説明

ゼオライト−炭素複合材料及びその製造方法並びに電磁波遮蔽・吸収部材

【課題】産業廃棄物の石炭灰及びおが粉等を用いて合成された、ゼオライト−炭素複合材料、その製造方法及び電磁波遮蔽・吸収部材等を提供する。
【解決手段】水熱合成ゼオライトと炭化物からなるゼオライト−炭素複合材料であって、比表面積が30m/g以上、細孔容積が0.1cm/g以上であるゼオライト−炭素複合材料、上記ゼオライト−炭素複合材料からなる電磁波遮蔽・吸収部材、及びアルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源、炭素源、アルカリ賦活剤及び粘結材を混合後、成形し、所定温度で炭化・賦活焼成を行い、その後、アルカリ水溶液中で水熱反応させて水熱合成ゼオライトと炭化物からなる複合材料を得ることからなるゼオライト−炭素複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ゼオライト−炭素複合材料及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、無機・有機廃棄物を原料としてゼオライト及び炭化物を同時合成することにより製造してなる水熱合成ゼオライトと炭化物からなるゼオライト−炭素複合材料、その製造方法及び当該ゼオライト−炭素複合材料からなる電磁波遮蔽・吸収部材、調湿部材等の構造部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波帯の電波利用に関する研究が各方面で活発に行われており、特に、GHz帯での研究と利用は急速に進められている。例えば、2.45−5.2GHz帯域は室内無線LANなどへの利用が期待できるものとしてその普及が進んでいる。また、更に高い周波数の60GHzや75GHz帯での自動車用衝突防止レーダーへの応用研究が進んでおり、その実用化も期待されている。現在、数多くのマイクロ波やミリ波が飛び交う状況となり、各種の電磁波障害の発生が懸念されている。例えば、室内無線LANの電磁波は、床、壁、天井の多重反射により、通信トラブルを引き起こすことがある。また、電磁波が壁を透過し、室外に漏れ出したり、室外から侵入することで、通信品質を低下させることや情報漏れに繋がることが問題視され、更には人体への影響も懸念されており、電磁波遮蔽・吸収素材の社会的ニーズが高まっている。また同時に、壁材に塗布する塗料や建材、或いは家具などから発生する揮発性有機化合物(VOC)が室内空間を汚染し、それに起因するシックハウス症候群への対策も急務の課題である。
【0003】
一方、ゼオライト−炭素複合材料において、ゼオライトのイオン分極と含有する結晶水の双極子分極による誘電損失及び炭素による導電損失の総合的な作用で、高い電磁波吸収と遮蔽特性が期待されている。更に、ゼオライト−炭素複合材料は、多孔体であり、炭素の疎水性表面を持つことから、例えば、VOCの吸着除去効果が期待できることに加え、ゼオライトの親水性表面が水蒸気の吸着脱着でき、快適な室内生活空間を保つことを可能とする材料としての用途が期待される。従来、ゼオライト−炭素複合材料については、例えば、ゼオライトと炭素(一般には、活性炭)の粉体をそれぞれ添加混合し、結合剤を入れ、造粒して作製する方法(特許文献1参照)、未燃焼炭素を高含有する石炭灰に、アルカリ水性溶媒を加えて反応させ、炭素を含有するゼオライト複合粉体を作製し、吸着能とイオン交換能を付与して資材化する方法(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、この種の方法では、複合粉体中の炭素が自由に制御できないことに加え、壁材や床材として使う場合は、粉末状態での塗り込みなどが難しく、また、バルク状での成形も困難であるため、その利用は限られている。
【0004】
他方、近年、経済社会活動が大量生産・大量消費・大量廃棄型となるにつれ、廃棄物量の増大と廃棄物の多様化が問題となっている。日本では、年間4億トンの工業廃棄物が排出され、そのうち5千万トンの最終処理は埋め立てに頼っている。環境への意識の高まりとともに、これらの一部はリサイクルが進んでいるが、多くは焼却処理や埋め立て処理に頼っているのが現状である。最終処分場の枯渇、焼却処理中に発生する大気汚染などの問題が益々深刻化している。そのような動きの中で、廃棄物を未利用の資源としてとらえ、新規な原料として有効に利用する方法が検討されてきた。例えば、火力発電所から排出される石炭灰は、年間1千万トンほどもあり、しかもその排出量が年々増加する一途である。
【0005】
石炭灰は、セメント原料として利用される例もあるが、セメント材料そのものの特性を低下させるため、多量に加えることができないことからそのリサイクル率は低い。また、自然の木質系廃棄物(例えば、木屑、おが粉、わら類、籾殻類、椰子殻)が一部木質床材などとしてリサイクルされているが、大部分が焼却処理されており、ダイオキシンやCOの発生が問題となっている。石炭灰を水熱処理し、人工ゼオライトに転換する研究や、賦活剤を用いて、木質系廃棄物を活性炭に変換する研究に関して、それぞれ単独に行った報告はあるが、両者を用いる複合材料としての報告はない。また、仮にこれらを単独でそれぞれ合成後に複合材化しようとしても、焼成により、それらの細孔が消滅するため、不可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−79339号公報
【特許文献2】特開2001−106523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、広い比表面積、及び大きい細孔容積を保有し、高い誘電損失特性を有する新規ゼオライト−炭素複合材料及びその製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、新規に大量に発生する石炭灰と木質廃棄物を活用し、同時合成することにより、広い比表面積、及び大きい細孔容積を保有し、高い誘電損失特性を有するゼオライト−炭素複合材料を低コストで製造し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、当該ゼオライト−炭素複合材料の用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、ゼオライト−炭素複合材料において、水熱合成ゼオライトと賦活化炭化物からなる複合材料であり、比表面積が30m/g以上、細孔容積が0.1cm/g以上であることを特徴とするゼオライト−炭素複合材料、である。本複合材料は、反射減衰率が20dB以上であること、を好ましい態様としている。また、本発明は、水熱合成ゼオライトと賦活化炭化物からなる複合材料であり、比表面積が30m/g以上、細孔容積が0.1cm/g以上、反射減衰率が20dB以上であるゼオライト−炭素複合材料からなることを特徴とする電磁波遮蔽・吸収部材、である。また、本発明は、上記ゼオライト−炭素複合材料からなることを特徴とする調湿及び環境浄化作用を有する構造部材、である。
【0009】
また、本発明は、アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源、炭素源、アルカリ賦活剤及び粘結材を混合後、成形し、所定温度で炭化・賦活焼成を行い、その後、アルカリ水溶液中で水熱反応させて水熱合成ゼオライトと炭化物からなる複合材料を得ることを特徴とするゼオライト−炭素複合材料の製造方法、である。本方法は、(1)前記アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源として、石炭灰を用いること、(2)前記炭素源として、木屑を用いること、(3)前記アルカリ賦活剤として、NaCO、KCO、NaOH又はKOHの中から選択される一種以上を用いること、(4)前記粘結材として、粘土を用いること、(5)前記炭化焼成環境が、酸素分圧0.02kg/cm以下であること、(6)前記アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源、炭素源、アルカリ賦活剤及び粘結材に更に水を加えること、(7)前記炭化・賦活焼成のための所定温度が、500〜950℃であること、を好ましい態様としている。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、上記のように、無機廃棄物と有機廃棄物を同時に再生する点に着目してなされたものであって、低コストで上記廃棄物を高付加価値のゼオライト−炭素複合材料に転換する再生技術を提供するものである。本発明のゼオライト−炭素複合材料は、水熱合成ゼオライトと賦活化炭化物からなり、比表面積が30m/g以上、細孔容積が0.1cm/g以上、及び反射減衰率が20dB以上であることを特徴とするものである。本発明では、水熱合成ゼオライトと同時合成の炭化・賦活焼成物を賦活化炭化物と規定する。本発明のゼオライト−炭素複合材料は、アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源、炭素源、アルカリ賦活剤及び粘結材を混合後、成形し、所定の温度で炭化・賦活焼成を行い、その後、アルカリ水溶液中で水熱反応させることにより製造される。好適には、例えば、上記酸化物源として石炭灰、炭素源としておが粉、粘結材として粘土を利用し、これらにアルカリ賦活剤と水を加えて混合混練し、成形し、不活性ガス雰囲気中で炭化焼成し、次いで、アルカリ水溶液中でアルカリ水熱処理を行い、洗浄乾燥し、必要により粉砕することで目的のゼオライト−炭素複合材料が得られる。
【0011】
本発明において、上記アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源としては、上記製造方法によりゼオライトを生成せしめるものであれば特に制限はないが、好適には、例えば、産業廃棄物として入手可能な石炭灰を使用することができる。しかし、これに限定されるものではなく、これと同効のものであれば同様に使用することができる。また、上記炭素源としては、上記製造方法により炭素を生成せしめるものであれば特に制限はないが、好適には、例えば、木質系廃棄物として入手可能な木屑、おが粉、わら類、籾殻類、椰子殻を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0012】
本発明では、必ずしもアルカリ賦活剤を用いる必要性はないが、比表面積を広くするために、アルカリ賦活剤を用いることが好ましい。具体的には、NaCO、KCO、NaOH、KOHの内から選択される一種以上が使用される。また、本発明では、粘結材が用いられるが、粘結材は、焼成時の結合材となるものであり、粘土を使用することが好ましく、好適には、例えば、ベントナイト、カオリンを使用することができる。しかし、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0013】
本発明において、上記混合混練工程は、適宜の方法及び手段で実施することが可能であり、それについては特に制限されない。上記成形は、例えば、100MPaで金型成形する方法が例示されるが、これに制限されるものではない。上記炭化焼成は、好適には、例えば、窒素又はアルゴン雰囲気下、600〜850℃、1〜数時間の焼成条件が例示される。上記水熱処理工程では、例えば、NaSiO、AlClによる溶液成分調整後、例えば、2M NaOH、80〜150℃、24時間程度のアルカリ水熱処理が実施される。上記洗浄乾燥は、例えば、真空中、110℃、12時間程度の条件で実施される。
【0014】
炭化・賦活焼成は、好適には、500〜950℃で行う。500℃より低い温度では、賦活されない。また、950℃より高い温度では炭素の賦活反応が激しく、炭素の質量損失が生じるという問題がある。この炭化・賦活焼成は、より好適には600〜850℃で行われる。また、アルカリ水溶液としては、好適には、NaOHを0.5Mから8M含有する水溶液が使用される。水熱反応は、70℃から250℃、好適には80℃から150℃の範囲で、6時間から72時間処理を行う。より好適には12時間から24時間である。以上の製造工程により、比表面積が30m/g以上、好適には50m/g以上、及び/又は細孔容積が0.1cm/g以上、反射減衰率が20dB以上、誘電損失特性が20dB以下、誘電正接(tanδ)が0.05以上であるゼオライト−炭素複合材料を製造できる。
【0015】
本発明では、結晶性のよいゼオライトと表面積の大きな炭素からなる複合材料を得るために、上記アルカリ賦活剤の種類と添加量、上記炭化・焼成反応の焼成温度、焼成時間、上記水熱反応の水熱処理溶媒の種類、水熱処理温度と時間などの条件を任意に設定することができる。本発明では、炭化・賦活焼成と水熱処理条件を変えることで、生成するゼオライトの結晶相、及び組成を制御することができる。そのために、蛍光X線分析法と粉末X線回折法(XRD)により、石炭飛灰に含まれる結晶相のムライト、石英と非結晶相のシリカの含有量を測定した。そして、水ガラス、アルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム溶液から参照になる標準型ゼオライトを合成し、XRDにより、多孔体中のゼオライト結晶相を定量した。また、水熱反応中に外部Si源として水ガラスを、外部Al源としてアルミン酸ナトリウムを加え、アルカリ溶液の濃度を調整しながら、異なるSi/Al比、結晶相、細孔径を有するゼオライトを合成した。同時に溶存Si、Alの濃度をICP発光分析により測定し、得られた多孔体のゼオライト及び炭素複合体のナノ細孔組織をSEMとTEMで観察し、ゼオライト−炭素複合材料の生成を確認した。
【0016】
本発明では、例えば、焼成温度、時間、賦活剤の種類と添加量を変え、異なる木質材から得られる炭素組成部分の微細組織、細孔径を制御することができる。例えば、NaCOを添加することにより、炭素が賦活化され、石炭灰表面に生成したゼオライトがNa−PlとNa−Xの二相となる。また、石炭灰のアルカリ水熱処理において、石炭灰表面から針状やうろこ状のゼオライトが生成し、水熱反応中、非晶質シリカや石英は先に溶解反応し、一部未反応のムライトが残る。本発明により、結晶性のよい水熱合成ゼオライトと表面積の大きい賦活化炭化物からなる複合材料を得ることが可能であり、また、当該複合材料は、高水蒸気吸収性、優れた電波遮蔽・吸収能力を有することから、例えば、電波遮蔽・吸収機能、調湿、作用を有する構造部材、水処理、空気浄化処理などの環境浄化部材等として有用である。
【0017】
従来、石炭灰を水熱処理し、人工ゼオライトを合成することや、木質系廃棄物を賦活・焼成して活性炭を合成することは個別的に試みられているが、本発明は、これらを同時合成することにより、広い比表積と大きい細孔容積による高水蒸気吸収能を有し、ゼオライトのイオン分極と含有する結晶水の双極子分極による誘電損失及び炭素による導電損失の総合的な作用で高い電磁波遮蔽・吸収能を有するゼオライト−炭素複合体を作製し、提供するものであり、本発明は、上記同時合成により、上記広い比表積(30m/g以上)と大きい細孔容積(0.1cm/g以上)の生成、維持が可能となることを見出した点に最大の特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、(1)水熱合成ゼオライトと賦活化炭化物からなり、広い比表面積、大きい細孔容積を保有し、高い誘電損失特性を有するゼオライト−炭素複合材料を製造し、提供できる、(2)このゼオライト−炭素複合材料は、優れた電波遮蔽・吸収能力を生かして、例えば、電波遮蔽・吸収能、及びVOC吸収能に優れた建築用構造部材として適用できる、(3)また、広い比表面積及び大きい細孔容積を保有するという特徴を生かし、調湿材としても適用できる、(4)更には、この複合材料は、水浄化処理、空気浄化などの環境浄化部材としても使用できる、(5)廃棄物を主原料としてその利用を促進するという観点から、循環型社会の確立の促進に資することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例では、アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源として石炭灰を、また、炭素源としておが粉、木屑、わら、籾殻又は椰子殻をそれぞれ使用して、アルカリ賦活剤として、NaCO、KCO、NaOH、KOHの内の選択された一種以上と、粘結材としてベントナイト又はカオリンを添加し、更に水を加えて、混合、混錬後、成形し、この成形体を乾燥後、酸素分圧0.02kg/cm以下(好適には不活性雰囲気)の下、所定の温度及び時間で炭化焼成を行い、得られた材料を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中で所定の温度及び時間で水熱反応させ、ゼオライト−炭素複合材料を作製した。
【実施例1】
【0020】
石炭灰、おが粉及び粘結材を、それぞれ重量比で46%、31%及び23%を秤量・混合し、金型成形後、600℃で1時間焼成した。その後、焼成体を30mlの2M NaOH水溶液10ml/gの液固比中に入れ、120℃で24時間に渡って水熱処理を行い、ゼオライトNa−P1の生成を確認した(図1(a))。
【0021】
得られたゼオライト−炭素複合材料を、Fisons Instruments製type Sorptomatic1900によりBET比表面積を測定したところ、48.9m/gであった。また、同装置により細孔容積を測定したところ、0.114cm/gであった。
【0022】
電磁波遮蔽・吸収特性は、Wバンド(75−110GHz)において、アジレントテック社製HP8510Cネットワークアナライザーにより、ビーム集束型誘電体レンズ付きホーンアンテナを用いた自由空間法で測定した。その結果、反射減衰量は、整合周波数85.5GHzと102.5 GHzの付近で20dBのピーク値を示した(図2(a))。その複素比誘電率の実部(εr’)は測定周波に依存せず、ほぼ2.3の値を示した(図3(a))。また、透過減衰量は5.5dBの値を示した(図2(a))。
【実施例2】
【0023】
実施例1と同じ混合比で、石炭灰、おが粉及び粘結材を混合、成形し、850℃で1時間焼成した。その後、実施例1と同じ条件で水熱処理を施したところ、ゼオライトNa−P1の生成を確認した(図1(b))。得られたゼオライト−炭素複合材料のBET比表面積と細孔容積は、それぞれ30.0m/gと0.128cm/gであった。
【0024】
850℃での高温処理により、おが粉の炭化が促進された。得られた試料は、電気伝導性を有し、反射減衰量が7.5dBで小さい反面、透過減衰量は35dBを示した(図3(b))。その複素比誘電率の実部は周波数の増加とともに5.6から4.0に減少した(図3(b))。また、電磁波エネルギーが主に導電損失によるため、その誘電正接も0.7の高い値を示した。以上の結果から、炭化の温度を制御することにより炭素の含有量を変え、ゼオライト−炭素複合材料の電磁波遮蔽と吸収特性を制御することが可能であることが明らかになった。
【実施例3】
【0025】
アルカリ賦活剤にNaCOを用い、表1に示す混合比で混合・成形後、600℃で1時間炭化・賦活焼成及び実施例1、2と同様のNaOHアルカリ水熱処理を行い、ゼオライト−炭素複合材料を作製した。得られた複合材料のXRD分析から、Na−P1とNa−Xの両方の結晶相が認められた(図1(c))。NaCOを添加することにより、炭素が賦活された一方、石炭灰表面に生成したゼオライトがNa−P1とNa−Xの二相となった。
【0026】
石炭灰のアルカリ水熱処理において、石炭灰表面から針状やうろこ状のゼオライトが生成した。水熱反応中、非晶質シリカや石英は先に溶解反応し、一部未反応のムライトが残った。得られたゼオライト−炭素複合材料のBET比表面積と細孔容積は、それぞれ84.3m/gと0.154cm/gであった。また、反射減衰量及び透過減衰量は、それぞれ27.0dB及び5.0dBであった。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例4〜15
実施例4から15として、炭素源として、おが粉、木屑、わら、籾殻、又は椰子殻を使用し、アルカリ賦活剤としてNaCO、KCO、NaOH又はKOHを使用し、賦活・焼成温度及び時間を変え、更には賦活・焼成条件を変え、水熱処理条件を変え、種々の実験を行った。その結果を表1に示す。また、その特性値を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
比較例1
比較例1として、実施例1と略同じ条件ではあるが、賦活・焼成温度が低い場合の結果を表3及び表4に示す。得られたゼオライト−炭素複合材料は、賦活・焼成温度が低いため、BET比表面積と細孔容積は、それぞれ19.2m/gと0.095cm/gと低かった。また、反射減衰量及び透過減衰量は、それぞれ10.1dB及び4.1dBと低かった。
【0031】
比較例2
比較例2として、実施例1と略同じ条件ではあるが、賦活・焼成温度が高い場合の結果を表3に示す。得られたゼオライト−炭素複合材料は、賦活・焼成温度が高すぎるため、BET比表面積と細孔容積は、それぞれ15.1m/gと0.079cm/gと低かった。また、反射減衰量及び透過減衰量は、それぞれ9.7dB及び4.6dBと低かった。これは、賦活・焼成温度が高すぎて、炭素が離脱し、また、ゼオライトの生成量が少なくなったためと考えられる。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
比較例3〜4
比較例3及び4として、実施例1と略同じ条件であるが、水熱処理温度が低すぎる場合と高すぎる場合の結果を表3に示す。水熱処理温度が低すぎる比較例3の場合には、非晶質の溶出量が少なくてゼオライトが殆ど生成しなかった。そのため、BET比表面積と細孔容積は、それぞれ16.3m/gと0.090cm/gと低かった。また、反射減衰量及び透過減衰量は、それぞれ10.0dB及び3.7dBと低かった。
【0035】
一方、水熱処理温度が高すぎる比較例4の場合には、方沸石が生成したため、BET比表面積と細孔容積は、それぞれ14.3m/gと0.076cm/gと低かった。また、反射減衰量及び透過減衰量は、それぞれ8.2dB及び3.9dBと低かった。
【0036】
比較例5
賦活・焼成温度が1000℃で、且つその雰囲気が空気中である他は、比較例3と略同じ条件で実験したところ、炭素が空気中で焼失したため、BET比表面積と細孔容積は、それぞれ11.0m/gと0.063cm/gと低かった。また、反射減衰量及び透過減衰量は、それぞれ11.8dB及び3.2dBと低かった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上詳述したように、本発明は、ゼオライト−炭素複合材料及びその製造方法並びに電磁波遮蔽・吸収部材に係るものであり、本発明は、BET比表面積と細孔容積がそれぞれ、30m/gと0.10cm/g以上で、また、反射減衰量が20.0dB以上の性能を発揮するゼオライト−炭素複合材料を提供することを可能とするものである。本発明のゼオライト−炭素複合材料は、例えば、壁材に適用することにより、電磁波が壁を透過し、室外に漏れ出したり、室外から侵入することを防止でき、それにより、通信品質の低下や情報漏れに繋がることがなくなり、更には人体への影響も著しく低減できる。また、本発明は、高水蒸気吸着能を有し、調湿能を有する水蒸気吸収素材を提供することができ、また、壁材に塗布する塗料や建材、或いは家具などから発生する揮発性有機化合物(VOC)を吸着し、それにより、室内空間の汚染を防止し、シックハウス症候群にも対応できる調湿、吸着部材を提供することができる。本発明のゼオライト−炭素複合材料は、産業廃棄物の再利用により、環境に優しく低コストで製造できることから、循環型社会の確立の促進に資することができるという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】水熱処理後の結晶相を示すX線回折パターンである。(a)、(b)及び(c)は、それぞれ実施例1、2及び3の回折パターンである。
【図2】Wバンド(75−110GHz)における反射減衰量及び透過減衰量を示す。(a)及び(b)は、それぞれ実施例1及び2の反射減衰量及び透過減衰量である。
【図3】Wバンド(75−110GHz)における複素比誘電率の実部を示す。(a)及び(b)は、それぞれ実施例1及び2の複素比誘電率の実部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト−炭素複合材料において、水熱合成ゼオライトと賦活化炭化物からなる複合材料であり、比表面積が30m/g以上、細孔容積が0.1cm/g以上であることを特徴とするゼオライト−炭素複合材料。
【請求項2】
反射減衰率が20dB以上である請求項1記載のゼオライト−炭素複合材料。
【請求項3】
水熱合成ゼオライトと賦活化炭化物からなる複合材料であり、比表面積が30m/g以上、細孔容積が0.1cm/g以上、反射減衰率が20dB以上であるゼオライト−炭素複合材料からなることを特徴とする電磁波遮蔽・吸収部材。
【請求項4】
請求項1に記載のゼオライト−炭素複合材料からなることを特徴とする調湿及び環境浄化作用を有する構造部材。
【請求項5】
アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源、炭素源、アルカリ賦活剤及び粘結材を混合後、成形し、所定温度で炭化・賦活焼成を行い、その後、アルカリ水溶液中で水熱反応させて水熱合成ゼオライトと炭化物からなる複合材料を得ることを特徴とするゼオライト−炭素複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源として、石炭灰を用いる請求項5記載のゼオライト−炭素複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記炭素源として、木屑を用いる請求項5記載のゼオライト−炭素複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ賦活剤として、NaCO、KCO、NaOH又はKOHの中から選択される一種以上を用いる請求項5記載のゼオライト−炭素複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記粘結材として、粘土を用いる請求項5記載のゼオライト−炭素複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記炭化焼成環境が、酸素分圧0.02kg/cm以下である請求項5記載のゼオライト−炭素複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記アルミニウム及びケイ素を含有する酸化物源、炭素源、アルカリ賦活剤及び粘結材に更に水を加える請求項5記載のゼオライト−炭素複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記炭化・賦活焼成のための所定温度が、500〜950℃である請求項5記載のゼオライト−炭素複合材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−124254(P2006−124254A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316978(P2004−316978)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】