説明

セキュリティシステム

【課題】 公衆トイレの各トイレブースなど特定空間に隠れ潜む不審者又は不審物を自動的に検知し、近くの人々が適時に回避行動をとれるようにする。
【解決手段】 電波ドップラセンサなどを用いて、トイレブース内に全体空間をカバーする広センシング領域と、壁脇や便器後方などの所定の部分空間をそれぞれカバーする複数の狭センシング領域とで、それぞれ、物体の存在や動きをセンスする。まず、広センシング領域でのセンス結果から、人がトイレブース内に入ったか否か判断され、人が入ったと判断された後、複数の狭センシング領域出のセンシング結果から、不審者又は不審物の有無が判断される。不審者又は不審が検出されると、それが隣のトイレブースや、トイレブースの近く居る人々に通報される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトイレのような或る施設又は空間において、不審者、異常者あるいは不審物を自動的に検知して、防犯や救助などに役立つような情報出力を行なうセキュリティシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
トイレのセキュリティに関して、例えば特許文献1から3に開示された発明が知られている。
【0003】
特許文献1には、住宅内に電波を送信し、住宅内からの反射波を受信し、両者間のドップラ信号により、住宅内の人の動作状態を把握し、把握されて動作状態に応じて住宅内の機器をコントロールすることや、特に廊下やトイレなどの空間では、把握された動作状態から、人が居るにもかかわらず長時間動いた形跡が無いと判断されると、異常を警備会社へ通知する住宅内機器制御装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、人体センサやドア開閉センサなどを用いてトイレの使用の有無を検知し、使用時間があまりに長い場合には、使用者に何らかの異常が発生したと考えられるため、異常信号を出力する異常監視システムが開示されている。
【0005】
特許文献3に開示されたトイレブースシステムは、自動ドアを備えたトイレブース内の人体を検知し、人体が検知されているときには、ブース内からの自動ドア開閉操作を、ブース外からのそれより優先させたり、人体が検知されている時間がある程度長くなると、その旨をブース外に通知したり、自動ドアを強制的に開錠したりする。
【0006】
また、浴室内のセキュリティに関しては、例えば特許文献4に開示された発明が知られている。特許文献4に開示された浴室内人体検知装置は、マイクロ波を送信して人体の位置や動きを検知するマイクロ波センサを用いて浴室内を操作し、浴室内に人が居るにもかかわらず、マイクロ波センサにより人の動きが検知されない場合、異常と判断する。
【0007】
また、隠しカメラや隠しマイクからユーザの安全を図るためのものとして、特許文献5に開示された発明がある。特許文献5に開示された隠しカメラ検知装置は、ユーザに携帯され、スポット光または指向性のある電波を周囲に発射して、隠しカメラ又はこれに類似する物体を検出する。
【0008】
【特許文献1】特開2001−238272号公報
【特許文献2】特開2001−307247号公報
【特許文献3】特開2002−188204号公報
【特許文献4】特開2002−24958号公報
【特許文献5】特開2002−156464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1から4に記載された従来技術は、トイレ内や浴室内で人が倒れたり動けなくなったりした場合に、それを外部へ知らせて、その人を救護する目的に有用である。また、特許文献5に記載されたものは、ユーザから見渡せる範囲に隠しカメラなどが配置されていた場合に有効である。
【0010】
しかしながら、特に例えば女性用の公衆トイレなどで、上記問題より一層多発し重大な問題は、例えば利用者本人が入っているブースの隣のブースに犯罪目的をもった者が潜んでいたり、その隣のブースに隠しカメラが設置されていて、それが本人のブース内を覗いていたりというように、利用者本人からは直接アクセスできない場所に隠れ潜んでいる不審者や不審物の危険である。言うまでも無いが、こうした危険を事前に察知して適切な回避行動をとれるようユーザを助けることは、非常に有意義である。
【0011】
しかし、上述した従来技術によれば、ブース内に潜む不審者を自動的に検知することは、非常に困難である。なぜなら、身体異常で動けなくなった人と違って、不審者も動くから、従来技術のように単にブース内で人の動きが無くなったことを検知するだけでは、不審者と通常の人とを峻別することは困難だからである。特に女性用トイレブースの場合、ストッキングを履き替えたり着替えたりという行為もよく行なわれるため、この事実を考慮に入れた上でブース内の人の動きを判断しないと、不審者と普通の利用者とを峻別することができない。さらに、一つのトイレブースに複数人が入っている場合、犯罪行為が行なわれている可能性が非常に高いのであるが、この状態を検知することは上述した従来技術ではできない。
【0012】
さらに、上述した危険からの回避行動をユーザに好機にとらせるために有効な通報も、上述した従来技術では提供されていない。
【0013】
上述した危険は女性用トイレにおいて特に顕著であるが、そこだけに限られた問題ではなく、トイレ以外の施設や空間においても存在し得る。
【0014】
従って、本発明の目的は、トイレやその他の施設や空間において、隠れ潜む不審者又は不審物などの危険を自動的に検知することにある。
【0015】
別の目的は、特にトイレブース内に隠れ潜む不審者又は不審物などの危険を自動的に検知することにある。
【0016】
また別の目的は、トイレやその他の施設や空間において、隠れ潜む危険が検知された場合、その危険から回避行動をとれるようユーザを援助することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の側面に従えば、隔壁で互いに隔てられた複数の空間の各々における異常対象を検出して通報するためのセキュリティシステムは、各空間内に存在する人又は物を検出し、検出された人又は物が異常対象であるか否かを判断する検出手段と、検出手段により各空間内で前記異常対象が検出された場合、各空間の隣の空間内の人に、異常を通知する報知手段とを備える。
【0018】
このセキュリティシステムによれば、各空間内に異常対象が潜んでいた場合、それを自動的に検出して、その隣の空間に居る人々に通報して、その人が危険回避行動を適時にとることを助けることができる。
【0019】
好適な実施形態では、公衆トイレ施設のトイレルーム内に設置された複数のトイレブースの各々が上記各空間とされ、よって、各トイレブース内の不審者や不審物の検出にこのセキュリティシステムが利用される。
【0020】
報知手段は、各空間内で異常対象が検出されたか否かという異常状態だけでなく、各空間内に人が入っているか否かという使用状態も、隣の空間内の人に通報するようにしてもよい。それにより、セキュリティがさらに向上する。
【0021】
報知手段は、また、各空間の隣の空間の人だけでなく、各空間の外における近傍に居る人にも、各空間の使用状態や異常状態を通報するようにしてもよい。それにより、各空間の外の近傍に居る人が危険回避行動を適時にとることを助けることもできる。
【0022】
また、報知手段は、前記複数の空間の使用状態と異常状態をまとめて通報するようにしてもよい。
【0023】
検出手段は、各空間内に、それぞれ人又は物を検出するための第1と第2のセンシング領域を有し、第1と第2のセンシング領域のセンシング結果に基づいて、各空間内で人又は物を検出し、そして、検出された人又は物が異常対象であるか否かを判断するように構成されることができる。このように、各空間内に、複数のセンシング領域が設定され、その複数のセンシング領域からのセンシング結果に基づいて異常対象(例えば、不審者や不審物)の有無が判断されることにより、異常対象の検出精度が向上する。
【0024】
上記の第1のセンシング領域は、各空間の平面領域のほぼ全体をカバーする広センシング領域とすることができ、また、第2のセンシング領域は、広センシング領域より狭く、各空間の所定の部分的な空間領域に限定された狭センシング領域とすることができる。そして、広センシング領域でのセンシング結果に基づいて、各空間内に人が入っているか否かを判断するようにしてよく、その結果、人が入っていると判断された場合に、狭センシング領域でのセンシング結果に基づいて、その人が異常対象かどうかを判断するようにしてよい。広センシング領域を用いて人が入っているか否かを判断することにより、各空間内に人が入る経路に左右されずに、人が入ったことを検出できる。人が入ったことが検出された場合に、狭センシング領域を用いて異常対象の有無を判断することで、異常対象の検出精度が向上する。
【0025】
狭センシング領域を適切に設定することにより、異常対象の検出精度が向上する。例えば、各空間の隣の空間からの隔壁の近傍の領域に、狭センシング領域を設定することができる。不審者は、このような壁の近傍に、通常の使用者よりも長く留まると推測されるからである。或いは、通常の使用者はそこには入らない又は長くそこに居続けることがない特定の領域が存在する場合、その特定の空間領域に狭センシング領域を設定するようにしてもよい。
【0026】
特定空間内に設定できる狭センシング領域は1つだけに限られない。空間的に異なる複数の狭センシング領域を特定空間内に設定し、それぞれの狭センシング領域でのセンシング結果を総合的に利用して、異常対象の検出を行うようにすることができる。それにより、検出精度が一層向上する。
【0027】
スキャン型物体センサを使って、各空間をスキャンすることで、各空間内の全体領域及び種々の部分領域の全てにおける検出を行うことも可能である。すなわち、各空間を複数の区画に分割し、そして、スキャン型物体センサにより、一度にほぼ一区画ずつセンシングしながら、複数区画をスキャンする。全ての区画をスキャンして得られた全区画での検出結果が、全体領域での検出結果に相当し、各区画での検出結果が、各区画に対応した部分領域での検出結果に相当する。
【0028】
スキャン型物体センサの構成には、次の構成が採用できる。すなわち、基板上に複数の給電素子と複数の無給電素子とからなるマイクロストリップアンテナ電極アレイが配置される。このマイクロストリップアンテナ電極アレイから、スキャン型狭センシング領域を形成するための電波が送信される。マイクロストリップアンテナ電極アレイ中のそれぞれの無給電素子を選択的に接地するスイッチが設けられる。そのスイッチの操作により、接地される無給電素子の選択を変えることができ、それにより、マイクロストリップアンテナ電極アレイから送信される電波の指向方向、つまりスキャン型狭センシング領域の指向方向を変化させて、トイレブース内をスキャンすることができる。
【0029】
このような構造のスキャン型物体センサを用いることで、高速スキャンが可能になり、複数の異なる部分領域での実質的に同時的な検出や、トイレブース内での人の移動の追尾や、複数人の検出などが容易になり、その結果、異常対象の検出精度が一層向上する。
【0030】
本発明の別の側面に従えば、隔壁で互いに隔てられた複数の空間の各々における異常対象を検出して通報するための方法は、各空間内に存在する人又は物を検出するステップと、検出された人又は物が異常対象であるか否かを判断するステップと、各空間内で異常対象が検出された場合、各空間の隣の空間内の人に、異常を通知するステップとを備える。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、公衆トイレ施設内の複数のトイレブースの各々のような各空間に隠れ潜む不審者又は不審物など異常対象を自動的に検知して、その空間の隣の空間にいる人に、異常対象の存在を知らせて、その人が適時に危険回避行動をとることを助けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。本発明のセキュリティシステムは、不審者や不審物などの危険の発生可能性がある種々の施設または空間に適用可能であるが、以下では、一例として、公衆トイレ施設に適用された本発明の実施形態を説明する。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態にかかるセキュリティシステムが適用される公衆トイレ施設の一例を示す平面図である。
【0034】
図1に示すように、公衆トイレ施設100は、例えば、女性用セクション102、男性用セクション104及び車椅子用セクション106に分かれる。女性用と男性用のセクション102,104の各々は、1つのトイレルーム108からなり、そこには複数のトイレブース110が設けられている。車椅子用セクション106も、一つのトイレルーム108からなり、そこには1つのトイレブース110がある。ここで、「トイレルーム」とは、複数人が同時に使用できる開かれたトイレ空間を指し、「トイレブース」とは、錠付きドアと壁で四方を囲まれた同時に一人だけが使用する閉じられたプライベートなトイレ空間を指す。また、トイレルーム108内のトイレブース110以外のパブリックな空間112を、「トイレパブリックスペース」とこの明細書では呼ぶ。
【0035】
図2は、上述した公衆トイレ施設100に適用される本発明の一実施形態にかかるセキュリティシステムの全体構成を示す。
【0036】
図2に示すように、本発明の一実施形態にかかるセキュリティシステムは、公衆トイレ施設100内の複数のトイレブース110にそれぞれ設置された複数の物体センサ114を有する。各トイレブース110には1個以上の物体センサ114が設置され、各物体センサ114は、各トイレブース110内での人又は物の有無、動き及び/又は位置に応じた信号を出力し、その出力信号は制御装置116に入力される。制御装置116は、公衆トイレ施設100内又は外の適当な場所に配置されるか、或いは、複数の物体センサ114に分散されて配置され得る。制御装置116には、複数の報知装置118が接続され、これらの報知装置118は、複数のトイレブース110内、3つのトイレルーム108のトイレパブリックスペース111内、及び/又は、公衆トイレ施設100の周辺場所にそれぞれ設けられる。
【0037】
制御装置116は、各トイレブース110に設置された1個以上の物体センサ114からの出力信号に基づいて、各トイレブース110内における不審者及び/又は不審物の有無を判断する。そして、制御装置116は、その判断結果に基づいて、複数の報知装置118の中の1個以上のものを駆動する。
【0038】
ここで、検出ターゲットの一つである「不審者」とは、トイレブース110の通常の使用行為(例えば、用便や着替えなど)とは異なるトイレブース110内での異常な行動、典型的には、例えば、覗き、待ち伏せ、異物設置及び複数人同時使用のように、他人に危害を与える虞のある行動を指し、さらに、身体異常によりトイレブース110内で倒れたり動けなくなったりした場合のように、その人自身に危害がおよぶ虞のある行為又は状態も含まれる。また、「不審物」とは、トイレブース108の本来の設備とは異なる外来の物体、典型的には、例えば、隠しカメラ、隠しマイク、危険物のように、他人に危険や迷惑を及ぼす虞のある物体を指す。これら「不審者」と「不審物」を纏めて、「異常対象」とこの明細書では総称する。
【0039】
この実施形態にかかるセキュリティシステムには、各トイレブース110内の異常対象を一層精度良く検出するための新規な検出技術が採用されている。また、このセキュリティシステムには、異常対象の存在を、異常対象から害を被る虞のある人々(例えば、異常対象が存在するトイレブース110の隣のトイレブース110内に居る人、トイレパブリップスペース111内に居る人々、或いは、公衆トイレ施設100の周辺に居る人々など)に迅速に通知して、被害を未然に防ぐための新規な通報技術も採用されている。
【0040】
以下、この実施形態にかかるセキュリティシステムの詳細について説明する。まず、異常対象を一層精度良く検出するための検出技術について説明する。
【0041】
図3は、一つのトイレブース110の構造例を示す斜視図である。
【0042】
図3に示すように、トイレブース110は、天井120と床122を有する。また、トイレブース110は、4枚の壁、すなわち、正面壁124、背面壁126及び左右の側面壁128により包囲されている。正面壁124には、このトイレブース110に出入りするための錠付きのドア130が設けられる。左右の側面壁128はそれぞれ隣のトイレブース(図3では図示せず)からの隔壁になっている。トイレブース110内の背面壁126の近傍には、洋式の便器132が設置されており、便器132は前方(正面壁124に向かう方向)を向いている。便器132上には、人体洗浄機能を持った便座装置134が取り付けられており、便座装置134のためのリモートコントローラ136が、一方の側壁128上に固定されている。さらに、背面壁126の上部には、物置棚138が設けられている。なお、図3に示されたトイレブース110の構造は単なる例示にすぎず、これとは違う構造であっても勿論よいのであるが、以下では、説明の都合上、図3に示されたトイレブース110の構造例を前提として、トイレブース110内の異常対象を精度良く検出するための構成を説明する。
【0043】
このトイレブース110の天井120の略中央部には一つの物体センサ114が設置されており、この物体センサ114のセンシング領域はトイレブース110内に設定されている。物体センサ114は、例えば、マイクロ波のような電波をそのセンシング領域に送信し、センシング領域からの反射電波を受信する電波センサ、特に、送信波と受信波との間のドップラ信号を検波する機能を持つドップラセンサが、人や物体の動きを検出できるという利点を持つために、好適に使用される。勿論、他の種類のセンサ、例えば、送信波と受信波との間の時間差や受信波の強度を検出するドップラセンサ以外の電波センサや、電波に代えて赤外線を送信し受信する赤外線センサ(アクティブ赤外線センサ)、或は、専ら人体や物体から発射される赤外線を受信する焦熱センサ(パッシブ赤外線センサ)なども、物体センサ114として用いられてもよい。或は、床などに設置されて、その上に人や物体が載っているか否かを検出する圧力センサや、ある位置に光ビームを通して、その光ビームを人や物体が横切ったか否かを検出する光学センサなども、物体センサ114として用いられてもよい。このように、物体センサ114の構造には種々のバリエーションがあるが、カメラだけは採用されない。このようにカメラ以外の物体センサ114を用いてトイレブース110内を監視しても、トイレブース110の善良な利用者のプライバシーが侵害される虞は全くない。
【0044】
なお、以下の説明では、説明の都合上、物体センサ114として、受信波の強度を検出する機能とドップラ信号を検出する機能の双方を備えた電波センサが用いられるものとする。
【0045】
物体センサ114は、少なくとも2種類のセンシング領域を有する。第1の種類のセンシング領域は、トイレブース110内の実質的に全体空間に広がった領域であり、以下、「広センシング領域」という。第2の種類のセンシング領域は、トイレブース110内の特定の狭い空間に限定された領域であり、以下、「狭センシング領域」という。狭センシング領域は、特に、そこに人又は物体が存在すること自体が、又は、そこに人又は物体があまり動かずにある程度の長い時間にわたり存在し続けることが、不自然である(すなわち、そのような人又は物体は、用便や着替えをする通常のトイレ利用者であるより、むしろ、異常対象である可能性の方が高い)と判断できるトイレブース110内の空間領域に相当し、その具体例は、後に説明される。単に一つの狭センシング領域だけが設けられてもよいが、好適には、異なる複数の狭センシング領域が設けられてよい。物体センサ114が電波や赤外線や光などを用いた非接触型のセンサである場合、上記のようにセンシング領域を制御できるような指向性をもつことが望ましい。物体センサ114又は制御装置116には、さらに、上記のような異なるセンシング領域を、時間分割、周波数分割、空間分割、又は後述するようなスキャニング法を用いて形成して、使い分ける機能が搭載される。このように広センシング領域と狭センシング領域とを使い分けることが、トイレブース110内の異常対象の検出精度を向上させる一つの要因となる。
【0046】
上記のように複数のセンシング領域を使い分ける目的から、物体センサ114は必ずしも一つである必要は無く、それぞれ異なるセンシング領域をもった複数の物体センサ114が設けられても良い。また、各物体センサ114の設置箇所も、必ずしも天井120である必要はなく、トイレブース11の他の箇所に設置されてもよい。例えば、図3に点線で例示されているように、床122の特定領域(特に、上述した第2の種類のセンシング領域に相当する領域)に、物体センサ114としての圧力センサが設置されてもよい。或は、便器132の前部又は側面部、便座装置114の本体内、便座装置114のリモートコントローラ136内、又は物置棚138などに、物体センサ114としての電波センサ、超音波センサ、焦熱センサ又はアクティブ赤外線センサなどが設置されてもよい。いずれにせよ、物体センサ114は、公衆トイレ施設100を使用する人々から見えないように隠蔽されて設置されることが望ましい。
【0047】
ところで、物体センサ114の配置箇所として、便座装置114のようにリモートコントローラ136を有する機器が用いられた場合、そのリモートコントローラ136を物体センサ114と通信可能に構成して、そのリモートコントローラ136を、物体センサ114と制御装置116との間の信号中継器、制御装置116それ自体、又は、報知装置118として機能するように構成することもできる。
【0048】
また、図3に示すように、トイレブース110内の一つの側壁128に、一つの報知装置118が設置される。このトイレブース110内の報知装置118の主な用途は、このトイレブース110以外の他のトイレブース(特に、隣のトイレブース)内で異常対象が検出された場合に、その旨をこのトイレブース110内の使用者に知らせることである。また、別の報知装置118が、トイレブース110の正面壁124の外面に設置されている。このトイレブース110外の報知装置118の主な用途は、このトイレブース110内で異常対象が検出された場合に、その旨をこのトイレブース110外(特に、トイレパブリックスペース112)に居る人々に知らせることである。各報知装置118として、LEDランプ、液晶表示パネル又は音声出力装置など種々の出力装置が使用できる。報知装置118の設置箇所や機能については、上述した例示以外にも種々のバリエーションが採用し得るが、その具体例は後に説明される。
【0049】
図4Aと図4Bは、物体センサ114がトイレブース110内に有する広センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0050】
図4Aと図4Bに示すように、広センシング領域140は、天井120の略中央部に設置された物体センサ114からトイレブース110内に下方へ広角に広がりながら延び、人が存在すれば通常その高さに存在する筈である高さ範囲(例えば、1m程度以下の範囲)では、トイレブース110の平面領域のほぼ全域をカバーする。従って、トイレブース110内に人又は物体が入れば、その人又は物体はほぼ必ず広センシング領域140の何処かの部分にひっかかることになり、よって、その人又は物体の存在は物体センサ114によりほぼ必ず検出され得る。広センシング領域140による検出能力は、トイレブース110内に入る経路には影響されない。すなわち、必ずしもトイレブース110の正面のドアから入らなくても、隣のブースから側壁を乗り越えてこのトイレブース110内に入っても、或は、このトイレブース110に窓がある場合にその窓からこのトイレブース110内に入っても、このトイレブース110内に入った人又は物体はほぼ確実に広センシング領域140によって検出される。後述するように、この観点から、広いセンシング領域140での検出信号が制御装置116で処理されるようになっている。
【0051】
図5Aと図5Bは、物体センサ114がトイレブース110内に有する狭センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0052】
図5Aと図5Bに示すように、狭センシング領域142Aは、天井120の物体センサ114から狭角に、ドアのある正面壁124に向かって斜め下方へ延びており、正面壁124の或る高さ範囲の領域をカバーし、かつ、便器132からはかなり離れている。すなわち、もし、人が正面壁124に寄り添うように立っていたり或はしゃがんでいたりしたならば、その人はほぼ確実に狭センシング領域142Aにひっかかって検出されるが、一方、用便のために便器132に座っている人はこの狭センシング領域142Aにはひっかからないように、この狭センシング領域142Aが設定されている。なお、以下の説明では、この狭センシング領域142Aのように正面壁124の近傍の領域をセンスするためのセンシング領域を、「A型狭センシング領域」と呼ぶ。用便や着替えなどの通常のトイレ使用の場合には、利用者がA型狭センシング領域142Aに長い時間にわたり居続けることは少ない。後述するように、この観点から、A型狭センシング領域142Aでの検出信号が制御装置116で処理されるようになっている。
【0053】
図6Aと図6Bは、物体センサ114がトイレブース110内に有する狭センシング領域の別の例を示すトイレブース110の平面図と正面図である。
【0054】
図6Aと図6Bに示される狭センシング領域142Bは、天井120の物体センサ114から狭角に、左右の側壁(隣のトイレブースとの隔壁)128に向かって斜め下方へ延びており、側面壁128の或る高さ範囲の領域をカバーし、かつ、便器132からはかなり離れている。すなわち、もし、人がいずれかの側面壁128に寄り添うように立っていたり或はしゃがんでいたりしたならば、その人はほぼ確実にこの狭センシング領域142Bにひっかかって検出されるが、一方、用便のために便器132に座っている人はこの狭センシング領域142Bにはひっかからないように、この狭センシング領域142Bが設定されている。以下では、この狭センシング領域142Bのように、トイレブース110の側壁(隣のトイレブースとの隔壁)128の近傍の領域をセンスするための狭センシング領域を、「B型狭センシング領域」と呼ぶ。用便や着替えなどの通常のトイレ使用の場合には、利用者がB型狭センシング領域142Bに長い時間にわたり居続けることは少ない。後述するように、この観点から、B型狭センシング領域142Bでの検出信号が制御装置116で処理されるようになっている。
【0055】
図7Aと図7Bは、物体センサ114がトイレブース110内に有する狭センシング領域のまた別の例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0056】
図7Aと図7Bに示される狭センシング領域142Cは、天井120の物体センサ114から狭角に斜め下方かつ後方へ延びており、便器132の便座より後方(すなわち、便座に座った使用者からみて後方)の背面壁126近傍の空間領域(図示の例の場合、便器132の後方左右脇の2つの空間領域)をカバーしている。すなわち、もし、人が便器132の便座より後方に立っていたり或はしゃがんでいたりしたならば、その人はほぼ確実にこの狭センシング領域142Cにひっかかって検出されるが、一方、用便のために便器132に座っている人はこの狭センシング領域142Cにはひっかからないように、この狭センシング領域142Cが設定されている。以下では、この狭センシング領域142Cのように、トイレブース110の便器132の便座より後方の領域をセンスするための狭センシング領域を、「C型狭センシング領域」と呼ぶ。用便や着替えなどの通常のトイレ使用の場合には、利用者がC型狭センシング領域142Cに入ることは滅多に無い。後述するように、この観点から、C型狭センシング領域142Cでの検出信号が制御装置116で処理されるようになっている。
【0057】
図8Aと図8Bは、物体センサ114がトイレブース110内に有する狭センシング領域の更に別の例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0058】
図8Aと図8Bに示される狭センシング領域142Dは、天井120の物体センサ114から狭角に下方へ延びており、便器132の前部及び前方近傍の空間領域をカバーしている。すなわち、用便や着替えなどの通常のトイレ使用の場合には、その利用者はほぼ確実にこの狭センシング領域142Dにひっかかって検出されるとともに、もし、その利用者が身体異常などで倒れたり動けなくなったりした場合にも、その利用者はほぼ確実にこの狭センシング領域142Dにひっかかって検出されるように、この狭センシング領域142Dが設定されている。以下では、この狭センシング領域142Dのように、便器132の前部及び前方近傍の空間領域などの、通常にトイレブース110を使用する利用者が最も頻繁に存在する空間領域をセンスするための狭センシング領域を、「D型狭センシング領域」と呼ぶ。D型狭センシング領域142Dは、そこに人が入る頻度が最も多い領域であるが、しかし、そこで人が殆ど動かずに或る程度の長い時間居続けるに場合には、身体異常で動けなくなっていたり或いは犯罪目的を持った者である可能性がある。後述するように、この観点から、D型狭センシング領域142Dでの検出信号が制御装置116で処理されるようになっている。
【0059】
図9Aと図9Bは、物体センサ114がトイレブース110内に有する狭センシング領域の更にまた別の例を示すトイレブース110の平面図と正面図である。
【0060】
図9Aと図9Bに示される狭センシング領域142Eは、天井120の物体センサ114から狭角に斜め下方へ延びて、トイレブース110内に設置された手すり144の近傍の空間領域をカバーしている。この狭センシング領域142Eのように、トイレブース110内の手すり144の近傍の空間領域をセンスするための狭センシング領域を、「E型狭センシング領域」と呼ぶ。発明者らの調査によれば、トイレブース110内で特に着替えを行っている利用者は、手すり128で身体を支えることが多いため、E型狭センシング領域142Eにひっかかって検出される可能性が高い。しかし、通常の利用者だけでなく、不審者も、手すり128を身体を支えやその他の目的に利用する可能性が高いと考えられ、E型狭センシング領域142Eにひっかかって検出される可能性が高い。ただし、不審者は、着替えをしている人ほどには目立った動きをしない筈である。この観点から、E型狭センシング領域142Eでの検出信号が制御装置116で処理されるようになっている。
【0061】
図10Aと図10Bは、物体センサ114がトイレブース110内に有する狭センシング領域の更にまた別の2つの例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0062】
図10Aと図10Bには、高さ範囲において異なる2つの狭センシング領域142F,142Gが示されている。一方の狭センシング領域142Fは、トイレブース110の床122にまで到達しており、主として床122に近い低い高さ範囲において、トイレブース110の平面領域のほぼ全体をカバーする。このように床122に近い低い高さ範囲の空間領域をセンスするための狭センシング領域を、以下、「F型狭センシング領域」という。もう一方の狭センシング領域142Gは、或る程度に高い高さ範囲(例えば、人が立っていたり便座132に腰掛けているときには入るが、床に倒れていたり伏せているようなときには入らないような高さ範囲)に設定され、その高さ範囲において、トイレブース110の平面領域のほぼ全体をカバーする。このように或る程度に高い高さ範囲の空間領域をセンスするための狭センシング領域を、以下、「G型狭センシング領域」という。通常の利用者は、F型とG型のセンシング領域142F,142Gの双方で検出されるであろうが、あまりに長い時間にわたりF型とG型のセンシング領域142F,142Gの一方又は双方で存在が検出される場合には、異常対象の可能性が高い。また、身体異常で床122に倒れていたり、或は、カメラ設置や覗きなどのために床122に伏せていたり低くかがんでいたりする人は、F型狭センシング領域142Fでは検出されず、G型狭センシング領域142Gで検出されるであろう。また、床122又はその付近に不審物が設置された場合には、F型狭センシング領域142Fでの受信信号強度に、時間軸上の設置前後間で変化が生じるであろう。この観点から、F型とG型狭センシング領域142F,142Gでの検出信号が制御装置116で処理されるようになっている。
【0063】
以上、広センシング領域140と、幾つかの狭センシング領域142A〜Gの例を説明した。好ましくは、広センシング領域140と、A型からG型までの狭センシング領域142A〜142Gの全てとが組み合わせて使用されるが、しかし、広センシング領域140と一部の型の狭センシング領域だけの組み合わせで使用されてもよい。上述した例では、異なるセンシング領域を一つの物体センサ114で形成できるようにするために、物体センサ114は、それぞれのセンシング領域を順番に形成するように電波送受信の指向範囲を可変できる性能を持つか、或は、その内部に、それぞれのセンシング領域に対応した異なる電波送受信の指向範囲をそれぞれ有する複数の電波送信アンテナと受信アンテナのセットを有する。
【0064】
異なるセンシング領域をそれぞれ別の物体センサで形成するようにしてもよい。また、それぞれの物体センサを天井以外の場所に設置してもよい。そのような変形例の幾つかを以下に示す。
【0065】
図11Aと図11Bは、A型狭センシング領域142Aを形成するための変形例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0066】
図11Aと図11Bに示される変形例では、広センシング領域140を形成する物体センサ114とは別に、物体センサ114Aが天井120における正面壁124の近くの位置に設置され、その物体センサ114Aが、正面壁124に沿って下方へ延びる、正面壁124の近傍だけに限定されたA型狭センシング領域142Aを形成する。図11Aと図11Bに例示されたA型狭センシング領域142Aと、前述した図5Aと図5Bに例示されたA型狭センシング領域142Aとは、具体形状においては若干異なるが、トイレブース110内の正面壁124の近傍の空間だけを選択的にセンシングする役割においては同じである。
【0067】
図12Aと図12Bは、B型狭センシング領域142Bを形成するための変形例を示すトイレブース110の平面図と正面図である。図12Cは、また別の変形例を示すトイレブース110の平面図である。
【0068】
図12Aと図12Bに示される変形例では、広センシング領域140を形成する物体センサ114とは別に、2つの物体センサ114Bが天井120における左右の側面壁128の近くの位置にそれぞれ設置され、各物体センサ114Bが、各側面壁128に沿って下方へ延びる、各側面壁128の近傍だけに限定されたB型狭センシング領域142Bを形成する。或は、図12Cに示すように、連続的に設置されているトイレブース110の相互間の隔壁となっている各側面壁128の上部に、各側面壁128の両側にB型狭センシング領域142Bを形成するような物体センサ114Bを設けてもよい。そのようにすると、各側面壁128の両側のトイレブース110の双方を1つの物体センサ114Bで検知できる利点がある。図12A〜図12Cに例示されたB型狭センシング領域142Bと、図6Aと図6Bに例示されたB型狭センシング領域142Bとは、具体形状においては若干異なるが、トイレブース110内の空間のうち各側面壁128の近傍の空間だけを選択的にセンシングする役割においては同じである。
【0069】
図13Aと図13Bは、B型狭センシング領域142Bを形成するためのまた別の変形例を示すトイレブース110の平面図と、便器13にA−A線に沿った断面図である。
【0070】
図13Aと図13Bに示される変形例では、便器132の後部(例えば、便座より後方に存在する、内部にトラップ配管を有する部分)の空所内に、2つの物体センサ114Bが組み込まれており、各物体センサ114Bは、広がりながら各側面壁128の向かって延びる、各側面壁128の近傍の低い高さ範囲にだけに限定されたB型狭センシング領域142Bを形成する。図13Aと図13Bに例示されたB型狭センシング領域142Bと、図6Aと図6B又は図11Aと図11Bに例示されたB型狭センシング領域142Bとは、具体形状においては若干異なるが、トイレブース110内の空間のうち各側面壁128の近傍の空間だけを選択的にセンシングする役割においては同じである。
【0071】
図14Aと図14Bは、C型狭センシング領域142Cを形成するための変形例を示すトイレブース110の平面図と、便器13にA−A線に沿った断面図である。
【0072】
図14Aと図14Bに示される変形例では、背面壁126の上部に固定されている荷物棚138に、物体センサ114Cが取り付けられており、この物体センサ114Cは、便器136の便座後方に存在する、背面壁126の近傍の空間領域だけに限定されたC型狭センシング領域142Bを形成する。図14Aと図14Bに例示されたC型狭センシング領域142Cと、図7Aと図7Bに例示された左右2つのC型狭センシング領域142Cとは、具体形状においては若干異なるが、トイレブース110内の空間のうち便座後方の空間だけを選択的にセンシングする役割においては同じである。
【0073】
次に、スキャニング法を用いて広センシング領域や各種の狭センシング領域を形成するようにした変形例を説明する。
【0074】
図15Aと図15Bは、この変形例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0075】
図15Aに示すように、トイレブース110の平面領域が複数、例えば9つの区画S1〜S9に区分される。図15Bに示すように、天井120に設置された物体センサ114が、同時にほぼ一つの区画をカバーできるような狭く絞られた狭センシング領域142Sをトイレブース100内に形成し、その狭センシング領域142の指向方向を上下左右に変化させることで、狭センシング領域142Sによるトイレブース110の空間のスキャンを行う。スキャンのやり方としては、図16に示すように全ての区画S1〜S9を順次にチェックしていくラスタスキャンのようなやり方でも良いし、或いは、状況に応じてどの区画をチェックするかを柔軟に変更していくようなやり方でも良い。この狭センシング領域142Sのように、トイレブース110内の複数の区画をスキャンする狭センシング領域を、以下「S型狭センシング領域」と呼ぶ。
【0076】
図15Bに示すS型狭センシング領域142Sは、それがどの区画に向けられるかにより、既に説明した広センシング領域140及びA〜G型の狭センシング領域142A〜Gのいずれかに相当する役割を果たすことがができる。例えば、正面壁124に接した区画S1〜S3領域に向けられるときには、A型狭センシング領域142Aに相当する役割を、S型狭センシング領域142Sは果たすことができる。また、左又は右の側面壁128に接する区画S1,S4,S7又はS3,S6,S9に向けられるときにはB型狭センシング領域142Bに相当する役割を果たすことができ、また、便器132の後方の区画S7〜S9のときはC型狭センシング領域142Bに、便器132の前部及び前方近傍の区画S5nのときにはD型協センシング領域142Dに、手すり144の近傍の区画S1のときにはE型狭センシング領域Eに、それぞれ相当する役割を果たすことができる。また、S型狭センシング領域142Sによる全ての区画S1〜S9のスキャン結果は、広センシング領域140又はF型狭センシング領域142Fでのセンシング結果に相当する役割を果たす。S型狭センシング領域142Sを形成する送信波の強度を弱めて、図15Bに破線で示すようにS型狭センシング領域142Sが到達する最低高さを床122よりある程度高くすれば、S型狭センシング領域142SはG型狭センシング領域142Gとしての役割も果たすことができる。
【0077】
さらに、S型狭センシング領域142Sは、複数の区画S1〜S9の検出結果を時間軸上で比較したり区画間で対比したりするなどの方法で活用することにより、次のような独自のセンシング目的にも利用できる。例えば、複数の区画S1〜S9の検出結果を時間軸上で分析することで、人のトイレブース110内での移動を判断できる。また、例えば、複数の区画S1〜S9中の離れた2以上の区画、又は一人には相当しない程度の多くの区画で物体の存在又は動きが検出されるかどうかを調べることで、トイレブース110内に複数の人が入っているかどうかも判断できる。
【0078】
図17Aと図17Bは、S型狭センシング領域142Sを形成するための物体センサ114の構成の一例を示す断面図と平面図である。
【0079】
図17Aと図17Bに示された物体センサ114は、数GHz〜数十GHz程度のマイクロ波を送信し且つ受信するためのいわゆるマイクロストリップアンテナを備えた電波センサである。この物体センサ114は、絶縁材料性の回路基板150を有し、回路基板150の表面上に、多数のアンテナ電極のアレイを有する。すなわち、回路基板150の表面上に、複数の、例えば4つの、給電素子152がマトリックス配列で配置されている。これらの給電素子152の周囲近傍に、これらの給電素子152を包囲するようにして、より多くの数の無給電素子154が配置されている。給電素子152と無給電素子154の各々は、矩形の金属薄膜であり、それらが電波を送信し且つ受信するアンテナ電極として機能する。
【0080】
これらのアンテナ電極152、153のアレイの前面を覆うように、誘電体レンズ168が設けられる。誘電体レンズ168の材料には、比誘電率が比較的小さいポリエチレン、ナイロン、ポリプロピレン及びフッ素系樹脂などが好ましく、その中でも、難燃性や耐薬品性を考慮するとナイロン及びポリプロピレンが好ましく、耐熱性や耐水性まで考慮するとPPSが好ましい。また、誘電体レンズ168を小型化又は薄型化したい場合は、誘電体レンズ168の材料には比較的誘電率が高いアルミナやジルコニアなどのセラミック材料を使用するとともに、誘電体レンズ168の表面を誘電率が比較的小さい上記樹脂材料の薄膜で被覆して誘電体レンズ168内での反射を抑制するように構成するとよい。
【0081】
給電素子152には給電配線158を通じて、励振用の高周波電力が直接供給されるが、無給電素子154には励振用の高周波電力は直接供給されない(ただし、給電素子152との誘導結合を通じて高周波電力が供給される)。回路基板150の裏面上には、励振・検波回路156と、これに接続された給電配線158が設けられ、さらに、給電配線158と各給電素子152とが、給電素子152の背後で回路基板150を貫通するように設けられたスルーホール配線160を介して接続される。励振・検波回路156は、励振用の高周波電力を発生して各給電素子152に供給するとともに、各給電素子152からの受信波信号を受信して、受信波の強度を検出したり、送信波と受信波間のトップラ信号を検出したりする。
【0082】
回路基板150の裏面上には、さらに、それぞれの無給電素子154に1対1に対応した複数のスイッチ162と、アース電位に保たれるアース電極166とが設けられる。各スイッチ162の一方の端子はアース電極166に接続され、各スイッチ162の他方の端子は各無給電素子154に、各無給電素子154の背後で回路基板150を貫通するように設けられたスルーホール配線164を介して接続される。励振・検波回路156は、励振用の高周波電力を発生して各給電素子152に供給するとともに、各給電素子152からの受信波信号を受信して、受信波の強度を検出したり、送信波と受信波間のトップラ信号を検出したりする。各スイッチ162は、外部からの制御信号でON/OFFするようになっており、普段はOFFの状態にある。
【0083】
このような構成をもつ物体センサ114において、多数のアンテナ電極152,154のアレイを採用することにより、大きいアンテナゲインが得られる。発射される電波ビーム(換言すればセンシング領域)の指向性はアレイ化されたアンテナ電極152,154の個数に左右され、アンテナ電極152,154の個数が多いほど指向角度は狭角になり、少ないほど広角になる。
【0084】
アンテナ電極152,154のアレイの電波放射面を覆う誘電体レンズ168は、アンテナゲインを向上させ、指向角をより狭角にする。指向角がより狭角になれば、同時にセンシングされる区画の面積が小さくなる、つまり、センシングの空間的分解能が向上するから、より精度の高い検出が可能になる。
【0085】
各スイッチ162のON/OFFにより、各無給電素子154を接地状態にするかフロート状態にするかが切り替えられる。給電素子152の周囲に配置された複数の無給電素子154のどれを接地し且つ接地しないかを選択することにより、電波ビーム(センシング領域)の指向方向を変化させる(つまり、スウィングさせる)ことができる。すなわち、全ての無給電素子154がフロート状態にあるときには、電波ビーム(センシング領域)の指向方向は回路基板150に対して垂直である。一部の無給電素子154が選択的に接地されると、電波ビーム(センシング領域)の指向方向は垂直方向から、接地された無給電素子154と給電素子152との位置関係に応じた方向に傾く。従って、接地する無給電素子154を切り替えていくことで、電波ビーム(センシング領域)を上下左右にスウィングさせて、トイレブース110のスキャンを行うことができる。
【0086】
このように電気的な制御で電波ビームのスウィングを行なうことにより、モータなどを使って機械的にスウィングを行なう構成と比較して、高速にスキャニングができる。例えば、トイレブース110の全体のスキャンを約1秒の周期で繰り返すことは容易であり、この程度に高速なスキャニングを行うと、既に説明したような、トイレブース110内での人の移動の追尾や、複数人の検出が容易である。また、物体センサ114を機械的に動かす機構が不要なので、物体センサ114を小型にすることも容易である。
【0087】
なお、図16A及び図16Bに示した物体センサ114の構造は、センシング領域をスウィングさせる用途だけでなく、広センシング領域140やA〜F型狭センシング領域142A〜Fなどのような異なるセンシング領域を1つの物体センサ114で作る用途にも利用できる。その場合、指向角度を広角と狭角とに切り替える方法として、複数の無給電素子154の中で接地される無給電素子の数を増減する方法や、誘電体レンズ168を移動させてアンテナ電極152,154のアレイの正面前に誘電体レンズ168を置くか置かないかを切り替える方法などが採用できる。
【0088】
次に、この実施形態にかかるセキュリティシステムにおいて制御装置116が行う、物体センサ114からのセンサ信号に基づいて異常対象の有無を判断する処理について説明する。
【0089】
図18は、制御装置116が行う異常対象の有無を判断する処理の流れを示す。
【0090】
この処理では、広センシング領域140とA〜G型の狭センシング領域142A〜142Gの全ての領域でのセンシング結果が使用されるものとする。なお、これらのセンシング領域140,142A〜Gに代えて、S型狭センシング領域142を、先述したようにして使用することもでき、その場合にも以下の説明する処理が適用可能である。
【0091】
この処理において、制御装置116に入力される物体センサ114からのセンサ信号には、受信波の強度を示す受信波信号及び送信波と受信波間のドップラ信号が含まれる。受信波信号は、人や物体が動いているか否かにかかわらず、人や物体の有無を良く表すことができる。ドップラ信号は、人や物体の動きをよく表すことができる。なお、トイレブース110内に設備されてる便器、手洗い器、棚、紙巻き器等の備品が、異常対象の検出の支障にならないようにするために、センサ信号を処理する際に予め、その備品からの反射波による信号成分を演算処理し取り除いたり、或いは、必ずしもセンスしなくてもよい場所に配置されている備品については、その場所をセンシング領域から除外するように電波の放射方向を制御することができる。
【0092】
図18に示すように、制御装置116は電源が入った後にこの処理をスタートし(ステップ170)、まず、物体センサ114に広センシング領域140をセンスさせ、広センシング領域140から得られたセンサ信号を分析する(ステップ172)。制御装置116は、広センシング領域140からの受信波信号及び/又はドップラ信号の振幅の変化などから、トイレブース110内に人が入ったか否かを判断する(ステップ174)。判断に使用される広センシング領域140はトイレブース100のほぼ全体領域をカバーしているので、人がドア130を通じてトイレブース110内に入った場合だけでなく、隣のトイレブースから側面壁128を乗り越えて入った場合や、トイレブース110に窓がある場合にその窓から侵入した場合にも、すなわち、どのような方法でトイレブース110に入っても、これを確実に検出することができる。
【0093】
その結果、トイレブース110内に人が入ったことが検出されると、制御装置116は、物体センサ114に広センシング領域140だけでなく、A〜G型狭センシング領域142A〜Gもセンスさせ、それぞれのセンシング領域140,142A〜Gからのセンサ信号を分析する(ステップ178)。この分析においては、トイレブース110内に異常対象が存在するか否か、及び、トイレブース110から人が出て行ったか否かが判断される。異常対象が存在するか否かの判断方法は、後に詳述する。また、トイレブース110から人が出て行ったか否かの判断については、例えば、全てのセンシング領域140,142A〜Gで物体の存在が検出されなくなれば、退出したと判断することができる。
【0094】
その結果、異常対象が検出されると(ステップ178)、制御装置116は、その旨をトイレルーム108内やトイレルーム108の近傍に入る他の人々に通報する(ステップ180)。また、人のトイレブース110からの退出が検出された場合には、制御装置116は、制御をステップ172に戻す。
【0095】
図19は、図18のステップ176においてA〜G型狭センシング領域142A〜Gからのセンサ信号に基づいて異常対象の有無を判断する方法例を示す。
【0096】
図19には、複数の条件200〜210が示されており、これらの条件200〜210のいずれかが成立すると、トイレブース110内に異常対象が存在すると判断される。第1の条件200は、A型狭センシング領域142A又はB 型狭センシング領域142B(つまり、正面壁124又は左右いずれかの側面壁128の近傍)において、所定時間T1(例えば10分程度)以上にわたり物体の存在が検出され続けた場合である。通常のトイレ使用では、時間T1(例えば10分程度)にわたって正面壁124又は側面壁128の近傍に人又は物が居続けることはほとんどない。
【0097】
第2の条件202は、C型狭センシング領域142C(つまり、便器132の便座より後方の領域)で所定時間T2(例えば5〜10秒程度)以上物体の存在が検出された場合である。ここで、所定時間T2(例えば5〜10秒程度)は、落し物拾いなどで一時的に手などが入った場合を排除するためであり、実質的には、この第2の条件202は、人又は物体がC型狭センシング領域142Cには入ったことを意味する。通常のトイレ使用では、便座より後方の領域に人又は物が入ることはほとんどない。
【0098】
第3の条件204は、D型狭センシング領域142D又はE型狭センシング領域142E(つまり、便器132の前部近傍又は手すり144の近傍領域)で所定時間T3(例えば1分程度)以上、所定レベル以上の動きをしない物体の存在が検出された場合である。通常のトイレ使用者は、着替えなどでこの領域で目立った動きをするが、あまり動くことなくこの領域に居続けることはほとんどない。
【0099】
ここで、人の動きの大きさは、ドップラ信号に基づいて判断することができる。例えば、人が着替えをしているときには、図20に例示するようにドップラ信号212の振幅はかなり大きい。これに対し、人がトイレブース110内に潜んでいるような場合には図21に例示するように、ドップラ信号212の振幅は図20の場合に比べて明らかに小さい。ここで、図21の区間214は、人が殆ど動かない場合に対応し、区間216は、若干動く場合に対応する。そこで、図20及び図21に示すように、着替えの動きを識別するための上限及び下限閾値Vth1,Vth2を設けておき、第3の条件204を判断する場合には、ドップラ信号212の上下ピークレベルとこれらの閾値Vth1,Vth2とを比較することで、対象物に所定レベル以上の動き(着替えに相当する程度の動き)があるか否かを判断することができる。さらには、図21に例示するように、閾値Vth1,Vth2の範囲内に、より小さい振幅を識別する閾値Vth3,Vth4を設けて、ドップラ信号212の上下ピークレベルとこれらの閾値Vth3,Vth4とを比較することで、対象物が殆ど動かないか若干動いているのかも区別できる。対象物が殆ど動かない場合、その対象物は、身体異常で動けなくなった人か、又は、人以外の物であると推定できる。
【0100】
第4の条件206は、F型狭センシング領域142F又はG型センシング領域142G(つまり、トイレブース110の平面領域のいずれかの場所)で、所定の長時間T3(例えば15分程度)以上にわたり物体の存在が検出された場合である。通常のトイレ使用者は、そのような長時間にわたりトイレブース110内に居続けることはほとんどない。
【0101】
第5の条件208は、F型狭センシング領域142Fでは所定時間T5(例えば2〜3分程度)以上にわたり物体が検出されているが、G型センシング領域142Gでは物体が検出されない場合である。この場合、不審物がトイレブース110内に置かれたか、又は、人が倒れているか、不自然に低い姿勢をとっていると推測される。第5の条件208には、また、人のトイレブース110への入室前にはF型とG型狭センシング領域142F、142Gのいずれでも物体が検出されなかったが、退室後にF型又はG型狭センシング領域142F、142Gで物体が検出された場合も含まれる。この場合、不審物がトイレブース110内に置かれたと推測される。
【0102】
第6の条件210は、A〜G型狭センシング領域142A〜Gからのセンサ信号に基づいて、トイレブース110内の複数の領域で物体が検出された場合である。或るいは、動きも考慮に入れて、複数の領域で動く物体が検出される場合としてもよい。この場合、複数人がトイレブース110内に入っている可能性がある。
【0103】
以上のような条件200〜210は例示に過ぎない。他の条件を採用することもできるし、上記条件200〜210のいずれかを採用しなくても良い。いずれにしても、広センシング領域140でのセンシング結果から人がトイレブース110に入ったことが検出された後に、トイレブース110内の特定の空間領域に限定された1以上の狭センシング領域142でのセンシング結果を用いて異常対象の有無を判断することにより、異常対象を検出する精度が向上する。
【0104】
次に、この実施形態にかかるセキュリティシステムにおける通報方法について説明する。
【0105】
この実施形態にかかるセキュリティシステムでは、次の3種類の通報を行う。
【0106】
(1) 各トイレブース110の使用者に、隣のトイレブース内の使用状況、及び異常状態(すなわち異常対象が検出されたこと)を報知する。
【0107】
(2) 各トイレルーム108の使用者に、そのトイレルーム108の使用状況、そのトイレルーム108内の複数のトイレブース110の使用状況、及びそれらトイレブース110内の異常状態を報知する。
【0108】
(3) 各トイレルーム108外のそのトイレルーム108の付近に居る人に、そのトイレルーム108内の複数のトイレブース110の使用状況、及びそれらトイレブース110内の異常状態を報知する。
【0109】
このように、トイレブース110内に使用者が居るか居ないかということと、異常状態とは区別して報知される。また、トイレブース110内が異常状態であることを当該トイレブース100内の不審者本人に報知して、当該トイレブース110内の状態が監視体制化にあることを認識させ異常行為を止めるよう促すことを、上記(1)〜(3)に述べたような他の利用者への報知とともに行なったり、或は、不審者本人への報知を先に行ない、その後その異常状態が依然継続する場合に、他の利用者への報知を開始したりするように構成してもよい。或は、異常状態が継続される場合は、当該トイレブース110のドア130を内側からは開錠できないよう自動的に施錠して、当該トイレブース110から外へ不審者が自由に出てきたり、他の利用者が誤って当該トイレブース110に入って不審物に触れたりすることを防止するようにしてもよい。それにより、他の利用者の安全が一層よく確保され、また、警備員や管理責任者が対処行動をとることが一層容易になる。
【0110】
図22は、トイレブース110内に設置される報知装置118の一例を示す。
【0111】
報知装置118は、光を出力する照明装置(例えばLEDランプセット)であり、トイレブース110内の使用者に見易い位置に設置される。報知装置118には、このトイレブース110の隣のトイレブースについての制御装置116による図18に示した処理結果が入力される。報知装置118には、隣のトイレブースに使用者が居るか居ないかという使用状況と、隣のトイレブース内で異常対象が検出されたか否かという異常状態とを、例えば表示色、点灯時間、点滅態様、点灯ランプ位置又は個数などにより区別して表示する。トイレブース110の使用者は、隣のトイレブースで異常対象が検出された場合、速やかに対処行動をとることができる。
【0112】
図23は、トイレブース110内に設置される報知装置118の別の例を示す。
【0113】
報知装置118は、音声を出力するスピーカであり、隣のトイレブースの使用状況と異常状態とを、例えば音色、音強弱、鳴動時間、鳴動態様、発生言葉などにより区別して表示する。
【0114】
図24は、トイレブース110内に設置される報知装置118の別の例を示す。
【0115】
報知装置118は、文字や映像を表示するディスプレイパネル装置であり、隣のトイレブースの使用状況と異常状態とを、例えば文字メッセ、映像、表示色などにより区別して表示する。
【0116】
図25は、トイレブース110の外に設置される報知装置118の一例を示す。
【0117】
報知装置118は、光を出力する照明装置(例えばLEDランプセット)であり、トイレブース110の外の、そのトイレブース110の近くに他の人に見易い位置(例えば、そのトイレブース110のドアの上方)に設置される。報知装置118には、このトイレブース110についての制御装置116による図18に示した処理結果が入力される。報知装置118には、このトイレブース110の使用状況とを、例えば表示色、点灯時間、点滅態様、点灯ランプ位置又は個数などにより区別して表示する。トイレブース110の外にいる他の人々は、そのトイレブース110で異常対象が検出された場合、速やかに対処行動をとることができる。
【0118】
図26は、トイレブース110外に設置される報知装置118の別の例を示す。
【0119】
報知装置118は、音声を出力するスピーカであり、このトイレブース110の使用状況と異常状態とを、例えば音色、音強弱、鳴動時間、鳴動態様、発生言葉などにより区別して表示する。
【0120】
図27は、トイレブース110外に設置される報知装置118のまた別の例を示す。
【0121】
報知装置118は、文字や映像を表示するディスプレイパネル装置であり、このトイレブース110の使用状況と異常状態とを、例えば文字メッセ、映像、表示色などにより区別して表示する。
【0122】
図28は、トイレルーム108内やその近傍の人々に通報するための報知装置118の配置例を示す。
【0123】
既に説明したような各トイレルーム110の内部やドア付近などだけでなく、図28に示すように、各トイレルーム108内の種々の場所に報知装置118を取り付けることができる。また、各トイレルーム108の外又はトイレ施設100の外におけるその近傍に報知装置118を取り付けてもよい。トイレルーム108内の人々や外の近くの人々に、いずれかのトイレブース110内での異常対象の存在を知らせることができ、速やかに対処を促すことができる。また、異常状態だけでなくトイレブース110の使用状況も報知で入るので、特に大型のトイレ施設100の場合に、人が空いているトイレブース110を見つけるのを助ける。1つの報知装置118に、複数のトイレブース110の状態を纏めて表示するようにしてもよい。
【0124】
次に、トイレブース110内の便器が和式便器である場合における、トイレブース110内のセンシングの方法と、異常対象の有無の判断方法について説明する。
【0125】
図29A及び図29Bは、和式便器220を備えたトイレブース110内のA型狭センシング領域の例を示すトイレルーム110の平面図と側面図である。
【0126】
図29A及び図29Bに示すように、以下に説明する例では、和式便器220の場合、その後方(用便時の使用者から見た後方)が、ドアのついた正面壁124に向いており、その前方(用便時の使用者から見た前方)が背面壁126に向いており、この方向は先述した洋式便器132の場合と逆である。図示のように、天井120の物体センサ114により、便器220の後方の正面壁124の近傍に、A型狭センシング領域142Aが形成される。A型狭センシング領域142Aでは、着替えなどが行われることが多いが、通常の使用では、ここに人があまり長い間いることは殆どない。
【0127】
図30A及び図30Bは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるBセンシング領域の例を示すトイレブース110の平面図と正面図である。
【0128】
図30A及び図30Bに示すように、天井120の物体センサ114により、便器220から左右に離れた側面壁128の近傍に、B型狭センシング領域142Bが形成される。B型狭センシング領域142Bに着替えなどで人が入ることはあるが、長い間居続けることは通常は殆どない。
【0129】
図31A及び図31Bは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるC型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0130】
図31A及び図31Bに示すように、物置棚に取り付けられた物体センサ114により、便器220の前方の背面壁126の近傍に、C型狭センシング領域142Aが形成される。和式便器220の場合、洋式便器132の場合ほどにはC型狭センシング領域142Cに人が入る可能性が低くはないが、しかし、通常の使用では、C型狭センシング領域142C人が一時的に入っても、そこに居続けることは殆どない。
【0131】
図32A及び図32Bは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるD型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0132】
図32A及び図32Bに示すように、天井120の物体センサ114により、便器220及びその近傍にD型狭センシング領域142Dが形成される。D型狭センシング領域142Dでは、人が検出される頻度が最も高いが、通常の使用では、ここに人があまり動かずにあまりにも長時間いることは殆どない。
【0133】
図33A及び図33Bは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるE型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図と正面図である。
【0134】
図33A及び図33Bに示すように、天井120の物体センサ114により、手すり144の近傍にE型狭センシング領域142Eが形成される。E型狭センシング領域142Dでも、人がよく検出されるが、通常の使用では、ここに人があまり動かずにあまりにも長時間いることは殆どない。
【0135】
図34A及び図34Bは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるF型とG型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図と側面図である。
【0136】
図34A及び図34Bに示すように、低い高さ範囲でトイレブース110の平面領域のほぼ全てをカバーするようにF型狭センシング領域142Fが形成され、それより高い高さ範囲でトイレブース110の平面領域のほぼ全てをカバーするようにG型狭センシング領域142Gが形成される。
【0137】
図35A及び図35Bは、和式便器220を備えたトイレブース110内にB型狭センシング領域を形成するための変形例を示すトイレブース110の平面図と、便器220の側面図である。
【0138】
図35A及び図35Bに示すように、便器220に洗浄水を流すためのフラッシュバルブのボックス内に、フラッシュバルブの操作スイッチ222とともに、B型狭センシング領域142Bを左右両側に形成するための物体センサ114Bが組み込まれている。
【0139】
図36は、上述したような和式便器220を備えたトイレブース110内で異常対象の存在を検出するための条件例を示す。
【0140】
図36に示すように、複数の条件200,230,204〜210のいずれかが満たされると、トイレブース110内に異常対象が存在すると判断される。条件200、204〜210は、図19を参照して既に説明した、洋式便器132を備えたトイレブース110の場合と同様である。洋式便器132を備えたトイレブース110の場合と異なるのは、第2の条件230である。第2の条件230は、C型センシング領域142Cで、時間T1よりは短い所定時間T6(例えば1〜2分程度)以上にわたり物体が検出され続けた場合である。この程度の時間にわたり便器220の前方の領域で物体が検出された場合、その物体は異常対象であると判断される。
【0141】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。例えば、物体センサの種類、配置場所及び個数などについては、上述した例示以外にさまざまなバリエーションが採用し得る。狭センシング領域の場所、サイズ及び種類などについても、上述した例示以外にさまざまなバリエーションが採用し得る。異常対象の有無を判断するための条件についても、上述した例示以外にさまざまなバリエーションが採用し得る。トイレブース以外の空間や施設にも、本発明のセキュリティシステムが適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の一実施形態にかかるセキュリティシステムが適用される公衆トイレ施設の一例を示す平面図。
【図2】本発明の一実施形態にかかるセキュリティシステムの全体構成を示すブロック線図。
【図3】一つのトイレブース110の構造例を示す斜視図である。
【図4】図4Aは、物体センサ114が有する広センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図、図4Bは、同側面図。
【図5】図5Aは、物体センサ114が有する狭センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図、図5Bは、同領域側面図。
【図6】図6Aは、物体センサ114が有する別の狭センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図、図6Bは、同正面図。
【図7】図7Aは、物体センサ114が有するまた別の狭センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図、図7Bは、同側面図。
【図8】図8Aは、物体センサ114が有する更に別の狭センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図、図8Bは、同側面図。
【図9】図9Aは、物体センサ114が有する更にまた別の狭センシング領域の一例を示すトイレブース110の平面図、図9Bは、同正面図。
【図10】図10Aは、物体センサ114が有する更にまた別の狭センシング領域の2つの例を示すトイレブース110の平面図、図10Bは、同側面図。
【図11】図11Aは、A型狭センシング領域142Aをトイレブース110内に形成するための変形例を示すトイレブース110の平面図、図11Bは、同側面図。
【図12】図12Aは、B型狭センシング領域142Bをトイレブース110内に形成するための変形例を示すトイレブース110の平面図、図12Bは、同正面図、図12Cは、また別の変形例を示すトイレブース110の平面図。
【図13】図13Aは、B型狭センシング領域142Bをトイレブース110内に形成するための別の変形例を示すトイレブース110の平面図、図12Bは、図12Aに示される便器132のA−A断面図。
【図14】図14Aは、C型狭センシング領域142Cをトイレブース110内に形成するための別の変形例を示すトイレブース110の平面図、図14Bは、同側面図。
【図15】図15Aは、スキャニング法を用いて広センシング領域や各種の狭センシング領域を形成するようにした変形例を示すトイレブース110の平面図、図15Bは、同側面図。
【図16】図15Bに示す狭センシング領域でトイレブースをラスタスキャンしたときに得られるセンサ信号の例を示す図。
【図17】図17Aは、S型狭センシング領域142Sを形成するための物体センサ114の構成の一例を示す断面図、図17Bは、同平面図。
【図18】制御装置116が行う異常対象の有無を判断する処理の流れを示すフローチャート。
【図19】図18のステップ176においてA〜G型狭センシング領域142A〜Gからのセンサ信号に基づいて異常対象の有無を判断する方法例を示す図。
【図20】人が着替えなどで動いているときに得られるドップラ信号212の例を示す図。
【図21】人が動いていない又は動きが小さいときに得られるドップラ信号212の例を示す図。
【図22】トイレブース110内に設置される報知装置118の例を示す斜視図。
【図23】トイレブース110内に設置される報知装置118の別の例を示す斜視図。
【図24】トイレブース110内に設置される報知装置118のまた別の例を示す斜視図。
【図25】トイレブース110外に設置される報知装置118の例を示す斜視図。
【図26】トイレブース110外に設置される報知装置118の別の例を示す斜視図。
【図27】トイレブース110外に設置される報知装置118のまた別の例を示す斜視図。
【図28】トイレルーム108内やその近傍の人々に通報するための報知装置118の配置例を示す平面図。
【図29】図29Aは、和式便器220を備えたトイレルーム110内に形成されるA型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図、図29Bは、同側面図。
【図30】図30Aは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるBセンシング領域の例を示すトイレブース110の平面図、図30Bは、同正面図。
【図31】図31Aは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるC型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図、図31Bは、同側面図。
【図32】図32Aは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるD型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図、図32Bは、同側面図。
【図33】図33Aは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるE型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図、図33Bは、同正面図。
【図34】図34Aは、和式便器220を備えたトイレブース110内に形成されるF型とG型狭センシング領域の例を示すトイレブース110の平面図、図34Bは、同側面図。
【図35】図35Aは、和式便器220を備えたトイレブース110内にB型狭センシング領域を形成する変形例を示すトイレブース110の平面図、図35Bは、便器の側面図。
【図36】和式便器220を備えたトイレブース110内で異常対象の存在を検出するための条件例を示す図。
【符号の説明】
【0143】
100 公衆トイレ施設
108 トイレルーム
110 トイレブース
114 物体センサ
116 制御装置
118 報知装置
120 天井
122 床
124 正面壁
126 背面壁
128 側面壁
130 ドア
132 洋式便器
140 広センシング領域
142A A型狭センシング領域
142B B型狭センシング領域
142C C型狭センシング領域
142D D型狭センシング領域
142E E型狭センシング領域
142F F型狭センシング領域
142G G型狭センシング領域
142S S型狭センシング領域
S1〜S9 区画
200〜210,230,232 判断条件
220 和式便器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁で互いに隔てられた複数の空間の各々における異常対象を検出して通報するためのセキュリティシステムにおいて、
前記各空間内に存在する人又は物を検出し、検出された人又は物が異常対象であるか否かを判断する検出手段と、
前記検出手段により各空間内で前記異常対象が検出された場合、前記各空間の隣の空間内の人に、異常を通知する報知手段と、
を備えたセキュリティシステム。
【請求項2】
請求項1記載のセキュリティシステムにおいて、
前記各空間が、トイレルーム内に設置された複数のトイレブースの各々である、
セキュリティシステム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセキュリティシステムにおいて、
前記報知手段が、前記各空間内で人又は物が検出されたか否かを示す前記各空間の使用状態と、検出された人又は物が異常対象と判断されたか否かを示す前記各空間の異常状態とを、前記各空間の隣の空間内の人に通知する、
セキュリティシステム。
【請求項4】
請求項1又は2記載のセキュリティシステムにおいて、
前記検出手段により各空間内で前記異常対象が検出された場合、前記報知手段が、前記隣の空間の人だけでなく、前記複数の空間の外における近傍に居る人にも異常を通知する、
セキュリティシステム。
【請求項5】
請求項4記載のセキュリティシステムにおいて、
前記報知手段が、前記各空間内で人又は物が検出されたか否かを示す前記各空間の使用状態と、検出された人又は物が異常対象と判断されたか否かを示す前記各空間の異常状態とを、前記複数の空間の外における近傍に居る人に通知する、
セキュリティシステム。
【請求項6】
請求項5記載のセキュリティシステムにおいて、
前記報知手段が、前記複数の空間の使用状態と異常状態をまとめて、前記複数の空間の外における近傍に居る人に通知する、
セキュリティシステム。
【請求項7】
請求項1又は2記載のセキュリティシステムにおいて、
前記検出手段は、前記各空間内に、それぞれ人又は物を検出するための第1と第2のセンシング領域を有し、前記第1と第2のセンシング領域のセンシング結果に基づいて、前各空間内で人又は物を検出し、且つ検出された人又は物が異常対象であるか否かを判断する、
セキュリティシステム。
【請求項8】
請求項7記載のセキュリティシステムにおいて、
前記第1のセンシング領域は、前記各空間の平面領域のほぼ全体をカバーする広センシング領域であり、
前記第2のセンシング領域は、前記広センシング領域より狭く、前記各空間の所定の部分的な空間領域に限定された狭センシング領域である、
セキュリティシステム。
【請求項9】
請求項8記載のセキュリティシステムにおいて、
前記狭センシング領域が、前記隔壁の近傍の部分的空間領域に限定されている、
セキュリティシステム。
【請求項10】
請求項8記載のセキュリティシステムにおいて、
前記狭センシング領域が、前記各空間を通常に使用する人はそこに入らない又は所定時間以上そこに居続けることがない特定の部分的空間領域に限定されている、
セキュリティシステム。
【請求項11】
請求項8記載のセキュリティシステムにおいて、
前記検出手段が、空間的に異なる複数の狭センシング領域を有し、それぞれの狭センシング領域において人又は物を検出する、
セキュリティシステム。
【請求項12】
請求項1又は2記載のセキュリティシステムにおいて、
前記検出手段が、前記各空間を複数の区画に分割し、前記複数の区画をスキャンしつつ各区画で人又は物を検出するスキャン型物体センサを有する、
セキュリティシステム。
【請求項13】
隔壁で互いに隔てられた複数の空間の各々における異常対象を検出して通報するための方法において、
前記各空間内に存在する人又は物を検出するステップと、
検出された人又は物が異常対象であるか否かを判断するステップと、
各空間内で前記異常対象が検出された場合、前記各空間の隣の空間内の人に、異常を通知するステップと、
を備えた方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2007−58416(P2007−58416A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241154(P2005−241154)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】