セメントレス型人工股関節用ステム
【課題】ステムの遠位部端で発生するせん断応力の集中を解消するだけでなく、近位部端におけるそれも排除し、股関節に作用した荷重を健常時の伝達部位に及ぼすべくステムの近位部に集約させ、かつ応力分布の変動幅を少なくすること。
【解決手段】股関節に作用した荷重を受け入れる内部構造体7とこの内部構造体からの荷重を大腿骨1に伝達する外部構造体8とで構成される。前者にはネック部7Aとの間で荷重を授受するインナボディ部7Bがあり、後者にはインナボディ部7Bを取り囲み骨端側に開口するベルマウス状のアウタボディ部8Aと、骨髄腔に向けて延びるレグ部8Bとがある。アウタボディ部8Aの近位部端と遠位部端およびレグ部8Bに与えられる捩り剛性は、アウタボディ部8Aの中間部位18のそれより低くされる。
【解決手段】股関節に作用した荷重を受け入れる内部構造体7とこの内部構造体からの荷重を大腿骨1に伝達する外部構造体8とで構成される。前者にはネック部7Aとの間で荷重を授受するインナボディ部7Bがあり、後者にはインナボディ部7Bを取り囲み骨端側に開口するベルマウス状のアウタボディ部8Aと、骨髄腔に向けて延びるレグ部8Bとがある。アウタボディ部8Aの近位部端と遠位部端およびレグ部8Bに与えられる捩り剛性は、アウタボディ部8Aの中間部位18のそれより低くされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメントレス型人工股関節用ステムに係り、詳しくは、ステムの大腿骨界面における近位部端および遠位部端でのせん断応力の集中を回避し、股関節に作用する荷重を健常時と同じく近位部で伝達できるようにして、ステムが大腿骨に及ぼす無用な負担を軽減することができるようにした複合材製ステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
股関節は、図13の(a)に示すように、骨盤61と大腿骨62とが球面軸受として機能する骨頭63を介して接続され、直立、歩行、着座といった動作を可能にしている。大腿骨62の近位部には大転子や小転子があり、骨端領域にある例えば大転子64に結合された中臀筋65は大腿骨の動きの重要な役割を担う。事故などによって球面軸受機構が機能しなくなると大腿骨62は骨盤61との連係がとれなくなり、脚を意のままに動かすことができなく、日常生活に大きな支障をきたす。
【0003】
股関節機能を回復するためには、球面軸受機構の再現とその支持機構の導入が欠かせない。球面軸受機構は、図示しないが、骨盤に固定されるソケットとこれと協働して関節動作する球状ヘッドとからなり、支持機構は球状ヘッドを保持し荷重を大腿骨に伝えるステムである。ソケットと球状ヘッドとは軸受としての耐磨耗性や耐久性が要求されるが、それに使用される素材の開発や改良は進み、性能の向上も目ざましいものがあって、最近では技術的にほとんど成熟した域に達している。
【0004】
一方、ステムは図13の(b)に示すごとく、大腿骨62に埋め込まれる軸体66であり、大転子64を避けて骨端領域から骨幹領域に向けて形成した先細りの窄孔67に挿入される。窄孔は、図13の(c)に示すように、強度の高い皮質骨68の内部をくり抜くべく図示しないラスプを立てて海綿質骨69や骨髄の一部を除去して形成され、骨髄腔70に到達する深さを持つ。窄孔67に挿入されるステム66は、図13の(d)のごとく球状ヘッド71からの荷重を導入するためのネック部66a、ネック部を支え荷重を大腿骨に伝達するボディ部66b、ステムの挿入を助け、姿勢を保持するためのレグ部66cからなる。
【0005】
ステムは化学的に安定していて人体に無害であり、耐久性があって荷重を大腿骨に効果的に伝達できるものでなければならない。材料としてはコバルト合金やチタン合金であることが多く、荷重伝達を確実にするため外面を周囲の皮質骨に接近させた軸非対称とすることがほとんどである。というのは、図13の(c)に見られるように、除去することが許されない大転子64のある骨端領域72では、ボディ部66bにショルダ66dを形成せざるを得ないからである。図14の(a)は、ステム66をグラフィックアート的に表したものである。球状ヘッド71を取りつけると(b)のような大腿骨補綴になるが、ステムの形状の複雑さを上記した硬質金属で得るには費用が嵩む。
【0006】
ところで、既成のステムの形状に完全一致する窄孔を個人差のある大腿骨に形成することは実質的に不可能である。そこで、形状や強さが患者によって異なることを配慮しつつ大腿骨にオーバサイズの窄孔を形成し、そこにセメントを流し込んで接着する方法と、窄孔をアンダサイズにしてタイトに嵌め込むとともに骨の自力再生を促し一体化させる固定方法とのいずれかが採用される。前者の方法で固定できるまでの時間は後者のそれよりも短くて済むが、セメントから未反応モノマーが溶出することがあるといったことや、再手術時のステム引抜きが困難となること、さらには肺塞栓症を引き起こすおそれが高くなることなどから、最近ではセメントレス型の人工股関節用ステムの開発が盛んになってきている。
【0007】
ちなみに、股関節に作用する荷重は、ステムと大腿骨との界面に生じるせん断力のかたちで伝達される。せん断力には長手方向と回旋方向があり、いずれをも評価することが肝要である。すなわち、界面で許容できるせん断応力の大きさや分布は期待する伝達荷重の大きさに見合うものでなければならない。しかし、界面に作用する応力の積分値がその伝達荷重に一致しても局部的に応力の高い箇所が生じ、それが対応壁面の強度を超えるものであれば、骨を損壊させたり激痛を見舞わせたりすることになる。次に述べる現象に注目すれば、その理解は一層深まるであろう。
【0008】
いま、ステムを内筒体66Aと、大腿骨を外筒体62Aとみなせば、図15の(a)のようにモデル化することができる。ステムを大腿骨の窄孔にタイトに嵌めた状態は、図15の(b)や(c)のようになる。界面73は誇張して厚く描かれているが、接合層が薄い場合、以下のような現象が発生する。(b)は上下方向から圧縮または引張りが作用した例であるが、外筒体62Aも内筒体66Aもともに等方材であると、応力の大きさを長さで表した多数の直線の分布から分かるように、接合層73の両端部73eにせん断応力が集中する。なお、直線は軸方向に描かれるべきであるが、重なって見づらくなるので放射状の直線で与えられている。
【0009】
図15の(c)は捩りが作用した例であり、これもまた両端部で捩りのせん断応力が集中する。(b)と(c)のいずれにおいても、中間部では応力集中がなく、かつ応力の変動幅も小さいものの、発生応力の低さが目をひく。所望する大きさの荷重がこのような分布になって窄孔端壁が接合層の端部で耐えられなくなる場合には、ステムの装填は不可能ということになる。接合層に発生するせん断応力がこのような分布を呈することは、オランダの航空機エンジニアであるR.J.Schliekelmannの著書の中でも明らかにされている。
【0010】
股関節には直立時や歩行中に上下方向の荷重が作用する。それのみならず、図13の(a)から分かるように骨頭63が大腿骨62から偏位している関係上曲げも掛かる。曲げは一つの部材の一方の側に引張りを、他方の側に圧縮を発生させるので、上下方向の荷重も曲げも界面においては基本的に図15の(b)のようなせん断応力発生構造となる。一方、着座の前後動作は捩りを生じさせるので、図15の(c)のような捩りのせん断応力発生構造となる。
【0011】
図15の現象は接合層が厚くなれば弱まる傾向があるにしても、等方性材料で作られた例えばチタン合金製ステムを大腿骨に挿入すると、圧縮および捩りのいずれのせん断応力も心臓に近い近位部の端部と心臓から遠ざかった遠位部の端部において大きく発生する。すなわち、大腿骨への荷重の伝達のかなりの部分が、本体の上端部(近位部端)と細いレグ部の端部(遠位部端)に偏るということになる。
【0012】
これでは股関節に作用する荷重が遠位部へも伝達され、荷重伝達経路が健常時のそれと異なってしまう。荷重を受けることによって活性化される近位部の骨に対する負荷が減少すると、骨が薄くなりまた痩せ細りさらには骨密度も低下するストレスシールディングを招く。また、その部分にステムの緩みがあったりするとマイクロムーブメントが生じてステムから金属磨耗粉が発生し、発癌原因ともなる。ましてや金属ステムは窄孔に一致する形状となり得ないから、ステムの窄孔に対するフィットアンドフィル(窄孔壁接触率/孔内占拠率)も高くとれず、図15の説明とは違った意味で接触部分のスポット的荷重負担が強いられ、骨の破壊や界面剥離を招く。さらに、金属ステムの採用上の問題として無視することはできない点は、可動部に適用されるゆえの金属疲労である。
【0013】
ところで、WO2005/034818A1には、上記した金属ステムの持つ欠点を解消しようとした複合材製ステムが開示されている。この文献に限らないが、複合材製ステムが着目されている最大の要因は、繊維強化樹脂品に疲労現象が生じないことである。それはさておき、上記出願発明はWO93/19699A2やUSP6,749,639B2に記載されている金属芯材に繊維強化樹脂を被覆させたものとは異なり、ステム全体を複合材で成形し、ステム表皮の剛性に変化を持たせたものとなっている。さらに、オール複合材製ステムとはいえ、複合材積層ブロックから削りだすUSP4,892,552に開示のステムとは根本的に異なり、芯部もステム表皮の剛性調整に寄与させるようにした画期的な構造となっている。図16はその発明に係る全複合材製ステム74であり、大腿骨62に挿入された状態の断面図を示す。これは、(a)中に一点鎖線で追加的に表した金属ステム66に比べてショルダ66dを持たない滑らかな外形が与えられている。
【0014】
図16の(a)は身体前面から見た断面図であり、(b)は側方から見た場合の図である。ステム74の周囲の二点鎖線は皮質骨75であり、海綿質骨は省かれている。注目すべきはステムの骨幹領域76に臨む表皮77aは大層薄く、骨端領域78の表皮77bは厚くなっていること、および、芯部にキャビティ79を形成する内皮80と表皮77との間の複合材の層厚を徐々に変化させて、ステム自体の剛性を近位部から遠位部に向けて低くするのを阻害しないようにしていることである。
【0015】
このような剛性変化を持たせる構成は、表皮を構成する強化繊維の積層数や繊維の配向を変えることによって可能となるものである。なお、内皮80と表皮77aで囲まれる空間は発泡体81が占め、ステム全体の保形性を補っている。界面応力は剛性が低くて荷重伝達を担えないところで大きく発生したり局部的に発生することもないから、少なくとも遠位部端に応力が集中することは解消される。
【0016】
それゆえ、応力は近位部に集まらざるを得ないから健常時に近い荷重伝達構造とすることができる。ちなみに、先に述べた金属ステムは等方性であるゆえ、近位部端および遠位部端で剛性を皮質骨のそれに近づくように落とすことは実質的に不可能であり、ステム両端部において引張/圧縮および捩りの高いせん断応力を抑制する術がない。これに比べれば複合材製ステムはせん断応力の集中を抑制する策を講じやすいと言える。
【0017】
ところが、強化繊維と樹脂の織布とを積層し、また一方向繊維材を配することになる複合材製ステムでは、金属ステムで与えられていたショルダの存在が繊維や樹脂の各織布にしわを生じさせるなど積層作業を難しくする。成形品質が落ちたりばらつきを招いたりする要因を排除するためには、図16の(a)に符号66で描いた金属ステムが持つ急な曲がりのない外形とせざるを得ない。ところが、ショルダが存在しない分、骨端領域におけるフィットアンドフィルは低下する。また、耐力の劣る海綿質骨との接触面増加も余儀なくされる。窄孔も曲がって複雑化し、ステムの挿入操作も煩雑になるきらいがある。
【0018】
ひき続き図16(a)を参照して、骨端領域78では大転子側の接合力が弱くなるが、反大転子側すなわち内股側は剛性の大きい表皮77Bの存在により、図15の原理に基づき近位部端で応力が集中する。内股側の皮質骨75Bは骨頭が損壊した時点で弱められていたり、手術中に削られるなどしてしばしば耐力を低下させている。しかも、手術後球状ヘッドに掛かった荷重でステムに曲げが作用するとき最も厳しい負荷状態におかれる。それゆえ、その部位で応力集中が顕在化すると皮質骨75Bは損傷する。荷重に耐える資質を失えばもはや人工股関節自体機能し得なくなる。
【0019】
複合材製ステムの骨端領域における表皮77の剛性低減は、その表皮が球状ヘッド72を支持するネック部66aに連なっていることと、剛性を高くしておかなければならないネック部の近傍までキャビティ79を延長できないという事情から、極めて難しい状況にある。従って、図16の人工股関節は、骨が弱っている患者や骨粗鬆症の患者に常に適用できるとはかぎらず、適用対象を狭めてしまう。
【0020】
ところで、大腿骨の三次元CT画像を得て、これをもとにその患者にふさわしい窄孔形状を見いだし、これに合わせた形状のステムを製作しようとする場合、窄孔壁面に接触する表皮の外形は寸法精度高く製作されねばならない。ステムは単一構成品であるから成形工程の分離が容易でないか、できるにしても却って多くの工程が余儀なくされる。また、成形型内での圧力制御も容易でなくなる。成形型の小型化や軽量化は進まないうえに、部分的にしろレディメイド品の導入の余地もなく、結局は廉価なステムは望み薄となる。
【特許文献1】WO2005/034818A1
【特許文献2】WO93/19699A2
【特許文献3】USP6,749,639B2
【特許文献4】USP4,892,552
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、ステムの遠位部端で発生するせん断応力の集中を解消するだけでなく、近位部端におけるそれも排除し、股関節に作用した荷重を健常時の伝達部位に及ぼすべくステムの近位部に集約させ、かつ応力分布の変動幅を少なくできること、ステムの窄孔におけるフィットアンドフィルを高めた形状を与えやすくすること、複雑な形状と煩雑な工程を減らしてステムの複合材成形を容易にし、ステムの品質を高くできるようにすること、成形型の簡素化小型化を可能して、カスタムメイド品であるにもかかわらず低廉化を推進できることを実現したセメントレス型人工股関節用ステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、大転子を避けて大腿骨の骨端領域から骨幹領域に向けて形成した窄孔に挿入され、ボーングロースにより大腿骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工股関節用ステムに適用される。その特徴とするところは、図1を参照して、股関節に作用した荷重を受け入れる内部構造体7とこの内部構造体からの荷重を大腿骨1に伝達する外部構造体8とで構成される。前者は骨盤に固定したソケットと協働して関節運動する球状ヘッド9を取りつけたネック部7Aと、このネック部7Aとの間で荷重を授受するインナボディ部7Bとを備える。後者には繊維強化樹脂製であり、インナボディ部7Bを取り囲み骨端側に開口するベルマウス状のアウタボディ部8Aと、このアウタボディ部8Aに連なり骨髄腔に向けて延びるレグ部8Bとを備える。そのアウタボディ部8A内の空間にはインナボディ部7Bとの一体化を図る接着用レジン12が充填されている。そして、アウタボディ部8Aの近位部端と遠位部端およびレグ部8Bに与えられる捩り剛性はアウタボディ部8Aの中間部位18のそれより低くされ、中間部位に集約させた荷重を概ね均して大腿骨1の近位部に伝達できるようにしたことである。
【0023】
インナボディ部7Bは外部構造体8の内面に直接接触していないことがあれば、接触させる(図12の(a)を参照)こともある。その外部構造体8はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂をマトリックスとして、無機質繊維を強化材とした複合材成形品としておく。アウタボディ部8A内の充填レジン12はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、またはそれにチョップドファイバを混入させたコンパウンドとしておくとよい。
【0024】
アウタボディ部8Aの中間部位を除く各部の捩り剛性は、その対応部分における窄孔6の周囲の骨質のそれより小さく与えられ、中間部位18の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えておく(図2も参照)。
【0025】
ステム軸芯線に対して概ね45度となるように配向された強化繊維だけは外部構造体8の全面を覆うように積層され、他の配向強化繊維の積層は部分的とされる。
【0026】
骨幹領域5の骨髄腔11に進入するときの案内を果たすレグ部8Bは、その内部を近位部側端で開口するキャビティ14にしておく。
【0027】
内部構造体7を繊維強化樹脂製とする場合、図4に示すステム軸芯線21に対して繊維が約45度に配向される織布22と概ね0/90度に配向される織布23とが、内部構造体7の全面を覆って積層される。この内部構造体7は大転子寄りへ張り出すショルダを持たず、ネック部7Aから遠位部に向けてなだらかに変化した外形を持つ(図1の(a)も参照)。
【0028】
図11の(a)のように、アウタボディ部8Aの股間側近位部端近傍にはレジンの非充填部12aが設けられる。(c)のように、レグ部8B内に熱可塑性樹脂12Aまたはその発泡体が装填され、外部構造体8の遠位部を中実としておくこともできる。
【0029】
アウタボディ部8Aの外表面には、とりわけ中間部位18のそれには、図4の(b)に示した微細な凹溝32が形成される。そのアウタボディ部8Aの外表面にハイドロキシアパタイト33を塗着しておくとよい。
【0030】
図1の(a)にあるように、アウタボディ部8Aの近位部端内股側部分には、窄孔開口縁に乗載させるフック10を形成しておいてもよい。
【0031】
外部構造体8および内部構造体7は、図7のように、その軸芯を含む面を境にしてそれぞれ二つ割れとした成形品36,37,38,39により形成しておくと都合がよい。
【0032】
図1に示すように、インナボディ部7Bの内部にネック部7Aを除く部分で遠位部になるにつれて横断面積が大きくなり遠位部側端で開口するキャビティ13が形成される。
【0033】
図11の(b)にあるように、レグ部8Bには、装填されたボーングロース用薬剤50の流出孔51を設けておくとよい。
【0034】
図12の(c)に示すように、内部構造体は、コバルト合金またはチタン合金7Qで製作することもできる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、外部構造体は内部構造体から独立した単体成形の薄肉樹脂品とすることができる。外部構造体の剛性調整幅は外部構造体を持たないステムの表皮層でのそれより格段に広くなる。外部構造体の薄い層は成形過程での金型への馴染みがよく、成形は容易となる。三次元CT画像データをもとにした窄孔形状に合わせなければならないのはこの成形品だけであり、カスタムメイド品となるが製作負荷は軽減される。薄肉品であるゆえ成形金型の軽量化や小型化も図られる。内部構造体は窄孔壁面に接触しないから球状ヘッドの取りつくネック部を除いて高精度に製作される必要がなく、レディメイド品としておくこともでき、総じてステムの低廉化を導く。
【0036】
骨は、患者の性別や体格、年齢により、大きさ形状強度が異なる。三次元CT画像から得られる大腿骨の特性に基づけば、界面における接触部の面圧やせん断応力の分布を予測したステム設計が可能となる。すなわち、使用に耐える剛性を保有した窄孔の壁面強度と形状にマッチする剛性やその分布を外部構造体に施すことができる。大腿骨に馴染ませやすく、かつフィットアンドフィルの向上やストレスシールディングの低減が図られる。それだけでなく、大腿骨との密着性を上げる設計を製作容易な薄肉の外部構造体に受け持たせ、厚肉構造の剛性調整幅の少ない内部構造体でのデザイン負荷を大幅に軽減することができる。
【0037】
中間部位で捩り剛性が高められたアウタボディ部を内方に位置するインナボディ部にレジン接着させた複合材製ステムは、レグ部とアウタボディ部の近位部端に与えられる剛性をアウタボディ部の中間部位のそれより低くすることができる。界面で生じるせん断応力の端部集中は排除され、外部構造体を持たないタイプのステムに比べて窄孔壁面に及ぼす負荷は著しく小さくなる。股関節に作用した荷重はステムの近位部で広く均して大腿骨に効果的に伝達される。スポット的に高い負荷が大腿骨に及ばなければ、外部構造体の両端における大腿骨との一体性が高まるだけでなく手術後の皮質骨崩壊も抑えられる。レグ部の外形は窄孔への進入を容易にし、その剛性の低さは窄孔壁に及ぼす負荷を和らげる。
【0038】
アウタボディ部とインナボディ部の間のスペースに充填された接着用レジンは、外部構造体の保形性を高める。その弾性率はインナボディ部よりはるかに低くアウタボディ部のそれに近いので、インナボディ部に入った衝撃が接着用レジンで減衰され、また荷重が分散してアウタボディ部に伝達される。従って、窄孔壁は衝撃の少ない荷重が伝達され、界面に生じるせん断応力も均されてステムの緩みが抑えられる。
【0039】
大腿骨の近位部で荷重の大部分が伝達されることになるから最短経路で伝搬し、荷重の拡散は抑えられて伝達効率がよくなる。すなわち、骨頭から伝達される荷重が大腿骨の近位部に入る健全時の伝達メカニズムに近づけられる。ステムにおける負荷分布の単純化や負荷の等大化が図られて大腿骨とステムの荷重伝達機構はシンプルとなり、フィットアンドフィルを上げるにしても主として荷重伝達域を対象とすればよくなる。
【0040】
人工股関節を使用することによって健常時にあまり使われていなかった部位にも荷重を伝達させることなれば、本来の伝達経路での荷重負荷が減少し、その部位で骨が痩せ骨密度が下がり骨強度の低下をきたす。しかし、上記したごとく荷重伝達を健全時の経路で再現させることになるから、その部位における骨の成長促進がストレスシールディングの発生率を低下させる。なお、ステムはセメントレスタイプであるから大腿骨への固定はボーングロースに依存するが、それを助長する対策もアウタボディ部の主として中間部位に講じればよい。
【0041】
インナボディ部を外部構造体の内面に直接接触させないようにしておくなら、内部構造体はアウタボディ部内空間に充填された接着用レジンのみに支持されることになる。その接着用レジンは、内部構造体とアウタボディ部との間でクッション作用を発揮する。従って、アウタボディ部遠位部端の低い剛性を保つことを目的としては、インナボディ部の遠位部端における剛性を極限まで減らしておく必要がなくなる。これは、内部構造体の荷重負担能力の低下を抑えることにもなる。
【0042】
インナボディ部の遠位部側端を外部構造体に接触させる場合は、その位置をアウタボディ部の剛性の高い箇所としておけば、インナボディ部によるバックアップ作用があってもその影響を少なくすることができる。インナボディ部は短くできるから、剛性を低くしておきたいレグ部の短小化も進められる。小型化可能なステムは、体格のかなり小さい患者へも適用の途を開く。
【0043】
マトリックスとして熱可塑性樹脂を採用するなら、それは人体に無害で、そのうえ強靱であって大腿骨に馴染ませやすい。炭素繊維やガラス繊維などの無機質繊維は高弾性かつ高強度で、これで補強された樹脂には金属のような疲労が生じない。強化繊維は積層数や配向によって弾性率を変えることができるので、骨の性状と剛性分布にマッチさせた織布のテイラーリングにより、外部構造体にふさわしい剛性を与えることができる。
【0044】
充填レジンとして熱可塑性樹脂を使用すればアウタボディ部と同質となるから、アウタボディ部の充填レジンとの一体性が高まる。インナボディ部より弾性率がはるかに低いので、インナボディ部との間で相対変形が許容される。チョップドファイバを混入した熱可塑性樹脂コンパウンドでは、ファイバ混入量調整により違った弾性率とすることができ、患者の骨特性に適した弾性率を与えやすくなる。
【0045】
アウタボディ部の中間部位を除く各部の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより小さく与えられるなら、その部分における荷重伝達は大きくならず、界面におけるせん断応力の増大は抑えられる。一方、中間部位の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えられるから、その部分の骨の耐力以下でアウタボディ部が耐力を失うことがない。すなわち、骨が許容するまでの荷重伝達が図られ、伝達力不足の人工股関節となることはない。
【0046】
ステム軸芯線に対して概ね45度となるように配向される強化繊維の織布だけは外部構造体の全面を覆うように積層されるので、高い捩り剛性が筒状の外部構造体の全周に与えられる。外部構造体は薄肉構造であるにもかかわらず、着座前後の動作で大腿骨との界面に生じる回旋方向のせん断力に合わせた効果的な補強がなされる。
【0047】
レグ部の内部を近位部側端で開口するキャビティにしておけば、骨髄腔に進入するときガイドノーズとして機能するレグ部が骨髄腔に馴染みやすくする。また、挿入時に過大な力が掛かっても変形が許容されるから骨への圧迫は軽減される。
【0048】
内部構造体を繊維強化樹脂製とする場合、ステム軸芯線に対して繊維が約45度に配向される織布と概ね0/90度に配向される織布とが内部構造体の全面を覆うように積層されていれば、曲げや捩りがステムに作用しても、インナボディ部を何れにも耐える構造としておくことができる。とりわけ、アウタボディ部が負担しえない引張/圧縮に対してすなわち曲げに対して高い剛性を保有するものとなる。もちろん、ネック部から遠位部に到る一方向繊維材も含んだ積層体とすることにより、一層の強化を図ることができる。
【0049】
内部構造体には大転子寄りへ張り出すショルダを持たせずネック部から遠位部に向けてなだらかに変化した外形を与えておけば、内部構造体には繊維を急に曲げなければならない部位が存在しなくなって、皺の生じない滑らかな繊維配向による積層が可能となり、成形品質のばらつきが抑えられる。とりわけネック部からインナボディ部にかけての遷移部分は一方向繊維材による高い引張/圧縮耐力特性を生かした補強がなされ、球状ヘッドから入る荷重を円滑に伝達しまた曲げに耐えられる高品質の成形品とすることができる。
【0050】
アウタボディ部の股間側近位部端近傍にレジンの非充填部を設けておくなら、球状ヘッドに掛かる上下方向荷重によってステムに曲げが作用したとき、アウタボディ部の股間側部位の上端部が充填レジンに邪魔されることなく変形できる。これによって、アウタボディ部に及ぶ負担を和らげることができる。
【0051】
レグ部内に熱可塑性樹脂またはその発泡体が装填され、外部構造体の遠位部を中実としておけば、中空のレグ部に比べて局部的な変形や皺の発生が抑えられる。レグ部の全体が緩やかな変形を呈すると、骨髄腔への着座性も高まる。また、レグ部の保形性が向上するから、アウタボディ部を介して伝達しきれなかった荷重があっても、その伝達を負担することができるようになる。
【0052】
大腿骨への荷重伝達面に微細な凹溝が施されていれば、これに成長した海綿質骨が入り込んで大腿骨への固定が早期に図られ、界面でのせん断耐力が増進する。この凹溝は外部構造体の全面に施してもよいが、荷重伝達負荷の大きい中間部位で効果的となる。
【0053】
アウタボディ部の外表面にハイドロキシアパタイトを塗着するなどしておけば、エナメル質や象牙質を構成する無機質の主成分が界面でのボーングロースを促す。すなわち、ステムに付着するハイドロキシアパタイトの結晶が大腿骨から成長してきた骨と化学的に結合し、締結の早期化と界面におけるせん断耐力の増強が図られる。この処置もアウタボディ部の中間部位では極めて効果的となる。
【0054】
アウタボディ部の近位部端内股側部分に窄孔開口縁に乗載されるフックが形成されていれば、それが窄孔開口縁に接した時点でステムの挿入を停止する目安を与えることができる。ステムが窄孔に入りすぎることはなくなり、過大なフープ圧による大腿骨の亀裂発生が防止される。これは、皮質骨が薄くなった骨粗鬆症の患者を対象とする場合に、極めて有用となる。
【0055】
外部構造体および内部構造体を軸芯を含む面を境に二つ割れとした成形品で形成しておけば、半割れ品を合わせてネック部で支持された内部構造体を囲むように外部構造体の半割れ品を合わせ、全体を仕上げ型に閉じ込めることができる。内部構造体と外部構造体との間に、熱可塑性樹脂またはそのコンパウンドを注入すれば、静水圧原理に基づき内部欠陥のない品質の高い複合材製ステムが製作される。
【0056】
遠位部になるにつれて横断面積が大きく遠位部側端で開口するキャビティをインナボディ部の内部に形成しておけば、遠位部側端での肉厚を薄くして剛性を弱めることが極めて容易となる。遠位部端での剛性を極端に低くすれば、その遠位部端がアウタボディ部の内面に接触しても、アウタボディ部が保有すべき剛性やその分布が乱されにくくなる。人工股関節取替え手術時ネック部に近い部位でキャビティへ届く切れ目を入れれば、その遠位部側を窄孔壁から剥がすのが容易となる。ステム内のキャビティがレグ部からインナボディ部に連なれば、ステムの軽量化が促進される。ボーングロース用薬剤や骨髄液を担持させる場合には、その収容量を多くして薬効を持続させる。
【0057】
レグ部にボーングロース用薬剤の流出孔を設けておけば、その孔から骨髄液が入り、薬と混合して骨髄腔に送り出される。骨髄液に伴われて界面に浸透した薬剤はアウタボディ部の中間部位にも及び、荷重伝達を担う部位での骨の成長や殺菌が図られる。
【0058】
内部構造体をコバルト合金またはチタン合金で製作することは、それが外部構造体の内面に直接接触しないようにさえしておくかぎり差し支えない。内部構造体の剛性やその分布がアウタボディ部のそれに及ぼす影響が少ないからであるが、内部構造体のレディメイド化が許容されることにもなって人工股関節の量産性が向上し、低廉化も進む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に本発明に係るセメントレス型人工股関節用ステムを、その実施の形態を表した図面をもとにして詳細に説明する。図1の(a)は大腿骨1内にステム2を装填した状態の断面図、(b)は(a)中のB−B線矢視断面図である。これは、大転子3を避けて海綿骨と骨髄を除去し、大腿骨の骨端領域4から骨幹領域5に向けて形成した先細りの窄孔6に挿入されている。そして、ボーングロースにより大腿骨1との結合力を発生させ、界面剥離を抑制できるようにしたセメントレス型人工股関節用ステムとなっている。
【0060】
このステム2の主たる構成は、内部構造体7と外部構造体8からなる。前者にはネック部7Aとインナボディ部7Bが備えられ、後者はアウタボディ部8Aとレグ部8Bとを備える。ネック部7Aには骨盤に固定した図示しないソケットと協働して関節運動する球状ヘッド9が取りつけられ、股関節に作用する荷重をステム2に導入する。インナボディ部7Bはネック部7Aに連なり、ネック部との間で荷重を授受して外部構造体8へ伝達するものである。これはステム2の軸芯部に配置されるが、大転子寄りに張り出すショルダを持たず、ネック部から遠位部に向けてなだらかに変化した外形が与えられている。
【0061】
上記のアウタボディ部8Aは、近位部端股間側部分に窄孔開口縁に乗載される後述するフック10を持つが、インナボディ部7Bを取り囲み骨端側に開口するベルマウス状となっている。レグ部8Bは、アウタボディ部の遠位部端に連なり、骨髄腔11に向けて延びるコーン状である。この例においては、アウタボディ部8Aはレグ部8Bと一体に成形されている。
【0062】
アウタボディ部8A内の空間にはインナボディ部7Bとの一体化を図る接着用レジン12が充填され、外面が窄孔6の壁面の大部分に接触してインナボディ部7Bに入ってきた荷重を大腿骨1に伝達するよう機能する。外部構造体8は繊維強化樹脂製とされるが、内部構造体7はそれに限られない。しかし、この例においては、内部構造体7も繊維強化樹脂製品であるとして説明する。なお、インナボディ部7Bは、その遠位部側端が外部構造体8の内面に直接は接触しない配置となっている。
【0063】
ステム2をもう少し詳しく述べる。アウタボディ部8Aの近位部端と遠位部端およびレグ部8Bの全体に与えられる捩り剛性は、アウタボディ部8Aの中間部位のそれより低くされる。これによって、中間部位に集約させた荷重を概ね均して大腿骨の近位部に伝達させることができるようにしている。一方、インナボディ部7Bの内部には、遠位部になるにつれて横断面積が大きくなり遠位部側端で開口するキャビティ13が、ネック部7Aを除いて設けられている。上で触れたレグ部8Bは骨幹領域5の骨髄腔11に進入するときの案内を果たすが、その内部も近位部側端で開口するキャビティ14となっている。
【0064】
本発明の眼目は、股関節に作用する荷重がステム2の遠位部端および最も負荷状態が厳しくなる内股側の近位部端に集中して伝達されることのないようにして、荷重伝達経路を健常時のそれにできるだけ合わせようとすることである。それゆえ、アウタボディ部8Aに保持させる捩り剛性分布には、次に述べるような変化を持たせることにする。これは、外部構造体8が繊維強化樹脂製であり、さらには薄肉成形品であるからこそ可能となるものである。
【0065】
図2は、外部構造体の内股側の断面とそれに対応する窄孔壁における捩り剛性を、界面に作用する捩りのせん断応力に関連づけて表わしたものである。図の左端の表示は、図1の右端に与えたステム長手方向におけるステーションである。その右隣の断面図は後述する図3の(c)に記載されているものと同じで、内股側のアウタボディ部8Aとそれに連なるレグ部8Bの模式図である。図2中の一点鎖線15は、大腿骨(窄孔周壁)の捩り剛性である。骨端領域の大腿骨の直径は図1からも分かるように骨幹領域のそれよりかなり大きいから、骨髄腔に向かうにつれて捩り剛性は小さくなっている。ちなみに、内股側の皮質骨はST04より上部分が元来存在しなかったか図1の(a)中の符号1aの部分が除去されるなどしているから、内股側の仮想の皮質骨が外股側のそれと閉空間を形成していると仮定した場合の剛性が、上記した一点鎖線15に連なる二点鎖線16で表されている。
【0066】
図2中の実線17は、ステムに与えられた捩り剛性の分布を示している。すなわち、本例においては、アウタボディ部8Aの中間部位18を除く各部の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質の剛性(符号15の線))より小さく与えられ、中間部位18の捩り剛性は、その対応部分における大腿骨の剛性より大きく与えられている。これによって、荷重伝達経路は健常時のそれにできるだけ合わされた格好となる。その際、アウタボディ部8Aの近位部側から中間部位にかけてや中間部位から遠位部側にかけての剛性変化は漸増しまた漸減されており、界面に発生するせん断応力の変化が滑らかとなるように配慮されている。骨に掛かる負担も急増/急減することがないから、アウタボディ部8Aの窄孔壁面に対する緩みも発生しにくくなる。なお、中間部位18とは後述する図3の(c)の右側のスケールで言えば、近位部端から例えば5〜40%の部分に相当する。
【0067】
上記のごとく、アウタボディ部8Aの中間部位18を除く各部の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより小さく与えられると、その部分における荷重伝達は大きくならず、界面におけるせん断応力の増大が抑制される。一方、中間部位18の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えられるから、その部分では骨が崩壊しない範囲で双方が張り合い、骨より先にアウタボディ部8Aが耐力を失うことはない。すなわち、骨が許容するまでの荷重伝達は全うされることになる。
【0068】
図2中の破線19は、金属ステムである場合に界面に発生する捩りせん断応力の分布である。図15のところで説明したように、骨端領域4の端部と骨幹領域5の端部で応力のピークが生じる。しかし、本例のステムでは細線20が示すように中間部位18に応力が集まりかつ総じて変化幅が小さく、健常時の荷重伝達分布に近づけられていることが分かる。レグ部8Bの捩れ剛性は一定でもよいが、実線17の下半分に描かれているように、遠位部になるにつれて小さく与えてもよい。その場合には、界面に発生するせん断応力も次第に小さくなり、窄孔壁面に対する密着性は増大する。
【0069】
ところで、本発明者らは、多くの解析と実験を重ねることにより、着座前後の動作に基づいた界面回旋方向に発生する捩りせん断応力の大きさや分布は、内部構造体よりも外部構造体の剛性の影響を大きく受けるという知見を得た。それゆえ、外部構造体には変化した剛性を与え、とりわけ荷重伝達領域で捩り剛性を高くしておくことが好ましく、これによって近位部端および遠位部端での捩り応力の集中をなくすことができた。さらに、直立時や歩行に基づいた界面長手方向に発生する引張/圧縮せん断応力は、外部構造体よりも内部構造体の剛性に大きく依存するという知見も得た。従って、内部構造体の長手方向の剛性は高くしておくべきであるが、外部構造体では荷重伝達領域で一定かつ皮質骨の引張/圧縮剛性に近づけた低剛性としておいて差し支えないということも知得した。
【0070】
まとめると、ステムに掛かる曲げに基因した引張/圧縮は主として内部構造体に負担させ、股関節に作用する捩りは主として外部構造体に負担させて大腿骨に伝達するのが好ましいということである。異なる二つの設計思想を一部品上で満たそうとする単品構成ステムではその機能や性能に限界が出るのは避けられない。しかし、本ステムは各設計思想を個別の部品に分散して適用することが許される多品構成とすることができるから、各品の設計負荷が軽減され、設計上の妥協を強いられることも少なく、機能や性能を理想に近づけやすくなる。
【0071】
ちなみに、捩り剛性を高める方法は、複合材料の繊維の方向を捩り方向とは一致しない方向、例えば捩り方向に対して略±45度傾けることである。そこで、ステム軸芯線21(図3の(a)を参照)に対して約45度となるように配向された強化繊維の織布だけが外部構造体の全面を覆うように積層することにする。外部構造体においては、全体的にはステム長手方向に対して45度で作用するせん断力に耐えられればよく、軸方向の荷重に対しては剛性を調整しても界面における引張/圧縮せん断応力の軽減にさして寄与しないという現象に着目したことによる。これは図3の(b)に示されているように、強化繊維の織布積層数を変えれば容易に達成できることである。
【0072】
なお、直立時や歩行中に作用する引張/圧縮に対しても補強しておくため、図示しないが概ね0/90度配向となる強化繊維や一方向繊維材が追加的に積層される。すなわち、重点的に曲げ剛性を高めておきたい内股部では、強化繊維が曲げ方向に対して略直角とされる。さらにそれらを追加するとすれば、アウタボディ部8Aの中間部位18すなわちステムの近位部がその対象となる。これは窄孔壁の持つ引張/圧縮剛性に合わせた程度、換言すれば界面に作用するフープ力に見合う程度にとどめられる。
【0073】
一方、内部構造体7は、図4の(a)に示されているごとく、ステム軸芯線21に対して繊維が約45度に配向される織布22と、ステム軸芯線に対して繊維が概ね0/90度に配向される織布23とが内部構造体の全面を覆うように積層され、近位部から遠位部に到るように配設される一方向繊維材24も適宜積層される。とりわけ引張/圧縮を負担する都合上後二者が主体となるが、捩り剛性を少ない積層で達成すべく45度配向繊維は外面もしくはその近傍に配置される。このような積層構造によれば、アウタボディ部が負担しえない引張/圧縮に備えた高い剛性を保有し、ネック部7Aがインナボディ部7Bに対して傾斜していることに基因する曲げモーメントにも耐えることができるものとなる。
【0074】
外部構造体8および内部構造体7に適用される複合材は、人体に無害なポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂をマトリックスとし、無機質繊維である炭素繊維もしくはガラス繊維を強化材とした繊維強化樹脂品とされる。マトリックスとしての熱可塑性樹脂は吸湿性がなく、溶出することもないから人体に無害である。そのうえ強靱であり、変形が余儀なくされる場合でも損傷することなく外部構造体を大腿骨に馴染ませる。強化材としての炭素繊維やガラス繊維は高弾性かつ高強度である(炭素繊維の弾性率は大きいものになると約630GPaにもなる)うえに、金属のような疲労がない。強化繊維は高弾性とはいえ、繊維の配向や量によって剛性調整をすることができ、ステムの製作には著しく柔軟性をもってあたることができる。
【0075】
内部構造体は急な曲がりを呈するショルダを持たないから、皺の生じない滑らかな繊維配向による積層が可能となり、成形品質のばらつきが可及的に抑えられる。とりわけネック部からインナボディ部にかけての遷移部分に一方向材による高い引張/圧縮耐力特性を生かした補強が可能となり、球状ヘッドから入る荷重を円滑に伝達しまた曲げに耐える内部欠陥のない高強度高品質の成形品を得ることが可能となる。
【0076】
こうして製作される繊維強化樹脂成形品すなわち外部構造体と内部構造体との組み合わせにより、最高品質の複合材成形ステムを得ることができる。強化繊維の積層数や繊維方向を変えることによってステムは異なる剛性を有した異方性体となるから、骨の性状や剛性分布にマッチしたテイラーリングをすれば、等方性の金属ステムや繊維強化樹脂で被覆した金属ステムに比べれば、直交異方性である骨への適合は格段に優れたものとなる。
【0077】
ところで、本発明者らは、充填レジンの層厚が大きいほど界面に発生する圧縮せん断応力はステムの近位部に集まるという知見も得ている。それゆえ、図1に示すように、インナボディ部7Bの周囲を充填レジン12で取り巻くことにしている。これによって、アウタボディ部8Aの中間部位18に圧縮荷重も集約させることができる一方、図15の(b)のような圧縮に基因したステム両端でのせん断応力も、その集中を排除することができる。本例のステム2においてはアウタボディ部8Aがベルマウス状であること、インナボディ部7Bはショルダのないスリムな形であることから、充填レジン12の収容スペースが自ずと確保できるという構造になっている点を見逃すことはできない。なお、近位部から遠位部に向かうにつれて層厚が図1のごとく小さくなるようにしておくと、インナボディ部7Bの遠位部端で接着用レジン12がレグ部8B内に進入しようとするのを阻止しやすくなる。
【0078】
上記した充填レジン12は先に触れた熱可塑性樹脂またはそれにチョップドファイバを混入させたコンパウンドとしておけばよい。熱可塑性樹脂の資質は上記の通りで、コンパウンドも大きく変わらず、インナボディ部7Bの弾性率よりもはるかに低く、アウタボディ部8Aのそれに極めて近似した弾性率を持たせることができる。充填レジン12はアウタボディ部と同質となるから、アウタボディ部との一体性が高まる。インナボディ部7Bより弾性率がはるかに低く、インナボディ部に対する相対変形が許容され、インナボディ部の捩れの一部を吸収して界面に発生するせん断応力の低減にも寄与する。
【0079】
チョップドファイバを混入した熱可塑性樹脂コンパウンドでは、弾性率を樹脂単体より上げることができる。弾性率の増加が可能となればその調整幅は大きくなり、患者の骨特性に適した弾性率をあてがいやすくなる。チョップドファイバはインナボディ部7Bの遠位部端で架橋作用し、それ以上の進入を自らが阻止するようにも働く。樹脂単体品の場合と同様に疲労がないから、耐久性は金属製ステムを上回ること述べるまでもない。
【0080】
図3は、アウタボディ部8Aとレグ部8Bとが一体に成形された外部構造体8の一部破断図である。これは薄肉品であるが繊維強化樹脂製であることを分かりやすくするため、積層数が多い箇所は(a)のように厚肉で表わされている。(b)は次に述べる最内層を省いて内方に層を重ねた状態を表した斜視図である。(c)は(b)の切断面のうち内股側となる断面の積層状態を誇張して表した断面である。これは、外部構造体8の最外層25と最内層26が何層かからなる中間層27を被覆していることを明確に表している。
【0081】
個々の層は、一枚の強化繊維織布と樹脂を紡糸して作った一枚の織布を重ねたものを単独または幾重かにして構成される。全域において繊維の配向を約45度に整えながら成形型内で積み重ねられる。必要に応じて0/90度繊維織布も混成して積層され、オートクレーブで加熱される。溶融した樹脂はマトリックスと化し、強化繊維が内装された積層物となる。なお、図5は各ステーションにおける骨とステムの断面図である。皮質骨の厚みや外部構造体8の厚み、接着用レジン12の層厚といったものが、既に述べたごとくに変化している。
【0082】
図1に示したごとく、中間部位18で捩り剛性が高められたアウタボディ部8Aとその内方に位置するインナボディ部7Bと両者を接着する充填レジン12とからなる複合材製ステム2は、捩りや引張/圧縮に基づき大腿骨界面で生じるせん断応力の端部集中を排して、股関節に作用する荷重をステムの近位部で広く均して大腿骨に伝達する。外部構造体を持たないタイプの従来技術のステム(図16を参照)とは異なり、大腿骨にスポット的に高い負荷が及ぶことはほとんどなく、手術後の皮質骨崩壊を招く不安はぬぐ去られ、患者に安心感を与えるものとなる。
【0083】
レグ部8Bとアウタボディ部8Aの近位部端および遠位部端に与えられる剛性はアウタボディ部の中間部位18のそれより低くされることはすでに述べたが、その剛性を極端に落とせば外部構造体の両端に発生するせん断応力は著しく小さくなる。外部構造体の両端における大腿骨との一体性があがるだけでなく、荷重を中間部位に集約させることができる。このレグ部8Bの外形は窄孔への進入を容易にし、その剛性の低さは窄孔壁に及ぼす負荷を大いに軽減する。
【0084】
そのレグ部8Bは骨髄腔11に進入するとき、ガイドノーズとして機能するが、近位部側端で開口するキャビティ14はレグ部を骨髄腔に馴染ませやすくする。また、挿入時に過大な力が掛かっても変形が許容されるから骨への圧迫を和らげる。外部構造体の成形にあたり、強化繊維をステム軸芯線に対して概ね45度をなすように配向することになるから、ガイドノーズの上下左右方向への柔軟性は一層高いものとなる。
【0085】
インナボディ部の遠位部側端は外部構造体の内面に直接接触させないようにしているから、内部構造体7はアウタボディ部8Aの内部空間に充填された接着用レジン12のみによって支持されることになる。その接着用レジンは内部構造体とアウタボディ部との間でクッション作用を発揮する。従って、アウタボディ部8Aの遠位部端で可及的に低く与えた剛性を損なわないことを目的として、インナボディ部の遠位部端における剛性を極限まで減らしておく必要もなくなる。これは、内部構造体7の荷重負担能力の低下を抑えることにもつながる。
【0086】
アウタボディ部8Aとインナボディ部7Bの間のスペースに充填された接着用レジン12は、外部構造体8の保形性を高めている。その弾性率はインナボディ部よりはるかに低くアウタボディ部のそれに近いので、インナボディ部7Bに入った衝撃が接着用レジン12で減衰される。また、荷重が分散してアウタボディ部8Aに伝達される。従って、窄孔6の壁面には衝撃の少ない荷重が伝達され、界面に生じるせん断応力も均されてステム2の緩みが抑えられ、長期にわたる使用が可能となる。
【0087】
アウタボディ部8Aの近位部端に設けられたフック10が、図1の(a)中に符号1aで表した皮質骨の上端部1aを切除するなどして計画的に形成された縁部に触れれば、これをもってステム挿入操作の停止目安とすることができる。ステムが窄孔に入りすぎないようにできれば、過大なフープ圧による大腿骨の亀裂発生やそれに基づく疼痛を防止することができる。このフックは一つと限らないが、アウタボディ部8Aの上端縁の低剛性部分を強化しない形や大きさのフランジまたはフィンとしておけばよい。皮質骨が薄くなった骨粗鬆症の患者の骨を対象とする場合でも、使用することができる。
【0088】
以上述べたステムにおいては、外部構造体が内部構造体から独立した単体成形の薄肉樹脂品となっている。外部構造体の引張/圧縮および捩りの剛性調整幅は外部構造体を持たないステム(図16を参照)の表皮層でのそれより格段に広くなり、剛性分布にバラエティを持たせやすくなる。とりわけ低剛性部を生成することができる結果、ベルマウス状外殻の中間部位では大きな剛性を与え、他の部位では変化させたり極端に小さくすることも可能となる。複合材品は金属品のように疲労を呈しないから、耐久性においても信頼性の高いものとなる。
【0089】
大腿骨の近位部で荷重の大部分が伝達されることになるから最短経路での伝搬が実現され、荷重の拡散は抑えられて伝達効率はよくなる。骨頭から伝達される荷重が大腿骨の近位部に入る健全時の伝達メカニズムが再現される。ステムにおける負荷分布の単純化や負荷の等大化が図られて大腿骨とステムの荷重伝達機構はシンプルとなり、フィットアンドフィルを上げるにしても主として荷重伝達域を対象にすればよくなる。
【0090】
人工股関節を使用することによって健常時にあまり使われていなかった部位にも荷重を伝達させることなれば、本来の伝達経路での荷重負荷が減少し、その部位で骨が痩せ骨密度が下がり骨強度の低下をきたす。しかし、荷重伝達を健全時の経路で再現させることになるから、その部位における骨の成長促進がストレスシールディングの発生率を低く抑える。
【0091】
遠位部になるにつれて横断面積が大きく遠位部側端で開口するキャビティ13をインナボディ部7Bの内部に形成しているから、遠位部側端での肉厚を薄くして剛性を弱めることが容易となっている。遠位部端での剛性を極端に落とせば、その遠位部端がアウタボディ部8Aの内面に接触しても、それが保有すべき剛性やその分布は乱されなくて済む。ステム内のキャビティ13,14がインナボディ部からレグ部に連なることになるので、ステムの軽量化も促進される。なお、人工股関節取替え手術時、後で触れる図10の(a)のようにネック部7Aに近い部位でキャビティ13に届く切れ目41を入れると、切れ目から遠位部側を大腿骨1から剥がすことが容易となる。また、図11の(b)のように、ボーングロース用薬剤50を担持させる場合には、その収容量を多くして薬効を持続させやすくなる。
【0092】
骨は、患者の性別や体格、年齢により、大きさ形状強度が異なる。三次元CT画像から得られる大腿骨の特性に基づけば、界面における接触部の面圧やせん断応力の分布を予測したステム設計が可能となる。すなわち、使用に耐える剛性を保持した窄孔の壁面強度と形状にマッチする剛性やその分布を外部構造体に施すことができる。大腿骨に馴染ませやすく、かつフィットアンドフィルの向上やストレスシールディングの低減が図られる。それだけでなく、大腿骨との密着性を上げる設計を製作容易な薄肉の外部構造体に受け持たせ、厚肉構造の剛性調整幅の少ない内部構造体でのデザイン負荷を大幅に軽減することができる。
【0093】
外部構造体を形成する薄い層は成形過程での金型への馴染みがよく、型内の圧力制御も複雑化せず、成形は容易となる。三次元CT画像データをもとにした窄孔形状に合わせなければならないのはこの外部構造体だけであり、微細な凹溝が表面に施されることやラスプで削孔される窄孔はアンダーサイズに形成されるため、成形精度は厳密である必要もなくなる。外部構造体はカスタムメイド品とせざるを得ないが、低剛性品であるゆえ成形金型の軽量化や小型化が促される。一方、窄孔壁面に接触することのない内部構造体は、球状ヘッドの取りつくネック部を除いて高精度に製作する必要がない。レディメイド品化しておくこともでき、ステムの低廉化が促進される。
【0094】
ここで、三次元CT画像データをもとにした窄孔形状の決定、外部構造体の形状と付与剛性について説明する。図6の(a)に示すように患者の大腿骨から断層写真28を多数取得する。これをコンピュータで重ね画像処理すると(b)のような大腿骨1Aが再現される。個々の断層面において(c)のような画像30から皮質骨および海綿質骨の密度を得ると、この断層面における大腿骨の弾性率や剛性を知ることができる。これは、密度と剛性を関連づけた既知データ等をもとにすれば、簡単に得られる。一断層面における剛性分布31を立体的に表示すると(d)のようになる。各断層面における骨密度の多寡から窄孔壁を何処にするかを定め、立体化してラスプにより削孔するにふさわしい形状を決定することができる。窄孔壁面における剛性は全て把握されるから、補綴後の大腿骨の耐力も把握しておくことができるというわけである。
【0095】
ところで、骨の自力再生によりステムの固定を促進するために、窄孔壁面と接触する外部構造体のうち、少なくともアウタボディ部8Aの外表面に、図4の(b),(c)に示す微細な凹溝32を縦横に多数形成しておくことが好ましい。これに成長してきた海綿質骨が入り込むと骨とステムの一体化が進み、界面でのせん断耐力の増強が図られる。この凹溝32は外部構造体の全面に施してもよいが、ボーングロースが荷重刺激を受ける部分で活発になることに着目して、主としてアウタボディ部8Aの中間部位18(図1を参照)に施すようにすればよい。
【0096】
凹溝32は外部構造体8の成形後に表面加工して形成させることもできるが、成形時に形成しておくとよい。例えば幅0.5ミリメートル、深さ0.25ミリメートル程度とするにしても、凹溝の全表面がマトリックスで覆われ、繊維をはみ出させないようにしておくことができるからである。
【0097】
上記した凹溝の形成に加えて、図4の(b)のようにハイドロキシアパタイトの粒子33をステム表面に塗布しておいたり、(c)のように埋設しておく。後者の場合は、ハイドロキシアパタイトの結晶を含浸させた樹脂シートを成形時に型底に配置すればよい。ハイドロキシアパタイトはエナメル質や象牙質を構成する無機質の主成分であり、界面におけるボーングロースを促進する。すなわち、ステムに付着したハイドロキシアパタイトの結晶が大腿骨から成長してきた骨と化学的に結合し、ステム固定の早期化と界面におけるせん断耐力の増強を捗らせる。
【0098】
この処置もアウタボディ部8Aの中間部位18で極めて効果的となる。マイクロムーブメントや界面剥離が抑制されると、発癌原因となる磨耗粉の発生やステムの緩みに原因した激痛の発生も抑えられる。ハイドロキシアパタイトの塗着は凹溝32の中にとどまらず凹溝周囲にも施しておくことができる。凹溝が設けられていなくても、ハイドロキシアパタイト自体のボーングロース助長作用は損なわれるものでないが、凹溝を設けることとハイドロキシアパタイトの塗着との二重措置は、股関節の再生を早める。
【0099】
繊維強化樹脂による複合材成形品であるステムを形成する内部構造体7と外部構造体8とは周方向に途切れる形でないので、円柱状や円筒状物体を成形する要領によってもよいが、図7に示すように、軸芯を含む面を境にしてそれぞれ二つ割れとなる成形品としておくとよい。金型34,35はそれぞれについて片方のみ表されているが、各パーツは図3や図4の(a)のような繊維配向となるように積層された半割れ品36〜39のかたちで製作される。離型後はトリミングされ、図示しない仕上げ金型で一体品とされる。すなわち、内部構造体7の半割れ品36,37を合わせて図示しない治具でネック部7Aを保持し、その内部構造体7を囲むように外部構造体の半割れ品38,39を合わせ、キャビティ(図1中の符号13および14を参照)への進入を防止するための図示しないバルーンを挿入しておくなどして型閉めする。
【0100】
図8の(a)のように配置された内部構造体7と外部構造体8との間に、熱可塑性樹脂またはそのコンパウンドを注入すれば、静水圧原理に基づき重ね合わせ部を含んで細部まで行きわたる。(b)は充填レジン12の形を知るため単独で描いたものである。最終的には(c)の外形を持った複合材製ステムが得られる。なお、充填レジン12の上部には後述するねじインサート40を埋設しておくとよい。
【0101】
このようにして製作されたステム2に図16に示した外部構造体なしステム64を重ねて描くと図9の(a)のようになる。ステム2は外部構造体8の存在と接着用レジン12の充填により、実質的には図14のようなショルダ66dを備えたステム66にほぼ一致する。骨端領域におけるフィットアンドフィルが金属ステム並みとなるにもかかわらず、複合材成形が容易なステムとなっていることが分かる。
【0102】
上の説明では外部構造体8の半割れ品をアウタボディ部8Aとレグ部8Bとを連続させていたが、ベルマウス状のアウタボディ部とコーン状のレグ部とを図8の(d)に表したように個別に成形しておいてもよい。仕上げ金型へ入れる外部構造体のための部品が符号38A,38B,39A,39Bを付した4つになるだけで、それぞれの境界には接着用レジン12が進入し、図9の(b)のように一体化される。この場合、積層数の少ない成形品38B,39Bを積層数の多い成形品38A,39Aから独立して成形することができる利点がある。
【0103】
図9の(b)および(c)では、異なる外形をした内部構造体7M,7Nが使用されている。荷重伝達面の広狭や大腿骨の強度分布等を考慮して、その径や長さが定められる。図9の(c)は外部構造体8の遠位部端にキャップ8Cを取りつけることができるようにした例であり、後述するボーングロース用薬剤を収容するカプセルを格納することができる。
【0104】
ここで、ステムの大腿骨への装填や交換について、簡単に説明する。窄孔6(図1を参照)はラスプによってアンダーサイズにあけられる。球状ヘッド9がネック部7Aに取りつけられたステム2は、図8の(c)に示したねじインサート40に位置検出センサ(図示せず)のねじ部が螺着され、位置をコンピュータで監視しながら徐々に叩き込まれる。フック10が内股側の皮質骨に接触した時点(図1の(a)を参照)とコンピュータ処理により検出された位置や姿勢の情報をもとにして、ステム2の装填深さや回旋姿勢が整えられる。窄孔6とステム2との形は手術前に得られた三次元CT画像をもとにして決定されているので、可及的に高いフィットアンドフィルが得られる。手術後はボーングロースを待つため安静を保つが、ステム2と大腿骨1との一体性が得られると歩行訓練が開始される。
【0105】
ところで、加齢などによってステムと大腿骨との強度バランスが崩れると、人工股関節としての機能は低下する。取替え手術時に重要なことは大腿骨を壊さないことである。内部構造体7にはキャビティ13が設けられているから、図10の(a)にあるように、切れ目41を入れることも矢印42の方向に押して切れ目から遠位部側を大腿骨1から剥がすことも容易となる。例えば(b)のようにネック部7Aに孔をあけてピン43を通し、クレビス44で保持して引き抜く。ねじインサート40があれば(c)のように引抜き器45のねじ45aを噛ませ、ハンドル46をグリップして打撃ブロック47をハンマで矢印48の方向に叩けば、大腿骨1の損傷を最小限にとどめながら徐々に引き抜くことができる。もちろん、これら以外の要領によってもよいことは言うまでもない。なお、この図に描かれたステム2Aはフックを持たない例となっている。
【0106】
図11の(a)は異なるステム2の例であり、アウタボディ部8Aの股間側近位部端近傍にレジンの非充填部12aが設けられている。球状ヘッドに掛かる上下方向荷重49によりステム2に曲げが作用して図示しない大腿骨に押しつけられたとき、アウタボディ部8Aの股間側部位の上端部8aが充填レジン12に邪魔されることなくサークルで囲んだ拡大図に示したごとく変形できるようにしておく。幾度となく繰り返されるこの挙動によって、アウタボディ部8Aが損傷するのを回避しようとするものである。ちなみに、この非充填12aに連なる環状溝12bを充填レジン12の表面全部に形成させれば、アウタボディ部8Aの近位部端剛性の低下をさらに促すことができる。
【0107】
図11の(b)は、レグ部8Bのキャビティ14にボーングロース用薬剤50を格納させた状態を示している。この場合、レグ部8Bには薬剤の流出孔51が設けられ、その孔から骨髄液が入り、半透膜51aを通して出た薬剤と混合し、骨髄腔に送り出される。骨髄液に伴われて界面に浸透した薬剤はアウタボディ部8Aの中間部位18にも及び、荷重伝達を担うこの部位での骨の成長促進や殺菌がなされる。ボーングロース用薬剤はレグ部の先端に設けたキャップ8Cを外して装填したり、流出孔51に注射器を立ててゼリー状の薬剤を注入するなどすればよい。インナボディ部7Bのキャビティ13はこの薬剤格納空間を大きくし、長期にわたる薬効を発揮させることに役立つ。
【0108】
図11の(c)はレグ部8B内に熱可塑性樹脂12Aを装填させた例で、外部構造体8の遠位部を中実構造としている。樹脂が充満されると、レグ部が中空である場合に比べて局部的な変形や皺の発生が抑えられる。また、レグ部8Bの全体が緩やかな変形を呈して骨髄腔への着座性も高まる。レグ部の保形性が向上するから、アウタボディ部8Aを介して伝達しきれなかった荷重があっても、その伝達を担わせることができる。なお、熱可塑性樹脂の発泡体としてもよいし、インナボディ部7Bのキャビティ13に連続して装填させてもよい。いずれにしても弾性率はインナボディ部7Bより著しく小さく、外部構造体8と内部構造体7との剛性上の関連性を損なうものでない。
【0109】
ちなみに、図11の(c)の外部構造体8は、その厚みが一定に描かれている。これは弾性率の異なる強化繊維を使用することによって積層数を減らすようにした結果である。従って、図3に描いたように、外部構造体8は厚みに変化を持たせねばならないというものでもない。要するに、所望する剛性分布を与えた複合材品となっていればよい。
【0110】
ところで、インナボディ部7Bの遠位部側端7aを、図12の(a)に示すように、外部構造体8の内面に接触させてもよい。この場合、その接触位置をアウタボディ部8Aの剛性の高い箇所としておくことが好ましい。そのようにしておけば、インナボディ部7Bによるバックアップ作用が働いてもその影響を少なくしておくことができる。内部構造体7を短くできることになるから、インナボディ部7Bの影響を小さくしておきたいレグ部8Bの短小化も可能となる。小型化できるステムとなれば、体格の小さい患者への適用も拡がる。
【0111】
図12の(b)は、内部構造体が中実の複合材品7Pとしたものである。すなわち、図1の内部構造体7とはキャビティ13が存在しない点で異なる。これは外部構造体8の内面に直接接触しないようにしておけばそして接着用レジン12の層が厚ければ、内部構造体の剛性やその分布がアウタボディ部8Aのそれに及ぼす影響を少なくできることに基づく。従って、(c)のように内部構造体をコバルト合金製品またはチタン合金製品7Qとしてもよい。厚層の充填レジン12は内部構造体の形状限定を軽減するので、そのレディメイド化が大幅に許容されることになる。人工股関節の量産性が向上すれば、低廉化も押し進められる。
【0112】
以上詳細に説明してきたように、本発明に係るステムは、荷重を受けることによって活性化される近位部の骨に対する負荷を維持して、骨の痩せ細りや密度低下を防止することができる。ステムの緩みをなくしてマイクロムーブメントに基因する金属磨耗粉発生をなくし、フィットアンドフィルを高くして骨の破壊や界面剥離も回避される。
【0113】
内股側の皮質骨は骨頭が損壊されたときに弱められていたり、手術中に削られるなどしてしばしば耐力を低下させているが、本発明はそこでの応力集中を排除する。ネック部が連なっていることやキャビティを延ばせないことで剛性が落とせなくなっている骨端領域でもステムの剛性を低くでき、骨が弱っている患者を含めステム適用対象の拡大が図られる。すなわち、大腿骨の三次元CT画像をもとにして得た窄孔にマッチする形状のステムを成形するのが容易で、薄物成形ゆえの型圧制御も簡単となる。成形型の小型化や軽量化が図られ、部分的にしろレディメイド化の余地もあり、廉価で患者に優しいステムを提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明に係るセメントレス型人工股関節用ステムの断面で、(a)は身体正面から見た図、(b)は(a)中のB−B線矢視断面図。
【図2】ステムの内股側界面に作用する捩りせん断応力と大腿骨および外部構造体の剛性分布図。
【図3】外部構造体を表し、(a)は破断斜視図、(b)は最内層を除去した積層構造の模式的斜視図、(c)は外部構造体の内股側積層を粗く表した断面図。
【図4】(a)は内部構造体の積層構成を表した模式的斜視図、(b)および(c)は外部構造体の表面に施されたボーングロース処理の拡大模式図。
【図5】図1における各ステーションの断面図。
【図6】大腿骨の資質検査工程を示し、(a)は取得された多数のCT画像、(b)は画像を三次元組立てして得られた大腿骨再現図、(c)は一断面における骨密度把握画像、(d)は骨密度の立体三次元表示画像。
【図7】ステム構成品の成形要領の一例を示した分解斜視図。
【図8】成形される過程のステムを示し、(a)は内部構造体を外部構造体で覆った状態の斜視図、(b)は注入して固化した状態の接着用レジンの斜視図、(c)成形後ねじインサートを施した完成品の斜視図、(d)は外部構造体を四分割成形したときの各成形品の斜視図。
【図9】本発明に係るステムとその異なる例、および先行技術例ステムとの対比説明図。
【図10】本発明に係るステムの大腿骨からの取外し説明図。
【図11】(a)は近位部端にレジンの非充填部を設けた例の断面図と部分拡大図、(b)レグ部にボーングロース促進用薬剤カプセルを格納したステムの断面図、(c)キャビティに発泡体を充填した例の断面図。
【図12】本発明に係る他の例のステム断面図。
【図13】大腿骨に既存ステムを装着する要領の説明図。
【図14】既存金属ステムをグラフィックアート的に表示した大腿骨補綴の斜視図。
【図15】二筒状品を嵌合させたときの接着層に発生するせん断応力の説明図。
【図16】ステムの剛性を変化させることを提案した先行技術例で、(a)は身体正面から見た図、(b)は(a)中のC−C線矢視断面図。
【符号の説明】
【0115】
1…大腿骨、2,2A…ステム、3…大転子、4…骨端領域、5…骨幹領域、6…窄孔、7…内部構造体、7A…ネック部、7B,7M,7N…インナボディ部、,7P…中実複合材製内部構造体、7Q…チタン合金製内部構造体、8…外部構造体、8A…アウタボディ部、8B…レグ部、8C…キャップ、9…球状ヘッド、10…フック、11…骨髄腔、12,12A…接着用レジン(充填レジン)、12a…非充填部、13,14…キャビティ、15…一点鎖線(大腿骨の捩り剛性)、17…実線(ステムの捩り剛性)、18…中間部位、20…細線(本ステムの場合の界面に発生する捩りせん断応力)、21…軸芯線、22…45度に配向される織布、23…0/90度に配向される織布、24…一方向繊維材、32…凹溝、33…ハイドロキシアパタイト、36〜39,38A,38B,39A,39B…半割れ品、50…ボーングロース用薬剤、51…流出孔。
【技術分野】
【0001】
本発明はセメントレス型人工股関節用ステムに係り、詳しくは、ステムの大腿骨界面における近位部端および遠位部端でのせん断応力の集中を回避し、股関節に作用する荷重を健常時と同じく近位部で伝達できるようにして、ステムが大腿骨に及ぼす無用な負担を軽減することができるようにした複合材製ステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
股関節は、図13の(a)に示すように、骨盤61と大腿骨62とが球面軸受として機能する骨頭63を介して接続され、直立、歩行、着座といった動作を可能にしている。大腿骨62の近位部には大転子や小転子があり、骨端領域にある例えば大転子64に結合された中臀筋65は大腿骨の動きの重要な役割を担う。事故などによって球面軸受機構が機能しなくなると大腿骨62は骨盤61との連係がとれなくなり、脚を意のままに動かすことができなく、日常生活に大きな支障をきたす。
【0003】
股関節機能を回復するためには、球面軸受機構の再現とその支持機構の導入が欠かせない。球面軸受機構は、図示しないが、骨盤に固定されるソケットとこれと協働して関節動作する球状ヘッドとからなり、支持機構は球状ヘッドを保持し荷重を大腿骨に伝えるステムである。ソケットと球状ヘッドとは軸受としての耐磨耗性や耐久性が要求されるが、それに使用される素材の開発や改良は進み、性能の向上も目ざましいものがあって、最近では技術的にほとんど成熟した域に達している。
【0004】
一方、ステムは図13の(b)に示すごとく、大腿骨62に埋め込まれる軸体66であり、大転子64を避けて骨端領域から骨幹領域に向けて形成した先細りの窄孔67に挿入される。窄孔は、図13の(c)に示すように、強度の高い皮質骨68の内部をくり抜くべく図示しないラスプを立てて海綿質骨69や骨髄の一部を除去して形成され、骨髄腔70に到達する深さを持つ。窄孔67に挿入されるステム66は、図13の(d)のごとく球状ヘッド71からの荷重を導入するためのネック部66a、ネック部を支え荷重を大腿骨に伝達するボディ部66b、ステムの挿入を助け、姿勢を保持するためのレグ部66cからなる。
【0005】
ステムは化学的に安定していて人体に無害であり、耐久性があって荷重を大腿骨に効果的に伝達できるものでなければならない。材料としてはコバルト合金やチタン合金であることが多く、荷重伝達を確実にするため外面を周囲の皮質骨に接近させた軸非対称とすることがほとんどである。というのは、図13の(c)に見られるように、除去することが許されない大転子64のある骨端領域72では、ボディ部66bにショルダ66dを形成せざるを得ないからである。図14の(a)は、ステム66をグラフィックアート的に表したものである。球状ヘッド71を取りつけると(b)のような大腿骨補綴になるが、ステムの形状の複雑さを上記した硬質金属で得るには費用が嵩む。
【0006】
ところで、既成のステムの形状に完全一致する窄孔を個人差のある大腿骨に形成することは実質的に不可能である。そこで、形状や強さが患者によって異なることを配慮しつつ大腿骨にオーバサイズの窄孔を形成し、そこにセメントを流し込んで接着する方法と、窄孔をアンダサイズにしてタイトに嵌め込むとともに骨の自力再生を促し一体化させる固定方法とのいずれかが採用される。前者の方法で固定できるまでの時間は後者のそれよりも短くて済むが、セメントから未反応モノマーが溶出することがあるといったことや、再手術時のステム引抜きが困難となること、さらには肺塞栓症を引き起こすおそれが高くなることなどから、最近ではセメントレス型の人工股関節用ステムの開発が盛んになってきている。
【0007】
ちなみに、股関節に作用する荷重は、ステムと大腿骨との界面に生じるせん断力のかたちで伝達される。せん断力には長手方向と回旋方向があり、いずれをも評価することが肝要である。すなわち、界面で許容できるせん断応力の大きさや分布は期待する伝達荷重の大きさに見合うものでなければならない。しかし、界面に作用する応力の積分値がその伝達荷重に一致しても局部的に応力の高い箇所が生じ、それが対応壁面の強度を超えるものであれば、骨を損壊させたり激痛を見舞わせたりすることになる。次に述べる現象に注目すれば、その理解は一層深まるであろう。
【0008】
いま、ステムを内筒体66Aと、大腿骨を外筒体62Aとみなせば、図15の(a)のようにモデル化することができる。ステムを大腿骨の窄孔にタイトに嵌めた状態は、図15の(b)や(c)のようになる。界面73は誇張して厚く描かれているが、接合層が薄い場合、以下のような現象が発生する。(b)は上下方向から圧縮または引張りが作用した例であるが、外筒体62Aも内筒体66Aもともに等方材であると、応力の大きさを長さで表した多数の直線の分布から分かるように、接合層73の両端部73eにせん断応力が集中する。なお、直線は軸方向に描かれるべきであるが、重なって見づらくなるので放射状の直線で与えられている。
【0009】
図15の(c)は捩りが作用した例であり、これもまた両端部で捩りのせん断応力が集中する。(b)と(c)のいずれにおいても、中間部では応力集中がなく、かつ応力の変動幅も小さいものの、発生応力の低さが目をひく。所望する大きさの荷重がこのような分布になって窄孔端壁が接合層の端部で耐えられなくなる場合には、ステムの装填は不可能ということになる。接合層に発生するせん断応力がこのような分布を呈することは、オランダの航空機エンジニアであるR.J.Schliekelmannの著書の中でも明らかにされている。
【0010】
股関節には直立時や歩行中に上下方向の荷重が作用する。それのみならず、図13の(a)から分かるように骨頭63が大腿骨62から偏位している関係上曲げも掛かる。曲げは一つの部材の一方の側に引張りを、他方の側に圧縮を発生させるので、上下方向の荷重も曲げも界面においては基本的に図15の(b)のようなせん断応力発生構造となる。一方、着座の前後動作は捩りを生じさせるので、図15の(c)のような捩りのせん断応力発生構造となる。
【0011】
図15の現象は接合層が厚くなれば弱まる傾向があるにしても、等方性材料で作られた例えばチタン合金製ステムを大腿骨に挿入すると、圧縮および捩りのいずれのせん断応力も心臓に近い近位部の端部と心臓から遠ざかった遠位部の端部において大きく発生する。すなわち、大腿骨への荷重の伝達のかなりの部分が、本体の上端部(近位部端)と細いレグ部の端部(遠位部端)に偏るということになる。
【0012】
これでは股関節に作用する荷重が遠位部へも伝達され、荷重伝達経路が健常時のそれと異なってしまう。荷重を受けることによって活性化される近位部の骨に対する負荷が減少すると、骨が薄くなりまた痩せ細りさらには骨密度も低下するストレスシールディングを招く。また、その部分にステムの緩みがあったりするとマイクロムーブメントが生じてステムから金属磨耗粉が発生し、発癌原因ともなる。ましてや金属ステムは窄孔に一致する形状となり得ないから、ステムの窄孔に対するフィットアンドフィル(窄孔壁接触率/孔内占拠率)も高くとれず、図15の説明とは違った意味で接触部分のスポット的荷重負担が強いられ、骨の破壊や界面剥離を招く。さらに、金属ステムの採用上の問題として無視することはできない点は、可動部に適用されるゆえの金属疲労である。
【0013】
ところで、WO2005/034818A1には、上記した金属ステムの持つ欠点を解消しようとした複合材製ステムが開示されている。この文献に限らないが、複合材製ステムが着目されている最大の要因は、繊維強化樹脂品に疲労現象が生じないことである。それはさておき、上記出願発明はWO93/19699A2やUSP6,749,639B2に記載されている金属芯材に繊維強化樹脂を被覆させたものとは異なり、ステム全体を複合材で成形し、ステム表皮の剛性に変化を持たせたものとなっている。さらに、オール複合材製ステムとはいえ、複合材積層ブロックから削りだすUSP4,892,552に開示のステムとは根本的に異なり、芯部もステム表皮の剛性調整に寄与させるようにした画期的な構造となっている。図16はその発明に係る全複合材製ステム74であり、大腿骨62に挿入された状態の断面図を示す。これは、(a)中に一点鎖線で追加的に表した金属ステム66に比べてショルダ66dを持たない滑らかな外形が与えられている。
【0014】
図16の(a)は身体前面から見た断面図であり、(b)は側方から見た場合の図である。ステム74の周囲の二点鎖線は皮質骨75であり、海綿質骨は省かれている。注目すべきはステムの骨幹領域76に臨む表皮77aは大層薄く、骨端領域78の表皮77bは厚くなっていること、および、芯部にキャビティ79を形成する内皮80と表皮77との間の複合材の層厚を徐々に変化させて、ステム自体の剛性を近位部から遠位部に向けて低くするのを阻害しないようにしていることである。
【0015】
このような剛性変化を持たせる構成は、表皮を構成する強化繊維の積層数や繊維の配向を変えることによって可能となるものである。なお、内皮80と表皮77aで囲まれる空間は発泡体81が占め、ステム全体の保形性を補っている。界面応力は剛性が低くて荷重伝達を担えないところで大きく発生したり局部的に発生することもないから、少なくとも遠位部端に応力が集中することは解消される。
【0016】
それゆえ、応力は近位部に集まらざるを得ないから健常時に近い荷重伝達構造とすることができる。ちなみに、先に述べた金属ステムは等方性であるゆえ、近位部端および遠位部端で剛性を皮質骨のそれに近づくように落とすことは実質的に不可能であり、ステム両端部において引張/圧縮および捩りの高いせん断応力を抑制する術がない。これに比べれば複合材製ステムはせん断応力の集中を抑制する策を講じやすいと言える。
【0017】
ところが、強化繊維と樹脂の織布とを積層し、また一方向繊維材を配することになる複合材製ステムでは、金属ステムで与えられていたショルダの存在が繊維や樹脂の各織布にしわを生じさせるなど積層作業を難しくする。成形品質が落ちたりばらつきを招いたりする要因を排除するためには、図16の(a)に符号66で描いた金属ステムが持つ急な曲がりのない外形とせざるを得ない。ところが、ショルダが存在しない分、骨端領域におけるフィットアンドフィルは低下する。また、耐力の劣る海綿質骨との接触面増加も余儀なくされる。窄孔も曲がって複雑化し、ステムの挿入操作も煩雑になるきらいがある。
【0018】
ひき続き図16(a)を参照して、骨端領域78では大転子側の接合力が弱くなるが、反大転子側すなわち内股側は剛性の大きい表皮77Bの存在により、図15の原理に基づき近位部端で応力が集中する。内股側の皮質骨75Bは骨頭が損壊した時点で弱められていたり、手術中に削られるなどしてしばしば耐力を低下させている。しかも、手術後球状ヘッドに掛かった荷重でステムに曲げが作用するとき最も厳しい負荷状態におかれる。それゆえ、その部位で応力集中が顕在化すると皮質骨75Bは損傷する。荷重に耐える資質を失えばもはや人工股関節自体機能し得なくなる。
【0019】
複合材製ステムの骨端領域における表皮77の剛性低減は、その表皮が球状ヘッド72を支持するネック部66aに連なっていることと、剛性を高くしておかなければならないネック部の近傍までキャビティ79を延長できないという事情から、極めて難しい状況にある。従って、図16の人工股関節は、骨が弱っている患者や骨粗鬆症の患者に常に適用できるとはかぎらず、適用対象を狭めてしまう。
【0020】
ところで、大腿骨の三次元CT画像を得て、これをもとにその患者にふさわしい窄孔形状を見いだし、これに合わせた形状のステムを製作しようとする場合、窄孔壁面に接触する表皮の外形は寸法精度高く製作されねばならない。ステムは単一構成品であるから成形工程の分離が容易でないか、できるにしても却って多くの工程が余儀なくされる。また、成形型内での圧力制御も容易でなくなる。成形型の小型化や軽量化は進まないうえに、部分的にしろレディメイド品の導入の余地もなく、結局は廉価なステムは望み薄となる。
【特許文献1】WO2005/034818A1
【特許文献2】WO93/19699A2
【特許文献3】USP6,749,639B2
【特許文献4】USP4,892,552
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、ステムの遠位部端で発生するせん断応力の集中を解消するだけでなく、近位部端におけるそれも排除し、股関節に作用した荷重を健常時の伝達部位に及ぼすべくステムの近位部に集約させ、かつ応力分布の変動幅を少なくできること、ステムの窄孔におけるフィットアンドフィルを高めた形状を与えやすくすること、複雑な形状と煩雑な工程を減らしてステムの複合材成形を容易にし、ステムの品質を高くできるようにすること、成形型の簡素化小型化を可能して、カスタムメイド品であるにもかかわらず低廉化を推進できることを実現したセメントレス型人工股関節用ステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、大転子を避けて大腿骨の骨端領域から骨幹領域に向けて形成した窄孔に挿入され、ボーングロースにより大腿骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工股関節用ステムに適用される。その特徴とするところは、図1を参照して、股関節に作用した荷重を受け入れる内部構造体7とこの内部構造体からの荷重を大腿骨1に伝達する外部構造体8とで構成される。前者は骨盤に固定したソケットと協働して関節運動する球状ヘッド9を取りつけたネック部7Aと、このネック部7Aとの間で荷重を授受するインナボディ部7Bとを備える。後者には繊維強化樹脂製であり、インナボディ部7Bを取り囲み骨端側に開口するベルマウス状のアウタボディ部8Aと、このアウタボディ部8Aに連なり骨髄腔に向けて延びるレグ部8Bとを備える。そのアウタボディ部8A内の空間にはインナボディ部7Bとの一体化を図る接着用レジン12が充填されている。そして、アウタボディ部8Aの近位部端と遠位部端およびレグ部8Bに与えられる捩り剛性はアウタボディ部8Aの中間部位18のそれより低くされ、中間部位に集約させた荷重を概ね均して大腿骨1の近位部に伝達できるようにしたことである。
【0023】
インナボディ部7Bは外部構造体8の内面に直接接触していないことがあれば、接触させる(図12の(a)を参照)こともある。その外部構造体8はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂をマトリックスとして、無機質繊維を強化材とした複合材成形品としておく。アウタボディ部8A内の充填レジン12はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、またはそれにチョップドファイバを混入させたコンパウンドとしておくとよい。
【0024】
アウタボディ部8Aの中間部位を除く各部の捩り剛性は、その対応部分における窄孔6の周囲の骨質のそれより小さく与えられ、中間部位18の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えておく(図2も参照)。
【0025】
ステム軸芯線に対して概ね45度となるように配向された強化繊維だけは外部構造体8の全面を覆うように積層され、他の配向強化繊維の積層は部分的とされる。
【0026】
骨幹領域5の骨髄腔11に進入するときの案内を果たすレグ部8Bは、その内部を近位部側端で開口するキャビティ14にしておく。
【0027】
内部構造体7を繊維強化樹脂製とする場合、図4に示すステム軸芯線21に対して繊維が約45度に配向される織布22と概ね0/90度に配向される織布23とが、内部構造体7の全面を覆って積層される。この内部構造体7は大転子寄りへ張り出すショルダを持たず、ネック部7Aから遠位部に向けてなだらかに変化した外形を持つ(図1の(a)も参照)。
【0028】
図11の(a)のように、アウタボディ部8Aの股間側近位部端近傍にはレジンの非充填部12aが設けられる。(c)のように、レグ部8B内に熱可塑性樹脂12Aまたはその発泡体が装填され、外部構造体8の遠位部を中実としておくこともできる。
【0029】
アウタボディ部8Aの外表面には、とりわけ中間部位18のそれには、図4の(b)に示した微細な凹溝32が形成される。そのアウタボディ部8Aの外表面にハイドロキシアパタイト33を塗着しておくとよい。
【0030】
図1の(a)にあるように、アウタボディ部8Aの近位部端内股側部分には、窄孔開口縁に乗載させるフック10を形成しておいてもよい。
【0031】
外部構造体8および内部構造体7は、図7のように、その軸芯を含む面を境にしてそれぞれ二つ割れとした成形品36,37,38,39により形成しておくと都合がよい。
【0032】
図1に示すように、インナボディ部7Bの内部にネック部7Aを除く部分で遠位部になるにつれて横断面積が大きくなり遠位部側端で開口するキャビティ13が形成される。
【0033】
図11の(b)にあるように、レグ部8Bには、装填されたボーングロース用薬剤50の流出孔51を設けておくとよい。
【0034】
図12の(c)に示すように、内部構造体は、コバルト合金またはチタン合金7Qで製作することもできる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、外部構造体は内部構造体から独立した単体成形の薄肉樹脂品とすることができる。外部構造体の剛性調整幅は外部構造体を持たないステムの表皮層でのそれより格段に広くなる。外部構造体の薄い層は成形過程での金型への馴染みがよく、成形は容易となる。三次元CT画像データをもとにした窄孔形状に合わせなければならないのはこの成形品だけであり、カスタムメイド品となるが製作負荷は軽減される。薄肉品であるゆえ成形金型の軽量化や小型化も図られる。内部構造体は窄孔壁面に接触しないから球状ヘッドの取りつくネック部を除いて高精度に製作される必要がなく、レディメイド品としておくこともでき、総じてステムの低廉化を導く。
【0036】
骨は、患者の性別や体格、年齢により、大きさ形状強度が異なる。三次元CT画像から得られる大腿骨の特性に基づけば、界面における接触部の面圧やせん断応力の分布を予測したステム設計が可能となる。すなわち、使用に耐える剛性を保有した窄孔の壁面強度と形状にマッチする剛性やその分布を外部構造体に施すことができる。大腿骨に馴染ませやすく、かつフィットアンドフィルの向上やストレスシールディングの低減が図られる。それだけでなく、大腿骨との密着性を上げる設計を製作容易な薄肉の外部構造体に受け持たせ、厚肉構造の剛性調整幅の少ない内部構造体でのデザイン負荷を大幅に軽減することができる。
【0037】
中間部位で捩り剛性が高められたアウタボディ部を内方に位置するインナボディ部にレジン接着させた複合材製ステムは、レグ部とアウタボディ部の近位部端に与えられる剛性をアウタボディ部の中間部位のそれより低くすることができる。界面で生じるせん断応力の端部集中は排除され、外部構造体を持たないタイプのステムに比べて窄孔壁面に及ぼす負荷は著しく小さくなる。股関節に作用した荷重はステムの近位部で広く均して大腿骨に効果的に伝達される。スポット的に高い負荷が大腿骨に及ばなければ、外部構造体の両端における大腿骨との一体性が高まるだけでなく手術後の皮質骨崩壊も抑えられる。レグ部の外形は窄孔への進入を容易にし、その剛性の低さは窄孔壁に及ぼす負荷を和らげる。
【0038】
アウタボディ部とインナボディ部の間のスペースに充填された接着用レジンは、外部構造体の保形性を高める。その弾性率はインナボディ部よりはるかに低くアウタボディ部のそれに近いので、インナボディ部に入った衝撃が接着用レジンで減衰され、また荷重が分散してアウタボディ部に伝達される。従って、窄孔壁は衝撃の少ない荷重が伝達され、界面に生じるせん断応力も均されてステムの緩みが抑えられる。
【0039】
大腿骨の近位部で荷重の大部分が伝達されることになるから最短経路で伝搬し、荷重の拡散は抑えられて伝達効率がよくなる。すなわち、骨頭から伝達される荷重が大腿骨の近位部に入る健全時の伝達メカニズムに近づけられる。ステムにおける負荷分布の単純化や負荷の等大化が図られて大腿骨とステムの荷重伝達機構はシンプルとなり、フィットアンドフィルを上げるにしても主として荷重伝達域を対象とすればよくなる。
【0040】
人工股関節を使用することによって健常時にあまり使われていなかった部位にも荷重を伝達させることなれば、本来の伝達経路での荷重負荷が減少し、その部位で骨が痩せ骨密度が下がり骨強度の低下をきたす。しかし、上記したごとく荷重伝達を健全時の経路で再現させることになるから、その部位における骨の成長促進がストレスシールディングの発生率を低下させる。なお、ステムはセメントレスタイプであるから大腿骨への固定はボーングロースに依存するが、それを助長する対策もアウタボディ部の主として中間部位に講じればよい。
【0041】
インナボディ部を外部構造体の内面に直接接触させないようにしておくなら、内部構造体はアウタボディ部内空間に充填された接着用レジンのみに支持されることになる。その接着用レジンは、内部構造体とアウタボディ部との間でクッション作用を発揮する。従って、アウタボディ部遠位部端の低い剛性を保つことを目的としては、インナボディ部の遠位部端における剛性を極限まで減らしておく必要がなくなる。これは、内部構造体の荷重負担能力の低下を抑えることにもなる。
【0042】
インナボディ部の遠位部側端を外部構造体に接触させる場合は、その位置をアウタボディ部の剛性の高い箇所としておけば、インナボディ部によるバックアップ作用があってもその影響を少なくすることができる。インナボディ部は短くできるから、剛性を低くしておきたいレグ部の短小化も進められる。小型化可能なステムは、体格のかなり小さい患者へも適用の途を開く。
【0043】
マトリックスとして熱可塑性樹脂を採用するなら、それは人体に無害で、そのうえ強靱であって大腿骨に馴染ませやすい。炭素繊維やガラス繊維などの無機質繊維は高弾性かつ高強度で、これで補強された樹脂には金属のような疲労が生じない。強化繊維は積層数や配向によって弾性率を変えることができるので、骨の性状と剛性分布にマッチさせた織布のテイラーリングにより、外部構造体にふさわしい剛性を与えることができる。
【0044】
充填レジンとして熱可塑性樹脂を使用すればアウタボディ部と同質となるから、アウタボディ部の充填レジンとの一体性が高まる。インナボディ部より弾性率がはるかに低いので、インナボディ部との間で相対変形が許容される。チョップドファイバを混入した熱可塑性樹脂コンパウンドでは、ファイバ混入量調整により違った弾性率とすることができ、患者の骨特性に適した弾性率を与えやすくなる。
【0045】
アウタボディ部の中間部位を除く各部の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより小さく与えられるなら、その部分における荷重伝達は大きくならず、界面におけるせん断応力の増大は抑えられる。一方、中間部位の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えられるから、その部分の骨の耐力以下でアウタボディ部が耐力を失うことがない。すなわち、骨が許容するまでの荷重伝達が図られ、伝達力不足の人工股関節となることはない。
【0046】
ステム軸芯線に対して概ね45度となるように配向される強化繊維の織布だけは外部構造体の全面を覆うように積層されるので、高い捩り剛性が筒状の外部構造体の全周に与えられる。外部構造体は薄肉構造であるにもかかわらず、着座前後の動作で大腿骨との界面に生じる回旋方向のせん断力に合わせた効果的な補強がなされる。
【0047】
レグ部の内部を近位部側端で開口するキャビティにしておけば、骨髄腔に進入するときガイドノーズとして機能するレグ部が骨髄腔に馴染みやすくする。また、挿入時に過大な力が掛かっても変形が許容されるから骨への圧迫は軽減される。
【0048】
内部構造体を繊維強化樹脂製とする場合、ステム軸芯線に対して繊維が約45度に配向される織布と概ね0/90度に配向される織布とが内部構造体の全面を覆うように積層されていれば、曲げや捩りがステムに作用しても、インナボディ部を何れにも耐える構造としておくことができる。とりわけ、アウタボディ部が負担しえない引張/圧縮に対してすなわち曲げに対して高い剛性を保有するものとなる。もちろん、ネック部から遠位部に到る一方向繊維材も含んだ積層体とすることにより、一層の強化を図ることができる。
【0049】
内部構造体には大転子寄りへ張り出すショルダを持たせずネック部から遠位部に向けてなだらかに変化した外形を与えておけば、内部構造体には繊維を急に曲げなければならない部位が存在しなくなって、皺の生じない滑らかな繊維配向による積層が可能となり、成形品質のばらつきが抑えられる。とりわけネック部からインナボディ部にかけての遷移部分は一方向繊維材による高い引張/圧縮耐力特性を生かした補強がなされ、球状ヘッドから入る荷重を円滑に伝達しまた曲げに耐えられる高品質の成形品とすることができる。
【0050】
アウタボディ部の股間側近位部端近傍にレジンの非充填部を設けておくなら、球状ヘッドに掛かる上下方向荷重によってステムに曲げが作用したとき、アウタボディ部の股間側部位の上端部が充填レジンに邪魔されることなく変形できる。これによって、アウタボディ部に及ぶ負担を和らげることができる。
【0051】
レグ部内に熱可塑性樹脂またはその発泡体が装填され、外部構造体の遠位部を中実としておけば、中空のレグ部に比べて局部的な変形や皺の発生が抑えられる。レグ部の全体が緩やかな変形を呈すると、骨髄腔への着座性も高まる。また、レグ部の保形性が向上するから、アウタボディ部を介して伝達しきれなかった荷重があっても、その伝達を負担することができるようになる。
【0052】
大腿骨への荷重伝達面に微細な凹溝が施されていれば、これに成長した海綿質骨が入り込んで大腿骨への固定が早期に図られ、界面でのせん断耐力が増進する。この凹溝は外部構造体の全面に施してもよいが、荷重伝達負荷の大きい中間部位で効果的となる。
【0053】
アウタボディ部の外表面にハイドロキシアパタイトを塗着するなどしておけば、エナメル質や象牙質を構成する無機質の主成分が界面でのボーングロースを促す。すなわち、ステムに付着するハイドロキシアパタイトの結晶が大腿骨から成長してきた骨と化学的に結合し、締結の早期化と界面におけるせん断耐力の増強が図られる。この処置もアウタボディ部の中間部位では極めて効果的となる。
【0054】
アウタボディ部の近位部端内股側部分に窄孔開口縁に乗載されるフックが形成されていれば、それが窄孔開口縁に接した時点でステムの挿入を停止する目安を与えることができる。ステムが窄孔に入りすぎることはなくなり、過大なフープ圧による大腿骨の亀裂発生が防止される。これは、皮質骨が薄くなった骨粗鬆症の患者を対象とする場合に、極めて有用となる。
【0055】
外部構造体および内部構造体を軸芯を含む面を境に二つ割れとした成形品で形成しておけば、半割れ品を合わせてネック部で支持された内部構造体を囲むように外部構造体の半割れ品を合わせ、全体を仕上げ型に閉じ込めることができる。内部構造体と外部構造体との間に、熱可塑性樹脂またはそのコンパウンドを注入すれば、静水圧原理に基づき内部欠陥のない品質の高い複合材製ステムが製作される。
【0056】
遠位部になるにつれて横断面積が大きく遠位部側端で開口するキャビティをインナボディ部の内部に形成しておけば、遠位部側端での肉厚を薄くして剛性を弱めることが極めて容易となる。遠位部端での剛性を極端に低くすれば、その遠位部端がアウタボディ部の内面に接触しても、アウタボディ部が保有すべき剛性やその分布が乱されにくくなる。人工股関節取替え手術時ネック部に近い部位でキャビティへ届く切れ目を入れれば、その遠位部側を窄孔壁から剥がすのが容易となる。ステム内のキャビティがレグ部からインナボディ部に連なれば、ステムの軽量化が促進される。ボーングロース用薬剤や骨髄液を担持させる場合には、その収容量を多くして薬効を持続させる。
【0057】
レグ部にボーングロース用薬剤の流出孔を設けておけば、その孔から骨髄液が入り、薬と混合して骨髄腔に送り出される。骨髄液に伴われて界面に浸透した薬剤はアウタボディ部の中間部位にも及び、荷重伝達を担う部位での骨の成長や殺菌が図られる。
【0058】
内部構造体をコバルト合金またはチタン合金で製作することは、それが外部構造体の内面に直接接触しないようにさえしておくかぎり差し支えない。内部構造体の剛性やその分布がアウタボディ部のそれに及ぼす影響が少ないからであるが、内部構造体のレディメイド化が許容されることにもなって人工股関節の量産性が向上し、低廉化も進む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に本発明に係るセメントレス型人工股関節用ステムを、その実施の形態を表した図面をもとにして詳細に説明する。図1の(a)は大腿骨1内にステム2を装填した状態の断面図、(b)は(a)中のB−B線矢視断面図である。これは、大転子3を避けて海綿骨と骨髄を除去し、大腿骨の骨端領域4から骨幹領域5に向けて形成した先細りの窄孔6に挿入されている。そして、ボーングロースにより大腿骨1との結合力を発生させ、界面剥離を抑制できるようにしたセメントレス型人工股関節用ステムとなっている。
【0060】
このステム2の主たる構成は、内部構造体7と外部構造体8からなる。前者にはネック部7Aとインナボディ部7Bが備えられ、後者はアウタボディ部8Aとレグ部8Bとを備える。ネック部7Aには骨盤に固定した図示しないソケットと協働して関節運動する球状ヘッド9が取りつけられ、股関節に作用する荷重をステム2に導入する。インナボディ部7Bはネック部7Aに連なり、ネック部との間で荷重を授受して外部構造体8へ伝達するものである。これはステム2の軸芯部に配置されるが、大転子寄りに張り出すショルダを持たず、ネック部から遠位部に向けてなだらかに変化した外形が与えられている。
【0061】
上記のアウタボディ部8Aは、近位部端股間側部分に窄孔開口縁に乗載される後述するフック10を持つが、インナボディ部7Bを取り囲み骨端側に開口するベルマウス状となっている。レグ部8Bは、アウタボディ部の遠位部端に連なり、骨髄腔11に向けて延びるコーン状である。この例においては、アウタボディ部8Aはレグ部8Bと一体に成形されている。
【0062】
アウタボディ部8A内の空間にはインナボディ部7Bとの一体化を図る接着用レジン12が充填され、外面が窄孔6の壁面の大部分に接触してインナボディ部7Bに入ってきた荷重を大腿骨1に伝達するよう機能する。外部構造体8は繊維強化樹脂製とされるが、内部構造体7はそれに限られない。しかし、この例においては、内部構造体7も繊維強化樹脂製品であるとして説明する。なお、インナボディ部7Bは、その遠位部側端が外部構造体8の内面に直接は接触しない配置となっている。
【0063】
ステム2をもう少し詳しく述べる。アウタボディ部8Aの近位部端と遠位部端およびレグ部8Bの全体に与えられる捩り剛性は、アウタボディ部8Aの中間部位のそれより低くされる。これによって、中間部位に集約させた荷重を概ね均して大腿骨の近位部に伝達させることができるようにしている。一方、インナボディ部7Bの内部には、遠位部になるにつれて横断面積が大きくなり遠位部側端で開口するキャビティ13が、ネック部7Aを除いて設けられている。上で触れたレグ部8Bは骨幹領域5の骨髄腔11に進入するときの案内を果たすが、その内部も近位部側端で開口するキャビティ14となっている。
【0064】
本発明の眼目は、股関節に作用する荷重がステム2の遠位部端および最も負荷状態が厳しくなる内股側の近位部端に集中して伝達されることのないようにして、荷重伝達経路を健常時のそれにできるだけ合わせようとすることである。それゆえ、アウタボディ部8Aに保持させる捩り剛性分布には、次に述べるような変化を持たせることにする。これは、外部構造体8が繊維強化樹脂製であり、さらには薄肉成形品であるからこそ可能となるものである。
【0065】
図2は、外部構造体の内股側の断面とそれに対応する窄孔壁における捩り剛性を、界面に作用する捩りのせん断応力に関連づけて表わしたものである。図の左端の表示は、図1の右端に与えたステム長手方向におけるステーションである。その右隣の断面図は後述する図3の(c)に記載されているものと同じで、内股側のアウタボディ部8Aとそれに連なるレグ部8Bの模式図である。図2中の一点鎖線15は、大腿骨(窄孔周壁)の捩り剛性である。骨端領域の大腿骨の直径は図1からも分かるように骨幹領域のそれよりかなり大きいから、骨髄腔に向かうにつれて捩り剛性は小さくなっている。ちなみに、内股側の皮質骨はST04より上部分が元来存在しなかったか図1の(a)中の符号1aの部分が除去されるなどしているから、内股側の仮想の皮質骨が外股側のそれと閉空間を形成していると仮定した場合の剛性が、上記した一点鎖線15に連なる二点鎖線16で表されている。
【0066】
図2中の実線17は、ステムに与えられた捩り剛性の分布を示している。すなわち、本例においては、アウタボディ部8Aの中間部位18を除く各部の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質の剛性(符号15の線))より小さく与えられ、中間部位18の捩り剛性は、その対応部分における大腿骨の剛性より大きく与えられている。これによって、荷重伝達経路は健常時のそれにできるだけ合わされた格好となる。その際、アウタボディ部8Aの近位部側から中間部位にかけてや中間部位から遠位部側にかけての剛性変化は漸増しまた漸減されており、界面に発生するせん断応力の変化が滑らかとなるように配慮されている。骨に掛かる負担も急増/急減することがないから、アウタボディ部8Aの窄孔壁面に対する緩みも発生しにくくなる。なお、中間部位18とは後述する図3の(c)の右側のスケールで言えば、近位部端から例えば5〜40%の部分に相当する。
【0067】
上記のごとく、アウタボディ部8Aの中間部位18を除く各部の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより小さく与えられると、その部分における荷重伝達は大きくならず、界面におけるせん断応力の増大が抑制される。一方、中間部位18の捩り剛性がその対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えられるから、その部分では骨が崩壊しない範囲で双方が張り合い、骨より先にアウタボディ部8Aが耐力を失うことはない。すなわち、骨が許容するまでの荷重伝達は全うされることになる。
【0068】
図2中の破線19は、金属ステムである場合に界面に発生する捩りせん断応力の分布である。図15のところで説明したように、骨端領域4の端部と骨幹領域5の端部で応力のピークが生じる。しかし、本例のステムでは細線20が示すように中間部位18に応力が集まりかつ総じて変化幅が小さく、健常時の荷重伝達分布に近づけられていることが分かる。レグ部8Bの捩れ剛性は一定でもよいが、実線17の下半分に描かれているように、遠位部になるにつれて小さく与えてもよい。その場合には、界面に発生するせん断応力も次第に小さくなり、窄孔壁面に対する密着性は増大する。
【0069】
ところで、本発明者らは、多くの解析と実験を重ねることにより、着座前後の動作に基づいた界面回旋方向に発生する捩りせん断応力の大きさや分布は、内部構造体よりも外部構造体の剛性の影響を大きく受けるという知見を得た。それゆえ、外部構造体には変化した剛性を与え、とりわけ荷重伝達領域で捩り剛性を高くしておくことが好ましく、これによって近位部端および遠位部端での捩り応力の集中をなくすことができた。さらに、直立時や歩行に基づいた界面長手方向に発生する引張/圧縮せん断応力は、外部構造体よりも内部構造体の剛性に大きく依存するという知見も得た。従って、内部構造体の長手方向の剛性は高くしておくべきであるが、外部構造体では荷重伝達領域で一定かつ皮質骨の引張/圧縮剛性に近づけた低剛性としておいて差し支えないということも知得した。
【0070】
まとめると、ステムに掛かる曲げに基因した引張/圧縮は主として内部構造体に負担させ、股関節に作用する捩りは主として外部構造体に負担させて大腿骨に伝達するのが好ましいということである。異なる二つの設計思想を一部品上で満たそうとする単品構成ステムではその機能や性能に限界が出るのは避けられない。しかし、本ステムは各設計思想を個別の部品に分散して適用することが許される多品構成とすることができるから、各品の設計負荷が軽減され、設計上の妥協を強いられることも少なく、機能や性能を理想に近づけやすくなる。
【0071】
ちなみに、捩り剛性を高める方法は、複合材料の繊維の方向を捩り方向とは一致しない方向、例えば捩り方向に対して略±45度傾けることである。そこで、ステム軸芯線21(図3の(a)を参照)に対して約45度となるように配向された強化繊維の織布だけが外部構造体の全面を覆うように積層することにする。外部構造体においては、全体的にはステム長手方向に対して45度で作用するせん断力に耐えられればよく、軸方向の荷重に対しては剛性を調整しても界面における引張/圧縮せん断応力の軽減にさして寄与しないという現象に着目したことによる。これは図3の(b)に示されているように、強化繊維の織布積層数を変えれば容易に達成できることである。
【0072】
なお、直立時や歩行中に作用する引張/圧縮に対しても補強しておくため、図示しないが概ね0/90度配向となる強化繊維や一方向繊維材が追加的に積層される。すなわち、重点的に曲げ剛性を高めておきたい内股部では、強化繊維が曲げ方向に対して略直角とされる。さらにそれらを追加するとすれば、アウタボディ部8Aの中間部位18すなわちステムの近位部がその対象となる。これは窄孔壁の持つ引張/圧縮剛性に合わせた程度、換言すれば界面に作用するフープ力に見合う程度にとどめられる。
【0073】
一方、内部構造体7は、図4の(a)に示されているごとく、ステム軸芯線21に対して繊維が約45度に配向される織布22と、ステム軸芯線に対して繊維が概ね0/90度に配向される織布23とが内部構造体の全面を覆うように積層され、近位部から遠位部に到るように配設される一方向繊維材24も適宜積層される。とりわけ引張/圧縮を負担する都合上後二者が主体となるが、捩り剛性を少ない積層で達成すべく45度配向繊維は外面もしくはその近傍に配置される。このような積層構造によれば、アウタボディ部が負担しえない引張/圧縮に備えた高い剛性を保有し、ネック部7Aがインナボディ部7Bに対して傾斜していることに基因する曲げモーメントにも耐えることができるものとなる。
【0074】
外部構造体8および内部構造体7に適用される複合材は、人体に無害なポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂をマトリックスとし、無機質繊維である炭素繊維もしくはガラス繊維を強化材とした繊維強化樹脂品とされる。マトリックスとしての熱可塑性樹脂は吸湿性がなく、溶出することもないから人体に無害である。そのうえ強靱であり、変形が余儀なくされる場合でも損傷することなく外部構造体を大腿骨に馴染ませる。強化材としての炭素繊維やガラス繊維は高弾性かつ高強度である(炭素繊維の弾性率は大きいものになると約630GPaにもなる)うえに、金属のような疲労がない。強化繊維は高弾性とはいえ、繊維の配向や量によって剛性調整をすることができ、ステムの製作には著しく柔軟性をもってあたることができる。
【0075】
内部構造体は急な曲がりを呈するショルダを持たないから、皺の生じない滑らかな繊維配向による積層が可能となり、成形品質のばらつきが可及的に抑えられる。とりわけネック部からインナボディ部にかけての遷移部分に一方向材による高い引張/圧縮耐力特性を生かした補強が可能となり、球状ヘッドから入る荷重を円滑に伝達しまた曲げに耐える内部欠陥のない高強度高品質の成形品を得ることが可能となる。
【0076】
こうして製作される繊維強化樹脂成形品すなわち外部構造体と内部構造体との組み合わせにより、最高品質の複合材成形ステムを得ることができる。強化繊維の積層数や繊維方向を変えることによってステムは異なる剛性を有した異方性体となるから、骨の性状や剛性分布にマッチしたテイラーリングをすれば、等方性の金属ステムや繊維強化樹脂で被覆した金属ステムに比べれば、直交異方性である骨への適合は格段に優れたものとなる。
【0077】
ところで、本発明者らは、充填レジンの層厚が大きいほど界面に発生する圧縮せん断応力はステムの近位部に集まるという知見も得ている。それゆえ、図1に示すように、インナボディ部7Bの周囲を充填レジン12で取り巻くことにしている。これによって、アウタボディ部8Aの中間部位18に圧縮荷重も集約させることができる一方、図15の(b)のような圧縮に基因したステム両端でのせん断応力も、その集中を排除することができる。本例のステム2においてはアウタボディ部8Aがベルマウス状であること、インナボディ部7Bはショルダのないスリムな形であることから、充填レジン12の収容スペースが自ずと確保できるという構造になっている点を見逃すことはできない。なお、近位部から遠位部に向かうにつれて層厚が図1のごとく小さくなるようにしておくと、インナボディ部7Bの遠位部端で接着用レジン12がレグ部8B内に進入しようとするのを阻止しやすくなる。
【0078】
上記した充填レジン12は先に触れた熱可塑性樹脂またはそれにチョップドファイバを混入させたコンパウンドとしておけばよい。熱可塑性樹脂の資質は上記の通りで、コンパウンドも大きく変わらず、インナボディ部7Bの弾性率よりもはるかに低く、アウタボディ部8Aのそれに極めて近似した弾性率を持たせることができる。充填レジン12はアウタボディ部と同質となるから、アウタボディ部との一体性が高まる。インナボディ部7Bより弾性率がはるかに低く、インナボディ部に対する相対変形が許容され、インナボディ部の捩れの一部を吸収して界面に発生するせん断応力の低減にも寄与する。
【0079】
チョップドファイバを混入した熱可塑性樹脂コンパウンドでは、弾性率を樹脂単体より上げることができる。弾性率の増加が可能となればその調整幅は大きくなり、患者の骨特性に適した弾性率をあてがいやすくなる。チョップドファイバはインナボディ部7Bの遠位部端で架橋作用し、それ以上の進入を自らが阻止するようにも働く。樹脂単体品の場合と同様に疲労がないから、耐久性は金属製ステムを上回ること述べるまでもない。
【0080】
図3は、アウタボディ部8Aとレグ部8Bとが一体に成形された外部構造体8の一部破断図である。これは薄肉品であるが繊維強化樹脂製であることを分かりやすくするため、積層数が多い箇所は(a)のように厚肉で表わされている。(b)は次に述べる最内層を省いて内方に層を重ねた状態を表した斜視図である。(c)は(b)の切断面のうち内股側となる断面の積層状態を誇張して表した断面である。これは、外部構造体8の最外層25と最内層26が何層かからなる中間層27を被覆していることを明確に表している。
【0081】
個々の層は、一枚の強化繊維織布と樹脂を紡糸して作った一枚の織布を重ねたものを単独または幾重かにして構成される。全域において繊維の配向を約45度に整えながら成形型内で積み重ねられる。必要に応じて0/90度繊維織布も混成して積層され、オートクレーブで加熱される。溶融した樹脂はマトリックスと化し、強化繊維が内装された積層物となる。なお、図5は各ステーションにおける骨とステムの断面図である。皮質骨の厚みや外部構造体8の厚み、接着用レジン12の層厚といったものが、既に述べたごとくに変化している。
【0082】
図1に示したごとく、中間部位18で捩り剛性が高められたアウタボディ部8Aとその内方に位置するインナボディ部7Bと両者を接着する充填レジン12とからなる複合材製ステム2は、捩りや引張/圧縮に基づき大腿骨界面で生じるせん断応力の端部集中を排して、股関節に作用する荷重をステムの近位部で広く均して大腿骨に伝達する。外部構造体を持たないタイプの従来技術のステム(図16を参照)とは異なり、大腿骨にスポット的に高い負荷が及ぶことはほとんどなく、手術後の皮質骨崩壊を招く不安はぬぐ去られ、患者に安心感を与えるものとなる。
【0083】
レグ部8Bとアウタボディ部8Aの近位部端および遠位部端に与えられる剛性はアウタボディ部の中間部位18のそれより低くされることはすでに述べたが、その剛性を極端に落とせば外部構造体の両端に発生するせん断応力は著しく小さくなる。外部構造体の両端における大腿骨との一体性があがるだけでなく、荷重を中間部位に集約させることができる。このレグ部8Bの外形は窄孔への進入を容易にし、その剛性の低さは窄孔壁に及ぼす負荷を大いに軽減する。
【0084】
そのレグ部8Bは骨髄腔11に進入するとき、ガイドノーズとして機能するが、近位部側端で開口するキャビティ14はレグ部を骨髄腔に馴染ませやすくする。また、挿入時に過大な力が掛かっても変形が許容されるから骨への圧迫を和らげる。外部構造体の成形にあたり、強化繊維をステム軸芯線に対して概ね45度をなすように配向することになるから、ガイドノーズの上下左右方向への柔軟性は一層高いものとなる。
【0085】
インナボディ部の遠位部側端は外部構造体の内面に直接接触させないようにしているから、内部構造体7はアウタボディ部8Aの内部空間に充填された接着用レジン12のみによって支持されることになる。その接着用レジンは内部構造体とアウタボディ部との間でクッション作用を発揮する。従って、アウタボディ部8Aの遠位部端で可及的に低く与えた剛性を損なわないことを目的として、インナボディ部の遠位部端における剛性を極限まで減らしておく必要もなくなる。これは、内部構造体7の荷重負担能力の低下を抑えることにもつながる。
【0086】
アウタボディ部8Aとインナボディ部7Bの間のスペースに充填された接着用レジン12は、外部構造体8の保形性を高めている。その弾性率はインナボディ部よりはるかに低くアウタボディ部のそれに近いので、インナボディ部7Bに入った衝撃が接着用レジン12で減衰される。また、荷重が分散してアウタボディ部8Aに伝達される。従って、窄孔6の壁面には衝撃の少ない荷重が伝達され、界面に生じるせん断応力も均されてステム2の緩みが抑えられ、長期にわたる使用が可能となる。
【0087】
アウタボディ部8Aの近位部端に設けられたフック10が、図1の(a)中に符号1aで表した皮質骨の上端部1aを切除するなどして計画的に形成された縁部に触れれば、これをもってステム挿入操作の停止目安とすることができる。ステムが窄孔に入りすぎないようにできれば、過大なフープ圧による大腿骨の亀裂発生やそれに基づく疼痛を防止することができる。このフックは一つと限らないが、アウタボディ部8Aの上端縁の低剛性部分を強化しない形や大きさのフランジまたはフィンとしておけばよい。皮質骨が薄くなった骨粗鬆症の患者の骨を対象とする場合でも、使用することができる。
【0088】
以上述べたステムにおいては、外部構造体が内部構造体から独立した単体成形の薄肉樹脂品となっている。外部構造体の引張/圧縮および捩りの剛性調整幅は外部構造体を持たないステム(図16を参照)の表皮層でのそれより格段に広くなり、剛性分布にバラエティを持たせやすくなる。とりわけ低剛性部を生成することができる結果、ベルマウス状外殻の中間部位では大きな剛性を与え、他の部位では変化させたり極端に小さくすることも可能となる。複合材品は金属品のように疲労を呈しないから、耐久性においても信頼性の高いものとなる。
【0089】
大腿骨の近位部で荷重の大部分が伝達されることになるから最短経路での伝搬が実現され、荷重の拡散は抑えられて伝達効率はよくなる。骨頭から伝達される荷重が大腿骨の近位部に入る健全時の伝達メカニズムが再現される。ステムにおける負荷分布の単純化や負荷の等大化が図られて大腿骨とステムの荷重伝達機構はシンプルとなり、フィットアンドフィルを上げるにしても主として荷重伝達域を対象にすればよくなる。
【0090】
人工股関節を使用することによって健常時にあまり使われていなかった部位にも荷重を伝達させることなれば、本来の伝達経路での荷重負荷が減少し、その部位で骨が痩せ骨密度が下がり骨強度の低下をきたす。しかし、荷重伝達を健全時の経路で再現させることになるから、その部位における骨の成長促進がストレスシールディングの発生率を低く抑える。
【0091】
遠位部になるにつれて横断面積が大きく遠位部側端で開口するキャビティ13をインナボディ部7Bの内部に形成しているから、遠位部側端での肉厚を薄くして剛性を弱めることが容易となっている。遠位部端での剛性を極端に落とせば、その遠位部端がアウタボディ部8Aの内面に接触しても、それが保有すべき剛性やその分布は乱されなくて済む。ステム内のキャビティ13,14がインナボディ部からレグ部に連なることになるので、ステムの軽量化も促進される。なお、人工股関節取替え手術時、後で触れる図10の(a)のようにネック部7Aに近い部位でキャビティ13に届く切れ目41を入れると、切れ目から遠位部側を大腿骨1から剥がすことが容易となる。また、図11の(b)のように、ボーングロース用薬剤50を担持させる場合には、その収容量を多くして薬効を持続させやすくなる。
【0092】
骨は、患者の性別や体格、年齢により、大きさ形状強度が異なる。三次元CT画像から得られる大腿骨の特性に基づけば、界面における接触部の面圧やせん断応力の分布を予測したステム設計が可能となる。すなわち、使用に耐える剛性を保持した窄孔の壁面強度と形状にマッチする剛性やその分布を外部構造体に施すことができる。大腿骨に馴染ませやすく、かつフィットアンドフィルの向上やストレスシールディングの低減が図られる。それだけでなく、大腿骨との密着性を上げる設計を製作容易な薄肉の外部構造体に受け持たせ、厚肉構造の剛性調整幅の少ない内部構造体でのデザイン負荷を大幅に軽減することができる。
【0093】
外部構造体を形成する薄い層は成形過程での金型への馴染みがよく、型内の圧力制御も複雑化せず、成形は容易となる。三次元CT画像データをもとにした窄孔形状に合わせなければならないのはこの外部構造体だけであり、微細な凹溝が表面に施されることやラスプで削孔される窄孔はアンダーサイズに形成されるため、成形精度は厳密である必要もなくなる。外部構造体はカスタムメイド品とせざるを得ないが、低剛性品であるゆえ成形金型の軽量化や小型化が促される。一方、窄孔壁面に接触することのない内部構造体は、球状ヘッドの取りつくネック部を除いて高精度に製作する必要がない。レディメイド品化しておくこともでき、ステムの低廉化が促進される。
【0094】
ここで、三次元CT画像データをもとにした窄孔形状の決定、外部構造体の形状と付与剛性について説明する。図6の(a)に示すように患者の大腿骨から断層写真28を多数取得する。これをコンピュータで重ね画像処理すると(b)のような大腿骨1Aが再現される。個々の断層面において(c)のような画像30から皮質骨および海綿質骨の密度を得ると、この断層面における大腿骨の弾性率や剛性を知ることができる。これは、密度と剛性を関連づけた既知データ等をもとにすれば、簡単に得られる。一断層面における剛性分布31を立体的に表示すると(d)のようになる。各断層面における骨密度の多寡から窄孔壁を何処にするかを定め、立体化してラスプにより削孔するにふさわしい形状を決定することができる。窄孔壁面における剛性は全て把握されるから、補綴後の大腿骨の耐力も把握しておくことができるというわけである。
【0095】
ところで、骨の自力再生によりステムの固定を促進するために、窄孔壁面と接触する外部構造体のうち、少なくともアウタボディ部8Aの外表面に、図4の(b),(c)に示す微細な凹溝32を縦横に多数形成しておくことが好ましい。これに成長してきた海綿質骨が入り込むと骨とステムの一体化が進み、界面でのせん断耐力の増強が図られる。この凹溝32は外部構造体の全面に施してもよいが、ボーングロースが荷重刺激を受ける部分で活発になることに着目して、主としてアウタボディ部8Aの中間部位18(図1を参照)に施すようにすればよい。
【0096】
凹溝32は外部構造体8の成形後に表面加工して形成させることもできるが、成形時に形成しておくとよい。例えば幅0.5ミリメートル、深さ0.25ミリメートル程度とするにしても、凹溝の全表面がマトリックスで覆われ、繊維をはみ出させないようにしておくことができるからである。
【0097】
上記した凹溝の形成に加えて、図4の(b)のようにハイドロキシアパタイトの粒子33をステム表面に塗布しておいたり、(c)のように埋設しておく。後者の場合は、ハイドロキシアパタイトの結晶を含浸させた樹脂シートを成形時に型底に配置すればよい。ハイドロキシアパタイトはエナメル質や象牙質を構成する無機質の主成分であり、界面におけるボーングロースを促進する。すなわち、ステムに付着したハイドロキシアパタイトの結晶が大腿骨から成長してきた骨と化学的に結合し、ステム固定の早期化と界面におけるせん断耐力の増強を捗らせる。
【0098】
この処置もアウタボディ部8Aの中間部位18で極めて効果的となる。マイクロムーブメントや界面剥離が抑制されると、発癌原因となる磨耗粉の発生やステムの緩みに原因した激痛の発生も抑えられる。ハイドロキシアパタイトの塗着は凹溝32の中にとどまらず凹溝周囲にも施しておくことができる。凹溝が設けられていなくても、ハイドロキシアパタイト自体のボーングロース助長作用は損なわれるものでないが、凹溝を設けることとハイドロキシアパタイトの塗着との二重措置は、股関節の再生を早める。
【0099】
繊維強化樹脂による複合材成形品であるステムを形成する内部構造体7と外部構造体8とは周方向に途切れる形でないので、円柱状や円筒状物体を成形する要領によってもよいが、図7に示すように、軸芯を含む面を境にしてそれぞれ二つ割れとなる成形品としておくとよい。金型34,35はそれぞれについて片方のみ表されているが、各パーツは図3や図4の(a)のような繊維配向となるように積層された半割れ品36〜39のかたちで製作される。離型後はトリミングされ、図示しない仕上げ金型で一体品とされる。すなわち、内部構造体7の半割れ品36,37を合わせて図示しない治具でネック部7Aを保持し、その内部構造体7を囲むように外部構造体の半割れ品38,39を合わせ、キャビティ(図1中の符号13および14を参照)への進入を防止するための図示しないバルーンを挿入しておくなどして型閉めする。
【0100】
図8の(a)のように配置された内部構造体7と外部構造体8との間に、熱可塑性樹脂またはそのコンパウンドを注入すれば、静水圧原理に基づき重ね合わせ部を含んで細部まで行きわたる。(b)は充填レジン12の形を知るため単独で描いたものである。最終的には(c)の外形を持った複合材製ステムが得られる。なお、充填レジン12の上部には後述するねじインサート40を埋設しておくとよい。
【0101】
このようにして製作されたステム2に図16に示した外部構造体なしステム64を重ねて描くと図9の(a)のようになる。ステム2は外部構造体8の存在と接着用レジン12の充填により、実質的には図14のようなショルダ66dを備えたステム66にほぼ一致する。骨端領域におけるフィットアンドフィルが金属ステム並みとなるにもかかわらず、複合材成形が容易なステムとなっていることが分かる。
【0102】
上の説明では外部構造体8の半割れ品をアウタボディ部8Aとレグ部8Bとを連続させていたが、ベルマウス状のアウタボディ部とコーン状のレグ部とを図8の(d)に表したように個別に成形しておいてもよい。仕上げ金型へ入れる外部構造体のための部品が符号38A,38B,39A,39Bを付した4つになるだけで、それぞれの境界には接着用レジン12が進入し、図9の(b)のように一体化される。この場合、積層数の少ない成形品38B,39Bを積層数の多い成形品38A,39Aから独立して成形することができる利点がある。
【0103】
図9の(b)および(c)では、異なる外形をした内部構造体7M,7Nが使用されている。荷重伝達面の広狭や大腿骨の強度分布等を考慮して、その径や長さが定められる。図9の(c)は外部構造体8の遠位部端にキャップ8Cを取りつけることができるようにした例であり、後述するボーングロース用薬剤を収容するカプセルを格納することができる。
【0104】
ここで、ステムの大腿骨への装填や交換について、簡単に説明する。窄孔6(図1を参照)はラスプによってアンダーサイズにあけられる。球状ヘッド9がネック部7Aに取りつけられたステム2は、図8の(c)に示したねじインサート40に位置検出センサ(図示せず)のねじ部が螺着され、位置をコンピュータで監視しながら徐々に叩き込まれる。フック10が内股側の皮質骨に接触した時点(図1の(a)を参照)とコンピュータ処理により検出された位置や姿勢の情報をもとにして、ステム2の装填深さや回旋姿勢が整えられる。窄孔6とステム2との形は手術前に得られた三次元CT画像をもとにして決定されているので、可及的に高いフィットアンドフィルが得られる。手術後はボーングロースを待つため安静を保つが、ステム2と大腿骨1との一体性が得られると歩行訓練が開始される。
【0105】
ところで、加齢などによってステムと大腿骨との強度バランスが崩れると、人工股関節としての機能は低下する。取替え手術時に重要なことは大腿骨を壊さないことである。内部構造体7にはキャビティ13が設けられているから、図10の(a)にあるように、切れ目41を入れることも矢印42の方向に押して切れ目から遠位部側を大腿骨1から剥がすことも容易となる。例えば(b)のようにネック部7Aに孔をあけてピン43を通し、クレビス44で保持して引き抜く。ねじインサート40があれば(c)のように引抜き器45のねじ45aを噛ませ、ハンドル46をグリップして打撃ブロック47をハンマで矢印48の方向に叩けば、大腿骨1の損傷を最小限にとどめながら徐々に引き抜くことができる。もちろん、これら以外の要領によってもよいことは言うまでもない。なお、この図に描かれたステム2Aはフックを持たない例となっている。
【0106】
図11の(a)は異なるステム2の例であり、アウタボディ部8Aの股間側近位部端近傍にレジンの非充填部12aが設けられている。球状ヘッドに掛かる上下方向荷重49によりステム2に曲げが作用して図示しない大腿骨に押しつけられたとき、アウタボディ部8Aの股間側部位の上端部8aが充填レジン12に邪魔されることなくサークルで囲んだ拡大図に示したごとく変形できるようにしておく。幾度となく繰り返されるこの挙動によって、アウタボディ部8Aが損傷するのを回避しようとするものである。ちなみに、この非充填12aに連なる環状溝12bを充填レジン12の表面全部に形成させれば、アウタボディ部8Aの近位部端剛性の低下をさらに促すことができる。
【0107】
図11の(b)は、レグ部8Bのキャビティ14にボーングロース用薬剤50を格納させた状態を示している。この場合、レグ部8Bには薬剤の流出孔51が設けられ、その孔から骨髄液が入り、半透膜51aを通して出た薬剤と混合し、骨髄腔に送り出される。骨髄液に伴われて界面に浸透した薬剤はアウタボディ部8Aの中間部位18にも及び、荷重伝達を担うこの部位での骨の成長促進や殺菌がなされる。ボーングロース用薬剤はレグ部の先端に設けたキャップ8Cを外して装填したり、流出孔51に注射器を立ててゼリー状の薬剤を注入するなどすればよい。インナボディ部7Bのキャビティ13はこの薬剤格納空間を大きくし、長期にわたる薬効を発揮させることに役立つ。
【0108】
図11の(c)はレグ部8B内に熱可塑性樹脂12Aを装填させた例で、外部構造体8の遠位部を中実構造としている。樹脂が充満されると、レグ部が中空である場合に比べて局部的な変形や皺の発生が抑えられる。また、レグ部8Bの全体が緩やかな変形を呈して骨髄腔への着座性も高まる。レグ部の保形性が向上するから、アウタボディ部8Aを介して伝達しきれなかった荷重があっても、その伝達を担わせることができる。なお、熱可塑性樹脂の発泡体としてもよいし、インナボディ部7Bのキャビティ13に連続して装填させてもよい。いずれにしても弾性率はインナボディ部7Bより著しく小さく、外部構造体8と内部構造体7との剛性上の関連性を損なうものでない。
【0109】
ちなみに、図11の(c)の外部構造体8は、その厚みが一定に描かれている。これは弾性率の異なる強化繊維を使用することによって積層数を減らすようにした結果である。従って、図3に描いたように、外部構造体8は厚みに変化を持たせねばならないというものでもない。要するに、所望する剛性分布を与えた複合材品となっていればよい。
【0110】
ところで、インナボディ部7Bの遠位部側端7aを、図12の(a)に示すように、外部構造体8の内面に接触させてもよい。この場合、その接触位置をアウタボディ部8Aの剛性の高い箇所としておくことが好ましい。そのようにしておけば、インナボディ部7Bによるバックアップ作用が働いてもその影響を少なくしておくことができる。内部構造体7を短くできることになるから、インナボディ部7Bの影響を小さくしておきたいレグ部8Bの短小化も可能となる。小型化できるステムとなれば、体格の小さい患者への適用も拡がる。
【0111】
図12の(b)は、内部構造体が中実の複合材品7Pとしたものである。すなわち、図1の内部構造体7とはキャビティ13が存在しない点で異なる。これは外部構造体8の内面に直接接触しないようにしておけばそして接着用レジン12の層が厚ければ、内部構造体の剛性やその分布がアウタボディ部8Aのそれに及ぼす影響を少なくできることに基づく。従って、(c)のように内部構造体をコバルト合金製品またはチタン合金製品7Qとしてもよい。厚層の充填レジン12は内部構造体の形状限定を軽減するので、そのレディメイド化が大幅に許容されることになる。人工股関節の量産性が向上すれば、低廉化も押し進められる。
【0112】
以上詳細に説明してきたように、本発明に係るステムは、荷重を受けることによって活性化される近位部の骨に対する負荷を維持して、骨の痩せ細りや密度低下を防止することができる。ステムの緩みをなくしてマイクロムーブメントに基因する金属磨耗粉発生をなくし、フィットアンドフィルを高くして骨の破壊や界面剥離も回避される。
【0113】
内股側の皮質骨は骨頭が損壊されたときに弱められていたり、手術中に削られるなどしてしばしば耐力を低下させているが、本発明はそこでの応力集中を排除する。ネック部が連なっていることやキャビティを延ばせないことで剛性が落とせなくなっている骨端領域でもステムの剛性を低くでき、骨が弱っている患者を含めステム適用対象の拡大が図られる。すなわち、大腿骨の三次元CT画像をもとにして得た窄孔にマッチする形状のステムを成形するのが容易で、薄物成形ゆえの型圧制御も簡単となる。成形型の小型化や軽量化が図られ、部分的にしろレディメイド化の余地もあり、廉価で患者に優しいステムを提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明に係るセメントレス型人工股関節用ステムの断面で、(a)は身体正面から見た図、(b)は(a)中のB−B線矢視断面図。
【図2】ステムの内股側界面に作用する捩りせん断応力と大腿骨および外部構造体の剛性分布図。
【図3】外部構造体を表し、(a)は破断斜視図、(b)は最内層を除去した積層構造の模式的斜視図、(c)は外部構造体の内股側積層を粗く表した断面図。
【図4】(a)は内部構造体の積層構成を表した模式的斜視図、(b)および(c)は外部構造体の表面に施されたボーングロース処理の拡大模式図。
【図5】図1における各ステーションの断面図。
【図6】大腿骨の資質検査工程を示し、(a)は取得された多数のCT画像、(b)は画像を三次元組立てして得られた大腿骨再現図、(c)は一断面における骨密度把握画像、(d)は骨密度の立体三次元表示画像。
【図7】ステム構成品の成形要領の一例を示した分解斜視図。
【図8】成形される過程のステムを示し、(a)は内部構造体を外部構造体で覆った状態の斜視図、(b)は注入して固化した状態の接着用レジンの斜視図、(c)成形後ねじインサートを施した完成品の斜視図、(d)は外部構造体を四分割成形したときの各成形品の斜視図。
【図9】本発明に係るステムとその異なる例、および先行技術例ステムとの対比説明図。
【図10】本発明に係るステムの大腿骨からの取外し説明図。
【図11】(a)は近位部端にレジンの非充填部を設けた例の断面図と部分拡大図、(b)レグ部にボーングロース促進用薬剤カプセルを格納したステムの断面図、(c)キャビティに発泡体を充填した例の断面図。
【図12】本発明に係る他の例のステム断面図。
【図13】大腿骨に既存ステムを装着する要領の説明図。
【図14】既存金属ステムをグラフィックアート的に表示した大腿骨補綴の斜視図。
【図15】二筒状品を嵌合させたときの接着層に発生するせん断応力の説明図。
【図16】ステムの剛性を変化させることを提案した先行技術例で、(a)は身体正面から見た図、(b)は(a)中のC−C線矢視断面図。
【符号の説明】
【0115】
1…大腿骨、2,2A…ステム、3…大転子、4…骨端領域、5…骨幹領域、6…窄孔、7…内部構造体、7A…ネック部、7B,7M,7N…インナボディ部、,7P…中実複合材製内部構造体、7Q…チタン合金製内部構造体、8…外部構造体、8A…アウタボディ部、8B…レグ部、8C…キャップ、9…球状ヘッド、10…フック、11…骨髄腔、12,12A…接着用レジン(充填レジン)、12a…非充填部、13,14…キャビティ、15…一点鎖線(大腿骨の捩り剛性)、17…実線(ステムの捩り剛性)、18…中間部位、20…細線(本ステムの場合の界面に発生する捩りせん断応力)、21…軸芯線、22…45度に配向される織布、23…0/90度に配向される織布、24…一方向繊維材、32…凹溝、33…ハイドロキシアパタイト、36〜39,38A,38B,39A,39B…半割れ品、50…ボーングロース用薬剤、51…流出孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大転子を避けて大腿骨の骨端領域から骨幹領域に向けて形成した窄孔に挿入され、ボーングロースにより大腿骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工股関節用ステムにおいて、
骨盤に固定したソケットと協働して関節運動する球状ヘッドを取りつけたネック部と、このネック部との間で荷重を授受するインナボディ部とが備えられている内部構造体と、 前記インナボディ部を取り囲み骨端側に開口するベルマウス状のアウタボディ部と、このアウタボディ部に連なり骨髄腔に向けて延びるレグ部とが備えられ、アウタボディ部内の空間には前記インナボディ部との一体化を図る接着用レジンが充填され、股関節に作用する荷重を大腿骨に伝達する繊維強化樹脂製の外部構造体と、
を有し、前記アウタボディ部の近位部端と遠位部端およびレグ部に与えられる捩り剛性はアウタボディ部の中間部位のそれより低くされ、中間部位に集約させた荷重を概ね均して大腿骨の近位部に伝達させることができるようにしたことを特徴とするセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項2】
前記インナボディ部は外部構造体の内面に直接接触していないことを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項3】
前記インナボディ部の遠位部側端が外部構造体の内面に接触していることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項4】
前記外部構造体はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂をマトリックスとし、無機質繊維を強化材とした複合材成形品であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項5】
前記アウタボディ部内の充填レジンはポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂またはそれにチョップドファイバを混入させたコンパウンドとしたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項6】
前記アウタボディ部の中間部位を除く各部の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより小さく与えられ、中間部位の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えられていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項7】
ステム軸芯線に対して概ね45度となるように配向された強化繊維だけは前記外部構造体の全面を覆うように積層され、他の配向強化繊維の積層は部分的とされていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項8】
骨幹領域の骨髄腔に進入するときの案内を果たす前記レグ部は、その内部が近位部側端で開口するキャビティとなっていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項9】
前記内部構造体を繊維強化樹脂製とする場合、ステム軸芯線に対して繊維が約45度に配向される織布と概ね0/90度に配向される織布とが内部構造体の全面を覆って積層されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項10】
前記内部構造体は大転子寄りへ張り出すショルダを持たず、ネック部から遠位部に向けてなだらかに変化した外形を持つことを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項11】
アウタボディ部の股間側近位部端近傍にはレジンの非充填部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項12】
前記レグ部内には熱可塑性樹脂またはその発泡体が装填され、外部構造体の遠位部が中実となっていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項13】
前記アウタボディ部の外表面には、とりわけ中間部位のそれには微細な凹溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項14】
前記アウタボディ部の外表面には、ハイドロキシアパタイトが塗着されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項15】
前記アウタボディ部の近位部端内股側部分には、前記窄孔の開口縁に乗載されるフックが形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項16】
前記外部構造体および内部構造体は、その軸芯を含む面を境にしてそれぞれ二つ割れとした成形品により形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項17】
前記インナボディ部の内部は、ネック部を除く部分で遠位部になるにつれて横断面積が大きくなり遠位部側端で開口しているキャビティとなっていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項18】
前記レグ部には、装填されたボーングロース用薬剤の流出孔が設けられていることを特徴とする請求項8に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項19】
前記内部構造体は、コバルト合金またはチタン合金で製作されていることを特徴とする請求項2に記載された大腿骨のためのセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項1】
大転子を避けて大腿骨の骨端領域から骨幹領域に向けて形成した窄孔に挿入され、ボーングロースにより大腿骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工股関節用ステムにおいて、
骨盤に固定したソケットと協働して関節運動する球状ヘッドを取りつけたネック部と、このネック部との間で荷重を授受するインナボディ部とが備えられている内部構造体と、 前記インナボディ部を取り囲み骨端側に開口するベルマウス状のアウタボディ部と、このアウタボディ部に連なり骨髄腔に向けて延びるレグ部とが備えられ、アウタボディ部内の空間には前記インナボディ部との一体化を図る接着用レジンが充填され、股関節に作用する荷重を大腿骨に伝達する繊維強化樹脂製の外部構造体と、
を有し、前記アウタボディ部の近位部端と遠位部端およびレグ部に与えられる捩り剛性はアウタボディ部の中間部位のそれより低くされ、中間部位に集約させた荷重を概ね均して大腿骨の近位部に伝達させることができるようにしたことを特徴とするセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項2】
前記インナボディ部は外部構造体の内面に直接接触していないことを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項3】
前記インナボディ部の遠位部側端が外部構造体の内面に接触していることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項4】
前記外部構造体はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂をマトリックスとし、無機質繊維を強化材とした複合材成形品であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項5】
前記アウタボディ部内の充填レジンはポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂またはそれにチョップドファイバを混入させたコンパウンドとしたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項6】
前記アウタボディ部の中間部位を除く各部の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより小さく与えられ、中間部位の捩り剛性は、その対応部分における窄孔周囲の骨質のそれより大きく与えられていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項7】
ステム軸芯線に対して概ね45度となるように配向された強化繊維だけは前記外部構造体の全面を覆うように積層され、他の配向強化繊維の積層は部分的とされていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項8】
骨幹領域の骨髄腔に進入するときの案内を果たす前記レグ部は、その内部が近位部側端で開口するキャビティとなっていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項9】
前記内部構造体を繊維強化樹脂製とする場合、ステム軸芯線に対して繊維が約45度に配向される織布と概ね0/90度に配向される織布とが内部構造体の全面を覆って積層されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項10】
前記内部構造体は大転子寄りへ張り出すショルダを持たず、ネック部から遠位部に向けてなだらかに変化した外形を持つことを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項11】
アウタボディ部の股間側近位部端近傍にはレジンの非充填部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項12】
前記レグ部内には熱可塑性樹脂またはその発泡体が装填され、外部構造体の遠位部が中実となっていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項13】
前記アウタボディ部の外表面には、とりわけ中間部位のそれには微細な凹溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項14】
前記アウタボディ部の外表面には、ハイドロキシアパタイトが塗着されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項15】
前記アウタボディ部の近位部端内股側部分には、前記窄孔の開口縁に乗載されるフックが形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項16】
前記外部構造体および内部構造体は、その軸芯を含む面を境にしてそれぞれ二つ割れとした成形品により形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項17】
前記インナボディ部の内部は、ネック部を除く部分で遠位部になるにつれて横断面積が大きくなり遠位部側端で開口しているキャビティとなっていることを特徴とする請求項1に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項18】
前記レグ部には、装填されたボーングロース用薬剤の流出孔が設けられていることを特徴とする請求項8に記載されたセメントレス型人工股関節用ステム。
【請求項19】
前記内部構造体は、コバルト合金またはチタン合金で製作されていることを特徴とする請求項2に記載された大腿骨のためのセメントレス型人工股関節用ステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図5】
【図6】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−144011(P2007−144011A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345097(P2005−345097)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(303047104)株式会社ビー・アイ・テック (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(303047104)株式会社ビー・アイ・テック (8)
【Fターム(参考)】
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