説明

タイミングプーリおよびベルト伝動システム

【課題】ベルトを用いて潤滑液を供給する伝動システムにおいて、低速回転時にも十分な潤滑液の供給を確保する。
【解決手段】内燃機関のクランクシャフトプーリとカムシャフトに取り付けられたタイミングプーリ15にタイミングベルトを掛け回す。タイミングプーリ15の前面側にプーリ周縁部から延出するフランジ状のプーリガイド15Bを設ける。タイミングプーリ15の2つのプーリ歯15Cの間に設けられる歯溝15Aの歯溝面15Dに、プーリ軸方向に沿って、プーリガイド15Bからプーリガイド15Bが設けられた側の周縁部とは反対側の周縁部にまで達する複数の油溝15Eを設ける。油溝15Eの深さをプーリガイド15Bから遠ざかるにしたがって深くする。タイミングベルトに付着した潤滑油を油溝15Eでうけ、油溝15Eを介して、タイミングプーリ15の後方に設けられた動弁系機構に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイミングプーリに掛け回されるベルトを用いてタイミングプーリ側に潤滑液を供給するシステムに関し、特に内燃機関のカム軸駆動に用いられるタイミングプーリおよびベルト伝動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のように、クランク軸からカム軸へとタイミングベルトを用いて同期的に動力を伝達するシステムでは、クランクケース内の潤滑油をタイミングベルトにより掻き揚げ、ロッカーアーム等の動弁系部品を潤滑し、オイルポンプを使用しない構成が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−226215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、タイミングベルトを用いてシリンダヘッドに潤滑油を供給する場合、内燃機関が低速回転するとき動弁系部品への潤滑油の供給が不充分となり、動弁系部品に対して十分な潤滑を確保できないという問題がある。
【0004】
本発明は、ベルトを用いて潤滑液を供給する伝動システムにおいて、低速回転時にも十分な潤滑液の供給を確保することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のタイミングプーリは、タイミングベルトに付着した潤滑液をタイミングプーリ側へ供給するベルト伝動システムにおいて使用されるタイミングプーリであって、タイミングプーリの歯溝面にタイミングプーリの回転軸に沿って、潤滑液の供給を必要とする機構が設けられた側のプーリ周縁部にまで達する溝が設けられたことを特徴としている。
【0006】
溝の深さは、上記機構の設けられた側へと行くにしたがって深くなることが好ましい。上記機構が設けられた側とは反対側のタイミングプーリの周縁部に前記周縁部に沿って径方向に延出するフランジ状のプーリガイドが設けられる。
【0007】
タイミングプーリは、例えば内燃機関のカムシャフトに取り付けられる。このとき上記機構は、例えば内燃機関の動弁系の機構である。また溝は複数設けられることが好ましく、複数の溝は例えば所定の間隔で設けられる。
【0008】
本発明のベルト伝動システムは、上記タイミングプーリを用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明によれば、ベルトを用いて潤滑液を供給する伝動システムにおいて、低速回転時にも十分な潤滑液の供給を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である内燃機関で使用されるベルト伝動システムの構成を示す図であり、内燃機関内部におけるベルト伝動システムの平面的な構成が内燃機関正面から模式的に示される。
【0011】
本実施形態のベルト伝動システム10は、内燃機関11においてクランクシャフト12からカムシャフト13へと同期的に動力を伝達する伝動システムである。クランクシャフト12には、クランクシャフトプーリ14が取り付けられ、カムシャフト13には、タイミングプーリ15が取り付けられる。
【0012】
クランクシャフトプーリ14およびタイミングプーリ15には、タイミングベルト16が掛け回され、タイミングベルト16のベルト歯は、クランクシャフトプーリ14およびタイミングプーリ15のプーリ歯に噛み合わせられる。クランクシャフト12が回転されると、クランクシャフトプーリ14、タイミングベルト16、タイミングプーリ15を介してカムシャフト13に動力が伝達される。
【0013】
内燃機関11の底部に設けられたオイルパン21には、オイルパン21内に溜められた潤滑油Fをベルト伝動装置10に向けて跳ね上げるための羽根車22の下半分が浸され、羽根車22は、図示しない伝達機構を介してクランクシャフト12に連動して回転される。羽根車22には径方向に延出する複数の羽が設けられ、この羽によりオイルパン21内の潤滑油Fが跳ね上げられ、クランクシャフトプーリ14に掛け回されたタイミングベルト16に掛けられる。
【0014】
タイミングベルト16に付着した潤滑油は、タイミングベルト16とともにカムシャフト13に取り付けられたタイミングプーリ15へと運ばれる。潤滑油はタイミングプーリ15を伝ってタイミングプーリ15の後方に隣接して設けられた動弁系機構に供給される。
【0015】
次に図2〜図4を参照して、本実施形態のタイミングプーリ15の構成について説明する。図2はタイミングプーリ15のプーリ背面からの部分拡大図であり、1つの歯溝部15Aが示される。図3は、図2の歯溝部15Aを上側から見た図であり、図4は、図2のIV−IV線に沿った断面図である。
【0016】
タイミングプーリ15の一方の周縁部(プーリ正面側)には、プーリの周縁部から円周部に沿って径方向にフランジ状に延出するプーリガイド15Bが設けられる。プーリガイド15Bは、タイミングベルト16のプーリ軸方向へのずれを規制し、タイミングベルト16がタイミングプーリ15から脱落することを防止する。
【0017】
タイミングプーリ15は、タイミングベルト16のベルト歯と噛み合うプーリ歯15Cを備え、プーリ歯15Cの間に歯溝部15Aが設けられる。歯溝部15Aを形成する歯溝面15Dには、複数の油溝15Eが形成される。歯溝15Eは歯溝面に所定間隔でタイミングプーリ15の回転軸に沿って設けられる。例えば図2、3においては、9個の油溝15Eが形成されている。
【0018】
油溝15Eは、例えば図3、図4に示されるようにプーリガイド15Bからプーリガイド15Bとは反対側(プーリ背面側)のプーリ周縁部まで一定の幅で刻設される。また、図4に示されるように、油溝15Eは、本実施形態においては、プーリガイド15B側からプーリ背面側へ至るにしたがい溝深さが増大する。
【0019】
以上のように、油溝15Eを歯溝面15Dに刻設することにより、タイミングベルト16に付着した潤滑油は、油溝15Eに溜まり油溝15Eに沿ってプーリ背面側へと送り出される。したがって、タイミングプーリ15の回転速度が遅いときにも潤滑油は、油溝15Eに留まり、タイミングプーリ15のベルト受面(プーリ歯15Cおよび歯溝面15Dを含む)を伝わって、タイミングプーリ15からオイルパン21へと滴り落ちる潤滑油の量を低減することができる。
【0020】
これにより、本実施形態のタイミングプーリ15は、タイミングプーリ15の後方に配置された動弁系機構(カム13A、ロッカーアーム17等)に、低速回転時にも油溝15Eを介して潤滑油を安定的に供給できる。
【0021】
以上のように、本実施形態のタイミングプーリによれば、タイミングプーリの歯溝面に設けられた油溝を用いて、タイミングベルトに付着して供給された潤滑液を安定的にタイミングプーリ後方に配置された動弁系機構に供給でき、低速回転時にも動弁系機構において十分な潤滑を維持できる。
【0022】
なお、本実施形態においては、油溝を複数設けたが、油溝の数は1つ以上であればよい。また本実施形態では、油溝の深さをタイミングプーリ後方に向かうにしたがって深くして潤滑油がタイミングベルト後方へと移送され易いようにしたが、溝深さは一定であってもよい。
【0023】
また本実施形では油溝の幅が一定とされたが、溝の幅は一定である必要はない。また更に、本実施形態では、複数の油溝が所定の間隔で設けられたが、油溝間の間隔は一定でなくともよく、例えば歯溝の底に近づくにしたがって溝の間隔を狭くすることも可能である。また、油溝はプーリ歯面にも設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である内燃機関で使用されるベルト伝動システムの構成を示す模式図である。
【図2】タイミングプーリのプーリ背面からの部分拡大図である。
【図3】図2の歯溝部を上側から見た図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10 ベルト伝動システム
11 内燃機関
12 クランクシャフト
13 カムシャフト
13A カム
14 クランクシャフトプーリ
15 タイミングプーリ
15A 歯溝
15B プーリガイド
15C プーリ歯
15D 歯溝面
15E 油溝
16 タイミングベルト
17 ロッカーアーム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイミングベルトに付着した潤滑液をタイミングプーリ側へ供給するベルト伝動システムにおいて使用されるタイミングプーリであって、前記タイミングプーリの歯溝面に前記タイミングプーリの回転軸に沿って、前記潤滑液の供給を必要とする機構が設けられた側のプーリ周縁部にまで達する溝が設けられたことを特徴とするタイミングプーリ。
【請求項2】
前記溝の深さが、前記機構の設けられた側へと行くにしたがって深くなること特徴とする請求項1に記載のタイミングプーリ。
【請求項3】
前記機構が設けられた側とは反対側の前記タイミングプーリの周縁部に前記周縁部に沿って径方向に延出するフランジ状のプーリガイドが設けられることを特徴とする請求項1に記載のタイミングプーリ。
【請求項4】
前記タイミングプーリが、内燃機関のカムシャフトに取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のタイミングプーリ。
【請求項5】
前記機構が前記内燃機関の動弁系の機構であることを特徴とする請求項4に記載のタイミングプーリ。
【請求項6】
前記溝が複数設けられることを特徴とする請求項1に記載のタイミングプーリ。
【請求項7】
前記複数の溝が所定の間隔で設けられることを特徴とする請求項6に記載のタイミングプーリ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7に記載のタイミングプーリを用いたベルト伝動システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−47260(P2009−47260A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214808(P2007−214808)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】