説明

セラミックグリーンシート用ポリビニルアセタール樹脂、スラリー組成物、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサ

【課題】
セラミックグリーンシート作成時に、優れた塗工性を有し、かつ、充分な機械的強度を有するセラミックグリーンシートを得ることが可能であり、さらに導電ペースト中の有機溶剤により溶解されにくく、積層時の加熱圧着時にグリーンシートの寸法変化がすくないポリビニルアセタール樹脂を提供する。
【解決手段】
重合度が2800以上5000以下で、ビニルエステル単位量が4〜23モル%であり、アセタール化度が60〜83モル%であり、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分(AA)とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分(BA)とのモル比がAA/BA=10/90〜90/10であることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシート用ポリビニルアセタール樹脂、スラリー組成物、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサを製造する場合には、一般に次のような工程が行われる。まず、セラミック粉末を分散させた有機溶剤中に、ポリビニルブチラール樹脂等のバインダー樹脂と可塑剤とを添加し、ボールミル等により均一に混合することでセラミックグリーンシート用スラリー組成物を調製し、調製したスラリー組成物をポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上にて流延成形し、加熱等により溶剤等を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを製造する。
【0003】
これらのセラミックグリーンシートは、上記剥離性の支持体から剥離されて用いられる。まず、セラミックグリーンシートの表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得る。さらに、諸工程により積層体を形成し、所定形状に切断する。そして、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経ることにより、積層セラミックコンデンサが製造される。従って、上記セラミックグリーンシートは、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の調製作業の良好な作業性とこれらの加工の諸工程に耐え得る強度が要求されるものである。
【0004】
近年、電子機器の多機能化や小型化に伴い、積層セラミックコンデンサには大容量化、小型化が求められている。これに対応して、セラミックグリーンシートに用いられるセラミック粉末としては、0.5μm以下の微細な粒子径のものが用いられ、5μm以下のような薄膜状に剥離性の支持体上に塗工する試みがなされている。
【0005】
しかしながら、微細な粒子径のセラミックス粉末を用いると、充填密度や表面積が増加するため、使用するバインダー樹脂量が増加し、これに伴って、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度も増大することから、塗工が困難となったり、セラミック粉末自体の分散不良が発生したりすることがあった。一方、セラミックグリーンシート作製時の諸工程においては、引張りや曲げ等の応力が負荷されることから、このような応力に耐え得るように、バインダー樹脂として重合度の高いものを用いることが行われているが、重合度の高いバインダー樹脂を用いると、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度が増大し、塗工性やセラミックス粉末の分散性が悪化していた。
【0006】
このような問題点を解決するため、特許文献1では、重合度が1200を超え2400以下、アセチル基の割合が8モル%以上20モル%未満、アセタール化度が55〜70モル%であるポリビニルアセタール樹脂等を含有するセラミックグリーンシート用スラリー組成物を開示し、調製作業性が良好で、塗工性に優れるセラミックグリーンシート用スラリー組成物を実現している。
【0007】
しかしながら、近年、セラミックグリーンシートの薄膜化がより一層顕著となり、厚みが2μm以下のセラミックグリーンシートが求められていることから、重合度が1200を超え2400以下のポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、セラミックグリーンシートの強度が不充分なものとなり、支持体からの剥離時にセラミックグリーンシートが破損するという問題があった。
【0008】
特許文献2では、重合度が2400を超え4500以下、ビニルエステル単位量が1〜20モル%、アセタール化度が55〜80モル%であるポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末、及び、有機溶剤を含有するセラミックグリーンシート用スラリー組成物を実現している。
【0009】
しかしながら、最近ではセラミックグリーンシートの更なる薄層化が求められており、上記セラミックスラリー組成物によって、超薄層のセラミックグリーンシートを作製した場合、その厚みが2μm以下になると、シートアタック現象が起こりやすいという問題が生じた。
【0010】
ここで、シートアタック現象とは、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極層となる導電ペーストを印刷した際に、導電ペースト中の有機溶剤により、セラミックグリーンシートに含有されているバインダー樹脂が溶解して、セラミックグリーンシートに破れなどの欠陥が生じる現象であり、このシートアタック現象が発生すると、積層セラミックコンデンサの電気性能や信頼性が低下し、歩留まりが著しく低下してしまう。
【0011】
特許文献3では、けん化度が80モル%以上で且つ数平均重合度が1000〜4000のポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であって、アセタール化度が60〜75モル%で、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分との比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が0.1〜2であることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂でシートアタック現象の発生しにくいセラミックグリーンシートを実現している。
【0012】
しかしながら、近年、上述したように、1チップ内の誘電体層が多いほど高容量となる一方、チップの大きさは決まっているため、チップを大容量化、もしくは容量を保って小型化するためには、グリーンシートの薄層化に加え、多層化も求められている。グリーンシートを多層化する際、従来の方法よりも、熱圧着時の圧力を高くする必要があり、層間の圧着力が低いと、デラミネーションと呼ばれる層間剥離が発生したり、さらに加熱圧着をする際に変形し、得られる積層セラミックコンデンサの信頼性、性能の低下を招くという課題があった。
【0013】
このように特許文献1、特許文献2及び特許文献3では、塗工性に優れ、充分な機械的強度を有し、導電ペースト中の有機溶剤に溶解されにくく、かつ加熱圧着時のグリーンシートの寸法変化が少ないという性質を兼ね備えたポリビニルアセタール樹脂は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−089245号公報
【特許文献2】特開2006−089354号公報
【特許文献3】特開2008−133371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記現状に鑑み、セラミックグリーンシート作成時に、優れた塗工性を有し、かつ、充分な機械的強度を有するセラミックグリーンシートを得ることが可能であり、さらにグリーンシートは導電ペースト中の有機溶剤により溶解されにくく、かつ熱圧着時のグリーンシートの寸法変化が少ないという特性をもったポリビニルアセタール樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、セラミックグリーンシート用スラリー組成物のバインダー樹脂として、重合度が2800以上5000以下で、ビニルエステル単位の含有量が4〜23モル%であり、アセタール化度が60〜83モル%であるポリビニルアセタール樹脂であって、粘度を大幅に増加させることなく、塗工性に優れたものとすることができるとともに、厚みを薄くした場合であっても、機械的強度が高く、さらには、導電ペースト中の有機溶剤により溶解されにくいセラミックグリーンシートが得られ、積層時の加熱圧着時に寸法変化が少なくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、セラミックグリーンシート作成時に、優れた塗工性を有し、かつ、充分な機械的強度を有するセラミックグリーンシートを得ることが可能であり、さらに導電ペースト中の有機溶剤により溶解されにくく、積層時の加熱圧着時にグリーンシートの寸法変化が少ないポリビニルアセタール樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を詳述する。
【0019】
本発明で用いられるポリビニルアセタール樹脂の重合度は2800以上5000以下である。重合度が2800未満であると、厚さ2μm以下のような薄膜セラミックグリーンシートを作製する場合に、機械的強度が不充分となり、重合度が5000を超えると、有機溶剤に充分に溶解しなかったり、溶液粘度が高くなりすぎて、塗工性や分散性が低下したりする。好ましい下限は3000であり、好ましい上限は4600である。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、重合度が2800以上5000以下のポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドによりアセタール化することにより製造することができる。なお、2種類以上のポリビニルアルコール樹脂を混合して用いる場合には、それぞれの重合度の平均値が2800以上5000以下であればよい。好ましい下限は3000であり、好ましい上限は4600である。
【0021】
なお、上記重合度はポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられるポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度、ポリビニルアセタール樹脂の粘度平均重合度の双方から求められる。つまり、アセタール化により重合度が変化することはないため、ポリビニルアルコール樹脂と、そのポリビニルアルコールをアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂の重合度は同じである。特に限定はされないが、ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度は、JIS K6726に基づき求められる平均重合度をいう。又、ポリビニルアルコール樹脂として2種以上のポリビニルアルコール樹脂を混合して用いる場合は、混合後のポリビニルアルコール樹脂全体の見掛け上の粘度平均重合度をいう。一方、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、JIS K6728に記載の方法に基づいて測定した粘度平均重合度いう。
【0022】
上記ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位の含有量の下限は4モル%、上限は23モル%である。4モル%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂中の水酸基の分子内及び分子間の水素結合が増加してセラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎ、また、導電ペーストに用いられている有機溶剤への溶解性が高くなり過ぎて、シートアタック現象を生じやすくなる。23モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が低下し、柔軟性が強くなり過ぎるためセラミックグリーンシートのハンドリング性、機械的強度、および加熱圧着時の寸法安定性が悪くなる。好ましい下限は6モル%であり、好ましい上限は20モル%である。なお、ビニルエステル単位の含有量が4〜23モル%であるポリビニルアセタール樹脂は、ビニルエステル単位の含有量が4〜23モル%であるポリビニルアルコール樹脂、すなわち、けん化度が77〜96モル%であるポリビニルアルコール樹脂をアセタール化することにより得られる。ポリビニルアルコール樹脂のけん化度の好ましい下限は80モル%であり、好ましい上限は94モル%である。
【0023】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の下限は60モル%、上限は83モル%である。60モル%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂の親水性が高く、有機溶剤に溶けにくくなるため、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の製造に支障をきたし、83モル%を超えると、残存水酸基が少なくなり、ポリビニルアセタール樹脂の強靭性が損なわれ、生産性、反応性の観点からも工業的に得る事が難しく、生産性の低下を招く。従って、好ましい下限は65モル%であり、好ましい上限は78モル%である。
【0024】
本発明のポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度を60〜83モル%に調整するには、ポリビニルアルコール樹脂に対するアルデヒドの添加量、及び、アルデヒドと酸触媒を添加した後の反応時間等を適宜調整することが必要である。また、ポリビニルアルコール100質量部に対し、40〜90質量部のアルデヒドを添加することが好ましい。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセトアルデヒドによりアセタール化された部分(AA)とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分(BA)とのモル比は、AA/BA=10/90〜90/10の範囲が好ましい。AA/BA=10/90より小さいと、加熱圧着時の寸法変化が起こりやすく、AA/BA=90/10より大きいと、シートの柔軟性が損なわれ、皮膜強度が低下する。好ましくは、AA/BA=20/80〜80/20であり、さらに好ましくは、AA/BA=35/65〜65/35である。
【0026】
上記アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドによるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の算出方法は、ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、ポリビニルアセタール樹脂における主鎖のメチン基に由来するピーク面積をM_A、エステル化されているカルボニル炭素に由来するピーク面積をM_B、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分のメチン基に由来するピーク面積M_C、およびブチルアルデヒドによりアセタール化された部分のメチン基に由来するピーク面積M_Dを下記一般式(1)に代入して算出することができる。また、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分(AA)とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分(BA)とのモル比は、M_CとM_Dの比より求めることができる。
【0027】
【数1】

【0028】
本発明においては、ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化するために用いられるアルデヒドとして、本発明の特性を損なわない範囲でアセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒド以外のものを用いることができる。例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明で用いられるポリビニルアセタール樹脂としては、生産性と特性バランス等の点から、炭素数2〜6のアルデヒド、特に炭素数2〜4のアルデヒドを用いたポリビニルアセタール樹脂が、セラミックグリーンシートの機械的強度、塗工性の点で好ましい。
【0029】
上記ポリビニルアセタール樹脂に使用されるアルデヒドはモノアルデヒド(アルデヒド基が一分子内に1つ)が好ましい。2つ以上のアルデヒド基を有する化合物でアセタール化した場合、架橋部位と未架橋部位の応力緩和力が異なる為、乾燥後にポリエチレンテレフタレートからはがした後に反りが生じることがある。従って、使用するアルデヒドはモノアルデヒドのみであることが好ましく、2つ以上のアルデヒド基を有する化合物を用いる場合であっても、ポリビニルアルコール樹脂のビニルアルコール単位に対して、0.005モル%より少ない量、より好ましくは0.003モル%以下の量を添加してアセタール化することが好ましい。
【0030】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂は、通常、ポリビニルアルコール樹脂を原料として製造される。上記ポリビニルアルコール樹脂は、従来公知の手法、すなわちビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をけん化することによって得ることができる。ビニルエステル系単量体を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、従来公知の方法を適用することができる。重合開始剤としては、重合方法に応じて、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。けん化反応は、従来公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いる加アルコール分解、加水分解などが適用でき、この中でもメタノールを溶剤とし苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
【0031】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられるが、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0032】
また、前記ビニルエステル系単量体を重合する場合、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体と共重合させることもできる。したがって、本発明におけるポリビニルアルコール樹脂は、ビニルアルコール単位と他の単量体単位で構成される重合体も含む概念である。他の単量体の例としては、例えばエチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその酸塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその酸塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステルまたはその無水物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。これらの単量体は通常ビニルエステル系単量体に対して10モル%未満の割合で用いられる。
【0033】
アセタール化に用いる酸触媒としては特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも塩酸、硫酸、硝酸が好ましく用いられ、とりわけ塩酸が好ましく用いられる。
【0034】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は次のような方法によって得ることができる。まず、3〜15質量%濃度のポリビニルアルコール樹脂の水溶液を、80〜100℃の温度範囲に調整し、その温度を10〜60分かけて徐々に冷却する。温度が−10〜40℃まで低下したところで、アルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、10〜300分間アセタール化反応を行う。その後、反応液を30〜200分かけて、15〜80℃の温度まで昇温し、その温度を0〜360分間保持する熟成工程を含むことが好ましい。反応の熟成温度(昇温後の温度)は45℃以上が好ましい。反応の熟成温度が45℃より低くなると、得られたポリビニルアセタール樹脂の溶液粘度が高くなり、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の分散性が低下する。次に、反応液を、好適には室温まで冷却し、水洗した後、アルカリなどの中和剤を添加し、洗浄、乾燥することにより、目的とするポリビニルアセタール樹脂が得られる。
【0035】
本発明のポリビニルアセタール樹脂における上記α−オレフィンセグメントの含有量は、好ましい下限が1モル%、好ましい上限が20モル%である。1モル%未満であると、上記α−オレフィンを含有する効果が不充分となり、20モル%を超えると、疎水性が強くなりすぎてセラミック粉末の分散性が低下したり、ポリビニルアルコール樹脂の溶解性が低下するため、アセタール化反応が困難になったりする。
【0036】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物は、ポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末、及び、有機溶剤を含有するセラミックグリーンシート用スラリー組成物である。セラミックグリーンシート用スラリー組成物は、セラミックグリーンシートの製造工程において一般に用いられるエタノールとトルエンとの1:1混合溶剤に溶解した場合に溶液粘度に高くなりすぎないポリビニルアセタール樹脂を含有することから、充分な塗工性、機械的強度を示し、かつ良好な充填性を有するセラミックグリーンシートを得ることができる。
【0037】
また、本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物は、バインダー樹脂として上記ポリビニルアセタール樹脂のほかにアクリル系樹脂、セルロース系樹脂を含有してもよい。バインダー樹脂としてアクリル系樹脂、セルロース系樹脂等を含有する場合、バインダー樹脂全体に占める上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は30質量%である。30質量%未満であると、得られるセラミックグリーンシートの機械的強度、加熱圧着性が不充分となることがある。
【0038】
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の粉末、および導電粉末が挙げられる。これらのセラミック粉末は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物の全量に対するセラミック粉末の含有量の上限は80質量%であり、下限は30質量%である。30質量%より少なくなると、粘度が低くなり過ぎてセラミックスグリーンシートを成形する際のハンドリング性が悪くなり80質量%より多くなると、セラミックスグリーンシート用スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎて混練性が低下する傾向にある。
【0039】
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、α−テルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物の全量に対する有機溶剤の含有量の上限は80質量%であり、下限は20質量%である。上記範囲内であれば、本発明のセラミックスグリーンシート用スラリー組成物に適度な混練性を与えることができる。20質量%より少なくなると、粘度が低くなり過ぎてセラミックスグリーンシートを成形する際のハンドリング性が悪くなり、80質量%より多くなると、セラミックスグリーンシート用スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎて混練性が低下する傾向にある。
【0040】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でアクリル系樹脂、セルロース系樹脂等のバインダー樹脂、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0041】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物は必要に応じて可塑剤を添加することができる。添加する可塑剤の種類は特に限定されないが、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジ(2−エチルブチル)などのフタル酸系可塑剤、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOA)などのアジピン酸系可塑剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系可塑剤、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)などのグリコールエステル系可塑剤などが挙げられ、これらは2種以上組み合わせて用いることも可能である。可塑剤の使用量は特に限定されないが、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の全量に対して0.1〜10質量%使用することが好ましく、より好適には1〜8質量%である。なかでも、揮発性が低く、シートの柔軟性を保ちやすいことから、DOP、DOA、トリエチレングリコール2−エチルヘキシルが好適である。
【0042】
本発明のポリビニルアセタール樹脂を用いたセラミックグリーンシート用スラリー組成物を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂を含有するバインダー樹脂、セラミック粉末、有機溶剤及び必要に応じて添加する各種添加剤をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0043】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物は、上述のような構成を有することから、厚さが2μm以下であっても、充分な機械的強度を有する薄膜セラミックグリーンシートを製造することができる。このように、本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートであって、厚さが2μm以下であるセラミックグリーンシートもまた、本発明の1つである。
【0044】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物をポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上に流延成形し、加熱等により溶剤等を溜去させた後、支持体から剥離する方法等が挙げられる。
【0045】
本発明のセラミックグリーンシートに導電ペーストを塗布したものを積層することにより、積層セラミックコンデンサを作製することができる。このように、本発明のセラミックグリーンシートと導電ペーストとを用いて得られる積層セラミックコンデンサもまた、本発明の1つである。
【0046】
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、本発明のセラミックグリーンシートの表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去した後(脱脂処理)、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する方法等が挙げられる。
【0047】
また、上記導電ペーストの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、ポリビニルアセタール樹脂に、金属等の導電性粉末、分散剤、可塑剤、溶剤等を混合する方法等が挙げられる。
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」および「部」は特に断りのない限り、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0049】
ポリビニルアセタール樹脂の諸物性の測定は以下の方法に従って行った。
【0050】
(ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位含有量、ビニルアルコール単位含有量)
13C−NMRより算出した。
【0051】
(アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分のモル比)
13C−NMRより算出した。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
(ポリビニルアセタール樹脂の調製)
還流冷却器、温度計およびイカリ型攪拌翼を備えた内容積2リットルのガラス製容器に、イオン交換水1295gと、ポリビニルアルコール(PVA−1:重合度3500、けん化度88モル%)105gとを仕込み、全体を95℃に昇温してポリビニルアルコールを完全に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液(濃度7.5質量%)を形成した。形成したポリビニルアルコール水溶液を、回転速度120rpmにて攪拌し続けながら、約30分かけて13℃まで徐々に冷却した後、当該水溶液に、n−ブチルアルデヒド17g、および、アセトアルデヒドを28g添加し、さらにアセタール化触媒である酸触媒として濃度20質量%の塩酸100mlを添加して、ポリビニルアルコールのアセタール化を開始した。アセタール化を15分間行った後、120分かけて全体を47℃まで昇温し、47℃にて180分間保持した後に、室温まで冷却した。冷却によって析出した樹脂をろ過後、イオン交換水(樹脂に対して100倍量のイオン交換水)で洗浄した後、中和のために0.3質量%炭酸水素ナトリウム溶液を加え、50℃で5時間保持した後、さらに100倍量のイオン交換水で再洗浄を10回繰り返し、脱水したのち、40℃、減圧下で18時間乾燥し、ポリビニルアセタール樹脂(PVAB−1)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂(PVAB−1)は、アセトアセタール化度は56.0モル%、ブチラール化度は14.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が18.0モル%であった。
【0053】
得られたポリビニルアセタール樹脂10質量部を、トルエン20質量部とエタノール20質量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、可塑剤としてDOP8質量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺化学工業株式会社製、BT−03(平均粒径0.3μm))100質量部を加え、ボールミルで48時間混合することによりセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0054】
(実施例2)
PVA−1を用い、アセトアルデヒドを17g、およびn−ブチルアルデヒドを30g使用した以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVAB−2)を得た。PVAB−2のアセトアセタール化度は35.0モル%、ブチラール化度は35.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が18.0モル%であった。次いで、PVAB−2を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0055】
(実施例3)
PVA−1を用い、アセトアルデヒドを16g、およびn−ブチルアルデヒドを28g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−3)を得た。PVAB−3のアセトアセタール化度は31.0モル%、ブチラール化度は31.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が26.0モル%であった。次いで、PVAB−3を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0056】
(実施例4)
PVA−1を用い、アセトアルデヒドを9g、およびn−ブチルアルデヒドを45g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−4)を得た。PVAB−4のアセトアセタール化度は14.0モル%、ブチラール化度は56.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が18.0モル%であった。次いで、PVAB−4を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0057】
(実施例5)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−2:重合度4800、けん化度88モル%)を用い、アセトアルデヒドを17g、およびn−ブチルアルデヒドを29g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−5)を得た。PVAB−5のアセトアセタール化度は33.0モル%、ブチラール化度は33.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が22.0モル%であった。次いで、PVAB−5を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0058】
(実施例6)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−3:重合度3500、けん化度94モル%)を用い、アセトアルデヒドを25g、およびn−ブチルアルデヒドを22g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−6)を得た。PVAB−6のアセトアセタール化度は46.8モル%、ブチラール化度は25.2モル%、ビニルエステル単位の含有量が6.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が22.0モル%であった。次いで、PVAB−6を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0059】
(実施例7)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−4:重合度4500、けん化度94モル%)を用い、アセトアルデヒドを20g、およびn−ブチルアルデヒドを34g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−7)を得た。PVAB−7のアセトアセタール化度は39.0モル%、ブチラール化度は39.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が6.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が16.0モル%であった。次いで、PVAB−7を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0060】
(実施例8)
PVA−3を用い、アセトアルデヒドを14g、およびn−ブチルアルデヒドを38g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−8)を得た。PVAB−8のアセトアセタール化度は24.5モル%、ブチラール化度は45.5モル%、ビニルエステル単位の含有量が6.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が24.0モル%であった。次いで、PVAB−8を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0061】
(実施例9)
PVA−3を用い、アセトアルデヒドを17g、およびn−ブチルアルデヒドを27g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−9)を得た。PVAB−9のアセトアセタール化度は31.0モル%、ブチラール化度は31.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が6.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が32.0モル%であった。次いで、PVAB−9を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0062】
(実施例10)
PVA−3を用い、アセトアルデヒドを9g、およびn−ブチルアルデヒドを45g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−10)を得た。PVAB−10のアセトアセタール化度は14.0モル%、ブチラール化度は56.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が6.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が24.0モル%であった。次いで、PVAB−10を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0063】
(実施例11)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−5:重合度3500、けん化度77モル%)を用い、アセトアルデヒドを17g、およびn−ブチルアルデヒドを27g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−11)を得た。PVAB−11のアセトアセタール化度は31.0モル%、ブチラール化度は31.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が23.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が15.0モル%であった。次いで、PVAB−11を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0064】
(実施例12)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−6:重合度3500、けん化度96モル%)を用い、アセトアルデヒドを20g、およびn−ブチルアルデヒドを32g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−12)を得た。PVAB−12のアセトアセタール化度は36.0モル%、ブチラール化度は36.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が4.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が24.0モル%であった。次いで、PVAB−12を用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0065】
(比較例1)
ポリビニルアルコール(PVA−1:重合度3500、けん化度88モル%)を用い、アルデヒドとしてn−ブチルアルデヒドのみを使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルブチラール樹脂(PVAB−A)を得た。PVAB−Aのアセトアセタール化度は0.0モル%、ブチラール化度は70.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が18.0モル%であった。次いで、PVAB−Aを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0066】
(比較例2)
ポリビニルアルコール(PVA−1:重合度3500、けん化度88モル%)を用い、アルデヒドとしてアセトアルデヒドのみを使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセトアセタール樹脂(PVAB−B)を得た。PVAB−Bのアセトアセタール化度は70.0モル%、ブチラール化度は0.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が18.0モル%であった。次いで、PVAB−Bを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0067】
(比較例3)
PVA−1に代わって、PVA−3を用い、アセトアルデヒドを37g、およびn−ブチルアルデヒドを5g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−C)を得た。PVAB−Cのアセトアセタール化度は70.3モル%、ブチラール化度は3.7モル%、ビニルエステル単位の含有量が6.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が20.0モル%であった。次いで、PVAB−Cを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0068】
(比較例4)
PVA−1に代わって、PVA−3を用い、アセトアルデヒドを3g、およびn−ブチルアルデヒドを60g使用した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂(PVAB−D)を得た。PVAB−Dのアセトアセタール化度は3.7モル%、ブチラール化度は70.3モル%、ビニルエステル単位の含有量が6.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が20.0モル%であった。次いで、PVAB−Dを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0069】
(比較例5)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−A:重合度3500、けん化度98モル%)を用い、アセトアルデヒドを20g、およびn−ブチルアルデヒドを32g使用した以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVAB−E)を得た。PVAB−Eのアセトアセタール化度は34.0モル%、ブチラール化度は34.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が2.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が30.0モル%であった。次いで、PVAB−Eを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0070】
(比較例6)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−B:重合度3500、けん化度75モル%)を用い、アセトアルデヒドを14g、およびn−ブチルアルデヒドを22g使用した以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVAB−F)を得た。PVAB−Fのアセトアセタール化度は30.0モル%、ブチラール化度は30.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が25.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が15.0モル%であった。次いで、PVAB−Fを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0071】
(比較例7)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−C:重合度5200、けん化度88モル%)を用い、アセトアルデヒドを17g、およびn−ブチルアルデヒドを30g使用した以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVAB−G)を得た。PVAB−Gのアセトアセタール化度は35.0モル%、ブチラール化度は35.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が18.0モル%であった。次いで、PVAB−Gを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0072】
(比較例8)
PVA−1に代わって、ポリビニルアルコール(PVA−D:重合度1700、けん化度88モル%)を用い、アセトアルデヒドを17g、およびn−ブチルアルデヒドを30g使用した以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVAB−H)を得た。PVAB−Hのアセトアセタール化度は35.0モル%、ブチラール化度は35.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が18.0モル%であった。次いで、PVAB−Hを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0073】
(比較例9)
PVA−1を用い、アセトアルデヒドを13g、およびn−ブチルアルデヒドを22g使用した以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVAB−I)を得た。PVAB−Iのアセトアセタール化度は29.0モル%、ブチラール化度は29.0モル%、ビニルエステル単位の含有量が12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有量が30.0モル%であった。次いで、PVAB−Iを用いて実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。
【0074】
実施例1〜12及び比較例1〜9で作製したセラミックグリーンシート用スラリー組成物を、コーターバーを用いて、乾燥厚みが1μmとなるように離形処理したポリエステルフィルム上に塗工し、常温で1時間風乾した後、熱風乾燥機にて80℃にて2時間、続いて120℃で2時間乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。
【0075】
(評価)
(機械的強度の評価)
得られたセラミックグリーンシートをポリエステルフィルムから剥離し、セラミックグリーンシートの状態を観察した。
○:セラミックグリーンシートに切れや破れが観察されなかったもの
×:切れや破れがわずかでも観察されたもの
の2段階で評価した。
【0076】
(分散性評価)
セラミックグリーンシートを走査型電子顕微鏡(SEM)により表面観察した。
○:セラミックスの凝集物が認められないもの
△:セラミックスの凝集物は認められるが、粒子径3μm以上のセラミックスの凝集物が認められないもの
×:粒子径3μm以上のセラミックスの凝集物が認められるもの
の3段階で評価した。
【0077】
(充填度合い評価)
セラミックグリーンシートを走査型電子顕微鏡(SEM)により断面観察した。
○:セラミックスが均一にほとんど隙間無く充填されているもの
△:セラミックス間の隙間が僅かに認められるもの
×:セラミックス間に大きな隙間が認められるもの
の3段階で評価した。
【0078】
(セラミックグリーンシートのシートアタック耐性)
セラミックグリーンシートに、ジヒドロターピニルアセテートを0.02g滴下し、60℃で1時間に亘って乾燥させた後、セラミックグリーンシート表面を光学顕微鏡により表面観察した。
○:セラミックグリーンシートの表面に皺及び破れは認められないもの
△:セラミックグリーンシートの表面に若干の皺及び破れが認められるもの
×:セラミックグリーンシートの表面に皺及び破れが認められるもの
の3段階で評価した。
【0079】
(セラミックグリーンシートの寸法安定性)
実施例及び比較例にて得られたグリーンシートを、乾燥後の膜厚が2μmとなるようにPET上に塗工し、乾燥した。このシートを5cm角に切断し、90℃でプレスを行い(プレス圧:300g/cm)、変形率(プレス後の面積/プレス前の面積×100)を求めた。
○:シート変形率が3%未満
△:シート変形率が3%以上5%未満
×:シート変形率が5%以上
の3段階で評価した。
【0080】
機械的強度の評価とグリーンシート評価の結果を表1に示した。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、セラミックグリーンシート作成時に、優れた塗工性を有し、かつ、充分な機械的強度を有するセラミックグリーンシートを得ることが可能であり、さらに導電ペースト中の有機溶剤により溶解されにくく、積層時の加熱圧着時にグリーンシートの寸法変化が少ないポリビニルアセタール樹脂を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が2800以上5000以下で、ビニルエステル単位の含有量が4〜23モル%であり、アセタール化度が60〜83モル%で、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分(AA)とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分(BA)とのモル比がAA/BA=10/90〜90/10であることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末、及び有機溶剤を含有することを特徴とするセラミックグリーンシート用スラリー組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートであって、厚さが2μm以下であることを特徴とするセラミックグリーンシート。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミックグリーンシートと導電ペーストとを用いて得られることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【公開番号】特開2011−236304(P2011−236304A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108032(P2010−108032)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】