説明

スルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー及びその用途

【課題】 既存のポリマーよりも優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、電極との接合性にも優れたスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー、該ポリマーを用いた燃料電池用高分子電解質膜、該高分子電解質膜/電極接合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】 ポリマー分子中にそれぞれ一種以上の親水性セグメントと疎水性セグメントを有するブロック共重合ポリマーであって、親水性セグメントが下記化学式1で表される構造で主に構成され、かつ、軟化温度が180℃以下であるスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー、該ポリマーを用いた高分子電解質膜、該高分子電解質膜/電極接合体及び燃料電池。
【化1】


(式中、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホン基又はカルボニル基を、nは3〜50の整数を、mは2以上の整数を、それぞれ表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規構造のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー及びその用途に関する。さらには、該ポリマーを構成成分とする組成物、成形物、燃料電池用高分子電解質膜、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子膜を高分子電解質膜に用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、可搬性があり、小型化が可能であることから、自動車、家庭用分散発電システム、携帯機器用電源への応用が進められている。現在、高分子電解質膜としては、米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるようなパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜が広く用いられている。
【0003】
しかしながらこれらの膜は100℃以上で軟化するため、運転温度が80℃以下に制限されていた。運転温度をさらに上げると、エネルギー効率、装置の小型化、触媒活性の向上など、さまざまな利点があるため、より耐熱性の高い高分子電解質膜が求められている。
耐熱性高分子電解質膜として、ポリスルホンやポリエーテルケトンなどの耐熱性ポリマーを発煙硫酸などのスルホン化剤で処理して得られるスルホン化ポリマーはよく知られている(例えば非特許文献1を参照)。しかしながら、一般的にスルホン化剤によるスルホン化反応の制御は困難である。そのため、スルホン化度が多すぎたり少なかったりしたりすることや、ポリマーの分解、不均一なスルホン化などが起こりやすいという問題があった。
【0004】
そのため、スルホン酸基などの酸性基を有するモノマーから重合したポリマーを高分子電解質膜として用いることが検討されている。例えば、特許文献1にはプロトン伝導性ポリマーとして、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ、及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと4,4’−ビフェノールの反応で得られる共重合ポリマーが示されている。このポリマーを構成成分とする高分子電解質膜は、前述のスルホン化剤を用いた場合のようなスルホン酸基の不均一性が少なく、スルホン酸基導入量及びポリマー分子量の制御が容易であった。しかしながら、燃料電池として実用化のためにはプロトン伝導性などさまざまな特性の改良が望まれている。
【0005】
特性向上のための試みとして、スルホン酸基を有するセグメント化ブロック共重合ポリマーの検討が行われている。セグメント化ブロック共重合ポリマーには、親水性セグメントが相分離によって親水性ドメインを形成することでプロトン伝導性が向上することが期待されている。例えば特許文献2では、スルホン化したポリエーテルスルホンセグメント化ブロック共重合ポリマーが記載されている。このポリマーを得る方法の一つは、スルホン化されやすいセグメントとされにくいセグメントから構成されたブロックポリマーのスルホン化である。しかしながらこの方法では、各セグメントにおけるベンゼン環の電子密度の差によってスルホン化反応を選択的に行わせており、各セグメントのポリマー構造が制限されてしまうという欠点があった。また、エーテル基の酸素原子や、アルキル基などの電子供与性基が結合したベンゼン環は容易にスルホン化されるが、熱や加水分解などによる逆反応も起こりやすい。そのため、上記のポリマーではポリマー中のスルホン酸基の安定性が低いという問題もあった。また、このポリマーの用途として分離膜が挙げられているが、燃料電池用高分子電解質膜としての用途に関しては記載されていなかった。
【0006】
また、特許文献3では特定の繰り返し単位を有するセグメント化ブロック共重合ポリマーをスルホン化して得られるポリマーを燃料電池の高分子電解質膜として用いることが記載されている。しかしながらこのポリマーも特許文献2のポリマーと同様にスルホン化に対する反応性の差を利用しているため、疎水性セグメントの構造は制限されてしまっていた。
【0007】
他のスルホン化されたセグメント化ブロック共重合ポリマーの例としては特許文献4に記載されたポリマーを挙げることができる。特許文献4のポリマーはブロック移行部での主鎖の配列がブロック内部と同じであることが特徴であるが、それ故にポリマー構造も制限されてしまっていた。
【0008】
さらに特許文献5においてもスルホン化ポリエーテルスルホンセグメント化ブロック共重合ポリマーを用いた燃料電池用高分子電解質膜が記載されている。
【0009】
しかしながら、これらのスルホン化ブロック共重合ポリマーを燃料電池の高分子電解質膜として用いる場合、電極との接合性が十分でない場合があった。高分子電解質膜と電極との接合が不十分であると、高分子電解質膜/電極接合体において、高分子電解質膜と電極触媒層との界面抵抗が増大したり、燃料電池の運転時に高分子電解質膜と電極との剥離が生じたりして、燃料電池の出力低下や耐久性の低下の原因となる。従来のセグメント化ブロック共重合ポリマーでは、高分子電解質膜と電極との接合性が十分に鑑みられておらず、燃料電池に用いた場合に、問題点を有するものであった。
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
【特許文献2】特開昭63―258930号明細書
【特許文献3】特開2001−250567号明細書
【特許文献4】特開2001−278978号明細書
【特許文献5】特開2003−31232号明細書
【非特許文献1】エフ ルフラノ(F. Lufrano)他3名著、「スルホネイテッド ポリスルホン アズ プロマイジング メンブランズ フォー ポリマー エレクトロライト フュエル セルズ」(Sulfonated Polysulfone as Promising Membranes for Polymer Electrolyte Fuel Cells)、ジャーナル オブ アプライド ポリマー サイエンス(Journal of AppLied Polymer Science)、(米国)、ジョン ワイリー アンド サンズ インク(John Wiley & Sons, Inc.)、2000年、77号、p.1250−1257
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その主要な課題は、既存のポリマーよりも優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、電極との接合性にも優れた燃料電池用高分子電解質膜、及び該燃料電池用高分子電解質膜を構成するスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー、該ポリマーを含む組成物、該ポリマーを用いた膜/電極接合体及び燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、親水性セグメント及び疎水性セグメントの構造と特性に関して鋭意検討し、特定の構造を分子中に導入することによって、スルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーが、優れたプロトン伝導性を示し、かつ、電極との接合性にも優れることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) ポリマー分子中にそれぞれ一種以上の親水性セグメントと疎水性セグメントを有するブロック共重合ポリマーであって、親水性セグメントが下記化学式1;
【0014】
【化1】

(式中、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホン基又はカルボニル基を、nは3〜50の整数を、mは2以上の整数を、それぞれ表す。)
で表される構造で主に構成され、かつ、軟化温度が180℃以下であることを特徴とするスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー。
【0015】
(2) 疎水性セグメントが、下記化学式2及び3のうちの少なくとも一方;
【化2】

(式中、Ar及びArは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を、oは3〜50の整数を、pは2以上の整数を、それぞれ表す。)
で表される構造で主に構成される(1)に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー。
【0016】
(3) 化学式2のAr及び化学式3のArが、それぞれ独立して、下記化学式4〜7;
【0017】
【化3】

で表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造である(2)に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー。
【0018】
(4) 化学式1のn、化学式2及び3のoが25以下である(2)に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー。
【0019】
(5) 化学式2及び3のoが20以下である(4)に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー。
【0020】
(6) (1)〜(5)に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーを1〜100重量%含むポリマー組成物。
【0021】
(7) (6)に記載のポリマー組成物から得られる高分子電解質膜。
(8) (6)に記載ポリマー組成物を、高分子電解質膜及び電極触媒層のうちの少なくとも一方に有することを特徴とする高分子電解質膜/電極接合体。
(9) (8)に記載の高分子電解質膜/電極接合体を用いた燃料電池。
である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合ポリマーは、電極との接合性、プロトン伝導性のいずれにおいても本発明外のスルホン化ブロック共重合ポリマーに比べて優れており、高分子電解質膜、高分子電解質膜/電極接合体の特性が改善されて、燃料電池の性能をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、特定のセグメント構造を有するスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー及びその用途であるが、以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。なお、本発明における重量とは、質量を意味する。
【0024】
本発明のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーは、スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントを有しており、本発明における親水性セグメントは、下記化学式1で表される構造を主とする。
【0025】
【化4】

(式中、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホン基又はカルボニル基を、nは3〜50の整数を、mは2以上の整数を、それぞれ表す。)
【0026】
高分子電解質膜として用いる場合には、XがHであるとプロトン伝導性が高くなるため好ましい。ポリマーを加工、成形する際には、XはNa、K、Liなど1価の金属イオンであると、ポリマーの安定性が高まり好ましい。またXはモノアミンなどの有機カチオンであってもよい。Yはスルホン基であるとポリマーの溶媒への溶解性が高まる傾向にあり好ましい。また、Yはカルボニル基であると電極との接合性がより高まるため、さらに好ましい。mは2以上の整数を表す。化学式1におけるmは複数の数からなる分布を有するものであってもよい。分布を持つ場合には、その平均値を小数点以下で四捨五入した値が3以上であればよい。より好ましくは3〜20の範囲であり、さらに好ましくは5〜10の範囲である。また、mが分布を有する場合、mは平均値として本発明の範囲にあればよく、一成分としてmが0〜2である部分を含んでいても平均値が本発明の範囲であれば、本発明の課題を解決する発明となる。
【0027】
nは3〜50の整数を表すが、nが3より小さいとランダムポリマーに対する改善効果が失われてしまう。nが大きいと膜形態の保持効果はより大きくなるが、50よりも大きいと反応溶液の粘度が増大するので疎水性セグメントとの反応が困難になるため好ましくない。nが25以下であるとセグメント間の反応性も優れるためさらに好ましい。
【0028】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、スルホン酸基が酸である場合の軟化温度が180℃以下であることが必要である。軟化温度は、例えば、動的粘弾性における弾性率が急激に低下する温度として測定することができる。軟化温度が180℃を超えると、電極との接合など加工性が悪化するため傾向がある。より好ましい軟化温度の範囲は、130〜170℃であり、さらに好ましい範囲は130〜160℃である。
【0029】
化学式1において、スルホン基又はカルボニル基といった電子吸引性の基が、結合したフェニル基の電子密度を小さくするので、スルホン酸基の脱離反応を抑制し、ポリマーの安定性を高めている。通常、ポリマーをスルホン化する場合には、電子密度が高い部分が優先的にスルホン化されるため、スルホン酸基を有さないブロックをスルホン化して化学式1の親水性セグメントを得ることは困難である。
【0030】
本発明の親水性セグメントは下記化学式8で表されるスルホン化モノマーと下記化学式9で表されるビスフェノール化合物とを反応させて合成することができる。
【0031】
【化5】

【0032】
化学式8において、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホン基又はカルボニル基を、Zはハロゲン元素をそれぞれ表す。XはNa又はKであることが、ZはF又はClであることがそれぞれ好ましい。化学式9においてmは3以上の整数を表す。mが異なる複数の化合物を混合して用いることもできるが、その場合は、mの平均値の小数点以下を四捨五入した値が3以上であればよい。mの好ましい範囲は3〜20であり、5〜10であるとさらに好ましい。
【0033】
本発明のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーにおける疎水性セグメントは、下記化学式2及び3のうちの少なくとも一方;
【0034】
【化6】

(式中、Ar及びArは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を、oは3〜50の整数を、pは2以上の整数を、それぞれ表す。)
で表される構造で主に構成されることを特徴とする。
【0035】
oは3〜50の整数を表すが、oが3より小さいとランダムポリマーに対する改善効果が失われてしまう。oが大きいと膜形態の保持効果はより大きくなるが、50よりも大きいと反応溶液の粘度が増大するので親水性セグメントとの反応が困難になるため好ましくない。oが25以下であるとより好ましく、oが20以下であるとセグメント間の反応性も優れるためさらに好ましい。なお、ポリマー分子中に化学式2と3の両方の構造を含む場合、oはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
Ar及びArは、それぞれ独立して、主として芳香族基からなり、Oが結合した芳香族基に電子吸引性基を有する2価の芳香族基を表す。電子吸引性基の例としてはスルホン基、シアノ基、スルホキシド基、カルボニル基、ハロゲン、ニトロ基を挙げることができ、スルホニル基、カルボニル基及びシアノ基が好ましい。具体的な構造として下記化学式10A〜Gで表される構造を挙げることができる。
【0037】
【化7】

【0038】
これらの中でも化学式10A、10B、及び10Cで表される構造が好ましく、以下に示す化学式10A’、10A’’、10B’、10C’のいずれかで表される構造がより好ましく、10A’又は10B’のいずれかが最も好ましい。
【0039】
【化8】

【0040】
Ar及びArの好ましい例として、化学式4〜7で示した基を挙げることができる。
【0041】
【化9】

【0042】
疎水性セグメントが化学式2の場合、液晶性のビフェニレン基によって高分子電解質膜の形態の保持性を向上させることができる。化学式2の疎水性セグメントは、4,4’−ビフェノールを、下記化学式11A〜11Dで表されるモノマーを反応させることで得ることができる。
【0043】
【化10】

【0044】
化学式11A〜DにおいてZはハロゲン原子を表すが、中でもF又はClが好ましい。
【0045】
疎水性セグメントが化学式3の場合、電極との接合性をより向上させることができる。化学式3において、pは2以上の整数を表す。化学式1におけるpは複数の数からなる分布を有するものであってもよい。分布を持つ場合には、その平均値を小数点以下で四捨五入した値が3以上であればよい。より好ましくは3〜20の範囲であり、さらに好ましくは5〜10の範囲である。また、pが分布を有する場合、pは平均値として本発明の範囲にあればよく、一成分としてpが0〜2である部分を含んでいても平均値が本発明の範囲であれば、本発明の課題を解決する発明となる。化学式3の疎水性セグメントは、化学式12の化合物を、化学式11A〜Dで表される化合物と反応させて合成することができる。
【0046】
【化11】

【0047】
化学式12においてpは3以上の整数を表す。pが異なる複数の化合物を混合して用いることもできるが、その場合は、pの平均値の小数点以下を四捨五入した値が3以上であればよい。pの好ましい範囲は3〜20であり、5〜10であるとさらに好ましい。
【0048】
本発明の疎水性セグメントは、化学式2又は3のいずれかからなるものであってもよいし、化学式2及び3のいずれもからなるものであってもよい。
【0049】
本発明のセグメント化ブロック共重合ポリマーのイオン交換容量は、0.5〜2.5meq/gにあることが好ましい。0.5meq/g以下ではプロトン伝導性が低くなりすぎるため好ましくない。2.5meq/g以上であると、吸水性が大きくなりすぎて膨潤が大きくなりすぎるため好ましくない。0.7〜2.0meq/gの範囲であると、プロトン伝導性や耐膨潤性などでより好ましい特性を有する。さらに0.7〜1.6meq/gの範囲であると、メタノール透過性が小さいので、ダイレクトメタノール型燃料電池用高分子電解質膜に特に適する。
【0050】
本発明のセグメント化ブロック共重合ポリマーは、あらかじめ親水性セグメントと疎水性セグメントとをそれぞれ合成しておき、その後両者を反応させて得ることもできるし、あらかじめ重合しておいた片方のセグメントを、もう片方のセグメントを重合した溶液に加えてさらに反応させて得ることもできる。その際、各セグメントの末端基同士を直接反応させてもよいし、各セグメントの末端基を同じにしておいて、鎖延長剤を用いて両者を反応させてもよい。
【0051】
本発明のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー及び各セグメントを芳香族求核置換反応により重合する場合、芳香族ビスハライド化合物と、芳香族ビスフェノール類を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。
【0052】
反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造になしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。副生物として生成する水は、トルエンなどの共沸溶媒と溜去して系外に除去したり、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用したり、重合溶媒と共に溜去したりすることで除去することができる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。
【0053】
各セグメントの連鎖長は重合に用いるモノマーのモル比によって調節することができる。また、各セグメントの末端基は重合で、どちらのモノマーを過剰にするかで決定することができる。セグメントの連鎖長は仕込み量からの計算値を用いることもできるが、NMRなどで定量することがより好ましい。セグメント同士を連結するには、各セグメントをマクロモノマーとして扱い、モノマーと同様にして反応することができる。
【0054】
親水性セグメントは上記で示された範囲の構造であれば特に限定されないが、好ましい構造の例を化学式13A及び13Bに示す。
【0055】
【化12】

【0056】
疎水性セグメントとして好ましい構造の例を化学式14A〜Hに示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
【化13】

【0058】
本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマー分子量を、0.5g/dlのN−メチル−2−ピロリドン溶液を30℃で測定したときの対数粘度で表すと、0.3以上であることが物理特性の面から好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。0.3未満であると物理特性が著しく低下するため好ましくない。対数粘度が3.0を超えるとポリマーを溶解した溶液の粘度が著しく高くなりすぎて取り扱いが困難になる恐れがある。
【0059】
本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマーは他の化合物を混合して組成物として用いることもできる。混合する化合物の例としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸などのヘテロポリ酸や、低分子のスルホン酸やホスホン酸、リン酸誘導体などの酸性化合物、ケイ酸化合物、ジルコニウムリン酸などの無機物などを挙げることができる。組成物中の無機物の含有量は50質量%未満あることが好ましい。50質量%以上であると成形性の物理特性が損なわれるため好ましくない。
【0060】
さらに、他のポリマーと混合した組成物として使用することもできる。これらのポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせと言える、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。
【0061】
これら組成物として使用する場合には、本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマーは、組成物全体の50質量%以上100質量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマーの含有量が組成物全体の50質量%未満の場合には、この組成物を含む高分子電解質膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なプロトン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0062】
本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマーは適当な溶媒に溶解した溶液を組成物として用いることができる。溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジフェニルスルホン、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどに溶解することが好ましい。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中の化合物濃度は0.1〜50質量%の範囲であることが好ましい。溶液中の化合物濃度が0.1質量%未満であると良好な成形物を得るのが困難となる傾向にあり、50質量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。溶液に、前記した化合物などをさらに混合して使用してもよい。
【0063】
また、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類と水の混合物や、水などの非溶媒に分散してもよい。
【0064】
本発明におけるスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマー組成物中のポリマーのスルホン酸基は、酸でも陽イオンとの塩であってもよいが、スルホン酸基の安定性の面からは陽イオンとの塩であることが好ましい。塩である場合、成形後など必要に応じて酸処理することで、酸へ変換することができる。
【0065】
本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマー及びその組成物は、押し出し、紡糸、圧延又はキャストなど任意の方法で繊維やフィルムなどの成形体とすることができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。
【0066】
溶液から成形体を得る方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。例えば、加熱、減圧乾燥、化合物を溶解する溶媒と混和することができる化合物非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去し成形体を得ることができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥によって溶媒を留去させることが好ましい。この際、必要に応じて他の化合物と複合された形で繊維状、フィルム状、ペレット状、プレート状、ロッド状、パイプ状、ボール状、ブロック状などのさまざまな形状に成形することもできる。溶解挙動が類似する化合物と組み合わせた場合には、良好な成形ができる点で好ましい。このようにして得られた成形体中のスルホン酸基は陽イオンとの塩の形のものを含んでいても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することもできる。
【0067】
本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体ポリマー及びその組成物からイオン伝導膜を作製することもできる。イオン伝導膜は、本発明のスルホン酸基含有共重合体ポリマーだけでなく、多孔質膜、不織布、フィブリル、紙などの支持体との複合膜であってもよい。得られたイオン伝導膜は、燃料電池用の高分子電解質膜として用いることができる。
【0068】
イオン伝導膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液からのキャストであり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去してイオン伝導膜を得ることができる。溶媒の除去は、乾燥によることがイオン伝導膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜1000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いとイオン伝導膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、1000μmよりも厚いと不均一なイオン伝導膜ができやすくなる傾向にある。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にしたりするなどして、溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。
【0069】
本発明の高分子電解質膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には5〜200μmであることが好ましく、5〜100μmであることがさらに好ましく、20〜80μmであることが最も好ましい。高分子電解質膜の厚みが5μmより薄いと高分子電解質膜の取り扱いが困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いと高分子電解質膜の電気抵抗値が高くなり燃料電池の発電性能が低下する傾向がある。高分子電解質膜として使用する場合、膜中のスルホン酸基は金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに得られた膜を浸漬処理することで行うことも効果的である。また、高分子電解質膜のプロトン伝導率は1.0×10−3S/cm以上であることが好ましい。プロトン伝導率が1.0×10−3S/cm以上である場合には、その高分子電解質膜を用いた燃料電池において良好な出力が得られる傾向にあり、1.0×10−3S/cm未満である場合には燃料電池の出力低下が起こる傾向にある。
【0070】
高分子電解質膜中における、親水性セグメントと疎水性セグメントの相分離を促進する目的で、水などの非溶媒をポリマー溶液中に加えて製膜することもできる。
【0071】
また、上述した本発明の高分子電解質膜又はフィルム等を電極に設置することによって、本発明の高分子電解質膜又はフィルム等と電極との接合体を得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法又は高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。この中でも本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物及びその組成物を主成分とした接着剤を電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。高分子電解質膜と電極との接着性が向上し、また、高分子電解質膜のプロトン伝導性を損なうことが少なくなると考えられるためである。
【0072】
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜又は高分子電解質膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
【0073】
本発明の高分子電解質膜は、水素を燃料とする固体高分子形燃料電池(PEFC)の他にも、メタノール透過性が小さいため、メタノールを燃料とするメタノール直接型燃料電池(DMFC)にも適している。また、耐熱性やバリアー性に優れるため、メタノール、ガソリン、エーテルなどの炭化水素から改質器によって水素を取り出して用いるタイプの燃料電池にも適している。
【実施例】
【0074】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
【0075】
<溶液粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度を表す)。
【0076】
<イオン交換容量>
乾燥したサンプル100mgを、0.01NのNaOH水溶液50mlに浸漬し、25℃で一晩攪拌した。その後、0.05NのHCl水溶液で中和滴定した。中和滴定には、平沼産業(株)製、電位差滴定装置COMTITE−980を用いた。イオン交換当量は下記式で計算して求めた。
イオン交換容量[meq/g]=(10−滴定量[ml])/2
【0077】
<プロトン伝導性>
自作測定用プローブ(テフロン(登録商標)製)上で短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃95%RHの恒温・恒湿オーブン(ナガノ科学機械製作所社、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を変化させて測定し、極間距離とC−Cプロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出した。
導電率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
【0078】
<軟化温度>
5mm幅の酸型の膜を、チャック幅10mmで、50℃から250℃まで2℃/分で加熱しながら、10Hzの動歪を与えて動的粘弾性を、Rheogel E−4000(東機産業社製)を用いて測定した。E’が大きく低下する変曲点の温度を軟化温度とした。
【0079】
<メタノール透過性>
25℃の室内において、二つのガラス水槽を、サンプルを隔膜として連結し、片方の水槽に5Mのメタノール水溶液、もう片方に蒸留水をそれぞれ入れ、蒸留水を入れた側のメタノール濃度を適当な時間ごとに定量した。メタノールの定量はガスクロマトグラフィー法で行い、あらかじめ所定の濃度のメタノール溶液を注入したときのピーク面積から作成した検量線を用いてメタノール濃度を算出した。得られたメタノール濃度を経過時間に対してプロットしたときの傾きから、以下の式によりメタノール透過係数を求めた。
メタノール透過速度(mmol・m−2・sec−1)=プロットの傾き(mmol・sec−1)÷膜面積(m)×膜厚(m)
【0080】
ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の発電評価:Pt/Ru触媒担持カーボン(田中貴金属工業社TEC61E54)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt/Ru触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1になるように加えた。次いで撹拌してアノード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となる東レ社製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が2mg/cmになるようにスクリーン印刷により塗布乾燥して、アノード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。また、Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業社TEC10V40E)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1となるように加え、撹拌してカソード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、撥水加工を施した東レ社製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が1mg/cmとなるように塗布・乾燥して、カソード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。上記2種類の電極触媒層付きカーボンペーパーの間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により150℃、6MPaにて3分間加圧、加熱し、高分子電解質膜と電極触媒層とが良好に接合した場合は「○」、剥離が起こった場合を「×」とした。
【0081】
<高分子電解質膜の作製方法>
ポリマー(スルホン酸基が塩型のもの)5.0gをN−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)15mlに溶解し、アプリケーターを用いてガラス板上に250μmの厚みでキャストし、100℃で1時間、150℃で1時間加熱して乾燥した。その後、ガラス板を室温付近まで放冷し、膜ごと水につけて膜を剥離した。剥離した膜は純水に浸漬した後、2mol/リットルの硫酸に1時間浸漬し、さらに新たな2mol/リットルの硫酸に1時間浸漬して、スルホン酸基を酸型に変換し、純水で10回洗浄して遊離の硫酸を除き、ろ紙に挟んだ上からガラス板で押さえて2日間放置して乾燥し高分子電解質膜を得た。
【0082】
<合成例1:疎水性セグメントA>
4,4−ジクロロジフェニルスルホン(略号:DCDPS)35.07g、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(大日本インキ化学工業社製SPECIANOL DPE−PL;化学式9においてnが1〜8の成分を含む混合物でnの平均値は5である構造であるもの)(略号:DPE)63.80g、炭酸カリウム17.64g、NMP350ml、トルエン150mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、13時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄した後、ポリマーを濾別し減圧乾燥して疎水性セグメントAを得た。
【0083】
<合成例2〜6:疎水性セグメントB〜F>
モノマー及びモル比を変更した他は合成例1と同様にして疎水性セグメントを重合した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
<実施例1>
3,3’―ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:S−DCDPS) 30.00g、BPE 34.12g、炭酸カリウム9.43g、NMP 150ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、18時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、70mlのNMPに溶解した疎水性セグメントA 14.99gを加え、210度に加熱し12時間反応させ、1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。ポリマーの構造は、H−NMR測定で、S−DCDPSのスルホン酸基に隣接するプロトンが8.3ppmに、DPEのフェニル基のプロトンが7.1ppmに、それぞれシグナルを有することで確認した。得られたポリマーから上記の方法によって高分子電解質膜を得た。
【0086】
<実施例2>
S−DCDPS 30.00g、BPE 34.39g、炭酸カリウム9.51g、NMP150ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、13時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、70mlのNMPに溶解した疎水性セグメントB 14.53を加え、210度に加熱し9時間反応させ、1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。得られたポリマーから上記の方法によって高分子電解質膜を得た。
【0087】
<実施例3>
S−DCBP30.00g、BPE36.82g、炭酸カリウム10.18g、NMP150ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、10時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、70mlのNMPに溶解した疎水性セグメントC 15.88gを加え、200度に加熱し13時間反応させ、1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。ポリマーの構造は、H−NMR測定で、S−DCBPのスルホン酸基に隣接するプロトンが8.2ppmに、DPEのフェニル基のプロトンが7.1ppmに、それぞれシグナルを有することで確認した。得られたポリマーから上記の方法によって高分子電解質膜を得た。
【0088】
<実施例4>
S−DCDPS 30.00g、BPE 40.38、炭酸カリウム 11.17g、NMP120ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、8時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、120mlのNMPに溶解した疎水性セグメントD 64.73gを加え、200度に加熱し11時間反応させ、1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。得られたポリマーから上記の方法によって高分子電解質膜を得た。
【0089】
<実施例5>
S−DCDPS 30.00g、BPE 42.05g、炭酸カリウム11.63g、NMP120ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、10時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、150mlのNMPに溶解した疎水性セグメントE 70.27gを加え、200度に加熱し15時間反応させ、1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。得られたポリマーから上記の方法で高分子電解質膜を得た。
【0090】
<実施例6>
S−DCDPS 30.00g、BPE 38.48g、炭酸カリウム10.64g、NMP120ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、10時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、120mlのNMPに溶解した疎水性セグメントF 89.01gを加え、200度に加熱し13時間反応させ、1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。得られたポリマーから上記の方法で高分子電解質膜を得た。
【0091】
実施例1〜6における親水性セグメントの組成を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
<比較例1〜6>
実施例1〜6と同じモノマー組成で、すべてのモノマーを同時に反応させた他は、実施例と同様にしてポリマーを得た。得られたポリマーから上記の方法で高分子電解質膜を得た。ポリマー組成を表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
<比較例7>
DCDPS 52.60g、BP 33.54g、炭酸カリウム27.40g、NMP300ml、トルエン250mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、13時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を2000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄した後、ポリマーを濾別し減圧乾燥して疎水性セグメントGを得た。S−DCDPS 30.00g、BP 11.66g、炭酸カリウム9.52g、NMP150ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、11時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、70mlのNMPに溶解した疎水性セグメントG 24.74gを加え、210度に加熱し14時間反応させ、1000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。得られたポリマーから上記の方法で高分子電解質膜を得た。
【0096】
<比較例7>
DCDPS 159.78g、BP 102.35g、炭酸カリウム83.56g、NMP800ml、トルエン300mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、14時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を3000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄した後、ポリマーを濾別し減圧乾燥して疎水性セグメントHを得た。S−DCDPS 30.00g、BP 12.00g、炭酸カリウム9.80g、NMP300ml、トルエン150mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた500ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、210℃に昇温し、12時間加熱した。溶液を室温まで冷却した後、200mlのNMPに溶解した疎水性セグメントG 110.78gを加え、210度に加熱し14時間反応させ、2000mlの純水に注ぎ再沈させ、沸騰水で3回洗浄し、ポリマーを濾別し減圧乾燥してポリマーを得た。得られたポリマーから上記の方法で高分子電解質膜を得た。
【0097】
実施例及び比較例の高分子電解質膜の評価結果を表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
表4より、本発明のセグメント化ブロック共重合体からなる高分子電解質膜は、同組成のランダム共重合体からなる高分子電解質膜に比べて、メタノール透過性は同等であるにもかかわらず高いプロトン伝導性に優れていることが分かる。また、比較例7〜8の本発明の範囲外のブロック共重合体からなる高分子電解質膜は電極との接合性が不良であるのに対して、本発明のセグメント化ブロック共重合体からなる高分子電解質膜は電極との接合性が良好であり、加工性にも優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体からなる高分子電解質膜は、プロトン伝導性及び加工性に優れ、耐久性に優れた高分子電解質膜/電極接合体を得ることができ、燃料電池の分野で、従来の炭化水素系高分子電解質膜に比べて、高耐久性と高出力を可能にし、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー分子中にそれぞれ一種以上の親水性セグメントと疎水性セグメントを有するブロック共重合ポリマーであって、親水性セグメントが下記化学式1;
【化1】

(式中、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホン基又はカルボニル基を、nは3〜50の整数を、mは2以上の整数を、それぞれ表す。)
で表される構造で主に構成され、かつ、軟化温度が180℃以下であることを特徴とするスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー。
【請求項2】
疎水性セグメントが、下記化学式2及び3のうちの少なくとも一方;
【化2】

(式中、Ar及びArは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を、oは3〜50の整数を、pは2以上の整数を、それぞれ表す。)
で表される構造で主に構成される請求項1に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー。
【請求項3】
化学式2のAr及び化学式3のArが、それぞれ独立して、下記化学式4〜7;
【化3】

で表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造である請求項2に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー。
【請求項4】
化学式1のn、化学式2及び3のoが、25以下であることを特徴とする請求項2に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマー。
【請求項5】
化学式2及び3のoが、20以下である請求項4に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合体ポリマー。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーを1〜100重量%含むポリマー組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のポリマー組成物から得られる高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項6に記載ポリマー組成物を、高分子電解質膜及び電極触媒層のうちの少なくとも一方に有することを特徴とする高分子電解質膜/電極接合体。
【請求項9】
請求項8に記載の高分子電解質膜/電極接合体を用いた燃料電池。

【公開番号】特開2008−38043(P2008−38043A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215439(P2006−215439)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】