説明

セラミックシンチレータとそれを用いた放射線検出器および放射線検査装置

セラミックシンチレータは、Pr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種の元素を付活剤として含有する酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を具備する。酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体は5〜15ppmの範囲のアルカリ金属元素と5〜40ppmの範囲のリンとを含有する。このようなセラミックシンチレータによれば、酸硫化ルテチウム蛍光体が本来有する特性を十分に生かし、小型化した場合においても良好なX線検出感度を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を可視光線に変換するセラミックシンチレータとそれを用いた放射線検出器および放射線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断や工業用非破壊検査等の分野においては、X線断層写真撮影装置(以下、X線CT装置と記す)等の放射線検査装置を用いた検査が行われている。X線CT装置は、被検査体に対してX線管からファンビームX線を照射し、被検体を透過したX線吸収データをX線検出器で収集し、このX線吸収データをコンピュータで解析することによって、被検査体の断層像を再生するものである。
【0003】
X線CT装置のX線検出器では、X線の刺激により可視光線等を放射する固体シンチレータが用いられている。このような固体シンチレータには、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)等で付活した酸硫化ガドリニウム、酸硫化ランタン、酸硫化ルテチウム等の希土類酸硫化物蛍光体の焼結体からなるセラミックシンチレータを適用することが検討されている(特許文献1〜3等参照)。特に、酸硫化ガドリニウム蛍光体(GdS:Pr等)は、発光効率に優れると共に、発光の残光が短い等の特性を有することから、X線検出器用シンチレータ材料として実用化されている。
【0004】
ところで、X線CT装置にはより一層の高解像度化が望まれている。例えば、従来のX線CT装置では不可能であって肺胞の画像化等が求められるようになってきている。このようなX線CT装置の高解像度化に対応するために、X線検出素子をより一層小型化する傾向にあり、セラミックシンチレータは微小形状に加工する必要が生じている。このため、酸硫化ガドリニウム蛍光体ではX線吸収が必ずしも十分とは言えない状況が生じている。シンチレータによるX線吸収が不十分であるとX線フォトンノイズを発生させ、X線CT画像の画質を大きく低下させることになる。
【0005】
このようなことから、次世代のX線CT装置用のセラミックシンチレータ材料として、X線吸収係数が大きく、微細加工した場合においても十分な発光効率が得られる酸硫化ルテチウム蛍光体(LuS:Pr、LuS:Tb、LuS:Eu等)が注目されている。酸硫化ルテチウム蛍光体は酸硫化ガドリニウム蛍光体等と同様にフラックス法で作製することが試みられている。しかし、酸硫化ルテチウム蛍光体は結晶成長性に劣ることから、酸硫化ガドリニウム蛍光体等に比べて多量のフラックス(APOやACO(A:アルカリ金属元素)等の結晶成長剤)を添加する必要がある。
【0006】
比較的多量のフラックスを使用して作製した酸硫化ルテチウム蛍光体は、結晶性に優れ、また粒径も比較的揃っていることから、セラミックシンチレータの形成材料に適していると考えられている。しかしながら、多量のフラックスを適用した酸硫化ルテチウム蛍光体粉末は、例えばホットプレス法やHIP(熱間静水圧プレス)法等を適用してセラミックシンチレータ(酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体)を作製した際に着色し、透光性が損なわれやすいという欠点を有している。
【0007】
セラミックシンチレータの着色およびそれに基づく透光性の低下は、発光出力の低下要因となることから、酸硫化ルテチウム蛍光体本来の大きなX線吸収係数に基づく高発光率特性等が損なわれてしまう。このように、従来のセラミックシンチレータでは、酸硫化ルテチウム蛍光体が本来有する大きなX線吸収係数に基づく高発光効率等の特性が十分に生かされていないのが現状である。
【0008】
なお、特許文献2には希土類酸硫化物蛍光体からなるセラミックシンチレータのPO含有量を50ppm以下とすることによって、希土類酸硫化物蛍光体の焼結体の高密度化を促進することが記載されている。しかし、希土類酸硫化物蛍光体の焼結体((R1−x−yPrCeS蛍光体の焼結体(R:Y,Gd,La,Lu))中のリン酸量を単に低減しただけでは、酸硫化ルテチウム蛍光体を適用したセラミックシンチレータの発光効率を再現性よく高めることはできない。
【0009】
一方、特許文献3にはCsおよびRbから選ばれる少なくとも1種を0.2〜50ppmの範囲で含有する希土類酸硫化物蛍光体((R1−xRES蛍光体(R:Y,Gd,La,Lu、RE:Tb,Eu,Tm,Pr))が記載されている。これはCsやRbで希土類酸硫化物蛍光体粉末の粒子形状を改良することによって、放射線像変換シートを作製する際の蛍光体粒子の充填密度を高めるものであり、セラミックシンチレータ(希土類酸硫化物蛍光体の焼結体)の透光性の向上等は意図していない。
【特許文献1】特開平7−238281号公報
【特許文献2】特開平9−202880号公報
【特許文献3】特開2001−131546号公報
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、酸硫化ルテチウム蛍光体が本来有する特性を十分に生かし、小型化した場合においても良好なX線検出感度を得ることを可能にしたセラミックシンチレータを提供することにある。本発明の他の目的は、そのようなセラミックシンチレータを適用することによって、解像度等をより一層高めることを可能にした放射線検出器、およびそのような放射線検出器を使用した放射線検査装置を提供することにある。
【0011】
本発明のセラミックシンチレータは、Pr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種の元素を付活剤として含有する酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を具備するセラミックシンチレータであって、前記酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体は5ppm以上15ppm以下の範囲のアルカリ金属元素と5ppm以上40ppm以下の範囲のリンとを含有することを特徴としている。
【0012】
本発明の放射線検出器は、上記した本発明のセラミックシンチレータを具備し、入射した放射線に応じて前記セラミックシンチレータを発光させる蛍光発生手段と、前記蛍光発生手段からの光を受けて、前記光の出力を電気的出力に変換する光電変換手段とを具備することを特徴としている。また、本発明の放射線検査装置は、被検体に向けて放射線を照射する放射線源と、前記被検体を透過した放射線を検出する、本発明の放射線検出器とを具備することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
[図1]図1は本発明の一実施形態によるセラミックシンチレータの構成を示す斜視図である。
【0014】
[図2]図2は本発明の一実施形態によるX線検出器の概略構成を示す図である。
【0015】
[図3]図3は本発明の放射線検査装置の一実施形態としてのX線CT装置の概略構成を示す図である。
発明を実施するための形態
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、以下では本発明の実施形態を図面に基づいて説明するが、それらの図面は図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に限定されるものではない。
【0017】
図1は本発明の一実施形態によるセラミックシンチレータの構成を示す斜視図である。図1に示すセラミックスシンチレータ1は、付活剤としてプラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)、およびユーロピウム(Eu)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する酸硫化ルテチウム(LuS)蛍光体の焼結体により構成されている。なお、図1はセラミックシンチレータの一例であるシンチレータチップを示している。本発明のセラミックシンチレータはこのようなチップ形状のものに限られるものではなく、X線検出器等に応じて各種の形状を適用することが可能である。
【0018】
セラミックシンチレータ1の構成材料である酸硫化ルテチウム蛍光体は、
一般式:(Lu1−aS …(1)
(式中、MはPr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.0001≦a≦0.2を満足する数である)
で実質的に表される組成を有することが好ましい。なお、Luの一部は他の希土類元素(Y、LaおよびGdから選ばれる少なくとも1種の元素等)で置換してもよいが、その際の置換量は30mol%以下とすることが好ましい。
【0019】
Pr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種のM元素で付活した酸硫化ルテチウム蛍光体は、従来の酸硫化ガドリニウム蛍光体と比べてX線吸収係数が大きく、単位面積当りの光出力に優れるものである。すなわち、セラミックシンチレータ1によるX線検出感度等を向上させることができる。従って、特に高解像度化を図ったX線CT装置に用いるX線検出器等の蛍光発生手段として有効である。このような酸硫化ルテチウム蛍光体において、付活剤としてはPr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種の元素が用いられる。付活剤はPr、Tb、Euのいずれであってもよいが、特にPrで付活した酸硫化ルテチウム蛍光体はX線CT用検出器に好適である。
【0020】
付活剤(Pr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種のM元素)の含有量は、上記した(1)式のaの値として0.0001〜0.2の範囲とすることが好ましい。付活剤の含有量を示すaの値が0.0001未満の場合には、発光中心となる付活剤としての機能を十分に発揮させることができず、酸硫化ルテチウム蛍光体の発光効率が低下する。一方、aの値が0.2を超えても発光効率が低下する。なお、酸硫化ルテチウム蛍光体には上記した付活剤に加えて、Ce等の他の希土類元素を共付活剤として微量配合してもよい。共付活剤の配合量はPr、Tb、Euによる発光が支配的な状態を維持することができればよく、例えば50ppm以下とすることが好ましい。
【0021】
酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるセラミックシンチレータ1は、質量比で5〜15ppmの範囲のアルカリ金属元素と5〜40ppmの範囲のリンとを含有している。アルカリ金属元素は特に限定されるものではなく、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)のいずれであってもよいが、特にLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、これらアルカリ金属元素およびリンの含有量は、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体中の存在量を規定したものである。
【0022】
上述したような量のアルカリ金属元素とリンを含有する酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を適用することによって、セラミックシンチレータ1の高純度・高密度化、並びに透光性の向上を再現性よく実現することが可能となる。すなわち、セラミックシンチレータ1の原料となる酸硫化ルテチウム蛍光体粉末は、通常、結晶性を高めると共に粉体の粒度分布を整えるために、アルカリ金属のリン酸塩や炭酸塩等を結晶成長剤として用いたフラックス法を適用して作製される。
【0023】
具体的には、LuやPr等の各希土類元素の出発原料として、酸化ルテチウムや酸化プラセオジム等の希土類酸化物粉末を用意する。次いで、これら希土類酸化物粉末に硫黄(S)粉末等の硫化剤とAPOやACO(A:アルカリ金属元素)等のフラックスを配合して十分に混合する。このような混合粉末を1100〜1300℃の温度で5〜10時間焼成した後、酸および水で洗浄することによって、酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を得る。
【0024】
フラックス法を適用して作製した酸硫化ルテチウム蛍光体粉末中には、必然的にアルカリ金属元素やリン酸イオンが混入する。このような酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を原料粉末として用いて作製したセラミックシンチレータ1(酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体)中にも、アルカリ金属元素およびリン酸イオンの形でリンが残留する。特に、酸硫化ルテチウム蛍光体は従来の酸硫化ガドリニウム蛍光体に比べて結晶成長性に劣ることから、比較的多量のフラックスを添加する必要がある。
【0025】
酸硫化ルテチウム蛍光体を作製する際の具体的なフラックス量は、酸硫化ガドリニウム蛍光体の作製工程に比べて倍量程度とする必要がある。従って、アルカリ金属元素やリンの残留がセラミックシンチレータ1の特性に大きく影響する。そして、アルカリ金属元素やリンが多量に残留すると、これら残留元素に起因して酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体が茶色に着色し、これがセラミックシンチレータ1内での光(X線等の照射により発光した光)の吸収を招くことになる。
【0026】
このような着色を防ぐためには、酸硫化ルテチウム蛍光体粉末中に残留するアルカリ金属元素やリンの量を低減することが有効である。しかしながら、アルカリ金属元素やリンの含有量を削減しすぎると焼結性が低下し、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体中に異相や気孔等が多数発生する。焼結体中に異相や気孔等が発生すると、セラミックシンチレータ1内で光の散乱が生じる。上述した着色や異相、気孔等の発生は、いずれもセラミックシンチレータ1の光出力の低下要因となる。
【0027】
酸硫化ルテチウム蛍光体中に残留するアルカリ金属元素やリンは、適量であれば蛍光体粉末の焼結を促進する焼結助剤として働くものの、多量に残留すると焼結体の着色原因となる。そこで、セラミックシンチレータ1中のアルカリ金属元素量を5〜15ppmの範囲とすると共に、リン量を5〜40ppmの範囲に制御している。このような量のアルカリ金属元素およびリンが焼結体中に存在するように、酸硫化ルテチウム蛍光体粉末中のアルカリ金属元素やリンの残留量を制御することで、高純度・高密度でかつ透明性に優れるセラミックシンチレータ1を得ることが可能となる。セラミックシンチレータ1中のアルカリ金属元素量は6〜10ppmの範囲とすることがより好ましく、またリン量は10〜30ppmの範囲とすることがより好ましい。
【0028】
セラミックシンチレータ1を構成する酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体中のアルカリ金属元素量が15ppmを超えても、またリン量が40ppmを超えても、いずれの場合においてもセラミックシンチレータ1の着色が顕著になる。これによって、発光した光が吸収されて検出感度が低下する。一方、アルカリ金属元素量が5ppm未満であっても、またリン量が5ppm未満であっても、いずれの場合も焼結体中に酸硫化ルテチウム以外の異相(例えば未反応の希土類酸化物)が生じたり、また酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結性の低下に基づいて気孔や空隙等が生じる結果となる。これら異相や気孔等は焼結体内での光の散乱原因となることから、セラミックシンチレータ1の検出感度を低下させる。
【0029】
異相や気孔等の焼結体内での体積比率は0.5%以下とすることが好ましく、さらには0.1%以下とすることが望ましい。また、焼結体の体色は透明性を維持し得る範囲であればよく、必ずしも無色透明である必要はない。アルカリ金属元素量およびリン量を上記した範囲内に制御することによって、優れた透光性を有する酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を再現性よく得ることができる。そして、このような酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体によれば、高純度・高密度でかつ透明性に優れるという特性(透光性)に基づいて、酸硫化ルテチウム蛍光体が本来有する高発光率特性を十分に生かして、セラミックシンチレータ1の高光出力化並びに高感度化を図ることが可能となる。
【0030】
この実施形態のセラミックシンチレータ1は、後述するようなX線CT装置のX線検出器におけるX線検出素子等に使用されるものである。特に、高解像度化を実現するためにX線検出素子をより一層小型化したX線CT装置に好適である。すなわち、X線CT装置の解像度を高めるためには、シンチレータを微細化してチャンネル数を増加させる必要がある。そして、微細形状に加工したシンチレータで高感度特性を得るためには、単位面積当りのX線吸収率もしくは発光効率を高めることが重要となる。
【0031】
上記したような特性が求められるシンチレータに対して、この実施形態のセラミックシンチレータ1はX線吸収係数が大きく、微細加工した場合においても十分な光出力が得られる酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を適用している。さらに、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体に高純度・高密度で透明性に優れるという特性を付与している。従って、図1に示したように、X線2の照射面1aを微細化したセラミックシンチレータ1に好適である。このようなセラミックシンチレータ1を使用することによって、高解像度化したX線CT装置等を実現することが可能となる。
【0032】
上述したセラミックシンチレータ1は、例えばX線照射面1aの形状を、幅W0.1〜1.0mm×長さL0.1〜3.0mmというような微小形状とする場合に好適である。言い換えると、この実施形態の酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を適用することによって、上記したような微小形状のセラミックシンチレータ1であっても、十分な光出力を得ることができる。なお、セラミックシンチレータ1の厚さtはX線2の照射量や照射強度等に応じて適宜に設定される。厚さtは例えば1.0〜2.0mmの範囲とすることが好ましい。
【0033】
この実施形態のセラミックシンチレータ1は、例えば以下のようにして作製される。すなわち、前述したアルカリ金属元素量およびリン量を制御した酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を焼結して、セラミックシンチレータ1となる酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を作製する。酸硫化ルテチウム蛍光体粉末中のアルカリ金属元素量およびリン量は、焼成後の洗浄条件(酸洗浄や水洗の処理回数等)により制御することができる。
【0034】
酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を焼結するにあたっては、ホットプレスやHIP等の公知の焼結法を適用することができる。特に、高密度の焼結体を容易に得ることが可能であることから、HIP法を適用して焼結工程を実施することが好ましい。HIP法を適用した焼結工程は、まず酸硫化ルテチウム蛍光体粉末をラバープレスで適当な形に成形した後、金属容器等に充填封入してHIP処理を施すことにより実施する。この際のHIP条件については、HIP温度は1400〜1600℃の範囲とすることが好ましい。また、HIP圧力は98MPa以上、HIP時間は1〜10時間とすることが好ましい。
【0035】
このような条件下でHIP処理を実施することによって、例えば相対密度(理論密度に対する比率)が99.5%以上、さらには99.8%以上の酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を再現性よく得ることができる。焼結体の相対密度が99.5%未満であると、セラミックシンチレータ1に求められる透光性や光出力等の特性を満足させることができない。なお、焼結体の相対密度はアルキメデス法により測定した値を示すものとする。酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体は、必要に応じてブレードソーやワイヤーソー等で所望形状に加工した後、セラミックシンチレータ1として使用される。
【0036】
次に、本発明の放射線検出器および放射線検査装置の実施形態について、図2および図3を参照して説明する。図2は本発明の放射線検出器の一実施形態としてのX線検出器の概略構成を示す図である。同図に示すX線検出器3は、前述した実施形態のセラミックシンチレータ1、すなわち酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるセラミックシンチレータ(シンチレータチップ)1を蛍光発生手段として有している。なお、前述したようにセラミックシンチレータ1は矩形棒状のシンチレータチップに限られるものでなく、例えば複数のセグメントを縦横方向に多数集積したシンチレータブロック等であってもよい。
【0037】
矩形棒状のセラミックシンチレータ1は、一面を除いて反射膜4で覆われている。そして、セラミックシンチレータ1の反射膜4で覆われていない面に、接着層5を介してシリコンフォトダイオード6のような光電変換素子が取り付けられている。なお、セラミックシンチレータ1として、複数のセグメントを多数集積したシンチレータブロックを用いる場合には、各セグメントに対応させてシリコンフォトダイオード等が配置される。
【0038】
上述したX線検出器3においては、セラミックシンチレータ1にX線が入射し、この入射したX線量に応じてセラミックシンチレータ1が発光する。セラミックシンチレータ1から放射された光はフォトダイオード6で検出される。すなわち、入射したX線量に基づいて発光する光の出力は、フォトダイオード6により電気的出力に変換された後、出力端子7から出力される。
【0039】
図3は本発明の放射線検査装置の一実施形態としてのX線CT装置の概略構成を示す図である。同図に示すX線CT装置10は、上述した実施形態の検出器構造を基本とするX線検出器3を有している。図3に示すX線検出器3は、被検者11の撮像部位を安置する円筒の内壁に沿って配置された複数のセラミックシンチレータ1を有している。図示を省略したフォトダイオードは、複数のセラミックシンチレータ1に対してそれぞれ接続されている。複数のセラミックシンチレータ1を有するX線検出器3が配置された円弧の略中心には、X線を出射するX線管12が配置されている。
【0040】
X線検出器3とX線管12との間には、固定された被検者11が配置される。X線検出器3とX線管12は、固定された被検者11を中心にして、X線による撮影を行いながら回転するように構成されている。このようにして、被検者11の画像情報が異なる角度から立体的に集められる。X線撮影により得られた信号(フォトダイオードにより変換された電気信号)はコンピュータ13で処理され、ディスプレイ14上に被検者画像15として表示される。被検者画像15は例えば被検者11の断層像である。
【0041】
X線CT装置10は、X線検出器3のセラミックシンチレータ1として、微細化した場合でも十分な光出力が得られる酸硫化ルテチウム蛍光体の高純度・高密度で透明性に優れた焼結体を適用している。このため、X線検出感度を低下させることなく、高解像度化のためのチャンネル数の増加に対応することができる。すなわち、X線画像の画質や精度等を維持しつつ、より一層の高解像度化を図ったX線CT装置10を実現することが可能となる。これらによって、X線CT装置10による医療診断能等は大幅に向上する。
【0042】
なお、本発明の放射線検査装置は、医療診断用のX線検査装置に限らず、工業用途のX線非破壊検査装置等に対しても適用可能である。本発明はX線非破壊検査装置による検査精度の向上等に対しても寄与するものである。
【0043】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【実施例1】
【0044】
まず、セラミックシンチレータの原料として、平均粒子径が15μmの酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末は、(Lu0.999Pr0.001OSの組成を有し、かつ質量比で45ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として12ppmのNaを含むものである。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を冷間静水圧プレス(CIP)により成形した。なお、酸硫化ルテチウム蛍光体粉末のリンおよびアルカリ金属元素の含有量は、前述したように酸硫化ルテチウム蛍光体の焼成後の洗浄条件により制御した。以下の実施例および比較例も同様である。
【0045】
上記した成形体をTa製カプセル中に密封した後、これをHIP処理装置にセットした。HIP処理装置にArガスを加圧媒体として封入し、温度1600℃、圧力200MPa、処理時間3hrの条件下でHIP処理を行った。HIP焼結体の相対密度は99.8%であった。このようなHIP焼結体を長さ3mm×幅1mm×厚さ1.5mmの形状に加工して、目的とするセラミックシンチレータ(シンチレータチップ)を作製した。シンチレータチップのP含有量とNa含有量を測定したところ、それぞれ16ppm、11ppmであった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【実施例2】
【0046】
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.999Pr0.001Sの組成を有し、かつ質量比で45ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として16ppmのKを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は16ppm、K含有量は13ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【実施例3】
【0047】
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.999Pr0.001Sの組成を有し、かつ質量比で45ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として15ppmのLiを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は16ppm、Li含有量は13ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【実施例4】
【0048】
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.999Pr0.001Sの組成を有し、かつ質量比で21ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として8ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は6ppm、Na含有量は6ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【実施例5】
【0049】
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.999Pr0.001Sの組成を有し、かつ質量比で85ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として12ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は37ppm、Na含有量は11ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【実施例6】
【0050】
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.95Eu0.05Sの組成を有し、かつ質量比で45ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として12ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は16ppm、Na含有量は11ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【実施例7】
【0051】
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.99Tb0.01Sの組成を有し、かつ質量比で45ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として12ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は16ppm、Na含有量は11ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【0052】
比較例1
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.999Pr0.001Sの組成を有し、かつ質量比で105ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として12ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は49ppm、Na含有量は11ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【0053】
比較例2
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.999Pr0.001Sの組成を有し、かつ質量比で45ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として69ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は16ppm、Na含有量は54ppm、相対密度は99.8%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【0054】
比較例3
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.999Pr0.001Sの組成を有し、かつ質量比で5ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として3ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は3ppm、Na含有量は2ppm、相対密度は99.2%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【0055】
比較例4
セラミックシンチレータの原料として、(Lu0.95Eu0.05Sの組成を有し、かつ質量比で45ppmのPを含むと共に、アルカリ金属元素として69ppmのNaを含む酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用意した。この酸硫化ルテチウム蛍光体粉末を用いる以外は、上記した実施例1と同一条件の成形およびHIP処理によって、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体からなるシンチレータチップを作製した。このシンチレータチップのP含有量は16ppm、Na含有量は54ppm、相対密度は99.6%であった。このようなセラミックシンチレータを後述する特性評価に供した。
【0056】
上記した実施例1〜7および比較例1〜4による各セラミックシンチレータを用いて、図2に示したX線検出器3をそれぞれ構成した。そして、管電圧が120kVpのX線を照射した際のX線検出感度(光出力)を測定した。X線の検出感度は、(Gd0.999Pr0.001)OS組成を有し、かつ形状が長さ3mm×幅1mm×厚さ2mmのセラミックシンチレータ(シンチレータチップ)を比較試料として用い、この比較試料の光出力を100とした場合の相対値として求めた。X線の検出感度(光出力)を表1に示す。
【0057】


【0058】
表1から明らかなように、実施例1〜7による酸化ルテチウム製セラミックシンチレータは、いずれも従来の酸化ガドリニウム製セラミックシンチレータに比べて光出力に優れていることが分かる。一方、リンおよびアルカリ金属元素の少なくとも一方の含有量が本発明の範囲を超える酸化ルテチウム製セラミックシンチレータ(比較例1、2、4)は、いずれも光出力が劣っている。これは酸化ルテチウム蛍光体の焼結体が茶色に着色していたためである。また、リンおよびアルカリ金属元素の含有量が本発明の範囲未満の酸化ルテチウム製セラミックシンチレータ(比較例3)も光出力が劣っている。これは酸化ルテチウム蛍光体の焼結体の密度が低く、これにより焼結体内部で光が散乱したためである。
【実施例8〜14】
【0059】
表2に示すPr組成、P含有量、アルカリ元素含有量を有する(Lu1−aPrS蛍光体の焼結体を、それぞれ実施例1と同様にして作製した。焼結体中のP含有量およびアルカリ元素含有量は、原料粉末中のP量やアルカリ元素量等に基づいて制御した。これら各焼結体の相対密度は表2に示す通りである。このような酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を用いてシンチレータチップ(実施例1と同一形状)を作製し、それぞれ実施例1と同様にしてX線の検出感度(光出力/比較試料の光出力を100とした場合の相対値)を測定した。これらの測定結果を表2に併せて示す。
【0060】

【実施例15〜25】
【0061】
表3に示すEu組成、P含有量、アルカリ元素含有量を有する(Lu1−aEuS蛍光体の焼結体を、それぞれ実施例1と同様にして作製した。焼結体中のP含有量およびアルカリ元素含有量は、原料粉末中のP量やアルカリ元素量等に基づいて制御した。これら各焼結体の相対密度は表3に示す通りである。このような酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を用いてシンチレータチップ(実施例1と同一形状)を作製し、それぞれ実施例1と同様にしてX線の検出感度(光出力/比較試料の光出力を100とした場合の相対値)を測定した。これらの測定結果を表3に併せて示す。
【0062】


【実施例26〜36】
【0063】
表4に示すTb組成、P含有量、アルカリ元素含有量を有する(Lu1−aTbS蛍光体の焼結体を、それぞれ実施例1と同様にして作製した。焼結体中のP含有量およびアルカリ元素含有量は、原料粉末中のP量やアルカリ元素量等に基づいて制御した。これら各焼結体の相対密度は表4に示す通りである。このような酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を用いてシンチレータチップ(実施例1と同一形状)を作製し、それぞれ実施例1と同様にしてX線の検出感度(光出力/比較試料の光出力を100とした場合の相対値)を測定した。これらの測定結果を表4に併せて示す。
【0064】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体が適量のアルカリ金属元素およびリンを含有していることに基づいて、高純度・高密度で透明性に優れたセラミックシンチレータを提供することができる。本発明のセラミックシンチレータは、酸硫化ルテチウム蛍光体が本来有する高発光効率等の特性を十分に発揮させることを可能にしたものであり、これによって小型化した場合においても光出力ひいてはX線検出感度を向上させることができる。このようなセラミックシンチレータを用いた放射線検出器および放射線検出装置は、放射線検査画像のより一層の高解像度化等を実現するものであり、これにより例えば医療診断や工業用非破壊検査の高精度化等に大きく寄与する。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種の元素を付活剤として含有する酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体を具備するセラミックシンチレータであって、
前記酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体は5ppm以上15ppm以下の範囲のアルカリ金属元素と5ppm以上40ppm以下の範囲のリンとを含有することを特徴とするセラミックシンチレータ。
【請求項2】
請求項1記載のセラミックシンチレータにおいて、
前記酸硫化ルテチウム蛍光体は、
一般式:(Lu1−a
(式中、MはPr、TbおよびEuから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.0001≦a≦0.2を満足する数である)
で実質的に表される組成を有することを特徴とするセラミックシンチレータ。
【請求項3】
請求項1記載のセラミックシンチレータにおいて、
前記酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体はLi、KおよびNaから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を含有することを特徴とするセラミックシンチレータ。
【請求項4】
請求項1記載のセラミックシンチレータにおいて、
前記酸硫化ルテチウム蛍光体の焼結体は99.5%以上の相対密度を有することを特徴とするセラミックシンチレータ。
【請求項5】
請求項1記載のセラミックシンチレータにおいて、
放射線の照射面の形状が幅0.1〜1.0mm×長さ0.1〜3.0mmであることを特徴とするセラミックシンチレータ。
【請求項6】
請求項1記載のセラミックシンチレータを具備し、入射した放射線に応じて前記セラミックシンチレータを発光させる蛍光発生手段と、
前記蛍光発生手段からの光を受けて、前記光の出力を電気的出力に変換する光電変換手段と
を具備することを特徴とする放射線検出器。
【請求項7】
被検体に向けて放射線を照射する放射線源と、
前記被査体を透過した放射線を検出する、請求項6記載の放射線検出器と
を具備することを特徴とする放射線検査装置。
【請求項8】
請求項7記載の放射線検査装置において、
X線CT装置であることを特徴とする放射線検査装置。

【国際公開番号】WO2005/028591
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514114(P2005−514114)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013888
【国際出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】