説明

ソフトコンタクトレンズ用組成物及びソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法

【課題】(A)アズレンスルホン酸又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物において、アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制できるソフトコンタクトレンズ用組成物、さらに、アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法を提供する。
【解決手段】(A)アズレンスルホン酸又はその塩、(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、及び(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含有し、上記(B)成分と(C)成分との合計含有量が0.4〜1.7W/V%であるソフトコンタクトレンズ用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アズレンスルホン酸又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物、及びこの組成物におけるアズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトコンタクトレンズを装着した場合、レンズ表面が乾燥し、外界からの花粉、汚染物質がレンズに付着しやすくなり、レンズを装着した眼に炎症が起こりやすくなる。このようなコンタクトレンズ装着時の眼の炎症を改善するため、以前より抗炎症成分であるアズレンスルホン酸ナトリウム又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物の開発が望まれていた。
【0003】
しかしながら、ソフトコンタクトレンズには、防腐剤等が吸着し、レンズあるいは目に悪影響を及ぼすという問題があった。これまでに、ソフトコンタクトレンズへの薬物の吸着を抑える方法としては、脂溶性ビタミンの吸着を高分子化合物、非イオン界面活性剤で抑制する方法(特許文献1参照)、グリチルリチン酸二カリウムの吸着をアミノ酸等で抑制する方法(特許文献2参照)、アルギン酸の吸着をアミノ酸等で抑制する方法(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−158734号公報
【特許文献2】特開2001−2563号公報
【特許文献3】特開2008−24701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アズレンスルホン酸又はその塩は、ソフトコンタクトレンズ表面に吸着し、時間が経過するとレンズの内部に蓄積する可能性があり、レンズの物性(外観)や装用時の使用感、さらには副作用等の悪影響を及ぼすことがある。そのため、ソフトコンタクトレンズ使用に適応するには、レンズへの吸着を抑制することが必要となる。本発明は上記事情に鑑みなされたもので、(A)アズレンスルホン酸又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物において、アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制でき、目刺激性がないソフトコンタクトレンズ用組成物、さらに、アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、アズレンスルホン酸又はその塩を含有する組成物に、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60とを組み合わせ、その合計量が0.4〜1.7W/V%となるように配合することにより、アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着が抑制されることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記ソフトコンタクトレンズ用組成物及び吸着抑制方法を提供する。
[1].(A)アズレンスルホン酸又はその塩、(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、及び(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含有し、上記(B)成分と(C)成分との合計含有量が0.4〜1.7W/V%であるソフトコンタクトレンズ用組成物。
[2].(A)成分が、アズレンスルホン酸ナトリウムである[1]記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
[3].ソフトコンタクトレンズが、ピロリドン基を有するポリマーを含むソフトコンタクトレンズであることを特徴とする[1]又は[2]記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
[4].ピロリドン基を有するポリマーが、N−ビニルピロリドンを構成単位として有するポリマーである[3]記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
[5].コンタクトレンズ点眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗眼剤、コンタクトレンズ取外し液、又はコンタクトレンズケア剤である[1]〜[4]のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
[6].(A)アズレンスルホン酸又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物に、(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン及び(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を、(B)成分と(C)成分との合計含有量が0.4〜1.7W/V%となるように配合することを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アズレンスルホン酸又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物において、アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制することができ、かつ目刺激性がないソフトコンタクトレンズ用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のソフトコンタクトレンズ用組成物は、(A)アズレンスルホン酸又はその塩、(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、及び(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含有し、上記(B)成分と(C)成分との合計含有量が0.4〜1.7W/V%であるソフトコンタクトレンズ用組成物である。
【0010】
(A)アズレンスルホン酸又はその塩
アズレンスルホン酸又はその塩は抗炎症成分である。アズレンスルホン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、ナトリウム塩が好ましく、(A)成分としては、アズレンスルホン酸ナトリウムが好適である。
【0011】
(A)アズレンスルホン酸又はその塩の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.001〜0.1W/V%(質量/容量%(g/100mL)、以下同様)が好ましく、0.003〜0.05W/V%がより好ましく、0.004〜0.025W/V%がさらに好ましい。含有量が0.001W/V%未満だと、アズレンスルホン酸又はその塩の抗炎症効果が不十分となるおそれがあり、0.1W/V%を超えると、組成物の紫色が濃くなり、点眼後、目からあふれ出した場合、衣類が汚れる可能性がある。
【0012】
(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60
本発明においては、上記(B)成分と(C)成分の2種類の非イオン性界面活性剤を組み合わせることにより、アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着を顕著に抑制することができる。モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンは日本薬局方における「ポリソルベート80」である。これらは市販のものを用いることができ、日光ケミカルズ(株)製、日油(株)製を用いることが好ましい。なお、(B)成分及び(C)成分を、それぞれ単独で配合しても高い吸着抑制効果は認められない。また、非イオン性界面活性剤として、(B),(C)成分以外の非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレングリコール(70)を用いても、高い吸着抑制効果は認められない(比較例2〜6参照)。
【0013】
上記(B)成分と(C)成分との合計含有量は、0.4〜1.7W/V%であり、0.6〜1.5W/V%が好ましく、0.9〜1.3W/V%がより好ましい。合計含有量が0.4W/V%未満だと、アズレンスルホン酸又はその塩の吸着抑制効果が不十分であり、1.7W/V%を超えると、目刺激を感じる場合がある。吸着抑制効果の点から、その質量比は、(B):(C)=1:50〜50:1が好ましく、1:10〜10:1がより好ましい。また、(A)成分に対する(B)成分と(C)成分との合計含有量の質量比、つまり((B)+(C))/(A)は、4〜1700が好ましく、6〜1500がより好ましく、8〜1300がさらに好ましい。
【0014】
本発明のソフトコンタクトレンズ用組成物には、眼科用組成物に用いられる各種成分を、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。好ましい配合成分としては、薬物、緩衝剤、安定化剤、粘稠化剤、等張化剤、溶解補助剤、抗酸化剤、防腐剤、清涼化剤等が挙げられる。
【0015】
薬物としては、例えば、充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分又は収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌薬成分又は殺菌薬成分、オリゴ糖類、多糖類又はその誘導体、局所麻酔薬成分、ステロイド成分、緑内障治療成分、白内障治療成分、散瞳成分等が挙げられる。具体例を下記に示す。
【0016】
充血除去成分:α−アドレナリン作動薬、例えば、イミダゾリン誘導体(ナファゾリン、テトラヒドロゾリン等)、β−フェニルエチルアミン誘導体(フェニレフリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等)、及びそれらの薬学上又は生理的に許容される塩(例えば、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等の無機酸塩;酒石酸水素エピネフリン等の有機酸塩等)等。
【0017】
眼筋調節薬成分:アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、例えばメチル硫酸ネオスチグミン等の第4級アンモニウム化合物及びそれらの塩等。
抗炎症薬成分又は収斂薬成分:プラノプロフェン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、インドメタシン、ジクロフェナク、ジクロフェナクナトリウム、ピロキシカム、メロキシカム、アスピリン、メフェナム酸、インドメタシンファルネシル、アセメタシン、イブプロフェン、チアプロフェン酸、ロキソプロフェンナトリウム、塩酸チアラミド、亜鉛塩(例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、等)、リゾチーム、塩化リゾチーム、サリチル酸メチル、アラントイン、グリチルリチン酸及び薬理学的に許容される塩(例えば、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸アンモニウム等)等。
【0018】
抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分:例えば、ケトチフェン、アシタザノラスト、クロルフェニラミン、レボカバスチン、クロモグリク酸、トラニラスト、イブジラスト、アンレキサノクス、ペミロラスト及びそれらの薬学上又は生理的に許容される塩等。
【0019】
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム(活性型ビタミンB2)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、塩酸ピリドキシン(ビタミンB6)、ビタミンEアセテート、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール(ビタミンAパルミテート)等
アミノ酸類:例えば、ロイシン、イソイロイシン、バリン、メチオニン、トレオニン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、セリン、プロリン、チロシン、システイン、ヒスチジン、オルニチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、グリシルグリシン、アミノエチルスルホン酸(タウリン)又はその塩(例えば塩酸システイン等)等。
【0020】
抗菌薬成分又は殺菌薬成分:スルホンアミド類(例えば、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン及び薬理学的に許容される塩(スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソミジンナトリウム等)、アクリノール、アルキルポリアミノエチルグリシン、ニューキノロン剤(ロメフロキサシン、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン等)、ベルベリン又はその塩(例えば、硫酸ベルベリン等)、βラクタム系抗菌薬(スルベニシリン、セフメノキシム等)、アミノグリコシド系抗菌薬(カナマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、シソマイシン、ジベカシン、ベカナマイシン、ミクロノマイシン等)、テトラサイクリン系抗菌薬(オシテトラサイクリン等)、マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン等)、クロラムフェニコール系抗菌薬(クロラムフェニコール等)、ポリペプチド系抗菌薬(コリスチン等)等。また、抗ウイルス薬(ドクスウリジン、アシクロビル、アデニンアラビノシド、ガンシクロビル、ホスカルネット、バラシクロビル、トリフルオロチミジン、シドフォビア、カルボサイクリック・オキセタノシンG等)、抗真菌薬(ピマリシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾール、フルシトシン、アムホテリシンB等)等。
【0021】
オリゴ糖類:ラクツロース、ラフィノース、プルラン等。
多糖類又はその誘導体:アラビアゴム、カラヤガム、キサンタンガム、キャロブガム、グアーガム、グアヤク脂、クインスシード、ダルマンガム、トラガント、ベンゾインゴム、ローカストビーンガム、カゼイン、寒天、アルギン酸、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、デンプン、ポリガラクツロン酸(アルギン酸)、キチン及びその誘導体、キトサン及びその誘導体、エラスチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸又はその塩(アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等)等。
【0022】
局所麻酔薬成分:リドカイン、オキシブプロカイン、ジプカイン、プロカイン、アミノ安息香酸エチル、メプリルカイン、メピバカイン、ブピバカイン、コカイン及びそれらの塩(塩酸リドカイン、塩酸オキシブプロカイン等)等。
ステロイド成分:ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、コルチゾール、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ベタメタゾン及びそれらの塩等。
緑内障治療成分:臭化ジスチグミン、マレイン酸チモロール、塩酸カルテオロール、塩酸ベタキソロール、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、塩酸ジピベフリン、塩酸アプラクロニジン、塩酸ピロカルピン、カルバコール、塩酸ドルゾラミド、アセタゾラミド、メタゾラミド及びそれらの塩等。
白内障治療成分:ピレノキシン、グルタチオン、唾液腺ホルモン、チオプロニン、Dihydro azapentacene disulfonate及びそれらの塩(例えばSodium5,12−dihydro azapentacene disulfonate等)等。
散瞳成分:塩酸シクロペントラート、トロピカミド等。
【0023】
薬物の含有量は、各薬物の有効な適性量を選択することができるが、眼への刺激性、組成物の安定性等の点から、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.001〜5W/V%の範囲であることが好ましい。
【0024】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、氷酢酸、トロメタモール、炭酸水素ナトリウムを使用することが好ましい。このなかでも、クエン酸、ホウ酸、ホウ砂、トロメタモールが好ましい。緩衝剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.003〜4W/V%の範囲であることが好ましい。
【0025】
安定化剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、エデト酸、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等が挙げられる。エデト酸類は系の安定性を維持する効果を奏し、シクロデキストリン類は、ソフトコンタクトレンズに吸着し易い成分(例えば塩化ベンザルコニウム等)の吸着抑制効果を有する。安定化剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.003〜2W/V%の範囲であることが好ましい。
【0026】
粘稠化剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子化合物、ポビドン、ポリビニルアルコール等のポリビニル系高分子化合物、流動パラフィン、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール等が挙げられる。粘稠化剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.003〜3W/V%の範囲であることが好ましい。
【0027】
等張化剤としては、例えば塩化カリウム、塩化ナトリウム、グリセリン等が挙げられる。等張化剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.001〜3W/V%の範囲であることが好ましい。
【0028】
溶解補助剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロクサマー類等の界面活性剤が挙げられる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60以外にも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100等を使用することができる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート80)以外にも、モノラウリル酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60)、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート(ポリソルベート65)等を使用することができる。溶解補助剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.001〜3W/V%の範囲であることが好ましい
【0029】
抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ヒドロキノン、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。抗酸化剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.001〜1W/V%の範囲であることが好ましい。
【0030】
防腐剤としては、例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、クロロブタノール、パラオキシ安香酸エステル等のパラベン類が挙げられる。防腐剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.001〜0.5W/V%の範囲であることが好ましい。
【0031】
清涼化剤としては、例えばカンフル、クールミントNo.71212、ゲラニオール、ハッカ水、メントール、ボルネオール、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、リナロール、N―エチル−p−メンタン−カルボキシアミド(例えばWS−3、高砂香料工業(株))等が挙げられる。清涼化剤の含有量は、ソフトコンタクトレンズ用組成物中0.0001〜0.1W/V%の範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明のソフトコンタクトレンズ用組成物は、例えば、残部を水とし、公知の製造方法で製造することができる。例えば上記各成分を滅菌精製水、イオン交換水等の水、あるいはエタノール等のアルコールとの混合溶媒等に溶解させた後、pHを調整し、さらに必要に応じて浸透圧等をpH調整剤、等張化剤により適宜調整することによって得ることができる。
【0033】
本発明のソフトコンタクトレンズ用組成物のpH(20℃)は、3.5〜8.0であり、好ましくは、5.0〜7.5、より好ましくは6.0〜7.3である。pHが低すぎても、高すぎても、刺激感が強くなる可能性がある。なお、pHの測定は、20℃でpH浸透圧計(HSMO−1、東亜ディーケーケー(株))を用いて行う。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸等が好ましい。
【0034】
得られた組成物は、公知の容器(紫外線防止剤あるいは色素を含有するものが内容物の安定性上好ましい)に充填し、フィルム包装等の包装を施して、保存安定性が水性医薬組成物として提供することができる。
【0035】
本発明のソフトコンタクトレンズ用組成物は、コンタクトレンズ点眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗眼剤、コンタクトレンズ取外し液、又はコンタクトレンズケア剤等として用いることができる。具体的には、ソフトコンタクトレンズ装着中に使用されるソフトコンタクトレンズ使用者用点眼剤、ソフトコンタクトレンズ装着時に使用されるソフトコンタクトレンズ装着液、ソフトコンタクトレンズ装着中に使用されるソフトコンタクトレンズ洗眼剤、ソフトコンタクトレンズを外す際に使用されるソフトコンタクトレンズ取外し液、ソフトコンタクトレンズケア剤(洗浄液、すすぎ液、消毒液、保存液等、及び洗浄、すすぎ、消毒及び保存等が同時にできるソフトコンタクトレンズ用MPS)とすることが好ましい。この中でも、コンタクトレンズ点眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗眼剤、又はコンタクトレンズ取外し液として好適である。
【0036】
本発明のソフトコンタクトレンズ用組成物が適応できるソフトコンタクトレンズの種類については特に制限されるものではなく、繰り返し使用されるソフトコンタクトレンズの他、1日使い捨てソフトコンタクトレンズ、1週間使い捨てソフトコンタクトレンズ、2週間使い捨てソフトコンタクトレンズのいずれのレンズにも使用することができる。また、米国食品医薬品局(FDA)による4分類すべてのソフトコンタクトレンズに使用できるだけでなく、シリコーンハイドロゲルレンズにも使用することができる。
【0037】
ソフトコンタクトレンズは、多くの化学合成素材から製造されている。ソフトコンタクトレンズを構成するモノマーとしては、アルキルメタクリレート類のヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等、非イオン性水溶性モノマーとして、ポリビニルアルコール、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド等、イオン性モノマーとしてメタクリル酸等があり、その含水率とイオン性の違いにより、米国食品医薬品局(FDA)において、ソフトコンタクトレンズは4グループに分類されている(グループI:非イオン性・低含水(含水率50%未満)、グループII:非イオン性・高含水(含水率50%以上)、グループIII:イオン性・低含水(含水率50%未満)、グループIV:イオン性・高含水(含水率50%以上))。アズレンスルホン酸又はその塩は、スルホン酸基を有し、涙液のpHにおいて、マイナスの電荷を帯びていることから、N−ビニルピロリドン等のδ+にチャージしているポリマーを含むグループII、グループIIIのソフトコンタクトレンズに対して吸着しやすい。しかしながら、アズレンスルホン酸又はその塩と同様に、涙液のpHにおいてマイナスの電荷を帯びるイプシロンアミノカプロン酸、ソルビン酸カリウムは、N−ビニルピロリドン等のδ+にチャージしているポリマーから成るソフトコンタクトレンズに対して、吸着しない。これは、アズレンスルホン酸又はその塩に比べて、イプシロンアミノカプロン酸、ソルビン酸カリウムの疎水性が低いためであり、単に、マイナスの電荷を帯びているだけでは、δ+にチャージしているポリマーからなるソフトコンタクトレンズに対して、吸着しない。つまり、アズレンスルホン酸又はその塩が、マイナス電荷に加えてある程度の疎水性を有していることが、ソフトコンタクトレンズに吸着する理由である。以上のことから、アズレンスルホン酸又はその塩は、静電相互作用に加え、疎水性相互作用により吸着していると推定される。
【0038】
以上のことから、本発明のソフトコンタクトレンズ用組成物は、アメリカ食品医薬品局(FDA)分類により、グループII又はIIIに分類されるソフトコンタクトレンズ用として好適であり、吸着抑制効果が高く発揮される。グループII又はIIIに分類されるソフトコンタクトレンズとしては、ピロリドン基を有するポリマーを含むソフトコンタクトレンズが好ましく、N−ビニルピロリドンを構成単位として有するポリマーを含むソフトコンタクトレンズがより好ましい。ポリマーには、アルキルメタクリレート、メタクリル酸、ケイ素またはフッ素を含むモノマー、ポリビニルアルコール等を構成単位として有してもよい。N−ビニルピロリドンの割合は特に限定されないが、重合性モノマー全量100質量部に対して1〜90質量部が好ましい。N−ビニルピロリドンを構成単位として有するポリマーを含むソフトコンタクトレンズとしては、プレシジョンUV:チバビジョン(株)、ボシュロムピュアビジョン:ボシュロムジャパン(株)、メニコンソフトS:(株)メニコン、ブレスオー:東レ(株)等が挙げられる。
【0039】
本発明の(A)アズレンスルホン酸又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法は、(A)アズレンスルホン酸又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物に、(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン及び(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を、(B)成分と(C)成分との合計含有量が0.4〜1.7W/V%となるように配合するものである。好適な成分、含有量等は上記眼科用組成物と同様である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1〜16、比較例1〜10]
表1〜5に示すように、各配合成分を定法に準じて滅菌精製水に溶解した後、各溶液を無菌ろ過して、ソフトコンタクトレンズ用組成物を調製した。得られた各製剤について、pH(20℃)を測定し、下記ソフトコンタクトレンズに対するアズレンスルホン酸ナトリウム吸着試験を行なった。また、下記方法で点眼後の目刺激性を評価した。なお、点眼剤は各液を無菌ろ過して調製した。結果を表中に併記した。
【0042】
[ソフトコンタクトレンズに対するアズレンスルホン酸ナトリウム吸着試験:n=3]
FDAによるソフトコンタクトレンズの4分類(I〜V)から、代表的なレンズとして、レンズI:ボシュロムメダリストプラス(ボシュロムジャパン(株))、レンズII:プレシジョンUV(チバビジョン(株))、レンズIII:ボシュロムピュアビジョン(ボシュロムジャパン(株))、レンズIV:アキュビュー(ジョンソンエンドジョンソンメディカル(株))の4種を用いた。また、それぞれのレンズ素材は次のとおりである。
ボシュロムメダリストプラス:ポリ−ヒドロキシエチルメタクリレート
プレシジョンUV:N−ビニルピロリドン、メチルメタクリレート
ボシュロムピュアビジョン:N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチルシロキサシメタクロキシプロピルシランの誘導体
アキュビュー:ポリ−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸
【0043】
ソフトコンタクトレンズ用組成物5mLに1枚のレンズを37℃で7日間浸透後、残渣のアズレンスルホン酸ナトリウム量を液体クロマトグラフィーで定量した。レンズを浸漬させないソフトコンタクトレンズ用組成物をコントロールとし同様に定量し、コントロールのアズレンスルホン酸ナトリウム量に対する比率から、下記式に基づいて、4種レンズに対するアズレンスルホン酸ナトリウムのレンズ吸着率(%)を計算した。
アズレンスルホン酸ナトリウムのレンズ吸着率(%)=〔(コントロールのアズレンスルホン酸ナトリウム量−残液のアズレンスルホン酸ナトリウム量)/コントロールのアズレンスルホン酸ナトリウム量×100〕
1つのソフトコンタクトレンズ用組成物に対して、4種類のレンズ毎に3回測定を行った。レンズ種類毎に平均吸着率(%)を算出し、平均吸着率から、ソフトコンタクトレンズに対する吸着抑制効果の結果を、下記評価基準に基づいて示した。
【0044】
<ソフトコンタクトレンズに対する吸着抑制評価基準>
A:アズレンスルホン酸ナトリウムの平均吸着率が7.5%未満
B:アズレンスルホン酸ナトリウムの平均吸着率が7.5%以上10.0%未満
C:アズレンスルホン酸ナトリウムの平均吸着率が10.0%以上12.5%未満
D:アズレンスルホン酸ナトリウムの平均吸着率が12.5%以上20.0%未満
E:アズレンスルホン酸ナトリウムの平均吸着率が20.0%以上
【0045】
実施例及び比較例の結果によれば、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60とを配合した組成物は、ソフトコンタクトレンズへのアズレンスルホン酸ナトリウムの吸着を抑制することが認められた。
【0046】
[目刺激性評価]
ソフトコンタクトレンズ使用者3名にソフトコンタクトレンズ用組成物を3滴点眼し、点眼後の目刺激性を下記評価基準に基づいて評価した。
<目刺激性評価基準>
○:刺激を感じる
△:刺激をやや感じる
×:刺激を感じない
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アズレンスルホン酸又はその塩、(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、及び(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含有し、上記(B)成分と(C)成分との合計含有量が0.4〜1.7W/V%であるソフトコンタクトレンズ用組成物。
【請求項2】
(A)成分が、アズレンスルホン酸ナトリウムである請求項1記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
【請求項3】
ソフトコンタクトレンズが、ピロリドン基を有するポリマーを含むソフトコンタクトレンズであることを特徴とする請求項1又は2記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
【請求項4】
ピロリドン基を有するポリマーが、N−ビニルピロリドンを構成単位として有するポリマーである請求項3記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
【請求項5】
コンタクトレンズ点眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗眼剤、コンタクトレンズ取外し液、又はコンタクトレンズケア剤である請求項1〜4のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用組成物。
【請求項6】
(A)アズレンスルホン酸又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用組成物に、(B)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン及び(C)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を、(B)成分と(C)成分との合計含有量が0.4〜1.7W/V%となるように配合することを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法。

【公開番号】特開2010−204597(P2010−204597A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52967(P2009−52967)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】