説明

セメントなしで固定される寛骨臼プロテーゼ

本発明は、クラウン(5)及び頂部(4)を含む全体に半球形状の挿入体(1)を備えた寛骨臼プロテーゼに関する。この挿入体の外面(2)には、少なくとも一つのフィン(6)が設けられている。本発明は、フィン(6)が、挿入体(1)のクラウン(5)から始まって挿入体の頂部(4)に向かって延びる面(9)を有し、稜部(10)を形成することを特徴とする。稜部(10)は、詳細には、湾曲形状を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントなしで固定される寛骨臼プロテーゼの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
股関節形成術は、股関節を「全股関節プロテーゼ」と呼ばれる人工関節と交換する手順を含む外科手術である。全股関節プロテーゼは、一方では、大腿骨に固定されるようになった、大腿骨頭を備えたステムを持つ大腿骨プロテーゼを含み、他方では、骨盤骨の寛骨臼に固定される寛骨臼プロテーゼを含む。寛骨臼プロテーゼは、大腿骨プロテーゼの大腿骨頭を受け入れるためのキャビティを有する。
【0003】
現在、寛骨臼プロテーゼを固定するための幾つかの方法が存在する。
【0004】
特定の技術によれば、寛骨臼プロテーゼをセメントによって骨に固定する。このセメントは、一般的には、メリメチルメタクリレート(PMMA)を基材としたセメントである。この技術は、長期に亘って良好な結果をもたらす。しかしながら、プロテーゼが、長期に亘り、感染や腐敗によるのでなしに緩んでしまうことが日常的に報告されている。
【0005】
他の技術によれば、寛骨臼プロテーゼを、セメントを全く用いずに機械的手段によって骨に固定する。寛骨臼プロテーゼをセメントを全く用いずに固定することにより、骨一体化、即ち骨組織へのプロテーゼの一体化を促すため、埋め込み後の最初の1カ月でプロテーゼの機械的有効強度を得ることができなければならない。使用されているセメントなしプロテーゼは、一般的には、金属製のカップでできており、ポリエチレン(PE)製の挿入体が金属製カップ内に配置される。金属製カップは、様々な固定手段によって骨に固定される。これらの固定手段には、特に、ねじ、パッド、フィン、又はピンが含まれる。更に、寛骨臼プロテーゼは、寛骨臼プロテーゼがぴったりと保持されるように強制的に挿入すること(プレス嵌め)によって寛骨臼に固定される。
【0006】
フランス国特許第2 641 641号(1990年7月13日に公開された)には、セメントを全く用いずに使用できる、半球形キャップを含む寛骨臼プロテーゼが記載されている。半球形キャップの周囲には、一連のフィンがキャップの凸状の表面に亘って均等に位置決めされており、凸状の表面との係合によってカバー構成要素が適用されるようになっている。フィンは、楔形状を備えており、その頂部は、キャップの頂部に向かっている。
【0007】
この文献には、フィンを骨ハウジングと強制的に係合することによって、フィンの楔形状で直接決まる骨の圧縮効果と関連した、挿入による係合をなすようにフィンが設計されていると記載されている。
【0008】
これによって位置決めされたフィンは、寛骨臼領域の縁部に大きな作用を及ぼし、即ち骨が大きく圧縮され、従って、これにより、及ぼされた力に耐えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、寛骨臼での機械的強度が優れていると同時に、プロテーゼと接触した骨が劣化しないようにする、セメントを全く用いずに寛骨臼に固定される寛骨臼プロテーゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この問題点は、本発明の範囲内で、クラウン及び頂部を持つ全体に半球形状の挿入体を含み、この挿入体の外面に少なくとも一つのフィンが設けられた寛骨臼プロテーゼにおいて、フィンは、挿入体のクラウンから延び且つ挿入体の頂部に向かって延びる切り子面を有し、実質的に湾曲形状の稜部を形成する、ことを特徴とするプロテーゼによって解決される。
【0011】
フィンの切り子面は、骨組織を損傷することなく、皮質骨で支持されるようになっている。切り子面により、挿入体によって及ぼされる応力を皮質骨に亘って分配できる。
【0012】
フィンの稜部が湾曲形状を備えているため、プロテーゼは、骨組織を全く損傷することなく、海綿質骨に固定できる。
【0013】
フィンは、十分な骨一体化が得られるまで、骨内のプロテーゼの機械的強度を提供する。詳細には、フィンは、大腿骨頭の移動中に挿入体を所定位置に保持する。
【0014】
プロテーゼは、以下の特徴を備えていてもよい。
−フィンの切り子面は、挿入体のクラウンのところで挿入体の外面と隣接して延び、
−フィンは、切り子面を画成する二つの縁部を有し、これらの縁部の両方の各々が、挿入体のクラウンから延びており、稜部のところで互いに合一し、
−切り子面は、全体に三角形形状であり、
−切り子面は、挿入体の軸線である軸線を中心とした円筒形表面に沿って延びており、
−稜部は、挿入体の軸線に向かって湾曲した凸状形状を有し、
−稜部は、挿入体の半径方向平面内を延びており、
−プロテーゼは、複数の同じフィンを備えており、
−プロテーゼは、少なくとも12個のフィンを備えており、
−フィンは、挿入体のクラウンの周囲に均等に分配されており、
−挿入体のクラウンは、全体に丸みを付けた形状を有し、
−プロテーゼは、チタニウムで形成されており、
−プロテーゼは、大腿骨頭を受け入れるようになった凹状の内面を有し、この内面は、ダイヤモンド様炭素(DCL)コーティングの層で覆われており、
−プロテーゼは、骨と接触するようになった凸状の外面を有し、この外面は、ヒドロキシアパタイトコーティングで覆ってあり、
−プロテーゼは、骨と接触するようになった凸状の外面を有し、この外面は、2μm乃至4μm、好ましくは3μm程度の粗さを有し、
−プロテーゼは、単一の部品として形成される。
【0015】
この他の特徴及び利点は、単なる例示であって非限定的な以下の説明から更に明らかになるであろう。以下の説明は、本発明の可能な実施形態による寛骨臼プロテーゼを例示する添付図面を参照して読まれるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
添付図面に示す寛骨臼プロテーゼは、全体に半球形状の挿入体を含む。この挿入体1は、骨盤の寛骨臼の骨と接触するようになった凸状の外面2と、大腿骨頭を受け入れるようになった凹状の内面3とを有する。
【0017】
挿入体1は、頂部4及びクラウン5を有する。「頂部」は、挿入体1の回転軸線Xと、この挿入体1の外面2との交点を示す。「クラウン」は、外面2と内面3との間を延びる、挿入体1の縁部を示す。
【0018】
挿入体1の外面2には、複数の同じフィン6が設けられており、これらのフィンは、クラウン5の周囲に均等に分配されている。
【0019】
各フィン6は、挿入体1の半径方向平面、即ち挿入体1の軸線(Xで示す)を通る平面に対して対称である。各フィンは2つの側部7及び8を有する。各フィンは、更に、側部7と8との間を延びる、切り子面9及び稜部10を有する。側部7及び8は、切り子面9の両側を延びており、稜部10のところで互いに合一する。側部7及び8は、切り子面9との接合部に縁部11及び12を形成する。
【0020】
各切り子面9は、全体に三角形形状であり、その頂部が挿入体1の頂部4に向かって差し向けられている。各切り子面9は、所定の軸線、即ち挿入体1の軸線Xを持つ円筒形表面に沿って延びている。切り子面9は、挿入体1のクラウン5から、挿入体1の頂部4に向かって延び、稜部10を形成する。両縁部11及び12が切り子面9を画成し、これによって、これらの縁部の各々は、クラウン5から延び、稜部10のところで互いに合一する。
【0021】
各稜部8は、挿入体1の半径方向平面内を延びる。各稜部8は、挿入体1の頂部4に向かって実質的に凸状形状をなして湾曲している。
【0022】
切り子面9は、寛骨臼の皮質骨、即ちクラウン5と接触した、骨の最も硬い部分に当たった状態で支持されるようになっている。クラウン5の周囲での切り子面9の形状及び位置により、挿入体1を寛骨臼内にぴったりと保持する場合、応力をクラウン5の周囲に適当に分配できる。
【0023】
稜部10は、プロテーゼを寛骨臼の海綿質骨(柱骨)、即ち挿入体1の凸状の外面と接触する骨の最も壊れやすい部分に固定するようになっている。稜部10の湾曲形状により、骨を損傷することのある非常に鋭利な構成要素(例えば楔等)を全く必要とせずに挿入体1を固定できる。
【0024】
フィン6の独特の形状により、挿入体1の支持部分(切り子面9によって形成される)と固定部分(稜部10によって形成される)との間で徐々に移行できる。
【0025】
更に、クラウン5は全体に円形形状を有する。この特徴により、関節が脱臼する危険を制限できる。
【0026】
挿入体1は、例えばチタニウムで単一の部品として形成される。
【0027】
挿入体1の外面2は、3μm程度の粗さを持つように処理が施してあり、一層のヒドロキシアパタイトコーティングで覆ってある。これらの特徴には、挿入体1の外面での骨細胞の転移増殖を促進し、これによってプロテーゼの骨一体化を促すという目的がある。
【0028】
更に、挿入体1の内面3は、ダイヤモンド様炭素(DLC)の層で覆ってある。これは、ダイヤモンドに近い性質を提供する炭素sp3ハイブリッドを大量に含有する炭素の非晶質形態である。
【0029】
DLCコーティングは、大腿骨頭と接触するようになった内面の耐磨耗性を向上する。更に、化学的に不活性であるため、DLCコーティングの生体親和性は非常に良好である。
【0030】
非限定的例として、図1乃至図4に示すプロテーゼは、以下の表1の寸法を有する。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、寛骨臼プロテーゼの概略側面図である。
【図2】図2は、寛骨臼プロテーゼの概略平面図である。
【図3】図3は、寛骨臼プロテーゼの断面図である。
【図4】図4は、寛骨臼プロテーゼのフィンの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウン(5)及び頂部(4)を持つ全体に半球形状の挿入体(1)を含み、この挿入体(1)の外面(2)に少なくとも一つのフィン(6)が設けられた寛骨臼プロテーゼにおいて、
前記フィン(6)は、前記挿入体(1)の前記クラウン(5)から延び且つ前記挿入体(1)の前記頂部(4)に向かって延びる切り子面(9)を有し、実質的に湾曲形状の稜部(10)を形成する、ことを特徴とするプロテーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載のプロテーゼにおいて、
前記フィン(6)の前記切り子面(9)は、前記挿入体(1)の前記クラウン(5)のところで前記挿入体(1)の前記外面(2)と隣接して延びる、プロテーゼ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプロテーゼにおいて、
前記フィン(6)は、前記切り子面(9)を画成する二つの縁部(11、12)を有し、これらの縁部(11、12)の両方の各々が、前記挿入体(1)の前記クラウン(5)から延びており、稜部(10)のところで互いに合一する、プロテーゼ。
【請求項4】
請求項1、2、又は3に記載のプロテーゼにおいて、
前記切り子面(9)は、全体に三角形形状である、プロテーゼ。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
前記切り子面(9)は、前記挿入体(1)の軸線(X)を中心とした円筒形表面に沿って延びている、プロテーゼ。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
前記稜部(10)は、前記挿入体(1)の前記頂部(4)に向かって湾曲した凸状形状を有する、プロテーゼ。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
前記稜部(10)は、前記挿入体(1)の半径方向平面内を延びる、プロテーゼ。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
複数の同じフィン(6)を備えている、プロテーゼ。
【請求項9】
請求項8に記載のプロテーゼにおいて、
少なくとも12個のフィン(6)を備えている、プロテーゼ。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のプロテーゼにおいて、
前記フィン(6)は、前記挿入体(1)の前記クラウン(5)の周囲に均等に分配されている、プロテーゼ。
【請求項11】
請求項1乃至10のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
前記挿入体(1)の前記クラウン(5)は、全体に丸みを付けた形状を有する、プロテーゼ。
【請求項12】
請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
チタニウムで形成されている、プロテーゼ。
【請求項13】
請求項1乃至12のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
大腿骨頭を受け入れるようになった凹状の内面(3)を有し、この内面(3)は、ダイヤモンド様炭素(DCL)コーティングの層で覆われている、プロテーゼ。
【請求項14】
請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
骨と接触するようになった凸状の外面(2)を有し、この外面は、ヒドロキシアパタイトコーティングの層で覆われている、プロテーゼ。
【請求項15】
請求項1乃至14のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
骨と接触するようになった凸状の外面(2)を有し、この外面は、2μm乃至4μm、好ましくは3μm程度の粗さを有する、プロテーゼ。
【請求項16】
請求項1乃至15のうちのいずれか一項に記載のプロテーゼにおいて、
単一の部品として形成される、プロテーゼ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−518703(P2008−518703A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539589(P2007−539589)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055810
【国際公開番号】WO2006/048461
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(507149419)ユニベルシテ、テクノロジ、ド、コンピエーニュ‐ユーテーセー (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE TECHNOLOGIE DE COMPIEGNE−UTC
【Fターム(参考)】