説明

ゼオライト膜の製造方法

【課題】一度PV法によるエタノールの分離に使用した後で長期保管しても、分離性能が低下しにくいゼオライト膜を製造する。
【解決手段】種付け用ゾル並びに支持体を、耐圧容器内に入れ、前記耐圧容器内を加熱して前記支持体の表面にゼオライト種結晶を生成させる種結晶生成工程と、前記ゼオライト種結晶を成長させて支持体の表面にゼオライト膜を形成する膜形成工程と、前記ゼオライト膜を加熱処理することにより、構造規定剤を除去する加熱処理工程と、水とエタノールとの混合溶液を、前記支持体の表面に形成されたゼオライト膜に透過させる透過処理工程と、前記透過処理工程後、膜形成用ゾル並びに前記ゼオライト膜が表面に形成された前記支持体を、耐圧容器内に入れ、前記耐圧容器内を加熱して前記支持体の表面に形成された前記ゼオライト膜を更に成長させる膜再形成工程とを有するゼオライト膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水とエタノールとの混合溶液からパーベーパレーション法によりエタノールを分離するための分離膜として使用可能なゼオライト膜の製造方法に関し、更に詳しくは、一旦パーベーパレーション法によるエタノールの分離に用いた後で長期保管しても分離性能が低下しにくいゼオライト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト(zeolite)は、微細で均一な径の細孔が形成された網目状の結晶構造を有する珪酸塩の一種であり、一般式:WmZnOn・sHO(W:ナトリウム、カリウム、カルシウム等、Z:珪素、アルミニウム等、sは種々の値をとる)で示される種々の化学組成が存在するとともに、結晶構造についても細孔形状の異なる多くの種類(型)が存在することが知られている。これらのゼオライトは、各々の化学組成や結晶構造に基づいた固有の吸着能、触媒性能、固体酸特性、イオン交換能等を有しており、吸着材、触媒、触媒担体、ガス分離膜、或いはイオン交換体といった様々な用途において利用されている。
【0003】
そして、最近においては、膜状に形成したゼオライト(ゼオライト膜)を、複数の液体成分を含む混合溶液からの特定成分の分離、例えばバイオマスから得られる水とエタノールとを含有する混合溶液からエタノールの分離を行うため分離膜として使用する試みがなされている。
【0004】
このようなゼオライト膜の製造方法として、例えば、特許文献1には、シリカ、水及び構造規定剤を含有する種付け用ゾル並びに支持体を、前記支持体が前記種付け用ゾルに浸漬された状態になるように、耐圧容器内に入れ、前記耐圧容器内を加熱して前記支持体表面にゼオライト種結晶を生成させる種結晶生成工程と、前記ゼオライト種結晶を成長させて支持体の表面にゼオライト膜を形成する膜形成工程とを有するゼオライト膜の製造方法が開示されている。
【0005】
ところで、このような方法で製造されたゼオライト膜を分離膜として使用し、水とエタノールとの混合溶液からエタノールを分離する場合、パーベーパレーション(PV)法にて行うのが一般的であるが、このPV法によるエタノールの分離に使用したゼオライト膜は、使用後、長期(数ヶ月)に渡って保管すると分離性能が顕著に低下することが確認された。
【特許文献1】国際公開第2007/058387号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水とエタノールとの混合溶液からPV法によりエタノールを分離するための分離膜として使用可能なゼオライト膜であって、一度PV法によるエタノールの分離に使用した後で長期保管しても、分離性能が低下しにくいものを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のようなゼオライト膜の製造方法が提供される。
【0008】
[1] シリカ、水及び構造規定剤を含有する種付け用ゾル並びに支持体を、前記支持体が前記種付け用ゾルに浸漬された状態になるように、耐圧容器内に入れ、前記耐圧容器内を加熱して前記支持体の表面にゼオライト種結晶を生成させる種結晶生成工程と、前記ゼオライト種結晶を成長させて支持体の表面にゼオライト膜を形成する膜形成工程と、前記ゼオライト膜を加熱処理することにより、構造規定剤を除去する加熱処理工程と、水とエタノールとの混合溶液に、前記支持体の表面に形成されたゼオライト膜を透過させる透過処理工程と、前記透過処理工程後、シリカ、水及び構造規定剤を含有する膜形成用ゾル並びに前記ゼオライト膜が表面に形成された前記支持体を、前記支持体が前記膜形成用ゾルに浸漬された状態になるように、耐圧容器内に入れ、前記耐圧容器内を加熱して前記支持体の表面に形成された前記ゼオライト膜を更に成長させる膜再形成工程とを有するゼオライト膜の製造方法。
【0009】
[2] 前記種結晶生成工程において、耐圧容器を加熱する時間が3〜18時間である[1]に記載のゼオライト膜の製造方法。
【0010】
[3] 前記種結晶生成工程において、得られるゼオライト種結晶の粒子径が1μm以下である[1]又は[2]に記載のゼオライト膜の製造方法。
【0011】
[4] 前記膜再形成工程後におけるゼオライト膜の膜厚が、1〜50μmである[1]〜[3]の何れかに記載のゼオライト膜の製造方法。
【0012】
[5] 前記ゼオライト膜が、MFI型ゼオライトから形成される[1]〜[4]の何れかに記載のゼオライト膜の製造方法。
【0013】
[6] 前記ゼオライト膜が、そのc軸が前記支持体表面に対して垂直な方向に配向する結晶膜である[1]〜[5]の何れかに記載のゼオライト膜の製造方法。
【0014】
[7] 前記支持体が、複数の流通路(チャネル)が軸方向に並行に形成された柱状の多孔質体であり、前記種結晶生成工程が、前記チャネルの表面にゼオライト種結晶を生成させる工程である[1]〜[6]の何れかに記載のゼオライト膜の製造方法。
【0015】
[8] 前記膜形成工程後、前記透過処理工程前に、前記支持体の表面に形成されたゼオライト膜を更に成長させる、少なくとも一の膜成長工程を有する[1]〜[7]の何れかに記載のゼオライト膜の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、水とエタノールとの混合溶液からPV法によりエタノールを分離する分離膜として使用した後で長期保管しても、分離性能が低下しにくいゼオライト膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
本発明のゼオライト膜の製造方法を、主として、MFI型ゼオライトの例により具体的に説明する。但し、本発明のゼオライト膜の製造方法は、MFI型ゼオライト以外の型のゼオライト、例えば、LTA、MOR、AFI、BEA、FER、FAU、DDR等の従来公知のゼオライトにも当然に適用することができるものである。
【0019】
本発明のゼオライト膜の製造方法は、シリカ、水及び構造規定剤を含有する種付け用ゾル並びに支持体を、支持体が種付け用ゾルに浸漬された状態になるように、耐圧容器内に入れ、その耐圧容器内を加熱して支持体の表面にゼオライト種結晶を生成させる種結晶生成工程と、ゼオライト種結晶を成長させて支持体の表面にゼオライト膜を形成する膜形成工程と、ゼオライト膜を加熱処理することにより、構造規定剤を除去する加熱処理工程と、水とエタノールとの混合溶液を、支持体の表面に形成されたゼオライト膜に透過させる透過処理工程と、透過処理工程後、シリカ、水及び構造規定剤を含有する膜形成用ゾル並びにゼオライト膜が表面に形成された支持体を、支持体が膜形成用ゾルに浸漬された状態になるように、耐圧容器内に入れ、その耐圧容器内を加熱して支持体の表面に形成されたゼオライト膜を更に成長させる膜再形成工程とを有するものである。
【0020】
(1)種結晶生成工程:
(1−1)種付け用ゾル;
本発明のゼオライト膜の製造方法に使用する種付け用ゾルは、水中にシリカ微粒子が分散したシリカゾルであり、その中に少なくとも構造規定剤を含有するものである。この種付け用ゾルは、所定濃度のシリカゾルと、濃度調整用の水と、所定濃度の構造規定剤水溶液とを、それぞれ所定量混合することにより得られる。この種付け用ゾルは、後述する水熱処理によりゼオライトへ結晶化され、構造規定剤の分子の周囲をシリカゾル由来のシリカ原子が取り囲んだような構造を形成する。そして、後述する加熱処理により、その構造から構造規定剤が除去され、構造規定剤に特異的な細孔形状を有するゼオライト結晶を形成し得るものである。
【0021】
シリカゾルとしては、市販のシリカゾル(例えば、商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製、固形分濃度30質量%)を好適に用いることができる。ここで、固形分とはシリカのことをいう。尚、シリカ微粉末を水に溶解させることにより調製したもの、或いはアルコキシシランを加水分解することにより調製したものを用いてもよい。
【0022】
種付け用ゾルは、含有される水とシリカ(微粒子)とのモル比(水/シリカモル比:水のモル数をシリカのモル数で除した値)が、水/シリカ=10〜50であることが好ましく、20〜40であることが更に好ましい。このように、種付け用ゾルのシリカ濃度を高くすることにより、ゼオライト種結晶を微粒子とし、支持体表面に付着させることが可能となる。水/シリカモル比が10より小さいと、ゼオライト種結晶が支持体表面に不均質にかつ過剰に析出することがあり、50より大きいと、ゼオライト種結晶が支持体表面に析出しないことがある。ここで、ゼオライト種結晶が支持体表面に付着した状態は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)写真において、支持体表面を被覆している割合(写真上の面積割合)として定量的に示すことができ、その割合が5〜100%であることが好ましい。
【0023】
MFI型ゼオライトの構造規定剤としては、テトラプロピルアンモニウムイオン(TPA)を生じ得る、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)やテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)が用いられる。従って、構造規定剤水溶液としては、TPAOH及び/又はTPABrを含む水溶液を好適に用いることができる。
【0024】
シリカゾルとして、シリカ微粒子の他、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を含有するものを用いることも好ましい。MFI型ゼオライトの構造規定剤として用いられるTPAOHは比較的高価な試薬であるが、この方法によれば、比較的安価なTPABrとアルカリ金属等の水酸化物とからTPA源とアルカリ源を得ることができる。即ち、この方法では高価なTPAOHの使用量を削減できるため、原料コストを低減させることができ、ゼオライトを安価に生産することが可能となる。
【0025】
シリカゾルと構造規定剤水溶液とを混合するに際しては、シリカに対するTPAのモル比(TPA/シリカ比)が0.05〜0.5の範囲内となるように両者を混合することが好ましく、0.1〜0.3の範囲内とすることが更に好ましい。TPA/シリカ比が0.051未満であると、種結晶が析出しないことがあり、0.5を超えると過剰に支持体表面に析出することがある。
【0026】
尚、構造規定剤として用いられる物質はゼオライトの型により異なるため、所望の型のゼオライトに応じた構造規定剤を適宜選択して使用する。例えば、BEA型ゼオライト(「β−ゼオライト」とも称される)の場合にはテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)やテトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)等を、DDR型ゼオライトの場合には1−アダマンタンアミン等を使用する。シリカに対する構造規定剤のモル比(構造規定剤/シリカ比)は、各々の型のゼオライトの従来公知の合成法に準じて決定すればよい。
【0027】
また、種付け用ゾル調製時に添加する水は、不純物イオンを含まないことが好ましく、具体的には蒸留水又はイオン交換水であることが好ましい。
【0028】
(1−2)支持体;
支持体は、ゼオライト種結晶を表面に生成し、ゼオライト膜を形成することができれば特に限定されるものではなく、その材質、形状及び大きさは用途等に合わせて適宜決定することができる。支持体を構成する材料としては、アルミナ(α−アルミナ、γ−アルミナ、陽極酸化アルミナ等)、ジルコニア等のセラミックスあるいはステンレスなどの金属等を挙げることができ、支持体作製、入手の容易さの点から、アルミナが好ましい。アルミナとしては、平均粒径0.001〜30μmのアルミナ粒子を原料として成形、焼結させたものが好ましい。支持体は多孔質体であることが好ましい。支持体の形状としては、板状、円筒状、断面多角形の管状、モノリス形状、スパイラル形状等いずれの形状でもよいが、モノリス形状が好ましい。ここで、モノリス形状とは、図1に示す支持体51のような、複数の流通路(チャネル)52が軸方向53に並行に形成された柱状のものをいう。支持体51としては、特にモノリス形状の多孔質体54であることが好ましい。このような、モノリス形状の多孔質体からなる支持体は、公知の製造方法により形成することができ、例えば、押出成形等により形成することができる。
【0029】
(1−3)ゼオライト種結晶の生成;
ゼオライト種結晶を生成させるために、まず、上記支持体と上記種付け用ゾルを耐圧容器内に入れる。このとき、支持体が、種付け用ゾルに浸漬されるように配置する。その後、耐圧容器を加熱し、水熱合成により支持体表面にゼオライト種結晶を生成させる。
【0030】
耐圧容器としては、特に限定されないが、フッ素樹脂製内筒付のステンレス製耐圧容器、ニッケル金属製耐圧容器等を使用することができる。支持体を種付け用ゾルに浸漬する際には、少なくともゼオライト種結晶を析出させる箇所を種付け用ゾル内に沈めることが好ましく、支持体全体を種付け用ゾルに沈めてもよい。水熱合成を行う場合の温度は、90〜130℃が好ましく、100〜120℃がより好ましい。90℃より低温であると、水熱合成が進行しにくく、130℃より高温であると、得られるゼオライト種結晶を微粒化できないことがある。特に、支持体がアルミナ粒子を焼結した多孔体である場合には、水熱合成の温度を上記範囲(90〜130℃)とすることにより、支持体表面に位置するアルミナ粒子のそれぞれの表面をゼオライト種結晶で覆うことが可能となる。また、水熱合成の合成時間は、3〜18時間であることが好ましく、6〜12時間であることがより好ましい。3時間より短いと、水熱合成が十分に進行しないことがあり、18時間より長いと、ゼオライト種結晶が大きくなり過ぎることがある。このように、水熱合成により支持体表面に直接ゼオライト種結晶を析出させると、支持体からゼオライト種結晶が剥離し難くなるため、ゼオライト膜を形成したときに、膜の欠陥や膜厚の不均一等の問題を防止することができる。
【0031】
また、加熱する方法としては、耐圧容器を熱風乾燥機に入れて加熱したり、耐圧容器にヒーターを直接取り付けて加熱する等の方法が挙げられる。
【0032】
得られるゼオライト種結晶の粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.01〜0.5μmであることが特に好ましい。1μmより大きいと、膜形成工程において欠陥が少なく均一な膜厚で緻密なゼオライト膜を形成できないことがある。ここで、ゼオライト種結晶の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって得られた値とし、1μm以下というときは、最大粒子径が1μm以下であることを示す。
【0033】
支持体表面にゼオライト種結晶が析出した後は、支持体を水を使用して煮沸洗浄することが好ましい。これにより、余分なゼオライトの生成を防止することができる。洗浄時間は、種付け用ゾルが洗い流されれば特に限定されないが、0.5〜3時間の洗浄を1〜5回繰り返すことが好ましい。洗浄の後は、60〜120℃で、4〜48時間乾燥させることが好ましい。
【0034】
また、支持体として図1に示すようなモノリス形状の多孔質体54を使用する場合には、支持体51のチャネル52の表面に、ゼオライト種結晶を生成させることが好ましい。この場合、支持体51を、種付け用ゾルに浸漬させるときには、外周面をフッ素樹脂等のテープで被覆した状態で浸漬することが好ましい。
【0035】
(2)膜形成工程:
(2−1)膜形成用ゾル;
膜形成用ゾルは、原料としては、上述した種付け用ゾルに含有されるシリカゾル、構造規定剤及び水と同じものを使用し、種付け用ゾルの場合より水を多く使用して、種付け用ゾルより濃度を薄くしたものを使用することが好ましい。
【0036】
膜形成用ゾルの、含有される水とシリカ(微粒子)とのモル比(水/シリカモル比)は、水/シリカ=100〜700であることが好ましく、200〜500であることが更に好ましい。水/シリカモル比が100〜700であると、均一な厚みの欠陥の少ない緻密なゼオライト膜を形成することができる。水/シリカモル比が100より小さいと、シリカ濃度が高くなるため、膜形成用ゾル中にゼオライト結晶が析出し、ゼオライト膜表面に堆積するため、焼成等の活性化処理時にクラック等が発生し易くなることがある。また、水/シリカモル比が700より大きいと、ゼオライト膜が緻密になり難いことがある。
【0037】
膜形成用ゾルにおいて、シリカゾルと構造規定剤水溶液とを混合するに際しては、シリカに対するTPAのモル比(TPA/シリカ比)が0.01〜0.5の範囲内となるように両者を混合することが好ましく、0.02〜0.3の範囲内とすることが更に好ましい。TPA/シリカ比が0.01未満であると、膜が緻密になりにくく、0.5を超えるとゼオライト結晶が膜表面に堆積することがある。
【0038】
(2−2)膜形成;
支持体表面に析出したゼオライト種結晶を水熱合成により成長させて、支持体表面に、膜状に成長したゼオライト結晶からなるゼオライト膜を形成する。ゼオライト膜を支持体表面に形成するために、上記ゼオライト種結晶を生成(析出)させた場合と同様にして、まず、ゼオライト種結晶が析出した支持体と上記膜形成用ゾルを耐圧容器内に入れる。このとき、支持体が、膜形成用ゾルに浸漬されるように配置する。その後、耐圧容器内を加熱して水熱合成により支持体表面にゼオライト膜を形成する。
【0039】
耐圧容器としては、上記ゼオライト種結晶の生成に使用した耐圧容器を使用することが好ましい。支持体を膜形成用ゾルに浸漬する際には、少なくともゼオライト膜を形成させる箇所を膜形成用ゾル内に沈めることが好ましく、支持体全体を膜形成用ゾルに沈めてもよい。水熱合成を行う場合の温度は、100〜200℃が好ましく、120〜180℃が更に好ましい。このような温度範囲とすることにより、均一な厚みで欠陥の少ない緻密なゼオライト膜を得ることが可能となる。そして、本発明のゼオライト膜の製造方法では、このような高品質な膜を再現性よく製造することが可能であり、製造効率が高い。100℃より低温であると、水熱合成が進行し難いことがあり、200℃より高温であると、得られるゼオライト膜を均一な厚みの欠陥の少ない緻密なものとし難いことがある。また、水熱合成の合成時間は、3〜120時間であることが好ましく、6〜90時間であることが更に好ましく、10〜72時間であることが特に好ましい。3時間より短いと、水熱合成が十分に進行しないことがあり、120時間より長いと、ゼオライト膜が、不均一な厚さで、厚くなり過ぎることがある。ここで、ゼオライト膜が緻密であるというときは、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した場合に、支持体表面の露出がない状態であることをいう。また、ゼオライト膜の欠陥は、例えば、ローダミンB溶液のような着色剤を支持体表面に塗布した後、速やかに水洗することにより残存する着色を目視により観察することができ、欠陥が少ないというときは、着色がほとんど残存しない状態であることをいう。
【0040】
膜形成工程にて得られるゼオライト膜の膜厚は、30μm以下であることが好ましく、0.5〜30μmであることが更に好ましく、1〜20μmであることが更に好ましく、1〜15μmであることが特に好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。30μmより厚いと、分離膜として使用したときに、分離効率が低下することがある。ここで、ゼオライト膜の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によって得られた値とする。このように薄い膜を形成することができるため、上述した欠陥が少なく膜厚が均一で緻密であるという特徴と合わせて、分離性能の高い分離膜とすることができる。
【0041】
水熱合成により支持体表面にゼオライト膜を形成した後には、支持体を水を使用して煮沸洗浄することが好ましい。これにより、ゼオライト膜上に余分なゼオライト結晶が付着することを防止することができる。洗浄時間は、特に限定されないが、0.5〜3時間の洗浄を1〜5回繰り返すことが好ましい。洗浄の後は、60〜120℃で、4〜48時間乾燥させることが好ましい。
【0042】
(3)加熱処理工程:
膜形成工程において、水熱合成により支持体表面に形成されたゼオライト膜は、テトラプロピルアンモニウム等の構造規程剤を含むものであるため、ゼオライト膜を加熱処理(活性化処理)することにより、この構造規程剤を除去する。加熱温度は、400〜600℃が好ましく、加熱時間は1〜60時間が好ましい。また、加熱に使用する機器としては、電気炉等を挙げることができる。
【0043】
(4)膜成長工程:
本発明においては、上記膜形成工程の後であって、後述する透過処理工程の前に、支持体の表面に形成されたゼオライト膜を更に成長させる、少なくとも一の膜成長工程を有することが好ましい。特に、支持体をモノリス形状とし、チャネル内の表面にゼオライト膜を形成する場合には、膜形成用ゾル中に含まれるシリカ成分がチャネル内で不足し、膜形成工程だけでは、膜形成が十分でないことがある。そのような場合には、その後に、更に、膜成長工程によりゼオライト膜を成長させることにより、所望の厚さのゼオライト膜を形成することができる。この膜成長工程は、1回だけでなく、2回以上行ってもよい。
【0044】
膜成長工程の操作は、上記膜形成工程において、「種結晶生成工程で得られた、表面にゼオライト種結晶を析出させた支持体」を用いる代わりに、「膜形成工程で得られた、表面にゼオライト膜が形成された支持体」を用い、それ以外については、上記膜形成工程と同様の操作とすることが好ましい。
【0045】
(5)透過処理工程:
本発明においては、上記膜形成工程の後(上記膜成長工程を行う場合はその後)、水とエタノールとの混合溶液(エタノール水溶液)を、支持体の表面に形成されたゼオライト膜に透過させる処理を施す。この透過処理においては、エタノール水溶液に、ゼオライト膜の持つ細孔を、液体又は気体の状態で透過させることが肝要であり、透過させるエタノール水溶液の濃度は特に限定されない。好適な処理条件の例としては、多孔質の支持体に形成されたゼオライト膜の表面(支持体と接触していない側の面)に、エタノール濃度が1〜100体積%程度のエタノール水溶液を25〜150℃程度に加熱して接触させつつ、支持体のゼオライト膜が形成されていない側を減圧し、PV法により気体(蒸気)として透過させる処理を0.1〜10時間程度行うことが挙げられる。先述のとおり、PV法によるエタノールの分離に使用したゼオライト膜は、使用後、長期に渡って保管すると分離性能が顕著に低下するが、本発明者が鋭意研究を行った結果、一度このような透過処理を施したゼオライト膜を、後述する膜再形成工程により更に成長させると、PV法によるエタノールの分離に使用後、長期保管しても分離性能が低下しにくいゼオライト膜となることがわかった。
【0046】
(6)膜再形成工程:
(6−1)膜形成用ゾル;
膜再形成工程で用いる膜形成用ゾルには、上記膜形成工程で使用したものと同じものを使用することができる。
【0047】
(6−2)膜再形成;
膜形成工程にて支持体表面に形成されたゼオライト膜に上記のような透過処理を施した後、ゼオライト膜を水熱合成により更に成長させる。ゼオライト膜を更に成長させるため、上記ゼオライト種結晶を生成(析出)させた場合と同様にして、まず、透過処理工程後のゼオライト膜が表面に形成された支持体と上記膜形成用ゾルを耐圧容器内に入れる。このとき、支持体が、膜形成用ゾルに浸漬されるように配置する。その後、耐圧容器内を加熱して水熱合成によりゼオライト膜を成長させる。
【0048】
耐圧容器としては、上記ゼオライト種結晶の生成に使用した耐圧容器を使用することが好ましい。支持体を膜形成用ゾルに浸漬する場合は、少なくともゼオライト膜が形成されている箇所を膜形成用ゾル内に沈めることが好ましく、支持体全体を膜形成用ゾルに沈めてもよい。水熱合成を行う際の好適な温度や時間は、上記膜形成工程と同様である。
【0049】
水熱合成により支持体表面に形成されたゼオライト膜を更に成長させた後には、支持体を水を使用して煮沸洗浄することが好ましい。これにより、ゼオライト膜上に余分なゼオライト結晶が付着することを防止することができる。洗浄時間は、特に限定されないが、0.5〜3時間の洗浄を1〜5回繰り返すことが好ましい。洗浄の後は、60〜120℃で、4〜48時間乾燥させることが好ましい。
【0050】
次に、上記方法により成長させたゼオライト膜を加熱処理(活性化処理)することにより、テトラプロピルアンモニウムを除去する。加熱温度は、400〜600℃が好ましく、加熱時間は1〜60時間が好ましい。また、加熱に使用する機器としては、電気炉等を挙げることができる。
【0051】
膜再形成工程にて得られる成長後のゼオライト膜の全膜厚は、50μm以下であることが好ましく、1〜50μmであることが更に好ましく、1〜40μmであることが更に好ましく、1〜30μmであることが特に好ましく、1〜20μmであることが最も好ましい。50μmより厚いと、分離膜として使用したときに、分離効率が低下することがある。
【0052】
本発明により得られるゼオライト膜は、ゼオライト結晶のc軸が支持体表面に対して垂直な方向に配向(c軸配向)したものであることが好ましく、c軸配向するゼオライト結晶の比率が高いほど好ましい。具体的には、ゼオライト膜を構成するゼオライト結晶の90%以上がc軸配向したものであることが好ましい。ゼオライト膜がc軸配向することにより、水とエタノールとを混合した溶液から、パーベーパレーションによりエタノールを分離(透過)するための分離膜として、好適に使用することが可能となる。ここで、ゼオライト膜がc軸配向しているというときは、ゼオライト膜のc軸が、支持体表面に対して90度の方向に配向している場合だけでなく、90度±33.76度の範囲で配向している状態をいう。
【0053】
ここで、図2,3にMFI型ゼオライト結晶およびc軸配向の説明図を示す。図2は、MFI型ゼオライトの結晶1のabc結晶軸系2における各結晶面を模式的に示した斜視図である。図3は、MFI型ゼオライト結晶が、支持体表面3に対して特定の方向に配向した状態を示す模式図である。MFI型ゼオライト結晶1aは、そのc軸4aと支持体表面3とにより形成される角度が90度+33.76度であり、ゼオライト結晶の101結晶面が支持体表面3に対して平行に配置された状態である。また、MFI型ゼオライト結晶1cは、そのc軸4cと支持体表面3とにより形成される角度が90度−33.76度であり、ゼオライト結晶の101結晶面が支持体表面3に対して平行に配置された状態である。このとき、「90度+33.76度」と「90度−33.76度」とは相対的な関係であり、c軸4aと支持体表面3との角度が「90度−33.76度」であり、c軸4cと支持体表面3との角度が「90度+33.76度」であるとしてもよい。また、MFI型ゼオライト結晶1bは、そのc軸4bと支持体表面3とにより形成される角度が90度であり、ゼオライト結晶の001結晶面が支持体表面3に対して平行に配置された状態である。ゼオライト結晶の配向は、X線回折により測定することができる。また、本発明の製造方法で得られたゼオライト膜は、水とエタノールの混合液だけでなく、他の低分子量物質の混合物の分離に使用することも可能である。
【0054】
本発明により得られるゼオライト膜は、PV法によるエタノールの分離に使用した後、長期に渡って保管しても分離性能が低下しにくいものであるが、分離性能の低下をより小さく抑えるため、できる限り乾燥した環境で保管するのが望ましい。ゼオライトには吸着作用があるため、空気中の水分を吸着しやすく、それが分離性能低下の一因となるからである。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(種付け用ゾルの調製)
40質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)33.32gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)17.45gとを混合し、更に蒸留水76.17gと、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)87.5gとを加え、マグネチックスターラーにて室温で30分間撹拌して種付け用ゾルとした。
【0057】
(ゼオライト種結晶の生成)
図4に示すように、得られた種付け用ゾル66を、フッ素樹脂製内筒62が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、予め外周をフッ素樹脂製テープで被覆した直径30mm、流通路(チャネル)内径3mm、流通路数37、長さ80mmのモノリス状の多孔質アルミナ支持体65を浸漬し、110℃の熱風乾燥機中で12時間反応させた。アルミナ支持体65は、フッ素樹脂製の固定治具64により耐圧容器61内に固定した。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。反応後の支持体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、多孔質のアルミナ支持体の表面(チャネルの表面)全体を約0.5μmのゼオライト結晶粒子(種結晶)が隙間無く覆っていた。そして、結晶粒子のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
【0058】
(膜形成用ゾルの調製)
40質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)0.86gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)0.45gとを混合し、更に蒸留水207.36gと、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)6.75gとを加え、マグネチックスターラーにて室温で30分間撹拌して膜形成用ゾルとした。
【0059】
(ゼオライト膜の形成)
図4に示すように、得られた膜形成用ゾル66’を、上記「ゼオライト種結晶の生成」の場合と同様に、フッ素樹脂製内筒62が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、上記ゼオライト種結晶が析出した多孔質アルミナ支持体65を浸漬し、160℃の熱風乾燥機中で24時間反応させた。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。このゼオライト膜の形成の工程を更にもう1回繰り返し、支持体上に種結晶から成長したMFI型ゼオライト膜を形成した。次いで、このゼオライト膜が形成された支持体を電気炉で500℃まで昇温し、4時間保持して、テトラプロピルアンモニウムを除去した。
【0060】
(ゼオライト膜の透過処理)
次に、エタノール水溶液をゼオライト膜に透過させる処理を施した。具体的には、70℃に加熱したエタノール濃度15体積%のエタノール水溶液を、支持体のチャネル内に流通させることにより、チャネル表面に形成されたゼオライト膜にエタノール水溶液を接触させながら、支持体の外周側を減圧して、エタノール水溶液を透過させる処理を0.5時間行った。
【0061】
(ゼオライト膜の再形成)
続いて、上記「ゼオライト膜の形成」に用いた膜形成用ゾルを使用して、透過処理後のゼオライト膜を更に成長させた。即ち、再び図4に示すように、膜形成用ゾル66’を、フッ素樹脂製内筒62が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、透過処理後のゼオライト膜が形成された多孔質アルミナ支持体65を浸漬し、160℃の熱風乾燥機中で24時間反応させた。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。次いで、このゼオライト膜が再形成された支持体を電気炉で500℃まで昇温し、4時間保持して、テトラプロピルアンモニウムを除去した。こうして得られたゼオライト膜の膜厚は16μmであった。
【0062】
(パーベーパレーション(PV)試験)
得られたゼオライト膜について、PV試験を行いその分離性能(初期性能)を調べた。また、PV試験後のゼオライト膜を大気中にて保管し、保管開始から1ヶ月後、2ヶ月後及び3ヶ月後に再びPV試験を行い、長期保管による分離性能の変化を調べた。図5は、PV試験に用いた試験装置全体を示す模式図である。図5に示すように、原料タンク31内に入れられた、エタノールを10体積%含む水溶液(原料)を約70℃に加熱する。供給ポンプ32にてSUS(ステンレススチール)製モジュール35の原料側空間36に、供給液導入口33より原料を供給し、供給液排出口34から排出された原料を原料タンク31に戻すことで、原料を循環させる。原料の流量は流量計39で確認する。真空ポンプ43にてゼオライト膜38の支持体側(透過側空間37)を減圧することで、ゼオライト膜38を透過し、透過蒸気回収口40から排出される透過蒸気を液体Nトラップ41にて回収する。透過側空間37の真空度は圧力制御器42により制御する。SUS製モジュール35は、内部空間がゼオライト膜38により原料側空間36と透過側空間37とに仕切られ、原料側空間36に連通するように供給液導入口33と供給液排出口34とが形成され、透過側空間37に透過蒸気を外部に排出するための透過蒸気回収口40が形成されている。得られた液体の質量は電子天秤にて秤量し、液体の組成はガスクロマトグラフィーにて分析した。
【0063】
上記PV試験の結果得られた分離係数αとエタノール透過量を表1に示す。ここで、分離係数αとは、下記式で示されるように、供給液中のエタノール濃度(体積%)と水濃度(体積%)との比に対する透過液中のエタノール濃度(体積%)と水濃度(体積%)との比の値をいう。
【0064】
分離係数α=((透過液中のエタノール濃度)/(透過液中の水濃度))/((供給液中のエタノール濃度)/(供給液中の水濃度))
【0065】
【表1】

【0066】
[実施例2]
実施例1における最初のPV試験後のゼオライト膜を、高湿度環境(湿度90%)で保管し、1ヶ月後に再びPV試験による分離性能の評価を行ったところ、分離係数α=39、エタノール透過量1.8kg/m・hであった。
【0067】
[比較例1]
(種付け用ゾルの調製)
40質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)95gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)18.88gとを混合し、更に蒸留水82.54gと、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)95gとを加え、マグネチックスターラーにて室温で30分間撹拌して種付け用ゾルとした。
【0068】
(ゼオライト種結晶の生成)
図4に示すように、得られた種付け用ゾル66を、フッ素樹脂製内筒62が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、予め外周をフッ素樹脂製テープで被覆した直径30mm、流通路(チャネル)内径3mm、流通路数37、長さ80mmのモノリス状の多孔質アルミナ支持体65を浸漬し、110℃の熱風乾燥機中で10時間反応させた。アルミナ支持体65は、フッ素樹脂製の固定治具64により耐圧容器61内に固定した。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。反応後の支持体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、多孔質のアルミナ支持体の表面(チャネルの表面)全体を約0.5μmのゼオライト結晶粒子(種結晶)が隙間無く覆っていた。そして、結晶粒子のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
【0069】
(膜形成用ゾルの調製)
40質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)0.66gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)0.34gとを混合し、更に蒸留水229.6gと、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)5.2gとを加え、マグネチックスターラーにて室温で30分間撹拌して膜形成用ゾルとした。
【0070】
(ゼオライト膜の形成)
図4に示すように、得られた膜形成用ゾル66’を、上記「ゼオライト種結晶の生成」の場合と同様に、フッ素樹脂製内筒62が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、上記ゼオライト種結晶が析出した多孔質アルミナ支持体65を浸漬し、180℃の熱風乾燥機中で60時間反応させた。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。このゼオライト膜の形成の工程を更にもう1回繰り返し、支持体上に種結晶から成長したMFI型ゼオライト膜を形成した。次いで、このゼオライト膜が形成された支持体を電気炉で500℃まで昇温し、4時間保持して、テトラプロピルアンモニウムを除去した。こうして得られたゼオライト膜の膜厚は12μmであった。
【0071】
(PV試験)
得られたゼオライト膜について、PV試験を行いその分離性能(初期性能)を調べた。また、PV試験後のゼオライト膜を大気中にて保管し、保管開始から1ヶ月後及び2ヶ月後に再びPV試験を行い、長期保管による分離性能の変化を調べた。試験装置や試験方法は実施例1の場合と同様である。このPV試験の結果得られた分離係数αとエタノール透過量を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
[比較例2]
(種付け用ゾルの調製)
40質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)95gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)18.88gとを混合し、更に蒸留水82.54gと、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)95gとを加え、マグネチックスターラーにて室温で30分間撹拌して種付け用ゾルとした。
【0074】
(ゼオライト種結晶の生成)
図4に示すように、得られた種付け用ゾル66を、フッ素樹脂製内筒62が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、予め外周をフッ素樹脂製テープで被覆した直径30mm、流通路(チャネル)内径3mm、流通路数37、長さ80mmのモノリス状の多孔質アルミナ支持体65を浸漬し、110℃の熱風乾燥機中で10時間反応させた。アルミナ支持体65は、フッ素樹脂製の固定治具64により耐圧容器61内に固定した。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。反応後の支持体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、多孔質のアルミナ支持体の表面(チャネルの表面)全体を約0.5μmのゼオライト結晶粒子(種結晶)が隙間無く覆っていた。そして、結晶粒子のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
【0075】
(膜形成用ゾルの調製)
40質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)0.66gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)0.34gとを混合し、更に蒸留水229.6gと、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)5.2gとを加え、マグネチックスターラーにて室温で30分間撹拌して膜形成用ゾルとした。
【0076】
(ゼオライト膜の形成)
図4に示すように、得られた膜形成用ゾル66’を、上記「ゼオライト種結晶の生成」の場合と同様に、フッ素樹脂製内筒62が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、上記ゼオライト種結晶が析出した多孔質アルミナ支持体65を浸漬し、180℃の熱風乾燥機中で60時間反応させた。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。このゼオライト膜の形成の工程を更に3回繰り返し、支持体上に種結晶から成長したMFI型ゼオライト膜を形成した。次いで、このゼオライト膜が形成された支持体を電気炉で500℃まで昇温し、4時間保持して、テトラプロピルアンモニウムを除去した。こうして得られたゼオライト膜の膜厚は22μmであった。
【0077】
(PV試験)
得られたゼオライト膜について、PV試験を行いその分離性能(初期性能)を調べた。また、PV試験後のゼオライト膜を大気中にて保管し、保管開始から1ヶ月後及び2ヶ月後に再びPV試験を行い、長期保管による分離性能の変化を調べた。試験装置や試験方法は実施例1の場合と同様である。このPV試験の結果得られた分離係数αとエタノール透過量を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
[比較例3]
比較例1における最初のPV試験後のゼオライト膜を、高湿度環境(湿度90%)で保管し、1ヶ月後に再びPV試験による分離性能の評価を行ったところ、分離係数α=14、エタノール透過量2.7kg/m・hであった。
【0080】
表1〜3より、本発明の製造方法により得られた実施例1のゼオライト膜は、透過処理工程とその後の膜再形成工程を含まない従来の製造方法により得られた比較例1及び比較例2のゼオライト膜に比べて、PV法によるエタノールの分離に使用した後、長期保管した場合における分離性能の低下が小さいことがわかる。
【0081】
尚、下記表4と図6のグラフは、実施例1、比較例1及び比較例2における分離係数αの変化をまとめて示したものであるが、実施例1は、より膜厚の厚い比較例2と比べても長期保管による分離性能の低下が抑えられている。これは、PV法によるエタノールの分離に使用した後、長期保管した場合における分離性能の低下抑制効果は、膜厚に依存しているのではなく、製造過程において透過処理工程とその後の膜再形成工程を経ることによりもたらされたものであることを示している。また、下記表5は、実施例2及び比較例3における分離係数αの変化をまとめて示したものであるが、実施例2は、比較例3と比べて、高湿度環境での保存による分離性能の低下が顕著に抑制されており、これは、製造過程において透過処理工程とその後の膜再形成工程を経ることにより、ゼオライト膜の分離性能が保管環境の影響を受けにくくなることを示している。
【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、低分子量物質の混合物から特定の物質を分離するための分離膜を製造するために利用することが可能であり、特に、エタノールと水との混合液からエタノールを高効率で分離することが可能な分離膜を製造するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明のゼオライト膜の製造方法において用いる支持体の一の実施形態(モノリス形状)を示す斜視図である。
【図2】MFI型ゼオライト結晶を模式的に示す斜視図である。
【図3】MFI型ゼオライト結晶が、ゼオライト膜の表面に平行な面(膜表面)に対して特定の方向に配向した状態を示す模式図である。
【図4】実施例1において、支持体及びシリカゾルを耐圧容器内に入れた状態を概略的に示す、断面図である。
【図5】パーベーパレーション試験に用いた試験装置全体を示す模式図である。
【図6】実施例1、比較例1及び比較例2の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0086】
1,1a,1b,1c:MFI型ゼオライト結晶、2:abc結晶軸系、3:支持体表面、4a,4b,4c:c軸、31:原料タンク、32:供給ポンプ、33:供給液導入口、34:供給液排出口、35:SUS製モジュール、36:原料側空間、37:透過側空間、38:ゼオライト膜、39:流量計、40:透過蒸気回収口、41:液体窒素トラップ、42:圧力制御器、43:真空ポンプ、51:支持体、52:チャネル、53:軸方向、54:多孔質体、61:耐圧容器、62:内筒、63:ステンレス容器、64:固定治具、65:支持体、66:種付け用ゾル、66’:膜形成用ゾル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、水及び構造規定剤を含有する種付け用ゾル並びに支持体を、前記支持体が前記種付け用ゾルに浸漬された状態になるように、耐圧容器内に入れ、前記耐圧容器内を加熱して前記支持体の表面にゼオライト種結晶を生成させる種結晶生成工程と、
前記ゼオライト種結晶を成長させて支持体の表面にゼオライト膜を形成する膜形成工程と、
前記ゼオライト膜を加熱処理することにより、構造規定剤を除去する加熱処理工程と、
水とエタノールとの混合溶液を、前記支持体の表面に形成されたゼオライト膜に透過させる透過処理工程と、
前記透過処理工程後、シリカ、水及び構造規定剤を含有する膜形成用ゾル並びに前記ゼオライト膜が表面に形成された前記支持体を、前記支持体が前記膜形成用ゾルに浸漬された状態になるように、耐圧容器内に入れ、前記耐圧容器内を加熱して前記支持体の表面に形成された前記ゼオライト膜を更に成長させる膜再形成工程とを有するゼオライト膜の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶生成工程において、耐圧容器を加熱する時間が3〜18時間である請求項1に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項3】
前記種結晶生成工程において、得られるゼオライト種結晶の粒子径が1μm以下である請求項1又は2に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項4】
前記膜再形成工程後におけるゼオライト膜の膜厚が、1〜50μmである請求項1〜3の何れか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライト膜が、MFI型ゼオライトから形成される請求項1〜4の何れか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項6】
前記ゼオライト膜が、そのc軸が前記支持体表面に対して垂直な方向に配向する結晶膜である請求項1〜5の何れか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項7】
前記支持体が、複数の流通路(チャネル)が軸方向に並行に形成された柱状の多孔質体であり、前記種結晶生成工程が、前記チャネルの表面にゼオライト種結晶を生成させる工程である請求項1〜6の何れか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項8】
前記膜形成工程後、前記透過処理工程前に、前記支持体の表面に形成されたゼオライト膜を更に成長させる、少なくとも一の膜成長工程を有する請求項1〜7の何れか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−88992(P2010−88992A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260493(P2008−260493)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】