説明

セルロース繊維の劣化判定方法および劣化判定装置

【課題】試料量として少量のセルロース繊維であっても十分な精度でその劣化度を判定できることができるセルロース繊維の劣化測定方法を提供する。
【解決手段】セルロース繊維の屈折率をベッケ線法または波長掃引型ベッケ線法で求め、この屈折率から直接劣化度合を判定するかまたは屈折率から平均重合度を求め、この平均重合度から劣化度合を判定する。また、分散染色法によってセルロース繊維の分散色を観測し、この分散色を数値化して解析し平均合致波長を算出して、この合致波長から劣化度合を求めるかあるいは平均合致波長から平均重合度を求め、これから劣化度合を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セルロース繊維の劣化度を判定する方法およびその装置に関し、セルロース繊維の屈折率を測定し、この屈折率からセルロース繊維の劣化度を推定するか、あるいはこの屈折率からセルロース繊維の平均重合度を算出し、この平均重合度から劣化度を推定するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器、油入リアクトルなどの油入電気機器の寿命は、巻線に巻かれたクラフト紙などの絶縁紙の劣化度に左右されると言われている。絶縁紙は、セルロース繊維から構成されており、絶縁紙の劣化はセルロース繊維の劣化でもある。
セルロース繊維の劣化は、セルロースの分子鎖の切断によるものであり、この分子鎖の切断によりセルロースの平均重合度が低下し、同時にアルコール、アルデヒド、有機酸、二酸化炭素および一酸化炭素などの劣化生成物が生成する。
【0003】
このような現象を利用して、稼働中の油入電気機器の絶縁紙の劣化度を推定することが提案され実施されている。「電気協同研究,Vol.54, No.5, (1999).」にあるようにこの方法は、絶縁油中に溶解している上記劣化生成物の含有量を定量し、この含有量から絶縁紙の劣化を推定するものである。
しかしながら、この方法にあっては、測定に手間を要し、精度が十分でない欠点があった。
【0004】
また、特開2003−207440号公報には、絶縁紙から剥離し、絶縁油中を浮遊しているセルロース繊維を採取し、このセルロース繊維について、X線回折、熱分析、質量分析、赤外分光分析、走査型電子顕微鏡観察などよってセルロース繊維の物理的化学的性状を計測し、この結果から絶縁紙の劣化度合を推定する方法が開示されている。
しかし、この方法では、計測に必要なセルロース繊維量が多く、少量のセルロース繊維量では測定精度が劣り、このため多量の絶縁油を油入電気機器から採取する必要がある。
【0005】
さらに、セルロース繊維の劣化度を知ることは、上述の油入電気機器の絶縁紙の劣化の推定のみならず、各種紙、各種紙製品、食物繊維としてセルロース繊維を含む食品などにおいても、その生産管理上必要となる。
【特許文献1】特開2003−207440号公報(特許第3908540号)
【特許文献2】特開2001−210538号公報
【特許文献3】特開平10−19879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明における課題は、試料量として少量のセルロース繊維であっても十分な精度でその劣化度を判定できることができるセルロース繊維の劣化測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、セルロース繊維の屈折率をベッケ線法で測定し、この屈折率に基づいてセルロース繊維の劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法である。
請求項2にかかる発明は、セルロース繊維の屈折率をベッケ線法で測定し、この屈折率からセルロース繊維の平均重合度を求め、この平均重合度に基づいて劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法である。
【0008】
請求項3にかかる発明は、セルロース繊維の屈折率を波長掃引型ベッケ線法で測定し、この屈折率に基づいてセルロース繊維の劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法である。
請求項4にかかる発明は、セルロース繊維の屈折率を波長掃引型ベッケ線法で測定し、この屈折率からセルロース繊維の平均重合度を求め、この平均重合度に基づいて劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法である。
【0009】
請求項5にかかる発明は、複数のセルロース繊維からなる集団について個々のセルロース繊維の屈折率を測定して集団の屈折率分布を求め、この屈折率分布がマルチモーダルである場合に2以上の正規分布様分布に分離することにより、集団中に劣化程度の異なる2以上の小集団が存在することを推定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のセルロース繊維の劣化判定方法である。
【0010】
請求項6にかかる発明は、分散染色法により、セルロース繊維の屈折率に由来する分散光の分散色を測色し、この分散色からセルロース繊維の劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法である。
請求項7にかかる発明は、分散染色法により、セルロース繊維の屈折率に由来する分散光の分散色を測色し、この分散色からセルロース繊維の平均重合度を求め、この平均重合度に基づいて劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法である。
【0011】
請求項8にかかる発明は、セルロース繊維を顕微鏡観察するために用いられる浸液を構成する少なくとも1成分が、その成分をなす分子の主軸がセルロース繊維の繊維軸に平行または垂直に配向するものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のセルロース繊維の劣化判定方法である。
【0012】
請求項9にかかる発明は、測定対象となるセルロース繊維が、油入電気機器内の絶縁油に浮遊しているセルロース繊維を採取したものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のセルロース繊維の劣化判定方法である。
【0013】
請求項10にかかる発明は、一定の波長分散を有する光を発する光源を備え、セルロース繊維の屈折率に由来する分散光を観察する位相差分散顕微鏡と、
この位相差分散顕微鏡の接眼レンズからの分散光を3色以上の色の光成分に分光する分光器と、
この分光器によって分光された3色以上の色の光成分の強度を測定し、かつ分光された光成分を合成して画像とする測色部と、
この測色部によって得られた画像中の任意の領域について、測色された各光成分の強度に基づいてセルロース繊維の平均重合度を演算する演算部と、この演算部からの演算結果を表示するとともに測色部からの画像を表示する出力部を備えたことを特徴とするセルロース繊維の劣化判定装置である。
【0014】
請求項11にかかる発明は、油入電気機器内の絶縁油に浮遊しているセルロース繊維について、分散染色法により分散色のRGB成分を求め、R成分とB成分とからなる測定点の分布を求め、さらにこの測定点の分布から特定領域存在比を求め、
この特定領域存在比と別途測定した絶縁紙の最低平均重合度との相関関係に基づいて、油入電気機器の絶縁紙の劣化程度を推定することを特徴とする油入電気機器の劣化推定方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明者の検討によれば、セルロース繊維の屈折率はセルロース分子の結晶領域の誘電的な特性と非結晶領域の誘電的な性質の平均によって決まり、セルロース繊維の屈折率がその平均重合度とよい相関関係を示すことが明らかになった。
すなわち、セルロース繊維が劣化すると、非結晶領域の分子結合の一部が切断され、平均重合度が低下するものの、切断部分の自由度が増すため、非結晶領域の結晶化が生じる。これにより、結晶領域が増大することで、誘電率が大きくなる。屈折率は誘電率の平方根に比例するので、屈折率が高くなる。結局、セルロース繊維が劣化すると、平均重合度が低下し、屈折率が大きくなる。
【0016】
したがって、セルロース繊維の屈折率を測定することで平均重合度が求まり、これからセルロース繊維の劣化を推定することができる。また、このことは、セルロース繊維の屈折率を求めれば、平均重合度を求めなくても、セルロース繊維の劣化を直接判定できることをも意味している。
【0017】
そして、セルロース繊維の屈折率の測定では、その試料量が数μg程度で可能であり、多量の試料を必要することなく、その劣化度合を知ることができる。
また、屈折率の測定方法として、分散染色法または波長掃引型ベッケ線法を採用することで、測定効率が大幅に向上し、測定時間を短縮できる。
【0018】
さらに、屈折率分布を作成し、その分布がマルチモーダル(1つの分布の中に2以上のピークが存在するものを言う)である場合には、2以上の正規分布様の分布に分離することで、劣化度の異なる2種以上のセルロース繊維が試料中に存在することが判明し、それぞれの劣化度を知ることもできる。
また、本発明の判定装置によれば、分散染色法による劣化度の判定を短時間に効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、変圧器などの油入電気機器内の絶縁油中に浮遊しているセルロース繊維の劣化を推定する方法を本発明の一実施形態として説明する。
【0020】
まず、稼働中の油入電気機器から絶縁油を2〜10リットル採取する。この絶縁油をろ過し、絶縁油中に浮遊しているセルロース繊維をろ別する。このセルロース繊維を石油エーテルなどの有機溶剤で洗浄し、付着している絶縁油を除去する。
本発明の方法を行うに必要なセルロース繊維の量は、数十〜数百μg程度で十分であり、繊維本数としては40〜200本程度となる。
【0021】
ついで、このセルロース繊維の屈折率を測定する。この測定は、個々のセルロース繊維1本毎に行われる。なお、セルロース繊維は、グルコースの重合体であり、その重合度は一定ではない。したがって、屈折率は、採取されたセルロース繊維個々では一定ではなく、また測定部位によっても変化する。このため、測定された屈折率値はある分布を持つようになる。
【0022】
本発明では、屈折率の測定に、光学顕微鏡を用い、以下の3種の方法のいずれかで行われる。
(1)ベッケ線法、
(2)波長掃引型ベッケ線法、
(3)分散染色法。
【0023】
「ベッケ線法」は、繊維状物の屈折率を測定する古典的な方法で、その具体的な操作方法は、例えば 栗屋 裕著:「高分子素材の偏光顕微鏡入門」アグネ技術センター(2001)などに詳しく説明されているので、ここでは簡単に説明する。
【0024】
セルロース繊維を検鏡用台のプレパラートの上に置き、これに浸液を加えて完全に浸漬させ顕微鏡観察すると繊維の周囲に光る線が見える。この明るい線をベッケ線といい、ピントを合わせた後に鏡筒とステージの間隔を大きくするとベッケ線は繊維の境界から屈折率の高い側に移動する。
高分子の屈折率は異方性があり、繊維軸方向の屈折率(n‖)は繊維垂直方向の屈折率(n⊥)よりも大きい。よって、ベッケ線は偏光顕微鏡を用い偏光方向を繊維軸に平行に合わせて観察する。いくつかの種類の浸液に浸した状態で検鏡し、浸液の屈折率と比較し、繊維の屈折率を求めることができる。浸液は屈折率を約0.002刻みで準備し、各浸液ごとに100本程度観察し、浸液と屈折率が一致した繊維の本数を度数分布に示す。
【0025】
浸液の成分としては一般的にセダー油(nD=1.503),桂皮油(nD=1.603)などのような植物油やトルエン(nD=1.498)やベンジルアルコール(nD=1.539)のような有機溶剤が使われている。これらのうち、少なくとも2種類の溶媒を用い混合の割合を順次変えて、任意の屈折率を有する浸液を作成する。
浸液に必要な条件は、次の通りである。
・ 試料(セルロース繊維)を膨潤や溶解しない。
・ 使用中に揮発して組成変化を起こさない。
・ 毒性や爆発性がなく、取扱いに危険を伴わない。
【0026】
具体的な操作方法例を以下に示す。
プレパラート上のセルロース繊維のうち20本を無作為に選び出しセルロース繊維の屈折率に近い屈折率を持つと思われる浸液を滴下し、カバーガラスで挟み込む。偏光顕微鏡下でセルロース繊維のベッケ線を観察する。
ベッケ線の見え方には次の3種類がある。
A ベッケ線が繊維の縁より内側 (繊維の方が浸液より屈折率が高い)B ベッケ線が繊維の縁より外側 (繊維の方が浸液より屈折率が低い)C 繊維の縁の輪郭が見えない(繊維と浸液の屈折率が等しい)
この3種類に判定し、判定Cの繊維数を記録する。
【0027】
そして、判定Aがある場合は屈折率が1段階高い浸液を用いて同様な測定を行う。その測定において、再び判定Aがある場合はさらに屈折率が1段階高い浸液を用いて同様な測定を行う。判定Aが無くなった場合はもう1段階高い浸液を用いて同様な測定を行い、再度判定Aが無ければ屈折率の高い側の測定はそこで終了とし、再び判定Aがある場合はこれを繰り返す。
判定Bがある場合も同様に屈折率が1段階低い浸液を用いて順次同様な測定を行い、判定Bが無くなって2つ目の浸液まで測定を繰り返す。最後に判定Cの繊維数を浸液毎に集計し、屈折率の度数分布を作成する。
【0028】
次に、屈折率と平均重合度との関係を示す検量線を作成する。これには、平均重合度が既知の数種のセルロース繊維を試料として上述の操作方法により、屈折率の度数分布を作成し、これの平均屈折率を算出し、この平均屈折率と平均重合度との相関関係をプロットすることで得ることができる。
【0029】
図1は、平均重合度(DP)313から837の既知である6種のセルロース繊維を用いて作成した検量線を示す。図1の曲線Aは、浸液には桂皮油(屈折率1.603)とチョウジ油(屈折率1.530)の混合物を用いた場合の検量線である。曲線Bは、浸液として桂皮油(屈折率1.603)とセダー油(屈折率1.503)に混合物を用いた場合の検量線である。
図1から、セルロース繊維の平均重合度が低下するに従い屈折率が高くなる相関関係が認められ、これに基づいて、セルロース繊維の屈折率を測定することでその平均重合度を求めることができ、これからセルロース繊維の劣化度を判定することができる。
なお、浸液の種類により同じ試料でありながら屈折率測定値が異なることに関しては後述する。
【0030】
このようにして検量線を作成したならば、ついで平均重合度が未知の試料について、上述の操作により屈折率を測定し、屈折率分布を作成する。ついで、この屈折率分布から平均重合度を算出し、さらにセルロース繊維の劣化状態を判定する。
この劣化状態の判定は、次の1〜3の劣化判定基準を用いる。
図2は、某変電所の変圧器から得られた試料についての屈折率分布の例を示すもので、以下の説明はこの例についてのものである。
【0031】
1.屈折率の平均値を用いて判定する方法
セルロース繊維の屈折率分布の平均値を算出し、これを検量線に当てはめて平均重合度を求め、この平均重合度から劣化度を判定する。図2の例では、平均値は1.5715となり、図1の検量線Aから平均重合度は約650となる。
2.屈折率の最大値を用いて判定する方法
セルロース繊維の屈折率分布の最大値を求め、これを検量線に当てはめて平均重合度を求め、この値から劣化度を判定する。図2の例では、最大値は1.5897であるので、平均重合度は約450以下となる。すなわち、図2の左側に、平均重合度100毎の屈折率値の+2σ〜−2σの範囲を記載しており、この範囲から、屈折率1.5897では平均重合度500未満で、400以内の範囲に属することから、このように推定できる。
【0032】
3.屈折率分布から判定する方法
上述のようにして得られたセルロース繊維の屈折率分布は、例えば変圧器内で使用されている種々の絶縁紙から剥離して油中に混入したセルロース繊維から得られたものと考えられる。すなわち、1種の試料内には、出所の異なる複数種のセルロース繊維が混在している可能性がある。
【0033】
例えば、変圧器内でコイルは電磁気学的な作用で発熱し、コイル絶縁紙も加熱され劣化が促進されるが、加熱は一様ではなく、また劣化も一様ではない。また、加熱や劣化状況により、繊維の剥離容易さが変化すると考えられる。そこで絶縁油中のセルロース繊維の屈折率分布より、コイル絶縁紙全体の劣化状況を把握することができると考えられる。その場合、屈折率分布の平均値や最大値のみではなく、分布全体から変圧器の劣化状況が判定される。
【0034】
ここでは、上述の通り、図2に示した上記変圧器の絶縁油から採取されたセルロース繊維の屈折率分布を、劣化の進んだコイル絶縁紙に由来するものとそれ以外のものの分布に分離し、劣化コイル絶縁紙由来の屈折率分布がどの程度の平均重合度を表すかを検量線により推定する例を示す。
図2に示した屈折率分布では、これを眺めることで分布内に2つのピークが存在する可能性を示している。すなわち、屈折率分布がバイモーダルであることを示している。これを屈折率が高いグループからなる分布と低いグループからなる分布に分離する。
分離結果を図2に合わせて示す。
【0035】
浸液の屈折率1.5841〜1.5880(No.25〜27)は、統計学的な評価により、平均重合度500のセルロース繊維の屈折率分布の高い側の1σ〜2σの領域に相当する。
その領域を黄色ゾーン(イ)とする。正規分布を仮定すると1σ以上の範囲にデータの得られる確率は15.9%である。
浸液の屈折率1.5897以上(No.28〜)は平均重合度400のセルロース繊維の屈折率分布の高い側の1.4σ以上の領域に相当する。
その領域を赤色ゾーン(ロ)とする。同様にその領域は8.1%である。
そこでコイル絶縁紙由来の屈折率分布に対して以下の平均重合度を予想をする。
【0036】
黄色ゾーン(イ)に度数を持たない・・・・・予想平均重合度600以上
黄色ゾーン(イ)に1つ以上度数をもち、黄色ゾーン(イ)〜赤色ゾーン(ロ)に15.9%未満存在・・・・・予想平均重合度500〜600
黄色ゾーン(イ)〜赤色ゾーン(ロ)に15.9%以上で赤色ゾーン(ロ)に8.1%未満存在・・・・・予想平均重合度400〜500
赤色ゾーン(ロ)に8.1%以上存在・・・・・予想平均重合度400未満
【0037】
分離した結果、劣化コイル絶縁紙由来と想像されるセルロース繊維数は34本と見積もられ、赤色ゾーンには3本が存在するので、3/34=8.8%>8.1%の度数分布が得られたことから、平均重合度は400未満と予測する。よって、劣化度はかなり進んでいると診断する。
また、コイル絶縁紙以外のものの由来と想像されるセルロース繊維は、49本であって黄色ゾーン(イ)に分布を有しないので、平均重合度600以上と予測し、劣化がさほど進行していないものと診断する。
セルロース繊維全体の平均的な特性を評価するのか、部分的にでも最も劣化した部位を評価したいのかなど、1〜3のいずれの診断基準を用いるかは事例の目的による。
この例では、平均重合度を求めているが、上述のように、屈折率が高い値を示すものは、劣化が進んでいるものと判断できることから、屈折率値から直接劣化度合を判定することも可能である。
【0038】
ところで、ベッケ線法による屈折率の測定にあっては、試料量として極少量の数十本のセルロース繊維でも測定可能であるが、セルロース繊維の屈折率と一致する屈折率を有する浸液を見つけることは、その近辺の屈折率の浸液を次々に取り替えて確認することが必要で、測定に長時間を要する問題がある。
【0039】
この問題を解決する測定方法として、波長掃引型ベッケ線法がある。この測定方法は、1種類の浸液を用い、検鏡用光として波長可変光源からの単色光を用い、これを波長掃引して顕微鏡に入射するものである。
セルロース繊維の屈折率も浸液の屈折率も波長によって変化することから、両者が一致する屈折率の波長の単色光を用いてベッケ線を観察する場合はベッケ線は消失する。
【0040】
よって、単色光の波長を変化させながら浸液に浸したセルロース繊維を観察し、ベッケ線が消失する波長を読み取ればセルロース繊維の屈折率を知ることができる。
波長可変光源としては、例えば白色光源からの白色光を回折格子、プリズムなどの分光手段に入射して分光し、波長400〜700nmの単色光を取り出すモノクロメータとして市販されている製品などを用いることができる。
【0041】
この方法では、浸液の屈折率と波長との関係を予め測定し、屈折率波長依存性を求めておく。ついで、この浸液を用いて、波長可変光源からの単色光を400〜700nmまで掃引して入射し、ベッケ線法と同様にして、ベッケ線の動きがなくなる波長を求める。この波長から、上述の浸液の屈折率依存性に基づいて屈折率を求める。
このようにして求められたセルロース繊維の屈折率から、その劣化度を判定する手順は先に述べたベッケ線法のものと同様である。
この波長掃引型ベッケ線法では、複数の浸液を用いてその都度ベッケ線の動きを見る必要がないため、屈折率測定作業を効率よく、短時間で行うことができる。
【0042】
また、本発明では、ベッケ線法あるいは波長掃引型ベッケ線法において用いられる浸液として、浸液を構成する少なくとも1成分が、その分子の主軸がセルロース繊維の繊維軸に平行または垂直に配向もしくは吸着する特性を有するものであることが好ましく、このような浸液を使用することで、セルロース繊維の繊維軸方向の屈折率の測定値が高くなり、これにより平均重合度の測定精度が向上する。
このような特性を有する浸液成分としては、例えばチョウジ油などがある。
先に示した図1において、桂皮油とチョウジ油との混合物を用いたもの(A)では、桂皮油とセダー油との混合物を用いたもの(B)に比べて屈折率測定値が高くなっているのは、この理由による。
【0043】
ついで、分散染色法によるセルロース繊維の劣化判定方法について説明する。
分散染色法は、ベッケ線法、波長掃引型ベッケ線法とは異なり、直接的にセルロース繊維の屈折率値を求めるものではない。
この方法は、位相差分散顕微鏡を用い、光源光に白色光を使用し、1種の適切な屈折率を有する浸液に試料となるセルロース繊維を浸して検鏡する。
なお、分散染色法において用いられる浸液に関しても、先に述べたように、浸液を構成する少なくとも1成分が、その分子の主軸がセルロース繊維の繊維軸に平行または垂直に配向もしくは吸着する特性を有するものを用いることが好ましい。
【0044】
浸液の屈折率とセルロース繊維の屈折率が一致した波長(以下、合致波長と言う。)では、測定光である白色光からこの波長の光が取り除かれ(消失し)、これ以外の波長の光が合波されて観測される。この観測光は、合致波長の光が取り除かれているので、合致波長に対応した色調を有している。この着色光を分散光と言い、その色調を分散色と言う。
したがって、この分散色は、合致波長に対応し、さらにはセルロース繊維の屈折率に間接的に対応するものとなるので、これを測色することでセルロース繊維の劣化度合を知ることができる。
【0045】
なお、分散染色法は、アスベスト繊維の同定に広く各国で採用されており、その原理、操作方法等に関しては、「ASBESTOS IDENTIFICATION」、著者:W.C.McCRONE、発行所:McCRONE RESAECH INSTITUTE、米国、イリノイ州、シカゴ、発行日:1987年 や「繊維状物質測定マニュアル」作業環境測定シリーズ No.3 第22〜25頁、発行所:(社)日本作業環境測定協会、発行日:平成16年7月28日 などに詳しく解説されている。
また、測定装置としては、例えば株式会社ニコンから、アスベスト測定用位相差分散顕微鏡「80iTP−DPH」などとして市販されているものを使用できる。
【0046】
この発明では、位相差分散顕微鏡から観察される分散光をCCDカメラで撮像し、分散色をRGB成分(R:赤色成分、G:緑色成分、B:青色成分)に分離し、各RGB成分の強度を求める。このようにして得られた分散色に対応するRGB成分を数値化した上、その後の解析を行い、最終的に平均合致波長と平均重合度との関係を表した検量線に基づいてセルロース繊維の平均重合度を求め、その劣化度を判定する。
また、上述のように分散色が間接的に屈折率に対応することから、分散色から劣化度を判定することもできる。
【0047】
以下、その具体な測定手順を説明するが、初めにこの分散染色法による判定に用いられる判定装置について説明する。
【0048】
この判定装置は、一定の波長分散を有する光を発する光源を備え、セルロース繊維の屈折率に由来する分散色を観察する位相差分散顕微鏡と、この位相差分散顕微鏡の接眼部からの分散光を3色以上の色の光に分光する分光器と、この分光器によって分光された3色以上の色の光の強度を測定し、かつ分光された光を合成して画像とする測色部と、この測色部によって得られた画像中の任意の領域について、測色された各光の強度に基づいてセルロース繊維の平均重合度を演算する演算部と、この演算部からの演算結果を表示するとともに測色部からの画像を表示する出力部を備えたものである。
【0049】
図3は、この判定装置の一例を示すものである。この例の装置は、上記光源を備えた位相差分散顕微鏡1と、上記分光器と測色部が複合された3CCD方式のカラービデオカメラ2と、上記演算部をなすパーソナルコンピュータ3と、演算結果およびカラービデオカメラ2からの映像を映し出すディスプレイ4とから構成されている。
【0050】
上記位相差分散顕微鏡1には、先に述べたニコン(株)製アスベスト測定用位相差分散顕微鏡「80iTP−DPH]などとして市販されているものが用いられ、その光源には白色光を発するタングステンランプ、ハロゲンランプなどが用いられる。
分散顕微鏡1の接眼部には、カラービデオカメラ2が配され、接眼部からの分散光を撮像できるようになっている。
【0051】
カラービデオカメラ2には、上記分光器として機能して分散光をRGB成分に分光するプリズムと、分離されたRGB成分をそれぞれ撮像する3個のCCD素子と、RGB成分を個々にパーソナルコンピュータ3にデジタル信号として出力すると同時にRGB成分を合成した分散光の映像をパーソナルコンピュータ3に出力する画像処理部を備えたものが用いられる。
【0052】
パーソナルコンピュータ3には、演算処理プログラムが内蔵されており、このプログラムによって入力されたRGB成分を入力データとして、後述の解析操作が実行できるようになっている。また、カラービデオカメラ2からの分散光の映像をディスプレイ4にそのまま送るようにもなっている。
ディスプレイ4は、パーソナルコンピュータ3からの演算結果が表示されるとともに必要に応じてカラービデオカメラ2からの分散光の映像をパーソナルコンピュータ3において切り替えて、これに表示できるようにもなっている。
【0053】
次に、このような判定装置を用い、試料として平均重合度が837である既知のセルロース繊維を対象とした場合についての基本的な手順を例示する。
位相差分散顕微鏡1には、その光源にハロゲンランプを用い、光源側に横偏光フィルターを挿入し、倍率100倍で検鏡する。
プレパラートに試料となる繊維を載せて桂皮油とチョウジ油の混合浸液(屈折率1.5786)を滴下してカバーガラスを載せる。繊維軸方向が横向きとなるようにステージを回転させる(横偏光フィルターと方向を一致させる。)。
【0054】
位相差分散顕微鏡1からの画像の観察は、ディスプレイ4で行われ、画像の一部を画面内で適宜の倍率で拡大して見ることができるようになっている。パーソナルコンピュータ3には、その拡大部分(ピクセル)の分散色をRGB成分に分解した信号がカラービデオカメラ2から入力され、この信号に基づいてRGB成分の各強度が数値化されるようになっている。
セルロース繊維と浸液の上下の境界面それぞれにピントを合わせて観察する。その境界面はやや暗い1本の線となり観察される。境界に隣接する外側(浸液側)の明るい線上でその繊維を代表すると思われる領域を選ぶ。さらに、周囲100μm幅程度と比較し平均的な10個以上のピクセル(約10μm)を選ぶ。
図4は、この例での観察画像とその一部の測定対象領域を拡大して示したものである
表1に、この例での10個のピクセルのそれぞれのRGB強度を示した。なお、表1中のx、yは、各ピクセルの画像内でのアドレスを表している。
【0055】
【表1】

【0056】
次に、測定範囲におけるRGB強度の平均を求める。同時に、測定範囲から20μm以上離れた領域で測定範囲とおよそ同面積の背景色(バックグラウンド)のRGB強度の平均を求める。
測定領域内のRGB強度平均からバックグラウンドRGB強度平均を差引き、RGB強度の総和を1と規格化したときのRGB強度をそれぞれrgbと表わすことにする。このときr+g+b=1である。
【0057】
この表1の例の場合次のようになる。
測定領域のRGB強度平均=125.4,153.1,146.4バックグラウンドのRGB強度平均=38.2,36.8,52.9RGB強度平均を差引き=87.2,116.3,93.5規格化後のrgb強度=0.294,0.392,0.315
【0058】
続いて、rb図を作成する。rb図とは、上記規格化したrgb強度の内、r成分とb成分を用いて作成したもので、横軸にr成分、縦軸にb成分を取り、rb成分をグラフ中に点としてプロットする。このプロットされた点は、分散色を表すものとなる。
図5は、この例のrb図である。
【0059】
一方、分散色の階級分けの作業を行う。
浸液と試料の屈折率が一致する合致波長と分散色とは、図6のカラーチャートに示すような関係がある。
図6において、色の帯は、分散色を示し、帯の横に記載した数値は合致波長を示している。例えば、合致波長が440nmであるとすると、その横の黄色〜橙色が分散色となり、逆に位相差分散顕微鏡1で観察された分散色が黄色〜橙色であれば、合致波長が440nmであることがわかる。
【0060】
図6のカラーチャートの代表的な分散色を複数選択し、この分散色について、先の例と同様にして、規格化されたrgb強度を求め、さらにrb図に表すと、図7のような関係になる。このグラフ中において、数値は合致波長である。
ここで、合致波長が450nm以下の短い場合、グラフ上の右下にプロットされ、右上を経て合致波長が600nm程度の場合左上にプロットされる。合致波長が長くなるとグラフ上では左下にプロットされるようになる。
このような合致波長と分散色の変化を次の図8(階級区分図)のように7つの領域に分割して考える。
図7において、b=1/3、r=1/3、r=1/4、g=1/4、g=1/3の各線は7つの領域分割のために引いた直線である。
【0061】
図8に示した階級区分は以下の通りである。
階級Iは合致波長が350〜450nmの領域で合致波長の階級値が400nmで、
階級IIは合致波長が450〜550nmの領域で合致波長の階級値が500nmで、 階級IIIは合致波長が550〜570nmの領域で合致波長の階級値が560nmで、
階級IVは合致波長が570〜590nmの領域で合致波長の階級値が580nmで、 階級Vは合致波長が590〜620nmの領域で合致波長の階級値が605nmで、
階級VIは合致波長が620〜650nmの領域で合致波長の階級値が635nmで、 階級VIIは合致波長が650〜700nmの領域で合致波長の階級値が675nmである。
【0062】
そして、試料のrgb強度がどの階級に属するかrb図から階級区分図に従い判定する。上記例の場合、図5のように、rb図上でVIIの領域にプロットされているので、階級はVIIである。階級VIIは650nmから700nmの合致波長のグループであり、合致波長の階級値は675nmとなる。
【0063】
ついで、平均合致波長の計算を行う。まず、判定された階級から合致波長を求める。
例えば、60本のセルロース繊維の分散色を測色し、60本分の平均合致波長を求める場合、1本の繊維について2箇所を測色し、120組のrgb強度を算出し、この強度からrb図を作成する。ついで、図8の階級区分図に従って階級分けを行う。
図9は、平均重合度558のセルロース繊維60本について上述の手順に従って作成した階級区分図である。
【0064】
この図9の階級区分図から、各階級に存在する点を数え、表2に示すような階級の度数分布表を作成し、合致波長の階級値に度数を乗じ、階級IからVIIまでの積の総和を求め、この総和を120で除すると、平均合致波長が算出される。
【0065】
【表2】

【0066】
表2から、平均重合度558のセルロース繊維60本についての平均合致波長は563nmと算出される。
同様にして、平均重合度が既知のセルロース繊維の平均合致波長を算出し、平均重合度と平均合致波長との関係をプロットすると、図10に示すような検量線が得られる。
【0067】
図10から、セルロース繊維が劣化して平均重合度が低下するに従い平均合致波長は短くなる。すなわち、劣化すると屈折率が大きくなることが示されている。
判定したいセルロース繊維を100本程度用意し平均合致波長を求めれば図10の関係により平均重合度を求めることができ、劣化の具合を判定することができる。すなわち、平均合致波長と平均重合度が劣化の具合を表わす指標となる。
【0068】
上述の一連の解析作業において、階級区分の考えを導入する理由は、分散色を合致波長に換算する簡易方法となるからである。合致波長は、位相差分散顕微鏡のマスク幅による遮蔽波長幅を持ち、浸液と資料の屈折率波長分散も幅を持つため、分散色から合致波長を求めるには幅を持ってしまう。そこで、「階級」と言う範囲分けをすることで、幅を丸め込み、解析しやすくするようにしたものである。
また、階級区分は、上記例のように7区分に限定されるものではなく、詳細な解析が必要な場合には、これ以上の区分を設定してもよい。
【0069】
以上の解析操作は、パーソナルコンピュータ3に内蔵された演算処理プログラムが自動的に分散光のRGB成分について解析を行い、RGB成分比の計算、rb図の作成、分散色の階級分け、平均合致波長の計算、平均重合度の算出の各処理を実行するようになっており、上記判定装置を用いれば、短時間にセルロース繊維の劣化度を判定することができる。
【0070】
本発明では、以上のようにして、絶縁油中に分散しているセルロース繊維の劣化程度を推定することができるが、油入電気機器内の絶縁紙自体の劣化程度をこれから直接的に知ることはできない。
すなわち、油入電気機器の絶縁油中に浮遊しているセルロース繊維は、絶縁紙の最表面から剥がれてくるものであり、このセルロース繊維の平均重合度に基づいて絶縁紙自体(もしくは全体)の劣化程度を判断することは必ずしも適切ではない。
【0071】
そこで、さらに検討を重ねた結果、油入電気機器内の絶縁油に浮遊しているセルロース繊維の平均重合度と、同一の油入電気機器内の巻線などの絶縁紙自体の劣化程度との間にある相関関係があることが見いだされ、これによって油入電気機器内の絶縁紙、換言すれば油入電気機器自体の劣化の程度を推定できることが明らかになった。
以下、この油入電気機器内の絶縁紙の劣化程度の推定方法を、本発明の他の実施形態として具体的に説明する。
【0072】
この推定方法は、基本的には、油入電気機器から絶縁油を採取してこれに含まれるセルロース繊維を分離し、前述の分散染色法によって、個々の繊維についてのrgb強度を算出し、このrgb強度から図5に示すようなrb図を作成する。ついで、個々の繊維に対応するプロットされた点(以下、測定点と言う)のrb図上での分布を求める。この測定点がrb図上においてある特定領域内に存在する割合を算出し、この割合と別途測定した絶縁紙自体の最低平均重合度との相関関係から絶縁紙の劣化程度を推定するものである。
【0073】
初めに、この劣化推定方法の基礎となる考え方と基礎データ取得のための実験について説明する。
新品未使用で平均重合度が1185で既知であるクラフト紙を用意し、このクラフト紙を揉みほぐして180本のセルロース繊維をサンプルとして採取した。これら180本のセルロース繊維について、分散染色法によりここのrgb強度を求め、これから図11に示すような180個の測定点がプロットされたrb図を作成した。
【0074】
図11のrb図において、r=g=b=1/3の点を原点とし、この原点とr=0、b=0の点とを結ぶ直線Qを引く。この直線Qを起点として反時計回り方向での角度をαと定め、個々の測定点に対応する角度を求めた。
角度αは、r強度、b強度から次の式で算出される。
【0075】
0°≦α<135
α=180/π×arctan(−(r−1/3)/(b−1/3))+45
135°≦α<315
α=180/π×arctan(−(r−1/3)/(b−1/3))+225
315°≦α<360
α=180/π×arctan(−(r−1/3)/(b−1/3))+405
【0076】
サンプルに使用した未使用のクラフト紙由来のセルロース繊維では、図11に示すように、角度αが267度を中心に250〜280度の領域に、測定点が全体の93.3%の割合で集中して存在しており、αが250度未満の領域ではその存在比が4.2%、αが280度を超える領域では2.5%となっている。
【0077】
理論的には、角度αが小さいものでは、セルロース繊維の屈折率が高く、結晶化が進んでおり、角度αが大きいものでは、その屈折率が低く、結晶性が悪くなっているものと考えられる。後述の変圧器解体調査により、変圧器内の油中繊維は経年でその両方とも割合が増すことが分かった。
とすれば、劣化が進んだ絶縁紙由来のセルロース繊維についての測定点の分布については、角度αが250〜280度の領域に存在する割合(以下、特定領域存在比とする)が、前記全く未使用のクラフト紙由来のセルロース繊維について測定された93.3%よりも必ず低くなることが予測される。
【0078】
したがって、絶縁紙由来のセルロース繊維についての特定領域存在比(%)を求めることで、その絶縁紙の劣化の程度を推定することが可能であることが判明した。
【0079】
つぎに、この考え方をもとに使用済みの変圧器4種(A、B、C、D)を解体して、コイル巻線絶縁紙由来のセルロース繊維について、上述のようにして、特定領域存在比(%)を求めるとともに、絶縁紙の平均重合度の最低値と最高値とを測定した。
表3に、変圧器の諸元と平均重合度を示す。
【0080】
【表3】

【0081】
表3での平均重合度は、絶縁紙の平均重合度の基準的な測定方法である日本電機工業会規格JEM1455「変圧器用絶縁紙の平均重合度測定方法」によって測定したものである。この測定方法は、脱脂、漂白した絶縁紙試料を細分化し、その一定量を採取して、銅エチレンジアミン溶液に溶解し、この溶液の比粘度を測定して平均重合度を求める粘度法である。
なお、比較サンプルとして模擬変圧器(E)を作製し、過酷な条件に放置して劣化を促進させた後の絶縁紙由来のセルロース繊維についても同様の特定領域存在比(%)を求めるとともに、その平均重合度の最低値と最高値とを測定した。
【0082】
前記模擬変圧器は、縦約40cm、横約20cm、高さ約40cmのステンレス容器の内部の周囲を水分2%に調湿したクラフト紙を巻き、変圧器内で使用される各種材料と一緒に絶縁油20リットルを入れ脱気し窒素封入して、電気炉で温度110℃一定で半年間加熱した後のものである。この模擬変圧器でのクラフト紙の最低平均重合度は、測定の結果272であった。
【0083】
図12に、これら4種の変圧器と模擬変圧器とについての特定領域存在比(%)と最低平均重合度との相関関係を検量線として示した。
通常、この業界では、劣化した変圧器の交換の目安は「電気協同研究,Vol.54, No.5, (1999).」に載っているように、コイル巻線絶縁紙の最も劣化した部分の平均重合度が450以下となったときであるとされている。
このことから、最低平均重合度が450未満であり、これに対応する特定領域存在比(%)が77%未満の区域を「劣化度III、危険」とし、最低平均重合度が600以上でこれに対応する特定領域存在比(%)が81%以上の区域を「劣化度I、正常」とし、その中間の区域を「劣化度II、要注意」と区分する。
【0084】
このような区分をすると、図12から、前記変圧器A、B、Cは要注意であり、変圧器Dは正常であり、模擬変圧器は危険であると判断される。
以上のようにして、変圧器の絶縁油中のセルロース繊維について、特定領域存在比(%)と最低平均重合度を求め、これを図12の区分図に当てはめることで、変圧器の絶縁紙の劣化程度を判定できる。
この際、図12の区分図単独であるいはその他の変圧器劣化指標を参考に変圧器の保守管理を行うことができる。
【0085】
このようにして、油入電気機器の絶縁油に浮遊しているセルロース繊維を採取して、これを分散染色法により計測して、その屈折率を間接的に表す分散色を測色し、この分散色を分光してrgb強度を求め、r成分とb成分とからなる測定点の分布を求め、さらにこれから特定領域存在比を求めることにより、図12の区分図に基づいて絶縁紙自体の劣化の程度、換言すれば油入電気機器自体の劣化の程度を予測することができる。
【0086】
なお、本願における図面のうち、図2、図4、図6、図7、図8に関しては、本発明の理解を図るために着色された図面であることが好ましい。よって、これらの図面は別途参考図面として着色された図面を提出する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】屈折率と平均重合度との関係を示すグラフである。
【図2】屈折率分布とこれを2つのピークを持つ分布に分離したものを示すグラフである。
【図3】本発明の判定装置の例を示す構成図である。
【図4】判定装置で観察された分散光の画像である。
【図5】rb図の例を示すグラフである。
【図6】分散色と合致波長との関係を示すカラーチャートである。
【図7】図6のカラーチャートの分散色と合致波長とをrb図で表したグラフである。
【図8】rb値の階級区分を示す階級区分図である。
【図9】実際の試料についての階級区分図である。
【図10】平均重合度と平均合致波長との関係を示すグラフである。
【図11】新品クラフト紙から得られたセルロース繊維についてのrb図を表したグラフである。
【図12】変圧器から得られたセルロース繊維についての特定領域存在比(%)と変圧器の絶縁紙の最低平均重合度との関係を示すととも劣化程度の区分を表すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1・・・位相差分散顕微鏡、2・・・カラービデオカメラ、3・・・パーソナルコンピュータ、4・・・ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維の屈折率をベッケ線法で測定し、この屈折率に基づいてセルロース繊維の劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項2】
セルロース繊維の屈折率をベッケ線法で測定し、この屈折率からセルロース繊維の平均重合度を求め、この平均重合度に基づいて劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項3】
セルロース繊維の屈折率を波長掃引型ベッケ線法で測定し、この屈折率に基づいてセルロース繊維の劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項4】
セルロース繊維の屈折率を波長掃引型ベッケ線法で測定し、この屈折率からセルロース繊維の平均重合度を求め、この平均重合度に基づいて劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項5】
複数のセルロース繊維からなる集団について個々のセルロース繊維の屈折率を測定して集団の屈折率分布を求め、この屈折率分布がマルチモーダルである場合に2以上の正規分布様分布に分離することにより、集団中に劣化程度の異なる2以上の小集団が存在することを推定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項6】
分散染色法により、セルロース繊維の屈折率に由来する分散光の分散色を測色し、この分散色からセルロース繊維の劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項7】
分散染色法により、セルロース繊維の屈折率に由来する分散光の分散色を測色し、この分散色からセルロース繊維の平均重合度を求め、この平均重合度に基づいて劣化程度を推定することを特徴とするセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項8】
セルロース繊維を顕微鏡観察するために用いられる浸液を構成する少なくとも1成分が、その成分をなす分子の主軸がセルロース繊維の繊維軸に平行または垂直に配向するものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項9】
測定対象となるセルロース繊維が、油入電気機器内の絶縁油に浮遊しているセルロース繊維を採取したものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のセルロース繊維の劣化判定方法。
【請求項10】
一定の波長分散を有する光を発する光源を備え、セルロース繊維の屈折率に由来する分散光を観察する位相差分散顕微鏡と、
この位相差分散顕微鏡の接眼レンズからの分散光を3色以上の色の光成分に分光する分光器と、
この分光器によって分光された3色以上の色の光成分の強度を測定し、かつ分光された光成分を合成して画像とする測色部と、
この測色部によって得られた画像中の任意の領域について、測色された各光成分の強度に基づいてセルロース繊維の平均重合度を演算する演算部と、この演算部からの演算結果を表示するとともに測色部からの画像を表示する出力部を備えたことを特徴とするセルロース繊維の劣化判定装置。
【請求項11】
油入電気機器内の絶縁油に浮遊しているセルロース繊維について、分散染色法により分散色のRGB成分を求め、R成分とB成分とからなる測定点の分布を求め、さらにこの測定点の分布から特定領域存在比を求め、
この特定領域存在比と別途測定した絶縁紙の最低平均重合度との相関関係に基づいて、油入電気機器の絶縁紙の劣化程度を推定することを特徴とする油入電気機器の劣化推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−83035(P2008−83035A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221004(P2007−221004)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(596094577)ユカインダストリーズ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】