説明

セラミックスヒーター及びその製造方法

【課題】 予め抵抗値を低く製造する必要がなく、低い方へ調整が可能なセラミックスヒーター及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 高温熱処理により、セラミックス基材に設けられた導電性発熱体の抵抗値が調整されたものであることを特徴とする。高温熱処理の温度が1000〜2200℃であること、、抵抗値が0.1〜20%の範囲で下方に調整されること、導電性発熱体が、熱分解黒鉛、硼素含有熱分解黒鉛、珪素含有熱分解黒鉛のいずれかであること、セラミックス基材が、酸化物セラミックス、窒化物セラミックスもしくは、酸化物膜あるいは窒化物膜等の絶縁層で覆った耐熱基材であること、がそれぞれ好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造工程におけるCVD装置やスパッタ装置、又は、生成薄膜をエッチングするエッチング装置等に使用される、被加熱物である半導体ウェハを加熱するためのセラミックスヒーター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程における半導体ウェハの加熱に使用されるヒーターとしては、酸化物セラミックス、窒化物セラミックスもしくは、酸化物膜、窒化物膜等の絶縁層で覆った耐熱基材の上にニッケル、クロム、タンタル、モリブデン、タングステン、白金等の金属や、炭化珪素、熱分解黒鉛等の導電性セラミックス薄膜から成る発熱体パターンを形成したセラミックスヒーターが用いられてきた。
【0003】
発熱体パターンの形成は、スクリーン印刷等の方法を用いた塗布法により抵抗発熱体を形成する方法や、スパッタリング等の物理的蒸着法やめっき法を用いて抵抗発熱体を形成する方法、また、化学的蒸着法を用いて抵抗発熱体を形成する方法があった。
塗布法により抵抗発熱体を形成する方法では、基板の表面にスクリーン印刷等の方法を用いて発熱体パターンを形成するが、印刷の厚さがばらつくため、形成した抵抗発熱体の抵抗値にばらつきが発生し、ヒーターの温度分布の対称性が悪くなるという問題を抱えていた。
【0004】
スパッタリング等の物理的蒸着法、めっき法、化学的蒸着法を用いて抵抗発熱体を形成する方法では、まずこれらの方法により、厚さのばらつきの少ない金属層または導電性セラミックス層などを基板の表面に形成する。その後、エッチング処理やサンドブラスト処理を施すこと、またはレーザー加工を施すこと(例えば、特許文献1を参照)、で発熱体をトリミングして、より温度分布の対称性の良い発熱体パターンを形成することが行われてきた。しかし、このように発熱体をトリミングすることで、発熱パターンの厚さや幅が減少し、目標とする抵抗値よりも大きな値となってしまうことがある。
【0005】
実際にヒーターを使用する上で、電源や配線には定格電圧や定格電流が決まっているために、抵抗値をある範囲に収めなければ(目標とする抵抗値からのズレが大きいと)、予め用意された電源装置では加熱に必要な十分なパワーを投入できず、所定の目標とする温度まで加熱が出来ないこともあり得る。
このため、まず目標の抵抗値よりも小さくなるように発熱パターンを作製し、その後、トリミングすることによって、抵抗値のばらつきによる温度分布の調整や目標とする抵抗値に合わせる調整を行っていた(特許文献2参照)。
【0006】
サンドブラスト処理、エッチング処理、レーザー加工により、発熱体をトリミングすることで、抵抗値のばらつきの調整や抵抗値を上げる調整はできても、逆に下げる調整は困難であった。そのため、目標の抵抗値を得られるよう、発熱体パターンの抵抗値を予め低くしておく必要があった。
【0007】
【特許文献1】特開2006−54125号公報
【特許文献2】特許第3952875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みて、予め抵抗値を低く製造する必要がなく、低い方へ調整が可能なセラミックスヒーター及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のセラミックスヒーターは、セラミックス基材の内部もしくは表面に導電性発熱体を設けたセラミックスヒーターにおいて、高温熱処理により、該導電性発熱体の抵抗値が調整されたものであることを特徴とする。前記高温熱処理の温度が、1000〜2200℃の範囲であること、前記抵抗値が0.1〜20%の範囲で下方に調整されたものであること、前記導電性発熱体が、熱分解黒鉛、硼素含有熱分解黒鉛、珪素含有熱分解黒鉛のいずれかであること、前記セラミックス基材が、酸化物セラミックス、窒化物セラミックスもしくは、酸化物膜あるいは窒化物膜等の絶縁層で覆った耐熱基材であること、がそれぞれ好ましい。
【0010】
また、本発明のセラミックスヒーターの製造方法は、セラミックス基材の内部もしくは表面に導電性発熱体を設けるセラミックスヒーターの製造方法において、高温熱処理を施すことで、該導電性発熱体の抵抗値を調整すること特徴とする。該導電性発熱体の前記高温熱処理が、絶縁性保護層の形成処理工程と連続的もしくは同時に実施されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セラミックス基材の内部もしくは表面に導電性発熱体を設けたセラミックスヒーターにおいて、1000〜2200℃の範囲で高温熱処理を施すことで、抵抗値を0.1〜20%下方に調整できるようになるので、導電性発熱体を設けるに際して、予めその抵抗値が小さくなるようにすることが必ずしも必要でなく、導電性発熱体の材料を過剰に用いる必要がなくなり、かつ、導電性発熱体を形成するためのコストも低下させることができる。
また、その高温熱処理工程を絶縁性セラミックス保護層の形成と連続的もしくは同時に行えるため、余分な工程が増えることもなく、所望する抵抗値のヒーターが容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、導電性発熱体に高温熱処理を施すことで、導電性発熱体の結晶性、配向性、結晶子サイズ、密度などの諸特性が変化することにより抵抗値が変わることを見出した。
そこで、本発明者らは、事前に導電性発熱体に複数の条件で高温熱処理を実施し、この抵抗値変化を測定しておき、これを基に、導電性発熱体(パターン)を形成し、その抵抗値を確認した後に、熱処理条件を設定し、該熱処理を実施することで、所望の抵抗値を得ることが可能となることを確かめた。
また、これらの熱処理は、導電性発熱体の上に絶縁性確保のために行われる絶縁性保護膜の形成処理の工程と連続処理もしくは同時に処理することが可能なことも確認した。
【0013】
以下、本発明のセラミックスヒーター及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明によれば、セラミックス基材の内部もしくは表面に導電性発熱体を設けたセラミックスヒーターを、高温熱処理を施すことで、導電性発熱体の結晶性、配向性、結晶子サイズ、密度などの諸特性を変化させ、それによって導電性発熱体の抵抗値を調整する。
抵抗値が変化するのは、スクリーン印刷法やスパッタリング法、めっき法、CVD法により作製(形成)された導電性発熱体において、熱処理を施すことで、「非晶質から結晶質に結晶性が変化し、抵抗が下がる」、「結晶の配向性が変化して異方性が大きくなることで、電子がその方向に流れやすくなり、抵抗が下がる」、「粒子間で焼結が起こり、結晶子サイズが大きくなることで、粒子界面での抵抗が下がること」などによるものと考えられる。
特に、CVD法により作製された熱分解黒鉛発熱体においては、その成膜時の温度経歴が変化することで、結晶配向性が大きく異なるため、電気比抵抗も異なってくる。
【0014】
このため、作製(形成)後に熱処理することによっても、配向性が変化して異方性が大きくなることで、抵抗が下がることも十分考えられる。上記したような抵抗変化は、熱分解黒鉛のみでなく、他の金属材料においても十分に起こりうることであると考えられる。
その熱処理は、作製(形成)された導電性発熱体の抵抗値が経験等で事前に予測が可能となっていれば、絶縁性セラミックス保護層の形成時に同時に行うこともできるため、余分な工程を増やすことなく、抵抗を下げる調整ができる。
【0015】
高温熱処理の温度は1000〜2200℃の範囲である。本発明で挙げる導電性発熱体の材料は、この下限温度より低い温度域では、抵抗値はほとんど変化しない。
また、高い温度域では、セラミックス基材と導電性発熱体、導電性発熱体と絶縁性セラミックス保護層の間で、熱膨張の差に起因して、そこで生じる熱応力によって両者が剥がれてしまったりするため、温度は1000〜2200℃の範囲であることが好ましい。
さらに、高温における熱応力負荷を低減することや、絶縁性セラミックス保護層を形成することも考慮すると、温度範囲は1500〜2000℃であることがより好ましい。
【0016】
そして、この温度範囲1000〜2200℃における抵抗変化率は、0.1〜20%程度である。
導電性発熱体は、熱分解黒鉛、硼素含有熱分解黒鉛、珪素含有熱分解黒鉛であることが、高温熱処理に耐えうることができ、その熱処理によって結晶性、配向性、結晶子サイズ、密度などの諸特性が変化し、抵抗値が変化するため好ましい。
セラミックス基材については、石英、アルミナなどの酸化物セラミックス、窒化アルミニウム、窒化珪素などの窒化物セラミックス、もしくは、酸化物膜あるいは窒化物膜等の絶縁層で覆った導電性の耐熱基材(例えばCや金属元素を含む基材)などが、抵抗調整の高温熱処理に耐えうることができ、かつ導電性発熱体との熱膨張差が小さいものを選択することが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下の予備実験、実施例では、図1に示すセラミックスヒータを作製した。図1において、1はセラミックス基材、2は導電性発熱体、3は絶縁性セラミックス保護層である。
[予備実験1]
厚さ2mmの熱分解窒化硼素基材に、メタンガスを1500℃、50Torrの真空条件下で熱分解して、厚さ100μmの熱分解黒鉛層を形成し、発熱パターンの加工を行った。
この熱分解黒鉛から成る発熱パターンの抵抗値を四端子法により測定したところ、8.56Ωであった。その後、900〜2300℃の、表1に示すそれぞれの温度において、50Torrの真空条件下で2時間の高温熱処理を行った後に、アンモニアと三塩化硼素とメタンガスを、1800℃、100Torrの真空条件下で反応させて、厚さ100μmの炭素含有熱分解窒化硼素絶縁層を形成し、セラミックスヒーターを作製した。
その後、再度発熱パターンの抵抗値を四端子法により測定したところ、それぞれの熱処理温度における抵抗値は、8.56〜6.74Ωであった。これら抵抗値の変化の測定結果を表1に記載する。
熱処理温度が900℃以下においては、抵抗値の変化はほとんどなかった。
また、2300℃以上においては、パターンの一部が剥離したことが確認された。
【0018】
【表1】

【0019】
[実施例1]
この予備実験1を参考として、セラミックスヒーターを作製した。
上記の予備実験1と同様に、厚さ2mmの熱分解窒化硼素基材に熱分解黒鉛層を形成し、発熱パターンの加工を行った。
この熱分解黒鉛から成る発熱パターンの抵抗値を四端子法により抵抗値を測定したところ、8.03Ωであった。目標とする抵抗値を7.10Ω(抵抗変化率11.6%目標)として、その後の高温熱処理を1800℃で行った。
1800℃の温度において、50Torrの真空条件下で2時間の高温熱処理を行った後に、アンモニアと三塩化硼素とメタンガスを、1800℃、100Torrの真空条件下で反応させて、厚さ100μmの炭素含有熱分解窒化硼素絶縁層を形成し、セラミックスヒーターを作製した。
その後、再度発熱パターンの抵抗値を四端子法により測定したところ、7.15Ω(抵抗変化率11.0%)であり、目標値7.10Ωに近い抵抗値を得ることができた。
【0020】
[予備実験2]
厚さ2mmの熱分解窒化硼素基材に三塩化硼素とメタンガスを1500℃、50Torrの真空条件下で熱分解して、厚さ100μmの硼素含有熱分解黒鉛層を形成し、この硼素含有熱分解黒鉛から成る発熱パターンの抵抗値を四端子法により抵抗値を測定したところ、7.89Ωであった。
その後、予備実験1と同様にして、セラミックスヒーターを作製し、表2に示すそれぞれの温度における熱処理による変化した抵抗値は、7.89〜6.14Ωであった。
その抵抗値変化の結果を表2に記載する。
熱処理温度が900℃以下においては、抵抗値の変化はほとんどなかった。また、2300℃以上においては、パターンの一部が剥離したことが確認された。
【0021】
【表2】

【0022】
[実施例2]
この予備実験2を参考として、セラミックスヒーターを作製した。
上記の予備実験2と同様に、厚さ2mmの熱分解窒化硼素基材に厚さ100μmの硼素含有熱分解黒鉛層を形成し、発熱パターンの加工を行った。この硼素含有熱分解黒鉛から成る発熱パターンの抵抗値を四端子法により抵抗値を測定したところ、7.12Ωであった。
目標とする抵抗値を6.65Ω(抵抗変化率6.6%目標)として、その後の高温熱処理を1500℃で行った。1500℃の温度において、50Torrの真空条件下で2時間の高温熱処理を行った後に、アンモニアと三塩化硼素とメタンガスを、1800℃、100Torrの真空条件下で反応させて、厚さ100μmの炭素含有熱分解窒化硼素絶縁層を形成し、セラミックスヒーターを作製した。
その後、再度発熱パターンの抵抗値を四端子法により測定したところ、6.55Ω(抵抗変化率8.0%)であり、目標値6.65Ωに近い抵抗値を得ることができた。
【0023】
なお、本実施例では、導電性発熱体に熱分解黒鉛、硼素含有熱分解黒鉛を用いた例のみ示したが、珪素含有熱分解黒鉛においても同様の結果が得られた。
また、セラミックス基材では、熱分解窒化硼素以外のアルミナ、窒化アルミニウム基材においても、高温熱処理による導電性発熱体の抵抗変化が生じることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるセラミックスヒーターを示した説明模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1: セラミックス基材
2: 導電性発熱体
3: 絶縁性セラミックス保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材の内部もしくは表面に導電性発熱体を設けたセラミックスヒーターにおいて、高温熱処理により、該導電性発熱体の抵抗値が調整されたものであることを特徴とするセラミックスヒーター。
【請求項2】
前記高温熱処理の温度が、1000〜2200℃の範囲である請求項1に記載のセラミックスヒーター。
【請求項3】
前記抵抗値が0.1〜20%の範囲で下方に調整されたものである請求項1または請求項2に記載のセラミックスヒーター。
【請求項4】
前記導電性発熱体が、熱分解黒鉛、硼素含有熱分解黒鉛、珪素含有熱分解黒鉛のいずれかである請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセラミックスヒーター。
【請求項5】
前記セラミックス基材が、酸化物セラミックス、窒化物セラミックスもしくは、酸化物膜あるいは窒化物膜等の絶縁層で覆った耐熱基材である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のセラミックスヒーター。
【請求項6】
セラミックス基材の内部もしくは表面に導電性発熱体を設けるセラミックスヒーターの製造方法において、高温熱処理を施すことで、該導電性発熱体の抵抗値を調整することを特徴とするセラミックスヒーターの製造方法。
【請求項7】
該導電性発熱体の前記高温熱処理が、絶縁性保護層の形成処理工程と連続的もしくは同時に実施される請求項6に記載のセラミックスヒーターの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−301796(P2009−301796A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153274(P2008−153274)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】