セレーション成形方法およびセレーションボルト
【課題】頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に、膨らみおよび割れが発生することなくセレーションを成形できるセレーション成形方法を提供する。
【解決手段】0%以上1.5%以下の範囲内に、鍛造加工時の被加工部30の断面減少率を設定し、セレーション成形ダイス40に形成され、被加工部30にセレーション13を成形する各セレーション成形部41・41・・・を、入口部41aが、上側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス40の径方向外側およびセレーション成形部41の周方向内側に向けて延出する形状に形成する。
【解決手段】0%以上1.5%以下の範囲内に、鍛造加工時の被加工部30の断面減少率を設定し、セレーション成形ダイス40に形成され、被加工部30にセレーション13を成形する各セレーション成形部41・41・・・を、入口部41aが、上側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス40の径方向外側およびセレーション成形部41の周方向内側に向けて延出する形状に形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの材料を流動させる鍛造加工を行い、ワークにセレーションを成形するセレーション成形方法およびセレーションボルトの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のディスクホイールを締結する際に用いられるハブボルトは、アクスルハブに圧入嵌合するために、例えば、転造加工によってノコギリ歯状のセレーションが成形されたセレーションボルトによって構成されている。
図12に示すように、転造加工では、ハブボルト120に成形するセレーションの形状に対応する外周形状を有するとともに、ハブボルト120を挟んで対向配置される固定転造ダイス111および可動転造ダイス112を用いる。転造加工では、ハブボルト120および各ダイス111・112を回動させるとともに、可動転造ダイス112をハブボルト120に押し付けて、ハブボルト120にセレーションを成形する。
【0003】
この場合、ハブボルトを製造する工程としては、鍛造加工によりハブボルトの頭部および軸部を成形→転造加工によりセレーションを成形→転造加工によりネジ部を成形、というような、三つの工程を行う必要がある。つまり、図12にあるような転造装置(各ダイス111・112)を用いてセレーションを成形する必要がある。
【0004】
特許文献1には、ワイパ装置のドライブシャフトに形成されるセレーションを、鍛造加工によって成形する技術が開示されている。特許文献1に開示される技術では、外径が縮径するテーパ部が形成される棒状のワークを、セレーションが形成されるダイスに押し込むことで、テーパ部にセレーションを成形している。
【0005】
このようなセレーション成形ダイス140には、例えば、図13(a)および図13(b)に示すように、複数のセレーション成形部141・141・・・が形成される。各セレーション成形部141・141・・・の入口部141a(図13(b)における紙面上端部)は、上側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス140の径方向外側および周方向外側に向かって延出する傾斜面に形成されている。
また、各セレーション成形部141・141・・・の上側には、それぞれ鍛造加工前の、セレーションが成形される部分のハブボルトの外径寸法と同一の外径寸法を有するガイド部142が形成される。
鍛造加工前のセレーションに対応する部分のハブボルトの外径寸法は、セレーションの大径部と同一の外径寸法が設定される。つまり、鍛造加工時にハブボルトがその軸方向に延びる程度に高い断面減少率が設定される。
【0006】
特許文献1のように鍛造加工によってセレーションを成形する場合、一つの装置で複数回連続して鍛造加工可能な多段式の鍛造装置に、セレーション成形ダイス140を設置するだけで、ハブボルトにセレーションを成形できる。
つまり、セレーションを成形する転造装置を用いる必要がなくなるため、ハブボルトの製造コストを低減できる。
【0007】
ここで、図14(a)に示すように、高い断面減少率を設定するとともに、頭部122からセレーション123までの間隔が僅かとなるハブボルト120に(座面直下に形成される)セレーション123を成形する場合、ガイド部142の軸方向の長さ寸法L14を充分に確保できない。
この場合、セレーション123の上側に、ハブボルト120の径方向外側に向かって盛り上がる膨らみ125が成形される。
【0008】
膨らみ125は、鍛造加工が進むにつれて徐々に大きくなり、図14(b)に示すように、鍛造加工終了時に頭部122と頂部143との間で潰される。このようにして、頭部122の下側に、鍛造加工後の軸部121の外径寸法よりも大きな外径寸法を有する膨らみ125が成形されてしまう。このような膨らみ125は、ハブボルト120の取付等に影響を与える。
【0009】
膨らみ125の発生を防止するために断面減少率を低く(例えば0%に)設定することが考えられる。この場合、セレーション成形ダイス140は、セレーション123の大径部に比較的多くの材料を流動させる必要がある。
しかし、入口部141aは、図15に示すように、上側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス140の径方向外側および周方向外側に向かって延出する傾斜面に形成されている。このため、セレーション成形ダイス140は、各入口部141a・141a・・・の形状に沿って、ハブボルト120の材料を径方向内側(セレーション123の小径部側)へ流動させてしまう(図15に示す矢印参照)。つまり、セレーション成形ダイス140により、ハブボルト120の材料を一旦小径部側へ流動させた後で、大径部側へ流動させることで、セレーションの大径部が成形される。
【0010】
このため、鍛造加工時にハブボルト120の材料が大径部側に充分に行き渡らず、大径部側にて材料が不足してしまう。この場合、材料が不足している大径部側の材料の流速V1が、材料が充分に供給されている小径部側の材料の流速V2よりも遅くなってしまう。
これにより、図16に示すように、大径部123a側と小径部123b側との間に流速差が生じ、当該流速差によって大径部123aが小径部123bに引っ張られる(図16に示す矢印V1・V2参照)。大径部123aは、前記引っ張りの影響でハブボルト120の軸方向に沿って切れながら繋がってしまう。
このようにして大径部123aの表面に、ハブボルト120の軸方向に沿って複数の割れ126・126・・・が発生してしまう。
【0011】
以上のように、座面直下にセレーションを成形する場合、断面減少率に応じて膨らみまたは割れが発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−262291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に、膨らみおよび割れが発生することなくセレーションを成形できるセレーション成形方法およびセレーションボルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1においては、セレーション成形ダイスを用いて、ワークの材料を流動させる鍛造加工を行い、前記ワークにセレーションを成形するセレーション成形方法であって、0%以上1.5%以下の範囲内に、前記鍛造加工時の断面減少率を設定し、前記セレーション成形ダイスに形成され、前記ワークに前記セレーションを成形するセレーション成形部を、前記ワークの材料流動を開始させる側の端部が、前記材料流動を開始させる側に向かうにつれて、前記セレーション成形ダイスの径方向外側および前記セレーション成形部の周方向内側に向けて延出する形状に形成する、ものである。
【0015】
請求項2においては、前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、前記延出方向の先端部分が尖った舟形形状である、ものである。
【0016】
請求項3においては、前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、15°以上25°以下の範囲内に、前記延出方向と前記加工方向とが成す角度を設定する、ものである。
【0017】
請求項4においては、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のセレーション成形方法を用いて、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に前記セレーションが成形されるセレーションボルトであり、前記セレーションが成形されるときに、前記セレーションの前記頭部側に、前記セレーションの形状に沿って連続して、前記セレーションの大径部と同一の外径寸法を有する凸部が成形される、ものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、大径部側に効率的に材料を流動させることができるため、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に、膨らみおよび割れが発生することなくセレーションを成形できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ワークを示す図。(a)全体的な構成を示す図。(b)セレーションの形状を示す図。
【図2】ワークの製造工程を示す図。
【図3】セレーション成形前のワークを示す拡大図。(a)座面直下の形状を示す図。(b)セレーション成形前後の被加工部の形状を示す図。
【図4】セレーション成形ダイスの内周形状を示す図。(a)軸方向から見たときの形状を示す図。(b)図4(a)におけるA−A断面図。
【図5】セレーション成形ダイスに素材をセットした状態を示す断面図。
【図6】セレーション成形時のワークの材料流動に関する説明図。
【図7】セレーション成形時のワークおよびセレーション成形ダイスを示す断面図。
【図8】凸部を示す説明図。
【図9】断面減少率と大径部の外径寸法との関係図。
【図10】入口部の延出方向と加工方向とが成す角度を示す図。(a)周方向内側に延出する方向と加工方向とが成す角度を示す図。(b)径方向外側に延出する方向と加工方向とが成す角度を示す図。
【図11】入口部の変形例を示す図。(a)入口部を径方向に沿って見たときの図。(b)入口部を軸方向に沿って切断した断面図。
【図12】転造加工によってセレーションを成形する状態を示す説明図。
【図13】従来のセレーション成形ダイスの内周形状を示す図。(a)軸方向から見たときの形状を示す図。(b)図13(a)におけるB−B断面図。
【図14】膨らみの発生のメカニズムを示す説明図。(a)セレーション成形途中の状態を示す図。(b)セレーション成形時の状態を示す図。
【図15】従来のセレーション成形時のワークの材料流動に関する説明図。
【図16】割れの発生のメカニズムを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本実施形態のセレーション成形方法について説明する。
セレーション成形方法は、ワーク10の材料を流動させる鍛造加工を行い、セレーション13を成形するものである。
【0021】
本実施形態のワーク10は、自動車のディスクホイールを締結する際に用いられるハブボルトであるものとする。図1(a)に示すように、ハブボルトは、軸部11、頭部12、セレーション13、およびネジ部14が形成されるセレーションボルトである。
【0022】
軸部11は、頭部12より下方向に延出する部分であり、その外周面にセレーション13およびネジ部14が形成される。軸部11は、鍛造加工によって成形される。
【0023】
頭部12は、軸部11よりも大きな外径寸法が設定され、鍛造加工によって成形される。
【0024】
図1(a)および図1(b)に示すように、セレーション13は、複数の大径部13a・13a・・・および各大径部13a・13a・・・よりも外径寸法が小さい複数の小径部13b・13b・・・が、連続して交互に配置されたノコギリ歯状に形成される。
セレーション13は、頭部12に対してワーク10の軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部11に形成される。つまり、セレーション13は、座面直下に形成される。セレーション13は、鍛造加工によって成形される。
【0025】
ネジ部14は、軸部11の下部を転造加工することによって成形される。
【0026】
以下では、ワーク10の製造工程について説明する。
【0027】
まず、図2に示すように、コイル材20を直線状に伸ばし、伸ばしたコイル材20を所定の幅で切断する。なお、以下では、切断したコイル材20を「素材20」と表記する。
【0028】
素材20の軸方向の長さ寸法は、ワーク10の軸方向の長さ寸法よりも短い。本実施形態の素材20の外径寸法は、セレーション13が成形される部分の外径寸法と同一の外径寸法が設定される。
【0029】
素材20には、複数回に分けて鍛造加工(前方押出加工による冷間鍛造加工)が行われる。
すなわち、ダイスにセットした素材20をパンチ50によって押圧することで、素材20の材料を軸方向に流動させ、素材20を所望の形状に成形する(図5参照)。このような成形が、素材20に対して常温(または常温に近い温度)の状態で行われる。
【0030】
一回目の鍛造加工では、セレーション13およびネジ部14に対応する部分を除いて、軸部11と略同一の内周形状を有するダイスが用いられる。
一回目の鍛造加工に用いられるダイスの、セレーション13およびネジ部14に対応する部分の内周形状は、セレーション13およびネジ部14を成形する前の素材20の外径寸法と略同一の内径寸法を有する円柱状である。
【0031】
一回目の鍛造加工により、素材20をその軸方向に延出させるように、素材20の下端部を材料流動させて、軸部11を成形する。
【0032】
二回目の鍛造加工では、上端部が頭部12と略同一の内周形状を有するとともに、上端部よりも下側が一回目の鍛造加工後の素材20の軸部11と略同一の内周形状を有するダイスが用いられる。
【0033】
二回目の鍛造加工により、素材20の上端部をその径方向外側に延出させるように、素材20の上端部を材料流動させて、頭部12を成形する。
【0034】
三回目の鍛造加工では、軸部11およびセレーション13と略同一の内周形状を有するダイスが用いられる。
三回目の鍛造加工により、素材20のセレーション13が形成される部分を材料流動させて、素材20にセレーション13を成形する。三回目の鍛造加工については後で詳述する。
【0035】
このような三回の鍛造加工は、一つの装置で三回以上連続して鍛造加工可能な多段式の鍛造装置によって行われる。
すなわち、鍛造装置には、三回の鍛造加工に用いられるダイスが設置される。そして、鍛造装置は、ダイスに素材20をセット→素材20をパンチ50により押圧→次のダイスに素材20をセットというような動作を繰り返し行う(図5参照)。
【0036】
三回の鍛造加工を行った後で、ネジ部14の形状に対応する外周形状を有する固定転造ダイスおよび可動転造ダイスにより、素材20に対して転造加工を行い、ネジ部14を成形する(図12参照)。
【0037】
このような鍛造加工および転造加工を素材20に対して行うことで、素材20の外周形状が成形される。そして、成形後の素材20に熱処理や表面処理を行うことで、ワーク10は製造される。
【0038】
ここで、図3(a)に示すように、三回目の鍛造加工では、座面直下にセレーション13を成形する(図3(a)に示す頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2参照)。
このため、従来のセレーション成形ダイス140を用いて鍛造加工を行った場合、断面減少率(素材20のセレーション13に対応する部分における成形前後の断面積の減少率)に応じて、膨らみ125または割れ126が発生してしまう(図14および図16参照)。
【0039】
本実施形態のセレーション成形方法は、鍛造加工により座面直下にセレーション13を成形するものである。
本実施形態において、本願発明に係るセレーション成形方法は、素材20に対して行われる三回目の鍛造時に適用される(図2に示す二回目の鍛造加工時の素材20参照)。
【0040】
以下では、本実施形態のセレーション成形方法について説明する。
なお、以下では、説明の便宜上、セレーション13を成形する際に用いられるダイスを「セレーション成形ダイス40」と表記する。また、素材20のセレーション13が成形される部分を「被加工部30」と表記する。
【0041】
本実施形態のセレーション成形方法では、鍛造加工時の断面減少率を0%に設定して、鍛造加工を行う。
従って、図3(b)に示すように、セレーション13成形前の被加工部30の外径寸法(以下、「セレーション13の下径」と表記する)には、大径部13aおよび小径部13bの外径寸法の中間程度の外径寸法が設定される。
【0042】
このように断面減少率を0%に設定することで、被加工部30の材料の流動量が減り(被加工部30の材料流動の影響が素材20全体には及ばず)、頭部12の下側に膨らみ125が発生することを防止できる(図14参照)。
つまり、セレーション成形方法では、鍛造加工時に素材20がその軸方向に延びない程度に低い断面減少率が設定される。
【0043】
断面減少率を0%にした場合、各大径部13a・13a・・・に充分に材料を流動させなければ、各大径部13a・13a・・・への材料の供給量が足りず、各大径部13a・13a・・・の表面に割れ126が発生してしまう(図16参照)。
言い換えれば、セレーション成形方法では、各大径部13a・13a・・・を成形する部分に、比較的多くの材料を流動させる必要がある。つまり、被加工部30の材料を効率的に流動させる必要がある。
【0044】
本実施形態におけるセレーション成形方法では、図4(a)および図4(b)に示すようなセレーション成形ダイス40を用いる。
セレーション成形ダイス40は、軸部11およびセレーション13と略同一の内周形状を有する。つまり、セレーション成形ダイス40は、被加工部30に対応する部分を除いて、概ね頭部12成形時の軸部11と同一の内周形状を有する(図2に示す一回目の鍛造加工時の素材20参照)。セレーション成形ダイス40には、複数のセレーション成形部41・41・・・、ガイド部42、および頂部43が形成される。
【0045】
各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれ被加工部30にセレーション13を成形する部分である。各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれセレーション13の軸方向の長さ寸法に応じて、セレーション成形ダイス40の内周面に軸方向に所定の長さだけ形成される。各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれセレーション成形ダイス40の周方向に沿って連続して形成される。
【0046】
各セレーション成形部41・41・・・は、セレーション成形ダイス40の内周面から所定寸法だけ内側方向へ突出して形成されており、最も内側へ突出している尖端部は、セレーション成形部41における幅方向(セレーション成形ダイス40の周方向)の中心に位置している。
【0047】
各セレーション成形部41・41・・・の上端部(以下、「入口部41a」と表記する)は、セレーション成形ダイス40の径方向においては、セレーション成形ダイス40の内周面から前記内側へ突出している尖端部側へ向かうにつれて下方へ傾斜する傾斜面に形成されている。
また、入口部41aは、セレーション成形ダイス40の周方向においては、セレーション成形部41の中央部から幅方向端部へ向かうにつれて下方へ傾斜する傾斜面に形成されている。
つまり、入口部41aは、上側に向かうにつれて、尖端部がセレーション成形ダイス40の径方向外側に延出するとともに、セレーション成形部41の周方向両端部がセレーション成形ダイス40の周方向内側に向けて延出する形状に形成され、二つの傾斜面が形成されている。また、入口部41aは、上端部(延出方向の先端部分)が尖った船形形状である。
【0048】
すなわち、各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれ下側が略三角柱状に形成されるとともに、当該三角柱の上面に底面を合わせた三角錐を配置したような形状となる(図6参照)。
【0049】
各セレーション成形部41・41・・・の径方向外側の端部から、セレーション成形ダイス40の内周部分の中心部までの距離は、大径部13aの外径寸法と略同一の長さとなる。
また、各セレーション成形部41・41・・・の径方向内側の端部から、セレーション成形ダイス40の内周部分の中心部までの距離は、小径部13bの外径寸法と略同一の長さとなる。
つまり、各セレーション成形部41・41・・・は、径方向外側の端部に被加工部30の材料を流動させることにより、各大径部13a・13a・・・を成形するとともに、径方向内側の端部に被加工部30の材料を流動させることにより、各小径部13b・13b・・・を成形する。
【0050】
図4(b)および図5に示すように、ガイド部42は、鍛造加工時にセレーション13の上側が膨らむことを防止するためのものであり、各セレーション成形部41・41・・・の上側に位置する。ガイド部42は、セレーション13の下径と同一の内径寸法が設定される。
【0051】
ガイド部42の軸方向の長さ寸法L4は、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2に対応する。例えば、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2が長ければ、それに応じて長くなり、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2が短ければ、それに応じて短くなる。
本実施形態のガイド部42の軸方向の長さ寸法L4は、高い断面減少率を設定して(例えば、セレーション13の下径を大径部13aの外径寸法と同程度の寸法に設定して)鍛造加工した場合、膨らみ125が発生してしまう程度に短い(図14参照)。
【0052】
本実施形態において、「頭部12に対して軸方向に僅かに間隔L2を空けた」とは、ガイド部42の軸方向の長さ寸法L4が、前記膨らみ125が及ぶ範囲をカバーできない長さとなる程度に、セレーション13の上端部が頭部12に対して接近している状態であることをいう。
【0053】
頂部43は、ガイド部42の上側に位置し、セレーション成形ダイス40の上面を成す部分である。
【0054】
図5に示すように、セレーション13を成形するとき、素材20は、セレーション成形ダイス40にセットされ、パンチ50によって下方向に押圧される。
このとき、セレーション成形ダイス40は、各入口部41a・41a・・・により被加工部30の材料を流動させる。
【0055】
すなわち、セレーション成形ダイス40は、図6に示すように、各入口部41a・41a・・・にて被加工部30の材料を二つの傾斜面に沿ってかき分ける。つまり、各入口部41a・41a・・・の上方より下方向に向かって流れてくる材料を、セレーション成形ダイス40の周方向一端側および周方向他端側の二方向に分けて流動させる(図6に示す矢印参照)。
【0056】
このように、本実施形態では、セレーション成形ダイス40の上側が、被加工部30の材料流動を開始させる側となる。
つまり、各入口部41a・41a・・・は、それぞれ材料流動を開始させる側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス40の径方向外側および周方向内側に向けて延出する形状に形成される、被加工部30の材料流動を開始させる側の端部として機能する。
【0057】
セレーション成形ダイス40は、その周方向一端側および周方向他端側に流動させた被加工部30の材料を、下方向に流動させながら、各セレーション成形部41・41・・・と被加工部30との間に形成される隙間を埋めるように流動させる。
つまり、セレーション成形ダイス40は、被加工部30の材料を、下方向に流動させながら、各大径部13a・13a・・・および各小径部13b・13b・・・に対応する位相に流動させる。
【0058】
このようにして、セレーション成形ダイス40は、図7に示すように、素材20に各大径部13a・13a・・・および各小径部13b・13b・・・を成形する。
【0059】
これによれば、セレーション成形ダイス40は、被加工部30の材料を効率的に各大径部13a・13a・・・側に流動させることができる。
つまり、断面減少率を0%に設定して鍛造加工を行う場合でも、各大径部13a・13a・・・に被加工部30の材料を充分に供給できる。従って、各大径部13a・13a・・・と各小径部13b・13b・・・との間で材料の供給量の差異を小さくできるため、各大径部13a・13a・・・側の材料の流速と、各小径部13b・13b・・・側の材料の流速との差を小さくできる。
このため、各大径部13a・13a・・・の表面に割れ126が発生することを防止できる(図16参照)。
【0060】
これによれば、膨らみ125および割れ126が発生することなく、座面直下に(頭部12に対して素材20の軸方向に僅かに間隔L2を空けた位置の軸部11に)セレーション13を成形できる。
この場合、鍛造装置にセレーション成形ダイス40をセットするだけで素材20にセレーション13を成形できるため、セレーション13を転造工程によって成形する場合と比較して、ワーク10の製造に要するコストを低減できる。
また、断面減少率を低く設定することで、比較的小さな押圧力でセレーション13を成形できる。
【0061】
本実施形態のセレーション成形方法を用いて素材20にセレーション13を成形した素材20には、図7および図8に示すように、凸部15が成形される。
【0062】
凸部15は、セレーション13の上側、つまり、頭部12側に形成される。凸部15は、素材20をその径方向外側から見たときに、セレーション13の上端部の形状に沿った半楕円状(楕円の上半分が素材20に転写された形状)に形成される。
このような凸部15は、それぞれセレーション13の上端部の形状に沿って素材20の外周面に全周にわたって連続して成形される。
凸部15は、各大径部13a・13a・・・の外径寸法と略同一の外径寸法を有する。素材20の軸方向における凸部15の長さ寸法は、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2よりも短い。
【0063】
すなわち、断面減少率を0%に設定した場合、軸部11とガイド部42との間に所定の幅の隙間が生じた状態となり、鍛造加工時にその隙間を埋めるように素材20が僅かに膨らむ。
つまり、図7および図14(b)に示すように、凸部15は、高い断面減少率を設定した場合にあるような膨らみ125とは違い、鍛造加工時に頭部12と頂部43との間で潰されるものではない。つまり、ワーク10の取付等に影響を与えるものではない。
【0064】
本実施形態のセレーション成形方法を用いて素材20にセレーション13を成形した場合、図7および図8に示すように、座面直下には、上側から順に軸部11、凸部15、セレーション13が成形されることとなる。
この場合、座面直下の外径寸法は、上側から順に、セレーション13の下径(軸部11)、大径部13aの外径(凸部15)、セレーション13の外径(大径部13aおよび小径部13b)と変動する。
つまり、製造工程を終えたワーク10は、頭部12とセレーション13との間にアンダーカットがある形状(頭部12とセレーション13との間が僅かに窪んだ形状)となるとともに、当該アンダーカット部分の下端部が上下方向に波打った形状となる。
【0065】
このようにセレーション13成形時に素材20に凸部15が成形されることにより、ワーク10の形状を視認するだけで、本実施形態のセレーション成形方法を用いてワーク10にセレーション13を成形したかを把握できる。
従って、第三者による不正行為(第三者が本実施形態と同様のセレーション成形方法にてワーク10にセレーション13を成形したこと)を認識できる。つまり、第三者による不正行為の事実を容易に立証できる。
【0066】
ここで、図9を用いて、セレーション成形方法にて設定する断面減少率の範囲について説明する。
図9は、断面減少率を変更しながら、つまり、セレーション13の下径を変更しながら、本実施形態のセレーション成形ダイス40を用いて座面直下にセレーション13を成形した結果を示すグラフである。
【0067】
図9に示すように、断面減少率を0%に設定したときには、頭部12の下側に膨らみ125が発生せず、各大径部13a・13a・・・の外径寸法も予め設定される所定の範囲内となった(図9の縦軸に記載のセレーション大径r1・r2参照)。
また、断面減少率を0.5%、1.0%、および1.5%に設定したときも同様の結果が得られた。
【0068】
断面減少率を2.0%に設定したときには、頭部12の下側に膨らみ125が発生した。
また、断面減少率を3.0%および5.0%に設定したときも同様の結果が得られた(図9に点線で示す符号P参照)。
【0069】
断面減少率を−0.4%に設定したときには、頭部12の下側に膨らみ125が発生しなかったが、各大径部13a・13a・・・の外径寸法が予め設定される所定の範囲外となった。
【0070】
以上の実験結果より、座面直下にセレーション13を成形する場合、0%以上1.5%以下の範囲内に、鍛造加工時の被加工部30の断面減少率を設定すればよいことがわかった(図9に示す範囲R参照)。
【0071】
なお、図10(a)および図10(b)に示すように、各セレーション成形部41・41・・・の入口部41aは、それぞれ15°以上25°以下の範囲内に、延出方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2・θ3を設定することが好ましい。
【0072】
「延出方向」とは、入口部41aの周方向両端部が周方向内側へ延出する方向と、入口部41aの径方向内側に突出する部分が径方向外側へ延出する方向とのことをいう。
【0073】
「加工方向」とは、本実施形態においては、素材20がパンチ50により押圧される方向である。つまり、図7や図10等における紙面下方向が、加工方向に対応する(図10(a)および図10(b)に二点鎖線で示す符号C参照)。
【0074】
すなわち、延出方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2・θ3は、入口部41aの周方向両端部が周方向内側へ延出する方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2、および入口部41aの径方向内側に突出する部分が径方向外側へ延出する方向と加工方向とが成す角度θ3の、三つの角度のことである。
【0075】
仮に、各角度θ1・θ2・θ3が、それぞれ15°よりも小さい場合には、鍛造加工時に大径部13a側に緩やかに材料を流動させることとなる。従って、各大径部13a・13a・・・の外径寸法が所望の寸法よりも小さくなる可能性がある。
また、各角度θ1・θ2・θ3が、それぞれ25°よりも大きい場合には、鍛造加工時に大径部13a側に材料を効率的に流動させ難くなる。つまり、従来のセレーション成形ダイス140を用いた場合にあるような、割れ126が発生する可能性がある(図16参照)。
【0076】
以上のように、15°以上25°以下の範囲内に、延出方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2・θ3を設定することで、各大径部13a・13a・・・の外径寸法を所望の寸法にできるとともに、各大径部13a・13a・・・の表面に割れ126が発生することを確実に防止できる。
【0077】
また、入口部41aの形状は、本実施形態に限定されるものでなく、被加工部30の材料を効率的に大径部13a側に流動させることができる形状であればよい。例えば、図11(a)および図11(b)に示すように、素材20の軸心および素材20の径方向外側から見たときに、上底が上端部に位置するような略台形状であっても構わない。
【0078】
ただし、被加工部30の材料をより効率的に大径部13a側に流動させることができるという観点から、入口部41aの形状は、図10(a)および図10(b)に示すような延出方向の先端部分が尖った舟形形状とすることが好ましい。
【0079】
ここで、従来のセレーション成形ダイス140(図14参照)を用いてワーク10にセレーション13を成形するための手段として、頭部12を成形する前に、セレーション13を成形することが考えられる。この場合、素材20は、頭部12に対応する部分がセレーション13に対応する部分に沿って上方向に延出している状態である(図2に示す一回目の鍛造加工時の素材20参照)。
この状態の素材20に対してセレーション13を成形する場合、膨らみ125の発生を防止できる程度に軸方向の寸法が長いガイド部を形成できる。
【0080】
しかし、セレーション13を成形した後で頭部12を成形することとなるため、頭部12を成形するダイスに、素材20に成形したセレーション13との干渉を防止するためのセレーション13を形成する必要がある。このようなセレーション13は、例えば、各セレーション成形部41・41・・・と同一形状に形成される(図4参照)。
【0081】
このような頭部12を成形するダイスには、素材20側の大径部と、ダイス側の小径部との位相が合うような状態で、素材20がセットされてしまう可能性がある。
この場合、素材20に頭部12を成形するときに、ダイス側の小径部が、素材20側の大径部を材料流動させてしまい、素材20のセレーション13が潰れてしまう。
【0082】
つまり、頭部12を成形した後で、本実施形態のセレーション成形方法を用いてセレーション13を成形することで、セレーション13の位相を考慮することなくセレーション13を成形できる。
【0083】
本実施形態のセレーション成形方法では、前方押出加工による冷間鍛造加工によりハブボルトにセレーション13を成形するものとしたが、これに限定されるものでない。例えば、後方押出加工による冷間鍛造によりワークの内周面にセレーションを成形しても構わない。
【符号の説明】
【0084】
10 ワーク
13 セレーション
40 セレーション成形ダイス
41 セレーション成形部
41a 入口部(材料流動を開始させる側の端部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの材料を流動させる鍛造加工を行い、ワークにセレーションを成形するセレーション成形方法およびセレーションボルトの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のディスクホイールを締結する際に用いられるハブボルトは、アクスルハブに圧入嵌合するために、例えば、転造加工によってノコギリ歯状のセレーションが成形されたセレーションボルトによって構成されている。
図12に示すように、転造加工では、ハブボルト120に成形するセレーションの形状に対応する外周形状を有するとともに、ハブボルト120を挟んで対向配置される固定転造ダイス111および可動転造ダイス112を用いる。転造加工では、ハブボルト120および各ダイス111・112を回動させるとともに、可動転造ダイス112をハブボルト120に押し付けて、ハブボルト120にセレーションを成形する。
【0003】
この場合、ハブボルトを製造する工程としては、鍛造加工によりハブボルトの頭部および軸部を成形→転造加工によりセレーションを成形→転造加工によりネジ部を成形、というような、三つの工程を行う必要がある。つまり、図12にあるような転造装置(各ダイス111・112)を用いてセレーションを成形する必要がある。
【0004】
特許文献1には、ワイパ装置のドライブシャフトに形成されるセレーションを、鍛造加工によって成形する技術が開示されている。特許文献1に開示される技術では、外径が縮径するテーパ部が形成される棒状のワークを、セレーションが形成されるダイスに押し込むことで、テーパ部にセレーションを成形している。
【0005】
このようなセレーション成形ダイス140には、例えば、図13(a)および図13(b)に示すように、複数のセレーション成形部141・141・・・が形成される。各セレーション成形部141・141・・・の入口部141a(図13(b)における紙面上端部)は、上側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス140の径方向外側および周方向外側に向かって延出する傾斜面に形成されている。
また、各セレーション成形部141・141・・・の上側には、それぞれ鍛造加工前の、セレーションが成形される部分のハブボルトの外径寸法と同一の外径寸法を有するガイド部142が形成される。
鍛造加工前のセレーションに対応する部分のハブボルトの外径寸法は、セレーションの大径部と同一の外径寸法が設定される。つまり、鍛造加工時にハブボルトがその軸方向に延びる程度に高い断面減少率が設定される。
【0006】
特許文献1のように鍛造加工によってセレーションを成形する場合、一つの装置で複数回連続して鍛造加工可能な多段式の鍛造装置に、セレーション成形ダイス140を設置するだけで、ハブボルトにセレーションを成形できる。
つまり、セレーションを成形する転造装置を用いる必要がなくなるため、ハブボルトの製造コストを低減できる。
【0007】
ここで、図14(a)に示すように、高い断面減少率を設定するとともに、頭部122からセレーション123までの間隔が僅かとなるハブボルト120に(座面直下に形成される)セレーション123を成形する場合、ガイド部142の軸方向の長さ寸法L14を充分に確保できない。
この場合、セレーション123の上側に、ハブボルト120の径方向外側に向かって盛り上がる膨らみ125が成形される。
【0008】
膨らみ125は、鍛造加工が進むにつれて徐々に大きくなり、図14(b)に示すように、鍛造加工終了時に頭部122と頂部143との間で潰される。このようにして、頭部122の下側に、鍛造加工後の軸部121の外径寸法よりも大きな外径寸法を有する膨らみ125が成形されてしまう。このような膨らみ125は、ハブボルト120の取付等に影響を与える。
【0009】
膨らみ125の発生を防止するために断面減少率を低く(例えば0%に)設定することが考えられる。この場合、セレーション成形ダイス140は、セレーション123の大径部に比較的多くの材料を流動させる必要がある。
しかし、入口部141aは、図15に示すように、上側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス140の径方向外側および周方向外側に向かって延出する傾斜面に形成されている。このため、セレーション成形ダイス140は、各入口部141a・141a・・・の形状に沿って、ハブボルト120の材料を径方向内側(セレーション123の小径部側)へ流動させてしまう(図15に示す矢印参照)。つまり、セレーション成形ダイス140により、ハブボルト120の材料を一旦小径部側へ流動させた後で、大径部側へ流動させることで、セレーションの大径部が成形される。
【0010】
このため、鍛造加工時にハブボルト120の材料が大径部側に充分に行き渡らず、大径部側にて材料が不足してしまう。この場合、材料が不足している大径部側の材料の流速V1が、材料が充分に供給されている小径部側の材料の流速V2よりも遅くなってしまう。
これにより、図16に示すように、大径部123a側と小径部123b側との間に流速差が生じ、当該流速差によって大径部123aが小径部123bに引っ張られる(図16に示す矢印V1・V2参照)。大径部123aは、前記引っ張りの影響でハブボルト120の軸方向に沿って切れながら繋がってしまう。
このようにして大径部123aの表面に、ハブボルト120の軸方向に沿って複数の割れ126・126・・・が発生してしまう。
【0011】
以上のように、座面直下にセレーションを成形する場合、断面減少率に応じて膨らみまたは割れが発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−262291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に、膨らみおよび割れが発生することなくセレーションを成形できるセレーション成形方法およびセレーションボルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1においては、セレーション成形ダイスを用いて、ワークの材料を流動させる鍛造加工を行い、前記ワークにセレーションを成形するセレーション成形方法であって、0%以上1.5%以下の範囲内に、前記鍛造加工時の断面減少率を設定し、前記セレーション成形ダイスに形成され、前記ワークに前記セレーションを成形するセレーション成形部を、前記ワークの材料流動を開始させる側の端部が、前記材料流動を開始させる側に向かうにつれて、前記セレーション成形ダイスの径方向外側および前記セレーション成形部の周方向内側に向けて延出する形状に形成する、ものである。
【0015】
請求項2においては、前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、前記延出方向の先端部分が尖った舟形形状である、ものである。
【0016】
請求項3においては、前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、15°以上25°以下の範囲内に、前記延出方向と前記加工方向とが成す角度を設定する、ものである。
【0017】
請求項4においては、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のセレーション成形方法を用いて、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に前記セレーションが成形されるセレーションボルトであり、前記セレーションが成形されるときに、前記セレーションの前記頭部側に、前記セレーションの形状に沿って連続して、前記セレーションの大径部と同一の外径寸法を有する凸部が成形される、ものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、大径部側に効率的に材料を流動させることができるため、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に、膨らみおよび割れが発生することなくセレーションを成形できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ワークを示す図。(a)全体的な構成を示す図。(b)セレーションの形状を示す図。
【図2】ワークの製造工程を示す図。
【図3】セレーション成形前のワークを示す拡大図。(a)座面直下の形状を示す図。(b)セレーション成形前後の被加工部の形状を示す図。
【図4】セレーション成形ダイスの内周形状を示す図。(a)軸方向から見たときの形状を示す図。(b)図4(a)におけるA−A断面図。
【図5】セレーション成形ダイスに素材をセットした状態を示す断面図。
【図6】セレーション成形時のワークの材料流動に関する説明図。
【図7】セレーション成形時のワークおよびセレーション成形ダイスを示す断面図。
【図8】凸部を示す説明図。
【図9】断面減少率と大径部の外径寸法との関係図。
【図10】入口部の延出方向と加工方向とが成す角度を示す図。(a)周方向内側に延出する方向と加工方向とが成す角度を示す図。(b)径方向外側に延出する方向と加工方向とが成す角度を示す図。
【図11】入口部の変形例を示す図。(a)入口部を径方向に沿って見たときの図。(b)入口部を軸方向に沿って切断した断面図。
【図12】転造加工によってセレーションを成形する状態を示す説明図。
【図13】従来のセレーション成形ダイスの内周形状を示す図。(a)軸方向から見たときの形状を示す図。(b)図13(a)におけるB−B断面図。
【図14】膨らみの発生のメカニズムを示す説明図。(a)セレーション成形途中の状態を示す図。(b)セレーション成形時の状態を示す図。
【図15】従来のセレーション成形時のワークの材料流動に関する説明図。
【図16】割れの発生のメカニズムを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本実施形態のセレーション成形方法について説明する。
セレーション成形方法は、ワーク10の材料を流動させる鍛造加工を行い、セレーション13を成形するものである。
【0021】
本実施形態のワーク10は、自動車のディスクホイールを締結する際に用いられるハブボルトであるものとする。図1(a)に示すように、ハブボルトは、軸部11、頭部12、セレーション13、およびネジ部14が形成されるセレーションボルトである。
【0022】
軸部11は、頭部12より下方向に延出する部分であり、その外周面にセレーション13およびネジ部14が形成される。軸部11は、鍛造加工によって成形される。
【0023】
頭部12は、軸部11よりも大きな外径寸法が設定され、鍛造加工によって成形される。
【0024】
図1(a)および図1(b)に示すように、セレーション13は、複数の大径部13a・13a・・・および各大径部13a・13a・・・よりも外径寸法が小さい複数の小径部13b・13b・・・が、連続して交互に配置されたノコギリ歯状に形成される。
セレーション13は、頭部12に対してワーク10の軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部11に形成される。つまり、セレーション13は、座面直下に形成される。セレーション13は、鍛造加工によって成形される。
【0025】
ネジ部14は、軸部11の下部を転造加工することによって成形される。
【0026】
以下では、ワーク10の製造工程について説明する。
【0027】
まず、図2に示すように、コイル材20を直線状に伸ばし、伸ばしたコイル材20を所定の幅で切断する。なお、以下では、切断したコイル材20を「素材20」と表記する。
【0028】
素材20の軸方向の長さ寸法は、ワーク10の軸方向の長さ寸法よりも短い。本実施形態の素材20の外径寸法は、セレーション13が成形される部分の外径寸法と同一の外径寸法が設定される。
【0029】
素材20には、複数回に分けて鍛造加工(前方押出加工による冷間鍛造加工)が行われる。
すなわち、ダイスにセットした素材20をパンチ50によって押圧することで、素材20の材料を軸方向に流動させ、素材20を所望の形状に成形する(図5参照)。このような成形が、素材20に対して常温(または常温に近い温度)の状態で行われる。
【0030】
一回目の鍛造加工では、セレーション13およびネジ部14に対応する部分を除いて、軸部11と略同一の内周形状を有するダイスが用いられる。
一回目の鍛造加工に用いられるダイスの、セレーション13およびネジ部14に対応する部分の内周形状は、セレーション13およびネジ部14を成形する前の素材20の外径寸法と略同一の内径寸法を有する円柱状である。
【0031】
一回目の鍛造加工により、素材20をその軸方向に延出させるように、素材20の下端部を材料流動させて、軸部11を成形する。
【0032】
二回目の鍛造加工では、上端部が頭部12と略同一の内周形状を有するとともに、上端部よりも下側が一回目の鍛造加工後の素材20の軸部11と略同一の内周形状を有するダイスが用いられる。
【0033】
二回目の鍛造加工により、素材20の上端部をその径方向外側に延出させるように、素材20の上端部を材料流動させて、頭部12を成形する。
【0034】
三回目の鍛造加工では、軸部11およびセレーション13と略同一の内周形状を有するダイスが用いられる。
三回目の鍛造加工により、素材20のセレーション13が形成される部分を材料流動させて、素材20にセレーション13を成形する。三回目の鍛造加工については後で詳述する。
【0035】
このような三回の鍛造加工は、一つの装置で三回以上連続して鍛造加工可能な多段式の鍛造装置によって行われる。
すなわち、鍛造装置には、三回の鍛造加工に用いられるダイスが設置される。そして、鍛造装置は、ダイスに素材20をセット→素材20をパンチ50により押圧→次のダイスに素材20をセットというような動作を繰り返し行う(図5参照)。
【0036】
三回の鍛造加工を行った後で、ネジ部14の形状に対応する外周形状を有する固定転造ダイスおよび可動転造ダイスにより、素材20に対して転造加工を行い、ネジ部14を成形する(図12参照)。
【0037】
このような鍛造加工および転造加工を素材20に対して行うことで、素材20の外周形状が成形される。そして、成形後の素材20に熱処理や表面処理を行うことで、ワーク10は製造される。
【0038】
ここで、図3(a)に示すように、三回目の鍛造加工では、座面直下にセレーション13を成形する(図3(a)に示す頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2参照)。
このため、従来のセレーション成形ダイス140を用いて鍛造加工を行った場合、断面減少率(素材20のセレーション13に対応する部分における成形前後の断面積の減少率)に応じて、膨らみ125または割れ126が発生してしまう(図14および図16参照)。
【0039】
本実施形態のセレーション成形方法は、鍛造加工により座面直下にセレーション13を成形するものである。
本実施形態において、本願発明に係るセレーション成形方法は、素材20に対して行われる三回目の鍛造時に適用される(図2に示す二回目の鍛造加工時の素材20参照)。
【0040】
以下では、本実施形態のセレーション成形方法について説明する。
なお、以下では、説明の便宜上、セレーション13を成形する際に用いられるダイスを「セレーション成形ダイス40」と表記する。また、素材20のセレーション13が成形される部分を「被加工部30」と表記する。
【0041】
本実施形態のセレーション成形方法では、鍛造加工時の断面減少率を0%に設定して、鍛造加工を行う。
従って、図3(b)に示すように、セレーション13成形前の被加工部30の外径寸法(以下、「セレーション13の下径」と表記する)には、大径部13aおよび小径部13bの外径寸法の中間程度の外径寸法が設定される。
【0042】
このように断面減少率を0%に設定することで、被加工部30の材料の流動量が減り(被加工部30の材料流動の影響が素材20全体には及ばず)、頭部12の下側に膨らみ125が発生することを防止できる(図14参照)。
つまり、セレーション成形方法では、鍛造加工時に素材20がその軸方向に延びない程度に低い断面減少率が設定される。
【0043】
断面減少率を0%にした場合、各大径部13a・13a・・・に充分に材料を流動させなければ、各大径部13a・13a・・・への材料の供給量が足りず、各大径部13a・13a・・・の表面に割れ126が発生してしまう(図16参照)。
言い換えれば、セレーション成形方法では、各大径部13a・13a・・・を成形する部分に、比較的多くの材料を流動させる必要がある。つまり、被加工部30の材料を効率的に流動させる必要がある。
【0044】
本実施形態におけるセレーション成形方法では、図4(a)および図4(b)に示すようなセレーション成形ダイス40を用いる。
セレーション成形ダイス40は、軸部11およびセレーション13と略同一の内周形状を有する。つまり、セレーション成形ダイス40は、被加工部30に対応する部分を除いて、概ね頭部12成形時の軸部11と同一の内周形状を有する(図2に示す一回目の鍛造加工時の素材20参照)。セレーション成形ダイス40には、複数のセレーション成形部41・41・・・、ガイド部42、および頂部43が形成される。
【0045】
各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれ被加工部30にセレーション13を成形する部分である。各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれセレーション13の軸方向の長さ寸法に応じて、セレーション成形ダイス40の内周面に軸方向に所定の長さだけ形成される。各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれセレーション成形ダイス40の周方向に沿って連続して形成される。
【0046】
各セレーション成形部41・41・・・は、セレーション成形ダイス40の内周面から所定寸法だけ内側方向へ突出して形成されており、最も内側へ突出している尖端部は、セレーション成形部41における幅方向(セレーション成形ダイス40の周方向)の中心に位置している。
【0047】
各セレーション成形部41・41・・・の上端部(以下、「入口部41a」と表記する)は、セレーション成形ダイス40の径方向においては、セレーション成形ダイス40の内周面から前記内側へ突出している尖端部側へ向かうにつれて下方へ傾斜する傾斜面に形成されている。
また、入口部41aは、セレーション成形ダイス40の周方向においては、セレーション成形部41の中央部から幅方向端部へ向かうにつれて下方へ傾斜する傾斜面に形成されている。
つまり、入口部41aは、上側に向かうにつれて、尖端部がセレーション成形ダイス40の径方向外側に延出するとともに、セレーション成形部41の周方向両端部がセレーション成形ダイス40の周方向内側に向けて延出する形状に形成され、二つの傾斜面が形成されている。また、入口部41aは、上端部(延出方向の先端部分)が尖った船形形状である。
【0048】
すなわち、各セレーション成形部41・41・・・は、それぞれ下側が略三角柱状に形成されるとともに、当該三角柱の上面に底面を合わせた三角錐を配置したような形状となる(図6参照)。
【0049】
各セレーション成形部41・41・・・の径方向外側の端部から、セレーション成形ダイス40の内周部分の中心部までの距離は、大径部13aの外径寸法と略同一の長さとなる。
また、各セレーション成形部41・41・・・の径方向内側の端部から、セレーション成形ダイス40の内周部分の中心部までの距離は、小径部13bの外径寸法と略同一の長さとなる。
つまり、各セレーション成形部41・41・・・は、径方向外側の端部に被加工部30の材料を流動させることにより、各大径部13a・13a・・・を成形するとともに、径方向内側の端部に被加工部30の材料を流動させることにより、各小径部13b・13b・・・を成形する。
【0050】
図4(b)および図5に示すように、ガイド部42は、鍛造加工時にセレーション13の上側が膨らむことを防止するためのものであり、各セレーション成形部41・41・・・の上側に位置する。ガイド部42は、セレーション13の下径と同一の内径寸法が設定される。
【0051】
ガイド部42の軸方向の長さ寸法L4は、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2に対応する。例えば、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2が長ければ、それに応じて長くなり、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2が短ければ、それに応じて短くなる。
本実施形態のガイド部42の軸方向の長さ寸法L4は、高い断面減少率を設定して(例えば、セレーション13の下径を大径部13aの外径寸法と同程度の寸法に設定して)鍛造加工した場合、膨らみ125が発生してしまう程度に短い(図14参照)。
【0052】
本実施形態において、「頭部12に対して軸方向に僅かに間隔L2を空けた」とは、ガイド部42の軸方向の長さ寸法L4が、前記膨らみ125が及ぶ範囲をカバーできない長さとなる程度に、セレーション13の上端部が頭部12に対して接近している状態であることをいう。
【0053】
頂部43は、ガイド部42の上側に位置し、セレーション成形ダイス40の上面を成す部分である。
【0054】
図5に示すように、セレーション13を成形するとき、素材20は、セレーション成形ダイス40にセットされ、パンチ50によって下方向に押圧される。
このとき、セレーション成形ダイス40は、各入口部41a・41a・・・により被加工部30の材料を流動させる。
【0055】
すなわち、セレーション成形ダイス40は、図6に示すように、各入口部41a・41a・・・にて被加工部30の材料を二つの傾斜面に沿ってかき分ける。つまり、各入口部41a・41a・・・の上方より下方向に向かって流れてくる材料を、セレーション成形ダイス40の周方向一端側および周方向他端側の二方向に分けて流動させる(図6に示す矢印参照)。
【0056】
このように、本実施形態では、セレーション成形ダイス40の上側が、被加工部30の材料流動を開始させる側となる。
つまり、各入口部41a・41a・・・は、それぞれ材料流動を開始させる側に向かうにつれて、セレーション成形ダイス40の径方向外側および周方向内側に向けて延出する形状に形成される、被加工部30の材料流動を開始させる側の端部として機能する。
【0057】
セレーション成形ダイス40は、その周方向一端側および周方向他端側に流動させた被加工部30の材料を、下方向に流動させながら、各セレーション成形部41・41・・・と被加工部30との間に形成される隙間を埋めるように流動させる。
つまり、セレーション成形ダイス40は、被加工部30の材料を、下方向に流動させながら、各大径部13a・13a・・・および各小径部13b・13b・・・に対応する位相に流動させる。
【0058】
このようにして、セレーション成形ダイス40は、図7に示すように、素材20に各大径部13a・13a・・・および各小径部13b・13b・・・を成形する。
【0059】
これによれば、セレーション成形ダイス40は、被加工部30の材料を効率的に各大径部13a・13a・・・側に流動させることができる。
つまり、断面減少率を0%に設定して鍛造加工を行う場合でも、各大径部13a・13a・・・に被加工部30の材料を充分に供給できる。従って、各大径部13a・13a・・・と各小径部13b・13b・・・との間で材料の供給量の差異を小さくできるため、各大径部13a・13a・・・側の材料の流速と、各小径部13b・13b・・・側の材料の流速との差を小さくできる。
このため、各大径部13a・13a・・・の表面に割れ126が発生することを防止できる(図16参照)。
【0060】
これによれば、膨らみ125および割れ126が発生することなく、座面直下に(頭部12に対して素材20の軸方向に僅かに間隔L2を空けた位置の軸部11に)セレーション13を成形できる。
この場合、鍛造装置にセレーション成形ダイス40をセットするだけで素材20にセレーション13を成形できるため、セレーション13を転造工程によって成形する場合と比較して、ワーク10の製造に要するコストを低減できる。
また、断面減少率を低く設定することで、比較的小さな押圧力でセレーション13を成形できる。
【0061】
本実施形態のセレーション成形方法を用いて素材20にセレーション13を成形した素材20には、図7および図8に示すように、凸部15が成形される。
【0062】
凸部15は、セレーション13の上側、つまり、頭部12側に形成される。凸部15は、素材20をその径方向外側から見たときに、セレーション13の上端部の形状に沿った半楕円状(楕円の上半分が素材20に転写された形状)に形成される。
このような凸部15は、それぞれセレーション13の上端部の形状に沿って素材20の外周面に全周にわたって連続して成形される。
凸部15は、各大径部13a・13a・・・の外径寸法と略同一の外径寸法を有する。素材20の軸方向における凸部15の長さ寸法は、頭部12の下端部からセレーション13の上端部までの間隔L2よりも短い。
【0063】
すなわち、断面減少率を0%に設定した場合、軸部11とガイド部42との間に所定の幅の隙間が生じた状態となり、鍛造加工時にその隙間を埋めるように素材20が僅かに膨らむ。
つまり、図7および図14(b)に示すように、凸部15は、高い断面減少率を設定した場合にあるような膨らみ125とは違い、鍛造加工時に頭部12と頂部43との間で潰されるものではない。つまり、ワーク10の取付等に影響を与えるものではない。
【0064】
本実施形態のセレーション成形方法を用いて素材20にセレーション13を成形した場合、図7および図8に示すように、座面直下には、上側から順に軸部11、凸部15、セレーション13が成形されることとなる。
この場合、座面直下の外径寸法は、上側から順に、セレーション13の下径(軸部11)、大径部13aの外径(凸部15)、セレーション13の外径(大径部13aおよび小径部13b)と変動する。
つまり、製造工程を終えたワーク10は、頭部12とセレーション13との間にアンダーカットがある形状(頭部12とセレーション13との間が僅かに窪んだ形状)となるとともに、当該アンダーカット部分の下端部が上下方向に波打った形状となる。
【0065】
このようにセレーション13成形時に素材20に凸部15が成形されることにより、ワーク10の形状を視認するだけで、本実施形態のセレーション成形方法を用いてワーク10にセレーション13を成形したかを把握できる。
従って、第三者による不正行為(第三者が本実施形態と同様のセレーション成形方法にてワーク10にセレーション13を成形したこと)を認識できる。つまり、第三者による不正行為の事実を容易に立証できる。
【0066】
ここで、図9を用いて、セレーション成形方法にて設定する断面減少率の範囲について説明する。
図9は、断面減少率を変更しながら、つまり、セレーション13の下径を変更しながら、本実施形態のセレーション成形ダイス40を用いて座面直下にセレーション13を成形した結果を示すグラフである。
【0067】
図9に示すように、断面減少率を0%に設定したときには、頭部12の下側に膨らみ125が発生せず、各大径部13a・13a・・・の外径寸法も予め設定される所定の範囲内となった(図9の縦軸に記載のセレーション大径r1・r2参照)。
また、断面減少率を0.5%、1.0%、および1.5%に設定したときも同様の結果が得られた。
【0068】
断面減少率を2.0%に設定したときには、頭部12の下側に膨らみ125が発生した。
また、断面減少率を3.0%および5.0%に設定したときも同様の結果が得られた(図9に点線で示す符号P参照)。
【0069】
断面減少率を−0.4%に設定したときには、頭部12の下側に膨らみ125が発生しなかったが、各大径部13a・13a・・・の外径寸法が予め設定される所定の範囲外となった。
【0070】
以上の実験結果より、座面直下にセレーション13を成形する場合、0%以上1.5%以下の範囲内に、鍛造加工時の被加工部30の断面減少率を設定すればよいことがわかった(図9に示す範囲R参照)。
【0071】
なお、図10(a)および図10(b)に示すように、各セレーション成形部41・41・・・の入口部41aは、それぞれ15°以上25°以下の範囲内に、延出方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2・θ3を設定することが好ましい。
【0072】
「延出方向」とは、入口部41aの周方向両端部が周方向内側へ延出する方向と、入口部41aの径方向内側に突出する部分が径方向外側へ延出する方向とのことをいう。
【0073】
「加工方向」とは、本実施形態においては、素材20がパンチ50により押圧される方向である。つまり、図7や図10等における紙面下方向が、加工方向に対応する(図10(a)および図10(b)に二点鎖線で示す符号C参照)。
【0074】
すなわち、延出方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2・θ3は、入口部41aの周方向両端部が周方向内側へ延出する方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2、および入口部41aの径方向内側に突出する部分が径方向外側へ延出する方向と加工方向とが成す角度θ3の、三つの角度のことである。
【0075】
仮に、各角度θ1・θ2・θ3が、それぞれ15°よりも小さい場合には、鍛造加工時に大径部13a側に緩やかに材料を流動させることとなる。従って、各大径部13a・13a・・・の外径寸法が所望の寸法よりも小さくなる可能性がある。
また、各角度θ1・θ2・θ3が、それぞれ25°よりも大きい場合には、鍛造加工時に大径部13a側に材料を効率的に流動させ難くなる。つまり、従来のセレーション成形ダイス140を用いた場合にあるような、割れ126が発生する可能性がある(図16参照)。
【0076】
以上のように、15°以上25°以下の範囲内に、延出方向と加工方向とが成す角度θ1・θ2・θ3を設定することで、各大径部13a・13a・・・の外径寸法を所望の寸法にできるとともに、各大径部13a・13a・・・の表面に割れ126が発生することを確実に防止できる。
【0077】
また、入口部41aの形状は、本実施形態に限定されるものでなく、被加工部30の材料を効率的に大径部13a側に流動させることができる形状であればよい。例えば、図11(a)および図11(b)に示すように、素材20の軸心および素材20の径方向外側から見たときに、上底が上端部に位置するような略台形状であっても構わない。
【0078】
ただし、被加工部30の材料をより効率的に大径部13a側に流動させることができるという観点から、入口部41aの形状は、図10(a)および図10(b)に示すような延出方向の先端部分が尖った舟形形状とすることが好ましい。
【0079】
ここで、従来のセレーション成形ダイス140(図14参照)を用いてワーク10にセレーション13を成形するための手段として、頭部12を成形する前に、セレーション13を成形することが考えられる。この場合、素材20は、頭部12に対応する部分がセレーション13に対応する部分に沿って上方向に延出している状態である(図2に示す一回目の鍛造加工時の素材20参照)。
この状態の素材20に対してセレーション13を成形する場合、膨らみ125の発生を防止できる程度に軸方向の寸法が長いガイド部を形成できる。
【0080】
しかし、セレーション13を成形した後で頭部12を成形することとなるため、頭部12を成形するダイスに、素材20に成形したセレーション13との干渉を防止するためのセレーション13を形成する必要がある。このようなセレーション13は、例えば、各セレーション成形部41・41・・・と同一形状に形成される(図4参照)。
【0081】
このような頭部12を成形するダイスには、素材20側の大径部と、ダイス側の小径部との位相が合うような状態で、素材20がセットされてしまう可能性がある。
この場合、素材20に頭部12を成形するときに、ダイス側の小径部が、素材20側の大径部を材料流動させてしまい、素材20のセレーション13が潰れてしまう。
【0082】
つまり、頭部12を成形した後で、本実施形態のセレーション成形方法を用いてセレーション13を成形することで、セレーション13の位相を考慮することなくセレーション13を成形できる。
【0083】
本実施形態のセレーション成形方法では、前方押出加工による冷間鍛造加工によりハブボルトにセレーション13を成形するものとしたが、これに限定されるものでない。例えば、後方押出加工による冷間鍛造によりワークの内周面にセレーションを成形しても構わない。
【符号の説明】
【0084】
10 ワーク
13 セレーション
40 セレーション成形ダイス
41 セレーション成形部
41a 入口部(材料流動を開始させる側の端部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレーション成形ダイスを用いて、ワークの材料を流動させる鍛造加工を行い、前記ワークにセレーションを成形するセレーション成形方法であって、
0%以上1.5%以下の範囲内に、前記鍛造加工時の断面減少率を設定し、
前記セレーション成形ダイスに形成され、前記ワークに前記セレーションを成形するセレーション成形部を、
前記ワークの材料流動を開始させる側の端部が、前記材料流動を開始させる側に向かうにつれて、前記セレーション成形ダイスの径方向外側および前記セレーション成形部の周方向内側に向けて延出する形状に形成する、
セレーション成形方法。
【請求項2】
前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、
前記延出方向の先端部分が尖った舟形形状である、
請求項1に記載のセレーション成形方法。
【請求項3】
前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、
15°以上25°以下の範囲内に、前記延出方向と前記加工方向とが成す角度を設定する、
請求項1または請求項2に記載のセレーション形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のセレーション成形方法を用いて、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に前記セレーションが成形されるセレーションボルトであり、
前記セレーションが成形されるときに、前記セレーションの前記頭部側に、前記セレーションの形状に沿って連続して、前記セレーションの大径部と同一の外径寸法を有する凸部が成形される、
セレーションボルト。
【請求項1】
セレーション成形ダイスを用いて、ワークの材料を流動させる鍛造加工を行い、前記ワークにセレーションを成形するセレーション成形方法であって、
0%以上1.5%以下の範囲内に、前記鍛造加工時の断面減少率を設定し、
前記セレーション成形ダイスに形成され、前記ワークに前記セレーションを成形するセレーション成形部を、
前記ワークの材料流動を開始させる側の端部が、前記材料流動を開始させる側に向かうにつれて、前記セレーション成形ダイスの径方向外側および前記セレーション成形部の周方向内側に向けて延出する形状に形成する、
セレーション成形方法。
【請求項2】
前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、
前記延出方向の先端部分が尖った舟形形状である、
請求項1に記載のセレーション成形方法。
【請求項3】
前記セレーション成形ダイスの前記ワークの材料流動を開始させる側の端部は、
15°以上25°以下の範囲内に、前記延出方向と前記加工方向とが成す角度を設定する、
請求項1または請求項2に記載のセレーション形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のセレーション成形方法を用いて、頭部に対して軸方向に僅かに間隔を空けた位置の軸部に前記セレーションが成形されるセレーションボルトであり、
前記セレーションが成形されるときに、前記セレーションの前記頭部側に、前記セレーションの形状に沿って連続して、前記セレーションの大径部と同一の外径寸法を有する凸部が成形される、
セレーションボルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−782(P2013−782A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135786(P2011−135786)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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