説明

セメント製造工程からの重金属除去・回収方法

【課題】 セメント製造工程で発生する塩素バイパスダスト等から重金属を効率よく除去又は回収する。
【解決手段】 セメント製造工程から重金属含有ダストとして分離し、該重金属含有ダストから、セメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスに含まれるダストを集塵し、タリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を除去又は回収する。300℃以上900℃以下のセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスを除塵することなく冷却し、該燃焼排ガスに含まれるダストを集塵することにより、セメント製造工程からタリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を回収したり、300℃以上900℃以下のセメントキルン燃焼ガスの一部を除塵してガスのみを取り出す工程と、除塵後のガスを冷却して固体化した後、集塵してタリウムを回収する工程とを備えるようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造工程からの重金属除去・回収方法に関し、特に、セメントキルンのキルン尻からボトムサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素及び硫黄分等を除去し、抽気した燃焼ガスに含まれるダスト等からタリウムや鉛等の重金属を効率よく除去又は回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造装置におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素、硫黄、アルカリ等の中で、塩素が特に問題となることに着目し、セメントキルンのキルン尻からボトムサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパス設備が用いられている。
【0003】
この塩素バイパス設備では、例えば、特許文献1に記載のように、抽気した排ガスを冷却して生成したダストの微粉側に塩素が偏在しているため、ダストを分級機によって粗粉と微粉とに分離し、粗粉をセメントキルン系に戻すとともに、分離された塩化カリウム等を含む微粉(塩素バイパスダスト)を回収してセメント粉砕ミル系に添加していた。
【0004】
ところが、近年、廃棄物のセメント原料化又は燃料化によるリサイクルが推進され、廃棄物の処理量が増加するに従い、セメントキルンに持ち込まれる塩素、硫黄、アルカリ等の揮発成分の量も増加し、塩素バイパスダストの発生量も増加している。そのため、塩素バイパスダストをすべてセメント粉砕工程で利用することができず、水洗処理されていたが、今後、重金属類がセメント許容濃度を超えることが予測されるため、その有効利用方法の開発が求められていた。
【0005】
かかる見地から、特許文献2に記載のセメント原料化処理方法では、従来水洗処理されている塩素バイパスダスト等を脱塩処理し、塩素を含む廃棄物に水を添加して廃棄物中の塩素を溶出させてろ過し、得られた脱塩ケークをセメント原料として利用するとともに、排水を浄化処理してセレン等の重金属類を除去し、環境汚染を引き起こすことなく、塩素バイパスダストの有効利用を図っている。
【0006】
また、特許文献3には、塩素バイパスダスト等の廃棄物から鉛分、塩素分、カルシウム分を分別して回収する際に、薬剤の使用量を削減することなどを目的とし、鉛分、カルシウム分、塩素分を含む廃棄物と、スラリー化用水とを混合してスラリーとし、スラリーを粗粒分と細粒分とに分級し、細粒分に水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を加えた後、固液分離し、水酸化カルシウムを含む固形分と、鉛分及び塩素分を含むろ液を得て、このろ液に水硫化ソーダ等の硫化剤を添加した後、固液分離し、硫化鉛と、塩素分を含むろ液を得て、得られたろ液を、前記スラリー化のための用水として用いる技術が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、塩素バイパスダスト等の鉛分を含む廃棄物と、スラリー化用水とを混合し、廃棄物中の鉛分を水中に溶出させるに際し、鉛分の水中への溶出率を高めるため、鉛分を含む廃棄物とスラリー化用水とを混合してスラリーとし、スラリーのpHを7.0〜11.5に調整し、かつ、酸化還元電位を400mV以上に調整し、鉛分を含むスラリーを得て、鉛分を含むスラリーを固液分離し、固形分と鉛分を含むろ液を得て、鉛分を含むろ液に硫化剤を添加した後、固液分離し、硫化鉛とろ液を得て、得られたろ液の一部を前記スラリー化のための用水として用いる技術が記載されている。
【0008】
一方、セメント製造工程には、上記セレンや鉛等に加え、燃料としての石炭や廃タイヤから微量のタリウム(Tl)がもたらされる。例えば、キルンや仮焼炉に供給される微粉炭中には1ppm程度、廃タイヤには8ppm程度のタリウムが含まれる。このタリウムは、沸点が低いため、セメント焼成装置のキルンからプレヒータの間で揮発し、大部分がプレヒータにおいて濃縮されている。
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO97/21号パンフレット
【特許文献2】特開平11−100243号公報
【特許文献3】特開2003−236497号公報
【特許文献4】特開2003−236503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、タリウムは、プレヒータに濃縮し、セメントキルン燃焼排ガスを冷却すると、セメント原料に吸収されるため、塩素バイパスダストにも混入する。そこで、塩素バイパスダストを脱塩処理し、セメント原料として有効利用する際に、セレン、鉛等とともにタリウムを除去し、環境汚染を引き起こすことなく、塩素バイパスダストの有効利用を図る必要がある。
【0011】
そこで、本発明は、セメント製造工程で発生する塩素バイパスダスト等からこれらの重金属を効率よく除去、回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、セメント製造工程からの重金属除去・回収方法であって、セメント製造工程からセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスに含まれるダストを集塵し、タリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を除去又は回収することを特徴とする。
【0013】
そして、本発明によれば、セメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスに含まれる塩素バイパスダスト等からタリウムと、鉛と、セレンを含む重金属を効率よく除去、回収することができる。
【0014】
また、本発明は、セメント製造工程からの重金属回収方法であって、300℃以上900℃以下のセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスを除塵することなく冷却し、該燃焼排ガスに含まれるダストを集塵することにより、セメント製造工程からタリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を回収することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、セメント製造工程からの重金属回収方法であって、300℃以上900℃以下のセメントキルン燃焼ガスの一部を除塵してガスのみを取り出す工程と、除塵後のガスを冷却して固体化した後、集塵する工程とを備えることを特徴とする。300℃以上900℃以下のセメントキルン燃焼ガス中には、他の重金属に比較してタリウムが大量に含まれているため、この温度範囲のセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、冷却して得られたダストから効率よくタリウムを回収することができる。
【0016】
前記重金属含有ダストに水を添加して1次スラリーとした後、1次ケーキと1次ろ液とに分離し、該1次ろ液に硫化剤を添加して2次ケーキと2次ろ液とに分離し、該2次ケーキ側にタリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を回収することができる。
【0017】
また、前記重金属含有ダストに水、硫酸、塩酸、硝酸から選択される1つ以上を添加して1次スラリーとした後、1次ケーキと1次ろ液とに分離し、該1次ろ液に硫化剤を添加して2次ケーキと2次ろ液とに分離し、該2次ケーキ側にタリウムを回収してもよい。
【0018】
さらに、前記重金属含有ダストに水、硫酸、塩酸、硝酸から選択される1つ以上を添加して1次スラリーとした後、1次ケーキと1次ろ液とに分離し、該1次ろ液にハロゲン化物と、pH調整剤として塩酸及び苛性ソーダとを添加して2次ケーキと2次ろ液とに分離し、該2次ケーキ側にタリウムを回収してもよい。
【0019】
前記硫化剤を、水硫化ソーダ又は硫化ソーダのいずれかとすることができる。また、前記ハロゲン化物を、塩酸、塩素ガス、塩化ナトリウム、次亜塩素酸ソーダ、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、臭素酸、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化アルミニウム、ヨウ素、ヨウ素酸、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウムのいずれかとすることができる。
【0020】
また、前記2次ろ液に、pH調整剤及び第一鉄化合物を添加してセレン濃度を低減した後、3次ケーキとセレンとを含む3次ろ液とに分離し、該セレンを含む3次ろ液を電気透析装置に通し、濃縮塩水とセレンを含む脱塩水とに分離してもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、セメント製造工程からタリウム、鉛、セレンを含む重金属を効率よく除去、回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明にかかるセメント製造工程からの重金属回収方法の一例としては、図1に示すように、大別して、水洗工程と、排水処理工程と、塩回収工程とに分けられる。
【0023】
水洗工程は、塩素バイパスダストを水洗して塩素分を除去する工程であって、この工程を実施するため、ボイラ1と、温水槽2と、溶解槽3と、ベルトフィルタ4とが設けられる。
【0024】
ボイラ1で発生した温水は、温水槽2を経て溶解槽3に供給され、塩素バイパスダストと混合される。溶解槽3において、塩素バイパスダストに含まれる水溶性塩素分が温水に溶解する。溶解槽3から排出されたスラリーは、ベルトフィルタ4によって固液分離され、塩素分が除去された1次ケーキは、セメントキルン等に戻されてセメント原料として利用される。一方、塩素分及びタリウム、鉛、セレン等の重金属類を含む1次ろ液は、貯槽5に一時的に蓄えられる。
【0025】
排水処理工程は、1次ろ液から上記重金属類とカルシウム分を除去する工程であって、この工程を実施するため、貯槽5と、薬液反応槽7、9、11と、固液分離装置としてのフィルタプレス6、8、10と、除鉄塔12と、キレート樹脂塔13と、ろ過装置14と、電気透析装置15とが設けられる。
【0026】
貯槽5に蓄えられた、塩素分、タリウム、鉛等の重金属類、及びカルシウムを含む1次ろ液に、硫化剤が添加され、ろ液中のタリウム(Tl+)は、硫化物イオン(S2-)と反応して硫化タリウム(Tl2S)を生成し、鉛(Pb2+)は、硫化物イオン(S2-)と反応して硫化鉛(PbS)を生成し、これらはいずれも固形分として沈殿し、フィルタプレス6を経て2次ケーキとして回収することができる。
【0027】
上記硫化剤として、水硫化ソーダ(NaHS)、硫化ソーダ(Na2S)及び多硫化ソーダ(Na34、Na24)等を用いることができる。尚、得られた硫化タリウムは、磁気テープ、メタルハライドランプ、光学レンズの原料等に、硫化鉛は、精錬原料等に用いることができる。
【0028】
図3は、貯槽5に水硫化ソーダを添加、撹拌した後、ろ過した際のろ液の分析結果を示す。同グラフより、S/(Tl+Pb)の当量比で2.0〜2.5となるような水硫化ソーダの添加量で、ろ液中のTl及びPbの濃度が略々0mg/lとなっていることから、この当量比で貯槽5中のTl及びPbを略々すべて各々Tl2S、PbSとして沈殿させることができることが判る。この時に回収されたケーキを乾燥した後に得られた固形物のTl濃度は29%、Pb濃度は49%であった。
【0029】
図4は、貯槽5に水硫化ソーダを添加して撹拌した後、それをろ過した後の2次ろ液に塩酸及び硫酸第一鉄を添加し、水酸化カルシウムでpH調整して撹拌した後、ろ過した後の3次ろ液の分析結果を示す。S/(Tl+Pb)の当量比で1.6以上の水硫化ソーダの添加量で、ろ液中のTl及びPbの濃度が0.3mg/l以下となっていることから、この当量比で貯槽5中のTlをTl2Sとして沈殿させ、PbをPb2SあるいはPb(OH)2として沈殿させることが判る。
【0030】
図1に示す薬液反応槽7には2次ろ液が供給され、さらに、pH調整剤としての塩酸を加え、薬液反応槽7うちのpHを4以下に調整する。塩酸を供給するのは、還元剤としての硫酸第一鉄等を溶かして還元剤としての効果を高めるためである。
【0031】
硫酸第一鉄によって、排水に含まれる重金属としてのセレンを還元して析出させる。ここでは、還元剤としての硫酸第一鉄の添加量を抑えるため、3次ろ液のセレン濃度を0.8mg−Se/l程度にする。次に、水酸化カルシウムを加え、pHを8〜11に上昇させ、硫酸第一鉄の添加により生成した水酸化第一鉄を凝縮、析出させる。pHを8〜11に調整するのは、かかるpH領域で水酸化第一鉄とセレン化合物及び/又はセレン金属が生成物として沈殿するからである。尚、水酸化カルシウムの代わりに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いてもよい。
【0032】
そして、薬液反応槽7から排出されたスラリーをフィルタプレス8によって固液分離し、3次ケーキをセメントキルン等に戻してセメント原料として利用し、3次ろ液は、薬液反応槽9において炭酸カリウムと混合され、3次ろ液中のカルシウムが除去される。3次ろ液中のカルシウムを除去するのは、後段の電気透析装置15において交換膜間がカルシウムスケールにより目詰まりするのを防止するためである。尚、炭酸カリウムの代わりに、炭酸ナトリウムを用いてもよい。
【0033】
次に、薬液反応槽9から排出されたスラリーをフィルタプレス10によって固液分離し、4次ケーキをセメントキルン等に戻してセメント原料として利用し、4次ろ液は、薬液反応槽11において塩酸を加えてpH調整した後、除鉄塔12、キレート樹脂塔13、ろ過装置14によって、鉄、残留重金属、縣濁物質(SS)が除去される。
【0034】
ろ過装置14からの排水は、電気透析装置15に供給され、電気透析装置15において、排水中のセレン酸(SeO42-)が脱塩水に含められ、塩素分は濃縮塩水に含められる。この電気透析装置15は、ろ過装置14からの2次ろ液中の一価陰イオンと陽イオンを濃縮塩水側に含めるように機能するものであって、この電気透析装置15の原理について、図2を参照しながら説明する。
【0035】
電気透析装置15は、両端に陽極15aと陰極15bとを備え、両電極15a、15b間にイオン交換膜としての陽イオン交換膜15cと、陰イオン交換膜15dとが交互に配置される。陽イオン交換膜15cと陰イオン交換膜15dとの間には、脱塩室15e又は濃縮室15fが形成される。処理液(ろ過装置14のろ液)は、脱塩室15eに供給され、処理液に含まれるK+は、陽イオン交換膜15cを通過して濃縮室15fへ移動し、Cl-は、陰イオン交換膜15dを通過して濃縮室15fへ移動する。一方、陰イオン交換膜に一価イオンの選択性があると、セレン酸(SeO42-)は、2価であるため、脱塩室15eに留まる。これによって、脱塩室15eには、SeO42-等2価以上の陰イオンが残り、濃縮室15fには、K+及びCl-が移動し、これらがKClとなって濃縮塩水に含められ、SeO42-は、脱塩水に含められる。
【0036】
電気透析装置15からの脱塩水は、図示しない循環ルートを介して水洗工程の温水槽2に戻される(符号A参照)。これによって、濃縮塩水のセレン濃度は、例えば、下水放流の場合の許容値である0.1mg−Se/l以下に低減される。
【0037】
塩回収工程は、濃縮塩水から塩を回収して工業原料を得る工程であって、この工程を実施するため、ボイラ16と、加熱器17と、結晶装置18と、コンデンサ19と、ろ液タンク20と、遠心分離機21とが設けられる。
【0038】
濃縮塩水は、ボイラ16からの蒸気によって加熱器17において加熱され、結晶装置18において結晶化が行われる。結晶装置18において、濃縮塩水中の溶質は、結晶として析出し、遠心分離機21を経て、工業塩が回収され、工業原料として利用される。一方、結晶装置18で蒸発した水分は、コンデンサ19において冷却されてドレンが回収され、このドレンは、水洗工程に戻される。遠心分離機21によって分離されたろ液は、ろ液タンク20を経て結晶装置18に戻される。尚、濃縮塩水から塩を回収せずに、放流することもできる。
【0039】
次に、上記重金属のうち、タリウムに特化した回収方法について説明する。
【0040】
図5は、セメント焼成装置の一例を示し、このセメント焼成装置31は、予熱機32と、仮焼炉33と、キルン34と、クリンカー冷却機35等からなる。
【0041】
予熱機32は、仮焼炉33からの高温ガスによって原料を予熱するため、複数のサイクロン32a〜32dを多段に備え、各々のサイクロン間、3段目サイクロン32bと仮焼炉33との間及び最下段サイクロン32aとキルン34との間には、原料シュート37〜41が設けられ、最上段サイクロン32dから排出された排ガスを系外に排出するための主排気風車36が配置される。
【0042】
仮焼炉33は、予熱機32によって予熱された原料を仮焼するため、微粉炭を吹き込むバーナー33aを備え、仮焼炉33には、クーラー抽気ダクト42を介してクリンカー冷却機35からの抽気が導入される。また、仮焼炉33は、ライジングダクト43を介してキルン34に接続される。
【0043】
キルン34は、仮焼炉33によって仮焼された原料を焼成してセメントクリンカーを生成するため、微粉炭を吹き込むバーナー34aを備える。クリンカー冷却機35は、上記のようにして焼成されたクリンカーを冷却するため、キルン34の下流側に配置される。
【0044】
ここで、図5の点A〜Dにおいて、原料を採取し、各重金属の濃度を測定した結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、Tlについては、原料中の濃度が1段サイクロンに近づく程高くなり、一方、他の金属は1段に近づくほど低くなっており、Tlが他の重金属とは異なった温度域に濃縮されていることが判る。従って、予熱機32の上部の温度領域300〜900℃において燃焼ガスを抽気し、抽気した燃焼ガスを冷却した後ダストを集塵することで、セメント製造工程からTlを除去することができる。
【0047】
また、図5の点E〜Fにおいて、燃焼ガスを抽気して除塵し、得られたダストと除塵後のガスを冷却して発生したダストに分けて採取し、Tlを測定した結果を表2に示す。この時冷却して発生したダストを硝酸に溶解させた後、水硫化ソーダを添加して回収した生成物のTl濃度は89%であった。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から明らかなように、燃焼ガスを抽気して除塵後のガスを冷却して発生したダスト中に多くのTlが存在することが判る。従って、予熱機32の上部の温度領域300〜900℃において、燃焼ガスを抽気して除塵後に冷却して発生したダストを集塵することでTlを高濃度で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明にかかるセメント製造工程からの重金属回収方法を実施するためのシステムの一例を示すフローチャートである。
【図2】図1の処理システムに用いる電気透析装置の原理を説明するための概略図である。
【図3】図1の処理システムの貯槽に水硫化ソーダを添加、撹拌した後、ろ過した際のろ液の分析結果を示すグラフである。
【図4】図1の処理システムの貯槽にに水硫化ソーダを添加して撹拌した後、それをろ過した後の2次ろ液に塩酸及び硫酸第一鉄を添加し、水酸化カルシウムでpH調整して撹拌した後、ろ過した後の3次ろ液の分析結果を示すグラフである。
【図5】セメント焼成装置の予熱機からのタリウムの回収方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
1 ボイラ
2 温水槽
3 溶解槽
4 ベルトフィルタ
5 貯槽
6 フィルタプレス
7 薬液反応槽
8 フィルタプレス
9 薬液反応槽
10 フィルタプレス
11 薬液反応槽
12 除鉄塔
13 キレート樹脂塔
14 ろ過装置
15 電気透析装置
15a 陽極
15b 陰極
15c 陽イオン交換膜
15d 陰イオン交換膜
15e 脱塩室
15f 濃縮室
16 ボイラ
17 加熱器
18 結晶装置
19 コンデンサ
20 ろ液タンク
21 遠心分離機
31 セメント焼成装置
32 予熱機
32a 最下段サイクロン
32b 3段目サイクロン
32c 2段目サイクロン
32d 最上段サイクロン
33 仮焼炉
33a バーナー
34 キルン
34a バーナー
35 クリンカー冷却機
36 主排気風車
37〜41 原料シュート
42 クーラー抽気ダクト
43 ライジングダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造工程からセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスに含まれるダストを集塵し、タリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を除去又は回収することを特徴とするセメント製造工程からの重金属除去・回収方法。
【請求項2】
300℃以上900℃以下のセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスを除塵することなく冷却し、該燃焼排ガスに含まれるダストを集塵することにより、セメント製造工程からタリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を回収することを特徴とするセメント製造工程からの重金属回収方法。
【請求項3】
300℃以上900℃以下のセメントキルン燃焼ガスの一部を除塵してガスのみを取り出す工程と、除塵後のガスを冷却して固体化した後、集塵してタリウムを回収する工程とを備えることを特徴とするセメント製造工程からの重金属回収方法。
【請求項4】
請求項2に記載の重金属含有ダストに水を添加して1次スラリーとした後、1次ケーキと1次ろ液とに分離し、該1次ろ液に硫化剤を添加して2次ケーキと2次ろ液とに分離し、該2次ケーキ側にタリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を回収することを特徴とするセメント製造工程からの重金属回収方法。
【請求項5】
請求項3に記載の重金属含有ダストに水、硫酸、塩酸、硝酸から選択される1つ以上を添加して1次スラリーとした後、1次ケーキと1次ろ液とに分離し、該1次ろ液に硫化剤を添加して2次ケーキと2次ろ液とに分離し、該2次ケーキ側にタリウムを回収することを特徴とするセメント製造工程からの重金属回収方法。
【請求項6】
請求項3に記載の重金属含有ダストに水、硫酸、塩酸、硝酸から選択される1つ以上を添加して1次スラリーとした後、1次ケーキと1次ろ液とに分離し、該1次ろ液にハロゲン化物と、pH調整剤として塩酸及び苛性ソーダとを添加して2次ケーキと2次ろ液とに分離し、該2次ケーキ側にタリウムを回収することを特徴とするセメント製造工程からの重金属回収方法。
【請求項7】
前記硫化剤が水硫化ソーダ又は硫化ソーダのいずれかであることを特徴とする請求項3又は4に記載のセメント製造工程からの重金属回収方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化物が塩酸、塩素ガス、塩化ナトリウム、次亜塩素酸ソーダ、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、臭素酸、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化アルミニウム、ヨウ素、ヨウ素酸、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウムのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載のセメント製造工程からの重金属回収方法。
【請求項9】
請求項4に記載の2次ろ液に、pH調整剤及び第一鉄化合物を添加してセレン濃度を低減した後、3次ケーキとセレンとを含む3次ろ液とに分離し、該セレンを含む3次ろ液を電気透析装置に通し、濃縮塩水とセレンを含む脱塩水とに分離することを特徴とする請求項4又は7に記載のセメント製造工程からの重金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−347794(P2006−347794A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174462(P2005−174462)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】