説明

タイヤの製造方法及びタイヤ

【課題】樹脂材料で形成されたタイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保することが可能なタイヤの製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂材料を用いて環状のタイヤケース17を形成する骨格形成工程と、タイヤケース17の外周面17Sに粒子状の投射材104を衝突させて、外周面17Sを粗化処理する粗化処理工程と、粗化処理された外周面17Sに接合剤を介してクッションゴム29を積層する積層工程と、をタイヤの製造方法が備えることで、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの製造方法及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の車両には、ゴム、有機繊維材料、スチール部材などから構成された空気入りタイヤが用いられている。
【0003】
近年では、軽量化や、成形の容易さ、リサイクルのしやすさから、樹脂材料、特に熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性材料をタイヤ材料として用いることが求められている。
例えば、特許文献1には、熱可塑性の高分子材料を用いて成形された空気入りタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−143701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱可塑性の高分子材料を用いたタイヤは、ゴム製の従来タイヤと比べて製造が容易で、低コストである。
しかしながら、特許文献1では、ポリエステル系のエラストマーを金型に注入することにより製造したタイヤ骨格部材(ケース)とタイヤ構成ゴム部材(クッションゴムやトレッドゴムなど)とを一体化するにあたり、タイヤの組立工程において、曲面となっているタイヤ骨格部材の外周上に接着剤を塗布し、その上にタイヤ構成ゴム部材を配置し、加硫によりこれらの部材を接合している。この際、接着剤をタイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合部に均一に塗布してタイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保し、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との剥離を防止する点において改良が求められている。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、樹脂材料で形成されたタイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保することが可能なタイヤの製造方法及び、このタイヤの製造方法を用いて製造されたタイヤを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のタイヤの製造方法は、樹脂材料を用いて環状のタイヤ骨格部材を形成する骨格形成工程と、前記タイヤ骨格部材の外周面に粒子状の投射材を衝突させて、前記外周面を粗化処理する粗化処理工程と、粗化処理された前記外周面に接合剤を介してタイヤ構成ゴム部材を積層する積層工程と、を備えている。
【0008】
請求項1のタイヤの製造方法によれば、樹脂材料を用いて形成された環状のタイヤ骨格部材の外周面に粒子状の投射材が衝突して、当該外周面に微細な粗化凹凸が形成される。なお、タイヤ骨格部材の外周面に投射材を衝突させて微細な粗化凹凸を形成する処理を粗化処理という。その後、粗化処理された外周面に接合剤を介してタイヤ構成ゴム部材が積層される。
【0009】
ここで、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材とを一体化するにあたり、タイヤ骨格部材の外周面が粗化処理されていることから、アンカー効果により接合性(接着性)が向上する。また、タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料が投射材の衝突により掘り起こされることから、外周面の濡れ性が向上する。これにより、タイヤ骨格部材の外周面に接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保することができる。
【0010】
なお、樹脂材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができる。
【0011】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0012】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。
また、樹脂材料としては、走行時の弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0013】
請求項2のタイヤの製造方法は、請求項1のタイヤの製造方法において、前記タイヤ骨格部材の外周面は、少なくも一部が凹凸部とされ、前記凹凸部は、前記粗化処理工程で粗化処理される。
【0014】
請求項2のタイヤの製造方法によれば、タイヤ骨格部材の外周面の少なくとも一部が凹凸部とされていても、凹凸部に投射材を衝突させることで凹部周囲(凹壁、凹底)の粗化処理がなされ、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保することができる。
【0015】
請求項3のタイヤの製造方法は、請求項2のタイヤの製造方法において、前記タイヤ骨格部材の外周部は、前記外周面に前記凹凸部を構成する補強層で構成され、前記補強層は、前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料とは別体の樹脂材料で補強コードを被覆して構成された被覆コード部材を前記タイヤ骨格部材の周方向に巻回して構成されている。
【0016】
請求項3のタイヤの製造方法によれば、タイヤ骨格部材の外周部が被覆コード部材をタイヤ骨格部材の周方向に巻回して構成された補強層で構成されることから、タイヤ骨格部材の周方向剛性が向上する。
【0017】
請求項4のタイヤの製造方法は、請求項3のタイヤの製造方法において、前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料、及び、前記被覆コード部材を構成する樹脂材料の少なくとも一方が熱可塑性を有する熱可塑性材料である。
【0018】
請求項4のタイヤの製造方法によれば、タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料、及び、被覆コード部材を構成する樹脂材料の少なくとも一方を、熱可塑性を有する熱可塑性材料とすることから、樹脂材料を熱硬化性を有する熱硬化性材料とする場合と比べて、タイヤ製造が容易になり、リサイクルしやすくなる。
【0019】
請求項5のタイヤの製造方法は、請求項1〜請求項4のいずれか1項のタイヤの製造方法において、前記粗化処理工程では、前記タイヤ構成ゴム部材の積層領域よりも広い領域を粗化処理する。
【0020】
請求項5のタイヤの製造方法によれば、粗化処理工程において、タイヤ構成ゴム部材の積層領域よりも広い領域が粗化処理されることから、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確実に確保することができる。
【0021】
請求項6のタイヤの製造方法は、請求項1〜請求項5のいずれか1項のタイヤの製造方法において、前記粗化処理工程では、算術平均粗さRaが0.05mm以上となるように前記外周面を粗化処理する。
【0022】
請求項6のタイヤの製造方法によれば、粗化処理工程において算術平均粗さRaが0.05mm以上となるようにタイヤ骨格部材の外周面が粗化処理される。ここで、粗化処理された外周面に接合剤を介して、例えば、未加硫又は半加硫状態のタイヤ構成ゴム部材を積層し加硫した場合に、粗化処理により形成された粗化凹凸の底まで、タイヤ構成ゴム部材のゴムが流れ込むことにより、外周面とタイヤ構成ゴム部材との間に十分なアンカー効果が発揮されて、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度が向上する。
【0023】
請求項7のタイヤの製造方法は、請求項1〜請求項6のいずれか1項のタイヤの製造方法において、前記投射材は、空気中で固体から気体へと気化する材料によって構成されている。
【0024】
請求項7のタイヤの製造方法によれば、タイヤ骨格部材の外周面を粗化処理した後、投射材が空気中で固体から気体へと気化することから、タイヤ骨格部材の外周面に投射材が残らない。これにより、タイヤ骨格部材の外周面に残った投射材を取り除く作業などを必要とせず、作業の煩雑さを改善することができる。
【0025】
請求項8のタイヤの製造方法は、請求項1〜請求項7のいずれか1項のタイヤの製造方法において、前記タイヤ構成ゴム部材は、未加硫、又は半加硫状態である。
【0026】
請求項8のタイヤの製造方法によれば、タイヤ構成ゴム部材を加硫した場合、粗化処理によってタイヤ骨格部材の外周面に形成された粗化凹凸にゴムが流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸に流れ込んだゴム(加硫済み)により、アンカー効果が発揮されて、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度が向上する。
【0027】
なお、加硫済みとは、最終製品として必要とされる加硫度に至っている状態をいい、半加硫状態とは、未加硫の状態よりは加硫度が高いが、最終製品として必要とされる加硫度に至っていない状態をいう。
【0028】
請求項9のタイヤは、樹脂材料を用いて形成され、外周面に粒子状の投射材を衝突させて該外周面を粗化処理した環状のタイヤ骨格部材と、粗化処理された前記外周面に接合剤を介して積層されたタイヤ構成ゴム部材と、を備えている。
【0029】
請求項9のタイヤによれば、タイヤ骨格部材の外周面が粗化処理されていることから、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度がアンカー効果により向上している。また、外周面が粗化処理されていることから、接合剤の濡れ性が向上している。これにより、タイヤ骨格部材の外周面に接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度が確保されて、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との剥離を抑制することができる。
【0030】
請求項10のタイヤは、請求項9のタイヤにおいて、前記タイヤ骨格部材の外周面は、少なくも一部が凹凸部とされ、前記凹凸部は、粗化処理されている。
【0031】
請求項10のタイヤによれば、タイヤ骨格部材の外周面の少なくとも一部が凹凸部とされていても、凹凸部が粗化処理されていることから、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度が確保されて、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との剥離を抑制することができる。
【0032】
請求項11のタイヤは、請求項10のタイヤにおいて、前記タイヤ骨格部材の外周部は、前記外周面に前記凹凸部を構成する補強層で構成され、前記補強層は、前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料とは別体の樹脂材料で補強コードを被覆して構成された被覆コード部材を前記タイヤ骨格部材の周方向に巻回して構成されている。
【0033】
請求項11のタイヤによれば、タイヤ骨格部材の外周部が被覆コード部材をタイヤ骨格部材の周方向に巻回して構成された補強層で構成されることから、タイヤ骨格部材の周方向剛性が向上する。
【0034】
請求項12のタイヤは、請求項11のタイヤにおいて、前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料、及び、前記被覆コード部材を構成する樹脂材料の少なくとも一方が熱可塑性を有する熱可塑性材料である。
【0035】
請求項12のタイヤによれば、タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料、及び、被覆コード部材を構成する樹脂材料の少なくとも一方を、熱可塑性を有する熱可塑性材料とすることから、樹脂材料を熱硬化性を有する熱硬化性材料とする場合と比べて、タイヤ製造が容易になり、リサイクルしやすくなる。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように、本発明のタイヤの製造方法は上記構成としたので、樹脂材料で形成されたタイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保することができる。また、本発明のタイヤは上記構成としたので、樹脂材料で形成されたタイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との接合強度が確保されて、タイヤ骨格部材とタイヤ構成ゴム部材との剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(A)は第1実施形態のタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面図である。(B)は第1実施形態のタイヤにリムを嵌合させた状態のビード部のタイヤ幅方向に沿った断面の拡大図である。
【図2】第1実施形態のタイヤの補強層の周囲を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【図3】成形機の斜視図である。
【図4】(A)は成形機のタイヤ支持部のシリンダロッドの突出量が最も小さい状態を示めす斜視図である。(B)は成形機のタイヤ支持部のシリンダロッドの突出量が最も大きい状態を示めす斜視図である。
【図5】押出機を用いてケース分割体の接合部に溶接用熱可塑性材料を付着させる動作を説明するための押出機の斜視図である。
【図6】コード加熱装置、及びローラ類を用いてタイヤケースのクラウン部に被覆コード部材を巻回し且つ接合する動作を説明するための説明図である。
【図7】ブラスト装置を用いてタイヤケースの外周面に粗化処理を行なっている状態を示す斜視図である。
【図8】粗化処理を行なっているタイヤケースの外周面を拡大した拡大図である。
【図9】その他の実施形態のタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【図10】その他の実施形態のタイヤケースのクラウン部に巻回され且つ接合された被覆コード部材を被覆用熱可塑性材料で覆う動作を説明するための説明図である。
【図11】その他の実施形態のタイヤケースの外周面に粗化処理を行なっている状態を示す斜視図である。
【図12】その他の実施形態のタイヤケースのクラウン部に巻回され且つ接合された被覆コード部材を溶着シートで覆う動作を説明するための説明図である。
【図13】その他の実施形態のチューブ型タイヤのタイヤ幅方向に沿った断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[第1実施形態]
以下、図面にしたがって本発明のタイヤの製造方法及びタイヤの第1実施形態について説明する。図1(A)に示すように、本実施形態のタイヤの製造方法で製造されるタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。なお、以下の説明において、「幅方向」と記載した場合は、タイヤケース17及びタイヤ10の幅方向を指し、「周方向」と記載した場合は、タイヤケース17及びタイヤ10の周方向を指す。
【0039】
図1(A)に示すように、タイヤ10は、リム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する一対のビード部12(図1(B)参照)、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16からなる環状のタイヤケース17(タイヤ骨格部材の一例)を備えている。
【0040】
本実施形態のタイヤケース17は、単一の樹脂材料で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(ビード部12、サイド部14、クラウン部16など)に異なる特徴を有する樹脂材料を用いてもよい。
【0041】
また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
【0042】
樹脂材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができる。なお、樹脂材料には、加硫ゴムは含まれない。
【0043】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0045】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、走行時に必要とされる弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
また、樹脂材料の同種とは、エステル系同士、スチレン系同士などの形態を指す。
【0046】
これらの樹脂材料としては、例えば、ISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)が78°C以上、JIS K7113に規定される引張降伏強さが10MPa以上、同じくJIS K7113に規定される引張降伏伸びが10%以上、同じくJIS K7113に規定される引張破壊伸び(JIS K7113)が50%以上、JIS K7206に規定されるビカット軟化温度(A法)が130°C以上のものを用いることができる。
【0047】
本実施形態のビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様の、スチールコードからなる円環状のビードコア18が埋設されている。しかし、本発明はこの構成に限定されず、ビードコア18は、スチールコード以外に、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、または硬質樹脂などで形成されていてもよい。また、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題なければ、ビードコア18を省略してもよい(図13参照)。
【0048】
また、図1(B)に示すように、本実施形態では、ビード部12のリム20との接触部分、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分にタイヤケース17を形成する樹脂材料よりも軟質である軟質材料からなる円環状のシール層24が形成されている。このシール層24はビードシート21と接触する部分にも形成されていてもよい。
【0049】
シール層24を形成する上記軟質材料としては、弾性体の一例としてのゴムが好ましく、特に従来一般のゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、タイヤケース17を形成する樹脂材料のみでリム20との間のシール性(気密性)が確保できれば、シール層24を省略してもよい。また、上記軟質材料としては、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも軟質な他の種類の樹脂材料を用いてもよい。
【0050】
図1(A)及び図2に示すように、クラウン部16には、被覆コード部材26が周方向に巻回されて構成された補強層28(図2では破線で示されている)が積層されている。この補強層28は、タイヤケース17の外周部を構成し、クラウン部16の周方向剛性を補強している。なお、補強層28の外周面は、タイヤケース17の外周面17Sに含まれる。
【0051】
この被覆コード部材26は、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26Aにタイヤケース17を形成する樹脂材料とは別体の被覆用樹脂材料27を被覆して形成されている。また、被覆コード部材26はクラウン部16との接触部分において、被覆コード部材26とクラウン部16とが接合(例えば、溶接、又は接着剤で接着)されている。
【0052】
また、被覆用樹脂材料27のヤング率は、タイヤケース17を形成する樹脂材料のヤング率の0.1倍から10倍の範囲内に設定することが好ましい。これは、ヤング率が10倍以下の場合は、リム組み性に問題がないが、11倍を超えるとクラウン部16が硬くなり、リム組みし難くなるからである。一方、ヤング率が0.1倍以下では、柔らか過ぎて補強層28によるベルト面内せん断剛性が低下してコーナリング力が低下してしまうからである。
【0053】
なお、本実施形態では、被覆用樹脂材料27を樹脂材料のうちの熱可塑性材料(例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなど)としている。
【0054】
補強コード26Aは、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いるとよい。なお、補強層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。
【0055】
また、図2に示すように、被覆コード部材26は、断面形状が略台形状とされている。なお、以下では、被覆コード部材26の上面(タイヤ径方向外側の面)を符号26Uで示し、下面(タイヤ径方向内側の面)を符号26Dで示す。また、本実施形態では、被覆コード部材26の断面形状を略台形状とする構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、断面形状が下面26D側(タイヤ径方向内側)から上面26U側(タイヤ径方向外側)へ向かって幅広となる形状を除いた形状であれば、いずれの形状でもよい。
【0056】
図2に示すように、被覆コード部材26は、周方向に間隔をあけて配置されていることから、隣接する被覆コード部材26の間に隙間28Aが形成されている。このため、補強層28の外周面は、凹凸とされ、この補強層28が外周部を構成するタイヤケース17の外周面17Sも凹凸となっている。
【0057】
タイヤケース17の外周面17S(凹凸含む)には、微細な粗化凹凸96が均一に形成され、その上に接合剤を介して、クッションゴム29が接合されている。このクッションゴム29は、径方向内側のゴム部分が粗化凹凸96に流れ込んでいる。
【0058】
また、クッションゴム29の上(外周面)にはタイヤケース17を形成している樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が接合されている。
【0059】
なお、トレッド30に用いるゴム(トレッドゴム30A)は、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターン(図示省略)が形成されている。
【0060】
(タイヤの製造装置)
次に、本実施形態のタイヤの製造装置について説明する。
図3には、タイヤ10を形成する際に用いる成形機32の要部が斜視図にて示されている。成形機32は、水平に配置された軸36と、この軸36を回転させるギヤ付きモータ37と、床面に接地されてギヤ付きモータ37を支持する台座34と、を有している。
【0061】
軸36の端部側には、樹脂材料を用いて形成されたタイヤケース17を支持するためのタイヤ支持部40が設けられている。タイヤ支持部40は、軸36に固定されたシリンダブロック38を有し、シリンダブロック38には、径方向外側に延びる複数のシリンダロッド41が周方向に等間隔に設けられている。
【0062】
シリンダロッド41の先端には、外面がタイヤケース17内面の曲率半径と略同等に設定された円弧曲面42Aを有するタイヤ支持片42が設けられている。図3、図4(A)は、シリンダロッド41の突出量が最も小さい状態を示しており、図4(B)は、シリンダロッド41の突出量が最も大きい状態を示している。なお、各シリンダロッド41は、連動して同一方向に同一量突出可能となっている。
【0063】
図5に示すように、成形機32の近傍には、タイヤケース17が複数に分割されて形成された場合に、これら分割体を一体化するために用いる溶接用熱可塑性材料を押し出す押出機44が配置されている(なお、本実施形態では、左右半割りのケース分割体17Aを溶接一体化してタイヤケース17を形成している)。この押出機44は溶融した溶接用熱可塑性材料53を下方に向けて吐出するノズル46を有している。このノズル46の出口部は略矩形状とされており、断面形状が略矩形状とされた帯状の溶接用熱可塑性材料53を吐出する。
【0064】
また、ノズル46の近傍には、タイヤケース17のケース分割体17Aに付着させた溶接用熱可塑性材料53を押圧して均す均しローラ48、及び均しローラ48をタイヤケース17に対して接離する方向に移動させるシリンダ装置50が配置されている。なお、シリンダ装置50は、図示しないフレームを介して押出機44の支柱52に支持されている。また、この押出機44は、床面に配置されたガイドレール54に沿って、成形機32の軸36と平行な方向に移動可能となっている。
【0065】
また、ガイドレール54には、補強層28を形成するための被覆コード部材26を供給するコード供給装置56が移動可能に搭載されている。
【0066】
図6に示すように、コード供給装置56は、補強コード26Aを被覆用樹脂材料27(本実施形態では熱可塑性材料)で被覆した断面形状が略台形状の被覆コード部材26を巻き付けたリール58と、リール58のコード搬送方向下流側に配置されたコード加熱装置59と、被覆コード部材26の搬送方向下流側に配置された押圧ローラ60と、押圧ローラ60をタイヤケース17のクラウン部16に対して接離する方向に移動させる第1シリンダ装置62と、押圧ローラ60の補強コード26Aの搬送方向下流側に配置される冷却ローラ64、及び金属製の冷却ローラ64をクラウン部16の外周面に対して接離する方向に移動させる第2シリンダ装置66と、を有している。また、押圧ローラ60及び冷却ローラ64の表面は、溶融又は軟化した熱可塑性材料の付着を抑制するためにフッ素樹脂(本実施形態では、テフロン(登録商標))でコーティングされている。
なお、本実施形態では、コード供給装置56は、押圧ローラ60及び冷却ローラ64の2つのローラを有する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、何れか一方のローラのみ(即ち、ローラ1個)を有している構成でもよい。また、押圧ローラ60及び冷却ローラ64は、タイヤケース17に対して従動回転するようになっている。
【0067】
また、コード加熱装置59は、熱風を生じさせるヒーター70及びファン72と、内部空間に当該熱風が供給されると共に内部空間を被覆コード部材26が通過する加熱ボックス74と、加熱ボックス74の先端に設けられ加熱された被覆コード部材26が排出される排出口76とを有している。
コード供給装置56はタイヤケース17の軸方向に移動可能となっている。
【0068】
ガイドレール54には、図7に示すように、タイヤケース17の外周面17Sを粗化処理するためのブラスト装置100が移動可能に搭載されている。
【0069】
このブラスト装置100は、粒子状の投射材104を射出するブラストガン102を備え、タイヤケース17の外周面17Sに投射材104を衝突させて、外周面17Sに微細な粗化凹凸を形成して該外周面17Sを粗化処理するものである。また、投射材104としては、金属でも砂(珪砂)高分子材料などのいずれの材料を用いてもよく、空気中で固体から気体へと気化する材料(例えば、ドライアイス粒子など)を用いることもできる。
【0070】
また、ブラスト装置100は、外周面17Sの算術平均粗さRaが0.05mm以上となるように、外周面17Sに投射材104を衝突させて外周面17Sを粗化処理するようになっている。
【0071】
次に本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
(骨格形成工程)
(1)図3に示すように、先ず、径を縮小したタイヤ支持部40の外周側に、互いに向かい合わせに突き当てた2つのケース分割体17Aを配置すると共に、2つのケース分割体17Aの内部に、薄い金属板(例えば、厚さ0.5mmの鋼板)からなる筒状のタイヤ内面支持リング43を配置する(図3では、内部を見せるために一方のケース分割体17Aを外して記載されている)。
【0072】
タイヤ内面支持リング43の外径は、ケース分割体17Aの外周部分の内径と略同一寸法に設定されており、タイヤ内面支持リング43の外周面が、ケース分割体17Aの外周部分の内周面に密着するようになっている。これにより、タイヤ支持片42間の隙間によりタイヤ支持部40の外周に生じる凹凸に起因する接合部分(溶接用熱可塑性材料53)の凸凹(前記凹凸の逆形状)の発生を抑制することができる。また、タイヤ支持片42間の隙間によって配置部材(タイヤケース17、トレッド30、その他のタイヤ構成部材(例えば、補強層など))に凹凸が発生するのを抑制することができる。つまり、配置部材を配置する際に作用させる力(テンションや押圧力など)で配置部材のタイヤ支持片42間の隙間に対応した部位に凹凸が発生するのを抑制することができる。なお、タイヤ内面支持リング43は薄い金属板で形成されているため、曲げ変形させてケース分割体17Aの内部に容易に挿入可能である。
【0073】
そして、図4(B)に示すように、タイヤ支持部40の径を拡大してタイヤ内面支持リング43を複数のタイヤ支持片42で内側から保持する。
【0074】
(2)図5に示すように、押出機44を移動して、ケース分割体17Aの突き当て部分の上方にノズル46を配置する。そして、タイヤ支持部40を矢印R方向に回転させながら、ノズル46から溶融した溶接用熱可塑性材料53を接合部位に向けて押し出し、接合部位に沿って溶融した溶接用熱可塑性材料53を付着させる。付着した溶接用熱可塑性材料53は、下流側に配置した均しローラ48によって平らに均されると共に、両方のケース分割体17Aの外周面に溶着する。溶接用熱可塑性材料53は自然冷却により次第に固化し、一方のケース分割体17Aと他方のケース分割体17Aとが溶接用熱可塑性材料53によって溶接され、これらの部材が一体となってタイヤケース17が形成される。
【0075】
(3)次に、図6に示すように、押出機44を退避させて、コード供給装置56をタイヤ支持部40の近傍に配置する。そして、ヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。
【0076】
次に、上記工程でセットされたリール58から巻き出した被覆コード部材26を、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、被覆コード部材26の外周面の温度を100〜200°C程度に加熱)する。ここで、被覆コード部材26が加熱されることにより、被覆用樹脂材料27が溶融又は軟化した状態となる。
【0077】
そして被覆コード部材26は、排出口76を通り、矢印R方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻回される。このとき、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26の下面26Dが接触する。そして、接触した部分の溶融又は軟化状態の被覆用樹脂材料27はクラウン部16の外周面上に広がり、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26が溶着される。これにより、クラウン部16と被覆コード部材26との接合強度が向上する。
【0078】
また、被覆コード部材26に作用させるテンションは、タイヤケース17に対して従動回転するリール58にブレーキをかけることで調整されるようになっており、このように一定のテンションを作用させながら被覆コード部材26を巻回することで、被覆コード部材26が蛇行するのを抑制できる。なお、本実施形態では、リール58にブレーキをかけてテンションを調整しているが、被覆コード部材26の搬送経路途中にテンション調整用ローラを設けるなどしてテンションを調整してもよい。
【0079】
また、被覆用樹脂材料27が溶融又は軟化状態の被覆コード部材26は、クラウン部16の外周面に接触した直後に、押圧ローラ60によって押圧することで溶融又は軟化状態の被覆用樹脂材料27がクラウン部16の外周面上に広がり、クラウン部16との接合面積を確保することができる。また、このように押圧することで、被覆コード部材26をクラウン部16に接触させた際に侵入した空気も押し出され、被覆コード部材26とクラウン部16との間への空気入りがさらに抑制される。
【0080】
その後、押圧ローラ60の下流側に設けられた冷却ローラ64によって、被覆コード部材26の溶融又は軟化した被覆用樹脂材料27が強制的に冷却される。これにより、被覆コード部材26が動いたりする前に被覆コード部材26及びその周囲が冷却されるため、精度よく被覆コード部材26を配設することができる。
【0081】
このように被覆コード部材26をクラウン部16に螺旋状に巻回することで、クラウン部16の外周側に補強層28が形成されて、タイヤケース17の外周部が構成される。なお、補強層28は、被覆コード部材26が間隔をあけて配置されるため、隙間28Aが形成され、タイヤケース17の外周面17Sが凹凸となる。
また、例えば、被覆コード部材26の断面形状を略矩形状とし、排出口76の幅方向の送り速度を隣接する被覆コード部材26間に隙間が生じないように調整しながら被覆コード部材26を配設することにより、タイヤケース17の外周面17Sを凹凸状でなく平坦状(フラット状)とすることもできる。
【0082】
(粗化処理工程)
(4)次に、押出機44を退避させて、ブラスト装置100をタイヤ支持部40の近傍に配置する(図7参照)。そして、ブラストガン102をタイヤケース17の外周面17Sに向け、タイヤケース17側を回転(矢印R方向)させながら、外周面17Sへ投射材104を高速度で射出する。射出された投射材104は、外周面17Sに衝突し、この外周面17Sに算術平均粗さRaが0.05mm以上となる微細な粗化凹凸96を形成する(図8参照)。なお、タイヤケース17側を回転させる代わりにブラストガン102側をタイヤケース17の周方向周りに回転させてもよい。
【0083】
このようにして、タイヤケース17の外周面17Sに微細な粗化凹凸96が形成されることで、外周面17Sが親水性となり、後述する接合剤の濡れ性が向上する。
【0084】
ここで、例えば、サンドペーパーやリュータなどを用いて、タイヤケース17の外周面17Sを粗化処理する場合、タイヤケース17の外周面17Sの凹凸の特に凹部(隙間28A)に対して、粗化処理を施すのが困難であり、作業も煩雑なものとなる。
しかし、図8に示すように、ブラストガン102から投射材104を射出することで、凹部の凹壁や凹底を粗化処理することができるため、外周面17Sをほぼ一様に粗化処理することができる。
【0085】
また、粗化処理する範囲は、タイヤ構成ゴム部材としての後述するクッションゴム29が積層される範囲と同じ、又は、クッションゴム29が積層される範囲よりも広い範囲とすることが好ましい。これにより、クッションゴム29は、全面的に粗化処理されて親密性が良好となった範囲に積層されるため、クッションゴム29とタイヤケース17との接合強度が確保される。
【0086】
算術平均粗さRaが0.05mm以上となるように外周面17Sを粗化処理し、粗化処理された外周面17Sに接合剤を介して、例えば、未加硫又は半加硫状態のクッションゴム29を積層し加硫した場合に、粗化処理により形成された粗化凹凸96の底までクッションゴム29のゴムが流れ込むことにより、タイヤケース17とクッションゴム29との間に十分なアンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する
なお、算術平均粗さRaが0.05mm未満の場合には、粗化凹凸96が浅いため、接合剤の濡れ性が低く、十分なアンカー効果が発揮されず、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が十分に確保できない。
【0087】
さらに、投射材104として、空気中で固定から気体へと気化する材料を用いた場合には、タイヤケース17の外周面17Sの粗化処理後に、投射材104が空気中で固定から気体へと気化することから、タイヤケース17の外周面17Sに投射材104が残らない。このような、投射材104を用いた場合には、タイヤケース17から投射材104を取り除くための作業を必要とせず、作業の煩雑さが改善される。
【0088】
(積層工程)
(5)次に、粗化処理を行なったタイヤケース17の外周面17Sに接合剤を塗布する。 なお、接合剤としては、トリアジンチオール系接着剤、塩化ゴム系接着剤、フェノール系樹脂接着剤、イソシアネート系接着剤、ハロゲン化ゴム系接着剤など、特に制限はないが、クッションゴム29が加硫できる温度(90°C〜140°C)で反応することが好ましい。
【0089】
(6)次に、接合剤が塗布された外周面17Sに未加硫状態のクッションゴム29を1周分巻き付け、そのクッションゴム29の上に例えば、ゴムセメント組成物などの接合剤を塗布し、その上に加硫済み又は半加硫状態のトレッドゴム30Aを1周分巻き付けて、生タイヤケース状態とする。
【0090】
(加硫工程)
(7)次に生タイヤケースを加硫缶やモールドに収容して加硫する。このとき、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96に未加硫のクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が向上する。
【0091】
(8)そして、タイヤケース17のビード部12に、樹脂材料よりも軟質である軟質材料からなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
【0092】
(9)最後に、タイヤ支持部40の径を縮小し、完成したタイヤ10をタイヤ支持部40から取り外し、内部のタイヤ内面支持リング43を曲げ変形させてタイヤ外へ取り外す。
【0093】
(作用)
本実施形態のタイヤの製造方法では、タイヤケース17とクッションゴム29及びトレッドゴム30Aとを一体化するにあたり、タイヤケース17の外周面17Sが粗化処理されていることから、アンカー効果により接合性(接着性)が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料が投射材104の衝突により掘り起こされることから、接合剤の濡れ性が向上する。これにより、タイヤケース17の外周面17Sに接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
【0094】
特に、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸が構成されていても、凹部(隙間28A)に投射材104を衝突させることで凹部周囲(凹壁、凹底)の粗化処理がなされ、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
【0095】
一方、クッションゴム29がタイヤケース17の外周面17Sの粗化処理された領域内に積層されることから、タイヤケース17とクッションゴムとの接合強度を効果的に確保することができる。
【0096】
加硫工程において、クッションゴム29を加硫した場合、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96にクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。
【0097】
このような、タイヤの製造方法にて製造されたタイヤ10は、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が確保される、すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が確保される。これにより、走行時などにおいて、タイヤ10のタイヤケース17の外周面17Sとクッションゴム29との間の剥離が抑制される。
【0098】
また、タイヤケース17の外周部を補強層28が構成していることから、外周部を補強層28以外のもので構成しているものと比べて、耐パンク性及び耐カット性が向上する。
【0099】
また、被覆コード部材26を巻回して補強層28が形成されていることから、タイヤ10の周方向剛性が向上する。周方向剛性が向上することで、タイヤケース17のクリープ(一定の応力下でタイヤケース17の塑性変形が時間とともに増加する現象)が抑制され、且つ、タイヤ径方向内側からの空気圧に対する耐圧性が向上する。
【0100】
第1実施形態では、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸を構成したが、本発明はこれに限らず、図9に示すタイヤケース17の変形例1のように、外周面17Sを平らに形成する構成としてもよい。以下に、外周面17Sを平らに形成したタイヤケース17の変形例1について説明する。
【0101】
(変形例1)
図9に示すタイヤケース17は、補強層28が被覆用熱可塑性材料90によって形成された被覆層88によって覆われている。この被覆層88は、外周面が平坦状とされ、且つタイヤケース17の外周部を構成している。そして、被覆層88の上には、接合剤を介してクッションゴム29及びトレッド30が形成されている。なお、タイヤケース17の外周面17Sは粗化処理が施されている。
【0102】
次にタイヤケース17の変形例1の製造方法について説明する。
上述した(1)〜(3)の手順でタイヤケース17に補強層28を形成した後、図10に示すように、ノズル46を大口径のノズル86に交換した押出機44から、溶融又は軟化状態の被覆用熱可塑性材料90を補強層28の上に吐出して被覆層88を形成する。このとき、被覆層88の表面(外周面)が平坦となるように、ローラ48などで均すことが好ましい。なお、押出機44を用いずに、図12に示すように溶着シート92の接合面側を熱風装置98の吹出口99から吹き出る熱風などで加熱し溶融又は軟化状態にして、補強層28の表面(外周面)に貼り付けて被覆層88を形成してもよい。
そして、被覆層88が冷却固化した後は、図11に示すように、タイヤケース17の外周面17S(被覆層88の外周面を含む)に向けてブラスト装置100のブラストガン102から投射材104を射出して、外周面17Sに微細な粗化凹凸96を形成する粗化処理を行なう。タイヤケース17の外周面17Sを粗化処理した後、この外周面17Sに接合剤を塗布し、その上にクッションゴム29、トレッドゴム30Aを順次積層し、加硫する。
【0103】
なお、変形例1では、タイヤケース17の補強層28を被覆層88で覆うことで、タイヤケース17の外周面17Sを平坦状とする構成としたが、本発明はこの構成に限らず、タイヤケース17の樹脂材料を熱可塑性材料としてクラウン部16の外周面に加熱した補強コード26Aを押し付け、熱可塑性材料を溶かしながら埋設して補強層28を形成し、補強層28の上に上述の被覆層88を形成してタイヤケース17の外周面17Sを平坦状とする構成としてもよい。なお、クラウン部16に予め溝を形成しておき、この溝に補強コード26Aを嵌め込む構成とすれば、補強コード26Aの加熱を省略することができる。
【0104】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、ケース分割体17Aを接合してタイヤケース17を形成する構成としたが、本発明はこの構成に限らず、金型などを用いてタイヤケース17を一体的に形成してもよい。
【0105】
上述の実施形態のタイヤ10は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ10とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、タイヤ10は、図13に示すように、完全なチューブ形状であってもよい。なお、図13に示す完全なチューブ形状のタイヤも図1に示すチューブレスタイヤと同様にリム組みされるようになっている。
【0106】
上述の実施形態では、タイヤケース17とトレッド30との間にクッションゴム29を配置したが、本発明はこれに限らず、クッションゴム29を配置しない構成としてもよい。
【0107】
また、上述の実施形態では、被覆コード部材26をクラウン部16へ螺旋状に巻回する構成としたが、本発明はこれに限らず、被覆コード部材26が幅方向で不連続となるように巻回する構成としてもよい。
【0108】
上述の実施形態では、被覆コード部材26を形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、この被覆用樹脂材料27を加熱することにより溶融又は軟化状態にしてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26を溶着する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、被覆用樹脂材料27を加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26を接着する構成としてもよい。
また、被覆コード部材26を形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、被覆コード部材26を加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に接着する構成としてもよい。
さらに、被覆コード部材26を形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、タイヤケース17を熱可塑性材料で形成する構成としてもよい。この場合には、被覆コード部材26をクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26が配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26をクラウン部16の外周面に溶着してもよい。
またさらに、被覆コード部材26を形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、タイヤケース17を熱可塑性材料で形成する構成としてもよい。この場合には、被覆コード部材26をクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26が配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態としつつ、被覆用樹脂材料27を加熱し溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26をクラウン部16の外周面に溶着してもよい。なお、タイヤケース17及び被覆コード部材26の両者を加熱して溶融又は軟化状態にした場合、両者が良く混ざり合うため接合強度が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料、及び被覆コード部材26を形成する被覆用樹脂材料27をともに熱可塑性材料とする場合には、同種の熱可塑性材料、特に同一の熱可塑性材料とすることが好ましい。
そして、例えば、補強コード26Aを加硫済みのゴムで被覆したゴム被覆コード(補強コード部材の一例)を樹脂材料で構成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に巻回して補強層を構成してもよい。この場合には、上記したように、ゴム被覆コードをクラウン部16の外周面に溶着又は接着してもよい。
【0109】
またさらに、タイヤ10を製造するための順序は、第1実施形態の順序に限らず、適宜変更してもよい。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0110】
10 タイヤ
17 タイヤケース(タイヤ骨格部材)
17S 外周面
26 被覆コード部材
26A 補強コード
27 被覆用樹脂材料
28 補強層
28A 隙間
29 クッションゴム(タイヤ構成ゴム部材)
30 トレッド(タイヤ構成ゴム部材)
88 被覆層
96 粗化凹凸
100 ブラスト装置
104 投射材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を用いて環状のタイヤ骨格部材を形成する骨格形成工程と、
前記タイヤ骨格部材の外周面に粒子状の投射材を衝突させて、前記外周面を粗化処理する粗化処理工程と、
粗化処理された前記外周面に接合剤を介してタイヤ構成ゴム部材を積層する積層工程と、
を備えるタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記タイヤ骨格部材の外周面は、少なくも一部が凹凸部とされ、
前記凹凸部は、前記粗化処理工程で粗化処理される請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記タイヤ骨格部材の外周部は、前記外周面に前記凹凸部を構成する補強層で構成され、
前記補強層は、前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料とは別体の樹脂材料で補強コードを被覆して構成された被覆コード部材を前記タイヤ骨格部材の周方向に巻回して構成されている請求項2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料、及び、前記被覆コード部材を構成する樹脂材料の少なくとも一方が熱可塑性を有する熱可塑性材料である請求項3に記載のタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記粗化処理工程では、前記タイヤ構成ゴム部材の積層領域よりも広い領域を粗化処理する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記粗化処理工程では、算術平均粗さRaが0.05mm以上となるように前記外周面を粗化処理する請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記投射材は、空気中で固体から気体へと気化する材料によって構成されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記タイヤ構成ゴム部材は、未加硫、又は半加硫状態である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項9】
樹脂材料を用いて形成され、外周面に粒子状の投射材を衝突させて該外周面を粗化処理した環状のタイヤ骨格部材と、
粗化処理された前記外周面に接合剤を介して積層されたタイヤ構成ゴム部材と、
を備えるタイヤ。
【請求項10】
前記タイヤ骨格部材の外周面は、少なくも一部が凹凸部とされ、
前記凹凸部は、粗化処理されている請求項9に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記タイヤ骨格部材の外周部は、前記外周面に前記凹凸部を構成する補強層で構成され、
前記補強層は、前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料とは別体の樹脂材料で補強コードを被覆して構成された被覆コード部材を前記タイヤ骨格部材の周方向に巻回して構成されている請求項10に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記タイヤ骨格部材を形成する樹脂材料、及び、前記被覆コード部材を構成する樹脂材料の少なくとも一方が熱可塑性を有する熱可塑性材料である請求項11に記載のタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−207155(P2011−207155A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79120(P2010−79120)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】