説明

セルロースアシレート、セルロースアシレートフィルム、偏光板及び液晶表示装置。

【課題】 溶融製膜に適した新規セルロースアシレートを用いて、微細偏光異物が少なく黄色味のないセルロースアシレートフィルム、及びかかるフィルムを組み込んだ、光漏れのない偏光板及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】 特定の溶融濾過特性を満たすセルロースアシレート、このようなセルロースアシレートから得られる、特定範囲の微細異物数と特定範囲の吸光度を有するセルロースアシレートフィルム、並びにこのようなセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレート、セルロースアシレートフィルム、並びに、該フィルムを組み込んだ偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に用いられるセルロースアシレートは、繊維状のセルロースを原料として、不均一反応で製造されるため、その最終生成物中には、未反応のセルロース繊維に由来する不溶性の微細異物、針状異物が存在する。この微細異物、針状異物は、セルロースアシレートを液晶表示装置の光学フィルムとして用いる場合、光漏れの原因となるものである。
【0003】
一方、液晶画像表示装置に使用されるセルロースアシレートフィルムを製造する際に、ジクロロメタンのような塩素系有機溶剤に溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されており、近年環境保全の観点から有機溶の非排出の技術が種々検討されているが、完全な非排出までには更に研究する必要がある。特許文献1には、有機溶剤を用いない製膜法として、セルロースアシレートを溶融製膜する方法が提案されている。この方法は、溶媒を用いずにセルロースエステルを流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後流動性のセルロースエステルをエンドレスベルト、ドラム上に押し出し製膜するものである。この特許文献1には、フィルムにしたときの輝点異物が少ないことが好ましいと記載され、該輝点異物は、輝点異物の少ないセルロースエステルを用いることと、溶融したセルロースエステルを濾過することによって除去し、低減できると記載されている。
【特許文献1】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、実際に溶融濾過を用いた実施例は存在せず、本発明者は、この特許文献1の実施例で用いられているセルロースアシレートを通常の条件で溶融濾過してみたところ、溶融濾過の速度が極めて遅く、また溶融後の樹脂が変色するという問題が生じた(本発明実施例参照)。
【0005】
従って本発明の目的は、微細偏光異物が少なく黄色味のないセルロースアシレートフィルムを得ることができる、溶融製膜に適した新規セルロースアシレートを提供することにある。本発明は更に、かかるセルロースアシレートを溶融製膜して得られるセルロースアシレートフィルム、並びに、かかるフィルムを組み込んだ、光漏れのない偏光板及び液晶表示装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来のセルロースアシレートの溶融濾過後の黄変は、セルロースアシレートの構造と溶融濾過条件に起因すると考え、この改良に取り組んだ。すなわち、原料セルロースアシレートの濾過性が悪いため、溶融濾過中に樹脂自体の熱劣化が進行しやすいためと考えられる。
【0007】
従って、溶融製膜によるセルロースアシレートフィルムの製造に際して、黄色味のないフィルムを得るためには、溶融濾過における適した条件として、溶融濾過の時間を短縮する必要があることを見出した。すなわち、本発明者は、180℃〜230℃、且つ0.5MPa〜15MPaで、孔径10μm以下の金属フィルターを通して溶融濾過した時のフィルター1cm当たり1分間の濾過量が0.05cm以上の濾過特性を有するセルロースアシレートを用いることで、溶融濾過後の樹脂の黄変が著しく改善されることを見出した。
【0008】
上記の濾過特性を有するセルロースアシレートは、セルロースアシレート自体の構造及び残存する微細異物、針状異物の量を特定範囲に設定することが好ましく、具体的には、分子量分布が5.0以下であり、微細偏光異物および針状異物が、それぞれ5×10−2mm当たり0〜10個であるセルロースアシレートであることが好ましい。
【0009】
このようなセルロースアシレートから得られるフィルムは、黄色味がなく、光漏れがなく、さらに意外なことに、本発明の知見を用いることで、フィルムの面状も極めて良好なものとなる。
またこのような性能を有するフィルムを組み込んだ偏光板及び液晶表示装置は、画像が極めて良好になることを見出した。すなわち、本発明のセルロースアシレートを用いることで、フィルム品質が改良され、これを組み込んだ液晶表示装置の画質が向上するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の(1)〜(10)により達成される。
(1)180℃〜230℃かつ0.5MPa〜15MPaで孔径10μm以下の金属フィルターを通して溶融ろ過した時のフィルター1cm2あたり1分間の濾過量が0.05cm3以上であるセルロースアシレート。
(2)分子量分布が5.0以下であり、かつ含有される長辺が10μmを超える針状異物が5×10−2mmあたり0〜10個、10μm以下の微細異物が5×10−2mmあたり0〜10個であることを特徴とする、上記(1)に記載のセルロースアシレート。
(3)セルロースアシレートが、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載のセルロースアシレート。
(4)セルロースアシレートの重量平均重合度が200〜700であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロースアシレート。
【0011】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロースアシレートを溶融製膜して得られるセルロースアシレートフィルム。
(6)含有される長辺が10μmを超える針状異物が5×10−2mmあたり0〜10個であることを特徴とする、上記(5)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(7)波長400nmで測定した時の膜厚100μmのフィルムに換算した吸光度が0.004以下であることを特徴とする、上記(5)又は(6)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【0012】
(8)再溶融し濾過した時に下記(イ)を満足することを特徴とする、上記(5)〜(7)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
(イ)180℃〜230℃かつ0.5MPa〜15MPaで孔径10μm以下の金属フィルターを通して溶融ろ過した時のフィルター1cm2あたり1分間の濾過量が0.05cm3以上である。
【0013】
(9)上記(5)〜(8)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1枚を偏光膜の保護フィルム用いたことを特徴とする偏光板。
(10)上記(5)〜(9)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、セルロースアシレートの単位時間、単位面積当たりの溶融濾過量が増加し、これを溶融製膜することで黄色味がなく面状に優れるセルロースアシレートフィルムを提供できる。さらに、このフィルムを組み込んだ偏光板及び液晶表示装置は光漏れが解消され、これにより画質の優れた液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
<セルロースアシレート>
[セルロースアシレートの種類]
本発明で用いるセルロースアシレートは、セルロースの水酸基が2種類以上のアシル基により、その一部又は全部が置換されたものとして定義される。その状態は、固体であるならパウダー、フレークなどいずれの形態でもよく、ペレット状に加工したものも含まれる。また溶融状態の液体であってもよい。
【0016】
本発明のセルロースアシレートのアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。アシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素数2〜22であることが好ましく、炭素数2〜8であることが更に好ましく、炭素数2〜4であることが特に好ましい。脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル、アルケニルカルボニル又はアルキニルカルボニルなどを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数7〜22であることが好ましく、炭素数7〜19であることが更に好ましく、炭素数7〜13であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれ更に置換基を有していてもよい。また、これらのアシル基は複数同時に存在していてもよい。好ましいアシル基の例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基などを挙げることができる。これらの中でも、更に好ましいものは、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基である。もっとも好ましいものは、アセチル基、プロピオニル基である。
【0017】
[セルロースアシレートの置換度]
上記のセルロースアシレートの中でも、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレートの場合、下記数式(1)〜(3)で表される置換度の条件を満たすことが好ましい(ただし、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基又はブチリル基の置換度を示す。)。
【0018】
数式(1):2.5≦X+Y≦3.0
数式(2):0≦X≦2.5
数式(3):0.3≦Y<3
【0019】
下記式(4)〜(6)を満たすことが、より好ましい。
式(4): 2.6≦X+Y≦2.95
式(5): 0.1≦X≦1.45
式(6): 1.2≦Y≦2.95
【0020】
Yの1/2以上がプロピオニル基の場合、下記式(7)〜(9)を満たすことがさらに好ましい。
式(7):2.6≦X+Y≦2.95
式(8):0.1≦X≦0.95
式(9):1.5≦Y≦2.95
【0021】
Yの1/2未満がプロピオニル基の場合、下記式(10)〜(12)を満たすことがさたに好ましい。
式(10):2.6≦X+Y≦2.95
式(11):0.5≦X≦1.8
式(12):1.3≦Y≦2.5
【0022】
Yの1/2以上がプロピオニル基の場合、下記式(13)〜(15)を満たすことが特に好ましい。
式(13):2.7≦X+Y≦2.95
式(14):0.2≦X≦0.75
式(15):1.8≦Y≦2.9
【0023】
Yの1/2未満がプロピオニル基の場合、下記式(16)〜(18)を満たすことが特に好ましい。
式(16):2.7≦X+Y≦2.95
式(17):0.7≦X≦1.4
式(18):1.3≦Y≦2.0
【0024】
上記数式(1)〜(18)で表される置換度設定のように、アセチル基の置換度を少なくし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度の総和を多くすることにより、セルロースアシレートフィルムの延伸中に伸びむらが発生し難く、レターデーション(Re)及び厚み方向レターデーション(Rth)のむらが生じにくい上、結晶融解温度(Tm、以下融点とも言う)を下げることができるので好ましい。また、溶融熱による分解で発生する黄変を抑制することもできる。
【0025】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重量平均重合度は、200〜700、さらに好ましくは250〜700、特に好ましくは300〜700である。重合度が上記範囲内において、溶融粘度が高くなりすぎたり、得られるフィルムの強度が低下するなどの不具合が生じず、好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーなどで求めた重量平均分子量を、セルロースアシレートの繰り返し単位の分子量で割った値である。
【0026】
本発明で用いられるセルロースアシレートの分子量分布、すなわち重量平均分子量/数平均分子量は、1.5以上5.0以下であり、好ましくは2.0〜4.5であり、更に好ましくは2.5〜4.0である。分子量分布が5を超えると、粘度が高くなり、溶融濾過性が低下する傾向があり好ましくない。一方、工業上の製造特性の点から、1.5以上であることが好ましい。この範囲にすることで濾圧を上げずに濾過することができる。
【0027】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。
【0028】
[セルロースアシレート中の微細異物・針状異物]
セルロースアシレート中の微細異物・針状異物とは、未反応のセルロース繊維に由来するものである。この微細異物・針状異物が光学フィルム中に残存すると、2枚の偏光板をクロスニコルにして、この光学フィルムを挟んだとき、輝点として見える。この輝点は、液晶表示装置において光漏れの原因となる。従って、セルロースアシレートに含まれる微細異物・針状異物はできるだけ少ないほうが好ましい。
針状異物、微細異物とも未反応セルロースアシレートに由来するものであるが、よりアシル化反応が進んでいない(より未反応な)ものが針状異物であり10μm超と大きい。
一方、少しアシル化反応が進みサイズが小さくなったものが微細異物であり10μm以下のものを指す。即ちアシル化が進むことで溶融し易くなるため、未溶融部分(異物)が小さくなる。このような微細異物、針状異物は濾過により除去し難い上、濾材の中に詰まりやすく(目詰まりし易く)濾圧上昇を引き起こしやすく濾過時間が長くなるため、セルロースアシレートの熱分解による変色を起こし易い。特に微細異物はサイズが小さく濾過で取り難い上、濾材中にも堆積し目詰まりを起こしやすく特に問題であった。
具体的には、以下のように、微細異物・針状異物の数を見積もる。
【0029】
サンプル約10mgを、大きさ1cm厚み150μmのスライドガラス2枚に挟み、これを溶融させて、スライドガラスの間のセルロースアシレートの透明な薄膜を、厚み約50μmとする。このセルロースアシレートの薄膜の厚みは、セルロースアシレート薄膜をはさんだ2枚のスライドガラスの厚みから、もとのスライドガラスの厚みを差し引けばよい。なお、厚みが50μmと大きく異なる場合は、後で換算すればよい。このようにして作製した、スライドガラスにはさんだままのセルロースアシレート薄膜を、顕微鏡で任意の1mm2の部位を観察し、1mm×50μm=5×10−2mm当たりの微細異物数をカウントする。このときに観察される長さ10μm以下の微細異物は、5×10−2mm当たり好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは2個以下、もっとも好ましくは0である。
【0030】
〔セルロースアシレートの製造〕
本発明の混合セルロースアシレート合成方法は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されているトリアセチルセルロースの製造方法を参考として、三段階に分けることができる。
【0031】
第一段階は、綿花リンターや木材パルプ等のセルロース原料を、適当量の水又は酢酸もしくは2種類以上の混合酸によるセルロース活性化処理である。この活性化処理を行うことで、セルロースのアシル化の進行を促進させることができる。
【0032】
活性化操作を以下に述べる。
まず、セルロースを適当な大きさに裁断したあと、膨潤媒体を添加する。この後、攪拌することが好ましい。膨潤媒体は、水、少なくとも1種類以上の炭素数2〜6のカルボン酸又はこれらの混合物である。膨潤媒体の分子が小さいほど、セルロース内部に浸透するため、セルロース膨潤効果が高い。従って、水が最大の効果を示すが、水はアシル化前にクエンチする必要があり操作上に負担がかかることから、炭素数2〜6のカルボン酸単独、炭素数2〜6のカルボン酸と水の混合物又は炭素数2〜6のカルボン酸の2種類以上の組み合わせが好ましい。この中でも酢酸は他のカルボン酸よりセルロース膨潤効果が高いことから、酢酸又は酢酸を含む2種類以上のカルボン酸がさらに好ましく、酢酸のみが最も好ましい。容器内の温度は、特に限定はされない。高いほうが活性化が促進されるため好ましいが、セルロースの分解抑制の観点から、100℃以下であることが好ましい。なお、加熱の手段として、マイクロ波を用いてもよい。また、窒素等で圧力をかけることもできる。
【0033】
第二段階は、セルロースの完全アシル化である(2位、3位及び6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.0となるようにする)。
第一段階で活性化した膨潤セルロースにアシル化剤を添加する。アシル化剤添加によりアシル化反応熱が発生するので、セルロースの解重合を抑制する観点から、アシル化剤添加は低温で行うことが好ましい。反応器中の膨潤セルロースを冷却し、さらに添加するアシル化剤も冷却しておくと、解重合抑制の効果が高い。アシル化剤は、溶媒としての酢酸又はカルボン酸、カルボン酸無水物、触媒としてのプロトン酸(硫酸、過塩素酸)又はルイス酸(塩化亜鉛など)からなる。触媒の量はセルロース100質量に対して0.5〜25質量部であることが好ましく、1.0〜12質量部であることがさらに好ましく、1.0〜10質量部であることが最も好ましい。溶媒としての酢酸又はカルボン酸とカルボン酸無水物の比率は、生じるセルロースアシレートの組成比率に依存する。
【0034】
アシル化の方法としては、
(1)触媒以外のアシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合又は逐次添加により反応させる方法、
(2)2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、
(3)カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、
(4)置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基を更にアシル化する方法、
などを用いることができる。
【0035】
従って、アシル化剤は、アシル化の手法に従い、触媒、溶媒、酸無水物の組成を適宜最適化することが重要である。例えば、活性化工程を酢酸で行った場合、触媒と別のカルボン酸の酸無水物を添加するだけで混合セルロースアシレートを得ることができる。反応温度は、0℃以上40℃以下、好ましくは10℃以上30℃以下、さらに好ましくは15℃以上30℃以下にするのがよい。アシル化反応温度が40℃以下において、解重合が進行して、得られる混合セルロースアシレートの分子量が小さくなるなどの問題が生じないので好ましい。一方、反応温度が0℃以上において、十分なアシル化速度が得られるので好ましい。
【0036】
さらに、本発明のセルロースアシレートを得るためには、正確な温度コントロールを行うことが好ましい。温度コントロールの誤差範囲は、設定温度の−4〜+4℃、好ましくは−3〜+3℃、さらに好ましくはー1〜+1℃である。温度コントロールを十分に行うことにより、分子量分布が適宜の範囲の、本発明のセルロースアシレートを得ることができる。なお、この工程の設定温度及び昇温の仕方によって、得られるセルロースアシレートの重合度を変えることができる。このようにして得たアシル化混合物が、透明な高粘度溶液となる時点を反応終了と判断するが、未反応物を消失させるために、これよりさらに数時間反応を継続させることが好ましい。
【0037】
第三段階は、完全にアシル化されたセルロースアシレートの部分的な加水分解である。
アシル化反応終了後に、酢酸/水混合物、又は水を添加し、系内に残存している過剰の無水カルボン酸をクエンチする。系内にアシル化触媒(一般には、残存する硫酸)が残存しているため、50〜90℃に保つことにより、生成しているセルロースアシレートを所望のアシル置換度及び重合度を有するセルロースアシレートに変化させることができる。加水分解終了後には、触媒としての酸の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム又は亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物又は酸化物)の水溶液を添加する。
【0038】
最後に酢酸/水混合物、又は水を滴下し、セルロースアシレートを再沈殿させる。なお、最沈殿の前に、濾過を行い、未反応セルロースを除去すると、微細異物が少なくなる。セルロースアシレートの疎水性が高い場合は、最終ドープを酢酸又は、酢酸/水混合物で希釈し、粘度を10〜50mPa・s程度に低下させて、濾過を行った後、これを水又は酢酸水溶液で再沈殿させる。再沈殿させた固体はパウダー状であることが望ましい。得られた固体を、十分な水で洗浄する。さらに、弱塩基水溶液で洗浄することが望ましい。最後に十分に水で洗浄し、乾燥させる。なお、これらの洗浄が十分でないと、触媒(特に硫酸)が樹脂中に残存し、溶融時の熱劣化につながる。
【0039】
<溶融製膜>
以下に溶融製膜について説明する。
[ペレット化]
溶融製膜をする場合、用いる混合セルロースアシレートは粉体よりもペレットであることが好ましい。ペレット作製は次のようにして行う。
初めに、セルロースアシレートを十分予備乾燥(80℃〜150℃で0.1時間〜24時間)させる。次に二軸混練押出機を用い、150℃以上220℃以下、より好ましくは160℃以上210℃以下、さらに好ましくは170℃以上200℃以下で、スクリュー回転数100rpm以上800rpm以下、より好ましくは150rpm以上600rpm以上、さらに好ましくは200rpm以上400rpm以下で、滞留時間5秒以上3分以下、より好ましくは10秒以上2分以下、さらに好ましくは20秒以上90秒以下でペレット作製する。この時、二軸混練押出機の出口側にベントを設け、真空排気しながらペレットを作製することが好ましい。混合セルロースアシレート粉体は親水的であるため、0.2質量%程度の残留水分が残り、低アセチル化体は水の存在で分解が促進されて架橋性の異物となり易いためである。ベント部の好ましい真空度は、90kPa以下100Pa以上の範囲であり、より好ましくは80kPa以下1kPa以上、さらに好ましくは70kPa以下10kPa以上である。このような真空排気は、2軸混練押出し機のスクリューのケーシングに排気口をつけ、これを真空ポンプに配管することで達成できる。溶融後30℃以上90℃以下、より好ましくは35℃以上80℃以下、さらに好ましくは37℃以上60℃以上の温水中でストランド状に固化させた後、裁断、乾燥する。
【0040】
通常の工程では、二軸混練押出機で溶融した後、数mmの孔が多数あいたダイから、これを5℃から20℃の冷水に押出し、ストランド状にして凝固させた後、搬送させながら脱水、裁断しペレット化する。この時、凝固させるための水温は、上述のように低くするのが一般的である。これはストランドを搬送する際、なるべく弾性率を高くし搬送し易くするためである。これに対し本発明では、温水で凝固させることが好ましい。低アシル化体は水酸基が多く残存しており、水に溶解し易いため、このように凝固浴の温度を上げることで溶出を促す効果がある。このような温水への浸漬時間は3秒以上10分以下が好ましく、より好ましくは5秒以上5分以下、さらに好ましくは10秒以上3分以下である。このような凝固浴の後、5℃以上30℃未満の冷水中に通すことでストランドの弾性率を高め、搬送し易くすることが好ましい。
【0041】
[可塑剤]
溶融製膜の場合、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、リン酸エステル、カルボン酸エステル、多価アルコール系可塑剤(多価アルコールのカルボン酸エステル類)、アルキレングリコール系可塑剤等の可塑剤を添加することが好ましい。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0042】
リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。さらに特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0043】
カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート及びジ2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、及びクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0044】

多価アルコール系可塑剤も好ましく用いることができる。多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。これらの多価アルコール系可塑剤も、また本発明では、上記「低分子化合物」には及ばないが、メルトとスクリューの間の粘着を防止し、メルトの流動をスムースにする効果がある。
【0045】
具体的なグリセリンエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0046】
ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0047】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンプロピオネート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンカプロエート、ポリオキシエチレンヘプタノエート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンノナネート、ポリオキシエチレンカプレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンリノレート、ポリオキシプロピレンアセテート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンブチレート、ポリオキシプロピレンバリレート、ポリオキシプロピレンカプロエート、ポリオキシプロピレンヘプタノエート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンノナネート、ポリオキシプロピレンカプレート、ポリオキシプロピレンラウレート、ポリオキシプロピレンミリスチレート、ポリオキシプロピレンパルミテート、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるがこられに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0048】
これらの可塑剤はセルロースアシレートフィルムに対し0質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上15質量%以下である。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0049】
[その他の添加剤]
可塑剤以外に、種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、劣化防止剤、光学異方性コントロール剤、微粒子、赤外吸収剤、界面活性剤、臭気トラップ剤(アミン等)など)を加えることができる。
赤外吸収染料としては、例えば特開平2001−194522号公報のものが使用でき、紫外線吸収剤は例えば特開平2001−151901号公報に記載のものが使用でき、それぞれ混合セルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。
【0050】
微粒子は、平均粒径が5〜3000nmのものを使用することが好ましく、金属酸化物や架橋ポリマーからなるものを使用でき、混合セルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。劣化防止剤は混合セルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有させることが好ましい。
【0051】
光学異方性コントロール剤としては、例えば特開2001−166144号、特開2002−49128号、特開2003−344655号、特開2003−248117号、特開2003−66230号記載のものを使用することができ、これにより面内のレターデーション(Re),厚み方向のレターデーション(Rth)を制御できる。好ましい添加量はセルロースアシレートに対して0.05〜10質量%であり、より好ましくは0.05〜8質量%、さらに好ましくは0.05〜6質量%である。
【0052】
熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、弱有機酸、フォスフェイト、チオフォスフェイト系化合物、亜リン酸エステル(例えば特開昭51−70316、特開平10−306175、特開昭57−78431、特開昭54−157159、特開昭55−13765に記載のもの)、フォスファイト系化合物(特開2004−182979に記載のもの)を用いることができる。これらは単独で使用しても良く2種類以上混合して添加してもよい。
【0053】
[製膜]
上述のペレット化したセルロースアシレート、可塑剤及びその他の添加剤を混合し、溶融押出機のホッパーに投入する。このときホッパーの温度を、用いられるセルロースアシレートのTgより50℃低い温度以上で該Tgより30℃高い温度以下(以下、Tg−50以上Tg+30℃以下とも記載する。その他の温度範囲についても同様である。)、より好ましくはTg−40℃以上Tg+10℃以下、さらに好ましくはTg−30℃以上Tg以下にする。これによりホッパー内での水分の再吸着を抑制し、上記乾燥の効率をより発現し易くできる。
【0054】
これらの混合物を、120℃以上250℃以下、より好ましくは140℃以上220℃以下、さらに好ましくは150℃以上200℃以下で混練溶融する。この時、溶融混練は一定温度で行ってもよく、また溶融押出機をいくつかの温度領域に分割して制御してもよい。好ましい混練時間は2分以上60分以下であり、より好ましくは3分以上40分以下であり、さらに好ましくは4分以上30分以下である。さらに、溶融押出機内を不活性(窒素等)気体を流しながら、又はベント付き押出機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0055】
次に、溶融したセルロースアシレートをギヤポンプに通し、押出機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルターや焼結金属のリーフディスク等で濾過を行う。メッシュの目の大きさは2〜30μmが好ましく、より好ましくは2〜20μm、さらに好ましくは2〜10μmである。この時、加圧を行い、濾過に要する時間をできるだけ短縮することが好ましい。濾過圧は、0.5MPa以上15MPa以下が好ましく、2Pa以上15MPaがさらに好ましく、10Pa以上15MPaがもっとも好ましい。濾過圧は、高いほうが濾過時間を短くすることができるので好ましいが、フィルターの破損が起こらない範囲の高圧を用いることが好ましい。
【0056】
濾過の時の温度は180℃〜230℃が好ましく、180℃〜220℃がさらに好ましく、190〜220℃がさらに好ましい。濾過時の温度が該上限値以下であれば、熱劣化が進行するなどの問題が生じにくいので好ましく、該下限値以上であれば、濾過に時間がかかりすぎて熱劣化が進行するなどの不都合が生じにくいので好ましい。濾過に要する時間はできるだけ短くして、フィルムの黄変を防止するのがよい。フィルター1cm当たり1分間の濾過量は、0.05〜100cmが好ましく、0.1〜100cmがさらに好ましく、0.5〜100cmがもっとも好ましい。
【0057】
次いで濾過した溶融セルロースアシレートは、フィルターのうしろに取り付けたT型のダイから冷却ドラム上にシート状に押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出してもよい。この時、ダイのリップの間隔を調整することで、幅方向の厚みむらを調整することができる。この後キャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。キャスティングドラムは60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上150℃以下である。
【0058】
この後、キャスティングドラム上にあるシート状のセルロースアシレートは、そのキャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分以上100m/分以下が好ましく、より好ましくは15m/分以上80m/分以下、さらに好ましくは20m/分以上70m/分以下である。製膜幅は1m以上5m以下、さらに好ましくは1.2m以上4m以下、さらに好ましくは1.3m以上3m以下が好ましい。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm以上400μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0059】
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、又は、必要に応じて、造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料として、又は異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムはRe=0〜20nm,Rth=0〜80nmが好ましく、より好ましくはRe=0〜15nm,Rth=0〜70nm、さらに好ましくはRe=0〜10nm,Rth=0〜60nmである。Re、Rthは各々面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°または−90°に近いほど好ましい。
【0060】
[延伸]
本発明において、レターデーションを発現させるために、混合セルロースアシレートフィルムを延伸してもよい。延伸は、Tg以上Tg+50℃以下で実施するのが好ましく、より好ましくはTg+1℃以上Tg+30℃以下、さらに好ましくはTg+2℃以上Tg+20℃以下である。好ましい延伸倍率は10%以上300%以下、より好ましくは20%以上250%以下、さらに好ましくは30%以上200%以下である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここで云う延伸倍率は、以下の数式(4)を用いて求めたものである。
数式(4):延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0061】
このような延伸は縦延伸、横延伸、及びこれらの組み合わせによって実施される。縦延伸は、
(1)ロール延伸(出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸)、
(2)固定端延伸(フィルムの両端を把持し、これを長手方向に次第に早く搬送し長手方向に延伸)、
等を用いることができる。さらに横延伸は、テンター延伸{フィルムの両端をチャックで把持しこれを横方向(長手方向と直角方向)に広げて延伸}等を使用することができる。
【0062】
これらの縦延伸、横延伸は、それぞれ単独で行ってもよく(一軸延伸)、組み合わせて行ってもよい(二軸延伸)。二軸延伸の場合、縦、横逐次で実施してもよく(逐次延伸)、同時に実施してもよい(同時延伸)。縦延伸、横延伸の延伸速度は、10%/分以上10000%/分以下が好ましく、より好ましくは20%/分以上1000%/分以下、さらに好ましくは30%/分以上800%/分以下である。多段延伸の場合、延伸速度は各段の延伸速度の平均値を指す。このような延伸に引き続き、縦又は横方向に0%から10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、150℃以上250℃以下で1秒以上3分以下熱固定することも好ましい。
【0063】
このような延伸により発現する面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)は、Re≦Rthであることが好ましく、より好ましくはRe×1.5≦Rth、さらに好ましくはRe×2≦Rthである。このようなRe,Rthは、好ましくは固定端一軸延伸、より好ましくは縦、横方向の二軸延伸により達成される。すなわち縦、横に延伸することで、面内の屈折率(nmd、ntd)の差を小さくしReを小さくし、さらに、縦、横に延伸し面積倍率を大きくして、厚み減少に伴う厚み方向の配向を強くすることでRthを大きくすることができるためである。このようなRe,Rthにすることで、より一層黒表示での光漏れを軽減することができる。
【0064】
上記面内のレターデーションReは、0nm以上300nm以下が好ましく、10nm以上250nm以下がさらに好ましく、20nm以上200nm以下が特に好ましい。厚み方向のレターデーションRthは、0nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上400nm以下がさらに好ましく、80nm以上350nm以下が特に好ましい。
【0065】
なお、ここでいうレターデーションRe及びRthはそれぞれ以下の数式(5)及び(6)で定義されるものである。
数式(5):Re=|nmd−ntd|×d
数式(6):Rth=[{(nmd+ntd)/2}−n]×d
(ここで、nmd、ntd、nはそれぞれ、長手方向(MD方向)、幅方向(TD方向)、厚み方向(z)の屈折率を指し、dは厚み(nm単位で表したもの)を指す。)
【0066】
このようにして延伸した後の、セルロースアシレートフィルムの膜厚は10〜300μmが好ましく、より好ましくは20μm以上200μm以下、さらに好ましくはは30μm以上100μm以下が好ましい。
【0067】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°又は−90°に近いほど好ましい。すなわち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、さらに好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°又は−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°又は−90±2°、さらに好ましくは90±1°又は−90±1°である。
【0068】
これらの未延伸、延伸の混合セルロースアシレートフィルムは、単独で使用してもよく、これらと偏光板組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用してもよい。
【0069】
〔フィルムの形状の特性〕
本発明の未延伸および延伸フィルムは、黄色味、含有される針状異物数、微細異物数、面状などについて優れた特性を有する。
【0070】
[黄色味]
セルロースアシレートフィルムの黄色は、目視でも判定できるが、吸光度測定により厳密に判定することができる。具体的には、フィルム膜厚が100μmの場合、400nmの波長で吸光度を測定する。この時の吸光度の値は、0〜0.004、好ましくは0〜0.0035、さらに好ましくは0〜0.003である。なお、膜厚が異なる場合の吸光度の値は、膜厚に正比例することから、測定値をその膜厚で除した後100を乗ずることにより、膜厚100μmの値に換算することができる。
【0071】
[面状]
セルロースアシレートフィルムの面状は、目視でも判定できるが、表面粗さ測定機により厳密に判定することができる。表面粗さの値は0.2μm以下、好ましくは0.15μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下であるのがよい。
【0072】
[セルロースアシレートフィルムの針状異物]
針状異物とは長辺が10μmを超え、短辺が長辺の1/2以下のものを指し、最も頻繁に存在するのが長辺が20〜100μm、短辺が長辺の1/100〜1/5のものである。これは下記の微細異物より濾過寿命を短くし易く、短時間濾過では影響が少ないが、長時間濾過を行うと濾圧上昇を引き起こし易く、これが少ないことが長時間濾過した際の樹脂の着色抑制に有利である。針状異物の評価は、偏光顕微鏡でフィルムの任意の1mmの部位についてそのまま観察し、その数をカウントすればよい。フィルム膜厚を50μmとすると、観察される長辺10μmを超える微細異物は、5個以下、好ましくは3個以下、さらに好ましくは2個以下、もっとも好ましくは0である。このときの単位は、個/(mm×5μm)=個/5×10−2mmとする。フィルムの厚みが異なる場合は、50μm換算して、単位を個/5×10−2mmとする。
【0073】
[セルロースアシレートフィルムの微細異物]
セルロースアシレートフィルムの微細異物評価は、偏光顕微鏡でフィルムの任意の1mmの部位についてそのまま観察し、その数をカウントすればよい。フィルム膜厚を50μmとすると、観察される長さ10μm以下の微細異物は、5個以下、好ましくは3個以下、さらに好ましくは2個以下、もっとも好ましくは0である。このときの単位は、個/(mm×5μm)=個/5×10−2mmとする。フィルムの厚みが異なる場合は、50μm換算して、単位を個/5×10−2mmとする。
【0074】
[セルロースアシレートフィルムの濾過性]
製膜した際に生じる端部のトリミング屑は、再度溶融しフィルム原料として使用する。このため製膜したセルロースアシレートフィルムを再溶融し濾過した時、上記[製膜]のところで記載した方法で濾過した際に下記を満足することが好ましい。
即ち、180〜230℃、より好ましくは180〜220℃、さらに好ましくは190〜220℃で、かつ0.5〜15MPa、より好ましくは2〜15MPa、さらに好ましくは10〜15MPaで、孔径10μm以下、より好ましくは2〜10μmの金属フィルターを通して溶融ろ過した時に、フィルター1cm2あたり1分間の濾過量が0.05cm3以上が好ましく、より好ましくは0.05〜100cm、さらに好ましくは0.1〜100cm3、特に好ましくは0.5〜100cmである。
【0075】
〔表面処理〕
混合セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、混合セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層及びバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理を用いることができる。
【0076】
ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体は、このような条件においてプラズマ励起される気体であり、例えばアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンなどのフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で、20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらのフィルム表面処理の中でも特に好ましいものは、アルカリ鹸化処理であり、混合セルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0077】
[アルカリ鹸化処理]
アルカリ鹸化処理では、セルロースアシレートフィルムを鹸化液に浸漬してもよく、セルロースアシレートフィルムに鹸化液を塗布してもよい。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽に、フィルムを0.1分から10分かけて通したあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0078】
塗布方法の場合には、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法及びE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、フィルムに対する鹸化液の濡れ性をよくし、また鹸化液溶媒によってフィルム表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つことのできる溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。
【0079】
アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗し又は酸で洗浄したあと、水洗することが好ましい。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、WO02/46809号パンフレットに内容の記載が挙げられる。
【0080】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁に記載されている。
【0081】
これらの表面処理、下塗工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0082】
〔機能層との組み合わせ〕
本発明の混合セルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光層の付与(偏光板)である。以下に偏光層との組み合わせを説明する。
【0083】
[偏光層]
(偏光層の素材)
偏光板は、本発明のセルロースアシレートフィルムに、偏光膜を貼り合わせるなどして偏光層を付与することにより作製することができる。
現在市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素又は二色性色素の溶液に浸漬し、ポリマー中に、ヨウ素又は二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光層としては、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光層も利用できる。偏光膜におけるヨウ素及び二色性色素は、偏光膜を形成するポリマー中で配向することで偏向性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素又はアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ基、アミノ基、ヒドロキシル基など)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法、公技番号2001−1745号、58頁(発行日2001年3月15日)に記載の化合物が挙げられる。
【0084】
偏光膜を形成するポリマーは、それ自体架橋可能なポリマー又は架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することもできる。ポリマーには、例えば特開平8−338913号公報の中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー{例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなど}が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
【0085】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号及び同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールは、2種以上を併用してもよい。
【0086】
偏光膜の厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よく、現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。偏光膜形成用ポリマーは架橋していてもよい。また架橋性の官能基を有するポリマーやモノマーを偏光膜形成用ポリマー中に混合してもよく、偏光膜形成用ポリマー自身に架橋性官能基を付与してもよい。架橋は、光、熱又はpH変化により行うことができ、架橋構造をもったポリマーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂など)も、架橋剤として用いることができる。ポリマーへの架橋剤の添加量は、ポリマーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。このことにより、偏光膜の配向性、耐湿熱性が良好となる。架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0087】
(偏光膜の延伸)
偏光膜は、偏光膜形成用ポリマーフィルムを延伸するか(延伸法)、又はラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行ってもよく(平行延伸)、斜め方向に行ってもよい(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが、斜め方向に10゜から80゜の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。以下に延伸の手法について説明する。
【0088】
(イ)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の重量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、就中17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが、前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は1.2〜3.5倍、就中1.5〜3.0倍である。この後、50℃から90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0089】
(ロ)斜め延伸法
これには特開2002−86554号公報に記載の、斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必要である。好ましい含水率は5%以上100%以下、より好ましくは10%以上100%以下である。延伸時の温度は40℃以上90℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。湿度は50%RH以上100%RH以下が好ましく、より好ましくは70%RH以上100%RH以下、さらに好ましくは80%RH以上100%RH以下である。長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。延伸の終了後、50℃以上100℃以下、より好ましくは60℃以上90℃以下で、0.5分以上10分以下乾燥する。より好ましくは1分以上5分以下である。このようにして得られた偏光膜の吸収軸は、10゜から80゜が好ましく、より好ましくは30゜から60゜であり、さらに好ましくは実質的に45゜(40゜から50゜)である。
【0090】
(セルロースアシレートフィルムと偏光膜の貼り合せ−偏光層の形成)
前記の鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して作製した偏光膜を貼り合わせることにより、セルロースアシレートフィルムに偏光層を付与して偏光板を作製する。貼り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と、偏光膜の延伸軸方向が45゜になるように行うのが好ましい。貼り合わせの接着剤は、特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。
【0091】
このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。さらに、このようにして得た偏光板は、λ/4板と積層して、円偏光を作製することができる。この場合λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45゜になるように積層する。この時、λ/4は特に限定されないが、より好ましくは、低波長ほどレターデーションが小さくなるような、波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20〜70゜傾いた吸収軸を有する偏光膜、及び液晶性化合物からなる光学異方性層からなるλ/4板を用いることが好ましい。
【実施例】
【0092】
以下に、本発明のセルロースアシレートフィルムについての、具体的な実施例を記述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
〔セルロースアシレートの合成〕
セルロースアシレートを、以下のようにして合成した。
【0094】
《実施例A》
合成例1
裁断した広葉樹パルプセルロース200.0gと、酢酸100.0gを5Lセパラブルフラスコに仕込んだ。窒素ガスを封入し、外温を60℃とし、4時間攪拌した。このようにして得た酢酸膨潤セルロースを、氷浴で冷却した。これに、−20℃以下に冷却したアシル化剤混合物(酢酸130.4g/無水酪酸111.0g/酪酸1069.2g/無水酪酸960.0g/硫酸14.0g)を一度に添加した。0.5時間後に氷浴をとり、1.5時間かけて25℃に昇温した。
【0095】
反応液がクリアになった後、外温5℃とし、冷却した酢酸/水(3/1)混合物305.0gを滴下した。なお、この工程では内部温度を25℃以下に抑えた。滴下後、60℃で4時間攪拌し、酢酸マグネシウム4水和物/酢酸/水(1/1/1)130.0gを滴下した。これを酢酸23.2kgで希釈し、この溶液を5μmフィルターで加圧濾過を2回行った。得られた溶液を水5L中に滴下し、白色沈殿を得た。この白色沈殿を加圧濾過装置で濾過し、溶液成分を取り除いた。さらに、加圧濾過装置内のこの白色沈殿を水50Lで洗浄した後、60℃の温水を加え、1時間攪拌し、加圧濾過で溶液成分を取り除いた。この温水洗浄をさらに2回繰り返した。そのあと、水酸化カルシウム0.005%水溶液で40℃で1時間撹拌し、水溶液を除去した後、水で十分に洗浄した。得られた白色沈殿を遠心分離にかけ、水分を除去し、最後に100℃で真空乾燥を行った。得られた白色個体のセルロースアセテートブチレート(CAB1)は390gであった。
【0096】
合成例2
合成例1において、反応終了後の酢酸希釈溶液の5μmフィルター加圧濾過を行わない以外は、合成例1と全く同様にしてセルロースアセテートブチレートの合成を行った。得られた白色固体のセルロースアセテートブチレート(CAB2)は390gであった。
【0097】
合成例3
合成例1において、反応温度を30℃、アシル化剤混合物を添加した後の、氷浴冷却時間を0.2時間、30℃に昇温する時間を0.8時間とする以外は、合成例1とまったく同様にしてセルロースアセテートブチレートの合成を行った。得られた白色固体のセルロースアセテートブチレート(CAB3)は380gであった。
【0098】
合成例4
イーストマンケミカル社製のセルロースアセテートブチレート(CAB#381−20)400gを酢酸20Lに溶解させ、この溶液を5μmフィルターで加圧濾過を2回行った。得られた溶液に、酢酸/水(3/1)溶液12L、さらに水7Lを滴下し、白色沈殿を得た。この白色沈殿を加圧濾過装置で濾過して、溶液成分を取り除いた。さらに、加圧濾過装置内のこの白色沈殿を水50Lで洗浄した後、60℃の温水を加え、1時間攪拌し、加圧濾過で溶液成分を取り除いた。次いでこれに水酸化カルシウム0.005%水溶液で40℃で1時間撹拌し、水溶液を除去した後、水で十分に洗浄した。得られた白色沈殿を遠心分離にかけ、水分を除去し、最後に100℃で真空乾燥を行った。得られた白色個体のセルロースアセテートブチレート(CAB381−20−1)は315gであった。
【0099】
合成例5
イーストマンケミカル社製のセルロースアセテートプロピオネート“CAP#482−20”400gを酢酸20Lに溶解させ、この溶液を5μmフィルターで加圧濾過を2回行った。得られた溶液を水50L中に滴下し、白色沈殿を得た。この白色沈殿を加圧濾過装置で濾過して、溶液成分を取り除いた。さらに、加圧濾過装置内のこの白色沈殿を水50Lで洗浄した後、60℃の温水を加え、1時間攪拌し、加圧濾過で溶液成分を取り除いた。次いでこれに水酸化カルシウム0.005%水溶液で40℃で1時間撹拌し、水溶液を除去した後、水で十分に洗浄した。得られた白色沈殿を遠心分離にかけ、水分を除去し、最後に100℃で真空乾燥を行った。得られた白色個体のセルロースアセテートプロピオネート(CAP482−20−1)は320gであった。
【0100】
〔セルロースアシレートの構造解析及び濾過性評価〕
[構造解析]
合成例で合成したCAB1〜3、CAB381−20−1、CAP482−20−1、並びにイーストマンケミカル社製(CAB381−20)及び(CAP482−20)の物性データを表1に示す。
【0101】
なお、それぞれのアセチル、プロピル及びブチリル置換度、全置換度はH NMR(重クロロホルム中)で決定した。これらの置換度の値から、繰り返し単位の分子量を求めた。
【0102】
数平均分子量及び重量平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算法)で求め、これらの値を繰り返し単位の分子量で割ることで、数平均重合度及び重量平均分子量を算出した。さらに、分子量分布=重量平均分子量/数平均分子量の値を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0103】
[微細異物、針状異物測定]
合成例で合成したCAB1〜3、CAB381−20−1、CAP482−20−1、並びにイーストマンケミカル社製“CAB381−20”及び“CAP482−20”のそれぞれ約10mmgを、厚み150μmで1cm四方のスライドグラス上にのせ、同じスライドガラスで挟み込みこんだ。これを融点以上に加熱溶融させ、厚み約50μmの薄膜にした。このときの状態を、偏光板を直交させた偏光顕微鏡を用い、倍率100倍で観察した。
ここで、1mm当たりに観察される微細異物、針状異物の数を目視でカウントした。単位は、個/(mm×5μm)=個/5×10−2mmとした。得られた結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例1〜7及び比較例1〜8
合成例で合成したCAB1〜3、CAB381−20−1、CAP482−20−1、並びに参考例のイーストマンケミカル社製“CAB381−20”及び“CAP482−20”を、溶融濾過装置(5μm焼結金属フィルター、濾過面積4cm)に入れて、表2の温度と圧力で加圧濾過した。濾過開始1分から2分の間の1分間に得られる体積を計り、1分当たりに得られる体積を求め、濾過面積で割った。これを単位時間当たり単位面積当たりの濾過量とした。単位は、cm/分cm=cm/分とした。さらに、濾過後の着色を目視により評価した。
【0106】
得られた結果を表2に示す。比較例1では濾過速度が遅すぎて濾過ができなかった。また比較例2ではフィルターが破損し、濾過ができなかった。
【0107】
【表2】

【0108】
表2の結果が示すように、濾過条件が本発明の範囲であれば、濾過後の樹脂の着色がみられない。一方、本発明の範囲外の場合には、濾過後に樹脂が変色している、濾過できないなどの欠陥があった。
【0109】
〔セルロースアシレートフィルムの溶融流延製膜〕
実施例11〜12及び比較例11
合成例1及び合成例4でそれぞれ調製したCAB1、CAB381−20−1と参考例のイーストマンケミカル社製“CAB381−20”を以下のように、溶融製膜した。
【0110】
(1)ペレット化
上記のセルロースアセテートブチレート(CAB)樹脂を、それぞれ120℃で3時間乾燥し、含水率を0.1質量%にした。これに、可塑剤トリフェニルホスフェートを添加した。これらを混合したものを2軸混練押出機のホッパーに入れ、さらに温度200℃、スクリュー回転数200rpm、滞留時間80秒で混練した。このようにして融解した後、40℃の水浴中に直径3mmのストランド状に押出し1分間浸漬した後(ストランド固化)、10℃の水中を30秒通過させ温度を下げ、長さ5mmに裁断した。このようにして調製したペレットを100℃で10分乾燥した後、袋詰した。
【0111】
(2)製膜
上記方法で調製したペレットを、110℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これをホッパーに投入し、220℃で溶融した後、5μm焼結金属フィルターを用いて10MPaで
加圧濾過した。濾過速度は表2に示す結果とほぼ同等であった。これらの溶融CABを、T/D比(リップ間隔/製膜フィルムの厚み)4、キャスティングドラム(CD)とダイの間隔(CD−ダイ間の間隔を製膜幅で割り百分率でしめしたもの)10%で製膜した。固化した膜状物を剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で10m巻き取った。
【0112】
(3)延伸
(2)で得た膜状物(未延伸フィルム)をMD方向70%、TD方向70%の倍率で延伸した。この後、両端各5%ずつトリミングすることにより、延伸されたセルロースアシレートフィルムを得た。これらフィルムの黄色味、面状、微細偏光異物を以下の手法に従い測定した。なお、延伸はそれぞれのセルロースアシレートフィルムのTgより10℃高い温度で、300%/分で実施した。
【0113】
[セルロースアシレートフィルムの評価]
(黄色味)
上記セルロースアシレートフィルムのサンプルを、400nmの波長で吸光度を測定し、この値により黄色味を判断した。目視で確認できる境界値を、膜厚が100μmの場合で、0.004とした。この値以上の時、黄色味があり、この値以下の時、黄色味がなしとした。なお、膜厚が異なる場合の吸光度の値は、膜厚に正比例することから、100μmの換算値を示した。得られた結果を表3に示す。
【0114】
(面状)
上記フィルムのサンプルの表面を、表面粗さ測定機で測定した。表面粗さが確認できる境界値を、0.2μmとした。この値以上の時、面状が不良、この値以下の時、面状が良好とした。得られた結果を表3に示す。
【0115】
(微細偏光異物)
流延製膜後の前記膜状物を、偏光板を直交させた偏光顕微鏡を用いて倍率100倍で観察し、ここで1mm当たりに観察される10μm未満の白色に輝く異物の数を目視でカウントした。フィルムの厚みは50μmを基本とし、単位は個/(mm×5μm)=個/5×10−2mmとした。なお、厚みが異なる場合は、50μmに換算した。得られた結果を表3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
〔偏光板の作製〕
実施例21〜22及び比較例21
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化処理
上記で未延伸および延伸されたセルロースアシレートフィルムのサンプルを、次のように鹸化処理した。
NaOHの1.5N水溶液を鹸化液として、これを60℃に調温し、サンプルフィルムを2分間浸漬した。この後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0118】
(2)偏光膜の作製
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与えて、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム“9X75RS”{(株)クラレ製}を、長手方向に延伸した。
【0119】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを、PVA“PVA−117H”{(株)クラレ製}3質量%水溶液を接着剤として、セルロースアシレートフィルムの長手方向が45゜となるように、「延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム」の層構成で貼り合わせて偏光板を作製した。なお、未延伸セルロースアシレートフィルムは延伸前のセルロースアシレートフィルムを使用した。併せて、0°、90°となるようにも貼り合せた。
【0120】
〔液晶表示装置の作製〕
上記で作製した偏光板を、富士通(株)製15インチディスプレー“VL−1530S”(VA方式)の偏光板に代えて使用した。このようにして得た液晶表示装置を、下記の方法に従い光漏れ量を測定した。
【0121】
[光漏れ評価]
上記液晶表示装置を、全面黒表示として真っ暗な部屋の中に置き、この時の画面の明るさを光度計で測定した。この光量の値を、全面白表示にした時の値で割り、百分率で表した量を「光漏れ量」とした。得られた結果を表4に示す。併せて、0°、90°となるように貼り合せた場合でも同様の結果が得られた。
【0122】
【表4】

【0123】
表3及び4の結果から明らかなように、本発明の範囲のセルロースアシレートフィルムは、フィルムの着色がなく、その面状にも優れ、フィルム中に含まれる微細異物の数も少ない。またこのようなセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置は、光漏れがない。一方、本発明の範囲外のフィルムは、フィルムの着色が起こり、その面状が劣り、フィルム中にはかなりの量の微細異物が含まれていた。そしてのような、本発明の範囲外のセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置は、光漏れが見られた。
【0124】
また、未延伸の上記セルロースアシレートフィルムにも上記のように鹸化処理を行い、上記鹸化済み延伸セルロースアシレートフィルムと合わせて、上記方法に準じて下記構成の偏光板を作成した。
・偏光板A:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/フジタック(富士写真フイルム製TD80)
・偏光板B:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム
・偏光板C:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/フジタック(富士写真フイルム製TD80)
・偏光板D:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム
・偏光板E:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/延伸セルロースアシレートフィルム
【0125】
これらの偏光板を、上記の方法に従い液晶表示装置に組み込み、光漏れ量を測定した。実施例11、実施例12の各々の延伸、未延伸フィルムを組み合わせて偏光板A〜Eを調製したが、いずれも光漏れは0%であった。
【0126】
《実施例B》
(合成例8)
酪酸、無水酪酸をプロピオン酸、無水プロピオン酸に置き換えた以外は、上記合成1に準じてセルロースアセテートプロピオネートを作成した。この時、広葉樹パルプセルロース、アシル化剤混合物の(酢酸+無水酸)/(プロピオン酸+無水プロピオン酸)の比率を変えることで表5に示すような置換度の異なったCAPを合成した(なお、酢酸/無水酪酸、プロピオン酸/無水プロピオン酸の重量比は両方とも54/46とした)。
【0127】
アシル化反応が終了し反応液がクリアになった後、合成例1と同様に冷却した酢酸/水(3/1)混合物を滴下した。この後の熟成工程(60℃で攪拌し、合成例1と同様に酢酸マグネシウム4水和物/酢酸/水(1/1/1)を滴下)の時間を変えることで重量平均重合度を調整した(時間を長くすることで分子量は低下)。これを合成例1と同様にして酢酸で希釈後5μmフィルターで加圧濾過を行った。得られた溶液を水/酢酸混合液中に滴下し対外は合成例1に従い沈殿を生成させ、加圧濾過、温水洗浄を行った。このとき酢酸/水の混合比を変えることで分子量分布を調整した(酢酸比率を大きくすることで分子量分布を小さくすることができる)。そのあと、合成例1に従い水酸化カルシウム水溶液で撹拌し、水溶液を除去した後、水で洗浄したあと、水分を除去し、真空乾燥を行い、表5記載のCAPを得た。
【0128】
(合成例9)
合成例1に準じ、アシル化剤混合物の(酢酸+無水酪酸)/(酪酸+無水酪酸)の比率を変えることで表5に示すような置換度の異なったセルロースアセテートブチレート(CAB)を合成した。さらに熟成工程の時間を変えることで重量平均重合度を調整した。
【0129】
〔構造解析及び濾過性評価〕
実施例Aに準じて置換度、分子量分布、重量平均重合度、微細異物を測定し表5に示した。
これらのセルロースアシレートの濾過性を実施例Aに準じて評価し、結果を表5に示した。本発明を実施したものは良好な濾過特性を示し着色も見られなかった。
【0130】
〔溶融流延製膜〕
(1)溶融製膜
合成例8,9および合成例4、参考例2に対し、実施例Aと同様にしてペレット化した。このとき、下記の中から表5に記載のように可塑剤を添加した。
・可塑剤A:ポリエチレングリコール(分子量600)
・可塑剤B:グリセリンジアセテートオレート
・可塑剤C:グリセリンテトラカプリレート
・可塑剤D:グリセリンジアセテートラウレート
【0131】
さらに全水準に、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)を0.05質量%、安定剤(ビス2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)を0.1質量%添加した。なお、ここに示す質量%は、全てセルロースアシレートに対する重量比を示す。
このようにして調製したペレットを用い、実施例Aに準じて表5のように溶融濾過した後、溶融製膜を行った。このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムを実施例Aに準じて評価し表5に示した。なお、Re,Rthは以下の方法で測定した。
【0132】
(Re、Rth測定法)
25℃、60%rhにて4時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃60%RHにおいて、サンプルフィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差値を測定する事から、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出した。
【0133】
本発明で着色、異物の少ないセルロースアシレートおよびセルロースアシレートフィルムを達成するには、濾過条件(温度、圧力、濾過量)が本発明の範囲に入っていることが必須条件である。これからはずれると樹脂が劣化し、これが着色、偏光板にした時の光漏れを引き起こす(比較例101〜105)。さらに、この時原料樹脂中の微細、針状異物が少ないことが好ましい。原料中の異物は溶融濾過の際に目詰まりを起こし、濾過量を上げられなくなる。この結果、着色、偏光板にした時の光漏れが増加し易い上、異物を十分に取りきれず、これも光漏れを増大させる(実施例110と比較例105)。
【0134】
(2)延伸
上記セルロースアシレートフィルムをTgより10℃高い温度で300%/分で表5に記載の倍率だけ延伸した。これらフィルムの黄色味、面状、微細偏光異物、表面粗さを実施例Aと同様にして測定し表5に示した。
【0135】
〔偏光板の作製〕
実施例Aと同様にして上記延伸、未延伸のセルロースアシレートフィルムを鹸化処理した。
実施例Aに従い偏光膜の作製した後、下記構成の貼り合せを実施例Aに従い実施した。
・偏光板A:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/フジタック(富士写真フイルム製TD80)
・偏光板B:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム
・偏光板C:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/フジタック(富士写真フイルム製TD80)
・偏光板D:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム
・偏光板E:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/延伸セルロースアシレートフィルム
【0136】
〔液晶表示装置の作製〕
上記で作製した偏光板を、実施例Aに準じて液晶表示装置に組み込み、光漏れ量を測定し、結果を表5に示した。本発明の範囲のセルロースアシレートフィルムは光漏れが見られず良好であった。
【0137】
【表5】

【0138】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃〜230℃かつ0.5MPa〜15MPaで孔径10μm以下の金属フィルターを通して溶融ろ過した時のフィルター1cm2あたり1分間の濾過量が0.05cm3以上であるセルロースアシレート。
【請求項2】
分子量分布が5.0以下であり、かつ含有される長辺が10μmを超える針状異物が5×10−2mmあたり0〜10個および10μm以下の微細異物が5×10−2mmあたり0〜10個であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレート。
【請求項3】
セルロースアシレートが、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースアシレート。
【請求項4】
セルロースアシレートの重量平均重合度が200〜700であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレートを溶融製膜して得られるセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
含有される長辺が10μmを超える針状異物が5×10−2mmあたり0〜10個であることを特徴とする、請求項5に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
波長400nmで測定した時の膜厚100μmのフィルムに換算した吸光度が0.004以下であることを特徴とする、請求項5又は6に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
再溶融し濾過した時に下記(イ)を満足することを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(イ)180℃〜230℃かつ0.5MPa〜15MPaで孔径10μm以下の金属フィルターを通して溶融ろ過した時のフィルター1cm2あたり1分間の濾過量が0.05cm3以上である。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1枚を偏光膜の保護フィルム用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−124642(P2006−124642A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144572(P2005−144572)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】