説明

セラミックトレイ製造方法およびセラミックトレイ

【課題】本発明の課題は、より安全でより耐熱温度の高いトレイを製造することにある。
【解決手段】本発明に係るセラミックトレイ製造方法は、準備工程および塗布工程を備える。準備工程では、カーボンセラミックス製のトレイ基材が準備される。塗布工程では、トレイ基材の少なくとも内面に、窒化硼素を主成分とするコーティング剤が所定の厚さに塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックトレイ製造方法およびセラミックトレイに関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「金属製のトレイ基材にセラミックコーティング層を形成したトレイ」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−259524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、従前よりも安全でより耐熱温度の高いトレイを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1発明に係るセラミックトレイ製造方法は、準備工程および塗布工程を備える。準備工程では、カーボンセラミックス製のトレイ基材が準備される。塗布工程では、トレイ基材の少なくとも内面に、窒化硼素を主成分とするコーティング剤が所定の厚さに塗布される。
【0005】
このため、このセラミックトレイ製造方法を採用すれば、カーボンセラミックスに窒化硼素がコーティングされた絶縁性のトレイが得られる。したがって、このセラミックトレイ製造方法により製造されるセラミックトレイは、誘電加熱コイル内において従前よりも安全である。また、窒化硼素は耐熱温度が1800℃と非常に高い。よって、このセラミックトレイ製造方法により製造されるセラミックトレイは、従前よりも耐熱温度が高い。
【0006】
第2発明に係るセラミックトレイ製造方法は、第1発明に係るセラミックトレイ製造方法であって、塗布工程では、コーティング剤がスプレー塗装によりトレイ基材の少なくとも内面に塗布される。
【0007】
このため、このセラミックトレイ製造方法を採用すれば、トレイ基材に対して窒化硼素を薄く均一に塗布することができる。
【0008】
第3発明に係るセラミックトレイ製造方法は、第1発明又は第2発明に係るセラミックトレイ製造方法であって、コーティング剤には、リン酸アルミニウムが含まれている。そして、塗布処理では、トレイ基材の表面温度が75℃以上150℃以下である状態でコーティング剤が塗布される。
【0009】
本願発明者が水、窒化硼素およびリン酸アルミニウムを成分として含有するコーティング剤を、表面温度が75℃以上150℃以下であるトレイ基材に塗布したところ、トレイ基材上に非常に強固な窒化硼素コーティング層を形成することができた。したがって、このセラミックトレイ製造方法を採用すれば、カーボンセラミックス製のトレイ基材上に非常に強固な窒化硼素コーティング層を形成することができる。
【0010】
第4発明に係るセラミックトレイは、カーボンセラミック製のトレイ基材および窒化硼素を主成分とする塗膜を備える。塗膜は、トレイ基材の少なくとも内面にコーティングされる。
【0011】
このため、このセラミックトレイは、誘電加熱コイル内において従前よりも安全である。また、窒化硼素は耐熱温度が1800℃と非常に高い。よって、このセラミックトレイは、従前よりも耐熱温度が高い。
【0012】
第5発明に係るセラミックトレイは、第4発明に係るセラミックトレイであって、塗膜は、最高耐熱温度が1800℃である。
【発明の効果】
【0013】
第1発明に係るセラミックトレイ製造方法を採用すれば、カーボンセラミックスに窒化硼素がコーティングされた絶縁性のトレイが得られる。したがって、このセラミックトレイ製造方法により製造されるセラミックトレイは、誘電加熱コイル内において従前よりも安全である。また、窒化硼素は耐熱温度が1800℃と非常に高い。よって、このセラミックトレイ製造方法により製造されるセラミックトレイは、従前よりも耐熱温度が高い。
【0014】
第2発明に係るセラミックトレイ製造方法を採用すれば、トレイ基材に対して窒化硼素を薄く均一に塗布することができる。
【0015】
第3発明に係るセラミックトレイ製造方法を採用すれば、カーボンセラミックス製のトレイ基材上に非常に強固な窒化硼素コーティング層を形成することができる。
【0016】
第4発明に係るセラミックトレイは、誘電加熱コイル内において従前よりも安全である。また、窒化硼素は耐熱温度が1800℃と非常に高い。よって、このセラミックトレイは、従前よりも耐熱温度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る誘導加熱装置1は、図1に示されるように、主に、予備加熱装置10、トレイ搬送装置30及び本加熱装置50から構成される。以下、各装置について詳述する。
【0018】
<誘導加熱装置の構成要素の詳細>
(1)予備加熱装置
予備加熱装置10は、図2に示されるように、主に、第1誘導加熱炉11a、第2誘導加熱炉11b、第3誘導加熱炉11c、第1プッシャー16、第1非接触式温度センサ19および第1制御装置18から構成されている。
【0019】
第1誘導加熱炉11a、第2誘導加熱炉11bおよび第3誘導加熱炉11cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第1誘導加熱炉11aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第3誘導加熱炉11cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉11a,11b,11cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第1誘導加熱炉11aについてのみ説明を行う。
【0020】
第1誘導加熱炉11aは、図2に示されるように、主に、外壁14a、内壁13aおよび誘導加熱コイル12aから構成されている。外壁14aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁13aは、外壁14aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁14aと同様に耐火物から形成されている。誘導加熱コイル12aは、内壁13a及び外壁14aの間に位置し、内壁13aを囲うように設けられている。また、この誘導加熱コイル12aは、第1制御装置18に接続されており、第1制御装置18によって出力調整される。
【0021】
第1プッシャー16は、いわゆる油圧シリンダであって、第1金属ビレット設置台15に取り付けられており、一定時間おきに第3誘導加熱炉11cに向かって金属ビレットWKを押し出す。この結果、金属ビレットWKは、第1誘導加熱炉11aに投入された後に第3誘導加熱炉11cから順次排出される。なお、第3誘導加熱炉11cから排出された金属ビレットWKは、図3に示されるトレイTRに載せられた後、トレイ搬送装置30により本加熱装置50に送られる。なお、トレイTRは、金属ビレットWKが第3誘導加熱炉11cから排出される前にトレイ搬送装置30によってトレイ設置台17に置かれる。
【0022】
第1非接触式温度センサ19は、第3誘導加熱炉11cの排出口付近に取り付けられており、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第1制御装置18に送られた後、A/D変換されてデータ化され(以下、このデータを「表面温度データ」という)、第1制御装置18の記憶部に蓄積される。なお、誘導加熱コイル12a,12b,12cのフィードバック制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第1制御装置18の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。
【0023】
第1制御装置18は、金属ビレットWKの表面温度データが常に設定値以下となるように誘導加熱コイル12a,12b,12cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定値は、金属ビレットWKの変態点よりも低く設定されている。
【0024】
(2)トレイ搬送装置
トレイ搬送装置30は、いわゆるアームロボットであって、二本の爪をトレイTRの両脇に差し込んでトレイTRを持ち上げて移動させる。なお、本実施の形態において、トレイ搬送装置30は、空のトレイTRを予備加熱装置10のトレイ設置台17に置く第1動作と、金属ビレットWKが載ったトレイTRをトレイ設置台17から本加熱装置50の第2金属ビレット設置台55(図4参照)に移動させる第2動作とを繰り返す。
【0025】
なお、本実施の形態において、トレイTRは、カーボンセラミック製の基材と、基材表面のうち金属ビレットWKと接触する可能性のある表面に形成される耐熱性コーティング膜とから形成されている。このようなトレイTRは、カーボンセラミック製の基材の上に、窒化硼素、リン酸アルミニウムおよび水から成る水性コーティング剤を塗布して乾燥させることによって得られる。なお、このような水性コーティング剤の例としては、TopSpin Design Co.(台湾企業)製のTSDボロンナイトライドサーマルコーティング Blue Version(最高耐熱温度:1800℃)等が挙げられる。また、水性コーティング剤はスプレー塗装により均一に基材に塗布するのが好ましい。また、かかる場合、基材の表面温度を75℃以上150℃以下にした状態で塗装を行うのが好ましい。
【0026】
(3)本加熱装置
本加熱装置50は、図4に示されるように、主に、第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51b、第6誘導加熱炉51c、第2プッシャー56、ガイドレール57、第2非接触式温度センサ59および第2制御装置58から構成されている。
【0027】
第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51bおよび第6誘導加熱炉51cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第4誘導加熱炉51aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第6誘導加熱炉51cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉51a,51b,51cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第4誘導加熱炉51aについてのみ説明を行う。なお、第6誘導加熱炉51cは、主に均熱処理のために設けられている。
【0028】
第4誘導加熱炉51aは、図4に示されるように、主に、外壁54a、内壁53aおよび誘導加熱コイル52aから構成されている。外壁54aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁53aは、外壁54aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁54aと同様に耐火物から形成されている。なお、第4誘導加熱炉54aの外壁54a及び内壁53aは、金属ビレットWKを載せたトレイTRが通過できるように第1誘導加熱炉11aのそれよりも径が大きく設計されている。誘導加熱コイル52aは、内壁53a及び外壁54aの間に位置し、内壁53aを囲うように設けられている。なお、この誘導加熱コイル52aもまた上記の事情により第1誘導加熱炉11aの誘導加熱コイル12aよりも径が大きく設計されている。また、この誘導加熱コイル52aは、第2制御装置58に接続されており、第2制御装置58によって出力調整される。
【0029】
第2プッシャー56は、いわゆる油圧シリンダであって、第2金属ビレット設置台55に取り付けられており、一定時間おきに第6誘導加熱炉51cに向かって金属ビレットWKを載せたトレイTRを押し出す。この結果、金属ビレットWKを載せたトレイTRは、第4誘導加熱炉51aに投入された後に第6誘導加熱炉51cから順次排出される。なお、第6誘導加熱炉51cから排出された金属ビレットWKを載せたトレイTRは、図示しないアームロボットによって図示しない成形機に投入される。
【0030】
ガイドレール57は、ステンレス製の一対のレールであって、第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51bおよび第6誘導加熱炉51cの内壁53a,53b,53cの内部の下方に設置されている。トレイTRは、このガイドレール57に沿って第6誘導加熱炉51cに向かって移動する。
【0031】
第2非接触式温度センサ59は、第4誘導加熱炉51aの誘導加熱コイル52aと第5誘導加熱炉51bの誘導加熱コイル52bとの間、第5誘導加熱炉51bの誘導加熱コイル52bと第6誘導加熱炉51cの誘導加熱コイル52cとの間、および第6誘導加熱炉51cの排出口付近に取り付けられており(図4では排出口付近のもののみ表示されている)、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第2制御装置58に送られた後、A/D変換されてデータ化され、第2制御装置58の記憶部に蓄積される。なお、誘導加熱コイル52a,52b,52cのフィードバック制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第2制御装置58の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。
【0032】
第2制御装置58は、金属ビレットWKの表面温度データが常に設定範囲内となるように誘導加熱コイル52a,52b,52cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定範囲は、金属ビレットWKが半溶融状態となる温度範囲とされている。
【0033】
<制御装置における金属ビレットの表面温度データの演算処理>
制御装置18,58は、所定時間毎に記憶部から規定数の表面温度データを読み出し、その表面温度データのうち表面温度が最も高い表面温度データを抽出し、その表面温度データをフィードバック制御用の制御パラメータとして採用する。なお、本実施の形態では、規定数の表面温度データは、1つの金属ビレットWKから得られたものである。
【0034】
<誘導加熱装置の特徴>
(1)
本発明に係る誘導加熱装置1では、温度計測器具として非接触式温度センサ19,59が採用される。このため、この誘導加熱装置1では、成形加工工程において量産サイクルタイムを遵守して成形加工物の生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。
【0035】
(2)
本発明に係る誘導加熱装置1では、金属ビレットWKの複数点の表面温度が計測され、その表面温度の最大値をフィードバック制御用の制御パラメータとした。このため、この誘導加熱装置1では、金属ビレットWKが高温で加熱されて金属ビレットWKの所々の表面に酸化被膜が生じたとしても、金属ビレットWKの表面温度が正確に決定される。したがって、この誘導加熱装置1では、正確な温度測定を実現することができ、誘導加熱コイル12a,12b,12c,52a,52b,52cの安定した正確なフィードバック制御が可能となる。
【0036】
<トレイの特徴>
(1)
本実施の形態に係るトレイTRは、カーボンセラミック製の基材および窒化硼素を主成分とする耐熱性コーティング膜から形成されている。このため、このトレイTRは、誘電加熱コイル52a,52b,52c内において従前よりも安全である。また、窒化硼素は耐熱温度が1800℃と非常に高い。よって、このセラミックトレイは、従前よりも耐熱温度が高い。
【0037】
(2)
本実施の形態に係るトレイTRは、水性コーティング剤が基材にスプレー塗装されて形成される。このため、トレイTRには、窒化硼素が薄く均一に塗布されている。
【0038】
<変形例>
(A)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では予備加熱装置10および本加熱装置50においてそれぞれ3つの誘導加熱炉が用いられたが、誘導加熱炉の数は特に限定されず、3つよりも少なくてもよいし多くてもよい。
【0039】
(B)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では金属ビレットWKの複数点の表面温度データのうち表面温度が最大の表面温度データを制御パラメータとして採用したが、このような態様に代えて、複数点の表面温度データのうち高温側の表面温度データを所定割合(例えば70%)残し、その表面温度の平均値や、中央値、最小値などを制御パラメータとして採用してもかまわない。
【0040】
(C)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では特に言及しなかったが、金属ビレットWKがプッシャー16,56で押されている間のみ温度計測を行うようにしてもかまわない。
【0041】
(D)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では連続的に金属ビレットWKの温度計測が実施されたが、間欠的に金属ビレットWKの温度計測が実施されていてもよい。
【0042】
(E)
先の実施の形態では非接触式温度センサ19,59により金属ビレットWKの表面温度が計測されたが、接触式温度センサにより金属ビレットWKの内部温度が計測されてもよい。
【0043】
(F)
先の実施の形態では窒化硼素をコーティング剤として用いたが、耐熱性が1800℃以上のコーティング剤であれば、他のコーティング剤を採用してもかまわない。
【0044】
(G)
先の実施の形態ではスプレー塗装によりコーティング層が形成されたが、スプレー塗装以外のコーティング方法であっても、耐熱性が高いトレイTRを製造することができるのであれば、他のコーティング方法を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るセラミックトレイは、従前よりも安全でより耐熱温度が高いという特徴を有し、半溶融状態や、半凝固状態、液相状態まで誘電加熱される鉄やアルミニウムなどの金属を載せるトレイとして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る誘導加熱装置の簡易的な全体構成図である。
【図2】本発明に係る誘導加熱装置を構成する予備加熱装置の縦断面図である。
【図3】本発明に係る誘導加熱装置において用いられるトレイの外観斜視図である。
【図4】本発明に係る誘導加熱装置を構成する本加熱装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
TR トレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンセラミックス製のトレイ基材を準備する準備工程と、
前記トレイ基材の少なくとも内面に、窒化硼素を主成分とするコーティング剤を所定の厚さに塗布する塗布工程と
を備えるセラミックトレイ製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程では、前記コーティング剤がスプレー塗装により前記トレイ基材の少なくとも内面に塗布される
請求項1に記載のセラミックトレイ製造方法。
【請求項3】
前記コーティング剤には、リン酸アルミニウムが含まれており、
前記塗布処理では、前記トレイ基材の表面温度が75℃以上150℃以下である状態で前記コーティング剤が塗布される
請求項1又は2に記載のセラミックトレイ製造方法。
【請求項4】
カーボンセラミック製のトレイ基材と、
前記トレイ基材の少なくとも内面にコーティングされる、窒化硼素を主成分とする塗膜と
を備えるセラミックトレイ(TR)。
【請求項5】
前記塗膜は、最高耐熱温度が1800℃である
請求項4に記載のセラミックトレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−126384(P2010−126384A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301364(P2008−301364)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】