説明

スルホン化フェニル基を含むシルセスキアザンポリマーおよびそれを用いて製造したシリカ質膜

【課題】高耐熱性、高屈折率、高透過率を同時に満足するシリカ質膜と、それを製造するためのポリマーの提供。
【解決手段】スルホン化フェニル基を有するシルセスキアザンを構成単位に含むシルセスキアザンポリマー。構成単位として非置換フェニル基を有するシルセスキアザンを含んでもよい。さらに、このポリマーを含む組成物を基材に塗布し、焼成することにより、高屈折率の被膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキアザンポリマーと、それから得ることができるシリカ質膜に関するものである。本発明は、特に新規なシルセスキアザンポリマーと、それを焼成することにより得られる、高い光学的透明性、高耐熱性、高屈折率を同時に有するシリカ質膜に関するものである。また、本発明は、そのようなシリカ質膜の製造方法、そのようなシリカ質膜を具備する光学デバイスや半導体素子、さらにはシルセスキアザンポリマーの製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ・発光ダイオード・太陽電池などの光学素子において、さらなる光利用効率の向上や省エネルギーのためのさまざまな提案がなされている。レンズや光透過性フィルムなどの一般光学部品や、オプトエレクトロニクス用の精密光学部品の材料として、有機高分子樹脂からなる光学材料が用いられる傾向が強まっている。この理由として、有機光学樹脂が、無機光学材料に比べて、軽量、安価で、壊れにくく、加工性や量産性に優れていることが挙げられる。光学用のプラスチック材料で、高い透明性が要求される分野においては、従来エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等が多用されている。しかしながら、これらの有機高分子樹脂は長期にわたる高温の環境下では変形、変色などが生じやすいので、耐熱性も求められる用途では光学材料として適さない場合がある。ポリカーボネート樹脂についても、その優れた透明性と機械的強度により建築物・車両用のグレージング材としても期待されているが、これらの用途においても表面保護のためのハードコートが必須であり、硬度に加えて透明性と高い環境耐性が要求される。
【0003】
発光ダイオード(以下、LEDという)やレーザダイオードなどの発光素子は、高輝度でありながら消費電力が少なく、長寿命であることから、自動車、信号灯、液晶ディスプレイのバックライト光源、さらには近年一般照明灯用途等で需要が拡大している。これら発光デバイスの封止材料としても耐熱性や加工性に優れるエポキシ系樹脂が多用されてきたが、高輝度化や発光波長の低波長化(青色発光)により、エポキシ樹脂の耐熱性や耐光性が不足し、熱変形やLEDからの放射光による黄変が起こり、時間の経過とともにLEDの出力の低下が起きやすい。また光取り出し効率を上げるために保護膜等の高屈折率化も重要な要素となっている。
【0004】
他にも透明材料の用途として、タッチパネルやフレキシブルディスプレイ用途があげられる。フレキシブルディスプレイは、近年電子ブックや電子ペーパー等の用途拡大が期待されている表示デバイスである。フレキシブルディスプレイでは、ガラスの基板に代わり、軽量で柔軟性に優れたポリカーボネートやPET等のプラスチック基板が使用される。しかし、通常これらプラスチックが単独で使用されることはなく、水分やガスの透過を防止するバリア層、表面保護のためのハードコート層、反射防止層などが必要に応じて形成される。もちろんこのような分野においても屈折率の制御は重要な課題である。
【0005】
一方、このような有機高分子樹脂に対してシリコンを含む材料を用いることも検討されている。シリコンを含む材料は一般的に耐熱性が高いという特徴を有している。半導体分野においてはシリコンを含む層間絶縁膜を、化学気相蒸着法(以下、CVD法という)や、スピン塗布を利用した方法(以下、SOD法という)により形成することが検討されている。しかし、それらの方法により得られた被膜の屈折率は1.4〜1.5程度であり、例えばLEDや有機LED(以下、OLEDという)の表面保護膜に用いた場合には、界面での光の反射によって光取り出し効率が十分とはいえない。
【0006】
具体的には、特許文献1には耐熱性に優れた新規なポリオルガノシロキサザンとそれを焼成して得られる非常に低い比誘電率を示すセラミックス材料について開示されている。しかし、この特許文献に記載されているような、フェニル基を含むポリオルガノシロキサザンを用いて得られる被膜の屈折率1.56程度が限界であると考えられている。また本発明者らの検討によれば、主鎖中にSi−O結合を導入してもさほど屈折率制御には効果が認められなかった。
【0007】
被膜の屈折率を改善する方法としては、このほかに二酸化チタンなどの金属酸化物を分散させる方法なども知られているが、工業的にはそのような成分の導入は不利な点があり、また成膜性の観点からも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4011120号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、従来の材料では同時に達成することができなかった高耐熱性、高屈折率、高透過率を同時に満足し、さらには、高温下でも分解ガスの発生が少ない被膜を形成することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるシルセスキアザンポリマーは、下記一般式(X)で表される構成単位を含むことを特徴とするものである。
【化1】

(式中、pは1〜3を表す整数であり、AはH、NH、Na、およびKからなる群から選択されるものであり、Bは水素または炭素数1〜3の炭化水素基である。)
【0011】
また、本発明による組成物は前記のシルセスキアザンポリマーと溶媒とを含んでなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明による第1のシリカ質膜は、前記組成物を基材上に塗布し、さらに不活性ガスまたは大気中において150〜450℃で焼成することにより得られたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明による第2のシリカ質膜は、光学デバイスまたは半導体素子に用いられるシリカ質膜であって、シリカ質膜の総重量を基準としたイオウ含有率が2〜15%であることを特徴とするものである。
【0014】
また、さらに本発明による光学デバイスまたは半導体素子は、前記のいずれかのシリカ質膜を具備してなることを特徴とするものである。
【0015】
さらに本発明によるシルセスキアザンポリマーの製造方法は、下記一般式(x):
【化2】

(式中、pは1〜3を表す整数であり、Bは水素または炭素数1〜3の炭化水素基である。)
で表されるシラン化合物をアンモニアガス雰囲気下でアンモノリシス反応に付す工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、まず新規なシルセスキアザンポリマーが提供される。そして、このシルセスキアザンポリマーを焼成することにより得られるシリカ質膜は、高耐熱性、高屈折率、高透過率を有し、高温下でも分解ガスの発生が少ないため、各種の用途、例えばフレキシブル基板、固体撮像素子、反射防止フィルム、反射防止板、光学フィルター、高輝度発光ダイオード、太陽電池、光導波路等の光学デバイスや半導体素子における、光取り出し部分の被膜、タッチパネル、ハードコート、または保護膜などとして有用なものである。特にフラットパネルディスプレイ(以下、FPDという)分野における光取り出し部分等において非常に有用である。このシリカ質膜は、さらにガラス、金属箔、プラスチック等の基板表面の平坦化、絶縁膜、バリア膜などにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1のポリマーのFT−IRスペクトル。
【図2】実施例1のポリマーを用いて作成したシリカ質膜の透過率スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0019】
(I)シルセスキアザンのポリマー
本発明によるシルセスキアザンのポリマーは、下記一般式(X)で表される構成単位を含むことを特徴とするものである。
【化3】

式中、pは1〜3を表す整数であり、AはH、NH、Na、およびKからなる群から選択されるものであり、Bは水素または炭素数1〜3の炭化水素基である。
【0020】
すなわち、本発明によるシルセスキアザンのポリマーは、ひとつのSi原子に着目すると、そのSi原子は−(NH)−結合を解して3つの隣接するSi原子に結合し、さらにひとつの置換基を有している。この置換基は少なくともひとつのスルホナト基(−SO−)を有している。このスルホナト基には、H、NH、Na、およびKからなる群から選択される原子または原子団が結合している。このポリマーは最終的には半導体素子などの用途に用いられることから、金属を含まないことが好ましいので、AはHまたはNHであることが好ましい。
【0021】
スルホナト基は最終的に得られるシリカ質膜において、架橋構造を形成することに寄与するものと考えられている。このスルホナト基はフェニル基のパラ位またはオルト位に結合し、ひとつのフェニル基に対して最大で3個が結合しえるが、モノマーの製造の容易さなどの観点から、スルホナト基に数は1であることが好ましく、またパラ位に結合していることが好ましい。
【0022】
構成単位(X)におけるフェニル基には、その他の置換基が結合していてもよい。すなわち、フェニル基に結合している水素が、低級炭化水素基、具体的には炭素数1〜3の飽和または不飽和の炭化水素基により置換されていてもよい。
【0023】
なお、本発明によるシルセスキアザンのポリマーは、一般式(X)を満たすものであれば置換基などがことなる2種類以上の構成単位を組み合わせて含んでいてもよい。
【0024】
本発明によるシルセスキアザンのポリマーは、前記した構成単位(X)を含むものであり、構成単位がすべて(X)であるホモポリマーであってもよい。しかし、必要に応じて、その他の構成単位を含むコポリマーであってもよい。具体的には、下記一般式(Y)で表される構成単位を含むこともできる。
【化4】

式中、Arは、総炭素数6〜15の、炭化水素基により置換されていてもよい芳香族基、例えばフェニル基、ナフチル基、トリル基などであるか、または総炭素数2〜12の不飽和炭化水素基、例えばビニル基、プロペニル基、アリル基である。これらのうち、より高い屈折率が得られるので、Arは芳香族基であることが好ましく、特にフェニル基であることが好ましい。
【0025】
一般式(Y)で表される構成単位のみからなるシルセスキアザンポリマーでは、十分に高い屈折率が達成できない。具体的には、Arがフェニル基である場合、633nmにおける屈折率はせいぜい1.54程度に留まる。これに対して、一般式(X)で表される構成単位を含むシルセスキアザンポリマーはより高い屈折率を実現することができる。より具体的には、633nmの光に対して好ましくは1.6以上、より好ましくは1.7以上の屈折率を達成できる。通常、一般式(X)で表される構成単位を多く含むほど高い屈折率を実現することができるので、一般式(X)で表される構成単位と、一般式(Y)とで表される構成単位との配合比を調整することにより、最終的に得られるシリカ質膜の屈折率を調整することが可能である。
【0026】
通常、シルセスキアザンポリマーを構成する構成単位の総モル数に対して、前記一般式(X)で表させる構成単位の構成比が10〜100モル%、前記一般式(Y)で表させる構成単位の構成比が0〜90モル%の範囲で調製される。つまり、最終的に得られるシリカ質膜の屈折率を高く保つために、一般式(X)で表される構成単位が10モル%以上であることが好ましい。一方、一般式(X)に対応する原料となるモノマーは反応性が高いという特徴があり、重合反応の制御を容易にするためには配合比が少ないことが好ましい。このような観点から、一般式(X)で表される構成単位が10〜80モル%であることがより好ましく、30〜70モル%であることが最も好ましい。なお、一般式(X)以外の構成単位は、すべて一般式(Y)で表される構成単位であることが好ましい。一般式(X)または(Y)で表されるものではない構成単位は、本発明の効果を損なわない範囲であれば含まれてもよいが、通常は10モル%以下とされる。
【0027】
このようなシルセスキアザンポリマーの最も好ましいものは、下記一般式(1)で表されるものである。
【化5】

式中、Aは前記したとおりであり、nおよびmはそれぞれの構成単位の構成比を表す数であり、0.1≦n≦1.0、0≦m≦0.9である
【0028】
このようなポリマーは重合度を調整することにより、任意の分子量とすることができる。しかしながら、被膜形成の際に組成物を塗布する場合の塗布性、または膜厚などの観点から、重量平均分子量Mwが500〜10,000であることが好ましく、1,000〜5,000であることがより好ましい。なお、本発明において重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、それぞれゲル浸透クロマトグラフィーによるスチレン換算平均分子量である。
【0029】
このようなポリマーを用いて形成される被膜の屈折率は非常に高く、例えばnが0.5である場合、波長633nmに光に対する屈折率は1.7であり、また透過率は95%以上であることがわかった。
【0030】
(II)シルセスキアザンポリマーを含む組成物
前記したシルセスキアザンポリマーを用いてシリカ質膜を形成させる場合、通常、ポリマーを溶媒に溶解した組成物として使用する。溶媒としては、前記のシルセスキアザンのポリマーを溶解することができるものから選ばれる。
【0031】
このような溶剤としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのジエチレングリコールジアルキルエーテル類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAという)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。これらの溶剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組合わせて用いられる。溶剤の配合比は、シルセスキアザンを含む組成物の総重量を基準として、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上であり、通常90重量%以下、好ましくは85重量%以下とされる。
【0032】
また、本発明による組成物は必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、界面活性剤、平滑剤、粘度調整剤などが挙げられる。
【0033】
これらのうち、塗布性を改善するために界面活性剤を用いることが好ましい。本発明による組成物に使用することのできる界面活性剤としては、例えば非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0034】
上記非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシ脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレート、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、住友スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0035】
またアニオン系界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩などが挙げられる。
【0036】
さらに両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなどが挙げられる。
【0037】
これら界面活性剤は、単独で又は2種以上混合して使用することができ、その配合比は、本発明の組成物に対し、通常50〜2,000ppm、好ましくは100〜1,000ppmである。
【0038】
(III)シリカ質膜
本発明の一実施態様によるシリカ質膜は、前記のシルセスキアザンポリマーを含む組成物をシリコン基板、ガラス基板、樹脂フィルム、配線済み基板、FPDなどの表示素子の光取り出し部分等の機材表面に塗布して塗膜を形成させ、その塗膜を焼成することにより形成される。
【0039】
本発明における組成物の塗膜の形成は、一般的な塗布方法、即ち、浸漬塗布、ロールコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ドクターコート、フローコート、スピンコート、スリット塗布等、従来感光性組成物の塗布方法と知られた任意の方法により行うことができる。基材がフィルムである場合にはグラビア塗布も可能である。所望により塗膜から溶媒を除去する乾燥工程を別に設けることもできる。塗膜は必要に応じて1回又は2回以上繰り返して塗布することにより所望の膜厚とすることができる。
【0040】
塗膜を形成した後、該塗膜の乾燥、且つ溶剤残存量を減少させるため、該塗膜をプリベーク(加熱処理)することが好ましい。プリベーク工程は、一般に70〜150℃、好ましくは90〜150℃の温度で、ホットプレートによる場合には10〜180秒間、好ましくは30〜90秒間、クリーンオーブンによる場合には1〜30分間実施することができる。
【0041】
このプリベークのあと、必要に応じて加湿処理を行うこともできる。ここで加湿処理とは、1kPa以上の水蒸気分圧が存在する雰囲気に塗膜を曝すことをいう。必要な処理時間は水蒸気分圧、温度などの条件に応じて適宜調整することができる。例えば、処理温度90℃、水蒸気分圧60kPaの場合は比較的短時間、例えば3〜10分、で、処理温度25℃、水蒸気分圧1kPaの場合は比較的長い時間、例えば30〜60分間、で処理することが好ましい。加湿処理を行うことでその後の焼成工程において酸化または架橋反応が促進されるので、焼成工程の処理時間を短縮できたり、焼成温度を下げたりすることができる。従って、耐熱性の低い基材への対応も容易になるので好ましい。
【0042】
塗膜硬化時の焼成温度は、塗膜が硬化する温度であれば任意に選択できる。しかし、焼成温度が低すぎると反応が十分に進行せず十分に硬化しないことがある。このために焼成温度は150℃以上であることが好ましい。また、NH基は極性を有するため、NH基が残存すると誘電率が高くなる傾向にある。したがって、シリカ質膜の誘電率を低く維持したい場合は高い温度、具体的には200℃以上で硬化させることがより好ましい。また、反対に焼成温度が高すぎると、硬化後の被膜に含まれるイオウ含有率が低下してしまい本発明の効果が低減してしまう傾向がある。このため、焼成温度は450℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。また、焼成時間は特に限定されないが、一般に5分以上、好ましくは10分以上とされる。
【0043】
また、焼成は不活性ガスまたは大気中において行われる。また、必要に応じて水蒸気雰囲気下で焼成を行うこともできる。水蒸気を導入することにより、前記の加湿処理と同様に酸化または架橋反応を促進することができる。
【0044】
こうして得られたシリカ質膜は、完全な二酸化ケイ素膜ではなく、被膜中に有機成分が一部残留したものである。そして、その有機成分、特にイオウが架橋構造を形成しており、本発明のすぐれた特性を実現しているものと考えられている。すなわち、本発明によるシリカ質膜は、イオウを含んでいる。このイオウは、シリカ質膜の骨格を構成しているものと考えられ、溶媒などに含まれるものとは異質である。したがって、例えば塗布に用いるポリマー溶液の溶媒としてイオウを含むものを用いたとしても、ほとんどが予備加熱または焼成の際に蒸発してしまうためにシリカ質膜中には残存しない。一方、本発明によるポリマーを用いた場合には、焼成により形成されるシリカ質膜の骨格にイオウが組み込まれて、イオウの含有率が相対的に高くなる。具体的には、本発明によるシリカ質膜のイオウ含有率はシリカ質膜の総重量を基準として2〜15%、好ましくは6〜12%である。なお、このようなシリカ質膜のイオウ含有率はエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)装置により測定することができる。具体的には電解照射走査型電子顕微鏡内において、収束イオンビームによりシリカ質膜の表面をシリコン面まで削り、その断面をEDX装置によりイオウを検出して、その濃度を測定することができる。
【0045】
このような本発明によるシリカ質膜は優れた物性を有する。具体的には、本発明によるシリカ質膜は400℃以上の耐熱性を有し、また膜の光透過率は95%以上、比誘電率も3.3以下、屈折率は、1.6以上を有する。このため、通常のシリコン材料にはない高屈折率、低比誘電率及び高透過率を有しており、光デバイス、LED及びOLEDなどの光学用途に使用することができる。
【0046】
(IV)シルセスキアザンポリマーの製造方法
本発明によるシルセスキアザンポリマーは、任意の方法で製造することができる。しかしながら、スルホン化フェニル基を有するトリクロロシラン、好ましくは前記の一般式(x)で表されるシラン化合物と、必要に応じてその他のトリクロロシランと、アンモニアとを反応溶媒中で反応させる、いわゆるアンモノリシス反応により製造することが簡便であり、工業的にも好ましい。
【0047】
反応溶媒としては、キシレン、PGMEA、ヘキサン、ベンゼン、ピリジン、塩化メタン、ジエチルエーテル、アセトニトリルなどの原料を溶解しえるものから任意に選択することができる。この反応溶媒に、原料であるトリクロロシランなどのモノマーを溶解させ、アンモニアを導入することにより反応させる。反応温度は一般的には−80〜100℃、好ましくは−40〜80℃とされる。反応温度が低すぎると収率が低くなる傾向にあり、高すぎると生成したポリマーが分解してしまう傾向にある。アンモニアの導入量は厳密である必要はなく、トリクロロシランに対して過剰量のアンモニアを供給すればよい。
アンモノリシス反応は、雰囲気に酸素などが存在するとシロキサン結合の生成などの予定されない反応が起きる可能性があるので、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
反応終了後、副生成物質であるアンモニウム塩をろ別し、さらに溶媒を留去することにより目的のポリマーを得ることができる。得られたポリマーが目的のシルセスキアザンポリマーであるかどうかは、赤外線吸収スペクトルなどにより確認することができる。
【0048】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0049】
実施例1
1−スルホナト−フェニルトリクロライド(小西化学工業株式会社製)1.0モルとフェニルトリクロロシラン(東京化成(株)製)1.0モルを5Lスケールのジャケット式反応槽に仕込み、溶媒としてキシレン3Lを加えた。ジャケット内にブラインを流し反応槽内の温度を0℃にし、反応槽が0℃になったことを確認してから、アンモニアガスを2NL/分の流量で反応槽内に導入し、アンモノリシス反応を開始した。この時アンモニアガスの投入とともに発熱反応が起こり、層内の温度は5℃まで上昇した。
【0050】
アンモニアガスを理論量の約1.2倍投入し反応を終了させ、その後モノマー中の残存塩素を完全に除去するため、15時間撹拌を継続した。
【0051】
次に、温度を室温に戻し窒素ガスを3NL/分で約30分間反応槽内に吹き込み、系内に溶存しているアンモニアガスを系外へパージした。反応槽内にはポリマー溶液と反応時の副生成物質である塩化アンモニウム(固体)が存在するため、塩化アンモニウムとポリマー溶液を分離するために、70μmのグラスフィルターを用いて加圧ろ過し、ポリマー溶液を回収した。
【0052】
回収したポリマー溶液は赤褐色をしていた。得られたポリマーのポリスチレン換算分子量はMn2,500、Mw4,000であった。このポリマー溶液のH−NMR測定を行った結果、7.2ppmにフェニル基に付加した水素のピーク、6.6ppm及び6.8ppmにスルホナトフェニル基に付加した水素のピークが確認された。
【0053】
また、このポリマー溶液をシリコンウエハ上に塗布し、FT−IRスペクトルを測定した。得られたスペクトルは図1に示すとおりであった。このスペクトルを用いて化学結合の状態を測定したところ、1380cm−1付近にSi−Phの吸収、1450cm−1付近にNH由来の吸収、960cm−1付近にSi−NH−Siに吸収が確認された。これらより、得られたポリマーはスルホナト基の水素部分がアンモニウムイオンに置換された、スルホン化フェニルシルセスキアザンとフェニルシルセスキアザンのコポリマーと判断され、構造式は前記一般式(1)に相当することがわかった。なお、このときAはNH、n=m=0.5である。
【0054】
実施例2
1−スルホナト−フェニルトリクロライドを1.4モル、フェニルトリクロロシランを0.7モルに変更した以外は、実施例1と同様に合成を行った。
【0055】
得られたポリマー溶液は赤褐色であり、分子量はMn1,650、Mw2,650であった。H−NMR及びFT−IR測定結果から実施例1に対して構成単位の配合比のみが異なり、その他は同様のコポリマーが出来ていると判断された。
【0056】
実施例3
反応溶媒としてPGMEAを用いた以外は実施例1と同様に合成を行った。得られたポリマー溶液は赤褐色であり、分子量はMn2,600、Mw3,200であった。H−NMR及びFT−IR測定結果から実施例1と同様のコポリマーが出来ていると判断された。
【0057】
実施例4
1−スルホナト−フェニルトリクロライドを0.4モル、フェニルトリクロロシランを1.6モルに変更した以外は、実施例1と同様に合成を行った。得られたポリマー溶液は赤褐色であり、分子量はMn2,000、Mw3,560であった。H−NMR及びFT−IR測定結果から実施例1と同様のコポリマーが出来ていると判断された。
【0058】
比較例1
出発原料としてフェニルトリクロロシラン1.0モルを用いた以外は実施例1と同様に合成を行った。得られたポリマー溶液は無色透明であり、分子量はMn2,800、Mw5,000であった。
【0059】
評価1 シリカ質膜の屈折率の評価
実施例1〜4、および比較例1で得られたポリマーの約30wt%溶液を調整し、シリコンウエハにスピンコートで約5000Åの厚さとなるように塗布した。次に、150℃で90秒間ホットプレート上でプリベークし、その後大気中250℃で1時間焼成しシリカ質膜を得た。
【0060】
このシリカ質膜の屈折率をエリプソメーターにて測定した結果は表1に示す通りであった。実施例1、2、4、ならびに比較例1の比較から、一般式(X)で表される構成単位であるスルホン化モノマーの比率が増えるにつれてシリカ質膜の屈折率が上昇する傾向にあることが確認された。また、実施例1および3の比較により、ポリマーを製造するときに用いる溶媒による特性差はほとんどないことがわかった。
【0061】
【表1】

【0062】
評価2 シリカ質膜の透過率の評価
評価1と同様にポリマー溶液を調整し、無アルカリガラス上に約1μm厚に塗布した。さらに150℃で90秒間のプリベーク、250℃で1時間ホットプレート上にて焼成し、シリカ質膜を得た。
【0063】
このシリカ質膜の透過率を紫外−可視透過率測定装置にて測定した結果は表2に示す通りであった。何れのポリマーも透過率95%以上であることが確認され、本発明によるシリカ質膜は比較例と同等の透過率を達成していることがわかった。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例1のポリマーを用いて評価2において作成したシリカ質膜の透過率スペクトルは図2に示すとおりであった。
【0066】
評価3 シリカ質膜の電気物性の評価
実施例1のポリマー溶液を用いて評価1において作成したシリカ質膜をソリッドステートインストルメント社製装置を用いてHgプローブ法にて電気物性を測定した。得られた結果は以下の通りであった。
誘電率(k): 3.1
ブレークダウン電圧: 3.0MV/cm
リーク電流: 4.5×10−7A/cm
【0067】
評価4 イオウ含有率の評価
実施例4のポリマーを濃度20%のキシレン溶液に調整し、スピンコーター(ミカサ株式会社製)によりシリコンウェハーの表面に厚さ約5000Åとなるように塗布し、窒素雰囲気下において250℃で1時間焼成してシリカ質膜を得た。得られたシリカ質膜の元素含有率をEDX装置により分析した結果は表3に示すとおりであった。このシリカ質膜のイオウ含有率は2.6%であり、理論値にほぼ一致していた。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(X)で表される構成単位を含むことを特徴とする、シルセスキアザンポリマー。
【化1】

(式中、pは1〜3を表す整数であり、AはH、NH、Na、およびKからなる群から選択されるものであり、Bは水素または炭素数1〜3の炭化水素基である。)
【請求項2】
下記一般式(Y)で表される構成単位をさらに含む、請求項1に記載のシルセスキアザンポリマー。
【化2】

(式中、Arは、炭素数1〜6の炭化水素基により置換されていてもよい芳香族基、または炭素数2〜12の不飽和炭化水素基である。)
【請求項3】
シルセスキアザンポリマーを構成する構成単位の総モル数に対して、前記一般式(X)で表させる構成単位の構成比が10〜100モル%であり、前記一般式(Y)で表させる構成単位の構成比が0〜90モル%である、請求項1または2に記載のシルセスキアザンポリマー。
【請求項4】
重量平均分子量が500〜10,000である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシスセスキアザンポリマー。
【請求項5】
下記一般式(1)で表される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシルセスキアザンポリマー。
【化3】

式中、Aは前記したとおりであり、nおよびmはそれぞれの構成単位の構成比を表す数であり、0.1≦n≦1.0、0≦m≦0.9である。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシルセスキアザンポリマーと溶媒とを含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項6の組成物を基材上に塗布し、さらに不活性ガスまたは大気中において150〜450℃で焼成することにより得られたことを特徴とするシリカ質膜。
【請求項8】
光学デバイスまたは半導体素子に用いられるシリカ質膜であって、シリカ質膜の総重量を基準としたイオウ含有率が2〜15%であることを特徴とする、シリカ質膜。
【請求項9】
633nmの光に対する屈折率が1.6以上である、請求項7または8に記載のシリカ質膜。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のシリカ質膜を具備してなることを特徴とする光学デバイスまたは半導体素子。
【請求項11】
下記一般式(x):
【化4】

(式中、pは1〜3を表す整数であり、Bは水素または炭素数1〜3の炭化水素基である。)
で表されるシラン化合物をアンモニアガス雰囲気下でアンモノリシス反応に付す工程を含むことを特徴とする、シルセスキアザンポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−116878(P2012−116878A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265217(P2010−265217)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(312001188)AZエレクトロニックマテリアルズIP株式会社 (14)
【Fターム(参考)】