説明

タイヤトレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】特に高速走行に用いられるタイヤ用ゴム組成物に関し、ウエットグリップ性能、耐摩耗性、耐久性等に優れ、さらには、氷上性能をも向上させたタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】 ゴム成分100質量部に対し、ゴム中個数平均粒径が1μm以上100μm以下でゴム中粒度分布index(PDI)が1.50以下となるように、中空微粒子1質量部以上30質量部以下を少なくとも配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物に関し、より詳しくは、特定の中空微粒子を配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車の高性能化及び高速化に伴い、各々のタイヤへ要求性能も厳しくなっている。その中でも、高速耐久性の向上と、湿潤路面でのグリップ性能(以後、「ウエット性能」という場合がある)の向上とは、安全面からも非常に重要な特性となっている。
【0003】
タイヤの転がり抵抗とウエット性能との両立のため、白色充填剤であるシリカや水酸化アルミニウムなどの新たな材料が開発され、それらを用いたゴム組成物が研究されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、ゴム組成物を変えずに、ウエット性能の1つであるハイドロプレーニング性能を向上させる研究もなされている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0004】
一方、氷雪路面上でのタイヤの制動・駆動性能(氷上性能)を向上させるため、タイヤのトレッドについての研究が盛んに行われている。氷雪路面では、タイヤの摩擦熱等により水膜が発生し易く、その水膜がタイヤと氷雪路面との間の摩擦係数を低下させる原因になっている。このため、タイヤのトレッドの水膜除去能やエッヂ効果を向上させるための提案が種々なされてきている。
【0005】
例えば、トレッドに使用するゴム組成物(タイヤトレッド用ゴム組成物)において、ゴム成分と発泡剤とからなるゴム組成物をその加硫時にゴム成分の温度加硫最高温度に達するまでの間にゴム成分よりも粘度が低くなる有機繊維を配合することにより、上記性能及び効果を向上させることが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
上記トレッドゴムに発泡ゴムを用いることで、氷上性能やロードノイズ性能を向上させることができるが、このタイヤでは氷上路における摩擦力は良好であるが発泡ゴムのブロック剛性が低いため、独立気泡によるエッジ効果と排水効果とが十分でなく、耐摩耗性や一般路における走行性能が低下するという問題があった。
【0006】
上記問題を解決するため、トレッドゴムに中空微粒子を配合することが提案されている(例えば、特許文献6〜9参照)。しかしながら、従来の中空微粒子は、その圧力強度が低いために、ゴム中に配合する過程で一部が崩壊し、結果として中空微粒子としての効果が低減するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−8824号公報
【特許文献2】特開平11−227409号公報
【特許文献3】特開2003−63213号公報
【特許文献4】特開2005−34328号公報
【特許文献5】特開平11−48264号公報
【特許文献6】特開2001−279020号公報
【特許文献7】特許第3189128号明細書
【特許文献8】特許第3215467号明細書
【特許文献9】特開平4−198241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特に高速走行に用いられるタイヤ用ゴム組成物に関し、ウエットグリップ性能、耐摩耗性、耐久性等に優れ、さらには、氷上性能をも向上させたタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の中空微粒子を配合してなるゴム組成物をタイヤのトレッド部に適用することで、タイヤの氷上制動性能及び湿潤路面制動性能(ウエット性能)が大幅に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
<1> ゴム成分100質量部に対し、ゴム中個数平均粒径が1μm以上100μm以下でゴム中粒度分布index(PDI)が1.50以下となるように、中空微粒子1質量部以上30質量部以下を少なくとも配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0011】
<2> 前記ゴム中粒度分布index(PDI)が、1.35以下である<1>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0012】
<3> 前記ゴム成分が、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを50質量%以上含んでなる<1>または<2>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0013】
<4> 前記スチレン−ブタジエン共重合体ゴムにおけるスチレン量が10質量%以上50質量%以下である<3>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0014】
<5> 前記ゴム成分が、天然ゴムと、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム及びアクリロニリトル−ブタジエンゴムから選択される1種以上のジエン系合成ゴムと、の混合物である<1>または<2>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0015】
<6> 前記混合物における天然ゴム及びジエン系合成ゴムの質量比(天然ゴム/ジエン系合成ゴム)が、80/20〜40/60の範囲である<5>に記載のタイヤトレッドゴム組成物である。
【0016】
<7> 前記ゴム成分が天然ゴム及びジエン系合成ゴムから選択される少なくとも1種であり、独立気泡を有する<1>または<2>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0017】
<8> 加硫後の発泡率が5%以上40%以下である<7>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0018】
<9> 前記中空微粒子の配合量が、ゴム成分100質量部に対し3質量部以上10質量部以下である<1>〜<8>のいずれかに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0019】
<10> 充填剤として、カーボンブラック、シリカ及び一般式(I)
nM・xSiOy・zH2O・・・・・・・・(I)
[式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる金属、並びに、これらの金属の酸化物または水酸化物、それらの水和物及び前記金属の炭酸塩の中から選ばれる少なくとも一種であり、n、x、y及びzは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数及び0〜10の整数である。]
で表される無機充填剤から選択される少なくとも1種を含む<1>〜<9>のいずれかに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0020】
<11> 前記充填剤含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である<10>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0021】
<12> 前記中空微粒子及び充填剤の総配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して 1質量部以上130質量部以下である<10>または<11>に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0022】
<13> さらにシランカップリング剤を配合してなる<1>〜<12>のいずれかに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0023】
<14> トレッド部を備え、該トレッド部に<1>〜<13>のいずれかに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤである。
【0024】
<15> 前記トレッド表面の算術平均粗さRaが5μm以上50μm以下であり、粗さの偏り度Rskが−0.5以上0未満である<14>に記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、特に高速走行に用いられるタイヤ用ゴム組成物に関し、ウエットグリップ性能、耐摩耗性、耐久性等に優れ、さらには、氷上性能をも向上させたタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態により本発明を説明する。
<タイヤトレッド用ゴム組成物>
本実施形態のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、ゴム中個数平均粒径が1μm以上100μm以下でゴム中粒度分布index(PDI)が1.50以下となるように、中空微粒子1質量部以上30質量部以下を少なくとも配合してなる。
【0027】
本実施形態のタイヤトレッド用ゴム組成物には、中空微粒子が配合されるために、これによりトレッド表面に凹凸ができると共に、この中空微粒子がトレッド表面から脱落するか、またはトレッド表面で壊れた場合にはトレッド表面に凹穴ができ、氷雪路面の走行時に路面の水が前記凹穴に逃げ込めるので、路面へのグリップ力が増し、氷上摩擦力を向上させることができる。また、湿潤路を走行する場合においても、トレッド表面の凹穴に路面の水がよく吸収されると共に、吸収された水はトレッド表面が路面から離れたときに直ちに排水されるので、走行性能が損なわれることがない。
【0028】
(中空微粒子)
本実施形態における中空微粒子は、大きな圧縮強度を有するので、ゴム成分に配合された後、混練等の操作が行われた場合でも破壊されない状態でゴム中あるいはゴム表面に存在する。
【0029】
本実施形態における中空微粒子は、ゴム中個数平均粒径が1μm以上100μm以下であることが必要である。ゴム中個数平均粒径が1μmに満たないと、粒径が小さすぎてゴム表面等に凹穴が形成されても前記路面の水に対する有効な効果が発揮されない。一方、100μmを越えると、ゴム中で破壊核となり、配合ゴムの耐摩耗性が低下する。
【0030】
本実施形態における中空微粒子のゴム中個数平均粒径は5μm以上80μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0031】
また、本実施形態における中空微粒子は、ゴム中粒度分布index(PDI)が1.50以下であることが必要であり、1.45以下であることが好ましく、1.35以下であることがより好ましい。
ゴム中の中空微粒子の粒度分布がブロードになり、PDIが1.5を超えると、タイヤに入力された歪みを均一に分散させることができずに、耐摩耗性が低下する。さらに、トレッド表面にできる凹穴の径分布もブロードとなり、タイヤ接地面内で効果的に排水することができなくなるため、ウエット性能や氷上摩擦性能も低下する。
【0032】
なお、上記ゴム中粒度分布は、倍率100〜400倍の実体顕微鏡(キーエンス社製、VH−6300)を用いて、試験タイヤのトレッドゴムから両刃カミソリでブロック状のゴムを切り出し、500個以上の中空微粒子の直径を測定することにより求めることができる。
また、ゴム中個数平均粒径は、ここで得られたゴム中個数粒度分布から、個数基準で50%の値として求めた。
さらに、ゴム中粒度分布index(「PDI」と略す)は、ここで得られた粒度分布の半価幅Wと、ゴム中個数平均粒径Mを用いて、以下の式(1)から算出した。
PDI=W/M ・・・ 式(1)
【0033】
前記各条件を満たす中空微粒子としては、特に制限されないが、グラスバブルを用いることが前記必要とされる圧縮強度や好ましい粒度分布を得ることができる点で好ましい。
本実施形態に用いるグラスマイクロバブルとしては、例えば、ガラス組成におけるアルカリ金属酸化物質量に対するアルカリ土類金属酸化物の質量の比(アルカリ土類金属酸化物/アルカリ金属酸化物質量)を1.2/1〜3.0/1の範囲としたものが好ましく、アルカリ土類金属酸化物およびアルカリ金属酸化物の合わせた質量の少なくとも97質量%において、SiO2が70〜80質量%、CaOが8〜15質量%、Na2Oが3〜8質量%、及びB23が2〜6質量%含まれることが望ましい。また、グラスマイクロバブルは、米国特許第3,230,064号明細書または米国特許第3,129,086号明細書に記載されるものなどの装置において調製することができる。
【0034】
本実施形態に使用可能な市販のグラスバブルとしては、強度の高い種類のものとして、例えばスコッチライト(Scotchlite(登録商標))グラスバブルズ(Glass Bubbles)S60HS(ソーダ石灰ホウケイ酸ガラス製)を挙げることができる。この中空微粒子は、0.60g/ccの密度、および約30μmの個数平均粒径を有している。
【0035】
上記中空微粒子の後述するゴム成分への配合量は、該ゴム成分100質量部に対して1質量部以上30質量部以下とする。配合量が1質量部未満では、中空微粒子量が少なすぎて特にゴム組成物表面近傍に前記有効な効果を発揮させるために十分な凹穴を形成することができない。配合量が30質量部を超えると、耐摩耗性が低下する。
前記配合量は1質量部以上20質量部以下とすることが好ましく、3質量部以上10質量部以下とすることがより好ましい。
【0036】
(ゴム成分)
本実施形態のゴム組成物に使用可能なゴム成分としては、天然ゴム(NR)及び種々の合成ゴムから選択される少なくとも1種が挙げられる。上記合成ゴムの具体例としては、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、架橋ポリエチレンゴム、クロロプレンゴム及びニトリルゴム等が挙げられる。これらのゴム成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
本実施形態に用いるゴム成分としては、タイヤとしたときに求められる性能に対して好適な、以下の3つのタイヤトレッド用ゴム組成物(以下、各々「第1のタイヤトレッド用ゴム組成物」、「第2のタイヤトレッド用ゴム組成物」、「第3のタイヤトレッド用ゴム組成物」という場合がある)に用いられるものに各々分類される。
【0038】
[第1のタイヤトレッド用ゴム組成物のゴム成分]
第1のタイヤトレッド用ゴム組成物は、タイヤとしたときの乾燥路面での操縦安定性に加え、湿潤路面(ウエット路面)での制動性、特にウエットブレーキ性能等のウエット性能の向上を目的とするものであり、ゴム成分としては、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(以下、単に「SBR」を称する場合がある)を50質量%以上含むものを用いる。
比較的ガラス転移温度の高いSBRは、湿潤路面におけるウエットスキッド性や操縦安定性を重視するために用いられるが、これに前記中空微粒子を組み合わせることにより、ウエット路面でのブレーキ性能をも向上させることができる。
【0039】
前記のように、ゴム成分としては、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムが50質量%以上含まれるが、80質量%以上含まれることが好ましい。ゴム成分におけるスチレン−ブタジエン共重合体ゴム以外の成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。
【0040】
前記SBRに用いられるスチレン−ブタジエン共重合体としては、100℃におけるムーニー粘度が、30以上であるのが好ましく、40以上であるのがより好ましい。ムーニー粘度が30未満であると、耐熱性が劣化することがある。尚、ムーニー粘度は、例えば、ムーニー粘度試験機、例えば東洋精機製ローターレスムーニー試験機を用い、100℃におけるML1+4を測定することにより得られる。
【0041】
スチレン−ブタジエン共重合体ゴムにおけるスチレン量としては、10質量%以上50質量%以上が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましい。スチレン量が10質量%以上50質量%以上であると、ヒステリシスロスの低下や低温(−10℃)での貯蔵弾性率(E')の上昇が抑えられ、ウエット性能の低下を防ぐことができるだけでなく、低温における路面の凹凸への十分な追随も可能となる。なお、上記スチレン量は、H−NMRスペクトルの積分比より算出することができる。
スチレン−ブタジエン共重合体は、市販品を使用することができ、油展されていてもよい。
【0042】
[第2のタイヤトレッド用ゴム組成物のゴム成分]
第2のタイヤトレッド用ゴム組成物は、タイヤとしたときに、耐摩耗性を犠牲にせずに、氷雪路、特に氷上における摩擦力の向上を目的とするものであり、ゴム成分としては、天然ゴムと特定のジエン系合成ゴムとの混合物を用いる。
トレッドゴムのゴム成分を、天然ゴム及びジエン系合成ゴムとした場合、乾燥路面走行温度領域での複素弾性率の低下が抑制されることに加え、氷上路面走行温度領域でトレッドゴムが十分なしなやかさを有するため、氷上性能と耐摩耗性とを両立し易い。これに前記中空微粒子を組み合わせることにより、特に氷上での摩擦力を向上させることができる。
【0043】
天然ゴムと共に用いる前記特定のジエン系合成ゴムとしては、具体的には、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム及びアクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)から選択される1種以上を用いる。好ましくは、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ハロゲン化ブチルゴムである。
特にゴム成分としては、ポリブタジエンゴム(BR)が、低発熱性、耐摩耗性、耐亀裂成長性、耐引裂き性などの点で好ましい。
【0044】
また、前記ゴム成分としてはゴムラテックスまたはゴム溶液を用いることもできる。該ゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックス及び合成ゴムラテックス、あるいは溶液重合による合成ゴムの有機溶媒溶液などを挙げることができるが、これらの中で、得られるマスターバッチの性能や製造しやすさなどの観点から、天然ゴムラテックス及び合成ゴムラテックスが好適である。
上記天然ゴムラテックスとしては、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、酵素で処理した脱蛋白ラテックス、官能基を導入したラテックス、前記のものを組み合わせたものなど、いずれも使用することができる。天然ゴムラテックスはゴム炭化水素の微粒子を分散質とするコロイドゾルであり、電気的に負に帯電している。通常安定剤としてアンモニアその他アルカリをくわえてpH9〜10として保存する。ラテックスには約30%のゴム分がふくまれており、前記濃縮ラテックスは60%に濃縮されている。
合成ゴムラテックスとしては、例えばスチレン−ブタジエン重合体ゴム、ニトリルゴム、ポリクロロプレンゴムなどのラテックスを使用することができる。
【0045】
前記天然ゴムと特定のジエン系合成ゴムは、その質量比(天然ゴム/特定のジエン系合成ゴム)が80/20〜40/60の範囲であることが好ましい。質量比がこの範囲にあれば、乾燥路面走行温度領域での複素弾性率の低下が抑制されることに加え、氷上路面走行温度領域でトレッドゴムが十分なしなやかさを有するため、氷上性能と耐摩耗性とを両立し易い。前記質量比は60/40〜40/60の範囲であることがより好ましい。
【0046】
[第3のタイヤトレッド用ゴム組成物のゴム成分]
第3のタイヤトレッド用ゴム組成物は、タイヤとしたときに、耐摩耗性を犠牲にせずに、氷雪路、特に氷上における摩擦力の向上を目的とするものであり、ゴム成分としては、天然ゴム及びジエン系合成ゴムから選択される少なくとも1種を用い、独立発泡を有する。
トレッド表面に粗さを付与することにより、氷上における融解した水を排水し、氷上の摩擦力を向上できることが知られており、トレッドとして発泡ゴムが用いられてきた。これの発泡ゴムに、前記中空微粒子を組み合わせることにより、トレッド表面を狙った表面粗さに制御することが可能になり、さらに中空微粒子の引っかき効果によって、より前記摩擦力を向上させることができる。
【0047】
前記のゴム成分としては、天然ゴムのみを含んでも、ジエン系合成ゴムのみを含んでも、両者を含んでいてもよい。前記ジエン系合成ゴムとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。これらのジエン系合成ゴムの中でも、ガラス転移温度が低く、氷上性能の効果が大きい点で、シス−1,4−ポリブタジエンが好ましく、シス含有率が90%以上のものが特に好ましい。
なお、上記タイヤトレッド用ゴム組成物をタイヤのトレッド等に用いる場合には、前記ゴム成分としては、−60℃以下のガラス転移温度を有するものが好ましい。このようなガラス転移温度を有するゴム成分を用いると、該トレッド等は、低温域においても十分なゴム弾性を維持し、良好な前記氷上性能を示す点で有利である。
【0048】
(充填剤)
本実施形態のタイヤトレッド用ゴム組成物は充填剤を含んでもよい。該充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等を挙げることができる。これら充填剤の種類としては特に制限なく、従来ゴムの充填剤として慣用されているものの中から任意のものを選択して用いることができる。また、シリカ等の無機充填剤を用いる場合には、シランカップリング剤を併用しても良い。
【0049】
本実施形態においては、前記充填剤が、カーボンブラック、シリカ及び一般式(I)
nM・xSiOy・zH2O ・・・(I)
[式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる金属、並びに、これらの金属の酸化物または水酸化物、それらの水和物及び前記金属の炭酸塩の中から選ばれる少なくとも一種であり、n、x、y及びzは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数、及び0〜10の整数である。]
で表される無機充填剤の中から選ばれる少なくとも一種であることが好適である。
カーボンブラック及びシリカに加えて、上記一般式(I)で表される無機充填剤を用いることにより、補強効果を効率的に高めることができ、タイヤとしたときの耐摩耗性及び低発熱性(低燃費性)の両立を図ることができる。
【0050】
ここで、前記カーボンブラックとしては、通常ゴム工業に用いられるものが使用でき、例えば、SAF、HAF、ISAF、FEF、GPFなど種々のグレードのカーボンブラックを単独に又は混合して使用することができる。
前記シリカは特に限定されないが、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカが好ましい。これらは単独に又は混合して使用することができる。
なお、前記第3のタイヤトレッド用ゴム組成物にカーボンブラックを用いる場合、配合量はゴム成分100質量部に対し20質量部以上60質量部以下とすることが望ましい。配合量を上記範囲とすることにより、耐摩耗性と氷上性能との両立を図ることができる。
【0051】
前記一般式(I)で表される無機充填剤としては、具体的には、γ−アルミナ、α−アルミナ等のアルミナ(Al23)、ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al23・H2O)、ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)3]、炭酸アルミニウム[Al2(CO32]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al23)、クレー(Al23・2SiO2)、カオリン(Al23・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al23・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al23・4SiO2・2H2O)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5 、Al4・3SiO4・5H2O等)、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3等)、ケイ酸カルシウム(Ca2・SiO4等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al23・CaO・2SiO2等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)2・nH2O]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO32]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩などが使用できる。
また、一般式(I)で表される無機充填剤としては、Mがアルミニウム金属、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、それらの水和物、及びアルミニウムの炭酸塩から選ばれる少なくとも一種のものが好ましい。中でも充填剤としてはカーボンブラック、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましい。
【0052】
前記充填剤の含有量としては、ゴム成分100質量部に対して、充填剤を10質量部以上100質量部以下で使用するのが好ましい。添加量を上記範囲とすることにより、タイヤに用いたときの補強性及び低発熱性(低燃費性)の両立を図ることができ、さらに作業性等も改善することができる。
上記含有量は、好ましくは15質量部以上95質量部以下、より好ましくは20質量部以上90質量部以下である。
【0053】
また、本実施形態においては、前記中空微粒子及び充填剤の総配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上130質量部以下とすることが好ましい。総配合量をこの範囲とすることで、耐摩耗性と前記ウエット性能や氷上性能との両立を図ることができる。上記総配合量は30質量部以上80質量部以下とすることがより望ましい。
【0054】
(その他の配合剤)
本実施形態のタイヤトレッド用ゴム組成物には、前記ゴム成分、カーボンブラック等の充填剤の他、プロセスオイル等の油分、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、酸化亜鉛、オゾン劣化防止剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、カップリング剤、発泡剤、発泡助剤及びステアリン酸等のゴム業界で通常使用されるゴム用配合材料を、本実施形態の目的を害しない範囲内で適宜選択し配合することができる。これら配合剤は、市販品を好適に使用できる。
【0055】
前記プロセスオイル等の油分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択して使用可能である。前記油分としては、アロマティックオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、エステル系オイル、溶液状共役ジエンゴム、及び溶液状水素添加共役ジエンゴム等が挙げられる。油分がゴム組成物に含まれていると該ゴム組成物の流動性をコントロールできるため、加硫前のゴム組成物の粘度を低下させて流動性を高めることにより、極めて良好にゴム組成物の押出を行うことができる点で有利である。
【0056】
また、前記加硫剤として、従来の硫黄に加えて、有機チオスルフェート化合物(例えば1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物)、ビスマレイミド化合物(例えばフェニレンビスマレイミド)の少なくとも1種を併用することができる。
【0057】
また、前記加硫促進剤としては、テトラキス−2−エチルへキシルチウラムジスルフィド、テトラキス−2−イソプロピルチウラムジスルフィド、テトラキス−ドデシルチウラムジスルフィド、及びテトラキス−ベンジルチウラムジスルフィド等のチウラム化合物;ジ−2−エチルへキシルジチオカルバメート亜鉛、ドデシルジチオカルバメート亜鉛、及びベンジルジチオカルバメート亜鉛等のジチオカルバミン酸塩類化合物;並びにジベンゾチアジルジスルフィド、4,4’−ジメチルジベンゾチアジルジスルフィド、N−シクロへキシル−2−ベンソチアジル−スルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジル−スルフェンイミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、及びN,N’−ジシクロへキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等のベンゾチアゾリル加硫促進剤;などが挙げられる。
【0058】
更に、前記老化防止剤としては、例えば3C(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、6C[N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン]、AW(6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)、ジフェニルアミンとアセトンの高温縮合物等を挙げることができる。
【0059】
なお、前記第3のタイヤトレッド用ゴム組成物の場合には、発泡ゴムとする必要があるので、加流後に気泡を形成させるために、前記ゴム成分に対し他の配合剤と共に発泡剤を配合する。
上記発泡剤としては、例えば、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p’−オキシービス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等が挙げられる。
【0060】
これらの発泡剤の中でも、製造加工性を考慮すると、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましく、特にアゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記発泡剤の作用により、得られた上記加硫ゴムは発泡率に富む発泡ゴムとなる。
【0061】
また、発泡ゴムとする場合には、効率的な発泡を行う観点から、その他の成分として発泡助剤を用い、上記発泡剤と併用するのが好ましい。該発泡助剤としては、例えば、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛や亜鉛華等、通常、発泡製品の製造に使用する助剤等が挙げられる。これらの中でも、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛等が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記発泡剤の含有量としては、目的に応じて適宜決定すればよいが、一般にはゴム成分100質量部に対して1〜10質量部程度が好ましい。
【0062】
本実施形態のタイヤトレッド用ゴム組成物には、更にシランカップリング剤を配合するのが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、耐摩耗性がより向上し、tanδがより低下する。該シランカップリング剤の配合量は、前記充填剤100質量部に対し1〜20質量部の範囲が好ましい。
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシ−エトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロへキシル)−エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、γ−トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、γ−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィド等が挙げられる。
【0063】
本実施形態のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分、樹脂、及び必要に応じて適宜選択した前記その他の配合剤等を、混練り、熱入れ、押出、及び加硫等することにより製造できる。
【0064】
前記混練りの条件としては、特に制限はなく、混練り装置への各成分の投入量、ローターの回転速度、ラム圧、混練り温度、混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件によって適宜選択できる。前記混練り装置としては、一般にゴム組成物の混練りに用いる単軸混練押出機及び多軸混練押出機(連続式混練装置)や、バンバリーミキサー、インターミックス、及びニーダー等の噛合い式または非噛合い式回転ローターを有する混練機やロール(バッチ式混練装置)などが挙げられる。これらを複数組み合わせて用いてもよい。
【0065】
また、前記熱入れ又は押出は、熱入れ又は押出時間、熱入れ又は押出装置等の諸条件について特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。熱入れ又は押出装置としては、市販品を好適に使用することができる。尚、熱入れ又は押出温度は、前記発泡剤が存在する場合はその発泡を起こさないような範囲で適宜選択される。押出温度は、90〜110℃程度が望ましい
【0066】
本実施形態において、前記第3のタイヤトレッド用ゴム組成物としては、加硫後のゴム組成物の発泡率は、5%以上40%以下とすることが好ましい。発泡率(Vs)をこの範囲とすることにより、発泡による軟化効果による氷上制動と耐摩耗性との両立を図ることができる。上記発泡率は15%以上30%以下とすることがより好ましい。
なお、発泡率(Vs)は、下記式(2)により求めることができる。
Vs=(ρ0/ρ1−1)×100(%) ・・・ 式(2)
(式中、ρ1は発泡ゴム密度(g/cm3)であり、ρ0は発泡ゴムの固相部の密度(g/cm3)である)。
【0067】
<空気入りタイヤ>
本実施形態の空気入りタイヤは、トレッド部を備え、該トレッド部に上述のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いたことを特徴とする。上記タイヤのトレッド部の構造は特に制限されず、用途に応じ、一層構造、多層構造をとることができる。トレッド部が多層からなる場合、少なくとも一層に上記タイヤトレッド用ゴム組成物を用いることで、所期の効果が発揮される。なお、トレッド部が、トレッド表面部に位置するキャップゴム層とベルト被覆ゴムに隣接するベースゴム層との二層構造(キャップ・ベース構造)からなる場合、ベースゴム層が上記タイヤトレッド用ゴム組成物で構成されているのが好ましい。この場合、ベースゴム層露出時の溝高さが減少する分、ブロック剛性が高くなる。
【0068】
本実施形態において、タイヤにおけるトレッド表面の算術平均粗さRaが5μm以上50μm以下であり、粗さの偏り度Rskが−0.5以上0未満であることが望ましい。Ra及びRskを上記範囲とすることにより、接地面内の排水性を向上することができる。なお、上記Ra、RskはJIS B0601:2001に定義されるものである。
上記Raは10μm以上30μm以下とすることがより好ましく、Rskは−0.4以上−0.1以下とすることがより好ましい。
【0069】
なお、上記Ra、Rskは、トレッド部に貼着されたものと同一のトレッドゴムを用意し、表面粗さ測定器NH−120S(三鷹光器社製)を用いて測定したものである。
また、上記Ra、Rskについては、前記第1のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッドとして用いたタイヤにおいて、特に好ましく適用されるものである。
【実施例】
【0070】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって、何ら限定されるものではない。
まず、以下の各例で得られたタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて得られたタイヤについて、下記の方法によりタイヤ性能を評価した。
【0071】
<タイヤ性能評価>
(耐摩耗性能)
試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を試作し、実車にて舗装路面を2万km走行後、残溝を測定し、トレッドが1mm摩耗するのに要する走行距離を相対比較し、比較例1を100として指数表示した。指数が大きい程、耐摩耗性が良好なことを示す。
【0072】
(ウエット性能)
前記試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を、排気量2000ccの乗用車に4本装着し、テストコースの湿潤アスファルト路面にて、初速度70km/hrからの制動距離を測定した。比較例1の測定値を100とし、他例の値については、比較例1の制動距離÷供試タイヤの制動距離×100にて指数を求め指数表示した。従って、数値が大なる程良好である。
【0073】
(氷上性能)
前記試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を、排気量2000ccの乗用車に4本装着し、氷温−1℃の氷上制動性能を確認した。比較例1のタイヤをコントロールタイヤとして、氷上性能=(コントロールタイヤの制動距離/その他の例の制動距離)×100とした。数値の大きい方が氷上性能が優れていることを示す。
【0074】
<実施例A1〜A4及び比較例A1〜A4>
第1表に示す配合組成の8種類のタイヤトレッド用ゴム組成物をバンバリーミキサーを用いて調製した。次いで、各ゴム組成物について、加硫温度145℃、加硫時間45分間の条件で加硫ゴムサンプルを作製した。
上記各々作製した8種のゴム組成物をトレッドゴムに用いたサマータイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を試作し、前記のタイヤ性能を評価した。その結果を第1表にまとめて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
[注]
*1)SL563(JSR社製、スチレン含量:20質量%)
*2)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S60」(ゴム中個数平均粒径:30μm、PDI:1.33、平均肉厚:1.5μm)
*3)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S32」(ゴム中個数平均粒径:35μm、PDI:1.43、平均肉厚:0.89μm)
*4)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S15」(ゴム中個数平均粒径:30μm、PDI:1.83)
*5)東海カーボン(株)製、商品名「シースト7HM」
*6)日本シリカ工業(株)製、商品名「ニップシールAQ」
*7)デグッサ社製、商品名「Si75」
*8)N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」
*9)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ」
*10)1,3−ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーD」
【0077】
第1表に示す結果から分かるように、PDIが一定値以下のグラスバブルスを所定含有量で用いた実施例のゴム組成物を用いたタイヤでは、比較例のゴム組成物を用いた場合に比べて、耐摩耗性を低下させることなく、ウエット性能(制動性)が向上していることがわかる。
【0078】
<実施例B1〜B3及び比較例B1〜B7>
第2表に示す配合組成の10種類のタイヤトレッド用ゴム組成物をバンバリーミキサーを用いて調製した。次いで、各ゴム組成物について、加硫温度145℃、加硫時間45分間の条件で加硫ゴムサンプルを作製した。
上記各々作製した10種のゴム組成物をトレッドゴムに用いたスノータイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を試作し、前記のタイヤ性能を評価した。その結果を第2表にまとめて示す。
【0079】
【表2】

【0080】
[注]
*1)宇部興産社製シス−1,4−ポリブタジエンゴム、商品名「UBEPOL 150L」
*2)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S60」(ゴム中個数平均粒径:30μm、PDI:1.33、平均肉厚:1.5μm)
*3)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S32」(ゴム中個数平均粒径:35μm、PDI:1.43、平均肉厚:0.89μm)
*4)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S15」(ゴム中個数平均粒径:30μm、PDI:1.83)
*5)旭硝子社製グラスバルーン、商品名「セルスター」(ゴム中個数平均粒径:29μm、PDI:1.85、平均肉厚:3μm、平均比重:0.68g/cc)
*6)旭硝子社製グラスバルーン、商品名「セルスター」(ゴム中個数平均粒径:25μm、PDI:1.60、平均肉厚:2μm、平均比重:0.90g/cc)
*7)松本油脂社製膨張製マイクロカプセル、商品名「マイクロスフィアF100D」(ゴム中個数平均粒径:26μm、PDI:1.54)
*8)UCAR製膨張黒鉛、商品名「GRAFGuard160−50N」(ゴム中個数平均粒径:250μm、PDI:2.3)
*9)旭カーボン(株)製、商品名「N134」(N2SA:146m2/g)
*10)日本シリカ工業(株)製、商品名「ニップシールAQ」
*11)デグッサ社製、商品名「Si69」
*12)N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」
*13)ジ−2−ベンゾチアジル-ジスルフィド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーDM」
*14)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ」
【0081】
第2表に示す結果から分かるように、PDIが一定値以下のグラスバブルスを所定含有量で用いた実施例のゴム組成物を用いたタイヤでは、比較例のゴム組成物を用いた場合に比べて、耐摩耗性を低下させることなく、氷上性能(制動性)が大きく向上していることがわかる。
【0082】
<実施例C1〜C9及び比較例C1〜C4>
第3表に示す配合組成の13種類のタイヤトレッド用ゴム組成物をバンバリーミキサーを用いて調製した。次いで、各ゴム組成物について、加硫温度145℃、加硫時間45分間の条件で加硫ゴムサンプルを作製した。
上記各々作製した13種のゴム組成物をトレッドゴムに用いたスノータイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を試作し、前記のタイヤ性能を評価した。その結果を第3表にまとめて示す。
【0083】
【表3】

【0084】
[注]
*1)宇部興産社製シス−1,4−ポリブタジエンゴム、商品名「UBEPOL 150L」
*2)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S60」(ゴム中個数平均粒径:30μm、PDI:1.33、平均肉厚:1.5μm)
*3)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S32」(ゴム中個数平均粒径:35μm、PDI:1.43、平均肉厚:0.89μm)
*4)住友3M社製グラスバブルス、商品名「Scotchlite S15」(ゴム中個数平均粒径:30μm、MDI:1.83)
*5)旭カーボン(株)製、商品名「N134」(N2SA:146m2/g)
*6)日本シリカ工業(株)製、商品名「ニップシールAQ」
*7)デグッサ社製、商品名「Si69」
*8)N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」
*9)ジ−2−ベンゾチアジル-ジスルフィド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーDM」
*10)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ」
*11)ジニトロソペンタメチレンテトラミン
【0085】
第3表に示す結果から分かるように、PDIが一定値以下のグラスバブルスを所定含有量で用いた実施例のゴム組成物を用いたタイヤでは、比較例のゴム組成物を用いた場合に比べて、耐摩耗性を低下させることなく、氷上性能(制動性)が大きく向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、耐摩耗性だけでなく、ウエット性能、氷上性能に優れた空気入りタイヤを得ることができるので、乗用車用、軽自動車用、軽トラック用、トラック・バス用及びオフザロード用空気入りタイヤのキャップトレッド等のトレッド部材として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対し、ゴム中個数平均粒径が1μm以上100μm以下でゴム中粒度分布index(PDI)が1.50以下となるように、中空微粒子1質量部以上30質量部以下を少なくとも配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム中粒度分布index(PDI)が、1.35以下である請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分が、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを50質量%以上含んでなる請求項1または2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記スチレン−ブタジエン共重合体ゴムにおけるスチレン量が10質量%以上50質量%以下である請求項3に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分が、天然ゴムと、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム及びアクリロニリトル−ブタジエンゴムから選択される1種以上のジエン系合成ゴムと、の混合物である請求項1または2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記混合物における天然ゴム及びジエン系合成ゴムの質量比(天然ゴム/ジエン系合成ゴム)が、80/20〜40/60の範囲である請求項5に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分が天然ゴム及びジエン系合成ゴムから選択される少なくとも1種であり、独立気泡を有する請求項1または2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
加硫後の発泡率が5%以上40%以下である請求項7に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項9】
前記中空微粒子の配合量が、ゴム成分100質量部に対し3質量部以上10質量部以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項10】
充填剤として、カーボンブラック、シリカ及び一般式(I)
nM・xSiOy・zH2O・・・・・・・・(I)
[式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる金属、並びに、これらの金属の酸化物または水酸化物、それらの水和物及び前記金属の炭酸塩の中から選ばれる少なくとも一種であり、n、x、y及びzは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数及び0〜10の整数である。]
で表される無機充填剤から選択される少なくとも1種を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項11】
前記充填剤含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である請求項10に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項12】
前記中空微粒子及び充填剤の総配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上130質量部以下である請求項10または11に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項13】
さらにシランカップリング剤を配合してなる請求項1〜12のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項14】
トレッド部を備え、該トレッド部に請求項1〜13のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【請求項15】
前記トレッド表面の算術平均粗さRaが5μm以上50μm以下であり、粗さの偏り度Rskが−0.5以上0未満である請求項14に記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−46775(P2011−46775A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194271(P2009−194271)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】