説明

ゼルンボン誘導体及びその製造方法

【課題】 新規なゼルンボン誘導体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 光学活性ゼルンボールを、チタン触媒の存在下、t−ブチルヒドロキシペルオキシドおよび光学活性酒石酸ジエステルと反応させた後、酸性成分を除去し、溶媒を40℃以下で除去する工程を含むことを特徴とする、光学活性モノエポキシゼルンボールおよび光学活性ビスエポキシゼルンボールの製造方法を提供する。本発明はまた、新規な光学活性モノエポキシゼルンボール、光学活性ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボール、光学活性トリエポキシゼルンボール、アレンゼルンボンおよびそれらの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香剤や医薬品の製造中間体として有用なゼルンボン誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゼルンボン誘導体の利用価値が高まってきている。ゼルンボンは式:
【化1】

で表される11員環の二重共役ケトンを含むトリエン骨格を有し、他の天然物には見られないユニークな骨格をもつ化合物で、ハナ生姜(Zingiber zerumbet Smith)の根茎から水蒸気蒸留により、乾燥重量あたり0.3〜0.4%の収率で得ることができる(北山ら、非特許文献1)。ゼルンボンはその反応性(北山ら、同上)が注目され始めただけでなく、ゼルンボンそのものの生理活性(大東ら、非特許文献2)やその誘導体の興味深い生理活性(北山ら;非特許文献3)、例えば、情報伝達阻害剤(特許文献1)、動脈硬化抑制剤(特願2004−14836号)としての活性が明らかとなっている。
【0003】
また新しい反応を利用した新規物質合成開発(北山ら;非特許文献4〜7)、香料原料の開発および光学活性ビスエポキシゼルンボールの開発(北山・岡本ら、特許文献2)などが行われてきた。
【0004】
ゼルンボンを出発物質としてさらにユニークな骨格へ誘導することは、新たな反応や生理活性物質、機能性物質の発見につながる可能性が増すばかりでなく、工業的な利用へと展開する。特に新規光学活性体は、キラルビルディングブロックとして医薬、香料、液晶、電子材料など様々な分野への応用が期待できる。
【0005】
これまでにゼルンボンを用いた光学活性化合物が得られている。特許文献3には新規な光学活性ゼルンボン誘導体およびその製造方法が開示されている。例えば、ゼルンボールのシャープレス不斉エポキシ化反応によって、ビスエポキシ化されたゼルンボン誘導体を製造する方法が開示されている。
【0006】
即ち、ゼルンボールのシャープレス不斉エポキシ化反応によって、特許文献3においては、下記反応式1によりビスエポキシゼルンボールが得られたものの、同時に生じる化合物は回収できず、その同定も行われなかった。
即ち、
反応式1:
【化2】

に従い、ゼルンボン1のLAH還元およびリパーゼを用いるトランスエステル化によって得られた光学活性ゼルンボンオール2をチタン触媒〔Ti(OPri)4〕、L−DET(L−酒石酸ジエチル)、TBHP(t−ブチルヒドロペルオキシド)と反応させると、オールシス配置(1R,2S,3R,10S,11R)の不斉ジエポキシゼルンボンオール3が得られた。D−DET(D−酒石酸ジエチル)を用いた場合はその対掌体4(1S,2R,3S,10R,11S)が得られた。
【0007】
前述のように、該方法は、5点不斉ゼルンボン(ビスエポキシゼルンボン)の製造時に生じる未同定化合物が分解により回収ができなかったので、ビスエポキシゼルンボンのみが得られる手法であり、多様な光学活性体を得るという観点からは改善の余地があった。そこで、これまで得られなかった光学活性なモノエポキシゼルンボールを得ることができれば、さらに多様な応用が可能となる。
【0008】
また、これまでに5点不斉誘導体は得られていたが、さらに応用使途の広い7点不斉誘導体は得られていなかった。
【0009】
不斉点のゼルンボン骨格への導入は、今なお合成化学者の研究標的であり、制癌剤として知られるタキソール(taxol)の全合成に応用できる可能性がある。すなわち、多くの不斉点を有する多環式化合物タキソールの全合成を達成するには、可能な限り合成初期に不斉点を導入する方が一般的に有利と考えられる。
【0010】
本発明者らはこれまでにゼルンボンを用いた種々の渡環化合物合成法の確立によって、工業的利用の礎を築いた。ゼルンボンの反応多様性を利用した合成によって、合成困難な渡環生成物に導くことができるなど、その応用範囲は広く、今後もさらに検討する必要がある。ただし逆の発想から、天然物であるゼルンボンの骨格をそのまま利用した誘導体の骨格は天然に存在するものから脱却できないため、非天然系の骨格形成は困難であると考えられる。そこでゼルンボンの反応活性部位を維持しつつ、環構造を増減できれば、その構造を利用した誘導化によって非常に多岐に亘る渡環化合物の構築が可能となり、産業的な展開が期待できるが、合成的な誘導化が困難であった。
【0011】
ゼルンボンはその反応性と、11員環構造を利用して種々の渡環生成物へ変換することができる。多環化合物は、天然界にも極めて多く存在するため、渡環反応の開発ならびに種々の渡環誘導体の構築は有機化学的、材料化学的にも非常に重要である。かかる開発によって下記スキームに示すようにゼルンボンの渡環反応によって、以下の様な有用化合物への構造変換が可能となるため、種々検討を行った。
【0012】
【化3】

【0013】
ゼルンボンの環骨格の大きさを変化させることができれば、上記とは全く異なる環骨格を有する構造変換化合物の構築が可能となる。例えば炭素骨格を一つ増やすことが可能となれば、そのターゲットの一つとして、抗癌作用の知られている天然物として極めて重要な化合物であるタキソール(パクリタキセル)の合成変換への途が拓ける。
【特許文献1】特開2002−69034号公報
【特許文献2】特開2002−155001号公報
【特許文献3】特開2003−64010号公報
【非特許文献1】J. Org. Chem., 1999, 64, 2667-2672
【非特許文献2】Biosci.Biotechnol.Biochem., 1999, 63(10), 1811-1812
【非特許文献3】Biosci. Biotechnol. Biochem., 2001, 65, 2193-2199
【非特許文献4】Tetrahedron Asymmetry, 2001;12,2805-2810
【非特許文献5】AROMA RESEARCH(2002), 3(1), 34-39
【非特許文献6】J. Mol. Cat. B: Enzymatic (2002), 17, 75-79
【非特許文献7】Tetrahedron(2003), 59(26), 4857-4866
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のゼルンボールのシャープレス不斉エポキシ化反応において、ビスエポキシ化されない未同定化合物の単離精製法を確立することを目的とする。
本発明はまた、5点不斉ビスエポキシゼルンボールを用いて、7点不斉誘導体の合成法を開発することを目的とする。
本発明はさらに、11員環であるゼルンボンを出発原料として一炭素増加させ、12員環の誘導体を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、ゼルンボールのシャープレス不斉エポキシ化反応後の後処理について詳しく検討し、未分解の状態でビスエポキシ化されない未同定化合物の単離精製を行い、その構造および不斉収率を決定した。
また、5点不斉ビスエポキシゼルンボールの酸化反応を行い、孤立二重結合の酸化立体選択性を検討し、本発明を完成するに至った。
【0016】
一方、ゼルンボンの環状骨格を増炭させる方法として、一度環状骨格を解裂してから再構築する方法と、環解裂せずに行う方法が考えられる。本発明者らは、オゾン酸化による増炭反応によって環解裂した後、環の再構築化について種々検討した。しかし、12員環誘導体の開発は困難であった。そこで、環骨格を未解裂の状態における増炭反応について検討し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)下記式:
【化4】

で表される光学活性ゼルンボールを、チタン触媒の存在下、t−ブチルヒドロキシペルオキシドおよび光学活性酒石酸ジエステルと反応させた後、酸性成分を除去し、溶媒を40℃以下で除去する工程を含むことを特徴とする、
下記式:
【化5】

で表される光学活性モノエポキシゼルンボールまたはその対掌体、および、
下記式:
【化6】

で表される光学活性ビスエポキシゼルンボールまたはその対掌体の製造方法、
(2)下記式:
【化7】

で表される光学活性モノエポキシゼルンボールまたはその対掌体、
(3)下記式:
【化8】

で表される光学活性ビスエポキシゼルンボールまたはその対掌体を、ジヒドロキシ化することを特徴とする、下記式:
【化9】

で表される光学活性ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールまたはその対掌体の製造方法、
(4)ジヒドロキシ化を、四酸化オスミウム、あるいはシャープレスのADミックス(ADmix)−αまたはβを用いて行う(3)の製造方法。
(5)下記式:
【化10】

で表される光学活性ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールまたはその対掌体、
(6)下記式:
【化11】

で表される光学活性ビスエポキシゼルンボールまたはその対掌体を、m−クロロ過安息香酸で処理することを特徴とする、下記式:
【化12】

で表される光学活性トリエポキシゼルンボールまたはその対掌体の製造方法、
(7)下記式:
【化13】

で表される光学活性トリエポキシゼルンボールまたはその対掌体、
(8)
1)下記式で表されるゼルンボン
【化14】

を強塩基存在下でCHClと反応させる工程、
2)1)で得られた化合物を還元する工程、
3)2)で得られた化合物をt−BuLiと反応させる工程、および、
4)3)で得られた化合物をデス・マーチン(Dess-Martin)試薬により酸化する工程、を含む、
下記式:
【化15】

で表されるアレンゼルンボンの製造方法、
(9)下記式:
【化16】

で表されるアレンゼルンボン、
(10)上記アレンゼルンボンの製造方法の工程1)によって得られる下記式:
【化17】

で表される化合物。
(11)上記アレンゼルンボンの製造方法の工程2)によって得られる下記式:
【化18】

で表される化合物。
(12)上記アレンゼルンボンの製造方法の工程3)によって得られる下記式:
【化19】

で表される化合物、
を提供する。
【発明の効果】
【0018】
ハナショウガから大量に得られるゼルンボンの反応性を利用して様々な化合物へ誘導化することによって、医薬、香料、液晶、電子材料などに利用することが可能となる。
本発明は、ゼルンボンのモノエポキシ光学活性体および、7点不斉トリエポキシゼルンボールならびにビスエポキシゼルンボントリオール誘導体の開発である。多価酸素含有不斉誘導体は、非天然糖誘導体への変換が可能なばかりでなく、不斉補助基としての利用など、様々な分子認識材料としての活用が期待できる。
【0019】
本発明により、5点不斉ビスエポキシゼルンボールをMCPBA処理することにより、ビスエポキシゼルンボールの立体とは全く逆側からエポキシ化された化合物が高立体選択的に得られ、7点不斉化合物を得ることに成功した。また、5点不斉ビスエポキシゼルンボールを用いて、四酸化オスミウム、あるいはシャープレスのADミックス(ADmix)-αまたはβ(いずれもAldrichから市販されている)を用いてジヒドロキシ化を行ったところ、どの試薬を用いた時も、ビスエポキシゼルンボールの立体とは全く逆側からジヒドロキシ化された化合物が高立体選択的に得られ、7点不斉化合物を得ることに成功した。
【0020】
また本発明により、ゼルンボンを強塩基存在化でCHClと反応させると、6,7位に位置選択的にジクロロシクロプロピル化が起こることが分かった。これを還元すると定量的にゼルンボール誘導体が得られた。精製した還元体をt−BuLiと反応させると、一炭素増加したアレン型のゼルンボールを得ることに成功した。このアレン型ゼルンボールをデス・マーチン(Dess-Martin)試薬を用いた酸化反応を行うことにより、アレン型ゼルンボンを効率よく得た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
光学活性ゼルンボールの合成
本発明の光学活性モノエポキシゼルンボールおよび光学活性ビスエポキシゼルンボールの製造方法の出発物質である、光学活性ゼルンボールは、下記式:
【化20】

〔式中、〜はRまたはSいずれかの立体配置の結合を示す〕で表されるゼルンボールのラセミ体から出発して、例えば、特開2003−64010号に記載の方法に従って得ることができる。このラセミ体アルコールはゼルンボンのLiAlH(LAH)還元によって定量的に得られる。以下、特開2003−64010号に記載の光学活性ゼルンボールの合成方法を簡単に説明する。
【0022】
ゼルンボンのLiAlH(LAH)還元は、通常、非極性〜中極性の溶媒中、好ましくは下記トランスエステル化に使用する溶媒と同じ溶媒中、20〜40℃、好ましくは25〜35℃で、2〜10日間、好ましくは3〜7日間行う。
【0023】
次いで、リパーゼ生体触媒を用いた動力学的トランスエステル化による光学活性分割をおこなう。これは、ラセミ体ゼルンボールをリパーゼの存在下、非極性または中極性溶媒中で、酢酸エステルとのトランスエステル化反応に付すことにより行うことができる。特に限定するものではないが、酢酸エステルとしては、酢酸の炭素数1〜4のアルキルまたは炭素数2〜4のアルケニルエステル、好ましくは、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル等が使用され、溶媒としては、中極性溶媒、好ましくは、ジイソプロピルエーテル(DIPE)、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。
【0024】
トランスエステル化反応は、通常、リパーゼ活性に最適な温度、例えば、25〜35℃で、所望の変換率が得られるまで、例えば、5時間〜10日間行われる。これにより、光学活性のゼルンボンアセテートと、光学活性のゼルンボールの混合物が生成し、これを、例えば、溶媒抽出、クロマトグラフィー等の公知の方法で分離、精製して所望の目的物、即ち光学活性ゼルンボールを得る。
【0025】
光学活性モノエポキシゼルンボールおよび光学活性ビスエポキシゼルンボールの合成
以下、本発明による光学活性モノエポキシゼルンボールおよび光学活性ビスエポキシゼルンボールの合成について説明する。
光学活性ゼルンボールを、チタンイソプロポキシド〔Ti(OPri)4〕のようなチタン触媒の存在下、t−ブチルヒドロペルオキシドおよび光学活性酒石酸ジエステルと反応させる。
この反応は、不活性ガス雰囲気下で、通常、メチレンクロライド、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテルなどのような溶媒中、0〜−78℃、好ましくは−35〜−40℃にて、1〜94時間、好ましくは5〜20時間行う。
【0026】
本発明者らは、上記反応によってビスエポキシゼルンボールとともに、ビスエポキシ化されていない化合物、即ちモノエポキシゼルンボール(反応式2において(+)−4と示す)が生じており、この化合物は酸および熱に非常に不安定であることを見いだした。そこで、モノエポキシゼルンボールの回収条件を種々検討し、安定条件下で該化合物を単離精製した結果、光学活性モノエポキシゼルンボール((+)−4、即ち、光学活性(1S,2R,3S)−2,3−モノエポキシゼルンボール)を単離することに成功した。
【0027】
反応式2
【化21】

【0028】
以下に、反応の処理条件について説明する。
光学活性ゼルンボンオールと、チタン触媒〔Ti(OPri)4〕、L−DET、TBHPとの不活性ガス雰囲気下での上記反応後、反応液を−20℃以下に維持し、酸水溶液、好ましくは、酒石酸水溶液を、温度が−20℃以上に上昇しないようにゆっくりと滴下する。その後、溶液をジクロロメタン、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどの有機溶媒で抽出し、有機層を水で十分に洗浄し、酸性成分を除去する。この酸性成分の除去は30℃以下で、例えば水での洗浄を3回程度行い、pH約7に達する程度まで行う。
その後、有機層を所望により食塩水などで洗浄後、NaSOなどを用いて乾燥し、溶媒を10℃以下で減圧濃縮などの常套方法により取り除く。さらに、得られる油状物質をジエチルエーテルなどの有機溶媒に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液で処理し、有機溶媒層を洗浄、乾燥し、溶媒を30℃以下で減圧濃縮などの常套方法により取り除く。
かかる処理条件を採用することによって、光学活性モノエポキシゼルンボールおよび光学活性ビスエポキシゼルンボールが得られる。
【0029】
この反応において、不斉補助基としてL−DET(L−酒石酸ジエチル)を使用した場合、得られる(−)−3は、どの反応率の部分であっても全て光学的に純粋であり、(+)−4の光学純度は、反応初期は低いが、完全に反応が終了した時点で光学的に純粋に得られることが分かり、非常に高い立体選択性で反応が進行していることが分かった。L−DETをD−DETに変えると、立体的に全く逆配置の化合物が同収率、光学純度で得られた。
【0030】
光学活性ビスエポキシゼルンボールのジヒドロキシ化によるビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールの合成
光学活性ビスエポキシゼルンボールをジヒドロキシ化することによって7点不斉ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールが得られる。ジヒドロキシ化の試薬としては、四酸化オスミウム、あるいはシャープレスのADミックス(ADmix)−αまたはβが挙げられる。
【0031】
以下の反応式3に示すように、(−)−3(反応式3に示すビスエポキシゼルンボンオール)を用いて種々の試薬を用いてジヒドロキシ化を検討した結果、どの試薬を用いても(−)−3の立体配置とは正反対の面の一方向だけからジヒドロキシ化した7点不斉化合物5,即ち、(1R,2S,3R,6S,7R,10S,11R)−2,3−10,11−ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールが得られた。
反応式3
【化22】

【0032】
上記ジヒドロキシ化試薬と光学活性ビスエポキシゼルンボールの反応は、用いるジヒドロキシ化試薬によっても異なるが、例えば、30〜50℃で3〜45時間行う。溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、水あるいはこれらを組み合わせた混合溶媒などを用いるとよい。なお、触媒として酸化オスミニウムを用いるのがよい。
【0033】
光学活性ビスエポキシゼルンボールからのトリエポキシゼルンボールの合成
上記反応式3に示すように、(−)−3(反応式3に示すビスエポキシゼルンボンオール)をMCPBA(m−クロロ過安息香酸)で処理すると、(−)−3の立体配置とは正反対の面の一方向だけからエポキシ化された7点不斉化合物6、即ち、(1R,2S,3R,6R,7S,10R,11S)−2,3−6,7−10,11−トリエポキシゼルンボールが得られる。これらについても、出発原料に逆の立体配置をもつビスエポシキゼルンボールを用いた場合、得られる酸化生成物も正反対の立体配置を有する。
【0034】
上記MCPBAと光学活性ビスエポキシゼルンボールの反応は、空気中で、例えば、−10〜10℃で3〜22時間行う。溶媒としては、酢酸エチル、ジクロロメタンあるいはこれらの混合溶媒などを用いるとよい。
【0035】
以上のように本発明により光学活性モノエポキシゼルンボールおよび、7点不斉ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールならびにトリエポキシゼルンボールおよびその製造方法が提供される。これら化合物は光学活性合成中間体として活用が期待されると同時に、ゼルンボンの使用用途を拡大するものとなる。
【0036】
ゼルンボンからアレンゼルンボンの合成
本発明の、11員環骨格を有するゼルンボンの環拡大化合物の製造方法について説明する。該方法は、
1)ゼルンボンを強塩基存在下でCHClと反応させる工程、
2)1)で得られた化合物を還元する工程、
3)2)で得られた化合物をt−BuLiと反応させる工程、および、
4)3)で得られた化合物をデス・マーチン(Dess-Martin)試薬により酸化する工程、を含む、
アレンゼルンボンを得る方法である。
【0037】
即ち本発明者ら検討の結果、反応式5に示すような手法を見出し、ゼルンボンと比べて一炭素増えた、アレンゼルンボンの開発に成功した。
【0038】
反応式5
【化23】

【0039】
すなわち、本発明の第1工程は、ゼルンボンを強塩基存在下でCHClと反応させる工程である。この反応は空気中で行う。強塩基としては、例えば、50%水酸化ナトリウム、50%水酸化カリウムなどが挙げられる。この工程では、触媒としてベンジルトリメチルアンモニウムクロリドを用いるのが好ましい。反応は、0〜5℃で1〜2時間行う。なお、強塩基として例えば、50%水酸化ナトリウムを用いる場合、ゼルンボンに対して大過剰量使用する。
【0040】
例えば、ゼルンボン1をCHCl溶液中に50%の水酸化ナトリウム水溶液と、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(BTMACl)を加え、4℃で一昼夜反応すると、6,7がジクロロシクロプロピル化した2,即ち、12,12−ジクロロ−1,5,9,9−テトラメチル−ビシクロ[9.1.0]ドデカ−4,7−ジエン−6−オンがほぼ定量的に得られる。
【0041】
本発明の第2工程では、第1工程で得られた化合物を不活性ガス雰囲気下で還元する。還元剤としては、DIBAL、LiAlH、NaBHが挙げられるがLiAlHが好ましい。反応は、−10〜10℃で0.5〜2時間行う。溶媒としては、無水ジエチルエーテル、THFなどを用いるとよい。なお、還元剤はゼルンボンに対して過剰量用いる。
【0042】
例えば、12,12−ジクロロ−1,5,9,9−テトラメチル−ビシクロ[9.1.0]ドデカ−4,7−ジエン−6−オンを無水ジエチルエーテル中でLiAlHと0℃で0.5時間反応させると、その還元体であるアルコール3が定量的に得られる。
【0043】
本発明の第3工程では、第2工程で得られた化合物を不活性ガス雰囲気下でt−BuLiと反応させる。反応は、−30〜5℃で0.5〜2時間行う。溶媒としては、無水THF、ジエチルエーテルなどを用いるとよい。
なお、t−BuLiはアルコール3に対して大過剰、例えば10当量用いる。
【0044】
例えば、アルコール3を無水THF中、t−BuLiと−15℃で2時間反応すると、転移反応が進行し、12員環アレンゼルンボール4が得られる。
【0045】
本発明の第4工程では、第3工程で得られた化合物をデス・マーチン(Dess-Martin)試薬により酸化する。デス・マーチン(Dess-Martin)酸化反応は、5〜40℃で0.5〜2時間行う。溶媒としてはジクロロメタンなどを用いるとよい。
これによってアレンゼルンボン5が得られる。構造は5の単結晶X線結晶回折によって決定するとよい。
【0046】
本発明は環拡大ゼルンボンであるアレンゼルンボンおよびその方法を提供するものであり、この化合物の構築によって、新たな骨格形成の重要な原料の供給が可能となったばかりでなく、ゼルンボンを中心とする産業形成の枠を大きく広げる可能性も同時に得られたものと考えられる。
【実施例1】
【0047】
光学活性モノエポキシゼルンボールおよび光学活性ビスエポキシゼルンボールの合成
Ti(OPri)4 (644 mg, 2.27 mmol)とL-DET 560mg (2.72 mmol)の無水CH2Cl2 (20 mL)溶液を−30℃で10分間攪拌し、ゼルンボール(500 mg, 2.27 mmol)を加え、引き続き5M TBHP (0.92 mL, 4.60 mmol)を加えた。均一溶液となった後、空気が入らないように厳重に封をして−26℃の冷凍庫で48時間放置した。完全終了後、−30℃のバスで冷却し、10%の酒石酸水溶液(11.5 mL)を温度が上昇しないようにゆっくりと滴下した。10分間後、容器を冷却槽から取り出し、液温が室温となるまで攪拌し続けた。溶液が透明となったらすぐにジクロロメタンを用いて水層を3回抽出した(3 x 30 mL)。有機層を集め、酸性成分が完全に除去されるまで水で3回洗浄し(3 x 30 mL)、その後飽和食塩水で3回洗浄した(3 x 30 mL)。Na2SO4で乾燥後、溶媒を10℃以下で減圧濃縮して取り除き、無色の油状物質を得た。その油状物質をジエチルエーテルに溶解し、1N NaOH (6.8 mL) を加えて0℃で30分間攪拌した。エーテル層を飽和食塩水で3回洗浄し(3 x 30 mL)、Na2SO4で乾燥後、溶媒を10℃以下で減圧濃縮して取り除き無色透明油状物を得た。これをシリカゲルクロマトグラフィーにて(溶離液:ヘキサン、酢酸エチル混合溶液 (4:1(v/v)) 分離精製し、光学的に純粋な(1R,2S,3R,10S,11R)-2,3-10,11-ジエポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール(ビスエポキシゼルンボール)を収率50%で、(1R,2S,3R)-2,3-エポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール(モノエポキシゼルンボール)を収率50%で得た。
【0048】
ビスエポキシゼルンボール
mp 118.0−119.0℃ [α]D(23.5℃) = −6.5 (EtOH, c = 1.005). IR (KBr) 3512, 2924, 1458 cm-1; 1H NMR:δ 0.81 (s, 3H, CH3 at C9), 1.13 (s, 3H, CH3 at C9), 1.43 (s, 3H, CH3 at C2), 1.43 (dddd, 1H, J = 3.63, 5.61, 6.26, and 9.57 Hz, H at C4), 1.67 (s, 3H, CH3 at C6), 1.92 (d, 1H, J = 13.85 Hz, H at C8), 2.08 (ddd, 1H, J = 3.63, 3.63, and 11.22 Hz, H at C5), 2.19 (ddd, 1H, J = 3.63, 6.26, and 7.60 Hz, H at C5), 2.24 (dd, 1H, J = 9.90 and 13.85 Hz, H at C8), 2.32 (dddd, 1H, J = 5.28, 5.61, 7.60, and 11.22 Hz, H at C4), 2.73 (d, 1H, J = 2.31 Hz, H at C10), 2.82 (dd, 1H, J = 5.28 and 9.57 Hz, H at C3), 2.99 (t, 1H, J = 1.98 Hz, H at C11), 4.18 (s, 1H, H at C1), 5.14 (d, 1H, J = 9.90 Hz, H at C7); 13C NMR: δ 15.17 (CH3 at C6), 15.33 (CH3 at C2), 18.87 (CH3 at C9), 23.99 (C4), 28.38 (CH3 at C9), 33.64 (C9), 35.92 (C5), 38.73 (C8), 55.46 (C11), 56.21 (C3), 59.30 (C10), 59.95 (C2), 68.03 (C1), 122.73 (C7), 133.55 (C6). HRMS m/z C15H24O3についての計算値 252.1725, 実測値 252.1728.
【0049】
モノエポキシゼルンボール
(1R,2S,3R)-2,3-エポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール
1HNMR (CDCl3): δ1.1174 (s, 3H, CH3 at C9), 1.1223 (s, 3H, CH3 at C9), 1.3189 (s, 3H, CH3 at C6), 1.3995-1.4849(m, 1H, H at C4), 1.5375(s, 3H, CH3 at C2), 1.9099-1.9502(m, 2H, H2 at C8), 2.1004-2.2555 (m, 3H, H at C4 and 2H at C5), 2.4668 (s, 1H, OH at C1), 2.7471 (dd, 1H, J = 3.0 and 10.6 Hz, H at C3), 4.2051 (d, 1H, J = 4.3 Hz, H at C1), 4.9873 (t, 1H, H at C7), 5.2926 (dd, 1H, J = 4.3 and 16.2 Hz, H at C11), 5.4675 (d, 1H, J = 16.2, H at C10); 13CNMR: δ15.222 (CH3 at C2), 15.617 (CH3 at C6), 24.045 (C4), 26.722 (CH3 at C9), 27.729 (CH3 at C9), 36.300 (C9), 36.480 (C5), 40.055 (C8), 58.222 (C3), 64.476 (C2), 70.387 (C1), 125.768 (C7), 126.828 (C11), 131.932 (C6), 138.167 (C10).
【実施例2】
【0050】
光学活性トリエポキシゼルンボールの合成
(1R,2S,3R,6S,8R,10S,11R)-2,3-6,7-10,11-トリエポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール
100ml三つ口フラスコにビスエポキシゼルンボール(300mg, 1.19mmol)、AcOEt 30ml、m-クロロ過安息香酸(MCPBA, 247mg, 1.43mmol)を加え、0℃で撹拌した。TLCで反応が進行しているのを確認後(ヘキサン/AcOEt=1/1、Rf=0.3)、室温で撹拌した。22時間後AcOEt 10mlを加えて希釈し、反応液を飽和炭酸水素ナトリウム溶液で5回洗浄して中和した後、有機層を飽和食塩水で3回洗浄した。その後、無水Na2SO4で乾燥させ、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt=1/1)で分離精製し、光学的に純粋な(1R,2S,3R,6S,8R,10S,11R)-2,3,-6,7-10,11-トリエポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール (89%)を得た。
【0051】
(1R,2S,3R,6S,8R,10S,11R)-2,3-6,7-10,11-トリエポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール(トリエポキシゼルンボール)
[α]D(23.5 ℃)=-4.46 (EtOH, c = 0.101) 1HNMR:δ0.90 (s, 3H, CH3, at C9), 1.13 (s, 3H, CH3, at C9), 1.33 (s, 3H, CH3, at C6), 1.42 (s, 3H, CH3, at C2), 1.66 (d, 2H, J = 19.79 Hz at C8), 2.23 (m, 4H, at C4, 5), 2.56 (dd, 1H, J = 2.64 and 3.29 Hz at C7), 2.87 (d, 1H, J = 2.31 Hz at C10), 2.96 (dd, 1H, J = 4.95 Hz at C3), 3.10 (t, 1H, J = 1.98 Hz at C11), 4.18 (s, 1H, at C1); 13CNMR:15.60 (CH3 at C2), 16.86 (CH3 at C6), 18.2 (CH3 at C9), 25.28 (C4), 29.35 (CH3 at C9), 33.32 (C9), 35.26 (C5), 38.06 (C8), 55.62 (C3), 55.74 (C11), 59.00 (C10), 60.24 (C2), 60.40 (C6), 60.77 (C1), 61.73 (C7). HRMS: m/z C15H24O4についての計算値 268.1675, 実測値 268.1684
【実施例3】
【0052】
光学活性ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールの合成
(1R,2S,3R,6S,8R,10S,11R)-6,7-ジヒドロキシ-2,3-10,11-ビスエポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール
スクリュー管に(-)-ビスエポキシゼルンボール (120mg, 0.476 mmol)、アセトン:H2O:CH3CN=1:1:1溶媒6ml、酸化オスミウム(VIII),マイクロカプセル化(OsO4(MC)、242mg、0.953mmol)、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO、562mg、4.79mmol)を加え、40℃で撹拌した。反応の進行はTLCで確認した(ヘキサン/AcOEt=1/2、Rf=0.17)。45時間後、反応溶液を吸引濾過してOsO4(MC) を除き、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。その後AcOEtで3回抽出し、有機層を蒸留水で3回、飽和食塩水で3回洗浄した。無水Na2SO4で乾燥させた後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt)で分離精製し、光学的に純粋な(1R,2S,3R,6S,8R,10S,11R)-6,7-ジヒドロキシ-2,3-10,11-ビスエポキシ-2,6,9,9-テトラメチル-6-シクロウンデセン-1-オール (70%)を得た。
【0053】
1HNMR:δ 0.75 (s, 3H, CH3 at C9), 0.90 (s, 3H, CH3 at C9), 1.13 (s, 3H, CH3 at C6), 1.46 (s, 3H, CH3, at C2), 1.63 (s, 2H, CH2 at C8), 2.10 ( at C5 ), 2.27 ( 2H, H at C4), 2.73 (d, 1H, H at C10), 2.86 (dd, 1H, H at C3), 2.98 (t, 1H, H at C11), 3.56 (d, 1H, H at C7), 4.23 (s, 1H, H at C1)
【実施例4】
【0054】
ゼルンボンからアレンゼルンボンの合成
第1工程
【化24】

ゼルンボン1g(4.6mmol)を入れた500mlマイヤーにクロロホルム300mlを入れ室温で完全に溶解させた。そこに50%水酸化ナトリウム水溶液を2.5ml加え、両者が混ざり合うように相関移動性触媒である塩化ベンジルトリメチルアンモニウムを10mg加え、4℃で激しく攪拌した。2時間後TLC(ヘキサン/AcOEt=4/1,Rf=0.55)で反応終了を確認し、反応を止めた。
反応液を分液漏斗に移し、蒸留水で3回洗浄し、有機層を飽和食塩水で3回洗浄した。その後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、12-ジクロロシクロプロピルビシクロ-[9,10]-1,5,9,9-テトラメチルシクロウンデカ-4,7-ジエン-6-オン1.36gを(98%)得た(収率98.3%)。
【0055】
IR (KBr): 2957, 1651 cm-1; 1HNMR (CDCl3): δ 1.09 (s, 3H, CH3 at C9), 1.12 (s, 3H, CH3 at C9), 1.24 (s, 3H, CH3 at C6), 1.59 (m, 4H, CH2 at C4 and 5), 1.85 (s, 3H, CH3, at C2), 2.26-2.32 (dd, 2H, J = 2.97 Hz, CH2, at C4), 2.43-2.47 (dd, 1H, J = 2.97 Hz, CH at C7), 6.09 (s, 2H, CH at C10 and 11), 6.15 (m, 1H, CH at C3); 13CNMR: δ 11.86 (CH3 at C6), 13.29 (CH3 at C2), 23.70 (CH3 at C9), 25.05 (CH2 at C8), 29.09 (CH3 at C9), 30.81 (C9), 35.92 (C6), 36.30 (CH at C7), 37.12 (CH2 at C5), 41.08 (CH2 at C8), 71.30 (C-Cl), 127.70 (CH at C3), 139.26 (C at C2), 147.94 (CH at C10), 160.43 (CH at C11), 202.58 (C=O); HRMS: m/z C16H22Cl2Oについての計算値 300.1048,実測値300.1048.
【0056】
第2工程
【化25】

窒素雰囲気下、50mlの三口フラスコにLAH70mg(1.83mmol)と無水エーテル5mlを入れ、0℃で攪拌した。そこに無水エーテル10mlに溶解した12-ジクロロシクロプロピルビシクロ-[9,10]-1,5,9,9-テトラメチルシクロウンデカ-4,7-ジエン-6-オン(500mg,1.66mmol)を滴下した。反応の進行はTLCで確認した(ヘキサン/AcOEt=4/1,Rf=0.3)。60分後、蒸留水を水素が発生しなくなるまで滴下し、反応を停止した。
反応液を分液漏斗に移し、エーテルで3回抽出し、有機層を飽和食塩水で3回洗浄した。その後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、12-ジクロロシクロプロピルビシクロ-[9,10]-1,5,9,9-テトラメチルシクロウンデカ-4,7-ジエン-6-オールを得た(収率100%)。
この化合物はジアステレオマー混合物のため未帰属である。
【0057】
IR(KBr): 3320, 2962 cm-1, 1HNMR (CD3OD): δ 0.95-1.20 (m),1.40-1.51 (m,)1.69 (m), 2.01-2.31 (m), 4.60 (d, 1Ha, J = 5.28 Hz, CH at C1), 4.68 (d, 1Hb, J = 7.26 Hz,CH at C1), 5.34-5.50 (m, 2H, J = 16.17 Hz, CH at C10 and 3), 5.62 (ddd, 1H, J = 5.28, 7.26, and 16.17 Hz, at C11); 13CNMR (CD3OD): δ 12.23 (CH3), 12.29 (CH3), 16.67 (CH3), 18.35 (CH3), 23.19 (CH2), 24.12 (CH2), 24.62 (CH3), 25.72 (CH3), 26.99 (CH3), 27.78 (CH3), 34.95 (CH2), 35.49 (CH2), 35.94 (CH2), 39.19 (C), 43.25 (CH2), 43.90 (CH2), 84.35 (CH), 84.73 (CH), 95.94 (C), 96.46 (C), 126.02 (CH), 126.83 (CH), 127.08 (CH), 127.22 (CH), 137.30 (C), 139.14 (C), 142.34 (CH), 142.75 (CH), 204.92 (C), 204.99 (C);HRMS: m/z C16H24Cl2Oについての計算値 302.1204 実測値 302.1142.
【0058】
第3工程
【化26】

窒素雰囲気下、50mlの三口フラスコに12-ジクロロシクロプロピルビシクロ-[9,10]-1,5,9,9-テトラメチルシクロウンデカ-4,7-ジエン-6-オール810mg(2.68mmol)、無水THF48ml、1.48M t-BuLiペンタン溶液23ml(26.8mmol)を加え-15℃から0℃まで除々に温度を上げ攪拌した。反応の進行はTLCで確認した(ヘキサン/AcOEt=4/1,Rf=0.45)。一時間後、水を加えて反応を停止した。
反応液を分液ろうとに移し、エーテルで3回抽出し、有機層を飽和食塩水で3回洗浄した。その後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。得られた生成物を活性アルミナカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt=15/1)で分離精製し、1,5,9,9-テトラメチルシクロドデカ-4,7,11,12-テトラエン-6-オールを280mg(0.896mmol)得た(収率62.3%)。
この化合物はジアステレオマー混合物のため未帰属である。
【0059】
IR (NaCl): 3329, 2957, 1956 cm-1; 1HNMR (CD3OD): δ 0.98-1.06 (m, 6H, 2CH3 at10), 1.64-1.68 (m, 1H), 1.81-1.84 (m, 1H), 2.09-2.34 (dd, 2H, J = 3.63, 6.93 Hz, CH2 at C4), 4.52 (d, CH at C1), 4.59 (d, CH at C1), 4.69 (s, CH at C8), 5.47-5.59 (dd, 2H, J = 3.63 Hz, 2CH at C11 and 12), 5.90-5.99 (dd, 1H, J = 1.65 and 3.63 Hz, CH at C3); 13CNMR(CD3OD): δ 15.09 (CH3), 17.78(CH3), 17.37 (CH3), 21.63 (CH3), 26.49 (CH3), 27.85 (CH2), 29.31 (CH3), 30.39 (CH3), 31.21 (CH3), 35.61 (C), 38.39 (C), 39.37 (CH2), 39.57 (CH2), 39.75 (C), 47.07 (CH2), 47.85 (CH2), 80.47 (CH), 88.10 (CH), 88.46 (CH), 100.00 (C), 100.37 (C), 129.38 (CH), 130.56 (CH), 131.12 (CH), 131.91 (CH), 141.70 (C), 143.41 (C), 145.76 (CH), 154.28 (CH), 209.25 (=C= at C7); HRMS: m/z C16H24Oについての計算値 232.1827 実測値 232.1830.
【0060】
第4工程
【化27】

サンプル管にデスマーティンペルヨージナン(Dess-Martine periodinane)460.8mg(1.086mmol)とジクロロメタン6mlを入れ完全に溶解するまで室温で攪拌した。完全に溶解した後、ジクロロメタン10mlに溶かした1,5,9,9-テトラメチルシクロドデカ-4,7,11,12-テトラエン-6-オール201.8mg(0.869mmol)を滴下した。反応の進行はTLCで確認した(ヘキサン/AcOEt=4/1,Rf=0.57)。1時間後、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を30mlとエーテル30mlを加え反応を停止した。
反応液を分液漏斗に入れ水30mlで3回洗浄し、エーテルで3回抽出し、飽和食塩水で3回洗浄した。その後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt=30/1)で分離精製し1,5,9,9‐テトラメチルシクロドデカ‐4,7,11,12‐テトラエン-6-オールを85.7mg(0.373mmol)得た(収率42.9%)。
【0061】
IR (KBr): 2961, 1639 cm-1, 1HNMR (CDCl3): δ 0.97 (s, 3H, CH3 at C10), 1.07 (s, 3H, CH3 at C10), 1.65 (s, 3H, CH3 at C6), 1.77 (s, 3H, CH3 at C2), 1.96 (d, 2H, CH2 at C9), 2.13 (s, 2H, CH2 at C5), 2.45 (m, 2H, CH2 at C4), 5.00 (s, 1H, CH at C8), 5.87 (d, 1H, CH at C11), 6.50 (d, 1H, CH at C3), 6.65 (d, 1H, CH at C12); 13CNMR: δ12.22 (CH3 at C2), 18.29 (CH3 at C6), 24.38 (CH3, at C10), 26.07 (CH2 at C4), 27.13 (CH3 at C10), 36.13(CH2 at C5), 37.68 (C at C10), 45.03 (CH2 at C9), 84.27 (CH at C8), 95.50 (C at C6), 124.56 (CH at C11), 134.75 (C at C2), 145.71 (CH at C3), 159.91 (CH at C12), 201.33 (C=O at C1), 204.54 (=C= at C7); HRMS: m/z C16H22Oについての計算値 230.1671 実測値 230.1682.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】

で表される光学活性ゼルンボールを、チタン触媒の存在下、t−ブチルヒドロキシペルオキシドおよび光学活性酒石酸ジエステルと反応させた後、酸性成分を除去し、溶媒を40℃以下で除去する工程を含むことを特徴とする、
下記式:
【化2】

で表される光学活性モノエポキシゼルンボールまたはその対掌体、および、
下記式:
【化3】

で表される光学活性ビスエポキシゼルンボールまたはその対掌体の製造方法。
【請求項2】
下記式:
【化4】

で表される光学活性モノエポキシゼルンボールまたはその対掌体。
【請求項3】
下記式:
【化5】

で表される光学活性ビスエポキシゼルンボールまたはその対掌体を、ジヒドロキシ化することを特徴とする、下記式:
【化6】

で表される光学活性ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールまたはその対掌体の製造方法。
【請求項4】
ジヒドロキシ化を、四酸化オスミウム、あるいはシャープレスのADミックス−αまたはADミックス−βを用いて行う請求項3の製造方法。
【請求項5】
下記式:
【化7】

で表される光学活性ビスエポキシ−6,7−ジヒドロキシゼルンボールまたはその対掌体。
【請求項6】
下記式:
【化8】

で表される光学活性ビスエポキシゼルンボールまたはその対掌体を、m−クロロ過安息香酸で処理することを特徴とする、下記式:
【化9】

で表される光学活性トリエポキシゼルンボールまたはその対掌体の製造方法。
【請求項7】
下記式:
【化10】

で表される光学活性トリエポキシゼルンボールまたはその対掌体。
【請求項8】
1)下記式で表されるゼルンボン
【化11】

を強塩基存在下でCHClと反応させる工程、
2)1)で得られた化合物を還元する工程、
3)2)で得られた化合物をt−BuLiと反応させる工程、および、
4)3)で得られた化合物をデス・マーチン試薬により酸化する工程、を含む、
下記式:
【化12】

で表されるアレンゼルンボンの製造方法。
【請求項9】
下記式:
【化13】

で表されるアレンゼルンボン。
【請求項10】
下記式:
【化14】

で表される化合物。
【請求項11】
下記式:
【化15】

で表される化合物。
【請求項12】
下記式:
【化16】

で表される化合物。

【公開番号】特開2006−96724(P2006−96724A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287548(P2004−287548)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】