説明

セルラーシステム送信電力制御方法

【課題】 受信側の受信信号SIR(信号対干渉電力比)をターゲットSIRと比較し、その差及び大小関係に応じて送信側の送信電力を制御するセルラーシステム送信電力制御方法において、ターゲットSIRを適切に制御する方法を提供する。
【解決手段】 送信側の送信電力が、予め許容された範囲の内の最小のレベルであることを受信側で検知した際に、ターゲットSIRを変更する制御を無効とする。また、送信側の送信電力が予め許容された範囲の内の最小のレベルであるときに、最小レベルであることを示す情報を送信側から受信側に通知し、受信側で当該情報を受信することによって、最小レベル検知を行うこともできる。更に、受信側において受信SIRがターゲットSIRより高い状態が一定時間以上継続したことを検知することによって、最小レベル検知を行うこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルラーシステムにおける、受信側の受信信号SIR(信号対干渉電力比)をターゲットSIRと比較し、その差及び大小関係に応じて送信側の送信電力を制御する送信電力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルラーシステムの移動局と基地局との間は、無線リンクが双方向に接続されている。移動局と基地局との間の無線リンクの方式であるCDMA(Code Division Multiple Access,符号分割多元接続)方式を用いるCDMAセルラーシステムについて、一般に、全ての移動局は同一の周波数で信号(上り信号)を送信する。また、全ての基地局は同一の周波数で信号(下り信号)を送信する。但し、上り信号の周波数と下り信号の周波数とは異なり、即ちFDD(Frequency Division Duplex,時分割複信)方式が用いられている。
【0003】
上り又は下りそれぞれにおいて同一の周波数が使用されることから、ある移動局(又は基地局)から送信された信号は、他の信号にとっては干渉となる。送信電力が大きいほど干渉が大きくなるため、CDMAセルラーシステムにおいては、移動局・基地局とも送信電力制御を行うことにより、送信電力を必要最小限に抑えて干渉を低減させることが行われる(移動局の送信電力制御は上り送信電力制御と称され、基地局の送信電力制御は下り送信電力制御と称される)。
【0004】
移動局の送信電力制御を行う場合、基地局において当該移動局からの信号の受信SIRを測定し、その値が目標SIR(以下「ターゲットSIR」と称す)より大きい場合は、基地局は移動局に対して送信電力を下げるように指示する。逆に受信SIRがターゲットSIRより小さい場合は、基地局は移動局に対して送信電力を上げるように指示する。
【0005】
基地局の送信電力制御を行う場合も、移動局と基地局の役割が入れ替わるだけで移動局の送信電力制御の場合と同様の制御が行われる。
【0006】
以上のような送信電力制御は、受信SIRをほぼ一定にする働きがあるが、受信SIRが一定であってもフレーム誤り率又はビット誤り率などの通信品質は必ずしも一定になるとは限らない。そこで、フレーム誤り率又はビット誤り率をほぼ一定とするために、アウターループ制御と称される制御が用いられる。アウターループ制御においては、受信側で検知される通信品質(フレーム誤り率又はビット誤り率など)に基づいて、検知された通信品質が目標とする品質より悪い場合はターゲットSIRを増加させ、逆に検知された通信品質が目標とする品質より良い場合はターゲットSIRを減少させるという制御を行う。
【0007】
従来のアウターループ制御方法は、例えば文献「W-CDMA移動通信システムにおけるアウターループ送信電力制御の適用効果」(臼田ほか著,電子情報通信学会1998年総合大会,B-5-114,1998年3月)に示される方法がある。この方法によれば、指数重み付けによりフレーム誤り率(FER)を測定し、これを一定フレーム数毎にターゲットFER(目標とするFER)と比較し、その大小関係によってターゲットSIR(文献中では目標Eb/Ioに相当)を一定値(増減とも同じ値)だけ増減させる。この方法を部分的に変更した方法として、文献「W-CDMAにおけるアウターループを用いる適応送信電力制御の伝送実験特性」(樋口ほか著,電子情報通信学会1998年総合大会,B-5-92,1998年3月)に示されるように、一定フレーム数毎のフレーム誤り数をカウントすることによりフレーム誤り率の測定をするようにした方法もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、装置の機能的な制約などから、送信電力に下限がある場合がある。このとき例えば送信側の送信電力が下限値であるにも関わらず、受信側の受信SIRがターゲットSIRを上回りフレーム誤りが発生しない状況も考えられ、前述のようなアウターループ制御が行われているとターゲットSIRは際限なく減少することになる。その後、状況が変化してフレーム誤りが発生するようになったとき、ターゲットSIRは本来の所要SIRに比べて低い値となってしまっているため、アウターループ制御によってターゲットSIRが再び所要の値に回復するまでの間は、ターゲットFERに比べて高い確率でフレーム誤りが発生してしまう。
【0009】
従って、本発明は、前述したような課題に対処できる、セルラーシステム送信電力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセルラーシステム送信電力制御方法は、送信側の送信電力が、予め許容された範囲の内の最小のレベルであることを受信側で検知した際に、ターゲットSIRを変更する制御を無効とする方法である。
【0011】
本発明の他の実施形態によれば、送信側の送信電力が予め許容された範囲の内の最小のレベルであるときに、最小レベルであることを示す情報を送信側から受信側に通知し、受信側で当該情報を受信することによって、最小レベル検知を行うことも好ましい。
【0012】
本発明の他の実施形態によれば、受信側において受信SIRがターゲットSIRより高い状態が一定時間以上継続したことを検知することによって、最小レベル検知を行うことも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、送信電力が最小レベルであるときにターゲットSIRが必要以上に低下するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下では、図面を用いて、本発明によるセルラーシステム送信電力制御方法の実施形態を詳細に説明する。ここで、送信側/受信側は、セルラーシステムにおける基地局又は移動局を意味し、送信側が基地局の場合は、受信側は移動局となる。逆に、送信側が移動局の場合は、受信側は基地局となる。
【0015】
図1は、本発明におけるセルラーシステム送信電力制御方法を表すブロック図である。
【0016】
図1によれば、送信側にある送信部1と、受信側になる受信部2とから構成される。
【0017】
送信部1は、信号送信部10と、送信電力増減制御部11とを有する。一方、受信部2は、送信部1に対して送信電力制御部29を有し、受信部2の受信信号のSIRが、送信電力制御部29の外部から与えられるターゲットSIRの値に等しくなるように、送信側の送信電力を制御する。送信電力制御部29は、検波部291と、受信SIR測定部292と、SIR比較部293と、送信電力増減量決定部294とを有する。
【0018】
送信部1の信号送信部10からの送信信号は、受信部2の検波部291によって受信される。その受信信号は、検波部291から送信電力制御部29の外部に出力されると共に、受信SIR測定部292に入力される。受信SIR測定部292は、受信信号のSIRを測定する。SIR比較部293は、その測定された受信SIRを、送信電力制御部29の外部から入力されるターゲットSIRと比較する。その比較結果は、送信電力増減量決定部294へ通知される。送信電力増減量決定部294は、SIR比較結果(大小関係、差など)に基づいて送信側の送信電力の増減量を決定する。その送信電力増減量の情報は、送信部1へ送信される。
【0019】
送信部1は、送信電力増減制御部11によって、受信部2から送信された送信電力増減量の情報を受信する。その送信電力増減量に応じて信号送信部10の送信電力を増減させる。
【0020】
このような動作によって、送信部1からの受信信号のSIRが、送信電力制御部29の外部から与えられるターゲットSIRの値に等しくなるように、送信部1の送信電力が制御される。特に、本願発明は、このような送信電力制御部29に対して、適切なターゲットSIRを提供するように構成される。
【0021】
受信部2は、送信電力制御部29の他に、フレーム誤り検出部21と、フレーム誤りカウント部22と、しきい値判定部23と、ターゲットSIR増減量決定部24と、ターゲットSIR決定部26と、送信レベル最小検知部28とを更に有する。
【0022】
フレーム誤り検出部1は、送信電力制御部29から出力される受信信号について、フレーム毎のフレーム誤りを検出する。フレーム誤りの有無についての情報が、フレーム誤りカウント部21にフレーム毎に入力される。
【0023】
フレーム誤りカウント部22は、フレーム毎に入力される情報に基づいて、直前のNフレーム中のフレーム誤り数を常にカウントし、その値をMフレーム毎に出力する(N, Mはいずれも1以上の整数)。
【0024】
しきい値判定部23は、入力されるフレーム誤り数(nとする)を予め設定されたしきい値t1, t2(t1≧t2)と比較し、比較結果としてn≧t1であるか否か及びn≦t2であるか否かをターゲットSIR増減量決定部24に通知する。
【0025】
ターゲットSIR増減量決定部24は、n≧t1であることが伝えられた場合はターゲットSIR増減量を+S1と決定する。またn≦t2であることが伝えられた場合はターゲットSIR増減量を-S2と決定する。n≧t1、n≦t2のいずれでもないことが伝えられた場合はターゲットSIR増減量を0と決定する。このようにして決定されたターゲットSIR増減量は、ターゲットSIR決定部26へ通知される。
【0026】
ターゲットSIR決定部26は、ターゲットSIRの値を保持して常に出力する。ターゲットSIR決定部26は、ターゲットSIR増減量決定部24からターゲットSIR増減量が通知されたときに保持しているターゲットSIRをターゲットSIR増減量だけ増減させ、増減された後のターゲットSIRをその後保持して常に出力する。ターゲットSIR決定部6から出力されるターゲットSIRの値が、送信電力制御部29に入力され、前述したように受信SIRの目標値として用いられる。
【0027】
送信レベル最小検知部8は、送信側の送信電力が予め許容された範囲の内の最小のレベルであるか否かを検知する。最小レベルであることを検知したとき、ターゲットSIR決定部6におけるターゲットSIRの増減を行わないように指示する。ターゲットSIR決定部6は、送信レベル最小検知部8からターゲットSIRの増減を行わない指示を受けているときは、ターゲットSIR増減量が入力されても保持しているターゲットSIRの値を変更しない。
【0028】
送信レベル最小検知部8において、送信側の送信電力が予め許容された範囲の内の最小のレベルであるか否かを検知する方法としては、例えば送信電力が最小であるときにそのことを示す情報を送信する信号に含め、送信レベル最小検知部8において当該情報を検出することによって送信側の送信電力が最小であることを検知することができる。また別の方法としては、受信信号のSIRを監視し、受信SIRがターゲットSIRより高い状態が一定時間以上継続したときに送信側の送信電力が最小であることと判断することもできる。
【0029】
パラメータN, M, t1, t2は、任意の値を設定することが可能であり、場合によっては動作中に値を変更することも可能である。
【0030】
このような方法により、送信電力が最小レベルであるときにターゲットSIRが必要以上に低下するのを防ぐことができる。
【0031】
以上の説明においては、送信電力制御部29は、受信SIRがターゲットSIRに等しくなるように制御しているが、受信信号の信号電力(S)が目標とする信号電力値(ターゲットS)に等しくなるように制御する場合にも本発明を適用できる。その場合は、以上の説明において、SIRとしていた箇所をSと置き替えた内容が本発明により達成される。
【0032】
以上、詳細に説明した実施形態ではCDMAセルラーシステムを例にとり説明したが、CDMA以外の無線方式を用いたセルラーシステムへの適用(部分的適用も含む)において、本発明の技術思想及び見地の範囲内での種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。従って、前述した実施形態は、あくまで例であって、何等制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定されるものだけに制約される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明におけるセルラーシステム送信電力制御方法を表すブロック図である。
【符号の説明】
【0034】
1 送信部
10 信号制御部
11 送信電力増減制御部
2 受信部
21 フレーム誤り検出部
22 フレーム誤りカウント部
23 しきい値判定部
24 ターゲットSIR増減量決定部
26 ターゲットSIR決定部
28 送信レベル最小検知部
29 送信電力制御部
291 検波部
292 受信SIR測定部
293 SIR比較部
294 送信電力増減量決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信側の受信信号SIRをターゲットSIRと比較し、その差又は大小関係に応じて送信側の送信電力を制御するセルラーシステムにおいて、
前記送信側の送信電力が、予め許容された範囲の内の最小のレベルであることを受信側で検知した際に、ターゲットSIRを変更する制御を無効とすることを特徴とするセルラーシステム送信電力制御方法。
【請求項2】
前記送信側の送信電力が予め許容された範囲の内の最小のレベルであるときに、最小レベルであることを示す情報を送信側から受信側に通知し、
受信側で当該情報を受信することによって、前記最小レベル検知を行うことを特徴とする請求項1に記載のセルラーシステム送信電力制御方法。
【請求項3】
受信側において受信SIRがターゲットSIRより高い状態が一定時間以上継続したことを検知することによって、前記最小レベル検知を行うことを特徴とする請求項1に記載のセルラーシステム送信電力制御方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−25462(P2006−25462A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275541(P2005−275541)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【分割の表示】特願平11−53896の分割
【原出願日】平成11年3月2日(1999.3.2)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】