説明

セクターミラー

【課題】 簡単な構成で、メンテナンスしやすいセクターミラーを提供する。
【解決手段】 回転軸1に挿嵌される軸取付孔3aを備えた固定部3と、固定部3の周辺の一部から延びる連結部4を介して固定部3と一体構造で連結された調整部5とからなる取付部材2を備え、前記調整部5は回転軸1の先端面より前方で固定部3の前面側に配置され、かつ、調整部5の前面側に反射鏡7が、背面側にチョッパ10が取り付けられており、前記連結部4を除く固定部3と調整部5の間には、回転軸1の軸芯と直交する方向に延びる調整用の隙間Lが形成され、調整部5の前面に調整ネジ12a,12b,12cが設けられ、この調整ネジを回動することにより、連結部4を支点として調整部5を変位させて反射鏡7の取付角度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光光度計において光束の切り替えを行うセクターミラーに関し、具体的には、サンプル側光束とリファレンス側光束の二系統の光路を有するダブルビーム方式の分光光度計に用いられるセクターミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルビーム型分光光度計は、サンプルを通過した光と、リファレンス側試料を通過した光の比を測定することにより、サンプルの定量分析もしくは定性分析を行う装置であって、例えば、特許文献1や特許文献2で開示されているようなダブルビーム型分光光度計が知られている。
【0003】
図4は、ダブルビーム型分光光度計の光路構成の一例を示すものである。
光源20から発した光は回折格子などの分光素子を内装するモノクロメータ21により単色光に分けられ、反射鏡22を介して高速で回転するセクターミラー23に送られる。セクターミラー23に送られた光束はリファレンス側とサンプル側の二方向に交互に振り分けられる。セクターミラー23で反射されたリファレンス側の光束Rは反射鏡24を介してリファレンスセル25(リファレンス側試料)に送られて透過し、反射鏡26により反射されて光検出器27に送られる。一方、セクターミラー23の反射面にあたらなかった光束Sは、反射鏡28を介してサンプルセル29(サンプル側試料)に送られて透過し、反射鏡30,31により反射されて光検出器27に送られる。リファレンスセル25を透過したリファレンス側光束Rと、サンプルセル29を通過したサンプル側光束Sは、セクターミラー23の回転に同期して、交互に光検出器27に導入されるので、この両者の受光信号を比較することにより、サンプルの透過率(あるいは吸光度)の定量分析もしくは定性分析を正確に行うことができる。
【0004】
ところで、サンプルの正確な分析を行うためには、セクターミラー23でリファレンス側光束Rとサンプル側光束Sを、予め設定した光路に沿って正確に振り分けなくてはならない。そのため、従来より、セクターミラー23の反射鏡の取付角度を調整できるようにして両者間の光束にズレのないように調整している。
【0005】
図5並びに図6は従来のセクターミラーの一例を示す正面図および断面図であって、モーター(不図示)によって駆動される回転軸32に対し、固定部材33が固定ネジ34で固着されている。
固定部材33には細径の軸部35と大径のフランジ部36が設けられ、細径の軸部35の外周面に反射鏡43を備えた調整部材37が取り付けられている。軸部35とその周りの調整部材37との間には調整可能な隙間38をあけて配置されている。軸部35の後端には、光束Sを通過させる(明状態を作る)切欠き部分と、光を遮断して光束Sも光束Rも出射しない(暗状態を作る)遮蔽部分とが設けられたチョッパ39が取り付けられ、チョッパ39と反射鏡43との間にリング状のスペーサ40が介在されている。
固定部材33のフランジ部36の背面と調整部材37との間には波座金41が介在され、かつ固定部材33のフランジ部36と調整部材37とは調整ネジ42で連結されている。この調整ネジ42はフランジ部36の前面で回転軸の周りの三等分された箇所に3つ設けられている。この何れかの調整ネジ42を回動することにより調整部材37が回転軸32との間に形成された隙間38の範囲内で変位し、反射鏡43の取付角度が調整できるようになっている。
また、固定部材33、調整部材37、反射鏡43、スペーサ40、チョッパ39の各部材は1つのユニットとして組成され、回転軸32に取り付ける構成となっている。
【0006】
図7並びに図8は従来のセクターミラーの第二の例を示すものであり、回転軸44に差し込まれて固定ビス45で固着された固定部46と、反射鏡47やチョッパ48を保持する調整部49とは、連結部50で連結された一体構造で形成されている。
固定部46と調整部49を一体結合する連結部50は固定部46並びに調整部49の周辺の一部に形成されており、連結部50を除く固定部46と調整部49の間には回転軸44の軸芯と直交する方向に延びる調整用の隙間51が形成されている。また、回転軸44の周囲と調整部49の軸孔52の内面との間には、調整部49が変位することが可能な隙間53が設けられている。
固定部46の前面には3個の調整ネジ54a,54b,54cが設けられ、中央の調整ネジ54aが連結部50の中心と回転軸中心を結ぶ仮想直線55の線上で連結部50から遠隔点にある位置に配置され、他の2つは仮想直線55の左右に配置されている。中央の調整ネジ54aはその先端が調整部49の前面に当接する状態で形成され、左右の調整ネジ54b,54cは先端部分が調整部49にねじ込まれていて、回動することにより前記調整用の隙間51の間隔を狭めたり、広げたりできるようにしている。これにより、3つの調整ネジを選択的に調整することによって、連結部50を支点として調整部49を変位させて反射鏡47の取付角度を調整することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−356049号公報
【特許文献2】特開2002−022656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図5、図6に示した前者の従来例では、回転軸32に固定された固定部材33と、反射鏡43を備えた調整部材37が一体構造ではなく、それぞれが別体で作られ、調整ネジ42により調整可能な状態で連結されている構造であるため、力がかかると調整部材37が動くことがあり、反射鏡43の取付角度が変動するおそれがあった。
また、各部材を組成したユニットを回転軸32に取り付ける際に、ユニットを貫通する軸挿入孔を回転軸32の先端側から差し込まなくてはならないため、回転軸32の先端側、即ち、反射鏡43の反射面側の前方にユニット着脱のための空間を広く確保する必要があり、光学素子や構造物の配置の自由度に大きな制約を受けるといった問題点があった。
【0009】
また、図7、図8に示した後者の従来例では、固定部46と調整部49とは一体構造であるため、調整部49に固定された反射鏡47は安定して保持することができる。
しかしながら、一体となった固定部46と調整部49とに貫通して回転軸44が挿嵌されているので、先の従来例と同様に、全体を組成したユニットを回転軸に着脱するための空間を、反射鏡47の反射面側に広く確保する必要があり、光学素子や構造物の配置の自由度に大きな制約を受けるといった問題点があった。
【0010】
そこで本発明は、上記従来課題を解決し、簡単な構成で、メンテナンスがしやすいセクターミラーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明のセクターミラーでは、回転軸に挿嵌される軸取付孔を備えた固定部と、固定部の周辺の一部から延びる連結部を介して固定部と一体構造で連結された調整部とからなる取付部材を備え、調整部は回転軸の先端面より前方で固定部の前面側に配置され、かつ、調整部の前面に反射鏡が、背面側にチョッパが取り付けられており、前記連結部を除く固定部と調整部の間には、回転軸の軸芯と直交する方向に延びる調整用の隙間が形成され、調整部前面に調整ネジが設けられ、この調整ネジを回動することにより、連結部を支点として調整部を変位させて反射鏡の取付角度を調整するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転軸に固定される固定部と、反射鏡やチョッパを保持する調整部とは一体構造で形成されているため、構造的に強固で反射鏡を安定して保持することができる。また、取付部材の固定部にのみに回転軸が挿嵌されているので、回転軸に着脱する際のストロークが短く、着脱に必要な空間が小さくてすみ、しかも、固定部材の前面に取り付けられた反射鏡の反射面側には突出物が少ないので、反射鏡の反射面に近い位置に光学系素子や構造物を配置することが可能となって、性能を発揮するための合理的かつ有効な光学配置が可能となるといった効果がある。
【0013】
また、本発明では、調整用ネジが調整部の前面に3個設けられ、中央の調整ネジが連結部中心と回転軸の軸芯を結ぶ仮想直線の線上で連結部から遠隔点にある位置に配置され、他の2つは前記仮想直線の左右に配置されている構成とするのがよい。
これにより、3つの調整ネジを選択的に調整することによって、反射鏡の傾きの方向をどの方向に対しても許容された範囲内で任意に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るセクターミラーの一実施例を示す正面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】図1のB−B線断面図。
【図4】ダブルビーム型分光光度計の光路構成の一例を示す図。
【図5】従来のセクターミラーを示す正面図。
【図6】図5のセクターミラーの断面図。
【図7】従来のセクターミラーの第二の例を示す正面図。
【図8】図7のセクターミラーの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図に示した実施例に基づいて詳細に説明する。
図1並びに図2は本発明に係るセクターミラーの一実施例を示す。このセクターミラーは、図4で示したダブルビーム型分光光度計におけるモノクロメータからの単色光をリファレンス側光束Rとサンプル側光束Sの二方向に交互に振り分けるセクターミラーとして使用される。
【0016】
セクターミラーCは、モーター(不図示)によって駆動される回転軸1に固定ネジ6を介して固着された円盤状の取付部材2を備えている。この取付部材2は、回転軸1に挿嵌される軸取付孔3aを備えた固定部3と、固定部3の周辺の一部から延びる連結部4を介して固定部3と一体構造で連結形成された調整部5とから構成されている。
【0017】
調整部5は回転軸1の先端面より前方(図中左側を前方とする)で固定部3の前面側に配置され、かつ調整部5の前面に反射鏡7が取付ネジ8を介して取り付けられ、調整部5の背面側に取付ネジ9を介してチョッパ10(遮蔽部材)が取り付けられている。また、連結部4を除く固定部3と調整部5の間には回転軸1の軸芯と直交する方向に延びる調整用の隙間Lが形成されている。
【0018】
また、調整部5の前面に3個の調整ネジ12a,12b,12cが設けられている。中央の調整ネジ12aは、前記連結部4の中心と回転軸1の軸芯を結ぶ仮想直線Dの線上で連結部4から遠隔点(回転中心を挟んで反対側)にある位置に配置され、他の2つは前記仮想直線Dの左右で連結部4から離れた位置に配置されている。中央の調整ネジ12aはその先端が固定部3の前面に当接する状態で形成され、左右の調整ネジ12b,12cは先端部分が固定部3にねじ込まれていて、回動することにより前記調整用の隙間Lの間隔を狭めたり、広げたりできるようにしている。これにより、3つの調整ネジ12a,12b,12cを選択的に調整することによって、反射鏡の傾きの方向をどの方向に対しても許容された範囲内で任意に調整することができるようになっている。
【0019】
反射鏡7は背後に設けたチョッパ10と協同して回転することにより、反射面7aで入射光を反射したり、チョッパ10の切欠き部分である開口部10aで透過したりできるように形成されている。また、チョッパ10にはサンプル側光束Sもリファレンス側光束Rも発生しない暗状態で測定するための遮蔽部10bと、回転数検出用の爪片10cが設けられており、爪片10cで検出した光信号によりCPUなどの制御器を介して回転軸1を駆動するモーターの回転速度や測定のタイミングを制御する。
【0020】
本発明では、回転軸1に固定される固定部3と、反射鏡7やチョッパ10を保持する調整部5とが、一体構造で形成されているため、構造的に強固であり、反射鏡を安定して保持することができる。また、取付部材2の固定部3のみに回転軸1が挿嵌されているので、回転軸1に着脱する際のストローク(軸方向の移動量)が短くてすみ、着脱に必要な空間を小さくすることができる。しかも、固定部材3の前面に反射鏡7が取り付けられ、かつ反射鏡7の反射面側には突出物が少ないので、セクターミラーCの反射面に近い位置に光学系素子や構造物を配置することが可能となって、測定性能を発揮するための合理的かつ有効な光学配置が可能となる。
【0021】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでなく、本発明の目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ダブルビーム方式の分光光度計におけるセクターミラーとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0023】
C セクターミラー
L 調整用の隙間
D 仮想直線
1 回転軸
2 取付部材
3 固定部
3a 軸取付孔
4 連結部
5 調整部
6 固定ネジ
7 反射鏡
8 反射鏡の取付ネジ
9 チョッパの取付ネジ
10 チョッパ
12a,12b,12c 調整ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に挿嵌される軸取付孔を備えた固定部と、
前記固定部の周辺の一部から延びる連結部を介して固定部と一体構造で連結された調整部とからなる取付部材を備え、
前記調整部は回転軸の先端面より前方で固定部の前面側に配置され、かつ、調整部の前面側に反射鏡が、背面側にチョッパが取り付けられており、
前記連結部を除く固定部と調整部の間には、回転軸の軸芯と直交する方向に延びる調整用の隙間が形成され、
前記調整部前面に調整ネジが設けられ、この調整ネジを回動することにより、連結部を支点として調整部を変位させて反射鏡の取付角度を調整するようにしたことを特徴とするセクターミラー。
【請求項2】
前記調整用ネジが調整部の前面に3個設けられ、中央の調整ネジが連結部中心と回転軸の軸芯を結ぶ仮想直線の線上で連結部から遠隔点にある位置に配置され、他の2つは前記仮想直線の左右に配置されている請求項1に記載のセクターミラー。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−3081(P2013−3081A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137139(P2011−137139)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】