤(thinning agent)(例えば、セラミックス及びスリップ(slips)等の濃縮ペーストの粘度低下用)のような機能性ハイブリッドナノ粒子のゾル-ゲル重合による製造、ゾル-ゲル重合を介した化学グラフトによる、吸湿剤、バインダー又は構造剤としての、表面被膜の製造(表面親水性を増加させるグラフト化モノレイヤーの形成)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に記載する本発明は、エネルギー生産及び管理の状況に特に関係する。現在、エネルギーの生産及び消費は、主として、化石資源の燃焼に基づいており、その燃焼は、世界経済への重大な影響と、工場の環境及びエコロジーへの好ましくない影響(化石燃料の不足及び大気汚染の増加)とを長期間与えることが予測されている。これは、燃料電池を使用するエネルギーの電気化学変換が、代替エネルギーと電力(エネルギーベクトル)のソースとして真剣に検討されている理由である。
【0003】
プロトン-交換膜燃料電池は、高分子電解質膜燃料電池(又はPEMFC)としても知られており、輸送の用途及び携帯用途としても発達した種類の燃料電池である。イギリスの電気化学者であるSir William Groveは、燃料電池の仕組みを、1839年に実験的に実証した。最初のPEMFC型の燃料電池は、宇宙用途で、General Electric社により、1960年代にアメリカで開発された。
【0004】
現在、この種の電池は、中間温度(40-120℃)で機能するように設計され、自動車産業及び携帯電子工学産業により、国際的に開発されている。しかし、否定できない環境への長所及び優れたエネルギー収率にもかかわらず、燃料電池は、未だ高いコスト(原料、供給寿命)のために内燃機関とかろうじて競合が始まっている。
【0005】
PEMFC型の燃料電池の中心部は、高分子電解質膜、電極(アノード及びカソード、通常白金の薄層の形態)及びガス拡散を助けるバイポーラプレートから構成される。
プロトン-交換高分子電解質膜により機能する燃料電池は、下記式
カソードでの反応(酸素還元サイト):
1/2 O2 + 2 H+ + 2 e- → H2O
アノードでの反応(水素酸化サイト):
H2 → 2H+ + 2 e-
により、ガス(H2/O2)の化学エネルギーを電気エネルギーへ、高エネルギー収率でかつ汚染の排出なしで、変換しうる。
【0006】
2つの電極が電解質(膜)により分離されているため、酸化される燃料(水素)は、アノードに運ばれ、カソードには酸素(又は、よりシンプルには、任意に酸素が加えられた空気)が供給される。アノードにおいて、ジヒドロゲンが反応し、2つの電子を放出(酸化)し、その電子は、アノード及びカソード接続する外部電子回路に供給される。カソードにおいて、酸素の陰極還元が生じる。試薬は、原則的に、装置に連続的に供給され、電池の起電力が電極電位の差に等しくなる。よって、一般的に知られた全体的な反応は、
H2 + 1/2 O2 → H2O
である。
【0007】
よって、水が電池の通常の駆動により得られ、水を膜の外に排出する必要がある。水の取り扱いは、電池の性能にとって重要であり、電池の収集機能を確保することで、水の量の適切な一定レベルでの残存が保たれるように注意する必要がある。特に、過剰な水は、膜の過剰な膨潤、流通経路や電極での詰まり及び触媒部位のガスの接触での負の効果につながり、一方、不足する水の量は、導電性及び電池の収率に害のある膜の乾燥につながる。
【0008】
つまり、膜の役割は、アノードからカソードへのプロトン(H+)の移送を確保することで、電気化学反応を生じさせることである。しかし、燃料電池の短絡を生じる電子を伝導させるべきではない。膜は、アノードでの還元環境に耐性であり、同時に、カソードでの酸化環境に耐性であるべきであり、カソードに含まれる酸素と、アノードに含まれる水素の混合を防ぐべきである。
【0009】
この分野で、膜を製造するために使用され、かつ今日基準としてとどまるプロトン-輸送高分子の1つとして、アメリカの企業であるデュポン社(Du Pont de Nemours)により、1968年に開発されかつ完成されたナフィオン(Nafion、商標)、ペルフロオロスルホン酸ポリマーがある。歴史的には、1960年代のNASA Gemini space programでスルホン化ポリスチレン型の膜を含む燃料電池が使用されていたが、これらはナフィオン(商標)膜に急速に代わり、PEMFC類の性能の改善を可能にした。化学用語において、それはランダムに分散したイオン性基である柔軟なフッ化炭素鎖から形成された有機高分子である(Mauritz K.A. et al., Chem Rev., 2004, 104, 4535-4585)。ナフィオン(商標)を主として、商品名Aciplex(商標)(日本の旭化成社)やFlemion(商標)(日本の旭硝子社)により販売されている種類の他のペルフルオロスルホン酸市販高分子が存在する。
【0010】
これら高分子から製造された膜は、化学的、熱的及び機械的に非常に安定である(柔軟性)。それらは、室温及び100%相対湿度で、0.1S.cm-1のオーダーの高い導電性を備えた良好な電気化学性を有する(ナフィオン(商標)の製造者データによる)。しかし、これら膜は、H+イオンの十分な移動を許容するために、90℃以下の温度で操作する必要がありかつ常に水で飽和させる必要がある。具体的には、プロトンの生成は、Grotthus型の機構、即ち、イオン性及び親水性の伝導経路によりプロトンのジャンプを介して、主として生じる(上記Mauritz K.A. et al., 2004)。更に、これら膜の合成は、フッ素の使用を考慮して、長期間かかり、困難であり、又は危険であり、それらの非常に高い価格に部分的に正当性を与える。
【0011】
更に、それらは、水分調整及び温度変化に関連した課題に関して十分満足できていない。具体的には、系が湿度のレベルで多くの変化を受けた場合、膜の膨潤及び再構築の連続サイクルの発現が、実質的な疲労を導くことを注記しておく。更に、ナフィオン(商標)は、その温度に向かって、加速した老化と、構造変化及び機械的脆弱性(不足)の発現の原因となる、ガラス転移点(Tg=120℃)を実際当然に経る高分子であり、その耐用寿命が制限される。
【0012】
電解質膜の製造に使用し得る他の置換可能な高分子の種類も既に提案されている。特に、スルホン化又はドープされた熱安定高分子(スルホン化ポリアリールエーテルケトン類、ポリベンズイミダゾール類、ポリアリールエーテルスルホン類等)がある。これら高分子は、ある欠点、特に、導電性(性能)、耐用寿命及び水分調整の観点で欠点を有する膜につながる。
【0013】
特許出願US 2005/0164063には、種々の固体化合物の合成及び、シロキサン官能部が、尿素官能部のない二価の基を介したフェニルスルホネート基へ付加したシルセスキオキサン系前駆体から得られた電解質が記載されている。そのような構造は、フェニルスルホネートにシロキサン官能部をリンクさせる二価の基が、アルキル又はアリール基であり、そして導電性が乏しいという欠点を有している(Electrochimica Acta, 2003, 48, 2181-2186)。
【0014】
これが、これら系の個々のそれぞれの弱点を克服するために、近年、無機相を含むことによる改良の多くの検討が行われている理由であり、PEMFC類の総合的な性能の改善を導いている。これは水分調製に、高温での材料の挙動(脱水)に、及びそれらの長期安定性に特に反映される。これらコンセプトは、ハイブリッド膜の出現で一般化されるようになり、導電性電解質の範囲内で連続的な無機ネットワークの存在の重要性の説明を可能ともしている。
【0015】
ロジウム系モノマー錯体は、(p-アミノフェニル)ジフェニルフォスフィンと3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランとの反応により得られ、改良された触媒機能を有し、公知であり、かつゾル-ゲル重合に使用される(J. Organomet. Chem., 2002, 641, 165-172)。
【0016】
ゾル-ゲル重合を介するアルコキシシランと4-[(4''-アミノフェニル)スルフォニル]-4'-[N,N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]アゾベンゼンとの反応により製造される膜は、光学の分野での使用であるChem. Mater., 1998, 10, 1642- 1646にも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
残念ながら、現時点で、PEMFCの製造社及びユーザーの厳しい要求を、その性質にかかわりなく、完全に満たす膜は存在しない。これら電気化学システムを使用する多くの操作可能技術装置にマーケット、例えば、PSA Peugeot CitroenとCommissariat a l'Energie Atomiqueとの間でのパートナーシップから立ち上がった、80 kW まで電力があり得るGenepac燃料電池、があるにもかかわらず、克服すべき技術的な障害が残っている。
【0018】
第一に、先に見られるように水分調整の観点で、電池を動作させる間に生じ、電解質膜の性質(特に導電性)に影響する水を調整することが非常に重要である。PEMFC(導入口、排出口、ゼネレーション、及びカソードとアノード間の逆拡散)に生じる水輸送を適切に制御及び調整することの必要性は、相対湿度への依存の少ない電解質の生産を促進するという大きな制約を残す。
【0019】
操作温度の観点において、ナフィオン(商標)型の燃料電池は、90℃の最大温度でのみ駆動できる。より高い温度で、膜は、水を保持できないため好適なプロトン伝導性をもはや確保できない。それらの収率は、温度の上昇と結びつく相対湿度の降下機能により減少する。現在、運搬用車両の燃料電池の用途では、90℃以上の温度、特に120と150℃の間の温度で十分機能しうる膜の使用が要求されている。この種の膜は、市場に現在存在しない。
【0020】
最後に、明るい将来に向かうこの技術の大量開発及びこれら電力発電機の一般化をなしうるための製造コストの観点において、この課題は電解質膜の製造コストとしてそのまま残っているが、燃料電池コア(AME)の製造コストは触媒としての白金の使用と関係していた。
【課題を解決するための手段】
【0021】
それゆえ発明者等は、これら種々の欠点を克服するため、そして、特に伝導性/性能、水分調整及び駆動温度の観点で、熱及び化学安定性の観点で、存在する膜と比較した場合、改善された性質を有する電解質ハイブリッド膜の簡単で安価な製造法を使用しうる新規前駆体を開発する目的を彼等自身で設定する。この目的は、以下に規定され、この観点、本発明の第1の主題を構成する式(I)の化合物を使用することで達成される。
【0022】
具体的には、本発明の主題は、下記式(I):
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、
- R1及びR3は、同一であり、メチルオキシ又はエチルオキシ基を表し;
- R2は、メチル、エチル、メチルオキシ、エチルオキシ又はフェニル基を表し;
-mは、2〜6を含む範囲の整数であり;
-nは1又は2に等しい整数である)
の化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
- 図1は、3-((トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルフォネート)フェニル)尿素(1)のX-線粉末回折図である(回折角(2θ)の関数とする任意単位の強度);
- 図2は、化合物(1)の結晶構造である;
- 図3は、ダイマー形態(1)2中の化合物(1)の分子組織の概略図である;
- 図4は、ナノメータースケールでの前駆体(1)のサブミクロン組織を示す透過型電子顕微鏡写真である(図4A:倍率×80000;図4B:倍率×240000);
- 図5は、いかなる前駆体(1)も使用しないが、可塑化前駆体(3)を使用して得られた膜との比較(本発明の一部を形成しない)で、可塑化前駆体(化合物3)の存在又は非存在中、化合物(1)で得られたハイブリッド膜のX-線回折図を示す: 膜A:化合物(3)のみで得た、膜D:化合物(1)40重量%及び化合物(3)60重量%で得た、膜H:いかなる可塑化前駆体もなしで前駆体(1)のみ使用して得た。この図で、強度(任意単位)は回折角(2θ)の関数である;
- 図6は、倍率×120000で、ゾル-ゲルを介して重合させた前駆体(1)100%に基づくハイブリッド材料から得られた膜(以下の実施例2の表2の膜H)の透過型電子顕微鏡写真である(図6A:亜臨界集束(sub-critical focusing)での像、図6B:臨界集束での像);
- 図7は、本発明によるハイブリッド膜の写真を示し、これら膜は印刷支持体上に配置されている;この図において、写真(i)及び(ii)は、前駆体(1)を40重量%含む、以下の実施例2の表2の膜Dのものであり、写真(iii)は、前駆体(1)を58重量%含む、以下の実施例2の表2の膜Fのものであり、写真(iv)は、前駆体(1)を48重量%含む、以下の実施例2の表2の膜Eのものである;
- 図8は、ゾル-ゲルを介して重合させた前駆体(1)に基づくハイブリッド材料のみから構成された本発明による膜Hの写真であり(図8A)、及びそのハイブリッド膜のラメラ構造内に存在するプロトンチャンネルの概略図でもある(図8B);
- 図9は、膜のグラムあたりの化合物(3)のミリ当量(meq)の関数として、室温で、膜A〜Hのイオン交換容量(IEC)を表す;
- 図10は、膜A〜H及びナフィオン(商標)117タイプの参照膜の25℃及び100%相対湿度でのプロトン伝導性を表す;
- 図11は、膜のグラムあたりの化合物(3)のミリ当量(meq)の関数として、室温で、膜A〜Hの膨潤度及び水和数を表す;
- 図12は、本発明のハイブリッド膜の形成メカニズムを概略的に表す:
a)本発明によるハイブリッド膜の断面図、
b)ラメラナノドメインの概略組立体、
c)導電性基-SO3H-H2Oを含むプロトン-伝導チャンネル結合の形成;
- 図13は、電気化学インピーダンス分光法により測定された浸漬膜のアレニウス曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
R1とR3がエチルオキシ基で表される上記式(I)の化合物は特に好ましい。
R2の上記基の中で、エチルオキシ基が特に好ましい。
本発明の好適な1つの具体例によれば、R1=R2=R3=エチルオキシである。
mに与えられる値の中で、m=3である式(I)の化合物が好ましい。
【0027】
上記式(I)の化合物において、n=1の場合、ナトリウムスルホネート基は、尿素基の窒素原子に結合した炭素原子に対してフェニル環のパラ位を占める。n=2の場合、2つのスルホネート基は、尿素基の窒素原子に結合した炭素原子に対してメタ位のどちらもであり、又はそれぞれ、尿素基の窒素原子に結合した炭素原子に対応するパラとメタ位である。
【0028】
これら選択は、以下
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、R1, R2, R3及びmは、式(I)の化合物の上記定義と同じ意味を有する)
の(I-1)〜(I-3)の形状に対応する。
これら化合物の中で、n=1である化合物、即ち式(I-1)の化合物が好ましい。
【0031】
上記式(I)の化合物の中で、3-((トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルホネート)フェニル)尿素が特に好ましく、この化合物は下記式:
【0032】
【化3】

【0033】
に対応する。
本発明の主題は、上記(I)の化合物の合成方法でもある。この方法は、以下の工程:
1)下記式(II):
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、nは、式(II)の無水アミノベンゼンスルホネートを得るための1又は2に等しい整数である)
のアミノベンゼンスルホネートを十分(totally)に脱水し;
2)メタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N-ジメチルアセタミド及びそれらの混合物から選択され、無水メタノールが特に好ましい無水有機溶媒に先の工程で得られた上記式(II)の無水アミノベンゼンスルホネートを溶解し;
3)真空下及び不活性雰囲気下に前記溶液を置き;
4)前記溶液に、下記式(III):
【0036】
【化5】

【0037】
(式中、
- R1及びR3は、同一であり、かつメチルオキシ又はエチルオキシ基を表し;
- R2 は、メチル、エチル、メチルオキシ、エチルオキシ又はフェニル基を表し;
-mは、2〜6を含む範囲の整数である)
の無水イソシアネート化合物を、過剰でかつ室温で、前記溶液に添加し;
5)中性(非プロトン、aprotic)溶媒に式(I)の所期の化合物を沈殿させ;及び
6)中性溶媒で式(I)の前記化合物洗浄する
ことを含むことにより特徴付けられる。
【0038】
式(II)のアミノベンゼンスルホネートの脱水工程1)は、例えば、次のプロトコール:乾燥平衡状態で150℃、及び60℃、真空下のベルジャー中で1時間の3回の連続サイクル、により行い得る。
【0039】
工程4)の間、式(III)のイソシアネート化合物は、使用された式(II)のアミノベンゼンスルホネートの量に対応する当量の1.2〜1.3倍を表す過剰量使用されることが好ましい。
【0040】
本発明の1つの好適な具体例によれば、工程4)の後、反応収率を増すように、式(II)のアミノベンゼンスルホネートと式(III)のイソシアネート化合物を含む溶液を、60℃と80℃を含む間の温度で、ある時間、好ましくはおよそ3〜12時間の範囲で維持することで、反応収率が増加する。
【0041】
工程5)及び6)間で使用される中性溶媒は、アセトニトリル、エーテル及びアセトン、それらの混合物から選択されることが好ましい。この観点で、アセトニトリル/エーテル混合物(50/50:v/v)の使用が、特に利点がある。
洗浄工程後、得られた式(I)の化合物を乾燥させ、標準法(不活性雰囲気下でのグローブボックス、P2O5乾燥剤、シリカゲル等)によりデシケータ中で保存してもよい。
【0042】
上記式(I)の化合物は、電解質高分子膜の製造への使用に特に有用であり得る。
よって、本発明の他の主題は、プロトン-伝導高分子電解質膜の製造への、上記式(I)の少なくとも1つの化合物の使用である。
本発明の1つの好適な具体例によれば、3-((トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルホネート)フェニル)尿素の使用が、この場合特に有利である。
【0043】
これら電解質膜の製造法は、求核触媒を使用する求核触媒反応でのゾル-ゲル重合法により、通常行い得る。
以下の工程:
1)無水溶媒中(例えば、メタノール、DMF及びジメチルアセトアミドから選択しうる溶媒)で少なくとも式1つの(I)の化合物を溶解し、
2)第1級アミン及びイミダゾール誘導体から選択される求核触媒を、水の存在中で添加することにより前記式(I)の化合物を重合してゲルを得、
3)前記ゲルを成形し、
4)前記ゲルを乾燥し、高分子膜の形態で固体材料を得、
5)酸性溶液に前記高分子膜を浸漬することでNa+/H+イオン交換し、及び
6)水で前記高分子膜を洗浄し、酸の全痕跡を除去する
ことを通常含む。
【0044】
この工程の1つの好適な具体例によれば、重合反応を開始する前に、可塑化前駆体を式(I)の化合物の溶液に、好ましくは激しい攪拌下で、添加しうる。
そのような可塑化前駆体の存在は、電解質膜の疎水性、柔軟性及び弾性の増加を可能にさせる。
それを使用する場合、可塑化前駆体は、下記式(IV):
【0045】
【化6】

【0046】
(式中、
- R4, R'4, R6及びR'6は、同一であり、かつメチル又はエチル基を表し;
- R5及びR'5は、同一又は異なってもよく、メチル、エチル、メチルオキシ、エチルオキシ又はフェニル基を表し;
- x及びx', y及びy'は、同一又は異なってもよく、2〜6を含む範囲の整数であり;
- zは、8〜16を含む範囲の整数である)
【0047】
の化合物から選択することが好ましい。
上記R4, R'4, R6及びR'6の基の中で、エチル基が特に好適である。
上記R5及びR'5基の中で、エチルオキシ基が特に好適である。
本発明の1つの好適な具体例によれば、R4 = R'4 = R6 = R'6 =エチルである。
x, x', y及びy'に与えられた値の中で、好適な化合物は、x = x' = y = y' = 3である式(IV)の化合物である。
zは、12〜14を含む範囲の整数であることが好ましく、値z= 13が特に好適である。
【0048】
1つの特に好適な具体例によれば、式(IV)の化合物は、ポリテトラヒドロフラン単位に関して対称である分子から選択される。
上記式(IV)の化合物としては、特に、テトラヒドロフラン単位の数(z)=13であるビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル尿素)-3-ポリ(テトラヒドロフラン)を挙げることができる。
【0049】
式(IV)の可塑化前駆体が使用された場合、それは、式(I)の化合物のモル数に対して、好ましくは約10〜40モル%で表され、特に約15〜25モル%で表される。
方法の工程2)で使用しうる求核触媒の中で、ベンジルアミン(1級アミン)が特に好適である。
【0050】
使用する触媒の量は、反応媒体中に存在する全シリコン数に対して、好ましくは2〜3当量の範囲であり、水の量は、全シリコン数に対して、4及び6当量の間である。
工程2)は、室温で行うことが好ましい。
【0051】
この方法の1つの好適な具体例によれば、工程3)の膜の成形が、膜厚が約100及び200μmの間になるように行われる。これは、高分子膜が燃料電池の電解質として使用される場合、動作の間、系の性能(固有抵抗値の更なる低下)が向上することを可能にさせる。
【0052】
所望であれば、工程4)後に、膜を乾燥し、及びデシケータ中で貯蔵してもよい。この場合、膜の活性化及びその使用に必要であるイオン交換工程5)及び洗浄工程6)に付す前に、例えば、水-アルコール媒体中、具体的にはエタノール/水混合物中への連続浸漬により膜は緩やかに再水和される。
【0053】
工程5)のイオン交換は、1及び4Mを含む間のモル濃度で塩酸溶液中に膜を浸漬することにより行われることが好ましい。
【0054】
ちょうど上記した方法による本発明に基づく式(I)の少なくとも1つの化合物を使用して得られた膜は、下記:
- 膜は、安価な合成方法を介して容易に製造される。何らかの重量機器なしで大量に容易に膜を製造でき、何らかの特別な安全条件を必要としない。更に、ゲルを成形するために多くの可能性:キャスティング(テープ成形、スピンコーティング)、ホットプレス、押出等、が存在する。更に、超分子自己集合及び、造核触媒によるゾル-ゲル重合を介した合成戦略が、高組織化及び結晶性メンブレンフィルムの製造に通じる。
【0055】
- 膜は、燃料電池の核の製造に通常使用される膜を通常構成するナフィオン(商標)ベースの参照膜より4〜8倍高い優れた導電特性を有する。従って、これは、PEMFC型の燃料電池のプロトン伝導電解質高分子膜としての使用のための材料の選択肢となる。
【0056】
- 膜は、その合成間にナノ構造を制御すること及び無機シリカ骨格/マトリックス(Si-O-Si)の連続的な存在により、注目すべき均一性と、化学及び熱安定特性とをも有する。これら膜の劣化温度は330℃以上であり、これら膜は、加水分解性及び/又は酸化性環境での良好な安定性をも有する。
の利点を有する。
【0057】
本発明による膜は、無機シリカマトリックス内にナノメートル次元の親水性イオン通路の形態の微細構造を有する。本発明による膜のこの特定の構造は、水の保持に好都合であるが、プロトン輸送にも好都合である。これは、高温での保水能力を向上させることによる水調整の観点から有用であり得る(他の電解質より緩やかに乾燥する)。
【0058】
最後に、本発明による式(I)の化合物は:
- インサイチュゾル-ゲル重合後のホスト構造中の機能性ハイブリッドフィラーとして(それらは導電性有機-無機粒子となるため)。よって、非機能性酸化物ナノ粒子(例えばSiO2,TiO2,ZrO2)の形態で、機械的又は物理的性質をまさに改善するために通常使用される塩基性無機フィラーと大きく異なっている。例えば、有機高分子膜又はイオン交換樹脂への含有に言及し得る(インサイチュゾル-ゲル重合後、無機核(SiO2)のナノ粒子が得られることから、導電性、変換容量及び機械的安定性の増加)。
【0059】
- 機能性ハイブリッドナノ粒子のゾル-ゲル重合による製造用(SiO2無機核及び親水性有機表面)。
- 低粘ちょう化剤として(例えば、セラミックス又はスリップスのような濃縮ペーストの粘度の低下用)。これは、濃縮溶液用に水性媒体中での流動性を改善するために特に有用であり得る。
【0060】
- ゾル-ゲル重合を介した化学グラフトによる表面コーティングの製造用(ハイブリッド高分子膜)。表面親水性が増加したグラフト単一層が得られる。そのようなコーティングに関する表面は、例えば、シリコンウェハー及び酸化表面である。
- 吸湿剤として(水吸収及び保持)。
【0061】
- 製剤結合剤として(有機/無機機能の両面価値)。
- 本発明による式(I)の化合物に固有の自己組織性を移すことにより、他の材料(優先的にシリカ化合物)中へラメラ構造を導入するための構造剤として(インプリント/テンプレート)(水素相互反応及びSO3-機能の再グループ化による超分子自己集合)。
にも使用し得る。
【0062】
そのような用途に関連する産業は、多くの作業部門に属しており、中でも、ガラス、薄層、金属酸化物等の分野を特に言及し得る。
【0063】
先の処理に加えて、本発明は、以下の記載
- 図1は、3-((トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルフォネート)フェニル)尿素(1)のX-線粉末回折図である(回折角(2θ)の関数とする任意単位の強度);
【0064】
- 図2は、化合物(1)の結晶構造である;
- 図3は、ダイマー形態(1)2中の化合物(1)の分子組織の概略図である;
- 図4は、ナノメータースケールでの前駆体(1)のサブミクロン組織を示す透過型電子顕微鏡写真である(図4A:倍率×80000;図4B:倍率×240000);
【0065】
- 図5は、いかなる前駆体(1)も使用しないが、可塑化前駆体(3)を使用して得られた膜との比較(本発明の一部を形成しない)で、可塑化前駆体(化合物3)の存在又は非存在中、化合物(1)で得られたハイブリッド膜のX-線回折図を示す: 膜A:化合物(3)のみで得た、膜D:化合物(1)40重量%及び化合物(3)60重量%で得た、膜H:いかなる可塑化前駆体もなしで前駆体(1)のみ使用して得た。この図で、強度(任意単位)は回折角(2θ)の関数である;
【0066】
- 図6は、倍率×120000で、ゾル-ゲルを介して重合させた前駆体(1)100%に基づくハイブリッド材料から得られた膜(以下の実施例2の表2の膜H)の透過型電子顕微鏡写真である(図6A:亜臨界集束(sub-critical focusing)での像、図6B:臨界集束での像);
【0067】
- 図7は、本発明によるハイブリッド膜の写真を示し、これら膜は印刷支持体上に配置されている;この図において、写真(i)及び(ii)は、前駆体(1)を40重量%含む、以下の実施例2の表2の膜Dのものであり、写真(iii)は、前駆体(1)を58重量%含む、以下の実施例2の表2の膜Fのものであり、写真(iv)は、前駆体(1)を48重量%含む、以下の実施例2の表2の膜Eのものである;
【0068】
- 図8は、ゾル-ゲルを介して重合させた前駆体(1)に基づくハイブリッド材料のみから構成された本発明による膜Hの写真であり(図8A)、及びそのハイブリッド膜のラメラ構造内に存在するプロトンチャンネルの概略図でもある(図8B);
- 図9は、膜のグラムあたりの化合物(3)のミリ当量(meq)の関数として、室温で、膜A〜Hのイオン交換容量(IEC)を表す;
【0069】
- 図10は、膜A〜H及びナフィオン(商標)117タイプの参照膜の25℃及び100%相対湿度でのプロトン伝導性を表す;
- 図11は、膜のグラムあたりの化合物(3)のミリ当量(meq)の関数として、室温で、膜A〜Hの膨潤度及び水和数を表す;
【0070】
- 図12は、本発明のハイブリッド膜の形成メカニズムを概略的に表す:
a)本発明によるハイブリッド膜の断面図、
b)ラメラナノドメインの概略組立体、
c)導電性基-SO3H-H2Oを含むプロトン-伝導チャンネル結合の形成;
【0071】
- 図13は、電気化学インピーダンス分光法により測定された浸漬膜のアレニウス曲線を示す
から現れる、本発明による式(I)の化合物の製造例、式(I)の化合物に基づく電解質高分子膜の製造例、に関し、かつ添付された図1〜8にも関する他の処理も含む。
【実施例】
【0072】
しかし、これら実施例は、本発明の説明にのみ挙げられており、それら実施例はいかなる限定を構成するものではない、と理解されるべきである。
(実施例1)
3-(トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルホネート)フェニル)尿素(化合物(1))の製造
【0073】
【化7】

【0074】
第一工程として、市販のナトリウム4-アミノベンゼン-スルホネート二水和物(2)が、以下の手順で乾燥(脱水)された。乾燥天秤(drying balance)上にて150℃で連続3サイクルさせ、続いてベルジャー内で真空60℃において1時間おき、そして得られた乾燥物を使用するまで貯蔵した。
【0075】
その後、このように乾燥させた1gのナトリウム4-アミノベンゼン-スルホネート(6.67mmol; 1eq.)を、30mlの無水メタノールが入った丸底フラスコに投入した。この溶液を、攪拌し、超音波処理し、真空下に置き、続いて、不活性雰囲気下(窒素)に置いた。この溶液を攪拌しながら、1.65gの無水3-トリエトキシシリルプロピルイソシアネート(5.13mmol; 1.3eq.)を、滴下して加えた。
【0076】
その後、全体を80℃で5時間還流させた。反応終了後、得られた無色の溶液を真空下で凝集させ、続いて、アセトニトリル/エーテル混合物(50/50 : v/v)内で4℃までゆっくりと冷却して沈殿、結晶化させた。その後、混合物を速やかに濾過し、アセトニトリル/トルエン混合物(75/25 : v/v)で数回洗浄して、白色糊状の物質を得、これをベルジャー内で60℃で速やかに乾燥させて、デシケータに保管した。
【0077】
この実施例により、吸湿性を持った白色粉状の90%以上の純度の純化合物(1)を得ることができた。
1H NMR (300 MHz, DMSO): δ (ppm) = 0.55 (t, J = 8.1 Hz, 2H); 1.14 (t, J = 6.3 Hz, 9H); 1.47 (m, J = 8.35 Hz, 2H); 3.04 (q, J = 7.5 Hz, 2H); 3.74 (q, J = 8.1 Hz, 6H); 6.36 (t, J = 5.4 Hz, 1H); 7.34 (d, J = 6.2 Hz, 2H); 7.46 (d, J = 6.4 Hz, 2H); 8.61 (s, 1H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ (ppm) = 7.4; 18.3; 23.5; 39.6; 57.5; 116.2; 126.5; 140.1; 141.5; 153.8.
【0078】
このようにして得られた化合物(1)のX−線粉末回折による化学構造分析は、フィリップス社製の回折計量器パンアナリティカルX'パート プロI型(PanAnalytical X'pert Pro I model)(Bragg-Brentanoモードの測定、グラファイト第二モノクロメーター、X'celerator 検出器、Cu放射)を用いることにより行う。得られた回折記録を添付の図1に示し、図1は、強度(intensity)(任意単位)が回折角度(2θ)の関数となっている。化合物(1)の結晶学的構造を添付の図2に示す。
【0079】
これらの結果は、この化合物が高い結晶性を有することを示している。これらの結果から、化合物(1)は、単斜晶格子、平均体積2194.79 Å3で空間群P2 l/cグループ、次の格子定数α = γ = 90°; β = 116.4°; a = 19.499Å; b = 5.014Å 及び c = 22.449Åで結晶化している。
【0080】
図1に示される化合物(1)の回折図は、格子距離(interplanar distance)3.42nmにおいて非常に強い鋭角的ピークを示し、これは添付の図3で概略的に示す分子レベルにおける二量体(1)2の構造と明らかに対応している。特に、この距離は、2つの隣接する分子、すなわち互いに接近したスルホネート官能基の対向配置の距離に対応すると考えられ得る。更に、尿素基の水素結合による自己集合(self-assembling)により、前駆体(1)の分子構造を平行配列にすることが可能となる(配向同位規則構造)(oriented isotopic superstructures)。
【0081】
透過型電子顕微鏡による分析により、サブミクロンレベルで非常に詳細な構造を観察することが可能となった(図4参照)。特に、ナノメートル単位(図4A及び4B)における化合物(1)の構造が、互いに平行に位置する連続分子経路(continuous molecular channels)の構造であることが分かる。
【0082】
(実施例2)
3-(トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルホネート)フェニル)尿素及び可塑化ハイブリッド前駆体に基づくハイブリッド電解質膜の製造
1)第一工程:可塑化ハイブリッド前駆体の合成:ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル尿素)-3-ポリ(テトラヒドロフラン)(3)
【0083】
【化8】

【0084】
アルドリッチ社が販売するポリ(テトラヒドロフラン)-ビス(3-アミノプロピル)(参照 436577; Mn = 1100, すなわち13 テトラヒドロフラン単位)2g(1eq.; 1.82mmol)を、30mlの無水クロロホルム溶液に溶解させた。
【0085】
この溶液を攪拌し、超音波処理し、真空下に置き、続いて、不活性雰囲気下(窒素)に置いた。この溶液を攪拌しながら、0.94gの3-トリエトキシシリルプロピルイソシアネート(2.1eq.; 3.8mmol)を、滴下して加えた。その後、全てを80℃で20時間還流させた。この反応混合物を、80℃の温度で4時間、真空下で乾燥させ、半透明の粘性の溶液を得た。
【0086】
この溶液を3×20mlのアセトニトリル/エーテル混合物(50/50 : v/v)で数回洗浄し、遠心分離及び沈降により、粘性ゲル状の所望の可塑化ハイブリッド前駆体(3)を回収した。
1H NMR (300 MHz, DMSO): δ (ppm) = 0.51 (t, J = 9.2 Hz); 1.11 (t, J = 6.2 Hz); 1.36 (m); 1.50 (m); 1.59 (m); 2.95 (q, J = 6.1 Hz); 3.02 (q, J = 6.3 Hz); 3.15 (s); 4.42 (s); 3.32 (s); 3.74 (q, J = 9.4 Hz); 5.73 (t, J = 5.6 Hz); 5.81 (t, J = 5.3 Hz).
【0087】
2)ポリマー電解質膜の合成
膜の合成は、触媒としてのベンジルアミンを用いた求核性の触媒反応を伴うゾル−ゲル重合工程により得た。反応媒体は、機能性のハイブリッド前駆体である実施例1で製造された化合物(1)と、可塑化ハイブリッド前駆体である第一工程で得られた化合物(3)とから形成される。
【0088】
化合物(1)は系に機能性(導電性)を与え、化合物(3)は材料の物理的性質(柔軟性)を調整することを可能にする。
これを実施するためには、化合物(1)を5mlの無水メタノール溶液に溶解させて、その上、化合物(3)を強く攪拌しながら滴下して添加する。以下の膜A〜Gを準備するために用いられる前駆体のそれぞれの量は、下記の表1のとおりである。
【0089】
【表1】

(*):本発明を構成しない膜
【0090】
それぞれの溶液を、その後、超音波を加えての30分間の攪拌により均質化した。3eq.のベンジルアミン(媒体中に存在するトリエトキシシラン基の総量に関連して算出される量に対応する:総n Si(OEt)3 量= 1eq)及び水(6eq.)を、加水分解反応を起こすために添加した。全体を45分間強く攪拌した。粘性が徐々に増して、最後に、粘性のゲルを得た。
化合物(1)を35重量%含む膜Iを作製した。
【0091】
3)膜の形成
このようにして得られたそれぞれのゲルを、テフロン(商標)製の円形ペトリ皿に注ぎ、室温で24時間乾燥させ、更に、以下の加熱サイクルによりオーブンで乾燥させた:40℃で8時間、60℃で4時間、80℃で4時間、100℃で2時間及び120℃で1時間。乾燥したら、膜を型から取り出して、冷却し、エタノール/水の混合物(95/5 : v/v)で徐々に再水和させた。1Mの塩酸溶液に膜を24時間浸し、脱イオン水槽に数時間(24時間に3回)浸し、そして、すすぎ溶液としての中性で一定のpH(およそ7)になるまで、すすいで余分な酸を除去することにより、Na+/H+イオン交換を行った。
【0092】
4)結果
このようにして得られた膜A〜Gの電気化学特性及び熱特性を以下の表2に示す。表2には、比較のために、175μmの厚さのナフィオン(商標)117タイプの参照膜についても記載してある。以下に、測定方法を示した。
【0093】
1)イオン交換容量(IEC)
IECは、膜の重量に関してのイオン交換容量を定義する、特徴的な測定方法である。それは、膜の量に含まれるイオン交換部位の当量数に相当する。一般的に、酸性状(acid form)の乾燥膜のグラム当たりイオンのミリ当量(meq/g)で示される(この実施例において、対イオンはH+プロトンである)。すべての膜は定型の酸/塩基の滴定により測定される。実験的に、それぞれの電解質膜(イオン交換体)は、酸性状(H+)で、1モルの塩化ナトリウム(NaCl)溶液に24時間平衡させられ、プロトンが解放されてNa+カチオンに置き換えられた。水酸化ナトリウム(NaOH)タイプの塩基性の溶液で、プロトンを含む溶液を、定量可能である。pH測定器及び適切な色の指示薬(例えば、フェノールレッド)を用いることにより、正確に当量を測定することができる。IECは、以下の等式で表される。
【0094】
【数1】

【0095】
式中、CNaOHは、塩基性の水酸化ナトリウム溶液(単位mol/l)の濃度であり、V(単位L)は、平衡に達するのに必要な水酸化ナトリウムの量を表し、Mは、乾燥膜の重量(単位g)を表す。
最後に、この測定法は、イオン交換の位置及びこれらの実数(理論上の値に関連して)の利用容易性の特徴付けを可能にする。
【0096】
2)膜(電解質材料)の膨潤度
水性溶液(又は同等の有機溶液)中で平衡であるときの体積膨張に対応する割合として求められる。このように、ポリマー鎖の架橋及び凝集から発生した自由空間が溶媒で満たされ得る間に、イオン交換の位置と対イオンは溶媒和し得る。膨潤度は、割合(パーセンテージ)で表され、乾燥膜の重量と膜内に存在する溶媒の重量との割合により規定される。膨潤度は、以下の等式により計算される。
【0097】
【数2】

【0098】
式中、mwetは溶媒中で膨潤した後の膜の重量(単位g)であり、mdryは、溶媒中で膨潤する前の膜の重量(単位g)である。
実験的に、膨潤度は、水の吸収/喪失の測定により決定された。このため、乾燥状態における膜の重さを量り、更に、脱イオン水に24時間浸した後、表面をふき取り、最後に、吸着した水の量を測定するために、膜をオーブンにより100℃で24時間乾燥させた。この測定方法は、乾燥天秤(drying balance)(Mettler社製、Sartorius社製等)を用いることにより、ならびに水和又は乾燥状態の間の膜の重量の変化を測定することにより行うことができる。
【0099】
3)分解温度
熱重量分析法(TGA)及び示差熱分析法(DTA)により、製造された膜の温度記録図のグラフにより示した。この測定方法は、窒素(N2)雰囲気下、10℃/分の加熱で、リファレンスTGA 2950 High Resolution及びSDT 2960 Simultaneousの下、TA Instruments社により販売される機器で行った。
【0100】
4)導電率
インピーダンス分光により測定した。正弦妨害(sinusoidal disturbance)(入力電圧)に従った材料の周波数(ω)の関数としての、合成インピーダンスZの測定によるオームの法則の概念であり、これにより、以下の等式により電気抵抗Rにアクセスすることができる。
【0101】
【数3】

【0102】
この測定方法は、25℃の温度及び100%の相対湿度(RH)において、Zplot(商標)及びZview(商標)ソフトウェアを用いたSolartron(商標)1260(分析機)及び1255(インターフェース)タイプを使用することにより、行った。スキャンされる周波数域は、可変であり、一般に0.1Hz〜10MHzである。正弦電圧信号の振幅は、1〜1000mVの間で変化し、線形範囲は一般にイオン伝導体に受け入れられる。
【0103】
電解質の電気化学特性の検討のために、膜が保持された区画間の2区画テフロンセルに含まれる直接コンタクトと、2つの液体水銀相の電極として使用された、水銀に浸されたプラチナ線は、測定機器に接続された。水銀は、それぞれの測定のために取り替えられ、特に、非常に優れた接触と、2つの電極と検討用に作られた膜とのインターフェースの効率化が可能になる。
【0104】
グラフ表示(ナイキスト図)(正規直交化基準のインピーダンス表示)が、得られた。これらのインピーダンス図(図示せず)は、検討用の周波数域における、実在部分の数値の関数としてのインピーダンスの仮想部分の反対の変化を表示する。インピーダンスの実在部分Z’(x軸上)及び仮想部分-Z''のインピーダンス(y軸上)は、オーム(Ω)で示された。
【0105】
このように、サンプルR(Ω)の全ての固有抵抗の数値はグラフにより表示され、x軸の曲線の外挿又は論理積に対応した。この数値と材料の幾何学的要素を相関させることにより、すなわち、厚さ(e)及び露出表面積(S)を相関させることにより、全導電率を計算することができた。導電率は以下の等式により計算され、S.cm-1で表される。
【0106】
【数4】

【0107】
本発明の膜A〜G及び市販されているナフィオン(商標)117タイプの膜の特性及び測定は、同条件、同じ装置、同じ工程(水和、酸におけるイオン交換、すすぎ工程を含む)で行った。
得られた結果物を以下の表2に示す。
【0108】
【表2】

(*):本発明を構成しない膜
【0109】
表2のC1、r1及びλの数値は次の意味である。
−C1は、化合物(1)の濃度であり、C2(重量%)=100-C1という関係から算出される。
−r1は、化合物(1)のモル割合である。
−そして、λは、水和数である:
【0110】
【数5】

【0111】
化合物(3)から得られた参照の膜Aは、イオン交換容量(IEC)がゼロであり、非常に低いプロトン伝導率を示しており、これは、無機のシリカ網と、官能基の欠如に起因する。
【0112】
上記の表2に示される結果から、化合物(1)を40重量%しか含まない膜Dは、参照膜であるナフィオン(商標)117タイプと比べて、膨潤度が1.75倍大きく、分解温度及びイオン交換容量が同等であり、導電率が1.45倍となっていることが分かった。膜FとGは、化合物(1)をそれぞれ58%、78%の密度で含み、膨潤及び熱安定性についてわずかな差異を示している。しかし、他方では、ナフィオン(商標)117タイプの参照膜と比べて、はるかに大きいイオン交換容量を示し、最大の優位点として、導電率において、ナフィオン(商標)117タイプの参照膜の4〜8倍を示している。
【0113】
得られた膜A、D及びHのX-線回折による構造分析は、フィリップス社により販売される回折計量器PanAnalytical X'pert Pro I model(Bragg-Brentanoモード、グラファイト二級モノクロメーター、X-線検出器Cu放射線での測定)を用いることにより分かった。これらの分析から、ハイブリッド膜の高い組成が分かる。
【0114】
膜A、D及びHの回折記録(diffractogram)は、添付の図5に示されており、任意の単位における回折角度2θの場合における回折の強さを示している。
【0115】
第一に注目すべきは、本発明の化合物(1)を欠如して(膜Aは、本発明を構成しない)得られた材料は、回折ピークを示さず、このようなものはアモルファス(非晶質)であるということである。また、化合物(1)の重量での含有量が増加すると、回折ピークが図から表れ(膜D及びH);これは、分離した強いピークを表し、主なピーク(001タイプの平面)が、小さい角度であり、3nmを中心とした面内距離に関係している。
【0116】
他の2つのピークは、弱く、第1のピークと関係した調和したピークであり、002タイプ及び004タイプの平面に関係しており、このことから3nmの平均幅をそなえる分子チャンネルを構成するラメラネットワークの存在を表わす。この点については、添付の図6の、膜Hの倍率120000倍の透過型電子顕微鏡写真に示されている(図6A:亜臨界集束(sub-critical focusing)での像、図6B:臨界集束での像)。この図から、膜H内に平行なナノメートルのチャンネル(3nm)の構造があることが分かる。
【0117】
このように、出発化合物(1)の高い結晶化度は、高い構造材料形成と共にハイブリッドネットワーク内で移る。重合、固定化した前駆体(1)は、スルホン官能基がチャンネルの内側に向いて配向している、ハイブリッドネットワーク(Si-O-Siタイプの結合を介した、無機バックボーン/マトリックスの形成)に見られる。近隣の対により、完全に縮合した最終的な構造が生じ、ナノメーターの平行なチャンネルによりイオン種の移動、特にプロトン(H+)の移動のために好ましい空間が決められる。
【0118】
添付の図7は、ハイブリッド膜D(図7i及び7ii)、F(図7iii)及びE(図7iv)の写真であり、これらの膜は、印刷支持体上に配置されている。
図8は、前駆体(1)単独から構成される膜Hの写真(図8A)と、この材料のハイブリッドマトリックス内に存在するプロトンチャンネルの概略図(図8B)であり、ラメラ構造であることが示されている。このタイプの、連続する平面で構成された構造では、無機バックボーンである(Si-O-Si)nが導電チャンネルの壁/区画を形成し、一方、チャンネルの内側を、有機パーツと特にスルホン官能基とがまとまって形成する。
【0119】
図9から、膜B〜Hのイオン交換容量(IEC)の測定値が、化合物(3)のモル当量(meq.g-1)から算出される理論値に非常に近いことが分かる。このことは、スルホン基のプロトンが、滴定の間に影響を受けやすく、プロトン伝導工程に関係していることを意味する。
【0120】
図10から、化合物(1)を40重量%しか含まない膜Dが、ナフィオン(商標)117よりも高いプロトン伝導率を、同等のイオン交換容量(IEC)を、高い膨潤度を達成していることが分かる。膜D〜Hで測定されるプロトン伝導率が優れていることは、スルホン基の濃度が高いナノ領域(nanodomain)数の増加によるものであると考えられる(J. Power Sources, 2006, 154, 115-123)。
図11から、水和数λが不変であるのに、膜B〜Hの膨潤度が直線的に増加することが分かる。
【0121】
これらのデータは、チャンネルの構成を示す図12により確認できる。膨潤度がイオン交換容量(IEC)とともに一定で増加する間、イオン交換容量(IEC)とともに導電率が増加することが、膜B〜Dと比較して膜E〜Hの方がより顕著である。膜E〜Hでは、化合物(1)の濃度の高さにより、スルホン基の密度や配向が強まるため、高プロトン伝導率の縮合導電ネットワークとなる。PEM(ポリマー電解質膜)膜のプロトン伝導率は、重要なパラメータであり、イオン交換容量(IEC)や温度、また輸送メカニズムにインサイトを付与する活性化エネルギーEaに強く依存している。
【0122】
ナフィオン(商標)117の短所の一つは、DMFC(ダイレクトメタノール燃料電池)膜への適用が難しいことであり、これは、ナフィオン(商標)117の構造、すなわち、メタノールの速やかな排出に貢献するイオン伝導領域に直接的に関係している(J. Power Sources, 2008, 175, 256-260)。
【0123】
膜Iは、導電率δ = 25 mS.cm-1を示し、これはナフィオン(商標)117の導電率(実験に基づき定義されたσ = 22.4mS.cm-1)と実質的に同じである。膜Iのメタノール透過率(25℃においてPM = 4.1 × 10-7cm2/s)は、ナフィオン(商標)117のメタノール透過率(25℃においてPM = 18.1 × 10-7cm2/s)と比べて23%少ない。
【0124】
理論的には、DMFC(ダイレクトメタノール燃料電池)膜は、高いプロトン伝導率、低いメタノール透過率を示すべきであり、メタノール中でプロトン輸送のための膜の選択性(selectivity)は、β = σ/PMに等しい。膜Iでは、β = 61 × 10-6mS.s.cm-1であり、この選択性は、ナフィオン(商標)117に比べほぼ10倍となっている。この増大量は、膜Iとナフィオン(商標)117が同じプロトン伝導率を示すため、メタノール透過率が減少していることに起因している。
【0125】
活性化エネルギーEaは、アレニウスの法則により決定される。
【0126】
【数6】

【0127】
式中、
−Eaは、アレニウス活性化エネルギーである。
−Tは、温度である。
−Rは、理論上のガス定数である(通常値:R = 8.314J.mol-1.K-1)。
図13に示されるように、得られた数値は、概算値(略正確な数値)である。
・膜Iにおいて:Ea = 17.46kJ.mol-1
・ナフィオン(商標)117において:Ea = 13.32kJ.mol-1
ナフィオン(商標)117と対比された膜Iの活性化エネルギーEaの数値から、水分子(及びメタノール分子)がより移動しない(ナフィオン(商標)117の構造と関連して)、膜Iのよりコンパクトな規則格子(superstructure)が示唆される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(式中、
- R1及びR3は、同一であり、メチルオキシ又はエチルオキシ基を表し;
- R2は、メチル、エチル、メチルオキシ、エチルオキシ又はフェニル基を表し;
-mは、2〜6を含む範囲の整数であり;
-nは1又は2に等しい整数である)
の化合物。
【請求項2】
R1及びR3が、エチルオキシ基を表すことを特徴とする請求項1による化合物。
【請求項3】
R2が、エチルオキシ基を表すことを特徴とする請求項1又は2による化合物。
【請求項4】
m=3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つによる化合物。
【請求項5】
n=1の場合、ナトリウムスルホネート基は、尿素基の窒素原子に結合した炭素原子に対してフェニル環のパラ位を占めることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つによる化合物。
【請求項6】
n=2の場合、2つのスルホネート基は、尿素基の窒素原子に結合した炭素原子に対してメタ位のどちらでもであり、又はそれぞれ、尿素基の窒素原子に結合した炭素原子に対してパラとメタ位であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つによる化合物。
【請求項7】
n=1である化合物から選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つによる化合物。
【請求項8】
下記式:
【化2】

の3-((トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルホネート)フェニル)尿素であることを特徴とする請求項1による式(I)の化合物。
【請求項9】
以下の工程:
1)下記式(II):
【化3】

(式中、nは、式(II)の無水アミノベンゼンスルホネートを得るための1又は2に等しい整数である)
のアミノベンゼンスルホネートを十分に脱水し;
2)メタノール、ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセタミド及びそれらの混合物から選択された無水有機溶媒に先の工程で得られた上記式(II)の無水アミノベンゼンスルホネートを溶解し;
3)真空下及び不活性雰囲気下に前記溶液を置き;
4)前記溶液に、下記式(III):
【化4】

(式中、
- R1及びR3は、同一であり、かつメチルオキシ又はエチルオキシ基を表し;
- R2 は、メチル、エチル、メチルオキシ、エチルオキシ又はフェニル基を表し;
-mは、2〜6を含む範囲の整数であり)
の無水イソシアネート化合物を、過剰でかつ室温で、前記溶液に添加し;
5)中性溶媒に式(I)の所期の化合物を沈殿させ;及び
6)中性溶媒で式(I)の前記化合物を洗浄する
ことを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つによる式(I)の化合物を合成する方法。
【請求項10】
工程2)の溶媒が無水メタノールであることを特徴とする請求項9による方法。
【請求項11】
工程4)の間、式(III)のイソシアネート化合物が、使用された式(II)のアミノベンゼンスルホネートの量に対応する当量の1.2〜1.3倍を表す過剰量使用されることを特徴とする請求項9又は10による方法。
【請求項12】
工程4)の後、式(II)のアミノベンゼンスルホネートと式(III)のイソシアネート化合物を含む溶液が、3〜12時間の範囲の時間、60℃と80℃を含む間の温度とされることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1つによる方法。
【請求項13】
工程5)及び6)間で使用される中性溶媒が、アセトニトリル、エーテル及びアセトン、それらの混合物から選択されることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1つによる方法。
【請求項14】
プロトン-伝導電解質高分子膜の製造への、請求項1〜8のいずれか1つに記載された式(I)の少なくとも1つの化合物の使用。
【請求項15】
式(I)の化合物が、3-((トリエトキシシリル)プロピル)-3-(4-ナトリウムスルホネート)フェニル)尿素であることを特徴とする請求項14による使用。
【請求項16】
インサイチュゾル-ゲル重合後のホスト構造中の機能性ハイブリッドフィラーとして;機能性ハイブリッドナノ粒子のゾル-ゲル重合による製造用;低粘ちょう化剤として;ゾル-ゲル重合を介した化学グラフトによる表面コーティングの製造用;- 吸湿剤として;結合剤として又は構造剤としての請求項1〜8のいずれか1つに記載された式(I)の少なくとも1つの化合物の使用。

【公表番号】特表2011−515378(P2011−515378A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500255(P2011−500255)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000288
【国際公開番号】WO2009/122043
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【Fターム(参考)】