説明

セルロファーガ属細菌により生産されるポルフィラン特異的分解酵素

【課題】本発明は、ポルフィランを加水分解する酵素、及びかかる酵素を生産する微生物を提供することを主な課題とする。
【解決手段】本発明は、下記の特性:(a)ポルフィランに対して特異的な加水分解活性を有し、(b)セルロファーガ(Cellulophaga)属細菌により生産され、(c)SDS−PAGEで測定される分子量が約42kDaであり、(d)至適pHが7.5であり、(e)至適温度が30℃である、を有するポルフィラン特異的分解酵素及び該酵素を産生する細菌を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、セルロファーガ属細菌により生産されるポルフィラン特異的分解酵素、該酵素を用いたポルフィラン分解物の製造方法、該方法により製造されたポルフィラン分解物、及びポルフィラン特異的分解酵素を生産するセルロファーガ属細菌に関する。
【背景技術】
【0002】
有明海沿岸は、全国有数の養殖ノリ生産地であるところ、生産されるノリの中には「色落ちノリ」「下等ノリ」などの商品価値の低いノリが含まれ、これらのノリが大量に廃棄されている。このため、このような廃棄ノリの有効利用による生産者コスト負担の低減、環境負荷の低減が急務となっている。
【0003】
このような状況下において、近年、アマノリ属海藻類に含まれる粘性多糖類であるポルフィランが種々の生理活性を有することが報告された。例えば、ポルフィランには、サルモネラ菌感染マウスの延命効果(特許文献1)、血中コレステロール低下作用(非特許文献1)、抗腫瘍活性(非特許文献2)等の生理活性があることが報告されている。また、本発明者らによりポルフィランが免疫賦活作用を有することが見出されている。
【0004】
ポルフィランは、D−ガラクトース、3,6−アンヒドロ−L−ガラクトース又はL−ガラクトース−6−硫酸、及びこれらのD−ガラクトース類の一部のC−6がメチル化されたものを主に含む混合物である。ポルフィランは、複数成分の混合物であるため、出発原料及び製造方法によりその成分比率や分子量が異なる。例えば、アマノリ属藻類から常法により抽出したポルフィランの分子量は、しばしば約10万以上である。
【0005】
このように大きな分子量を有する分子は、通常、摂取したときに体内に吸収されにくく、体内で十分な効果を発揮することができない。そこで、分子を分解(低分子化)することが求められる。
【0006】
一般的に、多糖類を分解する方法として、現在、酸又はアルカリを用いる方法が知られている。しかしながら、この方法では、分解がランダム且つ高頻度に起こるため、分解をコントロールすることが難しい。また、アルカリを用いる場合には、分子構造が変化し、所望の作用を損ねる又は不都合な作用を発揮する可能性がある。そのため、酸又はアルカリを用いる方法は、性質や作用が安定した分解物を得るには不適当であり、産業上用いることは難しい。また、酸・アルカリ法では、分解に高温の熱を要することもあり、また、中和によって大量の塩を副産物として発生させることから、加熱及び塩の除去のためのエネルギーや労力を要し、延いては高額な製造コストがかかる。
【0007】
多糖類を分解する別の方法として、酵素を用いる方法が知られている。酵素を用いる方法では、酸又はアルカリを用いる方法と異なり、多糖類の分解が穏やかに起こる。そのため、分解をコントロールしやすく、分解物の性質や作用が安定している。さらには、穏和な条件下で分解反応を行うことから分解物の構造の変化が起こらず、分解物が劣化しにくく高い品質を保持することができる。
【0008】
そこで、ポルフィランを穏やかに分解し、高品質のポルフィラン分解物の安定供給を可能にする新規酵素が強く求められている。
【特許文献1】特開平14−193828
【非特許文献1】Fisheries Sci 60(1),83−88(1994)
【非特許文献2】Biosci.Biotechnol.Biochem. 59(10),1993−1937(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポルフィランを加水分解する酵素、及びかかる酵素を生産する微生物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポルフィランを加水分解する新規酵素を求めて鋭意研究を重ねた結果、セルロファーガ属細菌により、ポルフィランの加水分解活性を有する酵素が生産されていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の事項に関する。
〔項1〕下記の特性を有するポルフィラン特異的分解酵素:
(a)ポルフィランに対して特異的な加水分解活性を有し、
(b)セルロファーガ(Cellulophaga)属細菌により生産され、
(c)SDS−PAGEで測定される分子量が約42kDaであり、
(d)至適pHが7.5であり、
(e)至適温度が30℃である。
〔項2〕(f)アガロースに対する加水分解活性を実質的に有さない、
項1に記載のポルフィラン特異的分解酵素。
〔項3〕(g)β−アガラーゼ処理されたポルフィランに対する加水分解活性を有する、項1又は2に記載のポルフィラン特異的分解酵素。
〔項4〕前記ポルフィランがアマノリ属海藻類において生産されるポルフィランである、項1〜3のいずれかに記載のポルフィラン特異的分解酵素。
〔項5〕前記セルロファーガ属細菌が、セルロファーガ・フシコラ(Cellulophaga fucicola)である、項1〜4のいずれかに記載のポルフィラン特異的分解酵素。
〔項6〕前記セルロファーガ・フシコラが、セルロファーガ・フシコラ PDM−1株(受託番号FERM P−20648として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託済み)である、項5に記載のポルフィラン特異的分解酵素。
〔項7〕
(I)項1〜6のいずれかに記載のポルフィラン特異的分解酵素とポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程、
を包含する、ポルフィラン分解物の製造方法。
〔項8〕
(II)β−アガラーゼとポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程、
をさらに包含する、項7に記載のポルフィラン分解物の製造方法(ここで、工程(I)及び工程(II)は、いかなる順番で行われてもよい)。
〔項9〕
工程(I)の分解をpH6.0〜8.0の下で行う項7又は8に記載の方法。
〔項10〕
工程(I)の分解を4〜40℃の温度下で行う項7〜9のいずれかに記載の方法。
〔項11〕前記ポルフィランが、アマノリ属海藻類の水溶性画分に含まれるポルフィランである、項7〜10のいずれかに記載の方法。
〔項12〕項7〜11のいずれかに記載の方法により得られる、ポルフィラン分解物。
〔項13〕分子量が5,000以下である、項12に記載のポルフィラン分解物。
〔項14〕ポルフィラン特異的分解酵素の生産能を有するセルロファーガ属細菌。
〔項15〕セルロファーガ・フシコラである、項14に記載の細菌。
〔項16〕セルロファーガ・フシコラPDM−1株(受託番号FERM P−20648として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託済み)である、項15に記載の細菌。
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
〔I〕ポルフィラン特異的分解酵素
本発明は、下記の特性を有するポルフィラン特異的分解酵素を提供する:
(a)ポルフィランに対して特異的な加水分解活性を有し、
(b)セルロファーガ属細菌により生産され、
(c)SDS−PAGEで測定される分子量が約42kDaであり、
(d)至適pHが7.5であり、
(e)至適温度が30℃である。
【0013】
さらに、本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、通常、(f)アガロースに対する加水分解活性を実質的に有さない。この特性から、本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、ポルフィラン加水分解活性を有するβ−アガラーゼとは明らかに異なる。
【0014】
また、本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、通常、(g)β−アガラーゼ処理されたポルフィランに対する加水分解活性を有する。β−アガラーゼによるポルフィランの加水分解では、ポルフィラン構造内の硫酸基に富んだ部分が分解されずに残ると考えられる。本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、このようなβ−アガラーゼで切断しにくい部分を切断することができるため、β−アガラーゼ処理によるポルフィラン分解物をさらに低分子化することができる。これは、本発明のポルフィラン特異的分解酵素が、β−アガラーゼ処理されたポルフィランに対する加水分解活性を有することを意味する。
【0015】
ポルフィランは、前述したように、D−ガラクトース、3,6−アンヒドロ−L−ガラクトース又はL−ガラクトース−6−硫酸、及びこれらのD−ガラクトース類の一部のC−6がメチル化されたものを主に含む混合物である。ポルフィランは、複数成分の混合物であるため、出発原料及び製造方法によりその成分比率や分子量が異なるが、本発明におけるポルフィランにはどのような成分比率のものも含まれる。
【0016】
加水分解活性は、ポルフィランを加水分解により低分子化する活性である。加水分解のレベルは、加水分解前のポルフィランの分子量が、加水分解後のポルフィランの分子量と比べて低減されている限りにおいて特に限定されない。
【0017】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素を用いれば、例えば、30℃、pH7.5、約72時間、酵素濃度10U/mlの反応条件下において、例えば、分子量100,000以上のポルフィランの約10%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは約30%以上、より好ましくは約40%以上、より好ましくは約50%以上、より好ましくは約60%以上、特に好ましくは約70%以上を、分子量5,000以下の分子に加水分解することができる。
【0018】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素を用いれば、例えば、30℃、pH7.5、約72時間、酵素濃度10U/mlの反応条件下において、例えば、β−アガラーゼ処理した分子量30,000以上のポルフィランの約10%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは約30%以上、より好ましくは約40%以上、より好ましくは約50%以上、より好ましくは約60%以上、特に好ましくは約70%以上を、分子量5,000以下の分子に加水分解することができる。
【0019】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、純品に換算すると、例えば、1mg当たり、通常0.1〜50U程度、好ましくは1〜30U程度、より好ましくは5〜15U程度のポルフィラン加水分解活性を有する。ここで、1Uは、30℃にて、1μgの酵素を用いた単位時間(時間)の酵素反応において増加した還元糖の量(μg)とする。
【0020】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、ポルフィラン又はβ−アガラーゼで処理されたポルフィランに対して特異的に加水分解活性を示すが、ほとんど場合においてアガロース、寒天、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、硫酸化デキストラン(500kDa)、ι−カラギーナン、κ−カラギーナン、λ−カラギーナンに対して実質的に加水分解活性を示さない。そこで、本書において「ポルフィラン特異的」とは、このように、ポルフィラン又はポルフィランに由来する分解物に対して加水分解活性を示すが、アガロース、寒天、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、硫酸化デキストラン(500kDa)、ι−カラギーナン、κ−カラギーナン、λ−カラギーナンに対して実質的に加水分解活性を示さないことを意味する。
【0021】
ポルフィラン特異的分解酵素の由来は、セルロファーガ(Cellulophaga)属細菌である限りにおいて特に限定されないが、好ましくは、セルロファーガ・フシコラ(Cellulophaga fucicola)であり、特に好ましくは、受託番号FERM P−20648として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託済みであるセルロファーガ・フシコラPDM−1株である。セルロファーガ・フシコラPDM−1株は、後述する細菌学的諸性質を有する。これらの細菌により生産されたポルフィラン特異的分解酵素は、ポルフィランを穏やか且つ効率的に分解することができる。
【0022】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素のSDS−PAGEにより測定される分子量は、約42kDaである。
【0023】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素の至適pHは、通常pH6〜8程度、好ましくはpH7〜8程度、さらに好ましくはpH7.5程度である。pH安定領域は、通常pH6.5〜8程度、好ましくはpH7.0〜8.0程度、さらに好ましくはpH7.5程度である。
【0024】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素の至適温度は、通常約40℃以下、好ましくは約35℃以下、さらに好ましくは約30℃程度である。温度安定領域は、通常約35℃以下、好ましくは約32℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。
【0025】
至適温度についてさらに説明すると、本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、溶液が凍らない限り、低温においても活性を発揮することができ、例えば、冷蔵状態(約4℃)の場合、約80%の活性を保持することができる。このように本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、高い活性を保持している温度帯が広いので、施設に備えられる温度調節装置の種類、用途、所望の性質等に応じて適宜選択された温度下で分解に共することができる。
【0026】
例えば、本発明のポルフィラン分解物が食品、化粧品、ヘアケア製品又は医薬品等の分野で使用される場合、本発明の酵素は、酵素反応溶液中の微生物の増殖を抑制することができる温度、例えば約30℃以下、好ましくは約20℃以下、より好ましくは約10℃以下、より好ましくは約4℃以下の低温で分解に供されることが望ましい。また、50〜60℃程度の温度で長時間分解すると、加熱臭や共存する酸や金属イオン等による酸化劣化臭が発生する場合がある。そのため、本発明のポルフィラン分解物が食品、化粧品、ヘアケア製品又は医薬品等の分野で使用される場合、本発明の酵素は、加熱臭や共存する酸や金属イオン等による酸化劣化臭が発生しにくい温度、例えば約30℃以下、好ましくは約20℃以下、より好ましくは約10℃以下、より好ましくは約4℃以下で分解に供されることが望ましい。また、省エネルギーの観点から、室温、例えば4〜35℃程度、しばしば15〜25℃程度で分解に供されることも望ましい。
【0027】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、常法により製造することができ、例えば、ポルフィラン特異的分解酵素を生産する細菌を海水を含む液体培地にて、純粋培養し、所定期間後、菌体を遠心分離により除去し、限外ろ過膜による分子量分画により粗分離することにより製造することができる。さらに精製が必要な場合は、例えば、硫酸アンモニウムを用いた塩析の後、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分画やイオン性相互作用の特性を利用したイオン交換クロマトグラフィーの使用により、酵素を精製することができる。これらの方法に限定されない。
〔II〕ポルフィラン特異的分解酵素を生産する細菌
本発明は、さらに、本発明のポルフィラン特異的分解酵素を生産する細菌を提供する。本発明の細菌は、セルロファーガ(Cellulophaga)属細菌である限りにおいて特に限定されないが、好ましくは、セルロファーガ・フシコラ(Cellulophaga fucicola)である。本発明のポルフィラン特異的分解酵素を生産するセルロファーガ・フシコラとして、本発明は、具体的に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6)に「セルロファーガ・フシコラ PDM−1」なる表示にて2005年8月30日付で寄託され、同年9月1日付で受託され、同年9月29日付で生存が確認された、受託番号FERM P−20648の菌株を提供する。
【0028】
セルロファーガ・フシコラPDM−1株は、ポルフィラン分解能を有することに加えて、さらに以下の細菌学的諸性質を有する。
【0029】
(A)形態的性質
(1)細胞の形及び大きさ:桿状、0.6〜0.7×2.0〜5.0μm
(2)運動性の有無:無し
(3)胞子の有無:無し
(B)培養的性質
(1)コロニー性状(MB2216寒天培地にて48時間培養):
直径:1.0 mm
色調:黄色
形:円形
隆起状態:レンズ状
周縁:根足状
表面の形状など:スムーズ
透明度:不透明
粘稠度:バター状
(2)生育温度試験:
20℃:生育可能
30℃:生育可能
35℃:生育不可
(3)海水を利用した生育:良好
(C)生理学的性質
(1)グラム染色性:陰性
(2)カタラーゼ反応:陽性
(3)オキシダーゼ反応:陽性
(4)グルコースからの酸及びガス産生:陰性
(5)硝酸塩還元:陰性
(6)インドール生成:陰性
(7)ブドウ糖酸性化:陰性
(8)アルギニンジヒドロラーゼ:陰性
(9)ウレアーゼ:陰性
(10)エスクリン分解:陽性
(11)ゼラチン分解:陽性
(12)β−ガラクトシダーゼ活性:陽性
(13)チトクロームオキシダーゼ:陽性
(14)デンプン加水分解:陰性
(15)寒天加水分解:陽性
(16)ブドウ糖資化:陰性
(17)L-アラビノース資化:陰性
(18)D-マンノース資化:陰性
(19)D-マンニトール資化:陰性
(20)N-アセチル-D-グルコサミン資化:陰性
(21)マルトース資化:陰性
(22)グルコン酸カリウム資化:陰性
(23)n-カプリン酸資化:陰性
(24)アジピン酸資化:陰性
(25)dl-リンゴ酸資化:陰性
(26)クエン酸ナトリウム資化:陰性
(27)酢酸フェニル資化:陰性
(28)酸素に対する態度:好気性
(D)化学分類学的性質
(1)DNA GC含量(高速液体クロマトグラフ法):32.4mol%
また、セルロファーガ・フシコラPDM−1菌株は、配列番号1に記載の16S rDNA塩基配列を有している。
【0030】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素を生産する菌株には、セルロファーガ・フシコラ PDM−1株のほか、当該菌株の自然的及び人工的変異株も含まれる。
【0031】
本発明のポルフィラン特異的分解酵素を生産する菌株には、セルロファーガ・フシコラ PDM−1の近縁種も含まれる。セルロファーガ・フシコラ PDM−1の近縁種には、ポルフィラン分解能を有し、配列番号1に記載の16S rDNA塩基配列と、例えば90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を示し、且つ、上記細菌学的諸性質のうち、例えば5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1の性質が異なるものが含まれる。
〔III〕ポルフィラン分解物の製造方法
本発明は、(I)本発明のポルフィラン特異的分解酵素とポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程、を包含するポルフィラン分解物の製造方法を提供する。
【0032】
本発明は、また、前記工程(I)に加えて(II)β−アガラーゼとポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程、をさらに包含するポルフィラン分解物の製造方法(ここで、工程(I)及び工程(II)はいかなる順番で行われてもよい)を提供する。
即ち、本発明のポルフィラン分解物の製造方法は、基本的に、以下の(1)〜(4)のいずれかの工程を包含する:
(1)ポルフィラン特異的分解酵素によりポルフィランを分解する工程、
(2)ポルフィラン特異的分解酵素によりポルフィランを分解した後、得られた産物をβ−アガラーゼによりさらに分解する工程、
(3)β−アガラーゼによりポルフィランを分解した後、得られた産物をポルフィラン特異的分解酵素によりさらに分解する工程、或いは、
(4)ポルフィラン特異的分解酵素及びβ−アガラーゼによりポルフィランを同時に分解する工程。
【0033】
原料となるポルフィランの由来は特に限定されないが、ポルフィランはアマノリ属海藻類の水溶性画分に多く含まれているため、アマノリ属海藻類の水溶性画分に由来するものであることが好ましい。
【0034】
アマノリ属海藻は、原始紅藻綱、ウシケノリ目、ウシケノリ科、アマノリ属(学名:Porphyra Agardh、慣用名:Porphyra)に属する藻類であり、例えば、アサクサノリ、スサビノリ、ウップルイノリ、マルバアマノリ、マルバチシマクロノリ、オオノノリ、壇紫菜等がアマノリ属海藻に含まれる。特に、ポルフィランを多く含むために製造効率が良い点、及び、安定的に供給できる点で、スサビノリの水溶性画分に由来するものであることが好ましい。
【0035】
また、スサビノリより得られる板ノリは、品質、色沢、香味、形態等の違いにより、いくつかの等級(規格)に分類されており、等級の違いにより、タンパク質、アミノ酸、香味成分等の種類や含量に差異が認められる。ポルフィランは、いずれの等級のノリにもほぼ同量含まれているが、その糖組成に若干の違いが認められる。等級が高いノリ(高級ノリ)から得られるポルフィランは、等級が低いノリ(低級ノリ)由来のポルフィランに較べ、ガラクトース−6−硫酸の比率が高い傾向にある。廃棄ノリの有効利用の観点からは、通常低級ノリである廃棄ノリ由来のポルフィランの方が好ましい。
【0036】
ポルフィランは、常法により精製することができ、例えば、アマノリ属海藻からバッチ式抽出装置等を用いて水溶液画分を抽出した後、アルコール沈殿精製法、第4級アンモニウム塩による沈殿精製法、イオン交換クロマトグラフィーによる精製法、膜分離法等にて精製することができる。この方法に限定されない。
【0037】
ポルフィランは、夾雑物を含む粗標品(例えば、アマノリ属海藻から抽出した水溶性画分)であってもよいし、完全若しくはほぼ完全に精製された単品であってもよいが、ポルフィランの精製度にして約50%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約95%以上の精製品を用いることが望ましい。また、ポルフィランは、前述の通り、β−アガラーゼ処理され、必要に応じて精製されたポルフィランであってもよい。
【0038】
(I)本発明のポルフィラン特異的分解酵素と前記ポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程において、分解は、例えばpH6.0〜8.0程度、好ましくはpH7.0〜8.0程度、さらに好ましくはpH7.5程度にて、又、例えば約40℃以下、好ましくは温度20〜35℃程度、さらに好ましくは温度20〜30℃程度の条件下で行われることが望ましい。このような条件下では、酵素の活性が高く、また酵素が安定して存在することができるため、ポルフィランを効率的に分解することができる。ただ、本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、溶液が凍らず且つ40℃以下の温度であれば、十分な加水分解活性を示し且つ安定に存在することができるので、溶液が凍らない温度〜約40℃、好ましくは溶液が凍らない温度〜約35℃、より好ましくは溶液が凍らない温度〜約30℃にて、好適に分解を実施することができる。反応時間は、通常、0.5〜72時間とすればよいが、所望の効果が得られる限りにおいて、この範囲より長くても短くてもよい。分解中、必要に応じて、溶液を攪拌又は振とうしてもよい。
【0039】
分解に供するポルフィランの濃度は、特に限定されないが、通常、0.5〜100mg/ml程度、好ましくは0.5〜75mg/ml程度、より好ましくは0.5〜50mg/ml程度である。通常、高濃度の方が酵素反応が進行しやすいため、反応時間を短縮することができ、延いては温度調節等に必要なエネルギーを削減することができる。ポルフィランは、通常、水性溶液において分解反応に供される。
【0040】
分解に供するポルフィラン特異的分解酵素の濃度は、特に限定されないが、通常0.1〜50U/ml程度、好ましくは1〜30U/ml程度、より好ましくは5〜15U/ml程度である。ここで、1Uは、30℃にて、1μgの酵素を用いた単位時間(時間)の酵素反応において増加した還元糖の量(μg)とする。
【0041】
当業者であれば、分解条件(温度、時間、組成など)を適宜調節することにより、目的のポルフィラン分解物を得ることができる。
【0042】
さらに、必要に応じて、熱による酵素の失活、又は、限外ろ過による酵素の除去を行い、分解反応を停止させてもよい。
【0043】
(II)β−アガラーゼとポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程において、分解は、常法により行うことができ、例えば、温度20〜40℃、pH6.0〜8.0、12〜96時間程度、インキュベーションすることにより行うことができる。β−アガラーゼとしては、市販のβ−アガラーゼを好適に用いることができ、例えば、シグマ社製、ヤクルト薬品工業株式会社製のβ−アガラーゼを用いることができる等を好適に用いることができる。分解条件(温度、pH、時間、組成等)は、市販のβ−アガラーゼに添付の指示書に従ってもよい。当業者であれば、これらの分解条件について、適宜変更することができる。
〔IV〕ポルフィラン分解物
本発明は、上記製造方法により得られたポルフィラン分解物を提供する。
【0044】
本発明のポルフィラン分解物は、上記製造方法により得られた産物そのもの、又は、必要に応じて精製、濃縮、希釈、乾燥(粉末化)、凍結乾燥等の処理を施したものである。
【0045】
ポルフィラン分解物の分子量は、分解前のポルフィランよりも小さい値であれば特に限定されない。ポルフィラン分解物の分子量は、その用途に応じて異なるが、例えば分子量約45,000以下、好ましくは約30,000以下、さらに好ましくは約15,000以下、特に好ましくは約5,000以下である。特に約15,000以下の分子量のポルフィラン分解物は、体内に吸収されやすく、体内においてポルフィラン分解物の作用を十分に発揮することができる点において望ましい。
【0046】
本書において、ポルフィラン又はポルフィラン分解物の分子量は、特に言及しない限り、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)又は高速液体クロマトグラフィー質量分析法(HPLC−MS法)により測定された値である。
【0047】
本書において「ポルフィラン分解物」とは、本発明のポルフィラン特異的分解酵素によりポルフィラン(予めβ−アガラーゼ等の他の酵素で分解されている場合、その分解物であるポルフィラン)を加水分解することにより得られた産物を意味する。本発明のポルフィラン特異的分解酵素を含む複数の酵素により加水分解されたポルフィラン分解物も、本発明のポルフィラン分解物に含まれる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、新規ポルフィラン特異的分解酵素、該酵素を用いるポルフィラン分解物の新規製造方法、該方法により得られる新規ポルフィラン分解物、及びポルフィラン特異的分解酵素を生産する細菌が提供される。
【0049】
本発明によれば、ポルフィランを穏やかに分解することができるため、分解のコントロールが容易である。また、酸やアルカリを用いる方法と異なり、ランダムな分解を起こさず、また構造変化を起こさないため、所望の性質や作用を有するポルフィラン分解物を安定して製造することができる。
【0050】
また、本発明のポルフィラン特異的分解酵素は、低温においても高い活性を維持し、効率的に加水分解することができる。低温でポルフィランを加水分解することにより、加熱臭や共存する酸や金属イオン等による酸化劣化臭を発生させることなく、良質のポルフィラン分解物を得ることができる。また、低温でポルフィランを加水分解することにより、微生物の繁殖を抑えることができ、衛生的にポルフィラン分解物を製造することができる。それゆえ、本発明に従って低温で製造されたポルフィラン分解物は、食品、医薬品、ヘアケア製品、化粧品等の原料として適している。
【0051】
また、本発明の酵素を用いれば室温での分解が可能であるため、特別な温度調節装置や温度調節を必ずしも必要とせず、製造における省力化・省資源化・省エネルギー化、延いては製造コストの削減につながる。
【0052】
本発明のポルフィラン分解物は、分解前のポルフィランと比べて分子量が小さいため、体内への吸収効率がよく、体内に吸収されたときにポルフィラン分解物の作用を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明の実施例を示す。この実施例は、本発明をより容易に理解するための説明であって、本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0054】
<ノリ表面からの微生物群の粗分離>
適当量のノリ原藻を、滅菌海水(佐賀県玄海で採水)で2回洗浄し、寒天を主成分とする液体培地(海水1Lに寒天1g及び硝酸カリウム1gを溶解した培地)に入れ、22℃、7日間前培養した。培養液を、寒天を主成分とする平面培地(海水1Lに寒天25g及び硝酸カリウム1gを溶解した培地)及びZobell平面培地(海水1Lに寒天25g,ポリペプトン5g,酵母エキス1g及びリン酸鉄(III)0.1gを溶解した培地)に塗布し、22℃,7日間本培養を行った。それぞれの培地表面を軟化もしくは液化した微生物群を粗分離した。
<加水分解活性を有する微生物のスクリーニング>
次いで、粗分離した微生物群を、ポルフィラン(POR)が主成分である液体培地(海水1LにPOR1g及び硝酸カリウム1gを溶解した培地)に接種し、22℃、7日間培養した。培養液を遠心分離により、菌体と培養上清に分けた。培養上清に含まれる糖組成を薄層クロマトグラフィーにより分析し、分解活性のある微生物群を選択した。これらの微生物群の中で強いPOR分解反応を示した6種類の群を、さらにZobell平面培地を用いて純粋培養することにより、25種類の純化された微生物を得た。これらの微生物を既述のPORを主成分とした液体培地に接種し、24℃、7日間培養した後、遠心分離により、菌体と培養液上清を分離した。培養液上清を遠心式による限外ろ過(排除分子量:5,000もしくは30,000)により、培養液上清中に存在する糖の分子量分布を測定し、約65%を分子量5,000以下、約10%を分子量5,000〜30,000以下に分解した菌株を選択し、更なる実験に用いた。
【0055】
<菌株の同定>
単離された加水分解活性を示す菌株について、16S rDNA分子系統解析、生理・生化学性状試験、菌体脂肪酸組成(CFA)分析、キノン分析、DNA塩基組成測定(GC含量測定)及びDNA−DNAハイブリッド形成試験により分類学上の位置を特定した。これらの試験は、微生物試験受託サービスを提供するNCIMB JapanにID番号:SIID3681で委託しておこなった。
【0056】
16S rDNA分子系統解析の結果、本菌株の16S rDNA塩基配列は、国際塩基配列データベースにおいて、セルロファーガ・フシコラ NN015860株(基準株)の16S rDNA塩基配列に対して99.8%の高い相同性を示した。また、上位に検索された配列の大半はセルロファーガ属由来の細菌の16S rDNAが占めていた。
【0057】
生理・生化学性状試験の結果、本菌株は、非運動性のグラム陰性棹菌でカタラーゼ反応が陽性を示す点、グルコースを酸化する点、MB2216寒天平板培地でコロニーが黄色を呈する点においてセルロファーガ・フシコラの性状と一致した。しかし、オキシダーゼ反応が陽性を示す点はセルロファーガ・フシコラの性状と一致しなかった。また、エスクリン及びゼラチンを加水分解する点、β−ガラクトシダーゼ活性が陽性を示す点、嫌気条件下で生育しない点、35℃で生育しない点、Flexirubin type色素を産生しない点、寒天を加水分解する点でセルロファーガ・フシコラの性状と一致した。しかし、でんぷんを加水分解しない点でセルロファーガ・フシコラの性状と一致しなかった。
【0058】
菌体脂肪酸組成(CFA)分析の結果、主要脂肪酸としてC15:0 ISO 3OH(17.68%)、C15:0 ISO(16.15%)、C17:0 ISO 3OH(12.03%)が認められた。
【0059】
キノン分析から、本菌株の主たるキノン組成がメナキノンMK−6であることが明らかとなった。ちなみに、セルロファーガ属の他の種であるセルロファーガ・パシフィカ(Cellulophaga pacifica)の主たるキノンもMK−6である。
【0060】
DNA塩基組成測定の結果、高速液体クロマトグラフィーにより測定した本菌株のGC含量は、32.4%であった。ちなみに、セルロファーガ・フシコラのGC含量が32.4%、セルロファーガ属の他の種であるセルロファーガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)のGC含量が32%であることが報告されている。
【0061】
三回のDNA−DNAハイブリッド形成試験結果から、本菌株とセルロファーガ・フシコラ基準株とのDNA−DNA相同値の平均値が72%であった。現在、細菌の種は、70%以上のDNA−DNA相同性を示す菌株同士を同種とすると定義されている(Wayne L. G et al., Int.J.Syst.Bacteriol., 1987,37,463-464)。
【0062】
上記の結果から、本発明者らは、本菌株がセルロファーガ属細菌に分類され、さらにセルロファーガ・フシコラ又はその近縁種に帰属する可能性が高いと考えた。
【0063】
この菌株を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6)に「セルロファーガ・フシコラ PDM−1」なる表示にて2005年8月30日付で寄託したところ、同年9月1日付で受託され(受託番号FERM P−20648)、同年9月29日付でその生存が確認された。
<POR特異的分解酵素の分離・精製>
セルロファーガ・フシコラ PDM−1を、PORを主成分とする液体培地(海水1LにPOR 1g及び硝酸カリウム1gを溶解した培地)に接種し、24℃,14日間前培養を行った。培養液を、Zobell培地の組成において、寒天の代わりにPORを溶解した液体培地(海水1LにPOR 1g,ポリペプトン5g,酵母エキス1g及びリン酸鉄(III)0.1gを溶解した培地)約10Lに懸濁し、24℃,21日間本培養を行った。培養後、遠心分離にて菌体と培養液を分離した。得られた培養液を、氷水浴中にて限外ろ過を行い、脱塩及び濃縮した。得られた濃縮液中に含まれるタンパク質を塩析するために、硫酸アンモニウム90%飽和になるように徐々に加え、十分に溶解後、4℃にて一晩放置した。塩析による沈殿物を、遠心分離にて回収し、0.2M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液に再溶解し、粗タンパク質溶液とした。粗タンパク質溶液を、ゲルろ過クロマトグラフィー(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製Sephacryl S−200 High Resolution,75cmx2.5cm i.d.,樹脂ベッド容積340mL)に供し、0.2M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液にてタンパク質の粗分離を行った。各々の溶出画分は、フラクションコレクターにて溶出タンパク質の分画を行った。任意の画分に対して、PORを基質とした酵素反応により分解性の評価を行い、分解性の認められた画分を回収した。回収した画分を遠心式による限外ろ過により、脱塩及び濃縮を行い、濃縮液を得た。この濃縮液をイオン交換クロマトグラフィー(東ソー株式会社製TOYOPEARL DEAE−650S,10cmx1.5cm i.d.,樹脂ベッド容量10mL)に供し、0、100、150、200、250mMとなるように塩化ナトリウムを溶解した50mMリン酸緩衝液にて、ステップワイズグラジエントにより、タンパク質の分離を行った。ゲルろ過クロマトグラフィー同様、溶出画分はフラクションコレクターにて分画を行った。任意の画分に対して、PORを基質とした酵素反応により分解性の評価を行ったところ、0mM溶出画分において、PORに対する強い活性が確認された。活性の認められた画分を回収し、遠心式による限外ろ過により脱塩並びに濃縮を行った。この濃縮液を、さらにイオン交換カラム(昭和電工株式会社製SHODEX QA−825,75mmx8mm i.d.)を用いたHPLCに供し、塩化ナトリウム濃度を直線的に変化(0〜200mM,リニアグラジエント)させた20mMトリス/塩酸緩衝液でタンパク質を溶出させた。溶出画分をフラクションコレクターにより分画した。
【0064】
次いで、各々の画分についてPORを基質とした酵素反応によるPOR分解性の評価を行い、分解性を示す対象酵素を含む画分を得た。
【0065】
分解性の評価は、2−Cyanoacetamideを用いた還元糖の含量をもとに算出した。すなわち、0.1%POR水溶液(100μL)に、分画した各々の画分を1μL添加し、30℃で一定時間、分解反応をさせた。所定時間後、反応溶液100μLに、1%2−Cyanoacetamide水溶液100μLを加え、十分に混合した後、0.5Mホウ酸/水酸化ナトリウム/塩化カリウム緩衝液(pH9.0)を200μL添加し、十分に混合後、100℃で5分間加熱反応させた。反応後、冷却し、274nmにおける吸光度を測定した。末端還元糖の含量は、ガラクトースを標準物質として作成した検量線から算出した。上記還元糖の測定法は、Anal.Biochem. 203(2),335−339(1992)に記載の方法を適宜修正して行った。なお、本発明のポルフィラン特異的分解酵素の1Uを、30℃にて、1μgの酵素を用いた単位時間(時間)の酵素反応において増加した還元糖の量(μg)と定義した。
<分子量測定>
POR加水分解能を示す対象酵素を含む画分を、Bio−Rad Laboratories社製のPro260 kitを用い、添付の指示書に従って、前処理した。次いで、前処理を行ったサンプルについて、Bio−Rad Laboratories社製の全自動電気泳動システムExperionを用い、添付の指示書に従って、SDS−PAGEを行った。
【0066】
SDS−PAGEの結果を図1に示す。図1から、SDS−PAGEで測定されるポルフィラン特異的分解酵素の分子量が約42kDaであることが明らかである。
<基質特異性>
基質としてアガロース、寒天、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、硫酸化デキストラン(500kDa)、ι−カラギーナン、κ−カラギーナン、λ−カラギーナンを用い、本発明の酵素の各基質に対する加水分解活性を測定した。活性測定は、PORと同様の方法によって行った。末端還元糖の含量測定については、前述の通りである。PORと同様の方法によりユニット(U)を算出し、Uが0以下の場合(即ち、加水分解活性を示さなかった場合)を「−」、Uが0より大きい場合(即ち、加水分解活性を示した場合)を「+」と評価した。
【0067】
基質特異性の結果を下記表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
<至適pHの測定法>
基質溶液(0.1%POR溶液)100μLに酵素溶液を1μL(添加時の酵素濃度9.64μg/mL)加え、30℃で24時間反応させた。基質溶液のpHは以下に示した緩衝液を、使用直前に0.5%POR水溶液に加え、基質終濃度が0.1%となるように調整した。なお、pH3.0〜6.0の範囲ではクエン酸緩衝液、pH6.0〜8.0の範囲ではリン酸緩衝液、pH8.0〜10.0の範囲ではホウ酸/塩化カリウム/水酸化ナトリウム緩衝液を用いた。
【0070】
反応溶液を、2−Cyanoacetamideを使った還元糖定量法により測定した。還元糖定量法については前述の通りである。
【0071】
至適pHの測定結果を図2に示す。
<pH安定性の測定法>
酵素溶液を1μL(添加時の酵素濃度9.64μg/mL)に、既述の緩衝液を80 μL添加し、30℃で6時間又は24時間保持した。
【0072】
前述の溶液に、0.5%POR水溶液20μLを加え、酵素反応を行った(30℃,22時間)。反応後、2−Cyanoacetamideを使った還元糖定量法により測定した。還元糖定量法については前述の通りである。
【0073】
pH安定性の測定結果を図3に示す。
<至適温度の測定法>
基質溶液(0.1%POR溶液(pH7.5のリン酸緩衝液を使用))100μLに酵素溶液を1μL(添加時の酵素濃度9.64μg/mL)加え、所定温度で21時間反応させた。反応温度は、20,25,30,35,40,45,50及び60℃に設定した。
【0074】
反応溶液を、2−Cyanoacetamideを使った還元糖定量法により測定した。還元糖定量法については前述の通りである。
【0075】
至適温度の測定結果を図4に示す。
<温度安定性の測定法>
酵素溶液を1μL(添加時の酵素濃度9.64μg/mL)に、pH7.5のリン酸緩衝液を80μL加え,所定温度にて18時間保持した。保持温度は、20、25、30、35、40、45、50及び60℃に設定した。
【0076】
所定時間後、0.5%POR水溶液20μLを加え、酵素反応を行った(30℃,26時間)。反応溶液を、2−Cyanoacetamideを使った還元糖定量法により測定した。還元糖定量法については前述の通りである。
【0077】
温度安定性の測定結果を図5に示す。
<β−アガラーゼ処理したポルフィランに対する加水分解活性測定>
50mM酢酸緩衝液(pH6.0)に3gのPORを溶解し、1000Uの市販β−アガラーゼ(Pseudomonas atlantika由来)を加え、40℃、72時間分解させた。熱水中で15分間加熱し、酵素反応を停止した後、不溶物を除去した。得られた溶液を排除限界30kDaの限外ろ過膜を有した装置にて限外ろ過を行い、保持された画分を凍結乾燥により、粉末化した。その際の30kDa保持物の重量は1.2gであった。このβ−アガラーゼ処理した産物を超純粋に再溶解し基質溶液とした。基質溶液(0.1%水溶液)100μlに、酵素溶液を1μl加え(添加時の酵素濃度38.6μg/ml)、30℃で15時間反応させた。反応溶液を2−Cyanoacetamideを使った還元糖定量法により測定した。その結果、反応溶液中において、9.19μg/ml(ガラクトース換算値)の還元糖の増加が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、SDS−PAGEの結果である。本発明のポルフィラン特異的分解酵素の分子量が約42kDaであることが明らかである。
【図2】図2は、各pHに対して、30℃における本発明の酵素の残存活性を測定した結果を示す。この結果から、本発明の酵素は、pH約7.5において最も高い残存活性を示した。
【図3】図3は、本発明の酵素を各pHの溶液中で30℃にて6時間又は24時間保持した後、この酵素をポルフィランと混合して30℃にて22時間反応させ、反応後に本発明の酵素の残存活性を測定した結果である。この結果から、本発明の酵素は、6時間保持した場合pH約7.5において最も高い残存活性を示し、21時間保持した場合pH約7において最も高い残存活性を示した。
【図4】図4は、各温度に対して、pH7.5における本発明の酵素の残存活性を測定した結果を示す。この結果から、本発明の酵素は、約30℃において最も高い残存活性を示した。
【図5】図5は、本発明の酵素を各温度のリン酸緩衝液(pH7.5)において18時間保持した後、この酵素をポルフィランと混合して30℃にて26時間反応させ、反応後に本発明の酵素の残存活性を測定した結果である。この結果から、本発明の酵素は、約40℃以下の温度において残存活性を示し、約30℃以下の温度において特に高い残存活性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性を有するポルフィラン特異的分解酵素:
(a)ポルフィランに対して特異的な加水分解活性を有し、
(b)セルロファーガ(Cellulophaga)属細菌により生産され、
(c)SDS−PAGEで測定される分子量が約42kDaであり、
(d)至適pHが7.5であり、
(e)至適温度が30℃である。
【請求項2】
(f)アガロースに対する加水分解活性を実質的に有さない、
請求項1に記載のポルフィラン特異的分解酵素。
【請求項3】
(g)β−アガラーゼ処理されたポルフィランに対する加水分解活性を有する、請求項1又は2に記載のポルフィラン特異的分解酵素。
【請求項4】
前記ポルフィランがアマノリ属海藻類において生産されるポルフィランである、請求項1〜3のいずれかに記載のポルフィラン特異的分解酵素。
【請求項5】
前記セルロファーガ属細菌が、セルロファーガ・フシコラ(Cellulophaga fucicola)である、請求項1〜4のいずれかに記載のポルフィラン特異的分解酵素。
【請求項6】
前記セルロファーガ・フシコラが、セルロファーガ・フシコラ PDM−1株(受託番号FERM P−20648として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託済み)である、請求項5に記載のポルフィラン特異的分解酵素。
【請求項7】
(I)請求項1〜6のいずれかに記載のポルフィラン特異的分解酵素とポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程、
を包含する、ポルフィラン分解物の製造方法。
【請求項8】
(II)β−アガラーゼとポルフィランとを混合し、ポルフィランを分解する工程、
をさらに包含する、請求項7に記載のポルフィラン分解物の製造方法(ここで、工程(I)及び工程(II)は、いかなる順番で行われてもよい)。
【請求項9】
工程(I)の分解をpH6.0〜8.0の下で行う請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
工程(I)の分解を4〜40℃の温度下で行う請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ポルフィランが、アマノリ属海藻類の水溶性画分に含まれるポルフィランである、請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の方法により得られる、ポルフィラン分解物。
【請求項13】
分子量が5,000以下である、請求項12に記載のポルフィラン分解物。
【請求項14】
ポルフィラン特異的分解酵素の生産能を有するセルロファーガ属細菌。
【請求項15】
セルロファーガ・フシコラである、請求項14に記載の細菌。
【請求項16】
セルロファーガ・フシコラPDM−1株(受託番号FERM P−20648として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託済み)である、請求項15に記載の細菌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−236236(P2007−236236A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60950(P2006−60950)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(590003722)佐賀県 (38)
【出願人】(300032123)財団法人佐賀県地域産業支援センター (11)
【Fターム(参考)】